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特開2024-67934過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067934
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178364
(22)【出願日】2022-11-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「MRM向けセンサおよびゲートドライブ回路の研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高宮 真
(72)【発明者】
【氏名】畑 勝裕
(72)【発明者】
【氏名】張 海峰
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB01
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM01
5H740MM12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パワー半導体素子がオンしているときに過電流を検出する過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法を提供する。
【解決手段】過電流検出装置を搭載し、集積回路として構成されるゲート駆動装置20において、複数のPMOSFET(スイッチング素子)Tpと、複数のNMOSFET(スイッチング素子)Tnと、を備えるゲート駆動回路22と、ゲート駆動回路22によりゲートが駆動されるIGBT(パワー半導体素子)10と、IGBT10がオンしているときに、所定時間毎にIGBT10のゲートに蓄積されている電荷を所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるようにゲート駆動回路22を制御する制御回路24と、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、IGBT10に過電流が発生しているとを検出する過電流検出回路26と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出する過電流検出装置であって、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御する制御回路と、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、前記パワー半導体素子に前記過電流が発生していることを検出する過電流検出回路と、
を備える過電流検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の過電流検出装置であって、
前記放電動作は、前記所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を所定放電電流で前記所定放電時間放電する動作であり、
前記所定放電時間および前記所定放電電流は、前記パワー半導体素子がターンオンしてから最初に前記放電動作を実行したときの前記ゲート電圧の最小値と、前記過電流が発生しているときに前記放電動作を実行したときの前記ゲート電圧の最小値と、の差が所定差以上となるように調整されている
過電流検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の過電流検出装置であって、
前記所定放電時間および前記所定放電電流は、前記パワー半導体素子がオンしているときに前記放電動作を実行しない場合における前記パワー半導体素子のエネルギー損失である第1総エネルギー損失に対する前記パワー半導体素子がオンしているときに前記放電動作を実行した場合における前記パワー半導体素子のエネルギー損失と前記制御回路の前記放電動作時のエネルギー損失との和である第2総エネルギー損失の割合が所定割合以下になるように調整されている
過電流検出装置。
【請求項4】
請求項1記載の過電流検出装置であって、
前記パワー半導体素子は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタであり、
前記ゲート電圧は、前記ゲートとエミッタとの間の電圧である
過電流検出装置。
【請求項5】
パワー半導体素子のゲートを駆動するゲート駆動回路を備えるゲート駆動装置であって、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御する制御回路と、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、過電流検出信号を前記制御回路に出力する過電流検出回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記過電流検出信号を入力したときには、前記パワー半導体素子がオフするように前記ゲート駆動回路を制御する
ゲート駆動装置。
【請求項6】
請求項5記載のゲート駆動装置であって、
前記パワー半導体素子は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタであり、
前記ゲート電圧は、前記ゲートとエミッタとの間の電圧である
ゲート駆動装置。
【請求項7】
ゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出する過電流検出方法であって、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御し、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、前記パワー半導体素子に前記過電流が発生していることを検出する
過電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法に関し、詳しくは、ゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出する過電流検出装置、複数のスイッチング素子のスイッチングを伴ってパワー半導体素子のゲートを駆動するゲート駆動回路を備えるゲート駆動装置およびゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出する過電流検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の過電流検出装置としては、ゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出するものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この装置では、パワー半導体素子のターンオン時に、ゲート電圧(ゲートエミッタ間電圧)がミラープラトー電圧を超えて単調増加するときには、パワー半導体素子に過電流が発生していることを検出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Takeshi Horiguchi, Shin-ichi Kinouchi,Yasushi Nakayama, Takeshi Oi,Hiroaki Urushibata, Shoji Okamoto, Shinji Tominaga, and Hirofumi Akagi, "A Short Circuit Protection Method Based on a Gate Charge Characteristic", The 2014 International Power Electronics Conference, pp. 2290-2296, May 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の過電流検出装置では、パワー半導体素子がターンオンするときの過電流を検出できるものの、パワー半導体素子がターンオンした後のオン状態での過電流を検出することができない。パワー半導体素子がターンオンした後も過電流が発生し得るため、パワー半導体素子がオンしているときに過電流を検出することが望まれている。
【0005】
本発明の過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法は、パワー半導体素子がオンしているときに過電流を検出することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の過電流検出装置、ゲート駆動装置および過電流検出方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の過電流検出装置は、
ゲート駆動回路によりゲートが駆動されるパワー半導体素子の過電流を検出する過電流検出装置であって、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御する制御回路と、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、前記パワー半導体素子に前記過電流が発生していることを検出する過電流検出回路と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の過電流検出装置では、制御回路は、パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎にゲートに蓄積されている電荷を所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるようにゲート駆動回路を制御する。過電流検出回路は、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、パワー半導体素子に過電流が発生していることを検出する。パワー半導体素子がオンしているときに過電流が発生すると、放電動作の実行中にゲート電圧が急激に低下する。したがって、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上のときには、パワー半導体素子に過電流が発生していることを検出することにより、パワー半導体素子をオンしているときに過電流を検出できる。ここで、「所定量」としては、パワー半導体素子に過電流が発生しているか否かを判定するためのゲート電圧の低下量の閾値などを挙げることができる。
【0009】
こうした本発明の過電流検出装置において、前記放電動作は、前記所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定放電電流で所定放電時間放電する動作であり、前記所定放電時間および前記所定放電電流は、前記パワー半導体素子がターンオンしてから最初に前記放電動作を実行したときの前記ゲート電圧の最小値と、前記過電流が発生しているときに前記放電動作を実行したときの前記ゲート電圧の最小値と、の差が所定差以上となるように調整されていてもよい。こうすれば、より適正に、パワー半導体素子がオンしているときの過電流を検出できる。ここで、「所定差」としては、パワー半導体素子に過電流が発生しているか否かを精度よく判定するための、パワー半導体素子がターンオンしてから最初に放電動作を実行したときのゲート電圧の最小値と過電流が発生しているときに放電動作を実行したときのゲート電圧の最小値との差の閾値などを挙げることができる。
【0010】
この場合において、前記所定放電時間および前記所定放電電流は、前記パワー半導体素子がオンしているときに前記放電動作を実行しない場合における前記パワー半導体素子のエネルギー損失である第1総エネルギー損失に対する前記パワー半導体素子がオンしているときに前記放電動作を実行した場合における前記パワー半導体素子のエネルギー損失と前記制御回路の前記放電動作時のエネルギー損失との和である第2総エネルギー損失の割合が所定割合以下になるように調整されてもよい。こうすれば、エネルギー損失の増加を抑制しつつ、パワー半導体素子がオンしているときの過電流を検出できる。
【0011】
さらに、本発明の過電流検出装置において、前記パワー半導体素子は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタであり、前記ゲート電圧は、前記ゲートとエミッタとの間の電圧としてもよい。こうすれば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタがオンしているときの過電流を検出できる。
【0012】
本発明のゲート駆動装置は、
パワー半導体素子のゲートを駆動するゲート駆動回路を備えるゲート駆動装置であって、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御する制御回路と、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、過電流検出信号を前記制御回路に出力する過電流検出回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記過電流検出信号を入力したときには、前記パワー半導体素子がオフするように前記ゲート駆動回路を制御する
ことを要旨とする。
【0013】
この本発明のゲート駆動装置は、制御回路は、パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎にゲートに蓄積されている電荷を所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるようにゲート駆動回路を制御する。過電流検出回路は、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、過電流検出信号を制御回路に出力する。パワー半導体素子がオンしているときに過電流が発生すると、放電動作の実行中にゲート電圧が急激に低下する。過電流検出回路は、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、過電流検出信号を制御回路に出力するから、過電流検出信号の出力により、パワー半導体素子がオンしているときの過電流を検出できる。そして、制御回路は、過電流検出信号を入力したときには、パワー半導体素子がオフするようにゲート駆動回路を制御する。これにより、パワー半導体素子に流れる電流を停止させることができる。この結果、パワー半導体素子がオンしているときに過電流を検出できると共に、パワー半導体素子の保護を図ることができる。ここで、「所定量」としては、パワー半導体素子に過電流が発生しているか否かを判定するためのゲート電圧の低下量の閾値などを挙げることができる。
【0014】
こうした本発明のゲート駆動装置において、前記パワー半導体素子は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタであり、前記ゲート電圧は、前記ゲートとエミッタとの間の電圧としてもよい。こうすれば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタがオン状態のときに過電流を検出できると共に、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの保護を図ることができる。
【0015】
本発明の過電流検出方法は、
前記パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎に前記ゲートに蓄積されている電荷を前記所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるように前記ゲート駆動回路を制御し、
前記放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、前記パワー半導体素子に前記過電流が発生していることを検出する
ことを要旨とする。
【0016】
この本発明の過電流検出方法では、パワー半導体素子がオンしているときには、所定時間毎にゲートに蓄積されている電荷を所定時間より短い所定放電時間放電する放電動作が実行されるようにゲート駆動回路を制御する。放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上になったときには、パワー半導体素子に過電流が発生していることを検出する。パワー半導体素子がオン状態のときに過電流が発生すると、放電動作の実行中にゲート電圧が急激に低下する。したがって、放電動作の実行中にゲート電圧の低下量が所定量以上のときには、パワー半導体素子に過電流が発生していることを検出することにより、パワー半導体素子がオン状態のときに過電流を検出できる。ここで、「所定量」としては、パワー半導体素子に過電流が発生しているか否かを判定するためのゲート電圧の低下量の閾値などを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例としての過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】IGBT10をオンしているときのNp個のトランジスタTpによる出力電圧VpやNn個のトランジスタTnによる出力電圧Vn、IGBT10のゲート電流Ig、IGBT10のゲートとエミッタとの間のゲート電圧Vge、IGBT10のコレクタ電流Ic、IGBT10のコレクタとエミッタとの間のコレクタ電圧Vceの時間変化の概略を示すタイミングチャートである。
図3】IGBT10のゲートに蓄積される電荷量(ゲート電荷量)Qcとゲート電圧Vgeとの関係の一例を説明するための説明図である。
図4】個数Nonを個数N1としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である。
図5】個数Nonを個数N1より大きい個数N2としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である。
図6】個数Nonを個数N2より大きい個数N3としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である
図7】時間t2を200nsにしたときの放電動作の際にオンするトランジスタTnの個数Nonと、放電動作時のゲート電圧Vgeの最小値Vminとの関係の一例を示す説明図である。
図8】時間t2を300nsにしたときの放電動作の際にオンするトランジスタTnの個数Nonと、放電動作時のゲート電圧Vgeの最小値Vminとの関係の一例を示す説明図である。
図9】個数Nonと、比較例のエネルギー損失Econvに対するエネルギー損失Etotalの割合Reとの関係の一例を示す説明図である。
図10】変形例のゲート駆動装置120の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例0019】
図1は、本発明の一実施例としての過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。ゲート駆動装置20は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、パワー半導体素子)10のゲートを駆動するIC(集積回路)として構成されており、ゲート駆動回路22と、制御回路24と、過電流検出回路26と、を備える。IGBT10のコレクタは、負荷としてのダイオードD2やダイオードD2と並列に接続されるリアクトルLを介して電源Vs1の正極の電力ラインに接続されている。IGBT10のエミッタは、電源Vs1の負極の電力ラインに接続されている。電源Vs1の正極の電力ラインと負極の電力ラインとの間には、平滑用のコンデンサCが接続されている。IGBT10には、ダイオードD1が逆方向に並列に(IGBT10のエミッタからコレクタの方向が順方向になるように)接続されている。
【0020】
ゲート駆動回路22は、PMOSFET(Pチャネル型金属酸化膜半導体電解効果トランジスタ)として形成されたNp個のトランジスタ(スイッチング素子)Tpと、NMOSFET(Nチャネル型金属酸化膜半導体電解効果トランジスタ)として形成されたNn個のトランジスタ(スイッチング素子)Tnと、を備える。Np個のトランジスタTpとNn個のトランジスタTnとは、ドレイン同士が接続されている。Np個のトランジスタTpのソースは、電源Vs2の正極の電力ラインに接続されている。Nn個のトランジスタTnのソースは、電源Vs2の負極の電力ラインに接続されている。トランジスタTpとトランジスタTnとの接続点は、IGBT10のゲートに接続されている。なお、トランジスタTpの個数は、トランジスタTnの個数と同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
制御回路24は、ゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnにゲート電圧を印加して複数のトランジスタTp、Tnを制御する回路として構成されている。各トランジスタTp、Tnのゲート電圧は、各トランジスタTp、Tnにおいて同一でもよいし、互いに異なっていてもよい。制御回路24は、ゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnのゲート電圧を周期的に切り替える(各トランジスタTp、Tnをスイッチング制御する)ことで、IGBT10をオンオフする。
【0022】
過電流検出回路26は、入力回路260と、コンパレータ262と、を備えている。入力回路260は、図示はしないが、減衰器と、ハイパスフィルタ(HPF)とを備える。入力回路260は、IGBT10のゲートに接続され、IGBT10のゲート電圧Vgeを入力し、入力したゲート電圧Vgeを減衰器によりコンパレータ262に入力可能な適正な振幅に減衰させてHPFにより低周波数成分をカットした後の調整後電圧Vgtをコンパレータ262に出力する。コンパレータ262は、入力した調整後電圧Vgtと電圧閾値Vreftとを比較し、調整後電圧Vgtが電圧閾値Vreft以下のときには、過電流検出信号を制御回路24に出力する。電圧閾値Vreftについては後述する。
【0023】
次に、こうして構成された実施例の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20の動作、特に、IGBT10をオンするときの動作について説明する。
【0024】
図2は、IGBT10をオンしているときのNp個のトランジスタTpによる出力電圧VpやNn個のトランジスタTnによる出力電圧Vn、IGBT10のゲート電流Ig、IGBT10のゲートとエミッタとの間のゲート電圧Vge、IGBT10のコレクタ電流Ic、IGBT10のコレクタとエミッタとの間のコレクタ電圧Vceの時間変化の概略を示すタイミングチャートである。図3は、IGBT10のゲートに蓄積される電荷量(ゲート電荷量)Qcとゲート電圧Vgeとの関係の一例を説明するための説明図である。図3中、破線は、IGBT10に過電流が発生しておらずIGBT10のコレクタ電流Icが値I1である場合におけるゲート電荷量Qcとゲート電圧Vgeとの関係の一例を示す。一点鎖線は、IGBT10に過電流が発生しておらずIGBT10のコレクタ電流Icが値I1より大きい値I2である場合におけるゲート電荷量Qcとゲート電圧Vgeとの関係の一例を示す。実線は、IGBT10に過電流が発生しておりコレクタ電流Icが値I2より大きい値I3であるときのゲート電荷量Qcとゲート電圧Vgeとの関係の一例を示す。
【0025】
制御回路24は、IGBT10をオンするときには、時間t1の間Np個のトランジスタTpがオンすると共にNn個のトランジスタTnがオフするようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する。これにより、図2に示すように、IGBT10のゲートが充電されてゲート電圧Vgeが速やかに電圧VHまで上昇し、コレクタ電流Icが増加を開始する。
【0026】
制御回路24は、その後、時間(所定放電時間)t2の間Np個のトランジスタTpがオフすると共にNn個のトランジスタTnのうちNm個がオンし残余の((Nn-Nm)個の)トランジスタTnがオフするようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する。このとき、オンするトランジスタTnの個数Non(=Nm)は、IGBT10のオンが継続する(IGBT10がオフしない)個数に調整されている。これにより、図2に示すように、Nm個のトランジスタTnによる電流(所定放電電流)Inmで時間t1の間に蓄積されたゲート電荷量Qcの一部である電荷量Qdc(=Ig・t2)を放電する放電動作が実行される。こうした放電動作の後は、再び、時間t1の間Np個のトランジスタTpがオンすると共にNn個のトランジスタTnがオフするようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する。これにより、ゲートが充電されて、ゲート電圧Vgeが電圧VHに上昇する。
【0027】
制御回路24は、時間t1の間Np個のトランジスタTpがオンすると共にNn個のトランジスタTnがオフするようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する動作と、時間(所定放電時間)t2の間Np個のトランジスタTpがオフすると共にNn個のトランジスタTnのうちNm個がオンし残余の((Nn-Nm)個の)トランジスタTnがオフするようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する放電動作とを繰り返す。こうして制御回路24は、時間(所定時間)tref(=t1+t2)毎に、電荷量Qdcを時間t2の間放電する放電動作を繰り返し実行する。時間trefは、IGBT10の短絡耐量に比して短くなるように設定する。
【0028】
IGTB10に過電流が発生していないときには、図2に示すように、放電動作により電荷量Qdcを放電すると、ゲート電圧Vgeは電圧VHから電圧低下量Vdrop分低下して最小値Vminとなる。ゲート電圧Vgeの最小値Vminは、コレクタ電流Icの増加と共に大きくなる(電圧低下量Vdropは、コレクタ電流Icの増加と共に小さくなる)。これは、図3に示すように、IGTB10に過電流が発生していないときには、ミラープラトー電圧が、コレクタ電流Icが大きいときには小さいときに比して高く、一定のゲート電荷量Qcを放電させたときのゲート電圧Vgeが、コレクタ電流Icが大きいときには小さいときに比し大きくなる傾向であることに基づく。
【0029】
IGTB10に過電流が発生しているときには、図2に示すように、放電動作により電荷量Qdcを放電すると、電圧低下量Vdropが過電流が発生していないときに比して大きくなり、最小値Vminが小さくなる。これは、図3に示すように、IGBT10に過電流が発生しているときは、ゲート容量が過電流が発生していないときに比して小さくなり、ミラープラトー電圧も示さなくなることに基づく。したがって、電圧閾値Vrefを過電流が発生したか否かを判定するための閾値に設定し、放電動作中のゲート電圧Vgeが電圧閾値Vref以下となったときにIGBT10に過電流が発生していることを検出できる。
【0030】
過電流検出回路26は、上述したように、調整後電圧Vgtが電圧閾値Vreft以下のときには、過電流検出信号を制御回路24に出力する。ここで、電圧閾値Vreftを電圧閾値Vrefを減衰器で減衰させたときの電圧に設定することにより、IGBT10に過電流が発生していることを検出できる。言い換えると、過電流検出回路26は、ゲート電圧Vgeが電圧閾値Vref以下のとき、つまり、ゲート電圧Vgeの電圧低下量Vdropが所定量Vdref(=VH-Vref)のときに、過電流検出信号を制御回路24に出力することで、IGBT10に過電流が発生していることを検出している。
【0031】
ここで、放電動作を継続させる時間t2および放電動作の際にオンするトランジスタTnの個数Nonの設定手法について説明する。放電動作により放電する電荷量Qdcは、時間t2と個数Nonとの積に比例するが、電荷量Qdcが過剰に小さいと電圧低下量Vdropが過剰に小さくなり過電流を検出することができなくなり、電荷量Qdcが過剰に大きいと、時間t2の放電動作とその後のゲートの充電とを繰り返したときのゲート駆動装置20のエネルギー損失が増大してしまう。そのため、電荷量Qdcを適正に設定する必要がある。
【0032】
図4は、個数Nonを個数N1としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である。図5は、個数Nonを個数N1より大きい個数N2としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である。図6は、個数Nonを個数N2より大きい個数N3としたときのゲート電圧Vgeとコレクタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの変化を説明するための説明図である。図4図6では、時間t2を300nsに設定している。図4図6において、過電流が発生する以前には、コレクタ電流Icの増加と共にミラープラトー電圧が増加するためにゲート電圧Vgeの最小値Vminが増加する。過電流が発生したときには、図4では最小値Vminがほとんど低下せずに電圧閾値Vref以下とならないことから過電流を検出できないが、図5図6では、最小値Vminが低下して電圧閾値Vref以下となることから過電流を検出できる。したがって、個数Nonおよび時間t2、つまり、電荷量Qdcを調整することにより、過電流の検出が可能となる。
【0033】
図7は、時間t2を200nsにしたときの放電動作の際にオンするトランジスタTnの個数Nonと、放電動作時のゲート電圧Vgeの最小値Vminとの関係の一例を示す説明図である。図8は、時間t2を300nsにしたときの放電動作の際にオンするトランジスタTnの個数Nonと、放電動作時のゲート電圧Vgeの最小値Vminとの関係の一例を示す説明図である。図7図8中、実線は、個数Nonと、IGBT10のターンオンを開始した直後の放電動作での最小値Vminである電圧Vmininitとの関係の一例を示している。破線は、個数Nonと、IGBT10に過電流が発生したときの放電動作での最小値Vminである電圧Vminocとの関係の一例を示している。図9は、個数Nonと、比較例のエネルギー損失(第1総エネルギー損失)Econvに対する実施例のエネルギー損失(第2総エネルギー損失)Etotalの割合Reとの関係の一例を示す説明図である。エネルギー損失Econvは、IGBT10をオンするときに放電動作を実行しない(トランジスタTnを全てオフする)比較例のゲート駆動装置におけるIGBT10のエネルギー損失である。エネルギー損失Etotalは、過電流が発生していない場合において、IGBT10のエネルギー損失と、放電動作時のエネルギー損失の増加量と、の和である。IGBT10のエネルギー損失は、過電流が発生していない所定時間tcalの期間においてIGBT10をオンしているときのIGBT10のエネルギー損失であって、コレクタ電流Icとコレクタ電圧Vceとの積を所定時間tcalで積分した値である。放電動作時のエネルギー損失の増加量は、放電動作時のゲート電流Igと電圧VHと時間t2と過電流が発生していない所定時間tcalの期間における放電動作の回数との積である。図9中、実線は、時間t2を200nsにしたときの個数Nonと割合Reとの関係の一例を示している。破線は、時間t2を300nsにしたときの個数Nonと割合Reとの関係の一例を示している。図7図9において、時間t1は、1μsに設定され、時間t1の期間オンするトランジスタTpの個数は、Np個に設定されている。しかし、時間t1の期間オンするトランジスタTpの個数は、放電動作で放電した電荷量Qdcを充電してゲート電圧Vgeを電圧VHに上昇させることができる時間、個数があれば、如何なる時間に設定してもよい。
【0034】
図7図8に示す電圧Vmininitと電圧Vminocとの差が所定差以上のときには、所定未満のときに比して過電流をより精度よく検出できる。また、IGBT10がオン動作のときに放電動作を実行すると放電動作を実行しないときに比してエネルギー損失が増加するが、図9に示す割合Reが所定割合以下のときには、放電動作によるエネルギー損失の増加が小さいと考えられる。したがって、時間t2、個数Nonを、図7図9において、電圧Vmininitと電圧Vminocとの差が所定差以上であり、且つ、割合Reが所定割合以下になるように設定することが望ましい。実施例では、こうしたことを考慮して、時間t2を300nsに設定し、個数Nonを個数Nonrefに設定する。これにより、ゲート駆動装置20のエネルギー損失を抑制しつつ、過電流を適正に検出できる。
【0035】
制御回路24は、過電流検出回路26から過電流検出信号を入力したときには、IGBT10がオフとなるようにゲート駆動回路22の各トランジスタTp、Tnを制御する。こうした制御により、IGBT10に過電流が発生していることを検出したときには、IGBT10をオフにするからり、IGBT10の保護を図ることができる。
【0036】
以上説明した実施例の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20によれば、制御回路24は、IGBT10がオンしているときには、時間tref毎にゲートに蓄積されている電荷を短い時間t1(所定放電時間)放電する放電動作が実行されるようにゲート駆動回路22を制御し、過電流検出回路26は、放電動作の実行中にゲート電圧Vgeの電圧低下量Vdropが所定量Vdref以上になったときには、過電流を検出するから、IGBT10がオンするときに過電流が発生していることを検出できる。
【0037】
また、過電流検出回路26は、放電動作の実行中にゲート電圧Vgeの電圧低下量Vdropが所定量Vdref以上になったときには、過電流検出信号を制御回路24に出力し、制御回路24は、過電流検出信号を入力したときには、IGBT10がオフするようにゲート駆動回路22を制御することにより、IGBT10に過電流が発生していることを検出すると共に、IGBT10の保護を図ることができる。
【0038】
実施例の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20では、時間t2、個数Nonを、電圧Vmininitと電圧Vminocとの差が所定差以上であり、且つ、割合Reが所定割合以下になるように設定している。しかし、エネルギー損失の増加の抑制を考慮しないときには、時間t2、個数Nonを、電圧Vmininitと電圧Vminocとの差が所定差以上となるように設定してもよい。
【0039】
実施例の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20では、過電流検出回路26は、過電流検出信号を制御回路24に出力している。しかし、過電流検出回路26は、図10の変形例のゲート駆動装置120に示すように、過電流検出信号を、制御回路24とは異なる各種情報を処理する処理装置130に出力して、処理装置130で過電流検出信号に基づいて所定の処理を実行してもよい。
【0040】
実施例の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20では、IGBT10に負荷としてダイオードD2やリアクトルLが接続されている。しかし、IGBT10には、例えば他のIGBTなど、ダイオードD2やリアクトルLとは異なる負荷を接続してもよい。また、IGBT10に、ダイオードD1を接続してもよい。
【0041】
実施例では、本発明の過電流検出装置を搭載するゲート駆動装置20を、IGBT10に適用する場合について例示している。しかし、IGBT10に代えて、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などゲートを有するパワー半導体素子であれば如何なるものに適用してもよい。
【0042】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、ゲート駆動回路22が「ゲート駆動回路」に相当し、IGBT10が「パワー半導体素子」に相当し、制御回路24が「制御回路」に相当し、過電流検出回路26が「過電流検出回路」に相当する。
【0043】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0044】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、過電流検出装置やゲート駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 IGBT、20、120 ゲート駆動装置、22 ゲート駆動回路、24 制御回路、26 過電流検出回路、130 処理装置、260 入力回路、262 コンパレータ、C コンデンサ、D1、D2 ダイオード、L リアクトル、Tp、Tn トランジスタ、Vs1、Vs2 電源。
図1
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図10