(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069072
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】結晶化ガラス、ナトリウムイオン電池用電極、及び、ナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
C03C 10/02 20060101AFI20240514BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240514BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240514BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240514BHJP
【FI】
C03C10/02
H01M4/58
H01M10/054
H01M4/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179863
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 利典
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁大
【テーマコード(参考)】
4G062
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G062AA11
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5H050CB08
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5H050HA02
(57)【要約】
【課題】イ高い電子伝導性を示す結晶化ガラス、並びに、それを利用したナトリウム電池用電極及びナトリウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相を含む結晶化ガラス、並びに、それを利用したナトリウム電池用電極及びナトリウムイオン電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相を含む結晶化ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶化ガラスを含むナトリウムイオン電池用電極。
【請求項3】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に設けられた電解質層を備え、
前記正極、及び前記負極の少なくとも一方が、請求項2に記載のナトリウムイオン電池用電極で構成されているナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結晶化ガラス、ナトリウムイオン電池用電極、及び、ナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコンの電源、自動車等の主電源として幅広く利用されているリチウムイオン電池は、他の電池と比べエネルギー密度が高く、自己放電も少ないことが特徴である。しかし、電解質において支持塩をイオン解離させるための溶媒には、エステル、エーテルなどの有機溶媒が使用されている。この有機溶媒が可燃性の物質であるために、リチウムイオン電池の安全性の確保に注意を払わなくてはならない。また、電解液が有機溶媒であるため電極と酸化分解し電極表面に生成物を生じさせたり、電極内部での膨張又は収縮によって内部が変形したりしてしまうことで伝導度が低下してしまう。
また、リチウムイオン電池の課題として、リチウムの原料価格高騰、資源枯渇が懸念されている。
そのため、地殻中に豊富に存在し安価な材料であるナトリウムを使用したナトリウムイオン電池が次世代電池として注目されている。
【0003】
例えば、ナトリウムイオン電池の電極材として、37.5Na2O-25V2O5-37.5P2O5を含む結晶化ガラスが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】公益社団法人日本セラミック協会 2019年年会 講演予稿集3J25「Preparation of Crystalline Na3V2(PO4)3by Glass-Ceramic Process (Kyushu Univ.) Sai Niu, Hirofumi Akamatsu, Yuto Akiyama, George Hasegawa, Katsuro Hayashi」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、ナトリウムイオン電池の高性能化の要請から、有用な電極材の開発が望まれている。特に、高い電子伝導性を示す電極材が望まれている。
【0006】
そこで、本開示の課題は、高い電子伝導性を示す結晶化ガラス、並びに、それを利用したナトリウム電池用電極及びナトリウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1>
Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相を含む結晶化ガラス。
<2>
<1>に記載の結晶化ガラスを含むナトリウムイオン電池用電極。
<3>
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に設けられた電解質層を備え、
前記正極、及び前記負極の少なくとも一方が、<2>に記載のナトリウムイオン電池用電極で構成されているナトリウムイオン電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い電子伝導性を示す結晶化ガラス、並びに、それを利用したナトリウム電池用電極及びナトリウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示のナトリウムイオン電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施例で作製したNVPガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例で作製したNVPガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例で作製したNVP結晶化ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例で作製したNVP結晶化ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例で作製したNVP結晶化ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例で作製したNVP結晶化ガラスの組成比を示す三角グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一例について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
なお、本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に、各成分に該当する物質が複数含まれる場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
[結晶化ガラス]
本開示の結晶化ガラスは、Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相を含む。具体的には、本開示の結晶化ガラスは、例えば、Na3V2(PO4)3及びNa(VO)(PO4)からなる混合結晶相のみから構成されていてもよいし、混合結晶相と残留非晶質相とから構成されていてもよい。また、混合結晶相以外の結晶相を含んでもよい。
【0013】
本開示の結晶化ガラスにおいて、Na3V2(PO4)3のVは3価であり、Na(VO)(PO4)のVは4価である。この混合相を含む結晶化ガラスは、Na(VO)(PO4)が高伝導相として機能すると考えられ、高い電子伝導性(例えば、室温25℃で4.8×10-1S/cm)を有している。そのため、ナトリウムイオン電池の電極材として有用である。
【0014】
加えて、Na3V2(PO4)3のVはV3+からV4+(正極)及びV3+からV2+の多段階レドック反応により、また、Na(VO)(PO4)はV4+からV5+(正極)およびV4+からV3+(負極)の多段階レドックス反応により、本開示の結晶化ガラスは正極のみならず負極の電極材としても利用できる。
【0015】
また、本開示の結晶化ガラスは、構成元素にガラス形成成分であるP及びVを多量に含んでいることから、ガラス結晶化法による合成が可能となる。この方法では、広い範囲のガラス組成において、Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相が得られる。
そのため、本開示の結晶化ガラスは、固体電解質と電極との接合においても、軟化流動プロセスを経て合成できるので、固相反応法で合成される電極材よりも良好な界面形成が得られる。
【0016】
本開示の結晶化ガラスの混合相における、Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との比率(Na3V2(PO4)3/Na(VO)(PO4))は、質量比で、98/2~40/60が好ましく、90/10~60/40がより好ましい。
この比率が上記範囲であると、結晶化ガラスは、高い電子伝導性を示し、電極材として有用となる。
【0017】
本開示の結晶化ガラスにおける、全相に対する混合相(Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相)が占める割合は、80~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましい。
この割合が上記範囲であると、結晶化ガラスは、高い電子伝導性を示し、電極材として有用となる。
【0018】
Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との比率、及び混合相が占める割合は、次の通り測定される。
まず、粉末X線回折(XRD)測定により、2θで10~50°の回折線プロファイルを得る。
次に、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて全散乱曲線を得る。
次に、全散乱曲線から、ブロードな回折線(つまり非晶質ハロー)をピーク分離して積分強度IAを得る。
次に、全散乱曲線から、混合相に由来する結晶性回折線をピーク分離して積分強度の総和ICを得る。
次に、全散乱曲線から、その他の結晶相に由来する結晶性回折線をピーク分離して積分強度の総和IOを得る。
得られたIA、IC及びIOから、下記式により、混合相が占める割合を求める。
混合相が占める割合=[IC/(IA+IC+IO)]×100(質量%)
【0019】
また、全散乱曲線から、Na3V2(PO4)3に由来する結晶性回折線、Na(VO)(PO4)を各々ピーク分離して、各積分強度の総和を得る。そして、各積分強度の総和を求めることで、Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との比率を得る。
なお、粉末X線回折(XRD)測定の測定条件は、後述する実施例で記載する通りである。
【0020】
本開示の結晶化ガラスにおける、Na2OとV2O5とP2O5の組成比(ガラス全組成に対するモルmol%)は、例えば、次の通りである。
Na2O:34~42mol%
V2O5:22~30mol%
P2O5:34~39mol%
【0021】
本開示の結晶化ガラスの電子伝導度は、5.0×10-2~1.0×10-1S/cmが好ましく、7.0×10-2~8.0×10-1S/cmがより好ましい。
結晶化ガラスの電子伝導度は、後述する実施例で記載する方法で測定される。
【0022】
本開示の結晶化ガラスの製造方法は、例えば、次の第一工程及び第二工程を経て製造できる。
原料(例えば炭酸ナトリウム、リン酸及び酸化バナジウム)を混合し、200~400℃で0.5~20時間脱水縮合した後、1000~1200℃で0.5~2時間溶融し、大気中へ室温で急冷してガラスを得る第一工程
得られたガラスに還元剤(例えばスクロース)を混合し、Ar雰囲気下で、670~950℃で、1~10時間熱処理し、結晶化ガラスを得る第二工程
【0023】
[ナトリウムイオン電池用電極]
本開示のナトリウムイオン電池用電極(以下、単に電極との称する)は、本開示の結晶化ガラスを含む。
本開示の電極は、ナトリウムイオン電池の正極、及び負極のいずれにも適用できる。
【0024】
本開示の電極を正極に適用する場合、本開示の電極は、正極活物質として本開示の結晶化ガラスのみから構成されていてもよい。必要に応じて、本開示の電極は、結着材料、導電材料、電解質等の周知の材料を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、電極に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
また、本開示の電極を正極に適用する場合、本開示の電極には、周知の正極活物質を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、全正極活物質に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
【0025】
本開示の電極を負極に適用する場合、本開示の電極は、負極活物質として本開示の結晶化ガラスのみから構成されていてもよい。必要に応じて、本開示の電極は、結着材料、導電材料、電解質等の周知の材料を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、電極に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
また、本開示の電極を正極に適用する場合、本開示の電極には、周知の正極活物質を含んでもよい。ただし、本開示の結晶化ガラスは、全負極活物質に対して70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含むことがよい。
【0026】
結着材料としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ゴム(スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ゴム等)、グルタミン酸、デンプン等の高分子化合物が挙げられる。
導電材料としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック等)、カーボンファィバ、カーボンナノチューブ、難黒鉛化性炭素、人工黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。
電解質としては、後述する周知の固体電解質が挙げられる。
【0027】
周知の正極活物質としては、例えば、Na4Ti5O12、NaCoO2、NaMnO2、NaVO2、NaCrO2、NaNiO2、Na2NiMn3O8、NaNi1/3Co1/3Mn1/3O2、S、Na2S、FeS、TiS2、NaFeO2、Na3V2(PO4)3、NaMn2O4、Na2TiS3等が挙げられる。
周知の負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、金属(Na、In、Sn、Sb等)、Na合金、遷移金属酸化物(Na4/3Ti5/3O4、Na3V2(PO4)3、SnO等)M等の種々の等が挙げられる。
【0028】
本開示の電極は、上述した本開示の結晶化ガラスの製造方法を利用して形成できる。
例えば、本開示の結晶化ガラスの製造方法において、第一工程で得られたガラスと必要に応じて上記周知の材料とを混合した混合物を使用し、第二工程を実施することで、電極が形成できる。
また、上述した本開示の結晶化ガラスの製造方法により結晶化ガラスが得た後(つまり、第二工程後)、得られた結晶化ガラスと必要に応じて上記周知の材料とを混合した混合物を用いて、電極を形成してもよい。
【0029】
[ナトリウムイオン電池]
本開示のナトリウムイオン電池(以下、単に「電池」とも称する)は、正極、負極、及び正極と負極との間に設けられた電解質層を備える(
図1参照)。
そして、正極、及び負極の少なくとも一方が、本開示のナトリウムイオン電池用電極で構成されている。
本開示の電池は、正極及び負極の少なくとも一方に、集電体が設けられてもよい。
【0030】
ここで、
図1中、10はナトリウムイオン電池、12は正極、14は負極、16は電解質層を示す。
【0031】
電解質層としては、固体電解質層、及び電解液層のいずれであってもよい。
【0032】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、NASICON(NaSuper Ionic Conductor)、ベータアルミナ等周知の固体電解質が挙げられる。
【0033】
NASICONとしては、Na3Zr2Si2PO12、Na3.2Zr1.3Si2.2P0.8O10.5、Na3Zr1.6Ti0.4Si2PO12、Na3Hf2Si2PO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.2P1.8O12、Na3Zr1.7Nb0.24Si2PO12、Na3.6Ti0.2Y0.8Si2.8O9、Na3Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.12Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.11P2.9O12等が挙げられる。
【0034】
ベータアルミナとしては、理論組成式Na2O・11Al2O3で示されるβ-アルミナ、理論組成式:Na2O・5.3Al2O3で示されるβ"-アルミナ、MgO安定化β”アルミナ((Al10.32Mg0.68O16)(Na1.68O))、Li2O安定化β”アルミナ(Na1.6Li0.34Al10.66O17)等が挙げられる。
【0035】
電解液層は、電解質と溶媒を含む電解液で構成された層、電解質と溶媒を含む電解液を含浸したセパレータで構成されたに層等の周知の電解液層が挙げられる。
【0036】
電解質としては、ナトリウム塩が適用される。
ナトリウム塩としては、NaClO4、NaPF6、NaNO3、NaOH、NaCl、Na2SO4、及び、Na2S、NaPF6、NaBF4、CF3SO3Na、NaAsF6、NaB(C6H5)4、CH3SO3Na、NaN(SO2CF3)2、NaN(SO2C2F5)2、NaC(SO2CF3)3、及びNaN(SO3CF3)2)が挙げられる。
溶媒は、カーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒、カーバメート等の周知の溶媒が挙げられる。
セパレータとしては、樹脂製の多孔膜、不織布、それらの積層体等の周知のセパレータが挙げられる。
【0037】
なお、本開示の電極以外の正極を採用する場合、上記周知の正極活物質と、必要に応じて、導電材料、結着材料、電解質等の周知の材料と、を含む周知の正極が適用できる。
同様に、本開示の電極以外の負極を採用する場合、上記周知の負極活物質と、必要に応じて、導電材料、結着材料、電解質等の周知の材料と、を含む周知の負極が適用できる。
【実施例0038】
以下、本開示を実施例を挙げて詳細に説明するが、以下の実施例は一態様を挙げたに過ぎず、これに限定されない。
なお、以下の実施例において、特に断らない限り室温は25℃を意味する。
【0039】
<実施例A>
(試薬・装置)
ガラス作製に用いた試薬を表1に示す。
【0040】
【0041】
次に、本実施例で使用した測定・分析装置を表2に示す。
【0042】
【0043】
(操作)
-Na3V2(PO4)3(NVPと称する)ガラスの作製-
試薬をNa2CO3、V2O5、H3PO4の順で試料をはかり取りビーカーに入れ混合を行った。試料が粉状になるまでガラス棒で攪拌しながらマントルヒーターを用いて加熱した。表3にNa2CO3、V2O5、H3PO4を用いて作製したNVPの組成比、略称および秤量値をまとめた。
次に、アルミナるつぼの中に試料を入れ、電気炉(ISUZU製 Muffle Furnace) を用いて300℃で18時間脱水縮合した。脱水した試料を磁製乳鉢、磁性乳棒を用いて粉砕し、アルミナるつぼの中に入れ電気炉(MOTOYAMA製、超高速昇温電気炉)を用いて1000℃で1時間溶融を行った。そして、溶融物を大気中室温で流し出し、急冷した。
【0044】
【0045】
-NVPガラスの結晶化-
ガラス粉末にVを還元するためのスクロースを15%混合し、一軸加圧成型器でペレット状に成形した。管状炉内Ar雰囲気下(0.1mL/min)で5時間熱処理し、NVP結晶化ガラスを得た。各ガラスに対する結晶化は、TG-DTA測定により得られた結晶化温度Tc+30℃で行った。得られたNVP結晶化ガラスに対して、結晶相の同定のためにXRD測定を行った。
【0046】
(評価方法)
-NVPガラス及びNVP結晶化ガラスの粉末X線回折(XRD)測定-
NVPガラス及びNVP結晶化ガラスの試料をそれぞれアルミナ乳鉢とアルミナ乳棒を用いて粉砕した。目開き45μmの篩を用いてガラス粉末を得た。得られたガラス粉末を、スライドガラスを用いてガラス試料板に充填した。XRD装置にガラス試料版をセットし測定した。XRD測定の測定条件を表4に示す。
【0047】
【0048】
-NVPガラスのTG-DTA測定-
NVPガラスの試料をそれぞれアルミナ乳鉢とアルミナ乳棒を用いて粉砕した。目開き45μmの篩を用いてガラス粉末を得た。得られたガラス粉末に対してTG-DTA測定を行った。白金パンに試料を10mg量りとり、リガク製TG8121を用いてアルゴン雰囲気下で測定を行った。TG-DTA測定の測定条件を表5に示す。
ガラス転移温度(Tg)はDTA曲線に対する微分曲線を用いて解析し、結晶化温度(Tc)はTgより高い温度でDTA曲線が発熱方向に出ているピークの温度とした。
【0049】
【0050】
-NVPガラスの密度測定-
作製したNVPガラスを乳鉢で細かく粉砕し、乾燥器で100℃、2時間乾燥させた後、40℃に下がるまで乾燥器内で放冷した。その後、常温となったサンプルをサンプルカップの2/3まで入れて測定を行った。1サンプルにつき10サイクルの測定を行った。密度測定の測定条件を表6に示す。
【0051】
【0052】
-NVP結晶化ガラスの電子伝導度測定-
定電位測定により、NVP結晶化ガラスの電流I-電圧Vプロット(以下、I-Vプロット)を得た。
I-Vプロットより、近似線の傾きから抵抗を求め、電子伝導度度を算出した。
定電位測定には、北斗電工製ポテンショスタット/ガルバノスタット HABF5001を用いた。NVP結晶化ガラスの測定用試料を管状電気炉に吊り下げた状態で取り付け、二端子にはポテンショスタットを直流法で取り付けた。表7に定電位測定の測定条件を示す。
【0053】
【0054】
-SEM観察-
NVPガラス及びNVP結晶化ガラスのSEM観察にはHITACHI製s-2380N走査型電子顕微鏡を用いた、観察用の結晶化ガラスの料は、5%フッ化水素(HF)でケミカルエッチングを行った。また、SEM観察の条件を表8に示す。
【0055】
【0056】
(評価結果)
-NVPガラスのSEM観察結果-
NVPガラスのSEM観察を実施したところ、いずれのNVPガラスにおいても黒色で失透は見られなかった。
【0057】
-NVPガラスのXRD測定結果-
NVPガラスのXRD測定におけるXRDパターンを
図2~
図3に示す。
図2~
図3に示すように、特定の回折ピークが観測されず、非晶質特有のアモルファスハローが見られた。
【0058】
-NVPガラスのTG-DTA測定結果-
NVPガラスのTG-DTA測定を実施した結果、DTA曲線とDDTA曲線から、NVPガラスのガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)が分かった。NVPガラスの解析結果を表9に示す。これより、ナトリウムの割合が一定でバナジウムの割合が増加し、リンの割合が低下したとき、熱的安定性(Tc-Tg)が低下することが分かった。
【0059】
【0060】
-NVPガラスの密度測定結果-
密度測定の結果を表10に示す。NVPの密度は3.21(g/cm3)であり、測定よりNVP302030の密度は2.85(g/cm3)となった。バナジウムの割合が大きくなるほど密度も高くなることが分かった。これはバナジウム原子の密度が高いためであると考えられる。なお、各原子の密度は、Na:0.971(g/cm3)、V:6.11(g/cm3)、P:1.82(g/cm3)である。
【0061】
【0062】
-NVP結晶化ガラスのSEM観察結果-
作製したNVP結晶化ガラスのSEM観察の結果、いずれのNVP結晶化ガラスにおいても黒色になった。これは、スクロースが燃焼したためだと考えられる。
【0063】
-NVP結晶化ガラスのXRD測定結果-
NVP結晶化ガラスのXRDパターンを
図4~
図6に示す。
図4及び
図5に示す各NVP結晶化ガラスの組成では、NVPの単一相が得られ、広い組成範囲でNVPの単一相が得られた。
一方、
図6に示すNVP結晶化ガラスにおいて、NVP343036の組成では、NVPとNa(VO)(PO
4)と混合相となった。混合相になった理由として、Na(VO)(PO
4)のVの価数は+4であり、NVPのVの価数は+3であることから還元剤として添加したスクロースが不足したためであると考えられる。
なお、
図6に示すNVP結晶化ガラスにおいて、NVP402634及びNVP382834はNVPと未知相の混合相となった。
【0064】
ここで、作製したNVP結晶化ガラスのNa
2O:V
2O
5:P
2O
5の組成比をまとめた組成比三角グラフを
図7に示す。
図7中、組成番号1は化学量論組成、組成番号2~6、11~12、16~17、20がNVPの単一相になった組成、組成番号13(NVP343036)がNVPとNa(VO)(PO
4)と混合相となった組成、組成番号18~19がNVPと未知相の混合相となった組成を示している。
なお、番号7~10、14~15はNVPが作製できなかった組成を示している。
【0065】
-NVP結晶化ガラスの電子伝導度測定結果-
NVP結晶化ガラスの電子伝導度測定の結果を、表11に示す。
表11に示す通り、NVPとNa(VO)(PO4)の混合相が得られたNVP343036では、最も高い1.0×10-1(S/cm)の電子伝導度が得られた。これより、Na(VO)(PO4)が高伝導相として機能したため、電子伝導度が向上したと考えられる。
なお、NVPとNa(VO)(PO4)の比率は79/21、全相に対する混合相(NVPとNa(VO)(PO4)との混合相)が占める割合は100質量%であった。
また、TG-DTA測定より得られた熱的安定性(Tc-Tg)と電子伝導度を比較したところ、熱的安定性が大きくなるほど電子伝導度は増加することが分かった。
【0066】
【0067】
以上から、Na3V2(PO4)3とNa(VO)(PO4)との混合相を含む結晶化ガラスは、高い電子伝導性を示し、ナトリウムイオン電池の電極材として有用であることがわかる。