(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066398
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】がんの検査方法、試薬、キット及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240508BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240508BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G01N33/574 A
C12M1/00 A
C12M1/34 F
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055252
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022174670
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩章
(72)【発明者】
【氏名】小高 陽樹
(72)【発明者】
【氏名】金安 美雨
(72)【発明者】
【氏名】杠 和樹
(72)【発明者】
【氏名】豊田 雅哲
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029FA12
(57)【要約】
【課題】高効率かつ高感度でがんを検査できる方法を提供すること。
【解決手段】 がんの検査方法であって、
(1)生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析すること、
を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの検査方法であって、
(1)生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析すること、
を含む、方法。
【請求項2】
さらに、(3)前記生体成分に第二成分を接触させること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法であって、
(1)被験個体の生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、健常者の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、方法。
【請求項4】
さらに、(5)被験個体のがんの状態を判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定するためのデータの収集方法であって、
(1)被験個体の生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、あらかじめ測定された治療前の被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)治療の有効性を判定するための、治療前と治療後の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、方法。
【請求項6】
前記レクチンが、TJA II、ADA及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が、被験個体の体液試料である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記体液試料が、血液由来の試料である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記レクチンと結合する生体成分が、タンパク質である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質が、フォンウィレブランド(Von Willebrand)因子、α2-マクログロブリン、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンβ鎖からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記がんが、膵がんである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
がんを検査するための試薬、キット又は装置であって、
(1)TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチン
を含む、試薬、キット又は装置。
【請求項14】
前記レクチンが、TJA II、ADA及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンである、請求項13に記載の試薬、キット又は装置。
【請求項15】
前記がんが、膵がんである、請求項13または14に記載の試薬、キット又は装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんを検査するための方法、試薬、キット及び装置に関する。より詳細には、がんに関連する生体成分に結合するレクチンを用いるがんの検査方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんにかかるといわれている。がんには多くの異なる種類のがんがあり、それぞれの種類のがんで、病理組織/細胞の形態、遺伝子発現、細胞表面タンパク質/糖鎖発現が異なる。そのため、診断方法やがんマーカーの種類もがん細胞種ごとに異なる。
【0003】
例えば、乳がんのスクリーニング検査はマンモグラフィ検診等の非侵襲的な診断により行われ、悪性の病変やがんが疑わしい場合には、少量の細胞や組織片を採取する穿刺吸引細胞診や針生検(組織診)が行われる。前立腺がんは、血液検査(PSA検査)によるスクリーニング検査を行い、直腸診、経直腸的前立腺超音波検査等の診断を行った上で、がんが疑わしい場合には、針生検による病理組織診断で評価が行われる。肺がんは胸部X線写真によりスクリーニング検査を行い、病変が疑われる場合には、喀痰検査により痰の中のがん細胞の有無を調べる。さらに、内視鏡検査や針生検により病理組織診断で評価が行われる。
【0004】
いずれにせよ、がんの確定診断では生検が必要であるが、少量の細胞で診断がつかない場合は、追加での組織採取が必要となり患者負担が大きくなる。そこで、穿刺吸引等で得られる少量の細胞でも高効率で確定診断が行えるようながんの検査方法の開発が求められている。特に患者の治療方針を決定する上で、当該がんの悪性度を判断することは、最も重要な診断要件である。
【0005】
従来、各種がん細胞の表面に存在するタンパク質を認識することで、がんの検査、抗がん剤開発を進めようとする研究は盛んに行われてきた。しかしながら、正常細胞にも同じタンパク質が発現しているために、特異性の点から効果が思わしくないことが殆どであった。
【0006】
近年、がん患者の血清中の糖タンパク質や糖脂質の糖鎖の変化に着目し、たとえ糖鎖を有するタンパク質量が同量であったとしても、各種がん特異的に増加する糖鎖を糖鎖エピトープとして認識して検出することが可能な抗体、レクチンを用いる検査技術の開発も進められている。例えば、複数の特定糖鎖の血清中の存在量を測定することによる膵がん診断方法(特許文献1、2)、フコースα1→6特異的な担子菌由来レクチンを用いた病変ヒトハプトグロビン検出による膵がん診断方法(特許文献3)、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAcを特異的に認識するBC2LCNレクチンを用いて、乳がん細胞や前立腺がん細胞の細胞表面に存在する糖タンパク質を認識することによるがん細胞の検出方法(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-63139号
【特許文献2】特開2013-83490号
【特許文献3】WO2011/089988
【特許文献4】WO2017/061449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、少量の生体試料で高効率かつ高感度でがんを検査すること、被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定すること、がんの状態(例えば、悪性度、進行度、ステージなど)を判定すること、治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定すること、それらのためのデータを収集すること、などができる、方法、試薬、キット及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させ、生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析することでがんを検査等できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1] がんの検査方法であって、
(1)生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析すること、
を含む、方法。
[2] さらに、(3)前記生体成分に第二成分を接触させること、
を含む、[1]に記載の方法。
[3] 被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法であって、
(1)被験個体の生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、健常者の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、方法。
[4] さらに、(5)被験個体のがんの状態を判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、[3]に記載の方法。
[5] 治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定するためのデータの収集方法であって、
(1)被験個体の生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、あらかじめ測定された治療前の被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)治療の有効性を判定するための、治療前と治療後の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む、方法。
[6] 前記レクチンが、TJA II、ADA及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンである、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記生体試料が、被験個体の体液試料である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記体液試料が、血液由来の試料である、[7]に記載の方法。
[9] 前記生体試料が、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 前記レクチンと結合する生体成分が、タンパク質である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 前記タンパク質が、フォンウィレブランド(Von Willebrand)因子、α2-マクログロブリン、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンβ鎖からなる群から選択される少なくとも1種である、[10]に記載の方法。
[12] 前記がんが、膵がんである、[1]~[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13] がんを検査するための試薬、キット又は装置であって、
(1)TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチン
を含む、試薬、キット又は装置。
[14] 前記レクチンが、TJA II、ADA及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンである、[13]に記載の試薬、キット又は装置。
[15] 前記がんが、膵がんである、[13]または[14]に記載の試薬、キット又は装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少量の生体試料で高効率かつ高感度でがんを検査すること、被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定すること、がんの状態(例えば、悪性度、進行度、ステージなど)を判定すること、治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定すること、それらのためのデータを収集すること、などができる。
特に、本発明によれば、早期発見が難しい膵がんを、初期のステージ(例えば、後述するステージIA、IB)で発見することができる。
したがって、本発明は、がん研究分野、がん診断、がん治療による創薬・医療分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍部位をTJA IIを用いて染色した結果を示す。
【
図2】
図2は、臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍部位を、ADAを用いて染色した結果を示す。
【
図3】
図3は、膵がん患者及び健常者の血清中のADAに結合した糖タンパク質を溶出した溶出液を、電気泳動してPVDF膜に転写後ADAレクチンでブロットした結果を示す。
【
図4】
図4は、膵がん患者及び健常者の血清中のrGC2に結合した糖タンパク質を溶出した溶出液を、電気泳動してPVDF膜に転写後rGC2レクチンでブロットした結果を示す。
【
図5】
図5は、膵がん及び健常者血清からADA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示す。
【
図6】
図6は、膵がん及び健常者血清からrGC2固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フィブロネクチンに対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示す。
【
図7】
図7は、膵がん及び健常者血清からMAL固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示す。
【
図8】
図8は、膵がん及び健常者血清からSNA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示す。
【
図9】
図9は、膵がん及び健常者の血清中のフィブロネクチンを、(実施例5-1)で作製したフィブロネクチン検出用のHRP標識抗フィブロネクチン抗体-rGC2固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図10】
図10は、膵がん及び健常者の血清中のフォンウィレブランド因子を、(実施例5-2)で作製したフォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-MAL固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図11】
図11は、膵がん及び健常者の血清中のフォンウィレブランド因子を、(実施例5-3)で作製したフォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-SNA固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図12】
図12は、膵がん及び健常者の血清中のフォンウィレブランド因子を、(実施例5-4)で作製したフォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-HSA固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図13】
図13は、膵がん及び健常者の血清中のフォンウィレブランド因子を、(実施例5-5)で作製したフォンウィレブランド因子検出用のHRP標識SNA-抗フォンウィレブランド因子抗体固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図14】
図14は、膵がん及び健常者の血清中のα
2-マクログロブリンを、(実施例5-6)で作製したα
2-マクログロブリン検出用のHRP標識抗α
2-マクログロブリン抗体-TJA II固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【
図15】
図15は、膵がん及び健常者の血清中のα
2-マクログロブリンを、(実施例5-7)で作製したα
2-マクログロブリン検出用のHRP標識TJA II-抗α
2-マクログロブリン抗体固相化ELISAを用いて測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における「がん」としては、悪性腫瘍又は悪性肉腫が挙げられ、例えば、舌がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆管がん、胆嚢がん、膵がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、尿路上皮がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、乳がん及び甲状腺がん等の上皮性がん、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞種、骨髄腫、メラノーマ、脳腫瘍などが挙げられる。
本明細書における「上皮性がん」としては、舌がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆管がん、胆嚢がん、膵がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、尿路上皮がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、乳がん、甲状腺がん等が挙げられる。
本明細書における「消化器系上皮性がん」としては、舌がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆管がん、胆嚢がん、膵がん、大腸がん等が挙げられる。
本明細書における「膵がん」とは、一般に膵臓から発生したがんを指す。膵臓には消化酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど)を分泌する外分泌腺と、ホルモン(インスリンなど)を分泌する内分泌腺がある。膵がんは外分泌系(消化酵素の分泌系)がんと内分泌系(ホルモンの分泌系)がんに大きく2つに分けられるが、外分泌系のがんが95%を占め、中でも膵管の上皮から発生する浸潤性膵管がんが最も多く、全体の85%を占める。そのため、一般に膵がんといえばこの浸潤性膵管がんのことを指す。本明細書における「上皮性がん」又は「消化器系上皮性がん」には、浸潤性膵管がんが含まれる。
【0013】
本明細書における「がんの状態」には、例えば、悪性度、進行度(ステージ)、組織型、分化度、再発転移などが挙げられる。
がんの悪性度の判断指標は、臨床的なものから病理組織学的なものまで種々の指標が用いられる。一般に、がんの発生部位、がんの組織型及びがんの分化度の指標が汎用される。発生部位に関して、胆のう胆道及び膵臓は、進行性、浸潤性及び転移性が高く、予後(5年相対生存率)が悪いため、最も悪性度が高いがんに分類される。一方、前立腺、乳腺及び甲状腺は進行が遅く、転移性が低く、予後が良いため、最も悪性度が低いがんに分類される。子宮体、大腸、子宮頚、胃、卵巣、肺、食道及び肝臓は、この順に5年相対生存率が低く、悪性度が高いとされている。
組織型は、同一組織由来のがんをさらに由来細胞の種類によって分類したものであり、例えば、肺がんは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん及び小細胞がんに大きく分類することができる。
がんの分化度は、正常な組織あるいは細胞からの異形度であり、がん組織やがん細胞の構造及び形状等が正常な組織や細胞の構造及び形状等から乖離しているほど悪性度が高いと判断される。構造としては、組織の境界が不明瞭であるほど、又は、細胞の配列が不整であるほど悪性と判断される。形状としては、核や細胞質が不整であるほど、細胞質、核又は核小体が大型であるほど、各染色性が増すほど、又は、核小体が多いほど悪性と判断される。 がんの進行度は、通常、「病期(ステージ)」として分類される。病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的であり、膵がんでは早期から進行するにつれて0期~IV期まで存在する。病期は、がんの大きさ、周囲への広がり(浸潤)、リンパ節や他の臓器への転移があるかどうかによって決定される。全身の状態を調べたり、病期を把握する検査を行ったりすることは、治療の方針を決めるためにとても重要である。
例えば、日本で用いられている膵がんの病期の分類法の一つとして、「膵癌取扱い規約2016年7月第7版(日本膵臓学会編)」(金原出版)による分類が挙げられ、これは次のTNMの3種の分類(TNM分類)の組み合わせで決められる(下表参照)。
【表1】
本明細書における膵がんにおけるステージは、上記分類による。
【0014】
本明細書における「個体」は、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギなどの哺乳動物であり、特にヒトである。
【0015】
本明細書における「被験個体」とは、がんに罹患しているか否かが判明していない個体又はがんに罹患していることが判明している個体であり、さらに手術、抗がん剤投与など治療後の個体をも含む。前者(がんに罹患しているか否かが判明していない個体、およびがんに罹患していることが判明している個体)の場合は、個体ががんに罹患しているか否かと共にその悪性度もしくは薬剤耐性の獲得度を判定することができ、後者(手術、抗がん剤投与など治療後の個体)の場合は予後を判定し、あるいは治療効果の判定を行うことができる。
【0016】
本明細書における「健常者」とは、少なくとも癌に罹患していることが疑われていない個体をいう。
【0017】
本明細書における「生体試料」としては、被験個体の臓器、器官又は組織から摘出した腫瘍組織もしくはその周辺組織、又は生検材料に由来する組織試料又は細胞試料、被験個体の体液試料などが挙げられる。
ここでいう「体液試料」には、被験個体の全血、血清、血漿及び関節液を含む血液由来試料、間質液、リンパ液、唾液、尿、脳脊髄液、組織抽出液などが含まれる。
上記生体試料は、被験個体から採取したもの自体、採取後に所定の処理したもの、採取後に培養したもの、それらに所定の処理したものも含まれる。
【0018】
本明細書における「生体成分」としては、本明細書におけるレクチンに対して、健常者及びがん患者で異なる親和性(存在量、検出量)を示す(例えば、当該レクチンによって、がん患者において特徴的に多く検出される、あるいは特徴的に少なくしか検出されないかまたは検出されない)生体成分であれば特に限定されないが、例えば、タンパク質、糖タンパク質、脂質、糖脂質などが挙げられ、特に糖タンパク質が挙げられる。
上記糖タンパク質としては、例えば、フォンウィレブランド(Von Willebrand)因子、α2-マクログロブリン、フィブロネクチン、フィブリノーゲンβ鎖などが挙げられる。
糖タンパク質のなかでも、本明細書におけるレクチンに対して、健常者及び早期のステージのがん患者で異なる親和性(存在量、検出量)を示すものが、がんの早期発見に貢献できるので、好ましい。このような糖タンパク質としては、例えば、フォンウィレブランド因子、α2-マクログロブリンなどが挙げられる。フォンウィレブランド因子は、本明細書におけるレクチンによって、健常者に比べて膵がんのステージIの患者で特徴的に多く検出される。また、α2-マクログロブリンは、健常者に比べて膵がんのステージIの患者で特徴的に少なくしか検出されない。
【0019】
本明細書における「レクチン」とは、糖鎖と特異的に結合するタンパク質を意味する。レクチンには、植物、菌類、動物などから単離された天然のレクチン、リコンビナントなレクチン、天然のレクチンのアミノ酸配列に基づいて化学合成されたレクチン、人工的に配列(構造)を設計した天然に存在しない構造のレクチンであってもよい。好ましくは、リコンビナントなレクチンが挙げられる。
上記「レクチン」としては、例えば、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a、rGC2等が挙げられ、好ましくは、TJA II、ADA、rGC2等が挙げられる。
上記レクチンのうち、「TJA II」は、Trichosanthes japonica由来のレクチンであり、α1-2Fucの構造に対する特異性が知られている。
上記レクチンのうち、「ADA」は、Allomyrina dichtoma由来のレクチンであり、α2-6Sia、Forssman抗原、A型抗原、B型抗原の構造に対する特異性が知られている。
上記レクチンのうち、「rGC2」は、「リコンビナントGC2」のことであり、GC2は、Geodia cydonium由来のレクチンであり、α1-2Fuc(H)、αGalNAc(A)、αGal(B)の構造に対する特異性が知られている。
上記レクチンのうち、「MAL」は、Maackia amurensis由来のレクチンであり、α2-3Siaの構造に対する特異性が知られている。
上記レクチンのうち、「SNA」は、Sambucus nigra由来のレクチンであり、α1-6Siaの構造に対する特異性が知られている。
レクチンは、市販品でもよいが、当業者に既知の任意の方法にしたがって生産することもできる。例えば、天然のレクチンは、既知のタンパク質の単離方法を用いて得ることができ、リコンビナントなレクチンは、例えば、クローニング、DNAシャッフリング又は他の周知の分子生物学的手法によって核酸を組み換えることにより調製されたリコンビナントDNA分子を使用して発現させることにより得ることができる。
【0020】
本明細書における「抗体」には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。好ましくは、モノクローナル抗体が挙げられる。抗体は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ラクダなど)由来の抗体でもよく、リコンビナント抗体でもよい。さらに、抗体は、人工的に配列(構造)を設計した天然に存在しない構造の抗体であってもよく、例えば、ヒト化抗体、キメラ抗体であってもよい。
また、本明細書における「抗体」には、「抗体の機能性断片」も含まれる。「抗体の機能性断片」とは、抗原との結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2、scFv等を含む。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の機能性断片に含まれる。ただし抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。機能性断片には、抗体タンパク質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生されたタンパク質も含まれる。
抗体は、市販品でもよいが、当業者に既知の任意の方法にしたがって生産することもできる。例えば、抗体は、所定の抗原を用いて細胞融合技術、遺伝子組換え技術、ファージディスプレイ等にしたがって生産することができる。
【0021】
本明細書において、「特異性」及び「特異的に結合」とは、対象に対して高い親和性をもって結合することを意味する。
【0022】
1.がんの検査方法
本発明は、がんの検査方法を含む。当該方法は、
(1)生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析すること、
を含む。
【0023】
上記レクチンのうち、「ADA」は、がん患者由来の生体試料中に存在するフォンウィレブランド因子に結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
上記レクチンのうち、「MAL」は、がん患者由来の生体試料中に存在するフォンウィレブランド因子に結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
上記レクチンのうち、「SNA」は、がん患者由来の生体試料中に存在するフォンウィレブランド因子に結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
上記レクチンのうち、「HSA」は、がん患者由来の生体試料中に存在するフォンウィレブランド因子に結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
上記レクチンのうち、「rGC2」は、がん患者由来の生体試料中に存在する、フィブロネクチンに結合した糖鎖、フィブリノーゲンβ鎖に結合した糖鎖及びα2-マクログロブリンに結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
上記レクチンのうち、「TJA II」は、がん患者由来の生体試料に比べて、健常者由来の生体試料中に存在するα2-マクログロブリンに結合した糖鎖に対して特異的に結合することができる。
【0024】
上記レクチンは、がん組織中のがん細胞又は培養がん細胞の細胞表面に存在する「生体成分」に特異的に結合することができ、さらに、がん組織中のがん細胞又は培養がん細胞の細胞表面から遊離して体液中あるいは培養上清中に存在する「生体成分」にも特異的に結合することができる。
あるいは、上記レクチンは、正常組織中の正常細胞又は培養正常細胞の細胞表面に存在する「生体成分」に特異的に結合することができ、さらに、正常組織中の正常細胞又は培養正常細胞の細胞表面から遊離して体液中あるいは培養上清中に存在する「生体成分」にも特異的に結合することができる。
【0025】
上記レクチンは、既知の物質であり、既知の方法で製造することができる。また、Vector Laboratories社、コスモ・バイオ株式会社、富士フイルム和光純薬、生化学工業、東京化成工業、等から入手可能である。
【0026】
上記レクチンは、標識化されていてもよい。レクチンの標識化は、常法により蛍光や酵素、核酸鎖、ビオチン、磁気ビーズ等を用いて行うことができる。
例えば、蛍光色素として「Cy3」、「Cy5」、「FITC」、「Hilyte FluorTM 647」、「phycoerythrin」、「allophycocyanin」などを用いて、レクチンを蛍光標識することができる。
公知の芳坂らの方法(Iijima et al.(2009)ChemBioChem, 10, 999-1006)を用いれば、レクチンの特定の部位に蛍光標識アミノ酸を導入した変異体を作製することができる。
蛍光色素以外にも磁気ビーズにより標識することもできる。例えば、ThermoFisher社等の試薬メーカーが提供するプロトコルを用いて、磁気ビーズで標識したレクチンを作製することができる。
また、「horseradish peroxidase」、「alkaline phosphatase」等の酵素や「ビオチン-アビジン反応を利用した検出システム」を用いて標識することもできる。その際、Dojindo社等の試薬メーカーが提供するプロトコルを利用して、NHS基やマレイミド基で活性化した酵素やビオチンを用いることで、レクチンの一級アミノ基(NH2基)やチオール基(SH基、スルフヒドリル基)に標識することができる。
【0027】
上記レクチンは、担体に固定化されていてもよい。レクチンを不溶性担体に固定化させる方法は、特に限定されず、化学的結合法(共有結合により固定化する方法)、物理的に吸着させる方法などの公知の方法を適用できる。アビジン-ビオチン反応のような非常に強固な結合反応を利用してレクチンを不溶性担体に固定化することも可能である。この場合、レクチンにビオチンを結合したビオチン化レクチンを、ストレプトアビジンをコーティングしたストレプトアビジンプレートに固定化すればよい。また、この分野で通常使用される各種リンカーを介して、レクチンを不溶性担体に固定化させてもよい。
【0028】
上記がんの検査方法における「生体試料」としては、上述したものが挙げられるが、中でも、被験個体への負担等の点から体液試料が挙げられ、特に血液由来の試料が挙げられる。
【0029】
上記がんの検査方法における「生体成分」としては、上述したものが挙げられるが、中でも糖タンパク質が挙げられ、特にフォンウィレブランド因子、α2-マクログロブリン、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンβ鎖が挙げられる。
【0030】
上記がんの検査方法における「がん」としては、上述したものが挙げられるが、中でも膵がんが挙げられる。
【0031】
上記工程(1)としては、上記生体試料に対して、上記レクチンを結合させることができる工程であれば特に限定されないが、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0032】
(1-1)生体試料が体液試料である場合
生体試料として血液などの体液試料を用いる場合は精製工程を経ることなくそのまま、もしくは希釈して、又はあらかじめタンパク質画分のみに濃縮して、上記レクチンを含む溶液を接触させる。これにより、体液試料中の生体成分にレクチンが結合する。
あるいは、必要により酵素、蛍光、ビオチンなどで標識化した生体成分を含む体液試料を、上記レクチンをELISAプレート、磁気ビーズ、フィルター、スライドグラスなどの支持体に固定化したものに接触させることもできる。これにより、体液試料中の生体成分が、支持体に固相化されたレクチンに結合する。
また、生体試料を、既知の抗体又はレクチンを固定化した支持体に生体試料を反応させ、次いで、必要により酵素、蛍光、ビオチンなどで標識化した上記レクチンを反応させることもできる。
【0033】
(1-2)生体試料が細胞試料である場合
培養容器内で基材(例えば、ビーズ状、中空糸状又は平板状の基材)に接着した状態で被検細胞を培養している場合、上記レクチンを、当該基材が存在する溶液中に添加する。ここでいう「溶液」とは、培養液又は、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。これにより、細胞試料中の生体成分にレクチンが結合する。
また、懸濁状態で被検細胞を培養した場合であっても、当該溶液中に上記レクチンを添加すれば、上記レクチンが生体成分に結合する。ここでいう「溶液」とは、培養液又は、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等であってよい。
【0034】
(1-3)生体試料が組織試料である場合
そのままあるいは化学固定した組織片に、上記レクチン溶液を接触させる。これにより、組織片中の生体成分にレクチンが結合する。
また、そのままあるいは化学固定した組織試料を定法に従って薄切し、スライドガラス上に貼り付けて病理切片とし、ここに上記レクチン溶液を接触させてもよい。これにより、組織切片中の生体成分にレクチンが結合する。
【0035】
上記工程(2)としては、生体試料中の上記レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を分析できる工程であれば特に限定されないが、例えば、蛍光染色、フローサイトメトリー、ELISA、レクチンブロッティングなどの公知の方法で分析することができる。例えば、試料の種類に応じて、以下の手順で行うことができる。
【0036】
(2-1)生体試料が体液試料である場合
生体試料が体液試料であり、そのまま上記レクチンを含む溶液を接触させる場合、レクチンが結合した生体成分を、遊離のレクチンから分離して分析する必要がある。当該分離方法としては、例えば、クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、例えばLiBASys(島津製作所(株)製)等の自動免疫分析装置を用いた方法等の既知の方法が挙げられる。その具体的な条件は、上記レクチンが結合した生体成分が分離できるように設定すればよく、その他の条件は、既知の方法に準ずればよい。例えば、HPLCを用いて分離する場合、Anal.Chem.65,5,613-616(1993)や特開平9-301995号に記載の方法に準じて行えばよく、キャピラリー電気泳動法を用いる場合には、J.Chromatogr. 593 253-258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926-1932 (1992)、WO2007/027495等に記載の方法に準じて行えばよい。また、自動免疫分析装置として例えばLiBASysを用いる場合、生物試料分析22巻4号303-308(1999)に記載されている方法に準じて行えばよい。分離後、上記レクチンが結合した生体成分中の量を分析することで、生体成分の存在の有無又は存在量を分析できる。
【0037】
(2-2)生体試料が細胞試料である場合
被検細胞を基材に接着させて培養した場合であっても懸濁状態で培養した場合であっても、上記レクチンを、細胞試料に添加した後に、被検細胞表面のレクチンが結合した生体成分の量を分析することで、生体成分の存在の有無又は存在量を分析できる。
例えば、被検細胞を基材に接着させて培養した場合、上記のように基材を含む溶液中に蛍光標識したレクチンを添加後、当該標識レクチンと、がん細胞表面又は正常細胞表面で特異的に発現する生体成分との反応性を、蛍光顕微鏡、ELISAなどで解析し、がん細胞又は正常細胞を検査することができる。このような解析方法によれば、生検を行う際に、蛍光などの標識が検査されなかった(バックグラウンド値と同レベルになった)試料は、がん細胞が存在していない試料であると評価できる。
例えば、被検細胞を懸濁状態で培養した場合や生検等で採取した組織を酵素処理して細胞を解離させた場合、上記のように、当該被験細胞を含む溶液中に蛍光標識したレクチンを添加後、フローサイトメトリー分析法を使用して分析する。当該標識レクチンは、がん細胞又は正常細胞のみを直接蛍光標識などで標識化するので、フローサイトメトリー分析法を適用できる。具体的には、FACS機器を用いてフローサイトメトリー解析を行うことにより、少量の試料でも確実にがん細胞が存在するかどうかを検査することができる。
また、上記レクチンをスライドグラスなど透明基板上に固定化しておき、溶液中に懸濁したがん細胞含有被検試料を、そのまま、もしくは希釈して、又はあらかじめタンパク質画分のみに濃縮した後、「Cy3-NHS ester」などで標識化した後、固定化レクチンと反応させ、プレートリーダー、蛍光スキャナー、エバネッセント波励起蛍光検査系などにより、その結合を分析してもよい。
【0038】
また、研究用等に維持をしているがん細胞の品質管理のためには、定期的にもしくは必要に応じて細胞試料を採取して、上記標識レクチンによる蛍光強度などの標識強度を分析できる。
【0039】
(2-3)生体試料が組織試料である場合
組織試料を組織片のままあるいは組織切片として上記レクチン溶液に接触させた後、組織片表面又は組織切片中のレクチンが結合した生体成分の量を分析することで、生体成分の存在の有無又は存在量を分析できる。
【0040】
また、上記工程(2)において、レクチンが結合した生体成分の量を分析するのを容易するため、上記レクチンは、上述したように標識化されていてもよい。例えば、蛍光標識することで、より高感度に分析できる。
【0041】
上記がんの検査方法は、さらに、(3)前記生体成分に第二成分を接触させることを含んでいてもよい。工程(3)の順番は、特に限定されず、例えば、工程(1)の前でも後でもよい。
上記第二成分としては特に限定されないが、例えば、上記レクチンが結合した生体成分(レクチン-生体成分複合体)に結合する標識抗体又は標識レクチン、生体成分に結合する標識抗体又は標識レクチン、上記レクチンに結合する標識抗体又は標識レクチンなどが挙げられる。
当該工程(3)は、生体試料が体液試料の場合、例えば、次の手順で行うことができる。
(a)体液試料と上記レクチンを溶液中で反応させ(工程(1))、次いで、その溶液に、上記レクチン-生体成分複合体に結合する標識抗体又は標識レクチンを添加して接触させた後(工程(3))、標識量を測定し、体液試料中の生体成分の存在の有無又は存在量を分析する(工程(2)、「サンドイッチアッセイ法」)。特に、「レクチン-レクチンサンドイッチ法」又は「レクチン-抗体サンドイッチ法」を用いることで、より高感度な分析が可能となる。なかでも、「レクチン-抗体サンドイッチ法」が好ましい。
また、当該手順において、体液試料と反応させる上記レクチンは、支持体に固相化されたものでもよい。
(b)あるいは、体液試料に、生体成分に結合する標識抗体又は標識レクチンの溶液を接触させた後(工程(3))、当該体液試料を、上記レクチンを固相化した支持体に接触させ(工程(1))、支持体表面の標識量を測定することで、生体成分の存在の有無又は存在量を分析できる(工程(2))。
【0042】
また、上記がんの検査方法は、さらに、(4)上記レクチンが結合した生体成分又は当該生体成分を含むがん細胞を、正常細胞から分離することを含んでいてもよい。工程(4)を含む場合、工程(3)は含まれていなくてもよい。また、工程(4)の順番は、特に限定されず、例えば、工程(2)の前でも後でもよく、工程(3)の前でも後でもよい。
被検試料が細胞試料である場合、工程(4)は、例えば、次の手順で行うことができる。
懸濁液中の細胞であれば、工程(1)の後、そのままセルソーターや磁気細胞分離装置を使用して、上記レクチンが結合した生体成分を含むがん細胞を正常細胞から分離することができる。
具体的には、細胞試料を含む溶液(培養液又は、培地成分を除去した後の緩衝液や生理食塩水等)に蛍光標識した上記レクチンを添加し、細胞試料中の生体成分と蛍光標識レクチンを結合させた後、フローサイトメトリー分析法にセルソーターを併用することで、例えば、セルソーターを備えたフローサイトメーターを用いることで、がん細胞のみを生きたまま単離することができる。
また、磁気ビーズ標識法で標識されたレクチンを用いる場合、細胞試料中の生体成分と磁気ビーズ標識レクチンを結合させた後、磁気細胞分離装置に供給することでがん細胞のみを単離することができる。
【0043】
上記がんの検査方法における「がん」としては、上述したものが挙げられるが、中でも膵がんが挙げられる。本発明者らは、膵がん患者由来のα2-マクログロブリン、フォンウィレブランド因子、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンβ鎖が、健常者由来のものに比べて、上記レクチンに対して異なる親和性を示すことを見出した。これは、これらのタンパク質に結合している糖鎖の種類および/または量が、膵がん患者と健常者では異なるため、レクチンに対する親和性も異なることになっていると考えられる。
【0044】
2.被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法
また、本発明は、被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法を含む。当該方法は、
(1)生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、健常者の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む。
【0045】
上記データの収集方法における「被験個体」としては、上述したものが挙げられる。
【0046】
上記データの収集方法における「がん」、「生体試料」、「レクチン」、工程(1)及び(2)は、上述のがんの検査方法におけるものと同様である。また、上記データの収集方法には、上述のがんの検査方法における工程(3)及び(4)も含めることができる。
【0047】
上記データの収集方法における工程(3)は、被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を、健常者の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較する工程であり、すなわち、被験個体の生体試料の代わりに、健常者の生体試料を用いて同様の工程(1)及び(2)を行い、得られたレクチンと結合する生体成分の有無又は存在量を、被験個体の結果と比較する工程である。
【0048】
上記データの収集方法における工程(4)は、被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するための、被験個体と健常者の上記レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集する工程である。当該生体成分が被験個体又は健常者にのみ存在する場合や、被験個体における存在量が健常者と比較して有意に異なるレベルであるとき、被験個体ががんに罹患している又はがんに罹患している可能性が高いと判定する。
【0049】
上記データの収集方法は、さらに、(5)被験個体のがんの状態を判定するための、被験個体と健常者の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、を含んでいてもよい。
【0050】
上記工程(5)における「がんの状態」は、上述したものと同様であるが、特に悪性度が挙げられる。
がんの悪性度は、例えば、得られた蛍光強度から悪性度を評価することができる。その場合、組織試料又は細胞試料を固定化して用いてもよいが、固定化していない細胞試料(例えば、体液試料)中の生体成分を、上記標識レクチン等により蛍光標識し、次いでフローサイトメトリー分析法を適用することで、より定量的ながんの悪性度の評価が可能となる。また、セルソーターを併用することで、蛍光染色されたがん細胞の生検試料中の割合を正確に分析できる。
組織試料又は細胞試料から、公知の方法で膜タンパク質画分を分離した後、緩衝液もしくは生理食塩水に懸濁させて分析工程に供することもできる。この場合、体液試料と同様に分析することができる。
具体的な判定は、次のように行うことができる。
被験個体の生体試料で分析された上記レクチンに結合する生体成分の量が、健常者又は悪性度の低いがん患者と比較して異なるレベルであるとき、被験個体のがんの悪性度が高いと判定することができる。
また、被験個体の上記レクチンに結合する生体成分の量を分析する際に、健常者又は悪性度の低いがん患者の上記レクチンに結合する生体成分の量をコントロールとして分析し、比較してもよい。
さらに、あらかじめ健常者又は悪性度の低いがん患者の生体試料中の上記レクチンに結合する生体成分の量を分析しておき、その量のカットオフ値を定め、被験個体の生体試料中の上記レクチンに結合する生体成分の量がカットオフ値を超えた場合(レクチンががん細胞由来の生体成分に特異的に結合する場合)又は下回った場合(レクチンが正常細胞由来の生体成分に特異的に結合する場合)に、該被験個体のがんの悪性度が高いと判断することができる。この際、生体試料が細胞試料の場合、上記レクチンに結合する生体成分の量は、上記レクチンに結合する生体成分を発現している細胞の割合で表してもよい。
上記レクチンは、特異的にがん細胞を検査することができ、特に悪性度の高いがん細胞との結合活性が、正常細胞との結合活性と異なるレベルであるから、がんの早期の段階での検査、及び悪性度の評価が可能である。上記データの収集方法は、被験個体ががん、特に悪性度の高いがんに罹患しているかどうかを判定するためのデータを収集するのに有用な方法である。
【0051】
3.治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定するためのデータの収集方法
また、本発明は、治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定するためのデータの収集方法を含む。当該方法は、
(1)被験個体の生体試料に対して、TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチンを結合させること、
(2)生体試料中の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を測定すること、
(3)当該生体成分の存在の有無又は存在量を、あらかじめ測定された治療前の被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較すること、
(4)治療の有効性を判定するための、治療前と治療後の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集すること、
を含む。
【0052】
上記データの収集方法における「被験個体」、「がん」、「生体試料」、「レクチン」、工程(1)及び(2)は、上述の被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法におけるものと同様である。また、上記データの収集方法には、上述のがんの検査方法における工程(3)及び(4)も含めることができる。
【0053】
上記データの収集方法における工程(3)は、被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の存在の有無又は存在量を、あらかじめ測定された治療前の被験個体の生体試料の当該レクチンと結合する生体成分の有無又は存在量と比較する工程である。すなわち、治療前後の被験個体の上記レクチンと結合する生体成分を分析する工程(1)及び(2)は、同様である。
【0054】
上記データの収集方法における工程(4)は、治療の有効性を判定するための、治療前と治療後の当該生体成分の存在の有無又は存在量の差のデータを収集する工程である。
例えば、被験個体の上記レクチンと結合する生体成分の量に応じて、化学療法、外科的療法等の治療方法を決定することができる。
具体的には、上記レクチンのうち、レクチンががん細胞由来の生体成分に特異的に結合する場合、当該レクチンと結合する生体成分の量が低いとき、抗がん剤の奏効を期待して化学療法を選択することができ、一方、その量が高いときは、悪性度が高く化学療法での延命効果は低いと判断することができ、外科的療法等を選択するか、又は疼痛緩和ケアを選択することができる。
また、上記レクチンのうち、レクチンが正常細胞由来の生体成分に特異的に結合する場合、当該レクチンと結合する生体成分の量が高いとき、抗がん剤の奏効を期待して化学療法を選択することができ、一方、その量が低いときは、悪性度が高く化学療法での延命効果は低いと判断することができる。
また、がん患者の生体試料中の上記レクチンと結合する生体成分の量を定期的に分析することにより、その都度適切な治療方法を決定することができる。
【0055】
さらに、膵がんなどがんに罹患している被験個体の生体試料で分析した上記レクチンと結合する生体成分の量により、患者の予後を判定できる。例えば、上記レクチンと結合する生体成分の量が異なる場合に、予後が不良であると評価することができる。
また、がんに罹患している被験個体に、手術などの外科的治療、抗がん剤治療などの化学的、免疫学的治療、放射線治療などが施された場合に、治療前の生体試料と治療後の生体試料との上記レクチンと結合する生体成分の量の差異を観察することで、施された治療の治療効果の有効性を判定することができる。
【0056】
このように、上記データの収集方法は、がん治療の有効性を判定するためのデータを収集するのに有用な方法である。したがって、当該方法は、がんに罹患している被験個体の治療方法を選択するため、さらに、被験個体の予後を予測するためのデータを収集するのに有用な方法である。
【0057】
4.がんを検査するための試薬、キット又は装置
さらに、本発明は、がんを検査するための試薬、キット又は装置を含む。当該試薬、キット又は装置は、
(1)TJA II、ADA、LFA、WGA、PVL、PltB、BCoV、SubB2M、MAL、HSA、MAH、ACG、rACG、rGal8N、SNA、SSA、TJAI、rPSL1a及びrGC2からなる群から選択される少なくとも1種のレクチン
を含む。
【0058】
上記「がん」及び「レクチン」は、上述のがんの検査方法におけるものと同様である。
【0059】
上記試薬、キット又は装置は、さらに、
(2)標識化剤、及び
(3)標識を検出するための試薬、手段又は装置
を含んでいてもよい。
【0060】
上記(2)の標識化剤は、レクチン又は抗体を、蛍光色素、酵素、ビオチン等又は磁気ビーズで標識するための薬剤であり、上記(1)及び(2)から、蛍光色素、酵素、ビオチン等又は磁気ビーズで標識したレクチン又は抗体を得ることができる。
また、上記(1)及び(2)の代わりに、予め標識化剤で結合したレクチン又は抗体を、上記(3)と共に、試薬、キット又は装置とすることもできる。
【0061】
上記(3)の試薬、手段又は装置は、例えば、蛍光標識の場合は、蛍光顕微鏡又はプレートリーダーなど、酵素標識やビオチン標識の場合は、イメージアナライザーなど、並びに、これらに使用する試薬、用具、機器などが挙げられる。また、これらは、上記レクチンを細胞表面又は組織表面に接触させるか、あるいは体液試料中に当該レクチンを添加するための手段(例えば自動分注装置)を有していてもよい。
【0062】
上記試薬、キット又は装置は、さらに、(4)第二成分を含んでいてもよい。当該第二成分は、上述のがんの検査方法におけるものと同様である。
【0063】
また、上記試薬、キット又は装置は、さらに、(5)標識を分析して標識された細胞を分離するための手段又は装置を含んでいてもよい。当該手段又は装置は、例えば、蛍光標識や磁気ビーズ標識等の標識を検出して分離するための手段又は装置であり、具体的には、セルソーターを備えたフローサイトメトリー、磁気細胞分離装置などである。
【0064】
上記試薬、キット又は装置は、上述のがんの検査方法、被験個体ががんに罹患しているかどうかを判定するためのデータの収集方法、及び治療が施されたがんを患う被験個体において、治療の有効性を判定するためのデータの収集方法に使用することができる。
【0065】
本発明における用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:レクチンのがん細胞及びがん組織への結合活性の評価
(実施例1-1)臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍部位のTJA II染色
本実施例では、臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍へのTJA IIの結合活性を免疫組織化学的に評価した。
臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデルから摘出した腫瘍をそれぞれホルマリン固定し、パラフィン包埋後、組織切片を作製した。得られた各組織切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識TJA IIで染色して、ヘマトキシリン/エオシン染色した後、その組織像を顕微鏡観察した。
その結果、臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍ではがん細胞がHRP標識TJA IIで強く染色されることが分かり、特に腺管構造部位が強く染色されること、及び周辺の正常膵臓細胞部位は全く染色されないことがわかった(
図1)。
【0067】
(実施例1-2)臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍部位のADA染色
(実施例1-1)と同様の手順で臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍部位のADA染色を実施した。その結果、臨床膵癌ゼノグラフトマウスモデル腫瘍ではがん細胞がHRP標識ADAで強く染色されることが分かり、特に腺管構造部位が強く染色されること、及び周辺の正常膵臓細胞部位は全く染色されないことがわかった(
図2)。
【0068】
実施例2:レクチンにより認識される糖タンパク質の同定
(実施例2-1)ADAにより認識される糖タンパク質の同定
本実施例では、ADA結合ビーズで膵がん患者および健常者の血清中の糖タンパク質をそれぞれ沈降させ、沈降した糖タンパク質を溶出して、得られた溶出液を電気泳動し、膵がんに固有の糖タンパク質を質量分析により同定した。
DynabeadsM280 Streptavidin (Invitrogen)にビオチン化ADAを結合させた。そして、膵がん及び健常者血清と4℃一晩インキュベートして、洗浄後、0.2% SDSを含むトリスバッファーで95℃5分加熱することで、ADAに結合した糖タンパク質を溶出した。得られた溶出液を電気泳動して、PVDF膜に転写後、HRP標識ADAでブロットした。その結果、健常者血清ではADAブロットで反応性は見られなかったが、膵がん血清では250 kDa付近で反応性が認められた(
図3)。そこで、レクチンブロットで使用したものと同じ血清からADA固定化ビーズで沈降させた糖タンパク質溶液を、電気泳動して銀染色MSキット(富士フイルム和光純薬、299-58901)を用いて銀染色したゲルを作製し、160 kDa付近のバンドを切り出した。切り出した各ゲル片からトリプシン加水分解を経てペプチド混合物を得た。ペプチド混合物をLC-MS/MSに供し、MS/MSデータを取得した。MS/MSデータのアミノ酸配列データベース検索の結果をペプチド同定一覧として出力した。その結果、フォンウィレブランド(Von Willebrand)因子がADAによりがん患者において検出される候補タンパク質として取得された。
【0069】
(実施例2-2)rGC2により認識される糖タンパク質の同定
本実施例では、rGC2結合ビーズで膵がん患者および健常者の血清中の糖タンパク質をそれぞれ沈降させ、沈降した糖タンパク質を溶出して、得られた溶出液を電気泳動し、膵がんに固有の糖タンパク質を質量分析により同定した。
(実施例2-1)と同様の手法を実施した。その結果、健常者血清ではrGC2ブロットで反応性は見られなかったが、膵がん血清では250 kDa付近、125 kDa付近、60 kDa付近で反応性が認められた(
図4)。そこで、レクチンブロットで使用したものと同じ血清からrGC2固定化ビーズで沈降させた糖タンパク質溶液を、電気泳動して銀染色MSキット(富士フイルム和光純薬、299-58901)を用いて銀染色したゲルを作製し、250 kDa付近、125 kDa付近、60 kDa付近のバンドをそれぞれ切り出した。切り出した各ゲル片から(実施例2-1)と同様の手法で同定を実施した。その結果、分子量の大きい方からフィブロネクチン、α
2-マクログロブリン、フィブリノーゲンβ鎖がrGC2によりがん患者において検出される候補タンパク質として取得された。
【0070】
実施例3:糖タンパク質同定結果の妥当性確認
(実施例3-1)ADA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質に対する、抗フォンウィレブランド因子抗体を用いたウエスタンブロット
本実施例では、膵がん及び健常者血清からADA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした。
[サンプル調製]
実施例2で用いたものと同一の健常者および膵がん患者(早期膵がん、後期膵がん)各3ロットずつを、(実施例2-1)と同様の手法でADA固定化ビーズで血清中の糖タンパク質をそれぞれ沈降させた後、溶出し、糖タンパク質溶液を得た。
2―メルカプトエタノールを2× Laemmli Sample Buffer(BIORAD、1610737)で2%(v/v)に希釈し、サンプルバッファーを調製した。上記糖タンパク質溶液1μLをサンプルバッファーで10μLに希釈し、サンプル溶液を調製した。このサンプル溶液を95℃で10分間加熱した。
[電気泳動]
電気泳動槽に泳動用緩衝液と電気泳動用ゲルU-PAGEL H (3-10%)(ATTO、UH-R310)をセットし、各ウェルに前工程で調製したサンプル溶液を全量添加し、定電圧180Vの条件下で75分間泳動した。
[転写]
ガラスから外したゲルを転写バッファー((48mM トリス、39mMグリシン)/20%メタノール)に浸漬し、室温で10分間振とうさせた。同時に転写用ろ紙2枚(BIO-RAD、1703967)とメタノールで活性化したPVDF膜(ATTO、WSE-4051)を転写バッファーに浸漬し、室温で10分間振とうさせた。トランスブロットSDセルにろ紙、PVDF膜、ゲルをセットし、定電圧25Vの条件下で30分間稼働させ、PVDF膜に糖タンパク質を転写させた。
[ウエスタンブロット]
ブロックエース(ケー・エー・シー、UKB80)を1%(w/v)になるように、PBS/0.05% Tween20で希釈し、ブロッキング溶液を調製した。ブロッキング溶液中に転写後のPVDF膜を入れ、室温で1時間振とうさせて、ブロッキングした。
ヒツジ抗ヒトフォンウィレブランド因子抗体(R&D SYSTEMS、AF2764)をブロッキング溶液で0.5μg/mLに希釈し、1次抗体溶液を調製した。1時間振とうさせたPVDF膜に、1次抗体溶液を加えて、室温で1時間振とうさせた。
1時間振とうさせたPVDF膜をPBS/0.05% Tween20で3回洗浄後、ウサギ抗ヒツジIgG抗体(HRP標識)(abcam、ab6747)をブロッキング溶液で5000倍に希釈した2次抗体溶液を加え、室温で30分間振とうさせた。
再度、PVDF膜をPBS/0.05% Tween20で3回洗浄後、ECL Prime(cytiva、RPN2232)をアプライし、室温で5分間反応させ、CCDイメージャー(GE Healthcare、LAS4000)でウエスタンブロット像を撮影した。
その結果、
図5に示されるように、フォンウィレブランド因子の分子量250 kDa付近にバンドが見られたことから候補タンパク質はフォンウィレブランド因子であり、同定結果は妥当であることが確認された。またADA固定化ビーズに結合性を示すフォンウィレブランド因子は、健常者血清と比べて膵がん患者血清で有意に強く検出されることが明らかとなった。
【0071】
(実施例3-2)rGC2固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質に対する、抗フィブロネクチン抗体を用いたウエスタンブロット
本実施例では、膵がん及び健常者血清からrGC2固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フィブロネクチンに対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした。
実験は(実施例3-1)と同様の手順で実施した。1次抗体としてヒツジ抗ヒトフォンウィレブランド因子抗体(R&D SYSTEMS、AF2764)、2次抗体としてウサギ抗ヒツジIgG抗体(HRP標識)(abcam、ab6747)を使用した。
その結果、
図6に示されるように、フィブロネクチンの分子量250 kDa付近にバンドが見られたことから候補タンパク質はフィブロネクチンであり、同定結果は妥当であることが確認された。またrGC2固定化ビーズに結合性を示すフィブロネクチンは、健常者血清と比べて膵がん患者血清で有意に強く検出されることが明らかとなった。
【0072】
実施例4:シアル酸結合レクチンに結合性を示すフォンウィレブランド因子の検出
(実施例4-1)MAL固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質に対する、抗フォンウィレブランド因子抗体を用いたウエスタンブロット
本実施例では、膵がん及び健常者血清からADAと同じシアル酸結合レクチンであるMAL固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした。
実験は(実施例3-1)と同様の手順で実施した。1次抗体としてヒツジ抗ヒトフォンウィレブランド因子抗体(R&D SYSTEMS、AF2764)、2次抗体としてウサギ抗ヒツジIgG抗体(HRP標識)(abcam、ab6747)を使用した。
その結果、
図7に示されるように、フォンウィレブランド因子の分子量250 kDa付近にバンドが見られ、ADAと同様にMAL固定化ビーズに結合性を示すフォンウィレブランド因子は、健常者血清と比べて膵がん患者血清で有意に強く検出されることが明らかとなった。
【0073】
(実施例4-2)SNA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質に対する、抗フォンウィレブランド因子抗体を用いたウエスタンブロット
本実施例では、膵がん及び健常者血清からADAと同じシアル酸結合レクチンであるSNA固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、フォンウィレブランド因子に対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした。
実験は(実施例3-1)と同様の手順で実施した。1次抗体としてヒツジ抗ヒトフォンウィレブランド因子抗体(R&D SYSTEMS、AF2764)、2次抗体としてウサギ抗ヒツジIgG抗体(HRP標識)(abcam、ab6747)を使用した。
その結果、
図8に示されるように、フォンウィレブランド因子の分子量250 kDa付近にバンドが見られ、ADAと同様にSNA固定化ビーズに結合性を示すフォンウィレブランド因子は、健常者血清と比べて膵がん患者血清で有意に強く検出されることが明らかとなった。
(実施例4-1)の結果とも合わせ、シアル酸結合レクチンに結合性を示すフォンウィレブランド因子を検出することで健常者血清と膵がん患者血清に差異を見出すことが可能であることが示唆された。
【0074】
実施例5:レクチンELISAを用いた検体測定
測定に使用した血清検体のリストは以下の通りである。
【表2】
【0075】
(実施例5-1)フィブロネクチン検出用のHRP標識抗フィブロネクチン抗体-rGC2固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、rGC2を固相化したアビジンプレートとHRP標識抗フィブロネクチン抗体を用いてフィブロネクチン検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のフィブロネクチンを測定した。
[レクチンELISA作製]
アビジンプレート(ブロッキングレスタイプ)(住友ベークライト製。品番:BS-X7603)に、ビオチン化したrGC2をPBSに溶解した液を添加して室温でインキュベートした。
0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、健常者血清と膵がん患者血清それぞれのロットをPBSで100倍希釈し、各ウェルに50μLずつ添加した。
室温でインキュベートし0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、HRP標識抗フィブロネクチン抗体を各ウェルに添加し、室温でインキュベートした。
0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、TMB Solution (富士フイルム和光純薬製。品番:208-17371)を各ウェルに50μL添加して室温でインキュベートした。その後、1N HClを各ウェルに50μL添加した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値はrGC2により認識される糖鎖構造を持つフィブロネクチンの量に対応する。
その結果、健常者では測定値が低く膵がん患者では測定値が高い傾向が見られた(
図9)。すなわち、rGC2により認識される糖鎖構造を持つフィブロネクチンは健常者血清で少なく、膵がん患者血清で多いという傾向が明らかになった。
以上より、フィブロネクチン検出用のHRP標識抗フィブロネクチン抗体-rGC2固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。
【0076】
(実施例5-2)フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-MAL固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、MALを固相化したアビジンプレートとHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体を用いてフォンウィレブランド因子検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のフォンウィレブランド因子を測定した。
[レクチンELISA作製]
(実施例5-1)と同様の手順で実施した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値はMALにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子の量に対応する。
その結果、健常者では測定値が低く膵がん患者では測定値が高い傾向が見られた(
図10)。すなわち、MALにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子は健常者血清で少なく、膵がん患者血清で多いという傾向が明らかになった。
以上より、フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-MAL固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。また、ステージIBの膵がん患者検体(357)のフォンウィレブランド因子が健常者検体のフォンウィレブランド因子よりも多いことから、ステージIの早期膵がんを見分けうることが示された。
【0077】
(実施例5-3)フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-SNA固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、SNAを固相化したアビジンプレートとHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体を用いてフォンウィレブランド因子検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のフォンウィレブランド因子を測定した。
[レクチンELISA作製]
(実施例5-1)と同様の手順で実施した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値はSNAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子の量に対応する。
その結果、健常者では測定値が低く膵がん患者では測定値が高い傾向が見られた(
図11)。すなわち、SNAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子は健常者血清で少なく、膵がん患者血清で多いという傾向が明らかになった。
以上より、フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-SNA固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。また、ステージIBの膵がん患者検体(357)のフォンウィレブランド因子が健常者検体のフォンウィレブランド因子よりも多いことから、ステージIの早期膵がんを見分けうることが示された。
【0078】
(実施例5-4)フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-HSA固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、Streptococcus gordonii 由来レクチン(HSA)を固相化したアビジンプレートとHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体を用いてフォンウィレブランド因子検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のフォンウィレブランド因子を測定した。
[レクチンELISA作製]
(実施例5-1)と同様の手順で実施した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値はHSAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子の量に対応する。
その結果、健常者では測定値が低く膵がん患者では測定値が高い傾向が見られた(
図12)。すなわち、HSAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子は健常者血清で少なく、膵がん患者血清で多いという傾向が明らかになった。
以上より、フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識抗フォンウィレブランド因子抗体-HSA固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。
【0079】
(実施例5-5)フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識SNA-抗フォンウィレブランド因子抗体固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、抗フォンウィレブランド因子抗体を固相化したアビジンプレートとHRP標識SNAを用いてフォンウィレブランド因子検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のフォンウィレブランド因子を測定した。
[レクチンELISA作製]
アビジンプレート(ブロッキングレスタイプ)(住友ベークライト製。品番:BS-X7603)に、ビオチン化した抗フォンウィレブランド因子抗体をPBSに溶解した液を添加して室温でインキュベートした。
0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、健常者血清と膵がん患者血清それぞれのロットをPBSで100倍希釈し、各ウェルに50μLずつ添加した。
室温でインキュベートし0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、HRP標識SNAを各ウェルに添加し、室温でインキュベートした。
0.1% Tween/PBSでプレート洗浄後、TMB Solution (富士フイルム和光純薬製。品番:208-17371)を各ウェルに50μL添加して室温でインキュベートした。その後、1N HClを各ウェルに50μL添加した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値は血清中フォンウィレブランド因子のうち、SNAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子の量に対応する。
その結果、健常者では測定値が低く膵がん患者では測定値が高い傾向が見られた(
図13)。すなわち、SNAにより認識される糖鎖構造を持つフォンウィレブランド因子は健常者血清で少なく、膵がん患者血清で多いという傾向が明らかになった。
以上より、フォンウィレブランド因子検出用のHRP標識SNA-抗フォンウィレブランド因子抗体固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。また、ステージIBの膵がん患者検体(357)のフォンウィレブランド因子が健常者検体のフォンウィレブランド因子よりも多いことから、ステージIの早期膵がんを見分けうることが示された。
【0080】
(実施例5-6)α
2-マクログロブリン検出用のHRP標識抗α
2-マクログロブリン抗体-TJA II固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、TJA IIを固相化したアビジンプレートとHRP標識抗α
2-マクログロブリン抗体を用いてα
2-マクログロブリン検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のα
2-マクログロブリンを測定した。
[レクチンELISA作製]
(実施例5-1)と同様の手順で実施した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値はTJA IIにより認識される糖鎖構造を持つα
2-マクログロブリンの量に対応する。
その結果、健常者では測定値が高く膵がん患者では測定値が低い傾向が見られた(
図14)。すなわち、TJA IIにより認識される糖鎖構造を持つα
2-マクログロブリンは健常者血清で多く、膵がん患者血清で少ないという傾向が明らかになった。
以上より、α
2-マクログロブリン検出用のHRP標識抗α
2-マクログロブリン抗体-TJA II固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。
【0081】
(実施例5-7)α
2-マクログロブリン検出用のHRP標識TJA II-抗α
2-マクログロブリン抗体固相化ELISAを用いた検体測定
本実施例では、抗α
2-マクログロブリン抗体を固相化したアビジンプレートとHRP標識TJA IIを用いてα
2-マクログロブリン検出用レクチンELISAを作製し、膵がん及び健常者血清検体中のα
2-マクログロブリンを測定した。
[レクチンELISA作製]
(実施例5-5)と同様の手順で実施した。
[検体測定]
OD450nm(主波長)の測定値からOD620nm(副波長)の測定値を差し引いた値を各サンプルで比較した。測定値は血清中α
2-マクログロブリンのうちTJA IIにより認識される糖鎖構造を持つα
2-マクログロブリンの量に対応する。
その結果、健常者では測定値が高く膵がん患者では測定値が低い傾向が見られた(
図15)。すなわち、TJA IIにより認識される糖鎖構造を持つα
2-マクログロブリンは健常者血清で多く、膵がん患者血清で少ないという傾向が明らかになった。
以上より、α
2-マクログロブリン検出用のHRP標識TJA II-抗α
2-マクログロブリン抗体固相化ELISAを用いて測定することで、健常者と膵がん患者を見分けうることが示された。また、ステージIBの膵がん患者検体(357)のα
2-マクログロブリンが健常者検体のα
2-マクログロブリンよりも少ないことから、ステージIの早期膵がんを見分けうることが示された。