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特開2024-66904硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置
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  • 特開-硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066904
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240509BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240509BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240509BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
H01M10/0562
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176693
(22)【出願日】2022-11-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 則史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直樹
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ03
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】安定して均質な硫化物系固体電解質を合成できる硫化物系固体電解質の製造方法及び硫化物系固体電解質の製造装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、加熱炉の槽に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記加熱溶融により融液を得て、前記槽内において、前記融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くすることを含む、硫化物系固体電解質の製造方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉の槽に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記加熱溶融により融液を得て、前記槽内において、前記融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くすることを含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記加熱炉外へ排出することを連続的に行う、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記槽における前記融液の深さは50mm以上である、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は700℃以上である、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は前記融液の前記液面側の温度より10℃以上高い、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項6】
硫黄元素を含むガスを前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項7】
硫黄元素を含む固体を前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽とを有し、
前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記追加槽から前記加熱炉外に排出することを連続的に行い、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くなるように制御する、請求項1~7のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項9】
硫化物系固体電解質原料を硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するための槽及び加熱部を備えた加熱炉と、
前記加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くするように前記加熱部の発熱量を制御する制御部とを備える、硫化物系固体電解質の製造装置。
【請求項10】
前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽と、前記槽内の前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための前記加熱部と、前記追加槽内の前記融液を加熱するための追加加熱部とを有し、
前記制御部は、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くするように前記加熱部の発熱量及び前記追加加熱部の発熱量を制御する、請求項9に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。従来、リチウムイオン二次電池においては液体の電解質が使用されてきた。一方で、安全性の向上や高速充放電、ケースの小型化等が期待できる点から、近年、固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として用いる全固体型リチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
全固体型リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質として、例えば硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0004】
硫化物系固体電解質の合成方法として、硫化物系固体電解質原料を加熱溶融して融液を調製し、これを冷却固化する方法が挙げられる。かかる方法においては、加熱中に硫黄成分が揮発し、組成制御が困難となる場合があることが知られている。
【0005】
これに対し、特許文献1には、硫化物系リチウムイオン導電性固体電解質の各構成化合物を、所定の化学量論比に混合した後、この混合物を硫黄の過剰状態下で加熱溶融する硫化物系リチウムイオン導電性固体電解質の製造法が記載されている。かかる方法によれば、構成化合物中の硫黄を減少させることなくこれらを反応させることができ、目的の化学組成を有し、イオン導電率に優れた硫化物リチウムイオン導電性固体電解質を得ることができるとされている。
【0006】
特許文献2には、原料供給部から供給された原料を圧縮する圧縮部等を備える固体電解質ガラスの製造装置が記載されている。当該製造装置によれば、組成ずれを抑制すること及び生産性を向上させることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-115911号公報
【特許文献2】特開2012-096973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、生産量を増やし融液量が増える際に融液の表面で補填された硫黄成分が全体に均質に拡散しにくく、安定して均質な硫化物系固体電解質を得ることが難しい。
特許文献2に記載の製造装置は、構造が複雑であり安定して均質な硫化物系固体電解質を得ることは難しく、また、大量生産にも適していない。
【0009】
そこで本発明は、安定して均質な硫化物系固体電解質を合成できる硫化物系固体電解質の製造方法及び硫化物系固体電解質の製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法において、融液の下部の温度を融液上部の温度よりも高い状態に制御することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の1~10に関する。
1.加熱炉の槽に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記加熱溶融により融液を得て、前記槽内において、前記融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くすることを含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
2.前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記加熱炉外へ排出することを連続的に行う、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
3.前記槽における前記融液の深さは50mm以上である、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
4.前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は700℃以上である、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
5.前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は前記融液の前記液面側の温度より10℃以上高い、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
6.硫黄元素を含むガスを前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
7.硫黄元素を含む固体を前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
8.前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽とを有し、
前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記追加槽から前記加熱炉外に排出することを連続的に行い、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くなるように制御する、前記1~7のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
9.硫化物系固体電解質原料を硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するための槽及び加熱部を備えた加熱炉と、
前記加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くするように前記加熱部の発熱量を制御する制御部とを備える、硫化物系固体電解質の製造装置。
10.前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽と、前記槽内の前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための前記加熱部と、前記追加槽内の前記融液を加熱するための追加加熱部とを有し、
前記制御部は、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くするように前記加熱部の発熱量及び前記追加加熱部の発熱量を制御する、前記9に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定して均質な硫化物系固体電解質を合成できる硫化物系固体電解質の製造方法及び硫化物系固体電解質の製造装置を提供できる。さらに、本製造方法は生産性にも優れる。また、本製造方法によれば得られる硫化物系固体電解質の品質を安定させられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本製造方法の一態様を例示するフローチャートである。
図2図2は、本製造方法の一態様を例示するフローチャートである。
図3図3は、本製造方法及び本製造装置の一態様を模式的に例示する図である。
図4図4は、本製造方法及び本製造装置の一態様を模式的に例示する図である。
図5図5は、本製造方法及び本製造装置の一態様を模式的に例示する図である。
図6図6は、シミュレーションに用いた解析モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の装置等のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0015】
(硫化物系固体電解質の製造方法)
本発明の実施形態に係る硫化物系固体電解質の製造方法(以下、本製造方法ともいう)は、加熱炉の槽(第1槽)に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記加熱溶融により融液を得て、前記槽(第1槽)内において、前記融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くすることを含む。
【0016】
図1は、本製造方法の一態様を例示するフローチャートである。本製造方法は例えば、加熱炉の槽において、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するステップS11と、上記槽内において、加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くなるように制御するステップS12とを含む。なお、ステップS11及びS12は例えば並行して行われてもよい。
【0017】
後に詳述するが、本製造方法において、加熱炉は硫化物系固体電解質原料が供給される上記槽と、この槽で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽とを有してもよい。図2は、この場合の本製造方法の一態様を例示するフローチャートである。本製造方法は例えば、加熱炉の槽において、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するステップS21と、上記槽に硫化物系固体電解質原料を供給すること及び融液を追加槽から加熱炉外に排出することを連続的に行うステップS22と、上記槽内において、加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くなるように制御するステップS23と、加熱炉の追加槽内の融液の温度を第1槽内の融液の最低温度よりも高くなるように制御するステップS24とを含む。なお、ステップS21~S24は例えば並行して行われてもよい。
【0018】
以下、本製造方法について、本発明に用いられる硫化物系固体電解質の製造装置(以下、本製造装置ともいう)の一例とともに説明する。なお、本明細書において、加熱炉の硫化物系固体電解質原料が供給され、硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する槽を第1槽という場合があり、当該槽(第1槽)内の硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための加熱部を第1加熱部という場合がある。また、加熱炉が上記追加槽を有する場合、当該追加槽を第2槽という場合があり、当該追加槽(第2槽)内の融液を加熱するための追加加熱部を第2加熱部という場合がある。
【0019】
本製造装置の一態様は、硫化物系固体電解質原料を硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するための槽(第1槽)及び加熱部(第1加熱部)を備えた加熱炉と、加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くするように加熱部(第1加熱部)の発熱量を制御する制御部とを備える。
【0020】
図3は、本製造方法及び本製造装置の一態様を模式的に例示する図である。図3において、硫化物系固体電解質の製造装置100は加熱炉1を有し、加熱炉1は、硫化物系固体電解質原料を硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するための第1槽10及び第1加熱部を備える。また、製造装置100は、第1槽内において加熱溶融により得られる融液11の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くするように第1加熱部の発熱量を制御する制御部CTLを備える。図3における製造装置100は、第1加熱部として、加熱部5a、5b及び5cを備える。
【0021】
加熱炉1の第1槽10は、被加熱物、すなわち本製造方法の場合硫化物系固体電解質原料が加熱溶融される加熱室である。本製造方法においては、第1槽10に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する。硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するために、第1槽10は硫黄源供給部23を備えてもよい。
【0022】
製造装置100は、第1槽10内において加熱溶融により得られる融液11の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くするように第1加熱部の発熱量を制御する制御部CTLを備える。図3に例示される態様では、製造装置100は第1加熱部として、第1槽10を加熱可能な加熱部5a、5b及び5cを備える。加熱部5a、5b及び5cは例えば、それぞれ独立して発熱量を制御可能な加熱手段であってもよく、制御部によってそれぞれの発熱量が制御される。具体的には例えば、制御部により、第1槽側面の比較的上部側に配置された加熱部5aにより主に加熱される融液の温度より第1槽側面の比較的下部側に配置された加熱部5bや第1槽底面側に配置された加熱部5cにより主に加熱される融液の温度が高くなるように各加熱部の発熱量を制御することで、第1槽10内における融液11の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くできる。このように、第1槽10内において融液11の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くできるものであれば、制御部の具体的態様は特に限定されず、公知の構成を採用できる。例えば、制御部は図示しない入力部を有し、第1加熱部の発熱量を制御するための信号等を第1加熱部に送信可能な公知の手段により第1加熱部と接続される。制御部は、入力部から入力される各加熱部の設定温度や設定発熱量等の指示に基づいて各加熱部の発熱量を制御するための信号を出力し、各加熱部の発熱量を制御することで、融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くする。なお、製造装置全体として上述の制御が可能であれば、制御部の数は1つであってもよく、複数であってもよい。
【0023】
第1加熱部の具体的態様も特に限定されず、加熱部5a、5b及び5cは例えば、加熱炉1に備えられるヒーター、高周波誘導加熱装置等、公知の加熱手段であってよい。なお、ヒーターとしては例えば、カンタルヒーター、カーボンヒーター、SiCヒーター等の発熱材に電流を流して対象物を加熱するヒーター、ハロゲンヒーター等の輻射加熱を行うヒーター等が例示される。
【0024】
本発明者らは、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法において、融液の下部の温度を融液の上部の温度よりも高い状態に制御することで、安定して均質な硫化物系固体電解質を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する場合、融液の液面が硫黄元素を含むガス雰囲気に接することで、硫黄成分が導入される。一方で、従来は課題として認識されていなかったものの、硫化物系固体電解質(原料)の融液においては、深さ方向に硫黄成分が拡散しにくく、硫黄元素を含むガス雰囲気に接する融液の液面側に硫黄成分が導入されても、当該雰囲気に接しない融液の比較的底部側の部分では硫黄成分が導入されにくいことがわかってきた。これに対し、本製造方法では、第1槽内において、融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くすることで、第1槽底部側の融液の比重がより小さくなり、融液の上部側へと移動する。これにより、融液中に循環が生じ、融液が硫黄元素を含むガス雰囲気と効率的に接触することとなる。そのため、融液の全体に均質に硫黄成分が導入され、得られる硫化物系固体電解質も均質になると考えられる。また、融液への硫黄導入を効率的に行えるため、生産性に優れる。さらに、硫化物系固体電解質において、硫黄成分の不足はリチウムイオン伝導率を低下させ、その品質を低下させ得る。一方で、本製造方法によれば融液の全体に適切な量の硫黄を導入できるため、得られる硫化物系固体電解質の品質も安定したものとなる。
【0025】
なお、炉内に撹拌翼等の部材を導入し、撹拌することで融液を循環させることも考えられるものの、かかる部材を導入する場合には一般に、炉内に回転軸を備える部材が導入されることとなる。この場合、炉内で成分が揮発したり、ガスを導入したりする系においては軸部からのガスリークを考慮した装置設計やメンテナンスの必要が生じ、安定的な生産が難しくなる。一方で、本製造方法及び本製造装置によれば、炉体を封止した状態で加熱溶融でき、より安定的に均質な硫化物系固体電解質を製造できる。
【0026】
図4は、本製造方法及び本製造装置の別の一態様を模式的に例示する図である。図4に示される製造装置200において、第1槽10は原料供給部21と、排出部25とを備える。このように、本製造方法及び本製造装置において、第1槽は硫化物系固体電解質原料を槽内に供給するための原料供給部や融液を加熱炉外に排出するための排出部を適宜備えてもよい。排出部の具体的な態様は特に限定されないが、例えば、第1槽内の壁部や底部に開口部(通り部)を備える形態や、加熱炉外へ連通可能な管(ノズル)が配置される形態が挙げられる。図3に例示される製造装置100では、例えば予め第1槽10に供給された硫化物系固体電解質原料を加熱溶融し、加熱溶融の終了後に得られた硫化物系固体電解質を回収して、いわゆるバッチ式で加熱溶融を行うことが考えられる。一方で、図4に例示されるように、第1槽10での加熱溶融を行いながら、原料供給部21から硫化物系固体電解質原料を供給すること及び排出部25から融液を加熱炉外に排出することを連続的に行って、連続的に加熱溶融を行ってもよい。すなわち本製造方法において連続的に加熱溶融を行う場合、加熱炉の槽(第1槽)に硫化物系固体電解質原料を供給すること及び融液を加熱炉外へ排出することを連続的に行うことが好ましい。
【0027】
なお、図4に例示される製造装置100において、硫黄源供給部23のみならず原料供給部21からも硫黄源(硫黄元素を含むガス又は固体等)を供給してもよい。また、原料供給部21及び硫黄源供給部23の両方を兼ねるように、原料及び硫黄源(硫黄元素を含むガス又は固体等)を供給可能な部分を第1槽10に設け、当該部分から原料及び硫黄源の供給を行ってもよい。この場合、第1槽において原料及び硫黄源を供給可能な部分は1箇所のみであってもよい。
【0028】
本製造方法において、加熱炉は、硫化物系固体電解質原料が供給される槽(上述の第1槽)と、この槽(第1槽)で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽(第2槽)とを有し、槽(第1槽)に硫化物系固体電解質原料を供給すること及び融液を追加槽(第2槽)から加熱炉外に排出することを連続的に行い、追加槽(第2槽)内の融液の温度を槽(第1槽)内の融液の最低温度よりも高くなるように制御することが好ましい。
【0029】
またこの場合、本製造装置において、加熱炉は、硫化物系固体電解質原料が供給される槽(上述の第1槽)と、この槽(第1槽)で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽(第2槽)と、槽(第1槽)内の硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための加熱部(第1加熱部)と、追加槽(第2槽)内の前記融液を加熱するための追加加熱部(第2加熱部)とを有し、
制御部は、追加槽(第2槽)内の融液の温度を槽内の融液の最低温度よりも高くするように加熱部(第1加熱部)の発熱量及び追加加熱部(第2加熱部)の発熱量を制御することが好ましい。
【0030】
図5は、加熱炉が追加槽(第2槽)を備える場合の本製造方法及び本製造装置の一態様を模式的に例示する図である。図5に示される製造装置300において、加熱炉1は硫化物系固体電解質原料が供給される第1槽10と、第1槽10で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液が供給される第2槽20と、第1槽10内の硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための第1加熱部と、第2槽20内の融液を加熱するための第2加熱部とを有する。加熱炉1は例えば、第1槽10で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液を第2槽20に供給するために、第1槽10及び第2槽20の間を融液が通過可能な通過部7を備えてもよい。また、第1槽に硫化物系固体電解質原料を供給すること及び融液を第2槽から加熱炉外に排出することを連続的に行うために、加熱炉1は、第2槽20に設けられた、融液を加熱炉外に排出させる排出部25を有してもよい。そして、製造装置300は、第2槽内の融液を加熱するための第2加熱部を備える。図5に例示される構成では第2加熱部は加熱部6aと加熱部6bとから構成される。第2加熱部は、例えば第1加熱部から独立して発熱量を制御可能な加熱手段であればよく、制御部によってそれぞれの発熱量が制御される。図5に例示される構成において、制御部は、第1加熱部及び第2加熱部の発熱量を制御するための信号等を各加熱部に送信可能な公知の手段により各加熱部と接続される。そして、第1槽における融液11の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くするように第1加熱部の発熱量を制御するとともに、第2槽内の融液の温度を槽内の融液の最低温度よりも高くするように第1加熱部の発熱量及び第2加熱部の発熱量を制御する。なお、第1槽の融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くする場合と同様に、例えば入力部から入力される各加熱部の設定温度や設定発熱量等の指示に基づいて各加熱部の発熱量を制御するための信号を出力し、各加熱部の発熱量を制御することで、制御部は第2槽内の融液の温度を第1槽内の融液の最低温度よりも高くできる。
【0031】
図4に例示される製造装置200を用いて連続的に加熱溶融を行う場合、融液の排出に伴って、硫化物系固体電解質原料を第1槽内に連続的に供給することとなる。この場合、融液の循環による本発明の効果は得られるものの、第1槽に供給されてから十分に反応が進んでいない状態の融液が排出部から排出されるおそれがある。これに対し、図5に例示するように、第1槽と通過部を介して連通している第2槽に排出部を設け、第2槽内の融液の温度を第1槽内の融液の最低温度よりも高くすれば、融液は第2槽内の融液と同等かそれ以上に加熱されるまで第2槽に流入しにくい。これにより、十分に加熱された融液が優先的に排出され、十分に反応が進んでいない状態の融液が排出部から排出されることを抑制できる。なお、第1槽及び第2槽の構成は図5に例示されるような、2つの槽を通過部により連通させた形態に限定されず、例えば1つの槽の内部に仕切り部を設けることで実質的に2つの槽及び通過部が形成されたものであってもよい。
【0032】
(硫化物系固体電解質原料)
本製造方法において、硫化物系固体電解質原料(以下、本原料と呼ぶことがある)としては種々の原料を使用できる。
【0033】
本原料としては、市販の硫化物系固体電解質原料を用いてもよく、材料から硫化物系固体電解質原料を製造したものを用いてもよい。また、これらの硫化物系固体電解質原料にさらに公知の前処理を施してもよい。すなわち、本製造方法は、本原料を製造する工程や、本原料に前処理を施す工程を適宜含んでもよい。
【0034】
以下、硫化物系固体電解質原料について具体的に説明する。硫化物系固体電解質原料としては、通常、アルカリ金属元素(R)及び硫黄元素(S)を含む。
【0035】
アルカリ金属元素(R)としては、リチウム元素(Li)、ナトリウム元素(Na)、及びカリウム元素(K)等が挙げられ、なかでも、リチウム元素(Li)が好ましい。アルカリ金属元素(R)としては、アルカリ金属元素単体やアルカリ金属元素を含む化合物等のアルカリ金属元素を含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。なかでも、リチウム元素としては、Li単体やLiを含む化合物等のLiを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0036】
リチウム元素(Li)を含む物質としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム化合物や、金属リチウム等が挙げられる。リチウム元素(Li)を含む物質としては、硫化物材料を得る観点からは、硫化リチウムを用いることが好ましい。
【0037】
硫黄元素(S)としては、S単体やSを含む化合物等のSを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0038】
硫黄元素(S)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リンを含有するその他の硫黄化合物および単体硫黄、硫黄を含む化合物等が挙げられる。硫黄を含む化合物としては、HS、CS、硫化鉄(FeS、Fe、FeS、Fe1-xSなど)、硫化ビスマス(Bi)、硫化銅(CuS、CuS、Cu1-xSなど)が挙げられる。硫黄元素(S)を含む物質は、硫化物材料を得る観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、硫化リンはSを含む物質と、後述するPを含む物質を兼ねる化合物として考えられる。
【0039】
本原料は、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点から、さらにリン元素(P)を含むのが好ましい。リン元素(P)としては、P単体やPを含む化合物等のPを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0040】
リン元素(P)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物および単体リン等が挙げられる。リン元素(P)を含む物質としては、本発明の効果がより発揮されるという観点から、揮散性の高い硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本原料は、例えば上記の物質を、目的とする硫化物系固体電解質の組成に応じて適宜混合することで、混合原料として得てもよい。混合比率は特に限定されないが、例えば、本原料中のアルカリ金属元素(R)に対する硫黄元素(S)のモル比S/Rは、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点から、0.65/0.35以下が好ましく、0.5/0.5以下がより好ましい。また、当該混合原料は、混合に用いる物質に応じた所定の化学量論比で混合して得るのが好ましい。上記混合の方法としては、例えば、乳鉢での混合、遊星ボールミルのようなメディアを用いた混合、ピンミルや粉体撹拌機、気流混合の様なメディアレス混合等が挙げられる。
【0042】
本原料に含まれるアルカリ金属元素及び硫黄元素の好ましい組み合わせの一例として、LiSとPの組み合わせが挙げられる。LiSとPを組み合わせる場合は、LiとPのモル比Li/Pは40/60以上が好ましく、50/50以上がより好ましい。また、LiとPのモル比Li/Pは88/12以下が好ましい。また、LiとPの モル比Li/Pは40/60~88/12が好ましく、50/50~88/12がより好 ましい。PがLiSに対して比較的少なくなるように混合比を調整することで、LiSの融点に対しPの沸点が小さいことによる、加熱処理時の硫黄成分とリン成分の揮散を抑制しやすくなる。
【0043】
一方で、硫化リチウムは高価であるため、硫化物系固体電解質の製造コストを抑える観点からは、硫化リチウム以外のリチウム化合物や、金属リチウム等を用いてもよい。具体的にはこの場合、本原料はLiを含む物質として、金属リチウム、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)からなる群から選ばれる1以上を含むことが好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本原料は、目的とする硫化物系固体電解質の組成に応じて、または添加剤等として、上記の物質の他にさらなる物質(化合物等)を含んでもよい。
【0045】
例えば、F、Cl、BrまたはIなどのハロゲン元素を含む硫化物系固体電解質を製造する場合、本原料はハロゲン元素(Ha)を含むことが好ましい。この場合、本原料はハロゲン元素を含む化合物を含むことが好ましい。ハロゲン元素を含む化合物としてはフッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化ホスホリル、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化ホウ素等が挙げられる。ハロゲン元素を含む化合物としては、原料の反応性の観点からは、ハロゲン化リチウムが好ましく、LiCl、LiBr、LiIがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
なお、ハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属は、Li等のアルカリ金属元素を含む化合物でもある。本原料がハロゲン化アルカリ金属を含む場合、本原料におけるLi等のアルカリ金属元素の一部または全部がハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属に由来するものであってもよい。
【0047】
本原料がハロゲン元素(Ha)およびリン元素(P)を含む場合、本原料中のPに対するHaのモル当量は、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点からは、0.2モル当量以上が好ましく、0.5モル当量以上がより好ましい。また、得られる硫化物系固体電解質の安定性の観点からは、Haのモル当量は4モル当量以下が好ましく、3モル当量以下がより好ましい。
【0048】
得られる硫化物系固体電解質は、その目的に応じて、非晶質の硫化物系固体電解質であってもよく、非晶質相の生成のしやすさを改善する観点からは、本原料がSiS、B、GeS、Al等の硫化物を含むことも好ましい。非晶質相を形成し易くすることで、急冷により非晶質を得る場合に、冷却速度を低下させても、非晶質の硫化物系固体電解質が得られ、設備負荷を軽減できる。
【0049】
また硫化物系固体電解質の耐湿性付与等の観点からは、SiO、B、GeO、Al、P等の酸化物を含むことも好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
なお、上記硫化物や酸化物は本原料に含んでもよいし、本原料を加熱溶融する際に別途添加してもよい。また、上記硫化物や酸化物の添加量は、原料全量に対し0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また添加量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0051】
また、本原料は、後述する結晶核となる化合物を含んでいてもよい。
【0052】
本製造方法は、本原料に揮散性の高い化合物を含む場合に好適に用いられる。揮散性の高い化合物としては、例えば、LiI、B、S、Se、Sb、及びP等が挙げられる。
【0053】
(加熱溶融)
本製造方法において、加熱炉の第1槽に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する。原料の供給は、例えば所定の化学量論比で混合した上述の硫化物系固体電解質原料を、例えば第1槽に設けられた原料供給部から供給することで行える。加熱溶融を連続的に行う場合、硫化物系固体電解質原料の連続的な供給は、定量供給であるのが好ましい。定量供給の方法としては、特に制限されないが、例えば、スクリューフィーダー、テーブルフィーダー、気流搬送等を用いる方法が挙げられる。
【0054】
硫化物系固体電解質原料の加熱溶融は、硫黄元素を含むガス雰囲気下で行う。硫黄元素を含むガス雰囲気下で本原料を加熱溶融することで、融液に硫黄が導入される。これにより、加熱中の硫黄の揮発を抑制できるため、得られる硫化物系固体電解質の組成を適切に制御できる。硫黄元素を含むガスは、例えば、硫黄ガス、硫化水素ガス、二硫化炭素ガス等、硫黄元素を含む化合物又は硫黄単体を含むガスである。
【0055】
加熱炉の槽(第1槽)内に硫黄元素を含むガス雰囲気を形成する方法としては、例えば第1槽に設けられた硫黄源供給部から加熱炉の槽内に硫黄元素を含む成分を導入することが挙げられ、より具体的には、硫黄元素を含むガスを導入すること及び硫黄元素を含む固体を導入することの少なくとも一方が挙げられる。例えば、図3~5における硫黄源供給部23から硫黄元素を含む成分を導入した場合、融液11に接する気体雰囲気部12に硫黄元素を含むガス雰囲気が形成される。
【0056】
硫黄元素を含むガスを導入する方法として、例えば、予め加熱炉外で用意された硫黄元素を含むガスを加熱炉の槽(第1槽)に導入する方法が挙げられる。加熱炉外で硫黄元素を含むガスを用意する方法は特に限定されないが、例えば、加熱炉外で硫黄源を加熱し、硫黄元素を含むガスを得ることが好ましい。
【0057】
硫黄源は加熱により硫黄元素を含むガスが得られる単体硫黄または硫黄化合物であれば特に限定されないが、例えば、単体硫黄、硫化水素、二硫化炭素等の有機硫黄化合物、硫化鉄(FeS、Fe、FeS、Fe1-xSなど)、硫化ビスマス(Bi)、硫化銅(CuS、CuS、Cu1-xSなど)、多硫化リチウム、多硫化ナトリウム等の多硫化物、ポリスルフィド、硫黄加硫処理を施されたゴム等が挙げられる。
【0058】
例えば、これら硫黄源を別途設けられる硫黄源加熱部にて加熱し、硫黄元素を含むガスを発生させ、Nガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスをキャリアガスとして加熱部に搬送することで、硫黄過剰雰囲気部を形成できる。
【0059】
硫黄源を加熱する温度は使用する硫黄源の種類によって適宜選択できる。例えば、硫黄源を加熱する温度は200℃~450℃が好ましく、300℃~400℃がより好ましい。
【0060】
または、硫黄元素を含む固体を導入することによって硫黄元素を含むガス雰囲気を形成してもよい。この場合、硫黄元素を含む固体が加熱炉内で加熱されることによって硫黄元素を含むガスが得られ、硫黄元素を含むガス雰囲気を形成できる。
【0061】
硫黄元素を含む固体としては、例えば単体硫黄、HS、Bi、硫化鉄、硫化銅、CS等の固体の硫黄源が挙げられる。例えばかかる固体の硫黄源を、粉末等の微細な状態でキャリアガスにより加熱炉の槽(第1槽)に気流搬送することで加熱炉の槽内に硫黄元素を含む固体を導入できる。硫黄元素を含む固体の導入は、例えば第1槽に設けられた硫黄源供給部から行ってもよいし、硫化物系固体電解質原料に過剰量の硫黄源を添加することにより行ってもよい。
【0062】
硫黄過剰雰囲気部において、硫黄分圧を10-3~100atmとすることが好ましい。かかる硫黄分圧にすることで、装置が複雑にならず低コストで効率よく硫黄導入ができる。
【0063】
本製造方法は、第1槽内において、加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くすることを含む。これにより、先述の通り、安定して効率的に硫化物系固体電解質を製造できる。本実施形態において、第1槽における融液の底部側の温度は、第1槽底面部に熱電対もしくは保護管付熱電対を挿入することで測定できる。もしくは、第1槽外部底面部に熱電対を取り付けることで測定できる。また、第1槽における融液の液面側の温度は、第1槽内の融液の液面に対し熱電対もしくは保護管付熱電対を挿入することで測定できる。上部から放射温度計にて測定することもできる。第1槽外部側面部における液面部と同高さ位置に熱電対を取り付けることでも測定できる。測定手段は対象箇所の温度を測定可能であればよく、熱電対以外の測温抵抗体等他の手段でも構わない。
【0064】
第1槽における融液の底部側の温度は、液面側の温度より10℃以上高いことが好ましく、25℃以上高いことがより好ましく、50℃以上高いことがさらに好ましい。底部側の温度と液面側の温度との差が大きいほど、融液の循環が起こりやすくなり、本発明の効果を好適に得やすい。一方で、投入原料の均質溶解の観点から、底部側の温度と液面側の温度との差は750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、650℃以下が更に好ましい。底部側の温度と液面側の温度との差は、10~750℃であってもよく、25~700℃であってもよく、50~650℃であってもよい。
【0065】
第1槽における融液の底部側の温度は600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上がさらに好ましい。これにより、硫化物系固体電解質原料の溶融及び融液の循環が好適に行われやすくなる。一方で、底部側の温度は1000℃以下が好ましく、950℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましく、段階的に、850℃以下、800℃以下、750℃以下がよりさらに好ましい。これにより、融液の加熱が過剰となりにくく、融液から脱離する成分量を抑制できる。第1槽における融液の底部側の温度は、600~1000℃であってもよく、650~950℃であってもよく、700~900℃であってもよく、700~850℃、700~800℃又は700~750℃であってもよい。
【0066】
第1槽における融液の液面側の温度は150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。これにより、硫化物系固体電解質原料の溶融が好適に行われやすくなる。一方で、液面側の温度は950℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましく、850℃以下がさらに好ましい。これにより、融液の循環が好適に行われやすくなるとともに、融液の加熱が過剰となりにくく、融液から脱離する成分量を抑制できる。第1槽における融液の液面側の温度は、150~950℃であってもよく、200~900℃であってもよく、250~850℃であってもよい。
【0067】
第1槽における融液の深さは、5cm以上が好ましく、7.5cm以上がより好ましく、10cm以上がさらに好ましい。融液の深さが大きいほど、硫黄が融液内部に拡散しにくくなるため、本発明の効果をより好適に得られる。また、融液量が多くなり、生産性が向上する。融液の深さの上限は特に限定されないが、例えば5m以下であってもよい。
【0068】
先述の通り、本製造方法において、加熱炉は、硫化物系固体電解質原料が供給される槽(上述の第1槽)と、この槽(第1槽)で加熱溶融された硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽(第2槽)とを有し、槽(第1槽)に硫化物系固体電解質原料を供給すること及び融液を追加槽(第2槽)から加熱炉外に排出することを連続的に行い、追加槽(第2槽)内の融液の温度を槽(第1槽)内の融液の最低温度よりも高くなるように制御することが好ましい。これにより、第1槽に供給されてから十分に反応が進んでいない状態の融液が排出部から排出されることを抑制できる。ここで、本実施形態においては、先述した第1槽における融液の液面側の温度を第1槽の最低温度と定義する。また、第2槽内の融液の温度は、第2槽内部に熱電対もしくは保護管付熱電対を挿入することで測定できる。また、第1槽と第2槽の通過部近傍の第2槽外部壁面に熱電対を取り付けることにより測定できる。測定手段は対象箇所の温度を測定可能であればよく、熱電対以外の測温抵抗体等他の手段でも構わない。
【0069】
第2槽内の融液の温度は、第1槽の最低温度より10℃以上高いことが好ましく、25℃以上高いことがより好ましく、50℃以上高いことがさらに好ましい。第2槽の温度と第1槽の最低温度との差が大きいほど、未反応分の融液の排出を抑制する効果を好適に得やすい。一方で、投入原料の均質溶解の観点から、第2槽の温度と第1槽の最低温度との差は750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、650℃以下が更に好ましい。第2槽の温度と第1槽の最低温度との差は、10~750℃であってもよく、25~700℃であってもよく、50~650℃であってもよい。
【0070】
第2槽内の融液の温度は、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上がさらに好ましい。これにより、未反応分の融液の排出を抑制する効果を好適に得やすい。一方で、第2槽内の融液の温度は1000℃以下が好ましく、950℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましく、段階的に、850℃以下、800℃以下、750℃以下がよりさらに好ましい。これにより、融液の加熱が過剰となりにくく、融液から脱離する成分量を抑制できる。第2槽内の融液の温度は、600~1000℃であってもよく、650~950℃であってもよく、700~900℃であってもよく、700~900℃であってもよく、700~850℃、700~800℃又は700~750℃であってもよい。
【0071】
加熱溶融の時間は、特に制限されないが、例えば、0.5時間以上であってもよく、1時間以上であってもよく、2時間以上であってもよい。また、融液中の成分の加熱による劣化や分解が許容できる範囲では加熱溶融の時間は長くてもよい。現実的な範囲としては、100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましく、25時間以下がさらに好ましい。また、連続的に加熱溶融を行う場合において、より長時間連続して加熱溶融が行われてもよい。加熱溶融の時間は、例えば0.5~100時間であってもよく、1~50時間であってもよく、2~25時間であってもよい。
【0072】
加熱溶融時の圧力は特に限定されないが、例えば常圧又は微加圧が好ましく、常圧がより好ましい。
【0073】
加熱溶融時、水蒸気や酸素等との副反応を防ぐ観点から、炉内(各槽内)の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃以上である。炉内(各槽内)の露点は-80~-20℃であってもよい。また酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
【0074】
(冷却工程)
本製造方法は、加熱溶融により得られた融液を冷却して固体を得る工程をさらに含むことが好ましい。冷却は公知の方法で行えばよく、その方法は特に限定されない。加熱溶融工程の後、加熱炉で引き続き冷却を行ってもよいし、加熱炉から融液を取り出して冷却を行ってもよい。加熱炉から融液を取り出して冷却を行う場合、例えば上述の排出部から融液を排出する。
【0075】
冷却のより具体的な方法として、例えば、融液を水冷された部材上に流出させる方法、内部水冷した回転するロール上に流出させ薄片を得る方法、内部水冷した2対のロールで融液を挟み込み薄片を得る方法等が挙げられる。融液を上記方法等で冷却して板状体や薄片を得る場合、冷却効率を向上する観点から、流し出した後の融液及び得られる固体の厚みは比較的薄いことが好ましい。具体的には、厚みは10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。厚みの下限は特に限定されないが、0.01mm以上であってもよく、0.02mm以上であってもよい。狭い隙間に流し込んで薄く成形する場合は、冷却効率が優れており、薄片状のもの、繊維状のもの、粉末状のもの等が得られる。得られた固体は、取り扱いやすい大きさに砕く等して、任意の形状で得られる。中でも、ブロック状の固体で得た方が回収がし易く好ましい。ブロック状とは、板状、薄片状、または繊維状である場合も含む。
【0076】
冷却速度は加熱溶融工程により得られた組成を維持する観点から、0.01℃/秒以上が好ましく、0.05℃/秒以上がより好ましく、0.1℃/秒以上がさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に限定されないが、一般的に急冷速度が早いと言われる双ローラーの冷却速度は10℃/秒以下である。
【0077】
ここで、得られる固体を非晶質の硫化物系固体電解質としたい場合には、加熱溶融により得られた融液を急冷して固体を得ることが好ましい。具体的には、急冷する場合の冷却速度は10℃/秒以上が好ましく、100℃/秒以上がより好ましく、500℃/秒以上がさらに好ましく、700℃/秒以上がよりさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に限定されないが、一般的に急冷速度が早いと言われる双ローラーの冷却速度は10℃/秒以下である。
【0078】
一方で、冷却工程時に徐冷して、固体の少なくとも一部を結晶化し、特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質や結晶相と非晶質相とから構成される硫化物系固体電解質として得ることもできる。徐冷する場合の冷却速度は0.01℃/秒以上が好ましく、0.05℃/秒以上がより好ましい。また、冷却速度は500℃/秒以下が好ましく、450℃/秒以下がより好ましい。冷却速度は10℃/秒未満であってもよく、5℃/秒以下であってもよい。なお、結晶化の条件に応じて適宜冷却速度を調節してもよい。
ここで硫化物系固体電解質に含有される結晶とは、好ましくはイオン伝導性結晶である。イオン伝導性結晶とは、具体的には、リチウムイオン伝導率が10-4S/cmより大きく、より好ましくは10-3S/cmより大きい結晶である。
【0079】
冷却後に得られる固体を、結晶相を含む硫化物系固体電解質としたい場合には、加熱溶融工程で得られる融液に結晶核となる化合物を含有させることが好ましい。これにより、冷却工程において結晶が析出しやすくなる。融液に結晶核となる化合物を含有させる方法は特に限定されないが、例えば原料や原料加熱物に結晶核となる化合物を添加する、加熱溶融中の融液に結晶核となる化合物を添加する等の方法が挙げられる。
【0080】
結晶核となる化合物としては、酸化物、酸窒化物、窒化物、炭化物、他のカルコゲン化合物、ハロゲン化物等が挙げられる。結晶核となる化合物は、融液とある程度の相溶性をもった化合物が好ましい。なお、融液と全く相溶しない化合物は結晶核と成り得ない。
【0081】
冷却後に得られる固体を、結晶相を含む硫化物系固体電解質としたい場合には、融液における結晶核となる化合物の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。一方で、リチウムイオン伝導率の低下を抑制する観点からは、融液における結晶核となる化合物の含有量は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0082】
冷却後に得られる固体を非晶質の硫化物系固体電解質としたい場合には、融液は結晶核となる化合物を含有しないか、その含有量は所定量以下であることが好ましい。具体的には、融液における結晶核となる化合物の含有量は1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。融液における結晶核となる化合物の含有量は0.01質量%未満であってもよい。
【0083】
(再加熱処理)
本製造方法は、融液の冷却において得られた固体が非晶質の硫化物系固体電解質または非晶質相を含む硫化物系固体電解質である場合、当該固体電解質を再加熱処理する工程をさらに含んでもよい。また、硫化物系固体電解質結晶を含む硫化物系固体電解質を再加熱することで、結晶構造内のイオンを再配列させ、リチウムイオン伝導率を高めることもできる。なお、再加熱処理とは、冷却して得られた粉末を結晶化のために加熱処理すること、および結晶構造内のイオンを再配列させることの少なくとも一方をいう。
【0084】
(粉砕)
得られた硫化物系固体電解質に対して、さらに粉砕を行い、更なる微粒化を行ってもよい。粉砕の方法としては、例えば湿式粉砕法が挙げられる。湿式粉砕法の場合、使用する溶媒の種類は特に制限されないが、硫化物系固体電解質は水分と反応して劣化しやすい性質を有することから、非水系有機溶媒を用いるのが好ましい。非水系有機溶媒の種類は特に限定されないが、炭化水素系溶媒、ヒドロキシ基を含有した有機溶媒、エーテル基を含有した有機溶媒、カルボニル基を含有した有機溶媒、エステル基を含有した有機溶媒、アミノ基を含有した有機溶媒、ホルミル基を含有した有機溶媒、カルボキシ基を含有した有機溶媒、アミド基を含有した有機溶媒、ベンゼン環を含有した有機溶媒、メルカプト基を含有した有機溶媒、チオエーテル基を含有した有機溶媒、チオエステル基を含有した有機溶媒、ジスルフィド基を含有した有機溶媒、ハロゲン化アルキル等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエンが挙げられ、飽和水分濃度が低い観点から、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンが好ましい。また、水分濃度を調整する観点から、これら炭化水素系溶媒を、トルエンやジブチルエーテル等と混ぜた混合溶媒とすることも好ましい。硫化物系固体電解質の粉砕時に、硫化物系固体電解質が水と反応してリチウムイオン伝導率が低下することを防ぐ観点から、上記非水系有機溶媒の水分濃度は低い方が好ましい。上記非水系有機溶媒の水分濃度は、例えば、170質量ppm以下であってよく、150質量ppm以下であってよく、120質量ppm以下であってよく、100質量ppm以下であってよい。
【0085】
湿式粉砕法は、例えばボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等の粉砕機を用いて行えばよい。湿式粉砕においては上記溶媒の他、添加剤(分散剤)としてエーテル化合物、エステル化合物又はニトリル化合物を添加してもよい。
【0086】
湿式粉砕を経て得られた硫化物系固体電解質中に溶媒や添加剤が残存している場合は、乾燥工程を行うとよい。乾燥条件としては、例えば温度100℃以上200℃以下としてもよい。乾燥時間については特に限定されるものではなく、例えば10分以上24時間以下としてもよい。また、乾燥工程は減圧下で実施しても良く、例えば絶対圧で50kPa以下であってよい。乾燥工程はホットプレート、乾燥炉、電気炉等を用いて実施できる。
【0087】
(硫化物系固体電解質)
本製造方法で得られる硫化物系固体電解質としては、リチウム元素を含む硫化物系固体電解質が挙げられる。本製造方法で得られる硫化物系固体電解質としては、例えばLi10GeP12等のLGPS型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、LiPSCl、Li5.4PS4.4Cl1.6およびLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8等のアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、Li-P-S-Ha系(Haはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表す)の結晶化ガラス、ならびにLi11等のLPS結晶化ガラス等が挙げられる。
【0088】
硫化物系固体電解質は、その目的に応じて、非晶質の硫化物系固体電解質であってもよく、特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質であってもよく、結晶相と非晶質相とを含む硫化物系固体電解質であってもよい。結晶相は、リチウムイオン伝導率の観点からはアルジロダイト型結晶相であることがより好ましい。
【0089】
リチウムイオン伝導率に優れる硫化物系固体電解質としては、Li-P-S-Haの元素を有する硫化物系固体電解質が好ましく、結晶相を有することがより好ましい。また、かかるハロゲン元素は、ハロゲン元素が塩化リチウム、臭化リチウムおよびヨウ化リチウムからなる群から選ばれる1以上に由来することが好ましい。
【0090】
硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率は、リチウムイオン二次電池に用いた際に電池特性を良好にする観点からは、1.0×10-4S/cm以上が好ましく、5.0×10-4S/cm以上がより好ましく、1.0×10-3S/cm以上がさらに好ましく、5.0×10-3S/cm以上が特に好ましい。上記リチウムイオン伝導率は、交流インピーダンス測定装置(例えば、Bio-Logic Sciences Instruments社製、ポテンショスタット/ガルバノスタット VSP)を用い、測定条件を、測定周波数:100Hz~1MHz、測定電圧:100mV、測定温度:25℃として測定される。
【0091】
得られた硫化物系固体電解質は、X線回折(XRD)測定による結晶構造の解析や、ICP発光分析測定、原子吸光測定およびイオンクロマトグラフィ測定等種々の方法を用いた元素組成の分析により同定できる。例えば、PとSはICP発光分析測定により、Liは原子吸光測定により、Haはイオンクロマトグラフィ測定により測定できる。
【0092】
また、ラマンスペクトル測定を行うことにより、硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価できる。具体的には、得られた硫化物系固体電解質から得られるサンプルについて、任意の2点以上でラマンスペクトル測定を行う。なお、評価の精度を高める観点から、測定点の数は8以上が好ましく、10以上がより好ましい。硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価する際の好ましいラマンスペクトル測定の条件として、例えばスポット径3μm、測定点の数を10とすることが挙げられる。スポット径を3μmとすることで、ラマンスペクトル測定における分析領域が、硫化物系固体電解質の組成の均質性をミクロレベルで評価するのに適した大きさとなる。
【0093】
各測定結果での、PS 3-等、硫化物系固体電解質の構造に由来するピーク波数(ピーク位置)のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。または、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークの半値全幅のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。
【0094】
得られる硫化物系固体電解質の組成にもよるが、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークとして、P-S結合に由来するピークを確認することが好ましい。P-S結合に由来するピークの位置は組成系によって異なるが、典型的には、350cm-1~500cm-1の間に含まれる。以降、本明細書においてピーク位置のばらつきやピークの半値全幅のばらつきとは、P-S結合に由来するピークのうち、最も強度が強いピークについて確認されるものをいう。
【0095】
ピーク位置のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピーク位置の標準偏差を求め、(ピーク位置平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。なお、ここでピーク位置とは、ピークトップの位置のことをいう。例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークのピーク位置の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。
【0096】
ピークの半値全幅のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピークの半値全幅の標準偏差は、それぞれのピークの半値全幅をもとめ、その値の標準偏差を求める方法で算出される。これを(ピーク半値全幅平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。なお、ピークの半値全幅とは、ラマンスペクトルを描いた際に、前記P-S結合由来のピークのピーク強度半分の値と、そのP-S結合由来のピークとが交わる幅のことをここでは指す。例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークの半値全幅の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。
【0097】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、及び改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、及び配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例0098】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1-3~1-5は実施例であり、例1-1、1-2は比較例であり、例2-1~2-5は参考例である。
【0099】
(例1-1~例1-5)
硫黄元素を含むガス雰囲気下で硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する場合を仮定し、各例で融液の液面側の温度及び融液の底部側の温度を表1に示す通り設定した以外は以下の条件及び方法にて、例1-1~例1-5のシミュレーションを行った。このシミュレーションにより、硫黄元素を含むガス雰囲気から融液中に導入される硫黄元素の量を見積もった。なお、以下のシミュレーションでは硫化物系固体電解質の代表的な物性値を使用して条件を設定しており、種々の組成の硫化物系固体電解質において同様の結果が得られると考えられる。
【0100】
(方法)
(1)加熱炉の槽(第1槽)において融液が直径100mm×高さ100mmの円柱領域を占めると仮定して、図6に示すような半円柱形状のモデル(1/2対称モデル)を用い、下記条件及び解析方法にて融液をモデル化した。図6における面Aの温度を融液の液面側の温度(上部温度)として設定し、面Bの温度を融液の底部側の温度(下部温度)として設定した。
(2)融液の液面(面A)に対し以下の反応を計算した。
(硫黄添加前電解質)+S→(硫黄添加電解質)
反応速度:1×硫黄添加前モル濃度=硫黄添加電解質生成モル濃度kmol/m/秒
(3)120秒間の反応計算を行い、反応した融液の濃度に対し以下式から融液に硫黄が添加された量(wt%、平均硫黄添加濃度)を算出した。結果を表1に示す。
0.3×32/266×硫黄添加電解質モル濃度
ここで、硫黄添加電解質モル濃度とは、添加前の電解質に対し、添加後の状態となった電解質が占めるモル濃度を意味する。つまり、融液全体に硫黄が十分に入った飽和状態の硫黄添加電解質モル濃度は1となる。硫黄が添加され飽和状態となると硫黄のモル濃度は0.3増加すると仮定し、添加された硫黄の重量パーセント濃度を計算した式が上記となる。また、硫黄の分子量を32とし、硫化物系固体電解質の分子量を266として計算した。
【0101】
(条件)
・融液の粘性:0.01Pa・s
・融液の比重:以下の式により求められる値とした。
密度(kg/m)=-0.5812×温度(℃)+2236.874699
・融液の熱伝導率:0.620271W/m・K
・反応融液の未反応部への拡散係数:4E-9m/秒
・解析ソフト:starCCM ver2022.1
・乱流モデル:K-ε乱流
・陰解法非定常解析:時間ステップ0.005秒、計算物理時間120秒
なお、「反応融液の未反応部への拡散係数」とは、硫黄成分が添加された融液が、硫黄成分の添加されていない融液中を拡散していく際の速度係数を意味する。
【0102】
【表1】
【0103】
(例2-1~2-5)
LiS(Sigma社製、純度99.98%)、P(Sigma社製、純度99%)、LiCl(Sigma社製、純度99.99%)の各粉末をそれぞれ、1.9:0.5:1.6(mol比)になるように調合した混合原料に対し、表2で示す量の硫黄(Sigma社製、純度99.998%)を加え、750℃にて0.5時間加熱溶融し、例2-1~2-5のアルジロダイト型の結晶を含む硫化物系固体電解質を製造した。得られた硫化物系固体電解質について次の方法でリチウムイオン伝導率を測定した。結果を表2に示す。
(リチウムイオン伝導率評価)
各例の硫化物系固体電解質を粉砕し、平均粒子径10μmの硫化物系固体電解質粉末を得た。この硫化物系固体電解質粉末を380MPaの圧力で圧粉体として測定サンプルとし、交流インピーダンス測定装置(Bio-Logic Sciences Instruments社製、ポテンショスタット/ガルバノスタット VSP)を用いて測定した。測定条件は、測定周波数:100Hz~1MHz、測定電圧:100mV、測定温度:25℃とした。
【0104】
【表2】
【0105】
表1の結果から、実施例である例1-3~1-5では、比較例である例1-1、1-2に比べ融液中の硫黄元素の濃度が大きくなる結果となった。これは、融液の底部側の温度を融液の液面側の温度より高くすることで均一に反応が進行し、硫黄成分が導入される結果、全体として硫黄の添加濃度が大きくなったと考えられる。また、表1によれば、例1-3~1-5では同じ反応時間で導入できる硫黄の量が比較的多く、生産性にも優れる結果となった。
また、表2の結果から、硫化物系固体電解質においては、硫黄の添加濃度が大きくなるのに伴ってリチウムイオン伝導率が大きくなる傾向があることがわかる。したがって、本製造方法により融液中に均一に硫黄成分を導入することで、リチウムイオン伝導率を低下させ得る硫黄成分の不足を抑制でき、得られる硫化物系固体電解質の品質を安定させられる。
【0106】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
1.加熱炉の槽に硫化物系固体電解質原料を供給し、硫黄元素を含むガス雰囲気下で前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記加熱溶融により融液を得て、前記槽内において、前記融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くすることを含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
2.前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記加熱炉外へ排出することを連続的に行う、前記1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
3.前記槽における前記融液の深さは50mm以上である、前記1又は2に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
4.前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は700℃以上である、前記1~3のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
5.前記槽内において、前記融液の前記底部側の温度は前記融液の前記液面側の温度より10℃以上高い、前記1~4のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
6.硫黄元素を含むガスを前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、前記1~5のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
7.硫黄元素を含む固体を前記加熱炉に供給することで前記硫黄元素を含むガス雰囲気を得る、前記1~6のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
8.前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽とを有し、
前記槽に前記硫化物系固体電解質原料を供給すること及び前記融液を前記追加槽から前記加熱炉外に排出することを連続的に行い、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くなるように制御する、前記1~7のいずれか1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
9.硫化物系固体電解質原料を硫黄元素を含むガス雰囲気下で加熱溶融するための槽及び加熱部を備えた加熱炉と、
前記加熱溶融により得られる融液の底部側の温度を前記融液の液面側の温度より高くするように前記加熱部の発熱量を制御する制御部とを備える、硫化物系固体電解質の製造装置。
10.前記加熱炉は、前記硫化物系固体電解質原料が供給される前記槽と、この前記槽で加熱溶融された前記硫化物系固体電解質原料の融液が供給される追加槽と、前記槽内の前記硫化物系固体電解質原料を加熱溶融するための前記加熱部と、前記追加槽内の前記融液を加熱するための追加加熱部とを有し、
前記制御部は、前記追加槽内の前記融液の温度を前記槽内の前記融液の最低温度よりも高くするように前記加熱部の発熱量及び前記追加加熱部の発熱量を制御する、前記9に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
【符号の説明】
【0107】
100、200、300 製造装置
1 加熱炉
10 第1槽(槽)
20 第2槽(追加槽)
11 融液
12 気体雰囲気部
5a、5b、5c 第1加熱部(加熱部)
6a、6b 第2加熱部(追加加熱部)
7 通過部
21 原料供給部
23 硫黄源供給部
25 排出部
CTL 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6