(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067677
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ポリアセタール共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 2/10 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
C08G2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177930
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】増田 栄次
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032AA05
4J032AA34
4J032AB06
4J032AD51
(57)【要約】
【課題】ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、優れた外観を有する成形品を製造可能なポリアセタール共重合体を、大量生産においても安定して生産することができる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリアセタール共重合体の製造方法は、重合触媒存在下で、トリオキサンと、前記トリオキサンと共重合可能なコモノマーとを、共重合させるポリアセタール共重合体の製造方法である。前記重合触媒は、ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B)であり、前記ヘテロポリ酸(A)および前記ヘテロポリ酸塩(B)は混合して使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合触媒存在下で、トリオキサンと、前記トリオキサンと共重合可能なコモノマーとを、共重合させるポリアセタール共重合体の製造方法であって、
前記重合触媒は、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸(A)および下記一般式(2)で表されるヘテロポリ酸塩(B)であり、
前記ヘテロポリ酸(A)および前記ヘテロポリ酸塩(B)は混合して使用される、
ポリアセタール共重合体の製造方法。
【数1】
(式(1)、(2)中、Lはアルカリ金属元素であり、M
1およびN
1は、それぞれ独立して、PまたはSiの中心元素であり、M
2およびM
3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素であり、N
2およびN
3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素である。ただし、M
2とM
3、およびN
2とN
3の少なくとも一方は異なる配位元素からなる。ここで、pは1以上10以下の整数であり、qおよびrは正の整数であり、sは10以上100以下の整数であり、hは1以上の整数であり、iは0以上50以下の整数である。vは1以上10以下の整数であり、wおよびxは正の整数であり、yは10以上100以下の整数であり、jは1以上の整数であり、kは0以上50以下の整数である。ただし、M
2およびM
3が同じ配位元素の場合には、q+rは6以上40以下の整数であり、N
2およびN
3が同じ配位元素の場合には、w+xは6以上40以下の整数である。)
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸(A)に対する、前記ヘテロポリ酸塩(B)の質量比(B/A)は、0.2~10である、請求項1に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸(A)は、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸およびケイモリブドタングストバナジン酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸塩(B)は、リンタングステン酸リチウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸カリウム、ケイタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム、およびリンタングストバナジン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記コモノマーは、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサンおよびエチレンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法により製造される、ポリアセタール共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール共重合体の製造方法としては、カチオン重合触媒存在下、主モノマー(トリオキサン)と、上記主モノマーと共重合可能なコモノマーとを、カチオン重合させる方法が知られている。上記カチオン重合触媒としては、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモンなどのルイス酸およびそれらの錯化合物またはそれらの塩が広く一般に用いられている。
【0003】
しかしながら、三フッ化ホウ素などの重合触媒は、重合の際に比較的多量(例えば、全モノマーに対し40ppmまたはそれ以上)に添加することが必要である。そのため、製造工程において、重合後にポリアセタール共重合体中に残存した触媒を十分に失活させることが難しいという問題があった。また、触媒を失活化できたとしても、触媒由来の物質が共重合体中に残存することにより、共重合体の分解が促進されるなどの不具合が生じることもあった。さらに、触媒の失活工程は、トリエチルアミンなどの塩基性化合物を含む多量の水溶液(処理液)中で行うため、当該工程後に共重合体と処理液とを分離して乾燥させる工程、処理液中に溶解した未反応モノマーを回収する工程など、煩雑な工程がさらに必要であった。
【0004】
近年では、優れた熱安定性を有し、かつ、ホルムアルデヒド発生量が極めて少ない高品質のポリアセタール共重合体が求められている。そのため、効率的な触媒の失活化、および触媒失活後における粗ポリアセタール共重合体の不安定末端部の分解処理による安定化などの検討がされている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、所定のヘテロポリ酸を重合触媒として使用して共重合を行う工程と、得られた反応生成物に所定の塩またはその水和物を添加し、溶融混練処理して重合触媒を失活させる工程と、を有するポリアセタール共重合体の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、所定のヘテロポリ酸と所定のヘテロポリ酸金属塩とを混合した重合触媒を用いることで工業的生産においての重合の安定性が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-105278号公報
【特許文献2】特開2019-178187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によると、重合触媒として所定の高活性ヘテロポリ酸を用い、失活剤と共に溶融混練処理することにより、少量の触媒量で重合が可能となり、煩雑な工程を削減でき、ホルムアルデヒドの発生量も極めて少なく、高品質なポリアセタール共重合体を得ることができるとされている。しかしながら、少量の重合触媒でポリアセタール樹脂の生産量を増大させたところ、ポリアセタール共重合体の重合収率の低下や、ポリアセタール樹脂の品質にバラツキがみられるようになった。
【0008】
また、特許文献2によると、所定のヘテロポリ酸と所定のヘテロポリ酸金属塩とを混合した重合触媒を用いることにより、重合反応が安定化し、ホルムアルデヒドの発生量の低減による樹脂品質も良好にすることができるとされている。しかしながら、得られたポリアセタール樹脂からなる成形品の外観不良が発生することがあり、その改善が求められていた。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、優れた外観を有する成形品を製造可能なポリアセタール共重合体を、大量生産においても安定して生産することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の[1]~[6]に係る発明を完成させた。
【0011】
[1] 重合触媒存在下で、トリオキサンと、前記トリオキサンと共重合可能なコモノマーとを、共重合させるポリアセタール共重合体の製造方法であって、
前記重合触媒は、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸(A)および下記一般式(2)で表されるヘテロポリ酸塩(B)であり、
前記ヘテロポリ酸(A)および前記ヘテロポリ酸塩(B)は混合して使用される、
ポリアセタール共重合体の製造方法。
【0012】
【0013】
(式(1)、(2)中、Lはアルカリ金属元素であり、M1およびN1は、それぞれ独立して、PまたはSiの中心元素であり、M2およびM3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素であり、N2およびN3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素である。ただし、M2とM3、およびN2とN3の少なくとも一方は異なる配位元素からなる。ここで、pは1以上10以下の整数であり、qおよびrは正の整数であり、sは10以上100以下の整数であり、hは1以上の整数であり、iは0以上50以下の整数である。vは1以上10以下の整数であり、wおよびxは正の整数であり、yは10以上100以下の整数であり、jは1以上の整数であり、kは0以上50以下の整数である。ただし、M2およびM3が同じ配位元素の場合には、q+rは6以上40以下の整数であり、N2およびN3が同じ配位元素の場合には、w+xは6以上40以下の整数である。)
【0014】
[2] 前記ヘテロポリ酸(A)に対する、前記ヘテロポリ酸塩(B)の質量比(B/A)は、0.2~10である、前記[1]に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0015】
[3] 前記ヘテロポリ酸(A)は、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸およびケイモリブドタングストバナジン酸からなる群から選択される少なくとも一種である、前記[1]または[2]に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0016】
[4] 前記ヘテロポリ酸塩(B)は、リンタングステン酸リチウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸カリウム、ケイタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム、およびリンタングストバナジン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、前記[1]または[2]に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0017】
[5] 前記コモノマーは、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサンおよびエチレンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0018】
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により製造される、ポリアセタール共重合体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、優れた外観を有する成形品を製造可能なポリアセタール共重合体を、大量生産においても安定して生産することができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
1.ポリアセタール共重合体の製造方法
本発明のポリアセタール共重合体の製造方法は、重合触媒存在下で、トリオキサンと、上記トリオキサンと共重合可能なコモノマーとを、共重合させるポリアセタール共重合体の製造方法である。以下、各構成成分について説明する。
【0022】
(トリオキサン)
トリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体である。本発明において、上記トリオキサンは主モノマーとして用いられる。ここで、主モノマーとは、全モノマー中、単独で最も多く含まれているモノマーのことをいう。なお、トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。
【0023】
(コモノマー)
本発明におけるコモノマーは、上記トリオキサンと共重合するものであれば特に限定されない。上記コモノマーとしては、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテルおよび環状ホルマールからなる群から選択されることが好ましい。
【0024】
コモノマーの例には、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が含まれる。これらの中では、重合安定性の観点から、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキシドが好ましい。
【0025】
また、コモノマーとして、ブタンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテルやジホルマールのような2個の重合性環状エーテル基または環状ホルマール基を有する化合物、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の3個以上の重合性環状エーテル基または環状ホルマール基を有する化合物を用いることもできる。これらのコモノマーを用いることによって、分岐構造や架橋構造が形成されたポリアセタール共重合体を得ることができる。
【0026】
本発明において、コモノマーの含有量は、トリオキサン100質量部に対して0.01~20質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。コモノマーの含有量が、トリオキサン100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下であると、重合を安定的に進行させることができるとともに、ポリマー鎖の結晶化速度の低下や結晶化度の低下を抑制することもできる。
【0027】
(重合触媒)
本発明の重合触媒は、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸(A)および下記一般式(2)で表されるヘテロポリ酸塩(B)である。本発明においては、上記ヘテロポリ酸(A)および上記ヘテロポリ酸塩(B)は混合して使用される。
【0028】
【0029】
式(1)、(2)中、Lはアルカリ金属元素であり、アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、およびカリウムのいずれかであることが好ましい。M1およびN1は、それぞれ独立して、PまたはSiの中心元素であり、M2およびM3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素であり、N2およびN3は、互いに同じかまたは異なっていてもよいW、MoまたはVの配位元素である。ただし、M2とM3、およびN2とN3の少なくとも一方は異なる配位元素からなる。ここで、pは1以上10以下の整数である。qおよびrは正の整数である。sは10以上100以下の整数であり、30以上80以下の整数であることが好ましい。hは1以上の整数であり、1以上10以下であることが好ましい。iは0以上50以下の整数であり、30~50以下の整数であることが好ましい。また、vは1以上10以下の整数である。wおよびxは正の整数である。yは10以上100以下の整数であり、30以上80以下の整数であることが好ましい。jは1以上の整数であり、1以上10以下であることが好ましい。kは0以上50以下の整数であり、30以上50以下の整数であることが好ましい。ただし、M2およびM3が同じ配位元素の場合には、q+rは6以上40以下の整数であり、10以上20以下の整数であることが好ましい。また、N2およびN3が同じ配位元素の場合には、w+xは6以上40以下の整数であり、10以上20以下の整数であることが好ましい。
【0030】
上記ヘテロポリ酸(A)の例には、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングストバナジン酸等が含まれる。これらの中では、重合の安定性およびヘテロポリ酸自体の安定性の観点から、リンタングステン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、およびリンタングストバナジン酸であることが好ましく、リンタングストバナジン酸であることがより好ましい。
【0031】
本発明のヘテロポリ酸塩(B)は、溶媒への溶解性の観点から、アルカリ金属の塩であることが好ましい。このようなヘテロポリ酸塩(B)の例には、リンタングステン酸リチウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸カリウム、ケイタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸ナトリウム、ケイタングストバナジン酸ナトリウム等が含まれる。これらの中では、リンタングステン酸ナトリウム、ケイタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム、およびリンタングストバナジン酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
本発明において、ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B)は混合して使用することが好ましい。上記ヘテロポリ酸(A)および上記ヘテロポリ酸塩(B)の組み合わせの例には、リンタングストバナジン酸とリンタングステン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸とリンタングステン酸リチウム、リンタングストバナジン酸とリンタングステン酸カリウム、リンモリブドタングストバナジン酸とリンタングステン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸とケイタングステン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸とリンモリブデン酸ナトリウム、リンタングステン酸とリンタングストバナジン酸ナトリウムなどが含まれる。
【0033】
これらの中では、リンタングストバナジン酸とリンタングステン酸ナトリウム、リンモリブドタングストバナジン酸とリンタングステン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸とケイタングステン酸ナトリウム、リンタングストバナジン酸とリンモリブデン酸ナトリウム、リンタングステン酸とリンタングストバナジン酸ナトリウムが好ましい。
【0034】
上記ヘテロポリ酸(A)および上記ヘテロポリ酸塩(B)を混合して使用することにより、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、優れた外観を有する成形品を製造可能なポリアセタール共重合体を得ることができる。
【0035】
また、ヘテロポリ酸(A)に対する、ヘテロポリ酸塩(B)の質量比(B/A)は、0.2~10であることが好ましく、0.5~10であることがより好ましい。上記質量比(B/A)が0.2~10であると、成形時の流動性が良好になるとともに、成形品の外観も良好になる。
【0036】
本発明における上記重合触媒の含有量は、上述のモノマー(トリオキサンおよびコモノマー)の合計量に対し、0.05~100ppmであることが好ましく、0.1~50ppmであることがより好ましい。また、重合触媒の含有量は、その種類によって適宜変更してもよい。なお、「ppm」は「質量/質量ppm」を表す。
【0037】
また、重合触媒は、重合反応に対して不活性な溶媒(以下、「溶媒」ともいう)で希釈して使用することが好ましい。本発明では、上記溶媒で希釈した重合触媒の濃度は0.05~30質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。希釈した重合触媒の濃度が0.05~30質量%であると、重合触媒がモノマー中に十分に拡散できるので重合反応を均一に行うことができる。
【0038】
溶媒の例には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルケトンなどのケトン類が含まれる。これらの中では、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0039】
(その他の添加剤)
本発明では、上述の成分の他に、メチラール、ブチラールなどの重合度(分子量)を調節するための公知の連鎖移動剤、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトールテトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などのヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。
【0040】
(ポリアセタール共重合体の製造方法)
本発明のポリアセタール共重合体の製造方法は、上述の重合触媒(ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B))の存在下で、トリオキサンと、上述のコモノマーとを共重合させる方法である。
【0041】
本発明のポリアセタール共重合体の製造は、例えば、バッチ式、連続式などの公知の方法および重合装置を用いて行うことができる。
【0042】
上記重合装置において、バッチ式では、一般に用いられる撹拌機付きの反応槽などを使用することができる。また、連続式では、コニーダー、二軸スクリュー式連続押出混合機、二軸パドルスクリュー押出機型、ベント付き二軸押出機などを使用することができる。工業的に好ましい製造方法は連続式である。
【0043】
本発明のポリアセタール共重合体は、例えば、加熱用または冷却用の媒体を通すためのジャケットを有する連続二軸パドルスクリュー押出機型重合反応装置に、トリオキサンと、上述のコモノマー、任意の重合反応用の添加剤、重合触媒(ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B))とを含有する混合液を連続的に供給し、所定の時間重合させることで得られる。
【0044】
また、上記方法で得られたポリアセタール共重合体に、アルカリ金属化合物、四級アミン化合物、またはアミノ基を有するトリアジン化合物などの塩基性化合物を加えて、さらに溶融混練して触媒の失活処理等を施すことにより、所望するポリアセタール共重合体とすることができる。
【0045】
また、上記触媒の失活処理の際に、その他の重合体、その他の充填剤、窒素化合物、紫外線吸収剤等の安定剤、金属塩等の抗酸剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等のその他の成分も要求性能に応じて適宜添加してもよい。その他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明に係るポリアセタール共重合体の製造方法は、重合触媒として、ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B)を混合して用いることにより、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、優れた外観を有する成形品を製造可能なポリアセタール共重合体を、大量生産においても安定して生産することができる。
【0047】
2.ポリアセタール共重合体
本発明のポリアセタール共重合体は、本発明の製造方法により製造される共重合体である。すなわち、重合触媒(ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B))の存在下で、トリオキサンと、上述のコモノマーとを、共重合させてなるポリアセタール共重合体である。
【0048】
本発明に係る製造方法により得られるポリアセタール共重合体は、成形時の流動性に優れる。また、上記ポリアセタール共重合体により製造される成形品は、ホルムアルデヒドの発生量を低減でき、優れた外観を有する。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
1.ポリアセタール共重合体1~22の製造
[ポリアセタール共重合体1]
(重合装置)
重合装置としては、連続二軸パドルスクリュー押出機型(以下、「重合装置」ともいう)を用いた。上記押出機型は胴体部の外側に加熱用または冷却用の媒体を通すためのジャケットを備える。また、上記胴体部は上下分割構造であり、上部開放が可能な構造となっている。上記押出機型の内部には撹拌、推進用の多数のバドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。
【0051】
(製造方法)
80℃の媒体をジャケットに通じ加熱した重合装置に、単位時間当たり、100質量部のトリオキサン(TOX)と、4.0質量部の1,3-ジオキソラン(DO)と、所定量のメチラールと、を含有する混合液を連続的に供給するとともに、ヘテロポリ酸(A)として2.5ppmのリンタングストバナジン酸(A1)、およびヘテロポリ酸塩(B)として0.6ppmのリンタングステン酸ナトリウム(B1)の混合物をギ酸メチル溶液として添加し、重合反応を行った。
【0052】
上記重合装置の吐出口より得られた粗重合体に対して、0.1質量%のメラミンおよび0.3質量%のIRGANOX 1010(BASFジャパン製、「IRGANOX」はBASF社の登録商標)を添加し、連続的にベント付き二軸押出機を用いて、押出機のシリンダー温度220℃、ベント部の真空度が5mmHgの条件下で溶融混練して押し出し、ポリアセタール共重合体1のペレットを得た。
【0053】
なお、上記メチラールの添加量は、得られる共重合体のメルトフローレート(MFR)が9g/10分となるよう調整された量である。本発明において、「9g」とは、「9g±0.3」の範囲をいう。上記MFRは、ISO1133に準拠し、メルトインデクサ L220型(株式会社立山科学ハイテクノロジーズ製)を用いて、荷重2.16kg、温度190℃、吐出樹脂取得時間7分の条件で測定した。
【0054】
[ポリアセタール共重合体2~8]
表1に示すとおりに、ヘテロポリ酸(A)および/またはヘテロポリ酸塩(B)の添加量、および得られる共重合体のMFRが9g/10分になるように、メチラールの添加量を変更した以外は、ポリアセタール共重合体1と同様の製造方法により、ポリアセタール共重合体2~8のペレットを得た。
【0055】
[ポリアセタール共重合体9]
表1に示すとおりに、コモノマーの種類、およびヘテロポリ酸塩(B)の添加量、および得られる共重合体のMFRが9g/10分になるように、メチラールの添加量を変更した以外は、ポリアセタール共重合体1と同様の製造方法により、ポリアセタール共重合体9のペレットを得た。
【0056】
[ポリアセタール共重合体10~14]
表1に示すとおりに、ヘテロポリ酸塩(B)の種類、および得られる共重合体のMFRが9g/10分になるように、メチラールの添加量を変更した以外は、ポリアセタール共重合体1と同様の製造方法により、ポリアセタール共重合体10~14のペレットを得た。
【0057】
[ポリアセタール共重合体15~17、19、20]
表1に示すとおりに、ヘテロポリ酸塩(A)の種類、ヘテロポリ酸塩(B)の添加量、および得られる共重合体のMFRが9g/10分になるように、メチラールの添加量を変更した以外は、ポリアセタール共重合体1と同様の製造方法により、ポリアセタール共重合体15~17、19、20のペレットを得た。
【0058】
[ポリアセタール共重合体18]
表1に示すとおりに、ヘテロポリ酸塩(A)の種類、ヘテロポリ酸塩(B)の種類、および得られる共重合体のMFRが9g/10分になるように、メチラールの添加量を変更した以外は、ポリアセタール共重合体1と同様の製造方法により、ポリアセタール共重合体18のペレットを得た。
【0059】
[ポリアセタール共重合体21]
上述の重合装置に、単位時間当たり、100質量部のトリオキサン(TOX)と、4.0質量部の1,3-ジオキソラン(DO)と、所定量のメチラールと、を含有する混合液を連続的に供給するとともに、ヘテロポリ酸(A)として、3.3ppmのリンタングステン酸(A5)をギ酸メチル溶液として添加し、重合反応を行った。
【0060】
上記重合装置の吐出口より得られた粗重合体に対して、0.1質量%のメラミンおよび0.3質量%のIRGANOX 1010を添加し、連続的にベント付き二軸押出機を用いて、220℃、ベント部の真空度が5mmHgの条件下で溶融混練して押し出し、ポリアセタール共重合体21のペレットを得た。
【0061】
なお、上記メチラールの添加量は、ポリアセタール共重合体1と同様の方法で調整した量である。
【0062】
[ポリアセタール共重合体22]
上述の重合装置に、単位時間当たり、100質量部のトリオキサン(TOX)と、4.0質量部の1,3-ジオキソラン(DO)と、所定量のメチラールと、を含有する混合液を連続的に供給するとともに、30ppmの三フッ化ホウ素(C)を添加し、重合反応を行った。次いで、上記重合装置の吐出口より得られた粗重合体を、0.1%のトリエチルアミンを含む水溶液に加えて、重合反応を停止させた後、上記共重合体を乾燥させた。なお、本製造方法における三フッ化ホウ素(C)は、ジブチルエーテル錯体の0.3重量%シクロヘキサン溶液として添加した。
【0063】
乾燥させた上記共重合体に対して、0.1質量%のメラミンおよび0.3質量%のIRGANOX 1010を添加し、連続的にベント付き二軸押出機を用いて、220℃、ベント部の真空度が5mmHgの条件下で溶融混練して押し出し、ポリアセタール共重合体22のペレットを得た。
【0064】
なお、上記メチラールの添加量は、ポリアセタール共重合体1と同様の方法で調整した量である。
【0065】
上記製造方法に記載のヘテロポリ酸(A)、ヘテロポリ酸塩(B)およびルイス酸(C)は、表1に示す化合物である。
【0066】
2.評価
上記製造方法で得たポリアセタール共重合体1~22について、ポリアセタール共重合体の重合収率、上記ポリアセタール共重合体を用いた成形品の外観評価、ホルムアルデヒドの発生量、およびバーフロー(BF)評価について評価を行った。
【0067】
[ポリアセタール共重合体の重合収率]
(評価方法)
重合装置の吐出口から吐出された反応生成物を連続して一定時間採取し、それぞれ0.1%のトリエチルアミンを含む水溶液に加えた後、所定の時間撹拌し触媒の失活と未反応モノマー類の洗浄を行った。次いで、上記水溶液をろ過し、得られた粗重合体をアセトンで洗浄し、乾燥させた。乾燥させたポリアセタール共重合体の重量から全モノマーに対して得られた共重合体の割合であるポリアセタール共重合体収率を算出した。ポリアセタール共重合体の重合収率は、70%以上であることが実用上好ましい。
【0068】
[溶融体からのホルムアルデヒド発生量]
(評価方法)
5gのポリアセタール共重合体1~22をそれぞれ200℃に保ったシリンダーに充填して、5分間で溶融保持した後、上記ポリアセタール共重合体の溶融物をそれぞれ密閉容器内に押し出した。この密閉容器に窒素ガスを流し、出てきた窒素ガスに含まれるホルムアルデヒドを水に溶かして捕集した。この水中のホルムアルデヒド濃度をJIS K0102(2013)に準拠して測定することにより、上記溶融物からのホルムアルデヒドの質量を求めた。このホルムアルデヒドの質量を用いた上記ポリアセタール共重合体の質量で除してホルムアルデヒド発生量(単位 ppm)とした。本発明において、ホルムアルデヒド発生量は70ppm以下であることが実用上好ましい。
【0069】
[成形品外観評価]
(評価方法)
ポリアセタール共重合体1~22をそれぞれ成形機(FANUC製の射出成形機「S100iA(φ36)」、)を用いて、φ1.5mmのセンター1点ピンゲートの50角3t平板を以下の条件で射出成形した。その後、成形品のゲート付近でのフローマークの大きさを測定し、外観評価を5段階で評価した。
【0070】
(成形条件)
シリンダー温度(ノズルヘッドの温度:200℃)
金型温度:90℃
保圧:75MPa
射出時間:4.5秒
射出条件:計量位置:20mm、サックバック:5mm、V-P切り替え位置:8mm
【0071】
(評価)
5:フローマークの大きさが6mm未満である
4:フローマークの大きさが6mm以上8mm未満である
3:フローマークの大きさが8mm以上10mm未満である
2:フローマークの大きさが10mm以上12mm未満である
1:フローマークの大きさが12mm以上である
【0072】
[バーフロー評価]
(評価方法)
射出成形機(ES3000、日精樹脂工業株式会社製)を用いて、厚さが2mmtの評価用金型へ、ポリアセタール共重合体1~22をそれぞれ射出して流動長を測定した。各射出圧での流動長(単位はmm)から5段階で評価した。
【0073】
(成形条件)
シリンダー温度(ノズルヘッドの温度:195℃)
金型温度:80℃
射出速度:70mm/s
射出圧力:100MPa
【0074】
(評価)
5:射出圧100MPaの時の流動長が450mm以上である
4:射出圧100MPaの時の流動長が440mm以上450mm未満である
3:射出圧100MPaの時の流動長が430mm以上440mm未満である
2:射出圧100MPaの時の流動長が420mm以上430mm未満である
1:射出圧100MPaの時の流動長が420mm未満である
【0075】
[MFRの測定]
ポリアセタール共重合体1~22の製造において、得られる粗重合体の溶融時の流動性の指標であるMFRの値を以下のようにして求めた。
(測定方法)
株式会社立山科学ハイテクノロジーズ製のメルトインデクサ L220型を用いて、ISO1133に準拠した、荷重2.16kg、温度190℃、吐出樹脂取得時間7分の条件で測定した。
【0076】
ポリアセタール共重合体1~22の主たる構成成分および各評価結果を表1に示す。また、表1中の略語、ヘテロポリ酸(A)、ヘテロポリ酸塩(B)およびルイス酸(C)の名称は以下のとおりである。
【0077】
(主モノマー)
TOX:トリオキサン
(コモノマー)
DO :1,3-ジオキソラン
BDF:1,4-ブタンジオールホルマール
【0078】
[重合触媒]
(ヘテロポリ酸(A))
A1:H5PV2W10O40(リンタングストバナジン酸)
A2:H4PV1W11O40(リンタングストバナジン酸)
A3:H6PV3W9O40(リンタングストバナジン酸)
A4:H3PMo2W10O4(リンモリブドタングステン酸)
A5:H3PW12O40(リンタングステン酸)
【0079】
(ヘテロポリ酸塩(B))
B1:Na3PW12O40(リンタングステン酸ナトリウム)
B2:Li3PW12O40(リンタングステン酸リチウム)
B3:K3PW12O40(リンタングステン酸カリウム)
B4:NaSiW12O40(ケイタングステン酸ナトリウム)
B5:Na3PMo12O40(リンモリブデン酸ナトリウム)
B6:Na3PV2W10O40(リンタングストバナジン酸ナトリウム)
【0080】
(ルイス酸(C))
C:BF3(三フッ化ホウ素)
【0081】
(評価項目)
HCHO:ホルムアルデヒド
BF :バーフロー
【0082】
【0083】
表1から、重合触媒として、ヘテロポリ酸(A)およびヘテロポリ酸塩(B)を混合して使用することにより、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、大量生産においても、安定した重合収率および品質が得られる、ポリアセタール共重合体を製造できることがわかった。とくに、ヘテロポリ酸(A)としてH5PV2W10O40(リンタングストバナジン酸)、ヘテロポリ酸塩(B)としてNa3PW12O40(リンタングステン酸ナトリウム)を用いたときに、すべての評価項目において最も良好な結果が得られることがわかった。
本発明の方法を用いることにより、ホルムアルデヒドの発生量を低減できるだけでなく、成形時の流動性に優れ、成形品の外観性に優れたポリアセタール共重合体を、大量生産においても安定して生産することができることから、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。