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特開2024-685樹脂組成物及び樹脂成形体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000685
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20231226BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20231226BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20231226BHJP
   C07F 9/40 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08L33/06
C08K5/51
C08F20/10
C09K21/14
C07F9/40 B
C07F9/40 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099526
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】磯村 学
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 翔太
(72)【発明者】
【氏名】花田 和也
【テーマコード(参考)】
4H028
4H050
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4H028AA46
4H050AA03
4H050AB48
4H050AB80
4J002BG051
4J002BG061
4J002EW046
4J002EW126
4J002FD136
4J002GL00
4J002GP00
4J100AL03P
4J100AL08Q
4J100AL62R
4J100BC04Q
4J100BC08Q
4J100CA05
4J100DA22
4J100DA47
4J100DA62
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA32
4J100JA67
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、難燃性、機械的強度、さらには接着性に優れた樹脂成形体、及び該樹脂成形体を製造するための樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系重合体(P)と、化合物(I)又は(II)を含有するリン系化合物(C)を含み、GPC分子量分布曲線における前記リン系化合物(C)由来成分の合計ピーク面積に対し、化合物(I)又は(II)(n≧1)成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である樹脂組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系重合体(P)と、下記一般式(I)で表されるリン酸エステルまたは下記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルを含有するリン系化合物(C)を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中に含まれる前記リン系化合物(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、前記リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、下記一般式(I)または下記一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である、樹脂組成物。
【化1】
[式(I)または式(II)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Zは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Yは、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10のアルキレン基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【請求項2】
前記一般式(I)が、下記一般式(III)で表される化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
[式(III)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH-(xは3~6の整数)又は-CHCH-(OCHCHOCHCH-(zは0~3の整数)を示す。nは0~8の整数を示す。]
【請求項3】
前記一般式(II)が、下記一般式(IV)で表される化合物を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】
[式(IV)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、R、Zは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、メタクリル酸メチルの単独重合体、又は、該(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を85.0質量%以上100質量%未満含む重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらに、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の構造単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)が、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を90.0質量%以上98.0質量%以下、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位を2.0質量%以上10.0質量%以下含む重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量部に対して、リン系化合物(C)を1質量部以上20質量部以下含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂成形体であって、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が60%以上である樹脂成形体。
【請求項10】
下記一般式(I)で表されるリン酸エステルまたは下記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルを含有するリン系化合物(C)と、単量体組成物(S1)とを含む重合性組成物(S2)をラジカル重合することを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記重合性組成物(S2)には、前記重合性組成物(S2)100質量部に対して前記リン系化合物(C)が1質量部以上20質量部以下含まれ、前記樹脂組成物中に含まれる前記リン系化合物(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、前記リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、下記一般式(I)または下記一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である、製造方法。
【化4】
[式(I)または式(II)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Zは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Yは、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10のアルキレン基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチルを主成分とする(メタ)アクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐候性に優れており、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材、電子機器の面板等の多くの用途に使用されている。
近年これらの用途では、火災発生時の延焼防止や避難時間を創出するため、難燃性に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0003】
特に、ガソリンスタンドのキャノピー看板の用途では、難燃性に加え、屋外での使用に耐え得る耐熱性及び機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0004】
また、パソコンの筐体や排熱ダクト等の電子機器の内部部品の用途では、難燃性に加え、熱や外力に対する高い安定性が求められており、耐熱性及び機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂が求められている。
【0005】
さらに、上記用途では、難燃性、耐熱性及び機械的強度に加え、(メタ)アクリル系樹脂同士を重ねて溶剤で接着を行った際に、接着性に優れた(メタ)アクリル樹脂が求められている。
【0006】
(メタ)アクリル系樹脂に難燃性と耐熱性を付与する技術としては、例えば、特許文献1には、一定以上の重合度を有するリン系難燃剤を含有した難燃性(メタ)アクリル樹脂板が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、平均重合度が2未満である特定の構造のリン酸エステルを含有する難燃性メタクリル樹脂板が提案されている。
【0008】
また、特許文献3には、ヒドロキシル基を有する有機リン化合物、及びリン酸エステル単量体含有量を低減したポリホスフェートタイプの有機リン化合物を含有する難燃剤が開示されている。
【0009】
また、特許文献4及び5には、オキシ塩化リンとアルキレングリコールとを1.5~3.0:1.0のモル比で反応させ、その反応生成物にアルキレンオキシドを反応させてなる、含ハロゲン系縮合リン酸エステルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-50257号公報
【特許文献2】特開2003-277568号公報
【特許文献3】国際公開第2016/104263号
【特許文献4】特開平11-1612号公報
【特許文献5】特開平8-259577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されているメタクリル樹脂板では、難燃性と耐熱性を向上させるために一定以上の重合度のリン酸エステルの添加が必要であり、メタクリル樹脂板の接着性が不十分であった。
【0012】
また、特許文献2に開示されているメタクリル樹脂板は耐熱性が不十分であった。
【0013】
また、特許文献3に開示されている有機リン化合物を含有するメタクリル樹脂板は、接着性が不十分であった。さらに、特許文献3に記載のメタクリル樹脂板では、難燃性と耐熱性を向上させるためイソボルニル(メタ)アクリレートの添加量を増やすことで、機械的強度が低下する傾向があった。
【0014】
また、特許文献4および5には、前記含ハロゲン系縮合リン酸エステルを難燃剤として含有するメタクリル樹脂板について何ら開示されていない。
【0015】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち本発明は、耐熱性、難燃性、機械的強度、及び接着性に優れた樹脂成形体、及び該樹脂成形体を製造するための樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の要旨は、(メタ)アクリル系重合体(P)と、下記一般式(I)で表されるリン酸エステルまたは下記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルを含有するリン系化合物(C)を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中に含まれる前記リン系化合物(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、前記リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、下記一般式(I)または下記一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である、樹脂組成物にある。
【0017】
【化1】
【0018】
[式(I)または式(II)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、R、は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Zは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Yは、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10のアルキレン基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【0019】
本発明の第二の要旨は、前記樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体にある。
【0020】
本発明の第三の要旨は、前記一般式(I)で表されるリン酸エステルまたは前記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルを含有するリン系化合物(C)と、単量体組成物(S1)とを含む重合性組成物(S2)をラジカル重合することを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記重合性組成物(S2)には、前記重合性組成物(S2)100質量部に対して前記リン系化合物(C)が1質量部以上20質量部以下含まれ、前記樹脂組成物中に含まれる前記リン系化合物(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、前記リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、前記一般式(I)または前記一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である、製造方法にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、難燃性と耐熱性、機械的強度、及び接着性に優れた樹脂成形体、及び該樹脂成形体を得るための樹脂組成物を提供することができる。
このような樹脂成形体は、ガソリンスタンドキャノピー看板などの屋外看板や電子機器部品等の高い難燃性、耐熱性、機械的強度、接着性が要求される用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリル酸」は、各々「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種並びに「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0023】
また、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0024】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)と、下記一般式(I)で表されるリン酸エステルまたは下記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルを含有するリン系化合物(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中に含まれる前記リン系化合物(C)に対し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、前記リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、前記一般式(I)または前記一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である、樹脂組成物である。
【0025】
本発明の樹脂組成物を成形してなる成形体は、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が60%以上とすることができる。本発明の樹脂組成物(1)を成形してなる成形体の全光線透過率は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、後述する(メタ)アクリル系重合体(P)を含むことができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物に含まれるリン系化合物(C)の含有量の下限は、本発明の樹脂組成物を含有する樹脂成形体(以下、「得られた樹脂成形体」又は「樹脂成形体」という。)の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量部に対して、1質量部以上である。2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。一方、リン系化合物(C)の含有量の上限は、得られる樹脂成形体の耐熱性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、20質量部以下である。19質量部以下がより好ましく、18質量部以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の樹脂組成物に含まれるリン系化合物(C)の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、1量部以上20質量部以下が好ましく、2質量部以上19質量部以下がより好ましく、3質量部以上18質量部以下がさらに好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量の下限は、得られる樹脂成形体の耐熱性及び機械的強度が良好となることから、樹脂組成物100質量部に対して、80質量部以上である。81質量部以上がより好ましく、82質量部以上がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量の上限は、得られる樹脂成形体の難燃性を良好に維持できる観点から、樹脂組成物100質量部に対して、95質量部以下である。94質量部以下がより好ましく、93質量部以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体(P)の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、80質量部以上95質量部以下が好ましく、81質量部以上94質量部以下がより好ましく、82質量部以上93質量部以下がさらに好ましい。
【0029】
<(メタ)アクリル系重合体(P)>
本発明における樹脂組成物は、下記の(メタ)アクリル系重合体(P)を構成成分の1つとして含む。
前記(メタ)アクリル系重合体(P)を構成成分の1つとして含むことにより、後述する他の構成成分との相乗効果により、難燃性、耐熱性、及び機械的強度に優れた(メタ)アクリル系樹脂成形体を得ることが可能となる。
【0030】
本発明において、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、メタクリル酸メチルの単独重合体、又は、メタクリル酸メチル(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)を含む重合体を用いることができる。
【0031】
前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位と、後述するビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位を含む重合体を例示することができる。
【0032】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合の下限は特に限定されるものではないが、得られた樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、85.0質量%以上が好ましく、90.0質量%以上がより好ましく、95.0質量%以上がさらに好ましい。一方、MMA単位の含有割合の上限は特に限定されるものではないが、樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、100質量%未満が好ましく、98.0質量%以下がより好ましく、96.4質量%以下がさらに好ましい。或いは又、100質量%とすることもできる。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、85.0質量%以上100質量%未満が好ましく、90.0質量%以上98.0質量%以下がより好ましく、95.0質量%以上96.4質量%以下がさらに好ましい。
【0033】
但し、前記MMA単位の含有割合の下限値と上限値は、後述する単量体(B)由来の繰り返し単位の含有割合を考慮しない値であり、実質的には前記下限値と前記上限値から、実際に含ませる単量体(B)由来の繰り返し単位の含有割合を減じた値をそれぞれ前記MMA単位の下限値、上限値とすることが好ましい。即ち、前記MMA単位の含有割合の実質的な下限は、84.95質量%以上が好ましく、89.95質量%以上がより好ましく、94.95質量%以上がさらに好ましい。一方、実質的な上限は、99.95質量%以下が好ましく、97.95質量%以下がより好ましく、96.35質量%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれるMMA単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、84.95質量%以上99.95質量%以下が好ましく、89.95質量%以上97.95質量%以下がより好ましく、94.95質量%以上96.35質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル(M)由来の繰り返し単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル(M)単位」という。)を含むことができる。
【0035】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合の下限は特に限定されないが、得られた樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、3.6質量%以上がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合の上限は、樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、10.0量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル(M)単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上10.0量%以下が好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましく、3.6質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。尚、具体的な(メタ)アクリル酸エステル(M)については後述する。
【0036】
さらに、前記(メタ)アクリル系重合体(P)は、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量に対して、ビニル基を2個以上有する単量体(B)由来の繰り返し単位(以下、「単量体(B)単位」という。)を含むことができる。
【0037】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記単量体(B)単位の含有割合の下限は特に限定されないが、得られた樹脂成形体の難燃性が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましい。一方、単量体(B)単位の含有割合の上限は特に限定されないが、樹脂成形体の耐衝撃性や機械的強度が良好となることから、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.40質量%以下が好ましく、0.36質量%以下がより好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明の(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記単量体(B)単位の含有割合は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、0.05質量%以上0.40質量%以下が好ましく、0.10質量%以上0.36質量%以下がより好ましい。尚、具体的な単量体(B)については後述する。
【0038】
上述した前記(メタ)アクリル系重合体(P)としては、前記(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、MMA単位、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位、単量体(B)単位を下記(a)~(d)の含有割合で含む重合体を挙げることができる。
(a)MMA単位を85.00質量%以上100質量%未満含む重合体、又は、MMAの単独重合体。
(b)MMA単位を99.60質量%以上99.95質量%以下、及び単量体(B)単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む重合体。
(c)MMA単位を90.00質量%以上98.00質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を2.00質量%以上10.00質量%以下含む重合体。
(d)MMA単位を89.95質量%以上97.95質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を2.00質量%以上10.00質量%以下、及び単量体(B)単位を0.05質量%以上0.40質量%以下含む重合体。
【0039】
<(メタ)アクリル酸エステル(M)>
(メタ)アクリル酸エステル(M)は、芳香族炭化水素基又は炭素数3~20の脂環式炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステルである。
本発明において(メタ)アクリル系重合体(P)は、(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を構成成分の一つとして含むことができる。
(メタ)アクリル系重合体(P)が(メタ)アクリル酸エステル(M)単位を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性はより良好となる。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル(M)としては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル、及びそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0041】
(メタ)アクリル系重合体(P)に含まれる前記(メタ)アクリル酸エステル(M)単位は、熱が加わると側鎖が脱離し、メタクリル酸構造単位に転化する。このメタクリル酸構造単位、リン系化合物(C)が作用し、その相乗効果により、得られた樹脂成形体が燃焼するときの炭化物の生成量が増大する。また、(メタ)アクリル系重合体(P)が、さらにビニル基を2個以上有する単量体(B)単位を含むことで、得られた樹脂成形体が燃焼するときの炭化物の生成が更に促進される。炭化物は樹脂組成物への輻射熱の伝達を妨げるバリア層として機能し、得られた樹脂成形体の難燃性を高める。一方、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)単位から脱離した側鎖は、酸素を消費して、燃焼場が酸欠状態になるため、樹脂組成物の難燃性を更に高める。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)には、得られた樹脂成形体の難燃性の向上効果に優れる観点から、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及び(メタ)アクリル酸イソボルニルから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0043】
<単量体(B)>
単量体(B)は、ビニル基を2個以上有する単量体であり、単量体(B)単位は前記(メタ)アクリル系重合体(P)の構成成分の一つである。(メタ)アクリル系重合体(P)が単量体(B)単位を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性をより向上することができる。
【0044】
単量体(B)としては、二官能(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0045】
上述した単量体(B)の中でも、炭素数10~18の単量体は、原料の取り扱い性が良好であることから、樹脂組成物を製造するときの作業性を向上できる。
【0046】
さらに、上述した単量体(B)の中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種は、原料の取り扱い性が優れることに加え、樹脂成形体の難燃性をより優れたものとできる点から好ましい。
【0047】
<共重合可能な単量体>
本発明においては、必要に応じて、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エステル(M)と共重合可能な単量体を、(メタ)アクリル系重合体(P)100質量%に対して、0~12質量%、好ましくは0.5~10.0質量%の範囲で、(メタ)アクリル系重合体(P)に含有させることができる。
【0048】
前記共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びそれらの誘導体、メタクリルアミド、アクリロニトリル等の窒素含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジルアクリレート等のエポキシ基含有単量体並びにスチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0049】
<リン系化合物(C)>
リン系化合物(C)は、本発明の樹脂組成物の構成成分の一つである。
リン系化合物(C)は、下記一般式(I)で表されるリン酸エステルもしくは下記一般式(II)で表されるホスホン酸エステルまたはその両方を含有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、リン系化合物(C)の成分に由来するピーク面積の合計に対し、一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上である化合物である。
【0050】
【化2】
【0051】
[式(I)または式(II)中、Pはリン原子、Oは酸素原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Zは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。Yは、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10のアルキレン基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【0052】
一般式(I)および一般式(II)における置換基R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数1~8のクロロアルキル基である。
【0053】
炭素数1~8のクロロアルキル基は、少なくとも1つの塩素を含む炭素数1~8のアルキル基を表す。炭素数1~8のクロロアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばクロロメチル、クロロエチル、クロロプロピル、ジクロロプロピル、クロロブチル、クロロペンチル、クロロヘキシル、クロロペンチル、クロロオクチル基等が挙げられる。これらの中でもクロロメチル又はクロロエチル基又はクロロプロピル基が好ましく、クロロプロピル基がより好ましい。
置換基R、R、Rとしては、クロロメチル、クロロエチル、クロロプロピル基が好ましく、クロロプロピル基が特に好ましい。置換基R、R、Rはそれぞれ同一であっても異なってもよく、同一であることが特に好ましい。
【0054】
一般式(I)における置換基Yは、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~10のアルキレン基である。
ヘテロ原子を含有しない炭素数1~10のアルキレン基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えば1,2-プロピレン、1,3-プロピレン、1,2-ブチレン、1,3-ブチレン、1,4-ブチレン、2,3-ブチレン、1,6-ヘキシレン、2,4-ヘキシレン、2,5-ヘキシレン基等が挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点で1,2-プロピレン、1,3-プロピレン基が好ましい。
【0055】
ヘテロ原子を含有する炭素数1~10のアルキレン基としては、-CHCH(OCHCHOCHCH-(zは0~3の整数)で表されるオキシアルキレングリコールの残基が挙げられ、具体的には係数zにより、-CHCHOCHCH-、-CHCHOCHCHOCHCH-、-CHCH(OCHCHOCHCH-、-CHCH(OCHCHOCHCH-が挙げられる。これらの中でも化合物(I)中のリン含有率が高くなるという点で-CHCHOCHCH-、-CHCHOCHCHOCHCH-が好ましく、-CHCHOCHCH-がより好ましい。
置換基Yとしては、1,2-プロピレン、1,3-プロピレン基、-CHCHOCHCH-が特に好ましく、-CHCHOCHCH-が最も好ましい。
【0056】
一般式(II)における置換基Zは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数1~8のクロロアルキル基を示す。
炭素数1~8のアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基などが挙げられる。これらの中でも化合物(II)中のリン含有率が高くなるという点でメチル、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。炭素数1~8のクロロアルキル基に関してはR、R、Rに関する説明と同様である。
置換基Zとしては、水素、メチル、エチル、クロロメチル、クロロエチル基が好ましく、水素、メチルがより好ましく、水素が特に好ましい。
【0057】
リン系化合物(C)の一般式(I)としては、R、R、Rがそれぞれ独立にクロロメチル、クロロエチル、またはクロロプロピル基であり、Yが1,2-プロピレン、1,3-プロピレン基、-CHCHOCHCH-又は-CHCHOCHCHOCHCH-である化合物が好ましい。また、前記一般式(I)において、R、R、Rがそれぞれ独立にクロロエチルまたはクロロプロピル基であり、Yが-CHCHOCHCH-である化合物がより好ましい。さらに、R、R、Rがクロロプロピル基であり、Yが-CHCHOCHCH-である化合物が特に好ましい。
【0058】
リン系化合物(C)の一般式(II)としては、R、R、Rがそれぞれ独立にクロロメチル、クロロエチル、またはクロロプロピル基であり、Zが水素、メチル、エチル、クロロメチル、またはクロロエチル基である化合物が好ましい。また、前記一般式(II)において、R、R、Rがそれぞれ独立にクロロエチルまたはクロロプロピル基であり、Zが水素、メチル、またはクロロメチルである化合物がより好ましい。さらに、R、R、Rがクロロプロピル基であり、Zが水素である化合物が特に好ましい。
【0059】
さらに、一般式(I)で表されるリン酸エステルは、下記一般式(III)で表される化合物を含むものが特に好ましい。
【0060】
【化3】
【0061】
[式(III)中、Pはリン原子、Oは酸素原子、Cは炭素原子、Hは水素原子、Clは塩素原子を表す。R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。Yは-(CH-(xは3~6の整数)又は-CHCH-(OCHCHOCHCH-(zは0~3の整数)を示す。nは0~8の整数を示す。]
【0062】
一般式(III)における置換基R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基である。炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及びtert-ブチル基などが挙げられる。これらの中でも化合物(III)中のリン含有率が高くなるという点でメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0063】
炭素数1~4のクロロアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、モノクロロアルキル基が好ましく、例えばクロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、及びクロロブチル基が挙げられる。これらの中でも化合物(III)中のリン含有率が高くなるという点でクロロメチル基又はクロロエチル基が好ましく、クロロメチル基がより好ましい。置換基R、R、及びRとしては、水素原子、メチル基、エチル基、クロロメチル基、及びクロロエチル基が好ましく、水素原子、メチル基、及びクロロメチル基がより好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。置換基R、R、及びRはそれぞれ同一であっても異なってもよく、同一であることが特に好ましい。
【0064】
一般式(III)における置換基Yは、炭素数3~6のアルキレン基又は-CHCH-(OCHCHOCHCH-(zは0~3の整数)で表される基である。炭素数3~6のアルキレン基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えば1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、2,3-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、2,4-ヘキシレン基、及び2,5-ヘキシレン基が挙げられる。これらの中でも化合物(III)中のリン含有率が高くなるという点で1,2-プロピレン、及び1,3-プロピレン基が好ましい。
【0065】
さらに、一般式(II)で表されるホスホン酸エステルは、下記一般式(IV)で表される化合物を含むものが特に好ましい。
【0066】
【化4】
【0067】
[式(IV)中、Pはリン原子、Oは酸素原子、Cは炭素原子、Hは水素原子、Clは塩素原子を表す。R、R、R、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基を示す。nは0~8の整数を示す。]
【0068】
一般式(IV)における置換基R、R、R、及びZは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のクロロアルキル基である。炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、及びtert-ブチル基などが挙げられる。これらの中でも化合物(IV)中のリン含有率が高くなるという点でメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。炭素数1~4のクロロアルキル基としては、直鎖及び分枝状のいずれであってもよく、例えばクロロメチル、クロロエチル、クロロプロピル、ジクロロプロピル、クロロブチル基等が挙げられる。これらの中でもクロロメチル基、クロロエチル基が好ましく、クロロメチル基がより好ましい。置換基R、R、Rとしては、メチル基が好ましく、置換基Zとしては、水素原子が好ましい。
【0069】
本発明の樹脂組成物においては、リン系化合物(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られたGPC分子量分布曲線において、リン系化合物(C)に由来する成分の合計ピーク面積に対し、リン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の合計ピーク面積の割合が95.0%以上であることを特徴とする。
【0070】
これまで、従来のリン系化合物を含有する樹脂組成物では、樹脂成形体の難燃性は向上するが、樹脂成形体同士を溶剤で溶着させた場合の接着強度等の接着性が低下する傾向があった。その理由は定かではないが、従来のリン系化合物は、一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分量が少なく、一般式(I)または一般式(II)におけるn=0を一定量含むため、n=0の成分が溶剤で溶出する作用があり、(メタ)アクリル系重合体(P)の分子間にリン系化合物が配位した状態で溶着層が形成され、その結果、得られた樹脂成形体の接着性が低下すると推察される。
【0071】
さらに本発明者らは検討を行ない、従来のリン系化合物よりも一般式(I)または一般式(II)におけるn=0の成分量を低減し、一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分量を向上させたリン系化合物(C)を用いることにより、得られた樹脂成形体は、耐熱性と難燃性に優れることを見出した。その理由は定かではないが、(メタ)アクリル系重合体(P)の分子間にリン系化合物(C)が配位することが抑制されるので、樹脂組成物の荷重たわみ温度やガラス転移温度の低下を抑制でき、また、リン系化合物(C)自体のガラス転移温度が高くなるためと推察される。
【0072】
すなわち、従来のリン系化合物を用いた場合、得られた樹脂成形体の接着性は低下し、さらに耐熱性と難燃性とは所謂トレードオフの関係にあるが、本発明においては一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量を特定の範囲にしたリン系化合物(C)を用いることで、得られた樹脂成形体において、接着性を向上させることに加え、耐熱性と難燃性という相反する特性を両立することができる。
【0073】
リン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量の上限は、特に制限されない。本発明の1つの実施態様において、一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量の上限は99.99%である。別の実施態様において、n≧1の成分の含有量の上限は99.95%であり、さらに別の実施態様においては、n≧1の成分の含有量の上限は99.9%である。また、リン系化合物(C)のn≧1の成分の含有量の下限は、特に限定されないが、樹脂成形体の耐熱性や難燃性が良好となることから、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。リン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明のリン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量は、上限が99.99%である実施態様においては、95%以上99.99%以下が好ましく、96%以上99.99%以下がより好ましく、97%以上99.99%以下がさらに好ましい。また、n≧1の成分の含有量の上限が99.95%である本発明の実施態様においては、95%以上99.95%以下が好ましく、96%以上99.95%以下がより好ましく、97%以上99.95%以下がさらに好ましい。さらに、n≧1の成分の含有量の上限が99.9%である本発明の実施態様においては、95%以上99.9%以下が好ましく、96%以上99.9%以下がより好ましく、97%以上99.9%以下がさらに好ましい。リン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量は、一般式(I)または一般式(II)を合成した後に、各種蒸留等の手法を用いてn=0等の低分子量成分を一定量除去することで、任意に制御できる。
尚、本明細書において、リン系化合物(C)の一般式(I)または一般式(II)におけるn≧1の成分の含有量は、後述する方法に従って測定される。
【0074】
リン系化合物(C)の粘度の下限は特に限定されないが、(メタ)アクリル系重合体(P)とリン系化合物の混合性が良好となる点から、25℃において500mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上がさらに好ましい。また、粘度の上限は特に限定されないが、(メタ)アクリル系重合体(P)とリン系化合物の混合性が良好となる点から、3000mPa・s以下が好ましく、2500mPa・s以下がさらに好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、本発明のリン系化合物(C)の粘度は、25℃において500mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以上2500mPa・s以下がより好ましい。リン系化合物(C)の粘度は、リン系化合物(C)を合成するときに原料の比率や反応温度を調整することで、任意に制御できる。
尚、本明細書において、リン系化合物(C)の粘度は、後述する方法に従って測定される。
【0075】
<リン系化合物(C)の合成方法>
本発明におけるリン系化合物(C)で用いられる一般式(I)および一般式(II)を製造する方法については特に制限されず、公知の各種合成手法を用いて製造することができる。例えば、一般式(I)の化合物については特開平8-259577号公報に記載の方法、一般式(II)の化合物については特開平11-100391号公報の実施例3に記載の方法を応用して製造することができる。このように製造した一般式(I)または一般式(II)の化合物に対して、n≧1の成分が95%以上となるよう蒸留操作等を行うことでリン化合物(C)を調製することができる。
【0076】
蒸留の手段としては、回分式蒸留と連続式蒸留に大別できるが、いずれの蒸留方法も用いることができ、反応生成物の組成や処理量に応じて適宜選択すればよい。具体的な蒸留条件も目的の組成に応じて適宜選択すればよいが、減圧蒸留が好ましい。例えば、蒸留温度としては好ましくは140℃~260℃、より好ましくは150℃~240℃で行うことができる。蒸留温度が140℃未満では、一般式(I)または一般式(II)のうちn=0で表される成分の留去を効果的に行えない場合がある。また、蒸留温度が260℃を超えると、一般式(I)または一般式(II)の化合物が分解することで組成の悪化や着色の恐れがある。
前記好ましい温度条件下における蒸留工程の圧力条件(蒸発器内部)は、15torr以下が好ましく、0.3torr以下がより好ましく、0.03torr以下が更に好ましい。蒸留圧力が15torrより高いと蒸留温度を上げる必要があり、その場合、前述した問題が発生するおそれがある。蒸留圧力の下限については特に制限されない。
【0077】
本発明のリン系化合物(C)は、樹脂に添加したときの難燃性に優れる。また、従来公知のリン系化合物を添加した場合と比べ耐熱性、接着性を向上させることができるため、本発明のリン系化合物(C)は(メタ)アクリル系樹脂用難燃剤として特に好ましい。
【0078】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物を得る方法としては、例えば、以下に示す単量体組成物(S1)にリン系化合物(C)を含有させた重合性組成物(S2)を重合して得る方法が挙げられる。
【0079】
重合性組成物(S2)に含有されるリン系化合物(C)の含有量は、該重合性組成物(S2)100質量部に対して、リン系化合物(C)1質量部以上20質量部以下とすることで、得られた樹脂成形体の難燃性や耐熱性、機械的強度を良好なものとすることができる。
【0080】
<単量体組成物(S1)>
単量体組成物(S1)は、樹脂組成物を得るための原料の一実施態様であり、メタクリル酸メチルを含有する組成物である。
【0081】
前記単量体組成物(S1)に含有されるメタクリル酸メチルの含有割合は特に制限されるものではないが、該単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、メタクリル酸メチル85.0質量%以上100質量%以下を含有することにより、得られた樹脂成形体の透明性や機械的強度を良好なものとすることができる。
【0082】
また、前記単量体組成物(S1)は、該単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、前記単量体(B)0.05質量%以上0.40質量%以下を含むことにより、得られた樹脂成形体の難燃性を良好なものとすることができる。
【0083】
さらに、前記単量体組成物(S1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)を含むことにより、上述した理由により、得られた樹脂成形体の難燃性をより良好にできる。
前記単量体組成物(S1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(M)を、該単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、2.0質量%以上10.0質量%以下を含有することにより、得られた樹脂成形体の難燃性と機械的強度を良好なものとすることができる。
【0084】
前記単量体組成物(S1)は、予めMMA単位を主成分として含む重合体(P1)を含むことができる。
ここで、「主成分として含む」とは、前記重合体(P1)が、該重合体(P1)の総質量を100質量%として、前記MMA単位を85.0質量%以上含むことをいう。
前記重合体(P1)は、メタクリル酸メチルの単独重合体、若しくは、該重合体(P1)の総質量に対して、MMA単位85.0質量%以上100質量%未満と、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体由来の繰り返し単位0質量%を超えて15.0質量%以下を含む(共)重合体である。
前記メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体とは、上述した「共重合可能な単量体」及び「(メタ)アクリル酸エステル(M)」と同じ単量体を用いることができる。
【0085】
前記重合体(P1)を含むことにより、重合性組成物(S2)は粘性を有する液体(以下、「シラップ」という)となるため、重合時間を短縮でき、生産性を向上することができる。
【0086】
上述したシラップを得る方法としては、例えば、以下の2つの方法を挙げることができる。
(方法1)メタクリル酸メチル、前記メタクリル酸エステル(M)及び前記単量体(B)を含む単量体混合物に、重合体(P1)を溶解させる方法。
(方法2)メタクリル酸メチル(MMA)の単独物、又は、MMA85.0質量%以上100質量%未満とMMAと共重合可能な単量体0質量%を超えて15.0質量%以下を含む単量体混合物に公知のラジカル重合開始剤を添加して、その一部を重合させ、次いで、前記メタクリル酸エステル(M)、前記単量体(B)、メタクリル酸メチル及びMMAと共重合可能な単量体から選ばれる少なくとも一種類を所定量だけ添加する方法。
【0087】
前記単量体混合物を重合して重合性組成物(S2)のシラップを得る際に使用されるラジカル重合開始剤、及び、前記重合性組成物(S2)を重合して樹脂組成物を得る際に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物及びベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。本発明においては、必要に応じて、ラジカル重合開始剤と共にアミン、メルカプタン等の促進剤を併用することができる。
【0088】
ラジカル重合開始剤の添加量は目的に応じて適宜決めることができるが、通常、重合性組成物(S2)中の単量体100質量部に対して0.01質量部以上0.50質量部以下である。
【0089】
ラジカル重合する際の重合温度は、通常、使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて10~150℃の範囲で適宜設定される。また、重合性組成物(S2)は必要に応じて多段階の温度条件で重合を行うことができる。
【0090】
ラジカル重合法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられるが、これらの中で、生産性の点で、塊状重合法が好ましく、塊状重合法の中でもキャスト重合(注型重合)法がより好ましい。
【0091】
キャスト重合法により樹脂組成物を得る場合、例えば重合性組成物(S2)を鋳型に注入して重合させることにより樹脂組成物を得ることができる。
【0092】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明の(メタ)アクリル系樹脂成形体を製造する方法は特定に限定されるものではなく、例えば、周辺を軟質樹脂チューブ等のガスケットでシールして対向させた2枚の無機ガラス板又は金属板(SUS板)からなる鋳型に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱するセルキャスト法、又は同一方向に同一速度で進行する片面鏡面研磨された2枚のステンレス製エンドレスベルトとガスケットでシールされた空間を鋳型として上流から連続的に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱することによって連続的に重合する連続キャスト法により樹脂成形体を得る方法が挙げられる。鋳型の空隙の間隔は所望の厚さの樹脂板が得られるように適宜調整されるが、一般的には1~30mmである。
【0093】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を主成分として含む成形体である。
樹脂組成物からなる成形体の耐熱性は、一般には難燃性の向上に伴い低下する傾向にあるという、難燃性と所謂トレードオフの関係にある。すなわち、本発明の樹脂成形体は、相反する特性である難燃性と耐熱性とを両立させているという顕著な特性を有した樹脂成形体である。
【0094】
前記樹脂成形体の形状としては、例えば、板状の成形体(樹脂板)が挙げられる。樹脂板の厚みは、一般的には1mm以上30mm以下である。上述したキャスト法を用いる場合、ガスケットの太さ(直径)を適宜調整して、所望の厚みの樹脂板を得ることができる。
【実施例0095】
以下に本発明を、実施例を用いて説明する。以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0096】
また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
IBXMA:メタクリル酸イソボルニル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
リン系化合物1:後述する合成例2で合成した化合物(粘度(25℃)1200mPa・s)
リン系化合物2:後述する合成例3で合成した化合物(粘度(25℃)1400mPa・s)
リン系化合物3:後述する合成例4で合成した化合物(粘度(25℃)1700mPa・s)
リン系化合物4:後述する合成例6で合成した化合物(粘度(25℃)2400mPa・s)
リン系化合物5:後述する合成例7で合成した化合物(粘度(25℃)1700mPa・s)
リン系化合物6:後述する合成例1で合成した化合物(粘度(25℃)1000mPa・s)
リン系化合物7:後述する合成例5で合成した化合物(粘度(25℃)4600mPa・s)
リン系化合物8:後述する合成例8で合成した化合物(粘度(25℃)2100mPa・s)
リン系化合物9:後述する合成例9で合成した化合物(粘度(25℃)2300mPa・s)
【0097】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0098】
(1)GPC測定
GPC測定によるリン系化合物(C)のn=0~8の各化合物(成分)の含有量は、例えば、次のようにして分析(測定)することができる。
具体的には、試料0.05gにテトラヒドロフラン(THF)10mLを添加し、試料溶液とし、下記の機器及び分析条件で分析し、RI検出器の面積%を各化合物の含有量(組成)とする。
(機器)
GPC分析装置(東ソー株式会社製、型式:HLC-8220又は相当品)
データ分析装置(東ソー株式会社製、型式:SC-8010又は相当品)
(カラム)
ガードカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKguardcolumnSuperHZ-L 4.6mmI.D.×2.0cm)1本
サンプルカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKGEL SuperHZ1000
6.0mmI.D.×15cm)3本
(分析条件)
INLET温度 40℃
カラム温度 40℃
RI温度 40℃
溶媒流量 0.35mL/分
検出器 RI(Refractive Index:屈折率)
試料溶液注入量 10μl(ループ管)
(データ処理条件)
START TIME (分) 8.00
STOP TIME (分) 18.00
【0099】
(2)樹脂成形体抽出物のGPC測定
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体に含まれるリン系化合物(C)は、例えば、次のようにして抽出することができる。
具体的には、試料2.0gにブチルヒドロキシトルエン(BHT)不含有のテトラヒドロフラン(THF)50mLを加えて2日間静置した後に、溶液の上澄みをメタノール250mL中にゆっくりと滴下し、沈殿物をろ過してろ液を回収する。不溶分に関しても少量のメタノールで洗い、洗液をろ過した後に、先のろ液に加える。次にエバポレーターを用いて、先に回収した全ろ液の周辺圧力を下げ、メタノールを除去する。メタノール除去後のろ液にさらに少量のTHFを加え、イナートオーブンと真空乾燥機を用いて40℃にて乾燥を行い、THFを除去する。
さらに、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体に含まれるリン系化合物(C)のn=0~8の各化合物(成分)の含有量は、例えば、次のようにしてGPC分析(測定)することができる。
具体的には、上記手順にて抽出した試料0.05gにBHT不含有のテトラヒドロフラン(THF)10mLを添加し、試料溶液とし、下記の機器及び分析条件で分析し、RI検出器の面積%を各化合物の含有量(組成)とする。
(機器)
GPC分析装置(東ソー株式会社製、型式:HLC-8220又は相当品)
データ分析装置(東ソー株式会社製、型式:SC-8010又は相当品)
(カラム)
ガードカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKguardcolumnSuperHZ-L 4.6mmI.D.×2.0cm)1本
サンプルカラム
(東ソー株式会社製、型式:TSKGEL SuperHZ1000
6.0mmI.D.×15cm)3本
(分析条件)
INLET温度 40℃
カラム温度 40℃
RI温度 40℃
溶媒流量 0.35mL/分
検出器 RI(Refractive Index:屈折率)
試料溶液注入量 10μl(ループ管)
(データ処理条件)
START TIME (分) 8.00
STOP TIME (分) 18.00
【0100】
(3)粘度
粘度測定には、ウベローデ粘度計を使用し、以下に示す式を用いて25℃のときの動粘度及び粘度を求めた。
ν(動粘度)=C×t
粘度(mPa・s)=ν×ρ
このとき、Cはウベローデ粘度計定数、tは流下秒数(sec.)、ρは25℃のときの密度(kg/m)を示す。
【0101】
(4)難燃性(JIS)
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の難燃性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3mm)について、JIS K 6911-1995の耐燃性試験A法に準拠して、前記試験片が自消するまでに要する時間(自消時間)と消火後の試験片の燃焼した長さ(燃焼距離)を測定した。さらに、以下の判定基準を用いて難燃性(JIS)を判定した。
AA:試験片の自消時間が2分未満であり、燃焼距離が25mm以下である。
A:試験片の自消時間が2分以上3分未満であり、燃焼距離が100mm以下である。
B:試験片の自消時間が3分以上又は自消せず、燃焼距離が100mmを超える。
【0102】
(5)難燃性(UL94)
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の難燃性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ125mm×幅13mm×厚さ3mm)について、UL94に規定される垂直焼試験法に準拠して、表1に示す判定基準を用いて難燃性を判定した。
【0103】
【表1】
【0104】
(6)耐熱性(HDT)
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の耐熱性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3mm)について、JIS K 7191に準拠して、荷重たわみ温度(以下、「HDT」と示す)(℃)を測定した。
【0105】
(7)曲げ応力
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の機械的強度の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ60mm×幅25mm×厚さ3mm)について、JIS K 7171に準拠して、支点間距離48mmにおける曲げ応力(MPa)を測定した。
【0106】
(8)接着性(T字接着時の引張破壊応力)
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の接着性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(縦サンプル:長さ50mm×幅25mm×厚さ3mm、横サンプル50mm×25mm×厚さ3mm)について、縦サンプルと横サンプルをT字に重ねた状態で、ジクロロメタンを溶剤としてサンプル間の接触面に0.5mL注入し、接着させた状態で23℃・50RH%の環境で一週間静置させた。その後、インストロン万能材料試験機5566型(インストロン株式会社製)にて接着部を引張速度5mm/minで引張試験を行った際の、引張破壊応力(MPa)を測定した。
【0107】
(9)全光線透過率
本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の透明性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片(長さ50mm×幅50mm×厚さ3mm)について、JIS K 7361-1に準拠して、厚み方向における全光線透過率を測定した。
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
下記の各合成例における分析方法は、以下のとおりである。
【0110】
[活性塩素濃度]
合成例の第一段反応で得られた縮合型ホスホロクロリデート又はジハロゲン化アルキルホスホロクロリダイトの活性塩素濃度(重量%)を、「分析化学実験法」(株式会社化学同人)の「硝酸銀標準液による塩素イオンの定量法」に準じて測定し、第一段反応の反応完結を確認した。
【0111】
[酸価]
合成例で得られた化合物の酸価(KOHmg/g)を、JIS K 0070中和滴定法に準じて測定した。
【0112】
[合成例1]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン282.4g(1.8モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール106g(1.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル307.1g得た。さらに別の四つ口フラスコに前のクロロリン酸エステル307.1gと四塩化チタン2.1g(0.01モル)を仕込み、酸化プロピレン197.2g(3.4モル)を40℃以下の温度で追加し、80℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が0.80KOHmg/gであった。酸価の10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行い、リン系化合物6(粘度=1000mPa・s)を得た。
【0113】
[合成例2]
合成例1と同様の手順で合成したリン系化合物6(520g)を、温度200℃、真空度0.2torrにて蒸留することで低佛成分をカットし、残渣としてリン系化合物1(粘度=1200mPa・s)444gを得た。カットした低佛成分は69gであった。
【0114】
[合成例3]
合成例2と同様の手順で合成したリン化合物1(400g)を、さらに温度220℃、真空度0.2torrで蒸留することで低佛成分をさらにカットし、残渣としてリン系化合物2(粘度=1400mPa・s)323gを得た。カットした低佛成分は75gであった。
【0115】
[合成例4]
合成例3と同様の手順で合成したリン化合物2(400g)を、さらに温度220℃、真空度0.2torrにて蒸留することで低佛成分をさらにカットし、残渣としてリン系化合物3(粘度=1700mPa・s)305gを得た。カットした低佛成分は86gであった。
【0116】
[合成例5]
撹拌棒、温度計、コンデンサー付き1000mLフラスコに、三塩化リン275g(2.0モル)、トリエチルアミン0.55g及びエチレンクロルヒドリン0.65gを仕込んだ。次いで、40~50℃で酸化プロピレン278g(5モル)を追加した。反応時間は4時間であった。その後、50~60℃で1時間熟成した。反応混合物の活性塩素濃度は6.9%(理論値7.1%)であった。
この反応混合物に滴下ロートよりアセトアルデヒド56g(1.1モル)を30~40℃、30分で添加した。その後、徐々に反応温度を上げ、80~90℃で4時間反応させた。反応混合物の酸価は1.5であった。
その後、この反応混合物に5~10℃で、滴下ロートより30%水酸化ナトリウム水溶液6gを20分で添加した。反応混合物のpHは10.5であった。次いで、35%過酸化水素水溶液90g(1.0モル)を10~20℃、4時間で添加した。過酸化水素水溶液を添加している間は、反応混合物のpHが9.5~10.5になるよう、適宜30%水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら調節した。30%水酸化ナトリウム水溶液の全使用量は25gであった。過酸化水素水溶液添加終了後、30~40℃、2時間反応を継続した。
反応混合物に30%水酸化ナトリウム水溶液10gを添加し、50~60℃で1時間撹拌した。次いで、分液ロートに静置し、水層と有機層に分離した。得られた有機層を、60~70℃にて温水200mLで2回洗浄した後、1~3kPaの減圧化、90~100℃で低沸分を除去し、リン系化合物7(粘度=4600mPa・s)を得た。
【0117】
[合成例6]
合成例1と同様の手順で合成したリン化合物6と、合成例5と同様の手順で合成したリン化合物7を、重量比1:1で40~50℃にて1時間混合し1285gの混合物を得た。この混合物を、温度150℃、真空度0.04torrにて蒸留することで低佛成分をカットし、残渣としてリン系化合物4(粘度=2400mPa・s)1140gを得た。カットした低佛成分は137gであった。
【0118】
[合成例7]
合成例1と同様の手順で合成したリン化合物6と、合成例5と同様の手順で合成したリン化合物7を、重量比7:3で40~50℃にて1時間混合し1270gの混合物を得た。この混合物を、温度150℃、真空度0.03torrにて蒸留することで低佛成分をカットし、残渣としてリン系化合物5(粘度=1700mPa・s)1146gを得た。カットした低佛成分は116gであった。
【0119】
[合成例8]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン1609.7g(10.5モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール742.7g(7.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル1846.5g得た。さらに別の四つ口フラスコにトルエン835.4gと四塩化チタン10.5g(0.055モル)を仕込み、得られたクロロリン酸エステル1750.0gと酸化プロピレン1024.1g(17.6モル)を60℃以下の温度で追加し反応させた。得られた有機層は酸価が2.05KOHmg/gであり、酸価の10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後、脱溶剤及び脱水を行いリン系化合物8(粘度=2100mPa・s)2594gを得た。
【0120】
[合成例9]
ジムロートを取り付けた四つ口フラスコにオキシ塩化リン2360.8g(15.4モル)を仕込み、18℃以下に冷却した後、ジエチレングリコール1167.1g(11.0モル)をフラスコ内の温度が18℃以上に上がらないよう追加した。追加後、反応により発生する塩酸は水へ回収し、クロロリン酸エステル2720.1g得た。得られたクロロリン酸エステル400.0gと四塩化チタン1.2g(0.0063モル)を別の四つ口フラスコに仕込み、酸化プロピレン227.5g(3.9モル)を60℃以下の温度で追加し、75℃まで昇温させ反応を終了させた。得られた有機層は酸価が1.40KOHmg/gであり、酸価の10倍相当のソーダ灰と水により中和させ、湯洗いの後脱水を行いリン系化合物9(粘度=2300mPa・s)686gを得た。
【0121】
[実施例1]
(1)シラップの製造
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応器(重合釜)にMMA100部を供給し、撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。内温が60℃になった時点で、ラジカル重合開始剤である2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1部を添加し、更に内温100℃まで加熱した後、13分間保持した。次いで、反応器を室温まで冷却して、重合体30質量%と単量体70質量%からなるシラップ(A)を得た。
【0122】
(2)注型重合
上記のシラップ(A)100質量部、単量体(B)としてEDMA0.15質量部及びリン系化合物(C)として合成例2で得られたリン系化合物1(9.8質量部)を混合し、さらに重合開始剤としてt-ヘキシルパーオキシピバレート0.05質量部を添加して、重合性組成物(S2)を得た。対向して配置した2枚のSUS板の間の周縁部に、2枚のSUS板の空隙間隔が4.1mmとなるように軟質樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。上記の鋳型の中に、前記重合性組成物(S2)を流し込み、軟質樹脂製ガスケットで完全に封止した後、80℃まで昇温して30分間保持し、次いで130℃まで昇温して30分間保持して、重合性組成物(S2)を重合させた。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて厚さ3mmの板状の樹脂成形体を得た。
【0123】
得られた樹脂成形体から、切断機を用いて各試験片を切り出した後に、試験片の切り出した面をフライス盤で研磨した。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0124】
[実施例2~7]
重合性組成物(S2)の組成を表2A及び表2Bに示すとおりとした以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0125】
【表2A】
【0126】
【表2B】
【0127】
[比較例1]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として合成例1にて合成した化合物6を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0128】
[比較例2]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として化合物6を10.9部使用した以外は比較例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0129】
[比較例3]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として化合物6を17.7部使用した以外は比較例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0130】
[比較例4]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として化合物7を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0131】
[比較例5]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として化合物8を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0132】
[比較例6]
リン系化合物(C)の代わりに比較用リン系化合物として化合物9を使用した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の評価結果を表2Bに示す。なお表2Bにおいて「-」となっている箇所は、評価を実施しなかったことを指す。
【0133】
実施例1~7で得られた樹脂成形体は、(メタ)アクリル系重合体(P)の総質量100質量部に対して、リン系化合物(C)を1質量部以上20質量部以下含有するので、いずれも難燃性(JIS)は不燃性、耐熱性(HDT)は92℃以上、曲げ応力は100MPa以上、接着性(T字接着時の引張破壊応力)は20MPa以上であるか、或いは難燃性(UL)はV-0、耐熱性(HDT)は70℃以上、曲げ応力95MPa以上、接着性(T字接着時の引張破壊応力)は20MPa以上であり、難燃性と耐熱性、機械的強度、接着性に優れていた。
【0134】
比較例1で得られた樹脂成形体は、比較用リン系化合物のn=0の成分の含有量が多いため、難燃性と接着性が不十分であった。
【0135】
比較例2で得られた樹脂成形体は、比較用リン系化合物のn=0の成分の含有量が多く、比較リン系化合物の含有量が多いため、耐熱性と接着性が不十分であった。
【0136】
比較例3で得られた樹脂成形体は、比較用リン系化合物のn=0の成分の含有量が多いため、機械的強度および接着性が不十分であった。
【0137】
比較例4で得られた樹脂成形体は、比較用リン系化合物のn=0の成分の含有量が多いため、難燃性と接着性、機械的強度が不十分であった。
【0138】
比較例5及び6で得られた樹脂成形体は、比較用リン系化合物のn=0の成分の含有量が多いため、接着性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のリン系化合物(C)を樹脂組成物に添加することで耐熱性を維持しつつ、難燃性と接着性を付与することができる。また、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体は、透明性、難燃性、耐熱性、機械的強度、接着性に優れているので、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の用途に好適に用いることができる。