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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068349
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】定着装置、及び、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240513BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
G03G15/20 535
G03G15/20 555
G03G21/00 500
G03G21/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178725
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100117215
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 有二
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 周太郎
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033AA35
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB17
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BB35
2H033BB37
2H033BE00
2H033BE03
2H033CA03
2H033CA04
2H033CA05
2H033CA06
2H033CA07
2H033CA20
2H033CA28
2H033CA30
2H033CA32
2H033CA34
2H033CA39
2H033CA40
2H033CA59
2H270LA25
2H270LA71
2H270LA76
2H270LA83
2H270LA84
2H270LA99
2H270LD08
2H270LD14
2H270MA33
2H270MA35
2H270MA40
2H270MB25
2H270MB39
2H270MC44
2H270MD14
2H270MD22
2H270MH04
2H270MH06
2H270NE07
2H270NE14
2H270NE16
2H270NE17
2H270PA83
2H270QB07
2H270RA14
2H270RB04
2H270RC10
2H270RC13
2H270RC14
2H270RC18
2H270ZC03
(57)【要約】
【課題】定着ベルトのスリップを検知したときに、装置をなるべく停止することなく定着ベルトのスリップを解消する。
【解決手段】「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、実行開始後に最初に第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときに、接離機構60によって離間状態にあった加圧ローラ31(加圧回転体)を定着ベルト21に所定時間Rだけ当接させた後に、加圧ローラ31を再び離間状態にして、その後、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されなかったときにはベルト空駆動モードを終了して、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときには、離間状態にあった加圧ローラ31を所定時間Rだけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返す。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段によって加熱されて、所定の走行方向に走行しながらシート上のトナー像を加熱して定着する定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面に摺接するニップ形成部材と、
前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に圧接することでシートが搬送される定着ニップを形成する加圧回転体と、
前記定着ベルトに対して前記加圧回転体を相対的に接離する接離機構と、
を備え、
前記接離機構によって前記加圧回転体が前記定着ベルトに対して離間している状態で、前記加熱手段によって前記定着ベルトを加熱しながら前記定着ベルトを走行させる制御モードが、所定のタイミングで実行開始され、
前記制御モードは、
実行開始後に最初に第1スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときに、前記接離機構によって離間状態にあった前記加圧回転体を前記定着ベルトに所定時間だけ当接させた後に、前記加圧回転体を再び離間状態にして、
その後、第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されなかったときには前記制御モードを終了して、前記第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときには、離間状態にあった前記加圧回転体を前記所定時間だけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返すことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着ベルトの表面温度を検知する第1温度センサと、
前記第1温度センサに対して前記走行方向の下流側であって、前記定着ニップに対して前記走行方向の上流側で、前記定着ベルトの表面温度を検知する第2温度センサと、
を備え、
前記第1スリップ検知手段は、前記第1温度センサで検知された第1温度と、前記第1温度が検知されてから所定の時間が経過した後に前記第2温度センサで検知された第2温度と、の温度差が所定値を超えたときに、前記定着ベルトがスリップしたものとして検知し、
前記第2スリップ検知手段は、そのときに前記第2温度センサで検知された第2温度と、前記第1スリップ検知手段によってスリップを検知したときに前記第2温度センサで検知された第2温度と、の温度差が所定の値を超えなかったときに、前記定着ベルトがスリップしたものとして検知することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第2スリップ検知手段によってスリップが検知されて前記加圧回転体を当接状態にした後に離間状態に戻す動作が繰り返された回数が所定回数を超えた場合に、前記制御モードの後におこなわれる予定の印刷動作を中止して、
その中止回数が所定の回数に達している場合には、当該定着装置のメンテナンスを促す表示がされて、前記中止回数が前記所定の回数に達していない場合には、当該定着装置が設置された画像形成装置本体の主電源をオフ・オンした後に前記制御モードが再び実行されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1スリップ検知手段又は前記第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されなくなったときに、前記所定回数と前記中止回数とがリセットされることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第1温度センサと前記第2温度センサとは、幅方向の同じ位置に設置されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項6】
前記加熱手段としてのヒータが内設されて、前記定着ベルトの内周面に当接する加熱ローラを備え、
前記第1温度センサは、前記定着ベルトを介して前記加熱ローラに対向する位置に配置されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート上のトナー像を加熱して定着する定着装置と、それを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機やプリンタ等の画像形成装置に設置された定着装置において、定着ベルトの内周面に当接するニップ形成部材に対して、定着ベルトを介して加圧回転体(加圧ローラ)を圧接させて、シートが搬送される定着ニップを形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、特許文献1には、定着ベルトの表面温度を検知する温度センサと、加圧ローラの表面温度を検知する温度センサと、を設けて、2つの温度センサの温度差が大きい場合に、定着ベルトにスリップが生じたものとして、定着ベルトの加熱を停止する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、定着ベルトのスリップを検知することができても、一様に装置を一旦駆動停止して、定着ベルトのスリップが生じないようなメンテナンスを別途おこなう必要があるため、装置の生産性が低下してしまっていた。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、定着ベルトのスリップを検知したときに、装置をなるべく停止することなく定着ベルトのスリップを解消することができる、定着装置、及び、画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明における定着装置は、加熱手段によって加熱されて、所定の走行方向に走行しながらシート上のトナー像を加熱して定着する定着ベルトと、前記定着ベルトの内周面に摺接するニップ形成部材と、前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に圧接することでシートが搬送される定着ニップを形成する加圧回転体と、前記定着ベルトに対して前記加圧回転体を相対的に接離する接離機構と、を備え、前記接離機構によって前記加圧回転体が前記定着ベルトに対して離間している状態で、前記加熱手段によって前記定着ベルトを加熱しながら前記定着ベルトを走行させる制御モードが、所定のタイミングで実行開始され、前記制御モードは、実行開始後に最初に第1スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときに、前記接離機構によって離間状態にあった前記加圧回転体を前記定着ベルトに所定時間だけ当接させた後に、前記加圧回転体を再び離間状態にして、その後、第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されなかったときには前記制御モードを終了して、前記第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときには、離間状態にあった前記加圧回転体を前記所定時間だけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返すものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、定着ベルトのスリップを検知したときに、装置をなるべく停止することなく定着ベルトのスリップを解消することができる、定着装置、及び、画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明の実施の形態における画像形成装置を示す全体構成図である。
図2】定着装置を示す構成図である。
図3】加圧ローラが離間した状態の定着装置を示す図である。
図4】ベルト空駆動モード時の定着装置の動作を示す図である。
図5】ベルト空駆動モード時の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
まず、図1にて、画像形成装置1における全体の構成・動作について説明する。
図1において、1はコピー機能とプリンタ機能とを有する複合機としての画像形成装置、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部、3は原稿Dを原稿読込部4に搬送する原稿搬送部、4は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、7は用紙等のシートPが収容される給紙部、を示す。
また、9はシートPの搬送タイミングを調整するレジストローラ(タイミングローラ)、11Y、11M、11C、11BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナー像が形成される感光体ドラム、12は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上を帯電する帯電部、を示す。
また、13は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成される静電潜像を現像する現像部、14は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成されたトナー像をシートP上に重ねて転写する1次転写バイアスローラ、15は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の未転写トナーを回収するクリーニング部、を示す。
また、16は中間転写ベルト17を清掃する中間転写ベルトクリーニング部、17は複数色のトナー像が重ねて転写される中間転写ベルト、18は中間転写ベルト17上のカラートナー像をシートP上に転写するための2次転写バイアスローラ、20はシートP上のトナー像(未定着画像)を定着する定着装置、を示す。
また、65は印刷動作(画像形成動作)に関わる情報が表示されたり操作をおこなったりするための操作表示パネル、を示す。
【0011】
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成動作(印刷動作)について説明する。
画像形成装置1が複写機として使用される場合、ユーザーによって、原稿台に原稿Dが載置されて、操作表示パネル65に印刷条件などの必要な情報が入力されてコピーボタンが押される。
これにより、原稿Dが、原稿搬送部3の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部4のコンタクトガラス5上に載置される。そして、原稿読込部4で、コンタクトガラス5上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0012】
詳しくは、原稿読込部4は、コンタクトガラス5上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
【0013】
なお、画像形成装置1がプリンタとして使用される場合には、ユーザーによって、画像形成装置1に通信可能に接続されたパソコンなどの外部入力装置から画像情報や印刷条件などの必要な情報が入力されて、それらの情報が画像形成装置1の制御部で取得される。
【0014】
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応する感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に向けて発せられる。
【0015】
一方、4つの感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKは、それぞれ、図1の反時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、帯電部12との対向部で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上には、帯電電位が形成される。その後、帯電された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する。
書込み部2において、4つの光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応してそれぞれ射出される。各レーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる(露光工程である。)。
【0016】
イエロー成分に対応したレーザ光は、紙面左側から1番目の感光体ドラム11Yの表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラーにより、感光体ドラム11Yの回転軸方向(主走査方向、幅方向)に走査される。こうして、帯電部12にて帯電された後の感光体ドラム11Y上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
【0017】
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、紙面左から2番目の感光体ドラム11Mの表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、紙面左から3番目の感光体ドラム11Cの表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、紙面左から4番目の感光体ドラム11BKの表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
【0018】
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、現像部13との対向位置に達する。そして、各現像部13から感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、中間転写ベルト17との対向部に達する。ここで、それぞれの対向部には、中間転写ベルト17の内周面に当接するように1次転写バイアスローラ14が設置されている。そして、1次転写バイアスローラ14の位置で、中間転写ベルト17上に、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成された各色のトナー像が、順次重ねて転写される(1次転写工程である。)。
【0019】
そして、転写工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、それぞれ、クリーニング部15との対向位置に達する。そして、クリーニング部15で、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、除電部を通過して、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKにおける一連の作像プロセスが終了する。
【0020】
他方、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の各色のトナーが重ねて転写(担持)された中間転写ベルト17は、図中の時計方向に走行して、2次転写バイアスローラ18との対向位置に達する。そして、2次転写バイアスローラ18との対向位置で、シートP上に中間転写ベルト17上に担持されたカラーのトナー像が転写される(2次転写工程である。)。
その後、中間転写ベルト17表面は、中間転写ベルトクリーニング部16の位置に達する。そして、中間転写ベルト17上に付着した未転写トナーが中間転写ベルトクリーニング部16に回収されて、中間転写ベルト17における一連の転写プロセスが終了する。
【0021】
ここで、中間転写ベルト17と2次転写バイアスローラ18との間(2次転写ニップである。)に搬送されるシートPは、給紙部7からレジストローラ9等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、シートPを収納する給紙部7から、給紙ローラ8により給送されたシートPが、搬送ガイドを通過した後に、レジストローラ9に導かれる。レジストローラ9に達したシートPは、タイミングを合わせて、2次転写ニップに向けて搬送される。
【0022】
そして、フルカラー画像が転写されたシートPは、搬送ベルトによって定着装置20に導かれる。定着装置20では、定着ベルト21と加圧ローラ31との定着ニップ(ニップ部)にて、カラー画像(トナー像)がシートP上に定着される(定着工程である。)。
そして、定着工程後のシートPは、排紙ローラによって、装置本体1外に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセス(印刷動作)が完了する。
【0023】
次に、図2図3を用いて、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成・動作について詳述する。
図2に示すように、定着装置20は、定着ベルト21、加熱ローラ22、ニップ形成部材23(摺動パッド)、潤滑剤供給ローラ24、テンションローラ25、加熱手段としてのヒータ26、補強ローラ27、温度センサ41、42、加圧回転体としての加圧ローラ31、等で構成されている。
【0024】
ここで、定着ベルト21は、シートP上のトナー像を加熱してシートP上に定着する定着回転体である。定着ベルト21は、ポリイミド等の樹脂材料からなるベース層上に、弾性層、離型層(表面層)が順次積層された多層構造の無端状ベルトである。定着ベルト21の弾性層は、層厚が90μm程度のフッ素ゴム、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム等の弾性材料で形成されている。定着ベルト21の離型層は、層厚が20μm程度のPFA(4フッ化エチレンバーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)等で形成されている。定着ベルト21の表層に離型層を設けることにより、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保されることになる。定着ベルト21は、3つのローラ部材(加熱ローラ22と潤滑剤供給ローラ24とテンションローラ25とである。)とニップ形成部材23とによって張架・支持されて、図2の矢印方向(時計方向)に走行(回転)する。定着部材として熱容量の低い定着ベルト21を用いることで、装置の昇温特性が向上する。
なお、本実施の形態では、定着ベルト21を張架・支持するために3つのローラ部材22、24、25を用いたが、ローラ部材の数はこれに限定されない。
【0025】
加熱ローラ22は、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料からなる中空構造のローラ部材であって、その円筒体の内部には加熱手段としてのヒータ26(熱源)が非回転で固設されている。加熱ローラ22の肉厚を比較的薄く設定することで、加熱体の熱容量が低下して装置の昇温特性が向上する(立ち上がり時間が短縮化される。)。
【0026】
加熱ローラ22に内設されたヒータ26(加熱手段)は、ハロゲンヒータであって、その両端部が定着装置20の側板に固定されている。そして、画像形成装置本体1のメインスイッチがオンされた状態で、電源部(不図示)からヒータ26に電力が供給される。そして、制御部90により出力制御されたヒータ26からの輻射熱によって加熱ローラ22が加熱されて、さらに加熱ローラ22によって加熱された定着ベルト21の表面からシートP上のトナー像Tに熱が加えられる。
ヒータ26の出力制御は、定着ベルト21の表面に非接触で対向する第1温度センサ41によるベルト表面温度の検知結果に基づいておこなわれる。詳しくは、第1温度センサ41(サーモパイル)の検知結果に基づいて定められる通電時間だけ、ヒータ26に交流電圧が印加される。このようなヒータ26の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度(目標制御温度)に調整制御することができる。
なお、本実施の形態では、加熱ローラ22の内部に1本のヒータ26を設置したが、複数本のヒータを設置することもできる。
また、本実施の形態において、第1温度センサ41は、定着ベルト21を介して加熱ローラ22に対向する位置に配置されている。
また、本実施の形態では、第1温度センサ41の他に、その下流側に第2温度センサ42が設置されているため、上述したヒータ制御に、第2温度センサ41によるベルト表面温度の検知結果も用いることもできる。
【0027】
図2を参照して、ニップ形成部材23は、定着ベルト21の内周面(摺接面)に摺接するものであって、定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接して定着ニップを形成している。ニップ形成部材23は、加圧ローラ31との対向面(定着ベルト21に摺接する面である。)が、平面状に形成されている。これにより、ニップ部の形状がシートPの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21とシートPとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出されたシートPを定着ベルト21から容易に分離することができる。
なお、本実施の形態では、ニップ部を形成するニップ形成部材23の形状を平面状に形成したが、ニップ部を形成するニップ形成部材23の形状を凹状に形成することもできる。すなわち、ニップ形成部材23の対向面(定着ベルト21に摺接する面である。)を、加圧ローラ31の曲率にならうように凹状に形成することもできる。その場合、シートPは加圧ローラ31の曲率にならうようにニップ部から送出されるために、定着工程後のシートPが定着ベルト21に吸着して分離しないような不具合を抑止することができる。
【0028】
また、ニップ形成部材23を形成する材料としては、樹脂材料や金属材料を用いることができるが、加圧ローラ31による加圧力を受けても大きく撓むことがない程度の剛性があり、耐熱性と断熱性とを有する樹脂材料(液晶ポリマー、ポリアミドイミド、ポリイミド、等である。)が好適である。
なお、ニップ形成部材23の対向面には、定着ベルト21との摺動抵抗を減ずるために、低摩擦材料(例えば、ダイヤモンドライクカーボン、PTFE、二硫化モリブデン、グラファイト等である。)がコーティングされていることが好ましい。
また、本実施の形態では、定着ベルト21を加熱する加熱手段としてヒータ26を用いた。これに対して、ニップ形成部材23としてセラミックヒータなどを用いることで、摺接部材として機能するニップ形成部材23を加熱手段としても機能するように構成することもできる。その場合、ニップ形成部材23の対向面は、ガラス・セラミックス等の無機材料であっても良いし、最表面に樹脂の塗膜が形成されたものであっても良い。
【0029】
ここで、本実施の形態では、ニップ部を形成するニップ形成部材23の強度を補強する補強ローラ27が、定着ベルト21の内周面側に固設されている。図示は省略するが、補強ローラ27は、幅方向(図1図4の紙面垂直方向である。)の長さがニップ形成部材23と同等になるように形成されていて、その幅方向両端部が定着装置20のフレーム(筐体)に非回転で保持されている。
そして、補強ローラ27がニップ形成部材23及び定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接することで、ニップ部においてニップ形成部材23が加圧ローラ31の加圧力を受けて大きく変形する不具合を抑止している。この補強ローラ27は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。
【0030】
潤滑剤供給ローラ24は、加熱ローラ22に対して下流側(ベルト走行方向の下流側である。)であって、定着ニップ(ニップ形成部材23)に対して上流側で、定着ベルト21の内周面に当接するように配置されている。
潤滑剤供給ローラ24には、潤滑剤(例えば、シリコーンオイル、基油がシリコーンオイルであるシリコーングリス、フロロシリコーンオイル、基油がフロロシリコーンオイルであるフロロシリコーングリス、フッ素オイル、基油がフッ素オイルであるフッ素グリス、又は、これらのいずれか2種以上を組み合わせたもの、等である。)が含侵されている。そして、潤滑剤供給ローラ24から定着ベルト21の内周面に潤滑剤が供給(塗布)されることで、ニップ形成部材23と定着ベルト21との摺動抵抗が減ぜられることになる。
なお、本実施の形態では、定着ベルト21を介して潤滑剤供給ローラ24に対向するように(定着ベルト21の表面に非接触で対向するように)、第2温度センサ42が設置されている。
【0031】
テンションローラ25は、定着ニップ(ニップ形成部材23)に対して下流側(ベルト走行方向の下流側である。)であって、加熱ローラ22に対して上流側で、定着ベルト21の内周面に当接するように配置されている。
図示は省略するが、テンションローラ25は、圧縮スプリングによって定着ベルト21に張力を付与するように付勢されている。
【0032】
また、加圧ローラ31は、定着ベルト21を介してニップ形成部材23に圧接することでシートPが搬送される定着ニップを形成する加圧回転体である。加圧回転体としての加圧ローラ31は、主として、金属材料からなる芯金32と、芯金32の外周面に接着層を介して形成された弾性層33と、弾性層33の外周面に形成された表面層34(離型層)と、からなる。加圧ローラ31の弾性層33は、層厚が数mm程度であって、絶縁性を有する発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の弾性材料で形成されている。加圧ローラ31の表面層34は、層厚が数十μm~数百μm程度であって、導電性を有するPFA(PFAチューブ)等の低摩擦材料で形成されている。加圧ローラ31の表面層34として導電性を有する離型層を設けることにより、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保されるとともに、シートPが加圧ローラ31に静電気的に吸着して分離性が低下する不具合を軽減することができる。
【0033】
ここで、本実施の形態における定着装置20には、定着ベルト21に対して加圧ローラ31を接離する接離機構60が設けられている。すなわち、定着ベルト21に対して加圧ローラ31を当接状態(又は、離間状態)から離間状態(又は、当接状態)に切り替える接離機構60が設けられている。
詳しくは、通常の定着工程時(印刷動作時)には、接離機構60によって、加圧ローラ31は、定着ベルト21を介してニップ形成部材23に圧接するように移動される。こうして、加圧ローラ31と定着ベルト21との間に所望の定着ニップが形成されて、定着工程を実施可能な状態になる(図2の状態である。)。
これに対して、通常の定着工程時(印刷動作時)以外のとき(非定着工程時)には、図3に示すように、接離機構60によって、加圧ローラ31は、定着ベルト21から離間するように白矢印方向に移動される。こうして、加圧ローラ31が定着ベルト21(ニップ形成部材23)に対して非圧接状態になるため、加圧ローラ31や定着ベルト21やニップ形成部材23が無駄に加圧されて変形してしまう不具合などが軽減される。
なお、このような接離機構60としては、公知のものを用いることができて、例えば、加圧ローラ31の軸部を支持するレバー部材、レバー部材を昇降するカム、カムを回転駆動するモータ、などで構成されたものを用いることができる。
また、本実施の形態において、接離機構60を、定着ベルト21に対する加圧ローラ31の接離に加えて、定着ベルト21に対する加圧ローラ31の圧接力を調整できるように構成することもできる。
【0034】
また、本実施の形態において、定着装置20を駆動する駆動手段は、加圧ローラ31の軸部に接続された駆動モータ70、駆動モータ70のモータ軸に設置された駆動ギアから加熱ローラ22の軸部に駆動を伝達するギア列(不図示)、などで構成されている。
駆動モータ70は、接離機構60によって加圧ローラ31とともに上下動することになる。また、駆動モータ70のモータ軸に設置された駆動ギアは、接離機構60による上下動に連動して、上述したギア列に噛合・非噛合することになる。
なお、定着装置20を駆動する駆動手段は、本実施の形態のものに限定されることなく、例えば、加圧ローラ31を回転駆動する駆動モータとは別に、加熱ローラ22を回転駆動する駆動モータを独立して設けることもできる。
【0035】
上述のように構成された定着装置20は、次のように動作する。
装置本体1のメインスイッチが投入されると、電源部からヒータ26に交流電圧が印加(給電)される。
そして、印刷指令(ジョブ指令)が入力されると、駆動モータ70によって加圧ローラ31や加熱ローラ22がそれぞれ図2の矢印方向に回転駆動されて、それにともない定着ベルト21、潤滑剤供給ローラ24、テンションローラ25が図2の矢印方向(時計方向)にそれぞれ従動回転することになる。その後、給紙部7からシートPが給送されて、2次転写バイアスローラ18の位置で、中間転写ベルト17上のトナー像がシートP上に未定着画像として担持される。未定着画像(トナー像)が担持されたシートPは、図2の一点鎖線矢印の方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31の定着ニップに送入される。そして、定着ベルト21による加熱と、定着ベルト21(ニップ形成部材23)及び加圧ローラ31の押圧力とによって、シートPの表面にトナー像が定着される。その後、回転する定着ベルト21及び加圧ローラ31によって、その定着ニップから送出されたシートPは、そのまま一点鎖線矢印の方向に搬送される。
【0036】
以下、本実施の形態における定着装置20(画像形成装置1)の特徴的な構成・動作について、詳しく説明する。
先に図2図3等を用いて説明したように、本実施の形態における定着装置20には、定着ベルト21、ニップ形成部材23、加圧回転体としての加圧ローラ31、接離機構60などが設けられている。
定着ベルト21は、加熱手段としてのヒータ26によって加熱されて、所定の走行方向に走行しながらシートP上のトナー像を加熱して定着するものである。加熱手段としてのヒータ26は、定着ベルト21の内周面に当接する加熱ローラ22に内設されている。
ニップ形成部材23は、定着ベルト21の内周面に摺接するものである。
加圧回転体としての加圧ローラ31は、定着ベルト21を介してニップ形成部材23に圧接することでシートPが搬送される定着ニップを形成するものである。
接離機構60は、定着ベルト21に対して加圧ローラ31(加圧回転体)を相対的に接離するものである。具体的に、本実施の形態において、接離機構60は、加圧ローラ31を上下動させることで、定着ベルト21に対して加圧ローラ31を接離するものである。
【0037】
ここで、本実施の形態における定着装置20には、第1、第2温度センサ41、42が設置されている。
第1温度センサ41は、定着ベルト21の表面温度を検知する第1温度検知手段であって、定着ベルト21を介して加熱ローラ22に対向する位置に配置されている。
第2温度センサ42は、第1温度センサ41に対して走行方向下流側(定着ベルト21の走行方向の下流側である。)であって、定着ニップ(ニップ形成部材23)に対して走行方向の上流側で、定着ベルト21の表面温度を検知する第2温度検知手段である。
なお、第1温度センサ41は、第2温度センサ42とともに、後述する制御モード(ベルト空駆動モード)が実行開始された後に定着ベルト21がスリップした状態を検知する第1スリップ検知手段として機能する。また、第2温度センサ42は、第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されて、そのスリップを解消するための動作がおこなわれた後に、スリップが解消されたか否かを検知する第2スリップ検知手段として機能する。このように、第2温度センサ42は、第1スリップ検知手段としても機能するし、第2スリップ検知手段としても機能することになる。これらの第1、第2スリップ検知手段については後で詳しく説明する。
【0038】
ここで、本実施の形態では、接離機構60によって加圧ローラ31(加圧回転体)が定着ベルト21に対して離間している状態で、ヒータ26(加熱手段)によって定着ベルト21を加熱しながら定着ベルト21を走行させる「制御モード」が、非定着工程時に所定のタイミングで実行開始される。以下、このような制御モードを、適宜に「ベルト空駆動モード」と呼ぶ。
詳しくは、図4(A)を参照して、「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、印刷動作が開始される前のウォーミングアップ時などに、制御部90による接離機構60や電源部や駆動モータ70の制御によって、定着ベルト21から加圧ローラ31を離間した状態(離間状態)で、ヒータ26をオンして、駆動モータ70を稼働するものである。
このように、「ベルト空駆動モード(制御モード)」を実行することで、加圧ローラ31を当接状態にすることによる定着ベルト21との摺動による摩耗を減じつつ、定着ベルト21を周方向にわたって均一に加熱することが可能になる。したがって、その後におこなわれる定着工程(印刷動作)において、シートP上に定着性の良好な定着画像を形成することができる。
【0039】
そして、本実施の形態において、「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、第1、第2温度センサ41、42(スリップ検知手段)で定着ベルト21のスリップが検知されたときに、接離機構60によって離間状態にあった加圧ローラ31(加圧回転体)を定着ベルト21に当接させるように設定されている。
すなわち、ベルト空駆動モード(制御モード)が実行開始されたとき、図4(A)に示すように、加圧ローラ31は離間状態にある。しかし、ベルト空駆動モードの実行開始後に、第1、第2温度センサ41、42によって定着ベルト21のスリップが検知されると、制御部90による接離機構60の制御によって、加圧ローラ31は、図4(A)に示す離間状態から、図4(B)に示す当接状態に移行することになる。
【0040】
さらに詳しくは、定着ベルト21のスリップは、定着装置20の駆動がおこなわれずに加圧ローラ31の離間状態が長時間続いた後に、ベルト空駆動モードを実行開始したときに生じやすい。
定着装置20の駆動がおこなわれずに加圧ローラ31の離間状態が長時間続くと、加熱ローラ22、潤滑剤供給ローラ24、ニップ形成部材23、テンションローラ25の位置で定着ベルト21に折れクセ(曲がりクセ)が付きやすくなり、そのような状態でベルト空駆動モードを実行開始しても、折れクセが抵抗になってスリップしやすくなる。
これに対して、定着ベルト21に対して加圧ローラ31を当接させて定着ニップを形成することで、定着ニップの位置で加圧ローラ31によって定着ベルト21を走行させる推進力が付与されて、スリップが解消されやすくなる(定着ベルト21が正常に走行しやすくなる)。
すなわち、ベルト空駆動モードの実行中に定着ベルト21のスリップが検知されたときに、加圧ローラ31を離間状態から当接状態に移行させることで、定着装置20(画像形成装置1)を停止することなく定着ベルト21のスリップを解消することが可能になる。
【0041】
このように、本実施の形態において、「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、ベルト空駆動モードの実行開始後に最初に第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときに、接離機構60によって離間状態にあった加圧ローラ31(加圧回転体)を定着ベルト21に所定時間Rだけ当接させた後に、加圧ローラ31を再び離間状態にするものである。
そして、「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、その後、第2スリップ検知手段として機能する第2温度センサ42によって定着ベルト21のスリップが検知されなかったときにはベルト空駆動モードを終了する。これに対して、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときには、離間状態にあった加圧ローラ31を所定時間Rだけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返すことになる。
【0042】
ここで、第1スリップ検知手段(第1、第2温度センサ41、42)は、第1温度センサ41で検知された第1温度T1と、第1温度T1が検知されてから所定の時間Xが経過した後に第2温度センサ42で検知された第2温度T2と、の温度差(T1-T2)が所定値A(35°程度である。)を超えたときに、定着ベルト21がスリップしたものとして検知する。
なお、上述した「所定の時間X」は、定着ベルト21がスリップせずに正常に走行したときに、第1温度センサ41で検知された部分が第2温度センサ42の位置に達するまでの時間である。すなわち、「所定の時間X」は、定着ベルト21上における第1温度センサ41の検知位置から第2温度センサ42の検知位置までの距離Mを、定着ベルト21の線速度Vで割った値(X=M/V)である。
【0043】
詳しくは、定着ベルト21にスリップが生じていない場合には、第1温度センサ41で検知された部分は、所定の時間Xが経過した後に、ちょうど第2温度センサ42の位置に達することになるため、上述した温度差(T1-T2)はそれほど大きなものにならない(所定置A以下になる)。
これに対して、定着ベルト21にスリップが生じてしまった場合には、第1温度センサ41で検知された部分は、所定の時間Xが経過した後に、第2温度センサ42の位置に達することはないため、上述した温度差(T1-T2)が大きなものになる(所定置Aを超える)。
なお、本実施の形態では、上述した第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)のスリップ検知のメカニズムに鑑み、第1温度センサ41と第2温度センサ42とは、幅方向(図2図4の紙面垂直方向である。)の同じ位置に設置されている。具体的に、第1温度センサ41と第2温度センサ42とは、それぞれ、幅方向中央位置に設置されている。
また、本実施の形態では、第1、第2温度センサ41、42として、定着ベルト21に対して非接触な温度センサを用いているため、定着ベルト21に接触する温度センサを用いる場合に比べて、定着ベルト21のスリップが生じにくくなる。
【0044】
これに対して、第2スリップ検知手段(第2温度センサ42)は、そのときに第2温度センサ42で検知された第2温度T´と、モード実行開始後に最初に第1スリップ検知手段(第1、第2温度センサ41、42)によってスリップを検知したときに第2温度センサ42で検知された第2温度T2と、の温度差(T2´-T2)が所定の値Bを超えなかったときに、定着ベルト21がスリップしたものとして検知する。
なお、上述した「所定の値B」は、定着ベルト21のスリップが解消されて定着ベルト21が正常に走行したときの、第2温度センサ42の位置におけるベルト表面温度の正常値と、定着ベルト21にスリップが生じたときの、第2温度センサ42の位置におけるベルト表面温度の異常値と、の差分に余裕度分を加味した値となる。
【0045】
このように、本実施の形態では、ベルト空駆動モード実行開始後に第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されて、そのスリップを解消するための動作がおこなわれた後に、スリップが解消されたか否かを第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)で検知して、スリップが検知された場合には加圧ローラ31の当接・離間動作を繰り返して、スリップを解消するようにしている。
したがって、定着ベルト21のスリップを検知したときに、定着装置20(画像形成装置1)をなるべく停止することなく定着ベルト21のスリップを解消することができる。
【0046】
ここで、本実施の形態では、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されて加圧ローラ31(加圧回転体)を当接状態にした後に離間状態に戻す動作が繰り返された回数が所定回数Nを超えた場合に、ベルト空駆動モード(制御モード)の後におこなわれる予定の印刷動作を中止している。
そして、その中止回数(印刷動作を中止した回数)が所定の回数Hに達している場合には、定着装置20のメンテナンス(サービスマンコール)を促す表示が操作表示パネル65(図1参照)にされる。これに対して、その中止回数が所定の回数Hに達していない場合には、定着装置20が設置された画像形成装置本体1の主電源をオフ・オンした後にベルト空駆動モード(制御モード)が再び実行される。
このように、定着装置20の復帰の可能性がそれなりにあると推認される場合には、主電源のオフ・オン後のベルト空駆動モードの再実行を試みて、定着装置20の復帰の可能性が極めて低いと推認される場合には、装置のメンテナンスを促すことで、ユーザーにとって無駄な時間を生じさせないようにすることができる。
【0047】
また、そのような制御をおこなうにあたって、第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)又は第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されなくなったときに、制御上、上述した所定回数Nと中止回数Hとがゼロ回にリセットされるようにしている。
これにより、上述した制御をおこなうことによる効果が発揮されやすくなる。
【0048】
以下、図5のフローチャートを用いて、ベルト空駆動モード時の制御の一例について説明する。
図5に示すように、まず、画像形成装置1の主電源がオンされたり、省エネモードが解除されたり、印刷指令が入力されたりすると、冷却状態又は半冷却状態にある定着ベルト21を周方向にわたって均一に加熱するために、ベルト空駆動モードが開始される(ステップS1)。すなわち、加圧ローラ31が離間された状態で、ヒータ26をオンして、駆動モータ70による定着ベルト21の回転駆動をおこなう。
そして、第1温度センサ41で検知される第1温度T1と、第2温度センサ42で検知される第2温度T2と、の温度差(T1-T2)が所定値Aを超えていないかが制御部90で判別される(ステップS2)。その結果、温度差(T1-T2)が所定値Aを超えていない場合には、定着ベルト21のスリップが生じていない(又は、スリップが解消した)ものとして、ベルト空駆動モードが終了した後に、加圧ローラ31を当接状態にして所望の印刷動作を開始する(ステップS3)。このとき、ステップS4でカウントアップされた加圧ローラ31の当接・離間の回数Nや、ステップS9でカウントアップされた印刷動作を中止した回数Hが、それぞれゼロにリセットされる。
これに対して、ステップS2で、温度差(T1-T2)が所定値Aを超えている場合には、定着ベルト21のスリップが生じているものとして、離間状態にあった加圧ローラ31を当接状態にした状態でベルト空駆動モードを継続する(ステップS4)。このとき、加圧ローラ31を当接・離間した回数Nがカウントアップされる。そして、所定時間Rが経過した後に加圧ローラ31を再び離間状態にしてベルト空駆動モードを継続する(ステップS5)。
そして、第2温度センサ42で検知した現在の第2温度T´と、ステップS2で第2温度センサ42によって検知した第2温度T2と、の温度差(T2´-T2)が所定の値Bを超えていないかが制御部90で判別される(ステップS6)。その結果、温度差(T2´-T2)が所定の値Bを超えている場合には、定着ベルト21のスリップが解消したものとして、ベルト空駆動モードが終了した後に、加圧ローラ31を当接状態にして所望の印刷動作を開始する(ステップS7)。このとき、ステップS4でカウントアップされた加圧ローラ31の当接・離間の回数Nや、ステップS9でカウントアップされた印刷動作を中止した回数Hが、それぞれゼロにリセットされる。
【0049】
これに対して、ステップS6で、温度差(T2´-T2)が所定の値Bを超えていない場合には、定着ベルト21のスリップが解消されていないものとして、加圧ローラ31の当接・離間の回数が所定回数N以上でないときには、ステップ4以降のフローを繰り返す(ステップS8)。
これに対して、ステップS8で、加圧ローラ31の当接・離間の回数が所定回数N以上であるときには、その後に予定されている印刷動作を中止する(ステップS9)。このとき、印刷動作を中止した回数Hがカウントアップされる。そして、印刷動作を中止した回数が所定の回数H以上であるかが判別される(ステップS10)。その結果、印刷動作を中止した回数が所定の回数H以上である場合には、操作表示パネル65に装置のメンテナンスを促す表示をする(ステップS11)。これに対して、ステップS10で印刷動作を中止した回数が所定の回数H以上でない場合には、操作表示パネル65に主電源のオフ・オンを促す表示をして(ステップS12)、主電源のオフ・オンがされるとステップS1以降のフローが繰り返される(ステップS13)。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態における定着装置20は、ヒータ26(加熱手段)によって加熱されて所定の走行方向に走行しながらシートP上のトナー像を加熱して定着する定着ベルト21と、定着ベルト21の内周面に摺接するニップ形成部材23と、定着ベルト21を介してニップ形成部材23に圧接することでシートPが搬送される定着ニップを形成する加圧ローラ31(加圧回転体)と、定着ベルト21に対して加圧ローラ31を相対的に接離する接離機構60と、が設けられている。そして、接離機構60によって加圧ローラ31が定着ベルト21に対して離間している状態で、ヒータ26によって定着ベルト21を加熱しながら定着ベルト21を走行させる「ベルト空駆動モード(制御モード)」が、所定のタイミングで実行開始される。そして、「ベルト空駆動モード(制御モード)」は、実行開始後に最初に第1、第2温度センサ41、42(第1スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときに、接離機構60によって離間状態にあった加圧ローラ31を定着ベルト21に所定時間Rだけ当接させた後に、加圧ローラ31を再び離間状態にして、その後、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されなかったときにはベルト空駆動モードを終了して、第2温度センサ42(第2スリップ検知手段)によって定着ベルト21のスリップが検知されたときには、離間状態にあった加圧ローラ31を所定時間Rだけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返す。
これにより、定着ベルト21のスリップを検知したときに、装置をなるべく停止することなく定着ベルト21のスリップを解消することができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、加圧回転体として加圧ローラ31(ローラ部材)を用いたが、加圧回転体として加圧ベルト(ベルト部材)を用いることもできる。
また、本実施の形態では、加熱手段としてヒータ26を用いた熱ヒータ方式の定着装置20に対して本発明を適用したが、本発明の適用はこれに限定されることなく、例えば、加熱手段として電磁誘導コイルを用いた電磁誘導方式(IH方式)の定着装置や、加熱手段として抵抗発熱体を用いた抵抗発熱方式の定着装置に対しても、本発明を適用することができる。
また、本実施の形態では、定着ベルト21に対して加圧ローラ31(加圧回転体)が接離するように接離機構60を構成したが、接離機構は定着ベルトに対して加圧ローラ(加圧回転体)を相対的に接離させるものであれば良く、加圧ローラ(加圧回転体)に対して定着ベルトが接離するように接離機構を構成することもできる。
そして、それらのような場合にも、本実施の形態のものと同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、本発明が本実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、本実施の形態の中で示唆した以外にも、本実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【0053】
なお、本願明細書等において、「シート」とは、用紙に限定されることなく、シート状の記録媒体のすべて、例えば、コート紙、ラベル紙、OHPシート、等も含むものと定義する。
また、本願明細書等において、定着ベルトが「スリップした状態」とは、正常に走行するべき定着ベルトが停止してしまっている状態はもちろんのこと、正常時とは異なる状態で定着ベルトが走行している状態、例えば、定着ベルトが走行と停止とを繰り返し間欠的に走行してしまっている状態や、定着ベルトが正常時に比べて低速で走行してしまっている状態なども含むものと定義する。
【符号の説明】
【0054】
1 画像形成装置(画像形成装置本体)、
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着回転体)、
22 加熱ローラ、
23 ニップ形成部材、
24 潤滑剤供給ローラ、
25 テンションローラ、
26 ヒータ(加熱手段)、
27 補強ローラ、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、
41 第1温度センサ(第1スリップ検知手段)、
42 第2温度センサ(第1スリップ検知手段、第2スリップ検知手段)、
60 接離機構(加圧力調整機構)、
70 駆動モータ(駆動手段)、
P シート(記録媒体)。
【0055】
なお、本発明における態様は、例えば、以下の通り付記1~7の組み合わせとすることもできる。
(付記1)
加熱手段によって加熱されて、所定の走行方向に走行しながらシート上のトナー像を加熱して定着する定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面に摺接するニップ形成部材と、
前記定着ベルトを介して前記ニップ形成部材に圧接することでシートが搬送される定着ニップを形成する加圧回転体と、
前記定着ベルトに対して前記加圧回転体を相対的に接離する接離機構と、
を備え、
前記接離機構によって前記加圧回転体が前記定着ベルトに対して離間している状態で、前記加熱手段によって前記定着ベルトを加熱しながら前記定着ベルトを走行させる制御モードが、所定のタイミングで実行開始され、
前記制御モードは、
実行開始後に最初に第1スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときに、前記接離機構によって離間状態にあった前記加圧回転体を前記定着ベルトに所定時間だけ当接させた後に、前記加圧回転体を再び離間状態にして、
その後、第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されなかったときには前記制御モードを終了して、前記第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されたときには、離間状態にあった前記加圧回転体を前記所定時間だけ当接状態にした後に離間状態に戻す動作を繰り返すことを特徴とする定着装置。
(付記2)
前記定着ベルトの表面温度を検知する第1温度センサと、
前記第1温度センサに対して前記走行方向の下流側であって、前記定着ニップに対して前記走行方向の上流側で、前記定着ベルトの表面温度を検知する第2温度センサと、
を備え、
前記第1スリップ検知手段は、前記第1温度センサで検知された第1温度と、前記第1温度が検知されてから所定の時間が経過した後に前記第2温度センサで検知された第2温度と、の温度差が所定値を超えたときに、前記定着ベルトがスリップしたものとして検知し、
前記第2スリップ検知手段は、そのときに前記第2温度センサで検知された第2温度と、前記第1スリップ検知手段によってスリップを検知したときに前記第2温度センサで検知された第2温度と、の温度差が所定の値を超えなかったときに、前記定着ベルトがスリップしたものとして検知することを特徴とする付記1に記載の定着装置。
(付記3)
前記第2スリップ検知手段によってスリップが検知されて前記加圧回転体を当接状態にした後に離間状態に戻す動作が繰り返された回数が所定回数を超えた場合に、前記制御モードの後におこなわれる予定の印刷動作を中止して、
その中止回数が所定の回数に達している場合には、当該定着装置のメンテナンスを促す表示がされて、前記中止回数が前記所定の回数に達していない場合には、当該定着装置が設置された画像形成装置本体の主電源をオフ・オンした後に前記制御モードが再び実行されることを特徴とする付記1又は付記2に記載の定着装置。
(付記4)
前記第1スリップ検知手段又は前記第2スリップ検知手段によって前記定着ベルトのスリップが検知されなくなったときに、前記所定回数と前記中止回数とがリセットされることを特徴とする付記3に記載の定着装置。
(付記5)
前記第1温度センサと前記第2温度センサとは、幅方向の同じ位置に設置されたことを特徴とする付記1~付記4のいずれかに記載の定着装置。
(付記6)
前記加熱手段としてのヒータが内設されて、前記定着ベルトの内周面に当接する加熱ローラを備え、
前記第1温度センサは、前記定着ベルトを介して前記加熱ローラに対向する位置に配置されたことを特徴とする付記1~付記5のいずれかに記載の定着装置。
(付記7)
付記1~付記6のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】特許第5418913号公報
図1
図2
図3
図4
図5