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特開2024-66476フィブロイン及びセリシン含有ナノ粒子を含む、皮下投与型ワクチン用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066476
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】フィブロイン及びセリシン含有ナノ粒子を含む、皮下投与型ワクチン用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240508BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240508BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K39/00 G
A61P37/04
A61K9/08
A61K47/42
A61P43/00 171
A61K9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180964
(22)【出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022174553
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充
(72)【発明者】
【氏名】小島 桂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB16
4C076CC07
4C076EE41
4C085AA03
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG04
(57)【要約】
【課題】 動物に皮下投与し、抗原特異的な抗体産生の誘導を可能とする、ワクチン用組成物を提供すること。
【解決手段】 抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を、含む皮下投与型ワクチン用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を、含む皮下投与型ワクチン用組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、精練されていない絹の溶解液と前記抗原との混合液から塩析されたものである、請求項1に記載の皮下投与型ワクチン用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を含む、皮下投与型ワクチン用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜の多頭羽飼育環境で見られる慢性複合感染症による損害の防止やその軽減対策として、多くの抗生物質が使用されている。抗生物質の乱用により、薬剤耐性菌の出現あるいは食品中への残留による食の安全が懸念されている。これら抗生物質に代わるものとして安全で有用な動物用ワクチンの開発が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-97229号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Andreas S Lammelら、Biomaterials、2010年6月、31巻、16号、4583~4591ページ
【非特許文献2】Zheng Zhaoら、Int J Mol Sci.、2015年3月4日、16巻、3号、4880~4903ページ
【非特許文献3】Fatemeh Rezaeiら、Biomater Sci.、2021年4月7日、9巻、7号、2679~2695ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、動物に皮下投与し、抗原特異的な抗体産生の誘導を可能とする、ワクチン用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために、絹タンパク質を皮下投与型ワクチンの担体として利用することを構想した。
【0007】
なお、絹は、精練処理して外側のセリシン層を除去し、得られたフィブロイン繊維を溶かして水溶液にすることにより、パウダー、フィルム、スポンジ等に加工することが出来る。さらに、塩析や脱溶媒和等によって、フィブロイン水溶液からフィブロインナノ粒子を作製することも可能である。そして、かかるナノ粒子については、薬物等の送達システムの担体としての利用が試みられている(非特許文献1~3)。
【0008】
また、抗原タンパク質を発現させた遺伝子組換えカイコ産生繭を、精練せずに物理的に破砕し、その絹粉末を、フロイントの完全アジュバントと共に、マウスの皮下に注射した結果、その血中抗体価が上昇したことも報告されている(特許文献1)。
【0009】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1に記載の方法に沿って試験した結果、抗原タンパク質を発現させた遺伝子組換えカイコ産生繭の破砕物を皮下投与する方法では、絹成分に対する抗体産生が優位に誘導され、目的抗原に対する抗体産生を効率よく誘導することは困難であることが示唆された。
【0010】
そこで、本発明者らが更に鋭意研究を重ね、絹を精練せずに溶解したシルク溶液(セリシン及びフィブロインを含む溶液)と抗原タンパク質との混合液を塩析し、抗原タンパク質含有シルクナノ粒子を作製した。そして、このナノ粒子を、皮下投与することで、アジュバントを要さずとも、抗原特異的な抗体産生を誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0012】
[1] 抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を、含む皮下投与型ワクチン用組成物。
【0013】
[2] 前記ナノ粒子は、精練されていない絹の溶解液と前記抗原との混合液から塩析されたものである、[1]に記載の皮下投与型ワクチン用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、動物に皮下投与することによって、抗原特異的な抗体産生を誘導することが可能となる。
【0015】
さらに、本発明においては、アジュバントを要さずとも、前記抗体産生を誘導し得る。既存の動物用ワクチンでは、免疫応答を増強するためにアジュバントを使用しているものが多くある。アルミニウム塩アジュバントを使用したものが主流であったが、近年では油性エマルジョンをベースとしたアジュバントを使用するワクチンも増えている。アジュバントが含まれたワクチンでは、その成分によって注射による局所反応がやや強く発現する場合がある。特に、油性アジュバント添加ワクチンでは、注射局所での反応が長期間強く発現する傾向にあり、出荷までの期間が短い肉用鶏では使用に制限がかかる。本発明においては、アジュバントを要さないため、このような副反応、それに伴う問題等を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】遺伝子組換えカイコ産生繭における、フィブロインL鎖(FibL)と卵白アルブミン(OVA)との融合タンパク質(FibL-OVA)の発現を、CBB染色と、抗FibL抗体を用いたウェスタンブロットとによって、検出した結果を示す、写真である。
図2】FibL-OVA発現繭の破砕物を、皮下投与したマウス血清中の抗体価を評価した結果を示す、グラフである。各々マウス2匹(#1,#2)ずつを用い、アジュバント非存在下(-)又はアジュバント存在下(+)で皮下投与実験を行った。図中、「未精練繭糸」、「セリシンホープ」及び「OVA(2.5ng/ml)は、ELISAにおいて、未精練繭糸の水溶液、セリシンホープ繭(フィブロインをほとんど含まず、セリシンのみを含む)の水溶液及びOVA溶液を各々コーティングしたアッセイプレートを用いた結果を示す。
図3A】繭糸から、精練せずに、抗原タンパク質(OVA)を含むシルクナノ粒子を調製する工程を示す、図である。
図3B】前記OVA含有シルクナノ粒子を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察した結果を示す、写真である。
図4】前記シルクナノ粒子に取り込まれたOVAを、抗OVA抗体を用いたウェスタンブロットによって検出した結果を示す、写真である。
図5】前記OVA含有シルクナノ粒子を皮下投与したマウスの血清を、ELISAによって分析した結果を示す、グラフである。図中、「未精練繭糸」、「セリシンホープ」及び「OVA(2.5mg/ml)は、ELISAにおいて、未精練繭糸の水溶液、セリシンホープ繭(フィブロインをほとんど含まず、セリシンのみを含む)の水溶液及びOVA溶液を各々コーティングしたアッセイプレートを用いた結果を示す。「生食」は生理食塩水を皮下投与した試験区の結果を示し、「マユ-OVA(-)」はOVA含有シルクナノ粒子をアジュバントとの併用なしで皮下投与した試験区の結果を示し、「マユ-OVA(+)」はOVA含有シルクナノ粒子をアジュバントと併用で皮下投与した試験区の結果を示す。
図6】繭糸の水溶液から調製したシルクナノ粒子と、繭糸の水溶液及び抗原タンパク質(トリアデノウイルスFiber1)を混合して調製したシルクナノ粒子とを、走査電子顕微鏡にて観察した結果を示す、写真である。
図7】前記シルクナノ粒子に取り込まれたFiber1を、抗Fiber1抗体を用いたウェスタンブロットによって検出した結果を示す、写真である。
図8】免疫したニワトリの血清中抗Fiber1抗体(IgY)の量の経時的変化を示す、グラフである。図中、「Silk+Fiber1」はFiber1含有シルクナノ粒子を皮下投与した試験区の結果を示し、「Fiber1+アジュバント」は不完全フロイントアジュバント混合Fiber1を皮下投与した試験区の結果を示し、「Fiber1」はFiber1を皮下投与した試験区の結果を示し、「Silk」はシルクナノ粒子を皮下投与した試験区の結果を示す。
図9】初回免疫1週間後の血清中の抗Fiber1抗体(IgY)の量を示す、グラフである、図中の表記については、図8と同様である。
図10】各種無機塩又は有機塩を溶解した水溶液を塩析に用いて調製したシルクナノ粒子を、SEMにて観察した結果を示す、写真である。図中、「繭」は、繭糸から精練せずに調製したものであることを示し、「-OVA」又は「+OVA」は、抗原タンパク質(OVA)を含めずに又は含めて調製したものであることを示す。左側には、塩析に用いた無機塩又は有機塩の種類を示す。各写真の下には、平均粒子径(直径、μm)を示し、また括弧内の数値は標準偏差(SD)を示す。なお、ここでの平均粒子径は、SEM観察1視野に存在する各粒子の最大直径(各粒子を包含する最小円の直径)から算出される平均値である。検出した粒子数は、下記2種のパターンを除き、50個以上である。(パターン1) SEM観察1視野において、計測下限未満の粒子しかない場合(図中、粒子径が<0.34μmとなっている例)、5~20個検出した。(パターン2) 一視野に計測可能な粒子が50個以下しかない場合、可能な限り全ての粒子を検出した。
図11】各種無機塩又は有機塩を溶解した水溶液を用いて調製したシルクナノ粒子に取り込まれたOVAを、抗OVA抗体を用いたウェスタンブロットによって検出した結果を示す、写真である。図中、「繭+OVA」は、繭糸から精練せず、抗原タンパク質(OVA)を含めて調製したシルクナノ粒子であることを示す。各レーンにおいて示す、塩析に用いた無機塩又は有機塩の種類は、以下のとおりである。また、「OVA」のレーンは、陽性対照のレーンとなる。レーンNo.1:クエン酸三ナトリウム、レーンNo.2:硫酸ナトリウム、レーンNo.3:硫酸マグネシウム、レーンNo.4:酢酸マグネシウム、レーンNo.5:酢酸ナトリウム、レーンNo.6:硫酸アンモニウム、レーンNo.7:酢酸カリウム、レーンNo.8:酒石酸ナトリウム、レーンNo.9:クエン酸三アンモニウム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
後述の実施例に示すとおり、本発明者らは、絹の溶解液(セリシン及びフィブロインを含む溶液)と抗原との混合液から作製した、抗原含有ナノ粒子を、皮下投与することで、当該抗原に特異的な抗体産生を誘導できることを明らかにした。
【0018】
よって、本発明は、抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を、含む皮下投与型ワクチン用組成物に関する。
【0019】
<本発明にかかるナノ粒子について>
本発明において、ナノ粒子に含まれる「フィブロイン」は、フィブロインL鎖、フィブロインH鎖及びフィブロヘキサメリン(P25)からなる群から選択される少なくとも1のタンパク質又は当該タンパク質の部分ペプチドを意味する。また、本発明にかかる「フィブロイン」には、前記タンパク質の複合体も含まれる。複合体としては、例えば、天然に存在する状態(例えば、フィブロインL鎖及びフィブロインH鎖がジスルフィド結合したヘテロ2量体、又は、当該2量体が6分子とフィブロヘキサメリン1分子とが非共有結合で集合してなる複合体)が挙げられる。
【0020】
本発明において、「セリシン」は、セリシン1、セリシン2、セリシン3及びセリシン4からなる群から選択される少なくとも1のタンパク質又は当該タンパク質の部分ペプチドを意味する。また、本発明にかかる「セリシン」には、前記タンパク質の複合体も含まれる。複合体としては、例えば、天然に存在する状態(例えば、セリシン1、セリシン2及びセリシン3を含むセリシン層又はその断片)が挙げられる。
【0021】
本発明にかかるナノ粒子において、上記フィブロインとセリシンとは、複合体を形成して含まれていてもよい。また、フィブロイン及びセリシンは、絹に由来する天然のタンパク質であってもよく、組み換えタンパク質であってもよい。「天然のタンパク質」としては、例えば、鱗翅目昆虫(家蚕(Bombyx属、mori種)、野蚕(Antheraea属、pernyi、yamamai、militta、assama種等、Philosamia属、cynthia ricini種、ミノガ等))、クモ(Araneae目)、ハチ目又はハエ目に属する節足動物が産生するタンパク質が挙げられる。「組み換えタンパク質」は、遺伝子工学的手法により調製されるタンパク質を意味し、例えば、上述のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等の宿主細胞内で、あるいは大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液等の無細胞発現系で発現させることによって調製することが出来る。
【0022】
本発明において、「絹」は、上記フィブロインからなるフィブロイン繊維と、当該繊維とを包むセリシン層とからなる繊維を意味する。また、天然由来の場合には、上記節足動物が産生する繭等から調製される繊維を意味し、例えば、繭層、繭糸、生糸、絹糸が、本発明にかかる絹には含まれる。「精練」とは、絹からセリシンを除去する処理を意味し、当該除去が出来る限り、とくに制限はないが、例えば、アルカリ精練、酸精練、セッケン精練、酵素精練、又はこれらの組み合わせ(例えば、セッケン・アルカリ精練)が挙げられる。
【0023】
本発明においては、ナノ粒子を調製するために、先ず、フィブロイン及びセリシン、又は、精練されていない絹を溶解する。かかる溶解において用いられる溶媒としては、特に限定されず、水及び/又は有機溶媒等を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、低級アルコール(エタノール、メタノール、イソプロパノール等)、グリコール(プロピレングリコール、ジエチレングリコール等)を用いることができ、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルモルホリン-N-オキシド等の非プロトン性溶媒であってもよいが、安全性及び環境負荷の観点から、好ましくは、水と低級アルコールとの混合溶媒であり、より好ましくは、水とエタノールとの混合溶媒である。
【0024】
溶媒には、無機塩が添加されていることが好ましい。無機塩としては、特に限定されず、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩を用いることができる。具体的には、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸カリウム等が挙げられるが、フィブロイン、セリシン及び抗原タンパク質の分解を抑えながら、これらを効率よく溶解し易いという観点から、好ましくは、臭化リチウム、チオシアン酸リチウム、塩化カルシウムであり、より好ましくは臭化リチウムである。
【0025】
本発明において、溶媒に添加される無機塩の濃度(終濃度)としては、特に限定されないが、例えば、3M以上、4M以上、5M以上、6M以上、7M以上、8M以上、9M以上、10M以上と、適宜設定することができる。溶媒のpHとしては、特に限定されないが、好ましくは、pH7以上(例えば、pH8、pH9)である。
【0026】
溶解する際の温度としては、特に限定されないが、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは55℃以下(37℃、室温(例えば25℃)等)である。また、このようにして調製される溶解液は、前記無機塩を除去(脱塩)するために、例えば透析処理に供してよい。かかる処理に用いられる透析液としては、特に制限はないが、脱イオン水、RO水、若しくはそれらに緩衝剤を加えたもの(1mMTris-HCl(pH9)、PBS等)、又は、上記溶媒が挙げられる。
【0027】
本発明においては、このようにして調製された溶解液に、後述の抗原を混合し、粒子化する。かかる粒子化方法としては、上記ナノサイズの粒子を調製できれば特に制限はないが、例えば、塩析(salting-out法、Lammel,A.S.ら、Biomaterials 2010,31,4583‐4591等 参照)、エタノール沈殿等の脱溶媒和法(コアセルベーション法、Kundu,J.ら、Int.J.Pharm. 2010,388,242‐250、Zhang,Y.Q.ら、J.Nanopart.Res.2007,9,885‐900、Cao,Z.ら、Soft Matter 2007,3,910‐915、Shi,P.J.ら、Int.J.Pharm.2011,410,282‐289等 参照)、超臨界流体技術(Zhao,Z.ら、Ind.Eng.Chem.Res.2013,52,3752‐3761等 参照)、エレクトロスプレー法(Gholami,A.ら、J.Nanopart.Res.2011,13,2089‐2098、Qu,J.ら、Mater.Sci.Eng.C:Mater.Biol.Appl.2014,44,166‐174等 参照)、機械的粉砕(Rajkhowa,R.ら、Powder Technol.2008,185,87‐95、Rajkhowa,R.ら、Powder Technol.2009,191,155‐163、Kazemimostaghim,M.ら、Powder Technol.2013,241,230‐235、Kazemimostaghim,M.ら、Powder Technol.2013, 249,253‐257等 参照)、マイクロエマルション法(Myung,S.J.ら、Macromol.Res.2008,16,604‐608等 参照)、電気的制御法(Huang,Y.L.ら、Chin.Sci.Bull.2011,56,1013‐1018等 参照)、キャピラリーマイクロドット技術(Gupta,V.ら、Int.J.Nanomed.2009,4,115‐122等 参照)、PVA混合フィルム法(Wang,X.ら、Biomaterials 2010,31,1025‐1035等 参照)が、挙げられる。
【0028】
これら粒子化方法の中で、得られるナノ粒子のサイズ、コスト及び収率の観点、抗原タンパク質の変性や分解を低減し易いという観点、またナノ粒子中への他成分の混入を避け易いという観点から、好ましくは、塩析、脱溶媒和法であり、より好ましくは塩析である。かかる塩析においては、上記溶解液に添加することにより、抗原、フィブロイン及びセリシンを析出できれば、特に制限はなく、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。無機塩としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩を用いることができ、具体的には、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムが挙げられ、有機塩としては、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酒石酸ナトリウム等が挙げられる。これらの塩において、接種動物に対して有害な成分となり難いことや、希釈を避け、効率よくナノ粒子を回収し易いという観点から、好ましくはリン酸二カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウムであり、より好ましくはリン酸二カリウムである。
【0029】
本発明において、抗原と上記溶解液との混合液に添加される塩の濃度(終濃度)としては、抗原、フィブロイン及びセリシンが塩析できる限り、特に限定されないが、例えば0.8M以上、好ましくは1M以上、より好ましくは1.2M以上が挙げられる。また、かかる塩析は、抗原及び上記溶解液に、塩の飽和水溶液を加えて混合することによって行うことができる。塩析する際の温度としては、特に限定されないが、通常室温以下(例えば、25℃、4℃)で行われる。
【0030】
本発明においては、このようにして得られる析出物を、例えば、水で洗浄した後、分散することによって、ナノ粒子に調製することができる。かかる調製方法としては、特に制限はないが、例えば、超音波処理、攪拌が挙げられる。
【0031】
本発明にかかる「ナノ粒子」は、かかる絹タンパク質を担体として含む微粒子であり、その形態は問うものではない。また、その粒径はナノサイズ又はマイクロサイズである。「ナノサイズ又はマイクロサイズ」とは、平均粒子径で5μm未満、好ましくは4μm未満、より好ましくは3μm未満、さらに好ましくは2μm未満、より好ましくは1μm未満、さらに好ましくは900nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは500nm以下(例えば、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下)が挙げられる。また、「平均粒子径」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測長される粒子径の平均値が挙げられ、より具体的には、SEM観察1視野に存在する各粒子の最大直径(各粒子を包含する最小円の直径)から算出される平均値が挙げられる。検出する粒子数としては、例えば5~100個(例えば、5~10個、5~20個、5~30個、5~40個、5~50個、50個以上)が挙げられる。また、1視野に存在する全てであってもよい。
【0032】
本発明にかかるナノ粒子において、抗原の含有量は、フィブロイン及びセリシンのナノ粒子における含有量に対して、好ましくは0.05~30質量%であり、より好ましくは0.1~20質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。また、フィブロインとセリシンとの質量比(ナノ粒子におけるフィブロインの質量:ナノ粒子におけるセリシンの質量)は、好ましくは60~90:10~40であり、より好ましくは65~85:15~35である。
【0033】
本発明のナノ粒子に含まれる「抗原」としては、動物において免疫応答を惹起するものであれば特に限定されず、例えば、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチア、クラミジア、プリオン、がん細胞、又はこれらに由来する分子(例えば、タンパク質、核酸、糖、脂質)が挙げられる。
【0034】
ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、リケッチア、クラミジア等は、これらを弱毒化したものを抗原としてもよく(生ワクチン)、不活化したものを抗原としてもよい(不活化ワクチン)。また、これらに由来するトキソイドやキャプシド、表面に存在するタンパク質等を抗原としてもよい。
【0035】
ウイルスとしては、動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ニパウイルス、パピロマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型等)、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、エンテロウイルス、狂犬病ウイルス、黄熱ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイルス、サイトメガロウイルス、コロナウイルス、ポリオーマウイルス、ヘルペスウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、マールブルグウイルス、パルボウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、トゴトウイルス、ドーリウイルス、ニューキャッスルウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス、ポックスウイルス、レオウイルス、口蹄疫ウイルスが挙げられる。
【0036】
細菌としては、動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、破傷風菌、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、リステリア菌、病原性大腸菌、百日咳菌、ジフテリア菌、肺炎桿菌、プロテウス菌、髄膜炎球菌、緑膿菌、セラチア菌、淋菌、エンテロバクター菌、シトロバクター菌、マイコプラズマ、クロストリジウム、結核菌、コレラ菌、ペスト菌、赤痢菌、炭疽菌、梅毒トレポネーマ、レジオネラ菌、レプトスピラ菌、ピロリ菌、ボレリア菌、インフルエンザ菌が挙げられる。
【0037】
寄生虫としては、動物に寄生して疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、マラリア原虫、トキソプラズマ、リーシュマニア、トリパノソーマ、クリプトスポリジウム、エキノコックス、住血吸虫、フィラリア、回虫が挙げられる。
【0038】
真菌としては、動物に感染し疾患を引き起こすものであれば特に限定はされず、例えば、カンジダ真菌、アスペルギルス真菌、クリプトコッカス真菌、ヒストプラズマ真菌、白癬真菌、ニューモシスチス真菌、コクシジオイデス真菌が挙げられる。
【0039】
<本発明のワクチン組成物等>
本発明の組成物は、上述のシルク粒子を含む皮下投与型ワクチン用組成物である。かかる組成物においては、当該シルク粒子の他、薬理学上許容される添加剤を含んでいてもよい。かかる「薬理学上許容される添加剤」としては、例えば、本発明の組成物の形態は、通常液状製剤(注射剤)となるため、溶剤、等張化剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤等が挙げられる。なお、本発明の組成物は、用時液体希釈用の乾燥剤、粉末剤、顆粒剤等の態様もとり得る。
【0040】
また、本発明の組成物は、後述の実施例に示すとおり、アジュバントを併用せずとも、前記抗原に対して特異的な抗体産生を誘導し得る。よって、本発明の組成物は更にアジュバントを含まなくともよいが、更にアジュバントを含んでいてもよい。アジュバントとしては、例えば、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、アルミニウムゲルアジュバント等の無機物質、微生物又は微生物由来物質(BCG、ムラミルジペプチド、百日咳菌、百日咳トキシン、コレラトキシン等)、界面活性作用物質(サポニン、デオキシコール酸等)、油性物質(鉱油、植物油、動物油等)のエマルジョン、ミョウバンが挙げられる。
【0041】
本発明においてはまた、後述の実施例に示すとおり、本発明にかかるナノ粒子又は本発明の皮下投与型ワクチン用組成物を、動物に皮下投与し、当該動物において上記抗原に対して特異的な抗体の産生を誘導する方法をも提供する。また、当該方法は、前記抗原が関連する疾患(感染症等)を予防する又はその症状を軽減する方法とも言い換えられる。
【0042】
本発明において皮下投与の対象となる「動物」としては、特に制限はないが、ヒトであってもよく、非ヒト動物であってもよい。「非ヒト動物」としては、特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物等が挙げられる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サル等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0043】
また、本発明にかかるナノ粒子又は本発明の皮下投与型ワクチン用組成物の投与量は、当業者であれば、抗原の種類、又は、投与対象の種類、週齢、体重若しくは健康状態等により適宜決定することができる。また、投与回数は、単回であってもよく、また複数回であってもよく、この回数も、当業者であれば、前記抗原の種類等に応じて適宜決定することができる。
【実施例0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本実施例は、下記材料及び方法を用いて行った。
【0045】
(材料及び方法)
1. 遺伝子組換えカイコ産生繭を免疫原とする、マウス皮下投与試験
特開2005-97229号公報に記載の方法に沿って、抗原タンパク質を発現させた遺伝子組換えカイコの繭糸を破砕し、得られた破砕物を動物の皮下に免疫して、抗原特異的な抗体産生が誘導されるかにつき評価した。具体的には、以下に示すとおりである。
【0046】
1-1. フィブロインL鎖融合OVAタンパク質(FibL-OVA)を発現する遺伝子組換えカイコ産生繭の破砕処理
FibL-OVA発現繭を0.5cm角に裁断した後、マルチビーズショッカーMB3200(S))(安井器械株式会社)により、液体窒素条件下で凍結粉砕(3秒粉砕→3分液体窒素で凍結のサイクルを15回繰り返す)し、さらにその後、水(溶媒)を添加して湿式冷却粉砕(30秒粉砕→60秒冷却(0℃)のサイクルを40回繰り返す)により粒径が数十~数百μmのシルク破砕物を調製した。
【0047】
1-2. FibL-OVA発現シルク破砕物のマウス皮下への投与
シルク破砕物の濃度を、繭重量から計算して50mg/mlとなるように生理食塩水に懸濁し、アジュバント(TiterMax Gold)存在下又は非存在下、マウス背部皮下に免疫した。
アジュバント(-)では、シルク破砕物溶液:生理食塩水=50:50、
アジュバント(+)では、シルク破砕物溶液:TiterMax Gold=50:50になるように混合し、1回あたり6.25mgをマウス背部皮下へ接種した。
マウスはICRマウス、6週齢のメス2匹ずつ使用した。初回免疫から1週間後、2週間後に追加免疫を行い、最終免疫の2日後にイソフルラン吸入麻酔下で全採血を行った。
【0048】
1-3. FibL-OVA発現シルク破砕物を皮下投与したマウス血清を用いたELISA
96ウェルアッセイプレートに非組換えカイコw1-pndの未精練繭溶解液、セリシンホープ(セリシンのみからなる)の溶解液又はOVA溶液(それぞれ0.25mg/ml)を各ウェルに100μlずつ分注し、4℃で一晩コーティングした。Assay Diluent (Biolegend)で各ウェルをブロッキングした(室温で60分静置)。PBS-T(0.05% Tween20含有PBS)で洗浄後、Assay Diluentで1/200希釈したマウス血清を反応させた(室温で90分)。洗浄後、HRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Dako)と反応させた(室温で60分)。洗浄後、ELISA POD基質TMB溶液(ナカライテスク)を添加した。発色させた後、2N HSOを添加して反応を止めて、吸光度(450nm)を測定した(Bio-Rad,iMark Microplate Reader)。
【0049】
2. salting-out法(塩析法)による抗原タンパク質含有シルクナノ粒子の作製
2-1. 抗原トリアデノウイルスファイバー1タンパク質の発現と精製
C末端にHisタグを付加させたトリアデノウイルスファイバー1(Fiber1)遺伝子をPCRで増幅し、バキュロウイルスベクターpAcYM1にクローニングした。この組換えトランスファーベクターとバキュロウイルスDNAを、Spodoptera frugiperda由来のSf21AE細胞に共導入し、Fiber1遺伝子を有する組換えバキュロウイルスを作製した。次いで、Sf21AE細胞に組換えバキュロウイルス感染させることで、細胞内にFiber1タンパク質を発現させた。回収したFiber1発現細胞はプロテアーゼインヒビターカクテルを添加したPBSに懸濁した後、超音波処理により破砕した。破砕液は11,000rpmで20分間遠心分離を行った後、上清をHisタグ精製用レジンに結合させた。結合タンパク質は、150mMイミダゾール含有50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて溶出させた。溶出したタンパク質はPBSで透析した。
【0050】
2-2. 繭水溶液の調製
非組換えカイコ(w1-pnd)産生繭を、70%エタノール、次いで0.1%SDS水溶液で洗浄した後、RO水で十分にリンスした。繭4gにつき、10mlの70%エタノール及び90mlの10M LiBr,100mM Tris-HCl(pH9.0)を加えて、室温において激しく60分間混合し、水溶液を調製した。得られたシルク水溶液は透析膜(エーディア UC24-32-100)に封入し、RO水 8Lに対して透析を行った。透析は半日ごとに外液を交換して計6回行った。最終的に透析外液の電気伝導率が0.8μSとなった。透析後のシルク水溶液を遠心チューブに回収し、20,000rpm、25℃、30分遠心(Himac RC-20)して固形物を除去し、シルク水溶液とした。濃度は11.4mg/mlであった。
【0051】
2-3. シルクナノ粒子の調製(1)
以下3種類のシルクナノ粒子を作製した。
(1)シルクのみ:(繭溶解液 8mg/ml)
(2)シルク+10% OVA:(繭溶解液 8mg/ml + OVA溶液 0.8mg/ml)
(3)シルク+1% Fiber1:(繭溶解液 8mg/ml + Fiber1溶液 0.08mg/ml)
なお、OVAは富士フィルム和光 012-09885を使用した。
【0052】
繭水溶液と抗原タンパク質を上記の割合で混合し、室温で3分間静置して、シルクナノ粒子用原液を調製した。50mlの遠心チューブに1.25M KHPOを40ml入れ、これに各種ナノ粒子用原液8mlを加えて、1分間静置した。その後ゆっくりと転倒混和することで混合したのち、4℃で5日間静置してナノ粒子化を行った。ナノ粒子用原液1種類に対し、14本ずつ調製した。静置後、混合液を500mlの遠心ボトルに集め、遠心(Himac RC-20,5,000rpm,30分、25℃)して上清を除いた後、200mlの超純水(milliQ水)を加えて遠心し、この洗浄操作を2回繰り返した。得られた沈殿物を、少量の超純水に懸濁して50mlチューブに回収し、超純水で50mlにメスアップした後、遠心(TOMY MX-307;5,000rpm,室温、10分間)して上清を除いた後、15mlの超純水を加えて懸濁し、超音波破砕(BRANSON SONIFIRE)してシルクナノ粒子とした。さらに、シルクナノ粒子の一部をとって、9倍量の10M LiBr,100mM Tris-HCl(pH9.0)を加えて溶解して280nmの吸光度を測定し、フィブロインタンパク質から求めた検量線をもとにタンパク質濃度を測定した。
【0053】
2-4. 走査電子顕微鏡(SEM)によるシルクナノ粒子の観察(1)
(2-3)にて得られたシルクナノ粒子をRO水で10倍希釈した後、シリコンウエハ上に1μl滴下して観察用試料とした。観察は卓上顕微鏡(HITACHI TM2000Plus)を用いて、5kV,2500倍の条件で行った。
【0054】
2-5. シルクナノ粒子に抗原タンパク質が取り込まれていることの確認
(2-3)にて作製したOVA含有シルクナノ粒子又はFiber1含有シルクナノ粒子に、10M LiBr,100mM Tris-HCl(pH9.0)を加えて溶解し、それぞれ2mg/ml(in 2M LiBr,20mM Tri-HCl(pH9.0))シルク水溶液に濃度調製した。OVA含有シルクナノ粒子に関してはSDS-PAGEした後、PVDFメンブレンに転写し、抗OVA抗体(abcam)と反応後(室温、60分)、アルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ抗体(Dako)と反応させた(室温、60分)。BCIP-NBT溶液(ナカライテスク)を添加して呈色反応させた。Fiber1含有シルクナノ粒子に関してはSDS-PAGEした後、PVDFメンブレンに転写し、抗Fiber1ニワトリ抗血清と反応後(室温、60分)、ビオチン標識抗トリ抗体(merckmillipore)と反応させ(室温、60分)、さらにアビジン標識アルカリフォスファターゼ(Bio-Rad)と反応させた(室温、60分)。BCIP-NBT溶液(ナカライテスク)を添加して呈色反応させた。
【0055】
2-6. シルクナノ粒子の調製(2)
また、上記1.25M KHPOの代わりに、1.25Mに濃度調製した各種塩析用溶媒を用い、より小スケールでのシルクナノ粒子の調製を試みた。具体的には、2mlのチューブにあらかじめ1.25Mに濃度調製した各種塩析用溶媒(クエン酸三ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、酢酸カリウム、酒石酸ナトリウム又はクエン酸三アンモニウム)を1.5mlずつ入れておき、これに上記ナノ粒子用原液0.3mlを重層し、30分静置した。その後ゆっくりと転倒混和することで混合し、4℃で一晩静置してナノ粒子化を行った。静置後、遠心(TOMY MX-307,5,000rpm,15℃,20分)して上清を除いた後、沈殿物に1.5mlのRO水を加えて転倒混和し、遠心(TOMY MX-307,15,000rpm,15℃,20分)して上清を除いた後、沈殿物に250μlのRO水を加えて、超音波破砕(BRANSON SONIFIRE)してシルクナノ粒子溶液とした。
【0056】
2-7. SEMによるシルクナノ粒子の観察(2)
(2-6)にて得られたシルクナノ粒子をシリコンウエハ上に1μl滴下して乾燥し、観察用試料とした。観察は卓上顕微鏡(HITACHI TM4000Plus)を用いて、5kV,2500倍の条件で行った。
【0057】
2-8. シルクナノ粒子に抗原タンパク質が取り込まれていることの確認(2)
(2-6)にて作製したシルクナノ粒子溶液の150μlをとって、遠心(15,000rpm,15℃,10分)して、上清140μlを捨て(10μl残す)、10M LiBr,100mM Tris-HCl(pH9.0)40μlを加え、完全に溶解した。A280を測定してタンパク質濃度を算出し、1.5mg/ml in 2M LiBr,20mM Tris-HCl(pH9.0)に調製した。
【0058】
等量の2XSDSサンプルバッファーを加えてボイルし、各ウェルに3μgとなるようにサンプルをのせた。SDS-PAGEした後、PVDFメンブレンに転写し、抗OVA抗体(Abcam)と反応後(室温、60分)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギ抗体(Dako)と反応させた(室温、60分)。化学発光分析試薬 Chemi-Lumi One L(ナカライテスク)を添加して化学発光させ、Hyperfilm ECL(Cytiva)を用いて現像した。
【0059】
3.マウスへの抗原含有シルクナノ粒子皮下投与試験
3-1. OVAを含有するシルクナノ粒子(35mg/ml)を、アジュバント(TiterMax Gold)存在下又は非存在下でマウス背部皮下に免疫した。
アジュバント(-)では、シルクナノ粒子125μlに等量の生理食塩水を混合した。
アジュバント(+)では、シルクナノ粒子125μlに等量のTiterMax Goldを混合した。
一回につき合計250μlの混合液又はネガティブコントロールとして生理食塩水を皮下接種した。マウスはICRマウス、6週齢のメスをそれぞれの対照区で2匹ずつ使用した。初回免疫から1週間後、2週間後に追加免疫を行い、最終免疫の2日後にイソフルラン吸入麻酔下で全採血を行った。
【0060】
3-2. OVA含有シルクナノ粒子を皮下投与したマウス血清を用いたELISA
96ウェルアッセイプレートに非組換えカイコw1-pndの未精練繭溶解液、セリシンホープ溶解液(それぞれ0.25mg/ml)又はOVA溶液(2.5mg/ml)を各ウェルに100μlずつ分注し、4℃で一晩コーティングした。Assay Diluent(Biolegend)で各ウェルをブロッキングした(室温で60分静置)。PBST(0.05% Tween20含有PBS)で洗浄後、Assay Diluentで1/200希釈したマウス血清を反応させた(室温で90分)。洗浄後、HRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Dako)と反応させた(室温60分)。洗浄後、ELISA POD基質TMB溶液(ナカライテスク)を添加した。発色させた後、2N HSOを添加して反応を止めて、吸光度(450nm)を測定した(Bio-Rad, iMark Microplate Reader)。
【0061】
4.ニワトリへの抗原含有シルクナノ粒子の皮下投与実験
4-1. ニワトリへの皮下投与試験
2週齢のニワトリを以下の4群に分けた。
1)Fiber1含有シルクナノ粒子投与群(Silk+Fiber1)、
2)Fiber1投与群(Fiber1)、
3)シルクナノ粒子投与群(Silk)、
4)不完全フロイントアジュバント混合Fiber1(Fiber1+アジュバント)
なお、1)及び3)に関しては、10mg相当量のナノ粒子を100μl投与した。2)及び4)に関しては、Fiber1が100μg相当となるように皮下接種し、14日後に同内容で追加接種した。初回接種の1週間後から5週間後までニワトリの頚静脈から採取し、遠心分離により血清を回収した。
【0062】
4-2. 血清中の抗体価測定
96ウェルアッセイプレートにトリアデノウイルス(KR5株)Fiber1を2ng/100μlとなるように各ウェルに分注し、4℃で一晩コーティングした。ブロッキング後、IgY測定に関しては1/200希釈した血清試料を、IgA測定に関しては1/40希釈した血清試料を各ウェルに添加し、室温で60分反応させた。PBS-Tで洗浄後、HRP標識抗ニワトリ抗体(Bio-Rad)と反応させた(室温、60分)。TMB溶液を添加し、反応を視覚化した。抗体のレベルは、サンプル対陽性(S/P)比を下記式にて算出し、評価した。
S/P比=((Fiber1抗原ウェルのサンプルのOD値-コントロール抗原ウェルのサンプルOD値)/(Fiber1抗原ウェルの陽性コントロール血清のOD値-コントロール抗原ウェルの陽性コントロール血清のOD値))。
特異的IgY又はIgA抗体を検出するための陽性対照血清は、KR5ウイルス株を免疫したニワトリ血清を使用した。
【0063】
以上の材料及び方法にて得られた結果を、以下に示す。
【0064】
(結果)
(比較例1) 遺伝子組換えカイコ産生繭を免疫原とした皮下投与試験
フィブロインL鎖(FibL)と卵白アルブミン(OVA)との融合タンパク質(FibL-OVA)を発現する遺伝子組換えカイコを作出した。当該融合タンパク質は、FibLのC末端にOVAをつなげたものであり、FibLプロモーターのもと発現する。前記遺伝子組換えカイコが産生した繭糸を、9M 臭化リチウムで完全に溶解し、その繭糸溶解液を、SDS-PAGE、次いで、CBB染色と抗FibL抗体によるウェスタンブロット(1次抗体:抗FibL抗体、2次抗体:アルカリフォスファターゼ標識抗ウサギポリクローナル抗体)とに供した。また、コントロールとして非組換えカイコが産生した繭糸を用いた。その結果、遺伝子組換えカイコが産生した繭糸においてFibL-OVA融合タンパク質の発現が確認された(図1)。
【0065】
そして、アジュバントを添加せずにFibL-OVA発現シルク破砕物を、マウスに皮下投与した。その結果、当該マウスの血清において、OVAに対する抗体産生の有意な誘導は認められなかった。
【0066】
アジュバントを併用してFibL-OVA発現シルク破砕物を皮下投与したマウスにおいては、OVAに対する抗体産生が若干誘導されていることを確認できたが、非常に低い数値を示していた。
【0067】
一方、未精練繭やセリシンホープの溶解液に対しては、アジュバントの併用の有無にかかわらず強力に抗体産生が誘導されていた(図2)。
【0068】
以上のことから、特開2005-97229号公報に記載のような、抗原タンパク質を発現させた遺伝子組換えカイコ産生繭破砕物を皮下投与する方法では、シルク成分(特にセリシン)に対する抗体産生が優位に誘導され、目的抗原に対する抗体産生を効率よく誘導することは困難であることが示唆された。
【0069】
(実施例1) OVA含有シルクナノ粒子を免疫原としたマウス皮下投与試験
繭溶解液にシルクタンパク質量の10%量となるOVAを加えた混合液を1.25M KHPOに混合してシルクナノ粒子を作製した(図3A)。得られたシルクナノ粒子を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、粒径が数十~数百nmの粒子であることが確認できた(図3B)。作製したシルクナノ粒子にOVAが取り込まれていることを確認するために、作製したシルクナノ粒子を再度臭化リチウムで溶解し、その溶解液をSDS-PAGEした後、抗OVA抗体を用いてウェスタンブロットを行い、OVAがシルクナノ粒子中に確実に取り込まれていることを確認した(図4)。
【0070】
そして、OVA含有シルクナノ粒子を皮下投与したマウスの血清を用いて、シルク成分やOVAに対する抗体産生が誘導されるかどうかを評価した。その結果、OVA含有シルクナノ粒子を皮下投与したマウスではアジュバントの併用効果は特になく、それぞれほぼ同程度にOVAに対する抗体の産生が誘導された。またシルク成分、特にセリシンに対する抗体産生も誘導された(図5)。
【0071】
(実施例2) トリアデノウイルスFiber1含有シルクナノ粒子を免疫原としたニワトリ皮下投与試験
繭溶解液にシルクタンパク質量が1%量となるFiber1を加えた混合液、又は、繭溶解液のみを、1.25M KHPOに混合してシルクナノ粒子を作製した。得られたシルクナノ粒子を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、粒径が数十~数百nmの粒子であることが確認できた(図6)。作製したシルクナノ粒子にFiber1が取り込まれていることを確認するために、作製したシルクナノ粒子を再度臭化リチウムで溶解し、その溶解液をSDS-PAGEした後、抗Fiber1ニワトリ血清を用いてウェスタンブロットを行い、Fiber1がシルクナノ粒子中に確実に取り込まれていることを確認した(図7)。
【0072】
そして、アジュバントとの併用なしにFiber1含有シルクナノ粒子を皮下投与したニワトリにおいて、初回免疫から1~2週間の早い段階でFiber1に対するIgY抗体の産生が誘導されていた(図8)。また初回免疫1週間後の血清中において、Fiber1含有シルクナノ粒子を皮下投与したニワトリでは、Fiber1と不完全フロイントアジュバントの混合液を皮下用としたニワトリとほぼ同程度にFiber1に対するIgA抗体の産生を誘導していた(図9)。
【0073】
よって、カイコの繭糸を精練せずに溶解したシルク溶液(フィブロイン及びセリシンを含む溶液)と抗原タンパク質との混合液から、作製したシルクナノ粒子を、皮下投与することによって、抗原特異的な抗体産生を誘導できることが明らかになった。
【0074】
(実施例3) 各種塩析用溶媒を用いたOVA含有シルクナノ粒子形成
上記(2-6)に示すとおり、繭溶解液にシルクタンパク質量の10%量となるOVAを加えた混合液を、1.25Mに調製した各種塩析用溶媒に混合し、シルクナノ粒子を作製した。得られたシルクナノ粒子をSEMで観察したところ、繭溶解液のみ(繭-OVA)又は繭溶解液に10%OVAを加えたもの(繭+OVA)を原料とした場合、直径の平均が0.3μm以下から0.5μm程度の粒子形成が確認された(図10)。
【0075】
また、このようにして作製したシルクナノ粒子にOVAが取り込まれていることを確認するために、作製したシルクナノ粒子を再度臭化リチウムで溶解し、その溶解液をSDS-PAGEした後、抗OVA抗体を用いてウェスタンブロットを行った。その結果、異なる塩析用溶媒を用いて作製したそれぞれのシルクナノ粒子中にOVAが確実に取り込まれていることを確認した(図11)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、抗原、フィブロイン及びセリシンを含むナノ粒子を、皮下投与することによって、抗原特異的な抗体産生を誘導することが可能となる。したがって、本発明は、皮下投与型ワクチン用組成物として有用である。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11