(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066941
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240509BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240509BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240509BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0525
H01M10/0568
H01M4/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176772
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 日香里
(72)【発明者】
【氏名】梅林 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】韓 智海
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ10
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】安定的に繰り返し充放電ができるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、負極と、電解液と、を備え、負極は、グラファイトを含み、電解液は、溶媒と、リチウム塩と、を含み、溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が、65質量%以上である、リチウムイオン二次電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、を備え、
前記負極は、グラファイトを含み、
前記電解液は、溶媒と、リチウム塩と、を含み、
前記溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が、65質量%以上である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、テトラフルオロほう酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、硝酸リチウム、炭酸リチウム、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウム塩の含有量に対する前記1,3-プロパンスルトンの含有量のモル比率は、10以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記溶媒は、前記1,3-プロパンスルトンのみからなる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電が行われる非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、負極、リチウムイオン伝導性有機電解液および正極を備えてなるリチウムイオン二次電池において、1,3-プロパンスルトンを電解液溶媒または電解液溶媒の一部として用いたことを特徴とするリチウム二次電池が記載されている。また、特許文献2には、非水電解質二次電池において、電解液溶媒にプロパンスルトンを混合比5%以上、50%以下の範囲で含有させたことを特徴とする非水電解質二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-102173号公報
【特許文献2】特開平10-50342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る実施形態が解決しようとする課題は、安定的に繰り返し充放電ができるリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
正極と、負極と、電解液と、を備え、
負極は、グラファイトを含み、
電解液は、溶媒と、リチウム塩と、を含み、
溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が、65質量%以上である、リチウムイオン二次電池。
<2>
リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、テトラフルオロほう酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、硝酸リチウム、炭酸リチウム、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、<1>に記載のリチウムイオン二次電池。
<3>
リチウム塩の含有量に対する1,3-プロパンスルトンの含有量のモル比率は、10以下である、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池。
<4>
溶媒は、1,3-プロパンスルトンのみからなる、<1>~<3>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る実施形態によれば、安定的に繰り返し充放電ができるリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示に係るリチウムイオン二次電池10の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、電解液1及び電解液2の熱重量示差熱分析の結果を示す。
【
図3】
図3は、電解液2~電解液5のリチウムイオン輸率を示す。
【
図4】
図4は、電解液1~電解液6のサイクリックボルタンメトリー曲線を示す。
【
図5】
図5は、負極がGr、正極がLCOであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
【
図6】
図6は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
【
図7】
図7は、負極がGr、正極がLMOであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
【
図8】
図8は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液7を用いた場合の充放電曲線、並びに、サイクル数に対するクーロン効率、及び容量維持率を示す。
【
図9】
図9は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液7Aを用いた場合の充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
[リチウムイオン二次電池]
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、を備え、負極は、グラファイトを含み、電解液は、溶媒と、リチウム塩と、を含み、溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が、65質量%以上である。
【0011】
本発明者らは、負極がグラファイトを含む場合に、電解液に含まれる溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が65質量%であると、安定的に繰り返し充放電ができることを見出した。従来、電解液の溶媒において、1,3-プロパンスルトンは添加剤という位置付けであり、少量で用いられていた。例えば、特許文献2には、電解液溶媒にプロパンスルトンを混合比5%以上50%以下の範囲で含有させた非水電解質二次電池が記載されている。プロパンスルトンの含有量が多いと、電池容量が低下することが記載されており、負極がグラファイトを含む場合に、電解液に含まれる溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合を65質量%とすることは、全く想定されていない。また、特許文献1には、負極として金属リチウムを用いたリチウム二次電池が記載されているが、負極がグラファイトを含む場合についての記載はない。
【0012】
1,3-プロパンスルトンは、融点が31℃であることから、室温(25℃)で固体である。しかし、1,3-プロパンスルトンは、種々のリチウム塩と混合すると室温で液体となり、非Walden的なイオン伝導性を示すことを見出した。さらに、負極がグラファイトを含む場合に、負極に対して安定的にリチウムイオンの挿入・脱離反応が起こることを見出した。負極に対するリチウムイオンの挿入・脱離反応が安定的に行われることで、安定的に繰り返し充放電ができることがわかった。
【0013】
以下、リチウム二次電池に含まれる各要素について詳細に説明する。
【0014】
<電解液>
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、電解液を備える。電解液は、溶媒と、リチウム塩と、を含む。
【0015】
(溶媒)
溶媒は、1,3-プロパンスルトンを含む。溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合は、65質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。安定的に繰り返し充放電ができ、かつ、簡便性の観点から、溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合は、100質量%であることが好ましい。すなわち、溶媒は、1,3-プロパンスルトンのみからなることが好ましい。
【0016】
従来、リチウムイオン二次電池における電解液には、溶媒として、主にエチレンカーボネート(EC)と、ジエチレンカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート化合物とを含む2種以上の混合溶媒が用いられていた。例えば、EC:EMC=3:7(質量比)、EC:DMC=1:1(質量比)、EC:DEC:DMC=1:1:1(質量比)の混合溶媒が知られている。これらのカーボネート化合物は、可燃性であり、沸点が低い。一方、1,3-プロパンスルトンは沸点が298℃と高く、取り扱いやすい。溶媒に占める1,3-プロパンスルトンが65質量%以上であることで、燃焼性が低下する。
【0017】
溶媒は、1,3-プロパンスルトン以外の化合物を含んでいてもよい。1,3-プロパンスルトン以外の化合物としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等の炭酸エステル化合物(カーボネート化合物);
1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル化合物;
ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル化合物;
アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル化合物;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;
3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート化合物;
スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物;及び上記化合物において水素原子をフッ素原子に置換した化合物が挙げられる。
【0018】
(リチウム塩)
リチウム塩の種類は特に限定されないが、負極に対するリチウムイオンの挿入・脱離反応の安定性の観点から、ヘキサフルオロリン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、テトラフルオロほう酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、硝酸リチウム、炭酸リチウム、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロほう酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0019】
電解液中のリチウム塩の濃度は、特に限定されないが、0.1mol/L~8.0mol/Lであることが好ましく、1.0mol/L~6.0mol/Lであることがより好ましい。
【0020】
リチウム塩の含有量に対する1,3-プロパンスルトンの含有量のモル比率は、リチウムイオン輸率を高める観点から、10以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。モル比率の下限値は、例えば、0.5である。
【0021】
(その他の成分)
電解液は、溶媒及びリチウム塩以外に、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、公知の添加剤を用いることができ、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)等が挙げられる。
また、その他の成分としては、過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤等が挙げられる。
【0022】
<負極>
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、負極を備える。負極は、グラファイトを含む。
【0023】
負極は、グラファイト以外の負極活物質を含んでいてもよい。グラファイト以外の負極活物質としては、金属リチウム;シリコン、スズ等を含む金属材料;及び、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料が挙げられる。
【0024】
また、負極は、電池の負極の作製に用いられる公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、導電剤、結着剤、及び集電体が挙げられる。
【0025】
負極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0026】
<正極>
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、正極を備える。
【0027】
正極は、正極活物質を含むことが好ましい。また、正極は、正極活物質以外の他の化合物を含んでいてもよい。
【0028】
正極活物質としては、特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いることができる。リチウムイオン二次電池用正極活物質は、充放電容量及び出力特性の観点から、リチウム含有化合物であることが好ましく、リチウム-遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。リチウム-遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiMn2O4、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2,LiNi0.5Mn0.5O2、LiFePO4、及びLiNi0.5Ti0.5O2が挙げられる。
【0029】
他の化合物としては、特に限定されず、電池の正極の作製に用いられる公知の添加剤を用いることができる。添加剤としては、導電剤、結着剤、及び集電体が挙げられる。
【0030】
正極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0031】
<セパレータ>
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、セパレータを備えることが好ましい。
【0032】
セパレータは、正極と負極とを物理的に隔絶して、内部短絡を防止する役割を果たす。セパレータは、多孔質材料からなり、その空隙には電解液が含浸され、電池反応を確保するために、イオン透過性(特に、リチウムイオン透過性)を有する。
【0033】
セパレータとしては、例えば、樹脂製の多孔膜、及び不織布が挙げられる。セパレータは、多孔膜の層又は不織布の層からなる単層であってもよく、複数の層で構成される積層体であってもよい。積層体としては、組成の異なる複数の多孔膜の層を有する積層体、及び、多孔膜の層と不織布の層とを有する積層体が挙げられる。
【0034】
セパレータの材質は、電池の使用温度、電解液の組成等の条件を考慮して選択できる。多孔膜及び不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドケトン等のポリフェニレンサルファイド樹脂;芳香族ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂;及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、不織布を形成する繊維は、ガラス繊維等の無機繊維であってもよい。
【0035】
セパレータの形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0036】
本開示に係るリチウムイオン二次電池の一例としては、
図1に示すリチウムイオン二次電池が挙げられるが、これに限定されないことは言うまでもない。
図1は、本開示に係るリチウムイオン二次電池10の一例を示す模式図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池10は、コイン型電池であり、負極側から順に、負極側の電池ケース12、ガスケット14、負極16、セパレータ18、正極20、スペーサー22、板ばね24、及び、正極側の電池ケース26を重ね、電池ケース12及び電池ケース26を嵌め合わせて形成される。
セパレータ18には、電解液(不図示)が含浸されている。
【実施例0037】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0038】
[電解液の調製]
以下の示す溶媒及びリチウム塩を用いて、表1に示す組成となるように、電解液1~7、電解液7Aを調製した。溶媒及びリチウム塩の詳細は以下のとおりである。
【0039】
-溶媒-
・PS:1,3-プロパンスルトン(東京化成社製、純度>99.0%)
・DEC:ジエチルカーボネート(キシダ化学社製、純度99.5%)
【0040】
-リチウム塩-
・LiTFSA:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(スルベイ社製)
・LiFSA:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(キシダ化学社製、純度>99.0%)
・LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム(キシダ化学社製、純度>99.9%)
・LiBF4:テトラフルオロほう酸リチウム(キシダ化学社製、純度>99.9%)
・LiClO4:過塩素酸リチウム(純正化学、純度>99.0%)
【0041】
【0042】
調製した電解液の熱安定性を評価するために、示差熱-熱重量同時測定装置(製品名「Thermo plus EVO2 TG-DTA8122」、リガク社製)を用いて、熱重量示差熱分析を行った。アルゴン雰囲気下において、走査速度5℃/分で測定した。
【0043】
図2は、電解液1及び電解液2の熱重量示差熱分析の結果を示す。
【0044】
図2に示すように、重量が95質量%減少した温度は、neatPS(PS純度100質量%)が139.4℃、電解液1が143.5℃であり、電解液2が162.9℃であった。リチウム塩の濃度が高くなるほど、熱安定性に優れることが分かった。
【0045】
次に、リチウムイオン輸率を評価するために、パルス磁場勾配核磁気共鳴(PGSE-NMR)法により、PGSE-NMR(製品名「ECX400」、日本電子社製)を用いて、7Li、19Fの自己拡散係数を測定した。自己拡散係数DはStejskalの式(1)に基づいて解析を行った。
【0046】
【0047】
式(1)中、Sはエコーシグナルの大きさ、S0はδが0におけるエコーシグナルの大きさを示す。また、γ、g、δ、Δはそれぞれ、核スピンの磁気回転比、PFGの高さ、PFGの長さ、2つのPFG間隔である。エコーシグナル強度上記の式からDLi及びDFを求め、NMRから与えられるリチウムイオン輸率tLiは、下記式に基づいて算出した。
tLi=DLi/(DLi+DF)
【0048】
図3は、電解液2~電解液5のリチウムイオン輸率を示す。
【0049】
図3に示すように、リチウムイオン輸率はいずれも0.4以上と高い値を示した。
【0050】
次に、ポテンショ/ガルバノスタット(製品名「VSP-300」、Bio-Logic社製)を用いて、サイクリックボルタンメトリーにより、酸化還元電位を測定した。試験極にグラファイト電極(電極容量:1.6mAh/cm2、16mmφ)、対極にリチウム箔(16mmφ)、セパレーターにガラスセパレーター(製品名「GA-55」、アドバンテック社製、17mmφ)を用いてCR-2032コインセルを作製した。測定セルはアルゴンガスで置換されたグローブボックス内で作成した。開始電圧、電圧範囲、掃引速度はそれぞれ開回路電圧(約2.0~3.0V)、0~2.0V、0.1mV/sとした。
【0051】
図4は、電解液1~電解液6のサイクリックボルタンメトリー曲線を示す。
図4に示すように、電解液1~電解液6ではいずれも、リチウムイオン挿入反応に対応する0~0.2Vでの還元電流値が観測され、リチウムイオン脱離反応に対応する0~0.4Vでの酸化電流値が観測された。
【0052】
次に、充放電試験を行った。
【0053】
正極として、コバルト酸リチウム電極(LCO、Piotrek社製)、リン酸鉄リチウム電極(LFP、宝泉社製)、及びマンガン酸リチウム(LMO、宝泉社製)を用いた。負極にグラファイト電極(Gr、宝泉社製)、セパレーターにガラスセパレーター(製品名「GA-55」、アドバンテック社製)を用いた。LCO、LFP、LMO電極の容量は1.5mAh/cm2であり、Gr電極の容量は1.6mAh/cm2であった。電極を16mmφ、ガラスセパレーターを17mmφに打ち抜いて用いた。これらをCR-2032コインセルに組み込み、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液として、電解液1及び電解液2を用いた。
【0054】
充放電試験はポテンショ/ガルバノスタット(製品名「SP-50」及び「VSP-300」、Bio-Logic社製)を用いて、電流充放電を0.603mA(0.2Cレート相当)として、行った。
充電上限電圧と放電下限電圧は、以下のように設定した。
-負極:Gr、正極:LCO-
充電上限電圧:4.2V 放電下限電圧:2.7V
-負極:Gr、正極:LFP-
充電上限電圧:3.6V 放電下限電圧:2.0V
-負極:Gr、正極:LMO-
充電上限電圧:4.5V 放電下限電圧:3.0V
【0055】
電池はアルゴンガスで置換されたグローブボックス内で組み立て、充放電試験は室温にて行った。
【0056】
図5は、負極がGr、正極がLCOであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
図6は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
図7は、負極がGr、正極がLMOであり、電解液1及び電解液2を用いた場合の充放電曲線を示す。
【0057】
図5~
図7に示すように、電解液1を用いた場合には、各リチウムイオン二次電池の2サイクル目の放電容量はそれぞれ、1.33mAh/cm
2、1.06mAh/cm
2、1.27mAh/cm
2であった。電解液2を用いた場合には、各リチウムイオン二次電池の2サイクル目の放電容量はそれぞれ、1.21mAh/cm
2、1.04mAh/cm
2、0.97mAh/cm
2であった。電解液1及び電解液2を用いたリチウムイオン二次電池において、初期サイクル以降のクーロン効率は95%以上であることが分かった。
【0058】
正極として、リン酸鉄リチウム電極(LFP、宝泉社製)を用いた。負極にグラファイト電極(Gr、宝泉社製)、セパレーターにガラスセパレーター(製品名「GA-55」、アドバンテック社製)を用いた。LCO、LFP、LMO電極の容量は1.5mAh/cm2であり、Gr電極の容量は1.6mAh/cm2であった。電極を16mmφ、ガラスセパレーターを17mmφに打ち抜いて用いた。これらをCR-2032コインセルに組み込み、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液として、電解液7及び電解液7Aを用いた。
【0059】
充放電試験はポテンショ/ガルバノスタット(製品名「SP-50」及び「VSP-300」、Bio-Logic社製)を用いて、電流充放電を0.3014mA(0.1Cレート相当)として、行った。
【0060】
図8は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液7を用いた場合の充放電曲線、並びに、サイクル数に対するクーロン効率、及び容量維持率を示す。
図8の右側のグラフにおいて、丸印は、サイクル数に対するクーロン効率を示し、三角印は、容量維持率を示す。なお、容量維持率は、以下の式に基づいて算出される。
容量維持率(%)=(各サイクル時点における放電容量÷初期放電容量)×100
【0061】
図9は、負極がGr、正極がLFPであり、電解液7Aを用いた場合の充放電曲線を示す。
【0062】
図8に示すように、電解液7を用いた場合には、容量維持率が99%以上であり、初期サイクル以降のクーロン効率は95%以上であることが分かった。
一方、
図9に示すように、電解液7Aを用いた場合には、充放電は起こらなかった。
【0063】
以上より、正極と、負極と、電解液と、を備え、負極は、グラファイトを含み、電解液が、溶媒と、リチウム塩と、を含み、溶媒に占める1,3-プロパンスルトンの割合が、65質量%以上である、リチウムイオン二次電池においては、安定的に繰り返し充放電ができることがわかった。
10:リチウムイオン二次電池、12:電池ケース(負極側)、14:ガスケット、16:負極、18:セパレータ、20:正極、22:スペーサー、24:板ばね、26:電池ケース(正極側)