(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069067
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ガラス板、曲げガラス、合わせガラス、車両用窓ガラス及び建築用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/085 20060101AFI20240514BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179856
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】梶原 貴人
(72)【発明者】
【氏名】澤村 茂輝
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB01
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4G062NN29
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れたクラック耐性および遮熱性を両立するガラス板の提供を目的とする。
【解決手段】酸化物基準のモル%表示で、75.0%≦SiO2≦85.0%、1.5%≦Al2O3≦7.0%、0.0%≦MgO≦10%、0.0%≦CaO≦10%、0.0%≦SrO≦0.50%、0.0%≦BaO≦1.0%、0.0%≦Li2O≦10%、0.0%≦Na2O≦20%、0.0%≦K2O≦10%、1.0%≦RO≦10%、8.0%≦R2O≦22%、0.030%≦Fe2O3≦1.0%、RO/R2O≦0.70(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種、R2OはLi2O、Na2O、K2Oから選ばれる少なくとも1種)を含有し、厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される日射透過率Teが90%以下である、ガラス板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、
75.0%≦SiO2≦85.0%
1.5%≦Al2O3≦7.0%
0.0%≦MgO≦10%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦0.50%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦10%
0.0%≦Na2O≦20%
0.0%≦K2O≦10%
1.0%≦RO≦10%
8.0%≦R2O≦22%
0.030%≦Fe2O3≦1.0%
RO/R2O≦0.70
(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種、R2OはLi2O、Na2O、K2Oから選ばれる少なくとも1種)
を含有し、
厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される日射透過率Teが90%以下である、ガラス板。
【請求項2】
クラック発生率が50%となる荷重が0.25kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.90MPa・m0.5以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
厚さを2.0mmに換算したときの、D65光源を用いてISO-9050:2003で定義される可視光透過率Tvが75%以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項4】
厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される紫外線透過率Tuvが70%以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項5】
ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1700℃以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項6】
ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1200℃以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項7】
ガラス粘度が1012dPa・sとなる温度T12が610℃以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項8】
50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が90×10-7/℃以下である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項9】
MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、CaOを0.0%以上3.0%以下、K2Oを0.0%以上3.0%以下含有する、請求項1に記載のガラス板。
【請求項10】
50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が85×10-7/℃以下である、請求項9に記載のガラス板。
【請求項11】
B2O3を実質的に含有しない、請求項1に記載のガラス板。
【請求項12】
MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、Al2O3を2.0%以上、CaOを0.0%以上3.0%以下、Na2Oを10%以上、K2Oを0.0%以上2.0%以下含有し、B2O3を実質的に含有せず、クラック発生率が50%となる荷重が0.50kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.93MPa・m0.5以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項13】
請求項1に記載のガラス板からなる、曲げガラス。
【請求項14】
請求項7に記載のガラス板からなる、曲げガラス。
【請求項15】
第1ガラス板と、第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板の間に挟持される中間膜とを有し、
前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板の少なくとも一方が、請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス板、または、請求項13または14に記載の曲げガラスである、合わせガラス。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス板を備える車両用窓ガラス。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載のガラス板を備える建築用窓ガラス。
【請求項18】
請求項15に記載の合わせガラスを備える車両用窓ガラス。
【請求項19】
請求項15に記載の合わせガラスを備える建築用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板、曲げガラス、合わせガラス、車両用窓ガラス及び建築用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車をはじめとする車両用のガラスや建築用のガラスは、省エネルギーの観点から遮熱性が求められている。遮熱性が高いガラスを車両用に用いることで、日射による車両内の温度の上昇が抑制され、冷房負荷を低減できる。
【0003】
特許文献1には、SrO及びBaOを合計で4重量%超含有させることにより、Fe2+の吸収ピーク波長を長波長側へ約100nm移動させ、可視光透過率が高く、さらに伝熱性の低いガラスが得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のガラスはSrOおよびBaOを合計で4重量%超含有するため、クラック耐性が悪く車両用窓ガラスとして用いた時に飛び石により割れやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みて、優れたクラック耐性および遮熱性を両立するガラス板、合わせガラス、さらに該ガラス板や該合わせガラスを用いた車両用窓ガラスまたは建築用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の組成範囲を有するガラス板とすることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]酸化物基準のモル%表示で、
75.0%≦SiO2≦85.0%
1.5%≦Al2O3≦7.0%
0.0%≦MgO≦10%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦0.50%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦10%
0.0%≦Na2O≦20%
0.0%≦K2O≦10%
1.0%≦RO≦10%
8.0%≦R2O≦22%
0.030%≦Fe2O3≦1.0%
RO/R2O≦0.70
(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種、R2OはLi2O、Na2O、K2Oから選ばれる少なくとも1種)
を含有し、
厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される日射透過率Teが90%以下である、ガラス板。
[2]クラック発生率が50%となる荷重が0.25kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.90MPa・m0.5以上である、[1]に記載のガラス板。
[3]厚さを2.0mmに換算したときの、D65光源を用いてISO-9050:2003で定義される可視光透過率Tvが75%以上である、[1]に記載のガラス板。
[4]厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される紫外線透過率Tuvが70%以下である、[1]に記載のガラス板。
[5]ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1700℃以下である、[1]に記載のガラス板。
[6]ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1200℃以下である、[1]に記載のガラス板。
[7]ガラス粘度が1012dPa・sとなる温度T12が610℃以下である、[1]に記載のガラス板。
[8]50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が90×10-7/℃以下である、[1]に記載のガラス板。
[9]MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、CaOを0.0%以上3.0%以下、K2Oを0.0%以上3.0%以下含有する、[1]に記載のガラス板。
[10]50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が85×10-7/℃以下である、[9]に記載のガラス板。
[11]B2O3を実質的に含有しない、[1]に記載のガラス板。
[12]MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、Al2O3を2.0%以上、CaOを0.0%以上3.0%以下、Na2Oを10%以上、K2Oを0.0%以上2.0%以下含有し、B2O3を実質的に含有せず、クラック発生率が50%となる荷重が0.50kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.93MPa・m0.5以上である、[1]に記載のガラス板。
[13][1]に記載のガラス板からなる、曲げガラス。
[14][7]に記載のガラス板からなる、曲げガラス。
[15]第1ガラス板と、第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板の間に挟持される中間膜とを有し、
前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板の少なくとも一方が、[1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板、または、[13]または[14]に記載の曲げガラスである、合わせガラス。
[16][1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板を備える車両用窓ガラス。
[17][1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板を備える建築用窓ガラス。
[18][15]に記載の合わせガラスを備える車両用窓ガラス。
[19][15]に記載の合わせガラスを備える建築用窓ガラス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば優れたクラック耐性および遮熱性を両立するガラス板、合わせガラス、さらに該ガラス板や該合わせガラスを用いた車両用窓ガラスまたは建築用窓ガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、SiO
2量とFe
2+の吸収ピーク位置との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、SiO
2量とFe
2+の吸収ピーク位置との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、SiO
2量とFe
2+の吸収係数との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る合わせガラスの一例の断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る合わせガラスが車両用の窓ガラスとして用いられた状態を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0011】
<ガラス組成>
本発明の実施形態に係るガラス板は、
酸化物基準のモル%表示で、
75.0%≦SiO2≦85.0%
1.5%≦Al2O3≦7.0%
0.0%≦MgO≦10%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦0.50%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦10%
0.0%≦Na2O≦20%
0.0%≦K2O≦10%
1.0%≦RO≦10%
8.0%≦R2O≦22%
0.030%≦Fe2O3≦1.0%
RO/R2O≦0.70
(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種、R2OはLi2O、Na2O、K2Oから選ばれる少なくとも1種)
を含有することを特徴とする。
【0012】
以下、本実施形態のガラス板における各成分の好ましい組成範囲について説明する。なお、各成分の組成範囲は、以下、特にことわりがない場合、酸化物基準のモル%表示とする。また、各成分について「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0013】
SiO2は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、本実施形態のガラス板の必須成分である。SiO2の含有量は、75.0%以上、85.0%以下である。SiO2の含有量が75.0%以上であることにより、ガラスの構造が強固となり、クラック耐性が向上し、さらに、またFe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持しつつ、遮熱性を向上させることができる。また、ガラスのヤング率が向上し、車両用途、建築用途等に必要とされる強度を確保しやすくなる。加えて、ガラスの比重を低減しやすく、さらに、耐湿性や化学耐久性を確保できる。また、平均線膨張係数が大きくなることを抑制し、ガラスの熱割れを抑制できる。SiO2の含有量は、75.5%以上がより好ましく、76.0%以上がさらに好ましく、76.5%以上が特に好ましい。
また、SiO2の含有量が85.0%以下であることにより、ガラス溶融時の粘性の増加が抑制され、ガラス製造が容易となるほか、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性が向上する。SiO2の含有量は、83.0%以下がより好ましく、81.0%以下がさらに好ましく、80.0%以下が特に好ましく、79.0%以下が最も好ましい。
【0014】
Al2O3は、本実施形態のガラス板の必須成分である。Al2O3の含有量は、1.5%以上、7.0%以下である。Al2O3が1.5%以上であることにより、耐候性、耐湿性および化学耐久性が向上する。また、平均線膨張係数が大きくなりすぎずガラスの熱割れを抑制できるほか、イオン交換を用いた化学強化処理が可能となる。Al2O3の含有量は1.8%以上が好ましく、1.9%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましく、2.2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。
また、Al2O3が7.0%以下であることにより、ガラス溶融時の粘性が増加することを抑制し、ガラス製造を容易にさせるほか、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性が向上する。Al2O3の含有量は、6.5%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましく、5.5%以下がさらに好ましく、5.0%以下が特に好ましい。
【0015】
MgOは、ガラス原料の溶解を促進し、耐湿性およびヤング率を向上させる成分である。MgOの含有量は、0.0%以上、10%以下である。MgOを含有させることで、耐候性、ヤング率が向上する。本実施形態のガラス板にMgOを含有させる場合は、0.20%以上が好ましく、0.50%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましく、2.0%以上が最も好ましい。
また、MgOの含有量が10%以下であれば、ガラスが失透しにくくなるとともに、ガラス溶融時の粘性が増加することを抑制し、ガラス製造を容易にさせるほか、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性が向上する。またFe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持しつつ、遮熱性を向上させることができる。MgOの含有量は、9.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、7.0%以下がさらに好ましく、6.5%以下が特に好ましく、6.0%以下が最も好ましい。
【0016】
CaOは、ガラス原料の溶解性を向上させる成分であり、また、ガラスの平均線膨張係数にも寄与する成分である。CaOの含有量は、0.0%以上、10%以下である。CaOを含有させることで、ガラス板の原料の溶解性を向上し、さらに粘性が低下するため建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性が向上する。本実施形態のガラス板にCaOを含有させる場合、その含有量は0.20%以上が好ましく、0.50%以上がより好ましく、0.70%以上がさらに好ましく、0.90%以上が特に好ましく、1.0%以上が最も好ましい。
また、CaOの含有量を10%以下にすることで、ガラスの密度の増加が避けられ、低脆性および強度が維持されるほか、平均線膨張係数を小さくできガラスの熱割れを抑制できる。また、Fe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持しつつ、遮熱性を向上させることができる。CaOの含有量は、9.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、7.0%以下がよりさらに好ましく、6.0%以下がことさらに好ましく、5.0%以下がなおさらに好ましく、4.0%以下が特に好ましく、3.0%以下が最も好ましい。
【0017】
SrOは、破壊靭性値を低下させるためクラック伝播が容易となり、クラック耐性の低下を引き起こす。そのため、本実施形態においては、SrOの含有量は、0.0%以上、0.50%以下である。SrOの含有量は、0.20%以下が好ましく、0.10%以下がより好ましく、0.050%以下がさらに好ましく、0.010%以下がよりさらに好ましく、0.0050%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0018】
BaOは、破壊靭性値を低下させるためクラック伝播が容易となり、クラック耐性の低下を引き起こす。そのため、本実施形態においては、BaOの含有量は、0.0%以上、1.0%以下である。BaOの含有量は、0.50%以下が好ましく、0.20%以下がより好ましく、0.10%以下がさらに好ましく、0.050%以下がよりさらに好ましく、0.010%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0019】
Li2Oは、少量の添加でガラスの溶解性を大幅に向上させる成分であり、また、ヤング率を大きくしやすくし、ガラスの平均線膨張係数にも寄与する成分である。さらに、Naイオンとのイオン交換による化学強化処理を行うことでガラスの強度を高めることもできる。Li2Oの含有量は、0.0%以上、10%以下である。
Li2Oを含有させることでガラスの粘性を低下させつつ、比重の増加を抑え50%クラック発生荷重が増加するだけでなく、破壊靭性値も向上するため建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性やクラック耐性が向上する。したがって、本実施形態のガラス板にLi2Oを含有させる場合は、0.20%以上が好ましく、0.50%以上がより好ましく、0.80%以上がさらに好ましく、1.0%以上がよりさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましく、2.0%以上が最も好ましい。
Li2Oの含有量が、10%以下であることにより、ガラス製造時の失透もしくは分相の発生を抑制し、ガラスの製造を容易にするほか、平均線膨張係数を小さくできガラスの熱割れを抑制できる。また、Fe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持しつつ、遮熱性を向上させることができる。さらにリチウム原料は高価であるため原料コストを抑える効果もある。Li2Oの含有量は、9.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、7.0%以下がさらに好ましく、6.0%以下がよりさらに好ましく、5.0%以下がことさらに好ましく、4.0%以下が特に好ましく、3.0%以下が最も好ましい。
【0020】
Na2Oは、ガラスの溶解性を向上させる成分であり、また、ヤング率を大きくしやすくし、ガラスの平均線膨張係数にも寄与する成分である。さらに、Kイオンとのイオン交換による化学強化処理を行うことでガラスの強度を高めることができる。Na2Oの含有量は、0.0%以上、20%以下である。
Na2Oを含有させることで、ガラスの粘性が低下するため、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールドの成形性が向上する。Na2Oの含有量は、5.0%以上が好ましく、7.0%以上がより好ましく、8.0%以上がさらに好ましく、9.0%以上がよりさらに好ましく、10%以上がことさらに好ましく、11%以上が特に好ましく、12%以上が最も好ましい。
Na2Oの含有量が20%以下であることにより、平均線膨張係数を小さくできガラスの熱割れを抑制できる。またガラスの耐湿性が向上するため車両用窓ガラスや建築用窓ガラスのような長期間大気にさらされるガラスとして好適となる。Na2Oの含有量は、19%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、17%以下がさらに好ましく、16%以下が特に好ましい。
【0021】
K2Oは、ガラスの溶解性を向上させる成分であり、また、ヤング率を大きくし、ガラスの平均線膨張係数にも寄与する成分である。K2Oの含有量は、0.0%以上、10%以下である。
K2Oを含有させることで、ガラスの粘性が低下するので、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールドの成形性が向上する。またFe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持しつつ、遮熱性を向上させることができる。したがって、K2Oを含有させる場合は、0.10%以上が好ましく、0.20%以上がより好ましく、0.30%以上がさらに好ましく、0.40%以上が特に好ましく、0.50%以上が最も好ましい。
一方で、Li2OやNa2Oに比べて、平均線膨張係数や比重を大きくする効果がある。K2Oの含有量は、10%以下であることで平均線膨張係数や比重の増加を抑制できる。K2Oの含有量は8.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましく、4.0%以下がよりさらに好ましく、3.0%以下が特に好ましく、2.0%以下が最も好ましい。
【0022】
本実施形態において、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計(以下、ROと称することがある)は、1.0%以上、10%以下である。ROが10%以下であれば、ガラスの脆性が低くなることを抑えガラスのクラック耐性を向上できる。ROは8.0%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7.0%以下さらに好ましく、6.5%以下がよりさらに好ましく、6.0%以下が特に好ましく、5.5%以下が最も好ましい。
また、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールドの成形性向上の観点から、ROは1.5%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましく、3.0%以上が特に好ましい。
【0023】
本実施形態においてLi2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2Oと称することがある)は、8.0%以上、22%以下である。R2Oが8.0%以上であることによりヤング率が高くなり、さらにガラスの粘性が低下するため、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールドの成形性が向上する。R2Oは、9.0%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、11%以上がさらに好ましく、12%以上が特に好ましく、13%以上が最も好ましい。
R2Oは、耐湿性を向上させる観点や比重の増加を抑えクラック耐性を向上させる観点から、22%以下であり、20%以下が好ましく、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましく、17%以下が特に好ましく、16%以下が最も好ましい。
【0024】
Fe2O3は、本実施形態のガラス板の必須成分である。Fe2O3は、ガラスの遮熱性を向上させる成分であり、また、ガラスの色味にも寄与する成分である。Fe2O3の含有量は、0.030%以上、1.0%以下である。なお、ここでいうFe2O3の含有量とは、二価鉄の酸化物であるFeOおよび三価鉄の酸化物であるFe2O3を含む全鉄量のことである。
Fe2O3を含有しない場合、遮熱性が求められる用途に使用できなくなるおそれがあり、また、ガラス板の製造のために、鉄の含有量の少ない高価な原料を使用する必要が生じる場合がある。さらに、Fe2O3を含有しない場合、ガラス溶融時に、必要以上に溶融炉底面に熱輻射が到達し、溶融窯に負荷がかかるおそれもある。本実施形態のガラス板におけるFe2O3の含有量は、0.040%以上が好ましく、0.080%以上がより好ましく、0.10%以上がさらに好ましく、0.12%以上がよりさらに好ましく、0.14%以上がことさらに好ましく、0.16%以上が特に好ましく、0.18%以上が最も好ましい。
一方、Fe2O3の含有量が多すぎると、製造時、輻射による伝熱が妨げられて原料が溶融しにくくなるおそれがある。さらに、Fe2O3の含有量が多くなりすぎると、可視域の光透過率の低下が発生し、車両用窓ガラス等に適さなくなるおそれがある。Fe2O3の含有量は、1.0%以下であり、0.80%以下が好ましく、0.70%以下がより好ましく、0.60%以下がさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましく、0.40%以下が最も好ましい。
【0025】
本実施形態のガラス板において、ROをR2Oで除した値(RO/R2O)は0.70以下である。RO/R2Oが0.70以下であることで、ガラスの耐擦傷性が向上する。一般的に、ガラスの表面に微小な傷が発生した場合、その部分に力が加わるとクラックが発生しやすい。そのため、耐擦傷性が向上することで、クラック耐性も向上する。さらに、RO/R2Oが0.70以下であることで、ガラスの粘性が低下するため、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールドの成形性が向上する。RO/R2Oは、0.60以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましく、0.40以下が特に好ましい。また、RO/R2Oの下限は、失透抑制の観点から0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましく、0.20以上が特に好ましい。
【0026】
本実施形態のガラス板は、B2O3が5.0%以下であることが好ましい。B2O3が5.0%以下であることにより、R2Oとの反応によるガラス溶解時の揮散を抑制し、脈利が発生しにくくガラス板の均質性の低下を抑制する。その結果、クラック耐性の低下が抑えられる。B2O3は3.0%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましく、1.0%以下がよりさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。本実施形態において、B2O3を実質的に含有しないとは、例えば、含有量として0.10%以下であることを意味する。
【0027】
本実施形態においてSiO2+Al2O3、すなわちSiO2の含有量とAl2O3の含有量の合計は、76.5%以上であることが好ましい。SiO2+Al2O3が76.5%以上であることにより、クラック耐性が向上し、さらにガラスの耐湿性が向上するほか、ガラスの平均線膨張係数が高くなりすぎることを抑制できるため、車両用・建築用の窓ガラスとして好適となる。SiO2+Al2O3は、77.0%以上がより好ましく、77.5%以上がさらに好ましく、78.0%以上がよりさらに好ましく、78.5%以上が特に好ましく、79.0%以上が最も好ましい。
SiO2+Al2O3は、ガラスの原料の溶解性や建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、特にウィンドシールド等の成形性の向上の観点から、86.0%以下が好ましく、85.0%以下がより好ましく、83.0%以下がさらに好ましく、82.0%以下が特に好ましい。
【0028】
本実施形態のガラス板において、ROをSiO2で除した値(RO/SiO2)は0.13以下であることが好ましい。RO/SiO2が0.13以下であることにより、ガラスの比重が低下しクラック耐性、特に50%クラック発生荷重が向上する。さらに、RO/SiO2が0.13以下であることにより、後述のようにFe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせることができ、高い可視光透過率と遮熱性を両立させることができる。RO/SiO2は、0.11以下がより好ましく、0.09以下がさらに好ましく、0.08以下が特に好ましく、0.07以下が最も好ましい。また、RO/SiO2は、ガラスの粘性を低くするために0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、0.04以上が特に好ましい。
【0029】
本実施形態のガラス板において、ROの含有量とR2Oの含有量の合計を、SiO2の含有量とAl2O3の含有量の合計で除した値(RO+R2O)/(SiO2+Al2O3)は、0.15以上、0.31以下であることが好ましい。(RO+R2O)/(SiO2+Al2O3)が上記範囲内であることで、クラック耐性が向上できる。(RO+R2O)/(SiO2+Al2O3)は、0.17以上がより好ましく、0.19以上がさらに好ましく、0.21以上が特に好ましい。また、(RO+R2O)/(SiO2+Al2O3)は、0.29以下がより好ましく、0.28以下がさらに好ましく、0.27以下が特に好ましい。
【0030】
本実施形態のガラス板は、Fe2O3に換算した全鉄中のFe2O3に換算した2価の鉄の質量割合(%)(以下、Fe-Redoxという)が15%以上であることが好ましい。Fe-Redoxの値は、Fe2O3換算の全鉄含有量に対するFe2O3換算のFe2+含有量の割合である。
本実施形態のガラス板は、Fe-Redoxが15%以上であることにより近赤外域に吸収をもつFe2+の含有量を高めることができるため、その結果、近赤外域の透過率が低下し遮熱性を向上できる。Fe-Redoxは20%以上がより好ましく、22%以上がさらに好ましく、24%以上が特に好ましい。また、Fe-Redoxは、50%以下であることが好ましい。Fe-Redoxが50%以下であることにより、溶解設備の劣化が抑えられるほか、清澄剤にSO3を用いた場合にアンバー発色を抑制し可視光透過率の低下を抑えることができる。Fe-Redoxは、45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましく、38%以下が特に好ましい。
【0031】
Fe-Redoxは、原料構成や溶解温度、溶解雰囲気により調整できる。また、Fe-Redoxは、原料としてコークスや塩化アンモニウムなどの還元剤を用いることでガラスの融液の酸化還元度を制御することにより、調整できる。
【0032】
また、本実施形態のガラス板は、MgOを含有し、Al2O3を2.0%以上、CaOを0.0%以上3.0%以下、Na2Oを10%以上、K2Oを0.0%以上2.0%以下含有し、B2O3を実質的に含有せず、後述するクラック発生率が50%となる荷重が0.50kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.93MPa・m0.5以上であることが好ましい。本実施形態のガラス板が上記の構成を有することで、平均線膨張係数の増加を抑え、均質性に優れ、耐湿性と曲げ成形性を維持しつつ、クラック耐性と光学特性に優れたガラス板にすることができる。
【0033】
本実施形態のガラス板は、上記のSiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、Li2O、Na2O、K2O、Fe2O3、SrO、BaO以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含んでいてもよい。
【0034】
その他の成分は、例えば、TiO2、ZrO2、Y2O3、CeO2、Nd2O5、GaO2、GeO2、MnO2、NiO、Cr2O3、V2O5、Au2O3、Ag2O、CuO、CdO、MoO3、SO3、Cl、F、SnO2、Sb2O3などが挙げられ、金属イオンでもよく、酸化物でもよい。その他の成分は諸目的(例えば清澄および着色、化学耐久性など)のために3.0%以下含有し得る。その他の成分の含有量が3.0%以下であれば、50%クラック発生荷重を従来のソーダライムガラスに比べて高めたまま、清澄性やガラスの着色、化学耐久性を調整できる。その他の成分の含有量は、2.5%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、1.0%以下が特に好ましく、0.50%以下が最も好ましい。また、環境への影響を防ぐため、As2O3、PbOの含有量は、それぞれ0.0010%未満が好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0035】
本実施形態のガラス板はTiO2を含んでもよい。TiO2は、紫外域に吸収をもつため紫外線透過率Tuvを低下させUVカット性能を向上させる。本実施形態のガラス板がTiO2を含む場合、その含有量は0.010%以上が好ましく、0.040%以上がより好ましく、0.075%以上がさらに好ましく、0.15%以上が特に好ましい。TiO2は可視域の光に対して着色をもつため、可視光透過率Tvの低下やガラスの色味が黄緑色や褐色に変化するおそれがある。本実施形態のガラス板がTiO2を含む場合、その含有量は、2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましく、0.30%以下が最も好ましい。
【0036】
本実施形態のガラス板はZrO2を含んでもよい。ZrO2は、化学耐久性を向上させる成分である。本実施形態のガラス板がZrO2を含む場合、その含有量は0.010%以上が好ましく、0.050%以上がより好ましく、0.10%以上がさらに好ましく、0.20%以上が特に好ましい。また、50%クラック発生荷重の低下を抑制する観点から、ZrO2の含有量は2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましい。
【0037】
本実施形態のガラス板はY2O3を含んでもよい。Y2O3は、ヤング率を向上させる成分である。本実施形態のガラス板がY2O3を含む場合、その含有量は0.010%以上が好ましく、0.050%以上がより好ましく、0.10%以上がさらに好ましく、0.20%以上が特に好ましい。また、圧子圧入法(IF法)で求められる破壊靭性値や50%クラック発生荷重の低下を抑制する観点から、Y2O3の含有量は2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましい。
【0038】
本実施形態のガラス板は、NiOを含有させると、NiSの生成によりガラス破壊がもたらされ得るため、その含有量は0.0080%以下であることが好ましい。本実施形態のガラス板におけるNiOの含有量は、0.0040%以下がより好ましく、0.0020%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0039】
本実施形態のガラス板はCeO2を含んでもよい。CeO2は紫外域に吸収をもつため紫外線透過率Tuvを低下させUVカット性能を向上させる。本実施形態のガラス板がCeO2を含む場合、その含有量は0.010%以上が好ましく、0.020%以上がより好ましく、0.040%以上がさらに好ましく、0.070%以上が特に好ましい。CeO2は紫外域の光を吸収することでソーラリゼーションが生じ、可視域の透過率が低下するおそれがある。本実施形態のガラス板がCeO2を含む場合、0.25%以下が好ましく、0.18%以下がより好ましく、0.14%以下がさらに好ましく、0.10%以下が特に好ましい。
【0040】
本実施形態のガラス板はCr2O3を含んでもよい。Cr2O3は、酸化剤として作用して、Fe2+量を制御できる。本実施形態のガラス板がCr2O3を含む場合、その含有量は0.0020%以上が好ましく、0.0040%以上がより好ましい。Cr2O3は可視域の光に対して着色をもつため、可視光透過率が低下するおそれがある。また、Fe2+量が減少し、遮熱性が低下するおそれがある。そのため本実施形態のガラス板がCr2O3を含む場合、0.020%以下が好ましく、0.016%以下がより好ましく、0.012%以下がさらに好ましく、0.0080%以下が特に好ましい。
【0041】
本実施形態のガラス板はSnO2を含んでもよい。SnO2は、還元剤として作用して、Fe2+量を制御できる。本実施形態のガラス板がSnO2を含む場合、その含有量は0.010%以上が好ましく、0.040%以上がより好ましく、0.060%以上がさらに好ましく、0.080%以上が特に好ましい。一方、ガラス製造時にSnO2由来の欠点を抑制するために、本実施形態のガラス板におけるSnO2の含有量は、0.40%以下が好ましく、0.30%以下がより好ましく、0.20%以下がさらに好ましく、0.15%以下が特に好ましい。
【0042】
本実施形態のガラス板はSO3を含んでもよい。SO3は清澄剤として作用するためガラスの泡品質を向上させる。本実施形態のガラス板がSO3を含む場合、その含有量は0.0010%以上が好ましく、0.0040%以上がより好ましく、0.0070%以上がさらに好ましく、0.015%以上が特に好ましい。SO3はFe-Redoxが高い場合アンバー発色が生じガラスが褐色になり、可視光透過率が低下するおそれがある。本実施形態のガラス板がSO3を含む場合、0.070%以下が好ましく、0.060%以下がより好ましく、0.050%以下がさらに好ましく、0.040%以下が特に好ましい。
【0043】
本実施形態のガラス板はClを含んでもよい。Clは清澄剤として作用するためガラスの泡品質を向上させる。本実施形態のガラス板がClを含む場合、その含有量は0.080%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましく、0.20%以上がさらに好ましく、0.25%以上が特に好ましく、0.30%以上が最も好ましい。Clは含有量が多いとガラスの融液から揮散したCl2ガスが周囲の部材を腐食するおそれがある。本実施形態のガラス板がClを含む場合、1.0%以下が好ましく、0.80%以下がより好ましく、0.60%以下がさらに好ましく、0.50%以下が特に好ましい。
【0044】
<特性>
(日射透過率:Te)
本実施形態のガラス板は、厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003規定の日射透過率Teが90%以下である。Teが90%以下であれば、ガラスの遮熱性が優れている。Teは、88%以下が好ましく、86%以下がより好ましく、84%以下がさらに好ましく、82%以下が特に好ましく、80%以下が最も好ましい。Teの下限は特に限定されないが、通常30%以上であり、好ましくは32%以上であり、より好ましくは34%以上であり、特に好ましくは36%以上である。Teを上記の範囲とするには、Fe2O3量を0.030%以上に調整することによって達成できる。
【0045】
(可視光透過率:Tv)
本実施形態のガラス板は、厚さを2.00mmに換算したときの、ISO-9050:2003の規定に従いD65光源を用いて分光光度計により透過率を測定して算出した可視光透過率Tvが75%以上であることが好ましい。Tvが75%以上であることによって、優れた透明性を有するため、車両用のウィンドシールドやドアガラスとして好適に用いられる。Tvは、78%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、82%以上がよりさらに好ましく。84%以上が特に好ましく、86%以上が最も好ましい。Tvの上限は特に限定されないが、例えば92%以下である。Tvを上記の範囲とするには、ガラス組成、特にSiO2やFe2O3、もしくはFe-Redox調整することによって達成できる。
【0046】
本実施形態のガラス板は、日射透過率Teが低く、かつ、可視光透過率Tvが高いことが好ましい。すなわち、Tv/Teが1.15以上であることが好ましい。Tv/Teが1.15以上であることにより、優れた透明性と遮熱性を両立するガラス板となり、車両用・建築用の窓ガラスとしてより好適となる。Tv/Teは1.17以上であることがより好ましく、1.19以上がさらに好ましく、1.20以上が特に好ましく、1.21以上が最も好ましい。Tv/Teの上限は特に限定されないが、例えば、1.50以下である。Tv/Teを上記の範囲とするには、ガラス組成、特にSiO2やFe2O3、もしくはFe-Redoxを調整することによって達成できる。
【0047】
本実施形態のガラス板は、可視光透過率Tvと日射透過率Teの差分と可視光透過率Tvの積である(Tv-Te)×Tvが200%2以上であること好ましい。(Tv-Te)×Tvが200%2以上であることによって、優れた視認性と遮熱性を両立したガラスとすることができる。(Tv-Te)×Tvは、より好ましくは500%2以上であり、さらに好ましくは1000%2以上であり、よりさらに好ましくは1100%2以上であり、ことさらに好ましくは1150%2以上であり、特に好ましくは1200%2以上であり、最も好ましくは1250%2以上である。
【0048】
本実施形態のガラス板は、可視光透過率Tvと日射透過率Teの差分と可視光透過率Tvの積である(Tv-Te)×Tvを、ガラス中のFe2O3量で除した(Tv-Te)×Tv÷Fe2O3が6000%2/モル%以上であること好ましい。(Tv-Te)×Tv÷Fe2O3は単位モル%あたりの可視光透過率Tvと日射透過率Teの両立性の指標となるため、この値が大きいほど優れた視認性と遮熱性を両立しやすいガラス組成であることを示す。(Tv-Te)×Tv÷Fe2O3はより好ましくは6500%2/モル%以上であり、さらに好ましくは6700%2/モル%以上であり、よりさらに好ましくは6900%2/モル%以上であり、特に好ましくは7100%2/モル%以上であり、最も好ましくは7500%2/モル%以上である。
【0049】
(紫外線透過率:Tuv)
本実施形態のガラス板は、紫外線の透過性は低いことが好ましく、厚さを2.00mmに換算したとき、ISO-9050:2003で定義される紫外線透過率Tuvは、70%以下が好ましい。Tuvが70%以下であることにより、本実施形態のガラス板を合わせガラスに用いた時の中間膜や車室内のシートなどの部材の劣化を抑制できる。Tuvは68%以下がより好ましく、66%以下がさらに好ましく、64%以下がよりさらに好ましく、62%以下が特に好ましく、60%以下が最も好ましい。また、Tuvの下限は、例えば10%以上である。Tuvを上記の範囲とするには、ガラス組成、特にSiO2やFe2O3、TiO2やCeO2もしくはFe-Redoxを調整することによって達成できる。
【0050】
(Fe2+の吸収ピーク波長)
本実施形態のガラス板において、Fe2+の吸収ピーク波長が950nm以上であることが好ましい。Fe2+の吸収ピーク波長が950nm以上であることで、ガラス板の可視光透過率を向上でき、車両用・建築用の窓ガラスとしてより好適となる。Fe2+の吸収ピーク波長は、980nm以上が好ましく、1000nm以上がより好ましく、1020nm以上がさらに好ましく、1040nm以上がよりさらに好ましく、1060nm以上がことさらに好ましく、1080nm以上が特に好ましく、1100nm以上が最も好ましい。また、後述するようにSiO2量が増加し、ガラス溶融時の粘性やウィンドシールドの曲げ成形時の粘性増加を抑制する観点や、K2O量が増加し平均線膨張係数の増加を抑制する観点から、Fe2+の吸収ピーク波長が1200nm以下であることが好ましく、1180nm以下がより好ましく、1160nm以下がさらに好ましい。
Fe2+の吸収ピーク波長を上記の範囲とするには、SiO2の含有量を増やす、ROの中でもアルカリ土類金属成分の元素番号が大きいものの割合を増やす、R2Oの中でもアルカリ金属成分の元素番号が大きいものの割合を増やす、といった方法が挙げられる。
【0051】
ガラス中ではFe2+イオンは周囲の構造の影響を受け、4配位、5配位や6配位などの様々な配位構造や歪んだ構造をとることが知られており、このFe2+イオンの局所構造がFe2+の吸収ピーク波長を決定する。元素番号の大きなアルカリ土類金属元素であるSrやBaは、含有量の増加に伴い、圧子圧入法(IF法)により測定して得られる破壊靱性値(Kc)を低下させクラック耐性を低下させる傾向がある。またアルカリ金属成分の元素番号が大きなKは平均線膨張係数が大きく増加するため多量に含有することは好ましくない。
一方でSiO2はガラスのクラック耐性を向上させる成分であるため、SiO2の含有量を増やすことは好ましい。また、SiO2はガラスのFe2+の吸収ピーク波長を長波長にシフトさせ可視域の透過率を維持させる成分であるため、SiO2の含有量を増やすことは好ましい。
【0052】
SiO
2とガラスのFe
2+の吸収ピーク波長との関係について説明する。表1および
図1は、後述する例19のガラス組成に対して、SiO
2をアルカリ金属(R
2O)またはアルカリ土類金属(RO)もしくはその両方によって置換した際のFe
2+の吸収ピーク波長の変化を示している。また、
図2は、表1に記載のガラスにおける、SiO
2の含有量と、Fe
2+の吸収ピーク波長との関係を示すグラフである。
【0053】
【0054】
図1および
図2に示すように、SiO
2量が減少するにつれて、波長950~1200nmに観察されるFe
2+の吸収ピーク波長が短波長にシフトする。Fe
2+の吸収ピーク波長が短波長にシフトすると可視域の透過率が低下し、優れた視認性と遮熱性の両立が困難になる。
また、
図3は、表1に記載のガラスにおける、SiO
2量とFe
2+の吸収係数との関係を示すグラフである。
図3に示すように、SiO
2量が多いほどFe
2+の吸収係数が多くなることがわかる。これは同じ鉄量かつ同じFe-Redoxのガラス同士で比較すると、SiO
2量の多いガラスほど遮熱性の高いガラスを実現できること、またFe
2+の吸収ピーク波長が長波長に位置するためにFe-Redoxが高くなった際に可視域の透過率の低下が抑えられることを示している。以上の理由からSiO
2の含有量を増やすことは好ましい。
【0055】
(50%クラック発生荷重)
本実施形態に係るガラス板は、クラック発生率が50%となる荷重(50%クラック発生荷重)が0.25kg以上であることが好ましい。50%クラック発生荷重はガラスの強度の指標であり、50%クラック発生荷重の値が大きいほど、割れに対する耐性が高いことを示す。50%クラック発生荷重は、より好ましくは0.30kg以上、さらに好ましくは0.50kg以上、よりさらに好ましくは0.75kg以上、ことさらに好ましくは1.0kg以上、なおさらに好ましくは1.2kg以上、一層好ましくは1.4kg以上、特に好ましくは1.6kg以上、最も好ましくは1.8kg以上である。50%クラック発生荷重は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0056】
(破壊靱性値(Kc))
本実施形態のガラス板は、JIS R1607:2010に準拠して圧子圧入法(IF法)により測定した破壊靱性値(Kc)が0.90MPa・m0.5以上であることが好ましい。Kcは、ガラスの強度の指標であり、Kcが大きいほどクラックが進行しづらく、割れに対する耐性が高いことを示す。Kcは、0.92MPa・m0.5以上がより好ましく、0.93MPa・m0.5以上がさらに好ましく、0.94MPa・m0.5以上がよりさらに好ましく、0.95MPa・m0.5以上がことさらに好ましく、0.96MPa・m0.5以上が特に好ましく、0.97MPa・m0.5以上が特に好ましい。
上記の50%クラック発生荷重や破壊靱性値を上記範囲とするには、SiO2の含有量を増やす、ROの中でもアルカリ土類金属成分の元素番号が小さいものの割合を増やす、R2Oの中でもアルカリ金属成分の元素番号が小さいものの割合を増やす、といった方法が挙げられる。より具体的には、SiO2は網目構造を形成する成分であるため、含有量を増加させることによりガラスの構造が強固となり、クラック耐性を向上できる。また、ROは、アルカリ金属成分の元素番号が小さいものほど、ガラスの密度の増加を抑制し、クラック耐性を向上できる。R2Oについても、アルカリ土類金属成分の元素番号が小さいものほどROと同様の傾向を示す。本実施形態においては、これらの成分を特定の範囲とすることで、優れた耐クラック性を示すガラス板が得られる。また、上記の通り、Fe2+の吸収ピーク波長とTv/Te、(Tv-Te)×Tv、(Tv-Te)×Tv÷Fe2O3についても考慮し、ガラス板の組成を調整することで、クラック耐性、遮熱性および透明性が優れたガラス板が得られる。
【0057】
(平均線膨張係数)
本実施形態のガラス板の50℃~350℃における平均線膨張係数(CTE)は、90×10-7/℃以下であることが好ましい。平均線膨張係数は、90×10-7/℃以下であることで、車両用窓ガラスや建築用窓ガラスとして用いた場合にヒートショックによる割れを抑制できる。また、本実施形態のガラス板を曲げガラスとしたときの面内の熱履歴の違いに伴う熱膨張差が抑えられ、寸法および面精度の良い曲げガラスとすることができる。本実施形態のガラス板の50℃~350℃における平均線膨張係数は、88×10-7/℃以下がより好ましく、86×10-7/℃以下がさらに好ましく、85×10-7/℃以下がよりさらに好ましく、82×10-7/℃以下が特に好ましく、80×10-7/℃以下が最も好ましい。
また、本実施形態のガラス板は、ウィンドシールドに印刷される黒セラミックとの熱膨張差に伴う黒セラミックの割れ抑制の観点から、平均線膨張係数が50×10-7/℃以上であることが好ましい。平均線膨張係数が50×10-7/℃以上であることで、黒セラミックとの熱膨張差が小さくなり黒セラミックの割れを抑制できる。平均線膨張係数は、55×10-7/℃以上がより好ましく、60×10-7/℃以上がさらに好ましく、65×10-7/℃以上が特に好ましく、70×10-7/℃以上が最も好ましい。
平均線膨張係数を上記範囲とするには、ガラスの成分のSiO2の含有量を増やし、R2O、ROおよびAl2O3の含有量を調整する方法が挙げられる。
【0058】
(T2)
本実施形態のガラス板において、ガラスの溶解性の基準となる、ガラス粘度ηが102[dPa・s]となる温度T2が1700℃以下であることが好ましい。T2が1700℃以下であることにより、ガラスの原料溶解時に使用する燃料の消費が抑えられるほか、溶解窯に使用されているレンガ部材の寿命を延ばすことができる。
T2を1700℃以下にする方法としては、例えば、ガラス板の成分のR2OおよびROの含有量を増やし、Al2O3の含有量を減らす方法、R2Oの中でもLi2Oを含有させる方法、SiO2の含有量を減らす方法、原料の揮散が設備に影響しない範囲でB2O3を含有させる方法が挙げられる。本実施形態のガラス板において、T2は1675℃以下がより好ましく、1650℃以下がさらに好ましく、1640℃以下がよりさらに好ましく、1630℃以下が特に好ましく、1620℃以下が最も好ましい。また、ガラスのクラック耐性を維持する観点やガラスの平均線膨張係数が大きくなりすぎることを抑制する観点から、T2は1450℃以上が好ましく、1475℃以上がより好ましく、1500℃以上がさらに好ましく、1525℃以上が特に好ましく、1550℃以上が最も好ましい。
【0059】
(T4)
本実施形態のガラス板において、フロート成形時の成形性の基準となる、ガラス粘度ηが104[dPa・s]となる温度T4が1200℃以下であることが好ましい。T4が1200℃以下であることにより、フロート法での板成形に好適である。
T4を1200℃以下にする方法としては、例えば、ガラス板の成分のR2OおよびROの含有量を増やし、Al2O3の含有量を減らす方法、R2Oの中でもLi2Oを含有させる方法、SiO2の含有量を減らす方法、原料の揮散が設備に影響しない範囲でB2O3を含有させる方法が挙げられる。本実施形態のガラス板において、T4は1180℃以下がより好ましく、1170℃以下がさらに好ましく、1160℃以下がよりさらに好ましく、1150℃以下が特に好ましく、1140℃以下が最も好ましい。また、ガラスのクラック耐性を維持する観点やガラスの平均線膨張係数が大きくなりすぎることを抑制する観点から、T4は1000℃以上が好ましく、1025℃以上がより好ましく、1050℃以上がさらに好ましく、1070℃以上が特に好ましい。
【0060】
(T12)
本実施形態のガラス板において、曲げ加工性の基準となる、ガラス粘度ηが1012[dPa・s]となる温度T12が610℃以下であることが好ましい。T12が610℃以下であることにより、低い温度での曲げ加工成形が可能となる。
T12を610℃以下にする方法としては、例えば、ガラス板の成分のR2OおよびROの含有量を増やし、Al2O3の含有量を減らす方法、R2Oの中でもLi2Oを含有させる方法、SiO2の含有量を減らす方法、原料の揮散が設備に影響しない範囲でB2O3を含有させる方法が挙げられる。本実施形態のガラス板において、T12は605℃以下がより好ましく、600℃以下がさらに好ましく、595℃以下がよりさらに好ましく、590℃以下がことさらに好ましく、585℃以下が特に好ましく、580℃以下が最も好ましい。また、ガラスのクラック耐性を維持する観点やガラスの平均線膨張係数が大きくなりすぎることを抑制する観点や、ウィンドシールドに印刷される黒セラミックの焼成温度の観点から、T12は540℃以上が好ましく、545℃以上がより好ましく、550℃以上がさらに好ましく、555℃以上が特に好ましく、560℃以上が最も好ましい。
【0061】
(比重)
本実施形態のガラス板の比重は、2.48以下であることが好ましい。比重が2.48以下であることにより、燃費や電費の観点から、車両用・建築用の窓ガラスとしてより好適となる。またクラック耐性も高くすることができる。本実施形態のガラス板の比重は、2.47以下がより好ましく、2.46以下がさらに好ましく、2.45以下がよりさらに好ましく、2.44以下がことさらに好ましく、2.43以下が特に好ましく、2.42以下が最も好ましい。また、本実施形態のガラス板の比重は、車内の遮音性を高める観点から2.30以上が好ましく、2.32以上がより好ましく、2.34以上が特に好ましく、2.36以上が最も好ましい。
【0062】
(ヤング率)
本実施形態のガラス板のヤング率は、65GPa以上が好ましく、66GPa以上がより好ましく、67GPa以上がさらに好ましく、68GPa以上が特に好ましい。ヤング率が上記範囲であることで、ガラス板が高い剛性を有し、車両用の窓ガラス等に対してより好適となる。
一方、ヤング率が高すぎるとガラスが変形しにくくなるため、飛び石が衝突したときのエネルギーを吸収できずにガラスが割れるおそれがある。そのため、ヤング率は80GPa以下が好ましく、79GPa以下がより好ましく、78GPa以下がさらに好ましく、77GPa以下が特に好ましい。
【0063】
(Tg)
本実施形態のガラス板のガラス転移温度(Tg)は、460℃以上、590℃以下が好ましい。なお、本明細書において、Tgは、ガラス転移点を表す。Tgがこの所定温度範囲内であれば、通常の製造条件範囲内でガラス板の曲げ加工ができる。本実施形態のガラス板のTgが460℃以上であることで、アルカリ金属含有量、あるいはアルカリ土類金属含有量が大きくなりすぎず、ガラスの平均線膨張係数が大きくなることを抑制できる。また、耐湿性の低下を抑制し、さらに、ガラスの失透を抑制し、成形性を向上させる。Tgは、480℃以上がより好ましく、490℃以上がさらに好ましく、500℃以上が特に好ましい。一方、ガラス板の曲げ加工温度が過大となることを抑制し、製造を容易にする観点から、Tgは、590℃以下が好ましく、585℃以下がより好ましく、580℃以下がさらに好ましく、575℃以下が特に好ましく、570℃以下が最も好ましい。
【0064】
本実施形態のガラス板は、例えば、公知のフロート法で成形されたフロートガラスであることが好ましい。フロート法では、溶かしたガラス素地を錫等の溶融金属の上に浮かべ、厳密な温度操作で厚さ、板幅の均一なガラス板を成形できるほか大面積のガラス板を得ることもできる。
【0065】
また、本実施形態のガラス板は、公知のロールアウト法やダウンドロー法で成形されたガラス板でもよく、表面が研磨され、板厚の均一なガラス板としてもよい。ここでダウンドロー法は、スロットダウンドロー法とオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)とに大別されるが、いずれも、成形体から溶融ガラスを連続的に流れ落として、帯板状のガラスリボンを形成する手法である。
【0066】
本実施形態のガラス板の形状は特に限定されないが、主面の面積は0.25m2以上が好ましく、0.45m2以上がより好ましく、0.90m2以上がさらに好ましい。ガラス板の面積が上記範囲であると、様々な車種に対応できる。また、ガラス板の面積が大きすぎると、取り扱いが困難になる、加熱時の温度分布が不均一になる、曲げ成形後の寸法精度が悪くなるなど、曲げ成形の難易度があがるため、本実施形態のガラス板は、主面の面積が、10m2以下が好ましく、7m2以下がより好ましく、5m2以下がさらに好ましい。
【0067】
また、本実施形態のガラス板は、剛性向上や飛び石、車両のカギなどがガラス板に接触した際の強度を高めるために、厚みが0.50mm以上であることが好ましい。ガラス板の厚みは、1.00mm以上がより好ましく、1.50mm以上がさらに好ましく、1.75mm以上がよりさらに好ましく、2.00mm以上がことさらに好ましく、2.25mm以上がなおさらに好ましく、2.50mm以上が一層好ましく、2.75mm以上が特に好ましく、3.00mm以上が最も好ましい。また、ガラス板の重量増加にともなう燃費、電費の増加抑制の観点から、本実施形態のガラス板は、厚みが、4.00mm以下であることが好ましく、3.80mm以下であることがより好ましく、3.60mm以下であることがさらに好ましく、3.50mm以下であることが特に好ましく、3.40mm以下であることが最も好ましい。
【0068】
本実施形態のガラス板は風冷強化や化学強化による強化処理が施されたガラス板であってもよい。上記の処理を行うことでガラス板の強度を高めることができる。
【0069】
ここで、風冷強化とは、熱強化処理によってガラス板の表面に圧縮応力層を形成する処理である。具体的には、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス板の表面と内部との温度差によってガラス板の表面に圧縮応力を形成する。圧縮応力はガラス板の表面全体に均一に生じ、ガラス板の表面全体に均一な深さの圧縮応力層が形成される。熱強化処理は、化学強化処理に比べて、板厚の厚いガラス板の強化に適している。
【0070】
また、化学強化とは、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス板の表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きなアルカリ金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)に交換することで、ガラス板の表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理方法は公知の方法によって実施でき、例えばイオン交換法などがある。イオン交換法は、ガラス板を処理液(例えば硝酸カリウム溶融塩)に浸漬し、ガラスに含まれるイオン半径の小さなイオン(例えばNaイオン)をイオン半径の大きなイオン(例えばKイオン)に交換することで、ガラス板の表面に圧縮応力を生じさせる。
ガラス板の表面の圧縮応力(以下、表面圧縮応力CSともいう)の大きさ、ガラス板の表面に形成される圧縮応力層の深さDOLは、それぞれ、ガラス組成、化学強化処理時間、および化学強化処理温度により調整できる。
【0071】
[曲げガラス]
本実施形態に係る曲げガラスは、上記ガラス板からなる。すなわち、上記ガラス板を曲げて成形される。本実施形態の曲げガラスは、平板形状の上記ガラス板を重力成形又はプレス成形などにより湾曲形状に成形した曲げガラスであってよい。
【0072】
本実施形態の曲げガラスは、所定の曲率で湾曲するガラスであって、上下方向または左右方向のいずれか一方向にのみ湾曲する単曲ガラスでもよいし、上下方向または左右方向の両方向に湾曲する複曲ガラスでもよい。
【0073】
本実施形態の曲げガラスは、曲率半径の最小値が500mm以上100000mm以下であることが好ましい。曲げガラスの曲率半径は、サンプルを、レーザー変位計(神津精機社製のDyvoce)を用いて、両面差分モードによる自重たわみ補正により求められたサンプル本来が持つ反り量を元に形状シミュレーションにより算出し、シミュレーションで得られた形状から曲率半径が求められる。
【0074】
[曲げガラスの製造方法]
本実施形態に係る曲げガラスの製造方法においては、上記ガラス板を加熱して曲げることで、曲げガラスを成形する。
曲げガラスの成形方法としては、加熱したガラス板を成形型に載置した状態で上方よりプレス手段によって押圧して曲げ成形する方法が挙げられる。
また、所望の湾曲面に対応する曲げ成形面を有する成形型に、平板状のガラス板を載置し、この状態で成形型を加熱炉内に搬入し、加熱炉内でガラス板をガラス軟化点温度付近まで加熱する方法も挙げられる。この成形方法によれば、ガラス板は、軟化に伴い自重によって成形型の曲げ成形面に沿って湾曲するため、所望の湾曲面を有する曲げガラスに製造される。
【0075】
本実施形態においては、生産性向上および成形後の面精度向上の観点から、上記プレス手段による曲げ成形が好ましい。上記プレス手段による曲げ成形方法は特に制限されず、例えば、国際公開第2016/093031号等に記載の方法を適宜採用できる。以下、上記プレス手段による曲げ成形方法について、例示的に説明する。
【0076】
まず、本実施形態のガラス板を搬送コンベア等でプレスエリアまで搬送する。つづいて、プレスエリアにおいて、ガラス板を曲げ成形可能な温度に加熱して軟化させる。
ここで、曲げ成形可能な温度としては、例えば、ガラス粘度が1012[dPa・s]となる温度T12以上である。なお、当該加熱は、搬送コンベア等でプレスエリアまで搬送する過程で、加熱炉でヒータなどにより行ってもよい。
また、加熱温度(≧T12)を維持した条件における曲げ成形時間としては、例えば、1秒以上に設定できる。
【0077】
プレスエリアの所定位置には、プレス用下型(雌型)とプレス用上型(雄型)とが配設されており、雌型の上面形状および雄型の下面形状は、搬送方向や及び直交方向に曲げ成形されるガラス板の湾曲形状に対応する。雌型は、搬送コンベアの下方の待機位置と上方のプレス位置との間で昇降可能であり、搬送コンベアからガラス板が移載された後、ガラス板を載置された状態で、所定の上昇位置から搬送コンベアの上方のプレス位置まで上昇することで、ガラス板がプレス成形される。
【0078】
つづいて、プレス成形されたガラス板を搬送シャトル等で冷却エリアへ搬送する。冷却エリアでは、ガラス板に冷却エアを吹き付ける等によりガラス板を冷却する。
【0079】
以上の工程により、曲げガラスが成形される。なお上記では、本実施形態のガラス板の曲げ成形について説明したが、後述する合わせガラスの状態で上記曲げ成形を行ってもよい。
【0080】
[合わせガラス]
本実施形態に係る合わせガラスは、第1ガラス板と、第2ガラス板と、第1ガラス板と第2ガラス板の間に挟持される中間膜と、を有し、第1ガラス板が、上記ガラス板、または上記曲げガラスである。
【0081】
図4は、本実施形態に係る合わせガラス10の一例を示す図である。合わせガラス10は、第1ガラス板11と、第2ガラス板12と、第1ガラス板11と第2ガラス板12の間に挟持される中間膜13と、を有する。なお、本実施形態に係る合わせガラス10は、
図4の態様に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。例えば、中間膜13は、
図4に示すように1層で形成されてもよく、2層以上で形成されてもよい。また、本実施形態に係る合わせガラス10は、3枚以上のガラス板を有してもよく、その場合、隣り合うガラス板間に有機樹脂等を介してもよい。以下、本実施形態に係る合わせガラス10は、ガラス板が第1ガラス板11と第2ガラス板12の2枚のみを有し、中間膜13を挟持する構成として説明する。
【0082】
本実施形態の合わせガラスにおいて、曲げ成形性の観点から、第2ガラス板12は、上記ガラス板、または上記の曲げガラスであることが好ましい。第1ガラス板11と第2ガラス板12が上記ガラス、または上記の曲げガラスである場合、第1ガラス板11および第2ガラス板12は同一組成のガラス板を用いてもよいし、異なる組成のガラス板を用いてもよい。
【0083】
第2ガラス板12が上記ガラス板ではない場合、当該ガラス板の種類は特に制限されず、車両用窓ガラス等に用いられる従来公知のガラス板が使用可能である。具体的には、アルカリアルミノシリケートガラス、アルカリアルミノボロシリケートガラス及びソーダライムガラス等が挙げられる。これらのガラス板は透明性が損なわれない程度に着色されてもよいし、着色されていなくてもよい。
【0084】
また、本実施形態の合わせガラスにおいて、第2ガラス板12は、Al2O3を1.0%以上含有するアルカリアルミノシリケートガラス、またはAl2O3を1.0%以上含有しB2O3を1.0%以上含有するアルカリアルミノボロシリケートガラスでもよい。第2ガラス板12を上記アルカリアルミノシリケートガラスまたはアルカリアルミノボロシリケートガラスとすることで、後述する通り化学強化が可能となり、高強度化できる。
【0085】
上記アルカリアルミノシリケートガラスおよびアルカリアルミノボロシリケートガラスは、耐候性、耐湿性および化学強化特性向上の観点から、Al2O3の含有量は5.0%以上がより好ましく、8.0%以上がさらに好ましく、10%以上が特に好ましい。また、ガラスの粘性を下げ製造しやすくするために、Al2O3の含有量18%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0086】
上記アルカリアルミノシリケートガラスおよびアルカリアルミノボロシリケートガラスは、化学強化の観点から、R2Oの含有量は10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましい。また、耐湿性向上の観点から、R2Oの含有量は22%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましい。
【0087】
上記アルカリアルミノボロシリケートガラスは、飛び石、車両のカギなどがガラスに接触した際の強度を高めるために、B2O3の含有量は2.0%以上が好ましく、3.0%以上がより好ましく、4.0%以上がさらに好ましい。また、アルカリアルミノボロシリケートガラスにおいて、化学耐久性や耐候性向上の観点から、B2O3の含有量は9.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、7.0%以下がさらに好ましい。
【0088】
上記アルカリアルミノシリケートガラスとしては、具体的には以下の組成のガラスが例示できる。各成分は酸化物基準のモル百分率表示で示される。
61%≦SiO2≦75%
1.0%≦Al2O3≦20%
0.0%≦MgO≦15%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦1.0%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦15%
2.0%≦Na2O≦15%
0.0%≦K2O≦6.0%
0.0%≦ZrO2≦4.0%
0.0%≦TiO2≦1.0%
0.0%≦Y2O3≦2.0%
10%≦R2O≦25%
0.0%≦RO≦20%
(R2OはLi2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計、ROは、MgO、CaO、SrO、およびBaOの含有量の合計を表す。)
【0089】
上記アルカリアルミノボロシリケートガラスとしては、具体的には以下の組成のガラスが例示できる。各成分は酸化物基準のモル百分率表示で示される。
61%≦SiO2≦75%
1.0%≦Al2O3≦20%
1.0%≦B2O3≦10%
0.0%≦MgO≦15%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦1.0%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦15%
2.0%≦Na2O≦15%
0.0%≦K2O≦6.0%
0.0%≦ZrO2≦4.0%
0.0%≦TiO2≦1.0%
0.0%≦Y2O3≦2.0%
10%≦R2O≦25%
0.0%≦RO≦20%
(R2OはLi2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計、ROは、MgO、CaO、SrO、およびBaOの含有量の合計を表す。)
【0090】
また、本実施形態の合わせガラスにおいて、第2ガラス板12はソーダライムガラスでもよい。ソーダライムガラスとしては、Al2O3を1.0%未満含有するソーダライムガラスでもよい。具体的には以下の組成のガラスが例示できる。各成分は酸化物基準のモル百分率表示で示される。
60%≦SiO2≦75%
0.0%≦Al2O3<1.0%
2.0%≦MgO≦11%
2.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦3.0%
0.0%≦BaO≦3.0%
10%≦Na2O≦18%
0.0%≦K2O≦8.0%
0.0%≦ZrO2≦4.0%
0.0010%≦Fe2O3≦5.0%
【0091】
第1ガラス板11または第2ガラス板12の厚さの下限は、0.50mm以上が好ましく、0.70mm以上がより好ましく、1.00mm以上がさらに好ましく、1.20mm以上が特に好ましく、1.50mm以上が最も好ましい。第1ガラス板11または第2ガラス板12の厚さが0.50mm以上であると、耐衝撃性の観点で好ましい。
【0092】
また、第1ガラス板11または第2ガラス板12の厚さの上限は、4.00mm以下が好ましく、3.80mm以下がより好ましく、3.60mm以下がさらに好ましく、3.50mm以下が特に好ましく、3.40mm以下が最も好ましい。第1ガラス板11または第2ガラス板12の厚さが4.00mm以下であると、合わせガラス10の重量が大きくなり過ぎず、車両に用いた場合の燃費向上の点で好ましい。
また、第1ガラス板11と第2ガラス板12の厚さは同じでもよく、異なっていてもよい。
【0093】
本実施形態の合わせガラス10において、第1ガラス板11、第2ガラス板12および中間膜13の総厚は2.30mm以上が好ましい。総厚が2.30mm以上であることにより十分な強度が得られる。該総厚は、2.50mm以上がより好ましく、2.70mm以上がさらに好ましく、3.00mm以上がより一層好ましく、3.50mm以上が特に好ましく、4.00mm以上が最も好ましい。また、軽量化の観点から、該総厚は5.00mm以下であればよく、4.90mm以下が好ましく、4.85mm以下がより好ましく、4.80mm以下がさらに好ましい。
【0094】
なお、本実施形態の合わせガラス10において、第1ガラス板11と第2ガラス板12の厚さは全面にわたって一定でもよく、第1ガラス板11と第2ガラス板12の一方または両方の厚さが漸減する楔形を構成する等、必要に応じて場所毎に変わってもよい。
【0095】
第1ガラス板11および第2ガラス板12の一方は、強度を向上させるため、ガラス強化を行った化学強化ガラスでもよい。化学強化処理の方法は、上述したガラス板の化学強化処理と同様である。化学強化ガラスは、例えば、上記アルカリアルミノシリケートガラスおよび上記アルカリアルミノボロシリケートガラスを化学強化処理したものが挙げられる。
【0096】
第1ガラス板11および第2ガラス板12の形状は、平板形状でもよいし、全面または一部に曲率を有する湾曲形状でもよい。第1ガラス板11および第2ガラス板12が湾曲している場合は、上下方向または左右方向のいずれか一方向にのみ湾曲する単曲曲げ形状でもよいし、上下方向または左右方向の両方向に湾曲する複曲曲げ形状でもよい。第1ガラス板11および第2ガラス板12が複曲曲げ形状である場合は、上下方向と左右方向とで曲率半径が同じでもよいし、異なってもよい。第1ガラス板11および第2ガラス板12が湾曲している場合は、上下方向および/または左右方向の曲率半径は1000mm以上が好ましい。第1ガラス板11および第2ガラス板12の主面の形状は、搭載される車両の窓開口部に適合する形状とされる。
【0097】
本実施形態に係る中間膜13は、上記第1ガラス板11と第2ガラス板12の間に挟持される。本実施形態の合わせガラス10は、中間膜13を備えることにより、第1ガラス板11と第2ガラス板12とを強固に接着させるとともに、飛散片がガラス板に衝突した際にその衝撃力を緩和できる。
【0098】
中間膜13としては、従来車両用の合わせガラスとして用いられている合わせガラスに一般的に採用されている種々の有機樹脂を使用できる。有機樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、セルロースアセテート(CA)、ジアリルフタレート樹脂(DAP)、ユリア樹脂(UP)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル(UP)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルアルコール(PVAL)、酢酸ビニル樹脂(PVAc)、アイオノマー(IO)、ポリメチルペンテン(TPX)、塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスルフォン(PSF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メタクリル-スチレン共重合樹脂(MS)、ポリアレート(PAR)、ポリアリルスルフォン(PASF)、ポリブタジエン(BR)、ポリエーテルスルフォン(PESF)、又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が使用可能である。その中でも、透明性と固着性の観点から、EVA、PVBが好適であり、特にPVBは遮音性を付与し得るためより好ましい。
【0099】
中間膜13の厚さは、衝撃力緩和や遮音性の観点から、0.300mm以上が好ましく、0.500mm以上がより好ましく、0.700mm以上がさらに好ましい。また、中間膜13の厚さは、可視光透過率の低下抑制の観点から、1.00mm以下が好ましく、0.900mm以下がより好ましく、0.800mm以下がさらに好ましい。また、中間膜13の厚さは、0.300mm~1.00mmの範囲が好ましく、0.700mm~0.800mmの範囲がより好ましい。
【0100】
中間膜13は、厚さが全面にわたって一定でもよいし、必要に応じて場所毎に変わってもよい。
【0101】
なお、中間膜13と、第1ガラス板11または第2ガラス板12との線膨張係数の差が大きいと、後述する加熱の工程を経て合わせガラス10を作製する場合に、合わせガラス10に割れや反りが生じ、外観不良を引き起こすおそれがある。したがって、中間膜13と、第1ガラス板11または第2ガラス板12との線膨張係数との差は、できるだけ小さい方が好ましい。中間膜13と、第1ガラス板11または第2ガラス板12との線膨張係数との差は、各々、所定の温度範囲における平均線膨張係数同士の差で示してもよい。
【0102】
特に、中間膜13を構成する樹脂は、ガラス転移点が低いため、樹脂材料のガラス転移点以下の温度範囲で、所定の平均線膨張係数差を設定してもよい。なお、第1ガラス板11または第2ガラス板12と樹脂材料との線膨張係数の差は、樹脂材料のガラス転移点以下の、所定の温度により、設定してもよい。
【0103】
また、中間膜13は、粘着剤を含む粘着剤層を用いてもよく、粘着剤としては特に限定されないが、例えばアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤等を使用できる。
中間膜13が粘着剤層である場合、第1ガラス板11と、第2ガラス板12との接合のプロセスにおいて加熱工程を経る必要がないため、上記の割れや反りが生じるおそれが少ない。
【0104】
[その他の層]
本実施形態の合わせガラス10は、第1ガラス板11、第2ガラス板12、及び中間膜13以外の層(以下「その他の層」ともいう)を本発明の効果を損なわない範囲で備えてもよい。例えば、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティング層や、赤外線反射膜等を備えてもよい。
【0105】
その他の層が設けられる位置は特に限定されず、合わせガラス10の表面に設けられてもよく、第1ガラス板11、第2ガラス板12、または中間膜13に挟持されるように設けられてもよい。また、本実施形態の合わせガラス10は、枠体等への取り付け部分や配線導体等を隠蔽する目的で、周縁部の一部または全部に帯状に配設される黒色セラミックス層等を備えてもよい。
【0106】
本実施形態の合わせガラス10の製造方法は、従来公知の合わせガラスと同様の方法で製造できる。例えば、第1ガラス板11、中間膜13、及び第2ガラス板12をこの順で積層し、加熱及び加圧する工程を経ることで、第1ガラス板11と第2ガラス板12とが中間膜13を介して接合された構成の合わせガラス10が得られる。
【0107】
本実施形態に係る合わせガラス10の製造方法は、例えば、第1ガラス板11及び第2ガラス板12をそれぞれ加熱・成形する工程を経た後に、中間膜13を第1ガラス板11及び第2ガラス板12の間に挿入し、加熱及び加圧する工程を経てもよい。このような工程を経ることで、第1ガラス板11と第2ガラス板12とが中間膜13を介して接合された構成の合わせガラス10としてもよい。
【0108】
本実施形態の合わせガラス10は、D65光源を用いてISO-9050:2003で定義される可視光透過率Tvは70%以上が好ましい。Tvは71%以上がより好ましく、72%以上がさらに好ましい。また、Tvは、例えば90%以下である。
【0109】
本実施形態に係る合わせガラス10は、ISO-13837:2008 convention Aで定義され、風速4m/sで測定される全日射透過率Ttsは70%以下が好ましい。本実施形態に係る合わせガラス10の全日射透過率Ttsが70%以下であることで、十分な遮熱性が得られる。Ttsは68%以下がより好ましく、66%以下がさらに好ましい。また、Ttsは、例えば55%以上である。
【0110】
[車両用窓ガラス、建築用窓ガラス]
本実施形態の車両用窓ガラスおよび建築用窓ガラスは、上記ガラス板を有する。また、本実施形態の車両用窓ガラスおよび建築用窓ガラスは、上記合わせガラスからなってもよい。
【0111】
以下、図面を参照して、本実施形態の合わせガラス10を車両用窓ガラスとして用いる場合の一例について説明する。
図5は、本実施形態の合わせガラス10が自動車100の前方に形成された開口部110に装着され、自動車の窓ガラスとして用いられた状態を表す概念図である。自動車の窓ガラスとして用いられる合わせガラス10には、車両の走行安全を確保するための、情報デバイス等が収納されたハウジング(ケース)120が、車両内部側の表面に取り付けられてもよい。
【0112】
また、ハウジング内に収納される情報デバイスは、カメラやレーダ等を用いて車両の前方に存在する前方車、歩行者、障害物等への追突、衝突防止やドライバーに危険を知らせるためのデバイスである。例えば情報受信デバイスおよび/又は情報送信デバイス等であり、ミリ波レーダ、ステレオカメラ、赤外線レーザー等が含まれ、信号の送受信を行う。
当該「信号」とは、ミリ波、可視光、赤外光等を含む電磁波のことである。
【0113】
図6は、
図5におけるS部分の拡大図であり、本実施形態の合わせガラス10にハウジング120が取り付けられている部分を示す斜視図である。ハウジング120には、情報デバイスとしてミリ波レーダ201およびステレオカメラ202が格納されている。情報デバイスを格納したハウジング120は、通常バックミラー150よりも車外側、合わせガラス10よりも車内側に取り付けられるが、他の部分に取り付けられてもよい。
【0114】
図7は、
図6のY-Y線を含み水平線と直交する方向における断面図である。合わせガラス10は、第1ガラス板11が車外側に配置されることが好ましい。上記構成とすることにより、軽量で飛び石耐性および剛性が高いウィンドシールドを実現できる。
【実施例0115】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0116】
<例1~例23のガラス板の作製>
表2および表3に示すガラス組成(単位:mol%)となるように、白金坩堝に原料を投入して1600℃~1650℃の温度で3時間溶融し溶融ガラスとした。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、徐冷した。得られた板状ガラスの両面を研磨し、厚さ2.00mmのガラス板を得た。例1~例19は実施例であり、例20~例23は比較例である。
【0117】
上記で得られたガラス板に対して、下記の評価を行い、結果を下記表2および表3に示した。なお、表中の空欄は未測定を示す。
【0118】
(1)比重:
ガラス板から切り出した、泡を含まない約20gのガラス塊をアルキメデス法によって測定した。
【0119】
(2)ガラス転移温度(Tg):
TMAを用いて測定した値であり、JIS R3103-3(2001年度)の規格に
より求めた。
【0120】
(3)50℃~350℃の平均線膨張係数(CTE50-350):
示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、JIS R3102(1995年度)の規格より求めた。
【0121】
(4)ヤング率:
超音波パルス法(オリンパス、DL35)により25℃で測定した。
【0122】
(5)破壊靱性値(Kc)
上記で得られたガラス板に対して、JIS R1607:2010準拠のIF法に基づき、ビッカース硬度計を用い、ビッカース圧子にて押し込み荷重2.0kgf、保持時間15秒で圧痕を導入し、その後ビッカース圧子を外し、15秒待機後に圧痕の対角線長さとき裂長さを試験機付属の顕微鏡を用いて測定することを10回繰り返し、以下の式より算出した。
Kc=0.026×(E×P)1/2×a×c-3/2
ここで、Eは、ガラス板のヤング率(Pa)、Pは押し込み荷重(N)、aは圧痕の対角線長さの平均の半分(m)、cはクラック長さの平均の半分(m)である。
【0123】
(6)50%クラック発生荷重
湿度40%、温度23℃に保持された恒温恒湿槽内において、荷重0.1kg、0.2kg、0.3kg、0.5kg、1.0kg、2.0kgに設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)した。これを各荷重にて20回繰り返し(すなわち、圧子を20回打ち込み)、総クラック数を計数した後、総クラック発生数/80にてクラック発生率を求める。得られたクラック発生率を荷重に対してプロットし、シグモイド関数を最小二乗法によりフィッティングした際のクラック発生率が50%となる荷重を0%クラック発生荷重(kg)とした。
【0124】
(7)Fe-Redox:
粉砕したガラス板をフッ化水素酸と塩酸の混酸により室温で分解した後、分解液のうち、一定量をプラスチック容器に分取し、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液を加え、サンプル溶液中のFe3+をFe2+に還元させた。その後、2,2’-ジピリジル溶液および酢酸アンモニウム緩衝液を添加してFe2+を発色させた。発色液はイオン交換水で一定量にして、吸光光度計で波長522nmでの吸光度を測定した。そして標準液を用いて作製された検量線より濃度を計算しFe2+量を求めた。サンプル溶液中のFe3+をFe2+に還元させているので、このFe2+量は、サンプル中の「[Fe2+]+[Fe3+]」を意味する。
次に、粉砕したガラス板をフッ化水素酸と塩酸の混酸により室温で分解した後、分解液のうち、一定量をプラスチック容器に分取し、速やかに2,2’-ジピリジル溶液および酢酸アンモニウム緩衝液を添加してFe2+のみを発色させた。発色液はイオン交換水で一定量にして、分光光度計(日立製作所社製U-4100)により波長522nmでの吸光度を測定した。そして標準液を用いて作製される検量線より濃度を計算しFe2+量を算出した。このFe2+量は、サンプル中の[Fe2+]を意味する。
そして、上記求めた[Fe2+]、および[Fe2+]+[Fe3+]から、Fe-Redox:[Fe2+]/([Fe2+]+[Fe3+])を算出した。
【0125】
(8)Fe2+の吸収ピーク波長:
上記で得られたガラス板について、分光光度計(Perkinelmer社製分光光度計LAMBDA950)により測定し、波長950~1200nmに存在するピークの最大吸収波長を測定した。
【0126】
(9)可視光透過率(Tv):
厚さを2.00mmに換算したときのTvを、D65光源を用いてISO-9050:2003で定める方法により測定した。なお、Tvは、Perkinelmer社製分光光度計LAMBDA950を用いて測定した。
【0127】
(10)日射透過率(Te):
日射透過率Teは、ISO-9050:2003の規定にしたがって分光光度計Perkinelmer社製分光光度計LAMBDA950により透過率を測定し算出した日射透過率である。
【0128】
(11)紫外線透過率(Tuv):
厚さを2.00mmに換算したときのTuvを、ISO-9050:2003で定める方法により測定した。なお、Tuvは、Perkinelmer製分光光度計LAMBDA950を用いて測定した。
【0129】
(12)粘度:
ガラスの溶解性の基準となる粘度ηが102dPa・sとなるときの温度T2、フロート成形時の成形性の基準となる粘度ηが104dPa・sとなるときの温度T4を、回転粘度計を用いて測定した。曲げ加工性の基準となる粘度ηが1012dPa・sとなるときの温度T12を、ビームベンディング法を用いて測定した。
【0130】
【0131】
【0132】
実施例である例1~例19のガラス板は、比較例である例20~23と比して、50%クラック発生荷重が大きく、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靱性値も大きいことから、クラック耐性が優れることがわかった。また、Teが90%以下であり、遮熱性も優れることがわかった。
一方、比較例である、例20は遮熱性には優れるものの、SiO2が75%未満であり、ROが10%を超えているため、50%クラック発生荷重が0.10kgと低く、クラック耐性が劣っていた。例21は遮熱性には優れるものの、BaOが1.0%よりも多く、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.84MPa・m0.5と低く、クラック耐性が劣っていた。例22は遮熱性には優れるものの、SrOが0.50%よりも多く、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.87MPa・m0.5と低く、クラック耐性が劣っていた。また、比較例である例23はクラック耐性には優れるものの、Fe2O3が0.030%未満であり遮熱性に劣っていた。
【0133】
以上説明したように、本明細書には以下の構成が開示されている。
[1]酸化物基準のモル%表示で、
75.0%≦SiO2≦85.0%
1.5%≦Al2O3≦7.0%
0.0%≦MgO≦10%
0.0%≦CaO≦10%
0.0%≦SrO≦0.50%
0.0%≦BaO≦1.0%
0.0%≦Li2O≦10%
0.0%≦Na2O≦20%
0.0%≦K2O≦10%
1.0%≦RO≦10%
8.0%≦R2O≦22%
0.030%≦Fe2O3≦1.0%
RO/R2O≦0.70
(ただし、ROはMgO、CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種、R2OはLi2O、Na2O、K2Oから選ばれる少なくとも1種)
を含有し、
厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される日射透過率Teが90%以下である、ガラス板。
[2]クラック発生率が50%となる荷重が0.25kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.90MPa・m0.5以上である、[1]に記載のガラス板。
[3]厚さを2.0mmに換算したときの、D65光源を用いてISO-9050:2003で定義される可視光透過率Tvが75%以上である、[1]または[2]に記載のガラス板。
[4]厚さを2.0mmに換算したときの、ISO-9050:2003で定義される紫外線透過率Tuvが70%以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のガラス板。
[5]ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1700℃以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のガラス板。
[6]ガラス粘度が104dPa・sとなる温度T4が1200℃以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のガラス板。
[7]ガラス粘度が1012dPa・sとなる温度T12が610℃以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のガラス板。
[8]50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が90×10-7/℃以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のガラス板。
[9]MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、CaOを0.0%以上3.0%以下、K2Oを0.0%以上3.0%以下含有する、[1]~[8]のいずれか1つに記載のガラス板。
[10]50~350℃の平均線膨張係数(CTE)が85×10-7/℃以下である、[9]に記載のガラス板。
[11]B2O3を実質的に含有しない、[1]~[10]のいずれか1つに記載のガラス板。
[12]MgOを含有し、酸化物基準のモル%表示で、Al2O3を2.0%以上、CaOを0.0%以上3.0%以下、Na2Oを10%以上、K2Oを0.0%以上2.0%以下含有し、B2O3を実質的に含有せず、クラック発生率が50%となる荷重が0.50kg以上であり、圧子圧入法(IF法)によって求められる破壊靭性値が0.93MPa・m0.5以上である、[1]に記載のガラス板。
[13][1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板からなる、曲げガラス。
[14][7]に記載のガラス板からなる、曲げガラス。
[15]第1ガラス板と、第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板の間に挟持される中間膜とを有し、
前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板の少なくとも一方が、[1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板、または、[13]または[14]に記載の曲げガラスである、合わせガラス。
[16][1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板を備える車両用窓ガラス。
[17][1]~[12]のいずれか1つに記載のガラス板を備える建築用窓ガラス。
[18][15]に記載の合わせガラスを備える車両用窓ガラス。
[19][15]に記載の合わせガラスを備える建築用窓ガラス。