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特開2024-69059フィルム、積層体、積層体の製造方法、カード、及びパスポート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069059
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】フィルム、積層体、積層体の製造方法、カード、及びパスポート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240514BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240514BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240514BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240514BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240514BHJP
   B42D 25/455 20140101ALI20240514BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36 102
B32B27/30 101
C08L69/00
C08K3/22
B42D25/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179838
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】八田 全裕
(72)【発明者】
【氏名】竹本 仁子
【テーマコード(参考)】
2C005
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
2C005HA11
2C005KA02
4F071AA50
4F071AB18
4F071AE17
4F071AF34
4F071AF45
4F071AF58
4F071AF59
4F071AG29
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC02
4F100AA21
4F100AA21A
4F100AK15
4F100AK15B
4F100AK411
4F100AK41B
4F100AK45
4F100AK45A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA23
4F100CA23A
4F100EH17
4F100EJ42
4F100GB90
4F100JA12
4F100JA12B
4F100JC00
4F100JC00A
4F100JK06
4F100JL12
4F100JN28
4J002CG011
4J002DE136
4J002FD016
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】特定のポリカーボネート樹脂を使用した場合であっても、融着温度を高くすることなく、融着したフィルム間での剥離を防止でき、また、多層フィルム中における層間剥離が生じることを防止できる。
【解決手段】構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A1)を有するポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂(B)を含む樹脂組成物(1)からなる樹脂層(1)を有するフィルム。
【化1】
(但し、前記式(1)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A1)を有するポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂組成物(1)からなる樹脂層(1)を有するフィルム。
【化1】
(但し、前記式(1)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(B)の割合が、樹脂組成物(1)中の10質量%超90質量%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記樹脂組成物(1)が充填材を含む、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記充填材が酸化チタンである、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物(2)からなる樹脂層(2)をさらに有する、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物(2)が非晶性ポリエステルを含む、請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物(2)が充填材を含む、請求項5に記載のフィルム。
【請求項8】
前記樹脂組成物(2)における前記充填材が酸化チタンである、請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、前記構造単位(A1)を30モル%以上含有する、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、前記構造単位(A1)を80モル%以下含有する、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来し、かつ構造単位(A1)以外の構造単位である構造単位(A2)をさらに含む、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項12】
前記ポリカーボネート樹脂(B)が、ビスフェノール系ポリカーボネートである、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項13】
カード又はパスポート用である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項14】
請求項1に記載のフィルムと、該フィルムに積層された別のフィルムとを備える、積層体。
【請求項15】
前記別のフィルムが、ポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む、請求項14に記載の積層体。
【請求項16】
前記別のフィルムが非晶性ポリエステルを含む、請求項14に記載の積層体。
【請求項17】
請求項1又は2に記載のフィルムを、別のフィルムに積層することで積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項18】
請求項1若しくは2に記載のフィルム又は請求項14~16のいずれか1項に記載の積層体を有するカード。
【請求項19】
請求項1若しくは2に記載のフィルム又は請求項14~16のいずれか1項に記載の積層体を有するパスポート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を含有するフィルム、並びに、該フィルムを有する積層体、カード及びパスポートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を低減するために、樹脂原料の一部を、化石燃料由来樹脂から植物由来樹脂に置き換えることが検討されている。カード、パスポートに使用される樹脂フィルムにおいても、植物由来樹脂を使用することが検討されており、例えば、特許文献1では、イソソルバイド、又はその立体異性体に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂組成物をカード用シートに使用することが検討されている(特許文献1参照)。
【0003】
カード、パスポート等を製造する際、樹脂フィルムを複数枚積層して熱プレスで一体化することが一般的である。例えば特許文献2には、イソソルバイドに由来する構造単位を有するイソソルバイトポリマーからなるイソソルバイトポリマーシートを、耐熱PETGシート又は耐熱PVCシートなどの他の樹脂シートに融着させたカードが開示されている。特許文献2では、イソソルバイトポリマーを使用することで環境負荷が低減できるとともに、他の樹脂シートに比較的低い温度で熱融着できることも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5822467号公報
【特許文献2】特許第6476543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イソソルバイドなどの特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を樹脂フィルムに使用すると、その樹脂フィルムを例えば、PETGシートやPVCシートなどのポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含有する樹脂フィルムに高い接着強度で融着できないことがあり、融着したフィルム間で剥離が生じることがある。
【0006】
また、樹脂フィルムは、樹脂フィルム自体に様々な機能を付与するために多層フィルムとすることがある。しかし、上記した特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含有する層を、例えば、PETGなどのポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含有する層とともに多層フィルムとした場合にも、多層フィルム中の層間の接着強度が不十分となり、層間剥離が生じることがある。
さらに、多層フィルムにおいては、PETGなどを含有する層に、別の樹脂を含有させて、多層フィルムにおける層間の接着強度を高めることも考えられるが、そのような場合には、多層フィルムを別のフィルムに融着する際に、融着温度を高くする必要があるなどの問題が発生することがある。
【0007】
そこで、本発明は、イソソルバイトなどの特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を使用した場合であっても、融着温度を高くすることなく、融着したフィルム間での剥離を防止でき、また、多層フィルム中における層間剥離が生じることを防止できるフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、イソソルバイドなどの特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)に加えて、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂(B)を、フィルムを構成する少なくとも1つの樹脂層に含有させることで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
【0009】
[1]構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A1)を有するポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂組成物(1)からなる樹脂層(1)を有するフィルム。
【化1】

(但し、前記式(1)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。)
[2]前記ポリカーボネート樹脂(B)の割合が、樹脂組成物(1)中の10質量%超90質量%以下である、上記[1]に記載のフィルム。
[3]前記樹脂組成物(1)が充填材を含む、上記[1]又は[2]に記載のフィルム。
[4]前記充填材が酸化チタンである、上記[3]に記載のフィルム。
[5]ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物(2)からなる樹脂層(2)をさらに有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のフィルム。
[6]前記樹脂組成物(2)が非晶性ポリエステルを含む、上記[5]に記載のフィルム。
[7]前記樹脂組成物(2)が充填材を含む、上記[5]又は[6]に記載のフィルム。
[8]前記樹脂組成物(2)における前記充填材が酸化チタンである、上記[7]に記載のフィルム。
[9]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、前記構造単位(A1)を30モル%以上含有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載のフィルム。
[10]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、前記構造単位(A1)を80モル%以下含有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載のフィルム。
[11]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来し、かつ構造単位(A1)以外の構造単位である構造単位(A2)をさらに含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載のフィルム。
[12]前記ポリカーボネート樹脂(B)が、ビスフェノール系ポリカーボネートである、上記[1]~[11]のいずれかに記載のフィルム。
[13]カード又はパスポート用である、上記[1]~[12]のいずれかに記載のフィルム。
[14]上記[1]~[13]のいずれかに記載のフィルムと、該フィルムに積層された別のフィルムとを備える、積層体。
[15]前記別のフィルムが、ポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選択される樹脂を含む、上記[14]に記載の積層体。
[16]前記別のフィルムが、非晶性ポリエステルを含む、上記[15]に記載の積層体。
[17]上記[1]~[13]のいずれかに記載のフィルムを、別のフィルムに積層することで積層体を得る、積層体の製造方法。
[18]上記[1]~[13]のいずれかに記載のフィルム、又は上記[14]~[16]のいずれかに記載の積層体を有するカード。
[19]上記[1]~[13]のいずれかに記載のフィルム、又は上記[14]~[16]のいずれかに記載の積層体を有するパスポート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イソソルバイドなどの特定のジヒドロキシ化合物に由来するポリカーボネート樹脂を使用しても、融着温度を高くすることなく、融着したフィルム間での剥離を防止でき、また、多層フィルム中における層間剥離が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】カードにおける層構成を示す模式図である。
図2】パスポートにおける層構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0013】
[樹脂層(1)]
本発明のフィルム(以下、「本フィルム」ということがある)は、後述する特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂(B)を含む樹脂組成物(1)からなる樹脂層(1)を有する。
【0014】
(ポリカーボネート樹脂(A))
本発明において樹脂組成物(1)に含有されるポリカーボネート樹脂(A)は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A1)を有する。
【化2】

但し、前記式(1)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、2つのヒドロキシル基と、さらに前記式(1)の部位を少なくとも含むものをいう。
【0015】
本発明においては、上記構造を有するポリカーボネート樹脂(A)を使用することで、本フィルム、及び本フィルムを含むカード、パスポートなどの最終製品のバイオマス度を向上させ、環境負荷を低減させることができる。また、本フィルムは、ポリカーボネート樹脂(A)に加えて、後述するポリカーボネート樹脂(B)を含有することで、PETGやPVCなどのポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含む別のフィルムに対して融着させても、融着したフィルムとの間の接着強度を高くでき、フィルム間で剥離が生じることを防止できる。また、本フィルムが多層フィルムである場合には、樹脂層(1)が、PETGなどのポリカーボネート樹脂以外の成分を含む他の樹脂層(樹脂層(2))に対して、高い接着強度で接着することができるので、多層フィルム中の層間剥離も防止することができる。さらに、多層フィルムにおいては、他の樹脂層(樹脂層(2))に、例えば融着温度を高くする樹脂成分を含有させなくても、多層フィルム中の層間の接着強度を高くできる。したがって、比較的低い融着温度で別のフィルムに融着させることもでき、低温融着性にも優れる。
【0016】
構造の一部に式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子内に式(1)で表される構造を有していれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物や、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物および下記式(3)で表されるスピログリコール等で代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0017】
上記のなかでも環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特に式(2)で表されるような無水糖アルコールが好ましい。より具体的には、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルバイド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9-ビス(1,1-ジエチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9-ビス(1,1-ジプロピル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
【化3】

【化4】

式(3)において、R~Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1~3のアルキル基である。
【0019】
前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物は、植物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルバイドは澱粉から得られるD-グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情によりイソソルバイドが最も好適に用いられる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位として、構造単位(A1)以外の構造単位をさらに含むことができ、例えば、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、構造単位(A2)ということがある)を含有することが好ましい。
【0021】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、その炭素原子数に関して特に限定されないが、好ましくは炭素原子数2~12程度、より好ましくは炭素原子数2~6の脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。具体的には例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコール等が挙げられる。好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられ、より好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられる。また、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、例えば国際公開第2004/111106号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0022】
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、5員環構造又6員環構造の少なくともいずれかを含むことが好ましく、特に6員環構造は共有結合によって椅子型又は舟型に固定されていてもよい。これら構造の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことによって、得られるポリカーボネート樹脂(A)の耐熱性を高めることができる。
脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は、例えば5~70、好ましくは6~50、さらに好ましくは8~30である。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、好ましくは、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選択される少なくとも1種が挙げられ、経済性や耐熱性の観点から、シクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールがさらに好ましく、シクロヘキサンジメタノールがよりさらに好ましい。シクロヘキサンジメタノールは、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0023】
ポリカーボネート樹脂(A)における構造単位(A1)の含有割合は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、よりさらに好ましくは45モル%以上であり、また好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、よりさらに好ましくは65モル%以下である。かかる範囲とすることで、カーボネート構造に起因する着色、植物資源物質を用いる故に微量含有する不純物に起因する着色等を効果的に抑制することができ、本フィルムの透明性を高めやすくなり、黄変なども防止しやすくなる。また、構造単位(A1)のみで構成されるポリカーボネート樹脂では達成が困難な、適当な成形加工性や機械強度、耐熱性等の物性バランスを取ることができる傾向となる。
一方で、ポリカーボネート樹脂(A)における構造単位(A2)の含有割合は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは25モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、よりさらに好ましくは35モル%以上であり、また、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは55モル%以下である。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、構造単位(A1)と、構造単位(A2)とからなることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。具体的には2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)などのビスフェノールで代表される芳香環含有ジヒドロキシ化合物を、少量共重合させたりすることが挙げられる。芳香環含有ジヒドロキシ化合物を使用すると、耐熱性や成形加工性を効率よく改善できることが期待できるが、多く配合すると耐候性に不具合が生じる傾向があるため、耐候性に不具合が生じない程度の量で使用するとよい。
ビスフェノールA以外の芳香環含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン等が挙げられる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、例えば70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、また、例えば140℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、よりさらに好ましくは120℃以下である。ポリカーボネート樹脂(A)は、通常、単一のガラス転移温度を有することが好ましい。
ガラス転移温度を上記上限値以下とすることで、低温で別のフィルムに融着させたり、多層フィルム成形時の温度を低くしたりしても、本フィルムと別のフィルムの間で剥離が生じにくくなり、また、多層フィルム中における層間剥離も生じにくくなる。一方で、ガラス転移温度を上記下限値以上とすることで、フィルムに耐熱性を付与させやすくなる。
ガラス転移温度は、ポリカーボネート樹脂(A)を構成する各構造単位の比を適宜選択することで、調整することが可能である。なお、各樹脂のガラス転移温度は、粘弾性スペクトロメーターを使用した測定により得ることができ、具体的には、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で動的粘弾性の温度分散測定を行い、損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とするとよい。なお、2つピークがある場合、低温側をガラス転移温度とする。具体的な測定は、例えば「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用い、JIS K7244-4:1999を参考にして行うとよい。
【0026】
ポリカーボネート樹脂(A)の荷重たわみ温度は、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、また、例えば120℃以下、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、よりさらに好ましくは95℃以下である。
荷重たわみ温度を上記上限値以下とすることで、低温で別のフィルムに融着させたり、多層フィルム成形時の温度を低くしたりしても、本フィルムと別のフィルムの間で剥離が生じにくくなり、また、多層フィルム中における層間剥離も生じにくくなる。一方で、荷重たわみ温度を上記下限値以上とすることで、フィルムに耐熱性を付与させやすくなる。
荷重たわみ温度は、ポリカーボネート樹脂(A)を構成する各構造単位の比を適宜選択することで、調整することが可能である。なお、各樹脂の荷重たわみ温度は、JIS K7191-2:2015 A法(試験片に加える曲げ応力1.80MPa)により測定することができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂(A)は、一般に行われる重合方法で製造することができ、ホスゲン法(界面重合法)、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法(溶融重合法)のいずれでも製造できる。中でも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とその他のジヒドロキシ化合物とを、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル、塩基性触媒、該触媒を中和させる酸性物質を混合し、エステル交換反応を行う重合方法である。
炭酸ジエステルは、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が例示でき、中でもジフェニルカーボネートが好適に用いられる。
【0028】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、機械的強度を付与する観点から、例えば0.3dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、また、成形する際の流動性を高めて、生産性及び成形性を向上させる観点から、例えば1.2dL/g以下であり、1dL/g以下が好ましく、0.8dL/g以下がさらに好ましい。
還元粘度は、溶媒としてジクロロメタンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0029】
樹脂組成物(1)中におけるポリカーボネート樹脂(A)の割合は、5質量%以上90質量%未満であることが好ましい。5質量%以上とすることで、フィルム中に一定量以上の植物由来成分を含有させることができ、環境負荷を低減できる。また、単層フィルムとした場合や、樹脂層(1)を多層フィルムの最外層とした場合に、低温で別のフィルムに融着させやすくなる。また、多層フィルムにおいては、低温で成形しても本フィルム中の層間で剥離が生じにくくなる。一方で上記割合を90質量%未満とすることで、後述するポリカーボネート樹脂(B)の割合を一定量以上としたり、ポリカーボネート樹脂以外の成分を適切な量で樹脂層(1)に含有させたりしやすくなる。
樹脂組成物(1)中におけるポリカーボネート樹脂(A)の割合は、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは50質量%以上であり、よりさらに好ましくは55質量%以上であり、また、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは73質量%以下である。
【0030】
(ポリカーボネート樹脂(B))
ポリカーボネート樹脂(B)としては、上記した構造単位(A1)を有するポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂を使用すればよい。このように、樹脂層(1)は、ポリカーボネート樹脂(A)に加えて、別の種類のポリカーボネート樹脂(B)を含有することで、PETGやPVCなど、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む別のフィルムに対して融着させても、融着したフィルムとの間の接着強度を高くしやすくなる。また、多層フィルムにおいても、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む層(後述する樹脂層(2))との接着強度を高くでき、多層フィルム中の層間剥離も防止しやすくなる。
【0031】
本発明において、ポリカーボネート樹脂(B)としては、芳香環を有するポリカーボネートが好ましく、中でもビスフェノール系ポリカーボネートを使用することがより好ましい。ビスフェノール系ポリカーボネートなどの芳香環を有するポリカーボネート樹脂を使用することで、樹脂組成物(1)は、ポリカーボネート樹脂中に、脂肪族基と芳香環の両方を有することになる。そのため、上記したポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む層やフィルムに対しても接着強度を高くしやすくなる。また、樹脂組成物(1)がポリカーボネート樹脂(B)を含有することで、本フィルムの機械特性、耐熱性などを優れたものとしやすくなる。
【0032】
ビスフェノール系ポリカーボネートは、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールに由来する構造単位であるものである。ビスフェノール系ポリカーボネートは、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、分岐構造を有してもよいし、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造を有する樹脂と直鎖構造のみの樹脂との混合物であってもよい。
【0033】
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。ビスフェノールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ビスフェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられるが、ビスフェノールAの一部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、ビスフェノールA由来の構造単位は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。したがって、ポリカーボネート樹脂(B)としては、ビスフェノールAホモポリカーボネートが最も好ましい。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(B)として使用されるビスフェノール系ポリカーボネートの製造方法は、例えば、ホスゲン法(界面重合法)、エステル交換法(溶融重合法)およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもかまわない。
例えば、エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。炭酸ジエステルの具体例としては、上記のポリカーボネート樹脂(A)において列挙したとおりであり、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(B)のガラス転移温度は、典型的には、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度よりも高くなり、例えば110℃以上200℃以下である。また、好ましくは125℃以上、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、また、好ましくは175℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。なお、ポリカーボネート樹脂(B)は、通常単一のガラス転移温度を有する。
ポリカーボネート樹脂(B)は、ガラス転移温度を110℃以上とすることで、適切な耐熱性を有しやすくなる。一方で、200℃以下とすることで、単層フィルムや、樹脂層(1)を最外層とした多層フィルムにおいても、低温融着性が良好となる。また、本フィルムの成形性なども良好にしやすくなる。
【0037】
ポリカーボネート樹脂(B)の荷重たわみ温度は、例えば90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、また、例えば170℃以下、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、よりさらに好ましくは145℃以下である。荷重たわみ温度を上記下限値以上とすることで、適切な耐熱性を有しやすくなる。一方で、170℃以下とすることで、単層フィルムや、樹脂層(1)を最外層とした多層フィルムにおいても、低温融着性が良好となる。また、本フィルムの成形性なども良好にしやすくなる。ポリカーボネート樹脂(B)の荷重たわみ温度は、上記したポリカーボネート樹脂(A)の荷重たわみ温度よりも高いことが好ましい。
荷重たわみ温度は、ポリカーボネート樹脂(B)を構成する各構造単位の比を適宜選択することで、調整することが可能である。なお、各樹脂の荷重たわみ温度は、JIS K7191-2:2015 A法(試験片に加える曲げ応力1.80MPa)により測定することができる。
【0038】
ポリカーボネート樹脂(B)のメルトボリュームレート(300℃、1.2kgf)は、力学特性と成形加工性などの観点から、好ましくは1cm/10分以上であり、より好ましくは2cm/10分以上であり、さらに好ましくは3cm/10分以上であり、また、好ましくは60cm/10分以下であり、より好ましくは50cm/10分以下であり、さらに好ましくは40cm/10分以下、よりさらに好ましくは30cm/10分である。なお、ポリカーボネート樹脂(B)のメルトボリュームレートは、ISО1133に準拠して測定できる。
【0039】
ポリカーボネート樹脂(B)の質量平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常10000以上、好ましくは30000以上であり、また、通常100000以下、好ましくは80000以下の範囲である。ポリカーボネート樹脂(B)の数平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常10000以上、好ましくは20000以上であり、また、通常50000以下、好ましくは40000以下の範囲である。なお、質量平均分子量及び数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレンを標準物質として測定できる。
また、ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常12000以上、好ましくは15000以上、より好ましくは20000以上、さらに好ましくは22000以上であり、また、通常、40000以下、好ましくは35000以下、より好ましくは30000以下、さらに好ましくは28000以下の範囲である。なお、粘度平均分子量の測定は、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10-40.83の式から算出できる。
また、ポリカーボネート樹脂(B)の数平均分子量に対する質量平均分子量の比(Mw/Mn)で表される分散度は、特に限定されないが、例えば1.1以上10以下、好ましくは1.5以上6以下、より好ましくは1.8以上5以下、よりさらに好ましくは2以上4以下である。
【0040】
樹脂組成物(1)中におけるポリカーボネート樹脂(B)の割合は、10質量%超90質量%以下であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂(B)を10質量%より多く含有させることで、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む別のフィルムや、多層フィルム中の別の層に対する接着強度を高くでき、融着したフィルム間の剥離や、多層フィルム中の層間剥離が生じることを防止しやすくなる。さらに、本フィルムの機械強度なども向上させやすくなる。一方で、90質量%以下とすることで、上記したポリカーボネート樹脂(A)を一定量以上樹脂層(1)に含有させやすくなり、環境負荷も低減しやすくなる。
以上の観点から、樹脂組成物(1)中におけるポリカーボネート樹脂(B)の割合は、より好ましく12質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは20質量%以上であり、また、より好ましく80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以下である。
【0041】
樹脂組成物(1)における、ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合((A)/(B))は、質量比で20/80以上95/5以下であることが好ましい。含有割合((A)/(B))を上記範囲内とすると、比較的低温で融着したり、低温で多層フィルムを成形したりしても、別のフィルムや、後述する樹脂層(2)に対する接着強度を高くしやすくなる。また、20/80以上にすると、環境負荷を低減させやすくなる一方で、95/5以下とすると、本フィルムの機械強度を向上させやすくなる。
これら観点から、含有割合((A)/(B))は、30/70以上であることがより好ましく、40/60以上であることがさらに好ましく、50/50以上であることがよりさらに好ましく、55/45以上であることがよりさらに好ましい。また、含有割合((A)/(B))は、88/12以下であることがより好ましく、85/15以下であることがさらに好ましく、80/20以下であることがよりさらに好ましい。
【0042】
(充填材)
フィルム(1)を形成するための樹脂組成物(1)は、充填材を含有することが好ましい。樹脂組成物(1)は、充填材を含有することで、光透過性が低くなり、例えば隠蔽性を発揮させることができる。そのため、本フィルムを、カードやパスポードに好適に使用することができ、特にコアシートに好適に使用することができる。
【0043】
充填材としては、無機充填材、有機充填材のいずれでもよいが、例えば、酸化チタン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化バリウム、カーボンブラック、シリカ、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化ジルコン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、硫酸バリウムなどの無機充填材が挙げられる。これらの中でも、屈折率が2以上である充填材から選択される少なくとも1種が好ましく、屈折率は2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましい。屈折率が2以上である充填材としては、例えば、酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化ジルコン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。屈折率が2以上である充填材を使用することで、隠蔽性がより一層良好となり、また、白色に着色しやすくなる。これら観点から、充填材としては、酸化チタンがより好ましい。酸化チタンとしては、特に限定されないが、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン等が例示できる。なお、充填材の屈折率は、ベッケ線法により測定することができる。
【0044】
充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上1μm以下、好ましくは0.05μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.08μm以上0.6μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、よりさらに好ましくは0.12μm以上0.4μm以下である。なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で観察される平均一次粒子径をいう。
【0045】
樹脂組成物(1)における充填材の含有量は、樹脂組成物(1)に含有される樹脂成分100質量部に対して、3質量部以上70質量部以下であることが好ましい。充填材の含有量を3質量部以上とすることで、本フィルムの隠蔽性を向上させることができる。また、充填材の含有量を70質量部以下とすることで、耐曲げ性などの機械特性を良好に維持しやすくなる。また、酸化チタンなどを配合しても黄変が生じたりすることを防止やすくなる。これら観点から、充填材の上記含有量は、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上がさらに好ましく、10質量部以上がよりさらに好ましい。また、充填材の上記含有量は、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下がよりさらに好ましく、45質量部以下がよりさらに好ましく、40質量部以下がよりさらに好ましい。
【0046】
(金属塩系安定剤)
樹脂組成物(1)は、金属塩系安定剤を含有してもよい。樹脂組成物(1)がポリカーボネート樹脂(A)を含有することで、樹脂層(1)を有するフィルムが高温度及び高湿度の環境下に放置されると、充填材などに起因して黄変することがあるが、金属塩系安定剤を含有することで耐湿熱性を確保でき、黄変を生じにくくすることができる。
【0047】
金属塩系安定剤は金属塩であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族基を有する金属塩を使用することができる。脂肪族基としては、脂肪族炭化水素基、脂肪族アシル基などが挙げられる。脂肪族基としては、特に限定されないが、好ましくは炭素原子数4以上、より好ましくは炭素原子数6以上であり、さらに好ましくは炭素原子数8以上のものであり、よりさらに好ましくは炭素原子数10以上のものであり、よりさらに好ましくは炭素原子数12以上のものであり、また、好ましくは炭素原子数30以下、より好ましくは炭素原子数26以下、さらに好ましくは炭素原子数24以下、よりさらに好ましくは炭素原子数20以下であり、よりさらに好ましくは炭素原子数18以下であり、よりさらに好ましくは炭素原子数16以下のものである。
金属塩は、リチウム、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉛、銅およびバリウムなどの金属の塩であり、これらの中でも耐湿熱性の観点から、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、銅塩が好ましく、中でも、亜鉛塩がより好ましい。
【0048】
金属塩としては、具体的には、脂肪酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられ、好ましくは脂肪酸金属塩である。
アルキルベンゼンスルホン酸金属塩としては、アルキル基の炭素原子数が好ましくは8~24、より好ましくは10~16のアルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸金属塩の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0049】
脂肪酸金属塩は、脂肪酸と上記金属との塩である。脂肪酸金属塩における脂肪酸としては、直鎖脂肪酸であってもよいし、分岐鎖を有する脂肪酸であってよい。また、飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよいが、耐湿熱性の観点から飽和脂肪酸が好ましい。
また、脂肪酸は、カルボキシル基以外の水酸基を有するヒドロキシ脂肪酸であってもよいし、カルボキシル基以外の水酸基を有しない脂肪酸であってもよいが、耐湿熱性を向上させて、黄変を抑制する観点からは、ヒドロキシ脂肪酸が好ましい。また、脂肪酸を容易に製造できる観点からは、カルボキシル基以外の水酸基を有しない脂肪酸が好ましい。さらに、ヒドロキシ脂肪酸と、ヒドロキシ脂肪酸以外の脂肪酸を併用してもよい。
【0050】
脂肪酸としては、炭素原子数が例えば4~30、好ましくは6~26、より好ましくは8~24、さらに好ましくは10~20、よりさらに好ましくは12~18、よりさらに好ましくは12~16の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸の炭素原子数を上記範囲内とすることで、金属塩系安定剤の分散性を維持しつつ樹脂組成物の耐湿熱性を向上させて、黄変を抑制しやすくなる。
【0051】
脂肪酸金属塩の好ましい具体例としては、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ラウリン酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、ラウリン酸アルミニウム、ミリスチン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸銅、ミリスチン酸銅、パルミチン酸銅、ステアリン酸銅などが挙げられる。
これらの中では、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウムがより好ましく、金属塩系安定剤の分散性と樹脂組成物の耐湿熱性をバランスよく向上させて、黄変をより一層向上させやすくなる観点からは、ラウリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがさらに好ましく、ラウリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛が最も好ましい。
金属塩系安定剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
金属塩系安定剤の含有量は、樹脂組成物(1)に含有される樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下であることが好ましい。0.01質量部以上とすることで、金属塩系安定剤によって適切に耐湿熱性を向上させることができ、高温、高湿環境下で使用しても黄変が生じにくくなる。また、3質量部以下であることで含有量に見合った効果を発揮しやすくなる。
上記観点から、金属塩系安定剤の上記含有量は、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、よりさらに好ましくは0.15質量部以上、よりさらに好ましくは0.2質量部以上、よりさらに好ましくは0.25質量部以上である。また、金属塩系安定剤の含有量は、少なくすることで、樹脂組成物の機械強度などを良好に維持しやすくなり、例えば伸縮性を確保しやすくなり、本フィルムの引張伸度などを高くしやすくなる。そのような観点から、金属塩系安定剤の上記含有量は、より好ましくは2.5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下、よりさらに好ましくは1.5質量部以下、よりさらに好ましくは1質量部以下である。
【0053】
なお、樹脂組成物中の金属塩系安定剤の有無は、例えば、ICP発光分光分析法(ICP-AES)により金属元素が検出され、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により脂肪族基を有するエステルが検出されることによって、確認することができる。また、脂肪族基を有するエステルの検出は、テトラヒドロフランやクロロホルム等のポリカーボネート樹脂(A)の良溶媒に不溶な成分について、メタノール分解を行って分解物のGC-MSで検出したり、加熱メタノールで抽出を行って抽出成分の反応熱分解GC-MSで検出したりすることで可能である。
【0054】
(その他の樹脂成分)
樹脂組成物(1)は、上記の通り、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)以外の樹脂成分(「その他の樹脂成分」ともいう)を含有してもよい。そのような樹脂成分としては、汎用的に使用される公知の樹脂を使用するとよく、ポリカーボネート樹脂(A)と相溶性のある樹脂を用いることが好ましい。
その他の樹脂成分としては、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0055】
樹脂組成物(1)は、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)、必要に応じて配合される充填材、金属系安定剤、その他の樹脂成分以外の成分を含有してもよく、例えばこれら以外の添加剤(その他の添加剤ともいう)を含有してもよい。その他の添加剤としては、レーザー発色剤、耐衝撃吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、加工助剤、可塑剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウィルス剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料等の着色剤等の広汎な樹脂材料に一般的に用いられているものを挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すればよい。これら添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、樹脂組成物(1)や後述する樹脂組成物(2)が、例えばレーザー発色剤を含有すると、本フィルムは、レーザーが照射されることで発色するレーザーマーキングシートとして使用できる。
【0056】
本フィルムは、樹脂層を1層有する単層フィルムであってもよいし、樹脂層を2層以上有する多層フィルムであってもよい。単層フィルムは、上記した樹脂層(1)単層からなるものである。また、多層フィルムは、複数の樹脂層を有するものであるが、複数の樹脂層のうち少なくとも1つが上記した樹脂層(1)であればよいが、樹脂層(1)と、後述する樹脂層(2)を有することが好ましい。
【0057】
[樹脂層(2)]
樹脂層(2)は、上記した樹脂組成物(1)以外の樹脂組成物(2)からなるものである。樹脂組成物(2)は、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含有するとよく、樹脂成分は、好ましくは熱可塑性樹脂である。樹脂成分としては、具体的には、上記した樹脂層(1)において、その他の樹脂成分として列挙した各樹脂から適宜選択して使用することができる。樹脂組成物(2)において樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、樹脂組成物(2)は、本発明の効果を奏する限り、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分に加えて、ポリカーボネート樹脂を含有してもよい。ポリカーボネート樹脂としては、上記したポリカーボネート樹脂(A)でもよいし、ポリカーボネート樹脂(B)でもよい。
【0058】
樹脂組成物(2)は、上記した中でも、ポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂の少なくともいずれかを含有することが好ましく、中でもポリエステル樹脂が好ましい。樹脂組成物(2)が、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分、特にポリエステル樹脂を含有することで、本フィルムを樹脂層(2)を介して別のフィルムに熱融着させることで、フィルム間の接着強度を高くしやすくなり、本フィルムと別のフィルムの間で剥離が生じにくくなる。また、多層フィルムにおける樹脂層(1)と樹脂層(2)の間の層間剥離が生じることも防止しやすくなる。
【0059】
(ポリ塩化ビニル樹脂)
樹脂組成物(2)に使用できるポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体または共重合体が挙げられる。塩化ビニルに共重合体可能なモノマーは限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸またはそのエステル、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、部分的に架橋された樹脂であってもよい。また、ポリ塩化ビニル樹脂のポリマーブレンド物、たとえば、塩化ビニル樹脂とポリ塩化ビニリデンからなるポリマーブレンド物を用いてもよい。さらに、ポリ塩化ビニル樹脂は、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂であってもよい。また、ポリ塩化ビニル樹脂は、硬質ポリ塩化ビニル樹脂であってもよいし、軟質ポリ塩化ビニル樹脂であってもよいが、硬質ポリ塩化ビニル樹脂であることが好ましい。硬質ポリ塩化ビニル樹脂を使用することで、カード、パスポートに適した機械強度を付与しやすくなる。
【0060】
(ポリエステル樹脂)
樹脂組成物(2)に使用されるポリエステル樹脂としては、例えば、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルが挙げられる。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂の合成に供されてもよい。
【0061】
ポリエステル樹脂を得るために使用されるジカルボン酸としては、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、3-スルホイソフタル酸ナトリウム、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸等が挙げられ、これらの中では、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂中のジカルボン酸由来の構造単位中に、例えば60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含まれることがさらに好ましい。また、上限に関しては、特に限定されず、100モル%以下であればよいが、最も好ましくは100モル%である。
【0063】
また、ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位に加えて、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常40モル%以下、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下の範囲で)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことで、本フィルムを比較的低温で別のフィルムに高い接着性で融着させやすくなる。また、多層フィルムにおいて樹脂層(1)と樹脂層(2)の接着強度を高くしやすくなる。
ポリエステル樹脂に使用される鎖式ジヒドロキシ化合物は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよい。鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、トリエチレングリコール、1,2-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールなどの炭素原子数2~18程度の鎖式ジヒドロキシ化合物やポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロプレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリグリコールが挙げられる。これらの中では、炭素原子数2~12の鎖式ジヒドロキシ化合物が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、中でもエチレングリコール(EG)が特に好ましい。
鎖式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
ポリエステル樹脂は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂を得るために使用されるジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することで、耐熱性、耐溶剤性などが良好となりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、テトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールなどが挙げられる。これらの中ではテトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールとしては、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールがあるが、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、テトラメチルシクロブタンジオールとしては、一般的には、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールが使用される。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物としては、少なくともシクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましく、テトラメチルシクロブタンジオールとシクロヘキサンジメタノールを併用することも好ましい。
【0066】
ポリエステル樹脂は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、例えば5モル%以上、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、また、例えば99モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。ポリエステル樹脂は、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以上含有することで、耐熱性が良好となりやすくなる。また、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以下とし、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を一定量以上含有することで、低温融着性が良好となりやすい。
【0067】
鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは65モル%以下、より好ましくは55モル%以下、さらに好ましくは45モル%以下、よりさらに好ましくは40モル%以下である。これら上限値以下とすることで、低温で別のフィルムに融着させたり、低い温度で多層フィルムに成形したりしても、フィルム間や層間での接着強度を高くしやすくなる。
ただし、ポリエステル樹脂は、特に、高温環境下での貯蔵弾性率や加熱伸縮率等の耐熱性や耐溶剤性の観点においては、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、好ましくは65モル%超、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、よりさらに好ましくは90モル%以上である。
【0068】
ポリエステル樹脂に使用されるジヒドロキシ化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で、鎖式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(「他のジヒドロキシ化合物」ともいう)を使用してもよい。ポリエステル樹脂において、他のジヒドロキシ化合物由来の構造単位の含有量は、ポリエステル樹脂中のジヒドロキシ化合物由来の構造単位100モル中、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、最も好ましくは0モル%である。
他のジヒドロキシ化合物としては、p-キシレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
【0069】
ポリエステル樹脂は、上記した中でも、低温融着性、フィルム間や層間での接着強度を高くしやすくなる観点から、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含むことが好ましく、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含むことも好ましい。
【0070】
ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、樹脂層(2)の別のフィルムや樹脂層(1)に対する接着強度が良好となりやすく、多層フィルムにおける層間剥離や、別のフィルムとの剥離が生じにくくなる。非晶性ポリエステルは、実質的に非結晶性であるポリエステルであればよい。実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)であるポリエステルとしては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル、及び、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法などによる成形時に結晶性が高い状態とならないポリエステル、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非晶性とポリエステルには、“非結晶状態である結晶性のポリエステル”をも包含する。
【0071】
非晶性ポリエステルとしては、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、1,4-CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)と、エチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが、実用上十分な低温融着性、接着性、耐熱性などをバランス良く良好になる点や、原料入手の容易さから好ましい。この際、1,4-CHDMは、ジオール成分全量基準で20モル%以上80モル%以下、好ましくは22モル%以上60モル%以下、より好ましくは25モル%以上45モル%以下であり、また、エチレングリコールは、20モル%以上80モル%以下、好ましくは40モル%以上78モル%以下、より好ましくは55モル%以上75モル%以下であるとよい。このような共重合ポリエステルは、本明細書ではPETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)として記載することがある。
ここで、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4-CHDMおよびエチレングリコールの合計量を好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含むことをいう。
ジオール成分における、1,4-CHDMの量が前記下限値以上であることにより、結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の層との接着性が良好となりやすい。また、1,4-CHDMの量が前記上限値以下であることにより、同様に結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の樹脂層やフィルムとの接着性が良好となりやすいことから好ましい。
【0072】
前記組成範囲にある共重合ポリエステルの中でも、1,4-CHDMがジオール成分の約30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量計)測定においても結晶化挙動が認められず、完全に非晶性を示すことが知られている。完全に非晶性のポリエステルとしては、PETGとして、例えば、イーストマンケミカル社製の「イースター GN001」等が挙げられる。
ただし、これに限定されるものではなく、結晶性の低いもの、例えば、ジエチレングリコールを共重合したPET系樹脂、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂で結晶性の低いもの等、各種共重合成分の導入により結晶化を阻害した構造を有する共重合ポリエステル樹脂も実質的に非晶性であるポリエステルとして用いることができる。また、これら例示したポリエステル樹脂において、テレフタル酸の一部又は全てをナフタレンジカルボン酸に置き換えたポリエステル樹脂も、非晶性であるものは同様に用いることができる。
【0073】
樹脂組成物(2)において、ポリエステル樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、例えば、樹脂組成物(2)は、非晶性ポリエステルと、結晶性ポリエステルとを併用してもよいし、また、PETGとPETG以外の他のポリエステル樹脂とを併用してもよい。
【0074】
樹脂組成物(2)において、ポリエステル樹脂が主成分であることが好ましい。樹脂組成物(2)においては、非晶性ポリエステルが主成分であることが好ましく、中でもPETGが主成分であることが特に好ましい。
ここで、主成分であるとは、樹脂組成物(2)において最も含有量が多い成分であることを意味し、具体的には、樹脂組成物(2)中の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上がよりさらに好ましい。樹脂組成物(2)において、ポリエステル樹脂などの割合が50質量%以上より高くなると、低温融着性、別のフィルムや樹脂層(1)に対する接着強度を高めやすくなる。
一方で、樹脂組成物(2)におけるポリエステル樹脂などの割合は、樹脂組成物(2)中の100質量%以下であればよいが、他の成分を一定量以上含有させやすくする観点から、97質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下がさらに好ましい。
【0075】
(充填材)
樹脂組成物(2)は、充填材を含有することが好ましい。樹脂組成物(2)は、充填材を含有することで、光透過性が低くなり、例えば隠蔽性を発揮させることができる。そのため、本フィルムを、カードやパスポードに好適に使用することができ、特にコアシートに好適に使用することができる。
また、上記したポリカーボネート樹脂(A)を含む樹脂層(1)は、酸化チタンなどの充填材を含有すると、高温かつ高湿環境下で使用される場合に、黄変が生じることがあるが、樹脂層(1)を樹脂層(2)により隠すことで、樹脂層(1)の黄変を樹脂層(2)により目立たなくすることができる。そしてこの黄変は、樹脂組成物(2)が充填材を含有するとより目立たなくなることからも、樹脂組成物(2)が充填材を含有することが好ましい。
したがって、樹脂層(1)及び(2)は、いずれも充填材を含有することが好ましい。特に、後述する通り、樹脂層(1)の両面側に、樹脂層(2)が設けられる場合には、樹脂層(1)が両表面側から樹脂層(2)により覆われることで、樹脂層(1)で生じた黄変をより一層目立たなくすることができる。
【0076】
樹脂組成物(2)に使用される充填材の具体例としては、樹脂組成物(1)に使用可能な充填材として列挙したものを適宜選択して使用できるが、中でも、屈折率が2以上である充填材から選択される少なくとも1種が好ましく、屈折率は2.2以上であることがより好ましく、2.4以上であることがさらに好ましい。屈折率が2以上である充填材としては、上記の通りである。樹脂組成物(2)が屈折率が2以上である充填材を含有することで、隠蔽性が高くなり、白色に着色しやすくなり、かつ、樹脂層(1)で生じた黄変も目立ちにくくすることができる。これら観点から、樹脂組成物(2)に使用される充填材としては、酸化チタンがより好ましい。酸化チタンとしては、特に限定されないが、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン等が例示できる。なお、充填材の屈折率は、ベッケ線法により測定することができる。すなわち、樹脂組成物(1)、(2)には、いずれも充填材として酸化チタンを含有することが特に好ましい。
樹脂組成物(2)で使用される充填材の平均粒子径は、特に限定されず、樹脂組成物(1)で使用される充填材と同様に、上記した所定の範囲内から適宜選択されるとよい。
【0077】
樹脂組成物(2)における充填材の含有量は、樹脂組成物(2)に含有される樹脂成分100質量部に対して、3質量部以上70質量部以下であることが好ましい。充填材の含有量を3質量部以上とすることで、本フィルムの隠蔽性を向上させることができる。また、樹脂層(1)に黄変が生じても、樹脂層(2)で被覆して黄変を目立たなくしやすくなる。
一方で、樹脂組成物(2)における充填材の含有量を70質量部以下とすることで、耐曲げ性などの機械特性を良好に維持しやすくなる。さらに、酸化チタンなどを配合しても、樹脂層(2)自体に黄変が発生することを抑制しやすくなる。これら観点から、樹脂組成物(2)における充填材の上記含有量は、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上がさらに好ましく、10質量部以上がよりさらに好ましい。また、充填材の上記含有量は、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下がよりさらに好ましく、45質量部以下がよりさらに好ましく、40質量部以下がよりさらに好ましい。
【0078】
樹脂組成物(2)は、ポリエステル樹脂などの樹脂成分、及び必要に応じて配合される充填材以外の成分を含有してもよく、例えばこれら以外の添加剤(その他の添加剤ともいう)を含有してもよい。その他の添加剤の具体例は、樹脂組成物(1)において述べたとおりであり、樹脂組成物(2)において、その他の添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
[フィルム]
本フィルムは、上記したとおり、樹脂層(1)単層からなる単層フィルムであってもよいし、2層以上の樹脂層を有する多層フィルムであってもよい。多層フィルムは、2層以上の樹脂層を有するものであればその層数は特に限定されない。多層フィルムは、少なくとも樹脂層(1)を1層有していればよいが、2層以上の樹脂層(1)を有してもよい。
また、本フィルムは、上記した樹脂組成物(1)からなる樹脂層(1)と、樹脂組成物(2)からなる樹脂層(2)とを有することが好ましい、この場合、フィルム中に樹脂層(1)が2層以上設けられてもよいし、樹脂層(2)が2層以上設けられてもよいが、樹脂層(2)が少なくとも2層以上設けられることが好ましい。
また、樹脂層(1)が2以上設けられる場合、各樹脂層(1)を構成する樹脂組成物(1)の組成は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。同様に、樹脂層(2)が2以上設けられる場合、各樹脂層(2)を構成する樹脂組成物(2)の組成は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
【0080】
本フィルムは、多層フィルムの場合、上記の通り、樹脂層(1)と、樹脂層(2)とを有することが好ましく、樹脂層(1)が樹脂層(2)に接するように積層されることが好ましい。接するように積層された樹脂層(1)と樹脂層(2)は、上記した組成を有することで高い接着強度で接着することが可能になり、樹脂層(1)と樹脂層(2)の間で層間剥離が生じにくくなる。
【0081】
多層フィルムの場合、少なくとも1つの樹脂層(2)が、樹脂層(1)よりも本フィルムの表面側に配置されるとよい。樹脂層(2)が樹脂層(1)よりも表面側に配置されることで、樹脂層(1)を樹脂層(2)で被覆することができる。すなわち、多層フィルムが2層構造である場合には、樹脂層(2)/樹脂層(1)の積層構造を有するとよい。
そして、樹脂層(1)が酸化チタンなどの充填材を含有する場合には、樹脂層(1)を樹脂層(2)で被覆することで、特に樹脂層(2)にも酸化チタンなどの充填材を含有することで、樹脂層(1)が酸化チタンなどによって黄変しても、その黄変を樹脂層(2)で隠すことができるので、フィルム全体の黄変も抑制することができる。
また、表面側に配置された樹脂層(2)は、本フィルムの表面を構成する表層となるとよい。樹脂層(2)が表層となることで、別のフィルムに対する接着強度を向上させやすくなる。
【0082】
また、多層フィルムは、樹脂層(1)を中層とし、その中層の両面それぞれに、樹脂層(2)を配置することも好ましい。この場合、各樹脂層(2)は、本フィルムの表面を構成する表層とすることが好ましい。
すなわち、多層フィルムが3層構造である場合には、樹脂層(2)/樹脂層(1)/樹脂層(2)の積層構造を有することが好ましい。
上記3層構造においては、上記の通り、樹脂層(1)及び樹脂層(2)は、いずれも酸化チタンなどの充填材を含有することが好ましい。本フィルムは、樹脂層(1)の両面それぞれに樹脂層(2)を有することで、樹脂層(1)が酸化チタンなどの充填材を含有し、充填材によって黄変しても、その黄変を樹脂層(2)で両面側から隠すことができるので、フィルム全体の黄変をより一層抑制することができる。
【0083】
多層フィルムは、上記した層構造に限定されず、いかなる構造を有してもよく、例えば、樹脂層(1)又は樹脂層(2)のいずれかが複数有する場合には、その層構造は、上記した2層又は3層構造に限定されず、例えば、樹脂層(1)/樹脂層(1)/樹脂層(2)や、樹脂層(2)/樹脂層(1)/樹脂層(1)などの層構造を有したものでもよい。また、多層フィルムは、4層以上の樹脂層が積層された積層構造を有してもよい。
【0084】
本フィルムの厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、よりさらに好ましくは40μm以上であり、また、例えば1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは250μm以下、よりさらに好ましくは200μm以下である。本フィルムの厚みを一定以上とすることで、本フィルムが適切な機能を発揮しやすくなる。例えば、充填材を含有させる場合などには隠蔽性を確保しやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなる。
【0085】
樹脂層(1)の厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。また、例えば800μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、よりさらに好ましくは150μm以下である。樹脂層(1)の厚みを一定以上とすることで、樹脂層(1)が適切な機能を発揮しやすくなり、例えば、充填材を含有させる場合などには隠蔽性を確保しやすくなる。また、樹脂層(1)の厚みを大きくして、他の樹脂層の厚みを小さくすることで環境負荷も低減しやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなる。
なお、ここでいう樹脂層(1)の厚みとは、フィルム中に2層以上の樹脂層(1)が設けられる場合には、各樹脂層(1)の厚みである。以下の樹脂層(2)の厚みも同様である。
【0086】
また、樹脂層(1)の厚みは、本フィルム全体の厚みに対する比率(厚み比率)を高くすることで、バイオマス由来の成分量を大きくすることができる。そのため、厚み比率は、一定以上としたほうがよい。具体的には、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましく、0.4以上がよりさらに好ましい。厚み比率は、1以下であればよいが、樹脂層(2)を有する場合に、樹脂層(2)の厚みを一定以上にする観点から、一定以下としたほうがよく、例えば0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下である。なお、厚み比率は、本フィルム全体の厚みに対する、本フィルムに含まれる全樹脂層(1)の合計厚みの比である。
【0087】
また、多層フィルムにおいて樹脂層(2)の厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、3μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。また、例えば500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、よりさらに好ましくは100μm以下である。樹脂層(2)の厚みを一定以上とすることで、樹脂層(2)が適切な機能を発揮しやすくなり、例えば、充填材を含有させる場合などには隠蔽性を確保しやすくなったり、樹脂層(1)の黄変を目立たなくしたりしやすくなる。さらに、一定以上の厚みを有することで、表層に配置された場合には、別のフィルムに対する接着強度を向上させやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなり、また、樹脂層(1)の厚み比率を大きくしやすくなり、環境負荷を低減しやすくなる。
【0088】
本フィルムは、60℃、90%RHの条件で7日間湿熱処理を行った湿熱処理前と処理後の色差ΔEは、小さいことが好ましい。色差ΔEが小さいことは、湿熱処理をしても色変化が少なく耐湿熱性が高いことを意味する。ΔEは1.4以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.75以下であることがさらに好ましく、0.5以下であることがよりさらに好ましい。ΔEは、小さければ小さいほどよく、0以上であればよい。
また、本フィルムは、60℃、90%RHの条件で7日間湿熱処理を行った湿熱処理前のb*と処理後のb*の差Δb*(絶対値)が小さいことが好ましい。差Δb*の絶対値が小さいことは、湿熱処理をしても色変化が少なく耐湿熱性が高いことを意味する。Δb*(絶対値)は、1.4以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.75以下であることがさらに好ましく、0.5以下であることがよりさらに好ましい。Δb*(絶対値)は、小さければ小さいほどよく、0以上であればよい。なお、ΔE,Δb*の詳細な測定条件は、実施例に記載の通り行うとよい。
【0089】
(本フィルムの製造方法)
本フィルムは、公知の方法で製造できるが、まず、各樹脂層を形成するための原料から各樹脂組成物を用意する。ここで、原料は、混合されて樹脂組成物とするとよく、押出機、プラストミルなどにおいて加熱しながら溶融混練して行うとよい。単層フィルムの場合、用意された樹脂組成物(1)をフィルム状にするとよい。樹脂組成物(1)をフィルム状にする方法は、特に限定されないが、プレス成形などでもよいし、押出成形などでもよいが、生産性、コストの面からは押出成形が好ましい。
【0090】
多層フィルムである場合の本フィルムの製造方法としては、例えば、各樹脂層を形成するための樹脂組成物を、所望の厚さとなるように共押出により積層する方法(共押出法)、各層を所望の厚さを有するフィルム状に形成し、これをラミネートする方法、あるいは、1つ又は複数の層を溶融押出して形成し、これに別途形成したフィルムにラミネートする方法等がある。これらの中でも、生産性、コストの面から共押出法により製造することが好ましい。
なお、共押出法などの押出成形では、樹脂組成物を加熱して溶融して、例えば温度200~300℃の範囲でTダイから押出成形するとよい。また、押し出されたフィルムは、冷却ロール(キャスティングロール)等で冷却固化してもよい。
【0091】
[積層体]
本フィルムは、別のフィルムに積層されて使用されることが好ましい。別のフィルムに積層される場合、得られる積層体(以下、「本積層体」ともいう)は、本フィルムと、本フィルムが積層された別のフィルムとを備えるものである。本フィルムと別のフィルムとは、後述する通り、熱融着されることで互いに接着されることが好ましい。
【0092】
本フィルムは、上記の通り、単層フィルムであってもよいし、多層フィルムであってもよいが、多層フィルムの場合には、別のフィルム側の面(より詳細には、別のフィルムに接触される面)に、樹脂層(2)が表層として配置されることが好ましい。樹脂層(2)が別のフィルム側の面に表層として配置されると、比較的低い温度で融着しても、本フィルムの別のフィルムに対する接着強度が向上しやすくなり、フィルム間の剥離が生じにくくなる。
【0093】
別のフィルムとしては、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む樹脂フィルムであることが好ましく、具体的には、上記した樹脂層(1)において、その他の樹脂成分として列挙した樹脂から適宜選択して使用することができるが、中でも、ポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂が好ましく、特にポリエステル樹脂がさらに好ましい。
なお、ポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂の詳細な説明は、樹脂組成物(2)におけるポリエステル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂の説明と同様であり、これらの説明は省略する。したがって、ポリエステル樹脂は、PETGなどの非晶性ポリエステルが好ましい。別のフィルムが非晶性ポリエステルを含むことで、比較的低い温度の熱融着により、本フィルムと別のフィルムを高い接着強度で融着させることができ、本フィルムと別のフィルムの間で剥離が生じにくくなる。また、ポリ塩化ビニル樹脂は、上記の通り、硬質ポリ塩化ビニル樹脂であることが好ましい。
【0094】
別のフィルムは、上記したポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む樹脂組成物(3)より形成されるとよい。樹脂組成物(3)に使用される樹脂成分は、上記の通りであり、上記で列挙した各樹脂成分から1種又は2種以上を適宜選択して使用すればよい。別のフィルムは、上記した中でもポリエステル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂を少なくとも含む樹脂組成物(3)により形成されることが好ましい。ただし、樹脂組成物(3)は、本発明の効果を奏する限り、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分に加えて、ポリカーボネート樹脂を含有してもよい。ポリカーボネート樹脂としては、上記したポリカーボネート樹脂(A)でもよいし、ポリカーボネート樹脂(B)でもよい。ただし、別のフィルム(3)は、樹脂成分がポリカーボネート樹脂からなるものであってもよい。
【0095】
樹脂組成物(3)は、ポリエステル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂が主成分であることが好ましい。また、樹脂組成物(3)において、ポリエステル樹脂が主成分である場合には、非晶性ポリエステルが主成分であることがより好ましく、中でもPETGが主成分であることが特に好ましい。
ここで、主成分であるとは、樹脂組成物(3)において最も含有量が多い成分であることを意味し、具体的には、該成分の割合が、樹脂組成物(3)中の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上がよりさらに好ましい。樹脂組成物(3)において、ポリエステル樹脂やポリ塩化ビニル樹脂などの割合が50質量%以上より高くなると、本フィルムの別のフィルムに対する接着性を高めやすくなり、本フィルムと別のフィルムの間で剥離が生じにくくなる。
一方で、樹脂組成物(3)におけるポリエステル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂などの割合は、樹脂組成物(3)中の100質量%以下であればよいが、他の成分を一定量以上含有させやすくする観点から、99質量%以下であってもよく、97質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
【0096】
樹脂組成物(3)は、上記した樹脂成分以外にも、充填材、金属系安定剤などを適宜含有してもよいし、これら以外の添加剤(その他の添加剤ともいう)を含有してもよい。充填材、金属系安定剤、及びその他の添加剤の詳細は、上記樹脂組成物(1)で説明したとおりである。
【0097】
本フィルムに積層される別のフィルムは、単層の樹脂層からなる単層フィルムであってもよいし、複数の樹脂層からなる多層フィルムであってもよいが、少なくとも本フィルム側の面(すなわち、本フィルムと接触する面)に、上記樹脂組成物(3)からなる樹脂層を備えるとよい。
【0098】
別のフィルムの厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、よりさらに好ましくは40μm以上であり、また、例えば1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは250μm以下、よりさらに好ましくは200μm以下である。別のフィルムの厚みを一定以上とすることで、別のフィルムが適切な機能を発揮しやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなる。
【0099】
本フィルムは、別のフィルムに対して公知の方法で積層されるとよいが、熱融着により別のフィルムに積層されることが好ましく、中でも熱プレスにより熱融着されることがより好ましい。本フィルムは、後述する通り、カード又はパスポードにおいて使用される場合には熱プレスにより別のフィルムに熱融着されることが一般的であるので、本フィルムと別のフィルムが熱融着されて得られた本積層体は、カード又はパスポードにおいて好適に使用できる。
熱融着される際の温度は、特に限定されないが、低温で融着して作業性を良好にする観点から、165℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、145℃以下がさらに好ましく、140℃以下がよりさらに好ましく、135℃以下がよりさらに好ましい。また、熱融着される際の温度は、フィルム間の接着強度を高くする観点から、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、120℃以上がよりさらに好ましい。
【0100】
[カード又はパスポート]
本フィルムは、好ましくは、カード又はパスポートに使用されるものである。カード又はパスポートにおいて、本フィルムは、上記の通り、別のフィルムに積層されて積層体として使用されることが好ましい。
本フィルムは、比較的低い温度で熱融着しても、別のフィルムとの間に剥離を生じさせることなく、別のフィルム上に積層することができるので、一般的に複数のフィルムが積層されて構成されるカード又はパスポートにおいて、好適に使用することができる。本フィルムは、特にカード又はパスポートのコアシートに使用されることが好ましい。ただし、本フィルム又は本積層体は、カード又はパスポート用以外に使用してもよい。
【0101】
カードとしては、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、保険証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、銀行カード、クレジットカード、SIMカード、ETCカード、識別カード、情報担持カード、スマートカード、B-CASカード、メモリーカードなどの各種のカードに用いることができる。なお、本フィルム又は本積層体は、パスポートにおいてはデータページに使用されるとよい。
【0102】
本発明のカード又はパスポート(より具体的には、パスポートのデータページ)は、上記した本フィルムを備えるとよい。カード又はパスポートは、通常は複数の樹脂フィルムより構成されるが、そのうちの少なくとも一つが本フィルムであるとよい。
カード又はパスポートは、コアシートを備えるとよい。また、カード又はパスポートは、コアシートに加えて、レーザーマーキングシート、及びオーバーシートの少なくともいずれかを備えるとよい。
パスポート又はカードは、複数の樹脂フィルム、例えば、コアシート及びコアシート以外のシートから選択される1以上のシートを重ね合わせて、プレスして加熱融着させた後、打ち抜き加工などがなされて、製造されるとよい。また、加熱融着の代わりに適宜接着剤などを使用して、シート同士を接着させてもよい。
【0103】
また、カード又はパスポートは、上記した本積層体を備えることが好ましい。すなわち、カード又はパスポートは、上記のとおり複数の樹脂フィルムが積層されて構成されるものであるが、そのうちの一部又は全部が、本フィルムと別のフィルムとが積層されてなる本積層体により構成されるとよい。
【0104】
カードは、例えば、図1(a)に示すとおり、レーザーマーキングシート1、及びコアシート2を備え、コアシート2の一方又は両方の面にレーザーマーキングシート1を備えるカード20Aであることが好ましい。また、カードは、図1(b)に示すとおり、さらにオーバーシート4を備え、レーザーマーキングシート1の外側に保護層としてのオーバーシート4がさらに積層されたカード20Bも好ましい。また、レーザーマーキングシートは省略されてもよく、カードは、例えば、図1(c)に示すとおり、コアシート2と、コアシート2の一方又は両方の面に保護層としてのオーバーシート4を備えるカード20Cであってもよい。
なお、図1では、コアシート2の両面側に、レーザーマーキングシート1、オーバーシート4、又はこれらの両方を備える態様を示すが、コアシート2の一方の面側のみにレーザーマーキングシート1、オーバーシート4、又はこれらの両方を備えてもよい。
また、各カード20A~20Cにおいて、コアシート2の両面それぞれに設けられる層構造は、互いに同じであったが、各面上においては互いに異なっていてもよい。例えば、コアシート2の一方の面にレーザーマーキングシート1と、オーバーシート4がこの順に設けられ、コアシート2の他方の面にオーバーシート4のみが設けられてもよい。
【0105】
パスポートは、特に電子パスポートの場合、ヒンジシートを備えるとよく、例えば、図2(a)に示すとおり、ヒンジシート3と、ヒンジシート3の両面それぞれに設けられたコアシート2とを備え、そのコアシート2の一方又は両方の外側にレーザーマーキングシート1が積層されるバスポート10Aであることが好ましい。また、パスポートは、図2(b)に示すとおり、オーバーシート4を備え、レーザーマーキングシート1の外側に保護層としてのオーバーシート4がさらに積層されたパスポート10Bも好ましい。また、レーザーマーキングシートは省略されてもよく、パスポートは、図2(c)に示すとおり、ヒンジシート3と、ヒンジシート3の両面それぞれに設けられたコアシート2と、コアシート2の一方又は両方の外側に保護層としてのオーバーシート4を備えるパスポート10Cであってもよい。
【0106】
なお、図2では、コアシート2のいずれの外側にも、レーザーマーキングシート1、オーバーシート4、又はこれらの両方を備える態様を示すが、コアシート2の外側の一方のみにレーザーマーキングシート1、オーバーシート4、又はこれらの両方を備えてもよい。
また、各パスポート10A~10Cにおいて、コアシート2の外側それぞれに設けられる層構造は、互いに同じであったが、互いに異なっていてもよい。例えば、コアシート2の一方の外側にレーザーマーキングシート1と、オーバーシート4がこの順に設けられ、コアシート2の他方の外側にオーバーシート4のみが設けられてもよい。
【0107】
また、図2(a)~(c)に示したパスポートにおいて、コアシート2、2がヒンジシート3を挟むように配置される態様を示すが、特に限定されず、コアシートは、ヒンジシートを挟むように配置される必要はなく、コアシートは、1枚であってもよい。また、コアシートは、ヒンジシートを挟まずに複数枚のコアシートが積層されてなるものでもよい。また、ヒンジシート3は、コアシートに接していなくてもよく、コアシートに接しない任意の位置に配置されてもよい。
ヒンジシートは、コアシートとコアシートの間の代わりに、例えば、コアシートとオーバーシートの間、コアシートとレーザーマーキングシートの間、レーザーマーキングシートとオーバーシートの間などに配置されてもよいが、これらに限定されない。
【0108】
カード又はパスポートにおいて、コアシートは、上記した樹脂成分を適宜含有する樹脂フィルムであるとよく、また、充填材を含有することが好ましい。コアシートは、複数のコアシートが積層されてなるものでもよい。各コアシートの厚さは50~700μm程度であるとよい。
各コアシートは、固定情報が印字されるための印刷シートなどであってもよいし、内部にICチップ、アンテナなどのインレットが内蔵されるための中空部が設けられた、インレットシートなどであってもよい。また、インレットなどを隠蔽するための隠蔽シートなどであってもよい。
さらに、隣接する1対のコアシートの間には適宜接着シートなど配置され、隣接する1対のコアシートは接着シートにより接着されてもよい。また、各コアシートは、単層フィルムから構成されてもよいし、樹脂層を2以上有する多層フィルムから構成されてもよい。なお、接着シートは、コアシートと、オーバーシート又はレーザーマーキングシートとの間などに設けられてもよい。
【0109】
レーザーマーキングシートとしては、上記した樹脂成分を適宜有する樹脂フィルムであるとよい。レーザーマーキングシートは、レーザー印字により個人情報などが印刷されるためのシートである。個人情報は、パスポードやカード所有者の個人を特定するための情報であり、個人名、個人ID、カード番号などである。
レーザーマーキングシートは、樹脂フィルムから形成されるとよく、樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよいし、樹脂層を2以上有する多層フィルムであってもよい。レーザーマーキングシートは、レーザー発色剤を含有する樹脂層を含むことが好ましく、単層フィルムの場合、単層の樹脂層がレーザー発色剤を含有するとよい。また、多層フィルムの場合、レーザーマーキングシートは、例えば、中層の両面に表層が設けられた構造を有し、中層にレーザー発色剤を含有させるとよい。レーザーマーキングシートは、典型的には透明フィルムである。レーザーマーキングシートの厚みは、特に限定されないが、例えば、5~400μm程度であり、10~300μmであることが好ましい。
【0110】
オーバーシートは、一般的にカード又はパスポートのデータページにおいて最外層を構成し、カード又はパスポードを保護する。オーバーシートは、図1(b)、図2(b)に示すとおり、レーザーマーキングシートの外側に配置される場合には、例えば、レーザー光照射によってレーザー印字部分が発泡する、いわゆる「膨れ」を抑制することができる。オーバーシートに用いる樹脂としては、特に制限はなく、上記した樹脂成分を適宜選択して使用するとよい。オーバーシートの厚みは、特に限定されないが、例えば、5~400μm程度であり、10~300μmであることが好ましい。
【0111】
パスポートにおけるヒンジシートは、データページをパスポートの表紙や他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。
【0112】
カード又はパスポートにおいて、コアシート、レーザーマーキングシート、及びオーバーシートそれぞれにおいて使用される樹脂フィルムは、上記の通り、本フィルムから構成されてもよいが、カード又はパスポートが本フィルムを少なくとも1つ有する限り、本フィルム以外の樹脂フィルムを使用してもよい。ここで、カード又はパスポートは、少なくともコアシートに本フィルムが使用されることが好ましい。
また、コアシートが複数のコアシートにより構成される場合、複数のコアシートのうち少なくとも1つが本フィルムにより構成されてもよいし、全てのコアシートが本フィルムにより構成されてもよい。レーザーマーキングシート、及びオーバーシートそれぞれについても、複数設けられる場合、複数のシートのうち少なくとも1つが本フィルムにより構成されてもよいし、全てが本フィルムにより構成されてもよい。
【実施例0113】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0114】
実施例、比較例で得られたフィルムの評価方法は、以下の通りである。
(バイオマス由来)
各実施例、比較例で得られた本フィルムが、バイオマス由来の成分を有するものを「OK」、バイオマス由来の成分を有しないものを「NG」と評価した。
【0115】
[PETGとの熱融着性]
電動シーラ「インパルスシーラーOPL-200-10」(富士インパルス社製)を用いて、各実施例、比較例で得られたフィルムと、PETGからなる厚み100μmのPETGフィルムを、加熱130℃で5秒間、その後の冷却を40℃で5秒間の条件でシート幅10mm×長さ40mm(熱融着長さ10mm、未熱融着長さ30mm)で熱融着させて積層シート(積層体)を得た。その後、未熱融着部分を手で持ってT字剥離試験を行い、以下の評価基準で評価した。なお、熱融着性の評価では、層間(フィルムとフィルムの間)で剥離せずに、積層シートが材破するものは、本フィルムとPETGシートが適切に接着し、フィルム間の接着強度が高く、熱融着性が良好であることを意味する。また、「材破」とは、層間以外の部分で積層シートが破壊される破壊モードである。
A:層間で剥離せずに材破した
B:積層シートが一部材破し、一部層間で剥離した。
C:積層シートが材破せずに完全に層間で剥離した。
【0116】
[PVCとの熱融着性]
電動シーラ「インパルスシーラーOPL-200-10」(富士インパルス社製)を用いて、各実施例、比較例で得られたフィルムと、硬質ポリ塩化ビニル樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、「ビ二ホイルC-8195」、厚み100μm)を、加熱130℃で5秒間、その後の冷却を40℃で5秒間の条件でシート幅10mm×長さ40mm(熱融着長さ10mm、未熱融着長さ30mm)で熱融着させて積層シート(積層体)を得た。その後、未熱融着部分を手で持ってT字剥離試験を行い、以下の評価基準で評価した。
A:層間で剥離せずに材破した
B:積層シートが一部材破し、一部層間で剥離した。
C:積層シートが材破せずに完全に層間で剥離した。
【0117】
[表層/中層の層間剥離]
各実施例、比較例で得られたフィルム(多層フィルム)表面の一部を黒マジックで塗った後に、PETGからなる厚み100μmのPETGフィルムに重ねて、熱プレス機「NF-37」(神藤金属工業所社製)を用いて120℃×6分×面圧2MPa、その後、室温まで冷却して行う熱プレスによって熱融着させて、積層シート(積層体)を得た。
未融着部である黒塗り部を含むように積層シートを幅10mm×長さ40mmに切り出し、未熱融着部分を手で持ってT字剥離試験を行い、以下の評価基準で評価した。なお、層間剥離の評価では、層間(表層と中層の間)で剥離せずに、積層シートが材破するものは、表層と中層が適切に接着し、層間の接着強度が高いことを意味する。なお、破壊モードが、層間剥離か否かは、目視確認、或いは、各層の厚みから推定できる。
A:層間で剥離せずに材破した
B:積層シートが一部材破し、一部層間で剥離した。
C:積層シートが材破せずに完全に層間で剥離した。
【0118】
[同一フィルムでの熱融着性]
電動シーラ「インパルスシーラーOPL-200-10」(富士インパルス社製)を用いて、各実施例、比較例で得られたフィルム同士を、加熱時間5秒、その後の冷却を40℃×5秒の条件でシート幅10mm×長さ40mm(熱融着長さ10mm、未熱融着長さ30mm)で熱融着させた。その後、未熱融着部分を手で持ってT字剥離試験を行い、積層シートが材破するかどうかを確認した。加熱温度は10℃刻みで上げていき、材破した最初の温度(材破温度)を評価した。なお、材破温度は、積層シートが適切に融着する温度であり、低いほど低温熱融着性に優れていることを示す。
【0119】
[湿熱試験前後の色差(ΔE、Δb*)]
各実施例、比較例で得られた各フィルムに対して、エスペック社製恒温恒湿器「LHL-113」を用いて、60℃、90%RHの条件で7日間湿熱処理を行った。湿熱処理前と処理後のフィルムについて、コニカミノルタ社製の分光測色計「CM-2500d」にて色度(L*a*b*表色系)を測定し、湿熱処理前後における色差ΔEを評価した。色差ΔEは値が小さい方ほうが、処理前後での色変化が小さいことを示す。
また、湿熱処理後のb*から湿熱処理前のb*を減じたものをΔb*として評価した。Δb*は、青色と黄色間の色変化を示す尺度となるものであり、絶対値が小さいほど色変化が小さいことを示す。Δb*は、正の値である場合には黄色方向に色が変化したことを示し、負の値である場合には青色方向に色が変化したことを示す。
【0120】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
(樹脂)
ISP:ジヒドロキシ化合物として、イソソルバイドと1,4-シクロヘキサンジメタノールを用い、イソソルバイドに由来する構造単位:1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50:50(モル%)となるように溶融重合法により得たポリカーボネート樹脂。荷重たわみ温度(JIS K7191-2:2015 A法、1.80MPa):82℃
PC1:ビスフェノールAホモポリカーボネート(界面重合法)、Mw:72000、Mn:23900、Mw/Mn:3.0、メルトボリュームレート(300℃、1.2kgf):4cm/10分、荷重たわみ温度(JIS K7191-2:2015 A法、1.80MPa):130℃
PC2:ビスフェノールAホモポリカーボネート(溶融重合法)、Mw:72300、Mn:31800、Mw/Mn:2.28、メルトボリュームレート(300℃、1.2kgf):4cm/10分、荷重たわみ温度(JIS K7191-2:2015 A法、1.80MPa):131℃
PETG:非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの30モル%を、1-4-シクロヘキサンジメタノールで置換したポリエステル樹脂)、荷重たわみ温度(ASTM D648 A法、1.82MPa):64℃
酸化チタン:ルチル型、屈折率2.7
【0121】
[実施例1]
押出機を用いて、PC2、ISP、及び酸化チタンを表1に示す配合で混練して得た樹脂組成物(1)を、2種3層のマルチマニホールド式の口金より、中層として230℃で押出した。また、PETG、及び酸化チタンを表1に示す配合で混練して得た樹脂組成物(2)を、上記口金より、両表層として230℃で押出した。押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて冷却して、厚み比が1/2/1(表層/中層/表層)で総厚みが100μmである、樹脂層(2)/樹脂層(1)/樹脂層(2)からなる多層フィルム(本フィルム)を得た。
【0122】
[実施例2、3]
中層、及び表層の組成を表1に示すと通りに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0123】
[比較例1]
中層、及び表層の組成を表1に示すと通りに変更して、中層として240℃で押出して、かつ約95℃のキャスティングロールで冷却した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0124】
[比較例2]
中層、及び表層の組成を表1に示すと通りに変更して、約77℃のキャスティングロールで冷却して、かつ総厚みが50μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0125】
[比較例3]
中層、及び表層の組成を表1に示すと通りに変更して、約77℃のキャスティングロールで冷却した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0126】
[比較例4]
中層、及び表層の組成を表1に示すと通りに変更して、中層として260℃で押出して、両表層として235℃で押出して、約90℃のキャスティングロールで冷却して、かつ厚み比が1/4/1とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0127】
[比較例5、6]
押出機を用いて、表1に示す配合で混練して得た樹脂組成物を230℃で押出して、押出して得られたフィルムを、約95℃のキャスティングロールにて冷却して単層フィルムを得た。
【0128】
【表1】
【0129】
以上の表1に示す通り、実施例1~3では、中層をポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(B)の両方を含有する樹脂層(1)とすることで、PETG、PVCなどのポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分に対する接着強度が良好となった。そのため、表層(樹脂層(2))をPETGフィルムとする多層フィルムとしても、樹脂層(1)と樹脂層(2)の間で層間剥離が生じなかった。また、実施例1~3で得られた本フィルムは、低温融着性に優れるうえ、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を有するPETGフィルムや、PVCフィルムなどの別のフィルムに、高い接着強度で融着させることができた。
それに対して、比較例2~6のフィルムは、ポリカーボネート樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(B)の両方を含有する樹脂層(1)を有しなかったため、多層フィルム中の層間で剥離が生じたり、別のフィルムに融着した際に別のフィルムとの間に剥離が生じたりした。
また、比較例1では、表層を、ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂(B)とを含有する層とすることで、多層フィルムにおける層間の接着強度や、別のフィルムに融着した際の接着強度を高くすることができたが、低温融着性を確保することができなかった。
【符号の説明】
【0130】
1 レーザーマーキングシート
2 コアシート
3 ヒンジシート
4 オーバーシート
20A、20B、20C カード
10A、10B、10C パスポート
図1
図2