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特開2024-67735熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置および測定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067735
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20240510BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240510BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01T3/00 G
G01T1/20 B
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178044
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】村田 勲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文信
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真悟
(72)【発明者】
【氏名】日下 祐江
【テーマコード(参考)】
2G188
4C082
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB09
2G188CC09
2G188CC13
2G188CC20
2G188DD09
4C082AC07
4C082AE01
4C082AP01
4C082AP03
(57)【要約】
【課題】熱外中性子の絶対強度を高い精度でリアルタイムに測定することができる熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定技術を提供する。
【解決手段】ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であって、熱外中性子を検出する中性子検出器の周りが、中性子吸収体により覆われており、中性子吸収体が、熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布を持ち、熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されている熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であって、
前記熱外中性子を検出する中性子検出器の周りが、中性子吸収体により覆われており、
前記中性子吸収体が、前記熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布を持ち、前記熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、前記熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されていることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項2】
前記中性子検出器が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器であることを特徴とする請求項1に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項3】
前記ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器が、シンチレーション検出器であることを特徴とする請求項2に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項4】
前記シンチレーション検出器が、リチウムとしてLiを含有するシンチレータを用いて構成されていることを特徴とする請求項3に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項5】
前記Liを含有するシンチレータが、LiCaFシンチレータであることを特徴とする請求項4に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項6】
前記シンチレーション検出器が、ホウ素として10Bを含有するシンチレータを用いて構成されていることを特徴とする請求項3に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項7】
前記10Bを含有するシンチレータが、有機プラスチックに前記10Bがドープされたシンチレータであることを特徴とする請求項6に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項8】
前記中性子吸収体が、
前記熱外中性子のエネルギーの分布が複数の領域に分割され、分割されたそれぞれの領域に対応して、段階状に変化する厚さおよび面積比で形成されて、前記熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、前記熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項9】
前記中性子吸収体が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子吸収体であることを特徴とする請求項8に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項10】
前記中性子吸収体に含有されるホウ素が、10B濃縮ホウ素であることを特徴とする請求項9に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項11】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法であって、
請求項1に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置を用いて、
前記中性子検出器により患者に照射される熱外中性子の数を計測し、
得られた熱外中性子の数に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度を求めることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法。
【請求項12】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であって、
前記熱外中性子を検出する検出素子として、複数の中性子検出器が用いられており、
各々の中性子検出器の周りが、互いに厚さの異なる中性子吸収体により覆われており、
前記中性子吸収体のそれぞれの厚さが、前記中性子検出器の各々が対象とする前記熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さに形成されており、
前記各々の中性子検出器により計測された患者に照射された熱外中性子の数に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度が得られるように構成されていることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項13】
前記中性子検出器が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器であることを特徴とする請求項12に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項14】
前記ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器が、シンチレーション検出器であることを特徴とする請求項13に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項15】
前記中性子吸収体が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子吸収体であることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置。
【請求項16】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法であって、
請求項12に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置を用いて、
前記互いに厚さの異なる中性子吸収体により覆われている中性子検出器の各々により患者に照射される熱外中性子の数を計測し、
得られた熱外中性子の数の各々に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度を求めることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置および測定方法に関し、より詳しくは、ホウ素中性子補捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)において、患者に照射される熱外中性子束の絶対強度をリアルタイムに測定することができる熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代を担う新しいがん治療法としてホウ素中性子補捉療法(BNCT)の実用化に向けての研究が加速している(例えば、特許文献1)。
【0003】
図1は、このBNCTの原理を説明する模式図であり、予め腫瘍細胞(Cancer cell)に選択的に蓄積させたホウ素(10B)に熱外中性子(Epithermal newtron)を照射することにより、反応式:n+10B→α+Liで示される10B(n,α)Li反応を誘起させて、放出された荷電粒子(α粒子やLi原子核)によってがん細胞を選択的に破壊する。
【0004】
このように、BNCTは患者に熱外中性子を照射して治療する治療法であるため、患者に対する治療効果を知る上で、熱外中性子束の絶対照射量、即ち、熱外中性子束の絶対強度をリアルタイムで知ることが重要である。即ち、熱外中性子が少な過ぎる場合にはがん細胞が生き残り、多過ぎる場合には正常細胞まで破壊されてしまうため、熱外中性子束の絶対強度をリアルタイムで知ることが重要である。
【0005】
この熱外中性子束の絶対照射量の測定について、現在は、金箔を用いて計測すること(箔放射化法)が一般的に行われている。具体的には、照射開始後10分程度、金箔など、自己吸収が少ない箔状の金属に中性子を照射した後取り出して、箔に生じた放射化の程度を計測することにより、最終照射時間としてフィードバックしている。しかしながら、この方法は、解析に煩雑な手順を必要とし、また、熱外中性子の絶対強度をリアルタイムで直接計測するものではないため、極めて近似的な措置と言わざるを得ない。
【0006】
一方、最近、箔放射化法に替わる測定方法として、シンチレーションを利用した小さな検出器を設置することにより相対測定することも検討されている(例えば、特許文献2~4)。
【0007】
しかしながら、上記した各方法は、中性子感度にはエネルギー依存性があり、中性子のエネルギー分布が照射施設や患者の存在で変化することによる影響については考慮できないため、熱外中性子の絶対強度をリアルタイムに測定する技術として、十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2018/181395号公報
【特許文献2】特開2013-116926号公報
【特許文献3】国際公開WO2014/192321号公報
【特許文献4】特開2016-164519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記した従来の熱外中性子束の絶対強度測定技術における問題点に鑑み、熱外中性子束の絶対強度を高い精度でリアルタイムに測定することができる熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であって、
前記熱外中性子を検出する中性子検出器の周りが、中性子吸収体により覆われており、
前記中性子吸収体が、前記熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布を持ち、前記熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、前記熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されていることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
前記中性子検出器が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器であることを特徴とする請求項1に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
前記ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器が、シンチレーション検出器であることを特徴とする請求項2に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
前記シンチレーション検出器が、リチウムとしてLiを含有するシンチレータを用いて構成されていることを特徴とする請求項3に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
前記Liを含有するシンチレータが、LiCaFシンチレータであることを特徴とする請求項4に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
前記シンチレーション検出器が、ホウ素として10Bを含有するシンチレータを用いて構成されていることを特徴とする請求項3に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、
前記10Bを含有するシンチレータが、有機プラスチックに前記10Bがドープされたシンチレータであることを特徴とする請求項6に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、
前記中性子吸収体が、
前記熱外中性子のエネルギーの分布が複数の領域に分割され、分割されたそれぞれの領域に対応して、段階状に変化する厚さおよび面積比で形成されて、前記熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、前記熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、
前記中性子吸収体が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子吸収体であることを特徴とする請求項8に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、
前記中性子吸収体に含有されるホウ素が、10B濃縮ホウ素であることを特徴とする請求項9に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法であって、
請求項1に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置を用いて、
前記中性子検出器により患者に照射される熱外中性子の数を計測し、
得られた熱外中性子の数に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度を求めることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法である。
【0022】
請求項12に記載の発明は、
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であって、
前記熱外中性子を検出する検出素子として、複数の中性子検出器が用いられており、
各々の中性子検出器の周りが、互いに厚さの異なる中性子吸収体により覆われており、
前記中性子吸収体のそれぞれの厚さが、前記中性子検出器の各々が対象とする前記熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さに形成されており、
前記各々の中性子検出器により計測された患者に照射された熱外中性子の数に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度が得られるように構成されていることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0023】
請求項13に記載の発明は、
前記中性子検出器が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器であることを特徴とする請求項12に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0024】
請求項14に記載の発明は、
前記ホウ素またはリチウムを含有する中性子検出器が、シンチレーション検出器であることを特徴とする請求項13に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0025】
請求項15に記載の発明は、
前記中性子吸収体が、ホウ素またはリチウムを含有する中性子吸収体であることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。
【0026】
請求項16に記載の発明は、
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法であって、
請求項12に記載の熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置を用いて、
前記互いに厚さの異なる中性子吸収体により覆われている中性子検出器の各々により患者に照射される熱外中性子の数を計測し、
得られた熱外中性子の数の各々に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度を求めることを特徴とする熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、熱外中性子束の絶対強度を高い精度でリアルタイムに測定することができる熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】BNCTの原理を説明する模式図である。
図2】本発明に係る熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置の概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の一実施の形態において、中性子のエネルギーとLi(n,α)反応の反応断面積との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施の形態において、中性子のエネルギーとLiCaFの検出効率との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態における検出効率の平坦化を説明する図である。
図6】本発明の一実施の形態における検出部の近傍の構成を説明する模式図である。
図7】本発明の一実施の形態において、中性子吸収体の材質選択についてのシミュレーションにおける構成を示す模式斜視図である。
図8】本発明の一実施の形態において、中性子吸収体の材質による検出効率の差異を説明する図である。
図9】本発明の一実施の形態におけるフィルターの構成を説明する図である。
図10】本発明の一実施の形態におけるフィルターの設計指針を説明する図である。
図11】本発明の一実施の形態におけるフィルターの設計指針を説明する図である。
図12】本発明の一実施の形態において、フィルターの厚さを変化させたときの検出効率の変化を説明する図である。
図13】本発明の一実施の形態において、第1段階における検出効率の平坦化を説明する図である。
図14】本発明の一実施の形態において、第1段階~第2段階における検出効率の平坦化を説明する図である。
図15】本発明の一実施の形態において、第2段階における検出効率の平坦化を説明する図である。
図16】本発明の一実施の形態において、第2段階~第3段階における検出効率の平坦化を説明する図である。
図17】本発明の一実施の形態において、第3段階における検出効率の平坦化を説明する図である。
図18】本発明の一実施の形態において作製されたフィルターを説明する図である。
図19】本発明の一実施の形態において作製されたフィルターを用いて検出効率を計算した結果を示す図である。
図20】本発明の実施において作製するフィルターを説明する図である。
図21】LiCaFシンチレータの場合の検出効率と高エネルギー中性子の影響を説明する図である。
図22Li(n,α)反応の反応断面積と中性子のエネルギーの関係を説明する図である。
図2310B(n,α)反応の反応断面積と中性子のエネルギーの関係を説明する図である。
図24】ホウ素含有の有機プラスチックシンチレータの検出効率と中性子のエネルギーとの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1]本発明における基本的な考え方
最初に、本発明における基本的な考え方について説明する。
【0030】
図2は、本発明に係る熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置(以下、単に、「強度測定装置」という)の概略構成を示す模式図であり、(a)は全体図、(b)は検出部3の拡大斜視図である。なお、図2において、1は強度測定装置であり、検出部(モニター部)3で検出された光が、光ファイバ2を経由して増幅部4に送られるように構成されている。
【0031】
本発明において、熱外中性子を検出する検出部としては中性子検出器を用いる。中性子検出器は特に限定されないが、測定精度を考慮すると、シンチレーション検出器(シンチレータ)が好ましく、このとき、熱外中性子に対する検出感度が高く、中性子線束の絶対強度の測定に好適なシンチレータとしては、Liあるいは10Bを含有するシンチレータを用いることが好ましい。
【0032】
即ち、固体のLiあるいは10Bを含有するシンチレータは、気体のHeや10BFを含有する比例計数管などの中性子検出器と異なり、小型化が可能であり、また、小型であっても熱外中性子に対する検出感度が高いためである。そして、小型にすることで、波高弁別によりガンマ線の除去が容易であるため、熱外中性子を高い精度で検出することができる。また、小型であることは、中性子場を乱さず、患者の邪魔にならないという面からも有利である。具体的には、2mm×2mm×2mm程度の大きさにまで小型化できるため、BNCT治療時の患者位置における熱外中性子束の絶対強度のリアルタイムでの測定に好適である。
【0033】
しかしながら、中性子検出器をそのまま使用したのでは、熱外中性子以外に熱中性子も同時に検出してしまう。また、中性子検出器の検出効率は中性子線束のエネルギーに依存しており、中性子はエネルギーが低いほどLi(n,α)反応の反応断面積が大きく、中性子検出器の検出効率も高くなるため、エネルギーが低い中性子が多く検出される。このため、測定された中性子の量から熱外中性子束の絶対強度を高い精度で推定することができない。
【0034】
図3に、中性子のエネルギー(Neutron Energy:eV)とLi(n,α)反応の反応断面積(Cross Section:barns)との関係を、図4に、中性子のエネルギー(eV)とLiCaFの検出効率(Detection Efficiency)との関係を示す。なお、細実線で四角く囲んだ0.5eV~10eVの領域が熱外中性子領域であり、0.5eV未満が熱中性子領域、10eV超が高速中性子領域である。
【0035】
図3および図4より、中性子のエネルギーが低いほどLi(n,α)反応の反応断面積、中性子検出器の検出効率が高くなることが分かる。
【0036】
なお、熱中性子領域では、熱外中性子領域よりも検出効率が高くなっているが、実験の結果、熱外中性子束の絶対強度の測定に際しては、Cdで形成したフィルターを中性子検出器のフィルターとして用いることにより、検出感度を低下させて、熱中性子を計測の対象から除外できることが分かっている。また、高速中性子領域では、元々、検出感度が低いことが分かっているが、LiCaFのようなLiを用いたシンチレータを中性子検出器として使用した場合、240keV付近に共鳴ピークがあるため、高速中性子強度が強い場合には問題となる。そこで、このように高速中性子強度が強い場合には、後述するように、ホウ素含有の有機プラスチックシンチレータを用いることが好ましい。
【0037】
本発明者は、エネルギーが低いほど検出効率が高くなる熱外中性子のエネルギー領域において、高い精度で、熱外中性子の数を検出するためには、検出効率のエネルギー依存性を無くし、熱外中性子領域の全域に亘ってほぼ一定の検出効率とした。具体的には、検出効率を熱外中性子の最大エネルギーでの検出効率で平坦化(フラット化)する必要があると考えた。
【0038】
即ち、このように平坦化(フラット化)させることにより、0.5eVから10keVまでの幅広いエネルギー範囲を含む熱外中性子束の絶対強度をリアルタイムで測定することができると考えた。
【0039】
そして、この考えを実現するためには、中性子検出器の検出面に中性子吸収体をフィルターとして設け、さらに、このフィルターを、熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布に形成した場合、フィルターの厚さに合わせて検出効率が低下するため、熱外中性子領域の全域に亘って、検出効率の平坦化(フラット化)を図ることができると考え、具体的なフィルターの設計について、実験を重ね、鋭意、検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0040】
即ち、本発明は、図5の左側に示すように、エネルギーが低いほど高くなる検出効率を、上記考えに基づいて適切に設計されたフィルターを用いることにより、図5の右側に示すように、熱外中性子領域の全域に亘って、検出効率を平坦化(フラット化)させて、熱外中性子束の絶対強度を高い精度でリアルタイムに測定できるようにしている。
【0041】
なお、本発明において、「検出効率を平坦化(フラット化)」とは、厳密な平坦化(フラット化)を意味するものではなく、後述する検出効率の最大値と最小値の差σが、所望する不確かさに応じた一定の値以下で、略一定となっていればよい。
【0042】
[2]第1の実施の形態
以下、第1の実施の形態について具体的に説明する。
【0043】
1.全体構成
本実施の形態に係る熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置(以下、単に、「強度測定装置」という)は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置である。なお、本実施の形態においては、熱外中性子を検出する検出素子である中性子検出器の具体的な一例として、リチウム(Li)またはホウ素(10B)を含有するシンチレーション検出器が用いられている。そして、中性子検出器(シンチレーション検出器)の周りが、中性子吸収体により覆われている。このとき、中性子吸収体は、熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布に形成されて、熱外中性子のエネルギーの分布の全領域に亘って、熱外中性子の検出効率が略一定となるように構成されている。
【0044】
前記したように、図2は、強度測定装置の概略構成を示す模式図であり、強度測定装置1は、検出部(モニター部)3で検出された光が、光ファイバ2を経由して増幅部4に送られるように構成されている。そして、図6は、本実施の形態における検出部3の近傍の構成を説明する模式図である。
【0045】
図6に示すように、検出部3はシンチレータ3aを備えている。シンチレータ3aは、中性子が入射されると所定の検出感度で発光し、シンチレータ3aで発生した光は、光ファイバ2を経由して増幅部4に送られて増幅された後、電気信号に変換される。
【0046】
2.中性子吸収体について
前記したように、シンチレータを利用して中性子の数を計測した場合、リアルタイムで計測を行ったとしても、中性子はエネルギーが低いほど反応断面積が大きく、シンチレータの検出効率も高くなるため、測定された中性子の数から熱外中性子束の絶対強度を高い精度で推定することができない。
【0047】
そこで、本発明者は、熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布に形成された中性子吸収体をシンチレータの周りに巻き付けるなどしてシンチレータを覆うフィルター3bとして設け、フィルター3bの厚さに合わせて検出効率を低下させることにより、熱外中性子のエネルギー領域の全体に亘って、検出効率を平坦化できれば、熱外中性子の数を高い精度で計測して、熱外中性子束の絶対強度を高い精度で推測できると考え、具体的な中性子吸収体の設計について、鋭意検討を行った。
【0048】
(1)材料の検討
最初に、中性子吸収体に使用される材料について検討を行った。
【0049】
図7は、中性子吸収体の材質選択についてのシミュレーションにおける構成を示す模式斜視図であり、2mm×2mm×2mmのサイズのLiCaFシンチレータの検出面の表面に、厚さXmmで中性子吸収体層をフィルターとして形成して、このフィルターの表面に向けて照射された中性子の数を計測するように構成されている。
【0050】
具体的には、中性子吸収体の材質の候補として、炭素(C)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ホウ素(B)の4種類を挙げ、それぞれ、X=5mmの中性子吸収体層(フィルター)を形成して、各材質により、検出効率がどのように変化するかを調べた。
【0051】
結果を図8に示す。なお、図8には、フィルターなし(ベア状態)の結果を併せて示している。図8から分かるように、炭素(C)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)のフィルターの場合には、ベア状態における検出効率とほぼ同じ結果となっている。これに対して、ホウ素(B)の場合には、低エネルギー領域での検出効率が劇的に低下しており、エネルギーの増大に伴って途中まで検出効率が上昇していき、その後、検出効率が低下していっている。なお、ホウ素(B)は、10B同位体比が低い(低濃縮度)場合には効率のピークが低エネルギーへ移動し、高い(高濃縮度)場合、高エネルギーへ移動する傾向があるため、中性子吸収能の面からは、10B濃縮ホウ素であることが好ましい。
【0052】
本発明者は、このように、検出効率の変化の途中に極値が現れ、増大から減少へと変化することに着目した。即ち、この極値付近においては、必ず、平坦な部分が形成されているはずであり、中性子吸収体の材質として、図8のホウ素(B)のような傾向を示す材料を選択し、この極値を適切なエネルギーに設定した効率曲線を複数組み合わせた場合、熱外中性子のエネルギーの全領域に亘って検出効率の平坦化(フラット化)が可能であると考えた。
【0053】
(2)形状の検討
次に、ホウ素(B)を使用した中性子吸収体の形状について検討を行った。
【0054】
本発明者は、図8から得られた知見に基づき、熱外中性子のエネルギーの領域を細分化(複数の領域、好ましくは、3つ以上の領域に分割)し、各領域におけるフィルターの厚さと、シンチレータ検出面全体に占める面積比とについて定式化した連立一次方程式を解いて、各フィルターの厚さと面積比とを決定した場合、熱外中性子のエネルギーの全領域に亘って、平坦化(フラット化)された検出効率が得られると考えた。
【0055】
図9は、この考え方を模式的に示す横断面図であり、シンチレータ3aの検出面には、(厚さt1×面積比w1)~(厚さtn×面積比wn)のn個のフィルター3bが設けられている。なお、図9において、右向きの複数本の矢印は、中性子の照射方向を示している。
【0056】
上記n個のフィルターそれぞれで構成される検出器の単位中性子束当たりの応答をREi,wjとする。ここで、i=1~m、j=1~nである。それぞれのフィルターの面積比をwとすると、本強度測定装置で得られる応答s~sは、下記の行列方程式(式1)のように表すことができる。なお、面積比w~面積比wの合計(Σw)は1である。
【0057】
【数1】
【0058】
ここで、行列方程式の各項を、R、W、Sと表すことにより、(式1)は下記(式2)のように示すことができる。
R・W=S・・・・・・・・・・・・・・(式2)
【0059】
ここで、検出効率が平坦化(フラット化)されているとは、(式2)においてS=定数であることを意味しており、S=1/m(j=1~m)とし、解くことで形式的に(式3)のように各フィルターの面積比wが求められることになる。このプロセスは、ベイズ推定法を用いるが、これにより物理的に意味がある解を得ることが可能である。しかし、通常は、nがある程度大きくないと精度の高い解は得られない。しかし、そうすると、必要な要素検出器の数が多くなる。なお、フィルターの数を数個に抑えたい場合には、ベイズ推定法を用いることなく、通常の演算法を用いて解くことができる。
W=R-1・S・・・・・・・・・・・・・(式3)
【0060】
(3)フィルターの設計指針
図10図11にフィルターの設計指針となる考え方を示す。図10および図11は、ともに検出効率と中性子のエネルギーとの関係を示す図であり、これらの図の横軸は中性子のエネルギー(eV)であり、縦軸は検出効率である。
【0061】
図10は面積が同じフィルターを設けた5個の検出部の検出効率と中性子のエネルギーとの関係を模式的に示す図であり、フィルター設計の基になるデータということができる。
【0062】
図10に示すように、各フィルターの検出効率のフラット部は5段の階段状となっている。なお、各フラット部が占めるエネルギー領域は、それぞれフィルターの厚さによって決まる。
【0063】
図10より、各フィルターのフラットな領域の効率を、5個のフィルターの検出部に取り付ける面積比を調整して、フラット化を開始する位置(E~E)を最初のフラット化開始位置(E)まで落として並べることができれば、図11に示すように、高エネルギー側から低エネルギー側までの全領域を同等の検出効率でカバーできると予測される。
【0064】
具体的には、図11において、まず、検出効率の最大値Sと最小値Sの差σを、必要とされる測定精度に基づいて設定する。BNCTの場合、σは例えば5%未満程度の値に設定する。
【0065】
そして、各領域において、フラット化開始位置Sstにおける検出効率Sとの交点Bp1~Bp4が得られるように、各フィルターの厚さ、および、面積比を設定する。なお、E~E図10に示す各フィルターの略フラット部における検出効率の最大値であり、Ep~Ep5は、図11に示す各フィルターの略フラット部における検出効率の最大値であり、ほぼE1と等しい。
【0066】
このとき、各フィルターの面積比w(i=1~5)は、下記式のように表すことができる。なお、本実施の形態において、各フィルターの長さは、検出面の長さと同じで一定のため、面積比を幅の比で表すこともできる。
/w=Ep/E
/w=Ep/E
/w=Ep/E
/w=Ep/E
そして、Σw=1の条件から、
=1-(w+w+w+w
【0067】
上記演算の結果、σが5%未満で、ホウ素(10B)フィルターを用いた場合、検出効率のフラット化に必要とされるフィルターの数は、最低3個であり、また、3個で十分な精度が得られることが分かった。即ち、2個ではσを5%未満にすることができない。一方、4個以上にしても3個の場合に比べてσが顕著に低減されない。
【0068】
(4)具体的なフィルターの作製
次に、上記した考え方に基づいて行った具体的なフィルターの作製について説明する。
【0069】
まず、表面をフィルター3bで被覆した図6に示すようなシンチレータ3aにおいて、フィルター3bの厚さの変化により検出効率がどのように変化するかを調べた。図12に、フィルター3bの厚さを、0.5mm、1.0mm、10mmと変化させたときの検出効率の変化を、フィルターなし(ベア状態)の場合の結果と併せて示す。なお、ここでは、フィルター3bとして、90.4%濃縮10Bのフィルターを用いている。
【0070】
図12より、厚さ10mmのフィルターは熱外中性子のエネルギーが高い領域で、厚さ1.0mmのフィルターは熱外中性子のエネルギーの中間の領域で、厚さ0.5mmのフィルターは熱外中性子のエネルギーの低い領域で検出効率の低下を招いており、フィルターの厚さによって、検出効率を低下させる領域が異なっていることが分かる。そして、各々において、検出効率が減少する手前でフラットに近い検出効率を示す領域があることが分かる。
【0071】
この知見に基づいて、以下に示す第1段階から第3段階の手順で、本実施の形態におけるフィルターを作製した。
【0072】
(a)第1段階
まず、第1段階として、図13(a)に示すように、シンチレータ3aの表面全体に設けたフィルター3bの厚さを、0.5mmからより厚い10mmに変更して、検出効率の変化を調べた。その結果、図13(b)に示すように、厚さ10mmの場合、厚さ0.5mmの場合に比べて、検出効率の低下が熱外中性子のエネルギーがより高い領域から始まり、熱外中性子のエネルギーが最大の領域の近傍でほぼフラットになることが分かった。しかし、熱外中性子のエネルギーの中間の領域、およびエネルギーの低い領域では、フラットな位置を超えて検出効率が低下しており、これだけでは、領域全体に亘って検出効率が平坦化できているとは言えない。なお、ここでは、シンチレータ3aとしてはLiCaFシンチレータを用い、フィルター3bとしてはホウ素(10B90.4%)フィルターを用いた。
【0073】
(b)第1段階~第2段階
そこで、次に、図14(a)に示すように、厚さt1(10mm)のフィルターF1の一部を除去して空きスペースを設け、フィルターF1の幅を狭める加工を行って、再度、検出効率の変化を調べたところ、図14(b)に示すように、熱外中性子エネルギー領域の中間領域、および、エネルギーの低い領域において、図13に示すフラットな位置を超えて検出効率が上昇していることが分かった。
【0074】
(c)第2段階
この上昇した検出効率をフラットな位置まで低下させるため、次に、第2段階として、図15(a)に示すように、空きスペースに厚さt2(1mm)のフィルターF2を形成させ、検出効率の変化を調べた。その結果、図15(b)に示すように、熱外中性子のエネルギーの中間の領域まで、検出効率をほぼ平坦化できたが、エネルギーの低い領域では、検出効率が低下しており、未だ、領域全体に亘って、検出効率を平坦化できているとは言えない。
【0075】
(d)第2段階~第3段階
そこで、上記と同様に、図16(a)に示すように、厚さt2(1mm)のフィルターF2の一部を除去して空きスペースを設け、フィルターF2の幅を狭める加工を行って、検出効率の変化を調べたところ、図16(b)に示すように、エネルギーの低い領域において、検出効率が上昇することが分かった。
【0076】
(e)第3段階
この上昇した検出効率をフラットな位置まで低下させるため、次に、第3段階として、図17(a)に示すように、空きスペースに厚さt3(1mm)のフィルターF3を形成させ、検出効率の変化を調べた。その結果、図17(b)に示すように、熱外中性子のエネルギーの低い領域まで、全領域に亘って、検出効率がほぼ平坦化できることが分かった。
【0077】
上記(a)~(e)の設計に基づいて作製されたフィルターを図18に示す。フィルターの個数は3個であり、フィルターの全幅を2mmとした場合、第1フィルターF1、第2フィルターF2、第3フィルターF3各フィルターの厚さおよび幅として、t1=10mm、W1=1.8mm、t2=1.3mm、W2=0.174mm、t3=0.15mm、W3=0.026mmが求められた。
【0078】
そして、それぞれ上記した厚さと幅を有する第1~第3の3個の部分F1、F2、F3を備える検出部3を作製し、検出効率と中性子線のエネルギーの関係を調べた結果、図19の■に示すように、熱外中性子の領域において検出効率がほぼフラット化されていることが確認された。そして、このようなフィルターで覆われたシンチレータを用いて、熱外中性子の数を計測して、周知の演算方法に従って、所定の演算を施すことにより熱外中性子束の絶対強度を求めたところ、その不確かさσは、目標である5%を下回る4.82%と試算され、これにより、本実施の形態に基づいた場合、リアルタイムに高い精度で計測を行えることが確認できた。
【0079】
なお、上記において、「周知の演算方法に従って、所定の演算を施す」の一例としては例えば、以下のように行う。図18のフィルターで覆われたシンチレータによる計数率をC、図19のフラット部分の検出効率をEff(1/source)、シンチレータの線源からの見かけの面積をS、並びに、カレントフラックス比をCFとすると、フラックスφは、以下の様に計算できる。なお、CFはBNCTの施設によるが、0.7~0.8であり、施設ごとに設計結果として与えられている。
φ=C/S/Eff/CF
【0080】
[3]第2の実施の形態
以下、第2の実施の形態について具体的に説明する。
【0081】
第1の実施の形態においては、熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さ分布に形成された、図18に示すような一体型のフィルターを作製して、中性子吸収体としているが、このようなフィルターでは、第3部分F3においては、幅が0.026mmと極端に小さくなっており、その作製は容易なことではない。また、中性子の照射角度によっては、フィルター厚さの小さな第2フィルターF2、第3フィルターF3が機能しない場合がある。
【0082】
そこで、本実施の形態においては、一体型のフィルターではなく、厚さだけが異なる複数の検出部を作製して、各検出部を強度測定装置に繋げ、それぞれの検出部において、厚さに対応したエネルギー領域における中性子の数を計測して、後述する演算処理により、熱外中性子束の絶対強度を推定する。このような厚さだけが異なる検出部は容易に作製することができる。また、中性子の照射角度による影響を受けることがなく、どのような照射場、患者環境であっても、熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定することができる。
【0083】
即ち、本実施の形態に係る熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置も、第1の実施の形態と同様に、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において患者に照射される熱外中性子束の絶対強度を、その場でリアルタイムに測定する熱外中性子束のリアルタイム絶対強度測定装置であるが、本実施の形態においては、熱外中性子を検出する検出素子として、リチウムまたはホウ素を含有する3個以上のシンチレーション検出器が用いられている。そして、各々のシンチレーション検出器の周りは、互いに厚さの異なる中性子吸収体により覆われており、中性子吸収体のそれぞれの厚さが、3つ以上の領域に分割された熱外中性子のエネルギーの分布に対応した厚さに形成されている。そして、各々のシンチレーション検出器により計測された患者に照射された熱外中性子の数に対して所定の演算を施すことにより、熱外中性子束の絶対強度が得られるように構成されている。
【0084】
例えば、図18に示した1つのフィルターが設けられた検出部に替えて、図20(a)~(c)に示すように、検出部におけるシンチレータ(2mm×2mm)3aの検出面に、厚さが10mm(t1)、1.3mm(t2)、0.15mm(t3)に形成された3つのフィルターF1、F2、F3の各々で覆われた3つの検出部(以下、順に、モニターA、モニターB、モニターCという)を設ける。
【0085】
このような検出部を設けて、適切に演算することにより、一体型のフィルターを用いる第1の実施の形態と同様に、リアルタイムに高い精度で計測を行うことができる。
【0086】
ここで、上記した所定の演算方法について、具体的に説明する。各モニターA、B、Cにおいてカウントされた中性子数a(/s)、b(/s)、c(/s)、図18に示した各幅、w(1.8mm)、w(0.174mm)、w(0.026mm)およびその合計、w=w+w+w、実効検出効率Eff(1/source)、検出部の見かけの面積S、並びに、カレントフラックス比CFを用いて、下記(式4)により中性子線束φ(中性子数/cm・s)を算出する。
φ=(a×w+b×w+c×w)/w/(S×Eff×CF)(式4)
【0087】
本実施の形態による実効検出効率Effは、図20のそれぞれの検出部の効率Eff、Eff、およびEffを用いて、Eff=Eff×w/w+Eff×w/w+Eff×w/w)となり、その不確かさσは、4.91%と試算され、第1の実施の形態において試算された不確かさ4.82%とほどよい一致を示していることが確認できた。
【0088】
本実施の形態においては、検出部を3つのモニターに分割し、各検出部の検出面の全体に中性子吸収層を設けているため、微細な加工を必要としない。また、図18に示した検出部の照射面には段差が存在したのに対して、照射される検出面が平面であるため、照射角度の影響を受け難い。また、分割された後のそれぞれのモニターは、それぞれ2×2mmと小さいため、3個を並置してもBNCTへの適用に際して、サイズ面における支障は生じない。
【0089】
[4]より好ましい態様
(1)シンチレータの材質
シンチレータの好ましい材料としては、前記のようにLiCaFのようにLiが挙げられる。しかし、Liを用いたシンチレータの場合、図21に示すように200~300keVの高速中性子に対する検出効率が高いという欠点がある。検出効率は、前記した図3図4にも示したように、反応断面積と関係しており、200~300keVの検出効率が熱外中性子の検出効率より高くなるのは、Li(n,α)反応を用いた場合の問題点である。
【0090】
そこで、本発明者は、Li(n,α)反応に替えて、10B(n,α)反応を用いることが好ましいと考えた。ホウ素は光を通さないため、ホウ素単体では、シンチレータとして使用できないが、近年ホウ素を有機物にドープした固形状あるいは液状のシンチレータが開発されている。特に、ホウ素を有機プラスチックにドープした固形状のシンチレータは、検出部の構成を単純にできるため、検出部の小型化にとっても好ましい。
【0091】
このようなシンチレータとして、Eljen Technology社製の有機プラスチックシンチレータEJ254やBicron Corporation社製のBC454が挙げられる。これらのシンチレータは、有機プラスチックに天然のホウ素がドープされている。例えば、EJ254は、ポリビニルトルエン(PVT)に天然産のホウ素が5質量%程度ドープされ、10Bを約1質量%の比率で含有しており、中性子の検出機能を有するとともに透明性が確保されている。
【0092】
EJ254は、10B(n,α)反応を利用し測定するため、その反応断面積をLi(n,α)反応の反応断面積と比較した。図22は、Li(n,α)反応における中性子のエネルギーと反応断面積との関係を示す図である。そして、図23は、10B(n,α)反応における中性子のエネルギーと反応断面積との関係を示す図である。図22図23より、10B(n,α)反応の方が、Li(n,α)反応よりも、熱外中性子領域に比べて高エネルギー中性子の反応断面積がより小さくなっていることが分かる。
【0093】
図24に、有機プラスチックシンチレータEJ254を用いた場合のフィルターの有無による検出効率の変化を示す。図24より、有機プラスチックシンチレータEJ254シンチレータを用いることにより、200~300keVの高速中性子に対する検出効率が低減され、検出ピークが消失しており、熱外領域よりも検出効率が下がっていることが確認された。
【0094】
(2)フィルターの構成
(a)加工性の向上
中性子吸収体を構成するフィルターのホウ素(B)としては、前記したように、10Bの濃縮度が高い材料が好ましく、ここで示している設計結果では、その一例として、90.4濃縮のホウ素を用いている。しかしながら、図20(C)に示すモニターCのように、シンチレータ上に厚さ0.15mmと、薄い厚さでフィルターを形成することは難しい。
【0095】
そこで、このような薄い厚さのフィルターに代えて、10Bが90.4%まで濃縮された、もしくは天然含有率である19.9%を含むホウ素を含有する窒化物BNなどの化合物を用いてフィルターを形成することが好ましい。例えば、BNを用いることにより、熱外中性子の捕捉機能を変えずに厚さを1.2mmと大きくすることができるため、加工を容易にすることができる。
【0096】
(b)熱中性子検出の排除
フィルターを10B90.4など、高濃縮のホウ素だけで構成した場合、図19に示すように熱中性子の検出を十分に除外することができない。これは、モニターCのようにフィルターの厚さを小さくした場合、熱中性子の透過を防止できないためである。そこで、フィルターの厚さが薄い場合には、フィルターをカバーするように厚さが0.5mmのCdフィルターを配置することが好ましい。これにより、熱中性子の透過がほぼ完全に防止されるため、熱外中性子の数をより正確に計測して、熱外中性子束の絶対強度を精度高く推定することができる。
【0097】
(c)具体的な構成例
上記に基づいて、対象モニター毎に作製されたフィルターの具体的な構成の一例を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 熱外中性子束の強度測定装置
2 光ファイバ
3 検出部(モニター部)
3a シンチレータ
3b フィルター
F1、F2、F3 フィルターの部分
4 増幅部
t1、t2、t3 フィルターの厚さ
W1、W2、W3 フィルターの幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24