(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068095
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ホール素子、ホールセンサ、及びホール素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 52/00 20230101AFI20240510BHJP
H10N 52/80 20230101ALI20240510BHJP
H10N 52/01 20230101ALI20240510BHJP
【FI】
H10N52/00 P
H10N52/80 D
H10N52/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121358
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2022177865
(32)【優先日】2022-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 兼吾
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AA05
5F092AA14
5F092AB01
5F092AC02
5F092BA06
5F092BA08
5F092BA15
5F092BA20
5F092BA21
5F092BA23
5F092BA34
5F092BA35
5F092BE23
5F092EA01
5F092FA03
5F092FA05
5F092GA03
(57)【要約】
【課題】SN比を向上する。
【解決手段】ホール素子1は、基板2、基板上で2次元電子ガス膜を形成する活性層32、活性層の下側及び上側にそれぞれ積層される第1及び第2バッファ層31,33を含む積層体3、積層体上に形成された絶縁膜4、絶縁膜に設けられたコンタクトホール4a~4dを介して活性層にそれぞれ接続する電極6a~6dを備え、電極は、X軸方向に対向する電極6a,6bとY軸方向に対向する電極6c,6dとを含み、2つの電極6a,6bが活性層に接続する接触領域3a,3bの離間距離、それらが対向する幅、及びそれらの間の領域のY軸方向への広がりから定められる形状因子と、2つの電極6c,6dを活性層に接続する接触領域3c,3dの離間距離、それらが対向する幅、及びそれらの間の領域のX軸方向への広がりから定められる形状因子との比が、活性層におけるX軸及びY軸方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上で2次元電子ガス膜を形成する活性層と、該活性層に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層及び第2バッファ層と、を含む積層体と、
前記積層体上に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜に設けられた開口を介して前記活性層にそれぞれ接続する4つの電極であり、2次元面内の第1方向に対向する2つの第1電極と前記第1方向に交差する第2方向に対向する2つの第2電極とを含む、4つの電極と、
を備え、前記絶縁膜に設けられた開口のうち、前記2つの第1電極を前記活性層に接続する2つの第1開口の離間距離(Lin)、前記2つの第1開口が対向する幅(Win)、及び前記2つの第1開口間の領域の前記第2方向への広がりから定められる第1形状因子(Gin)と、前記2つの第2電極を前記活性層に接続する2つの第2開口の離間距離(Lout)、前記2つの第2開口が対向する幅(Wout)、及び前記2つの第2開口間の領域の前記第1方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、前記活性層における前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる、ホール素子。
【請求項2】
前記2つの第1開口間の領域の前記第2方向への広がりは、前記2つの第2開口の離間距離(Lout)により与えられ、前記2つの第2開口間の領域の前記第1方向への広がりは、前記2つの第1開口の離間距離(Lin)により与えられる、請求項1に記載のホール素子。
【請求項3】
前記第1形状因子はGin=2Lin/(Win+Lout)で与えられ、前記第2形状因子はGout=2Lout/(Wout+Lin)で与えられ、
前記活性層内の結晶粒界の並びが前記第2方向に向けられている場合に、Gin/Gout=1.002~1.042である、請求項2に記載のホール素子。
【請求項4】
前記活性層内の結晶粒界の並びが前記第2方向に向けられている場合に、前記比(Gin/Gout)を1より大きくする、請求項1に記載のホール素子。
【請求項5】
前記4つの電極のうちの少なくとも1つに対応する開口は、対向する開口に一辺を向ける形状を有する、請求項1に記載のホール素子。
【請求項6】
前記対応する開口は、該開口と前記対向する開口とを結ぶ中心線に対して対象な形状を有する、請求項5に記載のホール素子。
【請求項7】
前記4つの電極のうちの少なくとも1つの電極は、前記電極に対応する開口から前記電極に対向する別の電極に向かって前記絶縁膜上に延設される、請求項1に記載のホール素子。
【請求項8】
前記活性層は、InAsを含み、前記第1バッファ層及び前記第2バッファ層の少なくとも一方はAlGaAsSbを含む、請求項1に記載のホール素子。
【請求項9】
請求項1に記載のホール素子を備え、前記ホール素子の前記活性層に入る磁場の強度を検出するホールセンサ。
【請求項10】
基板上に、2次元電子ガス膜を形成する活性層と、該活性層に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層及び第2バッファ層と、を含む積層体を形成する段階と、
前記積層体上に絶縁膜を形成する段階と、
前記絶縁膜に開口を形成する段階と、
前記絶縁膜に設けられた開口を介して前記活性層にそれぞれ接続する4つの電極であり、2次元面内の第1方向に対向する2つの第1電極と前記第1方向に交差する第2方向に対向する2つの第2電極とを含む、4つの電極を形成する段階と、
を備え、前記絶縁膜に設けられた開口のうち、前記2つの第1電極を前記活性層に接続する2つの第1開口の離間距離(Lin)、前記2つの第1開口が対向する幅(Win)、及び前記2つの第1開口間の領域の前記第2方向への広がりから定められる第1形状因子(Gin)と、前記2つの第2電極を前記活性層に接続する2つの第2開口の離間距離(Lout)、前記2つの第2開口が対向する幅(Wout)、及び前記2つの第2開口間の領域の前記第1方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、前記活性層における前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる、ホール素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール素子、ホールセンサ、及びホール素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサの一種であるホール素子として、2次元電子ガス膜を形成する活性層を採用することで駆動電圧に対して生成される出力電圧の割合、すなわち感度を向上し、活性層を含む積層体上に絶縁膜を介して電極(UP)を設けることで低ノイズ化し、それによりSN比の向上を図った2次元電子ガス膜-UP型のホール素子が考えられる。斯かる、UP型のホール素子は、例えば、特許文献1に開示されている。
特許文献1 特開2018-160631号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様においては、基板と、前記基板上で2次元電子ガス膜を形成する活性層と、該活性層に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層及び第2バッファ層と、を含む積層体と、前記積層体上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜に設けられた開口を介して前記活性層にそれぞれ接続する4つの電極であり、2次元面内の第1方向に対向する2つの第1電極と前記第1方向に交差する第2方向に対向する2つの第2電極とを含む、4つの電極と、を備え、前記絶縁膜に設けられた開口のうち、前記2つの第1電極を前記活性層に接続する2つの第1開口の離間距離(Lin)、前記2つの第1開口が対向する幅(Win)、及び前記2つの第1開口間の領域の前記第2方向への広がりから定められる第1形状因子(Gin)と、前記2つの第2電極を前記活性層に接続する2つの第2開口の離間距離(Lout)、前記2つの第2開口が対向する幅(Wout)、及び前記2つの第2開口間の領域の前記第1方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、前記活性層における前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる、ホール素子が提供される。
【0004】
本発明の第2の態様においては、第1の態様のホール素子を備え、前記ホール素子の前記活性層に入る磁場の強度を検出するホールセンサが提供される。
【0005】
本発明の第3の態様においては、基板上に、2次元電子ガス膜を形成する活性層と、該活性層に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層及び第2バッファ層と、を含む積層体を形成する段階と、前記積層体上に絶縁膜を形成する段階と、前記絶縁膜に開口を形成する段階と、前記絶縁膜に設けられた開口を介して前記活性層にそれぞれ接続する4つの電極であり、2次元面内の第1方向に対向する2つの第1電極と前記第1方向に交差する第2方向に対向する2つの第2電極とを含む、4つの電極を形成する段階と、を備え、前記絶縁膜に設けられた開口のうち、前記2つの第1電極を前記活性層に接続する2つの第1開口の離間距離(Lin)、前記2つの第1開口が対向する幅(Win)、及び前記2つの第1開口間の領域の前記第2方向への広がりから定められる第1形状因子(Gin)と、前記2つの第2電極を前記活性層に接続する2つの第2開口の離間距離(Lout)、前記2つの第2開口が対向する幅(Wout)、及び前記2つの第2開口間の領域の前記第1方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、前記活性層における前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる、ホール素子の製造方法が提供される。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】本実施形態に係るホール素子の全体構成を斜視において示す。
【
図1B】ホール素子の分解構成を斜視において示す。
【
図1C】ホール素子の上面構成を上面視において示す。
【
図1D】
図1Cにおける基準線DDに関するXZ断面上でのホール素子の内部構成を示す。
【
図2A】本実施形態に係るホール素子を備えるホールセンサの全体構成を上面視において示す。
【
図2B】
図2Aの基準線BBに関する断面上でのホールセンサの内部構成を示す。
【
図3】本実施形態に係るホール素子の製造フローを示す。
【
図4A】ホール素子の製造フローの基板準備工程における素子の状態を示す。
【
図4B】ホール素子の製造フローの積層体形成工程における素子の状態を示す。
【
図4C】ホール素子の製造フローの開口形成工程における素子の状態を示す。
【
図4D】ホール素子の製造フローの誘電体膜形成工程における素子の状態を示す。
【
図4E】ホール素子の製造フローの誘電体膜のエッチング工程における素子の状態を示す。
【
図4F】ホール素子の製造フローの積層体のエッチング工程における素子の状態を示す。
【
図4G】ホール素子の製造フローの保護膜形成工程における素子の状態を示す。
【
図4H】ホール素子の製造フローのコンタクトホール形成工程における素子の状態を示す。
【
図4I】ホール素子の製造フローの電極形成工程における素子の状態を示す。
【
図5】インジウム砒素(InAs)結晶の異方性を示す。
【
図6】活性層の上面の状態、疑似GC形状及びそのサイズパラメータを示す。
【
図8A】形状因子比に対する定電圧感度の異方性のシミュレーション結果及び測定結果を示す。
【
図8B】定電圧感度の異方性のシミュレーションで使用したコンタクトホール(接触領域)のパターンを示す。
【
図8C】シミュレーションで使用したパラメータの数値範囲を示す。
【
図9】実施例及び比較例に係るホール素子における感度異方性の測定結果を示す。
【
図10】ホール素子の感度異方性のシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1Aから
図1Dに、本実施形態に係るホール素子1の構成を示す。ここで、
図1Aは、ホール素子1の全体構成を斜視において示し、
図1Bは、ホール素子1の分解構成を斜視において示し、
図1Cは、ホール素子1の上面構成を上面視において示し、
図1Dは、
図1Cにおける基準線DD(すなわち、対向する電極6a,6bの中心を結ぶ基準線)に関するXZ断面上でのホール素子1の内部構成を示す。ホール素子1は、対向する電極、例えば電極6a,6b間に駆動電圧を印加して素子本体に電流を流した際に、別の対向する電極、すなわち電極6c,6d間に発生するホール起電力を検出することで、電極6a,6bの対向方向及び電極6c,6dの対向方向のそれぞれに直交する方向に関する磁場強度を検出する素子である。
【0010】
ここで、ホール素子において、活性層の材料としてインジウム砒素(InAs)を用いることで、超高移動度を有する2次元電子ガス膜(超高移動度膜とも呼ぶ)を形成することができる。しかし、超高移動度膜は、その結晶構造により2次元面内の一軸方向に成長し、これに交差する軸方向に粒界が生じることで、2つの軸方向で異なる移動度を呈し、これに伴って感度の異方性が生じてノイズの原因となることが予想される。ホール素子1は、基板2、積層体3、絶縁膜4、複数の電極6a~6dを備える。
【0011】
基板2は、素子本体である積層体3を形成するための基材であり、例えばガリウム砒素(GaAs)のような化合物半導体を含む半導体基板を採用することができる。基板2は、上面視正方形状又は略正方形状を有する。なお、後述する電極6a,6bが対向して配置される基板2上の対角線方向をX軸方向とし、これに交差(本実施形態では直交)する方向であり、後述する電極6c,6dが対向して配置される基板2上の別の対角線方向をY軸方向とし、これらのX軸及びY軸方向に直交する基板2の厚み方向をZ軸方向とする。
【0012】
積層体3は、基板2上に支持される素子本体である。積層体3は、基板2よりいくらか小さい上面視正方形状又は略正方形状を有する。後述するように電極6a~6dを積層体3の上に配置することで、基板2の上面のほぼ全域に積層体3(活性層32)を広げることができ、それにより電流集中が緩和されて低ノイズ化を図ることができる。積層体3は、活性層32、第1バッファ層31及び第2バッファ層33を含む。
【0013】
活性層(感磁面とも呼ぶ)32は、ホール起電力を生成する層であり、例えばインジウム砒素(InAs)のような化合物半導体を含んで膜厚15nmで製膜される。活性層32は、相対的に低いエネルギ伝導帯を有する。活性層32の上面上において、後述する絶縁膜4のコンタクトホール4a~4dの内側に位置し、それらと同形状(又は相似する形状)の領域を接触領域3a~3dと呼ぶ。接触領域3a~3dにおいて、電極6a~6dが活性層32に接続される。なお、接触領域3a~3dの上面視形状(本例においては三角形状)における少なくとも1つの角を丸くすることで、接触領域3a~3dにおいて電極6a~6d及び活性層32の間に流れる電流が領域端部に集中するのを緩和することができる。
【0014】
第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、基板2と活性層32との間の格子不整合を緩和するための層であり、例えばInAsに近い格子定数を有するAlGaAsSbのような化合物半導体を含んでそれぞれ膜厚600nm及び35nmで製膜される。第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、相対的に高い、例えば活性層32より1.3eV程高いエネルギ伝導帯を有する。
【0015】
基板2上で、第1バッファ層31及び第2バッファ層33を活性層32に対してそれぞれ下側及び上側に積層することで(斯かる積層構造の積層体3を超高移動度膜と呼ぶ)、活性層32は、電子が不純物拡散されず、例えば20000cm2/Vs以上の高移動度を有する2次元電子ガス膜を形成する。なお、第2バッファ層33にコンタクトホール4a~4dを形成するための開口が設けられる。
【0016】
なお、第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、同一の材料に限らず、異なる材料を用いて形成してもよい。さらに、第1バッファ層31の下にGaAsを含む膜厚150nmのバッファ層、第2バッファ層33の上にガリウム砒素アンチモニド(GaAsSb)を含む膜厚10nmのバッファ層を設けてもよい。また、活性層32を製造プロセスによるダメージから保護するよう、第2バッファ層33の上に、例えばGaAsを含むキャップ層を設けてもよい。
【0017】
絶縁膜4は、積層体3上に形成されて、特に活性層32を絶縁し且つ腐食から保護するための膜体であり、1種以上の誘電体を含む。絶縁膜4は、酸化シリコン(SiO)及び窒化シリコン(SiN)のうちの少なくとも1つを含んでよい。また、低誘電率膜(low-k膜)、例えば、フッ化シリケートガラス(FSG)、パリレン、炭素ドープSiO(SiOC)、フッ化炭化水素、テフロン(登録商標)、メチルシルセスキオキサン(MSQ)、ハイドロジェンシルセスキオキサン(HSQ)、ポリイミド、芳香族炭化水素ポリマー(SiLK)、ポリアリレンエーテル(PAE)、フッ化アモルファスカーボン、ポーラスシリカ等のうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0018】
絶縁膜4は、一例として積層体3と同じ形状及び同じ大きさを有し、絶縁膜4の4つの角部近傍にZ軸方向に貫通し、さらに第2バッファ層33の開口を介して活性層32の上面に到達するコンタクトホール4a~4dが形成されている。コンタクトホール4a~4dは、一例として上面視直角三角形状を有し、その2つの斜辺がなす頂点を絶縁膜4の角部に向け、2つの斜辺をそれぞれ絶縁膜4の2つの辺部と平行に並べ、底辺を対向する絶縁膜4の角部に向けて配置される。
【0019】
ここで、コンタクトホール4a~4dの形状は、上面視直角三角形状に限らず、三角形、四分円、扇形、四分楕円等、対向するコンタクトホール4a,4b又は4c,4dを結ぶ中心線(活性層32の対角線)に対して対称な形状であってよい。ここで、三角形の底辺等、パターンの一辺を対向する開口に向けて配置される。それにより、対向するコンタクトホール4a,4bのそれぞれの一辺が、それらの間に電流が集中する矩形領域を形成する。対向する一辺は、外向きに(近接する活性層32の角部に向かって)湾曲又は屈曲してもよい。
【0020】
本実施形態においては、絶縁膜4は、誘電体膜41及び保護膜42を含む。誘電体膜(ハードマスクとも呼ぶ)41は、積層体3の全上面及び第2バッファ層32の開口内に部分的に配置され、上述のコンタクトホール4a~4dが形成される。保護膜42は、誘電体膜41の上面上に成膜される。絶縁膜4の膜厚は、135nm以上、好ましくは270nm以上、より好ましくは540nm以上である。誘電体膜41は例えばSiO、保護膜42は例えばSiNを用いてそれぞれ形成してよい。
【0021】
複数の電極6a~6dは、活性層32に駆動電圧(又は駆動電流)を印加するための一軸方向に対向する2つの電極及び活性層32において発生するホール起電力(ホール出力と呼ぶ)を検出するための一軸方向に交差する方向に対向する2つの電極を含む。本実施形態では、X軸方向に対向する2つの電極6a,6b及びY軸方向に対向する2つの電極6c,6dを含む。なお、ホール素子1の機能を説明するにあたって、2つの電極6a,6bを入力用(in)の電極、2つの電極6c,6dを出力用(out)の電極とするが、2つの電極6a,6bは出力用の電極として、2つの電極6c,6dは入力用の電極としても機能し、ホール素子1を、周期的に入力用の電極と出力用の電極を切り換えてスピニングカレント法のようなチョッピング動作をすることもできる。複数の電極6a~6dは、金、チタンのような金属、ポリシリコンのような導電性材料を用いて形成される。
【0022】
複数の電極6a~6dは、一例として上面視正方形状又は略正方形状を有し、絶縁膜4上の4つの角部近傍に配置され、それぞれコンタクトホール4a~4dを介して活性層32の4つの角部近傍に電気的に接続される。各電極、例えば電極6aは、上面視において、-X側の角部(-X角部)を絶縁膜4の-X側の角部及びコンタクトホール4a(又は接触領域3a)の頂点の間又はコンタクトホール4aの頂点上に位置し、その-X角部をなす2つの辺部を絶縁膜4の2つの辺部及びコンタクトホール4a(又は接触領域3a)の2つの斜辺の間に平行に並べ又はコンタクトホール4aの2つの斜辺に重ね、その-X角部に対向する+X角部を対向する電極6bに向けて配置される。これにより、電極6aの-X角部がコンタクトホール4aの直上に配置され、+X角部側の延設部分6a1が、コンタクトホール4a上から電極6aに対向する電極6bに向かって絶縁膜4上に延設され、さらに電極6aが、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4aを介して活性層32の-X側に接続される。
【0023】
なお、電極6a~6dの形状は、共通の形状に限らず、入力用の電極と出力用の電極とで異なる形状としてもよい。また、電極6a~6dは、絶縁膜4上に配置するに限らず、絶縁膜4上(すなわち、コンタクトホール4a~4d)から基板2上に外向きに延設されてもよい。
【0024】
図2A及び
図2Bに、本実施形態に係るホール素子1を備えるホールセンサ10の構成を示す。ここで、
図2Aはホールセンサ10の全体構成を上面視において、ただしモールド部材19を透過して示す。
図2Bは、
図2Aの基準線BBに関する断面上でのホールセンサ10の内部構成を示す。ホールセンサ10は、ホール素子1、保護層9、リード端子12a~12d、ボンディングワイヤ13a~13d、及びモールド部材19を備える。本実施形態のホールセンサ10は、一例として、図面左右方向に延びる立方体形状を有する。
【0025】
ホール素子1は先述のとおり構成される。ホール素子1は、センサ本体の中央に配置される。
【0026】
保護層9は、ホール素子1の下面に設けられて素子本体を保護する膜体である。保護層9は、銀ペーストのような導電性樹脂などの導体、エポキシ系の熱硬化型樹脂及び二酸化シリコン(SiO2)を含む絶縁ペースト、SiN、SiO2などの絶縁体、又はシリコン(Si)基板、ゲルマニウム(Ge)基板等、又はそれらの貼り合わせのような半導体を用いて形成することができる。
【0027】
リード端子12a~12dは、外部回路からホール素子1に駆動電圧を入力し、ホール素子1からのホール起電力を外部回路に出力するためのインタフェースである。リード端子12a~12dは、銅のような金属を用いて矩形板状に形成され、上面視においてセンサ本体の四隅に配置される。なお、リード端子12a~12dは、それぞれの下面に例えば錫(Sn)を含む外装めっき層14a,14cが設けられる。
【0028】
ボンディングワイヤ13a~13dは、ホール素子1の電極6a~6dをそれぞれリード端子12a~12dの上面に接続する部材である。ボンディングワイヤ13a~13dは、例えば金ワイヤのような導電性材料を用いて形成される。ボンディングワイヤ13a~13d及びリード端子12a~12dを介して、ホール素子1を、外部回路に電気的に接続することができる。
【0029】
モールド部材19は、ホール素子1、リード端子12a~12d、及びボンディングワイヤ13a~13dを封止して、パッケージングする部材である。モールド部材19は、エポキシ系の熱硬化型樹脂のようなリフロー時の高熱に耐え得る樹脂材料を用いて、ホール素子1等の上面側を覆って立方体形状に成形される。
【0030】
ホールセンサ10は、リード端子12a,12bを介してホール素子1の電極6a,6bに駆動電圧を入力してリード端子12c,12dを介してホール素子1の電極6c,6d間に発生するホール起電力を検出するとともに、リード端子12c,12dを介してホール素子1の電極6c,6dに駆動電圧を入力してリード端子12a,12bを介してホール素子1の電極6a,6b間に発生するホール起電力を検出することで、ホール素子1の活性層32に入る磁場の強度を検出する。ここで、駆動電圧を印加する方向(駆動方向と呼ぶ)を、電極6aから電極6bに、電極6cから電極6dに、電極6bから電極6aに、電極6dから電極6cにと周期的に切り換えることで(所謂、チョッピング動作)、ホール出力を高周波変調し、ノイズ或いはオフセット成分をフィルタリングしてSN比を向上させることができる。
【0031】
図3に、本実施形態に係るホール素子1の製造フローを示す。
【0032】
ステップS1では、
図4Aに示すように、個片化された基板2を準備する。
【0033】
ステップS2では、
図4Bに示すように、基板2上に積層体3を形成する。有機金属気相成長(MOCVD)法及び分子線エピタキシー(MBE)法により化合物半導体をエピタキシャル成長させることで、基板2上に順に第1バッファ層31、活性層32、及び第2バッファ層33を積層する。それらの半導体材料、膜厚等の製造条件は、先述のとおりである。
【0034】
ステップS3では、
図4Cに示すように、積層体3に開口を形成する。ここで、イオンミリングにより、上面視において積層体3の4つの角部近傍に、第2バッファ層33を貫通し、活性層32の一部にまで到達する開口がそれぞれ形成される。
【0035】
ステップS4では、
図4Dに示すように、積層体3上に誘電体膜(ハードマスク)41を形成する。プラズマ化学気相成膜(プラズマCVD)法により1種以上の誘電体を含んで製膜する。プラズマCVD法では、例えば400kHzの高周波を印加して原料ガス及びキャリアガスをプラズマ化する。誘電体膜41の材料、膜厚等の製造条件は、先述のとおりである。これにより、積層体3上に誘電体膜41が製膜されるとともに第2バッファ層33の開口内に膜材料が充填される。
【0036】
ステップS5では、
図4Eに示すように、誘電体膜41をエッチングする。ここで、誘電体膜41上にレジストマスクを形成し、ドライエッチングにより上面視において誘電体膜41の外縁を除去する。
【0037】
ステップS6では、
図4Fに示すように、積層体3をエッチングする。ここで、誘電体膜41をハードマスクとして用いてイオンミリングにより、上面視において積層体3の外縁を除去して、基板2上に積層体3及び誘電体膜41の段差(メサ)を形成する。
【0038】
ステップS7では、
図4Gに示すように、基板2及び誘電体膜41上に保護膜42を形成する。プラズマ化学気相成膜(プラズマCVD)法により1種以上の誘電体を含んで製膜する。プラズマCVD法では、例えば400kHzの高周波を印加して原料ガス及びキャリアガスをプラズマ化する。保護膜42の材料、膜厚等の製造条件は、先述のとおりである。これにより、誘電体膜41及び保護膜42を含む絶縁膜4が、積層体3上に形成される。
【0039】
ステップS8では、
図4Hに示すように、誘電体膜41及び保護膜42(すなわち、絶縁膜4)の四隅近傍にそれぞれコンタクトホール4a~4dを形成する。ここで、上面視において、保護膜42の上面の四隅のそれぞれにコンタクトホール4a~4dと同じ大きさ及び形状の開口を有する平面パターンを設け、これをマスクとして用いて誘電体膜41及び保護膜42をドライエッチングする。それにより、誘電体膜41及び保護膜42の四隅近傍に第2バッファ層33の開口を介して活性層32に到達する4つの上面視三角形状のコンタクトホール4a~4dが形成される。これに併せて、保護膜42の外縁を除去する。
【0040】
ステップS9では、
図4Iに示すように、保護膜42の上面の四隅近傍にそれぞれ電極6a~6dを形成する。ここで、メッキ法、蒸着、スパッタリング等により導電性材料をコンタクトホール4a~4d内に充填するとともに保護膜42の上面上にパターンを形成することで、コンタクトホール4a~4dを介して活性層32にそれぞれ接続する電極6a~6dを形成することができる。なお、電極6a,6bはX軸方向に対向し、電極6c,6dはX軸方向に対向する。電極6a~6dの材料、形状、大きさ等の製造条件については先述のとおりである。これにより、ホール素子1の製造が完了する。
【0041】
図5に、InAsを用いて形成された活性層32の結晶構造を示す。InAsは、結晶構造の異方性により特定の方向にエピタキシャル成長する。そのため、InAsの結晶は、その特定方向(図中の白抜き矢印の方向)には粒界が現れにくく、直交する方向(図中の黒塗り矢印の方向)に多くの粒界が現れる。結晶中を移動するキャリアが結晶粒界で散乱されることで、活性層32の移動度は、特定方向について相対的に大きく且つ直交する方向(直交方向)について相対的に小さくなり、それにより移動度の異方性が生じる。
【0042】
一例として、GaAs基板(基板2)上に、MBE法により順に、膜厚530nmのAlGaAsSbバッファ層(第1バッファ層31)、膜厚52nmのInAs活性層(活性層32)、膜厚53nmのAlGaAsSbバッファ層(第2バッファ層33)、及び膜厚7nmのGaAsキャップ層を積層してホール素子1を製造し、サンプル数約2000のホール素子1のそれぞれについて特定方向及び直交方向の移動度を測定した。特定方向の移動度の平均値21413.5cm2/Vsに対して直交方向の移動度の平均値20860.3cm2/Vsであり、移動度の異方性は2.6%であった。このように、InAsの場合、移動度の異方性は典型的に~2%である。
【0043】
本実施形態に係るホール素子1において、例えば、上記の特定方向をX軸方向、直交する方向をY軸方向に一致するように活性層32の結晶方位を定める。電極6a~6d(コンタクトホール4a~4d又は接触領域3a~3d)の配置及び形状をX軸方向及びY軸方向について対称に設計すると、移動度の異方性により、入力用の電極6a,6bに駆動電圧を入力して出力用の電極6c,6dからホール起電力を検出する際の感度(in方向の感度とも呼ぶ)と逆に出力用の電極6c,6dに駆動電圧を入力して入力用の電極6a,6bからホール起電力を検出する際の感度(out方向の感度と呼ぶ)との間に異方性が生じる。なお、感度は、駆動電圧に対するホール起電力の比であり、活性層32内でのキャリアの移動度に比例する。この感度の異方性は、チョッピング動作においてホール出力(ホール起電力)を処理する場合にノイズの原因となり得る。
【0044】
活性層32の移動度の異方性に伴うin方向及びout方向の間の感度の異方性は、例えば素子本体(すなわち、活性層32)が上面視グリーククロス(GC)形状の場合のように活性層32内を流れる電流の経路の幅が電極の離間方向にわたってほぼ一定の場合、電流経路の長さ及び幅、すなわち電極6a~6dと活性層32とが接触する接触領域3a~3d(コンタクトホール4a~4dの内側の領域)の離間距離及び対向幅を調整することで相殺又は抑制することができる。なお、接触領域3a~3dの離間距離はそれらの中心間距離で代用してもよい。対向幅は、互いに対向する電極6a,6b又は6c、6dが活性層32と接触する接触領域3a,3b又は3c,3d(又はコンタクトホール4a,4b又は4c,4d)の互いに対向する一辺の幅であり、2つの電極6a,6b又は6c、6dが対向する方向に対して直交する方向に関する幅であってよい。
【0045】
例えば、in方向の感度がout方向の感度より大きい場合、in方向の2つの電極6a,6bが活性層32と接触する接触領域3a,3bの離間距離を相対的に大きく(及び/又は対向幅を小さく)、out方向の2つの電極6c,6dが活性層32と接触する接触領域3c,3dの離間距離を相対的に小さく(及び/又は対向幅を大きく)定めることで、感度の異方性を相殺又は抑制することができる。
【0046】
本実施形態に係るホール素子1では、活性層32は上面視正方形状又は略正方形状を有し、その四隅近傍に電極6a~6dと接触する接触領域3a~3dが配置されている。従って、電極6a,6b間の電流経路の幅はそれらの離間方向にわたって一定ではなく、電流は、例えば接触領域3a,3bの一方から流れ出て逆の対角線方向(接触領域3c,3dが対向する方向)に広がり、活性層32の中心を超えて狭まりつつ他方の電極に流れ込む。従って、ホール素子1において感度の異方性を抑制するために、電流経路の長さ及び幅、すなわち接触領域3a~3d(コンタクトホール4a~4dの内側の領域)の離間距離及び対向幅だけでなく、電流経路の広がりをさらに考慮する必要がある。
【0047】
図6に、ホール素子1の活性層32の上面の状態、疑似GC形状及びそのサイズパラメータを示す。なお、活性層32の四隅近傍にそれぞれコンタクトホール4a~4dが位置し、それらの内側にそれぞれ接触領域3a~3dが配置される。コンタクトホール4a~4d及び接触領域3a~3dの大きさは必ずしも等しくなくてよく、コンタクトホール4a~4dの内側且つ接触領域3a~3dの外側に位置する三角枠状の領域に保護膜42が形成されてよい。そこで、電極6a~6dから活性層32に電流が流れ出る又は電極6a~6dに流れ込む接触領域3a~3dの形状及び配置について考えるが、保護膜42の膜厚は通常十分小さいからコンタクトホール4a~4dの形状及び配置と読み替えて考えてもよい。
【0048】
接触領域3a~3dの形状及び配置より、図中点線で表される疑似GC形状を定める。ここで、入力方向に関する形状因子Ginを、入力用の電極6a,6bが活性層32に接続する2つの接触領域3a,3bのX軸方向に関する離間距離Lin、それらが対向する幅Win、及びそれらの間の領域のY軸方向への広がりから定める。ここで、2つの接触領域3a,3bの間の領域のY軸方向への広がりは、例えば2つの接触領域3c,3dの離間距離Loutにより与えることができる。そこで、電極6a,6b間の電流経路を、長さLin及び幅(Win+Lout)/2を有する矩形状の疑似経路により表す。それにより、入力方向に関する形状因子Gin=2Lin/(Win+Lout)と与えられる。
【0049】
一方、出力方向に関する形状因子Goutを、出力用の電極6c,6dが活性層32に接続する2つの接触領域3c,3dのY軸方向に関する離間距離Lout、それらが対向する幅Wout、及びそれらの間の領域のX軸方向への広がりから定める。ここで、2つの接触領域3c,3dの間の領域のX軸方向への広がりは、例えば2つの接触領域3a,3bの離間距離Linにより与えることができる。そこで、電極6c,6d間の電流経路を、長さLout及び幅(Wout+Lin)/2を有する矩形状の疑似経路により表す。それにより、出力方向に関する形状因子Gout=2Lout/(Wout+Lin)と与えられる。
【0050】
なお、2つの接触領域3a,3bの間の領域のY軸方向への広がりは、2つの接触領域3a,3bの間で活性層32内を流れる電流の経路の広がりを表すことから、2つの接触領域3c,3dの離間距離Loutに限らず、接触領域3a,3c又は3a,3dの離間距離或いは活性層32の一辺の長さで与えてもよい。また、2つの接触領域3c,3dの間の領域のX軸方向への広がりは、2つの接触領域3c,3dの間で活性層32内を流れる電流の経路の広がりを表すことから、2つの接触領域3a,3bの離間距離Linに限らず、接触領域3a,3c又は3b,3cの離間距離或いは活性層32の一辺の長さで与えてもよい。
【0051】
本実施形態に係るホール素子1では、疑似GC形状に基づいて、入力方向及び出力方向に関する形状因子Gin,Goutの比(形状因子比)Gin/Goutを、活性層32におけるX軸方向(in方向)及びY軸方向(out方向)のそれぞれに関する移動度の差(移動度の異方性とも呼ぶ)に応じて定める。形状因子比Gin/Goutは、Lin,Win,Lout,Woutの少なくとも1つを増減することで調整することができる。それにより、活性層32の移動度の異方性に伴うin方向及びout方向の間の感度の異方性を相殺又は抑制する。特に、本実施形態に係るホール素子1のように活性層32内の結晶粒界の並びがY軸方向(out方向)に向けられている場合に、形状因子比Gin/Goutを1より大きくすることで、感度異方性を抑制又は相殺することができる。
【0052】
図7Aに、形状因子比Gin/Goutの変化の一例を示す。一例として、Lin=150μm、Win=Wout=30μmとした。Loutを120μmから180μmに増大することにより、形状因子比Gin/Goutは約1.5から約0.7まで傾きを緩やかにしつつ減少する。なお、Loutに代えてLinを増大した場合、形状因子比Gin/Goutは図示した振る舞いの逆数状の振る舞いを呈する。
【0053】
図7Bに、形状因子比Gin/Goutの変化の別の例を示す。一例として、Lin=Lout=150μm、Win=30μmとした。Woutを24μmから36μmに増大することにより、形状因子比Gin/Goutは約0.968から約1.032までおよそ線形的に増大する。なお、Woutに代えてWinを増大した場合、形状因子比Gin/Goutは図示した振る舞いの逆数状の振る舞いを呈する。
【0054】
図8A及び
図8Bに、それぞれ、形状因子比Gin/Goutに対する定電圧感度の異方性のシミュレーション結果及び測定結果並びに採用した接触領域3a~3dの形状を示す。定電圧感度の異方性は、入力用の電極6a,6bに一定の駆動電圧を印加した際に出力用の電極6c,6dから検出されるホール出力の出力用の電極6c,6dに同強度の駆動電圧を印加した際に入力用の電極6a,6bから検出されるホール出力に対する比と定める。接触領域3a~3dの形状として、略四分円(パターン1及び2)、直角三角形(パターン3)、カイト形(パターン4)、及び楔形(パターン5)を採用した。なお、パターン1~5のそれぞれについて、
図8Cに示すようにLin,Winの値を固定し、Lout,Woutの値を変更することで形状因子比Gin/Goutを与えて感度の異方性を有限要素法に基づくシミュレーション(本例ではFreeFEM++を用いた)により算出した。また、パターン1~3について感度の異方性を測定した。
【0055】
感度異方性は、パターン1についてはGin/Gout=1.010~1.020の範囲内で、パターン2についてはGin/Gout=1.002~1.022の範囲内で、パターン3についてはGin/Gout=1.020~1.042の範囲内で、パターン4についてはGin/Gout=1.016~1.036の範囲内で、パターン5についてはGin/Gout=1.020~1.040の範囲内で0.5~-0.5%であった。測定値は、Gin/Gout=1.04~1.06の範囲内で0.32~-0.12%であった。シミュレーションの結果と測定値とに矛盾はなく、これによりシミュレーションはホール素子1の感度異方性を精度良く再現していることがわかる。
【0056】
感度異方性の許容範囲は、一例として、典型的なホールセンサのノイズレベルに基づいて定めることができる。ホール素子1は、典型的な感度0.8mV/V/mTを有し、常温下において典型的な磁場強度30mT及び駆動電圧0.5Vで使用した場合のホール出力に対する感度異方性が、典型的なホールセンサのノイズレベル(~60μVrms)と同レベルになる範囲、すなわち±0.5%とする。
図8Aに示したシミュレーヨンの結果より、活性層32内の結晶粒界の並びがY軸方向(out方向)に向けられている場合に、形状因子比Gin/Gout=1.002~1.042の範囲内で感度異方性を許容範囲内に抑えることができる。
【0057】
図9に、実施例に係るホール素子1及び比較例に係るホール素子における感度異方性の測定結果を示す。実施例に係るホール素子1では、接触領域3a~3dの形状としてパターン1を採用し、Lin=182.24μm,Win=17.5μm,Lout=181.04μm,Wout=17.9μmとして形状因子比Gin/Gout=1.015と定めた。感度異方性の測定結果は0.1%と十分小さく、許容範囲内であった。比較例に係るホール素子1では、接触領域3a~3dの形状としてパターン2を採用し、Lin=172.67μm,Win=7.07μm,Lout=172.67μm,Wout=7.07μmとして形状因子比Gin/Gout=1.0と定めた。感度異方性の測定結果は1.6%であり、許容範囲を大きく超えた。
【0058】
図10に、ホール素子1の感度異方性のシミュレーション結果を示す。シミュレーションに係るホール素子1では、3つのサンプルについて接触領域3a~3dの形状としてそれぞれパターン2,1,3を採用した。サンプル1ではLin=194.2μm,Win=7.5μm,Lout=194.1μm,Wout=7.9μmとして形状因子比Gin/Gout=1.003と定め、サンプル2ではLin=182.2μm,Win=17.5μm,Lout=180.8μm,Wout=18.3μmとして形状因子比Gin/Gout=1.019と定め、サンプル3ではLin=172.7μm,Win=29.5μm,Lout=169.6μm,Wout=30.7μmとして形状因子比Gin/Gout=1.040と定めた。感度異方性のシミュレーション結果は、サンプル1~3についてそれぞれ0.5%、0.0%、-0.5%といずれも許容範囲内であった。
【0059】
これらの測定結果及びシミュレーション結果より、形状因子比Gin/Gout=1.002~1.042の範囲内で感度異方性を許容範囲内に抑えることができることがわかる。
【0060】
本実施形態に係るホール素子1は、基板2、基板2上で2次元電子ガス膜を形成する活性層32、該活性層32に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層31及び第2バッファ層33を含む積層体3、積層体3上に形成された絶縁膜4、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a~4dを介して活性層32にそれぞれ接続する4つの電極6a~6dであり、X軸方向に対向する2つの電極6a,6bとY軸方向に対向する2つの電極6c,6dとを含む、4つの電極6a~6dを備え、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a~4dのうち、2つの電極6a,6bが活性層32に接続する接触領域3a,3bの離間距離(Lin)、それらが対向する幅(Win)、及びそれらの間の領域のY軸方向への広がりから定められる形状因子(Gin)と、2つの電極6c,6dを活性層32に接続する2つの接触領域3c,3dの離間距離(Lout)、それらが対向する幅(Wout)、及びそれらの間の領域のX軸方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、活性層32におけるX軸方向及びY軸方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる。第1形状因子(Gin)と第2形状因子(Gout)との比を、活性層32におけるX軸方向及びY軸方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定めることで、活性層32における移動度の差に起因する感度のin方向及びout方向間の異方性を抑制又は相殺し、ノイズの発生を回避することができる。
【0061】
本実施形態に係るホールセンサ10は、ホール素子1を備え、その活性層32に入る磁場の強度を高SN比で検出する。
【0062】
本実施形態に係るホール素子1の製造方法は、基板1上に、2次元電子ガス膜を形成する活性層32、活性層32に対してそれぞれ下側及び上側に積層される第1バッファ層31及び第2バッファ層33と、を含む積層体3を形成する段階、積層体3上に絶縁膜4を形成する段階、絶縁膜4にコンタクトホール4a~4dを形成する段階、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a~4dを介して活性層32にそれぞれ接続する4つの電極6a~6dであり、X軸方向に対向する2つの電極6a,6bとY軸方向に対向する2つの電極6c,6dとを含む、4つの電極6a~6dを形成する段階を備え、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a~4dのうち、2つの電極6a,6bを活性層32に接続する2つのコンタクトホール4a,4bの離間距離(Lin)、2つのコンタクトホール4a,4bが対向する幅(Win)、及び2つのコンタクトホール4a,4b間の領域のY軸方向への広がりから定められる第1形状因子(Gin)と、2つの電極6c,6dを活性層32に接続する2つのコンタクトホール4c,4dの離間距離(Lout)、2つのコンタクトホール4c,4dが対向する幅(Wout)、及び2つのコンタクトホール4c,4d間の領域のX軸方向への広がりから定められる第2形状因子(Gout)と、の比(Gin/Gout)が、活性層32におけるX軸方向及びY軸方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定められる。第1形状因子(Gin)と第2形状因子(Gout)との比を、活性層32におけるX軸方向及びY軸方向のそれぞれに関する移動度の差に応じて定めることで、活性層32における移動度の差に起因する感度のin方向及びout方向間の異方性を抑制又は相殺し、ノイズの発生を回避することができる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0064】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0065】
1…ホール素子、2…基板、3…積層体、3a~3d…接触領域、4…絶縁膜、4a~4d…コンタクトホール、6a~6d…電極、6a1…延設部分、9…保護層、10…ホールセンサ、12a~12d…リード端子、13a~13d…ボンディングワイヤ、14a,14c…外装めっき層、19…モールド部材、31…第1バッファ層、32…活性層、33…第2バッファ層、41…誘電体膜(ハードマスク)、42…保護膜。