(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067327
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】フロートガラス製造装置及びフロートガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 18/16 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
C03B18/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177313
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤木 直人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 丈宜
(57)【要約】
【課題】送風機の設置を省略しても、溶融金属によるボトムケーシングの変形及び破損を防ぐことが可能なフロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のフロートガラス製造装置は、溶融金属を収容する浴槽を備え、前記浴槽内の前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラス製造装置である。前記浴槽は、前記溶融金属に接する複数のレンガと、複数の前記レンガを収容する箱状のケーシングと、前記複数のレンガ間の目地に不定形耐火物と、を有し、前記レンガと前記不定形耐火物とは、酸化物基準の質量において最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分としての主成分2種が同じである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を収容する浴槽を備え、前記浴槽内の前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラス製造装置であって、
前記浴槽は、前記溶融金属に接する複数のレンガと、複数の前記レンガを収容する箱状のケーシングと、前記複数のレンガ間の目地に不定形耐火物と、を有し、
前記レンガと前記不定形耐火物とは、酸化物基準の質量において最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分としての主成分2種が同じである、フロートガラス製造装置。
【請求項2】
前記レンガおよび前記不定形耐火物は、アルミナ-カルシア系の材質で構成される、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項3】
前記ケーシングと前記不定形耐火物との間に断熱層が設けられている、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項4】
前記レンガおよび前記不定形耐火物は、カルシアを含有し、
酸化物基準の質量%表示で、前記不定形耐火物のCaOの含有量は、前記レンガのCaOの含有量の±20%以内である、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項5】
前記レンガおよび前記不定形耐火物は、アルミナを含有し、
酸化物基準の質量%表示で、前記不定形耐火物のAl2O3の含有量は、前記レンガのAl2O3の含有量の±10%以内である、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置における前記浴槽に溶融金属を貯え、前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロートガラス製造装置及びフロートガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロート法によるガラス板の製造は一般的に以下に説明する方法で行われている。ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを得た後、この溶融ガラスをフロートバスに収容された溶融錫などの溶融金属の表面上に連続的に供給する。
溶融ガラスを溶融金属の表面に沿って上流側から下流側に搬送しながらガラスリボンを成形し、このガラスリボンをフロートバスから引き出し、徐冷して洗浄後、切断することで、目的の大きさのガラス板を得ることができる。
このフロート成形によるガラス板の製造方法は、生産性が高く、得られたガラス板は平坦性に優れている。従って、フロート成形によるガラス板は、建築用ガラス板、自動車用ガラス板、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ガラス板などとして広く適用されている。
【0003】
フロートバスは、金属製のボトムケーシングの内部に複数のボトムレンガを敷き詰めて浴槽状に構成され、この浴槽に溶融金属が貯留される。溶融金属の上方空間は、金属製のルーフケーシングとその内側に設置された耐火レンガからなるルーフ構造体により囲まれている。溶融金属の上方空間は、溶融金属を酸化させないように、水素を含む不活性ガス雰囲気に調整されている。
前記溶融金属の表面に溶融ガラスを供給し、フロートバスの上流側から下流側に流しつつ溶融ガラスの両サイドをトップロールで引っ張ることで所望の厚さ、幅のガラスリボンを成形する。このガラスリボンをフロートバスの下流側に設置された徐冷炉に設置されているレヤーロールで溶融金属の表面から引き出すことができる。
【0004】
前記のようにフロートバスをボトムケーシングとボトムレンガの2重構造とした場合、ボトムレンガの目地部に溶融金属が浸入し、ボトムケーシングに到達すると、ボトムケーシングを変形させるか損傷させるおそれがある。
このため、従来、ボトムケーシングの底部外表面に冷却用の空気を吹き付けてボトムケーシングを冷却し、ボトムケーシング近傍に到達した溶融金属を固体化する構成が採用されている。
【0005】
しかしながら、上記の方法では冷却用の送風機が必要であり、送風機を作動させるためのエネルギーも必要である。そして、レンガ上の溶融金属をも冷却されてしまうため、フロートバス内を余計に加熱する必要があり、さらにエネルギーが必要になる。
【0006】
また、特許文献1では、冷却用の送風機を作動させる駆動源の作動が急に停止することを想定し、複数のブロックからなるブロックアセンブリとスチールケーシングとの接触面にコーティング層を設け、溶融金属とスチールケーシングとの反応を防ぐ構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、溶融金属の接触によるボトムケーシングの変形及び損傷を防ぐことは、フロートガラス製造装置の寿命を長くするためだけでなく、最終的なフロートガラス製品の品質欠陥を防ぐ点でも重要である。そして、エネルギー効率の観点から、送風機の設置を省略することが望まれる。
【0009】
本開示では、送風機の設置を省略しても、溶融金属によるボトムケーシングの変形及び破損を防ぐことが可能なフロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1> 溶融金属を収容する浴槽を備え、前記浴槽内の前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラス製造装置であって、
前記浴槽は、前記溶融金属に接する複数のレンガと、複数の前記レンガを収容する箱状のケーシングと、前記複数のレンガ間の目地に不定形耐火物と、を有し、
前記レンガと前記不定形耐火物とは、酸化物基準の質量において最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分としての主成分2種が同じである、フロートガラス製造装置。
<2> 前記レンガおよび前記不定形耐火物は、アルミナ-カルシア系の材質で構成される、<1>に記載のフロートガラス製造装置。
<3> 前記ケーシングと前記不定形耐火物との間に断熱層が設けられている、<1>又は<2>に記載のフロートガラス製造装置。
<4> 前記レンガおよび前記不定形耐火物は、カルシアを含有し、
酸化物基準の質量%表示で、前記不定形耐火物のCaOの含有量は、前記レンガのCaOの含有量の±20%以内である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
<5> 前記レンガおよび前記不定形耐火物は、アルミナを含有し、
酸化物基準の質量%表示で、前記不定形耐火物のAl2O3の含有量は、前記レンガのAl2O3の含有量の±10%以内である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
<6> <1>~<5>のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置における前記浴槽に溶融金属を貯え、前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、送風機の設置を省略しても、溶融金属によるボトムケーシングの変形及び破損を防ぐことが可能なフロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示のフロートガラス製造装置の一例を示す断面図である。
【
図2】従来のフロートバスを説明する概略断面図である。
【
図3】本開示に係るフロートバスの一例を示す概略断面図である。
【
図4】本開示に係るフロートバスの他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係る実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0015】
<フロートガラス製造装置>
本開示のフロートガラス製造装置は、溶融金属を収容する浴槽を備え、前記浴槽内の前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する、フロートガラス製造装置であって、前記浴槽は、前記溶融金属に接する複数のレンガと、複数の前記レンガを収容する箱状のケーシングと、前記複数のレンガ間の目地に不定形耐火物と、を有し、前記レンガと前記不定形耐火物とは、酸化物基準の質量において最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分としての主成分2種が同じである。
【0016】
ここで、「主成分2種が同じ」とは、最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分の順は問わず、例えば、レンガにおいて最も多く含まれる成分が、不定形耐火物において二番目に多く含まれる成分であってもよい。
【0017】
上記構成とすることにより、レンガと不定形耐火物とが接着しやすくなり、さらにレンガと不定形耐火物の熱膨張係数を近い値にできるため、レンガおよび不定形耐火物の熱膨張により発生する応力による不定形耐火物の亀裂が防止され、レンガの上に収容される溶融金属が目地を通じてケーシングにまで達するのを防げる。
【0018】
以下、本開示のフロートガラス製造装置の具体例を、図面を参照しながら説明するが、本開示のフロートガラス製造装置はこれに限定されるものではない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0019】
図1は、本開示のフロートガラス製造装置の一例を示す断面図である。フロートガラスの製造装置1は、フロートバス装置2に供給された溶融ガラスGをフロートバス装置2に収容された溶融錫(溶融金属)3の表面に沿って流しつつその両サイドから図示略のトップロールにより拡げ、フロートバス装置2の上流側から下流側に流動させて帯板状のガラスリボン5を成形する装置である。
【0020】
フロートバス装置2は、フロートバス2Aとその上方に設けられているルーフ構造体2Bを備えて構成される。フロートバス装置2の上流側には溶融ガラスの溶解炉が設けられ、この溶解炉からフロートバス2Aに溶融ガラスGが供給され、フロートバス2Aにおいて成形されたガラスリボン5は、図示略のリフトアウトロールにより溶融金属3の表面から引き上げられる。引き上げられたガラスリボン5は徐冷され、切断され、目的の大きさのガラス板が得られる。
【0021】
フロートバス2Aにおいて、その上流端の入口部2aには、図示略の溶解炉から供給通路12を介し送られてきた溶融ガラスGが供給通路12の終端部に設けられたリップ13を介し供給されるようになっている。リップ13の上流側の供給通路12には溶融ガラスGの流れを調節するためのツイール14が設置されている。前記供給通路12、フロートバス2Aはそれぞれ耐火レンガ等の耐熱材を複数組み付けて構成されるが、
図1においては簡略記載している。
フロートバス装置2において、フロートバス2Aの上方空間はルーフ構造体2Bで囲まれ、溶融金属3の上方空間が外部雰囲気とは極力遮断され、内部は水素を12%以下程度含む窒素ガス雰囲気などの還元性雰囲気に保持されている。
【0022】
フロートバス2Aの上流端側には前面壁15が形成され、この前面壁15の底部側に入口部2aが形成され、フロートバス2Aの下流端側には後端壁17が形成され、後端壁17の下方において溶融金属3の液面近くの位置にガラスリボン5の出口部2cが形成されている。
フロートバス2Aにおいて前面壁15、後端壁17、フロートバスルーフ16を備えてルーフ構造体2Bが構成されている。また、ルーフ構造体2Bにおいて、その内側には図示略の天井部が吊り下げ支持され、天井部には複数の加熱ヒーターが設置され、フロートバス2A内の温度を調節できるように構成されている。なお、フロートバス装置2の内部の還元性雰囲気を構成するガスは、ガラスリボン5が引き出される出口部2cからチャンバー7側に若干流出する。
【0023】
次に、フロートバス2Aの構造について、更に詳細に説明する。
本実施形態のフロートバス2Aは、浅い容器型の金属製のボトムケーシング30の内部にボトムレンガ31を複数整列配置してなる。ボトムケーシング30の構成材料は、特に限定されないが、鉄あるいはステンレス鋼などの金属材料からなる。
【0024】
ボトムレンガ31のうち、ボトムケーシング30の外周縁部に配置されているボトムレンガの背が高く、背の高いボトムレンガの内側に背の低い複数のボトムレンガ31が相互の間に若干の隙間(目地部)32を介し設置されている。目地部32は、溶融金属3の熱を受けてボトムレンガ31の膨張を許容するよう設けられている。
【0025】
従来のフロートバス装置2では、
図2に示すように、目地部32から侵入した溶融金属3がボトムケーシング30に接触して、ボトムケーシング30が変形したり損傷したりすることから、ボトムケーシング30の下方に冷却装置35を設けている。このように従来のフロートバス装置2では、ボトムケーシング近傍に到達した溶融金属3を固体化させるために送風機などの冷却装置35が必要であり、冷却装置35を作動させるためのエネルギー、冷却装置35により冷却されたボトムレンガ上の溶融金属3をさらに加熱するエネルギー等、余計なエネルギーを要する。そして、温度制御のための制御システムを必要とする。
【0026】
これに対して、本開示のフロートバス装置2では、
図3に示すように、目地部32に不定形耐火物33を配置する。不定形耐火物33は、目地部の少なくとも一部に配置されていればよく、目地部32の全体に充填されることが好ましく、ボトムレンガ31と一体化されていてもよい。
そして、本開示のフロートバス装置2では、酸化物基準の質量において最も多く含まれる成分及び二番目に多く含まれる成分としての主成分2種が、ボトムレンガ31と不定形耐火物33とで同じである。これにより、目地部32への溶融金属3の侵入が防止され、冷却装置を設置しなくともボトムケーシング30の変形及び破損を防止できる。ボトムケーシング30の変形及び破損をより効果的に防止する観点からは、ボトムレンガ31において最も多く含まれる成分が、不定形耐火物33においても最も多く含まれる成分であることが好ましい。
【0027】
なお、目地部32に不定形耐火物33が充填されても、ボトムレンガ31と不定形耐火物33の材質を上記のようにすることで、レンガと不定形耐火物の熱膨張係数を近い値にできるため、レンガおよび不定形耐火物の熱膨張により発生した応力による不定形耐火物33の亀裂が防止される。熱膨張により発生する応力をさらに緩和する方法としては、目地部32(不定形耐火物33)の幅、ボトムレンガ31の面積、これらのサイズ比等を調節する方法が挙げられる。
【0028】
ボトムレンガ31の構成材料は、アルミナ(Al2O3)、カルシア(CaO)、シリカ(SiO2)、酸化リン(P2O5)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、マグネシア(MgO)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化バナジウム(V2O5)、ジルコニア(ZrO2)などを含んでもよい。なお、括弧内に記載した酸化物の化学式は例示であり、価数はこれらに限定されない。
【0029】
ボトムレンガ31の構成材料に含まれる主成分2種は、アルミナ、カルシア、シリカ及びジルコニアからなる群より選択される2種が好ましく、アルミナ、カルシア及びジルコニアからなる群より選択される2種がより好ましく、アルミナ及びカルシアがさらに好ましい。
ボトムレンガ31の構成材料に最も多く含まれる成分は、アルミナ、カルシア、シリカ又はジルコニアが好ましく、アルミナ、カルシア又はシリカより好ましく、アルミナがさらに好ましい。ボトムレンガ31の構成材料において、二番目に多く含まれる成分は、カルシア、シリカ又はジルコニアが好ましく、カルシア又はシリカがより好ましく、カルシアがさらに好ましい。
【0030】
ボトムレンガ31の構成材料としては、例えば、アルミナ-カルシア系レンガ、アルミナ-シリカ系レンガ、又はアルミナ-ジルコニア系レンガ等の粘度質焼成レンガが挙げられ、アルミナ-カルシア系レンガ、又はアルミナ-ジルコニア系レンガが好ましく、不定形耐火物33との接着性の観点からは、アルミナ-カルシア系レンガがより好ましい。アルミナ-カルシア系レンガは主成分2種がアルミナ及びカルシアであり、アルミナ-シリカ系レンガは主成分2種がアルミナ及びシリカであり、アルミナ-ジルコニア系レンガは主成分2種がアルミナ及びジルコニアである。
【0031】
アルミナ-カルシア系レンガは、例えば、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:40%~85%、CaO:10%~40%、SiO2:0.5%~20%で含有してもよい。アルミナ-カルシア系レンガにおけるSiO2含有量は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下が特に好ましい。
アルミナ-ジルコニア系レンガは、例えば、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:40%~55%、ZrO2:30%~45%、SiO2:0.5%~20%含有してもよい。アルミナ-ジルコニア系レンガにおけるSiO2含有量は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましく、1質量%以下が極めて好ましい。
【0032】
不定形耐火物33の構成材料は、アルミナ、カルシア、シリカ、酸化リン、酸化ナトリウム、酸化カリウム、マグネシア、酸化鉄、酸化チタン、酸化バナジウム、ジルコニアなどを含んでもよい。
不定形耐火物33の構成材料に含まれる主成分2種は、アルミナ、カルシア、シリカ及びジルコニアからなる群より選択される2種が好ましく、アルミナ、カルシア及びジルコニアからなる群より選択される2種がより好ましく、アルミナ及びカルシアがさらに好ましい。
【0033】
不定形耐火物33の構成材料に最も多く含まれる成分は、アルミナ、カルシア、シリカ又はジルコニアが好ましく、アルミナ、カルシア又はシリカより好ましく、アルミナがさらに好ましい。不定形耐火物33の構成材料において、二番目に多く含まれる成分は、カルシア、シリカ又はジルコニアが好ましく、カルシア又はジルコニアがより好ましく、カルシアがさらに好ましい。
【0034】
不定形耐火物33の構成材料としては、例えば、アルミナ-カルシア系不定形耐火物、アルミナ-シリカ系不定形耐火物、又はアルミナ-ジルコニア系不定形耐火物が挙げられ、アルミナ-カルシア系不定形耐火物、又はアルミナ-ジルコニア系不定形耐火物が好ましく、ボトムレンガ31との接着性の観点からは、アルミナ-カルシア系不定形耐火物がより好ましい。
【0035】
アルミナ-カルシア系不定形耐火物は、例えば、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:40%~85%,CaO:10%~40%,SiO2:0.5%~20%で含有してもよい。不定形耐火物33に用いるアルミナ-カルシア系不定形耐火物におけるSiO2含有量は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
不定形耐火物33に用いるアルミナ-ジルコニア系不定形耐火物は、例えば、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:40%~70%、ZrO2:10%~45%、SiO2:0.5%~20%含有してもよい。アルミナ-ジルコニア系不定形耐火物におけるSiO2含有量は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。アルミナ-ジルコニア系不定形耐火物におけるAl2O3含有量は、55質量%以下が好ましい。
【0036】
ボトムレンガ31および不定形耐火物33は共に、アルミナ-カルシア系の材質で構成されること、アルミナ-シリカ系の材質で構成されること、又はアルミナ-ジルコニア系の材質で構成されることが好ましく、ボトムレンガ31と不定形耐火物33との接着性の観点からは、共に、アルミナ-カルシア系の材質で構成されることが好ましい。
【0037】
ボトムレンガ31と不定形耐火物33が共にカルシアを含む場合、不定形耐火物33のカルシアの含有量は、ボトムレンガ31のカルシアの含有量の±20%以内であることが好ましく、±18%以内であることがより好ましく、±15%以内であることがさらに好ましく、±13%以内であることが特に好ましい。
【0038】
ボトムレンガ31と不定形耐火物33が共にアルミナを含む場合、不定形耐火物33のアルミナの含有量は、ボトムレンガ31のアルミナの含有量の±10%以内であることが好ましく、±7%以内であることがより好ましく、±5%以内であることがさらに好ましい。
【0039】
フロートバス装置2は、
図4に示すように、ボトムケーシング30と不定形耐火物33との間に断熱層34を設けてもよい。本開示のフロートガラス製造装置では下方から冷却装置により冷却しなくともよいため、断熱層34を設けることが可能である。断熱層34を設けることで、溶融金属3が目地部32を通じて放熱されるのを防ぎ、エネルギー損失が抑えられる。断熱層34は、
図4に示すように目地部32の根元部分に配置されていればよく、ボトムケーシング30とボトムレンガ31との間にも配置してもよい。
【0040】
<フロートガラスの製造方法>
本開示のフロートガラスの製造方法は、上述のフロートガラス製造装置における前記浴槽に、溶融金属を貯え、前記溶融金属の上に連続的に溶融ガラスを供給し、供給した前記溶融ガラスを前記溶融金属の上で流動させながら帯状のガラスリボンに成形する。
【0041】
図1を参照すると、以上説明のフロートガラスの製造装置1を用い、フロートバス装置2に連続的に供給された溶融ガラスGをフロートバス装置2に収容された溶融金属3の表面に沿って、フロートバス2Aの上流端の入口部2aから下流端の出口部2c側に流してガラスリボン5を成形する。そして、ガラスリボン5は図示略のリフトアウトロールにより溶融金属3の表面から引き上げられる。引き上げられたガラスリボン5は徐冷され、切断され、目的の大きさのガラス板が得られる。
【0042】
上述のガラスリボン5の成形に適用するガラスとして以下の組成例に示す無アルカリガラスを適用できる。
第1の例として、酸化物基準の質量百分率表示で、下記の組成を有する無アルカリガラスを用いることができる。
SiO2:50~73%、Al2O3:10.5~24%、B2O3:0~12%、MgO:0~10%、CaO:0~14.5%、SrO:0~24%、BaO:0~13.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8~29.5%、ZrO2:0~5%。
【0043】
第2の例として、酸化物基準の質量百分率表示で、下記の組成を有する無アルカリガラスを用いることができる。
SiO2:58~66%、Al2O3:15~22%、B2O3:5~12%、MgO:0~8%、CaO:0~9%、SrO:3~12.5%、BaO:0~2%、MgO+CaO+SrO+BaO:9~18%。
【0044】
第3の例として、酸化物基準の質量百分率表示で、下記の組成を有する無アルカリガラスを用いることができる。
SiO2:54~73%、Al2O3:10.5~22.5%、B2O3:0~5.5%、MgO:0~10%、CaO:0~9%、SrO:0~16%、BaO:0~2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8~26%。
これらの無アルカリガラスを用いてフロート法により製造するガラス板として、例えば、表示装置用ガラスであれば、厚さ0.1mm~0.7mm、縦幅2500mm、横幅2200mmなどのガラス板を例示できるが、これに限定されない。第11世代(G11)のガラス板は、縦幅3370mm、横幅2940mmであり、第6世代(G6)のガラス板は、縦幅1850mm、横幅1500mmである。
【0045】
前記組成の無アルカリガラスの成形温度は、従来の一般的なソーダライムガラスより高温となるので、通常は冷却装置35の設置が必要である。しかしながら、本開示のフロートガラス製造装置は目地部に不定形耐火物33が配置されており、この不定形耐火物33の亀裂の発生が防止される構成であることから、上述の組成の無アルカリガラスからなるガラス板であっても、冷却装置35を設置せずとも製造できる。
【0046】
また、従前のフロートガラス製造装置では、目地部への溶融金属3の侵入に起因して目地部から気泡が発生しやすいが、本開示のフロートガラス製造装置では、目地部への溶融金属3の侵入が防止されているため、気泡が発生し難い。よって、本開示のフロートガラス製造装置を用いるフロートガラスの製造方法では、泡欠陥の無い高品質のガラス板を製造できる。
【実施例0047】
[例1]
図1、
図3に示す構成のフロートガラスの製造装置を用い、金属製のボトムケーシングにボトムレンガを数mmの隙間をあけて目地部を設け、この目地部に不定形耐火物組成物を流し込み、目地部を不定形耐火物で充填した。ボトムレンガとしては酸化物基準の質量%表示で、Al
2O
3:62.4%、CaO:27.9%、SiO
2:6.4%、MgO:1.3%、V
2O
5:1.2%含み、その他の成分は各々1%未満であるアルミナ-カルシア系レンガ(1)を用いた。不定形耐火物としてはAl
2O
3:72.0%、CaO:14.0%、SiO
2:4.1%、ZrO
2:8.4%含み、その他の成分は各々1%未満であるアルミナ-カルシア系不定形耐火物(1)を用いた。不定形耐火物のAl
2O
3の含有量は、ボトムレンガのAl
2O
3の含有量の+9.6%であり、不定形耐火物のCaOの含有量は、ボトムレンガのCaOの含有量の-13.9%である。
なお、不定形耐火物組成物は、アルミナ-カルシア系不定形耐火物原料に水を加えた組成物であり、目地部に不定形耐火物組成物を充填し、乾燥して不定形耐火物を形成した。
【0048】
作製したフロートバスは、幅数m、長さ数十m規模であり、ここに溶融金属として溶融スズを貯えた。この溶融スズの上に以下の組成の溶融ガラスを供給してガラスリボンを成形した。フロートバスの溶融スズ上の雰囲気は8%水素を含む窒素ガス雰囲気とした。
用いた溶融ガラスの組成は、SiO2:55%、Al2O3:13%、B2O3:4%、MgO:4%、CaO:6%、SrO:10%、BaO:6%、ZrO2:2%である。
ボトムレンガと不定形耐火物との間は接着されており、目地部の不定形耐火物に亀裂は発生していなかった。
【0049】
[例2]
例1と同様にして、但し、ボトムレンガを、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:66.0%、CaO:26.0%、SiO2:5.7%、MgO:1.5%含み、その他の成分は各々1%未満である含むアルミナ-カルシア系レンガ(2)に変更して、フロートバスを作製し、このフロートバスを用いてガラスリボンを成形した。不定形耐火物のAl2O3の含有量は、ボトムレンガのAl2O3の含有量の+6.0%であり、不定形耐火物のCaOの含有量は、ボトムレンガのCaOの含有量の-12.0%である。
ボトムレンガと不定形耐火物との間は接着されており、目地部の不定形耐火物に亀裂は発生していなかった。
【0050】
[例3]
例1と同様にして、但し、不定形耐火物を、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:67%、CaO:17%、SiO2:6%、ZrO2:9%、MgO:1%含むアルミナ-カルシア系不定形耐火物に変更して、フロートバスを作製し、このフロートバスを用いてガラスリボンを成形した。不定形耐火物のAl2O3の含有量は、ボトムレンガのAl2O3の含有量の+4.6%であり、不定形耐火物のCaOの含有量は、ボトムレンガのCaOの含有量の-10.9%である。
ボトムレンガと不定形耐火物との間は接着されており、目地部の不定形耐火物に亀裂は発生していなかった。
【0051】
[例4]
例2と同様にして、不定形耐火物を、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:67%、CaO:17%、SiO2:6%、ZrO2:9%、MgO:1%含むアルミナ-カルシア系不定形耐火物に変更して、フロートバスを作製し、このフロートバスを用いてガラスリボンを成形した。不定形耐火物のAl2O3の含有量は、ボトムレンガのAl2O3の含有量の+1.0%であり、不定形耐火物のCaOの含有量は、ボトムレンガのCaOの含有量の-9.0%である。
ボトムレンガと不定形耐火物との間は接着されており、目地部の不定形耐火物に亀裂は発生していなかった。
【0052】
[例5]
例1と同様にして、但し、ボトムレンガを、酸化物基準の質量%表示で、Al2O3:37%、SiO2:58%、Fe2O3:1.2%含み、その他の成分は各々1%未満であるアルミナ-シリカ系レンガに変更して、フロートバスを作製し、このフロートバスを用いてガラスリボンを成形した。
ボトムレンガと不定形耐火物との間に隙間が生じていた。また、目地部の不定形耐火物に亀裂が発生していた。
2…フロートバス装置、2A…フロートバス、2a…入口部、2c…出口部、3…溶融金属、G…溶融ガラス、4…トップロール、5…ガラスリボン、7…チャンバー、8…徐冷炉、9…リフトアウトロール、10…搬送ロール、30…ボトムケーシング、31…ボトムレンガ、32…目地部、33…不定形耐火物、34…断熱層、35…冷却装置