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特開2024-66997動物用呼気成分推定方法及び動物用呼気成分センシングシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066997
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】動物用呼気成分推定方法及び動物用呼気成分センシングシステム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
A01K29/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180370
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022176252
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 凛香
(72)【発明者】
【氏名】山本 道貴
(57)【要約】
【課題】簡易に動物の呼気の成分を測定することができる。
【解決手段】対象動物の呼気により、前記対象動物の口又は鼻付近に取り付けられた笛が発した音を収集する収集工程と、前記収集した音の周波数を算出し、前記算出した周波数に応じて、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する推定工程と、を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象動物の呼気により、前記対象動物の口又は鼻付近に取り付けられた笛が発した音を収集する収集工程と、
前記収集した音の周波数を算出し、前記算出した周波数に応じて、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する推定工程と、
を有する動物用呼気成分推定方法。
【請求項2】
第1対象動物に取り付ける第1笛と、第2対象動物に取り付ける第2笛は、それぞれ異なる基本周波数を有する
請求項1記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項3】
前記推定工程は、前記呼気に含まれるガスの混合物の分子量を推定する工程を含む
請求項1記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項4】
前記ガスの混合物は、メタンと二酸化炭素が含まれる
請求項3記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項5】
前記笛は、第1閾値よりも優れた分子量分解能を有する
請求項1記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項6】
前記収集工程は、複数の対象動物に取り付けられた笛ごとに取り付けられた集音装置によって、前記笛が発した音を収集する工程を含む
請求項1記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項7】
前記収集工程は、前記対象動物の近傍に取り付けられた集音装置によって、複数の対象動物それぞれに取り付けられた前記笛が発した音を収集する工程を含む
請求項1記載の動物用呼気成分推定方法。
【請求項8】
笛を構成物に有する発音装置と、音を収集する集音装置と、音データを解析する判定装置を有する動物用呼気成分センシングシステムであって、
前記発音装置は、対象動物の口又は鼻付近に取り付けられ、前記対象動物の呼気により笛の音を発し、
前記集音装置は、前記発音装置が発した笛の音を収集し、音データとして前記判定装置に送信し、
前記判定装置は、前記音データを取得し、前記音データの周波数を算出し、前記算出した周波数に応じて、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する
動物用呼気成分センシングシステム。
【請求項9】
対象動物の呼気により、前記対象動物の口又は鼻付近に取り付けられた2つの笛が発した音を収集する収集工程と、
前記収集した2つの音の周波数を算出し、前記2つの笛それぞれの発する音の周波数、呼気の流量、及び呼気の成分との関係に基づき、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する推定工程と、
を有する動物用呼気成分推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用呼気成分推定方法及び動物用呼気成分センシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスによる地球温暖化が問題となっている。温室効果ガスは、太陽から放出される熱を地球に閉じ込め、地表面の温度を上昇させる。温室効果ガスは、例えば、二酸化炭素やメタンなどが知られている。
【0003】
メタンは、例えば、牛などの反芻動物の胃で発生し、ゲップなどにおいて大気中に放出される。日本においては、総メタン排出量の約27%が、牛のゲップ由来とされている。
【0004】
地球温暖化を抑制するためには、まずはメタンの排出量を把握することが必要となる。また、メタンは、例えば、国際的な排出量取引の対象となることも予想されることから、排出量の測定が求められる。
【0005】
牛の排出するメタンを測定する方法として、例えば、所定時間の間、牛の呼気を回収し、その成分を測定する方法がある。
【0006】
また、牛の排出するメタンを測定する方法として、例えば、牛の胃の中にメタンガスを検出するガスセンサを駐留させ、無線通信でメタンの濃度を取得する方法がある。
【0007】
ガスセンサや呼気の成分を測定する方法に関する技術は、例えば、以下に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2014-525738号公報
【特許文献2】特開2022-026622号公報
【特許文献3】特開2022-111407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
牛の呼気を回収する場合、例えば、呼気回収用の専用の装置が必要である。しかし、呼気回収装置は、コストも高く、また、取り付け、回収に手間がかかる。
【0010】
また、牛の胃に駐留させるガスセンサは、コストも高く、メンテナンス等において胃から取り出す必要があるなど、回収が困難で手間がかかる。
【0011】
このように、従来の方法は、測定機器の設置コストが高価であったり、メンテナンス等に手間がかかったりする場合がある。
【0012】
そこで、一開示は、簡易に動物の呼気の成分を測定することができる、動物用呼気成分測定方法、及び動物用呼気成分センシングシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、対象動物の呼気により、前記対象動物の口又は鼻付近に取り付けられた笛が発した音を収集する収集工程と、前記収集した音の周波数を算出し、前記算出した周波数に応じて、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する推定工程と、を有する動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0014】
また、本発明は、第1対象動物に取り付ける第1笛と、第2対象動物に取り付ける第2笛は、それぞれ異なる基本周波数を有する動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0015】
また、本発明は、前記推定工程が、前記呼気に含まれるガスの混合物の分子量を推定する工程を含む動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0016】
また、本発明は、前記ガスの混合物が、メタンと二酸化炭素が含まれる動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0017】
また、本発明は、前記笛が、第1閾値よりも優れた分子量分解能を有する動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0018】
また、本発明は、前記収集工程が、複数の対象動物に取り付けられた笛ごとに取り付けられた集音装置によって、前記笛が発した音を収集する工程を含む動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0019】
また、本発明は、前記収集工程が、前記対象動物の近傍に取り付けられた集音装置によって、複数の対象動物それぞれに取り付けられた前記笛が発した音を収集する工程を含む動物用呼気成分推定方法、に関するものである。
【0020】
また、本発明は、笛を構成物に有する発音装置と、音を収集する集音装置と、音データを解析する判定装置を有する動物用呼気成分センシングシステムであって、前記発音装置は、対象動物の口又は鼻付近に取り付けられ、前記対象動物の呼気により笛の音を発し、前記集音装置は、前記発音装置が発した笛の音を収集し、音データとして前記判定装置に送信し、前記判定装置は、前記音データを取得し、前記音データの周波数を算出し、前記算出した周波数に応じて、前記音を発したときの前記対象動物の呼気の成分を推定する動物用呼気成分センシングシステム、に関するものである。
【発明の効果】
【0021】
一開示は、安価で簡易に動物の呼気の成分を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、動物用呼気成分センシングシステム10の構成例を示す図である。
図2図2は、動物用呼気成分判定装置100の構成例を表す図である。
図3図3は、発音装置300の例を示す図である。
図4図4は、発音装置300の例を示す図である。
図5図5は、発音装置300の例を示す図である。
図6図6は、呼気成分判定処理S100の処理フローチャートの例を示す図である。
図7図7は、笛の例を示す図である。
図8図8は、笛の音の周波数と、1/√Mの関係を示すグラフの例を示す図である。
図9図9は、笛ごとの分子量分解能の一覧の例を示す図である。
図10図10は、1/√Mとガス混合物の分子量との関係の例を示す図である。
図11図11は、笛の取り付け方法の例を示す図である。
図12図12は、測定した笛の周波数とゲインの例を示す図である。
図13図13は、特性平面を用いて分子量を算出する方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態について説明する。
【0024】
<動物用呼気成分センシングシステム10の構成例>
図1は、動物用呼気成分センシングシステム10の構成例を示す図である。動物用呼気成分センシングシステム10は、動物用呼気成分判定装置100、集音装置200、及び発音装置300-1~3を有する。動物用呼気成分センシングシステム10は、測定対象の動物(図1においては牛)の呼気により発せられた笛の音を集音し、音の周波数から、呼気に含まれる成分を測定(推定)するシステムである。なお、判定の対象動物は、牛に限られない。また、呼気は、例えば、呼吸したときに吐く息や、ゲップを含む。
【0025】
発音装置300-1~3(以降、発音装置300と呼ぶ場合がある)は、例えば、笛と固定器具で構成され、動物の口又は鼻付近に設置される装置である。発音装置300は、例えば、牛の口や鼻から放出された呼気により、笛が鳴ることで音を発する。図1において、牛T1から牛T3は、それぞれ異なる基本周波数を有する笛で構成される発音装置300-1~3が取り付けられている。異なる基本周波数を有する笛で構成される発音装置300を取り付ける理由は、周波数により、いずれの発音装置300(牛)から発生された音かを識別できるようにするためである。なお、牛ごとに個別の管理を行わない場合、牛T1~T3は、それぞれ同じ笛(同じ基本周波数を有する笛)で構成される発音装置300を取り付けられてもよい。
【0026】
なお、図1において、牛は3頭であるが、2頭以下であってもよいし、4頭以上であってもよい。取り付けられる発音装置300の数は、牛の頭数と同じである。
【0027】
集音装置200は、例えば、牛T1~T3を放牧している柵付近に設置され、発音装置300が発する音を収集する装置である。集音装置200は、例えば、マイクである。集音装置200は、収集した音のデータ(音データ)を、動物用呼気成分判定装置100に送信する。集音装置200は、例えば、BlueToothやWi-Fiなどの無線や、有線で動物用呼気成分判定装置100と接続し、通信を行う。
【0028】
なお、集音装置200は、例えば、発音装置300に取り付けられてもよい。発音装置300それぞれに対して集音装置200が取り付けられる場合、どの集音装置200で音を収集したかによって、どの発音装置300(牛)が笛の音を発したかを識別することができる。この場合、発音装置300の笛は、それぞれ同じ基本周波数を有する笛であってもよい。また、この場合、隣接する発音装置300(牛)が発した音を拾ってしまうことを考慮し、それぞれ異なる基本周波数を有する笛であってもよい。また、この場合、集音装置200は、無線で動物用呼気成分判定装置100と通信するための通信回路(通信機器)を有する。
【0029】
動物用呼気成分判定装置100は、音データを集音装置200から取得し、解析を行う装置であり、例えば、コンピュータである。動物用呼気成分判定装置100は、音データを解析し、例えば、いずれの発音装置300から発せられた音であるか、また、当該音データを発したときの呼気の成分などを判定(推定)する。動物用呼気成分判定装置100は、判定した結果を、例えば、表示部に表示したり、ファイル化して出力したりする。
【0030】
<動物用呼気成分判定装置100の構成例>
図2は、動物用呼気成分判定装置100の構成例を表す図である。動物用呼気成分判定装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、ストレージ120、メモリ130、通信回路140、及びディスプレイ150を有する。
【0031】
ストレージ120は、プログラムやデータを記憶する、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置である。ストレージ120は、対象音収集プログラム121及び呼気成分判定プログラム122を記憶する。
【0032】
メモリ130は、ストレージ120に記憶されているプログラムをロードする領域である。また、メモリ130は、プログラムがデータを記憶する領域としても使用されてもよい。
【0033】
通信回路140は、集音装置200と接続し、通信を行う装置である。動物用呼気成分判定装置100は、通信回路140を介して、集音装置200から音データを取得する。通信回路140は、無線に対応するものであってもよいし、有線で接続されるものでもよい。
【0034】
ディスプレイ150は、判定結果などを表示する画面であり、表示部である。ディスプレイ150は、例えば、一体型でもよいし、外部接続されるものであってもよい。
【0035】
CPU110は、ストレージ120に記憶されているプログラムを、メモリ130にロードし、ロードしたプログラムを実行し、各部を構築し、各処理を実現するプロセッサである。
【0036】
CPU110は、対象音収集プログラム121を実行することで、収集部を構築し、対象音収集処理を行う。対象音収集処理は、集音装置200と通信を行い、集音装置200が収集した音データを取得する処理であり、収集工程である。
【0037】
CPU110は、呼気成分判定プログラム122を実行することで、判定部を構築し、呼気成分判定処理を行う。呼気成分判定処理は、音データを分析し、音を発した発音装置300を特定し、音を発したときの呼気成分を判定する処理であり、推定工程である。
【0038】
<発音装置300の構成例>
図3は、発音装置300の例を示す図である。図3(A)は、発音装置300の構成例を示す図である。
【0039】
発音装置300は、鼻輪301、笛302、笛303、ジョイントホース304、及びジョイントホース305で構成される。
【0040】
鼻輪301は、牛の鼻に取り付ける器具である。鼻輪301は、例えば、金属、合成樹脂、又はゴム(合成ゴム、天然ゴムを含む)などで構成される。
【0041】
笛302及び笛303は、例えば、牛の鼻から放出される呼気により、音が鳴る装置であり、例えば、ホイッスルやリコーダーである。図3(A)においては、左右に笛302及び笛303が設置されているが、1つであってもよい。また、左右に笛302及び笛303は、異なる周波数帯域の音を出す異なる笛であってもよいし、同じ笛であってもよい。
【0042】
ジョイントホース304及びジョイントホース305は、笛302及び笛303を鼻輪301に固定するための接続器具である。ジョイントホース304及びジョイントホース305は、例えば、合成樹脂やゴムなどで構成される。
【0043】
図3(B)は、発音装置300を牛に取り付けている例を示す図である。発音装置300は、例えば、笛302及び笛303の吹き込み口が、牛の鼻の穴に向くように取り付けられる。
【0044】
図4は、発音装置300の例を示す図である。図4の発音装置300は、図3(A)の構成物に加え、取手306及び取手307を有する。発音装置300は、取手306及び取手307を取り付けられることによって、笛302及び笛303の吹き込み口の向きや角度を調整しやすくなる。
【0045】
図5は、発音装置300の例を示す図である。図5(A)は、発音装置300を牛に取り付けている例を示す図である。発音装置300は、固定ベルト311、ガスパック312、及び笛313で構成される。
【0046】
固定ベルトは、例えば、合成樹脂、ゴム、布、又は革で構成され、牛の口や首の周辺に固定することで、接続するガスパック312を固定する。
【0047】
笛313は、例えば、ホイッスルやリコーダーであり、図3の発音装置300と同じ笛であってもよい。
【0048】
図5(B)は、ガスパック312の例を示す図である。ガスパック312は、カバー3121と接触部位3125で構成される。
【0049】
カバー3121は、例えば、半球状であり、牛の呼気を収集する空間である。カバー3121は、例えば、合成樹脂やゴムで構成される。
【0050】
カバー3121は、鼻輪孔3122、鼻輪孔3123、及び笛差し込み孔3124を有する。鼻輪孔3122及び鼻輪孔3123は、鼻輪を通す穴であり、鼻輪を通すことでふさがる大きさや形状である。カバー3121が合成樹脂やゴムである場合、鼻輪孔3122及び鼻輪孔3123は、鼻輪より少し小さい大きさの穴であってもよい。
【0051】
笛差し込み孔3124は、笛313を通す穴であり、笛313を通すことでふさがる大きさや形状である。カバー3121が合成樹脂やゴムである場合、笛差し込み孔3124は、笛313の吹き込み口より少し小さい大きさの穴であってもよい。
【0052】
接触部位3125は、牛と接触する部分であって、例えば、合成樹脂やゴムなどで構成される。接触部位3125は、牛の口周辺に密着し、牛の呼気がカバー3121から漏れることを防ぐ。また、接触部位3125は、牛の口周辺に密着し、ガスパック312が牛の口周辺からずれてしまうことを防ぐ。
【0053】
なお、図3図5に示す発音装置300は、集音装置200が取り付けられてもよい。また、図3図5に示す発音装置300は、集音装置200が構成物の一つとなってもよい。集音装置200は、例えば、笛の近くに取り付けられる。集音装置200は、例えば、無線で動物用呼気成分判定装置100と接続し、音データを動物用呼気成分判定装置100に送信する。
【0054】
<呼気成分判定処理>
動物用呼気成分判定装置100で実行される呼気成分判定処理について説明する。図6は、呼気成分判定処理S100の処理フローチャートの例を示す図である。
【0055】
収集部は、集音装置200より、音データを取得する(S100-1)。なお、収集部は、例えば、所定量以上に小さい音量の音データを、判定対象外の音データ(雑音データ)であると判定し、破棄してもよい。
【0056】
判定部は、収集部が取得した音データに基づき、笛の識別を行う(S100-2)。音データの周波数を算出し、当該周波数に対応する笛を識別する。笛の音は、呼気を構成する気体の成分が変化すると、周波数も変化するが、取り得る(発する可能性のある)周波数帯域は、笛の形状や材質などにより決まっている。言い換えれば、笛の音の周波数は、基本周波数から所定幅となり、取り得る範囲は決まっている。そのため、判定部は、音データの周波数を算出することで、当該音データの音が、どの笛(発音装置300)から発せられたかを識別することができる。
【0057】
判定部は、笛を識別した結果、判定対象の笛から発せられた音ではないと判定した場合(S100-3のNo)、再度音データの取得を待ち受ける(S100-1)。
【0058】
一方、判定部は、笛を識別した結果、判定対象の笛から発せられた音であると判定した場合(S100-3のYes)、音データの周波数より呼気成分を算出する(S100-4)。
【0059】
そして、判定部は、算出した呼気成分を笛ごと(牛ごと)に保存(出力)し(S100-5)、再度音データの取得を待ち受ける(S100-1)。
【0060】
<呼気成分の算出方法について>
笛の音は、呼気を構成する気体の成分が変化すると、周波数も変化する。そのため、笛の音データの周波数を算出することで、呼気成分を推定(算出)することができる。
【0061】
笛による周波数の差異について説明する。図7は、笛の例を示す図である。例えば、笛A~笛Dの周波数の差異について説明する。図7に示すように、笛それぞれは、材質、形状、共鳴方式、空気中での基本周波数などが異なる。笛A~Dのそれぞれについて、呼気成分と周波数の関係について説明する。
【0062】
笛の共鳴方式は、例えば、以下の2種類に分類される。
【0063】
(1)気柱の共鳴
リコーダーなどの共鳴方式である。固有周波数(基本周波数)は、例えば、以下の式1、式2で算出できる。
【0064】
・閉管の場合 f=(2n-1/4L)×c ・・・式1
・開管の場合 f=(n/2L)×c ・・・式2
fは基本周波数、nは自然数、Lは管の長さ、cは音速を示す。
【0065】
(2)ヘルツホルム共鳴
ホイッスルなどの共鳴方式である。固有周波数は、例えば、以下の式3で算出できる。
【0066】
【数1】
πは円周率、Sはネック部の断面積、Lはネック部の長さ、Vは内部気体の体積を示す。
【0067】
音速cは、以下の式4で表すことできる。
【0068】
【数2】
kは比熱比、Rは気体定数、Tは絶対温度、Mは分子量を示す。
【0069】
このことから、共鳴方式がいずれであっても、固有周波数fは、1/√Mに比例することがわかる。判定部は、これを利用し、笛が有する基本周波数(固有周波数)から、気体の分子量を算出(推定)する。
【0070】
図8は、笛の音の周波数と、1/√Mの関係を示すグラフの例を示す図である。図8に示すグラフを用いて、音データの周波数から1/√Mを算出し、呼気成分を推定することができる。
【0071】
図9は、笛ごとの分子量分解能の一覧の例を示す図である。分子量分解能は、例えば、1/√Mの分解能を標準偏差及びグラフの傾きから算出し、1/√Mの分解能を換算して算出される。牛の呼気は、平常時、メタンが0.6%程度含まれる。また、ルーメン(牛の第1の胃)の内部の気体には、メタンが20%程度含まれる。牛のゲップは、ルーメン内の気体が放出されているため、牛のゲップには、メタンが20%程度含まれていると想定することができる。ルーメンにおいて、メタン含有量の増減を、例えば、5%単位で検出する場合、ガス混合物における1%(メタン含有率20%に対する5%の割合)単位での増減を検出する分解能が必要となる。この分解能は、例えば、0.28程度となる。
【0072】
メタンの増減を高精度で検出するためには、より分子量分解能が優れた笛を選択することが好ましい。例えば、笛は、分子量分解能が所定値(第1閾値)よりも優れたものが選択される。例えば、図9においては、笛Cが選択される。
【0073】
なお、笛Cの円筒の長さや断面積を変更することで、異なる基本周波数帯域を有する複数の笛を準備することが可能であるため、複数の牛の発音装置300に異なる基本周波数帯域を有する発音装置300を取り付けることができ、複数の牛を音データの周波数で識別することができる。また、笛A~D以外に、優れた分子量分解能を有する笛があれば、その笛が選択されてもよい。
【0074】
図10は、1/√Mとガス混合物の分子量との関係の例を示す図である。ガス混合物は、例えば、二酸化炭素とメタンの混合物である。なお、ガスは、例えば、室温を300K(ケルビン)において、水、メタン、二酸化炭素のみで構成されると仮定する。また、飽和水蒸気量は、体積分率3.5%と仮定する。
【0075】
<呼気成分判定結果の例>
例えば、判定対象の牛が1頭で、その牛は、分子量分解能が最も優れた笛Cの発音装置300を装着しているとする。判定部は、取得した音データの周波数から、図8の笛Cのグラフより、1/√Mを算出する。そして、判定部は、図10より、1/√Mと対応するガスの混合物の分子量を算出する。
【0076】
例えば、音データの周波数が約3100Hzである場合、判定部は、図8のグラフより1/√Mを約0.177と算出する。そして、判定部は、図10より、1/√Mの0.177に対応する0.71を、メタンの二酸化炭素に対する割合(CH/CO)として算出する。そして、判定部は、0.71に対応するガス混合物の分子量を、31.9と算出する。また、判定部は、割合0.71より、混合ガス中の成分をメタン40%及び二酸化炭素56.5%(水が存在するため、合計100%とならない)と算出する。
【0077】
このように、動物用呼気成分センシングシステム10は、笛の音の周波数が呼気の成分によって変化することを利用し、牛の呼気の成分を算出することができる。使用器具としては、笛やマイク、または一般的なコンピュータなどであり、比較的安価にシステムを構成することができる。また、笛も牛に取り付けるだけであり、メンテナンスも簡易に行うことができる。
【0078】
また、本実施例において、ガス混合物の成分を、二酸化炭素、メタン、既知の量の水のみであると仮定した。判定部は、メタンと二酸化炭素の混合物の分子量を算出(メタンと二酸化炭素の分子量は既知であるため算出可能)し、メタンの割合を算出することが可能である。実際の牛の呼気には、さらに他の気体が含まれる場合があるが、音を発したときの牛の状況や状態などから、他の気体の割合を想定(特定)できる場合、メタンの分子量を算出することが可能となる。
【0079】
また、ゲップが混じった呼気と、呼吸による呼気とでは、呼気成分が異なる。そのため、判定部は、ゲップの回数や長さについても計測することが可能となる。例えば、判定部は、メタンの分子量(あるいは混合物の分子量)が所定値以上であれば、ゲップであると判定してもよい。また、判定部は、音データの時間から、ゲップの長さを算出することができる。
【0080】
[第2の実施の形態]
笛は、基本周波数を有するが、吹き込まれる息の流入量のよって、周波数が異なる場合がある。笛は、例えば、流入量が多いほど、周波数も高くなる傾向がある。流入量による周波数の変化は、あまり大きな変化量ではないが、笛の音の周波数による呼気成分判定に、影響を与え得る。そこで、第2の実施の形態では、1頭の牛に異なる基本周波数を有する複数(例えば2つ)の笛を取り付ける。
【0081】
図11は、笛の取り付け方法の例を示す図である。図11(A)は、吹き込み口500から取り込んだ息を、並列に並べられた笛501と笛502に分散させて吹き込む方法である。また、図11(B)は、吹き込み口500から取り込んだ息を、笛501に吹き込み、さらに、笛501から出てくる息を、笛501に直列に接続された笛502に吹き込む方法である。第2の実施の形態では、2つの笛に吹き込まれる息の流量は、均等であることが好ましい。図11(A)では、概ね息の流量の半分が各笛に流入し、図11(B)では、概ね息の流量と同じ流量が各笛に流入すると想定することができる。
【0082】
以下、第2の実施の形態における、呼気成分判定方法について説明する。
【0083】
<笛の音の周波数測定>
まず、試験者は、笛501及び笛502から発せられる音の周波数を測定する。図12は、測定した笛の周波数とゲインの例を示す図である。図12において、f1は、笛501が発した音の周波数であり、f2は、笛502が発した音の周波数である。なお、発せられた音が笛501と笛502のいずれであるかの区別は、例えば、基本周波数から判定する。
【0084】
<関係式から分子量の算出>
次に、笛501及び笛502に流入する気体の分子量、総流量、及び周波数の関係を示す関係式を定義(仮定)する。以下、分子量をM、総流量をQ、周波数をfと表現する場合がある。関係式は、例えば、以下の式21とする。
【0085】
f=a×1/√M + b×Q +c ・・・式21
a,b,cは、笛ごとに異なる定数とする。
【0086】
式21に基づき、笛501の周波数f1及び笛502の周波数f2は、以下の式22及び式23で表すことができる。
【0087】
f1=a1×1/√M + b1×Q +c1 ・・・式22
f2=a2×1/√M + b2×Q +c2 ・・・式23
a1,b1,c1は、笛501における定数であり、a2,b2,c2は、笛502における定数である。
【0088】
各笛から発生する音の周波数f1及びf2は、1/√M及びQに対して、線形に増加すると近似することができる。これにより、1/√M、Q、及びfの関係は、3次元平面であると仮定することができる。この3次元平面を、特性平面と呼ぶ場合がある。試験者は、分子量測定の前に、事前に笛501及び笛502の定数を算出しておく。
【0089】
図13は、特性平面を用いて分子量を算出する方法の例を示す図である。図13(A)は、特性平面の例を示す図である。図13(A)のWhistle1は、笛501を示し、Whistle2は、笛502を示すものとする。
【0090】
図13(B)は、分子量を算出するグラフの例を示す図である。試験者は、測定により取得した各笛の周波数を式22及び式23に代入し、M及びQを算出する。図13(B)におけるグラフの交点が、算出されるM及びQである。
【0091】
<第2の実施の形態の変形例>
第2の実施の形態において、試験者は、2つの変数(M、Q)を確定するために、2つの笛の周波数を測定し、2つの連立方程式を解くことで、分子量を算出した。しかし、笛の周波数が変わる要因として、流量(総流量)以外に、例えば、温度などが考えられる。温度の影響を考慮する場合、例えば、3つの笛の周波数を測定し、以下の式24~26を定義することで、分子量の算出が可能となる。
【0092】
f1=a1×1/√M + b1×Q +c1×√T +d1 ・・・式24
f2=a2×1/√M + b2×Q +c2×√T +d2 ・・・式25
f3=a3×1/√M + b3×Q +c3×√T +d3 ・・・式26
a1,b1,c1は、笛501における定数であり、a2,b2,c2は、笛502における定数であり、a3,b3,c3は、笛503(図示しない)の定数である。
【0093】
式24から 26は、周波数fが、1/√M、Q、 √T(Tは温度)に対して線形に増加すると近似した式である。以下、各笛の4次元特性平面と呼ぶ場合がある。試験者は、各笛の周波数を測定し、式24~26に代入し、連立方程式を解くことで、M、Q、及びTを算出することができる。
【符号の説明】
【0094】
10 :動物用呼気成分センシングシステム
100 :動物用呼気成分判定装置
110 :CPU
120 :ストレージ
121 :対象音収集プログラム
122 :呼気成分判定プログラム
130 :メモリ
140 :通信回路
150 :ディスプレイ
200 :集音装置
300 :発音装置
301 :鼻輪
302 :笛
303 :笛
304 :ジョイントホース
305 :ジョイントホース
306 :取手
307 :取手
311 :固定ベルト
312 :ガスパック
313 :笛
3121 :カバー
3122 :鼻輪孔
3123 :鼻輪孔
3124 :込み孔
3125 :接触部位
図1
図2
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図10
図11
図12
図13