(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069018
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】送信装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/005 20060101AFI20240514BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20240514BHJP
H04B 3/04 20060101ALI20240514BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H04B7/005
H04L27/00 C
H04B3/04 C
H04B1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179772
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小島 政明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雅
【テーマコード(参考)】
5K046
5K060
【Fターム(参考)】
5K046AA05
5K046EE37
5K046EE47
5K046EE50
5K060BB08
5K060CC04
5K060DD04
5K060DD05
5K060FF06
5K060HH06
5K060KK06
5K060LL24
(57)【要約】
【課題】伝送路で生じる受信信号の振幅歪を軽減し、受信性能を改善することができる送信装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】デジタル信号を所定の変調方式で変調した変調波信号を、所定の伝送路を介して送信する送信装置であって、IQ信号出力部と、前記伝送路上の伝送器の特性に近似した特性を有する擬似伝送器を含む疑似伝送路と、前記擬似伝送路を通過させた前記IQ信号と無歪の前記IQ信号との誤差信号を求め、係数乗算された前記誤差信号に基づいて、歪補償されたIQ信号を生成する信号補償演算手段と、前記IQ信号出力部におけるIQ信号点配置、前記擬似伝送器の特性と動作点、及び、前記信号補償演算手段における係数の情報を取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて前記擬似伝送器の特性を補正する特性解析部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号を所定の変調方式で変調した変調波信号を、所定の伝送路を介して送信する送信装置であって、
前記デジタル信号を前記所定の変調方式で変調したIQ信号を生成するIQ信号出力部と、
前記伝送路上の伝送器の特性に近似した特性を有する擬似伝送器を含む疑似伝送路と、前記擬似伝送路を通過させたIQ信号と前記IQ信号出力部から入力された対応する無歪の前記IQ信号との誤差信号を求め、係数乗算された前記誤差信号と無歪の前記IQ信号に基づいて、歪補償されたIQ信号を生成する信号補償演算手段と、を備える歪補償部と、
前記IQ信号出力部におけるIQ信号点配置、前記擬似伝送器の特性と動作点、及び、前記信号補償演算手段における係数の情報を少なくとも取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて前記擬似伝送器の特性を補正する特性解析部と、
を備えることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信装置において、
前記特性解析部は、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて前記擬似伝送器の特性を補正する処理を複数回行うことを特徴とする送信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の送信装置において、
前記疑似伝送路は、前記疑似伝送器の前段に、IQ信号点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行うアップサンプリング(U/S)部と、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う波形整形部を備え、前記疑似伝送器の後段に、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う前記波形整形部と、IQ信号点を1/Nに間引くダウンサンプリング(D/S)部を備えており、
送信装置はさらに、前記歪補償部から出力されたIQ信号点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行う前記アップサンプリング(U/S)部と、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う前記波形整形部と、波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力するD/A変換・直交変調部とを備えることを特徴とする送信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の送信装置において、
前記信号補償演算手段は、前記擬似伝送路を通過させた前記IQ信号のベクトルと、対応する理想IQ信号のベクトルとの差分である誤差ベクトルを求め、係数乗算された前記誤差ベクトルの逆ベクトルに前記理想IQ信号のベクトルを加算し、歪補償されたIQ信号を生成するベクトル演算手段であることを特徴とする送信装置。
【請求項5】
請求項3に記載の送信装置において、
前記信号補償演算手段は、前記擬似伝送路を通過させた前記IQ信号を振幅及び位相に変換した振幅値及び位相値と、対応する理想IQ信号点を振幅及び位相に変換した理想振幅値及び理想位相値との差分である振幅誤差値及び位相誤差値を求め、係数乗算された前記振幅誤差値及び前記位相誤差値のそれぞれの符号反転値に前記理想IQ信号点の理想振幅値及び理想位相値を加算し、加算処理された振幅値及び位相値をIQ信号点に変換して、歪補償されたIQ信号を生成する振幅位相演算手段であることを特徴とする送信装置。
【請求項6】
請求項1に記載の送信装置において、
前記所定の変調方式は、BPSK、QPSK、8PSK、16APSK又は32APSKを含む、あるいは高階層と低階層の異なる2つの変調方式を含むことを特徴とする送信装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の送信装置のIQ信号出力部、疑似伝送路、信号補償演算手段、及び特性解析部として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送信装置及びプログラムに関し、特に、伝送路による信号点の歪補償をおこなうデジタル信号の送信装置及び歪補償のためのプログラムに関する。なお、本発明は、衛星放送を例として説明するが、一般の伝送路による信号点の歪補償に適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
現在運用されている各種規格のデジタル放送のうち、衛星放送を例にとれば、放送衛星に備えた伝送器(衛星中継器)を使って、複数の放送事業者が独立したTS(Transport Stream)を伝送することができるように、放送波信号は多重伝送される。衛星デジタル放送で採用済みの規格には、ISDB(Integrated Services Digital Broadcasting)-S、ISDB-S3、DVB(Digital Video Broadcasting)-S2、DVB-S2Xなどがある。
【0003】
図8は、衛星中継器を介する衛星放送システムの構成例を示すブロック図である。
図8に示す衛星放送システムは、送信装置1と、放送衛星(実衛星)に備えた衛星中継器2と、複数の受信装置6(受信装置6-1~6-N(Nは1以上の自然数))とを備える。なお、送信装置1は、上述した衛星デジタル放送の各種規格に適合した一般的な送信装置として説明する。
【0004】
送信装置1は、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)信号と呼ばれる制御情報で指定された所定の変調方式に基づいて変調波信号を生成し、映像・音声・データ放送などを多重した主信号を衛星中継器2に送信する。所定の変調方式とは、例えば、衛星放送デジタル規格であるISDB-S3方式の場合、π/2シフトBPSK(Binary Phase Shift Keying)を含むBPSK、π/4シフトQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を含むQPSK、8PSK、16APSK(Amplitude Phase Shift Keying)および32APSKなどがある。送信装置1により生成された変調波信号は、所定の周波数帯域に変換された後、放送衛星(衛星中継器2)に向けてアップリンクされる。
【0005】
放送衛星の衛星中継器2は、送信装置1から送信された変調波信号を伝送する伝送器である。衛星中継器2は、増幅器4に前置される入力フィルタである入力マルチプレクサフィルタ(以下、「IMUXフィルタ」と称する。)3と、進行波管増幅器(以下、「TWTA」と称する。)4と、増幅器4に後置される出力フィルタである出力マルチプレクサフィルタ(以下、「OMUXフィルタ」と称する。)5等を具備している。
【0006】
IMUXフィルタ3は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタである。IMUXフィルタ3は、送信装置1から受信した変調波信号(放送波信号)から、不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみをそれぞれ抽出する。TWTA4は、IMUXフィルタ3により抽出された各チャンネルの放送波信号の電力を増幅する。OMUXフィルタ5は、各チャンネル周波数に対応した帯域通過フィルタであり、TWTA4により増幅された信号から帯域外不要周波数成分を抑圧し、1チャンネル分の帯域成分のみを抽出する。その後、OMUXフィルタ5の後続の合成器(図示せず)により全チャンネル分の放送波信号が合成され、アンテナ(図示せず)から各受信装置6-1~6-Nに向けて放送波信号が送信される。
【0007】
受信装置6(6-1~6-N)は、衛星中継器2を介した放送波信号(ダウンリンク信号)を受信し、所望のチャンネルの放送波信号を選択して復調する。受信装置6は、多重された放送波信号とともに伝送されるTMCC信号等の制御情報を絶えず監視することにより、送信装置1において様々な伝送制御が行われたとしても、それに追従して受信方式などを切り替えることができる。
【0008】
衛星中継器2の特性と運用について説明する。
図9は、衛星中継器2におけるTWTA4の入出力特性(入出力電力[AM/AM]特性、位相偏移[AM/PM]特性)の例である。また、
図10は、IMUXフィルタ3及びOMUXフィルタ5の応答特性(周波数対振幅、周波数対群遅延特性)の例である。
【0009】
衛星放送システムにおいて、衛星中継器2は、アナログシステム上必要不可欠であるが、TWTA4の入出力電力特性や位相偏移特性の影響により、所望のIQ信号点からずれが発生することがある。また、IMUXフィルタ3やOMUXフィルタ5においては、周波数振幅や群遅延特性の影響によりシンボル間干渉が起き、所望のシンボルタイミングにおけるIQ信号点から広がりが発生することがある。そして、伝送路内はこれらIQ信号点のずれや広がりが相互に影響し合い、結果として所要C/Nが増大し、伝送品質が劣化する(非特許文献1参照)。このため、送信装置1から出力される変調波信号が多値振幅位相変調のとき、衛星中継器2のTWTA4といった電力増幅器は、一般にバックオフをとる。
【0010】
ここで、TWTA4におけるバックオフと信号点配置の関係について説明する。TWTA4は、入力レベルと出力レベルとの間の関係が比例関係となるように電力増幅処理することが望ましい。しかし、TWTA4の入出力特性は、実際には入力レベルが大きくなると利得が低下する非線形性を示し、同時に入力信号に対する出力信号の位相も回転する(
図9)。したがって、入力レベルを徐々に上げると、あるレベルまでは出力レベルも上がるが、ある入力レベルを超えると、出力レベルは逆に低下する現象となる。このような出力レベルの低下が起こる直前の動作点を、一般に、出力飽和点と云う。また、この出力飽和点から入力レベルをX[dB]下げて運用する場合を「入力バックオフ(IBO)X[dB]」と言い、同様に、入力レベルを絞って、出力レベルをY[dB]下げた状態で運用する場合を「出力バックオフ(OBO)Y[dB]」と言う。
【0011】
しかし、バックオフをとる一方、出力電力が低下し、結果として受信装置における受信C/Nマージンが小さくなる(非特許文献1参照)。衛星放送システムの受信側は、一般に受信アンテナの開口径が45cmと小さく、晴天時においても受信C/Nマージンが約20dBと小さい。そのため、これら所要C/Nと出力バックオフはトレードオフの関係にあり、所要C/Nと出力バックオフの加算値ができる限り小さくなる運用が回線設計上、有利となる。
【0012】
次に、従来の送信装置1の構成について説明する。
図11は、伝送路に対する歪補償の機能がなく、ISDB-S3方式に準拠し、一般化した送信装置1-1の構成例を示すブロック図である。送信装置1-1は、IQ信号出力部10と、アップサンプリング(U/S)部21と、ルートロールオフフィルタ(以下、RRFと記載)部22と、デジタル/アナログ(D/A)変換・直交変調部23とを備えている。IQ信号出力部10は、シリアル/パラレル(S/P)変換部101と、マッピング部102を備える。以下、各構成要素について説明する。
【0013】
S/P変換部101は、伝送すべきデジタル信号(情報ビットのシリアル系列)が入力される。このデジタル信号は、一般に、元信号に誤り訂正符号等が付加されたデジタル信号である。S/P変換部101は、このデジタル信号を、マッピングのビット数(例えば、32APSKであれば5ビット)に応じたパラレル系列に変換して、マッピング部102に出力する。
【0014】
マッピング部102は、S/P変換部101から出力された情報ビット系列を、所定の変調方式(π/2シフトBPSK、QPSK、8PSK、16APSK、32APSK等)でIQ平面上にマッピングし、生成したIQ信号をU/S部21に出力する。したがって、IQ信号出力部10は、伝送すべきデジタル信号をIQ信号に変換して出力する。
【0015】
アップサンプリング(U/S)部21は、IQ信号のサンプル点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行う(サンプル点とサンプル点との間を非サンプル点で補完する)。Nは任意に設定できるが、以下の実施形態では、U/S部21は、2倍のアップサンプリングを行うものとする。
【0016】
RRF部22は、2倍のアップサンプリングが行われた非サンプル点を含むIQ信号に対し、帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う波形整形部である。帯域制限フィルタ処理としては、一般的にルートロールオフ特性をもつデジタルフィルタが用いられる。ルートロールオフ特性は、ロールオフ特性の理論式(ナイキスト定理)に基づき、送信側及び受信側でルート根のフィルタ特性としたものである。ISDB-S3ではロールオフ率0.03が採用されており、本発明の実施形態においても同値を採用する。
【0017】
D/A変換・直交変調部23は、RRF部22による波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力する。
【0018】
こうして、送信装置1-1は、デジタル信号を所定の変調方式でIQ信号とし、さらに2倍にアップサンプルし、RRFで波形整形した後、変調波信号として出力する。なお、U/S部21とRRF部22は、送受信信号の品質を向上させるために一般的に用いられる回路部である。
【0019】
図12は、
図11のIQ信号出力部10による、マッピング出力信号の信号点配置の例である。
図12は、変調方式が32APSKで、内符号符号化率が3/4のときの例であり、このときの信号点の半径比はそれぞれr
2/r
1=2.97、r
3/r
1=5.57とISDB-S3方式では規定されている。これをデシベル(dB)値で示した場合、平均電力r
aveを0dBと規格化したとき、r
1=-12.78dB、r
2=-3.32dB、r
3=2.14dBとなる。
【0020】
地上放送におけるデジタル信号の変調方式は、QPSK、16QAM、64QAMなどがあり、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)よりフレーム化されたマルチキャリア伝送となる。地上放送の主な特徴として、伝搬路によるマルチパスフェージングの影響があるが、増幅器は衛星放送と比較して線形領域で動作させることができるため、変調信号の線形伝送が可能である。
【0021】
近年、次世代に向けた地上放送では、複数のデータキャリアを1つの同一チャンネルで多重する階層化伝送(以下、LDM(Layered Division Multiplexing)と称する)方式がある。LDMの一例として、現行ISDB-Tのデータキャリア(以下、2K階層と称する)と次世代放送のデータキャリア(以下、4K階層と称する)とを、1つのチャンネルで多重することが試みられている(非特許文献2参照)。送信側は、2K階層に対して、4K階層を小さい電力で多重化し、高階層(2K)と低階層(4K)の2つの信号を電力差で伝送する。受信側は、まず高階層から復調、復号することにより2Kのデータ信号を得るとともに、復号された信号を再符号、再変調した信号(高階層(2K)信号)を元の受信信号(高階層(2K)と低階層(4K)の両方を含む信号)から差し引くことによって低階層(4K)の信号を得ることができる。ここで、高階層と低階層の階層間の電力比は、低階層の平均電力に対する高階層の平均電力の比を表すIL(Injection Level)によって定義される。
【0022】
衛星放送においても、このLDM方式の技術を取り入れることが可能である。
図13は、伝送路に対する歪補償の機能がなく、ISDB-S3方式に準拠し、一般化したLDM送信装置1-2の構成例を示すブロック図である。送信装置1-2は、IQ信号出力部11と、U/S部21と、RRF部22と、D/A変換・直交変調部23とを備えている。IQ信号出力部11は、シリアル/パラレル(S/P)変換部111と、高階層マッピング部112と、S/P変換部113と、低階層マッピング部114と、振幅調整部115と、合成部116とからなる。以下、各構成要素について説明するが、同一の構成要素の説明は、省略又は簡略化する。
【0023】
S/P変換部111は、高階層のデジタル信号(例えば、2Kの情報ビットのシリアル系列)が入力される。このデジタル信号は、一般に、元信号に誤り訂正符号等が付加されたデジタル信号である。S/P変換部111は、このデジタル信号を、マッピングのビット数(例えば、QPSKであれば2ビット)に応じたパラレル系列に変換して、高階層マッピング部112に出力する。
【0024】
高階層マッピング部112は、S/P変換部111から出力された情報ビット系列を、所定の変調方式(例えば、QPSK)でIQ平面上にマッピングし、生成したIQ信号を合成部116に出力する。
【0025】
S/P変換部113は、低階層のデジタル信号(例えば、4Kの情報ビットのシリアル系列)が入力される。このデジタル信号は、一般に、元信号に誤り訂正符号等が付加されたデジタル信号である。S/P変換部113は、このデジタル信号を、マッピングのビット数(例えば、8PSKであれば3ビット)に応じたパラレル系列に変換して、低階層マッピング部114に出力する。
【0026】
低階層マッピング部114は、S/P変換部113から出力された情報ビット系列を、所定の変調方式(例えば、8PSK)でIQ平面上にマッピングし、生成したIQ信号を振幅調整部115に出力する。高階層の変調方式と低階層の変調方式は、異なるものであってよい。なお、高階層マッピング部112と低階層マッピング部114は、IQ信号(シンボル)のタイミングが合成部116で一致するように、処理の同期をとる。
【0027】
振幅調整部115は、高階層と低階層の電力に所望のレベル差(IL)を設定するように、低階層のIQ信号の信号振幅を調整し、振幅調整したIQ信号を合成部116に出力する。
【0028】
合成部116は、高階層のIQ信号と低階層のIQ信号を合成し、電力を規格化した上で、合成信号を出力する。
【0029】
したがって、IQ信号出力部11は、高階層と低階層のデジタル信号をそれぞれIQ信号に変換し、高階層と低階層のIQ信号に所望の電力差(IL)をつけて合成し、U/S部21に出力する。
【0030】
IQ信号出力部11の出力信号(合成IQ信号)の処理は、前述の送信装置1-1と同様となる。U/S部21は、IQ信号のサンプル点に対し2倍のアップサンプリングを行い、RRF部22は、アップサンプリングされたIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタによる波形整形処理を行う。D/A変換・直交変調部23は、RRF部22による波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力する。
【0031】
このように、LDM送信装置1-2は、S/P変換部とマッピング部を高階層用と低階層用にそれぞれ用意し、両者のシンボルタイミングの同期をとりつつ、高階層と低階層に電力に所望するレベル差(IL)をつけた形で合成し、さらに2倍にアップサンプルし、RRFで波形整形した後、変調波信号として出力する。
【0032】
図14は、
図13のIQ信号出力部11による、高階層(QPSK)マッピングと低階層(8PSK)マッピングの出力信号にIL=r
UL/r
LL=1.5dBの電力差をつけて合成された信号点配置の例である。
図14の例の場合、5つの振幅が発生する。平均電力r
aveを0dBと規格化したとき、r
1=-18.29dB、r
2=-5.16dB、r
3=0.024dB、r
4=2.31dB、r
5=3.00dBとなる。
【0033】
前述したように、衛星放送システムでは、所要C/Nと出力バックオフはトレードオフの関係にある。
図13、
図14のLDM伝送の場合、
図14の信号点配置に対する受信信号の変調誤差比(MER)と所要C/Nが等価な関係となる。例えば、MERが改善すると、高階層の所要C/Nも改善される。また高階層が誤りなく受信された場合は、MERの改善は低階層の所要C/Nに直結する(非特許文献3参照)。すなわち、LDM伝送の場合、MERと出力バックオフがトレードオフの関係にある。
【0034】
次に信号点配置の観点から、
図12と
図14を比較する。
図12(単一伝送)、
図14(LDM伝送)はどちらも32点の配置であるが、非線形特性である
図9のTWTA4の入出力特性(AM/AM、AM/PM特性)が与える影響は異なる。例えば、
図12及び
図14の点線にあたる平均電力r
aveはTWTA4の動作点電力に相当する。
図12の最外円であるr
3の信号点はTWTA4の動作点より2.14dB高い電力でTWTA4に入力される。また
図14の最大振幅であるr
5の信号点はTWTA4の動作点より3.00dB高い電力でTWTA4に入力されることから、とりわけ動作点が飽和電力付近にある場合、
図12と比較して非線形歪の影響を受けやすくなる。
【0035】
このような背景から、衛星放送システムでは、伝送路(衛星中継器)で生じる歪を補償するための送信装置が研究されてきた(特許文献1)。
【0036】
従来の歪補償送信装置について説明する。
図15は、従来の歪補償送信装置の構成例を示すブロック図であり、衛星中継器で発生する歪を補償するための機能を送信装置内部に搭載している。
図15の送信装置1-3は、LDM送信装置1-2に従来の歪補償機能を適用したものであり、
図13におけるIQ信号出力部11とアップサンプリング部21の間に歪補償部30を搭載することにより、実現される。歪補償部30は、疑似伝送路310と信号補償演算手段320とからなる。疑似伝送路310は、アップサンプリング(U/S)部301、RRF(波形整形)部302、擬似伝送器303、RRF(波形整形)部307、ダウンサンプリング(D/S)部308で構成される。信号補償演算手段320は、本装置ではベクトル演算手段であり、遅延部321、ベクトル加算部322、逆特性係数部323、ベクトル加算部324で構成される。以下、各構成要素の説明を行う。なお、
図13に含まれる構成は、説明を省略又は簡略化する。
【0037】
IQ信号出力部11は、高階層と低階層のIQ信号に所望の電力差(IL)をつけて合成したIQ信号を出力する。IQ信号出力部11から出力されたIQ信号は、歪補償部30に入力され、アップサンプリング部301と遅延部321に入力される。
【0038】
アップサンプリング部301は、アップサンプリング部21と同じ特性を有しており、入力されたIQ信号のサンプル点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行う。本装置では、アップサンプリング部301は、2倍のアップサンプリングを行うものとする。
【0039】
RRF部302は、RRF部22と同じ特性を有しており、アップサンプリングが行われた非サンプル点を含むIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う波形整形部である。波形整形された信号は、疑似伝送器303に出力される。
【0040】
擬似伝送器303は、疑似IMUXフィルタ304、疑似TWTA305、疑似OMUXフィルタ306を備えており、
図8に示す実衛星の衛星中継器2の位相及び振幅の周波数特性及び非線形特性に近似した特性を有する。すなわち、疑似IMUXフィルタ304及び疑似OMUXフィルタ306は、
図10に示すIMUXフィルタ3及びOMUXフィルタ5の特性が反映される。また、疑似TWTA305の特性は、
図16に示す入出力特性(
図9のTWTA4の実データ特性)が反映され、例えば、動作点の入力電力を-3.3dB(入力バックオフ:IBO=3.3dB)に設定する。なお、IBO=3.3dBは、出力バックオフ(OBO)が実際の運用に近いOBO=2.2dBとなるように設定した動作点である。また、
図8の実衛星の特性も同様の動作点設定や特性設定とする。これにより、擬似伝送器303は、送信するデジタル信号の信号点のマッピング後の理想IQ信号点に対して、衛星中継器2によって生じ得る信号点のずれを模擬した信号点をもつIQ信号を出力する。
【0041】
RRF部307は、RRF部302と同じ特性を有しており、疑似伝送器303を経たIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う波形整形部である。RRF部302とRRF部307の特性が乗算されることにより、シンボル間干渉のない信号となる。
【0042】
ダウンサンプリング(D/S)部308は、非サンプル点を含むIQ信号点(シンボル点)を所定の比率(1/N)で間引き、元のサンプル点に戻す。本装置では1/2に間引く。疑似伝送器303の前段のU/S部301とRRF部302が送信装置に対応し、疑似伝送器303の後段のRRF部307とD/S部308が受信装置に対応し、アップサンプリング部301~ダウンサンプリング部308までがIQ信号に対する想定伝送路となる。
【0043】
信号補償演算手段320は、IQ信号出力部11から入力された無歪のIQ信号(理想IQ信号)と、疑似伝送路310を通過した(伝送路歪の含まれた)IQ信号の2つの信号から、演算により歪補償ありのIQ信号を生成する手段である。本装置の信号補償演算手段320は、ベクトル処理で歪補償ありのIQ信号を生成するベクトル演算手段である。以下に、ベクトル演算手段の各部の機能を説明する。
【0044】
遅延部321は、ベクトル加算部322に入力される2系統の信号間の同期をとるために、タイミングを調整する。すなわち、遅延部321は、擬似伝送器303や波形整形部307等によって生じる遅延量Dと同一の遅延量Dを、IQ信号出力部11から入力された理想IQ信号に与え、2系統の信号を同期させるように機能する。
【0045】
ベクトル加算部322は、同期のとれた2系統のIQ信号のベクトル演算(減算処理)を行う。すなわち、疑似伝送路310を通過した(伝送路歪の含まれた)IQ信号のベクトルから、無歪のIQ信号(理想IQ信号)のベクトルを減算することで、疑似伝送路310を通過したことにより生じた誤差ベクトルを算出する。
【0046】
逆特性係数部323は、疑似伝送路310の通過による誤差ベクトルに係数K(重み)を乗算する。例えば、非特許文献1では、この係数Kを1としている。
【0047】
ベクトル加算部324は、IQ信号出力部11からの理想IQ信号に対して、係数重みをかけた誤差ベクトルを減算する(逆ベクトルを加算する)ベクトル演算を行うことで、歪補償ありのIQ信号を生成する。
【0048】
歪補償部30から出力された歪補償ありのIQ信号(歪補償ありのデータIQ信号点ベクトル)は、LDM送信装置1-2と同様に処理され、変調波信号として出力される。すなわち、U/S部21は、IQ信号のサンプル点に対し2倍のアップサンプリングを行い、RRF部22は、アップサンプリングされたIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタによる波形整形処理を行う。D/A変換・直交変調部23は、RRF部22による波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力する。
【0049】
従来の歪補償の有無による、衛星放送受信信号の比較を示す。
図17は、歪補償なしのLDM送信装置1-2(
図13)で衛星伝送したときの受信コンスタレーションである。また、
図18は、従来の歪補償ありのLDM送信装置1-3(
図15)で衛星伝送したときの受信コンスタレーションである。
【0050】
図17、
図18に示される受信信号に基づく、信号特性の計算結果(特性解析結果)を表1に示す。信号特性は、受信信号の振幅(重心振幅)及びMERを求めて比較した。計算にあたり、受信信号の振幅は、送信側で同一信号点とされる点の集合群から重心をとり、また送信側で同一振幅となる点の振幅平均をとった。例えば、
図14のr
5に配置される信号点4点に対応する信号の重心をそれぞれ求め、それら重心4点の振幅平均をとることで、受信側でのr
5値(重心振幅)とした。
【0051】
【0052】
従来の歪補償の効果としては、まずMERは、(a)歪補償なしの場合17.3dBであるのに対し、(b)従来歪補償ありの場合21.7dBであり、受信性能が改善していることがわかる。非線形の影響を受けやすいr5の振幅は、2.22dBから2.70dBとなっており、元信号の振幅である3.00dBに近づいている。しかしながら、補償後のr5の振幅には、0.3dB分の振幅歪による残留があり、他の振幅r1からr4と比較しても歪の残留量が多いことがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【非特許文献】
【0054】
【非特許文献1】M. KOJIMA, et al.,“Comparative Study of Digital Pre-Distortion for 32APSK by Hardware Experiments and Numerical Calculations”, 電子情報通信学会技術報告SAT2019-53, pp.31-35, (2019-10)
【非特許文献2】佐藤明彦、他、「ISDB-Tに次世代放送をLDMで多重する方式の統合復調時における伝送特性評価」、映像情報メディア学会冬季大会14C-5、(2019年)
【非特許文献3】岡田実、「衛星通信におけるキャリア重畳方式-LDMの実現に向けて-」、映像情報メディア学会技術報告BCT2017-47、pp33-36、(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0055】
従来の歪補償(特許文献1)は、伝送路通過時の所要C/N改善がみられる一方、LDM伝送のように信号点が高い電力となる場合、特に最大振幅の信号点は、伝送路の非線形歪の影響を大きく受けるため、歪補償後の受信信号点に振幅歪が残留する。
【0056】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、従来の歪補償手段よりも、伝送路で生じる受信信号の振幅歪を軽減し、受信性能を改善することができる送信装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0057】
上記課題を解決するために本発明に係る送信装置は、
(1)デジタル信号を所定の変調方式で変調した変調波信号を、所定の伝送路を介して送信する送信装置であって、前記デジタル信号を前記所定の変調方式で変調したIQ信号を生成するIQ信号出力部と、前記伝送路上の伝送器の特性に近似した特性を有する擬似伝送器を含む疑似伝送路と、前記擬似伝送路を通過させたIQ信号と前記IQ信号出力部から入力された対応する無歪の前記IQ信号との誤差信号を求め、係数乗算された前記誤差信号と無歪の前記IQ信号に基づいて、歪補償されたIQ信号を生成する信号補償演算手段と、を備える歪補償部と、前記IQ信号出力部におけるIQ信号点配置、前記擬似伝送器の特性と動作点、及び、前記信号補償演算手段における係数の情報を少なくとも取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて前記擬似伝送器の特性を補正する特性解析部と、を備えることを特徴とする、送信装置である。
【0058】
(2)上記(1)の送信装置は、更に、前記特性解析部が、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて前記擬似伝送器の特性を補正する処理を複数回行うことが好ましい。
【0059】
(3)上記(1)または(2)の送信装置は、更に、前記疑似伝送路は、前記疑似伝送器の前段に、IQ信号点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行うアップサンプリング(U/S)部と、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う波形整形部を備え、前記疑似伝送器の後段に、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う前記波形整形部と、IQ信号点を1/Nに間引くダウンサンプリング(D/S)部を備えており、送信装置はさらに、前記歪補償部から出力されたIQ信号点に対しN倍(Nは2以上の整数)のアップサンプリングを行う前記アップサンプリング(U/S)部と、ルートロールオフフィルタで波形整形を行う前記波形整形部と、波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力するD/A変換・直交変調部とを備えることが好ましい。
【0060】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの送信装置は、更に、前記信号補償演算手段が、前記擬似伝送路を通過させた前記IQ信号のベクトルと、対応する理想IQ信号のベクトルとの差分である誤差ベクトルを求め、係数乗算された前記誤差ベクトルの逆ベクトルに前記理想IQ信号のベクトルを加算し、歪補償されたIQ信号を生成するベクトル演算手段であることが好ましい。
【0061】
(5)上記(1)~(3)のいずれかの送信装置は、更に、前記信号補償演算手段が、前記擬似伝送路を通過させた前記IQ信号を振幅及び位相に変換した振幅値及び位相値と、対応する理想IQ信号点を振幅及び位相に変換した理想振幅値及び理想位相値との差分である振幅誤差値及び位相誤差値を求め、係数乗算された前記振幅誤差値及び前記位相誤差値のそれぞれの符号反転値に前記理想IQ信号点の理想振幅値及び理想位相値を加算し、加算処理された振幅値及び位相値をIQ信号点に変換して、歪補償されたIQ信号を生成する振幅位相演算手段であることが好ましい。
【0062】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの送信装置は、更に、前記所定の変調方式が、BPSK、QPSK、8PSK、16APSK又は32APSKを含む、あるいは高階層と低階層の異なる2つの変調方式を含むことが好ましい。
【0063】
上記課題を解決するために本発明に係るプログラムは、
(7)コンピュータを、上記(1)~(6)のいずれかの送信装置のIQ信号出力部、疑似伝送路、信号補償演算手段、及び特性解析部として機能させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0064】
本発明における送信装置及びプログラムによれば、従来の歪補償手段よりも、受信信号の振幅歪を軽減し、受信性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】本発明の第1実施形態の送信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】1回目の特性解析結果から得られた疑似伝送器の入出力特性の補正例である。
【
図3】1回目の特性解析の結果を反映した歪補償部により歪補償を行い、衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。
【
図4】2回目の特性解析結果から得られた疑似伝送器の入出力特性の補正例である。
【
図5】2回目の特性解析の結果を反映した歪補償部により歪補償を行い、衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。
【
図6】本発明の第2実施形態の送信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】衛星中継器を介する衛星放送システムの構成例を示すブロック図である。
【
図9】衛星中継器におけるTWTAの入出力特性の例である。
【
図10】衛星中継器におけるIMUXフィルタ及びOMUXフィルタの応答特性の例である。
【
図11】歪補償なしの一般化した送信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図11のIQ信号出力部によるマッピング出力信号(信号点配置)の例である。
【
図13】歪補償なしの一般化したLDM送信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図14】
図13のIQ信号出力部による高階層と低階層の合成後の出力信号(信号点配置)の例である。
【
図15】従来の歪補償送信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図16】従来の擬似伝送器におけるTWTAの入出力特性の例である。
【
図17】歪補償なしのLDM送信装置で衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。
【
図18】従来の歪補償のLDM送信装置で衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0067】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の送信装置の構成例を示すブロック図である。
図1の送信装置100は、
図15に示した従来の歪補償機能を有するLDM送信装置1-3と比較して、特性解析部40が追加された構成を有する。
【0068】
第1実施形態の送信装置100は、
図8に示す衛星中継器2を介する衛星放送システムに適応可能な送信装置であり、既存のシステムに対して放送波信号を送信することができる。従って、本実施形態の送信装置は、デジタル放送で採用されている規格、例えばISDB-S、ISDB-S3、DVB-S2、DVB-S2Xなどに準拠したものとすることができる。
【0069】
第1実施形態の送信装置100は、IQ信号出力部11と、歪補償部30と、特性解析部40と、アップサンプリング(U/S)部21と、ルートロールオフフィルタ(RRF)部22と、デジタル/アナログ(D/A)変換・直交変調部23とを備えている。歪補償部30は、疑似伝送路310と、信号補償演算手段320とを備えている。以下、各構成要素について説明するが、既に、説明済みの構成要素と同一のものは説明を省略又は簡略化する。
【0070】
IQ信号出力部11は、
図13、
図15に示すLDM方式のIQ信号出力部11と同じであり、シリアル/パラレル(S/P)変換部111と、高階層マッピング部112と、S/P変換部113と、低階層マッピング部114と、振幅調整部115と、合成部116とからなる。なお、後述のとおり、IQ信号出力部はLDM方式に限られず、任意の変調方式のIQ信号出力部を用いることができる。
【0071】
本実施形態では、入力された高階層のデジタル信号(情報ビットのシリアル系列)がS/P変換部111でパラレル系列に変換され、高階層マッピング部112にて、所定の変調方式(例えば、QPSK)でIQ平面上にマッピングされる。一方、低階層のデジタル信号(情報ビットのシリアル系列)はS/P変換部113でパラレル系列に変換され、低階層マッピング部114にて、所定の変調方式(例えば、8PSK)でIQ平面上にマッピングされる。なお、高階層マッピング部112と低階層マッピング部114は、処理の同期をとる。振幅調整部115は、高階層と低階層の電力に所望のレベル差(IL)を設定するように、低階層のIQ信号の信号振幅を調整し、合成部116は、高階層のIQ信号と振幅調整された低階層のIQ信号を合成し、電力を規格化した上で、合成信号を出力する。こうして生成されたIQ信号は、歪補償部30に出力される。
【0072】
歪補償部30は、疑似伝送路310と信号補償演算手段320とからなる。疑似伝送路310は、アップサンプリング(U/S)部301、波形整形(RRF)部302、擬似伝送器303、RRF部307、ダウンサンプリング(D/S)部308で構成される。信号補償演算手段320は、本実施形態ではベクトル演算手段であり、遅延部321、ベクトル加算部322、逆特性係数部323、ベクトル加算部324で構成される。
【0073】
アップサンプリング部301は、入力されたIQ信号のサンプル点に対しN倍(本実施形態では、N=2)のアップサンプリングを行う。RRF部302は、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う。なお、アップサンプリング部301とRRF部302は、送信装置におけるアップサンプリング部21及びRRF部22と等価な要素を疑似伝送路310に設けたものであり、送信装置の出力構成に対応させて適宜設けることができる。
【0074】
擬似伝送器303は、疑似IMUXフィルタ304、疑似TWTA305、疑似OMUXフィルタ306を備えており、
図8に示す実衛星の衛星中継器2の位相及び振幅の周波数特性及び非線形特性に近似した特性を有する。
【0075】
疑似IMUXフィルタ304及び疑似OMUXフィルタ306は、
図10に示すIMUXフィルタ3及びOMUXフィルタ5の特性が反映される。
【0076】
本実施形態では、疑似TWTA305の特性は、
図16に示す入出力特性(
図9のTWTA4の実データ特性)を基礎として、後述する特性解析部40の指令により入出力電力[AM/AM]特性が調整される。なお、本実施形態では、動作点の入力電力を-3.3dBに設定して、信号処理計算をする。
【0077】
歪補償部30を備える送信装置は、実際の装置で実現することもできるが、後述のとおり、コンピュータ及びプログラムによるデジタル信号処理として歪補償部の処理を実現することができる。デジタル信号処理では、
図10及び
図16の特性はテーブルファイルとして反映される。擬似伝送器303は、送信するデジタル信号の信号点のマッピング後の理想IQ信号点に対して、伝送路上の伝送器(ここでは、衛星中継器2)によって生じ得る信号点のずれを模擬した信号点をもつIQ信号を出力する。
【0078】
RRF部307は、疑似伝送器303を経たIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタ処理による波形整形を行う。また、ダウンサンプリング部308は、非サンプル点を含むIQ信号点を所定の比率(本実施形態では、1/2)で間引き、元のサンプル点に戻す。なお、RRF部307とダウンサンプリング部308は、受信装置におけるRRF部及びダウンサンプリング部と等価な要素を疑似伝送路310に設けたものであり、擬似伝送路310は、送受信装置を考慮したIQ信号に対する想定伝送路となる。
【0079】
信号補償演算手段320は、IQ信号出力部11から入力された無歪のIQ信号(理想IQ信号)と疑似伝送路310を通過した(伝送路歪の含まれた)IQ信号の2つの信号から、演算により歪補償ありのIQ信号を生成する手段である。本実施形態の信号補償演算手段320は、ベクトル演算手段である。
【0080】
遅延部321は、ベクトル加算部322に入力される2系統の信号間の同期をとるために、タイミングを調整する。すなわち、遅延部321は、擬似伝送路310を通過することによって生じる遅延量Dと同一の遅延量Dを、IQ信号出力部11から入力された無歪のIQ信号に与え、2系統の信号を同期させるように機能する。
【0081】
ベクトル加算部322は、同期のとれた2系統のIQ信号のベクトル演算(減算処理)を行うことで、疑似伝送路310を通過したことにより生じた誤差ベクトルを算出する。
逆特性係数部323は、疑似伝送路310の通過による誤差ベクトルに係数K(重み)を乗算する。例えば、本実施形態においては係数Kを1とするが、補償の程度により、係数Kは適宜調整することができる。
【0082】
ベクトル加算部324は、IQ信号出力部11からの無歪のIQ信号(理想IQ信号)に対して、係数重みをかけた誤差ベクトルを減算する(逆ベクトルを加算する)ベクトル演算を行うことで、歪補償されたIQ信号(歪補償ありのデータIQ信号点ベクトル)を生成する。なお、逆特性係数部323において、係数を負の数値として乗算し、ベクトル加算部324で加算を行っても良い。
【0083】
したがって、信号補償演算手段320は、擬似伝送路310を通過させたIQ信号とIQ信号出力部11から入力された対応する無歪のIQ信号との誤差信号を求め、係数乗算された誤差信号と無歪のIQ信号に基づいて、歪補償されたIQ信号を生成する。
【0084】
歪補償部30から出力された歪補償されたIQ信号は、変調波信号として出力される。すなわち、U/S部21は、IQ信号のサンプル点に対し2倍のアップサンプリングを行い、RRF部22は、アップサンプリングされたIQ信号に対し、ルートロールオフ特性をもつ帯域制限フィルタによる波形整形処理を行う。D/A変換・直交変調部23は、RRF部22による波形整形後の信号をD/A変換し、D/A変換後の信号を直交変調して、アナログの変調波信号として出力する。
【0085】
特性解析部40は、IQ信号出力部11におけるIQ信号点配置、擬似伝送器303の特性と動作点、及び、信号補償演算手段320における係数Kの情報を少なくとも取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて擬似伝送器303の特性を補正する。
【0086】
以下、特性解析部40の具体的な処理と、従来の歪補償送信装置(
図15)と比較した効果について、衛星伝送を想定した検証計算とともに説明する。
【0087】
特性解析部40は、まずIQ信号出力部11における出力信号の信号点配置の情報、擬似伝送器303の特性と疑似TWTA305の設定動作点、信号補償演算手段320の係数情報を取得する。これらの情報から伝送路通過後のIQ信号点を推定、解析することができる。なお、特性解析部40は、OMUXフィルタ306出力部をモニタし、OBOを取得することにより、MERとのトレードオフ量を検出し、より高性能な歪補償が可能となる。
【0088】
1回目の特性解析は、疑似伝送器303(すなわち、疑似TWTA305)の入出力電力[AM/AM]特性を、
図16に示す入出力特性(衛星中継器2のTWTA4の実データ特性)として、伝送路通過後のIQ信号点を推定、解析する。この結果は、表1で求めた(b)従来歪補償による場合の計算結果となる。なお、表2にも、従来の歪補償による特性解析結果を「(b)従来歪補償による受信信号重心振幅」として再掲する。受信信号の振幅(重心振幅)は、受信コンスタレーションに基づいて、送信側で同一信号点とされる点の集合群から重心をとり、また送信側で同一振幅となる点の振幅平均をとったものである。1回目の特性解析結果から、LDM方式の変調方式の場合、非線形の影響を受けやすいr
5の振幅は2.70dBとなっており、原信号の振幅である3.00dBに対し、0.3dB分の振幅歪による残留があることが得られる。
【0089】
上記1回目の特性解析結果から得られた擬似伝送器303の入出力特性の補正例を、
図2に示す。IBOを3.3dBに設定した場合、r
5の電力に相当する疑似TWTA305の入力電力は-0.3(=-3.3+3.00)dBに相当する。本実施形態では1dBステップ刻みのスプライン補間で特性を反映しているため、疑似伝送器303(疑似TWTA305)の入出力電力[AM/AM]特性の-0.3dBより高い入力電力に対応する出力電力を0.3dB下げる。このとき、後段の信号補償演算手段320では約0.3dB上げようとするため、受信信号のr
5における振幅歪が軽減される仕組みである。特性解析部40は、擬似伝送器303の疑似TWTA305に対し、
図2の特性となるよう入出力特性を補正する。
【0090】
図3は、本発明の1回目の特性解析の結果を反映した歪補償部30により歪補償を行い、衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。また、この受信信号に基づく(c)本発明による受信信号特性(振幅及びMER)を、(b)従来歪補償による受信信号特性と比較して、表2に示す。
【0091】
【0092】
本発明(1回目の特性解析)の歪補償の結果、(b)従来の歪補償の場合と比較して、MERは21.7dBから21.9dBとなり受信性能が改善している。このときOBOは(b)と(c)とも2.7dBであったため、トレードオフを考慮しても改善していると言える。またr5の振幅も2.70dBから2.74dBとなっており、原信号の振幅である3.00dBに近づいている。したがって、本発明により、従来の歪補償手段よりも、伝送路で生じた受信信号の振幅歪を軽減し、受信性能を改善することができる。
【0093】
しかしながら、1回目の特性解析に基づく歪補償の結果は、0.26dBの振幅歪による残留があることがわかる。1回目の特性解析に基づく歪補償による受信信号特性の上記解析は、2回目の特性解析に相当する。本発明では、この特性解析結果を利用して、さらに特性向上を図ることができる。
【0094】
上記2回目の特性解析結果から得られた擬似伝送器303の入出力特性の補正例を、
図4に示す。1回目と同様に、疑似伝送器303(疑似TWTA305)の入出力電力[AM/AM]特性のr
5の電力(-0.3dB)より高い入力電力に対応する出力電力をさらに0.26dB下げる。特性解析部40は、擬似伝送器303の疑似TWTA305に対し、
図4の特性となるよう入出力特性を補正する。
【0095】
図5は、本発明の2回目の特性解析の結果を反映した歪補償部30により歪補償を行い、衛星伝送したときの受信コンスタレーションの例である。また、この受信信号に基づく、(d)本発明(2回目の特性解析)による受信信号特性(振幅及びMER)を、(c)本発明(1回目の特性解析)による受信信号特性、及び(b)従来歪補償による受信信号特性と比較して、表3に示す。
【0096】
【0097】
表3によれば、本発明の2回目の特性解析に基づく歪補償の結果は、1回目の特性解析に基づく歪補償(c)と比較して、MERが21.9dBから22.0dBとなり受信性能が改善している。このときも同様にOBOは(c)と(d)ともに2.7dBであったため、トレードオフを考慮しても改善していると言える。またr5の振幅も2.70dBから2.77dBとなっており、原信号の振幅である3.00dBに更に近づいていることがわかる。
【0098】
さらに、3回目の特性解析に基づいて、疑似伝送器303(疑似TWTA305)の入出力電力[AM/AM]特性の補正を行い、補償効果を改善することも可能である。
【0099】
以上のような解析の繰り返しにより、MERが改善し、受信性能も改善する。また、本実施形態ではOBOの変化はみられなったが、上記のような疑似TWTA特性の更新により、OBOは少しずつ増加するものと予想できるため、MERとOBOのトレードオフにより最適な特性が導出される。
【0100】
本実施形態では、振幅歪量と同じだけの補正量を入出力特性に反映させたが、これは1例に過ぎず、2分法などを用いて更新を繰り返す方法(本実施形態で言えば、1回目の出力電力の補正量を0.30dBではなく0.15dBにする方法)も、本発明の一つの手法であることは言うまでもない。
【0101】
(第2実施形態)
本発明の第1実施形態の構成例として、LDM送信装置を例に挙げたが、本発明は一般的な送信装置にも適用可能で、かつISDB-S3等の伝送方式に依存するものではない。
【0102】
図6は、本発明の第2実施形態の送信装置の構成例を示すブロック図であり、本発明の歪補償を、
図11に示す一般的な送信装置に適用した例である。本実施形態の送信装置200は、IQ信号出力部10と、歪補償部30と、特性解析部40と、アップサンプリング(U/S)部21と、ルートロールオフフィルタ(RRF)部22と、デジタル/アナログ(D/A)変換・直交変調部23とを備えている。歪補償部30は、疑似伝送路310と、信号補償演算手段320とを備えている。以下の説明において、既に、説明済みの構成要素と同一のものは説明を省略又は簡略化する。
【0103】
IQ信号出力部10は、
図11のIQ信号出力部10と同じ構成であり、シリアル/パラレル(S/P)変換部101と、マッピング部102からなる。S/P変換部101は、入力されたデジタル信号を、マッピングのビット数(例えば、32APSKであれば5ビット)に応じたパラレル系列に変換して出力し、マッピング部102は、S/P変換部101から出力された情報ビット系列を、所定の変調方式(π/2シフトBPSK、QPSK、8PSK、16APSK、32APSK等)でIQ平面上にマッピングし、生成したIQ信号を出力する。
【0104】
また、アップサンプリング(U/S)部21と、ルートロールオフフィルタ(RRF)部22と、デジタル/アナログ(D/A)変換・直交変調部23の機能は、既に説明したものと同じである。
【0105】
歪補償部30は、
図1の歪補償部30と同じ構成を備えており、疑似伝送路310と信号補償演算手段320とからなる。疑似伝送路310は、アップサンプリング(U/S)部301、波形整形(RRF)部302、擬似伝送器303、RRF部307、ダウンサンプリング(D/S)部308で構成される。信号補償演算手段320は、本実施形態ではベクトル演算手段であり、遅延部321、ベクトル加算部322、逆特性係数部323、ベクトル加算部324で構成される。各構成要素の機能・特性等は、
図1の送信装置100の歪補償部30と同じであるので、説明を省略する。
【0106】
擬似伝送器303は、疑似IMUXフィルタ304、疑似TWTA305、疑似OMUXフィルタ306を備えており、疑似IMUXフィルタ304及び疑似OMUXフィルタ306は、
図10に示す衛星中継器2のIMUXフィルタ3及びOMUXフィルタ5の特性が反映される。また、疑似TWTA305の特性は、
図16のTWTA4の特性を基礎として、特性解析部40の指令により入出力電力[AM/AM]特性が調整される。
【0107】
特性解析部40の機能は、
図1の特性解析部40と同じであり、IQ信号出力部10におけるIQ信号点配置、擬似伝送器303の特性と動作点、及び、信号補償演算手段320における係数Kの情報を少なくとも取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて擬似伝送器303の特性を補正する。
【0108】
具体的には、第1実施形態で説明したように、特性解析部40は、取得した情報から伝送路通過後のIQ信号点を推定、解析し、例えば受信コンスタレーションに基づいて、原信号のIQ信号点と受信側のIQ信号点との誤差(残留する歪)を特性解析結果として得る。そして、歪量に応じて擬似伝送器303の特性(例えば、疑似TWTA305の入出力電力[AM/AM]特性)を補正する(
図2参照)。こうして、信号特性の解析結果に基づいて、歪補償を改善する。この結果、従来の歪補償手段よりも、伝送路で生じた受信信号の振幅歪を軽減し、受信信号のMERを改善することができる。
【0109】
なお、信号特性の解析結果に基づく疑似伝送器303の特性の補正を複数回行って、信号歪をより低減し、受信性能をさらに改善してもよいことは、第1実施形態と同様である。
【0110】
このように、一般的なIQ信号出力部10から出力されたIQ信号に対しても、優れた歪補償がなされる。
【0111】
(歪補償部の変形例)
図7は,本発明における歪補償部の変形例である。第1実施形態(
図1)及び第2実施形態(
図6)の歪補償部30は、信号補償演算手段320がベクトル演算手段であったが、本変形例の歪補償部31は、信号補償演算手段330として振幅位相演算手段を用いている。
【0112】
歪補償部31は、疑似伝送路310と信号補償演算手段330を備えている。疑似伝送路310は、アップサンプリング(U/S)部301、波形整形(RRF)部302、擬似伝送器303、RRF部307、ダウンサンプリング(D/S)部308で構成され、擬似伝送器303は、疑似IMUXフィルタ304、疑似TWTA305、疑似OMUXフィルタ306を備える。疑似伝送路310の構成は、歪補償部30と同一であるので、説明を省略する。
【0113】
信号補償演算手段(振幅位相演算手段)330は、遅延部331と、IQ/振幅位相変換部332及び333と、振幅位相加算部334及び336と、逆特性係数部335と、振幅位相/IQ変換部337とを備えている。信号補償演算手段330は、入力された無歪のIQ信号(理想IQ信号)と、疑似伝送路310を通過した伝送路歪の含まれたIQ信号の2つの信号から、演算により歪補償ありのIQ信号を生成する手段である。以下、各構成要素について説明する。
【0114】
遅延部331は、振幅位相加算部334に入力される2系統の信号間の同期をとるために、タイミングを調整する。すなわち、擬似伝送路310によって生じる遅延量Dと同一の遅延量Dを、歪補償部31に入力されるIQ信号(理想IQ信号)に与え、2系統の信号を同期させるように機能する。
【0115】
IQ/振幅位相変換部332は、遅延部331を経て入力される理想IQ信号を振幅及び位相に変換した値(理想振幅値、理想位相値)を出力する。また、IQ/振幅位相変換部333は、擬似伝送路310を通過後のIQ信号を振幅及び位相に変換した値を出力する。
【0116】
振幅位相加算部334は、一方の入力を符号反転しており、IQ/振幅位相変換部333から入力される振幅値及び位相値から、それぞれIQ/振幅位相変換部332から入力される振幅値及び位相値を差し引いた振幅値及び位相値を出力する。振幅位相加算部334による演算処理は、擬似伝送路310を通過したデジタル信号のIQ信号点の振幅値及び位相値と、対応する理想IQ信号点の理想振幅値及び理想位相値との差分を、振幅誤差値及び位相誤差値として信号点ごとに求めることに相当する。
【0117】
逆特性係数部335は、振幅位相加算部334から生成される振幅誤差値及び位相誤差値に、係数Kを乗算する。この係数Kは、例えば1であり、補償の程度により適宜選択される。
【0118】
振幅位相加算部336は、逆特性係数部335より係数乗算された振幅誤差値及び位相誤差値を符号反転した誤差値(符号反転振幅誤差値及び符号反転位相誤差値)に、理想IQ信号点の理想振幅値及び理想位相値を加算した補正振幅値及び補正位相値を算出する。なお、逆特性係数部335において、係数を負の数値として乗算し、振幅位相加算部336で単純な加算を行ってもよい。
【0119】
振幅位相/IQ変換部337は、振幅位相加算部336から入力される補正振幅値及び補正位相値をIQ信号点に変換し、歪補償された(補正された)IQ信号を出力する。
【0120】
このように、歪補償部31は、振幅位相演算手段により歪補償されたIQ信号を生成し、出力する。なお、
図7では明示されていないが、この歪補償部31は、本発明の送信装置に適用されたとき、特性解析部40に対して、擬似伝送器303の特性と動作点、及び、信号補償演算手段320における係数の情報等を出力し、また、特性解析部40から擬似伝送器303の特性の補正指示を受けて、当該補正を擬似伝送器303の特性に反映する。
【0121】
したがって、第1実施形態及び第2実施形態の送信装置において、歪補償部30に代えて歪補償部31を用いることができる。
【0122】
上記の実施形態では、送信装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、歪補償された信号を送信する送信方法として構成されてもよい。すなわち、
図1のデータの流れに従って、擬似伝送路を通過させたIQ信号と無歪のIQ信号との誤差信号を求め、係数乗算された誤差信号と無歪の前記IQ信号に基づいて、歪補償された信号を生成する工程と、IQ信号出力部におけるIQ信号点配置、擬似伝送器の特性と動作点、及び、信号補償演算手段における係数の情報を少なくとも取得し、伝送路出力におけるIQ信号点を解析して、その歪量に応じて擬似伝送器の特性を補正する工程とを備えた、送信方法として構成されても良い。
【0123】
また、上述した送信装置として機能させるためにコンピュータ及びプログラムを好適に用いることができる。コンピュータを、送信装置のIQ信号出力部、疑似伝送路、信号補償演算手段、特性解析部等として機能させる処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータの中央演算処理装置(CPU)によってこのプログラムを読み出して実行させることで、本発明の送信装置の歪補償を実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0124】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 送信装置
2 衛星中継器
3 IMUXフィルタ
4 進行波管増幅器(TWTA)
5 OMUXフィルタ
6 受信装置
10 IQ信号出力部
101 シリアル/パラレル(S/P)変換部
102 マッピング部
11 IQ信号出力部
111 シリアル/パラレル(S/P)変換部
112 高階層マッピング部
113 S/P変換部
114 低階層マッピング部
115 振幅調整部
116 合成部
21 アップサンプリング(U/S)部
22 ルートロールオフフィルタ(RRF)部
23 D/A変換・直交変調部
30、31 歪補償部
301 アップサンプリング(U/S)部
302 RRF(波形整形)部
303 擬似伝送器
304 疑似IMUXフィルタ
305 疑似TWTA
306 疑似OMUXフィルタ
307 RRF(波形整形)部
308 ダウンサンプリング(D/S)部
310 疑似伝送路
320 信号補償演算手段(ベクトル演算手段)
321 遅延部
322 ベクトル加算部
323 逆特性係数部
324 ベクトル加算部
330 信号補償演算手段(振幅位相演算手段)
331 遅延部
332 IQ/振幅位相変換部
333 IQ/振幅位相変換部
334 振幅位相加算部
335 逆特性係数部
336 振幅位相加算部
337 振幅位相/IQ変換部
40 特性解析部
100,200 送信装置