(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067924
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】電位発生方法、電位発生装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 2/02 20060101AFI20240510BHJP
A61N 7/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61N2/02 Z
A61N7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178346
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 俊彦
【テーマコード(参考)】
4C106
4C160
【Fターム(参考)】
4C106AA01
4C106AA06
4C106BB21
4C160JJ33
(57)【要約】
【課題】超音波と磁場を用いて、物体の内部に所望の時間パターンを有する電位を発生させると共に、所望の時間持続させることができる電位発生方法、電位発生装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】磁場を生成する磁場生成部を用いて対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成し、1つ以上の波源を個別に制御し方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生し、前記目標位置に対して1つ以上の前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、電位発生方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を生成する磁場生成部を用いて対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成し、
1つ以上の波源を個別に制御し方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生し、
前記目標位置に対して1つ以上の前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、
前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、
電位発生方法。
【請求項2】
前記目標位置において前記第1時間パターンに基づいて生成される前記磁場の方向に応じて方向を調整した前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域を移動させ、
前記所定領域に任意の第2時間パターンを有する電位を生成する、
請求項1に記載の電位発生方法。
【請求項3】
前記目標位置において前記超音波の振動周期に比して長い時間において前記所定領域に同一方向の速度成分を生じるように前記力を発生させ、
前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、
請求項2に記載の電位発生方法。
【請求項4】
前記磁場の方向と略直交する方向に前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域を移動させ、
前記所定領域に直流電位を任意の時間において生成する、
請求項3に記載の電位発生方法。
【請求項5】
前記目標位置において静磁場となる前記磁場を生成し、
前記目標位置において前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域にひねり振動を発生させ、
前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、
請求項4に記載の電位発生方法。
【請求項6】
異なる位置に配置された複数の前記波源に基づいて、異なる方向から複数の前記超音波を前記目標位置に向かって出力し、
前記目標位置において複数の前記超音波を合成し、前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、
請求項5に記載の電位発生方法。
【請求項7】
前記超音波を音響レンズに基づいて渦音波を発生させ、
前記目標位置において前記渦音波に基づいて前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、
請求項5に記載の電位発生方法。
【請求項8】
異なる位置に配置された複数の前記波源から出力される複数の前記超音波を合成して渦音波を発生させ、
前記目標位置において前記渦音波に基づいて前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、
請求項5に記載の電位発生方法。
【請求項9】
前記所定領域を共振させる周期において前記ひねり振動となる前記力を発生させ、
前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、
請求項5から7のうちいずれか1項に記載の電位発生方法。
【請求項10】
対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する磁場生成部と、
超音波を発生する1つ以上の波源を備える超音波出力部と、
前記超音波出力部と前記磁場生成部とを連動して制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記磁場生成部を制御して前記対象物を含む領域に磁場を生成し、
前記超音波出力部を制御して方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の前記超音波を発生し、前記目標位置に対して前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、
電位発生装置。
【請求項11】
対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する磁場生成部と、超音波を発生する1つ以上の波源を備える超音波出力部とを連動して制御する制御装置に搭載されるコンピュータにおいて実行されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記磁場生成部を制御させて前記対象物を含む領域に磁場を生成させ、
前記超音波出力部を制御させ、1つ以上の前記波源から方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の前記超音波を発生させる処理を実行させ、前記目標位置に対して照射された1つ以上の前記超音波に基づいて前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位発生方法、電位発生装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空間内や物体内の任意の位置に対し、電位や電場や電流を発生させる方法が研究されている。物体内に所望の空間パターン、時間パターンを持つ電位や電流を非破壊により生成できれば、非侵襲的に脳刺激を与えるなどの様々な応用が考えられる。物体内において、局所的に電位や電流を発生させる方法が知られている。例えば、非特許文献1には、時間的に変動する強力な磁場を照射し誘導電流を起こす方法が記載されている。
【0003】
脳内に脳刺激を与える場合等、所望の位置において所望の電位を所望の時間間隔により発生させる必要がある。磁場は、原理的に空間内に限局できず、発生源から離れると速やかに拡散する性質がある。そのため、非特許文献1に記載された方法によれば、磁場の焦点を絞ることが難しいことに加え、磁場が影響する範囲は磁場発生器近傍に限られていた。このため、非特許文献1に記載された方法に基づいて脳刺激を与えようとする場合、その影響は脳表面に限られ、分解能もcm程度のオーダーとなり、任意の位置に電位や電場や電流を発生できない場合がある。
【0004】
また、非特許文献2には、物体に複数の周波数で変動する電位を与え、干渉によって局在した電場変動を起こす方法が記載されている。脳刺激を与える場合、同じ向きの電位を一定時間維持する必要がある。非特許文献2の方法によれば、発生する電場の向きが高速変動するため、一定の方向の電場を保てない。そのため、非特許文献2に記載された方法によれば、任意の電位や電場や電流を発生させることが困難であるという課題がある。
【0005】
また、非特許文献3には、静磁場存在下で超音波によって物体を振動させ電磁誘導によって電流を引き起こす方法が記載されている。非特許文献3に記載された方法によれば、生成される電流の向きが高速で変化するため、一定方向の電位・電流を発生させることが困難であるという課題がある。従って、従来の方法によれば、電位や電流を所望の位置に局在化できないか、もしくは電位や電場や電流を所望の時間維持できないという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、超音波と磁場を用いて、物体の内部に所望の空間パターンを有する電位を発生させると共に、所望の時間持続させることができる電位発生方法、電位発生装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、磁場を生成する磁場生成部を用いて対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成し、1つ以上の波源を個別に制御し方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生し、前記目標位置に対して1つ以上の前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに対応して所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、電位発生方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超音波と磁場を用いて、物体の内部に所望の時間パターンを有する電位を発生させると共に、所望の時間持続させることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る力場発生装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】超音波の平面波を発生させる原理を示す図である。
【
図4】目標位置に超音波を合成して力を発生させる原理を概略的に示す図である。
【
図5】導体内に電位を発生させる原理を示す斜視図である。
【
図6】導体内に電位を発生させる原理を示す平面図である。
【
図7】超音波振動により導体内に発生する電位を示す図である。
【
図8】超音波振動により導体内に発生する圧力、電位、速度の時間平均を示す図である。
【
図9】超音波振動を超えた変位を与えた際に導体に生じる電位を示す図である。
【
図10】超音波振動を超えた変位を与えた際に導体に生じる圧力、電位、速度の時間平均を示す図である。
【
図11】目標位置にひねり振動を生じさせる原理を示す図である。
【
図12A】ひねり振動に基づいて目標位置に生じる速度を示す図である。
【
図12B】目標位置の近傍に生じる電位分布を示す図である。
【
図13】ひねり振動を生じさせるための超音波の圧力を示す図である。
【
図14】ひねり振動に基づいて目標位置周辺に生じる電位分布を示す図である。
【
図16】共振周波数を与える際の超音波の圧力を示す図である。
【
図17】共振周波数を目標位置に与えた際に生じる振幅を示す図である。
【
図18】共振周波数を目標位置に与えた際に生じる電位を示す図である。
【
図19】共振周波数を目標位置に与えた際に目標位置周辺に生じる電位分布を示す図である。
【
図20】電位発生方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示されるように、電位発生装置1は、磁場を生成する磁場生成部7と、超音波を発生する1つ以上の波源を備える超音波出力部2と、超音波出力部2と磁場生成部7とを連動して制御する制御装置10と、対象物Pにおける目標位置Rを検出する検出部15とを備える。超音波出力部2は、例えば、超音波を発生する1つ以上の波源3や音響レンズを有している。各波源3は、異なる位置に配置されている。波源3の構成については後述する。
【0011】
磁場生成部7は、例えば、磁場を生成する1つ以上の電磁コイルを備える。磁場生成部7は、目標位置Rを含む領域に各電磁コイルから生じる磁場の方向、周波数、強度を任意に調整することにより任意の第1時間パターン及び任意の第1空間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する。磁場生成部7は、静磁場を生成してもよいし、交流磁場を生成してもよい。磁場生成部7は、例えば、対象物Pが人体である場合、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置であってもよい。
【0012】
検出部15は、対象物Pの内部の目標位置Rを検出する。検出部15は、例えば、対象物Pが人体である場合、MRI装置であってもよい。この場合、検出部15は、磁場生成部7であってもよい。検出部15は、診断用の超音波プローブであってもよい。検出部15は、対象物Pの内部の目標位置Rを測定可能であればどのようなものを用いてもよい。また、検出部15は目標位置Rにおける磁場の強度を検出してもよい。検出部15は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0013】
制御装置10は、例えば、検出部15の検出値に基づいて超音波出力部2及び磁場生成部7を連動して制御する制御部11と、制御に必要なデータが記憶された記憶部12と、制御を実行するための情報を表示する表示部13と、検出部15、磁場生成部7、及び超音波出力部2との間で信号を送受信する送受信部14とを備える。
【0014】
制御装置10は、ネットワークWを介して検出部15、磁場生成部7、及び超音波出力部2に接続されていてもよい。ネットワークWは、例えば、公衆回線、LAN、WAN等により構成されている。ネットワークWは、有線、無線等の様々な各種回線種類により構成されていてもよい。ネットワークWは、近接通信をするものであってもよい。
【0015】
制御装置10は、例えば、検出部15から検出値を取得する。制御装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理装置により構成されている。制御装置10は、ネットワークWに接続されたサーバ装置であってもよい。制御装置10は、ネットワークW上において超音波出力部2、磁場生成部7、及び検出部15と連動して動作するように構成されていてもよいし、超音波出力部2、磁場生成部7、及び検出部15と一体に構成されていてもよい。
【0016】
制御装置10は、例えば、検出部15から送受信部14を介して計測データを取得する。送受信部14は、例えば、データを送受信可能な通信インタフェースである。送受信部14は、取得したデータを記憶部12に記憶する。送受信部14は、後述のように、制御部11の制御信号を磁場生成部7及び超音波出力部2に出力する。記憶部12は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等により構成された非一時な記憶装置である。記憶部12は、制御装置10に一体又は別体に設けられていてもよいし、ネットワークWに接続されたサーバ装置であってもよい。
【0017】
記憶部12に記憶された計測データは、制御部11により読み出される。制御部11は、例えば、計測データに基づいて各波源3と目標位置Rとの相対的な位置関係を算出する。制御部11は、例えば、計測データに基づいて、予め設定された原点の位置を基準とした各波源3の座標を算出すると共に、目標位置Rの座標を算出する。制御部11は、目標位置Rの座標に基づいて、磁場生成部7及び1つ以上の波源3を個別に制御する。
【0018】
制御部11は、対象物Pの内部の目標位置Rを含む領域に磁場Bを生成する。制御部11は、例えば、目標位置Rの計測データ、磁場生成部7の位置、磁場生成部7を制御する制御情報に基づいて目標位置Rにおける磁場Bの強度、方向、周波数、位相等のパラメータに基づく磁場Bの経時的変化を算出する。制御部11は、目標位置Rにおいて第1時間パターンに基づく磁場Bの状態を算出する。第1時間パターンは、例えば、時間的に変化するパラメータを含む磁場Bの変化量である。第1パターンは、例えば、静磁場を生成するパターンであってもよいし、交流磁場を生成するパターンであってもよい。制御部11は、磁場生成部7を制御して対象物Pの内部の目標位置Rを含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場Bを生成する。
【0019】
制御部11は、例えば、1つ以上の波源3から出力される各超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、1つ以上の波源3からそれぞれ超音波を発生させる。制御部11は、1つ以上の波源3を個別に制御して方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生させる。制御部11は、目標位置Rに対して超音波を照射することにより、目標位置Rにおける第1時間パターンに基づく磁場の状態に応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を対象物Pの内部の目標位置Rを含む所定領域に発生させる。対象物Pの内部の目標位置Rを含む所定領域とは、例えば、対象物Pが人体である場合は、目標位置Rから所定距離範囲内の人体組織の塊である。所定領域Qは、対象物Pを構成する細胞組織、素材等により構成される電気伝導体である。
【0020】
これにより、対象物Pの目標位置Rにおける所定領域Qは、発生した力に基づいて目標位置Rから移動する。このとき、所定領域Qには第1時間パターンに基づく磁場Bが生じているため、磁場の方向及び時間的変化と所定領域Qに生じる速度の方向との関係に基づいて所定領域Qに電磁誘導に基づくローレンツ力が発生する。所定領域Qには、このローレンツ力に基づいて自体の電気伝導性や誘電率に応じた電位や電場や電流が生じる。
【0021】
制御部11は、所定領域Qに所望の電位、電流を発生させるため、磁場B及び超音波を調整することにより、目標位置Rにおける所定領域Qの移動量、移動方向、移動時間等を調整する。制御部11は、超音波出力部2、及び磁場生成部7を制御して、目標位置Rに対して1つ以上の超音波を照射する。制御部11は、第1時間パターンに応じて所定領域Qに所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、目標位置Rにおける所定領域Qを移動させ、所定領域Qに磁場Bに基づく任意の電位を生成する。制御部11は、例えば、生成された超音波に基づく力の状態、生成された電位を示す画像を生成し、表示部13に表示させる。
【0022】
表示部13は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等により構成される表示装置である。表示部13は、例えば、タッチパネルにより構成され、制御装置10を操作するための操作情報を入力する操作部であってもよい。操作部は、別体に設けられていてもよい。
【0023】
図2に示されるように、超音波出力部2は、異なる位置に配置された複数の波源3と、波源3を制御する発信部6とにより構成されている。各波源3は、対象物P内に超音波を入力可能に形成されている。各波源3は、例えば、対象物Pが人体である場合、対象物Pに貼付可能にパッド状に形成されていてもよい。各波源3は、一つの基板5上に配列されていてもよい。各波源3は、発信部6に電気的に接続されている。
【0024】
各波源3は、複数の超音波振動子4により構成されたフェーズドアレイ型の超音波トランデューサである。各波源3は、例えば、マトリクス状に配置された複数の超音波振動子4を備える。複数の超音波振動子4は、例えば、基板5上にm×n(m、nは任意の自然数)のマトリクス状に配置されている。基板5上には、第1方向(図のX軸方向)に沿ってm個の超音波振動子4の1列分の超音波振動子ユニット4Aが形成されている。超音波振動子ユニット4Aの配列方向に直交方向の第2方向(図のY軸方向)に沿って、n個の超音波振動子4の1列分の超音波振動子ユニット4Bが形成されている。
【0025】
複数の超音波振動子4の配列方法は一例であり、他の配列方法が用いられてもよい。また、各波源3においてm、nの数が異なっていてもよい。各波源3において制御する複数の超音波振動子4の数を調整し、m、nの数を調整してもよい。マトリクス状に配置された複数の超音波振動子4が一つの基板5上に配列されている場合、基板5を任意の大きさの複数の領域に区切り、各領域を個別に制御することで、複数の波源3を構成してもよい。各波源3は、隣接して配置されていてもよいし、異なる場所に配置されていてもよい。
【0026】
各超音波振動子4は、発信部6に個別に設けられた発信回路(不図示)に電気的に接続されている。各超音波振動子4は、発信回路から出力された高周波電力に基づいて振動する振動子を有し、振動子の振動に基づいて超音波振動を出力する。各発信回路は、制御部11により個別に制御される。制御部11は、各発信回路を個別に制御し、各超音波振動子4から出力される超音波の周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整する。
【0027】
制御部11は、例えば、各波源3を構成する複数の超音波振動子4の周波数及び振幅を同一としたビーム状に進行する超音波ビームを生成すると共に、各超音波振動子4の位相を個別に調整し、超音波ビームの進行方向を調整する。超音波ビームは、粗密波の平面波を形成して進行する。制御部11は、各波源3から出力される超音波の位相や偏波方向を調整し、円偏波や螺旋ビームに基づく超音波を発生してもよい。
【0028】
図3に示されるように、超音波振動子ユニット4Aの各超音波振動子4―mからは、球面波Smの超音波が出力される。このとき、隣接する超音波振動子4―mから出力される超音波の位相を第1方向に沿って所定量ずつ遅延させると、各超音波振動子4―mから出力される超音波の球面波Smの包絡線Hが等位相面となる平面波Jが形成される。この平面波Jは、包絡線Hの直交方向に進行する。
【0029】
同様に超音波振動子ユニット4Aの直交方向の超音波振動子ユニット4B(
図2参照)において隣接する超音波振動子4―n(不図示)から出力される超音波の位相を第2方向に沿って所定量ずつ遅延させると、形成される平面波Jの進行方向を調整することができる。上記制御方法に基づいて、波源3は、3次元方向において任意の方向に進行する平面波の超音波ビームを形成することができる。また、波源3は、各超音波振動子4から出力される超音波の位相や偏波方向を調整し、円偏波や螺旋ビームの超音波を発生してもよい。
【0030】
波源3は、複数の超音波振動子4が配列されたフェーズドアレイに構成される他に、音響プリズムを用いて超音波を特定の方向に進行させるように構成されていてもよい。超音波振動子ユニット4Aは、音響レンズを用いて円偏波や螺旋ビームの超音波を発生させてもよい。複数の波源3は、一つの音源から出力される超音波を収束させ目標位置に焦点を生じさせる音響レンズであってもよい。即ち、複数の波源3とは、一つの波源3から音響レンズを介して超音波を出力する音響レンズにおける計算上のモデル化された各微小要素であってもよい。この場合、複数の波源3となる各微小要素から出力される超音波に基づいて、音圧と位相が制御された超音波を出力する音響レンズが構成されてもよい。
【0031】
即ち、音響レンズは、複数の波源3となる各微小要素から出力される各超音波のパラメータを計算上において調整し、各超音波を目標位置に集束させ、各微小要素の極限をとることで連続的な音源とし、目標位置において所望の力を発生させるように形状が設計されてもよい。このように設計された音響レンズは、超音波を出力する際に複数の波源となる各微小要素において、各超音波の方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、各微小要素から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、対象物の内部における目標位置において複数の超音波を合成し、所望の力を発生させるように構成されていてもよい。上述した制御装置10の処理には、超音波出力部2を制御して、目標位置において合成波を音響レンズを介して発生させる計算を含んでもよい。
【0032】
図4に示されるように、制御部11は、複数の波源3に設けられた複数の超音波振動子4から出力される超音波の周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整し、複数の平面波Jを目標位置Rに向けて出力することができる。これにより制御部11は、複数の波源3から異なる周波数を有する複数の超音波を発生させ、物体内部における目標位置Rにおいて複数の超音波を合成し、所望の方向、強度、及び形状を有する力を所望の時間パターンに基づいて発生させることができる。
【0033】
以下、目標位置Rの所定領域Qにおいて任意の電位を発生させる原理について説明する。
【0034】
図5及び
図6に示されるように、媒質T中に超音波Uが存在する場合、媒質Tは、超音波Uの周波数で超音波Uの進行方向に沿って振動する。媒質Tの速度ベクトルをvで表す(
図6参照)。媒質Tに空間一様な静磁場が与えられている場合を考える。そうすると、超音波Uに基づいて振動する媒質Tにおいて、電荷qあたりローレンツ力:qv×Bが働く(
図6参照)。但し、Bは、磁場のベクトル、×はベクトル外積を示す。媒質Tに作用するローレンツ力が0でないための必要十分条件は、v×Bが0でないこと、すなわちvがBと並行でなく、Bの磁場方向に対して直交成分を有することである。
【0035】
媒質Tにおいて、超音波Uに基づいて生じるローレンツ力により、電荷分布が変化する。
図6の例では、ある瞬間に媒質Tにおいて、紙面方向に見て上部に低電位の部位が生じ、下部に高電位の部位が生じる。磁場Bが空間一様である場合、vの渦度ベクトルの磁場と直交する方向の成分に基づいて電位が発生する。
【0036】
図7に示されるように、超音波Uの位相は、時間の経過に従って変化し、超音波Uに基づいて振動する媒質Tの速度vもこれに伴って変化する。そうすると、媒質Tに生じる電位Vは、速度vに従って変化する。
【0037】
図8に示されるように、媒質Tが超音波Uに基づいて振動するのみであり、正味の移動が生じない場合、速度vの時間平均は、0となる(
図8(b)参照)。このとき、媒質Tに生じる電位Vの時間平均も、0となる(
図8(c)参照)。媒質Tにおいて、非線形効果が生じたり音波が吸収されたりすると、媒質Tが一定の方向に加速される場合がある(例えば、非特許文献4参照)。
【0038】
図9に示されるように、静磁場中において媒質Tが一定の方向に加速される場合、速度vの時間平均V1は、0でなくなる。
【0039】
図10に示されるように、速度vの時間平均V1に伴い、電位の時間平均も0でなくなる。この原理によれば、磁場が生じている導体内の所望の位置において、速度の時間平均が0でなくなるような動きを起こすように超音波を照射すると、導体内に時間的に永続する電位が形成される。即ち、超音波の放射パターンを調整し、導体内の所望の位置に磁場の方向と並行でない動きが生じるようにすることにより、導体内に0でない時間平均を持つ電位を生成することができる。
【0040】
さらに、超音波の放射パターンを調整することにより、物体内に所望の空間パターン及び時間パターンを有し、所望の時間持続する電位を生成することができる。また、磁場の時間パターン及び空間パターンに応じて超音波の放射パターンを調整してもよいし、超音波の放射パターンに基づいて生じる導体の動きに応じて磁場の時間パターン及び空間パターンを調整してもよい。
【0041】
即ち、電位発生装置1において制御部11は、磁場生成部7を制御して目標位置Rにおいて任意の時間パターン(第1時間パターン)に基づく磁場Bを生じさせる。磁場Bの時間パターンは、直流であってもよいし、交流等の経時的に変化するものであってもよい。制御部11は、超音波出力部2を制御して、目標位置Rに対して超音波を照射し、生成される磁場Bの方向に応じて方向を調整した力を発生させ、力の方向に従って所定領域Qを移動させる。これにより、所定領域Qに任意の時間パターン(第2時間パターン)を有する電位を任意の時間において生成することができる。
【0042】
電位の時間パターンは、直流であってもよいし、交流、パルス、衝撃電圧等の経時的に変化するものであってもよい。上記構成により、電位発生装置1は、例えば、生体内の目標位置Rにおいて、神経発火に必要な電位、膜電位、酸化還元電位等の任意の電位を発生させることができる。また、電位発生装置1は、生体内の目標位置Rにおいて、交流電位やパルス電位を発生させてもよいし、電位(電流)に基づいてジュール熱を発生させてもよい。
【0043】
静磁場が生じている導体内に直流電位を所望の時間において発生させる場合、対象物P内の目標位置Rを含む所定領域Qを継続的に移動させる必要がある。ここでいう直流電位とは、経時的に一定の電位だけでなく時間平均が0でない電位を含む(以下同じ)。超音波に基づいて対象物P内の目標位置Rに力を所定方向に与えた場合、所定領域Qは、力が加えられた方向に加速し、弾性変形により生じる反力に基づいて所定距離移動して停止する。このとき、所定領域Qには、移動に要した時間の間において電位が生じる。
【0044】
図11に示されるように、制御部11は、磁場生成部7を制御して静磁場を発生させる。
図11の例では、磁場Bは紙面の裏側から表側に向かって生成される。磁場生成部7において一定の磁場Bが自動的に生成される場合、制御部11は、必ずしも磁場生成部7を経時的に制御する必要はない。制御部11は、超音波出力部2を制御して、目標位置R(厳密には目標位置Rから若干ずれた位置:以下同様)に超音波Uを照射する。
【0045】
制御部11は、超音波出力部2を制御して、第1の波源3から第1の超音波U1を照射する。制御部11は、目標位置Rにおいて第1の超音波U1の振動周期に比して長い時間において所定領域Qに同一方向の速度成分vを生じるように第1の力F1を発生させる。このとき、制御部11は、磁場Bの方向と略直交する方向に第1の力F1を発生させ、第1の力の方向に従って所定領域Qを移動させる。制御部11は、所定領域Qに直流電位を移動に要する所定の時間において生成する(
図9及び
図10参照)。
【0046】
制御部11は、第1の力Fに基づいて移動する所定領域Qが停止するまでのタイミングにおいて、上記制御と同様に、超音波出力部2を制御して、第2の波源3から第2の超音波U2を照射する。制御部11は、目標位置Rにおいて第2の超音波U2の振動周期に比して長い時間において所定領域Qに同一方向の速度成分vを生じるように第2の力F2を発生させる。このとき、制御部11は、磁場Bの方向と略直交する方向に第2の力F2を発生させ、第2の力の方向に従って所定領域Qを移動させる。制御部11は、第1の力F1と同様に第2の力F2に基づいて所定領域Qに直流電位を移動に要する所定の時間において生成する。
【0047】
制御部11は、第2の力Fに基づいて移動する所定領域Qが停止するまでのタイミングにおいて、上記制御と同様に、超音波出力部2を制御して、第3の波源3から第3の超音波U3を照射する。制御部11は、目標位置Rにおいて第3の超音波U3の振動周期に比して長い時間において所定領域Qに同一方向の速度成分vを生じるように第3の力F3を発生させる。このとき、制御部11は、磁場Bの方向と略直交する方向に第3の力F3を発生させ、第3の力の方向に従って所定領域Qを移動させる。制御部11は、第1の力F1と同様に第3の力F3に基づいて所定領域Qに直流電位を移動に要する所定の時間において生成する。
【0048】
制御部11は、上記のように複数の超音波を照射する制御を実行し、所定領域Qを継続して移動させ、所定領域Qに直流電位を任意の時間において生成する。制御部11は、複数の超音波を時間遅延して照射してもよいし同時に照射してもよい。制御部11は、複数の超音波を照射する制御を繰り返し実行してもよいし、1回の制御を行ってもよい。
図11の例では、波源3が3個の場合を示しているが、波源3は、3個以上あってもよい。即ち、制御部11は、異なる位置に配置された複数の波源3に基づいて、異なる方向から複数の超音波Uを目標位置Rに向かって出力する。制御部11は、目標位置Rにおいて複数の超音波Uを合成し、磁場Bの方向と略直交する面方向に回転する力を発生させ、所定領域Qに、ひねり振動を生じさせる。これにより、制御部11は、所定領域Qに直流電位を所望の所定の時間において生成する。
【0049】
図11の例では、磁場方向と反対方向に見て反時計回りに回転する力を生じさせている。このとき、回転方向は時計回りであってもよい。制御部11は、目標位置において静磁場となる磁場を生成し、目標位置Rにおいて磁場Bの方向と略直交する面方向に回転する力Fを発生させ、力の方向に従って所定領域Qに磁場Bに対する回転成分(∇×v)を有するひねり振動を発生させ、所定領域Qに直流電位を所定の時間において生成する。
【0050】
図12Aには、シミュレーションに基づく所定領域Qに生じる速度の推定値が示されている。
図12Bには、シミュレーションに基づく目標位置Rの近傍に生じる電位分布の推定値が示されている。但し、シミュレーションは、対象物Pの媒質を脳と仮定し、各パラメータは以下の値に設定された。超音波周期:0.15μs、超音波の周波数:6.7MHz、波源3の数:24個、波源3の方向:24方向、超音波の照射時間:100μs、目標位置Rからの速度計測位置:4mm、超音波のピークエネルギー:1440W/cm
2、媒質の密度:10
3kg/m
3、音速:1500m/s、媒質の吸収係数0.3dB/MHz/cm、媒質のヤング率:4kPa、媒質のポアソン比:0.4、目標位置の磁場強度3.5T、電位の測定タイミング:超音波の照射開始から100μs。
【0051】
図示するように、目標位置Rを含む所定領域Qには、速度が生じると共に、直流電位が生じている。このように、静磁場が生じている対象物Pの目標位置Rに対して、異なる位置に配置された複数の波源3から出力される複数の超音波を合成して、磁場の方向と略直交する面方向に回転する力を発生させ、所定領域Qに直流電位を発生させることができる。所定領域Qは、複数の方向から照射される超音波に基づいて回転させるだけでなく、超音波出力部2から出力される音波に基づいて回転させてもよい。
【0052】
例えば、超音波出力部2から出力される音波を音響レンズに入力して渦音波を発生させ、目標位置Rにおいて渦音波に基づいて磁場の方向と略直交する面方向に回転する力を発生させ、所定領域Qにひねり振動を生じさせ、所定領域Q内に直流電位を発生させてもよい。音響レンズは、立体的な螺旋形状に形成されていてもよいし、フレネルレンズ状に形成されていてもよい。また、音響レンズは、音響メタマテリアルに基づいて形成されていてもよい。音響レンズの例を
図12Cに示す。
図12Cの例では、色の違いに基づいてレンズの厚さが示されている。渦音波は、アレー状に配置された複数の波源3を制御することにより発生させてもよい。
【0053】
図13には、所定領域Qに入力される渦音波の音圧分布の一例が示されている。
図14には、
図13の渦音波に基づいて所定領域Qに生じる電位分布が示されている。但し、超音波に関する各パラメータは、以下の値に設定された。目標位置Rの磁場強度3.5T、超音波のピークエネルギー:600W/cm
2、超音波の最大音圧:3MPa、超音波の照射半径:0.007m、超音波の周波数:3MHz。その他のパラメータは、
図11及び
図12の例に使用されたものと同様である。
図14に示されるように、所定領域Qには、1.2mV程度の電位が生じた。所定領域Qに生じる電位を増大させたい場合、所定領域Qに生じるひねり振動の振幅を増大させればよい。
【0054】
図15に示されるように、所定領域Qに対して媒質の固有周期に一致する周期のひねり振動を与えた場合、所定領域Qが共振し、振幅が増大する。弾性体のひねり振動の振動周波数は、回転半径と媒質のヤング率、ポアソン比、密度等のパラメータにより決定される。そのため、対象物Pを構成する媒質に応じて、所定領域を共振させる周期においてひねり振動となる力を発生させるように超音波のパラメータを調整すれば、所定領域Qに少ないエネルギー入力に比して所定領域Qに大きな直流電位を所定の時間において生成することができる。
【0055】
図16から
図19に示されるように、所定領域Qに共振周波数に基づくひねり振動を生じさせると、所定領域Qに大きな直流電位を所定の時間において生成することができる。
図16から
図19に示される例では、超音波に関する各パラメータは、以下の値に設定された。目標位置Rの磁場強度3.5T、超音波のピークエネルギー:67W/cm
2、超音波の最大音圧:1MPa、超音波の照射半径:0.007m、超音波の周波数:3MHz。その他のパラメータは、
図11及び
図12Aの例に使用されたものと同様である。
【0056】
図16から
図19に示される例では、所定領域Qに11mV程度の電位が生じた。
図16から
図19に示される例では、
図11及び
図12に示される例に比して入力される超音波のエネルギーが1/10程度であるのに比して、所定領域Qに生じる電位が10倍程度に向上し、エネルギー効率が80倍超となった。即ち、制御部11は、超音波出力部2を制御して超音波を目標位置Rに照射し、所定領域Qを共振させる周期においてひねり振動となる力を発生させ、所定領域Qに直流電位を任意の所定の時間において生成する。
【0057】
図20には、電位発生装置1を用いた電位発生方法の処理の流れが示されている。電位発生装置1は、磁場を生成する磁場生成部7を用いて対象物Pの内部の目標位置Rを含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する(ステップS100)。電位発生装置1は、1つ以上の波源3を個別に制御し方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生する(ステップS102)。電位発生装置1は、目標位置Rに対して1つ以上の超音波を照射することにより第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、発生させた力に基づいて目標位置Rにおける対象物Pの所定領域Qを移動させ、所定領域Qに磁場に基づく任意の電位を生成する(ステップS104)。
【0058】
上述したように、電位発生装置1によれば、生体等の導電体(対象物P)の内部の任意の位置において超音波と磁場とを用いて任意の電位を発生させることができ、非侵襲的な治療装置に適用することができる。電位発生装置1によれば、導電体の内部の任意の位置において任意の時間パターンを有する電位を発生させることができ、神経発火、膜電位、酸化還元電位等、所望の効果をもたらす電位や電場もしくは電流を発生させることができる。電位発生装置1によれば、超音波を用いて対象物P内の所定領域Qを継続的に移動させることにより、所定領域Q内に直流電位を任意の時間において発生させることができる。
【0059】
電位発生装置1によれば、所定領域Qに超音波に基づく渦音波を照射することにより、所定領域にひねり振動を生じさせることができ、所定領域Qに継続的に時間平均が0でない電位を発生させることができる。電位発生装置1によれば、所定領域Qにひねり振動を生じさせる際に、所定領域Qを共振させることにより、少ないエネルギーの入力に比して大きな電位を発生させることができる。また、電位発生装置1によれば、導電体内部の任意の位置に任意の時間パターンを有する電位を発生させることができ、非破壊的な修理装置や検査装置に適用することができる。
【0060】
上述した制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、記憶部12が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。また、プログラムは、必ずしも必要ではなく、制御装置10において順序回路を構成することにより所定の動作が実行されるようにしてもよい。
【0061】
プログラムは、対象物Pの内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する磁場生成部7と、超音波を発生する1つ以上の波源3を備える超音波出力部2とを連動して制御する制御装置10に搭載されるコンピュータにおいて以下の処理を行わせるように実行される。
【0062】
プログラムは、磁場生成部7を制御させて対象物Pを含む領域に磁場を生成させる。プログラムは、超音波出力部2を制御させ、1つ以上の波源3から方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生させる。これにより、目標位置Rに対して照射された1つ以上の超音波に基づいて第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状の空間パターンを有する力を発生させ、発生させた力に基づいて目標位置Rにおける対象物Pの所定領域Qを移動させ、所定領域Qに磁場に基づく任意の電位を生成させる。
【0063】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、電位発生装置1は、所定領域Qにひねり振動を生じさせるだけでなく、直動する振動を生じさせてもよい。この場合、電位発生装置1は、所定領域Qの振動周波数に応じて磁場生成部7を制御して交流磁場を生成し、所定領域Qに直流電位を発生させてもよい。また、電位発生装置1は、周波数が異なる超音波を合成し、うなりを発生させ、うなりに基づいて所定領域Qを共振させてもよい。
【0064】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]磁場を生成する磁場生成部を用いて対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成し、1つ以上の波源を個別に制御し方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の超音波を発生し、前記目標位置に対して1つ以上の前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、電位発生方法。
[2]前記目標位置において前記第1時間パターンに基づいて生成される前記磁場の方向に応じて方向を調整した前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域を移動させ、前記所定領域に任意の第2時間パターンを有する電位を生成する、[1]に記載の電位発生方法。
[3]前記目標位置において前記超音波の振動周期に比して長い時間において前記所定領域に同一方向の速度成分を生じるように前記力を発生させ、前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、[1]又は[2]に記載の電位発生方法。
[4]前記磁場の方向と略直交する方向に前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域を移動させ、前記所定領域に直流電位を任意の時間において生成する、[1]から[3]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[5]前記目標位置において静磁場となる前記磁場を生成し、前記目標位置において前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させ、前記力の方向に従って前記所定領域にひねり振動を発生させ、前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、[1]から[4]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[6]異なる位置に配置された複数の前記波源に基づいて、異なる方向から複数の前記超音波を前記目標位置に向かって出力し、前記目標位置において複数の前記超音波を合成し、前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、[1]から[5]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[7]前記超音波を音響レンズに基づいて渦音波を発生させ、前記目標位置において前記渦音波に基づいて前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、[1]から[5]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[8]異なる位置に配置された複数の前記波源から出力される複数の前記超音波を合成して渦音波を発生させ、前記目標位置において前記渦音波に基づいて前記磁場の方向と略直交する面方向に回転する前記力を発生させる、[1]から[5]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[9]前記所定領域を共振させる周期において前記ひねり振動となる前記力を発生させ、前記所定領域に直流電位を所定の時間において生成する、[1]から[9]のうちいずれか1つに記載の電位発生方法。
[10]対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する磁場生成部と、超音波を発生する1つ以上の波源を備える超音波出力部と、前記超音波出力部と前記磁場生成部とを連動して制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記磁場生成部を制御して前記対象物を含む領域に磁場を生成し、前記超音波出力部を制御して方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の前記超音波を発生し、前記目標位置に対して前記超音波を照射することにより前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成する、電位発生装置。
[11]対象物の内部の目標位置を含む領域に任意の第1時間パターンに基づく強度を有する磁場を生成する磁場生成部と、超音波を発生する1つ以上の波源を備える超音波出力部とを連動して制御する制御装置に搭載されるコンピュータにおいて実行されるプログラムであって、前記コンピュータに、前記磁場生成部を制御させて前記対象物を含む領域に磁場を生成させ、前記超音波出力部を制御させ、1つ以上の前記波源から方向、周波数、振幅、及び位相の各パラメータを個別に調整した1つ以上の前記超音波を発生させる処理を実行させ、前記目標位置に対して照射された1つ以上の前記超音波に基づいて前記第1時間パターンに応じて所望の方向、強度、及び形状を有する力を発生させ、前記力に基づいて前記目標位置における前記対象物の所定領域を移動させ、前記所定領域に前記磁場に基づく任意の電位を生成させる、プログラム。
【符号の説明】
【0065】
1 電位発生装置
2 超音波出力部
3 波源
6 発信部
7 磁場生成部
10 制御装置
11 制御部
12 記憶部
13 表示部
14 送受信部
15 検出部
B 磁場
P 対象物
Q 所定領域
R 目標位置
U 超音波
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0066】
【非特許文献1】Michael G Christiansen, et al. “Magnetic Strategies for Nervous System Control” Annu Rev Neurosci. 42: 271-293, 2019 Apr 2.
【非特許文献2】Nir Grossman, et al. ”Noninvasive Deep Brain Stimulation via Temporally Interfering Electric Fields” Cell 169, 1029-1041, 2017
【非特許文献3】Boyang Shen, et al. ”Design and simulation of superconducting Lorentz Force Electrical Impedance Tomography (LFEIT)” Physica C: Superconductivity and Its Applications, 524, 5-12, 2016
【非特許文献4】Kathy Nightingale, et al. “Acoustic Radiation Force Impulse (ARFI) Imaging: A Review” Current Medical Imaging Volume 7, Issue 4, 328-339 2011