(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068862
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】基板ホルダ、基板保持方法、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20240514BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20240514BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240514BHJP
G11B 7/26 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C23C14/50 B
H01L21/68 A
G11B5/84 Z
G11B7/26 531
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179481
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 千尋
(72)【発明者】
【氏名】野上 顕悟
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知志
【テーマコード(参考)】
4K029
5D112
5F131
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA02
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4K029BA34
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4K029JA01
4K029JA06
4K029KA09
5D112AA05
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5D112FB21
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5F131DA02
5F131DA22
5F131DA42
5F131DA52
5F131DC30
(57)【要約】
【課題】基板の落下を防止すると共に基板の変形または破損を防止する。
【解決手段】基板ホルダは、円盤状基板が縦置きに配置される孔部と、孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材と、を備え、4個の支持部材のうちの2個の支持部材は、鉛直方向で円盤状基板の上側に位置する円盤状基板の第1側外周端部及び第2側外周端部で円盤状基板を支持し、4個の支持部材のうちの他の2個の支持部材は、鉛直方向で円盤状基板の下側に位置する円盤状基板の第3側外周端部及び第4側外周端部で円盤状基板を支持し、第1側外周端部及び第2側外周端部の各々と、円盤状基板の最上端部との間における円盤状基板の中心角は、は、15°~40°の範囲内であり、第3側外周端部及び第4側外周端部の各々と、円盤状基板の最下端部との間における円盤状基板の中心角は、10°~15°の範囲内である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状基板が縦置きに配置される孔部と、
前記孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材と、
を備え、
前記4個の支持部材のうちの2個の支持部材は、鉛直方向で前記円盤状基板の上側に位置する前記円盤状基板の第1側外周端部及び第2側外周端部で前記円盤状基板を支持し、
前記4個の支持部材のうちの他の2個の支持部材は、鉛直方向で前記円盤状基板の下側に位置する前記円盤状基板の第3側外周端部及び第4側外周端部で前記円盤状基板を支持し、
前記第1側外周端部及び前記第2側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も上側に位置する前記円盤状基板の最上端部との間における前記円盤状基板の中心角は、15°~40°の範囲内であり、
前記第3側外周端部及び前記第4側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も下側に位置する前記円盤状基板の最下端部との間における前記円盤状基板の中心角は、10°~15°の範囲内である、基板ホルダ。
【請求項2】
前記第1側外周端部及び前記第2側外周端部の各々と、前記円盤状基板の前記最上端部との間における前記円盤状基板の中心角が15°~40°の範囲内と、
前記第3側外周端部及び前記第4側外周端部の各々と、前記円盤状基板の前記最下端部との間における前記円盤状基板の中心角が10°~15°の範囲内と、
を除いた前記円盤状基板の箇所では、前記支持部材は前記円盤状基板を支持しない、請求項1に記載の基板ホルダ。
【請求項3】
基板ホルダによる基板保持方法であって、前記基板ホルダが、
円盤状基板が縦置きに配置される孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材のうちの2個の支持部材により、鉛直方向で前記円盤状基板の上側に位置する前記円盤状基板の第1側外周端部及び第2側外周端部で前記円盤状基板を支持する工程と、
前記4個の支持部材のうちの他の2個の支持部材により、鉛直方向で前記円盤状基板の下側に位置する前記円盤状基板の第3側外周端部及び第4側外周端部で前記円盤状基板を支持する工程と、
を実行し、
前記第1側外周端部及び前記第2側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も上側に位置する前記円盤状基板の最上端部との間における前記円盤状基板の中心角を、15°~40°とし、
前記第3側外周端部及び前記第4側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も下側に位置する前記円盤状基板の最下端部との間における前記円盤状基板の中心角を、10°~15°とした、基板保持方法。
【請求項4】
円盤状基板に対して成膜処理を行うチャンバと、
少なくとも前記チャンバ内で前記円盤状基板を保持する請求項1又は2に記載の基板ホルダが設けられたキャリアと、
前記キャリアを搬送する搬送機構と、
を備える、成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板ホルダ、基板保持方法、及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板を複数の支持部材により保持する基板ホルダ及び基板保持方法が知られている。また基板に成膜処理を行う成膜装置が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1において、成膜装置の生産性を高めるために基板の搬送速度を上げた場合、搬送中の振動または基板に加わる加速度により基板が落下し易くなる虜がある。また、基板の落下を防止するために支持部材による基板の支持力を高めると、基板の変形または破損が生じ易くなる。
【0005】
そこで、本開示の技術は、上記課題に鑑み、基板の落下を防止すると共に基板の変形または破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
円盤状基板が縦置きに配置される孔部と、
前記孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材と、
を備え、
前記4個の支持部材のうちの2個の支持部材は、鉛直方向で前記円盤状基板の上側に位置する前記円盤状基板の第1側外周端部及び第2側外周端部で前記円盤状基板を支持し、
前記4個の支持部材のうちの他の2個の支持部材は、鉛直方向で前記円盤状基板の下側に位置する前記円盤状基板の第3側外周端部及び第4側外周端部で前記円盤状基板を支持し、
前記第1側外周端部及び前記第2側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も上側に位置する前記円盤状基板の最上端部との間における前記円盤状基板の中心角は、15°~40°の範囲内であり、
前記第3側外周端部及び前記第4側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も下側に位置する前記円盤状基板の最下端部との間における前記円盤状基板の中心角は、10°~15°の範囲内である、基板ホルダが提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
基板ホルダによる基板保持方法であって、前記基板ホルダが、
円盤状基板が縦置きに配置される孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材のうちの2個の支持部材により、鉛直方向で前記円盤状基板の上側に位置する前記円盤状基板の第1側外周端部及び第2側外周端部で前記円盤状基板を支持する工程と、
前記4個の支持部材のうちの他の2個の支持部材により、鉛直方向で前記円盤状基板の下側に位置する前記円盤状基板の第3側外周端部及び第4側外周端部で前記円盤状基板を支持する工程と、
を実行し、
前記第1側外周端部及び前記第2側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も上側に位置する前記円盤状基板の最上端部との間における前記円盤状基板の中心角を、15°~40°とし、
前記第3側外周端部及び前記第4側外周端部の各々と、鉛直方向で前記円盤状基板の最も下側に位置する前記円盤状基板の最下端部との間における前記円盤状基板の中心角を、10°~15°とした、基板保持方法が提供される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、
円盤状基板に対して成膜処理を行うチャンバと、
少なくとも前記チャンバ内で前記円盤状基板を保持する、本開示の一態様に記載の基板ホルダが設けられたキャリアと、
前記キャリアを搬送する搬送機構と、
を備える、成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、基板の落下を防止すると共に基板の変形または破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る成膜装置により製造される記録媒体の一例の断面図である。
【
図3】一実施形態に係る成膜装置におけるチャンバの側断面図である。
【
図4】一実施形態に係る成膜装置におけるキャリアの側面図である。
【
図5】従来技術により基板に生じた変形の一例を示す顕微鏡画像(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について詳細に説明する。各図面において、同一構成要素には同一符号を付与し、重複した説明を適宜省略する。
【0012】
(磁気記録媒体)
まず本実施形態の成膜装置が製造する記録媒体の一例について説明する。
図1は、本実施形態に係る成膜装置により製造される記録媒体の一例の断面図である。記録媒体は、例えば磁気記録媒体である。
【0013】
近年、磁気記録装置の適用範囲が著しく増大され、磁気記録装置の重要性が増すと共に、磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体の記録密度の著しい向上が図られつつある。
【0014】
磁気記録媒体は、今後更に高記録密度を達成することが要求される。このため、磁性層の高保磁力化、高信号対雑音比(SNR)、及び高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加により面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0015】
磁気記録媒体の製造方法としては、例えば、非磁性基板の上に、軟磁性層、中間層、及び記録磁性層等を形成した後、記録磁性層の上に保護層を形成する方法がある。
【0016】
斯かる製造方法の場合、なるべく1つの成膜装置を用いて連続的に行うことが好ましい。連続的に成膜処理を行うことにより、ハンドリングに際して基板の汚染が防止され、また、ハンドリング工程等を少なくして製造工程の効率化及び製品歩留まりを良くし、磁気記録媒体の生産性を高めることができる。
【0017】
そこで、斯かる磁気記録媒体の製造に際し、複数枚の非磁性基板を保持したキャリアを複数のチャンバの間で順次搬送させながら、非磁性基板の両面に、磁性層等を順次成膜するインライン式成膜装置を用いることが提案されている。
【0018】
インライン式成膜装置における磁気記録媒体の生産性を高めるため、キャリアの搬送速度を高めることがある。しかしながら、キャリアの搬送速度を高めると、搬送中の振動または基板に加わる加速度により、基板がキャリアから落下し易くなる。
【0019】
基板の落下を防止するため、基板を支持する支持部材の支持力を高め過ぎると、基板が変形し、あるいは破損する場合がある。特に、近年ではハードディスク装置の記録容量を増加させるため、基板を薄くすることにより、ケース内に収納する磁気記録媒体の枚数を増加させることが行われている。基板の薄板化により、基板の強度が低下し、変形または破損が生じ易くなっている。
【0020】
斯かる問題を解決するため、本実施形態に係る基板ホルダ及び基板保持方法は、キャリアの搬送速度を高めても、キャリアからの基板の落下を防止する。また、基板の板厚が薄くなっても、支持部材による基板の支持部における基板の変形または破損を防止する。また、本実施形態に係る成膜装置は、斯かる基板ホルダを用いて記録媒体の生産性を高める。
【0021】
本実施形態では、複数のチャンバの間で円盤状基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係るインライン式成膜装置により製造される磁気記録媒体は、円盤状基板9の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83、及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されている。
【0023】
円盤状基板9としては、Alを主成分とした例えばAl-Mg合金等のAl合金基板、又は通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、及び各種樹脂等からなる基板等が用いられる。つまり円盤状基板9には、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0024】
(インライン式成膜装置)
図2は、本実施形態に係るインライン式成膜装置1の平面図である。磁気記録媒体を製造する際は、例えば
図2に示すようなインライン式成膜装置1を用いて、成膜対象となる円盤状基板9の両面に、少なくとも軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83、及び保護層84を順次積層する。斯かる工程を経ることにより、磁気記録媒体を高い生産性で得ることができる。
【0025】
具体的に、本実施形態に係るインライン式成膜装置1は、ロボット台8と、ロボット台8上に載置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台8に隣接する基板取付け取外しロボット2と、キャリア7を回転させる複数のコーナー室4と、を備えている。また、インライン式成膜装置1は、コーナー室4とコーナー室4の間に配置された複数のチャンバ5と、複数のコーナー室4及び複数のチャンバ5の中を搬送される複数のキャリア7と、複数のキャリア7を搬送する搬送機構11と、を備えている。
【0026】
また、各チャンバ5の接続部には、ゲートバルブ6が設けられ、これらゲートバルブ6が閉状態のとき、各チャンバ5内はそれぞれ独立した密閉空間となる。
【0027】
また、各チャンバ5には、非図示の真空ポンプが接続されており、これら真空ポンプの動作によって減圧状態となされた各チャンバ5内に、搬送機構11により複数のキャリア7が順次搬送される。複数のキャリア7を順次搬送させながら、各チャンバ5内において、キャリア7に保持された円盤状基板9の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83、及び保護層84が順次成膜される。その後、インライン式成膜装置1より基板を取り出し、その両面に潤滑膜85を成膜し、最終的に
図1に示す磁気記録媒体が得られる。また、各コーナー室4は、キャリア7の移動方向を変更する室であり、コーナー室4の内部にはキャリア7を回転させて次のチャンバ5に移動させる機構が設けられている。
【0028】
図3は、本実施形態に係る成膜装置におけるチャンバ5の側断面図である。インライン式成膜装置1は、キャリア7を搬送させる搬送機構11として、例えば非接触状態で駆動するリニアモータ駆動機構を備えている。このリニアモータ駆動機構は、キャリア7の下部に複数の磁石をN極とS極とが交互に並ぶように配置し、キャリア7の磁石の下方に隔壁を介してN極とS極とが螺旋状に交互に並ぶ回転磁石を搬送路に沿って配置している。リニアモータ駆動機構は、キャリア7側の磁石と回転磁石とを非接触で磁気的に結合させながら、回転磁石を軸回りに回転させることにより、キャリア7を搬送させる。
【0029】
(磁気記録媒体の製造方法)
本実施形態に係るインライン式成膜装置1を用いた磁気記録媒体の製造方法について
図1を用いて説明する。インライン式成膜装置1は、キャリア7に保持された円盤状基板9を複数のチャンバ5の間で順次搬送させ、円盤状基板9の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83、及び保護層84を順次積層することにより、磁気記録媒体を製造する。
【0030】
斯かる磁気記録媒体の製造方法及びインライン式成膜装置1によれば、軟磁性層81から保護層84の形成までを1つの装置を用いて連続的に行うことができ、成膜対象である円盤状基板9のハンドリングに際して円盤状基板9が汚染されることが無い。また、インライン式成膜装置1は、ハンドリング工程等を少なくして製造工程を効率化し、製品歩留まりを良くして磁気記録媒体の生産性を高めることができる。
【0031】
(基板ホルダ及び基板保持方法)
図4は、本実施形態に係るインライン式成膜装置1で用いるキャリア7の側面図である。本実施形態におけるキャリア7について、
図4を用いてより詳細に説明する。キャリア7には、円盤状基板9を縦置きに保持する2個の基板ホルダ10が設けられている。なお、縦置きとは、円盤状基板9の主面(表面または裏面)が重力方向と平行となる状態を意味する。キャリア7は、2個の基板ホルダ10を搬送方向に一列で並べて配置する。
【0032】
基板ホルダ10は、円盤状基板9の厚さの1倍~数倍程度の厚さを有する。また、基板ホルダ10には、保持された円盤状基板9の外周端部から半径方向に10mm程度の隙間を形成するように、円盤状基板9よりも大径となる円形状の孔部12が穿設されている。
【0033】
また、各基板ホルダ10の孔部12の周囲には、複数の支持部材13が弾性変形可能に取り付けられている。複数の支持部材13は、孔部12の内側に配置される円盤状基板9の外周端部を特定の位置で支持するように、基板ホルダ10の孔部12の周囲に設けられている。
【0034】
基板ホルダ10は、円盤状基板9の外周端部を支持し、支持部材13の内側に嵌め込まれた円盤状基板9を着脱自在に保持することが可能となっている。また、基板ホルダ10に対する円盤状基板9の着脱は、例えば基板取付け取外しロボット2が鉛直方向で基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13を下方に押し下げることにより行われる。
【0035】
支持部材13は、例えばL字状に折り曲げられた板バネ部材である。支持部材13の基端側は、基板ホルダ10の本体に固定される。支持部材13の先端側は、それぞれ基板ホルダ10の孔部12の周囲に形成された隙間内に配置され、隙間から孔部12の内側に向かって突出している。また、支持部材13の先端部には、円盤状基板9の落下を防止する、例えば円盤状基板9の外周端部に係合するV字状またはU字状の溝部が設けられている。
【0036】
支持部材13には、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、及びタングステン等のいずれかを主成分とする耐熱性合金を用いることができる。また支持部材13による円盤状基板9の支持力は、円盤状基板9の材質及び厚さ等によって適宜選択されるが、例えば2N~6Nの範囲内である。
【0037】
本実施形態に係る基板ホルダ10では、孔部12の周囲に弾性変形可能に取り付けられた少なくとも4個の支持部材13が設けられる。4個の支持部材13がそれぞれ、円盤状基板9の第1側外周端部14、第2側外周端部15、第3側外周端部16、及び第4側外周端部17を支持することにより、基板ホルダ10が孔部12の内側で円盤状基板9を保持する。円盤状基板9の第1側外周端部14、第2側外周端部15、第3側外周端部16、及び第4側外周端部17には、円盤状基板9の外周面と、円盤状基板9の外周縁(エッジまたは角)と、のうちの少なくとも一方が含まれる。
【0038】
ここで、4個の支持部材13のうちの2個の支持部材13は、鉛直方向で円盤状基板9の上側に位置する第1側外周端部14と、鉛直方向で円盤状基板9の上側に位置する第2側外周端部15と、を支持する。第1側外周端部14は、水平方向で円盤状基板9の左側(又は
図4の裏側から見た場合は、右側)に位置し、第2側外周端部15は、水平方向で円盤状基板9の右側(又は
図4の裏側から見た場合は、左側)に位置する。
【0039】
また、4個の支持部材13のうちの他の2個の支持部材13は、鉛直方向で円盤状基板9の下側に位置する第3側外周端部16と、鉛直方向で円盤状基板9の下側に位置する第4側外周端部17と、を支持する。第3側外周端部16は、水平方向で円盤状基板9の左側(又は
図4の裏側から見た場合は、右側)に位置し、第4側外周端部17は、水平方向で円盤状基板9の右側(又は
図4の裏側から見た場合は、左側)に位置する。
【0040】
鉛直方向で円盤状基板9の上側に位置する第1側外周端部14と、鉛直方向で円盤状基板9の最も上側に位置する最上端部18と、の間における円盤状基板9の第1中心角αは、15°~40°の範囲内、より好ましくは16°~25°の範囲内である。また、鉛直方向で円盤状基板9の上側に位置する第2側外周端部15と、鉛直方向で円盤状基板9の最も上側に位置する最上端部18と、の間における円盤状基板9の第2中心角βは、15°~40°の範囲内、より好ましくは16°~25°の範囲内である。
【0041】
鉛直方向で円盤状基板9の下側に位置する第3側外周端部16と、鉛直方向で円盤状基板9の最も下側に位置する最下端部19と、の間における円盤状基板9の第3中心角δは、10°~15°の範囲内である。また、鉛直方向で円盤状基板9の下側に位置する第4側外周端部17と、鉛直方向で円盤状基板9の最も下側に位置する最下端部19と、の間における円盤状基板9の第4中心角γは、10°~15°の範囲内である。
【0042】
つまり、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βはいずれも、円盤状基板9の第3中心角δ以上でありかつ第4中心角γ以上である。
【0043】
そして、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βが15°~40°の範囲内と、円盤状基板9の第3中心角δ及び第4中心角γが10°~15°の範囲内と、を除いた円盤状基板9の箇所では、支持部材13は円盤状基板9を支持しないことが好ましい。
【0044】
斯かる支持部材13を有する基板ホルダ10を用いることにより、キャリア7の搬送速度を高めても、キャリア7からの円盤状基板9の落下が防止され、また、支持部材13による円盤状基板9の支持部における変形が防止される。したがって、インライン式成膜装置1は、磁気記録媒体の生産性を高めることが可能である。また、円盤状基板9の変形が防止されるので、基板の薄板化に対応可能なインライン式成膜装置1を提供することが可能となる。
【0045】
本実施形態の作用効果の理由は次のように考えられる。キャリア7の搬送速度を高めると、円盤状基板9には強い振動と加速度とが加わる。円盤状基板9に加わる振動及び加速度は、特にキャリア7の進行方向と平行な方向の成分が強く、斯かる成分が基板の落下または変形の原因であった。そして、円盤状基板9の最上端部18及び最下端部19の近傍の特定の箇所で円盤状基板9を支持することにより、キャリア7の進行方向に加わる力を緩和し、円盤状基板9の落下を防止することができる。また、円盤状基板9の最上端部18及び最下端部19の近傍の特定の箇所以外では、支持部材13が円盤状基板9を支持しないことにより、円盤状基板9の変形を防止することができる。
【0046】
一方、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βが15°より小さい範囲において、2個の支持部材13が円盤状基板9の第1側外周端部14及び第2側外周端部15を支持した場合、基板ホルダ10による円盤状基板9の保持力が低下する。そして基板ホルダ10からの円盤状基板9の落下が生じ易くなる。
【0047】
また、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βが40°より大きい範囲において、2個の支持部材13が円盤状基板9の第1側外周端部14及び第2側外周端部15を支持した場合、2個の支持部材13による円盤状基板9の支持部に変形が生じ易くなる。
【0048】
さらに、円盤状基板9の第3中心角δ及び第4中心角γが10°より小さい範囲において、他の2個の支持部材13が円盤状基板9の第3側外周端部16及び第4側外周端部17を支持した場合、基板ホルダ10による円盤状基板9の保持力が低下する。そして基板ホルダ10からの円盤状基板9の落下が生じ易くなる。
【0049】
円盤状基板9の第3中心角δ及び第4中心角γが15°より大きい範囲において、他の2個の支持部材13が円盤状基板9の第3側外周端部16及び第4側外周端部17を支持した場合、支持部材13による円盤状基板9の支持部に変形が生じ易くなる。
【0050】
なお、本開示で問題視している円盤状基板9の変形には、肉眼での判別が困難なものが含まれる。
図5は、従来技術により基板に生じた変形の一例を示す顕微鏡画像(図面代用写真)である。基板の変形は、従来の基板ホルダに設けられた支持部材の支持力により塑性変形した凹み(すなわちデント)である。このデントは、高さが1.26μmであり、基板の最も外側の外周端からの幅が180.15μmである。最近、ハードディスク装置の記録容量増大の要求に応えるため、磁気記録媒体の記録領域は側外周端部まで広がっている。したがって、
図5に示すような肉眼で判別できない微小なデントも不良部として判断されるようになっている。
【0051】
以下、実施例により本実施形態に係る基板ホルダ10及びインライン式成膜装置1の作用効果をより明らかなものとする。なお、本実施形態に係る基板ホルダ10及びインライン式成膜装置1は、以下の実施例に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、
図2に示すインライン式成膜装置1と、
図4に示すキャリア7と、を用いて、外径96mm、内径25mm、及び厚さ0.8mmのアルミニウム合金製の円盤状基板9から磁気記録媒体を製造した。具体的には、DCスパッタリング法を用いて、円盤状基板9の両面に、軟磁性層81としてFeCoB合金、中間層82としてRu、記録磁性層83として70Co-5Cr-15Pt-10SiO
2合金を積層した。また、イオンビーム法を用いて、保護層84として硬質炭素膜を記録磁性層83上に積層した。
【0053】
基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13は、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βがそれぞれ20°の位置で円盤状基板9の第1側外周端部14及び第2側外周端部15を支持した。また、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13は、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δがそれぞれ13°の位置で円盤状基板9の第3側外周端部16及び第4側外周端部17を支持した。
【0054】
チャンバ5とチャンバ5との間のキャリア7の搬送速度は、1.2m/秒、加減速時の加速度は6m/秒2とした。
【0055】
以上の条件下で磁気記録媒体を1000枚製造したが、円盤状基板9の落下は発生しなかった。
【0056】
製造した磁気記録媒体の外周端部における変形(デント)の有無は微分干渉顕微鏡画像により判別し、磁気記録媒体の外周端からの幅が100μm以上、高さが0.5μm以上の変形が見られた場合にデント有と判断した。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
(実施例2~9及び比較例1~8)
実施例2~9及び比較例1~8では、実施例1と同様に磁気記録媒体を製造し、円盤状基板9の落下の有無、デントの有無を確認した。但し、支持部材13による円盤状基板9の支持位置を示す、第1中心角α、第2中心角β、第3中心角γ、及び第4中心角δを表1のように変更した。また、キャリア7の搬送速度、キャリア7の加減速時の加速度、円盤状基板9の板厚、及び記録磁性層83の成膜時の基板温度を表1のように変更した。結果を表1に示す。チャンバ5とチャンバ5との間のキャリアの搬送速度を、0.6m/秒、加減速時の加速度を3m/秒2とした場合は、成膜装置の生産能力が10%低下するので、生産性が低いと判断した。
【0059】
実施例2に示すように、実施例1において、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ40°に変更した場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0060】
実施例3に示すように、実施例1において、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ15°に変更した場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0061】
実施例4に示すように、実施例1において、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δをそれぞれ10°に変更した場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0062】
実施例5に示すように、実施例1において、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δをそれぞれ15°に変更した場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0063】
比較例1に示すように、実施例1に対し、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ50°に変更した場合は、1.4%の基板でデントが発生した。
【0064】
比較例2に示すように、実施例1に対し、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ10°に変更した場合は、基板の落下が発生した。
【0065】
比較例3に示すように、比較例1において、キャリア7の搬送速度を0.6m/秒に下げた場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかったが、成膜装置の生産能力が10%低下するので、成膜装置の生産性が低くなった。
【0066】
比較例4に示すように、比較例3において、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ10°に変更した場合も、比較例3と同様の結果になった。
【0067】
比較例5に示すように、実施例2に対し、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δをそれぞれ8°に変更した場合は、基板の落下が発生した。
【0068】
比較例6に示すように、実施例2に対し、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δをそれぞれ18°に変更した場合は、0.9%の基板でデントが発生した。
【0069】
実施例6に示すように、実施例1において、キャリア7の搬送速度を1.8m/秒に上げ、円盤状基板9の厚さを0.6mmへ薄くした場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0070】
実施例7に示すように、実施例6において、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ40°に変更した場合は、0.3%の基板でデントが発生したが、許容レベルであった。また、基板の落下は発生しなかった。
【0071】
比較例7に示すように、実施例6に対し、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ50°に変更した場合は、デントの発生率が5.5%まで急激に増加した。
【0072】
実施例8に示すように、実施例6において、円盤状基板9の厚さを0.5mmへさらに薄くした場合は、デントが発生せず、基板の落下も発生しなかった。
【0073】
実施例9に示すように、実施例7において、円盤状基板9の厚さを0.5mmへさらに薄くした場合は、0.5%の基板でデントが発生したが、許容レベルであった。基板の落下は発生しなかった。
【0074】
比較例8に示すように、実施例7に対し、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ50°に変更した場合は、デントの発生率が6.5%まで急激に増加した。
【0075】
以上の実験データから、基板ホルダ10の上側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第1中心角α及び第2中心角βをそれぞれ15°~40°の範囲内、より好ましくは16°~25°の範囲内とすることが好ましいことが分かった。
【0076】
また、基板ホルダ10の下側の2個の支持部材13の支持位置である、円盤状基板9の第3中心角γ及び第4中心角δをそれぞれ10°~15°の範囲内とすることが好ましいことが分かった。
【0077】
(作用効果)
本実施形態に係る基板ホルダ及び基板保持方法によれば、キャリア7の搬送速度を高めても、基板ホルダ10からの円盤状基板9の落下を防止することができる。また、円盤状基板9の板厚が薄くなっても、支持部材13による円盤状基板9の支持部における円盤状基板9の変形を防止することができる。ひいては、生産性の高いインライン式成膜装置1を提供することが可能となる。また、円盤状基板9の変形が防止されるので、円盤状基板9の薄板化に対応可能なインライン式成膜装置1を提供することが可能となる。
【0078】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、本開示の基板ホルダを備える成膜装置は、インライン式成膜装置1に限定されず、バッチ式成膜装置等にも適用可能である。また、支持部材13の個数は、4個以上であれば、限定されるものではない。
【0079】
また、上述した実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0080】
1…インライン式成膜装置
2…基板取付け取外しロボット
3…基板カセット移載ロボット
4…コーナー室
5…チャンバ
6…ゲートバルブ
7…キャリア
8…ロボット台
9…円盤状基板
10…基板ホルダ
11…搬送機構
12…孔部
13…支持部材
14…第1側外周端部
15…第2側外周端部
16…第3側外周端部
17…第4側外周端部
18…最上端部
19…最下端部
81…軟磁性層
82…中間層
83…記録磁性層
84…保護層
85…潤滑膜
α…第1中心角
β…第2中心角
δ…第3中心角
γ…第4中心角
Z…鉛直方向