(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066880
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 283/01 20060101AFI20240509BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08F283/01
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176654
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】西島 大輔
【テーマコード(参考)】
4F072
4J127
【Fターム(参考)】
4F072AA02
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(57)【要約】
【課題】保存安定性が良好であり、かつ、耐熱性、及び難燃性が良好な硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱硬化性樹脂、(B)エチレン性不飽和単量体、(C)低収縮剤、(D)無機充填材、(E)熱重合開始剤、及び(F)ガラス繊維を含有し、(A)熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂を含み、該不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/g以下であり、熱硬化性樹脂組成物中の(D)無機充填材の含有量が40~80質量%であり、かつ、(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有量が55質量%以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱硬化性樹脂、
(B)エチレン性不飽和単量体、
(C)低収縮剤、
(D)無機充填材、
(E)熱重合開始剤、及び
(F)ガラス繊維
を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記(A)熱硬化性樹脂が(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を含み、該(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/g以下であり、前記熱硬化性樹脂組成物中の前記(D)無機充填材の含有量が40~80質量%であり、かつ、前記(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有量が55質量%以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価が0.5mgKOH/g以上である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(G)離型剤を更に含む請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(H)難燃剤を更に含む請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、
前記(B)エチレン性不飽和単量体を1~150質量部含有し、
前記(C)低収縮剤を1~100質量部含有し、
前記(D)無機充填材を350~1350質量部含有し、
前記(E)熱重合開始剤を0.1~20質量部含有し、
前記(F)ガラス繊維を10~300質量部含有する
請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物を加熱及び加圧して硬化させる工程を含む成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気電子部品。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形、トランスファー成形、又は射出成形して、電気電子部品の構成部品を封入する工程、及び
前記熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化する工程を含む、電気電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品、成形品の製造方法、電気電子部品及び電気電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、コイル、自動車等に搭載されるエレクトロニックコントロールユニット等の電子機器では、配線基板及びその配線基板上に実装された電子部品等を保護するために、構成部品を固定して振動による部品の破損を防止したり、水及び腐食性ガス等の侵入を防止したりすることのできる構成が求められる。その際には、封止材と呼ばれる材料にて、電子部品全体を封止し、固定する構成が一般的に用いられる。封止材としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に、目的に応じた添加剤を加えて、混練機で混練した熱硬化性樹脂組成物が広く利用されている。このような熱硬化性樹脂組成物の中でも、樹脂組成物をバルク状にしたバルクモールディングコンパウンド(Bulk Molding Compound;以下、「BMC」と略記する。)は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形方法により、成形品にすることができる。
【0003】
近年、電子部品は、高出力化(高密度化)、及び小型化(軽量化)が進んでいるため、電子部品内部により大量の熱が蓄積されやすくなっている。そのため、この熱による電子部品の動作効率低下はもとより火災が生じることがある。この問題を解決するために、優れた耐熱性、及び難燃性を有する熱硬化性樹脂組成物、特にBMCが求められている。
【0004】
熱硬化性樹脂組成物に難燃性を付与する方法として、熱硬化性樹脂組成物に、難燃剤として金属水酸化物を添加する技術が知られている。特許文献1には、無機フィラーである水酸化アルミニウムを配合した熱硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、無機フィラーとして、水酸化マグネシウムを含む電機および電子部品用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-31636号公報
【特許文献2】特開2006-188709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で用いられている水酸化アルミニウムは、脱水開始温度が200℃程度と低いため、これを配合した熱硬化性樹脂組成物の使用温度が200℃以下に限られてしまう。特許文献2で無機フィラーとして使用されている水酸化マグネシウムの脱水開始温度は340℃程度と水酸化アルミニウムの脱水開始温度より高いため、水酸化マグネシウムを配合した熱硬化性樹脂組成物は耐熱性に優れる。しかし、水酸化マグネシウムは酸化マグネシウム同様に不飽和ポリエステル樹脂の増粘剤として作用するため、不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物において水酸化マグネシウムを使用した場合、熱硬化性樹脂組成物の保存安定性が不十分であるという問題がある。
【0007】
本発明は、保存安定性が良好であり、かつ、耐熱性、及び難燃性が良好な硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]
(A)熱硬化性樹脂、
(B)エチレン性不飽和単量体、
(C)低収縮剤、
(D)無機充填材、
(E)熱重合開始剤、及び
(F)ガラス繊維
を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記(A)熱硬化性樹脂が(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を含み、該(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/g以下であり、前記熱硬化性樹脂組成物中の前記(D)無機充填材の含有量が40~80質量%であり、かつ、前記(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有量が55質量%以上である、熱硬化性樹脂組成物。
[2]
前記(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価が0.5mgKOH/g以上である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3]
(G)離型剤を更に含む[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4]
(H)難燃剤を更に含む[1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5]
前記(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、
前記(B)エチレン性不飽和単量体を1~150質量部含有し、
前記(C)低収縮剤を1~100質量部含有し、
前記(D)無機充填材を350~1350質量部含有し、
前記(E)熱重合開始剤を0.1~20質量部含有し、
前記(F)ガラス繊維を10~300質量部含有する
[1]~[4]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を加熱及び加圧して硬化させる工程を含む成形品の製造方法。
[8]
[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気電子部品。
[9]
[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形、トランスファー成形、又は射出成形して、電気電子部品の構成部品を封入する工程、及び
前記熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化する工程を含む、電気電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存安定性が良好であり、かつ、耐熱性、及び難燃性が良好な硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。さらに、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品、及びその製造方法、並びに上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気電子部品、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸又はアクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイルオキシ」はアクリロイルオキシ又はメタクリロイルオキシを意味する。
【0012】
本明細書において、「熱硬化性樹脂」とは、加熱したときに、架橋構造を形成して硬化する樹脂をいい、硬化前の状態のものを示す。
【0013】
本明細書において、「エチレン性不飽和結合」とは、芳香環を形成する炭素原子を除く炭素原子間で形成される二重結合を意味し、「エチレン性不飽和単量体」とは、エチレン性不飽和結合を有する単量体を意味する。
【0014】
本明細書において、「酸価」とは、試料(熱硬化性樹脂)1g中に含有される樹脂酸(カルボキシ基)を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、試料(熱硬化性樹脂)を溶剤(スチレン)に溶かし、指示薬としてフェノールフタレインを加え、水酸化カリウムエタノール溶液で滴定(中和滴定法)して中和に要した量から以下の算出式により求めた値とする。
酸価(mgKOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1M水酸化カリウムエタノール溶液の使用量(mL)
f:0.1M水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0015】
本明細書において「重量平均分子量」及び「数平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:gel permeation chromatography)を用いて下記条件にて常温(23℃)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値とする。
装置:Shodex(登録商標) GPC-101(昭和電工株式会社)
カラム:Shodex(登録商標) LF-804(昭和電工株式会社)
カラム温度:40℃
試料:試料の0.2質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1mL/分
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:Shodex(登録商標) RI-71S(昭和電工株式会社)
【0016】
〈熱硬化性樹脂組成物〉
熱硬化性樹脂組成物は、(A)熱硬化性樹脂、(B)エチレン性不飽和単量体、(C)低収縮剤、(D)無機充填材、(E)熱重合開始剤、及び(F)ガラス繊維を含有する。熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(G)離型剤、及び(H)難燃剤からなる群から選択される少なくとも一種を更に含有してもよい。
【0017】
[(A)熱硬化性樹脂]
(A)熱硬化性樹脂は、成形性、流動性、及び硬化収縮の観点から、(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を必須成分として含み、(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価は2.5mgKOH/g以下である。必要に応じて、封止材用途に一般的に用いられる他の熱硬化性樹脂を併用することもできる。他の熱硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物として加熱硬化したときに、架橋構造を形成できる官能基を有する樹脂が好ましい。特に、後述する(B)エチレン性不飽和単量体、及び必要に応じて添加することができる(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物とも反応できるという観点から官能基としてエチレン性不飽和基を複数有し、保存安定性の観点からカルボキシ基を有さない樹脂が好ましい。他の熱硬化性樹脂の具体例としては、(A-2)ビニルエステル樹脂、(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、(A-4)ジアリルフタレート樹脂、(A-5)エポキシ樹脂等が挙げられる。他の熱硬化性樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0018】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/g以下であると、これを含む熱硬化性樹脂組成物の保存安定性が良好であり、室温雰囲気下での粘度の経時変化(上昇)を抑制できることを本発明者は見出した。(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の酸価は小さいほど熱硬化性樹脂組成物の保存安定性は向上するが、(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成上酸価を限りなくゼロにするためには高度な反応制御が必要であり製造コストが高くなるため、酸価は0.5mgKOH/g以上であることが好ましい。より好ましい酸価は0.8mgKOH/g以上2.3mgKOH/g以下であり、さらに好ましい範囲は1.0mgKOH/g以上2.0mgKOH/g以下である。
【0019】
本開示においては、(A)熱硬化性樹脂が、後述する任意成分である(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物にも該当する場合は、(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物として扱うものとする。
【0020】
<(A-1)不飽和ポリエステル樹脂>
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂は、多価アルコールと不飽和多塩基酸との重縮合体、又は多価アルコールと不飽和多塩基酸と飽和多塩基酸との重縮合体であり、特に限定されない。
【0021】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を用いることにより、機械的強度及び耐熱性に優れる硬化物を得ることができる。
【0022】
なお、本開示では、市販の不飽和ポリエステル樹脂に含有されるスチレンモノマー等は(B)エチレン性不飽和単量体に分類される。
【0023】
多価アルコールは、2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限はない。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール)、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等のアルキレングリコール;ビスフェノールA;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA;グリセリン等が挙げられる。硬化物の耐熱性、機械的強度及び成形時の熱硬化性樹脂組成物の流動性の観点から、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、及びビスフェノールAが好ましく、プロピレングリコール及びネオペンチルグリコールがより好ましい。多価アルコールは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
不飽和多塩基酸は、エチレン性不飽和結合を有し、かつ、2個以上のカルボキシ基を有する化合物又はその酸無水物であれば特に限定されず、公知ものを用いることができる。特に、炭素原子数4~6の不飽和多塩基酸又はその酸無水物が、より低コストであり、かつ硬化物の機械的強度及び耐熱性により優れる熱硬化性樹脂組成物が得られるため好ましい。不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロロマレイン酸等が挙げられる。より好ましくは、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、及びイタコン酸から選ばれる不飽和多塩基酸である。不飽和多塩基酸は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
多価アルコールと不飽和多塩基酸との好ましい組み合わせとしては、例えば、フマル酸とネオペンチルグリコールとの組み合わせ、マレイン酸とジプロピレングリコールとの組み合わせ、無水マレイン酸とプロピレングリコールとの組み合わせ、フマル酸とプロピレングリコールとの組み合わせ、フマル酸と水素化ビスフェノールAとプロピレングリコールとの組み合わせ、無水マレイン酸とプロピレングリコールとネオペンチルグリコールとの組み合わせ等が挙げられる。フマル酸とプロピレングリコールとの組み合わせ、フマル酸と水素化ビスフェノールAとプロピレングリコールとの組み合わせ、及び無水マレイン酸とプロピレングリコールとネオペンチルグリコールとの組み合わせは、より低コストであり、かつ硬化物の熱変形温度がより高く、機械的強度及び耐熱性により優れる熱硬化性樹脂組成物が得られるため好ましい。
【0026】
飽和多塩基酸は、エチレン性不飽和結合を有さず、かつ、2個以上のカルボキシ基を有する化合物又はその酸無水物であれば特に限定されず、公知ものを用いることができる。飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、ニトロフタル酸、ハロゲン化無水フタル酸等の芳香族飽和多塩基酸又はその酸無水物;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、アゼライン酸、グルタル酸等の脂肪族飽和多塩基酸;ヘキサヒドロ無水フタル酸等の環状脂肪族飽和多塩基酸が挙げられる。飽和多塩基酸は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0027】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは2,000~50,000であり、より好ましくは3,000~40,000であり、更に好ましくは3,500~30,000である。重量平均分子量が2,000~50,000であれば、熱硬化性樹脂組成物の成形性がより一層良好となる。
【0028】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の不飽和度は、50~100モル%であることが好ましく、より好ましくは60~100モル%であり、更に好ましくは70~100モル%である。不飽和度が上記範囲であると、(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の成形性がより良好となる。
【0029】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の不飽和度は、原料として用いた不飽和多塩基酸及び飽和多塩基酸のモル数を用いて、以下の式により算出可能である。
不飽和度(モル%)={(不飽和多塩基酸のモル数×不飽和多塩基酸1分子あたりのエチレン性不飽和結合の数)/(不飽和多塩基酸のモル数+飽和多塩基酸のモル数)}×100
【0030】
((A-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成方法)
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂は、上記の原料を用いて、公知の方法で合成することができる。(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成における各種条件は、使用する原料やその量に応じて適宜設定される。
【0031】
一般的に、140℃~230℃の温度にて、窒素ガス等の不活性ガス気流中(常圧)、あるいは加圧又は減圧下でのエステル化反応を用いることができる。反応中の圧力は一定とすることもできるし、経時的に圧力を変更することもできる。エステル化反応時間は、例えば、5~15時間とすることができるが、この範囲に限定されない。エステル化反応では、必要に応じて、エステル化触媒を用いることができる。エステル化触媒の例としては、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、酢酸コバルト等の公知の触媒が挙げられる。エステル化触媒は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0032】
なお、(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を合成した後の未反応の不飽和多塩基酸は、後述する(B)エチレン性不飽和単量体とみなす。
【0033】
反応率向上による(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の分子量増大、及び酸価の低減による保存安定性向上のため、不飽和多塩基酸及び任意の飽和多塩基酸のカルボキシ基の総量に対し、多価アルコールの水酸基の当量は0.9~1.2の範囲とすることが好ましい。不飽和ポリエステル樹脂の酸価は、例えばグリシジル基を有する化合物(グリシジル(メタ)アクリレート、フェニルグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル等)をジアザビシクロウンデセン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の、カルボン酸とエポキシ化合物との開環反応に用いることができる公知の触媒存在下で不飽和ポリエステル樹脂末端のカルボキシ基と反応させることにより調整(低減)することができる。グリシジル基を有する化合物としてグリシジル(メタ)アクリレートのようなC=C結合(炭素-炭素二重結合)を有する化合物を用いると、より高弾性率(高耐熱性)である硬化物が得られるため好ましい。
【0034】
(A-1)不飽和ポリエステル樹脂を合成した後の未反応の不飽和多塩基酸及び任意の飽和多塩基酸は、除去されることなく、熱硬化性樹脂組成物中に存在してよい。
【0035】
(A)熱硬化性樹脂中の(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の含有量は、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の含有量が、75質量%以上であると、適切な成形性、流動性、及び硬化収縮を確保することができる。(A)熱硬化性樹脂中の(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の含有量の上限は、特に限定されない。例えば、100質量%、97質量%、又は95質量%としてよい。
【0036】
<(A-2)ビニルエステル樹脂>
(A-2)ビニルエステル樹脂は、一般的に、(a)2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物中のエポキシ基と、(b)エチレン性不飽和結合及びカルボキシ基を有する不飽和一塩基酸のカルボキシ基との開環反応によって得られる、エチレン性不飽和結合を有する化合物である。(A-2)ビニルエステル樹脂に関しては、例えば、ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、1988年発行)等に記載がある。
【0037】
(A-2)ビニルエステル樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。(A-2)ビニルエステル樹脂は、取り扱いの面から一般には、(B)エチレン性不飽和単量体で希釈して使用される。(A-2)ビニルエステル樹脂を用いることにより、熱硬化性樹脂組成物の材料コストを抑えることができ、かつ、接着性に優れた硬化物を得ることができる。
【0038】
(A-2)ビニルエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、所望する物性によって調整することができるが、取り扱いの面からは500~5,000の範囲が好ましい。
【0039】
((a)エポキシ化合物)
(a)エポキシ化合物は、2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限はない。好ましくは、ビスフェノール型エポキシ化合物及びノボラックフェノール型エポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくはビスフェノール型エポキシ化合物である。(a)エポキシ化合物を原料に用いる(A-2)ビニルエステル樹脂を使用することにより、硬化物の機械的強度及び耐食性がより一層向上する。
【0040】
ビスフェノール型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、及びテトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール化合物と、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるもの;上記ビスフェノール化合物のいずれか1つ又は複数をグリシジルエーテル化した化合物と、上記ビスフェノール化合物のいずれか1つ又は複数との縮合物と、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものが挙げられる。耐久性の観点から、ビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応物が好ましく、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物がより好ましい。
【0041】
ノボラックフェノール型エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック又はクレゾールノボラックと、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものが挙げられる。
【0042】
((b)不飽和一塩基酸)
(b)不飽和一塩基酸は、エチレン性不飽和結合を有するモノカルボン酸であれば特に制限はない。好ましくは、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等であり、より好ましくは、アクリル酸又はメタクリル酸であり、硬化物の耐食性の観点から更に好ましくは、メタクリル酸である。
【0043】
((A-2)ビニルエステル樹脂の合成方法)
(A-2)ビニルエステル樹脂は、公知の合成方法により合成することができる。例えば、加熱撹拌可能な反応容器内において、エステル化触媒及び(a)エポキシ化合物の存在下で(b)不飽和一塩基酸を添加し、70~150℃、好ましくは80~140℃、更に好ましくは90~130℃で反応させる方法が挙げられる。
【0044】
なお、(A-2)ビニルエステル樹脂を合成した後の未反応の(b)不飽和一塩基酸は、後述する(B)エチレン性不飽和単量体とみなす。
【0045】
エステル化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ジアザビシクロオクタンなどの三級アミン、トリフェニルホスフィン、ジエチルアミン塩酸塩などの公知の触媒が使用できる。
【0046】
(a)エポキシ化合物と(b)不飽和一塩基酸の配合比は、(a)エポキシ化合物のエポキシ基の総量1モルに対して、(b)不飽和一塩基酸のカルボキシ基の総量が0.3~1.2モルとなるように配合することが好ましく、0.4~1.1モルがより好ましく、0.5~1.0モルが更に好ましい。(b)不飽和一塩基酸のカルボキシ基の総量が0.3モル以上であると、熱硬化性樹脂組成物を硬化した際に、十分な硬度を持つ硬化物を得ることができる。一方で、(b)不飽和一塩基酸のカルボキシ基の総量が1.2モル以下であると、(A-2)ビニルエステル樹脂を合成する際に、未反応の(b)不飽和一塩基酸を低減できるため、機械強度に優れた硬化物を得ることができる。
【0047】
(A-2)ビニルエステル樹脂を合成した後の未反応の(b)不飽和一塩基酸は、除去されることなく、そのまま熱硬化性樹脂組成物の(B)エチレン性不飽和単量体として使用できる。熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させる際に、未反応の(b)不飽和一塩基酸が揮発したり、ブリードアウトしたりして硬化物の接着性に影響を与えることがあるため、未反応の(b)不飽和一塩基酸の含有量はできるだけ低減した方がよい。例えば、(A-2)ビニルエステル樹脂と未反応の(b)不飽和一塩基酸の合計量に対して、未反応の(b)不飽和一塩基酸の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0048】
(A)熱硬化性樹脂中の(A-2)ビニルエステル樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上とすることができる。(A)熱硬化性樹脂中の(A-2)ビニルエステル樹脂の含有量の上限は、特に限定されない。例えば、25質量%、20質量%、又は10質量%としてよい。
【0049】
<(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂>
(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、多価イソシアネートと多価アルコールとを反応させて得られるポリウレタンの、両末端の水酸基又はイソシアナト基に対して、(メタ)アクリロイル基を導入して得られた樹脂を用いることができる。
【0050】
多価アルコールとしては、上記(A-1)不飽和ポリエステル樹脂の原料として記載されている化合物を、特に制限なく使用することができる。
【0051】
多価イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族多価イソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族多価イソシアネート;並びにこれらの多価イソシアネートの付加物、イソシアヌレート体、及びビウレット体が挙げられる。多価イソシアネートは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0052】
(メタ)アクリロイル基を導入する際には、例えば、末端イソシアナト基に水酸基含有(メタ)アクリル化合物を反応させる方法、又は末端水酸基に2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のイソシアナト基含有(メタ)アクリル化合物を反応させる方法を使用することができる。水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ペンタエスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシエチルアクリルアミドが挙げられ、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシエチルアクリルアミドが好ましい。イソシアナト基含有(メタ)アクリル化合物及び水酸基含有(メタ)アクリル化合物は、それぞれ、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0053】
なお、(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を合成した後の未反応の水酸基含有(メタ)アクリル化合物、又は未反応のイソシアナト基含有(メタ)アクリル化合物は、後述する(B)エチレン性不飽和単量体とみなす。
【0054】
(A)熱硬化性樹脂中の(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上とすることができる。(A)熱硬化性樹脂中の(A-3)ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量の上限は、特に限定されない。例えば、25質量%、20質量%、又は10質量%としてよい。
【0055】
<(A-4)ジアリルフタレート樹脂>
(A-4)ジアリルフタレート樹脂は、ジアリルフタレートと多価アルコールとのエステル化反応により得られるオリゴマーであり、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。(A-4)ジアリルフタレート樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0056】
なお、(A-4)ジアリルフタレート樹脂を合成した後の未反応のジアリルフタレートは、除去されることなく、熱硬化性樹脂組成物中に存在してよい。
【0057】
(A-4)ジアリルフタレート樹脂を合成した後の未反応のジアリルフタレートは、後述する(B)エチレン性不飽和単量体とみなす。
【0058】
(A)熱硬化性樹脂中の(A-4)ジアリルフタレート樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上とすることができる。(A)熱硬化性樹脂中の(A-4)ジアリルフタレート樹脂の含有量の上限は、特に限定されない。例えば、25質量%、20質量%、又は10質量%としてよい。
【0059】
<(A-5)エポキシ樹脂>
(A-5)エポキシ樹脂としては、(a)エポキシ化合物の項に記載の化合物を使用することができる。(A-5)エポキシ樹脂は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0060】
(A)熱硬化性樹脂中の(A-5)エポキシ樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上とすることができる。(A)熱硬化性樹脂中の(A-5)エポキシ樹脂の含有量の上限は、特に限定されない。例えば、25質量%、20質量%、又は10質量%としてよい。
【0061】
[(B)エチレン性不飽和単量体]
(B)エチレン性不飽和単量体は、後述する任意成分である(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物に該当しない、エチレン性不飽和結合を有する単量体であれば、特に制限はない。(B)エチレン性不飽和単量体は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0062】
具体的には、スチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン等のビニル化合物(ビニル基を有する化合物);メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート、アセナフチレン、ノルボルネン等の環式不飽和化合物などが挙げられる。(A)熱硬化性樹脂との共重合性の観点から、ビニル化合物、及び(メタ)アクリレートが好ましく、スチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、メトキシスチレン、及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレートから選択される一種以上がより好ましく、スチレン、及びエチレングリコールジメタクリレートから選択される一種以上が更に好ましい。
【0063】
(B)エチレン性不飽和単量体の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、50~130質量部であることがより好ましく、80~120質量部であることが更に好ましい。(B)エチレン性不飽和単量体の含有量が1質量部以上であると、熱硬化性樹脂組成物の粘度を適正範囲に調整することができるため、成形性が良好である。(B)エチレン性不飽和単量体の含有量が150質量部以下であると、硬化物の機械的強度が良好である。
【0064】
[(C)低収縮剤]
(C)低収縮剤としては、特に限定されず、本発明の技術分野において公知のものを用いることができる。(C)低収縮剤としては、熱可塑性樹脂が好ましい。(C)低収縮剤としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、ポリカプロラクトン、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-変性酢酸ビニルブロックポリマー等が挙げられる。(C)低収縮剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0065】
(C)低収縮剤の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、15~90質量部であることがより好ましく、30~80質量部であることが更に好ましい。(C)低収縮剤の含有量が1質量部以上であれば、硬化物の収縮率が小さくなり、成形体において所望の寸法精度を得ることができる。(C)低収縮剤の含有量が100質量部以下であれば、熱硬化性樹脂組成物の成形性及び硬化物の機械的特性がより良好である。
【0066】
[(D)無機充填材]
(D)無機充填材としては、本発明の技術分野において公知の粒子状物質を用いることができる。(D)無機充填材は、水酸化マグネシウムを必須成分として含む。(D)無機充填材は、必要に応じて他の無機充填材を含んでもよい。(D)無機充填材を使用することで、成形品の成形収縮率を小さくする、熱硬化性樹脂組成物の粘度を調整して作業性を向上させる、あるいは成形品の強度を向上させることができる。水酸化マグネシウムを必須成分として含む(D)無機充填材を使用することで、成形品の難燃性、及び耐熱性を向上させることができる。熱硬化性樹脂組成物中の(D)無機充填材の含有量は、40~80質量%であり、好ましくは45~75質量%であり、より好ましくは45~70質量%である。熱硬化性樹脂組成物中の(D)無機充填材の含有量が40~80質量%であると、良好な難燃性、及び耐熱性を有する硬化物が得られる。
【0067】
上記の通り、(D)無機充填材は、水酸化マグネシウムを必須成分として含み、(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有量は、55質量%以上である。水酸化マグネシウムは耐熱性(脱水開始温度)が高く、かつ低コストである。(D)無機充填材中に水酸化マグネシウムを55質量%以上含む熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、良好な難燃性、及び耐熱性を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を低コストで製造することができる。水酸化マグネシウムと併用することができるその他の無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ワラストナイト、クレー、カオリン、マイカ、石膏、無水ケイ酸、ガラス粉末等が挙げられる。炭酸カルシウム、及び酸化アルミニウムが、安価であるため好ましい。その他の無機充填材は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0068】
(D)無機充填材の平均粒子径は、1~100μmであることが好ましく、1~60μmであることがより好ましく、1~50μmであることが更に好ましい。(D)無機充填材の平均粒子径が1μm以上であれば、粒子の凝集を抑制することができる。一方、(D)無機充填材の平均粒子径が100μm以下であれば、熱硬化性樹脂組成物の成形性が良好である。
【0069】
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会製、FRA)によって測定される体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)である。
【0070】
(D)無機充填材の形状は、特に制限されない。例えば、略真球、楕円体、鱗片状、無定形等が挙げられる。
【0071】
水酸化マグネシウムを含む(D)無機充填材の配合量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、350~1350質量部であることが好ましく、400~1250質量部であることがより好ましく、450~1150質量部であることが更に好ましい。(D)無機充填材の配合量が350質量部以上であれば、硬化物の機械的特性がより良好である。(D)無機充填材の配合量が1350質量部以下であれば、熱硬化性樹脂組成物中で(D)無機充填材がより均一に分散し、均質な成形体を製造することができる。難燃性、及び耐熱性の観点から、(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有率は55質量%以上であり、65質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。(D)無機充填材中の水酸化マグネシウムの含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、100質量%、95質量%、又は90質量%としてよい。なお、後述する(H)難燃剤を併用することにより、水酸化マグネシウムを含む(D)無機充填材の配合量が少なくても良好な難燃性を有する熱硬化物を得ることができる。
【0072】
[(E)熱重合開始剤]
(E)熱重合開始剤としては、加熱によりラジカルを発生する重合開始剤であれば特に限定されない。例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0073】
(E)熱重合開始剤としては、これらの過酸化物の中でも、1,1-ジ-t-ヘキシルパーオキシ-シクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、及びジ-t-ブチルパーオキサイドが好ましい。(E)熱重合開始剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0074】
(E)熱重合開始剤の配合量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、3~15質量部であることがより好ましく、5~10質量部であることが更に好ましい。(E)熱重合開始剤の配合量が0.1質量部以上であると、熱硬化性樹脂組成物の成形時の硬化反応が均一に進行し、硬化物の物性及び外観が良好となる。(E)熱重合開始剤の配合量が20質量部以下であると、熱硬化性樹脂組成物の保存安定性が良好となり、取り扱い性が向上する。
【0075】
[(F)ガラス繊維]
(F)ガラス繊維としては、アスペクト比が3以上の繊維状物質であれば特に限定されない。具体的には、チョップドストランドガラスが挙げられる。
【0076】
(F)ガラス繊維の繊維長は、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5.0mm以下が更に好ましい。繊維長が20mm以下であると、熱硬化性樹脂組成物の成形性が良好であり、硬化物の外観が良好である。繊維長は、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上が更に好ましい。繊維長が0.1mm以上であると、硬化物の強度が良好である。(F)ガラス繊維の平均繊維径は、3~100μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。
【0077】
(F)ガラス繊維の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは10~300質量部であり、より好ましくは40~250質量部であり、更に好ましくは65~210質量部である。(F)ガラス繊維の含有量が10質量部以上であれば、熱硬化性樹脂組成物により得られる成形体の機械的特性がより良好である。(F)ガラス繊維の含有量が300質量部以下であれば、熱硬化性樹脂組成物中で(F)ガラス繊維がより均一に分散し、均質な成形体を製造することができる。
【0078】
[(G)離型剤]
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(G)離型剤を含有してもよい。(G)離型剤としては、特に限定されず、本発明の技術分野において公知のものを用いることができる。(G)離型剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、シリコーンオイル、合成ワックス等が挙げられる。(G)離型剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
(G)離型剤を使用する場合の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して0.1~40質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましく、8~25質量部であることが更に好ましい。(G)離型剤の含有量が0.1質量部以上であれば、型成形をした際の硬化物の離型性が良好で製品の生産性が良好となる。一方、(G)離型剤の含有量が40質量部以下であれば、過剰な離型剤が硬化物の表面を汚染することなく、外観が良好な硬化物を得ることができる。
【0080】
[(H)難燃剤]
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(H)難燃剤を含有してもよい。本開示において(H)難燃剤とは、有機難燃剤を意味し、公知の有機難燃剤を制限なく使用することができる。具体例としては、例えば、リン酸エステル等のリン系難燃剤、メラミン等の窒素系難燃剤が挙げられる。本開示においては、(H)難燃剤が、後述する任意成分である(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物にも該当する場合は、(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物として扱うものとする。(H)難燃剤を使用する場合の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して50~400質量部であることが好ましく、80~350質量部であることがより好ましく、100~300質量部であることが更に好ましい。(H)難燃剤の含有量が50質量部以上であれば、水酸化マグネシウムと併用することによる難燃性向上効果が得られる。一方、(H)難燃剤の含有量が400質量部以下であれば、熱硬化性樹脂組成物の流動性といった他の特性低下を招くこともない。
【0081】
[(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物]
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物を含有してもよい。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物は、エチレン性不飽和基とリン酸エステル構造を有する化合物であれば、特に限定されない。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物を用いることにより、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の金属に対する接着力が良好となる。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物は、例えば、リン酸、ポリリン酸、五酸化リン、オキシ塩化リン等のリン化合物と、エチレン性不飽和基を有し、かつ、アルコール性水酸基又はエポキシ基を有する有機化合物とを、エステル化反応させることにより得ることができる。
【0082】
エチレン性不飽和基を有し、かつ、アルコール性水酸基又はエポキシ基を有する有機化合物としては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、エチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、n-ブチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、2-エチルヘキシル-α-ヒドロキシメチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びこれらのアルキレンオキサイド付加物、グリシジル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリレート;アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール等の不飽和アルコール及びこれらのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。中でも接着強度の観点から、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、エチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、n-ブチル-α-ヒドロキシメチルアクリレート、2-エチルヘキシル-α-ヒドロキシメチルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、強度及び分散性に影響する他のエチレン性不飽和単量体との組み合わせの観点から、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0083】
(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物は、接着性、及び樹脂に対する分散性の観点から、モノエステル体及びジエステル体から選択される一種以上であることが好ましく、エチレン性不飽和基を1つ又は2つ有する化合物であることがより好ましい。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物は、接着性、及び樹脂に対する分散性の観点から、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するリン酸エステルであることが好ましい。このような化合物の具体例としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシッドホスフェート等が挙げられる。
【0084】
(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物を使用する場合の(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物の含有量は、(A)熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1~70質量部であることが好ましく、0.8~50質量部であることがより好ましく、1~30質量部であることが更に好ましく、5~30質量部であることが更に好ましい。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物の含有量が0.1質量部以上であると、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の金属への接着力が良好である。(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物の含有量が70質量部以下であると、成形時の金型からの離型性が良好である。なお、(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物は、難燃剤としても用いることができるが、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の金属に対する接着力向上を目的とする配合量は、難燃性付与を目的とする配合量に比べて少量である。
【0085】
[その他の添加剤]
熱硬化性樹脂組成物は、上記の成分に加えて、減粘剤(粘度調整剤)、着色剤、重合禁止剤、成形助剤等の本発明の技術分野において公知の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲において含むことができる。
【0086】
減粘剤は、熱硬化性樹脂組成物に配合することで減粘効果を示す化合物である。例えば、ビックケミー株式会社より湿潤分散剤として市販されているBYK-W9011が挙げられる。減粘剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。減粘剤の添加量は、熱硬化性樹脂組成物に要求される取り扱い性、流動性等に応じて適宜調整することができる。
【0087】
着色剤は、硬化物を着色する場合等に用いられる。着色剤としては、各種の染料、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。着色剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。着色剤の添加量は、硬化物に所望される着色度合いによって適宜調整することができる。
【0088】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、t-ブチルハイドロキノン、カテコール、p-t-ブチルカテコール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどが挙げられる。重合禁止剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。重合禁止剤の添加量は、熱硬化性樹脂組成物の保管環境及び期間、硬化条件等に応じて適宜調整することができる。
【0089】
〈熱硬化性樹脂組成物の製造方法〉
熱硬化性樹脂組成物は、(A)熱硬化性樹脂、(B)エチレン性不飽和単量体、(C)低収縮剤、(D)無機充填材、(E)熱重合開始剤、及び(F)ガラス繊維と、必要に応じて、任意成分である(G)離型剤、(H)難燃剤、(I)エチレン性不飽和基含有リン酸エステル化合物、及びその他の添加剤を混合することにより製造することができる。
【0090】
混合方法としては、例えば、混練が挙げられる。混練方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、ディスパー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混練温度は、好ましくは5℃~50℃であり、より好ましくは10~40℃である。
【0091】
熱硬化性樹脂組成物を製造する際の各成分を混合する順番については、特に制限はない。例えば、(A)熱硬化性樹脂と、(B)エチレン性不飽和単量体の一部又は全部を混合した後に他の成分を混合すると、各成分が十分に分散、あるいは均一に混合された熱硬化性樹脂組成物が得られやすいため好ましい。(B)エチレン性不飽和単量体の少なくとも一部が、溶媒、分散媒等として作用するように、(A)熱硬化性樹脂と予め混合されていてもよい。
【0092】
〈硬化物の製造方法〉
熱硬化性樹脂組成物は、加熱することにより硬化させることができる。熱硬化性樹脂組成物を硬化させる条件は、用いる材料、及び(E)熱重合開始剤の分解温度によって適宜設定することができる。好ましい条件の一例としては、温度120~180℃、より好ましくは温度120℃~160℃及び硬化時間1~30分である。
【0093】
〈成形品の製造方法〉
熱硬化性樹脂組成物を、所望の形状に成形して加熱することによって、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品を製造することができる。成形及び硬化方法としては、特に限定されず、本発明の技術分野において通常行われる方法、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、及び射出成形を用いることができる。
【0094】
より具体的な熱硬化性樹脂組成物の成形及び硬化方法としては、例えば、金型を開き、金型内に熱硬化性樹脂組成物を注ぎ込み、硬化させる方法、金型内を減圧下、又は射出成形に代表されるような、金型の外側から圧力をかけた状態で、スプルー等の金型に設けられた孔を通じて、閉じた金型内に外部から熱硬化性樹脂組成物を注入し、硬化させる方法が挙げられる。金型内で熱硬化性樹脂組成物を硬化させる条件は、用いる材料によって適宜設定することができる。好ましい条件の一例としては、温度120~180℃、より好ましくは温度120℃~160℃、及び硬化時間1~30分である。
【0095】
一実施形態では、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気電子部品が提供される。電気電子部品は、例えば、電気電子部品の構成部品を熱硬化性樹脂組成物によって封入し、該熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化することによって製造することができる。電気電子部品の構成部品の封入は、例えば、内部に構成部品を有する筐体内に、熱硬化性樹脂組成物を注入することによって行うことができる。
【実施例0096】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
(A)熱硬化性樹脂の合成例を以下に示す。
【0098】
[合成例1](A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成
温度計、撹拌機、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を備えた4つ口フラスコに、無水マレイン酸(株式会社日本触媒製)1.72kg(17.5モル)と、プロピレングリコール(アーク株式会社製)0.67kg(8.8モル)と、ネオペンチルグリコール(株式会社LG化学製)0.91kg(8.8モル)とを仕込んだ。窒素ガス気流下で加熱撹拌しながら200℃まで昇温してエステル化反応を8時間行った。反応液を160℃まで冷却した後、グリシジルメタクリレート(日油株式会社製)0.21kg(1.5モル)とジアザビシクロウンデセン0.003kg(東京化成工業株式会社製)を添加し、30分間反応させた。反応終了後、スチレンモノマーを、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンモノマーの合計に対して40質量%となるように添加し、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価1.4mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0099】
[合成例2](A-1-2)不飽和ポリエステル樹脂の合成
グリシジルメタクリレートとジアザビシクロウンデセンの添加をしなかった以外は上記(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成と同様の工程により不飽和ポリエステル樹脂を得た後、スチレンモノマーを、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンモノマーの合計に対して43.5質量%となるように添加し、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価16.0mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0100】
[合成例3](A-1-3)不飽和ポリエステル樹脂の合成
グリシジルメタクリレートの添加量を0.28kg(2.0モル)に変更した以外は上記(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成と同様の工程により、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価1.0mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0101】
[合成例4](A-1-4)不飽和ポリエステル樹脂の合成
グリシジルメタクリレートの添加量を0.14kg(1.0モル)に変更した以外は上記(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成と同様の工程により、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価2.5mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0102】
[合成例5](A-1-5)不飽和ポリエステル樹脂の合成
グリシジルメタクリレートの添加量を0.11kg(0.8モル)に変更した以外は上記(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成と同様の工程により、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価4.1mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0103】
[合成例6](A-1-6)不飽和ポリエステル樹脂の合成
グリシジルメタクリレートの添加量を0.09kg(0.6モル)に変更した以外は上記(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂の合成と同様の工程により、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和度100モル%、酸価8.2mgKOH/g、重量平均分子量10,000であった。
【0104】
その他成分としては、以下のものを用いた。
【0105】
(B)エチレン性不飽和単量体:
・スチレン(出光興産株式会社製)
・エチレングリコールジメタクリレート(昭和電工マテリアルズ株式会社製)
【0106】
(C)低収縮剤:
・リゴラック(登録商標)M-5561(ポリメチルメタクリレート、昭和電工株式会社製)
・アサプレン(登録商標)T-411G(スチレン-ブタジエンゴム、旭化成株式会社製、スチレン/ブタジエン比=30/70、比重0.95)
【0107】
(D)無機充填材:
・マグシーズEP2-A(水酸化マグネシウム、平均粒子径1.0μm、神島化学工業株式会社製)及びマグシーズEP3-A(水酸化マグネシウム、平均粒子径7.1μm、神島化学工業株式会社製)の混合物
・ソフトン1200BM(炭酸カルシウム、平均粒子径1.8μm、備北粉化工業株式会社製)
・B103(水酸化アルミニウム、平均粒子径7μm、日本軽金属株式会社製)
・スターマグSL-WR(酸化マグネシウム、平均粒子径8.6μm、神島化学工業株式会社製)
・マグサーモ(登録商標)MS-PS(無水炭酸マグネシウム、平均粒子径15μm、神島化学工業株式会社製)
【0108】
(E)熱重合開始剤:
・パーヘキシル(登録商標)I(t-へキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、日油株式会社製)
【0109】
(F)ガラス繊維:
・ガラスチョップ(繊維長3.0mm、繊維径13μm、日本電気硝子株式会社製)
【0110】
(G)離型剤:
・ステアリン酸カルシウム(日油株式会社製)
【0111】
(H)難燃剤:
・ラビトル(登録商標)FP-110(リン系難燃剤、株式会社伏見製薬所製)
・Exolit(登録商標)OP935(リン系難燃剤、CLARIANT社製)
【0112】
その他の添加剤
・BYK-W9011(粘度調整剤、ビックケミー株式会社製)
【0113】
<実施例1>
(熱硬化性樹脂組成物の作製)
(A)熱硬化性樹脂及び(B)エチレン性不飽和単量体として合成例1で得た(A-1-1)不飽和ポリエステル樹脂とスチレンとの混合物167質量部(不飽和ポリエステル樹脂100質量部、スチレン67質量部)、(B)エチレン性不飽和単量体としてスチレンを更に10質量部(熱硬化性樹脂組成物中のスチレン総含有量は77質量部)、エチレングリコールジメタクリレートを21質量部、(C)低収縮剤としてポリメチルメタクリレートを42質量部とスチレン-ブタジエンゴムを29質量部、(D)無機充填材として水酸化マグネシウムを499質量部と炭酸カルシウムを257質量部、(E)熱重合開始剤としてパーヘキシル(登録商標)Iを9質量部、(F)ガラス繊維としてガラスチョップを76質量部、(G)離型剤としてステアリン酸カルシウムを23質量部、その他添加剤としてBYK-W9011(粘度調整剤)を30質量部双腕式ニーダー(株式会社森山製作所製)に投入し、30分間30℃にて混練し熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0114】
(粘度変化率)
フローテスター粘度測定機(測定機:株式会社島津製作所製CFT-500D)にて熱硬化性樹脂組成物の作製後23℃で1日(24時間)大気雰囲気下で保管後と23℃で8日(168時間)大気雰囲気下で保管後に熱硬化性樹脂組成物の粘度(それぞれη1及びη8)を測定した。具体的には、直径1.2mm、厚さ10mmのダイスを備え、90℃に加熱したシリンダー試料挿入孔に、所定時間保管後の熱硬化性樹脂組成物を入れ、60秒の予備加熱後に5MPaの圧力でピストンを加圧し、熱硬化性樹脂組成物をダイのノズルから流出させ、時間とストロークの関係について直線性が良好な個所から熱硬化性樹脂組成物の粘度を求め、以下の式により粘度変化率を算出した。結果を表1に示す。粘度変化率が150%以下であると保存安定性は良好と判断できる。
粘度変化率=(η8/η1)×100(%)
【0115】
(難燃性)
原料として作製後の熱硬化性樹脂組成物を、成形機として100t油圧成形機(斉藤産業株式会社製)を用い、成形温度150℃、成形圧力10MPa、成形時間5分の条件で圧縮成形により330mm×220mm×厚さ3mmの平板を成形し、125mm×13mm×3mmのテストピースを切り出し、UL-94規格に準拠して燃焼試験を行った。結果を表1に示す。難燃性の高い順にV-0、V-1、HBであり、V-0又はV-1であると、難燃性は良好と判断できる。
【0116】
(曲げ強さ及び曲げ弾性率の保持率の算出)
作製後の熱硬化性樹脂組成物を、成形機として100t油圧成形機(斉藤産業株式会社製)を用い、成形温度150℃、成形時間3分、成形圧力10MPaの条件で成形することにより、評価用の試験片として厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの硬化物を得た。作製後の試験片、及び作製した試験片をギヤオーブンW-511(株式会社東洋精機製作所製)にて220℃の大気雰囲気下で250時間加熱後、23℃、50%RHにて24時間放置した後の試験片を用いて、オートグラフAG-X 100kN(株式会社島津製作所製)にて、JIS K6911:1995に準じた試験をそれぞれ実施することにより、試験片作製後の曲げ強さ(S1)及び曲げ弾性率(E1)、並びに作製した試験片を220℃で250時間加熱した後の曲げ強さ(S2)及び曲げ弾性率(E2)をそれぞれ測定し、以下の式により曲げ強さ及び曲げ弾性率の保持率を算出した。結果を表1に示す。曲げ強さ保持率、曲げ弾性率保持率とも70%以上であると耐熱性は良好と判断できる。
曲げ強さ保持率=(S2/S1)×100(%)
曲げ弾性率保持率=(E2/E1)×100(%)
【0117】
<実施例2~7、比較例1~8>
原材料の種類及び組成を表1に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を作製した。(A)熱硬化性樹脂の希釈に用いたスチレンは、(A)成分の配合量からは除いて、(B)エチレン性不飽和単量体の配合量に合算して記載した。次いで、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
【0119】
実施例2、6、及び7より、(A)熱硬化性樹脂として使用する不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/g以下であると、酸価の上昇に伴う粘度変化率の上昇は多少あるものの、粘度変化率は140%以下と低く良好である。一方で、酸価が4.1mgKOH/gの不飽和ポリエステル樹脂を使用する比較例1では、粘度変化率は400%近くまで高くなっている。このように、使用する不飽和ポリエステル樹脂の酸価が2.5mgKOH/gを超えると急激に粘度変化率が高くなる、すなわち、熱硬化性樹脂組成物としての保存安定性が急激に低下することがわかる。実施例1~5、及び7より、酸価が2.5mgKOH/g以下である不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を使用することにより、耐熱性、及び難燃性が良好な成形体が得られることが示される。なお、実施例6については粘度変化率以外の特性を評価してはいないが、実施例2、及び7と同等の耐熱性、及び難燃性を有することが十分示唆される。(D)無機充填材として水酸化マグネシウムとその他の無機充填材とを同量併用した比較例4では、難燃性が不十分であった。(D)無機充填材として水酸化マグネシウム以外のマグネシウム含有粒子(酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウム)又は他の金属含有粒子(炭酸カルシウム、又は水酸化アルミニウム)を単独で使用した比較例5~8では、難燃性、及び耐熱性のいずれかが不十分であった。
本発明によれば、保存安定性が良好であり、かつ、耐熱性、及び難燃性が良好な硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物が提供される。さらに、本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む成形品、具体的には熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む電気電子部品が提供される。熱硬化性樹脂組成物は、電気電子部品の封止材として好ましく用いることができる。