(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065973
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20240508BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20240508BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240508BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L75/04
B32B27/30 101
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175119
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 智
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK15A
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100AL05A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA04A
4F100DE01A
4F100DJ01B
4F100GB32
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JB16A
4F100JK06
4F100JL11
4F100YY00A
4J002BD031
4J002CD16X
4J002CF03X
4J002CK02Y
4J002EH046
4J002EH056
4J002EH126
4J002EH146
4J002EL026
4J002EL046
4J002EW046
4J002FD020
4J002FD026
4J002FD02X
4J002FD030
4J002FD070
4J002FD200
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】150℃以上の温度条件下での成形に用いられる塩化ビニル樹脂組成物であって、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、熱可塑性ポリウレタンと、を含む、塩化ビニル樹脂組成物。なお、塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃以上の温度条件下での成形に用いられる塩化ビニル樹脂組成物であって、
塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、熱可塑性ポリウレタンと、を含む、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記可塑剤が、トリメリット酸エステルおよびポリエステルの少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタンの融点が140℃以上210℃以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が-50℃以上0℃以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリウレタンの含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が0.1μm以上200μm以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
前記可塑剤の含有量が30質量部以上200質量部以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
粉体成形に用いられる、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項9】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項11】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項10に記載の塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項12】
発泡ポリウレタン成形体と、請求項10に記載の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体。
【請求項13】
自動車インスツルメントパネル用である、請求項12に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮や塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の表皮を構成する塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物を、パウダースラッシュ成形などの成形の方法を用いて150℃以上の温度条件下で成形することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、塩化ビニル樹脂粒子と、トリメリット酸エステルおよびポリエステルなどの可塑剤と、ハイドロタルサイト系安定剤、ゼオライト系安定剤およびβ-ジケトン類などの添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することにより、塩化ビニル樹脂成形体を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、塩化ビニル樹脂成形体にポリウレタンの発泡体(以下、「発泡ポリウレタン成形体」と称することがある。)を裏打ちしてなる成形体を形成した場合、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とが剥離せずに良好に接着することが求められる。
しかしながら、上記従来技術の可塑剤を含む塩化ビニル樹脂組成物を用いた場合、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性に改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、可塑剤を含み、150℃以上の温度条件下での成形に用いられる塩化ビニル樹脂組成物に対して、熱可塑性ポリウレタンを添加すれば、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、[1]150℃以上の温度条件下での成形に用いられる塩化ビニル樹脂組成物であって、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、熱可塑性ポリウレタンと、を含む、塩化ビニル樹脂組成物である。
このように、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、熱可塑性ポリウレタンとを含む塩化ビニル樹脂組成物を150℃以上の温度条件下での成形に用いれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能である。
【0010】
[2]上記[1]の塩化ビニル樹脂組成物において、前記可塑剤が、トリメリット酸エステルおよびポリエステルの少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0011】
[3]上記[1]または[2]の塩化ビニル樹脂組成物において、前記熱可塑性ポリウレタンの融点が140℃以上210℃以下であることが好ましい。
熱可塑性ポリウレタンの融点が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。また、熱可塑性ポリウレタンの融点が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
なお、本発明において、熱可塑性ポリウレタンの「融点」は、ISO 11357に準拠する示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry(DSC))を行うことにより測定することができる。
【0012】
[4]上記[1]~[3]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物において、前記熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が-50℃以上0℃以下であることが好ましい。
熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温下での引張伸び(「低温引張伸び」と称することがある。)を向上させることができる。また、熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
なお、本発明において、熱可塑性ポリウレタンの「ガラス転移温度」は、ISO 11357に準拠する示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry(DSC))を行うことにより測定することができる。
【0013】
[5]上記[1]~[4]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物において、前記熱可塑性ポリウレタンの含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂組成物の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。また、塩化ビニル樹脂組成物中における熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保すると共に、塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
【0014】
[6]上記[1]~[5]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物において、前記熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が0.1μm以上200μm以下であることが好ましい。
熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。また、熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保すると共に、塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径(D50)として測定することができる。
【0015】
[7]上記[1]~[6]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物において、前記可塑剤の含有量が30質量部以上200質量部以下であることが好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における可塑剤の含有量が上記所定の範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)を向上させつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を十分に高く確保することができる。
【0016】
[8]上記[1]~[7]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体が容易に得られる。
【0017】
[9]上記[1]~[8]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体がより容易に得られる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、[10]上記[1]~[9]のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体である。
このように、上述した塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れているため、自動車内装材として良好に使用することができる。
【0019】
[11]上記[10]の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。
本発明の塩化ビニル樹脂成形体を自動車インスツルメントパネルの表皮に使用すれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた表皮を有する自動車インスツルメントパネルを製造することができる。
【0020】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、[12]発泡ポリウレタン成形体と、上記[10]または[11]の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体である。
このように、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂成形体とを有する積層体は、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とが良好に接着して、剥離し難い塩化ビニル樹脂成形体部分を備えている。
【0021】
[13]上記[12]の積層体は、自動車インスツルメントパネル用であることが好ましい。
本発明の積層体を自動車インスツルメントパネルに用いれば、製造される自動車インスツルメントパネルの表皮と発泡ポリウレタン成形体とを良好に接着して剥離し難くすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能な塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品が備える表皮などの、自動車内装材として好適に用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明の積層体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を用いて形成した積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造する際に用いる自動車内装材として好適に用いることができる。
【0024】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、150℃以上の温度条件下での成形に用いられる。
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)熱可塑性ポリウレタンと、を含むことを特徴とする。
なお、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意で、上述した(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、および(c)熱可塑性ポリウレタン以外の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0025】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物であれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能である。
【0026】
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を使用すれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた自動車インスツルメントパネル用表皮およびドアトリム用表皮などの、自動車内装材として好適な塩化ビニル樹脂成形体を得ることができる。
【0027】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体に対して発泡ポリウレタン成形体を裏打ちした場合、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とが良好に接着し、剥離し難い積層体を形成することができる。
【0028】
なお、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて、自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体を容易に得る観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましく、パウダースラッシュ成形に用いられることがより好ましい。
【0029】
<(a)塩化ビニル樹脂>
(a)塩化ビニル樹脂としては、通常、粒子状の塩化ビニル樹脂を用いる。そして、(a)塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
そして、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造し得る。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0030】
また、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0031】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0032】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、例えば、引張特性、特には引張伸びをより良好にできる。そして、引張伸びが良好な塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。また、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させることができる。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0033】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
【0034】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを向上させることができる。一方、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。
【0035】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0036】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、2600以下が好ましく、2400以下がより好ましい。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めて、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
また、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、2000以下であってもよいし、1500以下であってもよいし、1000以下であってもよいし、800以下であってもよい。
【0037】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を高めて、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
【0038】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、0質量%であってもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を高めることができる。
【0039】
<(b)可塑剤>
(b)可塑剤は、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体に柔軟性を付与し、引張特性(特に引張伸び)を向上させ得る成分である。また、塩化ビニル樹脂組成物が(b)可塑剤を含むことにより、当該塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に、粉体成形)を容易にすることができる。
【0040】
塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることが更に好ましく、80質量部以上であることが一層好ましく、90質量部以上であることがより一層好ましく、100質量部以上であることが特に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、180質量部以下であることがより好ましく、160質量部以下であることが更に好ましく、140質量部以下であることが一層好ましく、120質量部以下であることがより一層好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)を更に向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を十分に高く確保することができる。
【0041】
(b)可塑剤として用い得る可塑剤としては、例えば、以下の一次可塑剤及び二次可塑剤などが挙げられる。
【0042】
いわゆる一次可塑剤としては、
トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~12である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、トリメリット酸トリアルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は8~10である。〕を分子内に2種以上有するエステル)等のトリメリット酸エステル;
ピロメリット酸テトラ-n-ヘキシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘプチル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-(2-エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ-n-ノニル、ピロメリット酸テトラ-n-デシル、ピロメリット酸テトライソデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ウンデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ドデシル、ピロメリット酸テトラ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~12である。〕を分子内に2種以上有するエステル)等のピロメリット酸エステル;
ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸誘導体;
ジメチルイソフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレート等のイソフタル酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ-n-オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレート等のテトラヒドロフタル酸誘導体;
ジ-n-ブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-n-ヘキシルアゼレート等のアゼライン酸誘導体;
ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ-(2-ブチルオクチル)セバケート等のセバシン酸誘導体;
ジ-n-ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレエート等のマレイン酸誘導体;
ジ-n-ブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレート等のフマル酸誘導体;
トリエチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレート等のクエン酸誘導体;
モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ-(2-エチルヘキシル)イタコネート等のイタコン酸誘導体;
ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエート等のオレイン酸誘導体;
メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレート等のリシノール酸誘導体;
n-ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレート等のステアリン酸誘導体;
ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等のその他の脂肪酸誘導体;
トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート等のリン酸誘導体;
ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレート等のグリコール誘導体;
グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレート等のグリセリン誘導体;
エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシル等のエポキシ誘導体;
アジピン酸由来の構造単位を含有するポリエステル(アジピン酸系ポリエステル)、セバシン酸由来の構造単位を含有するポリエステル(セバシン酸系ポリエステル)、フタル酸由来の構造単位を含有するポリエステル(フタル酸系ポリエステル)等のポリエステル系可塑剤
等が挙げられる。
【0043】
また、いわゆる二次可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレート等のグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチル等が挙げられる。
【0044】
なお、これらの可塑剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で用いてもよい。
【0045】
中でも、(b)可塑剤としては、トリメリット酸エステルおよびポリエステルの少なくとも一方を用いることが好ましく、トリメリット酸エステル(以下、「(b1)トリメリット酸エステル」と称することがある。)を少なくとも用いることがより好ましい。(b)可塑剤として(b1)トリメリット酸エステルを用いれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを更に向上させることができる。
なお、(b)可塑剤としては、(b1)トリメリット酸エステルに加えて、トリメリット酸エステル以外の可塑剤(以下、「(b2)その他の可塑剤」と称することがある。)を更に用いることができる。
【0046】
<<(b1)トリメリット酸エステル>>
(b)可塑剤中における(b1)トリメリット酸エステルの含有割合は、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることが更に好ましく、100質量%以下とすることができ、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。
(b)可塑剤中における(b1)トリメリット酸エステルの含有割合が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを一層向上させることができる。一方、(b)可塑剤中における(b1)トリメリット酸エステルの含有割合が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を十分に高く確保することができる。
【0047】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、25質量部以上であることが好ましく、45質量部以上であることがより好ましく、65質量部以上であることが更に好ましく、75質量部以上であることが一層好ましく、85質量部以上であることがより一層好ましく、95質量部以上であることが特に好ましく、195質量部以下であることが好ましく、175質量部以下であることがより好ましく、155質量部以下であることが更に好ましく、135質量部以下であることが一層好ましく、115質量部以下であることがより一層好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを一層向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)トリメリット酸エステルが上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を十分に高く確保することができる。
【0048】
<<(b2)その他の可塑剤>>
(b2)その他の可塑剤としては、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(引張伸びおよび引張応力)を更に向上させる観点から、エポキシ化植物油を用いることが好ましく、エポキシ化大豆油を用いることがより好ましい。
【0049】
(b)可塑剤中における上記(b2)その他の可塑剤の含有割合は、特に限定されないが、例えば、0質量%以上とすることができ、1質量%以上とすることができ、3質量%以上とすることができ、また、10質量%以下とすることができ、8質量%以下とすることができ、7質量%以下とすることができる。
【0050】
塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)その他の可塑剤の含有量は、特に限定されないが、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0質量部以上15質量部以下とすることができる。
そして、(b2)その他の可塑剤としてエポキシ化大豆油などのエポキシ化植物油を用いる場合、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(引張伸びおよび引張応力)を一層向上させる観点から、(b2)その他の可塑剤としてのエポキシ化植物油の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、4質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましい。
【0051】
<(c)熱可塑性ポリウレタン>
(c)熱可塑性ポリウレタンは、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を向上させ得る成分である。
(c)熱可塑性ポリウレタンとしては、特に限定されることはなく、有機ジイソシアネート類とポリオール類との反応により生成される熱可塑性のポリウレタンを用いることができる。ここで、上記反応の際に用いられる有機ジイソシアネート類およびポリオール類としては、熱可塑性ポリウレタンを生成することが可能であれば、特に制限はない。
【0052】
(c)熱可塑性ポリウレタンは、結晶性ポリウレタン(即ち、結晶性の熱可塑性ポリウレタン)であってもよいし、非晶性ポリウレタン(非晶性の熱可塑性ポリウレタン)であってもよいし、結晶性ポリウレタンと非晶性ポリウレタンとの混合物であってもよい。
なお、(c)熱可塑性ポリウレタンが結晶性ポリウレタンを含有する場合、当該(c)熱可塑性ポリウレタンは融点を有する。
【0053】
(c)熱可塑性ポリウレタンが融点を有する場合、(c)熱可塑性ポリウレタンの融点は、140℃以上であることが好ましく、145℃以上であることがより好ましく、155℃以上であることが更に好ましく、210℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることが更に好ましく、180℃以下であることが一層好ましく、170℃以下であることがより一層好ましい。
(c)熱可塑性ポリウレタンの融点が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。一方、(c)熱可塑性ポリウレタンの融点が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。
【0054】
また、(c)熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度は、-50℃以上であることが好ましく、-35℃以上であることがより好ましく、-20℃以上であることが更に好ましく、0℃以下であることが好ましく、-5℃以下であることがより好ましく、-10℃以下であることが更に好ましい。
(c)熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。一方、(c)熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が上記上限以下であれば、当該塩化ビニル樹脂成形体の低温引張伸びを更に向上させることができる。
【0055】
(c)熱可塑性ポリウレタンとしては、本発明の所望の効果が得られる限り、特に限定されないが、通常、粒子状の熱可塑性ポリウレタン(即ち、熱可塑性ポリウレタン粒子)を用いる。
ここで、(c)熱可塑性ポリウレタンが粒子状である場合、(c)熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、20μm以上であることが一層好ましく、30μm以上であることがより一層好ましく、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、80μm以下であることが一層好ましく、60μm以下であることがより一層好ましい。
(c)熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面から熱可塑性ポリウレタン粒子が適度に突出するためと推察されるが、当該塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。一方、(c)熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面において接着点として機能する熱可塑性ポリウレタン粒子の数が増えるためと推察されるが、当該塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。また、(c)熱可塑性ポリウレタンの平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保すると共に、塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
【0056】
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることが更に好ましく、1質量部以上であることが一層好ましく、2質量部以上であることがより一層好ましく、3質量部以上であることが特に好ましく、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、8質量部以下であることがより一層好ましく、6質量部以下であることが特に好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂組成物の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保すると共に、塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
【0057】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量は、上記(b)可塑剤100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることが更に好ましく、1質量部以上であることが一層好ましく、2質量部以上であることがより一層好ましく、3質量部以上であることが特に好ましく、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、8質量部以下であることがより一層好ましく、6質量部以下であることが特に好ましい。
塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂組成物の発泡ポリウレタン成形体への接着性を更に向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)熱可塑性ポリウレタンの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を十分に高く確保すると共に、塩化ビニル樹脂組成物の成形(特に粉体成形)を容易にすることができる。
【0058】
<添加剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤;耐衝撃性改良剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等);酸化防止剤;防カビ剤;難燃剤;帯電防止剤;充填剤;光安定剤;発泡剤;顔料;などが挙げられる。
【0059】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含み得る上述した添加剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができ、その好適含有量も国際公開第2016/098344号の記載と同様とすることができる。
【0060】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)熱可塑性ポリウレタンと、必要に応じて更に配合される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤(塩化ビニル樹脂微粒子を含む)を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0061】
<塩化ビニル樹脂組成物の用途>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、150℃以上の温度条件下での成形に用いられる。塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の温度条件が150℃以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を十分に高めて、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を十分に向上させることができる。
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の温度条件は180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることが更に好ましく、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の温度条件が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を更に向上させることができ、意匠面におけるピンホールの発生を抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の温度条件が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の成形時黄変や金型からの脱型不良を抑制することができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に好適に用いることができ、パウダースラッシュ成形により好適に用いることができる。
【0062】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、任意の方法で成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、通常、少なくとも、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)熱可塑性ポリウレタンとを含む。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れている。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。
【0063】
<塩化ビニル樹脂成形体の製造方法>
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した本発明の塩化ビニル樹脂組成物を成形することにより製造することができる。塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の温度条件は、「塩化ビニル樹脂組成物の用途」の項で上述した範囲内とすることができる。
例えば、パウダースラッシュ成形により塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、150℃以上とすることができ、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0064】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、金型の形状をかたどったシート状の成形体を得る。
【0065】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。なお、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、積層体の一方の表面を構成する。
そして、本発明の積層体は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成され、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とが良好に接着していて、剥離し難い。したがって、本発明の積層体は、自動車内装部品、特に、自動車インスツルメントパネルを形成する自動車内装材として好適に用いられる。
【0066】
ここで、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形体との積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、または、公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)が好適である。
【実施例0067】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂成形体としての塩化ビニル樹脂成形シートの発泡ポリウレタン成形体への接着性は、下記の方法で測定および評価した。
【0068】
<発泡ポリウレタン成形体への接着性>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートに発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされてなる積層体から、幅25mm、長さ150mmの試験片を切り出した。得られた試験片の発泡ポリウレタン成形体部分から塩化ビニル樹脂成形シート部分を長さ方向に沿って80mm剥がした。その後、試験片の発泡ポリウレタン成形体部分と塩化ビニル樹脂成形シート部分とが接着している残りの長さ方向70mmの部分について、引張試験機を用いて、発泡ポリウレタン成形体部分から塩化ビニル樹脂成形シート部分を長さ方向に沿って剥離させる180°剥離試験を行い、剥離強度(N/25mm)を測定した。この際の測定条件は、剥離速度200mm/分、温度23℃とした。上記同様の操作を5回繰り返して行い、剥離強度の平均値を求めた。剥離強度の平均値の値が大きいほど、塩化ビニル樹脂成形シート(塩化ビニル樹脂成形体)の発泡ポリウレタン成形体への接着性が優れていることを示す。
【0069】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステルおよびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
<塩化ビニル樹脂成形体の形成>
得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての、150mm×200mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
<積層体の形成>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート2枚を、200mm×300mm×10mmの金型中に重ならないように敷き、シボ付き面を下にして置いた。
別途、プロピレングリコールのプロピレンオキサイド・エチレンオキサイド(PO・EO)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)50質量部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)50質量部、水2.5質量部、トリエチレンジアミンのエチレングリコ-ル溶液(東ソー(株)製、商品名:「TEDA-L33」)0.2質量部、トリエタノールアミン1.2質量部、トリエチルアミン0.5質量部及び整泡剤(信越化学工業(株)製、商品名:「F-122」)0.5質量部からなるポリオール混合物と、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI))とを、インデックスが98になる比率で混合して混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型中に敷かれた塩化ビニル樹脂成形シート2枚の上にそれぞれ注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミ板で金型に蓋をすることで金型を密閉した。密閉してから5分後、1mm厚の塩化ビニル樹脂成形シートに発泡ポリウレタン成形体が裏打ちされてなる積層体を金型から取り出した。得られた積層体を用いて、上記に示す方法で塩化ビニル樹脂成形体の発泡ポリウレタン成形体への接着性を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2~3、比較例1)
使用するポリアルキレングリコールの種類および使用量の少なくとも一方を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体、および積層体を作製し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
1)新第一塩ビ(株)製、製品名「ZEST 1700ZI」(懸濁重合で得られた塩化ビ
ニル樹脂粒子、平均重合度:1700、平均粒子径:130μm)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法で調製、平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
3)花王社製、製品名「トリメックスT-08」(トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル)
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O-130S」
5)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
6)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
7)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
8)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
9)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
10)LUVOSINT社製、製品名「LUVOSINT TPU X92A-2 WT」(融点:160℃、ガラス転移温度:-13.6℃、平均粒子径:50μm)
11)大日精化社製、製品名「DA P 4720 ブラック」
【0073】
表1より、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、熱可塑性ポリウレタンとを含む実施例1~3の塩化ビニル樹脂組成物を150℃以上の温度条件下で成形すれば、発泡ポリウレタン成形体への接着性に優れた塩化ビニル樹脂成形体を形成可能であることが分かる。
一方、熱可塑性ポリウレタンを含まない比較例1の塩化ビニル樹脂組成物を150℃以上の温度条件下で成形した場合、形成される塩化ビニル樹脂成形体は発泡ポリウレタン成形体への接着性に劣ることが分かる。