(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006796
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】組成物、リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240110BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240110BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108026
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA22
5H050EA23
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】 電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、並びにそれを用いたリチウムイオン電池電極用バインダ、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】 高分子化合物とキレート基含有低分子化合物を含む組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物とキレート基含有低分子化合物を含む組成物。
【請求項2】
前記高分子化合物が水溶性高分子化合物であり、前記キレート基含有低分子化合物が水溶性化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ。
【請求項4】
活物質、導電助剤、請求項3に記載のバインダ、及び水を含むリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
【請求項5】
請求項3に記載のバインダを含むリチウムイオン電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極を有するリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物に関する。詳細には該組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、近年、電気機器等の電源として幅広く用いられている。さらに、最近は電気自動車の電源としてもその用途を拡大しつつあり、高容量化、高出力化、サイクル寿命の向上といった特性向上とともに、高い安全性が要望されている。
【0003】
リチウムイオン電池の電極は、粉末状の活物質と導電助剤とバインダを主成分とする多孔質体が集電体上に積層・結着した構造を有しており、その性能は、活物質の特性のみならず、バインダの種類によっても大きく影響されることが知られている。
【0004】
従来、正極用バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が主流であったが、電極製造時にN-メチルピロリドン等の有機溶媒を用いるため、スラリー調製工程や電極シート塗布工程で除害設備が必要となる、電極シート乾燥工程で溶媒回収設備が必要になるといった電極製造に係る付帯設備が増加しコストアップを招く、有機溶媒の購入や回収にコストが嵩みランニングコストが増加する、正極活物質に対するPVDFの接着力が低いためバインダ添加量が増えてしまうといった欠点を有していた。
【0005】
一方、有機溶媒を用いず、水に分散・溶解可能な水系バインダとして、ポリビニルアルコールとメチルセルロースを用いること(例えば、特許文献1参照。)、キサンタンガムを用いること(例えば、特許文献2参照。)、アミロース、アミノペクチン等のデンプン型多糖を用いること(例えば、特許文献3、4参照。)、アルギン酸やアルギン酸誘導体を用いること(例えば、特許文献5、6、7、8、9参照。)が開示されている。水系バインダは電極シート製造時の除害設備が不要であり、作業環境も良好になるため好ましいが、活物質とバインダの組み合わせによっては活物質との接着力が低下する、集電体が腐食するといった問題が生じる場合もあった。
【0006】
また、正極活物質にはLiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2等のリチウム複合酸化物が用いられることが多いが、これらリチウム複合酸化物は充放電時に活物質中のマンガンやニッケルが溶解・イオン化し、負極上に析出・堆積してサイクル特性やレート特性の低下を招くことが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-41732号公報
【特許文献2】特開2003-68292号公報
【特許文献3】特開2008-27904号公報
【特許文献4】国際公開第2012/133120号
【特許文献5】特開平10-92415号公報
【特許文献6】特開2001-15114号公報
【特許文献7】特開2014-96238号公報
【特許文献8】特開2014-195018号公報
【特許文献9】特開2015-191862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、並びにそれを用いたリチウムイオン電池電極用バインダ、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、水溶性高分子とキレート基含有化合物の混合物をバインダに用いることで前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の各態様は、以下に示す[1]~[6]である。
[1]高分子化合物とキレート基含有低分子化合物を含む組成物。
[2]前記高分子化合物が水溶性高分子化合物であり、前記キレート基含有低分子化合物が水溶性化合物である前記[1]に記載の組成物。
[3]前記[1]または[2]に記載の組成物を含むリチウムイオン電池電極用バインダ。
[4]活物質、導電助剤、前記[3]に記載のバインダ、及び水を含む、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
[5]前記[3]に記載のバインダを含むリチウムイオン電池用電極。
[6]前記[5]に記載の電極を有するリチウムイオン電池。
【0011】
なお、本発明の組成物によって前記目的が達成される理由に関し、本発明者らは以下のように推察する。
【0012】
すなわち、バインダに高分子化合物とキレート基含有低分子化合物が物理的に混合された組成物を用いると、バインダが活物質を被覆するとともにバインダ中に分散したキレート基含有低分子化合物が、正極活物質から溶出するマンガンイオンやニッケルイオンを正極及び/または負極近傍で効率良く捕捉するため、マンガンやニッケルの負極活物質への析出・堆積が抑制され、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できたと考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とする組成物、リチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一態様である組成物を詳細に説明する。
【0015】
本発明の組成物は、高分子化合物とキレート基含有低分子化合物の物理的混合物である。
【0016】
本発明におけるキレート基含有低分子化合物はキレート基を有する。ここでキレート基とは、複数の配位座を有する配位子を指し、多価金属イオンとの間でキレートを形成できる官能基である。キレート基としては、アミノカルボン酸系のキレート基やアミノホスホン酸系のキレート基、ポリアミン系のキレート基が好適に用いられる。アミノカルボン酸系キレート官能基の若干の例としては、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン基、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、1,2‐ビス(2‐アミノフェノキシ)エタン四酢酸基、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸基、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール四酢酸基、トリエチレントリアミン六酢酸基等が挙げられる。アミノホスホン酸系キレート基の若干の例としては、アミノメチルホスホン酸基、ニトリロトリス(メチルホスホン酸)等が挙げられる。ポリアミン系キレート基の若干の例としては、ポリエチレンイミン基、ポリアミドアミンデンドリマー基、テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン基等が挙げられる。キレート基がカルボン酸やホスホン酸を含む場合、それらの酸性官能基はプロトン形よりもアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの一価の塩形である方が、重金属イオンとイオン交換しやすいため好ましい。
【0017】
本発明におけるキレート基含有低分子化合物は水溶性化合物であることが好ましい。
【0018】
本発明におけるキレート基含有低分子化合物の分子量は10,000以下であることが好ましく、さらに好ましくは1,000以下である。
【0019】
本発明におけるキレート基含有低分子化合物は、前記のキレート基を有していれば他に制限はない。また、本発明のキレート基含有低分子化合物の具体例としては、ギ酸、クエン酸、ポルフィリン、ポリエチレンイミン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン、1,2‐ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、ビス(2‐アミノエチル)エチレングリコール四酢酸、ビス(2‐アミノフェニル)エチレングリコール四酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、テトラキス(2‐ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン六酢酸、アミノメチルホスホン酸、アミノエチルホスホン酸、アミノプロピルホスホン酸、ニトリロトリス(メチルホスホン酸)及びそれらの塩が挙げられる。
【0020】
本発明における高分子化合物は特に制限はないが、キレート基含有低分子化合物と良好な親和性を示すことが好ましいため、親水性もしくは水溶性であることが好ましい。また、本発明で用いられる高分子化合物の分子量にも特に制限はないが、重量平均分子量で10,000~1,000,000、好ましくは50,000~1,000,000である。重量平均分子量がこの範囲にあると、十分な機械的強度が確保でき、電極塗工時の粘性も問題のない範囲に調整できるため好ましい。本発明で用いられる高分子化合物の具体例としては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(マレイン酸)、エチレン‐マレイン酸共重合体、イソブテン‐マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル‐マレイン酸共重合体、スチレン‐マレイン酸共重合体、ポリ(フマル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)、ポリ(2-スルホエチルアクリレート)、ポリ(3-スルホプロピルメタクリレート)、ポリ(3-スルホプロピルアクリレート)、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4-スルホブチルアクリレート)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びこれらの共重合体からなるビニルポリマー;カルボキシメチルセルロース、ジェランガム、アルギン酸、硫酸化アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン酸、アラビアガム、寒天、トラガントガム等の酸性多糖類及びこれらのアルカリ金属塩が例示される。
【0021】
本発明の組成物における「高分子化合物とキレート基含有低分子化合物の物理的混合物」とは、高分子化合物とキレート基含有低分子化合物との間に共有結合やイオン結合等の化学結合が生じていないことを指す。
【0022】
本発明で用いられる高分子化合物とキレート基含有低分子化合物のブレンド比率に特に制限はないが、好ましくは、重量比で高分子化合物:キレート基含有低分子化合物=100:30~500である。
【0023】
キレート基含有化合物と高分子化合物との物理的な混合方法についても特に制約はなく、粉末状の両者を混合する方法や、両者を水などの溶媒に溶解させ均一に混合した後、溶媒を除去し粉末を得るなどの方法や、両者を水などの溶媒に溶解させ均一に混合した後、そのまま用いる等の方法を採用することができる。
【0024】
本発明の組成物においては、高分子化合物は1種であってもよいが、2種以上であってもよい。前記高分子化合物の他に別の高分子化合物(以下、「第2の高分子化合物」という)を含む場合は、前記高分子化合物の含有量が10質量%以上、すなわち第2の高分子化合物が90質量%以下であることが好ましい。第2の高分子化合物としては、正極に用いるのであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂を使用することができる。負極に用いるのであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂や、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体等の炭化水素系エラストマーや、ポリイミド等を用いることができる。
【0025】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極用バインダを詳細に説明する。
【0026】
本発明の組成物はリチウムイオン電池電極用バインダ(以下、「本発明のバインダ」という)として好適に用いることができる。本発明のバインダの配合量は、活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して1~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明のバインダは柔軟性に富むため、充放電時の電極の体積変化に追従可能であり、体積変化に伴う電極の割れやそれに伴う活物質の剥離・脱落や導電チャンネルの破壊を防止できる。また、本発明のバインダは親水性官能基を多く含むため、活物質との親和性が高く活物質への被覆性に優れている。更に、本発明のバインダは、電解液との親和性に優れるためイオン伝導性にも優れている点や、耐酸化性や耐還元性に優れ電極の安定性を確保できる等、リチウムイオン電池電極用バインダとして卓越した性能を有している。
【0028】
更に、バインダにおいてはキレート基が導入されており、このキレート基によって正極活物質から溶出するマンガンイオン等は正極及び/または負極近傍で捕捉され、負極活物質への析出・堆積が抑制されるため、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できる。
【0029】
本発明において、正極活物質は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、CuO、Cu2O、MnO2、MoO3、V2O5、CrO3、Fe2O3、Ni2O3、CoO3等の遷移金属酸化物や、LiXCoO2、LiXNiO2、LiXMnO2、LiXMn2O4、LiNiXCo(1-X)O2、LiNiXMn(2-X)O4、LiMnaNibCocO2(a+b+c=1)、LiFePO4等のリチウム複合酸化物が挙げられる。これらの中で、Co、Ni、Mn等の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の遷移金属とリチウムの複合酸化物が好ましく、具体例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiXCo(1-X)O2、LiNiXMn(2-X)O4、LiMnaNibCocO2(a+b+c=1)が挙げられる。これらのリチウム複合酸化物には、少量のフッ素、ホウ素、Al、Cr、Zr、Mo、Fe等の元素をドープしても良いし、リチウム複合酸化物の粒子表面を炭素、MgO、Al2O3、SiO2等で表面処理しても良い。
【0030】
本発明において、負極活物質は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、スズ及び/又はスズ合金、スズ酸化物、ケイ素及び/又はケイ素合金、ケイ素酸化物などが挙げられる。なお、負極活物質が合金である場合、その負極活物質には、リチウムと合金化する材料が含まれていてもよい。なお、ここで、リチウムと合金化する材料としては、例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびこれらの合金などが挙げられる。
【0031】
これら活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0032】
電極中に含まれる導電助剤についても特に制限はなく、電池特性に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンウィスカー、カーボンナノチューブ、炭素繊維粉末等の炭素材料や、Cu、Fe、Ag、Ni、Pd、Au、Pt、In、W等の金属粉末や金属繊維や、酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物が挙げられる。これら導電助剤の配合量は、前記活物質に対して1~30質量%が好ましい。
【0033】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを詳細に説明する。
【0034】
本発明のリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーは、前記バインダ、活物質、導電助剤及び水を含む。該スラリーには、必要に応じてカルボキシメチルセルロース等の粘度調節剤や、酸、アルカリ等のpH調節剤を含んでいても良い。前記スラリーの固形分濃度は、特に限定されないが、スラリーの粘度、固形分の分散性、乾燥工程への負荷等を考慮して20~80質量%が好ましい。また、前記スラリー中の固形分の比率は、質量比で、正極活物質:導電助剤:バインダ=70~98:1~30:1~20が好ましい。前記スラリーの製造方法についても特に制限はなく、バインダ、活物質、導電助剤を一括で水に混合・分散・溶解させ、スラリーを作製する方法や、最初にバインダを水に溶解させ、次いで活物質と導電助剤をバインダ水溶液に添加し、混合してスラリーを作製する方法や、最初に活物質と導電助剤を混合し、次いでバインダ水溶液と混合する方法等が挙げられる。また、スラリー作製に用いるミキサーにも特に制約はなく、乳鉢、ロールミル、ボールミル、スクリューミル、振動ミル、ホモジナイザー、遊星式ミキサー等が用いられる。
【0035】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を詳細に説明する。
【0036】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、前記バインダを含むものである。リチウムイオン電池用電極は、前記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて得られる電極合材層と、集電体とから構成される。活物質、バインダ、導電助剤よりなる電極合材層の厚さは、10~200μmが好ましく、この厚みの電極合材層を集電体上に形成させるためには、電極合材層の目付を4~25mg/cm2に設定すると良い。
【0037】
前記集電体は、電極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、銅、金、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼もしくはそれらの合金等の金属や酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物や導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電体が例示される。集電体の形状については特に制限はなく、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡体等の形状が採用可能である。集電体の厚みについても特に制限がなく、1~100μm程度であることが好ましい。
【0038】
リチウムイオン電池用電極の製造方法には特に制約はなく、前記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて製造することができる。スラリーの塗布方法についても制約はなく、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ディップコート、ブレードコート、ナイフコート、ワイヤーバーコート等の方法を用いることができる。乾燥方法、条件についても特に制約はなく、通常の温風循環型乾燥機や減圧乾燥機、赤外線乾燥機、マイクロ波加熱乾燥機を用いることができる。加熱温度にも制限はなく、50~150℃で加熱し乾燥することができる。更に、乾燥途中や乾燥後に電極を加圧しプレスすることで、多孔構造を均一にすることもできる。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池は、前記リチウムイオン電池用電極を有することを特徴とする。前記リチウムイオン電池用電極を用いることで、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成された高性能なリチウムイオン電池を提供することができる。リチウムイオン電池は、一般的に正極、負極、セパレータ、非水電解液等から構成され、例えばラミネートセル形状を例示することができる。正極は、前記の正極活物質を前記の導電助剤とともにバインダにより正極集電体上に結着させたものであり、正極活物質、バインダ、導電助剤からなる正極合材層が集電体上に形成された構造を有している。負極も正極と類似の構造を有しており、下記の負極活物質と上記の導電助剤をバインダにより負極集電体上に結着させたものである。セパレータはポリオレフィン等の多孔フィルムが一般的に用いられ、電池が熱暴走した際にシャットダウン機能を担うため、正極と負極の中間に挟み込まれる。非水電解液はLiPF4等の電解質塩を環状カーボネート等の有機溶媒に溶解させたものである。電池内部は非水電解液で満たされており、リチウムイオンは、充電時には正極から負極に移動し、放電時には負極から正極に移動する。
【0040】
非水電解液も特に制約はなく、公知の材料を用いることができる。非水電解液は電解質塩を有機溶媒に溶解させたものであり、電解質塩としては、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(CF3SO2)2CLi、LiBF4、LiB(C6H8)4、LiPF4、LiClO4、LiAsF6、LiCl、LiBr等が例示される。電解質塩を溶解させる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2‐ジメトキシエタン、1,2‐ジエトキシエタン、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。非水電解液中の電解質塩の濃度は、0.1~5mol/L、好ましくは0.5~3mol/Lの範囲で選択できる。
【0041】
セパレータに関しても特に制約はなく、公知のセパレータを用いることができる。セパレータの例としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、ポリエチレン製微多孔膜とポリプロピレン製微多孔膜との積層膜や、ポリエステル繊維、アラミド繊維、カラス繊維等からなる不織布が挙げられる。
【実施例0042】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<高分子化合物とキレート基含有低分子化合物を含む組成物の製造>
(実施例1)アルギン酸ナトリウムとニトリロトリス(メチレンホスホン酸ナトリウム)の組成物の製造
純水100mlにアルギン酸ナトリウム(青島聚大洋藻業集団有限公司製、重量平均分子量1,300,000)2.0g(単糖ユニットとして10mmol)を撹拌下少量ずつ添加し、粘調な均一溶液を作製した。次いで、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(東京化成製、50%水溶液)4.6ml(10mmol)と1N水酸化ナトリウム水溶液(富士フィルム和光純薬製)60ml(60mmol)とを氷冷下混合し、得られた混合液を前記水酸化ナトリウム水溶液に添加した。添加後、室温で1時間混合した後、混合液をアセトン2Lに滴下して沈殿を生成させ、沈殿物をろ過により回収し、更にアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して単離した。単離収量は6.4g、得られた混合物の窒素含有量は1.8重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は1.3mmol/gであった。窒素含有量から算出した組成は、アルギン酸ナトリウム100重量部に対してニトリロトリス(メチレンホスホン酸)220重量部であった。
【0044】
(実施例2)アルギン酸ナトリウムとイミノ二酢酸二ナトリウムの組成物の製造
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(東京化成製、50%水溶液)4.6ml(10mmol)と1N水酸化ナトリウム水溶液(富士フィルム和光純薬製)60ml(60mmol)に代えて、イミノ二酢酸二ナトリウム一水和物(富士フィルム和光純薬製)2.0g(10mmol)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法でアルギン酸ナトリウムとイミノ二酢酸二ナトリウムとの物理混合物を製造した。単離収量は3.9g、得られた混合物の窒素含有量は3.3重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は2.4mmol/gであった。窒素含有量から算出した組成は、アルギン酸ナトリウム100重量部に対してイミノ二酢酸二ナトリウム70重量部であった。
【0045】
<ラミネートセルの製造>
(実施例3)
以下の材料から正極用スラリーを調製し、正極を作製した。
正極活物質:マンガン酸リチウム(LMO:自社で試作LiMn2O4、結晶相:スピネル) 94質量部
導電助剤:アセチレンブラック(AB:デンカ(株)製Li-400) 3質量部
バインダ:実施例1で製造したアルギン酸ナトリウムとニトリロトリス(メチレンホスホン酸ナトリウム)との物理混合物 3質量部
【0046】
実施例1で製造したバインダ3質量部を水に溶解させ、水溶液を調製した。この水溶液にLMO94質量部とAB3質量部を添加し、水を添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して正極用スラリーを調製した。このスラリーをフィルムアプリケーターにてアルミニウム箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、120℃4時間減圧乾燥を行い、正極を作製した。目付は1.50mAh/cm2であった。
【0047】
次に、以下の材料から負極用スラリーを調製し、負極を作製した。
負極活物質:塊状人造黒鉛(Gr:昭和電工マテリアルズ(株)製MAG‐D) 95質量部
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF:ソルベイ製ソレフ5130) 5質量部
前記PVDF5質量部をN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に溶解させ、この溶液にGr95質量部を添加し、NMPを添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して負極用スラリーを調製した。このスラリーをフィルムアプリケーターにて銅箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、150℃4時間減圧乾燥を行い、負極を作製した。目付は1.80mAh/cm2であり、AC比は1.20であった。
【0048】
このようにして得られた正極、負極を用いて、以下のようにしてラミネートセルを作製した。すなわち、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)混合溶媒にビニレンカーボネートを1質量%となるように添加し、更に、1mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液とし、セパレータにはアルミナ片面コートポリエチレン製微多孔膜(Senior製)を用いた。そして、前記正極と負極をセパレータの両側に配置して積層し、電解液を注液してラミネートセルを作製した。
【0049】
(実施例4)
正極用バインダに実施例2で製造したアルギン酸ナトリウムとイミノ二酢酸二ナトリウムとの物理混合物を用いたことを除いて、実施例3と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0050】
(比較例1)
正極用バインダにPVDF(ソルベイ製ソレフ5130)を用いたことと、溶媒にNMPを用いて正極用スラリーを作製したことを除いて、実施例3と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0051】
<充放電特性評価>
実施例3、4及び比較例1で得られたラミネートセルを用いて、下記条件にて充放電特性を評価した。
充電:定電流定電圧(CCCVモード)
放電:定電流(CCモード)
電位範囲:3.0~4.2V
Cレート:1C
温度:60℃
【0052】
前記条件下にて、充放電を100サイクル行った。バインダに本発明に係る高分子化合物とキレート基含有低分子化合物の物理的混合物を用いた実施例3及び実施例4の系は、サイクル数が増加しても放電容量の低下は少なく、安定した充放電が可能であったのに対し、バインダにPVDFを用いた比較例1の系では、サイクル数の増加に伴い放電容量の低下が認められた。100サイクル後の放電容量の容量維持率は、実施例3で88.9%、実施例4で89.0%、比較例1で81.3%であった。
本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れ、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。