(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067038
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】植物処理装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240509BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G7/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039544
(22)【出願日】2024-03-14
(62)【分割の表示】P 2019128643の分割
【原出願日】2019-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】藤川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 智大
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA03
2B022AB11
2B022AB15
2B022AB20
2B022DA03
2B022DA08
2B022EA01
(57)【要約】
【課題】多くの植物を処理可能であると同時に、個々の植物に対して紫外光を効率的に照射することができる装置を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、植物を保持可能な植物保持部と、前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する紫外光照射部と、水を含んで構成される液体を保持し該液体に前記植物保持部に保持された植物を浸漬する植物浸漬部、又は前記液体を前記植物保持部に保持された植物に向けて噴射する液体噴射部とを備える、植物処理装置が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を保持可能な植物保持部と、
前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する紫外光照射部と、
前記植物の色情報に基いて、前記紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを制御する照射制御部と
を備える、植物処理装置。
【請求項2】
前記色情報は前記植物の緑色吸収に関する情報である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記照射制御部は、緑色吸収がより高い植物に対して、前記紫外光がより高い照射量で照射されるよう制御する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記照射制御部は、前記紫外光照射部から発出される前記紫外光の照度を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記照射制御部は、緑色吸収がより高い植物に対して、より長波長の紫外光が照射されるよう制御する、請求項2、3及び請求項2又は3を引用するときの請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記照射制御部は、緑色吸収が所定のレベルより低い植物又はその領域に対して、前記紫外光が照射されるよう制御する、請求項2、3、5及び請求項2又は3を引用するときの請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記紫外光照射部は、光源のアレイ、マトリクス又はクラスタを備えて構成され、
前記照射制御部は、前記色情報に基いて、発光すべき光源を指定する、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記紫外光照射部は、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2以上の光源を備えて構成され、
前記照射制御部は、前記色情報に基いて、発光すべき光源を指定する、請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記植物の色情報を取得して前記照射制御部に送信する色センサを更に備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記植物保持部は、植物を前記色センサのセンシング領域及び前記紫外光照射部の照射領域に搬送する植物搬送機構の一部を構成する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
水を含んで構成される液体を保持し該液体に前記植物を浸漬する植物浸漬部、又は前記液体を前記植物に向けて噴射する液体噴射部を更に備える請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記液体は、フェノール性化合物の前駆体物質及び生合成を促進する植物ホルモンから選択される少なくとも1つの物質を含有する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記植物における前記紫外光の受光領域が変更されるように該植物を変位させる植物変位機構を更に備える、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記紫外光照射部は、波長域310nm以上400nm以下の光の発光量が前記紫外光の発光量の50%未満となるように構成されている、請求項1~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記紫外光照射部は、波長域200nm以上260nm以下の光の発光量が前記紫外光の発光量の20%未満となるように構成されている、請求項1~14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記紫外光照射部は、前記紫外光の光源として、発光ダイオード又はレーザダイオードを備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記植物中のフェノール性化合物を増量させるために用いられる、請求項1~16のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を処理する装置、より具体的には植物を紫外光照射処理に付する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物中のフェノール性化合物(例えば、ポリフェノール)は、抗酸化活性、抗菌活性、血圧上昇抑制活性のような種々の生理活性を有することが明らかとなり、近年の健康志向の高まりと相俟って、大いに注目されている。例えば、アントシアニン及びレスベラトロールは抗酸化活性を有することが知られている。
アントシアニンは植物の色付きに関与している。
カンナビノイド(カナビスに含まれるテルペンフェノール化合物)は、医薬品の原材料として用いられている。
【0003】
そこで、植物に含まれるフェノール性化合物を増量させる技術が開発されている。
例えば、特許文献1は、特定波長域(270nm以上290nm以下)の紫外光を照射することにより、植物中のフェノール性化合物を効率的に増量させる方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO/2018/199307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法を産業的規模で適用するには、多く植物を処理可能であると同時に、個々の植物に対して紫外光を効率的に照射することができる装置の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、第1の観点において、植物を保持可能な植物保持部と、前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する紫外光照射部と、水を含んで構成される液体を保持し該液体に前記植物保持部に保持された植物を浸漬する植物浸漬部、又は前記液体を前記植物保持部に保持された植物に向けて噴射する液体噴射部とを備える、植物処理装置(以下、「第1の観点の装置」ともいう)が提供される。
【0007】
本発明によれば、第2の観点において、植物を保持可能な植物保持部と、前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する紫外光照射部と、前記植物の色情報に基いて、前記紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを制御する照射制御部とを備える、植物処理装置(以下、「第2の観点の装置」ともいう)が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1及び第2の観点の装置(以下、まとめて「本発明の装置」とも呼ぶ)によれば、多くの植物を処理可能であると同時に、個々の植物に対して紫外光を効率的に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の観点の方法の実施形態1を示す。
【
図2】本発明の第1の観点の方法の実施形態2を示す。
【
図3】本発明の第1の観点の方法の実施形態3を示す。
【
図4】本発明の第1の観点の方法の実施形態4を示す。
【
図5】本発明の第1の観点の方法の実施形態5を示す。
【
図6】本発明の第2の観点の方法の実施形態6を示す。
【
図7】本発明の第2の観点の方法の実施形態7を示す。
【
図8】本発明の第2の観点の方法の実施形態8を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<第1の観点の装置>
本発明の第1の観点の装置は、植物を保持可能な植物保持部と、前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光(以下、「特定波長域の紫外光」ともいう)を含む光を照射する紫外光照射部と、水を含んで構成される液体を保持し該液体に前記植物保持部に保持された植物を浸漬する植物浸漬部、又は前記液体を前記植物保持部に保持された植物に向けて噴射する液体噴射部とを備えることを特徴とする、植物処理装置である。
【0011】
特定波長域の紫外光の照射前、照射中及び/又は照射後に、植物保持部に保持された植物(すなわち、処理対象の植物)を、水を含んで構成される液体に浸漬し、又は前記植物に前記液体を噴射することにより、照射による当該植物の温度上昇を防止若しくは低減し、及び/又は照射により上昇した当該植物の温度を低下させることができ、延いては当該植物への特定波長域の紫外光の連続照射又は短いインターバルでの間欠照射が可能となる。結果として、植物の処理効率が向上し得る。加えて、植物の乾燥を防止し、その鮮度を維持し得る。
【0012】
(植物保持部)
植物保持部は、植物を保持可能である。
植物保持部は、植物(植物体全体又はその部分若しくは細胞)を保持することができる任意の構成を採用することができる。植物保持部が植物を保持する態様は、特に限定されず、例えば、載置、収容、挟持、把持であり得る。また、植物保持部は、植物を直接支持するものである必要はなく、間接的に支持するもの、例えば、植物をその内部で液体中(特に水流中)又は気流中に浮遊した状態で保持する容器であってもよい。
【0013】
幾つかの実施形態において、植物保持部は、その上に植物を載置できる構造及び大きさを有する。このような植物保持部(植物載置部)の載置面は、例えば、床、棚若しくは台の上面、又は容器、トレー若しくはカゴの内側底面の少なくとも一部から構成され得る。載置面は、連続する1つの面に限られず、分離された複数の面から構成されてもよいし、例えばメッシュ状若しくは格子状のパネルの上面のような仮想の面であってもよい。植物載置部の形状は特に制限されない。
【0014】
別の幾つかの実施形態において、植物保持部は、その内部に植物を収容できる構造及び大きさを有する。このような植物保持部(植物収容容器)の形状は特に制限されない。植物収容容器は、保管庫又は貯蔵庫(集荷場に設けられるような大規模なもの及び店舗バックヤードに設置される小規模なものを含む)を兼ねるものであってもよい。また、植物収容容器は据置式であってもよいし、移動又は搬送可能(例えば、輸送コンテナ及び貨物自動車の荷室)であってもよい。これにより、移動又は搬送中の時間を植物の処理(例えば、フェノール性化合物の増量処理)に利用できるため、時間効率が向上し、延いては処理後の植物の鮮度を向上させることができる。植物収容容器は、内部雰囲気の温度及び/又は湿度を制御する雰囲気制御機構を備えていてもよい。植物が細胞の形態である場合、植物収容容器は培養器であり得る。
植物保持部は、その内部において植物を液体中で保持可能な容器である場合、植物浸漬部の液体保持領域を兼ねることができる。
【0015】
植物保持部を構成する部材は、該植物保持部に保持された植物への紫外光照射部からの特定波長域の紫外光の照射を妨げる位置に存在する場合、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光に対して実質的に透明な材料で構成されているか、又は該紫外光を透過させる1又は複数の開口部(例えば、メッシュ構造)を有することが好ましい。ここで、「270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光に対して実質的に透明」とは、該紫外光を50%以上、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上透過させることをいう。よって、植物保持部は、例えば、メッシュ状又は格子状の載置面及び/又は壁を有して構成されるものであり得る。
【0016】
植物保持部は、植物を紫外光照射部の照射領域、及び植物浸漬部の液体保持領域又は液体噴射部の噴射領域に搬送する植物搬送機構の一部を構成していてもよい。これにより、多量の植物を連続的に処理することができる。植物搬送機構は、植物を機械的に搬送するものであってもよいし、水流又は気流により搬送するものであってもよい。
例えば、植物保持部は、少なくとも一部が植物浸漬部の液体保持領域又は液体噴射部の噴射領域を通過するように設けられたメッシュコンベアの上面を含んで構成される。
【0017】
植物保持部は、該植物保持部に保持された植物における、紫外光照射部から照射される紫外光の受光領域が変更されるように該植物を変位させる植物変位機構を有していてもよい。これにより、植物保持部に保持された植物における特定波長域の紫外光の受光領域を大きくすることができる。特定波長域の紫外光を当該植物に向けて一方向(例えば上方)のみから照射する場合にも、該植物の表面全体を受光領域とし得る。その結果、この実施形態の装置によれば、個々の植物に対して紫外光を効率的に照射することが可能となり、例えば、当該植物中のフェノール性化合物を効率的に増量させることができる。
植物変位機構は、振動、傾斜若しくは回転により、フロー(気流又は水流)により及び/又は機械的接触により植物を変位させる機構であり得る。植物変位機構は、例えば、邪魔板、フロー生成機構(例えば、スクリュー、ファン、液体若しくはエア噴射口(まとめて「流体噴射口」と呼ぶ)を備えるもの)、植物保持部に振動を付与する加振部材、植物保持部に揺動を付与する揺動部材、植物保持部を傾斜させる傾斜付与部材又は植物に当接して該植物を回転させるローラー部材等を備えて構成され得る。
【0018】
植物変位機構を有する植物保持部の1つの具体例は、水平軸又は傾斜軸を回転軸として回転可能に支持された回転式ドラムを備えるものである。回転式ドラムはその内周壁に邪魔板が設けられていてもよい。邪魔板が設けられていることにより、ドラム内部における植物の変位が促進され得る。回転式ドラムは、例えば、回転軸を回転させる駆動機構により回転してもよいし、ドラム外周に当接するローラーを回転させる駆動機構により回転してもよい。
【0019】
植物保持部は、好ましくは少なくとも紫外光照射時に、より好ましくは少なくとも紫外光照射時及び紫外光照射後に、植物を、実質的遮光下(より好ましくは遮光下)に保持可能である。本明細書において、「実質的遮光」とは、光合成光量子束密度が照射対象植物において光合成が生じないレベルであること、より具体的には、光合成光量子束密度≦10μmol/m2/sであることを意味し、「遮光」とは、紫外光照射部からの光以外の光が遮光されていることを意味する。
よって、植物保持部は、本発明の装置の遮光性若しくは実質的遮光性の筐体(存在する場合)の内部に設けられていてもよいし、又は、遮光性若しくは実質的遮光性の植物収容容器であってもよい。或いは、植物保持部は、少なくとも一区間において、遮光された又は実質的に遮光された通路内を搬送されるように構成されていてもよい。
少なくとも紫外光照射時に植物を実質的遮光下又は遮光下に保持することにより、該植物の光合成を実質的に防止して、光合成によるエネルギー消費や他の合成系の賦活化を回避することができる。その結果として、本装置による特定波長域の紫外光の照射効果(例えば、植物におけるフェノール性化合物の増量)をより効率的に達成することができる。
【0020】
(紫外光照射部)
紫外光照射部は、植物保持部に保持された植物(「紫外光照射部」の項において、「照射対象植物」ともいう)に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する。
紫外線照射部は、少なくとも特定波長域の紫外光を発出する光源を少なくとも1つ備える。このような光源の例として、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、キセノンランプ、蛍光灯、白熱電灯、メタルハライドランプや高圧水銀ランプを挙げることができる。紫外線照射部は、270nm以上290nm以下の波長域の光に対する透過率が200nm以上260nm以下の波長域及び/又は310nm以上400nm以下の波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを備えていてもよい。
【0021】
紫外線照射部は、植物への悪影響(例えば細胞損傷)の観点から、200nm以上260nm以下の波長域の光を、その照射量が特定波長域の紫外光の照射量の20%未満で照射するものであることが好ましく、10%未満で照射するものがより好ましく、5%未満で照射するものがさらに好ましく、1%未満で照射するものが最も好ましい。
また、310nm以上400nm以下の波長域の光は、植物におけるフェノール性化合物の増量には寄与せず、むしろ植物の損傷に作用し得る。よって、本装置を植物におけるフェノール性化合物の増量に用いる場合、紫外線照射部は、310nm以上400nm以下の波長域の光を、その照射量が特定波長域の紫外光の照射量の50%未満で照射するものであることが好ましく、40%未満で照射するものがより好ましく、30%未満で照射するものがより好ましく、20%未満で照射するものがより好ましく、10%未満で照射するものがより好ましく、5%未満で照射するものであることが最も好ましい。
【0022】
特定波長域の紫外光の植物への照射量は、例えば、1,500μmol/m2以上1,000,000μmol/m2以下、より具体的には1,500μmol/m2以上50,000μmol/m2以下に設定し得る。
特定波長域の紫外光は、例えば0.01μmol/m2/s以上1000μmol/m2/s以下、より具体的には0.01μmol/m2/s以上100μmol/m2/s以下の光子量束密度で照射される。0.01μmol/m2/s未満の場合には、特定波長域の紫外光の照射効果を十分に得られないことがあり、例えば、植物におけるフェノール性化合物の増量を効率的に達成できないことがある。1000μmol/m2/sを超える場合には、植物の損傷を早期に誘導することがある。特定波長域の紫外光は、好ましくは0.1μmol/m2/s以上20μmol/m2/s以下、より好ましくは1μmol/m2/s以上5μmol/m2/s以下光子量束密度で照射される。
【0023】
特定波長域の紫外光を発出する光源としては、発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)が特に好ましい。LED又はLDを用いる場合、(例えば植物中のフェノール性化合物の増量に)有用ではない(むしろ専ら有害であり得る)波長域の光の植物への照射を回避しつつ、(例えば、植物中のフェノール性化合物の増量に)有用な波長域の光の照射(すなわち、選択的照射)が容易に実現可能となる。また、LED又はLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、照度又は照射量の制御又は管理が容易になる。
紫外光照射部は、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2以上の光源を備えて構成されてもよい。互いに異なる主ピーク波長を有する2以上の光源を備えることにより、紫外光照射部は、植物の種類及び/又は状態に応じて、植物の処理により適した波長の紫外光を該植物に向けて照射することができ、例えば、当該植物中のフェノール性化合物を(エネルギー効率及び/又は細胞損傷の観点から)より効率的に増量させ得る波長の紫外光を該植物に向けて照射することができる。
【0024】
光源の形態は、任意の形態であり得、照射すべき領域の大きさ並びに/又は照射すべき領域と光源との配置態様などに応じて適切に設計することができる。紫外線照射部は、光源のアレイ、マトリクス又はクラスタを備えて構成されてもよい。この場合、アレイ、マトリクス又はクラスタを構成する複数の光源は、個々に又はラインごとに、その点消灯及び/又は照度を制御されてもよい。
アレイ、マトリクス又はクラスタを構成する光源は、照射対象植物に関連する情報に基いて制御されてもよい。照射対象植物に関連する情報は、当該植物の色情報、又は色情報及び該色情報に関連する位置情報であり得る。
【0025】
紫外光照射部を構成する光源は、植物保持部が所定位置にあるとき該植物保持部に保持された植物に、該紫外光照射部から発出される特定波長の紫外光を照射可能な任意の位置に配置され得る。植物が容器内に保持される場合、光源は容器内に配置されてもよいし、容器外部に配置されてもよい(但し、該容器が270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光に対して実質的に透明な材料で構成されているという条件で)。例えば、植物保持部が回転式ドラムである場合、紫外光照射部(の光源)は、前記回転式ドラム内部に、特定波長域の紫外光を該回転式ドラムの内部下方領域に照射するよう設けられてもよい。また、例えば、植物がメッシュ状容器(例えばカゴ)に保持される場合、光源は該メッシュ状容器の外部及び/又は内部に配置することができる。
紫外光照射部は、照射対象植物に対して特定波長域の紫外光を照射可能である限り、該植物の周囲のいずれの方向(一方向又は2以上の方向)から照射してもよい。紫外光照射部は、照射対象植物に対して紫外光を二方向から照射することが好ましい。二方向、特に対向する方向(例えば、上下方向、左右方向又は前後方向)からの照射により、照射対象植物のより広い領域に対して特定波長域の紫外光を効率的に照射することが可能になる。
【0026】
紫外光照射部は、照射対象植物に対して特定波長域の紫外光を、連続光として若しくは間欠光として又はそれらの組合せとして照射してもよい。紫外光照射部は、特定波長域の紫外光を間欠光として照射することが好ましい。間欠光として照射することにより、照射対象植物及び/又は光源の温度上昇を回避又は低減することができる。間欠光の具体例は、パルス幅が100 ms以下、より具体的には50 ms以下、より具体的には20 ms以下、より具体的には10 ms以下、より具体的には5 ms以下で、デューティ比が50%以下、より具体的には40%以下、より具体的には30%以下、より具体的には20%以下、より具体的には10%以下、より具体的には5%以下である。
【0027】
紫外光照射部は、好ましくは、その照射領域が植物浸漬部の液体保持領域又は液体噴射部の噴射領域と重複するよう設けられ、より好ましくは、該液体保持領域内の植物又は該液体噴射部による液体噴射雰囲気中の植物に向けて特定波長域の紫外光を照射する。この好適な実施形態によれば、特定波長域の紫外光を照射されている植物の温度上昇を効率的に防止又は低減することができるため、当該植物に特定波長域の紫外光をより長く連続照射し、又はより短いインターバルで間欠照射することが可能となる。結果として、本実施形態の装置を用いることにより、植物の処理効率(例えば、フェノール性化合物が増量した植物の生産タクト(時間効率))が更に向上し得る。
【0028】
紫外光照射部から発出される特定波長域の紫外光の照度及び照射時間(又は照射量)は、例えば、パルス幅変調回路及び/又はタイマーにより制御され得る。
紫外光照射部は、レンズ、反射鏡、マスク、拡散板などの任意の光学部品を備えていてもよい。
紫外光照射部の照射領域は、実質的遮光下にあることが好ましく、遮光下にあることがより好ましい。
【0029】
(植物浸漬部)
植物浸漬部は、水を含んで構成される液体を保持し、該液体に、植物保持部に保持された植物を浸漬する。
植物浸漬部は、液体を保持又は貯留することができ、液体を保持する領域(液体保持領域)内に、植物保持部に保持された植物を位置させることができる任意の構成を採用することができる。植物浸漬部の液体保持領域内には、水を含んでなる液体が貯留される。
植物浸漬部は、例えば、液体を保持することができる容器又は槽を備えて構成される。
植物浸漬部の液体保持領域は、植物保持部を構成する容器であって、その内部において植物を液体中で保持可能である容器又はその一部(例えば植物収容容器の下方領域)が兼ねてもよい。
【0030】
植物浸漬部は、液体中で植物を一定方向へ搬送し又は浮遊させ得る水流生成機構を備えていてもよい。
植物浸漬部は、植物保持部に保持された植物を、その液体保持領域内に導入し及び/又は該液体保持領域内から取り出す機構を備えていてもよい。この機構は、植物保持部が植物搬送機構の一部を構成する場合、該植物搬送機構が兼ね、その一部が植物浸漬部の液体保持領域内を通過してもよい。
【0031】
(液体噴射部)
液体噴射部は、水を含んで構成される液体を植物保持部に保持された植物に向けて噴射する。
液体噴射部は、植物保持部に保持された植物に向けて液体を噴射することができる任意の構成を採用することができる。
液体噴射部による噴射は、植物保持部に保持された植物の周囲のいずれの方向(一方向又は2以上の方向)からであってもよいが、上方からが好ましい。
噴射は、水圧及び/又は空気圧を利用するものであり得る。噴射パターン(スプレーパターン)は、任意の形状であり得るが、例えば直線的、扇形(フラット)又は充円錐形(フルコーン)であり得る。噴射は連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
液体噴射部の噴射領域は、植物保持部に保持された植物が植物搬送機構により搬送される場合、該植物搬送機構の搬送路の途中(少なくとも一区間)に設けることができる。液体噴射部の噴射領域は、植物が容器中に保持される場合、該容器内部の全体であってもよいし、その一部(例えば植物収容容器の下方領域)であってもよい。
【0032】
液体噴射部は、例えば、植物保持部に保持された植物に向けて液体を噴射する1又は複数の噴射口を有する。噴射口は液体又は液体と気体との混合物を噴射可能に構成される。噴射口は、例えば、1流体ノズル又は2流体ノズルである。
液体噴射部は、液体をミスト状態で噴射してもよい。
液体噴射部は、上述した植物変位機構として機能してもよい。
【0033】
液体浸漬部に保持され、又は液体噴射部から噴射される水を含んで構成される液体は、水、又はフェノール性化合物の前駆体物質及び植物ホルモンから選択される少なくとも1つの物質を含有する水であり得る。後者の場合、植物における生合成(例えば、フェノール性化合物の生合成)を促進させることができるため、本装置により植物を効率的に処理することができ、例えば、植物中のフェノール性化合物がより増量し得る。
前駆体物質としては、フェニルアラニン及びチロシンなどのアミノ酸が挙げられる。植物ホルモンとしては、生合成を促進するホルモン、アブシジン酸が挙げられる。
水を含んで構成される液体には、添加物として、例えば、殺菌目的のアルコール、水揚げ向上のための界面活性剤、抗菌/静菌のための食酢やクエン酸などの酸、エネルギー源としての糖、ビタミン、無機塩など、植物の老化防止のための植物老化ホルモン阻害剤などを加えてもよい。
【0034】
(他の構成)
第1の観点の装置は、植物の色情報に基いて、特定波長域の紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを制御する照射制御部を更に備えていてもよい。照射制御部は、本発明の第2の観点の装置について下記で説明するとおりのものである。
下記で、本発明の第2の観点の装置に関して記載する事項は、文脈上明らかに不適切でない限り、全てが本発明の第1の観点の装置に関する記載として意図されている。
【0035】
<第2の観点の装置>
本発明の第2の観点の装置は、植物を保持可能な植物保持部と、前記植物保持部に保持された植物に向けて、270nm以上290nm以下の波長領域にある紫外光を含む光を照射する紫外光照射部と、前記植物の色情報に基いて、前記紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを制御する照射制御部とを備えることを特徴とする、植物処理装置である。
【0036】
第2の観点の装置における植物保持部は、文脈上明らかに不適切であるものを除き、第1の観点の装置について記載したとおりである。
第2の観点の装置における紫外光照射部は、文脈上明らかに不適切であるものを除き、第1の観点の装置について記載したとおりである。
【0037】
(照射制御部)
照射制御部は、植物保持部に保持された植物(「照射制御部」の項において、「照射対象植物」ともいう)に向けて紫外光照射部から照射される特定波長域の紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを、該照射対象植物の色情報に基いて制御する。より具体的には、照射制御部は、色情報に基いて、紫外光照射部に含まれる複数の光源(例えば、光源のアレイ、マトリクス又はクラスタ)のうち発光すべきものを指定することができる。
照射制御部への色情報の入力は、ユーザが行ってもよいし、本装置外部の色センサ又は本装置に備わる色センサからの送信によってもよい。或いは、色情報の入力は、植物に予め付与された色情報コードを読み取ることによってもよい。照射制御部へは、色情報と共に該色情報に関連する位置情報も入力されてよい。
【0038】
色情報は照射対象植物の緑色吸収に関する情報であることが好ましい。植物中に存在し得るアントシアニンの多くは280nmに吸収極大を有するため、照射対象植物中にアントシアニンが多く存在すると、照射した特定波長域の紫外光がアントシアニンにより吸収されて、当該植物中で特定波長域の紫外光の照射効果を得られなくなる(例えば、フェノール性化合物の増量に寄与できなくなる)おそれがある。よって、照射対象植物中のアントシアニンの量に関する情報は、当該植物における特定波長域の紫外光の照射による効果(例えば、フェノール性化合物の増量効果)をより確実とするために有益である。一方、アントシアニンは緑色波長域にも吸収ピークを有するため、照射対象植物の緑色吸収に関する情報は、当該植物中のアントシアニンの量を反映し得る。したがって、色情報が照射対象植物の緑色吸収に関する情報であることにより、当該植物における特定波長域の紫外光の照射効果(例えば、フェノール性化合物の増量)により有効である、特定波長域の紫外光の照射量、波長及び照射位置の少なくとも1つを適切に選択することが可能となり、結果として、本装置による植物の処理(例えば、植物中のフェノール性化合物の増量処理)におけるエネルギー効率を向上させることができる。
【0039】
照射制御部は、紫外光照射部を制御するものであってもよいし、該当する場合には、植物搬送機構を制御するもの又はその両方を制御するものであってもよい。紫外光照射部が複数の光源を備えて構成される場合、照射制御部は該複数の光源を包括的に制御してもよいし、各々独立に制御してもよい。
【0040】
例えば、照射制御部は、緑色吸収がより高い植物に対して、特定波長域の紫外光がより高い照射量で照射されるように制御する。特定波長域の紫外光をより高い照射量で照射することにより、一部がアントシアニンにより吸収されても、当該植物における特定波長域の紫外光の照射効果(例えば、フェノール性化合物の増量)を所望のレベルで達成することができる。照射制御部による特定波長域の紫外光の照射量の制御は、紫外光照射部及び/又は該当する場合には、植物搬送機構の制御により達成することができる。生産タクト(サイクルタイム)に影響しない点で、照射制御部は紫外光照射部を制御することが好ましい。この好適な実施形態において、照射量の制御は紫外光照射部に含まれる光源の照度の増減により行うことができる。紫外光照射部が複数の光源を備えて構成される場合、照射量の制御は、各光源の照度及び/若しくは発光時間の増減、並びに/又は発光する光源の数の増減により行うことができる。
【0041】
また、例えば、照射制御部は、緑色吸収がより高い植物に対して、270nm以上290nm以下の波長領域内のより長波長の紫外光が照射されるよう制御する。より長波長の紫外光を照射することにより、より短波長の光による細胞損傷(例えばDNA損傷)を回避しつつ、当該植物における特定波長域の紫外光の照射効果(例えば、フェノール性化合物の増量)が効率的に達成される。この実施形態では、照射制御部は、色情報に基いて、紫外光照射部が備える270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種以上(より具体的には、2種又は3種)の光源のうちから発光すべき光源(2種又は3種の光源であり得る)を指定することができる。
この例では、照射制御部は、特定波長域の紫外光の波長及び照射量の両方を制御してもよい。
【0042】
また、例えば、照射制御部は、緑色吸収が所定のレベルより低い植物又はその領域に対して、特定波長域の紫外光が照射されるよう制御する。これにより、個体別又は同一植物中の領域別のフェノール性化合物の増量が可能となるため、不必要な照射の削減に起因してエネルギー効率が向上し、加えて、処理植物の品質(例えば、フェノール性化合物の量に関連する品質(より具体的には、色づき))の均等化が可能となり、結果として、出荷不適格な又は低等級の農作物を削減することができ、農作物も歩留りを向上させ得る。この実施形態において、照射制御部は、色情報及び該色情報に関連する位置情報に基いて、発光すべき光源を指定することができる。
【0043】
(色センサ)
第2の観点の装置は、植物保持部に保持された植物の色情報を取得して照射制御部に送信する色センサを更に備えることが好ましい。この場合、植物保持部は、該植物保持部に保持された植物を、色センサのセンシング領域及び紫外光照射部の照射領域に搬送する植物搬送機構の一部を構成することがより好ましい。
これにより、本装置により紫外光照射処理をすべき植物(例えば、フェノール性化合物を増量されるべき植物)の選別並びに/又は照射すべき特定波長域の紫外光の照射量及び/又は波長及び/又は照射位置の少なくとも1つの決定を効率的かつ確実に行うことができる。
色センサは、受光した光に含まれるRGB(赤色、緑色、青色)の少なくとも1つの成分の強度情報を取得して照射制御部に対して出力する。色センサは多色センサ又は単色センサであり得るが、緑色を検知できるものであることが好ましい。色センサは、例えば、フォトダイオード、光電子増倍管、CCDセンサ、CMOSセンサなどであり得る。二次元の色センサ(例えば、CCDセンサ、CMOSセンサなど)を用いる場合、色情報と共に色情報に関連付けられた位置情報も得ることができる。
【0044】
(他の構成)
第2の観点の装置は、水を含んで構成される液体を保持し該液体に前記植物保持部に保持された植物を浸漬する植物浸漬部、又は前記液体を前記植物保持部に保持された植物に向けて噴射する液体噴射部を更に備えていてもよい。植物浸漬部及び液体噴射部は、本発明の第1の観点の装置について上記で説明したとおりのものである。
上記において、第1の観点の装置に関して記載した事項は、文脈上明らかに不適切であるものでない限り、その全てが第2の観点の装置に関する記載としても意図されている。
【0045】
(フェノール性化合物)
本明細書において、フェノール性化合物は、用いる植物において天然に合成され得るものであれば特に制限されないが、例えばフェニルプロパノイド、ポリフェノール及びテルペンフェノールであり得る。
ポリフェノールには、例えば、フラボノイド、スチルベノイド、タンニン、リグナンが含まれる。フラボノイドとしては、例えば、アントシアニン、フラバン(例えばカテキン)、フラボン、イソフラボン、フラボノールが挙げられる。スチルベノイドとしては、例えば、レスベラトロールが挙げられる。
テルペンフェノールには、例えば、カンナビノイドが含まれる。カンナビノイドとしては、テトラヒドロカンナビノール、カンナビジオールが挙げられる。
【0046】
アントシアニンは、アントシアニジンに糖鎖(例えば、グルコース、ガラクトース、ラムノース)が結合した配糖体である。植物に含まれる一般的なアントシアニジンとしては、ペラルゴニジン、シアニジン、ペオニジン、デルフィニジン、ペチュニジン、マルビジンが挙げられる。アントシアニンは、赤~紫~青色を呈する、植物界に広く存在する色素であり、植物性着色料として(例えば食品に)利用されており、抗酸化物質としても知られるため、本発明の装置により植物中で増量させるに好適なフェノール性化合物の1つである。
【0047】
レスベラトロールは、ファイトアレキシンであり、抗酸化物質としても知られ、種々の生物学的作用が報告されているため、本発明の装置により植物中で増量させるに好適なフェノール性化合物の1つである。
カンナビノイドは、カナビスに含まれる生理活性物質であり、医療目的に利用されているため、本発明の装置により植物中で増量させるに好適なフェノール性化合物の1つである。
【0048】
本明細書において、「フェノール性化合物の増量」とは、特定波長域の紫外光(太陽光の成分として含まれるものを除く)を照射されていない植物と比較して、フェノール性化合物の量が増加していること、例えば10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上増加していることをいう。なお、「フェノール性化合物の増量」には、照射前には合成されていなかったフェノール性化合物が照射後に新たに合成されるようになることも含まれる。
フェノール性化合物の定量は、公知の方法のいずれを用いて行ってもよく、例えばクロマトグラフィーにより行うことができる。クロマトグラフィーとしては液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)が挙げられる。液体クロマトグラフィーは逆相クロマトグラフィーであり得る。
【0049】
(植物)
本明細書において、植物は、フェノール性化合物を産生し得るものであれば特に限定されない。植物は、例えば、UVR8光受容体を有する植物であり得る。
植物は、野菜、果樹、花卉又は薬用植物であり得、例えばアブラナ科(特にアブラナ属、ダイコン属)、ナス科(特にナス属)、メギ科(特にミヤオソウ属)、ツバキ科(特にツバキ属)、マメ科(特にダイズ属)、ミカン科(特にミカン属)、ブドウ科(特にブドウ属)、バラ科(特にオランダイチゴ属)、キク科(特にアキノゲシ属)、シソ科(特にシソ属)、アサ科(特にアサ属)の植物であり得る。具体例としては、ブドウ、アサ(Cannabis)、サクランボ、モモ、リンゴ、イチゴ、チャノキ、レタス(例えばリーフレタス)、シソ(例えば赤シソ)、ポドフィルム、ダイズ、スダチ、キャベツ、ブロッコリー、コマツナ、チンゲンサイ、ダイコン、カブ、トマト、ナス、及びシロイヌナズナなどが挙げられる。
【0050】
植物は、フェノール性化合物の合成系が機能している状態にある限り、収穫された植物体又はその部分若しくは該部分からの細胞であり得る。植物の部分は、例えば、葉、茎、果実、果皮、花弁若しくは花冠又はトリコーム(trichome)を有する部分であり得る。所望のフェノール性化合物を増量させようとする植物中の該フェノール性化合物の合成能力が高い部分を適宜選択して本発明の装置に用いることができる。
アントシアニン又はレスベラトロールを増量させ得る植物の一形態は、ブドウの果実及び/若しくは果皮又はそれらからの細胞である。カンナビノイドを増量させ得る植物の一形態は、アサ(Cannabis)の葉及び/又は花冠である。
【0051】
本発明の装置によりフェノール性化合物が増量された植物を、例えば、医薬若しくはサプリメントの原材料又は高付加価値及び/若しくは高機能性加工食品の原材料に用いる場合、本発明の装置に用いる植物は、フェノール性化合物の合成系が機能している状態にある限り、予め、より小さく裁断、破砕若しくは粉砕し又は押し潰してもよい。また、植物体から組織培養法で細胞を取り出してもよい。これにより、植物における特定波長域の紫外光の受光面を大きくでき、及び/又は大量処理が可能となるので、フェノール性化合物の更に効率的な増量が可能となる。例えば、ワイン醸造に用いるブドウについては、除梗機を用いて粒単位にばらし、又は更に果皮のみとして、本発明の装置によるアントシアニン又はレスベラトロールの増量に用いてもよい。また、例えば、医薬原材料の取得に用いるアサ(Cannabis)については、採取した花冠及び葉を細かく裁断して、本発明の装置によるカンナビノイドの増量に用いてもよい。
本発明の装置によりフェノール性化合物が増量された植物は、それ自体で高付加価値及び/又は高機能性農作物として提供することもできる。
【0052】
本発明の装置により植物中のフェノール性化合物の増量をより効率的に達成するためには、必須ではないが、新鮮な植物を用いることが好ましい。本発明の装置に好適な植物の鮮度は次の観点で評価することができる。
(1)収穫後の時間:収穫から2週間以内、望ましくは1週間以内、より望ましくは24時間以内、更に望ましくは12時間以内であること
(2)切り口の色:変色がないこと
(3)水分の蒸散(重量に基づく):重量の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること
(4)クロロフィル分解(クロロフィル量、蛍光量又は光合成収率に基づく):特に、リーフレタスやカナビス等のクロロフィルを多く有する植物(特に、葉)に好適。
・例えばクロロフィル量測定器(DUALEX SCIENTIFIC+)などを用いて測定したクロロフィル量の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること
・例えば光合成収率測定器(MINI-PAM II)などを用いて測定した光合成収率の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること
(5)糖分及び酸度:特にブドウやリンゴ果皮のような果実の場合に好適。
・例えば糖酸度計などを用いて測定した糖度及び酸度の収穫直後からの変化率が±5%以内、望ましくは±1%以内であること。
(6)ビタミンC量:インドフェノール、キシレン法などを用いて測定したビタミンC量の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること。
(7)呼吸(二酸化炭素)量:ガスクロマトグラフィーやCO2測定器などで測定した呼吸(二酸化炭素)量の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること。
(8)硬度:特にブドウやリンゴ果皮のような果実の場合に好適。硬度計などで測定した硬度の収穫直後からの変化率が5%以下、望ましくは1%以下であること。
【0053】
DNAが紫外光に曝露されると、連続する2つのピリミジン塩基(C又はT)は特徴的な構造変化(損傷)を生じ、主に、シクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)及び6-4型光産物(6-4PP)が生成される。この構造変化は、太陽紫外光に曝される露地栽培植物にも見出される。そして、6-4型光産物は、長波長側の紫外光(UVA:320~400nm)に曝露されると、Dewar型光産物(DewarPP)に変換される一方、短波長側の紫外光UVBに曝露されても、DewarPPに変換されない。したがって、DewarPPの含有量又はCPD及びDewarPPに対する6-4PP及びCPDの含有比を指標として、植物がUVAに曝露されたか否かを知ることができる。
よって、本発明の装置(又は国際公開第WO/2018/199307に記載の方法)に用いられる特定波長域の紫外光を照射された植物は、UVAを照射された植物と次の点で区別することができる:(i)前者の植物ではDewar型光産物が検出されない、又は(ii)前者の植物では(6-4型光産物/Dewar型光産物)含量比が例えば100以上、望ましくは1000以上である、又は(iii)前者の植物では(シクロブタン型ピリミジンダイマー/Dewar型光産物)含量比が1000以上、望ましくは10000倍以上である。前記の3つのタイプの光産物は、抗体(抗CPD、抗6-4PP及び抗DewarPP)を用いたアッセイにより定量することができる(https://www.mabel.co.jp/products_services/reagents/mab/)。
なお、損傷したDNAを食しても、唾液や消化液中のDNA分解酵素で分解されるため人体への影響はないと考えられる。
【0054】
<具体的な実施形態>
以下、本発明の装置の具体的実施形態を示す模式図である
図1~8を参照しながら本発明の装置を説明する。
【0055】
(実施形態1)
図1に、本発明の第1の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(100)は、植物保持部を構成するベルトコンベア(112)と、紫外光照射部を構成する2つのLEDアレイ(114)と、植物浸漬部を構成する浸漬槽(116)とを備え、任意の構成要素としてコントローラ(118)、カメラ(不図示)を備えていてもよい。
ベルトコンベア(112)は、ベルト部分が光を透過させるメッシュ状又はネット状である。ベルトコンベア(112)は、一部区間が、浸漬槽(116)の液体保持領域(貯水時の水中)を通過するように設けられている。
【0056】
各LEDアレイ(114)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。特定波長域の紫外光を発出するLED光源として、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種類以上の光源が用いられていてもよい。
LEDアレイ(114)は、ベルトコンベア(112)の水中区間に向けて上方及び下方から特定波長域の紫外光を照射するように配置されている。すなわち、LEDアレイ(114)の紫外線照射領域は、浸漬槽(116)の液体保持領域と重複する。図では、LEDアレイ(114)は、浸漬槽(116)の液体保持領域内に(すなわち、貯水時に水没するように)設けられているが、植物(P)に特定波長域の紫外光を照射可能である限り、浸漬槽(116)の液体保持領域外に(すなわち、貯水時に水没しないように)設けられていてもよい。
【0057】
浸漬槽(116)は液体を保持可能であり、使用時には水を貯留する。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。
コントローラ(118)は、入力された植物(P)の色情報に基いて、LEDアレイ(114)を制御してもよい。コントローラ(118)は、LEDアレイ(114)に含まれるLED光源を包括的に制御してもよいし、個別的に制御してもよい。
カメラは、例えばCCDまたはCMOSカメラが用いられ、ベルトコンベア(112)における浸漬槽(116)よりも上流側に配置され、ベルトコンベア(112)上の植物(P)を撮影し、撮影した植物(P)の色情報を含む画像データをコントローラ(118)に送信する。なお、カメラを使用せず、植物(P)の色情報をオペレーターによってコントローラ(118)に入力するようにしてもよい。
【0058】
この実施形態の装置(100)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、ベルトコンベア(112)の上面に載置される。ベルトコンベア(112)に保持された植物(P)は、ベルトコンベア(112)により浸漬槽(116)に搬送され、そこで水に浸漬される。次いで、植物(P)は、水中に設けられた紫外線照射領域に搬送され、そこで、水中に浸漬されたままで、LEDアレイ(114)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(114)は、植物(P)に向けて特定波長域の紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。LEDアレイ(114)からの植物(P)への照射量は、コントローラ(118)が、植物(P)の色情報に基いて、LED光源の点消灯及び/又は発光量を制御することにより調整することができる。
ベルトコンベア(112)がループ状に構成され、植物(P)が、再度、浸漬槽(116)内でLEDアレイ(114)から紫外線を照射されてもよい。また、ベルトコンベア(112)の搬送路中の2箇所以上にLEDアレイ(114)及び浸漬槽(116)が設けられる構成としてもよい。
また、植物によっては、水面に浮上するものあるいは水中を浮遊するものがある。そのため、ベルトコンベア(112)における浸漬槽(116)の区間を省略し、上流側のベルトコンベアにて浸漬槽(116)内に落とし込まれた植物(P)を水流によって下流側へ搬送し、浸漬槽(116)の下流側において下流側のベルトコンベアにて植物(P)を水中から引き上げるようにしてもよい。この場合、上方のLEDアレイ(114)は浸漬槽(116)の水面よりも上方に配置される。また、浸漬槽(116)の上流側に噴水口を設け、下流側に取水口を設け、取水口から取水した水を噴水口へ循環させてもよい。また、水流によって浸漬槽(116)内の植物(P)が不規則に変位する、つまり、植物(P)の光照射方向に対する受光面が不規則に変化する場合は、上下一方のLEDアレイ(114)を省略してもよい。
【0059】
(実施形態2)
図2に、本発明の第1の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(200)は、植物保持部を構成するベルトコンベア(212)と、紫外光照射部を構成する2つのLEDアレイ(214)と、液体噴射部を構成する複数の噴霧ノズル(217)とを備え、任意の構成要素としてコントローラ(218)、カメラ(不図示)を備えていてもよい。
ベルトコンベア(212)は、ベルト部分が光を透過させるメッシュ状又はネット状である。ベルトコンベア(212)は、一部区間が、噴霧ノズル(217)の噴射領域を通過するように設けられている。
各LEDアレイ(214)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。特定波長域の紫外光を発出するLED光源として、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種類以上の光源が用いられていてもよい。
LEDアレイ(214)は、ベルトコンベア(212)の一区間において上方及び下方から特定波長域の紫外光を照射するように配置されている。
【0060】
各噴霧ノズル(217)はミスト状の液体を噴射可能であり、例えば2流体ノズルである。各噴霧ノズル(217)は、その噴霧領域がLEDアレイ(214)の紫外線照射領域と重複するように設けられている。噴霧ノズル(217)へは、図示しない液体供給系からの水が供給され、該当する場合には、図示しないエア供給系からの圧縮エアも同時に供給される。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。
コントローラ(218)は、入力された植物(P)の色情報に基いて、LEDアレイ(214)を制御してもよい。コントローラ(218)は、LEDアレイ(214)に含まれるLED光源を包括的に制御してもよいし、個別的に制御してもよい。
カメラは、例えばCCDまたはCMOSカメラが用いられ、ベルトコンベア(212)におけるLEDアレイ(214)よりも上流側に配置され、ベルトコンベア(212)上の植物(P)を撮影し、撮影した植物(P)の色情報を含む画像データをコントローラ(218)に送信する。なお、カメラを使用せず、植物(P)の色情報をオペレーターによってコントローラ(218)に入力するようにしてもよい。
【0061】
この実施形態の装置(200)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、ベルトコンベア(212)の上面に載置される。ベルトコンベア(112)に保持された植物(P)は、ベルトコンベア(212)によりLEDアレイ(214)の紫外光照射領域に搬送され、そこでLEDアレイ(214)から特定波長域の紫外光を照射され、同時に、噴霧ノズル(217)から水が噴霧される。各LEDアレイ(214)は、植物(P)に向けて紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。LEDアレイ(214)からの植物(P)への照射量は、コントローラ(218)が、植物(P)の色情報に基いて、LED光源の点消灯及び/又は発光量を制御することにより調整することができる。
ベルトコンベア(212)がループ状に構成され、植物(P)が、再度、LEDアレイ(214)から紫外線を照射されてもよい。また、ベルトコンベア(212)の搬送路中の2箇所以上にLEDアレイ(214)及び噴霧ノズル(217)が設けられる構成としてもよい。
また、植物(P)の側方から空気を断続的に噴射してもよく、これにより植物(P)が粒状である場合はベルトコンベア(212)上で転がり、それによって植物(P)の光照射方向に対する受光面が不規則に変化し、植物(P)の表面に均一に光を照射しやすくなる。この場合、下方のLEDアレイ(214)を省略してもよい。
【0062】
(実施形態3)
図3に、本発明の第1の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(300)は、植物保持部と植物浸漬部を兼ねて構成する回転式ドラム容器(312)と、該容器を回転させるローラ(320)と、紫外光照射部を構成するLEDアレイ(314)とを備え、任意の構成要素として液体噴射ノズル(317)を備えていてもよい。
回転式ドラム容器(312)は、その内部に所定量の植物及び液体を保持可能な円筒状の外形を有する容器であり、水平軸を中心として回転可能に支持されている。回転式ドラム容器(312)は、植物を出し入れ可能な開口部および開口部を開閉する蓋を軸方向の一端側に有する。
図3では、回転式ドラム容器(312)は、その内周壁に邪魔板を有するが、例えば、その水平軸に対する垂直断面の内形が多角形である場合には邪魔板は設けられていなくてもよい。
ローラ(320)は、回転式ドラム容器(312)を駆動して水平軸を回転軸として回転させるように、該容器の外周に当接して設けられている。
【0063】
LEDアレイ(314)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。特定波長域の紫外光を発出するLED光源として、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種類以上の光源が用いられていてもよい。LEDアレイ(314)は、回転式ドラム容器(312)内部の下方領域に向けて特定波長域の紫外光を照射可能に該容器内部に配置される。
噴射ノズル(317)は液体を噴射可能であり、ミスト状の液体を噴射可能であってもよい。噴射ノズル(317)は、回転式ドラム容器(312)内部の下方領域に向けて液体を噴射可能なように該容器内部に配置される。噴射ノズル(317)は、その噴射領域がLEDアレイ(314)の紫外線照射領域と重複するように設けられていてもよい。噴射ノズルへは、図示しない液体供給系からの水が供給され、該当する場合には、図示しない気体供給系からの圧縮空気も同時に供給される。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。
【0064】
この実施形態の装置(300)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、回転式ドラム容器(312)内部の下方領域に収容される。植物(P)の投入前、投入と同時又は投入後、回転式ドラム容器(312)に水を供給し、その下方領域(液体保持領域)において植物(P)を水に浸漬させる。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。水は噴射ノズル(317)から供給されてもよい。
植物(P)は、回転式ドラム容器(312)内の下方領域において、水中に浸漬されたままで、LEDアレイ(314)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(314)は、植物(P)に向けて特定波長域の紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。照射されている植物(P)に対して、噴射ノズル(317)から水が噴射されてもよい。
【0065】
或いは、回転式ドラム容器(312)に収容された植物(P)は、予め水に浸漬されることなく、LEDアレイ(314)により特定波長域の紫外光を照射されてもよいが、照射されている植物(P)に対しては、噴射ノズル(317)から水が噴射される。この場合、噴射ノズル(317)は、LEDアレイ(314)の紫外光照射領域内の植物(P)が回転式ドラム容器(312)内に貯留した水に浸漬するまで水を噴射するように、図示しない噴射コントローラにより制御されてもよい。
【0066】
本実施形態の装置(300)は、LEDアレイ(314)に含まれるLED光源を包括的又は個別的に制御するコントローラ(図示せず)を更に備えていてもよく、該コントローラが、LED光源の点消灯及び/又は発光量を制御することにより、LEDアレイ(314)からの植物(P)への照射量を調整してもよい。
【0067】
(実施形態4)
図4に、本発明の第1の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(400)は、植物保持部を構成する容器(412)と、該容器内に水流又は気流を発生させるフロー生成機構(422)と、紫外光照射部を構成するLEDアレイ(414)とを備え、任意の構成要素として液体噴射ノズル(417)を備えていてもよい。
容器(412)は、その内部において植物を水中又は気流中で保持可能な容器である。容器(412)は、植物を出し入れ可能な開口部および開口部を開閉する扉を有する。容器(412)は、その内部において植物を水中で保持する場合、植物浸漬部の液体保持領域を兼ねるものである。
フロー生成機構(422)は、容器(412)内に収容された植物(P)を浮遊させ得る上昇流を生成する。フロー生成機構(422)は、例えば、液体又はエアを噴射する噴射口である。図では、噴射口(422)は容器底部に設けられているが、周壁にも設けられてもよい。
【0068】
LEDアレイ(414)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。特定波長域の紫外光を発出するLED光源として、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種類以上の光源が用いられていてもよい。
LEDアレイ(414)は、容器(412)内部に向けて特定波長域の紫外光を照射可能に該容器内部の天井及び/又は周壁に配置される。図では、LEDアレイ(414)は、容器(412)の内部に設けられているが、植物(P)に特定波長域の紫外光を照射可能である限り、容器の外部に(例えば、透明ガラスを介して)設けられていてもよい。
【0069】
噴射ノズル(417)は液体又は液体と気体の混合物を噴射可能である。噴射ノズル(417)は、容器(412)内部の上方に向けて噴射可能なように該容器内部に配置される。図では、噴射ノズル(417)は容器(412)の内周壁上に設けられているが、代替的に又は追加的に、容器の天井及び/又は床に設けられていてもよい。噴射ノズルへは、図示しない液体供給系からの水が供給され、該当する場合には、図示しない気体供給系からの圧縮空気も同時に供給される。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。
液体を噴射する噴射ノズル(417)は、容器(412)内において植物を水中で保持する場合、フロー(水流)生成機構(422)として機能してもよい。液体と気体の混合物を噴射する噴射ノズル(417)は、容器(412)内において植物を気流中で保持する場合、フロー(気流)生成機構(422)として機能してもよい。
【0070】
この実施形態の装置(400)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、容器(412)内部の下方領域に収容される。植物(P)の投入前、投入と同時又は投入後、容器(412)に水を供給し、その内部で植物(P)を水に浸漬させる。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。水は噴射ノズル(417)から供給されてもよい。
水に浸漬した植物(P)は、フロー生成機構(422)により生成された水流により、容器(412)の内部において、LEDアレイ(414)の紫外光照射領域中を浮遊する。水中を浮遊する植物(P)は、LEDアレイ(414)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(414)は、植物(P)に向けて特定波長域の紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
【0071】
或いは、容器(412)に収容された植物(P)は、フロー生成機構(422)により生成された気流により吹き上げられて、容器(412)の内部において、LEDアレイ(414)の紫外光照射領域中を浮遊する。気流中を浮遊する植物(P)は、LEDアレイ(414)から特定波長域の紫外光を照射される。照射されている植物(P)に対して、噴射ノズル(417)から水又は水と気体の混合物が噴射される。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。LEDアレイ(414)は、植物(P)に向けて特定波長域の紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
【0072】
本実施形態の装置(400)は、LEDアレイ(414)に含まれるLED光源を包括的又は個別的に制御するコントローラ(図示せず)を更に備えていてもよく、該コントローラが、LED光源の点消灯及び/又は発光量を制御することにより、LEDアレイ(414)からの植物(P)への照射量を調整してもよい。
【0073】
(実施形態5)
図5に、本発明の第1の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(500)は、植物保持部を構成するカゴ状容器(512)と、該カゴ状容器をその内部に収容可能な植物浸漬部を構成する水槽(516)と、紫外光照射部を構成する複数のLEDアレイ(514)とを備える(
図5(A))。
カゴ状容器(512)は、
図5(B)に示すように、その内部に植物を保持可能な環状容器であり、その中空洞内にLEDアレイ(514)を挿入可能とされている。カゴ状容器(512)は、植物を出し入れ可能な開口部および開口部を開閉する蓋を軸方向の一端側に有する。
水槽(516)は、その内部に、カゴ状容器(512)を収容すると同時に液体を保持することが可能であり、使用時には水を貯留する。水には、植物ホルモン及び/又はその他の添加剤が添加されていてもよく、本装置を植物中のフェノール性化合物の増量に用いる場合、追加的に又は代替的に、増量させようとするフェノール性化合物の前駆体物質が添加されていてもよい。
【0074】
各LEDアレイ(514)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。特定波長域の紫外光を発出するLED光源として、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する2種類以上の光源が用いられていてもよい。LEDアレイ(514)の1つは、カゴ状容器(512)の中空洞内に挿入可能な形状(例えば円柱形)である。このLEDアレイ(514)は、カゴ状容器(512)が水槽(516)内に収容される前に、水槽(516)の底部上の中心位置に配置されていてもよいし、収容後にカゴ状容器(512)の中空洞内に挿入されるように配置されていてもよい。残りのLEDアレイ(514)は、カゴ状容器(512)の周囲から特定波長域の紫外光を照射可能に水槽(516)の内周面に配置されている。
【0075】
この実施形態の装置(500)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、カゴ状容器(512)内部に収容される。次いで、カゴ状容器(512)に保持された植物(P)は、水を保持する水槽(516)内に収容され、そこで、水中に浸漬されたままで、LEDアレイ(514)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(514)は、植物(P)に向けて特定波長域の紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
【0076】
上記では、カゴ状容器(512)を植物保持部とし、水槽(516)を植物浸漬部として説明したが、水槽を、その内部において植物を液体中で保持可能な容器であって、植物浸漬部の液体保持領域を兼ねる容器とし、カゴ状容器を水槽に備わる植物保持部材として説明することもできる。
【0077】
本実施形態の装置(500)は、LEDアレイ(514)に含まれるLED光源を包括的又は個別的に制御するコントローラ(図示せず)を更に備えていてもよく、該コントローラが、LED光源の点消灯及び/又は発光量を制御することにより、LEDアレイ(514)からの植物(P)への照射量を調整してもよい。
また、水槽(516)の底部に円板形の導光板を設けると共に、水槽(516)の内周面に配置したLEDアレイ(514)を円筒状の導光板に置き換え、中心のLEDアレイ(514)の光を底部の導光板から周囲の導光板へ導光し、周囲の導光板から植物(P)へ光を照射するようにしてもよい。この場合、各導光板内に光ファイバーを挿通してもよく、周囲の導光板の上部まで効率よく導光できるようにしてもよい。さらに、周囲の導光板の外周面を反射膜で被覆して効率よく植物(P)へ光を照射するようにしてもよい。
また、カゴ状容器(512)を省略し、水槽(516)を、容器形の外筒部と、外筒部の底部中心に設けられた透明の内筒部と、外筒部と内筒部との間に設けられてそれらを連結する螺旋状の導光板とを有する構成にしてもよい。この構成によれば、水槽内に螺旋状の植物収容空間が形成され、内筒部内にLEDアレイ(514)を設置することにより、内筒部から光が放射されると共に、光が螺旋状の導光板内を通って植物収容空間へ放射される。また、外筒部自体も導光板にて構成すればさらに植物への光の放射方向を拡大することができる。この場合も、導光板内に光ファイバーを挿通してもよく、外筒部の外周面を反射膜で覆ってもよい。またこの場合、水槽の上方開口部を植物の投入口とし、底部に植物を取り出す開口部および蓋を設けてもよい。
【0078】
(実施形態6)
図6に、本発明の第2の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(600)は、植物保持部を構成するベルトコンベア(612)と、紫外光照射部を構成するLEDアレイ(614)と、照射制御部を構成するコントローラ(618)とを備え、任意の構成要素として色センサ(624)を備えていてもよい。
ベルトコンベア(612)は、LEDアレイ(614)の紫外光照射領域に植物(P)を搬送する。ベルトコンベア(612)は、ベルト部分が光を透過させるメッシュ状又はネット状であってもよい。
LEDアレイ(614)は、特定波長域の紫外光を発出する複数のLED光源を備える。図では、LEDアレイ(614)は、ベルトコンベア(612)の一区間において、上方から特定波長域の紫外光を照射するように配置されているが、ベルトコンベアがメッシュコンベアである場合、下方からも照射可能に配置されていてもよい。
【0079】
コントローラ(618)は、ベルトコンベア(612)により搬送される植物(P)の色情報の入力を受ける。コントローラ(618)は、入力された色情報に基いて、LEDアレイ(614)に含まれる複数のLED光源の点消灯及び/又は発光量を制御する。コントローラ(618)は、LEDアレイ(614)に含まれる複数のLED光源を包括的に制御してもよいし、個別的に制御してもよい。
色センサ(624)は、ベルトコンベア(612)により搬送される植物(P)の色情報を、LEDアレイ(614)の紫外光照射領域の前方(搬送上流側)で取得し、該色情報をコントローラ(618)に送信する。本装置(600)が色センサを備えない場合、コントローラ(618)への色情報の入力は、オペレーターが行ってもよいし、植物(P)に予め付与された色情報コードを読み取ることによってもよい。
【0080】
この実施形態の装置(600)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、ベルトコンベア(612)の上面に載置される。ベルトコンベア(612)に保持された植物(P)は、ベルトコンベア(612)によりLEDアレイ(614)の紫外光照射領域に搬送され、そこでLEDアレイ(614)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(614)は、植物(P)に向けて紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
載置位置から紫外光照射領域への搬送の間に、植物(P)の色情報がコントローラ(618)に入力される。コントローラ(618)は、入力された色情報に基いて、LEDアレイ(614)から植物(P)に向けて照射される特定波長域の紫外光の照射量を制御する。例えば、コントローラ(618)は、LEDアレイ(614)に含まれる複数のLED光源のうち発光すべき光源の数を増減させる。或いは、コントローラ(618)は、個々のLED光源の発光量を増減させる。
【0081】
本装置(600)は、実施形態1で説明した浸漬槽又は実施形態2で説明した噴霧ノズルを備えていてもよい。本実施形態の装置において、浸漬槽及び噴霧ノズルはそれぞれ実施形態1及び実施形態2で説明したとおりに配置され、機能する。
【0082】
(実施形態7)
図7に、本発明の第2の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(700)は、植物保持部を構成するベルトコンベア(712)と、紫外光照射部を構成するLEDアレイ(714)と、照射制御部を構成するコントローラ(718)とを備え、任意の構成要素として色センサ(724)を備えていてもよい。
ベルトコンベア(712)は、LEDアレイ(714)の紫外光照射領域に植物(P)を搬送する。ベルトコンベア(712)は、ベルト部分が光を透過させるメッシュ状又はネット状であってもよい。
LEDアレイ(714)は、270nm以上290nm以下の波長領域に互いに異なる主ピーク波長を有する3種類のLED光源を備える。
図7では、LEDアレイ(714)は、ベルトコンベア(712)の一区間において、上方から特定波長域の紫外光を照射するように配置されているが、ベルトコンベアがメッシュコンベアである場合、下方からも照射可能に配置されていてもよい。
【0083】
コントローラ(718)は、ベルトコンベア(712)により搬送される植物(P)の色情報の入力を受ける。コントローラ(718)は、入力された色情報に基いて、LEDアレイ(714)に含まれる3種類のLED光源のいずれか(2種類であり得る)を指定して発光させる。コントローラ(718)は、同時に、発光させるべきLED光源の発光量を制御してもよい。
色センサ(724)は、ベルトコンベア(712)により搬送される植物(P)の色情報を、LEDアレイ(714)の紫外光照射領域の前方で取得し、該色情報をコントローラ(718)に送信する。本装置(700)が色センサを備えない場合、コントローラ(718)への色情報の入力は、オペレーターが行ってもよいし、植物(P)に予め付与された色情報コードを読み取ることによってもよい。
【0084】
この実施形態の装置(700)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、ベルトコンベア(712)の上面に載置される。ベルトコンベア(712)に保持された植物(P)は、ベルトコンベア(712)により、LEDアレイ(714)の紫外光照射領域に搬送され、そこでLEDアレイ(714)から特定波長域の紫外光を照射される。LEDアレイ(714)は、植物(P)に向けて紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
載置位置から紫外光照射領域への搬送の間に、植物(P)の色情報がコントローラ(718)に入力される。コントローラ(718)は、入力された色情報に基いて、LEDアレイ(714)から植物(P)に向けて照射される紫外光の波長を制御する。
【0085】
本装置(700)は、実施形態1で説明した浸漬槽又は実施形態2で説明した噴霧ノズルを備えていてもよい。本実施形態の装置において、浸漬槽及び噴霧ノズルはそれぞれ実施形態1及び実施形態2で説明したとおりに配置され、機能する。
【0086】
(実施形態8)
図8に、本発明の第2の観点の装置の1つの具体的実施形態を示す。本装置(800)は、植物保持部を構成するベルトコンベア(812)と、紫外光照射部を構成するLEDアレイ(814)と、照射制御部を構成するコントローラ(818)と、CCDカメラ(824)とを備える。
ベルトコンベア(812)は、植物(P)をCCDカメラ(824)のセンシング領域からLEDアレイ(814)の紫外光照射領域に搬送する。ベルトコンベア(812)は、ベルト部分が光を透過させるメッシュ状又はネット状であってもよい。
LEDアレイ(814)は、特定波長域の紫外光を発出するLED光源を備える。LEDアレイ(814)は、図示しないレンズ系を備えていてもよい。
【0087】
コントローラ(818)は、ベルトコンベア(812)により搬送される植物の色情報及び該色情報に関連付けられた位置情報の入力をCCDカメラ(824)から受ける。コントローラ(818)は、入力された色情報及び位置情報に基いて、LEDアレイ(814)に含まれる複数のLED光源のいずれか(位置情報に対応するもの)を指定して発光させる。コントローラ(818)は、同時に、発光させるべきLED光源の発光量を制御してもよい。コントローラ(818)は、LEDアレイ(814)がレンズ系を備える場合、レンズ系も制御する。
CCDカメラ(824)は、ベルトコンベア(812)により搬送される植物(P)の色情報及び該色情報に関連付けられた位置情報を、LEDアレイ(814)の紫外光照射領域の前方に設けられたセンシング領域において取得し、該情報をコントローラ(818)に送信する。CCDカメラの代わりにCMOSカメラを用いてもよい。
【0088】
この実施形態の装置(800)において、特定波長域の紫外光を照射させようとする植物(P)は、ベルトコンベア(812)の上面に載置される。ベルトコンベア(812)に保持された植物(P)は、ベルトコンベア(812)により、CCDカメラ(824)のセンシング領域に搬送され、そこでCCDカメラ(824)により撮像されて、植物(P)の色情報及び該色情報に関連付けられた位置情報が取得され、コントローラ(818)に送られる。次いで、植物(P)は、LEDアレイ(814)の紫外光照射領域に搬送され、そこで、LEDアレイ(814)から特定波長域の紫外光を照射される。このとき、コントローラ(818)が、受信した位置情報に基いて、LEDアレイ(814)中の発光すべきLED光源を指定し、受信した色情報に基いて、所定の発光量で発光させる。LEDアレイ(814)は、植物(P)に向けて紫外光を連続的に照射してもよいし、間欠的に照射してもよい。
【0089】
本装置(800)は、実施形態1で説明した浸漬槽及び/又は実施形態2で説明した噴霧ノズルを備えていてもよい。本実施形態の装置において、浸漬槽及び噴霧ノズルはそれぞれ実施形態1及び実施形態2で説明したとおりに配置され、機能する。
【0090】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的な構成及び配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法及び装置は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解し、容易に認識する。また、1つの実施形態に関して記載された本発明の態様を、そのように具体的に記載されていなくとも、異なる実施形態に組み込んでもよいことに留意すべきである。すなわち、全ての実施形態及び/又は任意の実施形態の全ての特徴を、如何なる様式及び/又は組合せでも組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の装置は、カナビスなどの薬用植物の薬理活性物質であるフェノール性化合物(例えば、カンナビノイド)の効率的生産に利用可能である。
また、本発明の装置は、農作物の歩留り向上に利用可能である。
更に、本発明の装置によりフェノール性化合物(例えば、ポリフェノール)を増量させた植物(例えばブドウの果実及び果皮)は、高付加価値及び/又は高機能性の農作物及びその加工食品(ワインなどの飲料)の生産に利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
112, 212, 312, 412, 512, 612, 712, 812 植物保持部
114, 214, 314, 414, 514, 614, 714, 814 紫外光照射部
116, 516 植物浸漬部
217, 317, 417 液体噴射部
118, 218, 618, 718, 818 照射制御部
624, 724, 824 色センサ
P 本発明の装置によりフェノール性化合物を増量させようとする植物