(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066683
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光電変換素子用材料、及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240509BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240509BHJP
H10K 30/88 20230101ALI20240509BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176253
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】上野 友徳
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151BA18
5F151CB13
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
5F251AA11
5F251BA18
5F251CB13
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
(57)【要約】
【課題】長時間の光照射及び高温高湿下において光電変換効率が低下しにくい光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子が有する導電層の表面を化学的に処理する用途で使用され、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基を含むカルコゲン化水素化合物を含有する、光電変換素子用材料。前記導電層が有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層であることが好ましい。前記硫黄原子を含む環状構造を有する基が少なくとも一つの窒素原子を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物を含有する、光電変換素子用材料。
【化1】
[式(I)中、Aは置換基を有していてもよい、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基であり、Vは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基、Eは酸素、硫黄及びセレンから選択される1種の原子、Hは水素原子である。]
【請求項2】
前記式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物が、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層の表面を化学的に処理する用途で使用される、請求項1に記載の光電変換素子用材料。
【請求項3】
前記式(I)における、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基が、少なくとも一つの窒素原子を含む、請求項1に記載の光電変換素子用材料。
【請求項4】
前記式(I)における環状構造が、芳香族性を有しない環状構造である、請求項1に記載の光電変換素子用材料。
【請求項5】
前記式(I)におけるEが、硫黄原子である、請求項1に記載の光電変換素子用材料。
【請求項6】
前記式(I)における、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基が、チアゾリン環を有する基である、請求項1に記載の光電変換素子用材料。
【請求項7】
さらに溶媒を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電変換素子用材料。
【請求項8】
上部電極、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層、及び下部電極を、この順に備える光電変換素子であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の前記式(I)で表される化合物が、前記活性層に接触する、光電変換素子。
【請求項9】
前記活性層に接触する化合物が、パッシベーション能を有する、請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
上部電極、バッファ層、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層、中間層、バッファ層、及び下部電極を、この順に備える光電変換素子であって、
前記中間層が請求項1~6のいずれか1項に記載の前記式(I)で表される化合物を含有する、光電変換素子。
【請求項11】
前記バッファ層が正孔輸送層である、請求項10に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化合物を含む光電変換素子用材料、及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、一対の電極の間に、活性層とバッファ層等が配置されたものが知られている。この光電変換素子の光電変換効率向上を目的として、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を活性層として用いることが検討されており、特に、ペロブスカイト構造を有する化合物が注目されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を用いた光電変換素子は、身近な光エネルギーを利用したクリーンな発電方法としてエネルギーハーベスティング等の観点から、実用化が期待されている。一方で高温環境下や高湿環境下、長時間の光照射により光電変換効率が低下することが問題視されている。この光電変換効率の低下の一因として、活性層中の欠陥や活性層とバッファ層との接合面に生じる欠陥が一因となっている。
【0005】
本発明は、長時間の光照射及び高温高湿環境において光電変換効率が低下しにくい光電変換素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討を行った。この結果、活性層と電極との間に特定のカルコゲン化水素化合物を含有するパッシベーション層を設けることにより、上述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1] 式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物を含有する、光電変換素子用材料。
【0008】
【化1】
[式(I)中、Aは置換基を有していてもよい、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基であり、Vは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基、Eは酸素、硫黄及びセレンから選択される1種の原子、Hは水素原子である。]
【0009】
[2] 前記式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物が、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層の表面を化学的に処理する用途で使用される、[1]に記載の光電変換素子用材料。
[3] 前記式(I)における、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基が、少なくとも一つの窒素原子を含む、[1]又は[2]に記載の光電変換素子用材料。
[4] 前記式(I)における環状構造が、芳香族性を有しない環状構造である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の光電変換素子用材料。
[5] 前記式(I)におけるEが、硫黄原子である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の光電変換素子用材料。
[6] 前記式(I)における、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基が、チアゾリン環を有する基である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の光電変換素子用材料。
[7] さらに溶媒を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の光電変換素子用材料。
[8] 上部電極、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層、及び下部電極を、この順に備える光電変換素子であって、[1]~[6]のいずれか1項に記載の前記式(I)で表される化合物が、前記活性層に接触する、光電変換素子。
[9] 前記活性層に接触する化合物が、パッシベーション能を有する、[8]に記載の光電変換素子。
[10] 上部電極、バッファ層、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層、中間層、バッファ層、及び下部電極を、この順に備える光電変換素子であって、前記中間層が[1]~[6]のいずれか1項に記載の前記式(I)で表される化合物を含有する、光電変換素子。
[11] 前記バッファ層が正孔輸送層である、[10]に記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長時間の光照射及び高温高湿環境において光電変換効率が低下しにくい光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態としての光電変換素子の模式的断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態としての光電変換素子モジュールの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0013】
〔光電変換素子用材料〕
本発明の一態様は、下記式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物カルコゲン化水素化合物を含有する、光電変換素子用材料である。光電変換素子用材料の中でも、パッシベーション材料であることが好ましい。
ここでパッシベーションとは、接触する層に作用することにより、光電変換素子の耐光性及び/又は耐湿熱性を向上させる技術のことである。
【0014】
パッシベーション用材料は、光電変換素子が有する層の表面を化学的に処理する用途で使用される。ここで、層としては、電子又は正孔を伝導したり、光電変換作用により電子又は正孔の状態変化を生じたりする層が挙げられる。本明細書では、これらの層をまとめて便宜上「導電層」と表記する。
パッシベーション用材料は、例えば、光電変換素子が有する第一導電層と第二導電層の界面、すなわち第一導電層の第二導電層側の表面及び第二導電層の第一導電層側の表面のうち少なくとも一方、を化学的に修飾する用途で使用される。化学的に修飾された前記表面には、前記カルコゲン化水素化合物が接触しており、接触した前記カルコゲン化水素化合物は前記表面と化学反応を起こしていてもよいし、起こしていなくてもよい。前記導電層としては、後述する有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層であることが好ましい。また、第一導電層及び第二導電層としては、後述するように公知の光電変換素子を構成する導電性積層体から任意に選択される導電層が挙げられる。各導電層は半導体であってもよいし、金属や黒鉛等の導体であってもよい。
【0015】
パッシベーション用材料は、前記カルコゲン化水素化合物の他に溶媒を含むことにより、表面処理用塗料となり得る。表面処理用塗料は、第一導電層の一方の表面に第二導電層を積層して導電性積層体を形成する際に、前記第二導電層を積層する前に前記第一導電層の前記一方の表面に塗布することにより、前記表面を化学的に修飾する用途で使用される。
化学的に修飾された前記表面には、前記カルコゲン化水素化合物が接触しており、接触した前記カルコゲン化水素化合物は前記表面と化学反応を起こしていてもよいし、起こしていなくてもよい。
【0016】
前記表面に接触した前記カルコゲン化水素化合物の集合は、前記表面の少なくとも一部を覆う中間層(パッシベーション層)を形成していてもよい。この観点から、前記表面処理用塗料は、中間層形成用塗料と称してもよい。この場合、中間層形成用塗料は、第一導電層の一方の側に第二導電層を積層して導電性積層体を形成する際に、前記第一導電層と前記第二導電層の間に介在し、前記第一導電層と前記第二導電層の界面を修飾する中間層を形成する用途で使用される。
【0017】
前記第一導電層及び前記第二導電層としては、例えば、一対の電極の間に有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層が設けられた公知の光電変換素子から選択される任意の層が挙げられる。具体的には、例えば、次の導電性積層体が挙げられる。
1)第一導電層が一対の電極のうち一方の電極であり、第二導電層が活性層である導電性積層体。
2)第一導電層が電子輸送層であり、第二導電層が活性層である導電性積層体。
3)第一導電層が正孔輸送層であり、第二導電層が活性層である導電性積層体。
4)第一導電層が活性層であり、第二導電層が電子輸送層である導電性積層体。
5)第一導電層が活性層であり、第二導電層が正孔輸送層である導電性積層体。
これらの中でも、活性層の界面を修飾する中間層を形成する用途で使用すること、すなわち、第一導電層が活性層である導電性積層体が好ましく、第一導電層が活性層であり、第二導電層が正孔輸送層である導電性積層体がより好ましい。
【0018】
≪式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物≫
本態様のパッシベーション用材料に含まれる式(I)で表されるカルコゲン化水素化合物は、第一導電層及び第二導電層の界面のうち少なくとも一方の層の表面を化学的に修飾する有効成分である。以下、化学的修飾によりカルコゲン化水素化合物を含む中間層が前記表面に形成されている場合を説明するが、必ずしも中間層が明確な層状に形成されていなくとも、カルコゲン化水素化合物が表面を化学的に修飾していれば、中間層が前記表面に形成されているのと同様の効果が得られる。
【0019】
【0020】
式(I)中、Aは、置換基を有していてもよい、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基であり、Vは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基、Eは酸素、硫黄及びセレンから選択される1種の原子、Hは水素原子である。以下、式(I)で表される化合物を「化合物(I)」ということがある。
【0021】
前記硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限されない。前記環状構造は、炭素数4~20の環状構造であることが好ましく、炭素数4~8の環状構造であることがより好ましく、炭素数4~6の環状構造であることが更に好ましく、炭素数5~6の環状構造であることが特に好ましい。前記環状構造は芳香族性を有していてもよいが、電子を局在化させ欠陥への配位力を高める観点から、芳香族性を有しないことが好ましい。
【0022】
前記硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)は、配位可能な非共有電子対を増加させる観点から、その複素環を構成する原子として、さらに窒素原子を一つ以上含むことがより好ましい。分極構造を誘起し、カルコゲン化水素部位の欠陥に対する配位力を高めることが可能となることから、環状構造中の窒素原子および硫黄原子はカルコゲン化水素基と近い位置にあることが好ましく、不飽和結合を有する環状構造がより好ましい。また、近い位置にあることで、複合的な配位安定化も期待される。この観点から、化合物(I)において、Eと前記環状構造を構成する硫黄原子との間に介在する炭素原子数は1~3が好ましく、1~2がより好ましく、1が最も好ましい。また、化合物(I)において、Eと前記環状構造を構成する窒素原子との間に介在する炭素原子は1~3が好ましく、1~2がより好ましく、1が最も好ましい。ここで、前記窒素原子とEの間に介在する炭素原子との間で不飽和結合が形成されていることが好ましい。
【0023】
前記硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)として、例えば次に例示する複素環式化合物から任意の水素原子を除いた1価の基が挙げられる。すなわち、安定性の観点から、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ジオキサゾール、ジチアゾール、チアテトラゾール、チアン、チオピラン、チオピリリニウム、チオモルホリン、チアジン、ジチアジン、ジチイン、トリチアンテトラジンからなる群より選択される少なくとも1種の炭素数5~6の複素環式化合物が好ましい。また、分極による配位力向上の観点から、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、チアジアゾール、ジチアゾール、チオモルホリン、チアジン、ジチアジン、ジチインなどの複数のヘテロ原子を含む分子がより好ましく、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、チオモルホリン、チアジンからなる群より選択される少なくとも1種炭素数5~6の複素環式化合物がさらに好ましい。また、電子の局在化による配位性向上の観点化から、チアゾリジン又はチアゾリンが最も好ましい。前記複素環式化合物は、縮合環であってもよい。
【0024】
前記硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)とカルコゲン化水素(E-H)との結合部位である連結基(V)は、単結合又は2価の脂肪族炭化水素基である。前述と同様に、硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)及びカルコゲン化水素(E-H)が近くに位置し、配位力を高める観点から、連結基(V)は、単結合又は炭素数は1~5の2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、単結合又は炭素数は1~3の2価の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、単結合又は炭素数は1~2の2価の脂肪族炭化水素基であることがさらに好ましく、単結合であることが特に好ましい。前記脂肪族炭化水素基は、カルコゲン化水素の欠陥に対する配位性を著しく損なわない限り、置換基を有していてもよく、分岐していてもよく、不飽和であってもよい。
【0025】
前記硫黄原子を含む環状構造を有する有機基(A)及び連結基(V)は、その任意の水素原子を置換する置換基を有していてもよい。前記置換基としては、本発明の効果を著しく損ねなければ限定されず、例えば、ビニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、スルホン酸基、チエニル基、ピリジニル基、イソチオシアネート基、アミド基、ニトリル基、カルボキシ基、シアノ基、チオール基、イミノ基などが挙げられる。これらのうち、カチオン性欠陥を補修する観点では、前記置換基は電子供与性基であることが好ましい。また一方で、アニオン性欠陥を補修する観点では、前記置換基は電子吸引性基であることが好ましい。活性層(ペロブスカイト層)の欠陥補修であるパッシベーションに特に有効な観点で、アミド基、カルボキシル基、アミノ基が好ましく、アミド基がより好ましい。
化合物(I)の構造は、1H-NMRにより確認できる。ただし、置換基によっては、1H-NMRのみでは困難な場合がある。そのような場合は、13C-NMRや質量分析(MS)の情報を合わせることで確認できる。
【0026】
(分子量)
化合物(I)の分子量は、電荷輸送を著しく妨げず、光電変換素子の耐光性および湿熱性を向上させやすい観点で、50~500であることが好ましく、75~400であることがより好ましく、100~300であることが更に好ましい。
【0027】
(溶媒)
本発明の一態様のパッシベーション用材料は、化合物(I)を含有し、さらに溶媒を含む組成物であることが好ましい。
前記溶媒は、化合物(I)の溶解性の観点で、アルコール又はエステルが好ましく、アルコールがより好ましく、1価アルコールがより好ましく、メタノール、エタノール、又はイソプロピルアルコールがより好ましく、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。
【0028】
〔光電変換素子〕
本発明のある一態様は、光電変換素子であり得る。本態様の光電変換素子は、上部電極、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む活性層、及び下部電極を、この順に備える光電変換素子であって、化合物(I)が前記活性層に接触する光電変換素子である。化合物(I)は当該接触によって、パッシベーション能を有することが好ましい。
【0029】
光電変換素子の構成としては、例えば、一対の電極の間に有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層が設けられたものが挙げられる。
【0030】
本態様の光電変換素子にあっては、化合物(I)が活性層の少なくとも一方の表面を修飾しているので、前記表面における欠陥が補修され、光電変換素子の耐光性ならびに耐湿熱性を向上させることができる。例えば、活性層と下部電極との間に化合物(I)を含有する中間層を設けることにより、光電変換素子の耐光性ならびに耐湿熱性を向上させることができる。
【0031】
以下、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の一実施形態を表す断面図である。
図1は、一般的な太陽電池に用いられる光電変換素子の一例であり、本発明の光電変換素子は、
図1に示す構造に限られるわけではない。
【0032】
図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、活性層103、中間層104及び上部電極106がこの順に配置されている。光電変換素子100は、さらに下部電極101と活性層103との間に存在するバッファ層102、上部電極106と中間層104との間に存在するバッファ層105を有していてもよい。また、基材107を有していてもよく、絶縁体層、仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
【0033】
[電極]
図1に示す光電変換素子100は、下部電極101及び上部電極106を有している。電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本実施形態に係る光電変換素子100は、一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換素子100が基材を有する又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と呼び、基材からより遠い電極を上部電極と呼ぶ場合がある。また、透明電極を下部電極と呼び、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と呼ぶ場合もある。
【0034】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。下部電極101がカソードであり、上部電極106がアノードである順型構成であってもよいし、下部電極101がアノードであり、上部電極106がカソードである逆型構成であってもよい。
【0035】
一対の電極は、何れか一方が透光性であればよく、両方が透光性であってもよい。透光性があるとは、通常、可視光(波長350~700nm)の透過率が40%以上であることをいう。電極の可視光の透過率は、より多くの光が透明電極を透過して活性層に到達することから高いことが好ましく、70%以上であることが特に好ましい。可視光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定することができる。
下部電極101及び上部電極106、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、公知の技術により製造することができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0036】
[活性層]
光電変換素子100が有する活性層103は、一対の電極間に位置する。活性層103は、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有し、光電変換を行う層である。光電変換素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極106から取り出される。
【0037】
有機無機ハイブリッド型半導体化合物とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた化合物であって、半導体特性を示す化合物のことを指す。
ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。
【0038】
有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられている化合物を用いることができる。例えば、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMX3で表されるAMX3型の化合物、又は一般式A2MX4で表されるA2MX4型の化合物などが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを表す。
【0039】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上述のGalassoの著書に記載されているカチオンを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族~第16族元素を含むカチオンなどが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基に特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害が起こり難いことから、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性が高いことから、フッ素原子で置換されたアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして、2種類以上のカチオンを併用してもよい。
【0040】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0041】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンが好ましい。具体例としては、周期表第14族元素のカチオンなどが挙げられる。より具体的には、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして、2種類以上のカチオンを併用してもよい。なお、光電変換素子の安定性が高い点から、鉛カチオン、又は鉛カチオンを含む2種類以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0042】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。
Xとしては、ハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせであることが好ましい。Xの種類や組み合わせの選択により、活性層のバンドギャップを後述する好ましい範囲に調整することができる。活性層のバンドギャップが適度に狭くなりやすいことから、Xは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが好ましく、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等がより好ましい。
【0043】
有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物は、その光吸収特性や電荷移動度が光電変換に好適であることから、ハライド系有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物が好ましい。
【0044】
ハライド系有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI3、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、及びCH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clx、並びに、上述の化合物においてCH3NH3の代わりにCFH2NH3、CF2HNH3、又はCF3NH3を用いた化合物等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0045】
活性層103は、2種類以上の半導体化合物を含有していてもよく、2種類以上の有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、M及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上の有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また、活性層103は、異なる材料や成分を含む複数の層で形成される積層構造であってもよい。
【0046】
活性層103には、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物以外の成分(以下、「その他の成分」と言う場合がある。)が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物の添加剤等が挙げられる。また、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物以外の半導体化合物を含んでいてもよい。
【0047】
活性層103に含まれる有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の量は、半導体特性に優れることから、活性層103の総質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。活性層103に含まれる有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の量の上限に特に制限はない。
【0048】
活性層103のイオン化ポテンシャルの範囲は特段限定されない。但し、室内等の屋内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯に対する、発電効率が高くなりやすい点では、-5.5eV以上であることが好ましく、-5.2eV以上であることがより好ましく、-5.0eV以上であることがさらに好ましく、また、一方で、-4.0eV以下であることが好ましく、-4.6eV以下であることがより好ましく、-4.4eV以下であることがさらに好ましい。
【0049】
ここで、活性層103のイオン化ポテンシャルは、サンプルに対して光を照射し、照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)を計測することで、算出することができる。測定機器は任意のものを用いることができるが、例えば、理研計器(株)のAC-2、AC-3等を用いることができる。
【0050】
活性層103のバンドギャップの範囲は特段限定されない。但し、室内等の屋内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯に対する、発電効率が高くなりやすく、特に屋内光源からのエネルギーが半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離するために十分で、且つ過剰とならず、発電効率が高くなりやすいことから、2.6eV以上であることが好ましく、2.4eV以上であることがより好ましく、2.2eV以上であることがさらに好ましく、また、一方で、1.2eV以下であることが好ましく、1.4eV以下であることがより好ましく、1.6eV以下であることがさらに好ましい。
【0051】
ここで、バンドギャップは、半導体化合物の吸収端波長と吸光度とから算出することができる。具体的には、透明ガラス基板等の適当な試料上に半導体化合物を成膜し、その透過スペクトルを測定し、横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(ahν)に変換し、この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出することができる。透過スペクトルは、例えば、日立ハイテク製U-4100等の分光光度計を使用して測定することができる。
【0052】
活性層103のイオン化ポテンシャルの調整は、例えば、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物におけるカチオン成分の種類や量により行うことができる。
活性層103のバンドギャップの調整は、例えば、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物におけるハロゲン元素の種類や量により行うことができる。
【0053】
活性層103の厚みに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点では、活性層103の厚みは、厚いことが好ましい。具体的には、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、120nm以上であることが特に好ましい。また、一方で、光電変換素子の直列抵抗が下がり、電荷の取出し効率が高くなりやすい点では、活性層103の厚みは、薄いことが好ましい。具体的には、1500nm以下であることが好ましく、1200nm以下であることがより好ましく、800nm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法により形成することができる。具体的には、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡便に活性層103を形成しやすい点では、塗布法が好ましい。具体的には、例えば、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物又はその前駆体と溶媒を含有する塗布液を、活性層の下層となる層(例えば、バッファ層102)に塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法などが挙げられる。
また、このような塗布液を塗布した後に、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物に対する貧溶媒を塗布することにより、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を析出させることもできる。
【0055】
有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の前駆体とは、加熱等により、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物に変換可能な材料のことを指す。具体的には、例えば、一般式AXで表される化合物と、一般式MX2で表される化合物と、溶媒とを混合して加熱攪拌することにより、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の前駆体を含む塗布液を作製することができる。そして、この塗布液を塗布し、必要に応じて貧溶媒を滴下、加熱乾燥させることにより、一般式AMX3で表される有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層103を作製することができる。また、一般式AXで表される化合物と溶媒を含む塗布液と、一般式MX2で表される化合物と溶媒を含む塗布液とを調製し、これらの2種類の塗布液を順次塗布することにより、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物AMX3の前駆体を含む層を積層し、これを加熱乾燥させることにより、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物AMX3を析出させ、活性層103を形成することもできる。
【0056】
活性層形成用塗布液の溶媒としては、有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体の前駆体及びその他の成分を用いる場合はそれも含め溶解できれば特に限定されない。具体的には、例えば、鉛化合物を含有する前駆体の塗布液には、溶解性と沸点の高さから、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の有機溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミド(DMF)がより好ましい。また、塗布液を順次塗布して活性層を形成する場合、ハロゲン化物等の前駆体の塗布液には、イソプロピルアルコール、エタノール等を用いることができる。これらの溶媒は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができる。具体的には、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法及びカーテンコート法等が挙げられる。
【0058】
[中間層]
中間層104は、化合物(I)の1種以上を含有することが好ましい。
【0059】
中間層104には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、化合物(I)以外の成分が含有されていてもよい。化合物(I)以外の成分としては、具体的には、KF、KCl、KBr、KI、CsF、CsCl、CsBr、CsI及び双性イオンなどが挙げられる。
【0060】
中間層に含有される化合物(I)の量は、本発明の光電変換素子の光電変換効率、耐光性、及び耐湿熱性を高める観点から多いことが好ましい。この観点から、中間層に含有される化合物(I)の量は、中間層の全質量に対して、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、80~100質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
中間層104の厚みは、活性層103からカソードへの電子輸送の障壁になり難い点では薄いことが好ましく、また一方で、均一な中間層104を形成しやすい点では、厚いことが好ましい。これらの観点から、中間層104の厚みは、0.5~100nmであることが好ましく、1~50nmであることがより好ましく、3~10nmであることがさらに好ましい。前記厚みは、触針段差計により測定することができる。
【0062】
中間層104の形成は、塗布法により行うことが好ましい。すなわち、本発明の光電変換素子の製造方法は、化合物(I)を含有する溶液を塗布することを含むことが好ましく、前記中間層及び前記活性層を接触させるように成膜することを含むことがより好ましい。
具体的には、化合物(I)の1種以上を含有する溶液を調製し、これを塗布することにより中間層を形成することが好ましい。化合物(I)の溶液に用いる溶媒としては、化合物(I)等の中間層を形成する成分の溶解性や塗布性に問題がなければ限定されない。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールなどが挙げられる。これらは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
中間層形成用溶液中における化合物(I)の濃度は活性層並びにバッファ層の欠陥補修の観点から、高いことが好ましい。また、一方で、均一膜を形成しやすい観点では低いことが好ましい。そこで、0.01mg/mL以上であることが好ましい。また、一方で、20mg/mL以下であることが好ましく、10mg/mL以下であることがより好ましく、5mg/mL以下であることがさらに好ましい。
【0064】
中間層形成用溶液の塗布は、均一な薄膜層を形成させやすいことから、スピンコート法により行うことが好ましく、その回転数は、2000~4000rpmとすることが好ましい。また、短時間で均一に乾燥させやすいことから、塗布後に加熱乾燥させることが好ましい。その際の加熱温度は、150℃以下とすることが好ましく、120℃以下、例えば70~120℃とすることがより好ましい。
【0065】
[バッファ層]
本発明の光電変換素子は、バッファ層を有していてもよい。バッファ層は、活性層と電極の間に備えられる層である。活性層/バッファ層/電極の積層構成に中間層を挿入する場合、活性層とバッファ層の界面に挿入し、活性層/中間層/バッファ層/電極の積層構成にすることが好ましい。
【0066】
図1においては、バッファ層102、105は、活性層103と一対の電極101、106の少なくとも一方との間に設けられている。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101又は上部電極106へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができ、正孔輸送層又は電子輸送層であることが好ましい。本発明の光電変換デバイスがバッファ層を有する場合、正孔輸送層を有することがより好ましい。
【0067】
バッファ層102、105の厚みは、特段制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。バッファ層の厚みは、下地層を欠陥なく覆い、半導体としての機能を充足しやすい点では厚いことが好ましく、具体的には、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。また、一方で、バッファ層による正孔や電子のキャリア輸送効率の観点から薄いことが好ましく、具体的には、1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。
【0068】
バッファ層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて、公知の形成方法から適切な方法を選び形成することができる。例えば、後述する有機半導体化合物、ドーパント及び溶媒を含有する塗布液を調製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0069】
<電子輸送層>
本発明の光電変換素子は、電子抽出の効率化点から、バッファ層として電子輸送層を有することが好ましい。
電子輸送層の態様は特段制限されず、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又はペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(BPHeN)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。電子輸送層は、安定した膜の形成と耐久性の観点から、無機化合物を含有することが好ましく、金属酸化物を含有することがより好ましく、酸化スズを含有することがさらに好ましい。
【0070】
<正孔輸送層>
正孔輸送層としてのバッファ層は、正孔輸送能を有すれば特段制限されないが、正孔輸送能を有する有機半導体化合物を含有することが好ましく、本発明の効果が得られる範囲で他の物質を含んでいてよい。N-i-P積層型光電変換素子の場合、正孔輸送層により輸送電荷量の制御が容易となる。
【0071】
(有機半導体化合物)
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを指す。なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温(25℃)におけるキャリア移動度が好ましくは1.0×10-6cm2/V・S以上であり、より好ましくは1.0×10-5cm2/V・S以上であり、さらに好ましくは5.0×10-5cm2/V・S以上であり、特に好ましくは1.0×10-4cm2/V・S以上である。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0072】
本明細書においては半導体化合物として有機半導体化合物が用いられるが、その種類は特に限定されず、例えば従来知られているものを用いることができる。有機半導体化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物が知られている。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、又はトリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、カルバゾール化合物等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又はトリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0073】
有機半導体化合物として好ましくはアリールアミン系化合物であり、より好ましくはトリアリールアミン系化合物である。アリールアミン系化合物とは、アリールアミン構造(アリール基と窒素原子との結合)を有する化合物のことであり、アリールアミン系ポリマーを含む。アリールアミン系ポリマーとは、繰り返し単位がアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリアリールアミン系化合物ともいう。また、トリアリールアミン系化合物とは、トリアリールアミン構造(3つのアリール基の同じ窒素原子への結合)を有する化合物のことであり、トリアリールアミン系ポリマーを含む。トリアリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がトリアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリトリアリールアミン系化合物ともいう。このようなアリールアミン系化合物又はトリアリールアミン系化合物は、ドーパントにより安定に酸化され、良好な半導体特性を示しうる点で好ましく、中でもトリアリールアミン系化合物がより好ましい。
【0074】
ここで、アリール基(又は芳香族基)は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを指し、単環のもの、縮合環のもの、及び単環又は縮合環が連結しているもの、を含む。芳香族基としては、特に限定されないが、炭素数30以下であることが好ましく、炭素数12以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、又はイミダゾリル基等が挙げられる。
【0075】
前記アリール基は、さらに置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。アリール基が有している置換基として好ましくは、アミノ基又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。ここで、アミノ基として好ましくは、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、又は炭素数12~30のジアリールアミノ基である。
【0076】
正孔輸送層は、複数の半導体化合物を含有しても構わない。半導体化合物としては、例えば、従来公知の半導体化合物を用いてもよく、前述の低分子化合物及び高分子化合物を用いてもよい。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、トリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、又はカルバゾール化合物等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又は前述の高分子の有機半導体化合物以外のアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0077】
(ドーパント)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上述の有機半導体化合物に対するドーパントを含有することが好ましい。ドーパントは、正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力を前記活性層に対して最適化するための物質である。
【0078】
ドーパントとして使用できる物質としては、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートなどのホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデンなどのモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物などが挙げられる。ドーパントは、正孔輸送層の成膜前又は成膜後で、少なくとも一つの有機半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機能する電子受容活性部位を産生する点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0079】
超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。また、電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、有機半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように、超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0080】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0081】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I+-Ar]Y-構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば有機半導体化合物に関して既に挙げたものでありうる。Y-は、任意のアニオンを表す。Y-としては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、Y-はフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0082】
ドーパントの好ましい例としては、下記式(II-D)で表されるものが挙げられる。式(II-D)において、Y-は、任意のアニオンを表し、具体例としては上述の通りである。
【0083】
[R11-I+-R12]Y- …(II-D)
式(II-D)において、R11及びR12は、各々独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の有機基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、有機基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、脂肪族複素環基としては、テトラヒドロフリル基等が挙げられる。
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。また、芳香族複素環基としては、チエニル基、ピリジル基等が挙げられる。
【0084】
なお、上述の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲニル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0085】
R11及びR12は、好ましくは、各々独立に、炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R11及びR12は、特に、パラ位にアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0086】
正孔輸送層中のドーパントの含有量は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0087】
正孔輸送層において、有機半導体化合物に対するドーパントの含有比率(ドーパント/有機半導体化合物)は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0088】
なお、光電変換素子が複数のバッファ層を有する場合、それらの中の正孔輸送層に相当する何れか1つの層が上述の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0089】
(その他の物質)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上述の有機半導体化合物及びドーパント以外の物質を含んでいてよく、例えば、光電変換(活性層)材料、接着性機能材料、フィラー、又は強度補助材等を含んでいてよい。
【0090】
[基材]
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材107を有する。ただし、本発明の光電変換素子は基材107を必須の構成部材とするものではなく、基材を有さなくてもよい。基材107の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0091】
[その他の層]
本発明の光電変換素子は、上述の各層以外の層や部位を有していてもよい。
【0092】
[光電変換素子の製造方法]
本発明の光電変換素子は、光電変換素子100を構成する各層や部材を順次形成することにより製造することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。但し、前述のとおり、本発明の光電変換素子の製造方法は、化合物(I)を含有する溶液を塗布する工程を有することが好ましい。
【0093】
ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、キロメートルオーダーの長尺基板を一括処理することが可能であるため、シートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。また、一方で、ロールとの接触による傷や剥がれなどが生じ難い点では、シートツゥーシート方式が好ましい。
【0094】
ロールツゥーロール方式で用いるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されない。但し、ロールを取り扱いやすい点では小さいことが好ましく、また、一方で、各層が曲げ応力により損傷され難い点では大きいことが好ましい。そこで、具体的には、ロールの外径は、5m以下であることが好ましく、3m以下であることがより好ましく、1m以下であることがさらに好ましい。また、一方で、ロールの外径は、10cm以上であることが好ましく、20cm以上であることがより好ましく、30cm以上であることがさらに好ましい。ロール芯の外径は、4m以下であることが好ましく、3m以下であることがより好ましく、0.5m以下であることがさらに好ましい。また、一方で、ロール芯の外径は、1cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがより好ましく、5cm以上であることがさらに好ましく、10cm以上であることが特に好ましく、20cm以上であることが最も好ましい。
【0095】
ロール幅は、ロールを取り扱いやすい点では短いことが好ましく、また、一方で、光電変換素子の大きさの自由度が高くなる点では長いことが好ましい。これらの観点から、ロール幅は、5cm以上であることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、20cm以上であることがさらに好ましい。また、一方で、ロール幅は、5m以下であることが好ましく、3m以下であることがより好ましく、2m以下であることがさらに好ましい。
【0096】
本発明の光電変換素子の製造方法は、少なくとも下記電極を形成する工程、中間層を形成する工程、活性層を形成する工程及び上部電極を形成する工程を有することが好ましい。また、前述したとおり、中間層の形成は塗布法により形成することが好ましい。すなわち、本発明の光電変換素子の製造方法は、化合物(I)を含有する溶液を塗布することにより中間層を形成する工程を有することが好ましい。
また、上述したとおり、活性層も塗布法で形成することが好ましく、中間層と活性層を塗布法で形成することがより好ましい。すなわち、本発明の光電変換素子の製造方法は、塗布法により活性層を形成する工程を有することが好ましく、中間層を塗布法により形成する工程と活性層を塗布法により形成する工程をこの順に有することが好ましい。
【0097】
バッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の光電変換素子が有する各層間の密着性が向上し、光電変換素子の熱安定性や耐光性等が向上しやすいことから、上部電極積層後に加熱する工程(以下、「アニーリング処理工程」と言う場合がある。)を有することが好ましい。加熱温度は、各層間の密着性が高くなりやすい点では高温で行うことが好ましく、また、一方で、光電変換素子の各層等に含有される有機化合物が熱分解し難い点では低温で行うことが好ましい。これらの観点から、加熱を行う場合の温度は、50℃以上で行うことが好ましく、80℃以上で行うことがより好ましい。また、一方で、300℃以下で行うことが好ましく、280℃以下で行うことがより好ましく、250℃以下で行うことがさらに好ましい。加熱は、段階的に温度を上げて行ってもよい。
【0098】
加熱時間は、有機化合物を熱分解させずに層間密着性を向上させやすい点から、1分間以上とすることが好ましく、3分間以上とすることがより好ましく、また、一方で、180分間以下とすることが好ましく、60分間以下とすることがより好ましい。
【0099】
加熱する工程は、通常、光電変換素子の開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定値になったところで終了させる。加熱する工程は、光電変換素子の構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下で、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せても行ってもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れて行ってもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0100】
本発明の一態様として、次に例示する「光電変換素子の製造方法」が挙げられる。
次に例示する各実施形態は、何れも、一対の電極の間に有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層が設けられた光電変換素子を製造する方法である。ここで、一対の電極のうち、一方の電極は上述の下部電極であり、他方の電極は上述の上部電極であり得る。
【0101】
第一実施形態は、前記一対の電極のうち一方の電極上に前記活性層以外の導電層を形成し、前記導電層の表面に、溶媒と化合物(I)を含む液状のパッシベーション用材料を塗布し、乾燥させた後、その乾燥した表面に前記活性層を形成することを含む、光電変換素子の製造方法である。
【0102】
具体的には、例えば
図1を参照して、基材107の表面に形成された下部電極101上に、前記導電層としてのバッファ層102を形成し、バッファ層102の表面にパッシベーション用材料である塗料を塗布し、乾燥させる。この時点で、その乾燥面は、少なくとも化合物(I)によって化学的に修飾されたバッファ層102の表面であるか、好ましくは化合物(I)が集積してなる中間層(不図示)の表面である。続いて、その乾燥した表面に活性層103、必要に応じてバッファ層105、上部電極106の順に積層する。ここで、バッファ層102が電子輸送層であり、バッファ層105が正孔輸送層であってもよいし、バッファ層102が正孔輸送層であり、バッファ層105が電子輸送層であってもよい。また、活性層103とバッファ層105の間に別の中間層104を、前記中間層と同様にして形成してもよい。
【0103】
第一実施形態によれば、バッファ層102と活性層103の界面が化合物(I)によって修飾され、好ましくは前記界面における欠陥が化合物(I)によって補修されるので、光電変換素子100の耐光性及び耐湿熱性が向上する。
【0104】
第二実施形態は、前記一対の電極のうち一方の電極上に前記活性層を形成し、前記活性層の表面に、溶媒と化合物(I)を含む液状のパッシベーション用材料を塗布し、乾燥させた後、その乾燥した表面に前記活性層以外の導電層を形成することを含む、光電変換素子の製造方法である。
【0105】
具体的には、例えば
図1を参照して、基材107の表面に形成された下部電極101上に、バッファ層102を形成し、バッファ層102の表面に活性層103を形成する。次に、活性層103の表面にパッシベーション用材料である塗料を塗布し、乾燥させる。この時点で、その乾燥面は、少なくとも化合物(I)によって化学的に修飾された活性層103の表面であるか、好ましくは化合物(I)が集積してなる中間層104の表面である。続いて、その乾燥した表面に、必要に応じてバッファ層105、上部電極106の順に積層する。ここで、バッファ層102が電子輸送層であり、バッファ層105が正孔輸送層であってもよいし、バッファ層102が正孔輸送層であり、バッファ層105が電子輸送層であってもよい。
【0106】
第二実施形態によれば、活性層103とバッファ層105の界面が化合物(I)によって修飾され、好ましくは前記界面における欠陥が化合物(I)によって補修されるので、光電変換素子100の耐光性及び耐湿熱性が向上する。また、バッファ層105を設けない場合には、活性層103と上部電極106の界面が化合物(I)によって修飾され、好ましくは前記界面における欠陥が化合物(I)によって補修されるので、光電変換素子100の耐光性及び耐湿熱性が向上する。
【0107】
第三実施形態は、前記一対の電極のうち一方の電極の表面に、溶媒と耐光性及びを含む液状のパッシベーション用材料を塗布し、乾燥させた後、その乾燥した表面に前記活性層を形成することを含む、光電変換素子の製造方法である。
【0108】
具体的には、例えば
図1を参照して、基材107の表面に形成された下部電極101の表面にパッシベーション用材料である塗料を塗布し、乾燥させる。この時点で、その乾燥面は、少なくとも化合物(I)によって化学的に修飾された下部電極101の表面であるか、好ましくは化合物(I)が集積してなる中間層(不図示)の表面である。続いて、その乾燥した表面に、活性層103、必要に応じてバッファ層105、上部電極106の順に積層する。ここで、バッファ層105は正孔輸送層であってもよいし、電子輸送層であってもよい。また、活性層103とバッファ層105の間に別の中間層104を、先に形成した中間層と同様にして形成してもよい。
【0109】
第三実施形態によれば、下部電極101と活性層103の界面が化合物(I)によって修飾され、好ましくは前記界面における欠陥が化合物(I)によって補修されるので、光電変換素子100の耐光性及び耐湿熱性が向上する。
【0110】
[光電変換特性]
光電変換素子の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子に適当なスペクトルの光を照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、光電変換素子の直列抵抗、シャント抵抗などの光電変換特性を求めることができる。例えば、光電変換素子に色温度5000Kの白色LED光を照射することにより、電流-電圧特性を測定することができる。
【0111】
本発明の光電変換素子の開放電圧は、光電変換効率が高くなりやすい点では高いことが好ましい。具体的には、0.9V以上であることが好ましく、1.0V以上であることがより好ましい。開放電圧は、上述のとおり、化合物(I)によって導電層間の界面を修飾し、好ましくは化合物(I)を含有する中間層を前記界面に設けることにより、高くすることができる。
【0112】
本発明の光電変換素子は、低照度領域(10~5000ルクス)における発電効率に優れる。特に白色LED光等の光源を用いた場合において、光電変換効率を20%以上とすることができる。また、200ルクスにおける光電変換効率を25%以上とすることができる。光電変換効率の上限には特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0113】
なお、この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、光電変換素子の電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量(例えば、強度AM1.5Gの太陽光であれば100mW/cm2)で除した値(%)が光電変換効率(PCE)である。
【0114】
また、本発明の光電変換素子にあっては、化合物(I)によって導電層間の界面を修飾し、好ましくは化合物(I)を含有する中間層を前記界面に設けられることにより、耐湿熱性に優れ、光照射経時後の光電変換効率の低下が抑制される。
【0115】
〔光電変換モジュール〕
本発明の光電変換素子は、封止によってさらに耐湿熱性を向上させることができる。
【0116】
図2は、本発明の一実施形態に係る光電変換モジュールの断面構成を表す。
図2において、本実施形態に係る光電変換モジュール14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、光電変換素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る光電変換モジュール14は、光電変換素子6として、上述した本発明の光電変換素子を有している。そして、保護フィルム1が形成された側(
図2において下方)から光を照射することにより、光電変換素子6で発電させることができる。なお、光電変換モジュール14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0117】
光電変換モジュールを構成する各構成部材とその製造方法については、特段の制限はなく、公知の技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号及び特開2012-191194号公報等に記載の技術を用いることができる。
【0118】
〔用途〕
本発明の光電変換素子及び光電変換モジュールの用途には制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、建材用途、自動車用途、インテリア用途、鉄道用途、船舶用途、航空宇宙用途、家電用途、電話用途及び玩具用途等に用いることができる。本発明の光電変換素子は、太陽光及び屋内光による発電に用いるのに好適である。また、本発明の光電変換素子は低照度環境下で優れた変換効率を示し、エネルギーハーベスティング用途に好適である。本明細書において、低照度環境とは、通常10~5000ルクスを意味し、典型的には200ルクス周辺である。また、エネルギーハーベスティングとは、周りの環境から微小なエネルギーを収穫して、電力に変換する技術のことである。
【実施例0119】
以下、実施例により本発明の実施形態の一例を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0120】
[光電変換効率の測定]
光電変換効率は以下の方法で、色温度5000Kの白色LED光を光電変換素子に照射することで測定した。この際、照度計を用いて光電変換素子の受光面が200ルクスの照度となるように照射強度を調整した。この環境下で、ソースメータを用いて電流-電圧曲線(I-V曲線)を測定し、その最大出力値を求めた。この値を上述の照射光が有する総エネルギー量で除して、光電変換素子の光電変換効率(%)を得た。ここで、上述の色温度は、JIS Z8725:2015 に準拠して測定されたものである。
具体的には、以下の測定において、各例で得られた光電変換素子に、1mm角のメタルマスクを付け、ITO透明導電膜と上部電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用いた。照射光源としては分光計器社製屋内光評価用LED光源BLD-100を用い、色温度5000Kの白色LED光を光電変換素子に照射した。この際、照度計を用いて光電変換素子の受光面が200ルクスの照度となるように照射強度を調整した。この測定結果から、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、開放電圧Voc(V)、フィルファクターFF、及び光電変換効率PCE(%)を算出した。評価は、各実施例と比較例において、各々4個ずつの光電変換素子の平均値とした。
【0121】
[耐光性の評価]
光電変換素子の連続光照射に対する耐光性を以下の方法で評価した。評価は、各実施例と比較例において、各々4個ずつの光電変換素子の平均値とした。
まず内側が凹んだ摺ガラスにゲッター材(ダイニック社製、HD-S050914W-40SS)を貼りつけた。光電変換素子の上面に封止材(UV硬化樹脂)を用いて、前述の摺ガラスを接着することにより、光電変換素子を封止して光電変換モジュールを作製した。この光電変換モジュールについて、以下の通り、耐光性試験を行った。
光電変換モジュールを開放回路とし、大気中にて室温(25℃)で照度5800Lx(1.74mW/cm2)の光を照射し、試験開始後781時間、1707時間にて電流-電圧特性を測定した。
得られた電流-電圧曲線から照度200Lxにおける光電変換効率を求めた。
【0122】
[耐湿熱性の評価]
光電変換素子の連続光照射に対する耐湿熱性を以下の方法で評価した。評価は、各実施例と比較例において、各々4個ずつの光電変換素子の平均値とした。
まず内側が凹んだ摺ガラスに、水分吸収性シートであるゲッター材(ダイニック社製、HD-S050914W-40SS)を貼りつけた。光電変換素子の上面に封止材(UV硬化樹脂)を用いて、前述の摺ガラスを接着することにより、光電変換素子をゲッター材とともに摺ガラスの凹部内に封止して光電変換モジュールを作製した。この光電変換モジュールについて、以下の通り、耐湿熱性試験を行った。
光電変換モジュールを開放回路とし、85℃、湿度85%の恒温槽に静置し、試験開始後225時間、412時間にて電流-電圧特性を測定した。
得られた電流-電圧曲線から照度200Lxにおける光電変換効率を求めた。
【0123】
[実施例1]
<電子輸送層用塗布液の調製>
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加えることにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液を調製した。
【0124】
<活性層用塗布液の調製>
バイアル瓶にヨウ化鉛(II)を量りとり、グローブボックス内に導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加えた後、100℃で1時間加熱撹拌することにより、活性層用塗布液1を調製した。
別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1.0:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックス内に導入した。これに溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr及びMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
【0125】
<パッシベーション塗布液の調製>
バイアル瓶に下式(C)で表される化合物2-Mercaptothiazoline(TCI社製)を量りとり、濃度が4mmol/L(0.5 mg/mL)(パッシベーション塗布液1)となるように中間層用塗布液1を調製した。溶媒はイソプロパノールを用いた。
【0126】
【0127】
<正孔輸送層用塗布液の調製>
(高分子化合物の合成)
以下の化合物1(349.4mg、1mmol)と以下の化合物2(783.7mg、0.98mmol)を用いて、反応条件として、特開2019-175970号公報に記載の方法を参考にして、以下の高分子化合物Aを570mg得た。得られた高分子化合物Aの重量平均分子量は37,500であり、PDI(重量平均分子量/数平均分子量)は1.4であった。
【0128】
【0129】
(カルバゾール化合物の合成)
Yang,J.W.et.al.,Phys.Chem.Chem.Phys.2015,17,24468.に記載の方法にて、以下の式(B)で示すカルバゾール化合物を合成した。
【0130】
【0131】
(正孔輸送層用塗布液の調製)
高分子化合物Aと化合物Bの重量比率が2:1となるように、40mg/mLのo-ジクロロベンゼン溶液を調製した。前記の溶液を以降ホスト溶液と呼ぶ。
別に32mg/mLの4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TCI社製、電子受容性ドーパント)のo-ジクロロベンゼン溶液を調製した。前記の溶液を以降ドーパント溶液と呼ぶ。
高分子化合物Aの100質量部に対して前記の電子受容性ドーパントが8質量部で配合されるように、ホスト溶液へドーパント溶液を添加した。得られた混合液を150℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0132】
<光電変換素子の製造>
パターニングされたITO透明導電膜(下部電極)を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥及びUV-オゾン処理を行った。
この上に、上述の電子輸送層用塗布液を、室温(25℃)で2000rpmの回転速度で厚み35nmとなるようにスピンコートした後、ホットプレート上で、150℃で10分間加熱することにより、電子輸送層(厚み50nm)を形成した。
この電子輸送層が形成されたガラス基板をグローブボックス中に導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1(150μL)を滴下し、2000rpmの回転速度でスピンコートした後に、ホットプレート上で、100℃で10分間加熱することにより、ヨウ化鉛層を形成した。
ヨウ化鉛層上に活性層用塗布液2(120μL)を2000rpmの回転速度でスピンコートした後、ホットプレート上にて150℃で20分間加熱することで有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物の活性層(厚み650nm)を形成した。
この活性層上に、パッシベーション塗布液1(150μL)を2000rpmの回転速度でスピンコートした後に、ホットプレート上で、100℃で10分間加熱し、室温(25℃)に冷却することにより、表面をパッシベーションし、中間層を形成した。
この中間層上に、正孔輸送層塗布液(150μL)を1000rpmの回転速度でスピンコートした後に、ホットプレート上で、90℃で5分間加熱し、室温(25℃)に冷却することにより、正孔輸送層(厚み100nm)を形成した。
この正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により厚み10nmのMoO
3を蒸着し、次いで真空スパッタ法により厚み200nmのIZO(酸化インジウム亜鉛)を形成し、更に抵抗加熱型真空蒸着法により厚み50nmのアルミニウムを蒸着し、上部電極を形成した。
前記正孔輸送層、MoO
3、及びIZOはいずれも
図1におけるバッファ層105、つまり活性層103と上部電極106の間に形成される層に該当する。
以上のようにして、光電変換素子を製造した。
【0133】
このようにして製造した4個の光電変換素子に、色温度5000Kの白色LED光を照射し、受光面の照度が200ルクスであるときの光電変換特性を各々測定した。結果の平均値を以下の表に示す。
また、光電変換特性を測定した4個の光電変換素子について、上述のとおり、光電変換モジュールを製造し、その耐光性と耐湿熱性を評価した。
耐光性試験における光電変換効率(平均値)の推移を表1、フィルファクター(平均値)の推移を表2にそれぞれ示す。
耐湿熱性試験における光電変換効率(平均値)の推移を表3、フィルファクター(平均値)の推移を表4にそれぞれ示す。
【0134】
[比較例1]
<パッシベーション塗布液の調製>
バイアル瓶に下式(D)で表される化合物2-フェニルエチルアンモニウムヨージド(TCI社製)を量りとり、濃度が4mmol/L(1mg/mL)(パッシベーション塗布液2)となるようにパッシベーション塗布液2を調製した。溶媒はイソプロパノールを用いた。
【0135】
【0136】
<光電変換素子の製造>
実施例1において、パッシベーション塗布液1の代わりにパッシベーション塗布液2を使用すること以外は実施例1と同様にして、光電変換素子と光電変換モジュールを製造し、その耐光性と耐湿熱性を評価した。
耐光性試験における光電変換効率(平均値)の推移を表1、フィルファクター(平均値)の推移を表2にそれぞれ示す。
耐湿熱性試験における光電変換効率(平均値)の推移を表3、フィルファクター(平均値)の推移を表4にそれぞれ示す。
【0137】
【0138】
【0139】
表1及び表2の結果より、本発明の光電変換素子は、活性層上を特定化合物でコートすることにより、表面の欠陥がパッシベーションされ、フィルファクターの低下が抑制され、耐光性が向上することが裏付けられた。
また、その表面欠陥が低減され、ヨウ素イオンの拡散などが抑制されたことで、耐光性が向上したと考えられる。
【0140】
【0141】
【0142】
表3及び表4の結果より、本発明の光電変換素子は、活性層上を特定化合物でコートすることにより、表面の欠陥がパッシベーションされ、直列抵抗の上昇が抑制され、耐湿熱性が向上することが裏付けられた。
また、その表面欠陥の低減に加え、比較例1で使用した化合物と比べて電荷輸送の妨げとなりにくい化合物(I)を使用することで、直列抵抗の増大が抑制されたために耐湿熱性が向上したと考えられる。
【0143】
化合物(I)を用いて活性層の表面をパッシベーション処理した光電変換素子の耐光性、耐熱性のバランスがとれていた。これらの結果から、化合物(I)は有機無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体化合物を含む光電変換素子の課題となっている耐久性を解決しうる材料であることが裏付けられた。