(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067269
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】透明導電フィルム積層体及びその製造方法並びに成形用透明導電フィルム積層体
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20240510BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240510BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
B32B27/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177205
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 惇
【テーマコード(参考)】
4F100
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4F100AB00B
4F100AB24B
4F100AJ04B
4F100AJ04C
4F100AK01A
4F100AK45A
4F100AK46B
4F100AK51C
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA21B
4F100DG01B
4F100EJ55
4F100EJ61
4F100GB41
4F100JB04A
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JG01B
4F100JK08
4F100JN01A
5G307FA02
5G307FB02
5G307FC02
5G323BA01
5G323BB06
(57)【要約】
【課題】
曲面を有する3次元成形に好適であり、かつ、耐環境性が良好な透明導電フィルム積層体及びその製造方法並びに成形用透明導電フィルム積層体を提供する。
【解決手段】
水との静的接触角が60度以上75度以下である少なくとも一方の主面を有するポリカーボネートフィルムを準備する第一の工程と、前記水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む導電性インクを塗布し、透明導電膜を形成する第二の工程と、前記透明導電膜上に樹脂成分を含む保護膜用インクを塗布し、保護膜を形成する第三の工程と、を含む、製造方法により得られる透明導電フィルム積層体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、
前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、
を有し、
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、
前記透明基材が、前記透明導電膜が形成される主面に対する水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムであることを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、及びN-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体の少なくとも一方である請求項1に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミドである請求項2に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項4】
前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエチルセルロースを含む熱可塑性樹脂に由来する請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【請求項6】
水との静的接触角が60度以上75度以下である少なくとも一方の主面を有するポリカーボネートフィルムを準備する第一の工程と、
前記水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む導電性インクを塗布し、透明導電膜を形成する第二の工程と、
前記透明導電膜上に樹脂成分を含む保護膜用インクを塗布し、保護膜を形成する第三の工程と、
を含む、透明導電フィルム積層体の製造方法。
【請求項7】
前記第一の工程が、ポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面をコロナ処理またはプラズマ処理する工程を含む、請求項6に記載の透明導電フィルム積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体と、ポリカーボネートを主成分とする樹脂フィルムとを含む成形用透明導電フィルム積層体。
【請求項9】
85℃、85%RH環境下で1000時間静置後のシート抵抗値((Ra))の静置前のシート抵抗値(Rb)に対する比((Ra/Rb))が1.2以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電フィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電フィルム積層体及びその製造方法並びに成形用透明導電フィルム積層体に関する。さらに詳しくは、3次元加工(立体成形)するのに好適で、耐環境性に優れる透明導電フィルム積層体及びその製造方法並びに成形用透明導電フィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス型ディスプレイ、太陽電池(PV)及びタッチパネル(TP)の透明電極、帯電防止(ESD)フィルムならびに電磁波遮蔽(EMI)フィルム等の種々の分野で使用されている。これらの透明導電膜としては、従来、ITO(酸化インジウム錫)を用いたものが使われてきたが、インジウムの供給安定性が低い、製造コストが高い、柔軟性に欠ける、及び成膜時に高温が必要である等の問題があった。そのため、ITOに代わる透明導電膜の探索が活発に進められている。それらの中でも、金属ナノワイヤを含有する透明導電膜は、導電性、光学特性、及び柔軟性に優れること、ウェットプロセスで成膜が可能であること、製造コストが低いこと、成膜時に高温を必要としないことなどから、ITO代替透明導電膜として好適である。例えば、銀ナノワイヤを含み、高い導電性、光学特性、柔軟性を有する透明導電膜が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、銀ナノワイヤを含有する透明導電膜は、銀質量当たりの表面積が大きく、種々の化合物と反応し易いために耐環境性に欠けるという問題があり、工程中に使用される種々の薬剤や洗浄液の影響や、長期保管によってさらされる空気中の酸素や水分の影響等により、ナノ構造体が腐食し、導電性が低下しやすい。また、特に電子材料などの用途では、基板の表面への微粒子状の不純物やちりやホコリなどの付着や混入を防ぐために、ブラシ等を用いた物理的洗浄工程が用いられる場合が多いが、この工程によっても表面が傷つけられることが問題になる。
【0004】
これを解決するため、銀ナノワイヤを含有する透明導電膜の表面に保護膜を積層し、該透明導電膜に硬度及び耐環境性を付与する試みが多く行われている。また、電子回路からの配線と透明導電膜を電気的に接合する必要があるために、保護膜表面から透明導電膜への電気的なコンタクト性を維持できるような保護膜が求められている。
【0005】
これらを解決するため、下記特許文献2では、導電性繊維を含有する透明導電膜への電気的コンタクト性を維持しながら、該透明導電膜に高い耐環境性を付与できる保護膜を備える透明導電フィルム及びその製造方法が開示されている。
【0006】
一方、昨今のタッチパネル及びタッチパッドの普及に伴い、これらを搭載する機器の種類が多様化しており、機器の操作性をより高めるために、タッチ面が曲面を含む3次元形状であるタッチパネル及びタッチパッドが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、透明な基材シートと、基材シートの一方の面に乾燥塗膜の伸び率が10%以下、可視光透過率が90%以上となるよう導電性インキを用いて形成された複数の主電極領域を有する主電極層と、を少なくとも備えた積層体であって、積層体が加熱軟化時の絞り加工により3次元曲面を含む成形物となっている、3次元曲面形状のタッチ面を有する静電容量方式のタッチパネルが開示されている。
【0008】
より具体的には、特許文献1で開示される3次元曲面タッチパネルの製造方法においては、まず、透明な基材シートの表面に、有機導電材料を含む導電性インキを用いて形成された複数の主電極領域を有する主電極層を設ける。次いで、主電極層上に絞り加工によって3次元曲面内の周縁部となる箇所に、補助電極領域を有する補助電極層を設ける。その後、これら三層からなる積層体を加熱軟化させた状態での絞り加工によって3次元曲面に成形し、冷却又は放冷して曲面形状成形物を得るものである。金属ナノ繊維よりもカーボンナノチューブ又はPEDOT等の方が伸び性に優れることに着目し、絞り加工時に伸びが小さい主電極領域には金属ナノ繊維、伸びが大きい補助電極領域にはカーボンナノチューブ又はPEDOT等が用いられている。
【0009】
特許文献2には、熱成形が可能な積層体として、(A)主な成分としてポリカーボネートを含有する熱成形用フィルム、(B)接着層、(C)透明導電層の順に積層した積層体が開示されている。
【0010】
特許文献3には、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び導電性繊維を含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂の熱分解開始温度が210℃以上であり、かつ前記保護膜が熱硬化性樹脂の熱硬化膜であることを特徴とする透明導電基板が開示されている。
【0011】
特許文献4には、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、かつ前記保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来することを特徴とする透明導電フィルム積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-246741号公報
【特許文献2】特開2021- 70181号公報
【特許文献3】国際公開第2018/101334号
【特許文献4】国際公開第2022/138882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の製造方法で用いられているカーボンナノチューブ又はPEDOT等の有機導電性材料を含む導電性インキから形成される導電性インキ層(導電層)は、そもそも有機材料自体の抵抗値が50Ω/□以上と高く、かつ、変形時に導電層が延伸されるため、更に抵抗値が高くなる傾向があり、工業的な面から問題がある。
【0014】
それに対して、金属より構成される金属層は開口率90%以上のメッシュ形状でも1Ω/□以下と有機導電性材料よりも抵抗値が低く、導電特性に優れる。
【0015】
一方で、樹脂基板上に金属めっき処理又は金属蒸着等により形成された金属層を有する導電性フィルムを用いて立体形状(3次元形状)を付与しようとすると、金属層が樹脂基板の伸びに追随できずに破断する場合が多く、特許文献1に開示されているような工夫をする必要がある。
【0016】
特許文献2には、(C)透明導電層が導電性ペーストもしくはメタルメッシュ層を含むものにより構成されていることは開示されているが、(C)透明導電層に保護膜を設けること、熱成形するために好適な保護膜の構成については開示されていない。
【0017】
特許文献3には、保護膜を備える透明導電フィルムが開示されているが、立体形状(3次元形状)を付与することを意図しておらず、立体形状(3次元形状)を付与するために好適な保護膜の構成については開示されていない。
【0018】
特許文献4には、3次元成形後も良好な導電性、透明性を有する3次元成形体が得られ、曲面形状を有するタッチパネル等の曲面形状成形物の成形に好適な透明導電フィルム積層体が開示されているが、透明導電フィルム積層体の耐環境性への透明基材の表面処理効果については開示されていない。
【0019】
そこで、本発明は、前記実情を鑑みて、曲面を有する3次元成形に好適であり、かつ、耐環境性が良好な透明導電フィルム積層体及びその製造方法並びに成形用透明導電フィルム積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、延伸することによる抵抗値の上昇が小さい熱可塑性樹脂を主成分として含む樹脂材料及び柔軟性に優れる銀ナノワイヤを導電部材として用いた透明導電膜と、熱可塑性樹脂を主成分として含む保護膜と、を備えた透明導電フィルム積層体が3次元成形に好適であること、及び透明導電膜を形成する際に、透明基材の銀ナノワイヤインク塗布面を規定の範囲の水との静的接触角を有するように調整しておくことが透明導電フィルム積層体の耐環境性の向上に有効であることを見出した。
【0021】
本発明は、以下の実施態様を含む。
【0022】
[1]透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、前記透明基材が、前記透明導電膜が形成される主面に対する水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムであることを特徴とする透明導電フィルム積層体。
【0023】
[2]前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体の少なくとも一方である[1]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0024】
[3]前記バインダー樹脂がポリ-N-ビニルアセトアミドである[2]に記載の透明導電フィルム積層体。
【0025】
[4]前記保護膜を構成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタン又はエチルセルロースを含む熱可塑性樹脂に由来する[1]から[3]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【0026】
[5]前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである[1]から[4]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【0027】
[6]水との静的接触角が60度以上75度以下である少なくとも一方の主面を有するポリカーボネートフィルムを準備する第一の工程と、前記水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む導電性インクを塗布し、透明導電膜を形成する第二の工程と、前記透明導電膜上に樹脂成分を含む保護膜用インクを塗布し、保護膜を形成する第三の工程と、を含む、透明導電フィルム積層体の製造方法。
【0028】
[7]前記第一の工程が、ポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面をコロナ処理またはプラズマ処理する工程を含む、[6]に記載の透明導電フィルム積層体の製造方法。
【0029】
[8] [1]から[5]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体と、ポリカーボネートを主成分とする樹脂フィルムとを含む成形用透明導電フィルム積層体。
【0030】
[9]85℃、85%RH環境下で1000時間静置後のシート抵抗値((Ra))の静置前のシート抵抗値(Rb)に対する比((Ra/Rb))が1.2以下である[1]から[5]のいずれか一に記載の透明導電フィルム積層体。
【発明の効果】
【0031】
本発明の透明導電フィルム積層体によれば、耐環境性に優れ、3次元成形後も良好な導電性、透明性を有する3次元成形体が得られ、曲面形状を有するタッチパネル等の曲面形状成形物の成形に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1に係る銀ナノワイヤインク塗膜の顕微鏡観察した基材表面の写真を示す図である。
【
図2】比較例1に係る銀ナノワイヤインク塗膜の顕微鏡観察した基材表面の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0034】
実施形態にかかる透明導電フィルム積層体は、透明な熱可塑性樹脂フィルムよりなる透明基材と、透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜と、前記透明導電膜上に形成された樹脂成分を含む保護膜と、を有し、前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含み、前記透明基材が、前記透明導電膜が形成される主面に対する水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムであることを特徴とする。本明細書において「透明」とは、全光線透過率が75%以上であることを意味する。
【0035】
<透明基材>
前記透明基材は着色していてもよいが、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。使用できる透明基材は熱可塑性樹脂フィルムであり、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリカーボネートフィルムが挙げられる。ポリカーボネートフィルムは、3次元成形する上では良好な成形性を有する非晶性の熱可塑性樹脂フィルムであるので好ましい。ポリカーボネートは、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。ポリカーボネートフィルムの厚みは10~500μmであることが好ましく、25~250μmであることがより好ましく、40~150μmがさらに好ましい。
【0036】
ここで、ポリカーボネートフィルム(透明基材)の透明導電膜が形成される主面に対する水との静的接触角は、60度以上75度以下とされている。これにより、実施形態に係る透明導電フィルム積層体の耐環境性が向上することを本発明者が見出した。これは、ポリカーボネートフィルム表面の水との静的接触角を60度以上75度以下とすることにより、ポリカーボネートフィルムと後述する銀ナノワイヤインクとの馴染み(濡れ性)が向上し、基材と銀ナノワイヤの接着性および銀ナノワイヤの面内均一性が向上するためと考えられる。なお、ポリカーボネートフィルム表面の水との静的接触角を60度以上75度以下とする方法は後述する。
【0037】
<透明導電膜>
透明導電膜を構成する導電部材としては、金属ナノワイヤを使用する。金属ナノワイヤは、カーボンナノチューブより伸び性が低いが、柔軟性を有する材料であり、透明性の観点ではカーボンナノチューブより好ましい。また、特定のバインダー樹脂(後述するポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標)))と組み合わせた導電性インクを用いれば、15%の歪みを加えても断線等の不具合が発生しない配線形成が可能であることを事前に確認している。しかしながら、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標)は吸湿性があり、その影響により透明導電膜のシート抵抗値が不安定になるため、その表面を覆う保護膜を設ける必要がある。金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。一実施形態では、金属ナノワイヤとともに(混合して)、又は金属ナノワイヤに代えて、ポーラス又はノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意味し、それらの性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。本明細書において、前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブの両方を包含する。狭義の金属ナノワイヤ及び狭義の金属ナノチューブは、それぞれ単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0038】
透明導電膜は、金属ナノワイヤが交差部を有するようにポリカーボネートフィルム上に形成され、金属ナノワイヤが形成されていない開口部を光が透過できる構成を有する。金属ナノワイヤが交差部を有するナノ構造ネットワークを構成することが好ましく、交差部の少なくとも一部が融着したナノ構造ネットワークを形成することがより好ましい。金属ナノワイヤの交差部が融着していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折パターンの解析から確認できる。具体的には、金属ナノワイヤ同士が交差している箇所と交差している箇所から十分離れた金属ナノワイヤの電子線回折パターンを解析し、両者の結晶構造が異なること(再結晶の発生)から確認することができる。
【0039】
金属ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤ及び金ナノワイヤの大規模な合成及び精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細に記述されている。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブが形成される(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892-3901参照)。
【0040】
金属ナノワイヤの径の太さの平均は、1~500nmが好ましく、5~200nmがより好ましく、5~100nmがさらに好ましく、10~50nmが特に好ましい。金属ナノワイヤの長軸の長さの平均は、1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、2~70μmがさらに好ましく、5~50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の平均及び長軸の長さの平均が前記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤの平均径をb、長軸の平均長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定される。具体的には、b(平均径)は電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。また、a(平均長さ)の算出には、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法を測定し、得られた測定値の算術平均値として決定される。
【0041】
金属ナノワイヤの材料としては、例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種並びにこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低いシート抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀及び銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定のシート抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。これらの金属の中でも、金又は銀の少なくとも1種を含むことがより好ましく、銀ナノワイヤであることが最も好ましい。
【0042】
透明導電膜は、金属ナノワイヤとバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂としては、一般に、透明性を有し、加工性に優れるものを使用することができる。ポリオール法を用いて製造された金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を使用することが好ましい。一実施態様では、バインダー樹脂は、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、及びセルロース系樹脂の少なくとも一種を含む。バインダー樹脂としては、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))、N-ビニルアセトアミド共重合体、又はセルロース系樹脂のいずれかのみを用いてもよいし、これらの複数種を併用してもよい。セルロース系樹脂は、後述する一種のみを用いることもできるが、複数種を併用してもよい。後加工の観点からは耐熱性が高いバインダー樹脂を使用することが好ましいことを考慮すると、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))がより好ましい。
【0043】
ポリ-N-ビニルアセトアミドは、N-ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーである。N-ビニルアセトアミド共重合体として、N-ビニルアセトアミド(NVA)をモノマー単位として70モル%以上含む共重合体を使用することができる。NVAと共重合可能なモノマーとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、アクリロニトリルが挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電膜のシート抵抗が高くなり、金属ナノワイヤとの混和性、又は基板との密着性が低下する傾向があり、また、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるため、N-ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含まれることが好ましく、80モル%以上含まれることがより好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましい。このような重合体は絶対分子量による重量平均分子量で3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることがさらに好ましい。ポリ-N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルアセトアミド共重合体の絶対分子量は以下の方法により測定される。
【0044】
<絶対分子量測定>
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置した。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
【0045】
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて分子量の測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出する。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaH2PO4水溶液+0.1mol/L Na2HPO4水溶液
流速 :0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0046】
セルロース系樹脂は、エーテル基を含む、いわゆるグリコシド結合によって共有結合された6員エーテル環からなる線状ポリマーである。セルロース自体は水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒に溶解しないが、変性したセルロース誘導体には水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒に溶解するものがある。セルロース系樹脂としては、水、アルコール、アルコールと水との混合溶媒のいずれかに溶解するものであれば特に制限されないが、セルロースエーテルを使用することができる。セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシC1-4アルキルセルロース)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルC1-4アルキルセルロース)、カルボキシアルキルセルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、及びアルキル-カルボキシアルキルセルロース(例えば、メチルカルボキシメチルセルロース)が挙げられる。これらを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも前記溶媒への溶解性、耐環境性(耐湿性)の観点からメチルセルロース、又はエチルセルロ-スを用いることが好ましい。セルロース系樹脂の重量平均分子量は、10万~20万であることが好ましい。本開示において、セルロース系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリエチレンオキシド換算の値である。
【0047】
前記透明導電膜は、前記金属ナノワイヤ、バインダー樹脂及び溶媒を含む導電性インクを、水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に印刷等により塗布し、溶媒を乾燥除去することによって形成することができる。
【0048】
溶媒は、金属ナノワイヤが良好に分散し、かつバインダー樹脂を溶解するがポリカーボネートフィルムを溶解しない溶媒であれば特に限定されない。ポリオール法で合成した金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒を使用することが好ましい。バインダー樹脂の乾燥速度を容易に制御できることから、アルコールと水との混合溶媒を使用することがより好ましい。アルコールは、CnH2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール及びイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール」と表記する。]を少なくとも1種含むことが好ましく、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことがより好ましい。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを用いると、溶媒の乾燥が容易となるため工程上有利である。アルコールとして、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。併用できる炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。これらのアルコールを炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用することにより、溶媒の乾燥速度を調整する事ができる。混合溶媒における全アルコールの含有率は、5~90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であるとコーテイングした際に縞模様(塗布斑)が発生する場合がある。
【0049】
導電性インクは、バインダー樹脂、金属ナノワイヤ及び溶媒を自転公転攪拌機等を用いて攪拌して混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される金属ナノワイヤの含有量は0.01~1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0~99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0050】
導電性インクの印刷は、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア法、スリットコート法等により行うことができる。印刷により形成される印刷膜又はパターンの形状については特に限定はないが、ポリカーボネートフィルム上に形成される配線又は電極のパターンの形状、あるいはポリカーボネートフィルムの全面又は一部の面を被覆する膜(ベタパターン)の形状が挙げられる。形成したパターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電性を有する。透明導電膜の乾燥厚みは、使用する金属ナノワイヤの径、所望するシート抵抗値等により異なるが、好ましくは10~300nmであり、より好ましくは30~200nmである。透明導電膜の乾燥厚みが10nm以上であれば金属ナノワイヤの交点の数が増えるため良好な導電性を得ることができる。透明導電膜の乾燥厚みが300nm以下であれば、光が透過しやすくなり金属ナノワイヤによる反射が抑制されるため良好な光学特性を得ることができる。必要に応じて導電パターンに適宜な光照射を行ってもよい。
【0051】
<保護膜>
一般的に、透明導電膜を保護する保護膜は、透明導電膜を機械的に保護する観点からは硬化性樹脂組成物の硬化膜より形成することが好ましい。しかし、硬化膜は成形加工性に優れないため、3次元成形に用いられる保護膜としては好ましくない。最終的な適用形態にもよるが、例えばタッチパネルに適用する場合には、透明導電フィルム積層体は通常他の部材と貼り合わせて使用される、すなわち他の部材により機械的に保護された形態となる。その場合、透明導電フィルム積層体自体には高い機械的強度は必要とされない。そのため、一実施形態の透明導電フィルム積層体を構成する樹脂成分を含む保護膜は、成形加工性に優れる熱可塑性樹脂を主成分とする。換言すると、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する。後述するように、保護膜は樹脂を溶媒に溶解した樹脂組成物を透明導電膜の上に塗布することにより形成される。そのため、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来するとは、保護膜を形成するために用いる樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂であることを意味する。透明導電膜のバインダー樹脂及びポリカーボネートフィルムを侵すことがなく、かつ透明導電膜上に良好に塗布することが可能な溶媒に樹脂成分を溶解し、透明導電膜上に膜形成が可能な樹脂組成物を用いる必要がある。適用できる樹脂組成物としては、例えば、エチルセルロースやカルボキシ基を有するポリウレタンを含む樹脂組成物が挙げられる。エチルセルロースを含む樹脂組成物としては、例えばエトセル(登録商標)STD-100(ダウ・ケミカル(米)社製 エチルセルロース 重量平均分子量:180,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.0[カタログ値])が挙げられる。カルボキシ基を含有するポリウレタンは、その重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、3,000~85,000であることがより好ましく、5,000~70,000であることが更に好ましく、10,000~65,000であることが特に好ましい。本明細書において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量は、GPCで測定したポリスチレン換算の値である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量が1,000未満であると、塗膜の伸度、可撓性、並びに強度が損なわれる場合があり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなる場合がある。
【0052】
本明細書においては、特に断りのない限り、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量に関するGPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:ShodexカラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル-プ 100μL
試料濃度:約0.1質量%
【0053】
カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~140mg-KOH/gであることが好ましく、15~130mg-KOH/gであることがより好ましい。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が10mg-KOH/g以上であると、保護膜の耐溶剤性は良好であり、硬化成分を微量併用した際の樹脂組成物の硬化性も良好である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が140mg-KOH/g以下であると、ポリウレタン樹脂の溶媒への溶解性が良好であり、樹脂組成物の粘度を所望の粘度に調整し易い。
【0054】
本明細書において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は以下の方法により測定した値である。
【0055】
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを中和の終点とする。
【0056】
下記の計算式を用いて得た値を、カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価とする。
酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(mL)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0057】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐光性及び耐候性の観点では(a1)、(a2)、及び(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0058】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0059】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエ-テルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートが挙げられる。
【0060】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0061】
(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、高温高湿時の信頼性が高く、電子機器部品の部材に適した保護膜を得ることができる。前記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0062】
上述の通り耐候性及び耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。そのため、必要に応じて芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いる場合は、これらの含有量は、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、好ましくは50mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下である。
【0063】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。ポリオール化合物の数平均分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0064】
(a2)ポリオール化合物としては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ-テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、及び植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸及びその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換して得られる炭素原子数が18~72のポリオール化合物が挙げられる。保護膜の耐水性、絶縁信頼性、及び基材との密着性のバランスの観点からは、(a2)ポリオール化合物はポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
【0065】
ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数が3~18のジオールを、炭酸エステル又はホスゲンと反応させることにより得ることができ、例えば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0066】
式(1)において、R3は対応するジオール(HO-R3-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルキレン基であり、n3は正の整数、好ましくは2~50である。
【0067】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造することができる。
【0068】
ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルカンジイル基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0069】
本発明の効果を損なわない範囲で、(a2)ポリオール化合物として、ポリエステル又はポリカーボネートを合成する際のジオール成分として通常用いられる、分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びジプロピレングリコールが挙げられる。
【0070】
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、又は炭素原子数が1若しくは2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する、分子量が200以下のカルボン酸又はアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、及びN,N-ビスヒドロキシエチルアラニンが挙げられ、これらの中でも、溶媒への溶解性が高いことから、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、及び2,2-ジメチロ-ルブタン酸が好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、前記の3成分((a1)、(a2)及び(a3))のみから合成が可能である。さらに(a4)モノヒドロキシ化合物及び/又は(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐光性の観点からは、(a4)モノヒドロキシ化合物及び(a5)モノイソシアネート化合物は、分子内に芳香環又は炭素-炭素二重結合を含まない化合物であることが好ましい。
【0072】
カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、前記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成ができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンを無触媒で反応させることが、最終的に錫等の混入を考慮する必要がないため有利である。
【0073】
有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されない。有機溶媒は、アミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ-テル、エチレングリコールジエチルエ-テル、エチレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0074】
生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、及び電子材料用途においてポリウレタンを保護膜用インクの原料にすることを考慮すると、有機溶媒は、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、γ-ブチロラクトン、又はそれらの組合せであることが好ましい。
【0075】
原料の投入順序については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に反応容器に入れ、溶媒に溶解又は分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
【0076】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量及び酸価に応じて調節される。
【0077】
具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)のモル比は、好ましくは0.5~1.5:1、好ましくは0.8~1.2:1、さらに好ましくは0.95~1.05:1である。
【0078】
(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基のモル比は、好ましくは1:0.1~30、より好ましくは1:0.3~10である。
【0079】
前述した通り、保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上は熱可塑性樹脂に由来する。保護膜を構成する樹脂成分の6質量%以下が硬化性樹脂(化合物)に由来してもよい。樹脂組成物中の樹脂成分の硬化性樹脂(化合物)の量が6質量%以下の範囲であれば、3次元成形加工性の顕著な低下を招くことなく、保護膜としての機能を向上させることができる。熱可塑性樹脂と併用することができる好適な硬化性樹脂(化合物)としては一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)が挙げられる。
【0080】
保護膜を形成する際に、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが互いに反応しうる場合がある。例えば、熱可塑性樹脂としてカルボキシ基を含有するポリウレタンを使用し、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、ポリウレタンのカルボキシ基とエポキシ樹脂のエポキシ基とが反応し、ポリウレタン-エポキシ樹脂複合体が形成される場合がある。本明細書において、「保護膜を構成する樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂に由来する」とは、保護膜の形成に使用した熱可塑性樹脂、例えばカルボキシ基を含有するポリウレタンが、保護膜の樹脂成分の94質量%以上に相当し、保護膜の形成に使用した熱硬化性樹脂、例えば一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、保護膜の樹脂成分の6質量%以下に相当することを意味する。保護膜を形成する樹脂成分が、カルボキシ基を含有するポリウレタンと一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に由来する場合、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の含有量が、前記樹脂成分中、0質量%超、6質量%以下であることを意味する。
【0081】
一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(化合物)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0082】
一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をより好適に使用することができる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER(登録商標)604(三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON(登録商標) EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON(登録商標) HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、TEPIC(登録商標)-S(日産化学株式会社製)が挙げられる。
【0083】
エポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンとの配合割合は、カルボキシ基を含有するポリウレタンが有するカルボキシ基(COOH)に対するエポキシ樹脂が有するエポキシ基(Ep)のモル比(Ep/COOH)が0超、0.02以下であることが好ましい。
【0084】
エポキシ樹脂(化合物)とカルボキシ基を含有するポリウレタンとを併用する場合、樹脂組成物中に硬化促進剤をさらに配合することができる。硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、Irgacure(登録商標)184が挙げられる。硬化促進剤の使用量は、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部、さらに好ましくは40~60質量部である。前記硬化促進剤は、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0085】
硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、例えば、多官能チオール化合物やオキセタン化合物が挙げられる。多官能チオール化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)が挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亜合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産株式会社製)が挙げられる。硬化助剤の使用量は、添加した効果が得られ、かつ硬化速度の過度の上昇を回避しハンドリング性を維持することができるため、エポキシ樹脂(化合物)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部である。前記硬化助剤も、熱可塑性樹脂ではない樹脂成分に含まれるものとする。
【0086】
樹脂組成物には、溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。溶媒としては、透明導電膜やポリカーボネートフィルムを侵さないものを使用することができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、バインダー樹脂の溶解性又は印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後にカルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。樹脂組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。溶媒の沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、塗布のムラが出来やすい溶媒の沸点が300℃より高いと、乾燥及び硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するため、工業的な生産には向かなくなる。
【0087】
溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒;、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒;イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒;メチルエチルケトン(沸点80℃)等のケトン系の溶媒;又は酢酸エチル(沸点77℃)等のエステル系溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。2種類以上を混合する場合には、カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮して、凝集及び沈殿が生じない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒、又はインクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。溶媒単独では透明導電膜又はポリカーボネートフィルムを侵す溶媒も、他の溶媒との混合溶媒として透明導電膜又はポリカーボネートフィルムを侵さない組成とすれば適用できる。
【0088】
樹脂組成物は、カルボキシ基を含有するポリウレタンに、必要に応じてエポキシ化合物と、硬化促進剤及び/又は硬化助剤と、を配合した混合物に、樹脂組成物中の溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように溶媒を配合し、これらの成分が均一になるように攪拌して製造することができる。
【0089】
樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~10質量%の範囲であると、樹脂組成物を透明導電膜上に塗布したときに、膜厚が過度に厚くなることがなく、透明導電膜との電気的なコンタクトをとれる状態を保持することができ、かつ保護膜に耐候性及び耐光性を付与することができる。
【0090】
以上に述べた樹脂組成物を使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法等の印刷により、透明導電膜上に樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥及び除去することにより保護膜が形成される。保護膜の厚みは、通常100nm超1μm以下である。保護膜の厚みは、100nm超500nm以下であることが好ましく、100nm超200nm以下であることがより好ましく、100nm超150nm以下であることがさらに好ましく、100nm超120nm以下であることが特に好ましい。保護膜の厚みが1μmを超えると後工程で配線と透明導電膜との導通が得られにくくなる。
【0091】
上述の通りポリカーボネートフィルム上に透明導電膜(例えば銀ナノワイヤ層)及び保護膜を順次形成することにより得られる透明導電フィルム積層体は、3次元加工性に優れる。透明導電フィルム積層体の3次元加工方法としては、真空成形、ブロー成形、フリーブロー成形、圧空成形、真空圧空成形、熱プレス成形等種々の公知の方法が挙げられるが、いずれの方法を用いても、3次元加工した透明導電フィルム積層体には応力がかかり歪みが発生する。この歪みに伴い透明導電フィルム積層体は延伸される。3次元加工性が低い透明導電フィルム積層体では、低応力(低延伸倍率)で透明導電フィルム積層体を構成する透明導電膜の破断又はシート抵抗値の顕著な増大が通常認められる。一方、3次元加工性が良好な透明導電フィルム積層体では、高応力(高延伸倍率)まで透明導電膜の破断が発生しないか、あるいはシート抵抗値の上昇が小さい。したがって、透明導電フィルム積層体を引張試験してシート抵抗値の変化を測定することにより、透明導電フィルム積層体の3次元加工性を評価することができる。後述の実施例に示すように、一実施形態の透明導電フィルム積層体では、歪みを加える前のシート抵抗値(R0)に対する、15%の歪を加えた後のシート抵抗値(R)の比(R/R0)が25以下と良好である。これは、樹脂成分の94質量%以上が熱可塑性樹脂である保護膜を使用することにより、歪みを加えても保護膜にクラックが発生し難く、保護膜のクラックが透明導電膜に伝搬してその導電性を損なうことを回避できるためと考えられる。なお、3次元加工性の観点では、保護膜中に硬化成分(エポキシ化合物、硬化促進剤等)を含まないことが好ましい。
【0092】
実施形態にかかる透明導電フィルム積層体の製造方法は、水との静的接触角が60度以上75度以下である少なくとも一方の主面を有するポリカーボネートフィルムを準備する第一の工程と、前記水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む導電性インクを塗布し、透明導電膜を形成する第二の工程と、前記透明導電膜上に樹脂成分を含む保護膜用インクを塗布し、保護膜を形成する第三の工程と、を含むことを特徴とする。
【0093】
ここで、前記第一の工程において水との静的接触角が60度以上75度以下とする方法は特に限定されず、公知の基材(樹脂フィルム)表面を親水化するための表面処理方法を適用できる。例えば、コロナ処理、プラズマ処理が挙げられる。これらの方法により透明基材であるポリカーボネートフィルムの表面を親水化することができることは公知であるが、ポリカーボネートフィルムの表面(主面)の水との静的接触角を60度以上75度以下とすることが、ポリカーボネートフィルムの主面に、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含んで構成された透明導電膜、樹脂成分を含む保護膜、が順次積層された透明導電フィルム積層体の耐環境性を向上させることに有効であることは公知となっていなかった。本発明者は、前記構成の透明導電フィルム積層体の耐環境性を向上させるには、バインダー樹脂及び金属ナノワイヤを含む導電性インクを塗布する、ポリカーボネートフィルムの主面の水との静的接触角が安定して60度以上75度以下の範囲であることが有効であることを見出した。ここで、静的接触角が安定して60度以上75度以下の範囲であるとは、静的接触角の経時変化が小さくなり、安定して60度以上75度以下の範囲が維持される状態をいう。静的接触角が60度未満であると、ポリカーボネートフィルムの主面の親水性が高くなり過ぎ、吸水しやすく、その結果透明導電膜の導電性低下を招きやすくなると推定される。静的接触角が75度超であると、ポリカーボネートフィルムの主面に対する金属ナノワイヤを含む導電性インクの濡れ性が十分ではないため、ポリカーボネートフィルムと導電性インクとの界面での密着性が不十分となり、隙間に水分が浸透し易くなって透明導電膜の導電性低下を招きやすくなると推定される。
【0094】
ポリカーボネートフィルムの主面の水との静的接触角を安定した60度以上75度以下の範囲とする表面処理条件の一例として、市販のコロナ放電表面処理装置(CTW-0212(ウエッジ株式会社製))を用いて、照射出力0.3~0.5kwの範囲で1~10m/minの速度でポリカーボネートフィルムの表面を処理した後24時間以上25~50%RH雰囲気下で養生することが挙げられる。本発明者の検討によると、コロナ放電表面処理直後はポリカーボネートフィルムの表面の静的接触角が50度程以下まで低下するが、その後上昇する不安定な状態であり、表面処理後に静的接触角が50度程以下まで低下した直後が静的接触角の上昇の程度が大きく、その後時間経過に伴い静的接触角の上昇程度は徐々に緩やかとなり、1日(24時間)後には60°程度、7日(168時間)後には70°程度となり、以後の経時変化は小さく、静的接触角が安定(静的接触角の変化が飽和)する傾向が認められた。また、ポリカーボネートフィルムの表面処理直後の静的接触角が不安定な状態で導電性インクを塗布した透明導電フィルム積層体(前者)と、静的接触角が安定した状態で導電性インクを塗布した透明導電フィルム積層体(後者)と、では、光学特性や引張特性には殆ど差は認められないものの、前者の方がシート抵抗値、面内のシート抵抗ばらつきが大きく、耐環境性が明らかに低下する傾向が認められた。ポリカーボネートフィルムの表面の表面処理後静的接触角が60度以上75度以下で安定した状態で導電性インクを塗布することが、良好な耐環境性を有する透明導電フィルム積層体を得るために有効である。
【0095】
前記第二の工程において、透明導電膜の形成は、水との静的接触角が60度以上75度以下であるポリカーボネートフィルムの少なくとも一方の主面上に塗布した導電性インクを加熱して溶媒を乾燥させることにより行う。
前記第三の工程において、保護膜は、透明導電膜上に前記樹脂組成物(保護膜用インク)を塗布し、溶媒を乾燥及び除去することにより形成される。
【0096】
他の実施形態にかかる透明導電フィルム積層体は、さらに熱可塑性樹脂を含む基材(前面板)と積層した成形用積層体(成形用透明導電フィルム積層体)としての態様を含む。透明導電フィルム積層体の保護、加飾、賦形形状の保持等のために前述の透明導電フィルム積層体に熱可塑性樹脂を含む基材(前面板)を積層する。基材を構成する熱可塑性樹脂の種類は透明であれば特に限定されないが、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、熱可塑性ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエーテルスルホン、セロファン等の各種樹脂が用いられる。基材の熱可塑性樹脂は、これらの選択肢のうち、少なくともポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。基材(前面板)の厚みは、0.5~3.0mmの範囲であることが好ましく、0.6~2.5mmの範囲であることがより好ましく、0.8~2.0mmの範囲であることがさらに好ましい。0.5~3.0mmの範囲であれば、問題なく賦形でき、賦形後の形状を保持できる。
【0097】
基材に含まれるポリカーボネート樹脂の種類としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されないが、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート等が好ましく、ビスフェノールA骨格、又はビスフェノールC骨格を有するポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとビスフェノールCの混合物、又は、共重合体を用いても良い。ビスフェノールC系のポリカーボネート樹脂、例えば、ビスフェノールCのみのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCとビスフェノールAの混合物あるいは共重合体のポリカーボネート樹脂を用いることにより、基材の硬度を向上できる。また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、15,000~40,000であることが好ましく、より好ましくは20,000~35,000であり、さらに好ましくは22,500~25,000である。前述の透明導電フィルム積層体を構成する透明基材として使用するポリカーボネートと同一のものを使用することが好ましい。
【0098】
また、基材に含まれるアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体(PMMA等)、又はMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものが挙げられる。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のようなアクリル樹脂として、例えば、アクリペット(登録商標、三菱ケミカル株式会社製)、デルペット(登録商標、旭化成株式会社製)、パラペット(登録商標、株式会社クラレ製)があるが、これらに限定されない。
【0099】
基材はポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることも可能である。ポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることにより、表面硬度を向上させつつ、基材の熱成形性を維持することが可能である。
【0100】
また、基材は、熱可塑性樹脂以外の成分として添加剤を含んでよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤が挙げられ、これらから成る群から単独で又は2種類以上を用いることができる。また、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を基材に添加してもよい。
【0101】
基材は、熱可塑性樹脂を80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む。また、基材の熱可塑性樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂を80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む。
【0102】
熱可塑性樹脂に更にハードコートをした基材を使用することもできる。光重合性化合物を含有するハードコート組成物を基材に塗布、乾燥後、紫外線により硬化する方法や熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物を基材に塗布、乾燥後、加熱することにより硬化する方法によりハードコートをした基材を得ることができる。光重合性化合物を含有するハードコート組成物を基材に塗布、乾燥後、紫外線により硬化する方法が好ましい。ハードコートは後記接着層とは反対の基材表面に設けることが好ましい。
【0103】
光重合性化合物は、光重合性を有する官能基を保有する化合物であればいずれも使用可能であるが、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有するものが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートはポリオール、イソシアネート、及び、(メタ)アクリレート由来のウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとを含む樹脂材料の重合体を含む。すなわち、ポリオール、イソシアネート、及び、(メタ)アクリレートの三成分を脱水縮合反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0104】
ハードコート組成物は、物性を改善するために添加剤を添加することが可能である。添加剤としては、例えば、防汚性や滑り性を付与可能なフッ素系添加物又はシリコーン系添加物、耐擦傷性改善のための無機粒子成分が挙げられる。
【0105】
熱可塑性樹脂にハードコート層とは別な処理層、例えば、アンチグレア層や防汚染・指紋跡処理層を有する基材を用いることもできる。
【0106】
透明導電フィルム積層体と基材とは、接着層を介して積層される。接着層は、透明導電フィルム積層体と基材とを接着可能であるものであればいずれも使用することができる。接着層は、基材表面に粘着剤を塗布、乾燥することで容易に得ることが可能である。市販の光学透明粘着向けシート(OCA)又は光学透明粘着樹脂(OCR)を使用し貼り合わせることも可能である。
【0107】
OCAは大気圧もしくは真空下で被着体を貼り合わせるものであり、アクリル系、シリコーン系などの材料が使用される。例えば、LUCIACS(登録商標、日東電工株式会社製)、クリアフィット(登録商標、三菱ケミカル株式会社製)、HSV(積水化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0108】
OCRは被着体を張り合わせるための接着樹脂であり、アクリル系、シリコーン系などの材料が市販されている。
【実施例0109】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0110】
<基材の表面処理>
基材1
コロナ放電表面処理装置CTW-0212(ウエッジ株式会社製)の加工テーブルエリアに、ポリカーボネート(PC)フィルム(三菱ガス化学株式会社製 ユーピロン(登録商標)FS-2000H ガラス転移温度:130℃(カタログ値)、A4サイズ、100μm厚)を設置し、基材―処理電極(セラミック電極)間の距離を10mmとし、出力0.3kWで前記PCフィルムの片面に2回処理(加工テーブル移動速度;3m/min、1往復)を行った。コロナ放電表面処理後のPCフィルムを、25%RHに設定したデジタルコントロールデシケータDCD-SSP3(アズワン株式会社製)で1日間(24時間)養生(温度25±10℃、湿度40±20%RH、大気雰囲気下で保持)することで基材1を得た。25℃、50%RH、大気雰囲気下で基材1のコロナ放電表面処理面に2μlの水滴を滴下後、5秒後の静的接触角を液滴法(θ/2法)にて測定した。水はイオン交換水を用い、静的接触角の測定には、接触角計DMo―501(協和界面科学株式会社製)及び付属の解析ソフトウェアFAMAS(協和界面科学株式会社製)を用いた。その結果、水との静的接触角は60°であった。
【0111】
基材2
デジタルコントロールデシケータでの養生日数を7日間(168時間)に変更した以外は基材1と同様な処理を行い、基材2を得た。基材2のコロナ放電表面処理面は、水との静的接触角が70°であった。
【0112】
基材3
コロナ放電表面処理の条件を出力0.5kWに変更した以外は基材2と同様な処理を行い、基材3を得た。基材3のコロナ放電表面処理面は、水との静的接触角が70°であった。
【0113】
基材4
デジタルコントロールデシケータでの養生日数を30日間(720時間)に変更した以外は基材1と同様な処理を行い、基材4を得た。基材4は、水との静的接触角が75°であった。
【0114】
基材5
コロナ放電表面処理及びその後の養生を行わないPCフィルムを基材5とした。基材5のコロナ放電表面処理面は、水との静的接触角が90°であった。
【0115】
基材6
デジタルコントロールデシケータでの養生日数を0日間(0時間)に変更した以外は基材1と同様な処理を行い、基材6を得た。基材6のコロナ放電表面処理面は、水との静的接触角が50°であった。
【0116】
基材7
コロナ放電表面処理の条件を出力0.2kWに変更した以外は基材1と同様な処理を行い、基材7を得た。しかしながら、この条件ではコロナ放電が均一に起こり難く(目視で放電斑が生じていることが観察され)均一な表面処理がされていない可能性が高かったため、以下に述べる銀ナノワイヤインクの塗工および評価から除外した。
【0117】
基材8
コロナ放電表面処理の条件を出力0.6kWに変更した以外は基材1と同様な処理を行い、基材8を得た。しかしながら、この条件では、コロナ放電により発生した熱で、基材が一部変形・融解する不具合が発生したため、この条件で作製した基材8は、以下に述べる銀ナノワイヤインクの塗工および評価から除外した。
【0118】
<銀ナノワイヤの作製>
銀ナノワイヤ1
ポリビニルピロリドンK-90(株式会社日本触媒製)(0.98g)、AgNO3(1.04g)及びFeCl3(0.8mg)を、エチレングリコール(250ml)に溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた銀ナノワイヤ粗分散液を水/エタノール=20/80[質量比]混合溶媒2000mlに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m2、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施し不純物を除去し、銀ナノワイヤ1(平均直径:26nm、平均長さ:20μm)を得た。得られた銀ナノワイヤ1の平均径は、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用いて任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法(径)を測定し、その算術平均値として求めた。また、得られた銀ナノワイヤ1の平均長は、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用いて任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法(長さ)を測定し、その算術平均値として求めた。また、前記メタノール、エチレングリコール、AgNO3、FeCl3は富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0119】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)の作製>
調製例1(銀ナノワイヤインク1)
前記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤ1の水/エタノール混合溶媒の分散液11g(銀ナノワイヤ濃度0.62質量%、水/エタノール=20/80[質量比])、水1.1g、メタノール6.0g(富士フィルム和光純薬株式会社製)、エタノール7.2g(富士フィルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フィルム和光純薬株式会社製)12.8g、プロピレングリコール1.2g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、固形分濃度10質量%、絶対分子量90万)0.7gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク1を40g作製した。
【0120】
<銀ナノワイヤインク塗膜の印刷>
前記調製例1で調製した、銀ナノワイヤインク1を用いて、バーコート印刷機(コーテック株式会社社製AFA-Standard)により、基材1~6のコロナ放電表面処理した主面上に、ウェット膜厚20μmにてそれぞれ塗工し、A4サイズのベタパターンとして透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。楠本化成株式会社製恒温器ETAC HS350を用い、80℃、1分の条件で溶媒乾燥を行った後、得られた透明導電膜のシート抵抗を測定した。シート抵抗は、透明導電膜(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。銀ナノワイヤインク1を用いた透明導電膜のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。なお、シート抵抗は非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製 EC-80P)を用いて測定した。また、透明導電膜の厚みは、光干渉法に基づく膜厚測定システム(フィルメトリクス株式会社製F20-UV)を用いて測定した結果、80nmであった。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、ポリカーボネートフィルム上に形成された透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)の膜厚(Tc)が直接測定できる。
【0121】
<保護膜インク(樹脂組成物)の作製>
カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成例
合成例1
攪拌装置、温度計、コンデンサー(還流冷却器)を備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)16.7g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(湖州長盛化工有限公司社製)10.8g、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(富士フイルム和光純薬株式会社製)62.6gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0122】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)23.5gを30分かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温し、100℃で15時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に100℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシ基を含有するポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は33500、その樹脂溶液の酸価は39.4mgKOH/gであった。
【0123】
保護膜インク1
前記合成例1で得られたカルボキシ基を含有するポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)7.1g、溶媒として1-ヘキサノール(C6OH)と酢酸エチル(EA)(C6OH:EA=50:50(質量比))の混合物92.9gを加え、均一になるようにシンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV-310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク1を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク1の不揮発分(固形分)濃度(カルボキシ基を含有するポリウレタンの量)は3質量%であった。
【0124】
<保護膜の印刷>
実施例1
前記調製例1により得られた銀ナノワイヤインク1を用いて、基材1のコロナ放電表面処理した主面上に印刷した透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)に、前述のバーコート印刷機を用いて透明導電膜の主面上に、ウェット膜厚約7μmにて保護膜インク1を塗工し、A4サイズのベタパターンとして保護膜つき透明導電膜(保護膜つき銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。前述の恒温器を用い、80℃、1分間の条件で溶媒乾燥を行って、実施例1にかかる透明導電フィルム積層体とした。得られた透明導電フィルム積層体のシート抵抗を測定した。この場合のシート抵抗は、透明導電フィルム積層体(ベタパターン)を3cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した30点のシート抵抗の算術平均値である。保護膜インク1を用いた透明導電フィルム積層体のシート抵抗は、いずれも50Ω/□であった。なお、シート抵抗は前述の非接触式抵抗測定器を用いて測定した。また、保護膜の厚みは、前述の透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)の膜厚同様光干渉法に基づく膜厚測定システム(フィルメトリクス株式会社製F20-UV)を用いて測定した結果、90nmであった。この場合、測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚とした。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、ポリカーボネートフィルム上に形成された透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)の膜厚(Tc)とその上に形成された保護膜の膜厚(Tp)との総膜厚(Tc+Tp)が直接測定できるので、この測定値から先に測定した透明導電膜(銀ナノワイヤインク塗膜)の膜厚(Tc)を差し引くことにより保護膜の膜厚(Tp)が得られる。
【0125】
実施例2~4及び比較例1、2
実施例1と同様にして、表1に示したように、各基材のコロナ放電表面処理した主面上に銀ナノワイヤインク塗膜、保護膜を製膜して、それぞれの透明導電フィルム積層体とした。
【0126】
<透明導電フィルム積層体と基材(前面板)との成形用透明導電フィルム積層体>
実施例5
実施例2で得られた透明導電フィルム積層体の保護膜側に、OCAを介して前面板を貼合することで透明導電フィルム積層体と前面板とを積層した成形用透明導電フィルム積層体を製造した。OCAとしては日東電工株式会社製CS9864UAS(厚み100μm)を使用した。前面板としては三菱ガス化学製FS-2000H(ポリカーボネート、厚み0.5mm)を使用した。具体的には、両面にセパレータを具えたOCAを所定の大きさに裁断後、一方のセパレータを剥離して、一方の粘着面を前面板の表面にハンドローラー(2kgローラー)を用いて1往復の条件で貼り付けた。次に、他方のセパレータを剥離して、他方の粘着面を透明導電フィルム積層体の保護膜側に下記条件で貼り付けて、透明導電フィルム積層体と前面板とを積層した成形用透明導電フィルム積層体を作製し、試験片とした。
(貼り合わせ条件)
面圧:0.4MPa
真空度:30Pa
貼り付け時間:2秒
次に、前記試験片をオートクレーブに投入し、温度50℃、圧力0.5MPaの条件で15分間、オートクレーブ処理した。さらに、前記試験片は、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後、試験に使用した。
【0127】
比較例3
比較例1にかかる透明導電フィルム積層体を用いた以外は実施例5と同様に透明導電フィルム積層体と前面板とを積層した成形用透明導電フィルム積層体を作製した。
【0128】
透明導電膜の評価
<シート抵抗値>
非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製EC-80P、プローブタイプHigh:10~1000Ω/□、S-High:1000~3000Ω/□)を用いて前記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体のシート抵抗値を測定し、下記判定基準に従い判定した。結果を表1に示す。
○:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが10以下である。
△:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□であり、σが10超30以下である。
×:各箇所のシート抵抗値の平均値が50±5Ω/□でない。
【0129】
<光学特性>
前記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体をHaze meter NDH 2000(日本電色社製)で測定し、下記判定基準に従い、判定した。結果を表1に示す。
○:Hazeが1.0以下かつ、全光線透過率が88%以上かつ、b*が1.4以下であるもの。
△:前記3項目中2項目のみが該当するもの。
×:前記3項目中1項目のみが該当する、もしくは該当するものがないもの。
【0130】
<引張特性>
引張試験は前記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を幅30mm、長さ160mmの短冊状に裁断した試験片を用いた。事前にチャック間に相当する部位に、短冊の長手方向の中央(両端(短辺)から80mmの位置)及び中央からそれぞれ両端側に20mm間隔で2つずつ(全部で5つの)標線を付け、4か所の区切りを設け、それぞれのシート抵抗値を測定し、これをR0とした。その後、前記試験片を精密万能試験器(島津製作所製オートグラフAG-X)にセットした。セット時のチャック間距離は100mmであり、試験速度50mm/min、試験設定温度155℃で任意のひずみを与えた。試験後に10か所のシート抵抗値を再度測定し、これをRとした。この値からR/R0を算出し、下記判定基準に従い、判定した。結果を表1に示す。
○:15%歪み時のR/R0の平均値が10以下であるもの。
△:15%歪み時のR/R0の平均値が10超であるもの。
×:前記に該当しない(測定不能な箇所を有する)もの。
【0131】
<耐環境性>
前記各実施例、比較例で得られた各透明導電フィルム積層体を試験片として各10枚用意した。85℃、85%RHに保った恒温恒湿器(楠本化成株式会社製ETAC HIFLEX SX403N)内にて、1000時間経過後のシート抵抗値変化を算出し、下記判定基準に従い、判定した。結果を表1に示す。
○:試験片10枚中、シート抵抗値変化が±20%以内に収まるものの数が10枚。
△:試験片10枚中、シート抵抗値変化が±20%以内に収まるものの数が9~5枚。
×:試験片10枚中、シート抵抗値変化が±20%以内に収まるものの数が4枚以下。
なお、シート抵抗値変化の測定は、以下のようにして行った。
引張特性の場合と同様の試験片を用い、前記高温高湿器中で1000時間静置後のシート抵抗値を引張特性の場合と同様に測定した。測定結果を(Ra)とする。また、静置前の試験片のシート抵抗値も同様に測定した。測定結果を(Rb)とする。次に、(Ra)の(Rb)に対する比((Ra/Rb))を求めシート抵抗値変化とした。前記判定基準における○は、((Ra/Rb))が1.2以下である場合である。
【0132】
<引張後試験片の耐環境性>
前記引張試験操作において、5%歪みをかけた各実施例、比較例の試験片を用意した。85℃、85%RHに保った恒温恒湿器(楠本化成株式会社製ETAC HIFLEX SX403N)内にて、1000時間経過後のシート抵抗値変化を算出し、下記判定に従い、判定した。結果を表1に示す。
なお、シート抵抗値変化の測定は、耐環境性の場合と同様にして行った。
○:シート抵抗値変化が±10%以下であるもの。
△:シート抵抗値変化が±10%を超え±20%以下であるもの。
×:シート抵抗値変化が±20%を超えたもの。
【0133】
【0134】
表1に実施例1~4及び比較例1、2の透明導電フィルム積層体の評価結果を示す。
コロナ放電表面処理(出力0.3~0.5kW)後養生日数を1日(24時間)以上とすることで、コロナ放電表面処理面の水との静的接触角が60°以上75°以下となった基材1~4を用いた実施例1~4は、いずれも耐環境性が良好であり○判定となった。銀ナノワイヤインク塗膜印刷時の基材表面の水との静的接触角を適切な数値(60度以上75度以下)とすることで、基材と銀ナノワイヤインクとの馴染み(濡れ性)が向上し、基材と銀ナノワイヤの接着性および銀ナノワイヤの面内均一性が向上することによる効果であると推測される。
【0135】
基材にコロナ放電表面処理を施し、前記適切な水との静的接触角に調整された基材を用いることで、基材と銀ナノワイヤの接着性が向上することは、簡易ピール試験で確認できる。簡易ピール試験は、銀ナノワイヤインク塗膜の印刷後、保護膜の印刷前に印刷面にセロハンテープを貼り、それを剥がした際の印刷面の状態で判断する手法である。静的接触角が60°以上75°以下となった基材1~4を用いた実施例1~4では、簡易ピール試験を行っても銀ナノワイヤインク塗膜が剥がれることはなかった。一方で、水との静的接触角が90°である基材5を用いた比較例1では簡易ピール試験を行うと、その部分の銀ナノワイヤインク塗膜の剥がれが生じた。
【0136】
基材にコロナ放電表面処理を施し、前記適切な水との静的接触角に調整された基材を用いることで、銀ナノワイヤの面内均一性が向上することは、顕微鏡観察で確認できる。顕微鏡として形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(株式会社キーエンス製)を用いて銀ナノワイヤインク塗膜を観察した。水との静的接触角が60°以上75°以下となった基材1~4を用いた実施例1~4では、銀ナノワイヤが面内で均一に塗工できていることが確認された。
【0137】
一方で、水との静的接触角が90°である基材5を用いた比較例1では、海島模様が確認され、銀ナノワイヤが面内で均一に塗工できていないことが確認された。実施例1及び比較例1の顕微鏡観察した基材表面の写真を
図1、2に示す。
【0138】
コロナ放電表面処理を行わず、基材表面の水との静的接触角が90°である基材5を用いた比較例1は、耐環境性が不良であり×判定となった。これは実施例1~4と比較して、水との静的接触角が高く、基材と銀ナノワイヤインクの濡れ性が十分でないためであると推測される。なお、水との静的接触角が90°と高い比較例1の場合でも、シート抵抗、光学特性及び引張特性には、実施例1~4と差は認められない。
【0139】
また、コロナ放電表面処理後に養生日数を設けず水との静的接触角が50°となった基材6を用いた比較例2は、耐環境性がやや不良であり△判定となった。基材表面にコロナ放電表面処理をすることにより基材表面の静的接触角は50°まで低下したが、コロナ放電表面処理直後は非常に不安定な状態であり、養生時間経過に伴い水との静的接触角の上昇程度が徐々に緩やかとなり、養生時間が1日(24時間)で70°となり、以後の経時変化は小さく、安定(飽和)する傾向が認められた。比較例2で水との静的接触角が50°と低いにもかかわらず耐環境性がやや不良となった理由は明らかではないが、実施例1~4と比較して、水との静的接触角が不安定な状態であったことが影響したものと推測される。水との静的接触角が50°と低い場合は、シート抵抗値が高めで、ばらつきが大きくなる傾向がある。良好な耐環境性を得るためには、基材表面が適切な範囲で安定した水との静的接触角を有する状態であることが有効であることが示唆される。
【0140】
コロナ放電表面処理の出力を0.2kW以下とした場合、コロナ放電が均一に起こりにくかったため、この条件で作製した基材7は、上述した銀ナノワイヤインクの塗工および評価から除外した。コロナ放電表面処理の出力を0.6kW以上とした場合、コロナ放電により発生した熱で、基材が一部変形・融解することがあったため、この条件で作製した基材8は、上述した銀ナノワイヤインクの塗工および評価から除外した。
【0141】
コロナ放電表面処理を施し、適切な水との静的接触角に調整した表面を有する基材を用いた実施例1~4では、引張試験実施後でも良好な耐環境性を有することが確認できた。
【0142】
【0143】
表2に実施例5及び比較例3の成形用透明導電フィルム積層体の評価結果を示す。実施例1~4の透明導電フィルム積層体同様に、成形用透明導電フィルム積層体でも、コロナ放電表面処理を施し、適切な水との接触角に調整した表面を有する基材を用いた実施例5では、引張試験実施後でも良好な耐環境性を有することが確認できた。
【0144】
一方、コロナ放電表面処理を行わず、基材表面の水との静的接触角が90°である表面を有する基材を用いた比較例3では、引張試験実施前後で耐環境性が不良であり×判定となった。