(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067540
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】固体電解質前駆液、固体電解質前駆液の製造方法、固体電解質の製造方法及び固体電解質層を有する基体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240510BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240510BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240510BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240510BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240510BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240510BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01B13/00 Z
C01B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177709
(22)【出願日】2022-11-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】作田 敦
(72)【発明者】
【氏名】中村 渉
(72)【発明者】
【氏名】辰巳砂 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ12
5H029CJ13
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ14
5H050AA01
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA13
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA13
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】高いリチウムイオン導電率を有し、結晶構造等の物性を損なうことのない固体電解質を簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】C
6~C
8鎖状アルカン、C
3~C
10鎖状エーテル及びC
2~C
4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)とを含む、固体電解質前駆液によって課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、
前記混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)とを含む、固体電解質前駆液。
【請求項2】
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、請求項1に記載の固体電解質前駆液。
【請求項3】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、請求項1又は2に記載の固体電解質前駆液。
【請求項4】
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項1又は2に記載の固体電解質前駆液。
【請求項5】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項1又は2に記載の固体電解質前駆液。
【請求項6】
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が、前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、請求項1又は2に記載の固体電解質前駆液。
【請求項7】
a1)少なくとも1種の一級アルコール中にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させ、次いで、得られた前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料のアルコール溶液にC6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒を添加する工程、又は
a2) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させる工程、
を含む、固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、請求項7に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、請求項7又は8に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項7又は8に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項7又は8に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項12】
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が、前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、請求項7又は8に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【請求項13】
アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)と、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒とを含む固体電解質前駆液を作製する工程と、
前記固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる析出工程を含む、固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、請求項13に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項16】
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項18】
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項19】
前記析出工程が、80~600℃の温度で熱処理する工程を含む、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項20】
前記析出工程が、80~300℃の温度で熱処理する第1工程と、
次いで前記第1工程よりも高い温度である300~600℃の温度で熱処理する第2工程とを含む、請求項13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項21】
i) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒に、前記混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を含む固体電解質前駆液を基体に含浸させる含浸工程と、
ii) 前記混合溶媒を留去して、前記基体に前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を析出させる析出工程と、
を含む、固体電解質層を有する基体の製造方法。
【請求項22】
前記工程ii)の後に、
iii) 前記含浸工程及び前記析出工程を少なくとも1回繰り返す工程、
を含む請求項21に記載の固体電解質層を有する基体の製造方法。
【請求項23】
前記基体が電極活物質粒子又は繊維シートである、請求項21又は22に記載の固体電解質層を有する基体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質前駆液、固体電解質前駆液の製造方法、固体電解質の製造方法及び固体電解質層を有する基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車、太陽電池、風力発電等の発電装置において、電力を貯蔵するためのリチウムイオン二次電池の需要が増大している。また、安全性の確保の観点から、電解質層に液体を使用せず、固体電解質を使用した全固体電池が盛んに研究されている。全固体リチウム電池用の固体電解質としては、酸化物系固体電解質や硫化物系固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質よりも高いリチウムイオン導電率を有する材料として注目されている。
【0003】
特に、硫化物系固体電解質の中でも、アルジロダイト型硫化物系固体電解質は、比較的高い大気安定性を有し、結晶構造の高い安定性を示すとともに、可塑性を有し成形性に優れる等の特徴がある。この特徴を活かし、粒界抵抗軽減を目的として、電極活物質粒子を被覆することや、全固体リチウム電池の薄膜化等が試みられている。しかし、電極活物質粒子をアルジロダイト型硫化物固体電解質で均一に被覆する方法は確立されていない。また、全固体リチウム電池の固体電解質層として用いるアルジロダイト型硫化物固体電解質の薄膜を作製する技術についても確立されていない。
【0004】
そのため、アルジロダイト型硫化物系固体電解質を活用するための様々な方法が模索されている。
例えば、合成した固体電解質を溶媒に溶解して固体電解質溶液とし、得られた固体電解質溶液から固体電解質を再析出させる方法が試みられている。特許文献1には、エタノールやN-メチルホルムアミド等の有機溶媒にLi2S-P2S5系硫化物固体電解質を溶解させて固体電解質溶液とし、得られた溶液からLi2S-P2S5系硫化物固体電解質を再析出させる方法が記載されている。特許文献1に記載の方法を採用すると、Li2S-P2S5系硫化物固体電解質を溶解した有色透明の固体電解質溶液を得ることができて固体電解質の再析出も容易であり、比較的高いリチウムイオン導電率を示す固体電解質が得られる。
また、Li2S-P2S5系硫化物固体電解質の液相合成についても様々な方法が試みられている。そして、この液相合成法を応用して電極活物質粒子を被覆する試みもなされている。特許文献2には、Li2S-P2S5系硫化物固体電解質の原料となる化合物を非極性有機溶媒に分散あるいは溶解させ、次いで極性有機溶媒を加えて、固体電解質原料と2種の有機溶媒との混合液を得、この混合液を乾燥してLi2S-P2S5系硫化物固体電解質を得る方法が記載されている。特許文献2に記載の発明を発展させて、特許文献1に記載の発明のように固体電解質の溶解・再析出させると、上記した課題を解決することも期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-191899号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0240838号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、固体電解質溶液の経時的な劣化、例えば溶質である固体電解質の分解が見られる。加えて、再析出後の固体電解質のリチウムイオン導電率は、本来Li2S-P2S5系硫化物固体電解質の有する導電率よりも一桁近く低下してしまう、という問題があった。そして、特許文献2に記載の有機溶媒を用いようとすると、同じ硫化物系固体電解質であっても、アルジロダイト型硫化物固体電解質においては固体電解質の溶解・再析出を阻害し、アルジロダイト型硫化物固体電解質の優れた特徴を発揮し得ないという問題があった。そのため、高いリチウムイオン導電率を有し、結晶構造等の物性を損なうことのない固体電解質を簡便に製造する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、特定の非プロトン性溶媒と、一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型固体電解質材料を溶解し、析出させることで、高いリチウムイオン導電率を有し、結晶構造等の物性を損なうことのない固体電解質を簡便に製造することができることを見いだし、本発明に到った。
かくして、本発明によれば、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)とを含む、固体電解質前駆液が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、a1) 少なくとも1種の一級アルコール中にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させ、次いで、得られた前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料のアルコール溶液にC6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒を添加する工程、又はa2) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させる工程を含む、固体電解質前駆液の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)と、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒とを含む固体電解質前駆液を作製する工程と、固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる析出工程を含む、固体電解質の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、i) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒に、混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を含む固体電解質前駆液を基体に含浸させる含浸工程と、ii) 混合溶媒を留去して、基体に前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を析出させる析出工程とを含む、固体電解質層を有する基体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高いリチウムイオン導電率を有し、結晶構造等の物性を損なうことのない固体電解質を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1~4の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例5~8の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図3】実施例9~11の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図4】比較例1~4の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図5】比較例5~8の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図6】比較例9~13の固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る固体電解質前駆液、固体電解質前駆液の製造方法、固体電解質の製造方法及び固体電解質層を有する基体の製造方法について説明する。
本明細書において、「a~b」(a,bは具体的値)は、特に断らない限りa以上b以下を意味する。
【0012】
<固体電解質前駆液>
固体電解質前駆液は、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、この混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)とを含む。
【0013】
(1) 固体電解質材料
本発明の混合溶媒に含まれるアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)(以下、単にアルジロダイト型固体電解質材料ともいう)は、アルジロダイト型の結晶構造を有し、Li、P、S及びX(Xはハロゲン)の元素を含む。ハロゲンの種類は、アルジロダイト型の結晶構造を形成し得るものであれば特に限定されないが、Cl又はBrであることが好ましい。ハロゲンがCl又はBrであれば、後述する固体電解質前駆液を用いた固体電解質を製造する場合に、より高いリチウムイオン導電率を有する固体電解質材料とすることができる。ハロゲンは1種のみ含まれていてもよいし、複数種の元素が含まれていてもよい。
【0014】
具体的な実施形態において、本発明のアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料は、下記式(I)で表すことができる。
Li7-yPS6-yXy (I)
(式中、XはF、Cl、Br及びIからなる群より選択される1以上のハロゲンであり、yは0<y≦2を満たす)
上記式(I)において、yが0<y≦2であることで、アルジロダイト型の結晶構造を有する高リチウムイオン伝導型固体電解質材料とすることができる。yは、0<y≦1.8であってもよいし、0<y≦1.5であってもよいし、0<y≦1.0であってもよい。
【0015】
具体的なアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料としては、例えばLi6PS5Br、Li6PS5Clが挙げられる。
【0016】
アルジロダイト型固体電解質材料は、固体電解質材料の原料となる化合物を用いて合成され得る。原料としては、アルジロダイト型固体電解質を合成し得る単体、化合物等であれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、Li2S、P2S5、LiF、LiCl、LiBr、LiI等が挙げられる。
【0017】
アルジロダイト型固体電解質材料の合成方法は特に限定されない。例えば、固相法、液相法のいずれの方法で合成したものでも用いることができる。市販のアルジロダイト型固体電解質材料を用いてもよい。具体的なアルジロダイト型固体電解質材料の合成としては、例えば、上述した材料をボールミルで粉砕混合後、加熱焼成することで合成することができる。
【0018】
(2) 混合溶媒
アルジロダイト型固体電解質材料を溶解する溶媒として、非プロトン性溶媒と、一級アルコールとを混合した混合溶媒を用いる。非プロトン性溶媒や一級アルコールは、それぞれ1種であってもよいし、複数種含まれていてもよい。
【0019】
一級アルコールは、アルジロダイト型固体電解質材料に対して良溶媒である。ここで、良溶媒とは、溶質に対して溶解度の高い溶媒を指す。すなわち、アルジロダイト型固体電解質材料は一級アルコールによく溶ける。一方、貧溶媒とは、溶質に対して溶解度の低い溶媒を指す。アルジロダイト型固体電解質材料に対して良溶媒である一級アルコールを用いることにより、アルジロダイト型固体電解質材料を効率的且つ確実に溶解することができる。
【0020】
一級アルコールとしては特に限定されないが、炭素数がC1~C4の一級アルコールは、アルジロダイト型固体電解質材料の溶解度が高いため好ましい。具体的な一級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール等が挙げられ、エタノールであることが好ましい。エタノールは、メタノール、2-プロパノール、ブタノール等に比べて、よりアルジロダイト型固体電解質材料の溶解度が高いため、短時間でアルジロダイト型固体電解質材料を溶解することができる。
【0021】
本発明において、非プロトン性溶媒とは、イオン化するプロトンがない溶媒をいう。非プロトン性溶媒は極性非プロトン性溶媒と非極性非プロトン性溶媒とに分けられるが、極性非プロトン性溶媒及び非極性非プロトン性溶媒のいずれも本発明の非プロトン性溶媒として用いることができる。非プロトン性溶媒を用いることにより、固体電解質前駆液の経時的な劣化を防ぐことができる。言い換えると、溶解しているアルジロダイト型固体電解質の分解を防ぎ、後述するアルジロダイト型固体電解質の再析出の際の副相(不純物相)の生成を抑制することができる。
【0022】
非プロトン性溶媒としては、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種である。非プロトン性溶媒は、1種の溶媒を用いてもよいし、複数のC6~C8鎖状アルカン同士、C3~C10鎖状エーテル同士、若しくはC2~C4鎖状ケトン同士を組み合わせて用いてもよいし、異なる溶媒種を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
C6~C8鎖状アルカンとしては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンが挙げられる。これらのいずれも本発明に係る固体電解質前駆液の非プロトン性溶媒として用いることができる。C6~C8鎖状アルカンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。C6~C8鎖状アルカンを用いることにより、固体電解質前駆液の経時的な劣化を防ぐことができる。言い換えると、アルジロダイト型固体電解質の分解を抑制することができる。そして、本発明に係るアルジロダイト型固体電解質の製造においても、アルジロダイト型結晶相以外の副相の析出を抑制することができる。
【0024】
C6~C8の鎖状アルカンとしては、少なくともヘプタンを用いることが好ましい。例えば、ヘプタンと、C1~C4アルコールとしてエタノールとを組み合わせた場合、結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質とすることができて、且つより高いリチウムイオン導電率を有する固体電解質を得ることができる。
【0025】
C3~C10の鎖状エーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル(DME、1,2-ジメトキシエタン)、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル(メトキシエタン)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)等が挙げられる。これらのいずれも本発明に係る固体電解質前駆液の非プロトン性溶媒として用いることができる。C3~C10鎖状エーテルは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。C3~C10鎖状エーテルを用いることにより、固体電解質前駆液の経時的な劣化を防ぐことができる。言い換えると、アルジロダイト型固体電解質の分解を抑制することができる。そして、本発明に係るアルジロダイト型固体電解質の製造においても、アルジロダイト型結晶相以外の副相の析出を抑制することができる。
【0026】
C3~C10鎖状エーテルとしては、少なくともエチレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。例えば、エチレングリコールジメチルエーテルと、C1~C4アルコールとしてエタノールとを組み合わせた場合、結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質とすることができて、且つより高いリチウムイオン導電率を有する固体電解質を得ることができる。
【0027】
C2~C4の鎖状ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。これらのいずれも本発明に係る固体電解質前駆液の非プロトン性溶媒として用いることができる。C2~C4の鎖状ケトンは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。C2~C4鎖状ケトンを用いることにより、固体電解質前駆液の経時的な劣化を防ぐことができる。言い換えると、アルジロダイト型固体電解質の分解を抑制することができる。そして、本発明に係るアルジロダイト型固体電解質の製造においても、アルジロダイト型結晶相以外の副相の析出を抑制することができる。
【0028】
C2~C4の鎖状ケトンとしては、少なくともアセトンを用いることが好ましい。例えば、アセトンと、C1~C4アルコールとしてエタノールとを組み合わせた場合、結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質とすることができて、且つより高いリチウムイオン導電率を有する固体電解質材料を得ることができる。
【0029】
非プロトン性溶媒は、本発明で用いるアルジロダイト型固体電解質材料に対して貧溶媒である。アルジロダイト型固体電解質材料に対して良溶媒である一級アルコールを、アルジロダイト型固体電解質に対して貧溶媒である非プロトン性溶媒とともに用いることにより、アルジロダイト型固体電解質が均質に溶解した固体電解質前駆液を得ることができる。
【0030】
ここで、固体電解質前駆液中のアルジロダイト型固体電解質(溶質)の存在状態について説明する。良溶媒である一級アルコールにアルジロダイト型固体電解質が溶解すると、PS4
3-、S2-、Li+、X-(XはF、Cl、Br、I)のような状態でイオンが存在する。この状態で、更に貧溶媒である非プロトン性溶媒が存在することにより、上記したイオンの構造を変化させずに安定化して維持することができる。つまり、それぞれのイオンの状態が保たれることにより、固体電解質前駆液からアルジロダイト型固体電解質を再析出させた際に、アルジロダイト型の結晶構造を損なうことのない固体電解質を得ることができる。
【0031】
上述した一級アルコールと、非プロトン性溶媒との組み合わせは特に限定されない。例えば、炭素数がC1~C4である一級アルコールと、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル若しくはC2~C4鎖状ケトンのいずれの組み合わせであってもよい。
【0032】
一級アルコールと非プロトン性溶媒の沸点を考慮してそれぞれの溶媒を選択し混合溶媒としてもよい。炭素数がC1~C4である一級アルコールを用いる場合、非プロトン性溶媒の沸点はC1~C4アルコールの沸点に対して-30℃~+200℃であることが好ましく、-25℃~+100℃であることがより好ましく、-20℃~+20℃であることがより好ましい。上記温度範囲の沸点を有する非プロトン性溶媒を選択することにより、後述するアルジロダイト型固体電解質の再析出、即ち固体電解質前駆液を用いたアルジロダイト型固体電解質の製造において、効率的に高い結晶性を有し粒子径の揃ったアルジロダイト型固体電解質を得ることができる。更に、非プロトン性溶媒の沸点がC1~C4アルコールの沸点に対して-20℃~+20℃であると、より効率的にアルジロダイト型固体電解質を得ることができるとともに、高いリチウムイオン導電率を発現可能なものとすることができる。例えば、エタノール(C1~C4アルコール)の沸点は78℃であり、ヘプタン(鎖状アルカン)の沸点はエタノールの沸点の+20℃の98℃であり、DME(鎖状エーテル)の沸点はエタノールの沸点の+7℃の85℃であり、アセトン(鎖状ケトン)の沸点はエタノールの沸点の-18℃の56℃であるため、エタノールと上記溶媒との組み合わせはC1~C4アルコールの沸点に対して-20℃~+20℃の範囲内にある。
【0033】
少なくとも1種の一級アルコールと、少なくとも1種の非プロトン性溶媒との混合比は特に限定されないが、重量比(以下の混合比の記載は全て重量比である)で一級アルコール:非プロトン性溶媒=1:0.5~1:10であることが好ましく、1:1~1:5であることがより好ましく、1:3~1:5であることがより好ましく、1:5であることがより好ましい。
このような混合比で一級アルコールと非プロトン性溶媒とを混合することにより、アルジロダイト型固体電解質材料を均質に溶解した固体電解質前駆液とすることができる。また、アルジロダイト型固体電解質材料の経時的な分解を抑制することができるとともに、後述する固体電解質の製造(再析出)においても、アルジロダイト型結晶相以外の副相の析出を抑制することができる。このため、高リチウムイオン導電率を有する固体電解質を得ることができる。
【0034】
非プロトン性溶媒の沸点が、一級アルコールの沸点よりも低い場合には、一級アルコールと非プロトン性溶媒との混合比は1:1~1:5であることが好ましく、1:3~1:5であることがより好ましく、1:5であることがより好ましい。非プロトン性溶媒の量を一級アルコールよりも多くすることにより、非プロトン性溶媒を留去するために時間を要することとなり、一級アルコールが先に留去されて該アルコールが枯渇することがない。つまり、貧溶媒である非プロトン性溶媒が先に留去されてしまうと、固体電解質前駆液中で上記したようなイオンの状態を維持することができない。良溶媒である一級アルコールが残存すると、一級アルコールの構成元素の一つである酸素と、アルジロダイト型固体電解質の構成元素の一つである硫黄との交換反応が生じる。この交換反応により酸化物系の不純物が生成される。そうすると、高結晶性のアルジロダイト型固体電解質を得ることができない。これは、高リチウムイオン導電率の発現を阻害する副相の生成につながることとなり好ましくない。
【0035】
また、非プロトン性溶媒の沸点が、一級アルコールの沸点と同程度又は高い場合にも、一級アルコールと非プロトン性溶媒との混合比は1:1~1:5であることが好ましく、1:3~1:5であることがより好ましく、1:5であることがより好ましい。上記した非プロトン性溶媒の沸点が一級アルコールの沸点よりも低い場合に比べて非プロトン性溶媒を留去するために、より時間を要することとなる。混合溶媒全体を留去する時間が長くなることにより、固体電解質前駆液からのアルジロダイト型固体電解質の再析出に時間を要することとなる。これにより、高いリチウムイオン導電率を有するアルジロダイト型固体電解質とすることができる。
【0036】
非プロトン性溶媒と一級アルコールとを含む混合溶媒中のアルジロダイト型固体電解質材料の量、即ち濃度は特に限定されず、適宜設定し得る。アルジロダイト型固体電解質材料の量は、混合溶媒に対して1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、1重量%以上10重量%以下であることがより好ましく、1重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。本発明では、混合溶媒を構成する溶媒として、少なくとも1種の良溶媒である一級アルコールを用いる。このため、アルジロダイト型固体電解質材料をより高濃度で含む固体電解質前駆液とすることができる。ただし、上記した濃度(量)とすることが好ましい。上記の濃度にすることにより、アルジロダイト型固体電解質材料がより均質に溶解した固体電解質前駆液とすることができる。また、濃度調整が容易にできる範囲であるとともに、組成ずれを生じる可能性が少なくなるという利点も有する。1重量%未満であると、固体電解質前駆液から固体電解質材料を再析出させた際に所望の組成のアルジロダイト型固体電解質材料を得ることができないおそれがある。また、20重量%を超えると、再析出後に大量の固体電解質材料を得ることが期待できるが、均質な状態の固体電解質前駆液の状態を維持することが困難となり好ましくない。更に、再析出に長時間を要することとなり、その過程で不純物相が生成される可能性がある。
【0037】
固体電解質前駆液には、上記溶媒以外の溶媒が含まれていてもよい。例えば、2-ブタノール等の2級アルコール、tert-ブチルアルコール等の3級アルコール、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、シクロヘキサノン等の環状ケトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル、ホルムアミド、アセトアミド等のアミド、アニソール、エチレンジアミン等が挙げられる。これらの溶媒は、混合溶媒の10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、混合溶媒に含まれないことがより好ましい。
【0038】
固体電解質前駆液には、必要に応じて、結着材が含まれていてもよい。
結着材としては、上述した混合溶媒に溶解できるのであれば特に限定されるものではなく、電池材料に通常使用できるものを使用し得る。結着材は、1種類の結着材であってもよいし、複数の結着材の組み合わせであってもよい。
固体電解質前駆液中の結着剤の含有量は、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。
【0039】
<固体電解質前駆液の製造方法>
本発明に係る固体電解質前駆液の製造方法は、上記した本発明に係る固体電解質前駆液を製造することができれば特に限定されないが、少なくとも1種の一級アルコール中にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を溶解させ、次いで、得られたアルジロダイト型固体電解質材料のアルコール溶液にC6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒を添加する工程を含む(方法a1と称す)、又は、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を溶解させる工程を含む(方法a2と称す)。アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料、一級アルコール及び非プロトン性溶媒については上述の通りである。
【0040】
また、本発明に係る固体電解質前駆液の製造方法は、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒中にアルジロダイト型固体電解質材料を添加し、次いで、得られたアルジロダイト型固体電解質材料を含む非プロトン性溶媒に少なくとも1種の一級アルコールを添加する工程であってもよい。
【0041】
更に、本発明に係る固体電解質前駆液の製造方法は、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒を調製する工程と、調製した混合溶媒をアルジロダイト型固体電解質材料に加えてアルジロダイト型固体電解質材料を溶解する工程を含むものであってもよい。アルジロダイト型固体電解質材料に溶媒を加える方法としては、例えばアルジロダイト型固体電解質材料に溶媒を滴下することが挙げられる。滴下する溶媒は、上記混合溶媒であってもよいし、一級アルコール又は非プロトン性溶媒をそれぞれ別個に添加してもよい。溶媒をそれぞれ別個に添加する場合は、アルジロダイト型固体電解質材料を効率的に溶解することができるため、一級アルコールを先に添加することが好ましい。
【0042】
本発明においては、以下に詳述する方法を採用することが好ましい。以下の方法により、固体電解質材料を効率的に溶解することができるとともに、経時的な劣化の少ない固体電解質前駆液を提供することができる。
【0043】
<固体電解質前駆液の製造方法:方法a1について>
まず、一級アルコール中にアルジロダイト型固体電解質材料を溶解させる。上述のように、一級アルコールはアルジロダイト型固体電解質材料に対して良溶媒である。このため、効率的にアルジロダイト型固体電解質材料を溶解することができて、簡便にアルジロダイト型固体電解質材料のアルコール溶液を得ることができる。
次いで、得られたアルジロダイト型固体電解質材料のアルコール溶液に、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒を添加する。上述のように、非プロトン性溶媒は、アルジロダイト型固体電解質材料に対して貧溶媒である。非プロトン性溶媒を添加することにより、アルコール溶液に溶解しているアルジロダイト型固体電解質材料が分解する等の経時的な劣化を抑制することができる。
【0044】
<固体電解質前駆液の製造方法:方法a2について>
まず、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを混合し、これらの溶媒を含む混合溶媒を作製する。先に混合溶媒を作製することにより、アルジロダイト型固体電解質材料を溶解させる際の濃度調整が容易となる。次いで、得られた混合溶媒にアルジロダイト型固体電解質材料を添加して溶解させる。これにより、アルジロダイト型固体電解質材料の分解を防ぎつつ混合溶媒に溶解することができる。
【0045】
アルジロダイト型固体電解質材料を溶媒に溶解させる方法は、均質な固体電解質前駆液を得ることができれば特に限定されない。例えば、上記混合溶媒にアルジロダイト型固体電解質材料を加えた後、混合溶媒とアルジロダイト型固体電解質材料とを撹拌することによって行うことができる。撹拌方法としては、例えば、撹拌棒等を用いて手動で行うことや、磁気撹拌機やミックスローター等の撹拌機を使用することなどが挙げられる。
【0046】
アルジロダイト型固体電解質材料の溶解時間は特に制限されず、アルジロダイト型固体電解質材料の濃度により適宜設定することができる。例えば、混合溶媒とアルジロダイト型固体電解質材料との懸濁液を0.1~12時間の間の時間撹拌してもよいが、少なくとも1時間熱処理をすることが好ましい。これにより、より結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質材料とすることができる。アルジロダイト型固体電解質材料が完全に溶解すると透明な溶液となる。透明な溶液が得られた時点で、溶解操作を終了してもよい。
【0047】
固体電解質材料を溶媒に溶解させる際は、室温で溶解させることが好ましい。固体電解質材料を含む溶媒を加熱することで、短時間で固体電解質前駆液を得ることができる。しかし、溶媒が蒸発するなどして均質な状態の固体電解質前駆液を得ることができないため好ましくない。仮に、溶媒又は混合溶媒を構成する各種溶媒の沸点未満で加熱したとしても、撹拌により溶媒の蒸発が促進されて固体電解質前駆液を所定の濃度とすることができない。また、混合溶媒の場合は混合比が変化等して、この場合も所定の濃度とすることができない。
【0048】
<固体電解質前駆液を用いた固体電解質の製造方法>
本発明に係る固体電解質前駆液を用いた固体電解質の製造方法は、固体電解質前駆液を作製する工程と、固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる析出工程を含む。
固体電解質前駆液は上述の通りであり、固体電解質前駆液を作製する工程は、上述した固体電解質前駆液の製造方法を採用することができる。以下に固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる析出工程(以下、析出工程と称する場合がある)について詳述する。
【0049】
固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる方法としては、固体電解質前駆液を構成する混合溶媒を留去することができれば特に限定されない。混合溶媒を留去する方法としては、例えば、自然乾燥による留去、減圧下による留去、熱処理による留去等が挙げられる。このうち、加熱処理が好ましい。熱処理することにより、混合溶媒を確実に系外に留去することができて、固体電解質を容易に析出させることができる。これらの方法は、単体で行ってもよいし、組み合わせて行ってもよい。
【0050】
熱処理する際の温度は、特に限定されず、混合溶媒に含まれる溶媒種によって適宜設定されうる。溶媒種の沸点を考慮して、沸点以上の温度で固体電解質前駆液を加熱することが好ましい。熱処理は、80~600℃の範囲の温度で熱処理することが好ましい。この温度範囲で熱処理することにより、C1~C4の一級アルコールや、非プロトン性溶媒であるC6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンを留去することができる。熱処理温度は、80~300℃の範囲の温度であってもよいし、100~250℃の範囲の温度であってもよいし、120~200℃の範囲の温度であってもよいし、300~600℃の範囲の温度であってもよいし、400~600℃の範囲の温度であってもよいし、400~550℃の範囲の温度であってもよい。熱処理温度が80℃未満であると、溶媒の留去に時間を要し、アルジロダイト型固体電解質材料の他に副相が多く生成する可能性がある。また、固体電解質材料の粒子の凝集を招く可能性がある。一方、600℃を超える温度であると、短時間で溶媒を留去することができる。しかし、溶媒が突沸するおそれがある。このため、組成ずれ等が生じて所望の組成のアルジロダイト型固体電解質材料を得られないこととなる。なお、本発明において、熱処理温度とは、加熱装置の温度のことを指す。
【0051】
析出工程は、一度に行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。複数回行う場合は、溶媒の留去方法が同じでもよいし、それぞれ異なっていてもよい。特に、析出工程を少なくとも2段階に分けて行うことが好ましい。即ち、析出工程は、80~300℃の温度で熱処理する第1析出工程と、次いで、第1析出工程よりも高い温度である300~600℃の温度で熱処理する第2析出工程とを含むことが好ましい。固体電解質材料は、溶媒が留去された後に析出(結晶化)する。このため、溶媒を留去するために熱処理する第1析出工程と、溶媒の留去後に固体電解質材料を析出させて結晶化するために熱処理する第2析出工程を含むことが好ましい。
【0052】
80~300℃の温度で固体電解質前駆液を熱処理する第1析出工程を含むことにより、固体電解質前駆液を構成する混合溶媒を確実に留去することができる。第1析出工程の熱処理温度は、混合溶媒に含まれる溶媒のうち最も沸点の低い溶媒よりも高い温度に設定することが好ましい。熱処理温度を、最も沸点の低い溶媒よりも高い温度に設定することにより、短時間で効率的に溶媒を留去することができる。更に、後述する第2析出工程において、固体電解質の粒子の凝集を防ぐとともに粒子径の揃ったものとすることができる。第1析出工程の熱処理温度は、混合溶媒を構成する一級アルコールと非プロトン性溶媒の溶媒種を勘案して適宜設定することができる。本発明においては、100~250℃の範囲の温度から選択されるのが好ましく、120~200℃の範囲の温度から選択されるのがより好ましい。このような温度範囲で熱処理することにより、効率的且つ確実に溶媒を留去することができる。
【0053】
本発明においては、混合溶媒に含まれる溶媒の内、最も低い沸点よりも数℃~100℃程度高い温度で熱処理をすることが好ましい。混合溶媒に含まれる溶媒の内、最も低い沸点よりも低い温度であると溶媒の留去に時間を要し、後述する第2析出工程での結晶化の過程で、析出する固体電解質の粒子の凝集を招く可能性がある。一方、最も低い沸点よりも100℃かこれを大きく超える温度であると、突沸するおそれがあるため好ましくない。そして、突沸することにより、組成ずれ等が生じて所望の組成のアルジロダイト型固体電解質を得られない可能性がある。また、固体電解質の粒子の凝集を招く可能性がある。
【0054】
第1析出工程において、固体電解質前駆液を熱処理する方法としては、溶媒を留去できれば特に限定されない。例えば、固体電解質前駆液を蓋等のない容器に収容し、ホットプレートや電気炉等の加熱装置を用いて熱処理を行うことが挙げられる。開放系で熱処理を行うことにより、溶媒の蒸発(留去)を阻害することがない。
【0055】
第1析出工程に次いで、第1析出工程よりも高い温度である200~600℃の温度で熱処理する第2析出工程を含むことにより、粒子径の揃った結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質を得ることができる。第2析出工程の熱処理温度は、第1析出工程よりも高い温度且つ200~600℃の範囲であれば特に限定されない。例えば、第1析出工程において150℃で熱処理し、第2析出工程では400℃で熱処理する、又は第1析出工程において200℃で熱処理し、第2析出工程では500℃で熱処理する等が挙げられる。しかし、本発明においてはこれらの組み合わせに限定されない。
【0056】
第2析出工程の熱処理温度は、400~600℃であることが好ましく、400~550℃であることがより好ましい。このような温度範囲で熱処理することにより、高い結晶性のアルジロダイト型固体電解質を得ることができる。また、第1析出工程において溶媒が留去されて第1析出工程よりも高い温度で熱処理するため、粒子径の揃ったものとすることができる。
【0057】
第1析出工程及び第2析出工程のいずれも、熱処理を行う加熱手段は特に限定されず、上述した加熱装置を用いることができる。例えば、第1析出工程は、ホットプレート等を用いて熱処理することができ、第2析出工程において電気炉等を用いて熱処理することができる。
【0058】
第1析出工程及び第2析出工程の各工程における熱処理の開始温度は特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、第1析出工程において150℃で熱処理する場合、加熱装置を予め150℃に加熱しておき、固体電解質前駆液が収容された容器を加熱装置に載置してもよい。あるいは、加熱装置の温度を上げる前に固体電解質前駆液が収容された容器を加熱装置に載置し、到達温度である150℃まで徐々に加熱してもよい。このうち、加熱装置を予め所定の熱処理温度に加熱しておき、固体電解質前駆液が収容された容器を加熱装置に載置することが好ましい。これにより、溶媒の突沸を防ぎつつ、短時間で溶媒を留去することができる。
熱処理時間は特に限定されず、適宜設定することができる。固体電解質前駆液に含まれる混合溶媒を留去できるまで熱処理をすることが好ましい。ここで、第1析出工程において混合溶媒が留去されたものを、固体電解質-前試料と呼ぶ。
【0059】
第2析出工程においても、例えば400℃で熱処理する場合、加熱装置を予め400℃に加熱しておき、混合溶媒が留去された固体電解質-前試料を加熱装置に設置することが好ましい。これにより、固体電解質-前試料からアルジロダイト型固体電解質を析出させて結晶性の高いものとすることができる。
【0060】
別の実施形態は、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、この混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)が溶解した固体電解質用前駆液から固体電解質を析出させる工程を含む、固体電解質の製造方法である。アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料、固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる工程については上述の通りである。
【0061】
<固体電解質層を有する基体の製造方法>
本発明に係る固体電解質層を有する基体の製造方法は、i) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒に、該混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を含む固体電解質前駆液を基体に含浸させる含浸工程と、ii) 前記混合溶媒を留去して、前記基体に前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質を析出させる析出工程とを含む。
【0062】
固体電解質前駆液は、上述した固体電解質前駆液を用いることができる。固体電解質前駆液は、上記工程i)の前に予め調製しておいたものを用いてもよいし、工程i)の前に固体電解質前駆液を製造する工程が含まれていてもよい。固体電解質前駆液は、上述した固体電解質前駆液の製造方法に記載の方法によって製造できる。
【0063】
固体電解質層が形成される基体は、固体電解質材料の層が形成し得るものであれば特に限定されない。例えば、繊維、繊維からなる膜、繊維シート、電極活物質粒子等を基体として好適に用いることができる。このうち、電極活物質粒子又は繊維シートを基体とすることが好ましい。電極活物質粒子を基体として用い、電極活物質粒子の表面に固体電解質層を形成することにより、リチウムイオンの伝導経路を有する粒子とすることができる。また、繊維シートを基体として該シートに固体電解質層を形成することにより、リチウムイオン伝導を可能とする繊維シート、言い換えると固体電解質の自立シートとすることができる。
【0064】
電極活物質粒子の電極活物質は、特に限定されず、正極活物質、負極活物質のいずれも基体として好適に用いることができる。
【0065】
粒子の形状は特に限定されない。粒子の形状としては、例えば、球状、板状、鱗片状、繊維状等が挙げられる。このうち、球状か略球状の粒子形状であることが好ましい。これら以外の形状でも基体となり得るが、球状又は略球状であると、容易に固体電解質の層を形成することができる。そして、粒子表面に均一な厚さの均質な固体電解質材料の層を形成することができる。ここで、本発明において粒子とは、一次粒子、又は一次粒子及び二次粒子を指す。
【0066】
[負極活物質]
負極活物質としては特に限定されず、任意の負極活物質が基体となり得る。負極活物質としては、例えば、炭素系材料、シリコン系材料、Li合金、Na合金、Li4/3Ti5/3O4、Li3V2(PO4)3又はSnO等の種々の遷移金属酸化物等が挙げられる。これらのうち、炭素系材料又はシリコン系材料であることが好ましい。炭素系負極活物質は、最も汎用性に富み、全固体リチウム電池への適用が容易であるため好ましい。シリコン系負極活物質は、大容量の全固体リチウム電池を構築できるため好ましい。
【0067】
炭素系負極活物質としては、例えば天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、カーボンブラック又はVGCF等が挙げられる。
シリコン系負極活物質としては、例えばSi単体、SiOx(x=1~2)、Si-Al系合金、Si-Sn系合金、Si-In系合金、Si-Ag系合金、Si-Pb系合金、Si-Sb系合金、Si-Bi系合金、Si-Mg系合金、Si-Ca系合金、Si-Ge系合金又はSi-Cu系合金等のSi合金等が挙げられる。
【0068】
[正極活物質]
正極活物質としては特に限定されず、任意の正極活物質が基体となり得る。正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO3、LiMnO2、Li2TiO3、LiFeO2、LiCrO2、Li2CuO2、LiCuO2、LiMoO2、Li2RuO3、Li3NbO4、LiMn2O4、Li2ZrO3、Li2ZnO2、LiPdO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、Li(Ni, Mn)O4、NaCoO2、NaMnO3、NaMnO2、NaNiO2、Na2TiO3、NaFeO2、NaCrO2、Na2CuO2、NaCuO2、NaMoO2、Na2RuO3、Na3NbO4、NaMn2O4、Na2ZrO3、Na2ZnO2、NaPdO2、LiVO2、Na(Ni, Co, Mn)O2、Na(Ni, Mn)O4、Li4Ti5O12、Li2NiMn3O8、Li2MnO3-Li(Ni, Co, Mn,)O2、FeS2、TiS2、Li7CuS4、Li5CuS3、Li3CuS2、MoSx (x≧2)、S、Li2S、TiSx、V2O5等が挙げられる。このうち、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等の層状酸化物正極活物質が最も汎用性に富み、全固体リチウム電池への適用が容易であるため好ましい。層状酸化物正極活物質はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2であることがより好ましい。
【0069】
本発明において、繊維シートとは、セルロース製の繊維を織る又は編むことにより布状としたものを指す。あるいは、セルロース製の繊維を織る等せずに集積して布状とした不織布を指す。繊維シートとしては特に限定されないが、セルロース製の不織布であることが好ましい。セルロース製の不織布を基体とすることにより、柔軟性に富み、且つ高いリチウムイオン導電率を発揮し得る固体電解質材料の自立シートとすることができる。
【0070】
工程i)には、固体電解質前駆液を基体に含浸させる含浸工程が含まれる。基体に固体電解質前駆液を含浸させる方法は特に限定されない。電極活物質粒子を基体とする場合は、例えば、電極活物質粒子を固体電解質前駆液中に添加、分散させて該前駆液を含浸させることができる。あるいは、電極活物質粒子を成型等して錠剤様(ペレット状)として成形体を形成して、該成形体に固体電解質前駆液を滴下したり、固体電解質前駆液に成形体を浸漬したりする等して、電極活物質粒子に固体電解質前駆液を含浸させることができる。
【0071】
繊維シートを基体とする場合は、例えば、繊維シートを固体電解質前駆液に浸漬して含浸させることができる。あるいは、繊維シートに固体電解質前駆液を滴下又は噴霧等して固体電解質前駆液を含浸させることができる。
【0072】
本発明では、上記工程ii)(析出工程)の後に、含浸工程及び析出工程を少なくとも1回繰り返す工程iii)を含んでもよい。少なくとも1回含浸及び析出工程を繰り返すことにより、基体に固体電解質の層を形成しつつ該固体電解質の物性を備えるものとすることができる。繰り返し回数は特に制限されない。例えば、1回繰り返してもよいし、2回以上繰り返してもよいが、繰り返し回数は2回以上5回以下とすることが好ましい。2回未満であっても、固体電解質の層を形成することはできるが、本発明で用いられるアルジロダイト型固体電解質の物性を十分に備えるものとすることができない。一方、5回を超えると、固体電解質の物性を十分に備える基体とすることができるが、固体電解質の層が保持されない虞があり好ましくない。つまり、形成される固体電解質の層が厚くなり過ぎる等して、該層が崩れる可能性がある。そうすると、基体自体の特徴、物性等が損なわれることとなる。例えば電極活物質粒子であると電池特性が低下したり、繊維シートであると柔軟性が損なわれたりする可能性がある。
【0073】
[実施形態1]
C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒と、
前記混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)とを含む、固体電解質前駆液。
【0074】
[実施形態2]
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、実施形態1に記載の固体電解質前駆液。
【0075】
[実施形態3]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、実施形態1又は2に記載の固体電解質前駆液。
【0076】
[実施形態4]
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態1~3のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液。
【0077】
[実施形態5]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態1~4のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液。
【0078】
[実施形態6]
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が、前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、実施形態1~5のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液。
【0079】
[実施形態7]
a1) 少なくとも1種の一級アルコール中にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させ、次いで、得られた前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料のアルコール溶液にC6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒を添加する工程、又は
a2) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を溶解させる工程、
を含む、固体電解質前駆液の製造方法。
【0080】
[実施形態8]
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、実施形態7に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【0081】
[実施形態9]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、実施形態7又は8に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【0082】
[実施形態10]
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態7~9のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【0083】
[実施形態11]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態7~10のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【0084】
[実施形態12]
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が、前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、実施形態7~11のいずれか1項に記載の固体電解質前駆液の製造方法。
【0085】
[実施形態13]
アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)と、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒とを含む固体電解質前駆液を作製する工程と、
前記固体電解質前駆液から固体電解質を析出させる析出工程を含む、固体電解質の製造方法。
【0086】
[実施形態14]
前記混合溶媒中の前記少なくとも1種の一級アルコールと前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒との重量比が1:0.5~1:10の範囲内にある、実施形態13に記載の固体電解質の製造方法。
【0087】
[実施形態15]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含む、実施形態13又は14に記載の固体電解質の製造方法。
【0088】
[実施形態16]
前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態13~15のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【0089】
[実施形態17]
前記少なくとも1種の一級アルコールがC1~C4アルコールを含み、前記少なくとも1種の非プロトン性溶媒がヘプタン、1,2-ジメトキシエタン及びアセトンからなる群より選択される1以上である、実施形態13~16のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【0090】
[実施形態18]
前記混合溶媒中の前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料の量が前記混合溶媒の1重量%以上20重量%以下である、実施形態13~17のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【0091】
[実施形態19]
前記析出工程が、80~600℃の温度で熱処理する工程を含む、実施形態13~18のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【0092】
[実施形態20]
前記析出工程が、80~300℃の温度で熱処理する第1工程と、
次いで前記第1工程よりも高い温度である300~600℃の温度で熱処理する第2工程とを含む、実施形態13~18のいずれか1項に記載の固体電解質の製造方法。
【0093】
[実施形態21]
i) C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒に、前記混合溶媒に溶解したアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料(Xはハロゲン)を含む固体電解質前駆液を基体に含浸させる含浸工程と、
ii) 前記混合溶媒を留去して、前記基体に前記アルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を析出させる析出工程と、
を含む、固体電解質層を有する基体の製造方法。
【0094】
[実施形態22]
前記工程ii)の後に、
iii) 前記含浸工程及び前記析出工程を少なくとも1回繰り返す工程、
を含む実施形態21に記載の固体電解質層を有する基体の製造方法。
【0095】
[実施形態23]
前記基体が電極活物質粒子又は繊維シートである、実施形態21又は22に記載の固体電解質層を有する基体の製造方法。
【実施例0096】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0097】
本発明に係る固体電解質前駆液を作製し、固体電解質材料の溶解性を評価した。次いで、作製した固体電解質前駆液を用いて固体電解質を析出させた。析出した固体電解質の結晶相を同定するためにX線回折測定を行った。また、析出後の固体電解質に対してインピーダンス測定を行い、導電率を算出した。
【0098】
<実施例1:固体電解質前駆液の作製1>
C1~C4一級アルコールであるエタノール(和光純薬製、超脱水品、品番050-08425)2.85gに、アルジロダイト型固体電解質材料(Li5.6PS4.6Cl1.4)0.3gを添加した。添加後、懸濁液を撹拌してアルジロダイト型固体電解質材料をエタノールに溶解し、アルジロダイト型固体電解質溶液を得た。
次いで、アルジロダイト型固体電解質溶液に、非プロトン性溶媒のC3~C10鎖状エーテルであるエチレングリコールジメチルエーテル(DME:キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-29385) 2.85gを加えて撹拌、混合した後に5分間静置し、実施例1の固体電解質前駆液を作製した。
なお、エタノールとDMEとの混合比は、重量比でエタノール:DME=1:1であり、エタノールとDMEの混合溶媒に溶解しているアルジロダイト型固体電解質の重量は混合溶媒に対し5重量%である。
【0099】
<実施例2:固体電解質前駆液の作製2>
非プロトン性溶媒として、DMEの代わりにC3~C10鎖状エーテルのジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム:キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-23662) 2.85gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の固体電解質前駆液を作製した。
【0100】
<実施例3:固体電解質前駆液の作製3>
非プロトン性溶媒として、DMEの代わりにC3~C10鎖状エーテルのトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム:キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-80212)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の固体電解質前駆液を作製した。
【0101】
<実施例4:固体電解質前駆液の作製2>
非プロトン性溶媒として、DMEの代わりにC3~C10鎖状エーテルのテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム:キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-76792)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の固体電解質前駆液を作製した。
【0102】
<実施例5:固体電解質前駆液の作製5>
非プロトン性溶媒として、DMEの代わりにC6~C8鎖状アルカンのヘプタン(和光純薬製、超脱水品、品番086-09265)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の固体電解質前駆液を作製した。
【0103】
<実施例6:固体電解質前駆液の作製6>
エタノールとDMEとの混合比を、重量比でエタノール:DME=1:5とすること以外は実施例1と同様にして、実施例6の固体電解質前駆液を作製した。
【0104】
<実施例7:固体電解質前駆液の作製7>
エタノールとジグライムとの混合比を、重量比でエタノール:ジグライム=1:5とすること以外は実施例2と同様にして、実施例7の固体電解質前駆液を作製した。
【0105】
<実施例8:固体電解質前駆液の作製8>
エタノールとトリグライムとの混合比を、重量比でエタノール:トリグライム=1:5とすること以外は実施例3と同様にして、実施例8の固体電解質前駆液を作製した。
【0106】
<実施例9:固体電解質前駆液の作製9>
エタノールとテトラグライムとの混合比を、重量比でエタノール:テトラグライム=1:5とすること以外は実施例4と同様にして、実施例9の固体電解質前駆液を作製した。
【0107】
<実施例10:固体電解質前駆液の作製10>
エタノールとヘプタンとの混合比を、重量比でエタノール:ヘプタン=1:5とすること以外は実施例5と同様にして、実施例10の固体電解質前駆液を作製した。
【0108】
<実施例11:固体電解質前駆液の作製11>
非プロトン性溶媒として、DMEの代わりにC2~C4鎖状ケトンのアセトン(和光純薬製、超脱水品、品番016-23465)を用い、エタノールとアセトンとの混合比を、重量比でエタノール:アセトン=1:5とすること以外は実施例1と同様にして、実施例11の固体電解質前駆液を作製した。
【0109】
上記実施例1~11に対する比較として、種々の固体電解質溶液、混合液を作製した。以下にその製法、組成について記載する。
【0110】
<比較例1:固体電解質溶液、懸濁液の作製1>
C1~C4一級アルコールであるエタノール2.7gに、実施例1で用いたものと同じアルジロダイト型固体電解質材料0.3gを添加した。添加後、懸濁液を撹拌してアルジロダイト型固体電解質材料をエタノールに溶解した。これを5分間静置し、比較例1の固体電解質溶液を得た。
【0111】
<比較例2:固体電解質溶液、懸濁液の作製2>
エタノールの代わりに、ブタノール(和光純薬製、超脱水品、品番020-13035)を用いたこと以外は比較例1と同様にして比較例2の固体電解質溶液を得た。
【0112】
<比較例3:固体電解質溶液、懸濁液の作製3>
エタノールの代わりに、酪酸ブチル(東京化成工業製、品番B0757、脱水済みのもの)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を比較例3の固体電解質懸濁液とした。
【0113】
<比較例4:固体電解質溶液、懸濁液の作製4>
エタノールの代わりに、ジメチルカーボネート(キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-24385)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例4の固体電解質懸濁液とした。
【0114】
<比較例5:固体電解質溶液、懸濁液の作製5>
エタノールの代わりに、ジエチルカーボネート(DEC、キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-23605)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例5の固体電解質懸濁液とした。
【0115】
<比較例6:固体電解質溶液、懸濁液の作製6>
エタノールの代わりに、テトラヒドロフラン(THF、和光純薬製、超脱水品、品番207-17905)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例6の固体電解質懸濁液とした。
【0116】
<比較例7:固体電解質溶液、懸濁液の作製7>
エタノールの代わりに、アニソール、和光純薬製、超脱水品、品番016-15895)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例7の固体電解質懸濁液とした。
【0117】
<比較例8:固体電解質溶液、懸濁液の作製8>
エタノールの代わりに、アセトニトリル(和光純薬製、超脱水品、品番010-22905)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例8の固体電解質懸濁液とした。
【0118】
<比較例9:固体電解質溶液、懸濁液の作製9>
エタノールの代わりに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、和光純薬製、超脱水品、品番045-32365)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例9の固体電解質懸濁液とした。
【0119】
<比較例10:固体電解質溶液、懸濁液の作製10>
エタノールの代わりに、N-メチル-2-ピロリドン(NMF、和光純薬製、超脱水品、品番131-17615)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例10の固体電解質懸濁液とした。
【0120】
<比較例11:固体電解質溶液、懸濁液の作製11>
エタノールの代わりに、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬製、超脱水品、品番040-32815)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例11の固体電解質懸濁液とした。
【0121】
<比較例12:固体電解質溶液、懸濁液の作製12>
エタノールの代わりに、スルホラン(SL、キシダ化学製、超脱水品、品番LBG-74315)を用い、比較例1と同様にアルジロダイト型固体電解質材料を添加した。添加後、懸濁液を撹拌し、5分間静置したが、アルジロダイト型固体電解質材料は溶媒に完全には溶解しなかった。この懸濁液を、比較例10の固体電解質懸濁液とした。
【0122】
<比較例13:固体電解質溶液、懸濁液の作製13>
C1~C4一級アルコールであるエタノール1.35gに、同じくC1~C4一級アルコールである2-プロパノール(和光純薬製、超脱水品、品番168-24855) 1.35gを混合して混合溶媒を調製した。混合比は重量比でエタノール:2-プロパノール=1:1である。この混合溶媒に、実施例1で用いたものと同じアルジロダイト型固体電解質材料 0.3gを添加した。添加後、懸濁液を撹拌してアルジロダイト型固体電解質材料を混合溶媒に溶解した。これにより、比較例13の固体電解質溶液を得た。なお、混合溶媒に溶解しているアルジロダイト型固体電解質は混合溶媒に対し10重量%である。
【0123】
<溶媒の留去・固体電解質の析出>
上述した実施例1~11の固体電解質前駆液、比較例1~13の固体電解質溶液、懸濁液から溶媒を以下の工程で留去して固体電解質を析出させた。
【0124】
(第1析出工程)
作製した実施例1~11の固体電解質前駆液、比較例1~13の固体電解質溶液を容器ごとホットプレートに載置した。ホットプレートの設定温度は150℃とし、予め加熱しておいた。この条件で実施例1~11の固体電解質前駆液、比較例1~13の固体電解質溶液を1時間加熱して溶媒を留去して固体電解質を析出させた(この析出物には、溶媒に溶解しなかった沈殿なども包含する)。この溶媒を留去して析出した析出物を固体電解質-前試料とよぶ。
【0125】
(第2析出工程)
溶媒を留去後の固体電解質-前試料を、予め500℃(比較例1~12は400℃)に加熱した電気炉に載置して1時間加熱して固体電解質を得た。この各固体電解質、又は溶媒留去前の固体電解質前駆液、溶液及び懸濁液を評価した。
【0126】
<固体電解質の溶解性の評価>
固体電解質を溶媒に添加して撹拌した後に固体電解質が完全に溶解して透明な溶液が得られ、且つ後述するX線回折測定により固体電解質材料の主相が観察された場合に、「可溶」と評価した。
対して、固体電解質が溶解せずに、静置すると沈殿物が観察された場合に、「不溶」と評価した。また、固体電解質が溶解せず、且つ析出後に後述するX線回折測定において不純物相が多く観察された場合には、「分解」と評価した。
【0127】
<X線回折測定>
析出後の固体電解質に対し、析出した結晶相の同定を行うためにX線回折測定を行った。X線回折装置としてはSmartlab (リガク製)を使用した。X線源としてCu-Kα線を用い、電圧45kV、電流200mA(管電圧、管電流の設定値)、10~80°(2θ/θ)、2°/minで測定を行った。
【0128】
<インピーダンス測定及び導電率の算出>
析出後の各固体電解質に対し、インピーダンス測定を行い、導電率を算出した。析出後の各固体電解質(この段階では各固体電解質は粉末状である)を、超硬合金製の錠剤成型器に入れ、油圧式の一軸プレス機を使用して360MPaの圧力で5分間プレスし、直径10mm、厚さ約1mmのペレットを作製した。
【0129】
インピーダンスアナライザーとしてはSI1260(ソーラトロン製)を使用し、室温下、周波数106~0.01Hzで交流インピーダンス測定を行った。ここで、室温とは、18~28℃の状態にある空間の温度を指す(以下同様)。得られたナイキストプロットから抵抗値(R)を読み取り、導電率(σ)を算出した。具体的には、ナイキストプロットの低周波側、拡散を示す直線を外挿し、X軸との交点を読み取り、抵抗値(Ω)とした。読み取った抵抗値を用いて下記(III)により導電率(σ/S cm-1)を算出した。
σ=(1/R)・(L/S) (S cm-1) (III)
(式中、σは導電率(S cm-1)、Rは抵抗値(Ω)、Sはペレットの表面積(0.785cm2)、Lはペレットの厚さ(cm)を指す)
【0130】
実施例1~11の溶解性及び導電率の結果を表1に、比較例1~13の溶解性及び導電率の結果を表2にそれぞれ示す。なお、比較例3及び7は導電率を算出することができなかったためNDとしている。
【0131】
【0132】
【0133】
実施例1~11のいずれにおいても、溶解性は「可溶」であった。目視観察によれば、溶液の色は透明であり、茶色を呈するものであった。沈殿等は見られず、実施例1~11では、混合溶媒にアルジロダイト型固体電解質が溶解していることが分かる。
対して、比較例1、2、13以外の比較例は「不溶」又は「分解」であった。比較例3~10はいずれも溶媒には溶けず、固体電解質が沈殿するか分散した状態のままであった。「分解」と評価した比較例11及び12は、固体電解質が沈殿してしまい、溶解には至らなかった。また、後述するX線回折測定の結果においてアルジロダイト型固体電解質の結晶相も見られたが、不純物相が多く観察されたことからも、固体電解質が分解したと判断した。
【0134】
実施例1~11のいずれにおいても、導電率は10-4 Scm-1台後半~10-3 Scm-1の高い値を示すものであることが分かる。なお、粉末状のアルジロダイト型固体電解質(固体電解質前駆液を介さない固体電解質材料)を圧粉成型し、導電率測定を行うと室温で約2×10-3 Scm-1の値を示す。表1に示す実施例1~11の固体電解質はいずれもこれに近い導電率を有しており、このことから、本発明の前駆体から製造された固体電解質はアルジロダイト型固体電解質の物性が略損なわれないことが示された。
また、一級アルコールと非プロトン性溶媒とを重量比1:5で混合した混合溶媒を用いた場合は、1:1で混合したものよりも高い導電率を示すことも分かった。特に、エタノールとDMEを1:5(重量比)で混合した混合溶媒を用い実施例5の固体で電解質材料は、最も高い導電率を示すことが示された。
アルジロダイト型固体電解質材料を溶解することが可能であった比較例1、2、13は、比較例の中では高い導電率を示すことが分かったが、表1に示す実施例の導電率よりは低かった。その他の比較例においては、実施例よりも1桁~3桁程度低い導電率であった。
【0135】
X線回折測定の結果を
図1~
図6に示す。図中、「★」はLiCl、「▲」はLi
2S、「△」はLi
3PO
4由来するピークを示す。これら以外の特に印の付していないピークはアルジロダイト型固体電解質に由来するピークを示す。
図1には実施例1~4の固体電解質の測定結果を、
図2には実施例5~8の固体電解質の測定結果を、
図3には実施例9~11の固体電解質の測定結果を、
図4には比較例1~4の固体電解質の測定結果を、
図5には比較例5~8の固体電解質の測定結果を、
図6には比較例9~13の固体電解質に対する測定結果をそれぞれ示す。
【0136】
図1~6より、いずれの実施例においても、結晶性の高いアルジロダイト型固体電解質が得られていることが分かる。なお、実施例1~11のX線回折測定の結果において、副相として上記したLiCl、Li
2S、Li
3PO
4も観察されるが、導電率の値からアルジロダイト型固体電解質の物性は略損なわれていないと考えられる。
一方、比較例においては、上述した副相が多く観察されるものが多い。また、高角度側にも副相が観察される比較例もあった。これらのことから、一級アルコールと非プロトン性溶媒との混合溶媒を用いずに前駆液を作製した場合は、アルジロダイト型固体電解質に由来する相が観察されるものの、副相が多く析出されることが示された。
【0137】
以上のことから、C6~C8鎖状アルカン、C3~C10鎖状エーテル及びC2~C4鎖状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種の非プロトン性溶媒と、少なくとも1種の一級アルコールとを含む混合溶媒にアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質材料を溶解して固体電解質前駆液を作製することで、加熱などの簡便な溶媒の留去手段で固体電解質が得られ、且つその固体電解質が優れた導電性を示すことが理解できる。
本発明に係る固体電解質前駆液及びその製造方法、該固体電解質前駆液を用いた固体電解質の製造方法及び固体電解質層を有する基体の製造方法は、高いリチウムイオン導電率や結晶構造等の物性を損なうことのないアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質前駆液を得ることができ、優れた特徴を有するアルジロダイト型Li-P-S-X系固体電解質を得ることができる。また、本発明に係る固体電解質層を有する基体の製造方法は、種々の形態に適用可能な基体を提供することができることから、全固体リチウム電池の小型化等に極めて有用である。