(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066990
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ガラス積層体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/06 20060101AFI20240509BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20240509BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240509BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240509BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240509BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240509BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240509BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240509BHJP
B05D 1/30 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B32B17/06
C03C17/30 Z
B60J1/00 J
B05D7/24 302Y
B05D7/00 E
B05D3/00 C
B05D3/02 Z
B05D1/26 Z
B05D1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156692
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022176289
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中原 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈々
(72)【発明者】
【氏名】川崎 一彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広志朗
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC12
4D075AC60
4D075AC82
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC93
4D075AC94
4D075BB16X
4D075BB24Z
4D075BB26Z
4D075BB28Z
4D075BB56Y
4D075BB57Y
4D075BB91Y
4D075BB92Y
4D075BB95Y
4D075CA02
4D075CA03
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075DA06
4D075DA23
4D075DB13
4D075DC13
4D075EA05
4D075EB33
4D075EB42
4D075EC02
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC33
4D075EC37
4D075EC47
4F100AG00A
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA41B
4F100EH46B
4F100EJ08
4F100EJ42
4F100GB32
4F100JB12B
4F100YY00B
4G059AA01
4G059AC06
4G059AC07
4G059AC20
4G059FA05
4G059FB05
4G059FB06
(57)【要約】
【課題】上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好な被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法の提供。
【解決手段】ガラス基材(10)の上辺(11)に沿った上辺(21)と縦寸法が100mm超の特定寸法領域とを有する被膜(20)を有し、被膜は、特定寸法領域の少なくとも一部において、被膜の上辺と、被膜の上辺を被膜の表面に沿って20mm下方に平行移動させた第1の仮想線(IL1)との間の領域における被膜の膜厚が、0μm超2.0μm以下であり、被膜の上辺を被膜の表面に沿って100mm下方に平行移動させた第2の仮想線(IL2)上および第2の仮想線(IL2)より下方の領域における被膜の膜厚が、2.0~3.0μmである膜厚分布を有する、ガラス積層体(1)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上辺を有するガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に形成された、シロキサン結合と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む被膜とを有し、車両の窓開口部に取り付けられる車両窓ガラス用のガラス積層体であって、
前記被膜は、前記ガラス基材の前記表面上において、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で前記窓開口部を含む領域に形成されており、
前記被膜は、前記ガラス基材の前記上辺に沿った上辺と、縦寸法が100mm超の特定寸法領域とを有し、
前記被膜は、前記特定寸法領域の少なくとも一部において、前記被膜の前記上辺と、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って20mm下方に平行移動させた第1の仮想線との間の領域における前記被膜の膜厚が、0μm超2.0μm以下であり、
前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って100mm下方に平行移動させた第2の仮想線上および当該第2の仮想線より下方の領域における前記被膜の膜厚が、2.0~3.0μmである特定膜厚分布を有する、ガラス積層体。
【請求項2】
前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記第1の仮想線上の膜厚が、1.0~2.0μmである、請求項1に記載のガラス積層体。
【請求項3】
前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って80mm下方に平行移動させた第3の仮想線上および当該第3の仮想線より下方の領域における前記被膜の膜厚が、2.0~3.0μmである、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項4】
前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って40mm下方に平行移動させた第4の仮想線上の前記被膜の膜厚が、1.5~3.0μmである、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項5】
前記被膜は、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物の硬化物からなる、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項6】
前記被膜は、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項7】
車両サイドガラス用である、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項8】
車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用である、請求項7に記載のガラス積層体。
【請求項9】
加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
前記ガラス基材を、前記ガラス基材の前記上辺側を上方にして、地面に対して、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置した状態で、
前記ガラス基材の前記表面の前記上辺の近傍部分に向けて前記液状組成物を吐出する液体ノズルを、前記ガラス基材の前記上辺に沿って、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで前記ガラス基材の幅方向に相対移動させて、前記ガラス基材の前記表面上に前記液状組成物を流しかけて塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
前記塗工膜付きガラス基材を加熱して、前記塗工膜を硬化する工程(S3)とを有する、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項10】
工程(S2)において、
あるタイミングで前記液体ノズルから前記ガラス基材の前記表面上に吐出された前記液状組成物に対して、前記液状組成物の前記ガラス基材の前記表面上への到達と同時に、または前記到達の直後に、前記液体ノズルの位置より低い位置に配置された1つ以上の送風ノズルから送風する操作を、前記液体ノズルの前記相対移動に合わせて、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで行って、少なくとも前記塗工膜の上辺と前記第2の仮想線との間の範囲が乾燥された前記塗工膜を形成する、請求項9に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項11】
工程(S2)において、前記ガラス基材の前記表面に対する前記送風ノズルの中心軸の角度を、10~60°に設定する、請求項10に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項12】
工程(S2)において、
前記ガラス基材を固定し、前記液体ノズルを前記ガラス基材の幅方向に移動するように構成し、
前記ガラス基材の前記表面の手前に、全体として、少なくとも前記塗工膜の前記上辺と前記第2の仮想線との間の範囲に送風可能な複数の前記送風ノズルを、前記ガラス基材の幅方向に並べて配置し、
あるタイミングで前記液体ノズルから前記ガラス基材の前記表面上に吐出された前記液状組成物に対して、前記液状組成物の前記ガラス基材の前記表面上への到達と同時に、または前記到達の直後に、1つ以上の前記送風ノズルから送風する操作を、前記液体ノズルの移動に合わせて、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで行う、請求項10に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項13】
前記送風ノズルは、前記ガラス基材の前記表面に対する前記送風ノズルの中心軸の角度を調整可能なものである、請求項10に記載のガラス積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両窓ガラスの用途では、ガラス基材の一方の表面上に、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の機能を有する機能性成分を含む被膜を形成したガラス積層体が知られている。
機能性成分を含む被膜は、機能膜とも言う。
フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等の車両窓ガラス用のガラス積層体は、上辺側を上方にして立てた状態で使用される。
【0003】
被膜は例えば、ガラス基材の一方の表面上に、1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む被膜形成用の液状組成物を塗工して塗工膜を形成し、この塗工膜を硬化することで、成膜できる。
液状組成物の好ましい塗工方法として、フローコート法が挙げられる。フローコート法を用いた被膜の具体的な成膜は、以下のように実施できる。
上辺側を上方にして立てたガラス基材の一方の表面に対して、上辺から少し間隔をあけた位置で、液体ノズルから被膜形成用の液状組成物を吐出させながら、この液体ノズルをガラス基材の上辺に沿うように相対移動させる。ガラス基材を立てておくことで、液体ノズルから吐出された液状組成物は、上方から下方に流れ落ち、塗工膜を形成できる。この塗工膜を硬化して、被膜を成膜できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法では、液状組成物が上方から下方に流れ落ちるため、被膜の膜厚は、上方から下方に向けて、厚くなる傾向がある。被膜の下部は、膜厚が相対的に厚くなる傾向があり、その膜厚が好適な範囲より厚くなると、残留応力が大きくなるために、クラックが生じる恐れがある。
本明細書で言う「クラック」には、成膜完了時点での初期クラック、耐候性試験等の環境試験におけるクラック、および長期実使用後のクラックが含まれる。
被膜の下部の膜厚を薄くするために、液状組成物の濃度を下げるなどして、液状組成物の粘度を下げると、被膜の膜厚が全体的に薄くなる傾向がある。被膜の膜厚が全体的に好適な範囲より薄くなると、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能の発現が不充分となる恐れがある。
【0006】
特許文献1は、被膜付きガラス板の製造方法に関する。この文献には、ノズル(22)を含む射出部(2)と送風ユニット(5)とを有する塗布システム(1)が開示されている(
図2等)。送風システム(5)は、ノズル(22)を含む射出部(2)と共に、ガラス板に対して相対移動する(
図5Aおよび
図5B等)。送風ユニット(5)は、ノズル(22)からガラス板上に塗布液が射出された直後に、この塗布液が射出された部分に対して、風を当てる(段落0050、0060)。
特許文献1では、塗布液がガラス板の塗布面とは反対側へ回り込むのを抑制するために、送風ユニット(5)は、射出部(2)の側部または上部に接して、または、射出部(2)から離れた上方に配置されている(
図5A、
図7および
図8)。
特許文献1には、塗工直後の風乾によって、塗布ライン付近の被膜の膜厚を厚くでき、被膜の上下方向の膜厚分布を小さくできることが記載されている(段落0070)。
なお、特許文献1に記載の各構成要素の符号は、この文献に記載の符号であり、本開示の各構成要素に使用する符号とは何ら関係がない。
【0007】
特許文献1の
図12および
図13は、上方から送風を行った実施例1および正面から送風を行った実施例2~4において得られた被膜の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
これらの図に示されるように、特許文献1に記載の方法で得られる被膜は、塗布ラインから1mm以内の範囲に、符合Ma、Mbで示されるアップダウンの大きいピークがあり、膜厚が2.5μm超の局所的厚膜部が存在し、約0.9μm以上の膜厚のばらつきがある。特に、正面から送風を行った実施例2~4に対して、上方から送風を行った実施例1において、より大きな膜厚のばらつきがある。
特許文献1に記載の方法で得られる被膜はまた、塗布ラインからの距離が3mm以上の範囲では、膜厚は2μm未満と薄く、かつ、塗布ラインからの距離の増大に伴って、膜厚が徐々に減少する傾向がある。
塗布ライン付近に、局所的に突出して存在する局所的厚膜部では、残留応力が大きく、クラックが生じる恐れがある。塗布ラインに沿って幅方向に延びる局所的厚膜部は、透視歪として視認され、見栄えを悪くする恐れがある。塗布ラインからの距離が3mm以上の範囲では、膜厚が2μm未満と薄く、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能の発現が不充分となる恐れがある。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好な被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法の提供を目的とする。
本開示はまた、機能性成分を含み、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好で、所望の機能を安定的に発現できる被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下のガラス積層体とその製造方法を提供する。
[1] 上辺を有するガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に形成された、シロキサン結合と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む被膜とを有し、車両の窓開口部に取り付けられる車両窓ガラス用のガラス積層体であって、
前記被膜は、前記ガラス基材の前記表面上において、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で前記窓開口部を含む領域に形成されており、
前記被膜は、前記ガラス基材の前記上辺に沿った上辺と、縦寸法が100mm超の特定寸法領域とを有し、
前記被膜は、前記特定寸法領域の少なくとも一部において、前記被膜の前記上辺と、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って20mm下方に平行移動させた第1の仮想線との間の領域における前記被膜の膜厚が、0μm超2.0μm以下であり、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って100mm下方に平行移動させた第2の仮想線上および当該第2の仮想線より下方の領域における前記被膜の膜厚が、2.0~3.0μmである特定膜厚分布を有する、ガラス積層体。
【0010】
[2] 前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記第1の仮想線上の膜厚が、1.0~2.0μmである、[1]のガラス積層体。
[3] 前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って80mm下方に平行移動させた第3の仮想線上および当該第3の仮想線より下方の領域における前記被膜の膜厚が、2.0~3.0μmである、[1]または[2]のガラス積層体。
[4] 前記特定膜厚分布において、前記被膜の前記上辺を前記被膜の表面に沿って40mm下方に平行移動させた第4の仮想線上の前記被膜の膜厚が、1.5~3.0μmである、[1]~[3]のいずれかのガラス積層体。
【0011】
[5] 前記被膜は、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物の硬化物からなる、[1]~[4]のいずれかのガラス積層体。
[6] 前記被膜は、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、[1]~[5]のいずれかのガラス積層体。
[7] 車両サイドガラス用である、[1]~[6]のいずれかのガラス積層体。
[8] 車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用である、[7]のガラス積層体。
【0012】
[9] 加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
前記ガラス基材を、前記ガラス基材の前記上辺側を上方にして、地面に対して、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置した状態で、
前記ガラス基材の前記表面の前記上辺の近傍部分に向けて前記液状組成物を吐出する液体ノズルを、前記ガラス基材の前記上辺に沿って、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで前記ガラス基材の幅方向に相対移動させて、前記ガラス基材の前記表面上に前記液状組成物を流しかけて塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
前記塗工膜付きガラス基材を加熱して、前記塗工膜を硬化する工程(S3)とを有する、[1]~[8]のいずれかのガラス積層体の製造方法。
【0013】
[10] 工程(S2)において、
あるタイミングで前記液体ノズルから前記ガラス基材の前記表面上に吐出された前記液状組成物に対して、前記液状組成物の前記ガラス基材の前記表面上への到達と同時に、または前記到達の直後に、前記液体ノズルの位置より低い位置に配置された1つ以上の送風ノズルから送風する操作を、前記液体ノズルの前記相対移動に合わせて、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで行って、少なくとも前記塗工膜の上辺と前記第2の仮想線との間の範囲が乾燥された前記塗工膜を形成する、[9]のガラス積層体の製造方法。
[11] 工程(S2)において、前記ガラス基材の前記表面に対する前記送風ノズルの中心軸の角度を、10~60°に設定する、[10]のガラス積層体の製造方法。
【0014】
[12] 工程(S2)において、
前記ガラス基材を固定し、前記液体ノズルを前記ガラス基材の幅方向に移動するように構成し、
前記ガラス基材の前記表面の手前に、全体として、少なくとも前記塗工膜の前記上辺と前記第2の仮想線との間の範囲に送風可能な複数の前記送風ノズルを、前記ガラス基材の幅方向に並べて配置し、
あるタイミングで前記液体ノズルから前記ガラス基材の前記表面上に吐出された前記液状組成物に対して、前記液状組成物の前記ガラス基材の前記表面上への到達と同時に、または前記到達の直後に、1つ以上の前記送風ノズルから送風する操作を、前記液体ノズルの移動に合わせて、前記ガラス基材の前記上辺の一端側から他端側まで行う、[10]または[11]のガラス積層体の製造方法。
[13] 前記送風ノズルは、前記ガラス基材の前記表面に対する前記送風ノズルの中心軸の角度を調整可能なものである、[10]~[12]のいずれかのガラス積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好な被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法を提供できる。
本開示によればまた、機能性成分を含み、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好で、所望の機能を安定的に発現できる被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。
【
図2】
図1のガラス積層体の模式断面図(II-II線断面図)である。
【
図3A】工程(S2)で用いて好適な塗工装置の一例の模式側面図である。
【
図4A】例(E1)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図4B】例(E1)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図5A】例(E2)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図5B】例(E2)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図6A】例(E101)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図6B】例(E101)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図7A】例(E102)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図7B】例(E102)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図8A】例(E103)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【
図8B】例(E103)で得られた被膜の縦中心軸上の上下方向の膜厚分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス板等の板状部材の「表面」とは、板状部材の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
本明細書において、特に明記しない限り、車両の前進方向を前方向とし、車両の後進方向を後方向と定義する。
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス積層体の「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」および「内外」はそれぞれ、ガラス積層体が車両に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)での「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」および「内外」である。
本明細書において、「地面に対して略水平」とは、地面に対して完全な水平方向±10°の範囲を意味し、「地面に対して略垂直」とは、地面に対して完全な垂直方向±10°の範囲を意味する。
【0018】
一般的に、薄膜構造体は、厚さに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
【0019】
1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物において、1種以上の加水分解性シリコン化合物は、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合している場合がある。
本明細書において、1種以上の加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合物とは、1種以上の加水分解性シリコン化合物に含まれる加水分解性基の少なくとも一部が加水分解し、次いで、脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)である。
【0020】
本明細書において、「官能基」とは、単なる置換基とは区別された、反応性を有する基を包括的に示す用語である。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの総称であり、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリロキシ等についても、同様である。
【0021】
本明細書において、特に明記しない限り、紫外線は300~380nmの波長域の光であり、赤外線は780~2500nmの波長域の光であり、可視光線は380~780nmの波長域の光である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
[ガラス積層体]
本開示は、自動車等の車両の窓開口部に取り付けられ、上辺を有し、上辺側を上方にして立てた状態で使用される車両窓ガラス用のガラス積層体に関する。上記車両窓ガラスとしては、フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等が挙げられる。本開示のガラス積層体は、車両サイドガラス用に好適であり、自動車等の車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用に特に好適である。
【0023】
図面を参照して、本発明に係る一実施形態のガラス積層体の構造について、説明する。
図1は、本実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。
図2は、本実施形態のガラス積層体の模式断面図(II-II線断面図)である。視認しやすくするため、各図において、各部材の縮尺は適宜異ならせてある。
【0024】
図2に示すように、本実施形態のガラス積層体1は、ガラス基材10と、ガラス基材10の一方の表面10S上に形成された被膜20とを有する。被膜20が形成されるガラス基材10の表面10Sは特に制限されず、例えば、ガラス基材10の車内側の表面(車内面とも言う。)であることができる。表面10Sは、被膜形成面とも言う。
【0025】
図1に示す例では、ガラス積層体1は、自動車の運転手席または助手席の横にあるサイドガラスである。ガラス積層体1は、車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられることができる。
図示例では、ガラス基材10は、上辺11、下辺12、前方側辺13および後方側辺14の4辺からなる外周を有し、下辺12は凹凸を有している。
本実施形態において、前方側辺13および後方側辺14のうち、一方の側辺を「第1の側辺」、他方の側辺を「第2の側辺」とも言う。上辺11は第1の側辺の上端部と第2の側辺の上端部とを結ぶ線であり、下辺12は第1の側辺の下端部と第2の側辺の下端部とを結ぶ線であることができる。
ガラス基材10の側辺の数は特に制限されず、0、1または2であることができる。
【0026】
ガラス基材10の表面10Sの最大縦寸法は100mm超であり、自動車サイドガラス等の用途では、101mm以上、103mm以上、105mm以上、110mm以上、120mm以上、150mm以上、200mm以上、または300mm以上であることができる。表面10Sの最大縦寸法の上限値は、例えば、800mmである。
本明細書において、特に明記しない限り、幅方向の任意の位置におけるガラス基材の縦寸法は、その位置を通る縦軸上におけるガラス基材の上端点と下端点との間の距離である。
ガラス基材10の表面10Sは、凹曲面であることができる。表面10Sが曲面である場合、ガラス基材10の縦寸法は、曲面に沿った縦方向の寸法であり、ガラス基材10を圧縮せずに広げて平坦にした状態での縦方向の寸法である。
【0027】
被膜20は、ガラス基材10の表面10S上において、ガラス積層体1が窓開口部を完全に閉じた状態で窓開口部を含む領域に形成されている。被膜20は、ガラス基材10の表面10Sの全面に形成されていてもよいし、ガラス基材10の表面10Sの周縁部(例えば、上記4辺から30mm以内の領域)の少なくとも一部を除く略全面に形成されていてもよい。
【0028】
被膜20は、ガラス基材10の上辺11に沿った上辺21を有する。図示例では、被膜20は、上辺21、下辺22、前方側辺23および後方側辺24の4辺からなる外周を有する。視認しやすくするため、被膜20の外周のうち、ガラス基材10の外周と一致していない部分は、破線で示してある。図示例では、被膜20の上辺21は、ガラス基材10の上辺11を、ガラス基材10の表面10Sに沿って、2~30mm程度下方に平行移動させた位置にあり、被膜20の前方側辺23はガラス基材10の前方側辺13に一致し、被膜20の後方側辺24はガラス基材10の後方側辺14に一致している。
被膜20の側辺の数は特に制限されず、ガラス基材10の側辺の数と同じであることができる。
ガラス基材10の平面形状および被膜20の形成領域は、取り付けられる車両等の形態に応じて、適宜設計できる。
【0029】
被膜20の最大縦寸法は、ガラス基材10の表面10Sのサイズに応じて、設計される。被膜20の最大縦寸法は100mm超であり、自動車サイドガラス等の用途では、101mm以上、103mm以上、105mm以上、110mm以上、120mm以上、150mm以上、200mm以上、または300mm以上であることができる。被膜20の最大縦寸法の上限値は、ガラス基材10の表面10Sの最大縦寸法である。
本明細書において、特に明記しない限り、幅方向の任意の位置における被膜の縦寸法は、その位置を通る縦軸上における被膜の上端点と下端点との間の距離である。
被膜20の表面20Sは、ガラス基材10の表面10Sと同様、凹曲面であることができる。被膜20の表面20Sが曲面である場合、被膜20の縦寸法は、ガラス基材10の表面10Sの縦寸法と同様、曲面に沿った縦方向の寸法であり、被膜20を圧縮せずに広げて平坦にした状態での縦方向の寸法である。
【0030】
被膜20は、シロキサン結合(Si-O結合)と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む。
被膜20は、被膜形成用の液状組成物(LC)を用いて形成できる。被膜20は、好ましくは、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む液状組成物(LC)の硬化物からなる。
【0031】
被膜20は、ガラス基材10の所望の領域に特定の機能を付与する機能膜であることができる。機能としては、特定の波長域の光または電波の選択的透過、選択的吸収または選択的反射;熱線の反射または吸収;反射防止;低反射;低放射;通電;加熱;撥水または撥油;耐擦傷;防汚;抗菌;着色等の加飾;これらの組合せ等が挙げられる。
被膜20は例えば、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤等の1種以上の機能性成分を含む機能膜であることができる。
【0032】
被膜20は、縦寸法が100mm超の特定寸法領域を有し、この特定寸法領域の少なくとも一部において、以下の特定膜厚分布を有する。
被膜20の上辺21と、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って20mm下方に平行移動させた第1の仮想線IL1との間の領域における被膜20の膜厚(T)が、0μm超2.0μm以下である。
被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って100mm下方に平行移動させた第2の仮想線IL2上および第2の仮想線IL2より下方の領域における被膜20の膜厚(T)が、2.0~3.0μmである。
【0033】
縦寸法が100mm超の特定寸法領域の面積に対して、上記特定膜厚分布を有する面積の割合は特に制限されず、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0034】
図1に示すように、平面視にて、ガラス積層体1の最前端を通る縦軸YL1と、ガラス積層体1の最後端を通る縦軸YR1との中心軸を、ガラス積層体1の縦中心軸YCと定義する。さらに、縦軸YL1と縦中心軸YCとの中心軸を縦軸YL2、縦中心軸YCと縦軸YR1との中心軸を縦軸YR2と定義する。これらの縦軸によって、ガラス積層体1を、幅方向に、4つの領域に均等に区画できる。
被膜20は、例えば、特定寸法領域が縦中心軸YCを含み、縦中心軸YCに沿って、上記の特定膜厚分布を有することができる。
被膜20は、例えば、特定寸法領域が縦中心軸YC~縦軸YR2の領域を含み、縦中心軸YC~縦軸YR2の範囲内において、上記の特定膜厚分布を有することができる。
被膜20は、例えば、特定寸法領域が縦軸YL2~縦軸YR2の領域を含み、縦軸YL2~縦軸YR2の範囲内において、上記の特定膜厚分布を有することができる。
【0035】
特定寸法領域の少なくとも一部において上記特定膜厚分布を有する被膜20は、上辺21付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好である。
特定寸法領域の少なくとも一部において上記特定膜厚分布を有する被膜20は、成膜完了時点での初期クラックの生成が抑制され、耐初期クラック性が良好であり、さらに、耐候性試験等の環境試験における耐クラック性が良好である。
上辺に沿って幅方向に延びる局所的厚膜部は、透視歪として視認され、見栄えを悪くする恐れがある。本実施形態では、上辺21付近の局所的な厚膜化が抑制されるので、被膜20は、局所的厚膜部に起因する透視歪を有さず、見栄えが良い。
特定寸法領域の少なくとも一部において上記特定膜厚分布を有する被膜20を有するガラス積層体1は、後記製造方法により製造できる。
【0036】
被膜20は、長期使用後も良好な性能を維持できる耐久性を有することが好ましい。耐久性の1つとして、耐摩耗性が挙げられる。
車両サイドガラスの用途では、ガラス積層体1を昇降させて、窓の開閉を行うことができる。サイドガラスの昇降機構については、特開2020-172403号公報等を参照されたい。かかる用途では、被膜20は、繰返し表面が擦られても、損傷が少ない耐摩耗性を有することが好ましい。
特定寸法領域の少なくとも一部において上記特定膜厚分布を有する被膜20は、下部が充分な膜厚を有するため、窓の開閉が繰り返されても、クラック、擦傷および剥離等の損傷が抑制され、良好な耐摩耗性を有することができる。
【0037】
第2の仮想線IL2上および第2の仮想線IL2より下方の領域における被膜20の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであれば、車両サイドガラス等の車両窓ガラスの用途において、被膜20は、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能を良好に発現できる。
【0038】
以下、上記特定膜厚分布において、好ましい態様について、説明する。
機能発現の観点から、第1の仮想線IL1上の膜厚(T)と、第2の仮想線IL2上の膜厚(T)との差は、小さい方が好ましい。この観点から、被膜20の第1の仮想線IL1上の膜厚(T)は、好ましくは1.0~2.0μm、より好ましくは1.2~2.0μm、特に好ましくは1.3~2.0μmである。
同じ観点から、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って15mm下方に平行移動させた仮想線上の被膜20の膜厚(T)は、好ましくは1.0~2.0μm、より好ましくは1.2~2.0μm、特に好ましくは1.3~2.0μmである。
同じ観点から、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って10mm下方に平行移動させた仮想線(図示略、
図4Aおよび
図5A等を参照されたい。)上の被膜20の膜厚(T)は、好ましくは1.0~2.0μmである。
【0039】
被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って80mm下方に平行移動させた第3の仮想線IL3(図示略、
図4Aおよび
図5A等を参照されたい。)上および第3の仮想線IL3より下方の領域における被膜20の膜厚が、2.0~3.0μmであることが好ましい。かかる構成では、被膜20の膜厚(T)が2.0~3.0μmである範囲がより広く、被膜20は、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能をより良好に発現できる。
【0040】
被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って70mm下方に平行移動させた仮想線(図示略、
図4Aおよび
図5A等を参照されたい。)上およびこの仮想線より下方の領域における被膜20の膜厚が、2.0~3.0μmであることがより好ましい。かかる構成では、被膜20の膜厚(T)が2.0~3.0μmである範囲がより広く、被膜20は、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能をより良好に発現できる。
【0041】
良好な機能発現の観点から、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って40mm下方に平行移動させた第4の仮想線IL4(図示略、
図4Aおよび
図5A等を参照されたい。)上の被膜20の膜厚(T)が、1.5~3.0μmであることが好ましい。第4の仮想線IL4上の膜厚(T)は、1.5~2.5μmであることがより好ましい。
【0042】
(ガラス基材)
ガラス基材は、強化ガラス、複数のガラス板を中間膜を介して貼り合わせた合わせガラス、または有機ガラスを含むことができ、強化ガラスまたは合わせガラスを含むことが好ましい。
図1および
図2では、ガラス基材は平坦に図示してあるが、車両用では、ガラス基材は、曲面を有する形状に加工される。
【0043】
強化ガラスおよび合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。
強化ガラスは、上記のようなガラス板に対して、イオン交換法および風冷強化法等の公知方法にて強化加工を施したものである。強化ガラスとしては、風冷強化ガラスが好ましい。
強化ガラスの厚さは特に制限されず、好ましくは2~6mmである。
合わせガラスの厚さは特に制限されず、好ましくは2~6mmである。
【0044】
ガラス基材は、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス基材が合わせガラスである場合、車内側のガラス板および車外側のガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス基材は、左右方向または上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。ガラス基材の曲率半径は2000~11000mmであってよい。ガラス基材は、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。ガラス基材の曲げ成形には、重力成形、プレス成形およびローラー成形等が用いられる。
【0045】
合わせガラスの中間膜は、樹脂膜からなる。その構成樹脂としては、複数のガラス板を良好に接着できる樹脂であれば特に制限されない。中間膜は例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
中間膜は必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。
中間膜の材料としては、例示の樹脂を含む樹脂フィルムが好ましい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0046】
有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチック;ポリエチレンテレフタレート(PET):ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン(PS);これらの組合せ等が挙げられ、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが好ましい。
【0047】
(被膜)
被膜は、シロキサン結合(Si-O結合)と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む。
被膜は、被膜形成用の液状組成物(LC)を用いて形成できる。被膜は、好ましくは、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む液状組成物(LC)の硬化物からなる。
【0048】
被膜中において、Si原子に結合した有機基は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれることができる加水分解性の有機基、および/または、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれることができる非加水分解性の有機基に由来できる。Si原子に結合した有機基としては、アルキル基およびアルキレン基等が挙げられる。
被膜中に含まれることができる有機化合物としては、後記可撓性付与成分(FL)、後記機能性成分(FU)、およびこれらに由来する成分等が挙げられる。
【0049】
<加水分解性シリコン化合物(SC)>
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解縮合反応により硬化して酸化珪素マトリクスを形成できる。本明細書で言う「酸化珪素マトリクス」は、-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合により2次元的または3次元的に高分子量化した高分子化合物である。
【0050】
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1つ以上の加水分解性基を有するシリコン化合物である。1つのSi原子に結合した加水分解性基の数は1~4であり、好ましくは2~4、より好ましくは3~4である。加水分解性基は、組成物中で、加水分解されて水酸基になっていてもよい。
【0051】
加水分解性基としては、アルコキシ基(アルコキシ置換アルコキシ基等の置換アルコキシ基を含む)、アルケニルオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、オキシム基、アミド基、アミノ基、イミノキシ基、アミノキシ基、アルキル置換アミノ基、イソシアネート基およびハロゲン原子等が挙げられる。中でも、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、イミノキシ基およびアミノキシ基等のオルガノオキシ基が好ましく、特にアルコキシ基等が好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数4以下のアルコキシ基および炭素原子数4以下のアルコキシ置換アルコキシ基(2-メトキシエトキシ基等)が好ましく、特にメトキシ基およびエトキシ基等が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子等が好ましい。
加水分解性シリコン化合物(SC)中に複数の加水分解性基が存在する場合、複数の加水分解性基は同一でも非同一でもよく、同一であることが原料の入手容易性の点で好ましい。
【0052】
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物および/または1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物を含むことが好ましい。1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物との併用が好ましい。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は必要に応じて、1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物を含むことができる。
【0053】
4官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に4つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。3官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に3つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。2官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に2つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1分子中に、Si原子に1つ以上の加水分解性基が結合した構造を2つ以上有するものでもよい。
【0054】
加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解性基以外の官能基を有するものでもよい。加水分解性基以外の官能基としては、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、1級または2級のアミノ基、オキセタニル基、ビニル基、スチリル基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基およびシアノ基等が挙げられる。
【0055】
4官能性加水分解性シリコン化合物としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラn-プロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、およびテトラtert-ブトキシシラン等が挙げられる。テトラメトキシシラン(TMOS)およびテトラエトキシシラン(TEOS)等が好ましい。
【0056】
加水分解性基以外の官能基を有さない3官能性加水分解性シリコン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、および1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等が挙げられる。
【0057】
加水分解性基以外の官能基を有する3官能性加水分解性シリコン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6-エポキシへキシルトリメトキシシラン、9,10-エポキシデシルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジ-(3-メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、および2-シアノエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
2官能性加水分解性シリコン化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジイソプロペノキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、および2-シアノエチルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0059】
液状組成物(LC)中の、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物、および1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量は、特に制限されない。
1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物との合計量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは100~70質量部、より好ましくは100~80質量部、特に好ましくは100~90質量部である。
1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは0~20質量部、特に好ましくは0~10質量部である。
【0060】
4官能性加水分解性シリコン化合物と3官能性加水分解性シリコン化合物との総量100質量部に対して、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~95質量部、特に好ましくは40~90質量部、最も好ましくは50~85質量部であり、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは70~0質量部、より好ましくは70~5質量部、特に好ましくは60~10質量部、最も好ましくは50~15質量部である。
【0061】
詳細については後記するが、液状組成物(LC)は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含むことができる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、上記の2官能性、3官能性または4官能性の加水分解性シリコン化合物と同様、酸化珪素マトリクスを形成できる。
【0062】
加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は特に制限されず、通常の貯蔵温度の上限を超える温度、好ましくは80℃以上である。硬化温度の上限は特に制限されず、経済性の観点から、好ましくは230℃である。加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は、好ましくは150~230℃、より好ましくは170~230℃である。
【0063】
液状組成物(LC)は、必要に応じて、加水分解性シリコン化合物(SC)以外の1種以上の任意成分を含むことができる。
【0064】
<酸化珪素微粒子(SP)>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、被膜中で酸化珪素マトリクスに結合して包含される酸化珪素微粒子(SP)を含むことができる。液状組成物(LC)が酸化珪素微粒子(SP)を含むことで、被膜の耐摩耗性を向上できる場合がある。
酸化珪素微粒子(SP)は、酸化珪素微粒子(SP)が水および/または有機溶剤中に分散されたコロイダルシリカの形態で、液状組成物(LC)に配合できる。
酸化珪素微粒子(SP)のBET法により測定される平均粒径は特に制限されず、被膜の透明性および耐摩耗性の向上の観点から、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~40nmである。平均粒径が100nm以下であれば、粒子表面での光の乱反射およびそれによる被膜の透明性の低下を抑制できる。
【0065】
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)および必要に応じて用いられる酸化珪素微粒子(SP)は、被膜中の酸化珪素マトリクスを形成する成分であり、本明細書では、これらを総称して、マトリクス成分(S)とも言う。
【0066】
ここで、液状組成物(LC)中の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量を、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれるSi原子をSiO2に換算したときのSiO2含有量で示す。
液状組成物(LC)の全固形分中の1種以上のマトリクス成分(S)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO2含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
液状組成物(LC)の塗工性および被膜のクラック抑制等の観点から、液状組成物(LC)の全固形分中の1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO2含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
マトリクス成分(S)の総量に対する酸化珪素微粒子(SP)の量は特に制限されず、被膜のクラックの生成および酸化珪素微粒子(SP)同士の凝集による被膜の透明性低下の抑制等の観点から、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%である。
【0067】
<可撓性付与成分(FL)>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、被膜の成膜性を向上させ、被膜のクラックを抑制する、1種以上の可撓性付与成分(FL)を含むことができる。
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の種類に関係なく、可撓性付与成分(FL)は有効である。例えば、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が4官能性加水分解性シリコン化合物のみからなる場合、得られる酸化珪素マトリクスは可撓性が充分でない場合がある。このような場合、可撓性付与成分(FL)を用いることで、酸化珪素マトリクスに適度な可撓性を付与し、機械的強度と耐クラック性の双方に優れた被膜を形成できる。
【0068】
可撓性付与成分(FL)としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂等の有機樹脂;加熱または活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の硬化性有機化合物;グリセリン等の樹脂以外の非硬化性有機化合物等が挙げられる。有機樹脂、硬化性有機化合物および非硬化性有機化合物は、公知のものを用いることができる。
【0069】
有機樹脂としては、加熱または活性エネルギー照射により硬化する硬化性樹脂が好ましい。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
熱硬化性樹脂、並びに、加熱により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の熱硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化する際に、同時に硬化できる。
活性エネルギー線硬化性樹脂、並びに、活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の活性エネルギー線硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化した後、活性エネルギー線照射により硬化できる。
硬化性樹脂および硬化性化合物は、硬化時に、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と架橋反応してもよい。
【0070】
液状組成物(LC)中の可撓性付与成分(FL)の含有量は特に制限されず、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~100質量部、より好ましくは0.1~100質量部、特に好ましくは1.0~50質量部である。
【0071】
<機能性成分(FU)>
液状組成物(LC)は必要に応じて、1種以上の機能性成分(FU)を含むことができる。機能性成分(FU)の機能としては、特定の波長域の光または電波の選択的透過、選択的吸収または選択的反射;熱線の反射または吸収;反射防止;低反射;低放射;通電;加熱;撥水または撥油;耐擦傷;防汚;抗菌;着色等の加飾;これらの組合せ等が挙げられる。
被膜は例えば、機能性成分(FU)として、紫外線遮蔽剤および/または赤外線遮蔽剤を含むことができる。
【0072】
紫外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、紫外線吸収タイプでも紫外線反射タイプでもよい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾジチオール系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる1種以上の紫外線吸収剤が好ましい。
【0073】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤には、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤が含まれる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、酸化珪素マトリクスを形成できる。紫外線遮蔽剤としてシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いることで、酸化珪素マトリクスに紫外線吸収剤を固定でき、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できる。シリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤については、国際公開第2011/142463号等を参照されたい。
【0074】
赤外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、赤外線吸収タイプでも赤外線反射タイプでもよい。赤外線遮蔽剤としては、赤外線遮蔽粒子が好ましい。赤外線遮蔽粒子としては、1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、六ホウ化ランタン(LaB6)、および五酸化バナジウム(V2O5)からなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。
【0075】
赤外線遮蔽粒子としては、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))および/または六ホウ化ランタン(LaB6)を含む金属化合物粒子が特に好ましい。この金属化合物粒子を用いる場合、800~1500nmの波長の光に対する被膜の吸光度を、被膜m2当たりに含まれる赤外線遮蔽粒子の質量で割った値を比較的大きくでき、例えば1.5以上にできる。この場合、被膜中の赤外線遮蔽粒子の含有量を減らせる。これによって、被膜のガラス基材との界面の近傍部分に存在する粒子の絶対数を減らせるため、ガラス基材と被膜との密着性が向上し、耐摩耗性が向上する。
【0076】
液状組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子を含む場合、赤外線遮蔽粒子の原料として、赤外線遮蔽粒子、分散媒としての有機溶剤、および必要に応じて分散剤を含む分散液を用いることが好ましい。
【0077】
<触媒>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上の触媒を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に触媒が含まれる場合、1種以上の触媒には、原料中の触媒が含まれる。
触媒としては、酸触媒およびアルカリ触媒等が挙げられる。酸触媒としては、硝酸、塩酸、硫酸および燐酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸およびグルタル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニア等が挙げられる。触媒としては、酸触媒が好ましい。触媒は、水溶液の形態で用いることができる。
液状組成物(LC)中の触媒の含有量は特に制限されない。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、1種以上の触媒の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは0.01~10質量部である。
【0078】
<水>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、水を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に水が含まれる場合、水には、原料中の水が含まれる。
被膜の形成工程では、雰囲気中の水分を利用して1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の加水分解縮合反応を行えるので、液状組成物(LC)は水を含まなくてもよい。
液状組成物(LC)中の水の量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加水分解縮合させるために充分な量であれば、特に制限されない。具体的には、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)のSiO2換算量に対して、モル比で1~20当量となる量が好ましく、4~18当量となる量がより好ましい
【0079】
<有機溶剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、溶媒および/または分散媒として、1種以上の有機溶剤を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に有機溶剤が含まれる場合、1種以上の有機溶剤には、原料中の有機溶剤が含まれる。
【0080】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、およびアセチルアセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、および酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、および2-エトキシエタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、およびキシレン等の炭化水素類;アセトニトリルおよびニトロメタン等が挙げられる。
【0081】
上記の中でも、液状組成物(LC)中への溶解性および液状組成物(LC)の塗工性等の観点から、沸点が60~160℃のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、および2-ブトキシエタノール等が好ましい。
有機溶剤として、1種以上のアルコールと、水およびアルコールと混和可能なアルコール以外の1種以上の他の有機溶剤とを併用してもよい。
【0082】
液状組成物(LC)に含まれる水および有機溶剤等の液体媒体の総量は特に制限されず、液状組成物(LC)が好ましい固形分濃度になるように、調整できる。液状組成物(LC)の固形分濃度は、好ましくは3.5~50質量%、より好ましくは9~30質量%である。「固形分濃度」は、水および有機溶剤等の液体媒体を除いた不揮発成分の合計濃度である。
【0083】
<分散剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、赤外線遮蔽粒子等の無機微粒子を分散させる1種以上の分散剤を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に分散剤が含まれる場合、1種以上の分散剤には、原料中の分散剤が含まれる。
分散剤としては、公知のものを用いることができる。
【0084】
<キレート剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上のキレート剤を含むことができる。
液状組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子と紫外線遮蔽剤とを含む場合、赤外線遮蔽粒子と錯体を形成できる1種以上のキレート剤を用いることができる。キレート剤は、赤外線遮蔽粒子の表面に配位して、赤外線遮蔽粒子に紫外線遮蔽剤がキレート結合するのを抑制できる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料にキレート剤が含まれる場合、1種以上のキレート剤には、原料中の分散剤が含まれる。
【0085】
キレート剤としては、公知のものを用いることができる。
キレート剤は、可視光の吸収率が低いことが好ましい。キレート剤は、水および有機溶剤等の液体媒体の種類により適宜選択される。液体媒体は、水および/またはアルコールを含むことができ、これらの極性溶剤に可溶なキレート剤が好ましい。このようなキレート剤としては、マレイン酸および(メタ)アクリル酸等のカルボン酸;これらの(共)重合体(例えば、ポリマレイン酸およびポリアクリル酸等)が挙げられる。
【0086】
<他の添加剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、上記以外の1種以上の添加剤を含むことができる。上記以外の添加剤としては、表面調整剤、消泡剤、粘性調整剤、密着性付与剤、光安定化剤、酸化防止剤、染料、顔料およびフィラー等が挙げられる。
【0087】
[ガラス積層体の製造方法]
ガラス積層体1の製造方法は、特に制限されない。
一実施形態において、ガラス積層体1の製造方法は、
加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む液状組成物(LC)を用意する工程(S1)と、
ガラス基材10の一方の表面(被膜形成面)10S上に、液状組成物(LC)を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
塗工膜付きガラス基材を加熱し、塗工膜を硬化する工程(S3)とを有することができる。
【0088】
(工程(S1))
工程(S1)では、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含み、さらに必要に応じて1種以上の任意成分を含む、液状組成物(LC)を用意する。液状組成物(LC)の好ましい配合組成については、上記したので、ここでは省略する。
液状組成物(LC)は、公知方法にて、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む1種以上の材料を均一に混合することで調製できる。液状組成物(LC)が複数種の材料からなる場合、一括混合しても分割混合してもよく、配合手順も特に制限されない。
工程(S1)の環境温度は特に制限されず、通常の環境温度、例えば10~30℃でよい。
【0089】
(工程(S2))
工程(S2)では、ガラス基材10を、ガラス基材10の上辺11側を上方にして、地面に対して、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置する。この配置を立置きとも言う。この配置状態を立てた状態とも言う。この配置状態で、ガラス基材10の表面10S上に、液状組成物(LC)を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る。
車両サイドガラスの用途では、通常、ガラス基材は曲面を有する形状に加工されている。塗工膜は例えば、ガラス基材の車内面(通常凹曲面)上に、形成できる。
塗工方法としては特に制限されず、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法およびダイコート法等が挙げられる。
工程(S2)の環境温度は特に制限されず、通常の環境温度、例えば10~30℃でよい。
【0090】
塗工方法としては、フローコート法が好ましい。フローコート法では、ガラス基材10の表面10Sの上辺11の近傍部分に向けて液状組成物(LC)を吐出する液体ノズルを、ガラス基材10の上辺11に沿って、上辺11の一端側から他端側までガラス基材10の幅方向に相対移動させて、ガラス基材10の表面10S上に液状組成物(LC)を流しかけて塗工膜を形成できる。
【0091】
ガラス基材10を、真空吸着等の公知技術により、地面に対して、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で固定した状態で、液体ノズルを、ガラス基材10の上辺11に沿って、ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側までガラス基材10の幅方向に移動させることが好ましい。面積の大きなガラス基材10を固定した状態で、ガラス基材10より小さな液体ノズルを移動させる方法は、簡便で低コストである。
【0092】
工程(S2)において、あるタイミングで液体ノズルからガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対して、液状組成物(LC)のガラス基材10の表面10S上への到達と同時に、または到達の直後に、1つ以上の送風ノズルから送風する操作を、液体ノズルの相対移動に合わせて、ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側まで行って、少なくとも塗工膜の上辺と第2の仮想線IL2(被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って100mm下方に平行移動させた仮想線)との間の範囲が乾燥された塗工膜を形成することが好ましい。塗工膜の上辺は、
図1に示した被膜20の硬化前の上辺である。
【0093】
例えば、
図3Aおよび
図3Bに示すような塗工装置2を用いて、工程(S2)を実施できる。
図3Aは模式側面図であり、
図3Bは模式上面図である。
図1および
図2と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
塗工装置2は、ガラス基材10の表面10Sの上辺11の近傍部分に向けて液状組成物(LC)を吐出する液体ノズル31を有する。
ガラス基材10の表面10Sの上辺11の近傍部分に、液体ノズル31の吐出口31Mが対向するように、液体ノズル31を配置する。
ガラス基材10の表面10Sにおいて、上辺11の近傍部分は例えば、上辺11と、上辺11を表面10Sに沿って30mm下方に平行移動させた仮想線との間の領域であることができる。
【0094】
液体ノズル31には、公知の手段および方法により、液状組成物(LC)が供給される。液体ノズル31は、公知の移動手段により、ガラス基材10の上辺11に沿って、ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側まで、幅方向に移動可能に構成されている。液体ノズル31は、連続的に液状組成物(LC)を吐出できる。
液体ノズル31の吐出口31Mの径は特に制限されず、例えば、2~6mmφが好ましい。液体ノズル31からの液状組成物(LC)の吐出量は特に制限されず、例えば、10~15g/sが好ましい。
【0095】
液体ノズル31の幅方向の移動の間の、液体ノズル31の吐出口31Mの中心の高さ位置は、ガラス基材10の上辺11から2~30mm程度低い位置に設定することが好ましい。
幅方向の移動の間、液体ノズル31の吐出口31Mの中心の、ガラス基材10の表面10Sからの水平方向の離間距離は、液体ノズル31から吐出された液状組成物(LC)がガラス基材10の表面10Sに到達できる範囲内であればよく、例えば、0.1~5mm程度であることが好ましい。
【0096】
塗工装置2は、送風ノズル51を含む1つ以上の送風ユニット50を有する。図中、送風ノズル51から送り出される風を、2本の破線と符合Wで模式的に示してある。
ガラス基材10の表面10Sの手前に、送風ノズル51を含む1つ以上の送風ユニット50を配置する。
図3Bに示すように、ガラス基材10の表面10Sの手前に、全体として、少なくとも、塗工膜の上辺と、第2の仮想線IL2(被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って100mm下方に平行移動させた仮想線)との間の範囲の全体に送風可能な複数の送風ノズル51を、ガラス基材10の幅方向に一列に並べて配置することが好ましい。複数の送風ノズル51は、等間隔に並べて配置することが好ましい。図中、符合51Pは、複数の送風ノズル51の配置ピッチである。
【0097】
送風ノズル51の吐出口51Mの径は特に制限されず、例えば、2~6mmφ程度が好ましい。1つの送風ノズル51からの、ガラス基材10の表面10S上の送風可能領域の幅WAは例えば、100mm以上であることが好ましい。
ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側までの液体ノズル31の幅方向の移動に合わせて、常に、ガラス基材10の表面10S上に到達した液状組成物(LC)に対して、到達と同時にまたは到達の直後に、いずれかの送風ノズル51からの送風が届くように、送風ノズル51の数および配置ピッチ51Pを設計することが好ましい。
なお、ある任意の1つの送風ノズル51からの、ガラス基材10の表面10S上の送風可能領域と、その送風ノズル51の隣りにある送風ノズル51からの、ガラス基材10の表面10S上の送風可能領域とは、部分的に重なってもよい。
【0098】
送風ユニット50にコンプレッサ等を接続し、送風ノズル51から空気等の風を送り出すことができる。送風ユニット50は、好ましくは、電磁弁および電空レギュレータ等の風速調整手段を含むことができる。電磁弁および電空レギュレータ等の風速調整手段を用いて、送風ノズル51からの送風のオンオフおよび風速を調整できる。送風ノズル51は、ガラス基材10の表面10Sに対する送風ノズル51の中心軸51Aの角度θを、調整できるように構成することが好ましい。
【0099】
送風ノズル51は、液体ノズル31の位置より低い位置に配置することが好ましい。
あるタイミングで液体ノズル31からガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対して、液状組成物(LC)のガラス基材10の表面10S上への到達と同時に、または到達の直後に、液体ノズル31の位置より低い位置に配置された1つ以上の送風ノズル51から送風する操作を、液体ノズル31の相対移動に合わせて、ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側まで行って、少なくとも、塗工膜の上辺と、第2の仮想線IL2(被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って100mm下方に平行移動させた仮想線)との間の範囲が乾燥された塗工膜を形成することが好ましい。
【0100】
あるタイミングで液体ノズル31からガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対して、液状組成物(LC)のガラス基材10の表面10S上への到達と同時に、または到達の直後に、液体ノズル31に最も近い1つの送風ノズル51から送風する操作を、液体ノズル31の相対移動に合わせて、ガラス基材10の上辺11の一端側から他端側まで行うことができる。
この場合、液体ノズル31に最も近い送風ノズル51からの送風開始タイミングは、この送風ノズル51から送風可能な送風可能領域内への液体ノズル31の到着前(例えば、到着タイミングの2~10秒前)、到着と同時、または到着直後(例えば、到着タイミングの3秒後以内)のいずれでもよい。
送風開始タイミングを、送風ノズル51から送風可能な送風可能領域内への液体ノズル31の到着前とする場合には、確実に、液状組成物(LC)のガラス基材10の表面10S上への到達と同時に、ガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対して、送風できる。
本明細書において、特に明記しない限り、「直後」は、3秒後以内と定義する。
【0101】
上記のような方法で塗工膜を形成することで、塗工膜の上辺付近の局所的な厚膜化および塗工膜の下部の厚膜化を抑制できる。
上記のような方法で塗工膜を形成することで、縦寸法が100mm超の特定寸法領域の少なくとも一部において、被膜20の上辺21と、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って20mm下方に平行移動させた第1の仮想線IL1との間の領域における被膜20の膜厚(T)が、0μm超2.0μm以下であり、被膜20の上辺21を被膜20の表面20Sに沿って100mm下方に平行移動させた第2の仮想線IL2上および第2の仮想線IL2より下方の領域における被膜20の膜厚(T)が、2.0~3.0μmである特定膜厚分布を有する被膜20を形成しやすい。
その結果、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好で、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能を良好に発現できる被膜20を形成しやすい。
【0102】
なお、[背景技術]の項で挙げた特許文献1では、送風ユニット(5)は、射出部(2)の側部または上部に接して、または、射出部(2)から離れた上方に配置されている(
図5A、
図7および
図8)。特許文献1では、塗布液がガラス板の塗布面とは反対側へ回り込むのを抑制するために、送風システム(5)は、射出部(2)と同じ高さの位置または射出部(2)の上方に配置され、射出部(2)より下方に送風システム(5)を配置する方法について、記載がない。
【0103】
[発明が解決しようとする課題]の項で説明したように、特許文献1に記載の方法で得られる被膜は、塗布ラインから1mm以内の範囲に、アップダウンの大きいピークがあり、膜厚が2.5μm超の局所的厚膜部が存在し、約0.9μm以上の膜厚のばらつきがある(特許文献1の
図12および
図13)。特に、正面から送風を行った実施例2~4に対して、上方から送風を行った実施例1において、より大きな膜厚のばらつきがある。特許文献1に記載の方法で得られる被膜はまた、塗布ラインからの距離が3mm以上の範囲では、膜厚は2μm未満と薄く、かつ、塗布ラインからの距離の増大に伴って、膜厚が徐々に減少する傾向がある。
塗布ライン付近に、局所的に突出して存在する局所的厚膜部では、残留応力が大きく、クラックが生じる恐れがある。塗布ラインに沿って幅方向に延びる局所的厚膜部は、透視歪として視認され、見栄えを悪くする恐れがある。塗布ラインからの距離が3mm以上の範囲では、膜厚が薄く、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の所望の機能の発現が不充分となる恐れがある。
【0104】
特許文献1には、「上方から風を当てながら機能液を射出する場合(実施例1)、機能液の乾燥が早い段階で生じてしまい、塗布ラインLから1mm以内の領域、特に、塗布ラインLから下方に最初に現れる膜厚の極大値をとる位置以降の領域において、約2μmの膜厚差が生じてしまった。」ことが記載されている(段落0101)。
正面または上方からの送風では、上辺付近の乾燥が早く進みすぎて、上辺付近に、局所的厚膜部が形成されやすいと、考えられる。
【0105】
本明細書において、垂直に立てたガラス基材10の表面10Sに対して、真下に配置された送風ノズル51の中心軸51Aの角度θを0°、正面に配置された送風ノズル51の中心軸51Aの角度θを90°、真上に配置された送風ノズル51の中心軸51Aの角度θを180°と、定義する。
表面10Sが曲面である場合、
図3Aに示すような側面図において、ガラス基材10の表面10Sに対して、送風ノズル51の中心軸51Aと表面10Sとの交点を通る接線(図示略)を引き、中心軸51Aと得られた接線とのなす角度を、「ガラス基材10の表面10Sに対する送風ノズル51の中心軸51Aの角度θ」と定義する。
【0106】
本実施形態では、送風ノズル51を液体ノズル31の位置より低い位置に配置し、あるタイミングで液体ノズル31からガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対して、下方から送風することが好ましい。
下方からの送風では、上辺付近の乾燥が適度な速さで進み、塗工膜の上辺付近に、局所的厚膜部が形成されることが抑制されると、考えられる。また、少なくとも塗工膜の上辺と第2の仮想線IL2との間の範囲に送風することで、縦寸法が100mm超の特定寸法領域の少なくとも一部において、第2の仮想線IL2上および第2の仮想線IL2より下方の領域における膜厚(T)が2.0~3.0μmである被膜20を形成しやすいと考えられる。
【0107】
工程(S2)におけるガラス基材10の表面10Sに対する送風ノズル51の中心軸51Aの設定角度θは、好ましくは0°超90°未満である。下限値は、より好ましくは5°、さらに好ましくは10°、特に好ましくは15°、最も好ましくは20°である。上限値は、より好ましくは80°、さらに好ましくは70°、さらに好ましくは60°、特に好ましくは50°、最も好ましくは40°である。
角度θは10~50°(好ましくは10~40°、より好ましくは20~40°)であれば、ガラス基材10に対する液体ノズル31および送風ノズル51の配置設計がしやすく、ガラス基材10の表面に対する液状組成物(LC)の流れと送風を制御しやすい。その結果、液状組成物(LC)が送風ノズル51にかかるなどの不都合を効果的に抑制できる。また、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性および上辺付近の見栄え等の外観が良好な被膜20を安定的に形成しやすい。
【0108】
液体ノズル31からガラス基材10の表面10S上に吐出された液状組成物(LC)に対する送風を行わない場合、一般的に、液状組成物(LC)の組成、固形分濃度、粘度および塗工量、並びに、工程(S2)におけるガラス基材10の配置角度等の条件を1つ以上調整することで、被膜20の最大膜厚、最小膜厚および膜厚分布を調整できる。ここで言う「液状組成物(LC)の塗工量」は、液体ノズル31からの液状組成物(LC)の吐出量である。
液状組成物(LC)の固形分濃度および粘度は、高い方が、被膜20の最大膜厚を厚くできる傾向がある。
液状組成物(LC)の塗工量は、多い方が、被膜20の最大膜厚を厚くできる傾向がある。
ガラス基材10の配置角度を調整することで、被膜20の下部の膜厚(T)を調整できる。液状組成物(LC)をガラス基材10の上部から流しかけるフローコート法では、ガラス基材10の配置が地面に対して略垂直に近い方が、下部の膜厚(T)を薄くでき、ガラス基材10の配置が地面に対して略水平に近い方が、被膜20の下部の膜厚(T)を厚くできる傾向がある。
【0109】
液状組成物(LC)の組成、固形分濃度、粘度および塗工量、並びに、工程(S2)におけるガラス基材10の配置角度等の送風以外の条件と、送風条件とを、総括的に設計してもよい。
液状組成物(LC)の固形分濃度は特に制限されず、好ましくは7~15質量%、より好ましくは8~11質量%である。
液状組成物(LC)の工程(S2)実施時の環境温度での粘度は特に制限されず、好ましくは0.8~2.3mPa・s、より好ましくは1.0~2.0mPa・s、特に好ましくは1.0~1.5mPa・sである。
【0110】
(立置き工程)
塗工膜の形成が終了した後、得られた塗工膜付きガラス基材を、10~20秒間程度、立てた状態で保持してもよい。
【0111】
(乾燥工程)
工程(S2)と工程(S3)との間に、必要に応じて、硬化反応が進まない条件で、塗工膜全体を乾燥する乾燥工程を実施してもよい。乾燥方法として特に制限されず、40~60℃程度の加熱乾燥、減圧乾燥、および40~60℃程度の減圧加熱乾燥が挙げられる。
【0112】
(工程(S3))
工程(S3)では、塗工膜付きガラス基材を加熱し、塗工膜を硬化する。加熱は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が硬化する温度条件で行う。工程(S3)は、本焼成のみの1段階または仮焼成と本焼成との複数段階で実施できる。
本焼成温度は特に制限されない。ガラス基材が強化ガラスである場合、好ましくは80~230℃、より好ましくは100~230℃、特に好ましくは150~230℃、最も好ましくは180~210℃である。ガラス基材が合わせガラスである場合、好ましくは80~110℃、より好ましくは90~110℃である。加熱時間は、液状組成物(LC)の組成および加熱温度等に応じて適宜設計できる。
【0113】
乾燥工程および工程(S3)における塗工膜付きガラス基材の配置の向きは、特に制限されない。乾燥工程および工程(S3)では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス基材を地面に対して略水平に配置してよいし、工程(S2)と同様、塗工膜付きガラス基材を、上辺側を上方にして、地面に対して、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置してもよい。地面に対して略水平の配置は、平置きとも言う。
液状組成物(LC)が、熱硬化性樹脂および/または熱硬化性化合物を含む場合、熱硬化性樹脂および/または熱硬化性化合物は、この工程(S3)で、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と共に硬化できる。
この工程(S3)後に被膜20が形成される。
【0114】
(工程(S4))
液状組成物(LC)が活性エネルギー線硬化性樹脂および/または活性エネルギー線硬化性化合物を含む場合、工程(S3)の後に、被膜に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂および/または活性エネルギー線硬化性化合物を硬化する工程(S4)を実施できる。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
以上のようにして、ガラス積層体1が得られる。
【0115】
以上説明したように、本開示によれば、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好な被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法を提供できる。
被膜は、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の機能を有する機能性成分を含むことができる。
本開示によれば、機能性成分を含み、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性が良好で、所望の機能を安定的に発現できる被膜を有する、車両窓ガラス用のガラス積層体とその製造方法を提供できる。
【実施例0116】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例(E1)~(E5)が実施例、例(E101)~(E104)が比較例である。
【0117】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(液状組成物(LC)の粘度)
粘度計(東機産業社製「RE85L」)を用いて、塗工工程実施時の室温下での液状組成物(LC)の粘度を測定した。
【0118】
(被膜の膜厚分布)
レーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK-X100」)を用いて、得られたガラス積層体の被膜の上下方向の膜厚分布を測定した。
図1に示すように、平面視にて、ガラス積層体1の最前端を通る縦軸YL1と、ガラス積層体1の最後端を通る縦軸YR1との中心軸を、ガラス積層体1の縦中心軸YCと定義した。さらに、縦軸YL1と縦中心軸YCとの中心軸を縦軸YL2、縦中心軸YCと縦軸YR1との中心軸を縦軸YR2と定義した。これらの縦軸によって、ガラス積層体1を、幅方向に、4つの領域に均等に区画した。
縦軸YL2、縦中心軸YC、または縦軸YR2に沿って、被膜20の上端から下端まで、約2mm(具体的には、2.1~2.3mm)ごとに、被膜20の膜厚(T)を測定した。被膜20の上端からの距離(D)[mm]と被膜20の膜厚(T)[μm]との相関データを得た。なお、被膜20の上端からの距離(D)[mm]は、被膜20の表面(凹曲面)に沿った上端からの距離であり、被膜20を圧縮せずに広げて平坦にした状態での上端からの距離である。
【0119】
(耐候性試験における耐クラック性)
ガラス積層体から、被膜の縦中心軸YC上の上端からの距離(D)が300mmの位置を中心とする縦65mm×横35mmの試験片を切り出した。
この試験片に対して、耐候性試験機(スガ試験機社製「スーパーキセノンウェザーメーター SX75」)を用いて、耐候性試験を実施した。照度150W/m2、ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%の環境下で、試験片を放置し、光学顕微鏡にて被膜の表面にクラックが発生するまでの時間(Tc)を測定した。
例(E1)のTcに対する各例のTcの比(=Tc(各例)/Tc(E1))を求めた。この比を「Tc比」と定義する。例(E1)のTc比は1であり、Tc比が大きい程、被膜の耐候性試験における耐クラック性がより高いことを示す。
【0120】
(耐摩耗性)
ガラス積層体から、被膜の縦中心軸YC上の上端からの距離(D)が50mmの位置を中心とする縦100mm×横100mmの試験片を切り出した。
この試験片の被膜側の表面に対して、テーバー式耐摩耗試験機およびCS-10F摩耗ホイールを用い、JIS-R3212(1998年)に準拠して、500回転の条件で摩耗試験を行った。上記JIS規格に準拠して、試験前後の試験片のヘイズ差(ΔHz)を測定した。
例(E1)のΔHzに対する各例のΔHzの比(=ΔHz(各例)/ΔHz(E1))を求めた。この比を「ΔHz比」と定義する。例(E1)のΔHz比は1であり、ΔHz比が小さい程、被膜の擦傷および剥離等の損傷がより少なく、被膜の耐摩耗性がより高いことを示す。
【0121】
(ガラス積層体の紫外線透過率(光学機能))
被膜の光学機能の評価として、紫外線透過率の評価を実施した。
ガラス積層体の被膜の縦中心軸YC上の上端からの距離(D)が、20mm、40mm、60mm、80mm、および100mmの位置で測定した被膜の膜厚の平均値を求めた。実際の膜厚がこの平均膜厚である位置のガラス積層体の紫外線透過率(Tuv[%])を測定した。分光光度計(日立製作所社製「U-4100」)を用いて、ガラス積層体の300~380nmの波長域の透過スペクトルを測定し、ISO9050(2003年)に準拠して、紫外線透過率(Tuv[%])を算出した。
例(E1)のTuvに対する各例のTuvの比(=Tuv(各例)/Tuv(E1))を求めた。この比を「Tuv比」と定義する。例(E1)のTuv比は1であり、Tuv比が小さい程、被膜の紫外線遮蔽性がより高いことを示す。
【0122】
(上辺付近の見栄え)
太陽光下で、ガラス積層体の被膜の上辺付近の外観を目視観察し、下記基準で評価した。
良好(○):太陽光の入射角度に関係なく、上辺付近に透視歪が全く見られなかった。
可(△):太陽光の入射角度によって、上辺付近に透視歪が見られない場合と見られる場合があった。
不良(×):太陽光の入射角度に関係なく、上辺付近に透視歪が見られた。
【0123】
[材料]
各例で用いた材料は、以下の通りである。
<ガラス基材>
(G1)
図1に模式的に示したような、自動車の運転手席の横にあるサイドガラス用の強化ガラス(AGC社製)を用意した。このガラスは、縦932mm×横513mm×厚さ3.1mm、内面(凹曲面)の縦方向の曲率半径=1300mm、横方向の曲率半径=34000mmであった。
【0124】
<4官能性加水分解性シリコン化合物(4官能シラン)>
TEOS:テトラエトキシシラン。
【0125】
<3官能性加水分解性シリコン化合物(3官能シラン)>
KBM-403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業社製「KBM-403」。
【0126】
<紫外外線吸収剤(紫外外線遮蔽剤)>
THBP:ジヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、BASF社製「Uvinul(登録商標) 3050」。
Si-THBP溶液(63質量%):上記のTHBP49.2g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)123.2g、硬化触媒として塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(純正化学社製)0.8g、および酢酸ブチル(純正化学社製)100gを、撹拌しながら60℃に昇温して溶解させ、120℃で加熱し4時間反応させることにより、固形分濃度63質量%のシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)溶液を得た。このシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)は、機能性成分かつ3官能性加水分解性シリコン化合物である。
【0127】
<赤外線吸収剤(赤外線遮蔽剤)>
ITO分散液:20質量%インジウム錫酸化物(ITO)分散液。三菱マテリアル電子化成社製のITO微粒子(平均一次粒子径20nm、平均分散粒子径55nm)の11.9g、分散剤(ビックケミー・ジャパン社製「DISPERBYK-190」の3.0g、および後記混合溶剤(AP-1)の24.2gを、ボールミルを用いて48時間分散処理した。さらに混合溶剤(AP-1)を添加して、ITO濃度が20質量%となるように希釈して、ITO分散液を得た。
【0128】
<可撓性付与成分>
EX-614B溶液:ソルビトールポリグリシジルエーテル(熱硬化性の多官能エポキシ化合物、ナガセケムテックス社製「デナコールEX-614B」)、50質量%メタノール溶液。
【0129】
<キレート剤>
PMA-50W:ポリマレイン酸水溶液、固形分40~48質量%、日油社製「ノンポール PMA-50W」。
マレイン酸:純度99.0質量%。
【0130】
<表面調整剤>
BYK307分散液:シリコン系表面調整剤(ビッグケミー・ジャパン社製「BYK307」)、12質量%メタノール分散液。
【0131】
<有機溶剤>
AP-1:エタノール:2-プロパノール:メタノール=85.5:13.4:1.1(質量比)の混合溶剤、日本アルコール販売社製「ソルミックス(登録商標) AP-1」。
MEK:メチルエチルケトン、純度99.9質量%。
メタノール:純度99.5質量%。
【0132】
<酸触媒>
酢酸水溶液:90質量%。
【0133】
[製造例(PE1)](液状組成物(LC1)の調製)
丸底フラスコに、TEOSを12.4g、Si-THBP溶液(63質量%)を11.6g、EX-614B溶液(50質量%)を1.9g、PMA-50Wを1.7g、マレイン酸を1.0g、BYK307分散液(12質量%)を0.5g、メタノールを18.9g、MEKを62.0g、酢酸水溶液(90質量%)を9.5g、および純水を12.8gを入れ、50℃で2時間撹拌混合した。最後に、ITO分散液(20質量%)を6.80g加え、撹拌混合した。以上のようにして、固形分濃度が9.2質量%の液状組成物(LC1)を得た。配合組成および固形分濃度を、表1に示す。
【0134】
[製造例(PE2)~(PE4)](液状組成物(LC2)~(LC4)の調製)
表1に示す配合組成に変更した以外は製造例1と同様にして、液状組成物(LC2)~(LC4)を得た。配合組成および固形分濃度を、表1に示す。
【0135】
【0136】
[例(E1)~(E5)](ガラス積層体の製造)
(工程(S1))
液状組成物(LC)として、液状組成物(LC1)または(LC2)を用意した。
【0137】
(工程(S2))(塗工工程)
次に、真空吸着装置を用いて、ガラス基材(G1)を、上辺側を上方にして、地面に対して略垂直に立てて、保持した。塗工工程実施時の室温は22~24℃であった。塗工工程実施時の室温下での液状組成物(LC)の粘度は、1.2~1.3mPa・sであった。ガラス基材(G1)の温度(ガラス温度とも言う。)は、室温と同じ温度または35℃とした。
この状態で、ガラス基材(G1)の一方の表面(車内面、凹曲面)に対して、
図3Aおよび
図3Bに示したような塗工装置を用いて、フローコート法により液状組成物(LC)を流しかけた。以下、特に明記しない限り、ガラス基材(G1)の表面は、凹曲面である。
【0138】
ガラス基材(G1)の表面の上辺の近傍部分に、液体ノズルの吐出口が対向するように、液体ノズルを配置した。液体ノズルの吐出口の口径は、3mmφであった。
液体ノズルの幅方向の移動の間の、液体ノズルの吐出口の中心の高さ位置は、ガラス基材(G1)の上辺から15mm±5mm低い位置に設定した。
液体ノズルの幅方向の移動の間の、液体ノズルの吐出口の中心の、ガラス基材(G1)の表面からの水平方向の離間距離は、3mm±3mmに設定した。
【0139】
液体ノズルから液状組成物(LC)を連続的に吐出させながら、液体ノズルを、ガラス基材(G1)の上辺に沿って、ガラス基材(G1)の上辺の後方端側から前方端側まで、ガラス基材(G1)の幅方向に、移動させた。
液体ノズルの移動速度は40~60mm/sとし、液体ノズルからの液状組成物(LC)の吐出量(液吐出量とも言う。)は11~12g/sとした。液吐出量は、移動速度によって調整した。
【0140】
ガラス基材(G1)の表面の手前に、送風ノズルを含む複数の送風ユニットを配置した。送風ユニットにコンプレッサを接続し、送風ノズルから空気の風を送り出すように、送風ユニットを構成した。送風ユニットは、電磁弁および電空レギュレータを含み、送風ユニットは、送風ノズルからの送風のオンオフおよび風速を調整できるように構成した。送風ノズルは、ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θ(送風ノズルの角度θとも言う。)を、調整できるように構成した。
【0141】
図3Bに示したように、ガラス基材(G1)の表面の手前に、全体として、少なくとも、塗工膜の上辺と第2の仮想線(被膜の表面に沿って100mm下方に平行移動させた仮想線)との間の範囲の全体に送風可能な複数の送風ノズルを、ガラス基材(G1)の幅方向に一列に並べて配置した。複数の送風ノズルは、等間隔に並べて配置した。
送風ノズルの吐出口の径は、4mmφであった。1つの送風ノズルからの、ガラス基材(G1)の表面上の送風可能領域の幅は、50mm以上であった。
【0142】
ガラス基材(G1)の上辺の後方端側から前方端側までの液体ノズルの幅方向の移動に合わせて、常に、ガラス基材(G1)の表面上に到達した液状組成物(LC)に対して、到達と同時にまたは到達の直後に、いずれか1つの送風ノズルからの送風が届くように、送風ノズルの数および配置ピッチを設計した。具体的には、送風ノズルの数は10個、配置ピッチは100mmとした。
送風ノズルは、液体ノズルの位置より低い位置(すなわち、下方)に配置した。ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θは、20°とした。
【0143】
あるタイミングで液体ノズルからガラス基材(G1)の表面上に吐出された液状組成物(LC)に対して、液状組成物(LC)のガラス基材(G1)の表面上への到達と同時に、または到達の直後に、液体ノズルに最も近い送風ノズルから送風する操作を、液体ノズルの相対移動に合わせて、ガラス基材(G1)の上辺の後方端側から前方端側まで行った。
【0144】
例(E1)では、液体ノズルに最も近い送風ノズルからの送風開始タイミングを、この送風ノズルから送風可能な送風可能領域内への液体ノズルの到着前とした。これによって、確実に、液状組成物(LC)のガラス基材(G1)の表面上への到達と同時に、ガラス基材(G1)の表面上に吐出された液状組成物(LC)に対して、送風されるようにした。この例における送風開始タイミングは、「液体ノズルの到着前」と言う。
【0145】
例(E2)では、液体ノズルに最も近い送風ノズルからの送風開始タイミングを、この送風ノズルから送風可能な送風可能領域内への液体ノズルの到着の直後(2~3秒後)とした。この例では、あるタイミングで液体ノズルからガラス基材(G1)の表面上に吐出された液状組成物(LC)に対して、液状組成物(LC)のガラス基材(G1)の表面上への到達の直後(2~3秒後)に、液体ノズルに最も近い送風ノズルから送風されるようにした。この例における送風開始タイミングは、「液体ノズルの到着直後」と言う。
【0146】
例(E3)、(E4)では、ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを変更した以外は例(E2)と同様の方法で、送風を実施した。
例(E5)では、ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを変更した以外は例(E1)と同様の方法で、送風を実施した。
【0147】
風速計(SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY社製「ISA-80」)を用いて、ガラス基材(G1)の表面上の風速を、縦中心軸YCに沿って、いくつかの位置で測定した。具体的には、ガラス基材(G1)の上端位置、並びに、ガラス基材(G1)の上端から、ガラス基材(G1)の表面に沿って、50mm、100mm、または150mm下方の位置で、測定を行った。風速の測定結果を、表2-1に示す。
【0148】
ある任意のタイミングでガラス基材(G1)の表面上に到達した液状組成物(LC)に対する送風時間は、15~17秒間とした。
なお、ある任意のタイミングでガラス基材(G1)の表面上に到達した液状組成物(LC)は、下方に流れ落ちながら、送風により乾燥された。
以上のようにして、塗工膜付きガラス基材を得た。
【0149】
(立置き工程)
塗工膜の形成が完了した後、得られた塗工膜付きガラス基材を13~17秒間、立てた状態で保持した。この時間を、「立置き時間」と言う。
【0150】
(工程(S3))(硬化工程)
次に、塗工膜付きガラス基材を、大気雰囲気下で、180℃または200℃で、20~30分間加熱焼成した。
例(E1)、(E5)では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス基材を、地面に対して略水平に配置(平置き)した。例(E2)~(E4)では、工程(S2)と同様、塗工膜付きガラス基材を、上辺側を上方にして、地面に対して略垂直に配置(立置き)した。
以上のようにして、塗工膜を硬化して、ガラス積層体(GL1)~(GL5)を得、評価した。主な製造条件を表2-1に示す。
【0151】
[例(E101)~(E104)]
例(E101)~(E104))の各例では、いくつかの条件を変更した以外は例(E1)または(E2)と同様にして、ガラス積層体(GL101)~(GL104)を得、評価した。
例(E101)、(E102)では、工程(S2)において、送風ユニットからの送風を行わなかった。
例(E103)では、工程(S2)において、例(E1)、(E2)と同様に、
図3Bに示したように、複数の送風ユニットをガラス基材(G1)の幅方向に一列に並べて配置して送風を実施したが、送風ノズルを液体ノズルの位置より高い位置(すなわち、上方)に配置した。この例では、ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを120°とした。この例における送風範囲は、例(E1)、(E2)における送風範囲よりも狭く、塗工膜の上辺に比較的近い範囲であった。
例(E104)では、ガラス基材(G1)の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを変更した以外は例(E1)と同様の方法で、送風を実施した。
主な製造条件を表3-1に示す。なお、表2-1および表3-1の各例において、表に不記載の条件は共通条件とした。
【0152】
[結果のまとめ]
例(E1)~(E5)、(E101)~(E104)の各例において、得られたガラス積層体の被膜について、縦中心軸YCに沿って、被膜の上下方向の膜厚分布を測定し、被膜の上端からの距離(D)[mm]と被膜の膜厚(T)[μm]との関係を示すグラフ(D-T曲線とも言う。)を得た。第1の仮想線IL1の、被膜の上端からの距離(D)は、20mmである。第2の仮想線IL2の、被膜の上端からの距離(D)は、100mmである。第3の仮想線IL3の、被膜の上端からの距離(D)は、80mmである。第4の仮想線IL4の、被膜の上端からの距離(D)は、40mmである。
【0153】
例(E1)で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布を、
図4Aおよび
図4Bに示す。例(E2)で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布を、
図5Aおよび
図5Bに示す。例(E101)で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布を、
図6Aおよび
図6Bに示す。例(E102)で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布を、
図7Aおよび
図7Bに示す。例(E103)で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布を、
図8Aおよび
図8Bに示す。
各例において、被膜の縦中心軸YC上の主な距離(D)における膜厚(T)のデータを、表2-2および表3-2に示す。
各例において、被膜のその他の評価結果を、表2-2および表3-2に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
例(E1)~(E5)では、塗工工程で下方から送風を行い、少なくとも、塗工膜の上辺と第2の仮想線との間の範囲が乾燥された塗工膜を形成できた。これらの例で得られた被膜はいずれも、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適であった。
これらの例で得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布は、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が0~20mmの領域における被膜の膜厚(T)が、0μm超2.0μm以下であった。
被膜の上端からの距離(D)が0~100mmの領域において、局所的に突出したアップダウンの大きいピークはなく、D-T曲線は全体的に放物線状でなだらかであった。
被膜の上端からの距離(D)が100mm以上の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第1の仮想線IL1上の膜厚(T)が、1.0~2.0μmであった。
被膜の上端からの距離(D)が80mm以上の領域の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第4の仮想線IL4上の膜厚(T)が、1.5~3.0μmであった。
【0159】
例(E1)において、得られたガラス積層体の被膜について、縦軸YL2および縦軸YR2に沿って、被膜の上下方向の膜厚分布をそれぞれ測定し、被膜の上端からの距離(D)[mm]と被膜の膜厚(T)[μm]との関係を示すグラフを得た(図示略)。
例(E1)において得られた被膜の縦軸YL2および縦軸YR2に沿った膜厚分布は、縦中心軸YCに沿った膜厚分布と同様、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が0~20mmの領域における被膜の膜厚(T)が、0μm超2.0μm以下であった。
被膜の上端からの距離(D)が100mm以上の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第1の仮想線IL1上の膜厚(T)が、1.0~2.0μmであった。
被膜の上端からの距離(D)が80mm以上の領域の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第4の仮想線IL4上の膜厚(T)が、1.5~3.0μmであった。
例(E1)において得られた被膜は、少なくとも縦軸YL2~縦軸YR2の範囲内において、本開示で規定する特定膜厚分布を有するものであった。縦寸法が100mm超の特定寸法領域の面積に対して、本開示で規定する特定膜厚分布を有する面積の割合は、50%以上であった。
【0160】
例(E2)において、得られたガラス積層体の被膜について、縦軸YL2および縦軸YR2に沿って、被膜の上下方向の膜厚分布をそれぞれ測定し、被膜の上端からの距離(D)[mm]と被膜の膜厚(T)[μm]との関係を示すグラフを得た(図示略)。
例(E2)において得られた被膜の縦軸YL2および縦軸YR2に沿った膜厚分布は、縦中心軸YCに沿った膜厚分布と同様、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が0~20mmの領域における被膜の膜厚(T)が、0μm超2.0μm以下であった。
被膜の上端からの距離(D)が100mm以上の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第1の仮想線IL1上の膜厚(T)が、1.0~2.0μmであった。
被膜の上端からの距離(D)が80mm以上の領域の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0~3.0μmであった。
被膜の第4の仮想線IL4上の膜厚(T)が、1.5~3.0μmであった。
例(E2)において得られた被膜は、少なくとも縦軸YL2~縦軸YR2の範囲内において、本開示で規定する特定膜厚分布を有するものであった。縦寸法が100mm超の特定寸法領域の面積に対して、本開示で規定する特定膜厚分布を有する面積の割合は、50%以上であった。
【0161】
例(E3)~(E5)においても、例(E1)、(E2)と同様の結果が得られた。
例(E1)~(E5)で得られた被膜はいずれも、耐候性試験における耐クラック性、耐摩耗性、紫外線遮蔽性能(光学機能)、および上辺付近の見栄えが良好であった。
ガラス基材の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを10~50°とした例(E1)~(E5)、特に角度θを10~40°とした例(E1)~(E4)で得られた被膜は、上辺付近の見栄えが良好であった。角度θが10~50°(好ましくは10~40°、より好ましくは20~40°)の条件では、ガラス基材に対する液体ノズルおよび送風ノズルの配置設計がしやすく、ガラス基材の表面に対する液状組成物(LC)の流れと送風を制御しやすかった。その結果、液状組成物(LC)が送風ノズルにかかるなどの不都合を効果的に抑制できた。また、上辺付近の局所的な厚膜化および下部の厚膜化が抑制され、上下方向の膜厚分布が好適で、耐クラック性および上辺付近の見栄え等の外観が良好な被膜を安定的に形成しやすかった。
【0162】
例(E101)では、用いた液状組成物(LC)の固形分濃度が比較的低く、得られた被膜は、全体的に膜厚が薄くなった。この例では、塗工工程で送風を行わなかったため、得られた被膜は、上方から下方に向けて、膜厚が厚くなる傾向があった。得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布は、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が100~300mmの領域における被膜の膜厚(T)が、2.0μm未満であった。
得られた被膜は、耐摩耗性および紫外線遮蔽性能(光学機能)が不良であった。
【0163】
例(E102)では、用いた液状組成物(LC)の固形分濃度が比較的高く、得られた被膜は、全体的に膜厚が厚くなった。この例では、塗工工程で送風を行わなかったため、得られた被膜は、上方から下方に向けて、膜厚が厚くなる傾向があり、下部が厚膜化した。得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布は、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が100mm超の領域における被膜の膜厚(T)が、3.0μm超であった。
得られた被膜は、耐候性試験における耐クラック性が不良であった。
【0164】
例(E103)では、塗工工程で上方から送風を行ったため、上辺付近の乾燥が早く進みすぎて、上辺付近に局所的厚膜部が形成され、下部が厚膜化した。得られた被膜の縦中心軸YC上の上下方向の膜厚分布は、以下の通りであった。
被膜の上端からの距離(D)が0~40mmの領域において、局所的に突出したアップダウンの大きいピークがあり、D-T曲線はいびつな不定形曲線であった。
被膜の上端からの距離(D)が10~20mmの領域内に、被膜の膜厚(T)が2.0μmを超える局所的厚膜部が存在した。
被膜の第4の仮想線IL4上の膜厚(T)が、1.5μm未満であった。
被膜の上端からの距離(D)が250mm以上の領域における被膜の膜厚(T)が、3.0μm超であった。
得られた被膜は、耐候性試験における耐クラック性、耐摩耗性、および上辺付近の見栄えが不良であった。
【0165】
例(E104)では、ガラス基材の表面に対する送風ノズルの中心軸の角度θを80°とした。この例では、被膜の上端からの距離(D)が100mm以上の領域における被膜の膜厚(T)が、2.0μm未満であった。得られた被膜は、上辺付近の見栄えが不良であった。
【0166】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
1:ガラス積層体、10:ガラス基材、10S:表面、11:上辺、13:前方側辺、14:後方側辺、20:被膜、20S:表面、21:上辺、31:液体ノズル、51:送風ノズル、51A:送風ノズルの中心軸 、IL1:第1の仮想線、IL2:第2の仮想線、IL3:第3の仮想線、IL4:第4の仮想線。