(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066275
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240508BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240508BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240508BHJP
H01G 9/025 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01G9/028 E
H01G9/15
H01G9/00 290H
H01G9/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175755
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】宮本 桃世
(72)【発明者】
【氏名】小池 将貴
(72)【発明者】
【氏名】桐山 佳保里
(72)【発明者】
【氏名】畑井 智裕
(72)【発明者】
【氏名】平尾 俊一
(72)【発明者】
【氏名】雨夜 徹
(57)【要約】
【課題】 容量出現率を高めた固体電解コンデンサ及び製造方法を提供する。
【解決手段】 固体電解コンデンサの固体電解質層は、第1の導電性高分子と第2の導電性高分子を含む。第1の導電性高分子は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体である。第2の導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の重合体である。エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの第1の重合体は、固体電解質層形成一次工程によって、陽極体に付着する。3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の第2の重合体は、固体電解質層形成一次工程とは別の工程であり、固体電解質層形成一次工程よりも後の固体電解質層形成二次工程によって第1の重合体の層又は前記陽極体に付着させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層を有する固体電解コンデンサであって、
前記固体電解質層は、第1の導電性高分子と第2の導電性高分子を含み、
前記第1の導電性高分子は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体であり、
前記第2の導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の重合体であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極体を備え、
前記第1の導電性高分子は、前記第2の導電性高分子よりも、前記陽極体に多く密着していること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陽極体には、海綿状のエッチングピットを有する拡面層が形成され、
前記拡面層内に、前記第2の導電性高分子よりも第1の導電性高分子がより多く密着していること、
を特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える固体電解コンデンサの製造方法であって、
エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの第1の重合体を前記陽極体に付着させる固体電解質層形成一次工程と、
前記固体電解質層形成一次工程とは別の工程であり、前記固体電解質層形成一次工程よりも後に、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の第2の重合体を、前記第1の重合体の領域又は前記陽極体に付着させる固体電解質層形成二次工程と、
を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質層形成一次工程と前記固体電解質層形成二次工程との間に、乾燥工程を含むこと、
を特徴とする請求項4記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層形成二次工程は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体のモノマーを重合させる化学重合若しくは電解重合、又は3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の重合体が分散した分散液を少なくとも前記陽極体に含浸する工程を含むこと、
を特徴とする請求項4又は5記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極体及び陰極体として備えている。陽極体は、弁作用金属の粉末を焼結した焼結体あるいは弁作用金属を延伸した箔体であり、エッチング処理等よって拡面化される。陽極体は、拡面化された表面に陽極酸化等の処理によって誘電体酸化皮膜を有する。陽極体と陰極体との間には、陽極体に密着して真の陰極として作用する固体電解質層が介在する。
【0003】
固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、高い導電性を有するポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が固体電解質として急速に普及している。ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、典型的にはポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされることにより、高い導電性が発現する。
【0004】
導電性高分子とポリビニルアセタールを混在させた固体電解質層も提案されている。この固体電解質層は、陽極体をポリビニルアセタールと酸化剤との混合液を含有させた溶液と、モノマーの溶液に順次浸漬し、化学重合反応させる(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の電子機器及び電気機器は、小型化と大電力化が進展している。そのため、固体電解コンデンサも、体積当たりの静電容量の向上が求められる。そこで、箔の大表面積化を目指し、陽極体に形成されるエッチング層がより一層緻密になっている。
【0007】
エッチング層が緻密になると、固体電解コンデンサの容量出現率が低下する傾向がある。容量出現率は、陽極体及び陰極体の合成容量に対する固体電解コンデンサの静電容量の割合であり、固体電解コンデンサの静電容量を陽極体及び陰極体の合成容量で除算した結果の百分率である。即ち、エッチング層の緻密さに対する静電容量の大容量化の効率が悪くなっている。
【0008】
容量出現率の低下の原因について種々の仮説を立てることができる。原因の一つとして、例えば、エッチング層が緻密になればなるほど、エッチング層を形成する空隙が細かくなり、空隙内に固体電解質層を形成し難くなる。固体電解質層は、陽極体の表面に形成された誘電体酸化皮膜に密着する。この密着は、誘電体酸化皮膜と陰極体の間に連なる導電パスを作出し、固体電解質層は、真の陰極となる。エッチング層の空隙に固体電解質を充填できなかったり、充填されている導電性高分子の密度が低かったりすると、陽極と陰極の対向面積が小さくなる。これにより、固体電解コンデンサの容量出現率が小さくなる虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、容量出現率を高めた固体電解コンデンサ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは下記特徴を有する。固体電解質層は、第1の導電性高分子と第2の導電性高分子を含み、前記第1の導電性高分子は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体であり、前記第2の導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の重合体である。
【0011】
前記固体電解質層は、1又は複数の前記第1の導電性高分子の領域と、1又は複数の前記第2の導電性高分子の領域を有するようにしてもよい。
【0012】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極体を備え、前記第1の導電性高分子は、前記第2の導電性高分子よりも、前記陽極体に多く密着しているようにしてもよい。
【0013】
前記陽極体は、拡面層を有し、前記第1の導電性高分子の領域は、前記第2の導電性高分子の領域よりも、前記拡面層内に密に分布するようにしてもよい。
【0014】
前記陽極体は、海綿状のエッチングピットを有するようにしてもよい。
【0015】
前記第1の導電性高分子の領域は、前記第1の導電性高分子と比べて前記第2の導電性高分子が少量含有するか、非含有であり、前記第2の導電性高分子の領域は、前記第2の導電性高分子と比べて前記第1の導電性高分子が少量含有するか、非含有であるようにしてもよい。
【0016】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は下記特徴を有する。固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び固体電解質層を備え、製造方法は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの第1の重合体を前記陽極体に付着させる固体電解質層形成一次工程と、前記固体電解質層形成一次工程とは別の工程であり、前記固体電解質層形成一次工程よりも後に、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の第2の重合体を、前記第1の重合体の領域又は前記陽極体に付着させる形成する固体電解質層形成二次工程と、を含む。
【0017】
前記固体電解質層形成一次工程と前記固体電解質層形成二次工程との間に、乾燥工程を含むようにしてもよい。
【0018】
前記固体電解質層形成二次工程は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体のモノマーを重合させる化学重合若しくは電解重合、又は3,4-エチレンジオキシチオフェン又はその誘導体の重合体が分散した分散液を少なくとも前記陽極体に含浸する工程を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
固体電解コンデンサは、高い容量出現率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサ及び製造方法ついて説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
(全体構成)
固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て、電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜が表面に形成された陽極体、陰極体、固体電解質層を備えている。陽極体と陰極体とは対向配置され、セパレータ及び固体電解質層は、陽極体と陰極体の間に介在する。陽極体と陰極体とは、セパレータを挟んで交互に積層される積層型により配置され、又はセパレータを挟んで交互に積層されて巻回される巻回型により配置される。
【0022】
固体電解質層は、導電性高分子を含む。導電性高分子は、陽極体の表面に形成された誘電体酸化皮膜に密着する。この固体電解質層は、誘電体酸化皮膜と陰極体の間に連なるように配置されて導電パスを作出し、真の陰極となる。電解コンデンサには、固体電解質層と電解液とを併用でき、電解液は、コンデンサ素子の空隙に充填される。
【0023】
コンデンサ素子は、有底筒状の外装ケースに挿入される。外装ケースの開口端部には、封口体が装着され、コンデンサ素子は、開口端部の加締め加工により封止される。封口体は、例えば、ゴムから構成され、又はゴムと硬質基板の積層体から構成される。ゴムとしてはエチレンプロピレンゴムやブチルゴム等が挙げられる。陽極体及び陰極体には陽極リード及び陰極リードが接続されており、陽極リード及び陰極リードは封口体から引き出されている。
【0024】
また、コンデンサ素子は有底筒状の外装ケースに挿入されていなくてもよい。たとえば、ラミネートフィルムによってコンデンサ素子を被覆することによって行ってもよい。また、コンデンサ素子を耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂でモールドすることで封止してもよく、コンデンサ素子に当該樹脂をディップコートや印刷などの手法を用いて薄膜状に形成することで封止してもよい。また、外装を省略した平板型としてもよい。
【0025】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属を材料として延伸された箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極体に関して99.9%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0026】
陽極体の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング層であり、密集した粉体間の空隙、又はトンネル状のピット若しくは海綿状のピットにより成る。
【0027】
トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔である。このトンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。海綿状のエッチングピットによって、拡面層は、空間状に細かい空隙が連なり拡がったスポンジ状の層になる。この海綿状のエッチングピットは、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で交流電流を流すことで形成される。
【0028】
陽極体の拡面層は、特に、海綿状のエッチングピットで形成されることが好ましい。海綿状のエッチングピットを有する陽極体は、拡面層が緻密であり、定格電圧100V以下に対応する場合、固体電解質層が十分に充填されると、トンネル状のエッチングピットを備える陽極体と比べて、大きな箔容量を得られる。
【0029】
誘電体酸化皮膜は、拡面層が形成された陽極体の片面又は両面に形成されている。誘電体酸化皮膜は、典型的には、陽極体の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極体がアルミニウム製であれば、拡面層の表面を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体酸化皮膜を形成する化成処理では、化成液中で陽極体に対して、所望の耐電圧を目指して電圧印加する。化成液は、ハロゲンイオン不在の溶液であり、例えば、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液である。
【0030】
(陰極体)
陰極体は、弁作用金属を材料として延伸された陰極箔である。純度は、陰極箔に関して99%以上が望ましい。陰極箔は、陽極体と同じく拡面層が形成される。拡面層のないプレーン箔を陰極箔として用いてもよい。陰極箔は、自然酸化皮膜、又は化成処理により形成された薄い酸化皮膜(1~10V程度)を有していてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。さらに、陰極箔には、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層が蒸着法により形成されてもよいし、あるいは表面に炭素を含有した層が形成されてもよい。
【0031】
または、陰極体は、金属層とカーボン層の積層体であり、カーボン層を陽極体に向けて配置される。カーボン層は、ペースト状にして、陽極体上に固体電解質層を形成された後に固体電解質層上に塗工し、加熱より硬化させることで形成される。金属層は例えば銀層であり、金属層は、ペースト状にして、カーボン層の上から塗工し、加熱により硬化させることで形成される。
【0032】
(固体電解質層)
固体電解質層は、2種の導電性高分子を含有する。第1の導電性高分子は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体である。3,4-エチレンジオキシチオフェンは、換言すれば、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシンである。
【0033】
この第1の導電性高分子としては、例えば、以下化学式(A)で表されるように、骨格の2位の位置にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体が挙げられる。または、第1の導電性高分子としては、骨格の1位の位置にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体が挙げられる。側鎖のメチレンホスホン酸基は、水素イオン供与性のドーパントとして作用する。
【化1】
【0034】
第1の導電性高分子は、エチレンジオキシ骨格にメチレンホスホン酸基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体のみが重合した単一重合体の他、この単量体ユニットと3,4-エチレンジオキシチオフェン又は3,4-エチレンジオキシチオフェンの誘導体が含まれる共重合体であってもよい。以下、第1の導電性高分子をホスホン酸基導入PEDOTと呼ぶ。
【0035】
第2の導電性高分子は、3,4-エチレンジオキシチオフェン又はこの誘導体を単量体ユニットに含む重合体である。誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が挙げられ、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していてもよい。また、誘導体としては、3,4-エチレンジオキシチオフェンのエチレン基にアルキル基を有する側鎖が結合している化合物であってもよく、例えば、2-メチル-エチレンジオキシチオフェン、2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、及び2-ブチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
【0036】
以下、第2の導電性高分子を単にPEDOTと呼ぶ。PEDOTは、外部ドーパント分子によりドーピングされることにより、導電性が発現する。ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。また、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0037】
このように、固体電解質層がホスホン酸基導入PEDOTとPEDOTの2種類の高分子で形成されていると、固体電解コンデンサの容量出現率が向上する。その理由として、ホスホン酸基導入PEDOTは、ホスホン酸基の解離により溶媒への溶解性が向上することにより可溶化しており、更にホスホン酸基は、陽極体表面に形成された酸化皮膜への吸着性が高い。そのため、陽極箔表面を覆うホスホン酸基導入PEDOTが陽極体と固体電解質層との密着性を高め、陽極体と固体電解質層との解離面積を減らす。ホスホン酸基導入PEDOTのみで固体電解質層を形成すると、エッチングピットの空隙部における導電性高分子の密度が低下する。PEDOTは、ホスホン酸基導入PEDOTで埋めきることが出来なかった空隙部を容易に埋め、固体電解質層を充実させる。
【0038】
陽極体の拡面層が海綿状のエッチングピットで形成されていたとしても、また化成処理の前に疑似ベーマイト皮膜を形成した場合であっても、ホスホン酸基導入PEDOTは、この緻密な海綿状のエッチングピットに入り込んで定着することができる。固体電解質層がホスホン酸基導入PEDOTとPEDOTの2種類の高分子で形成されていると、固体電解コンデンサの容量出現率が顕著に高くなる。
【0039】
尚、容量出現率は、陽極体及び陰極体の合成容量に対する固体電解コンデンサの静電容量の割合であり、固体電解コンデンサの静電容量を陽極体及び陰極体の合成容量で除算した結果の百分率である。陽極体及び陰極体の合成容量は、固体電解コンデンサを陽極側と陰極側とが直列したコンデンサと見做した合成容量であり、陽極体の静電容量の実測値又は理論値と陰極体の静電容量の実測値又は理論値をパラメータとして計算した計算値である。陰極体に誘電体がない、又は陰極体の静電容量が無限大に収束すると言える場合には、陽極体及び陰極体の合成容量は、陽極体の静電容量の実測値又は理論値とする。固体電解コンデンサの静電容量は、実測値である。
【0040】
陽極体や陰極体の容量は、陽極体や陰極体から規定面積の試験片を切り出し、白金板を対向電極としてガラス製の測定槽内の静電容量測定液に浸漬し、静電容量計を用いて計測する。例えば、規定面積は1cm2とし、静電容量測定液は30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液とし、静電容量計はポテンショスタットと周波数応答アナライザ、電気化学インピーダンスアナライザー又はLCRメータ等とし、測定条件としてDCバイアス電圧は0Vから1.5Vとし、交流振幅を0.1Vから1Vとする。
【0041】
好ましくは、エッチングピットの内壁を含む陽極体の全表面を、ホスホン酸基導入PEDOTの薄層で覆う。ホスホン酸基導入PEDOTによる陽極体の表面の被覆率が全表面に近づくと、PEDOTが容量を十分に引き出し、容量出現率は極めて良好になる。ここで、アルミニウム基材を陽極酸化させた誘電体酸化皮膜に対するホスホン酸基の吸着性は良好であり、PEDOTを加えた2種類の高分子で固体電解質層を形成することで、ホスホン酸基導入PEDOTを陽極体の全表面を薄く被覆できると推測できる。
【0042】
ここで、ホスホン酸基導入PEDOTの製造方法は、特に限定されないが、例えば次の製造方法によって得ることできる。
【0043】
まず、ハロゲン置換体を有するメチレン基がエチレンジオキシ骨格に導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンを、硫酸、パラトルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸等の酸性触媒の存在下で加熱する。ハロゲン置換体を有するメチレン基が導入された3,4-エチレンジオキシチオフェンとトリス(トリアルキルシリル)ホスファイトとによりミカエリス-アルブゾフ転移反応を生じさせ、ハロゲンをホスホン酸ビス(トリアルキルシリル)基又はホスホン酸ジエステル基で置換する。そして、反応後の化合物に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又はアンモニアの水溶液等の塩基性水溶液を作用させることで脱保護を起こす。
【0044】
次に、電解重合又は化学重合によってホスホン酸基導入PEDOTを生成する。ホスホン酸基導入PEDOTは、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマーや不純物を除去し、溶液に溶解させておくとよい。ホスホン酸基導入PEDOT溶液は、pHが調整され、また必要に応じて各種添加剤が加えられている。
【0045】
ホスホン酸基導入PEDOT溶液の溶媒は、ホスホン酸基導入PEDOTが溶解すればよく、水又は水と有機溶媒の混合物が好ましい。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。更に、導電性高分子溶液には、例えば、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の添加剤が含まれていてもよい。
【0046】
ホスホン酸基導入PEDOTは、付着対象物をホスホン酸基導入PEDOT溶液に浸漬及び乾燥させることで、各種付着対象物に付着する。付着対象物は、陽極体、又は陽極体、陰極体及びセパレータの各々、又は陽極体、陰極体及びセパレータが組み込まれたアセンブリであるコンデンサ素子である。
【0047】
浸漬後は、乾燥工程により導電性高分子溶液の溶媒を除去する。乾燥工程での温度環境は例えば40℃以上200℃以下であり、乾燥時間は例えば3分以上180分以下の範囲である。乾燥工程は複数回繰り返してもよい。減圧環境下で乾燥してもよく、例えば5kPa以上100kPa以下の圧力で減圧する。浸漬の他、ホスホン酸基導入PEDOT溶液を滴下塗布又はスプレー塗布してもよい。
【0048】
PEDOTは、ホスホン酸基導入PEDOTを付着させた付着対象物上に更に付着させる。PEDOTの付着方法としては、公知の何れでもよく、例えば電解重合若しくは化学重合、又はPEDOTが粒子又は粉末の状態で分散されたPEDOT分散液に含浸させる含浸法を用いればよい。
【0049】
化学重合では、PEDOTの単量体ユニットとなるモノマーを含む溶液と酸化剤を含む溶液にそれぞれ付着対象物を浸漬し、または、このモノマーと酸化剤とを攪拌混合した混合溶媒に付着対象物を浸漬し、重合反応させる。酸化剤としては、ドーパントを放出する化合物であれば公知の何れでもよく、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等のペルオキソ二硫酸塩、などを使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用してもよい。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~200℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0050】
電解重合では、重合液に付着対象物を浸漬し、重合反応させる。重合液は、PEDOTの単量体ユニットとなるモノマー及び支持電解質が添加されている。支持電解質には、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩からなる群から選択された少なくとも一種の化合物が含まれる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。支持電解質としては、四級アンモニウム塩を用いることが好ましい。四級アンモニウム塩は導電率が高く、電解重合時の電極箔に対する電流分布が均一になるため、固体電解質層がより均一に形成されることにより、漏れ電流の低減につながる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。例えば、支持電解質としては、テトラエチルアンモニウムボロジサリチレート(TeEA-BS)、テトラメチルアンモニウムボロジサリチレート(TeMA-BS)などを用いることができる。
【0051】
電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、基準電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、1~10000μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、基準電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0052】
電解重合及び化学重合において、溶媒は、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例えば、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
含浸法ではPEDOT分散液に付着対象物を浸漬する。浸漬により付着対象物にPEDOT分散液が含浸され、乾燥により溶媒が揮発してPEDOTが付着対象物に残る。浸漬の他、PEDOT分散液を付着対象物に滴下塗布又はスプレー塗布してもよい。
【0054】
PEDOT分散液は、PEDOTが分散した溶液である。PEDOTは、化学重合又は電解重合によって生成され、PEDOT分散液は、重合液の限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により精製される。導電性高分子分散液にはPEDOTが分散していればよい。そのため、PEDOT分散液の溶媒としては、例えば水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合物が挙げられる。PEDOT分散液は、pHが調整されているとよい。PEDOT分散液へのPEDOTの分散は、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。
【0055】
乾燥工程は複数回繰り返してもよく、減圧環境下で乾燥してもよい。乾燥工程での温度環境は例えば40℃以上200℃以下であり、乾燥時間は例えば3分以上180分以下の範囲である。乾燥工程は複数回繰り返してもよい。減圧環境下で乾燥してもよく、例えば5kPa以上100kPa以下の圧力で減圧する。
【0056】
ここで、製造工程上、ホスホン酸基導入PEDOTとPEDOTは、工程上分けて付着対象物に付着される必要があり、ホスホン酸基導入PEDOTは、PEDOTよりも先んじて付着対象物に付着される。即ち、固体電解質層は、ホスホン酸基導入PEDOTを付着させる固体電解質層形成一次工程と、PEDOTを付着させる固体電解質層形成二次工程に分けて形成される。固体電解質層形成二次工程は、ホスホン酸基導入PEDOTの付着と乾燥工程を経た後に行われる。固体電解質層形成一次工程と固体電解質層形成二次工程は、乾燥工程で隔てられた別工程とする。
【0057】
ホスホン酸基導入PEDOTよりも先にPEDOTを付着対象物に付着させようとしたり、ホスホン酸基導入PEDOTとPEDOTを同時に付着対象物に付着させようとすると、少なくとも一部のホスホン酸基導入PEDOTは、PEDOTによって、陽極体との密着を物理的に阻害される。そのため、ホスホン酸基導入PEDOTがPEDOTよりも陽極体に多く密着することができず、固体電解質層と陽極体との密着性が上がらない。特に、陽極体の拡面層が海綿状のエッチングピットで形成されていたり、化成処理の前に疑似ベーマイト皮膜を形成した場合には、PEDOTによって、多くのホスホン酸基導入PEDOTが緻密な海綿状のエッチングピットに入り込むことができなくなる。
【0058】
そのため、製造工程上、固体電解質層は、ホスホン酸基導入PEDOTを付着させる固体電解質層形成一次工程と、PEDOTを付着させる固体電解質層形成二次工程に分けて形成し、固体電解質層形成二次工程は、ホスホン酸基導入PEDOTを付着させ、乾燥工程を経た後に行う。また、このような製造工程に基づいて固体電解質層を形成する際、第1の固体電解質層であるホスホン酸基導入PEDOT層と第2の固体電解質層であるPEDOT層とが積層された2層構造としてもよい。
【0059】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0060】
尚、セパレータは、陽極体と陰極体のショート防止のために、陽極体と陰極体を隔て、また陽極体及び陰極体の間の固体電解質を保持する。固体電解質の形状が自力で保持され、固体電解質によって陰極体と陽極体を隔離できる場合、セパレータを固体電解コンデンサから排除できる。
【0061】
(電解液)
固体電解コンデンサは、固体電解質のみを備えるほか、電解液が併用されてもよい。電解液は、導電性高分子の付着工程と乾燥工程の後にコンデンサ素子に含浸させる。この電解液は、少なくとも誘電体酸化皮膜の修復作用を担う。
【0062】
電解液の溶媒は、特に限定されるものではないが、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒を用いることができる。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類、水などが代表として挙げられ、例えばエチレングリコール又はプロピレングリコールである。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられ、例えばスルホラン、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートである。
【0063】
電解液に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、アジピン酸や安息香酸等の有機酸若しくはその塩、ホウ酸やリン酸等の無機酸若しくはその塩、又はボロジサリチル酸等の有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。これら有機酸の塩、無機酸の塩、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【0064】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物、リン酸エステル、コロイダルシリカなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ニトロ化合物は、電解コンデンサ内の水素ガスの発生量を抑制する。ニトロ化合物としては、o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール等が挙げられる。
【実施例0065】
以下、実施例に基づいて固体電解コンデンサとその製造方法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
次のようにして実施例1の固体電解コンデンサを作製した。実施例1の固体電解コンデンサは、平板型構造である。まず、陽極体としてアルミニウム箔を用いた。アルミニウム箔の表面に拡面層を形成した。拡面層の形成においては、塩酸を含む水溶液中でアルミニウム箔に交流電流を流すことで、海綿状のエッチングピットを形成した。
【0067】
次に、拡面層を形成したアルミニウム箔にアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成処理を行い、当該アルミニウム箔表面に化成電圧8Vの誘電体酸化皮膜を形成した。
【0068】
誘電体酸化皮膜を形成したアルミニウム箔に対しては、箔一面から複数の固体電解コンデンサをダイシングして個片化できるように、所定形状にレーザで切削加工した。切削後、当該アルミニウム箔をリン酸二水素アンモニウム水溶液中で化成処理を行い、切削面に誘電体酸化皮膜を形成した。
【0069】
後に陽極側の端子となる領域を含め、陽極となる領域を除き、絶縁レジスト層を印刷し、150℃で20分間乾燥させた。即ち、陽極側の端子となる領域に固体電解質層が形成されないように、絶縁レジスト層を印刷した。
【0070】
絶縁レジスト層の印刷後、アルミニウム箔を、ホスホン酸基導入PEDOTを含有する導電性高分子溶液に浸漬した。導電性高分子溶液の溶媒は水であり、ホスホン酸基導入PEDOTは、導電性高分子溶液中の2wt%を占める。導電性高分子溶液に2分間、アルミニウム箔を浸漬させた後、乾燥工程に移り、室温で10分間静置後、100℃の温度環境下に30分間晒した。これにより、アルミニウム箔の陽極表面上には、ホスホン酸基導入PEDOTを含む、固体電解質層の第1の導電性高分子の領域を形成した。
【0071】
ホスホン酸基導入PEDOTを付着させたアルミニウム箔に対し、電解重合によりPEDOTを含む、固体電解質層の第2の導電性高分子の領域を形成した。電解重合の重合液は、溶媒としてアセトニトリルと、モノマーとして2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン(Et-EDOT)と、支持電解質としてテトラエチルアンモニウムボロジサリチレート(TeEA-BS)を含む。この重合液に、アルミニウム箔を浸漬した後、電流を流し、これにより電解重合を行った。
【0072】
電解重合によりPEDOTを形成させたアルミニウム箔に対し、修復化成処理を行った。修復化成処理では、30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液中でアルミニウム箔に8Vの電圧を10分間印加した。
【0073】
次に、スクリーン印刷機により、固体電解質層上にカーボンペーストを印刷し、120℃で10分間乾燥させた。この乾燥工程を経て、固体電解質層上にはカーボン層が形成された。さらに、カーボン層上に銀ペーストを印刷し、150℃で30分間乾燥させた。この乾燥工程を経て、カーボン層上には銀層が形成された。これらカーボン層及び銀層は、固体電解コンデンサの陰極体に相当する。
【0074】
陰極体を形成した後、陽極端子を形成する領域を被覆している絶縁レジスト層及び誘電体酸化皮膜をレーザにより剥離した。尚、絶縁レジスト層および誘電体酸化皮膜層の剥離は、レーザ照射以外に治具の押し当てによる機械的剥離法が可能である。そして、剥離により露出した部分に陽極端子を形成した。陽極端子の形成では、めっき前処理とめっき処理とを経た。
【0075】
めっき前処理としては、以下の処理を順番に行った。
・スマット処理としてのアルカリエッチング(処理温度:55℃、処理時間:60秒間)
・デスマット処理(処理液:30%硝酸水溶液、処理温度:室温、処理時間:60秒間)
・第1のZn置換処理(処理温度:室温、処理時間:20秒間)
・Zn剥離処理(処理液:30%硝酸水溶液、処理温度:室温、処理時間:30秒間)
・第2のZn置換処理(処理温度:室温、処理時間:30秒間)
【0076】
めっき処理としては、以下の処理を順番に行った。
・電解Niめっき(処理液:watt浴、処理温度:50℃、電流密度:-100mAcm-2、処理時間:10分間)
・電解Sn/Agめっき(処理液:中性Snめっき浴、処理温度:50℃、電流密度:-10mAcm-2、処理時間:10分間)
【0077】
尚、watt浴は、300g/L硫酸ニッケル・6水和物、50g/L塩化ニッケル・6水和物、および40g/Lホウ酸を含む。また、中性Snめっき浴は、0.1M硫酸すず、0.01M硝酸銀、0.2Mピロリン酸ナトリウムを含む。
【0078】
アルミニウム箔により成る陽極箔、固体電解質層、陰極体及び陽極端子を含む領域を、レーザーにてダイシングして個片化し、実施例1の固体電解コンデンサとした。得られた固体電解コンデンサを125℃において、電流密度1mAで通電し、4.6Vの電圧を60分間印加することで、エージング処理が施された。この固体電解コンデンサの定格電圧は4Vであった。
【0079】
実施例1との比較対象として、比較例1の固体電解コンデンサを作製した。比較例1の固体電解コンデンサは、固体電解質層形成一次工程が省かれている点で実施例1と異なる。即ち、比較例1の固体電解コンデンサは、固体電解質層内にホスホン酸基導入PEDOTが含まれていない。比較例1は、その他の全てにおいて実施例1と同一構成、同一組成、同一製造方法及び同一製造条件で作製された。
【0080】
実施例1及び比較例1の固体電解コンデンサが有する陽極箔の箔容量、実施例1及び比較例1の固体電解コンデンサの静電容量(Cap)、誘電正接(tanδ)、及び等価直列抵抗(ESR)を測定した。また、陽極箔の容量と静電容量から容量出現率を計算した。
【0081】
陽極箔の容量は、拡面化及び化成処理を行ったアルミニウム箔を用いて測定した。試料面積を1cm2に規定したアルミニウム箔を温度30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、DCバイアス電圧1.5V、交流振幅1V、測定周波数120Hzとし、Solartron analytical製のポテンショスタットSI1287及び周波数応答アナライザ1252Aを用いて測定した。その結果、実施例1及び比較例1の陽極箔の箔容量は55.0μFであった。
【0082】
Cap、tanδ及びESRはLCRメータ(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製、型番ZM2376)を用いて20℃の温度下で測定した。Cap及びtanδの測定周波数は120Hzであり、ESRの測定周波数は100kHzである。容量出現率は、静電容量の測定結果を陽極箔の箔容量で除算し、100を乗算することで百分率に換算して得た。
【0083】
実施例1及び比較例1の測定結果と計算結果を下表1に示す。下表1に示すように、実施例1は、比較例1に比べて容量出現率が16.6%向上していることが確認された。
【0084】
【0085】
(実施例2)
次のようにして実施例2の固体電解コンデンサを作製した。実施例2の固体電解コンデンサは、巻回型である。まず、陽極体及び陰極体となる各アルミニウム箔の表面に拡面層を形成した。拡面層の形成においては、塩酸を含む水溶液中でアルミニウム箔に交流電流を流すことで、海綿状のエッチングピットを形成した。次に、拡面層を形成したアルミニウム箔にアジピン酸アンモニウム水溶液中で化成処理を行い、当該アルミニウム箔表面に化成電圧55Vの誘電体酸化皮膜を形成したアルミニウム箔を陽極箔とした。また、拡面層を形成したアルミニウム箔に、アークイオンプレーティング法により炭化チタン層を形成したアルミニウム箔を陰極箔とした。
【0086】
これら陽極箔と陰極箔の各々にリード線を接続し、アクリル繊維から成るセパレータを介して陽極箔と陰極箔を対向させて巻回し、素子径10mm、高さ11.5mmのコンデンサ素子とした。このコンデンサ素子に対して、リン酸二水素アンモニウム水溶液中で電流密度10mAの条件にて通電し、電圧が58Vに達した後、その電圧を24分間保持することで、修復化成を行った。その後、純水中にてコンデンサ素子を洗浄し、105℃で乾燥させた。
【0087】
コンデンサ素子を、ホスホン酸基導入PEDOTを含有する導電性高分子溶液に浸漬した。導電性高分子溶液の溶媒は水であり、ホスホン酸基導入PEDOTは、導電性高分子溶液中の2wt%を占める。導電性高分子溶液にコンデンサ素子を浸漬させた後、乾燥工程に移り、100℃の温度環境下に15分間晒した。これにより、陽極箔表面を含むコンデンサ素子内には、ホスホン酸基導入PEDOTを含む、固体電解質層の第1の導電性高分子の領域が形成された。その後、ホスホン酸基導入PEDOTを形成したコンデンサ素子を、170℃の温度環境下に60分間晒し、熱処理を行った。
【0088】
次いで、熱処理後のコンデンサ素子に対し、化学重合によりPEDOTを含む、固体電解質層の第2の導電性高分子の領域を形成した。酸化剤として60wt%のパラトルエンスルホン酸鉄(III)を含むエタノール溶液と、モノマーとして3,4-エチレンジオキシチオフェンとを混合することで、重合液を調製した。この重合液に、コンデンサ素子を浸漬させた。
【0089】
コンデンサ素子に重合液を含浸させた後、40℃の温度環境下に30分間晒した後、60℃の温度環境下に60分間晒し、更に150℃の温度環境下に60分間晒し、重合を行った。固体電解質層が形成された後、コンデンサ素子に封口体を装着し、有底筒状の外装ケースに挿入し、外装ケースの開口を封口体で封止した。得られた固体電解コンデンサを125℃において、電流密度1mAで通電し、32.5Vの電圧を60分間印加することで、エージング処理を施した。この実施例2の固体電解コンデンサの定格電圧は、25Vであった。
【0090】
実施例2との比較対象として、比較例2の固体電解コンデンサを作製した。比較例2の固体電解コンデンサは、固体電解質層形成一次工程が省かれている点で実施例2と異なる。即ち、比較例2の固体電解コンデンサは、固体電解質層内にホスホン酸基導入PEDOTが含まれていない。比較例2は、その他の全てにおいて実施例2と同一構成、同一組成、同一製造方法及び同一製造条件で作製された。
【0091】
実施例2及び比較例2の固体電解コンデンサが有する陽極箔の箔容量、実施例2及び比較例2の固体電解コンデンサの静電容量(Cap)、誘電正接(tanδ)、及び等価直列抵抗(ESR)を測定した。また、箔容量と静電容量から容量出現率を計算した。測定方法及び計算方法は、実施例1及び比較例1と同一である。
【0092】
実施例2及び比較例2の測定結果と計算結果を下表2に示す。尚、実施例2と比較例2の陽極箔の箔容量は、517.5μFであった。
【0093】
【0094】
表2に示すように、実施例2は、比較例2に比べて容量出現率が8.6%向上していることが確認された。また、表2に示すように、ホスホン酸基導入PEDOTを固体電解質層内に形成し、更にPEDOTの領域を固体電解質層内に形成した場合、120Hzにおけるtanδと、100kHzにおけるESRとが向上していることが確認された。
【0095】
(実施例3)
実施例3の固体電解コンデンサを作製した。実施例3の固体電解コンデンサは、巻回型である。実施例2に対して、コンデンサ素子の構成及びPEDOTを含む第2の導電性高分子の領域を形成する固体電解質層形成二次工程が異なる。実施例3の固体電解コンデンサには、化成電圧63.6Vの誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と、化成電圧3Vの誘電体酸化皮膜を形成した陰極箔とをマニラ紙セパレータを介して巻回したコンデンサ素子を用いた。コンデンサ素子の構成と固体電解質層形成二次工程を除き、実施例3は実施例2と同一構成及び同一組成を有し、同一の製造方法及び同一の製造条件で作製された。
【0096】
実施例3において、固体電解質層形成二次工程は、PEDOTが分散した導電性高分子分散液をコンデンサ素子に含浸して行った。コンデンサ素子を導電性高分子分散液に浸漬し、20kPaの圧力環境下で2分間、導電性高分子分散液をコンデンサ素子に含浸した。次いで、乾燥工程に移り、室温で10分静置し、150℃の温度環境下に30分間晒した。これにより、コンデンサ素子の固体電解質層内に、PEDOTを含む第2の導電性高分子の領域が形成された。なお、導電性高分子分散液の含浸は1回のみ行った。
【0097】
固体電解質層が形成された後、コンデンサ素子には封口体が装着され、コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースにコンデンサ素子を挿入し、封口体で封止した。得られた固体電解コンデンサを125℃において、電流密度1mAで通電し、40.3Vの電圧を60分間印加することで、エージング処理を施した。この実施例3の固体電解コンデンサの定格電圧は、35Vであった。
【0098】
実施例3との比較対象として、比較例3の固体電解コンデンサを作製した。比較例3の固体電解コンデンサは、固体電解質層形成一次工程が省かれている点で実施例3と異なる。即ち、比較例3の固体電解コンデンサは、固体電解質層内にホスホン酸基導入PEDOTが含まれていない。比較例3は、その他の全てにおいて実施例3と同一構成、同一組成、同一製造方法及び同一製造条件で作製された。
【0099】
実施例3及び比較例3の固体電解コンデンサが有する陽極箔の箔容量、実施例3及び比較例3の固体電解コンデンサの静電容量(Cap)、誘電正接(tanδ)、及び等価直列抵抗(ESR)を測定した。また、箔容量と静電容量から容量出現率を計算した。測定方法は、実施例1及び比較例1と同一である。また、容量出現率は、静電容量の測定結果を陽極箔及び陰極箔の合成容量で除算し、100を乗算することで百分率に換算して得た。
【0100】
実施例3及び比較例3の測定結果と計算結果を下表3に示す。尚、実施例3と比較例3の陽極箔及び陰極箔の合成容量は、270.0μFであった。
【0101】
【0102】
表3に示すように、実施例3は、比較例3に比べて容量出現率が14.1%向上していることが確認された。また、表3に示すように、ホスホン酸基導入PEDOTの領域を固体電解質層内に形成した場合、120Hzにおけるtanδと、100kHzにおけるESRとが向上していることが確認された。