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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068465
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】細胞集団を製造する方法及び細胞集団
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240513BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178941
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 あすか
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR66
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA21
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】より簡便に薬効評価可能であり、かつ、精度が高い薬効評価モデルを構築可能な細胞集団を製造する方法及び当該方法により得られる細胞集団を提供すること。
【解決手段】細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から前記細胞を分離する工程と、分離された前記細胞を培養して細胞集団を得る工程と、を含む、細胞集団を製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から前記細胞を分離する工程と、
分離された前記細胞を培養して細胞集団を得る工程と、を含む、細胞集団を製造する方法。
【請求項2】
前記細胞集団を得る工程が分離された前記細胞を単層培養して細胞集団を得る工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞外マトリックス成分が断片化細胞外マトリックス成分を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞外マトリックス成分が断片化コラーゲン成分を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合が25%以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xと、
分離された前記細胞の培養開始時点から11日経過した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合X11との差(X11-X)の絶対値が15%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から前記細胞を分離する工程と、分離された前記細胞を培養する工程と、を含む方法により得られる、細胞集団。
【請求項8】
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合が25%以上である、請求項7に記載の細胞集団。
【請求項9】
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xと、
分離された前記細胞の培養開始時点から11日経過した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合X11との差(X11-X)の絶対値が15%以下である、請求項7又は8に記載の細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集団を製造する方法及び細胞集団に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元培養によってインビトロで生体に近い組織体を製造可能であることについては多数の報告がある。非特許文献1~2等には、三次元培養の具体的な方法について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y. Imamura et al. ONCOLOGYREPORTS (2015)33: 1837-1843
【非特許文献2】C.Wensel et al. Experimentalcell research (2014)323:131-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元培養によって得られる三次元組織体は厚みが大きく、薬効評価のための処理に時間がかかるためハイスループット性に乏しい。
【0005】
二次元培養は三次元培養と比べて薄い薬効評価モデルを構築することが可能であり、解析操作も簡便である。しかし、二次元培養によって構築される薬効評価モデルは、生体の性質を充分に反映しているとはいいがたく、薬効評価モデルとしての精度の点で改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、より簡便に薬効評価可能であり、かつ、精度が高い薬効評価モデルを構築可能な細胞集団を製造する方法及び当該方法により得られる細胞集団を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の各発明を提供する。
[1]
細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から前記細胞を分離する工程と、分離された前記細胞を培養して細胞集団を得る工程と、を含む、細胞集団を製造する方法。
[2]
前記細胞集団を得る工程が分離された前記細胞を単層培養して細胞集団を得る工程である、[1]に記載の方法。
[3]
前記細胞外マトリックス成分が断片化細胞外マトリックス成分を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記細胞外マトリックス成分が断片化コラーゲン成分を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合が25%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xと、分離された前記細胞の培養開始時点から11日経過した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合X11との差(X11-X)の絶対値が15%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から前記細胞を分離する工程と、分離された前記細胞を培養する工程と、を含む方法により得られる、細胞集団。
[8]
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合が25%以上である、[7]に記載の細胞集団。
[9]
分離された前記細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xと、分離された前記細胞の培養開始時点から11日経過した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合X11との差(X11-X)の絶対値が15%以下である、[7]又は[8]に記載の細胞集団。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より簡便に薬効評価可能であり、かつ、精度が高い薬効評価モデルを構築可能な細胞集団を製造する方法及び当該方法により得られる細胞集団を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、三次元組織体、スフェロイド及び二次元培養物それぞれから回収した細胞(図1中それぞれCMF 3D、Spheroid及び2Dと記載する。)について、生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞の数の割合を測定した結果を示すグラフである。
図2図2は、三次元組織体、スフェロイド及び二次元培養物それぞれから回収した細胞(図2中それぞれEx CMF、Ex Spheroid及びEx 2Dと記載する。)について、生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞の数の割合を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、二次元培養物から回収した細胞(2D)に対する三次元組織体から回収した細胞のGCLC、GSR、CD44及びCD44v9の発現量の比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る細胞集団を製造する方法は、細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から細胞を分離する工程(分離工程)と、分離された細胞を培養して細胞集団を得る工程(培養工程)と、を含む。本実施形態に係る方法は、分離工程の前に、細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養してインビトロで三次元組織体を形成する工程(組織体形成工程)を含んでいてよい。
【0012】
以下、組織体形成工程、分離工程及び培養工程を含む本実施形態に係る方法について説明する。
【0013】
<組織体形成工程>
組織体形成工程では、細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養する。これによって、インビトロで形成された三次元組織体を得る。
【0014】
本明細書における「インビトロで形成された三次元組織体」は、培養用基材を用いて、細胞外マトリックス成分の存在下で細胞を三次元培養することによって構築された組織体である。
【0015】
(細胞)
細胞は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞であってよい。細胞の由来部位も特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液等に由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよい。細胞は、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよく、初代培養細胞、継代培養細胞及び細胞株細胞等の培養細胞であってもよい。
【0016】
細胞としては、例えば、大腸がん細胞(例えば、ヒト大腸がん細胞(HCT116、HT29))、肝癌細胞等の癌細胞、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞(例えば、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC))、血管周皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、上皮細胞(例えば、ヒト歯肉上皮細胞)、角化細胞、心筋細胞(例えば、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM))、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞(例えば、大動脈平滑筋細胞(Aorta-SMC)、アストロサイト等が挙げられる。細胞は、一種単独で用いてもよいし、複数種類の細胞を組み合わせて用いてもよい。細胞は、活性酸素種(ROS)抵抗性細胞であってよい。ROS抵抗性細胞としては、ヒト大腸がん細胞(例えば、HCT116)等が挙げられる。
【0017】
活性酸素種抵抗性細胞であることは、ROS検出試薬を用いて確認することができる。ROS検出試薬としては、CellROXTM Deep Red Flow Cytometry Assay Kit(Thermo Fisher Scientific/C10491)が挙げられる。ROSと応答する試薬と反応させた細胞集団の蛍光強度を測定し、閾値以下の蛍光強度を有する細胞がROS抵抗性細胞と定義される。具体的なROS抵抗性の評価方法は後述する実施例において説明されるとおりである。
【0018】
(細胞外マトリックス成分)
本明細書において「細胞外マトリックス成分」とは、複数の細胞外マトリックス分子(単に「細胞外マトリックス」ともいう。)によって形成されている細胞外マトリックス分子の集合体である。細胞外マトリックスとは、生物において細胞の外に存在する物質を意味する。細胞外マトリックスとしては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。細胞外マトリックスの具体例としては、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン及びフィブリリン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックスを1種単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0019】
細胞外マトリックスは、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックスの改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。細胞外マトリックスは、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで表される配列の繰り返しを有するものであってよい。ここで、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を表す。複数のGly-X-Yは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することによって、分子鎖の配置への束縛が少なくなるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としての機能がより一層優れたものとなる。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有する細胞外マトリックスにおいて、Gly-X-Yで示される配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックスは、RGD配列を有するポリペプチドであってもよい。RGD配列とは、Arg-Gly-Asp(アルギニン残基-グリシン残基-アスパラギン酸残基)で表される配列をいう。RGD配列を有することによって、細胞接着がより一層促進されるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としてより一層好適なものとなる。Gly-X-Yで表される配列と、RGD配列とを含む細胞外マトリックスとしては、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン等が挙げられる。
【0020】
コラーゲンとしては、例えば、繊維性コラーゲン及び非繊維性コラーゲンが挙げられる。繊維性コラーゲンとは、コラーゲン繊維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非繊維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
【0021】
プロテオグリカンとして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、コラーゲンを含むことが好ましい。コラーゲンは好ましくは繊維性コラーゲンであり、より好ましくはI型コラーゲンである。繊維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。
【0023】
細胞外マトリックス成分は、動物由来の細胞外マトリックス成分であってよい。細胞外マトリックス成分の由来となる動物種として、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、一種類の動物に由来する成分を用いてもよいし、複数種の動物に由来する成分を併用して用いてもよい。
【0024】
細胞外マトリックス成分は、生体に近い性質を有する三次元組織体が更に形成しやすくなることから、断片化細胞外マトリックス成分を含んでいてよく、断片化コラーゲン成分を含んでいてよい。
【0025】
本明細書において、「断片化」とは、細胞外マトリックス分子の集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断する条件で行われてもよいし、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われてもよい。物理的な力の印加によって断片化された細胞外マトリックスは、酵素処理とは異なり、通常、分子構造は断片化する前とは変化しない(分子構造は維持されている)。断片化細胞外マトリックス成分は、上述の細胞外マトリックス成分を物理的な力の印加により解繊した成分である、解繊された細胞外マトリックス成分(解繊細胞外マトリックス成分)を含んでいてよい。解繊は、断片化の一態様であり、例えば、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。
【0026】
細胞外マトリックス成分を断片化する方法としては、特に制限はなく、物理的な力の印加によって断片化してよい。細胞外マトリックス成分を断片化する方法としては、例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等のホモジナイザーを用いて、物理的な力の印加によって細胞外マトリックス成分を断片化してもよい。ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの断片化細胞外マトリックス成分を得ることも可能である。
【0027】
細胞外マトリックス成分を断片化するためのより具体的な条件として、例えば、ホモジナイザー(アズワン社製,VH-10)を使用し、20,000rpm~30,000rpmで3~10分間処理する条件、又はこれに相当する物理的な力を印可できる条件を挙げることができる。
【0028】
断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分を少なくとも一部に含んでいてよい。また、断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分のみからなっていてもよい。すなわち、断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分であってよい。解繊された細胞外マトリックス成分は、解繊されたコラーゲン成分(解繊コラーゲン成分)を含むことが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を維持していることが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を完全に又は部分的に維持しているものであってよい。
【0029】
断片化細胞外マトリックス成分の形状としては、例えば、繊維状が挙げられる。繊維状とは、糸状の細胞外マトリックス成分で構成される形状、又は糸状の細胞外マトリックス成分が分子間で架橋して構成される形状を意味する。断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は、繊維状であってよい。繊維状の細胞外マトリックス成分には、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細繊維)、細繊維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。繊維状の細胞外マトリックス成分ではRGD配列が破壊されることなく保存されている。
【0030】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、22μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化細胞外マトリックス成分全体のうち、大部分の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。具体的には、断片化細胞外マトリックス成分全体のうち95%の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0031】
断片化細胞外マトリックス成分の平均径は、10nm以上10μm以下であってよく、20nm以上8μm以下であってよく、30nm以上6μm以下であってよく、50nm以上4μm以下であってよい。
【0032】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長及び平均径は、光学顕微鏡によって個々の断片化細胞外マトリックス成分を測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。
【0033】
断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を分散液中に分散させ、当該溶液中で細胞外マトリックス成分を断片化し、断片化細胞外マトリックス成分を含む液体を得る工程(断片化工程)を含む方法によって得ることができる。
【0034】
分散液は、極性有機溶媒を含む溶液であってよい。極性有機溶媒は、極性を有する有機溶媒であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、アセトニトリル及びジエチルエーテル等が挙げられる。極性有機溶媒を含む溶液中の極性有機溶媒の濃度は、例えば、50v/v%以上100v/v%以下、50v/v%以上90v/v%以下、又は50v/v%以上80v/v%以下であってよく、60v/v%以上100v/v%以下、60v/v%以上90v/v%以下、又は60v/v%以上80v/v%以下であってよい。
【0035】
断片化工程は異なる条件で繰り返し行われてもよい。断片化工程後に得られる断片化細胞外マトリックス成分を含む液体は、必要に応じて溶媒を水に置換した後に、溶媒の除去が行われてよい。溶媒の除去は、例えば、風乾、凍結乾燥処理、減圧乾燥処理、減圧凍結乾燥処理等により実施することができる。本明細書において溶媒が除去されるとは、断片化細胞外マトリックス成分の乾燥体を含む固形物に一切の液体成分が付着していないことを意味するものではなく、上述の一般的な乾燥手法により、常識的に達することができる程度に液体成分が付着していないことを意味する。
【0036】
断片化工程で用いる細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックス成分が溶解した溶液を中和する工程(中和工程)と、必要に応じて実施される中和した溶液をゲル化する工程(ゲル化工程)と、中和工程の後、凍結乾燥処理により溶媒を除去して、細胞外マトリックス成分を含む塊を得る工程(溶媒除去工程)と、を含む方法によって得ることができる。
【0037】
中和工程では、細胞外マトリックス成分が溶解した溶液を中和する。細胞外マトリックス成分が溶解した溶液の溶媒としては、細胞外マトリックス成分を溶解可能であれば特に制限されない。溶媒の具体例としては、例えば、水、緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl))が挙げられる。
【0038】
細胞外マトリックス成分が溶解した溶液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、1mg/mL以上50mg/mL以下であってよい。
【0039】
細胞外マトリックス成分が溶解した溶液は通常酸性であるため、中和工程は、例えば、細胞外マトリックス成分が溶解した溶液にアルカリ性の溶液を加えることで実施することができる。アルカリ性の溶液に特に制限はないが、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物等を水に溶解させた溶液を好適に用いることができる。アルカリ性の溶液として、より具体的には、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液等が挙げられる。
【0040】
細胞外マトリックス成分が溶解した溶液がアルカリ性の場合、中和工程は、例えば、細胞外マトリックス成分が溶解した溶液に酸性の溶液を加えることで実施することができる。酸性の溶液に特に制限はないが、例えば、塩酸溶液、硫酸溶液、酢酸溶液、炭酸溶液等が挙げられる。
【0041】
中和は、細胞外マトリックスの構造変化が生じるように実施すればよく、中和後の溶液のpHが7になるように実施する必要はない。中和後の溶液のpHは、具体的には例えば、6以上8以下の範囲内であってよく、6.5以上7.5以下の範囲内であることが好ましく、6.9以上7.1以下の範囲内であることがより好ましく、6.95以上7.05以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0042】
ゲル化工程は、必要に応じて実施すればよい。ゲル化工程は、例えば、中和した溶液を加温することでゲル化することにより実施することができる。加温する際の温度及び加温時間は、細胞外マトリックス成分の種類、濃度等に応じて適宜設定することができるが、例えば、加温する際の温度25~45℃、加温時間1~3時間を例示することができる。
【0043】
溶媒除去工程では、凍結乾燥処理により溶媒を除去して、細胞外マトリックス成分を含む塊を得る。凍結乾燥処理は、常法に従って実施することができる。
【0044】
(細胞と細胞外マトリックス成分の接触)
細胞と、細胞外マトリックス成分とは水性媒体中で接触させてよい。「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体の具体例としては、例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びトリス緩衝液(Tris)等が挙げられる。水性媒体としては、培地を用いることができる。培地としては、例えばDulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)等の液体培地が挙げられる。液体培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0045】
細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させる方法としては、細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体と、細胞を含む培養液とを混合する方法、細胞を含む培養液に細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体を加える方法、細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体に細胞を加える方法、予め用意した水性媒体に、細胞外マトリックス成分及び細胞をそれぞれ加える方法等の方法が挙げられる。
【0046】
細胞と細胞外マトリックス成分とを接触させる順番は、特に制限されず、例えば、一部の細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させた後、残りの細胞を細胞外マトリックス成分と接触させてもよいし、すべての細胞を同時に、又は略同時に細胞外マトリックス成分と接触させてもよい。
【0047】
細胞及び細胞外マトリックスを含有する水性媒体は、各物質の添加後に撹拌等により混合してもよく、混合しなくてもよい。接触工程は、細胞及び細胞外マトリックス成分を接触させた後に一定時間インキュベートすることを含んでいてよい。
【0048】
細胞と、細胞外マトリックス成分との接触は、水性媒体中で細胞を集積させた後に行われてもよい。集積させた細胞と、細胞外マトリックス成分とを接触させることで、下層部の細胞密度が高い細胞構造体が作製しやすくなる。細胞は、例えば、遠心操作、自然沈降等の方法により集積させることができる。
【0049】
細胞と接触させる細胞外マトリックス成分の濃度は、目的とする細胞構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、水性媒体中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0.1~90質量%又は1~30質量%であってもよい。
【0050】
細胞と接触させる細胞外マトリックス成分の量は、例えば、1.0×10cellsの細胞に対して、0.1~100mg、0.5~50mg、0.8~25mg、1.0~10mg、1.0~5.0mg、1.0~2.0mg、又は1.0~1.8mgであってよく、0.7mg以上、1.1mg以上、1.2mg以上、1.3mg以上又は1.4mg以上であってよく、7.0mg以下、3.0mg以下、2.3mg以下、1.8mg以下、1.7mg以下、1.6mg以下又は1.5mg以下であってもよい。
【0051】
接触させる際の細胞外マトリックス成分と細胞との質量比(細胞外マトリックス成分/細胞)は、1/1~1000/1、9/1~900/1、又は10/1~500/1であってよい。
【0052】
細胞と、細胞外マトリックス成分との接触後に、細胞及び細胞外マトリックス成分を集積させてもよい。細胞及び細胞外マトリックス成分を集積させることによって、細胞構造体における細胞外マトリックス成分及び細胞の分布がより均一になる。細胞及び細胞外マトリックス成分を集積させる方法としては、例えば、細胞外マトリックス成分と細胞とを含む培養液を遠心操作する方法、自然沈降させる方法が挙げられる。
【0053】
(三次元培養の方法)
細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養する方法は、培養する細胞の種類に応じて好適な三次元培養方法を用いることができる。培養温度は20℃~40℃、又は30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6.0~8.0、又は7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間、又は1週間~2週間であってもよい。
【0054】
培地は特に制限はなく、培養する細胞の種類に応じて好適な培地を選択できる。培地としては、例えば、Eagle’s MEM培地、DMEM、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RPMI、及びGlutaMax培地等が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0055】
(三次元組織体)
上述した組織体形成工程によって、インビトロで三次元組織体が形成される。三次元組織体における細胞外マトリックスの含有量は、三次元組織体の乾燥重量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。細胞構造体における細胞外マトリックス成分の含有量は、三次元組織体の乾燥重量を基準として、0.01~90質量%であってよく、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、1~50質量%、10~50質量%、10~30質量%、又は20~30質量%であってよい。
【0056】
三次元組織体における細胞外マトリックスの含有量は、三次元組織体中の細胞外マトリックスの総量である。三次元組織体中の細胞が細胞外マトリックス(例えばコラーゲン)を産生する細胞を含む場合、三次元組織体における細胞外マトリックスの含有量は、三次元組織体の形成のために外部から添加された細胞外マトリックス(外因性細胞外マトリックス)と、細胞外マトリックス成分を産生する細胞によって産生された細胞外マトリックス(内因性細胞外マトリックス)との合計含有量である。細胞外マトリックスの含有量は、得られた三次元組織体の体積、及び脱細胞化した三次元組織体の質量から算出することが可能である。
【0057】
<分離工程>
分離工程では、細胞及び細胞外マトリックス成分を含むインビトロで形成された三次元組織体から細胞を分離する。
【0058】
分離工程では、細胞剥離用試薬を用いて三次元組織体から細胞を分離してよい。細胞剥離用試薬としては、例えば、細胞凝集体及びスフェロイドを分散させて単一浮遊細胞を得るために使用される市販の試薬を用いることができる。細胞剥離用試薬としては、例えば、Accumax(製品名、ナカライテスク株式会社、製品番号:17087-54)、トリプシンが挙げられる。細胞剥離用試薬は、三次元組織体の培地を他の水性媒体に交換した後に三次元組織体に加えてよい。
【0059】
分離工程では、例えば、細胞剥離用試薬の存在下で三次元組織体をインキュベートしてもよい。細胞剥離用試薬の存在下で三次元組織体をインキュベートする時間は、例えば、1分以上、又は3分以上であってよく、例えば、10分以下であってよい。細胞剥離用試薬の存在下で三次元組織体をインキュベートする際の温度は、上述した培養温度であってよい。
【0060】
分離工程では、細胞剥離用試薬を作用させた三次元組織体を崩すことを含んでいてよい。分離工程では、例えば、三次元組織体及び水性媒体を含む液をピペッティングすることで三次元組織体を崩してよい。
【0061】
細胞剥離用試薬の存在下でインキュベートし、必要に応じて、三次元組織体を崩した後に遠心処理及び上清の除去が行われてもよい。
【0062】
分離工程では、三次元組織体に酵素を反応させてよい。酵素は、上述した遠心処理及び上清の除去の後に行われてよい。酵素は、三次元組織体中の細胞外マトリックス成分を分解する機能を有する酵素であってよく、三次元組織体中に存在し得る細胞外マトリックス成分の種類等に応じて適宜選択される。酵素としては、例えば、コラゲナーゼ、トリプシンが挙げられる。三次元組織体と酵素との反応時間は、例えば、1分以上、5分以上、又は10分以上であってよく、20分以下、又は15分以下であってよい。三次元組織体と酵素との反応は、三次元組織体及び酵素を含む液を上述した培養温度で振盪することによって行われてよい。
【0063】
上述した方法によって三次元組織体から分離した細胞は公知の方法によって回収して細胞懸濁液としてよい。分離した細胞の回収は、例えば、セルストレーナーを用いて行うことができる。
【0064】
<培養工程>
培養工程では、分離された細胞を培養して細胞集団を得る。当該細胞集団は、細胞及び細胞外マトリックス成分を含む三次元組織体と比べて薄い薬効評価モデルを構築可能である。したがって、当該細胞集団によれば、画像評価にかかる手間が低減し、結果として評価に要する時間が低減することから、より簡便に薬効評価を行うことが可能になる。
【0065】
本実施形態に係る方法によって得られる細胞集団は、三次元組織体の性質又は三次元組織体に近い性質を充分に有している。具体的には、本実施形態に係る方法によって得られる細胞集団は、三次元組織体から細胞を分離した時点において生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合が高い性質を維持していてよい。
【0066】
培養工程は、分離された細胞を単層培養して細胞集団を得る工程であってよい。単層培養とは、培養培地を含む培養用基材内の底面上で細胞が単層で二次元的に成長する培養である。細胞を単層培養して得られる細胞集団(単層培養物)は、より薄い薬効評価モデルを構築可能であり、解析操作が更に簡便である。本実施形態に係る方法によれば、単層培養物でありながら、三次元組織体の性質又は三次元組織体に近い性質を有する細胞を得ることができる。
【0067】
分離された細胞を培養する方法は、当該細胞の種類に応じて好適な培養方法で行うことができる。培養温度は、20℃~40℃、又は30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6.0~8.0、又は7.2~7.4であってもよい。
【0068】
培養期間は、1日(24時間)以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、又は11日以上であってよく、14日以下、13日以下、又は12日以下であってよい。培地は、上述した培地を用いることができる。培養用基材としては、二次元培養等に用いられる通常の培養用基材を用いることができる。細胞集団の厚さは、例えば、50μm以上であってよい。
【0069】
分離された細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合(活性酸素種抵抗性細胞数/生細胞総数×100)は25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上又は80%以上であってよく、100%以下であり、95%以下であってよい。
【0070】
分離された細胞の培養開始時点からi日経過した時点(但し、iは1~11の整数)における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合(活性酸素種抵抗性細胞数/生細胞総数×100)は25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、又は90%以上であってよく、100%以下であり、95%以下、90%以下、又は85%以下であってよい。
【0071】
分離された細胞の分離した時点における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xと、分離された細胞の培養開始時点からi日経過した時点(但し、iは1~11の整数)における生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合Xとの差(X-X)の絶対値が15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下又は10%以下であってよく、例えば、0%以上、2%以上、又は5%以上であってよい。iが11である場合のX11-Xの絶対値が上記数値範囲内であってよい。
【0072】
生細胞の総数に対する活性酸素種抵抗性細胞数の割合は後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0073】
本発明の一実施形態として、分離工程及び培養工程を含む方法によって得られる細胞集団が提供される。分離工程及び培養工程の詳細は、上述したとおりである。本実施形態に係る方法により得られる細胞集団は、薬剤をスクリーニングするための薬効評価モデル等の用途に用いることができる。当該細胞集団によれば、より簡便に薬効を評価可能な薬効評価モデルを提供することが可能となる。薬効を評価する方法は、例えば、薬剤の存在下で上述した細胞集団を培養することを含んでいてよい。
【実施例0074】
以下、本発明を試験例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0075】
1.材料
<コラーゲン>
ブタ皮膚製コラーゲンI溶液(NIPPI/PSC-1-200-100)
<細胞>
HCT116(大腸がん培養細胞)
<使用培地>
10%FBS入りDMEM培地
【0076】
2.実験
2.1.解繊コラーゲン(CMF)の作製
3mg/mLのコラーゲン溶液100mLに12.5mLの0.05N NaOH、12.5mLの10×PBSを混合した中和バッファーを加え、37°Cで30分加温しゲル化させた。得られたゲルを72時間凍結乾燥して、ゲル化後凍結乾燥コラーゲンを得た。ゲル化後凍結乾燥コラーゲンを2つの50mL遠沈管に分割し、85v/v%エタノール中を30mLずつ加えてホモジェナイザー(プローブ:S10N-10G-STシャフトジェネレータ)にて6分間解繊した。解繊後に得られた2つのサンプルを10,000rpmで遠心し、上清を捨てそれぞれに70v/v%エタノール30mLを加えてホモジェナイザー(S10N-8Gシャフトジェネレータ)を用いてピペッティングした。ピペッティング後に得られた2つのサンプルを10,000rpmで遠心し、上清を捨てそれぞれに超純水30mLを加えてピペッティングした。以上の操作により得られた解繊コラーゲン(CMF)を含むサンプルは、CMFが水中に分散したままの状態で凍結乾燥した。
【0077】
2.2.三次元組織体の作製
CMFの乾燥体60mgを15mL遠沈管に計り取った。10mgのCMFに対して1mLの超純水を加え、ボルテックスした。ボルテックス後に得られたCMF含有液を、10,000rpmにて3分間遠心し、上清を捨て、10mgのCMFに対して600μLの超純水を加えてピペッティングした。これを1.5mLチューブに300μLずつ分注した。CMFを含むチューブに必要数のHCT116細胞(1.0×10)を加えた。このとき、CMFの溶液量と細胞懸濁液の量が等量になるようにした。CMF及び細胞を含むチューブを9,000×gで1分間遠心し、上清を捨てた。得られたCMF及び細胞を含む混合物を、10%FBS入りDMEM培地250μLで懸濁し、その後、得られた懸濁液をカルチャーインサートに加えた。カルチャーインサートとしては、24ウェルインサート(Corning/#3470)を0.2mg/mL Fibronectin(Sigma-Aldrich/F2006)/Tris-HCl溶液で30分間37°Cでコーティングしたものを用いた。CMF及び細胞を含む懸濁液を加えたカルチャーインサートを1,100×gで15分間遠心し、細胞をCMF存在下で7日間培養して、三次元組織体を得た。
【0078】
2.3.スフェロイド及び二次元培養物の作製
スフェロイド培養用低吸着96ウェルプレート(住友ベークライト株式会社/MS-9096S)に1ウェル当たり5.0×10になるようにHCT116細胞を播種した。播種した細胞を7日間培養して、スフェロイドを得た。
【0079】
100mmディッシュに1.0×10のHCT116細胞を播種した。播種した細胞を7日間培養して二次元培養物を得た。
【0080】
2.4.細胞の回収
三次元組織体の培地を捨て、各ウェルをPBS2.5mLにて2回洗浄した。三次元組織体が配置されたウェル内に細胞剥離用試薬Accumax(ナカライテスク/17087-54)1.0を加え、37°Cで5分間インキュベートした。その後、ピペッティングにて三次元組織体を崩し、崩した三次元組織体を1.5mLチューブに移した。崩した三次元組織体を含むチューブを9,000×gで1分間遠心し、上清を捨て、沈殿物を得た。コラゲナーゼ粉末(富士フイルム和光純薬/034-22363)を量り取り、2mg/mLになるようにPBSに溶解させ、それぞれ500μLを沈殿物に加えて、その後、24ウェルインサートに移した。24ウェルインサートを、シェーカーで280rpm、37°Cにて10分間反応させた。反応後の液を、70μmセルストレーナー(BMS/SPL-93070)、及び40μmセルストレーナー(BMS/SPL-93040)を順に通し、得られた細胞懸濁液を400×gで5分間遠心した。細胞上清を捨て、沈殿物を各チューブ1mL 1%FBS入りPBSにて懸濁し、試験用の細胞懸濁液を得た。
【0081】
スフェロイド又は二次元培養物を用い、三次元組織体からの細胞の回収方法と同様にして、試験用の細胞懸濁液を得た。
【0082】
三次元組織体、スフェロイド及び二次元培養物それぞれから得られた試験用の細胞懸濁液の一部をそれぞれ24ウェルプレートに1ウェルあたり細胞数が3.0×10になるように播種し、単層培養を行った。単層培養は、10%FBS入りDMEM培地中で、37℃の条件で行った。播種(培養開始時点)から1,4,7,又は11日目にAccumaxを使って同様の方法で細胞を回収した。
【0083】
2.5.ROS応答性評価
ROS応答性の評価はCellROXTM Deep Red Flow Cytometry Assay Kit(Thermo Fisher Scientific/C10491)を用いて以下のプロトコルにて行った
【0084】
三次元組織体、スフェロイド及び二次元培養物から回収した細胞を含む細胞懸濁液にPBSで10倍に希釈した5mM TBHP(Tert-butyl hydrogen peroxide)2μLを加えた。TBHPを加えた後に細胞懸濁液をCOインキュベータ内で30分インキュベートした。インキュベート後の細胞懸濁液を遠心して上清を除去し、沈殿物に1%FBS入りPBS 1mLを加えて、再度懸濁し、サンプルを得た。1μLのCellROXを9μLのDMSOにて希釈して得た液を、サンプル1mLに対して2μLを加えた。CellROXによる染色の最後の15分に1μLの1mM SYTOX BlueDead CellStain/DMSO solution(1μL/mL)を加えた。得られた液をFACS Melody(Becton Dickinson)にて測定を行い、CellROXのチャンネルの閾値以下の細胞集団をROS抵抗性集団として生細胞中の割合を解析した。
【0085】
図1は、CMFを含む三次元組織体、スフェロイド及び二次元培養物から回収した細胞(図1中それぞれEx 3D、Spheroid及び2Dと記載する。)について、細胞の総数に対するROS抵抗性細胞の数の割合を示す結果である。図1に示すように、CMFを含む三次元組織体から回収した細胞集団は、二次元培養物及びスフェロイドそれぞれから回収した細胞集団と比べて、回収時の細胞における細胞内への活性酸素の蓄積が少なかった。
【0086】
図2は、CMFを含む三次元組織体から回収した細胞、スフェロイドから回収した細胞、二次元培養物から回収した細胞(図2中それぞれEx CMF、Ex Spheroid及びEx 2Dと記載する。)を培養したときの、生細胞の総数に対するROS抵抗性細胞の数の割合を示す。図2に示すように、CMFを含む三次元組織体から回収した細胞は、スフェロイドから回収した細胞及び二次元培養物から回収した細胞に対して、細胞内の活性酸素の蓄積が低い性質を11日程度まで維持していた。
【0087】
2.6.活性酸素消去に関する遺伝子の評価
活性酸素消去に関する遺伝子であるグルタチオン合成遺伝子に関する評価を次に示す方法によって行った。
【0088】
核酸の抽出
評価対象からNucleoSpin(登録商標) RNA/Protein(Macherey nagel/740933.50 (U0933A))を使用して全RNAを回収した。
【0089】
cDNAの合成
cDNAの合成はQuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN/205313)を使用した。
【0090】
Nanodrop 1000(Thermo Fisher Scientific)にてRNA量を測定し、RNA量が一定になるように各抽出後RNAを希釈した。gDNA Wipeout Buffer 2μLとRNAとを混合したサンプルにRNAseFreeWaterを全量14μLに加え、42°Cで2分間インキュベート後、すぐに氷上に移した。これにQuantiscript Reverse Transcriptase 1 μl、Quantiscript RT Buffer 4μL、RT Primer Mix 1μLを添加し、42°Cで15分間インキュベートした。インキュベート後の液を95°Cで3分間インキュベートし、酵素を失活させた。
【0091】
定量的PCR
定量的PCRに使用したプライマーは以下の通りである。いずれもThermo Fisher ScientificのTaqMan(登録商標)Gene Expression Assaysを用いた。内因性コントロールとしてPPIAを用いて補正し、ΔΔCT法にて、二次元培養物から回収した細胞集団に対する、三次元組織体から回収した細胞集団の比の推移をグラフに表した。結果を図3に示す。
【表1】
【0092】
反応はTaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)を用いた。
【0093】
図3は、二次元培養物から回収した細胞(2D)に対する三次元組織体から回収した細胞のGCLC、GSR、CD44及びCD44v9の発現量の比を示す。図3に示すように、三次元組織体から回収した細胞集団において、再播種後も活性酸素消去に関するグルタチオン合成酵素(GCLC、GSR、CD44及びCD44v9)の発現が増加しているという性質を保っていることが明らかとなった。
図1
図2
図3