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特開2024-69082免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069082
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240514BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240514BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240514BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240514BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240514BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240514BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20240514BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20240514BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/02
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/12
C12N5/078
C07K14/495
C07K14/705
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179875
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】玉置 寛子
(72)【発明者】
【氏名】西澤 萌映
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC13
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術を提供する。
【解決手段】免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を指標として、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程を含む、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法。
【請求項2】
被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程、および、
前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程、を含む、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法。
【請求項3】
被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程、および、
前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程、を含む、免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一次繊毛は、微小管を内部骨格として有するアンテナ様の器官である。非運動性である一次繊毛は、当該一次繊毛の表面に存在する様々な受容体を介して、細胞外のシグナルを細胞内へ伝達する。
【0003】
近年の研究によって、免疫関連細胞に一次繊毛が存在すること、一次繊毛が免疫関連疾患と関連すること、および、免疫関連疾患(例えば、炎症を伴う皮膚疾患)の患者の免疫関連細胞において、一次繊毛の発現が亢進していることが見出されている(特許文献1等)。さらに、特許文献1には、上記の現象に着目し、一次繊毛の数、長さ、太さが、免疫関連疾患の客観的な指標となることを見出したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2019/172419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、免疫関連細胞における一次繊毛の状態は、免疫関連疾患の重要な指標であることから、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価するための新たな技術の確立が希望されている。
【0006】
上記のような状況にあって、本発明の一実施形態は、簡便かつ定量的に、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討する中で、炎症誘導時の免疫関連細胞において、特定の遺伝子の発現量が変化するという新規知見を得た。係る新規知見に基づきさらに鋭意検討した結果、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を調整すると、上記の特定の遺伝子の発現量が変化すること、換言すると、免疫関連細胞の一次繊毛の状態の変化を、上記の特定の遺伝子の発現量の変化を指標として評価できるという新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一実施形態は以下の構成を含むものである。
〔1〕免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程を含む、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法。
〔2〕被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程、および、前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程、を含む、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法。
〔3〕被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程、および、前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程、を含む、免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、簡便かつ定量的に、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法およびその利用技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例における、NHEK細胞のDNAマイクロアレイの結果を示すグラフである。
図2】本発明の実施例における、EDNRAおよびTGFb2についての、PVDF膜に転写された画像と、数値化されたバンドの強度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意図する。
【0011】
〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法は、免疫関連細胞におけるEDNRA(エンドセリン受容体A)および/またはTGFb2(Transforming Growth Factor-β2)の発現量を測定する工程を含む、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法である。
【0012】
本明細書における「免疫関連細胞」には、免疫反応を主に担当する免疫細胞と、免疫細胞に間接的に関与する免疫機能保有細胞とが包含される。免疫機能保有細胞は、例えば、免疫細胞を活性化させる機能を有する細胞であり得る。免疫細胞としては、例えば、皮膚樹状細胞(例えば、ランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞)、リンパ球系の免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞)、および単球系の免疫細胞(例えば、通常型樹状細胞、単球系樹状細胞(例えば、形質細胞様樹状細胞))等を挙げることができる。また、免疫機能保有細胞としては、例えば、ケラチノサイト、繊維芽細胞、および上皮細胞等を挙げることができる。また、これらの細胞に公知の手法で炎症誘導(例えば、IL-13による刺激)を行った細胞を、一次繊毛の状態の評価に供する免疫関連細胞とすることもできる。免疫関連細胞は、生体から採取された免疫関連細胞であってもよいし、株化された免疫関連細胞(例えば、HaCaT細胞)であってもよい。なお、免疫関連細胞を採取する生体としては、例えば、ヒト、あるいは、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等の非ヒト動物を挙げることができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法において、「免疫関連細胞の一次繊毛の状態」は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合であり得る。すなわち、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法は、免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合を評価する方法であってもよい。なお、本明細書において、「免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合」とは、複数の免疫関連細胞のうちの、一次繊毛を有する細胞の数および/または割合を意図している。また、免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合は、絶対値として測定されてもよく、相対値(例えば、比較対照との比率または差など)として測定されてもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法においては、必ずしも絶対的な免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合によって当該一次繊毛の状態を評価する必要はなく、対照の免疫関連細胞の一次繊毛の数および/または割合との相対的な発現量を測定してもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法は、免疫関連細胞の一次繊毛の状態と、当該免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量とが相関関係にあるとの本発明者らが見出した新規の知見に基づき、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を、EDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の変化を指標として評価するものである。したがって、評価にあたっては、一次繊毛の状態の評価に供する免疫関連細胞を用意し、当該免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定し、この測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量に基づいて、前記免疫関連細胞における一次繊毛の状態を評価することができる。
【0015】
本発明者らは、免疫関連細胞において、(i)炎症誘導(IL-13による刺激)を行った場合に、EDNRAおよびTGFb2を含む13個の分子の発現量が変化すること、特に、EDNRAおよびTGFb2の発現量が増加すること、ならびに、(ii)一次繊毛の関連タンパク質(IFT88)の発現を阻害した場合、当該関連タンパク質の発現を阻害していない場合と比べて、炎症誘導(IL-13による刺激)時のEDNRAの発現量が減少し、一方で、TGFb2の発現量がより増加することを見出している。すなわち、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法においては、評価対象となる免疫関連細胞において、炎症誘導された免疫関連細胞と比較してEDNRAの発現量が減少している場合、当該免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が減少していると評価することができる。また、評価対象となる免疫関連細胞において、炎症誘導された免疫関連細胞と比較してTGFb2の発現量が増加している場合、当該免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が減少していると評価することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法において、EDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の増減の判定は、例えば、評価対象となる免疫関連細胞において測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、予め定めた基準発現量とを比較することにより行うことができる。基準発現量としては、例えば、炎症等の免疫関連疾患に罹患している患者の免疫関連細胞(例えば、炎症状態の免疫関連細胞)におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量、あるいは、健康な(疾患、特に、炎症等の免疫関連疾患に罹患していない)対象の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を用いることができる。また、基準発現量は、複数の対象(例えば、免疫関連疾患に罹患している患者、あるいは、健康な対象)の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の平均値(あるいは中央値)として設定することもできる。
【0017】
評価対象となる免疫関連細胞において測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、基準発現量との比較は、有意差の有無に基づいて行われることが好ましい。例えば、評価対象となる免疫関連細胞において測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量が、基準発現量と比べて、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、もしくは100%以上高いまたは低い場合に、評価対象となる免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量が有意に高い、または、有意に低いと判断することができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、免疫関連疾患に罹患している患者の免疫関連細胞(炎症状態の免疫関連細胞)におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を基準発現量として設定した場合を考える。評価対象となる免疫関連細胞におけるEDNRAの発現量が前記基準発現量と比較して有意に低い場合に、評価対象となる免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が、基準の細胞(この実施形態においては、免疫関連疾患に罹患している患者の免疫関連細胞)における一次繊毛の数および/または割合と比較して、減少していると評価することができる。一方、評価対象となる免疫関連細胞におけるTGFb2の発現量が前記基準発現量と比較して有意に高い場合に、評価対象となる免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が、基準の細胞における一次繊毛の数および/または割合と比較して、減少していると評価することができる。
【0019】
また、本発明の別の一実施形態において、健康な対象の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を基準発現量として設定した場合を考える。評価対象となる免疫関連細胞におけるEDNRAの発現量が前記基準発現量と比較して有意に高い場合に、評価対象となる免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が、基準の細胞(この実施形態においては、健康な対象の免疫関連細胞)における一次繊毛の数および/または割合と比較して、増加していると評価することができる。一方、評価対象となる免疫関連細胞におけるTGFb2の発現量が前記基準発現量と比較して有意に低い場合に、評価対象となる免疫関連細胞における一次繊毛の数および/または割合が、基準の細胞における一次繊毛の数および/または割合と比較して、増加していると評価することができる。
【0020】
本明細書において、「免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量」は、例えば、免疫関連細胞におけるEDNRA(エンドセリン受容体A)タンパク質およびTGFb2(Transforming Growth Factor-β2)タンパク質の少なくとも一方あるいは両方の発現量として評価することができる。免疫関連細胞におけるEDNRAタンパク質および/またはTGFb2タンパク質の発現量は、絶対値として測定されてもよく、相対値(例えば、比較対照もしくは基準発現量との比率または差など)として測定されてもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法においては、必ずしもEDNRAタンパク質および/またはTGFb2タンパク質の絶対的な発現量を測定する必要はなく、対照のEDNRAタンパク質および/またはTGFb2タンパク質の発現量との相対的な発現量を測定してもよい。
【0021】
EDNRAタンパク質および/またはTGFb2タンパク質の発現量は、例えば、EDNRAタンパク質もしくはTGFb2タンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片を用いた免疫学的手法、あるいは、LC-MS/MSMRM等を用いた非免疫学的手法により測定することができる。このような免疫学的手法としては、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA法、RIA法、EIA法、バイオアッセイ法を挙げることができる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法において、「免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量」は、免疫関連細胞におけるEDNRA遺伝子およびTGFb2遺伝子の少なくとも一方あるいは両方の発現量として評価することもできる。免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量もまた、絶対値として測定されてもよく、相対値として測定されてもよい。
【0023】
EDNRA遺伝子および/またはTGFb2遺伝子の発現量は、例えば、当該遺伝子の転写産物であるmRNA量として測定することができる。mRNA量の測定は、所望のmRNA量を測定できる方法であれば特に限定されず、例えば、EDNRA遺伝子またはTGFb2遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとした遺伝子増幅法、あるいは、EDNRA遺伝子またはTGFb2遺伝子にハイブリダイズするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用することができる。より具体的なmRNA量の測定方法としては、リアルタイムRT-PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、ノーザンブロット解析法、ドットブロット法、RNA-sequence解析、マイクロアレイ、FISH(fluorescence in situ hybridization)等などが挙げられる。
【0024】
ヒトのEDNRAに関して、cDNAの塩基配列はAccession No. AY275462として、mRNAの塩基配列はAccession No. AY275462として、タンパク質のアミノ酸配列はAccession No. AAP32294として、データベースNCBIに登録されている。一方、ヒトのTGFb2に関して、cDNAの塩基配列はAccession No. BC096235として、mRNAの塩基配列はAccession No. BC096235として、タンパク質のアミノ酸配列はAccession No. AAH99635として、データベースNCBIに登録されている。したがって、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法において、EDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する場合、例えば、これらのmRNAおよび/またはタンパク質の量を、上述した方法にしたがって測定すればよい。
【0025】
上述したEDNRAタンパク質および/またはTGFb2タンパク質の発現量、ならびに、EDNRA遺伝子および/またはTGFb2遺伝子の発現量の測定方法は、in vitroで行ってもよく、ex vivoで行ってもよく、in vivoで行ってもよい。また、複数の遺伝子および/またはタンパク質の発現量を測定する場合、それらの発現量は、それぞれ個別に測定されてもよく、まとめて同時に測定されてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法は、免疫関連疾患の重要な指標である、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を、本発明者らの見出した新規のマーカーであるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を基に評価することができる。従来、免疫関連細胞における一次繊毛の状態を評価する方法としては、顕微鏡などにより観察する等、煩雑であり、かつ、客観性および定量性に劣る方法のみしか知られていなかったところ、本発明の一実施形態に係る一次繊毛の状態を評価する方法によれば、免疫関連細胞における一次繊毛の状態を比較的簡便に、かつ、客観的かつ定量的に評価することができる。このような比較的簡便に、かつ、客観的かつ定量的に免疫関連細胞における一次繊毛の状態を評価できる方法は、免疫関連疾患の検査、免疫関連疾患の罹患の有無の診断の補助または免疫関連疾患の予後の診断の補助、免疫関連疾患の治療薬の開発、免疫関連疾患を抑制するための医薬部外品または化粧料成分の開発などに用いられることが期待されるものである。
【0027】
〔2.被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法〕
本発明の一実施形態において、被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程(以下、接触工程と称する場合がある)、および、前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程(以下、測定工程と称する場合がある)、を含む、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法を提供する。
【0028】
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法において、免疫関連細胞の一次繊毛調整作用の評価対象となる被験物質としては、特に限定されず、例えば、化粧品、医薬品、医薬部外品、または健康食品もしくは機能性食品に含まれ得る任意の成分(化合物)を被験物質とすることができる。被験物質としては、より具体的には、動物組織もしくは植物組織の抽出物、または、微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらの精製物;天然分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);天然分子の合成アナログまたは誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);非天然分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作製した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。被験物質としては、これらの成分を単独で使用してもよく、いくつかの成分を含む混合物(例えば、ペプチドライブラリー等のライブラリー)として使用してもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法における、免疫関連細胞については、上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕項の記載を適宜援用することができる。
【0030】
(接触工程)
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法は、被験物質を免疫関連細胞に接触させる接触工程を含む。接触工程において、被験物質を免疫関連細胞に接触させる方法は、特に限定されず、例えば、免疫関連細胞を培養している培地に被験物質を添加することによって、被験物質を免疫関連細胞に接触させることができる。接触工程において、被験物質を免疫関連細胞に接触させる時間は、特に限定されず、例えば、0.1時間~100時間、0.1時間~75時間、0.1時間~50時間、0.1時間~25時間、0.1時間~10時間、または、0.1時間~1時間であってもよい。また、被験物質として複数の成分(化合物)を使用する場合、複数の成分を一度に免疫関連細胞に接触させてもよく、それぞれ個別に免疫関連細胞に接触させてもよい。
【0031】
接触工程においては、被験物質を免疫関連細胞に接触させた後、当該免疫関連細胞を所望の期間培養してもよい。なお、培養の間、被験物質と免疫関連細胞とは、接触していてもよく、接触していなくてもよい。なお、培養期間は、特に限定されず、例えば、1日~3日であってもよく、1日~7日であってもよく、7日以上であってもよい。
【0032】
(測定工程)
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法は、前記接触工程において被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する測定工程を含む。測定工程における測定対象である、「免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量」については、上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕項の記載を適宜援用することができる。すなわち、測定工程においては、(1)被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAタンパク質およびTGFb2タンパク質の少なくとも一方あるいは両方の発現量を測定してもよく、(2)被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRA遺伝子およびTGFb2遺伝子の転写産物であるmRNAの少なくとも一方あるいは両方を測定してもよい。
【0033】
なお、EDNRAタンパク質およびTGFb2タンパク質、ならびに、EDNRA遺伝子およびTGFb2遺伝子の転写産物であるmRNAの具体的な態様およびその測定方法についても、上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕項の記載を適宜援用することができる。
【0034】
測定工程においては、被験物質を接触させた(後の)免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量に加えて、被験物質を接触させる前の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定することが好ましい。被験物質を接触させる前の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定することで、被験物質の接触前後の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の対比が可能となり、より詳細に被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価することが可能となる。
【0035】
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法は、測定工程において測定された、免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量に基づき、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価することができる。
【0036】
被験物質を接触させる免疫関連細胞として、炎症誘導(例えば、IL-13による刺激)した免疫関連細胞(炎症状態の免疫関連細胞)を使用する場合(場合A)を考える。上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕項に記載のように、炎症状態の免疫関連細胞において、一次繊毛の状態が変化(特に、一次繊毛の数および/または割合が減少)した場合、変化前と比較して、EDNRAの発現量が減少し、TGFb2の発現量が増加する。すなわち、場合Aにおいて、測定工程において測定された、免疫関連細胞(被験物質を接触させた後の免疫関連細胞)におけるEDNRAの発現量が減少しているか、および/または、TGFb2の発現量が増加している場合、被験物質の接触によって、免疫関連細胞の一次繊毛の状態が変化したといえる。換言すると、被験物質が負の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する、と評価することができる。
【0037】
被験物質を接触させる免疫関連細胞として、健康な(炎症誘導されていない)免疫関連細胞(非炎症状態の免疫関連細胞)を使用する場合(場合B)を考える。上記〔1.免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法〕項に記載のように、健康な免疫関連細胞において、一次繊毛の状態が変化(特に、一次繊毛の数および/または割合が増加)した場合、変化前と比較して、EDNRA発現量が増加し、TGFb2の発現量が減少する。すなわち、場合Bにおいて、測定工程において測定された、免疫関連細胞(被験物質を接触させた後の免疫関連細胞)におけるEDNRAの発現量が増加しているか、および/または、TGFb2の発現量が減少している場合、被験物質の接触によって、免疫関連細胞の一次繊毛の状態が変化したといえる。換言すると、被験物質が正の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する、と評価することができる。
【0038】
本明細書において、「負の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」とは、一次繊毛の変化を抑制する方向に調整する作用、より具体的には、一次繊毛の数および/または割合を減少させる作用を意味する。また、「正の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」とは、一次繊毛の変化を促進する方向に調整する作用、より具体的には、一次繊毛の数および/または割合を増加させる作用を意味する。本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法によれば、被験物質について、このような正および負の両方の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価することが可能である。
【0039】
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法において、EDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の増減は、例えば、評価対象となる免疫関連細胞において、被験物質を接触する前に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、被験物質を接触した後に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、を比較することにより判定することができる。また、複数の被験物質を接触する前の免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定し、この平均値(あるいは中央値)を予め基準発現量として設定し、この基準発現量と、被験物質を接触した後に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、を比較することによっても、EDNRAおよび/またはTGFb2の発現量の増減を判定することができる。
【0040】
被験物質を接触した後に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量と、被験物質を接触する前に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量、あるいは、基準発現量との比較は、有意差の有無に基づいて行うことが好ましい。例えば、被験物質を接触した後に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量が、被験物質を接触する前に測定されたEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量、あるいは、基準発現量と比べて、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、もしくは100%以上高いまたは低い場合に、被験物質を接触した後に測定された免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量が有意に増加している、または、有意に減少していると判断することができる。
【0041】
〔3.免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係る被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法によれば、得られた評価結果に基づき、複数の被験物質の中から、免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質をスクリーニングすることが可能である。すなわち、本発明の一実施形態において、被験物質を免疫関連細胞に接触させる工程(接触工程)、および、前記被験物質を接触させた免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定する工程(測定工程)、を含む、免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
【0042】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法における、接触工程、測定工程および被験物質の評価方法については、上記(接触工程)項、(測定工程)項等の記載を適宜援用することができる。
【0043】
本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法によれば、上記のような正の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する物質、および、負の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する物質、の両方をスクリーニングすることが可能である。
【0044】
上記のように、免疫関連細胞の一次繊毛の状態(特に、一次繊毛の数および/または割合)は、炎症性免疫反応等を伴う免疫関連疾患の重要な指標である。換言すると、一次繊毛の状態を調整できる(調整作用を有する)物質は、このような免疫関連疾患の病状を調整できる物質であるとも言える。したがって、「負の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」を有する被験物質は、上記のような免疫関連疾患の発症または進行を抑制し得る物質であると言え、一方で、「正の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」を有する被験物質は、上記のような免疫関連疾患の発症または進行を促進し得る物質であると言える。換言すると、本発明の一実施形態に係る免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法によれば、免疫関連疾患の発症もしくは進行を抑制する物質、あるいは、免疫関連疾患の発症もしくは進行を促進する物質をスクリーニングすることもできる。
【0045】
「負の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」を有する被験物質を特定すれば、当該被験物質を含む免疫関連疾患の治療薬、または、免疫関連疾患を抑制するための医薬部外品もしくは化粧料成分の開発等に繋げることができる。一方、「正の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用」を有する被験物質を特定すれば、様々な製品(医薬品、医薬部外品、化粧料等)から当該被験物質を除くことによって、炎症性免疫反応等が抑制された、より安全な製品を実現することができる。また、当該被験物質を免疫関連細胞の炎症誘導(免疫関連細胞の炎症モデルの作製)に利用することも可能である。
【実施例0046】
本発明の実施例について、以下に説明する。
【0047】
<1.一次繊毛の形成に関与する因子の特定>
免疫関連細胞(免疫機能保有細胞)の1種である、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK:Normal Human Epidermal Keratinocyte)を、ウェルプレート上に、ウェルプレート表面の面積の約50~60%を覆う密度にて播種した。このウェルプレートにサイトカインを含む培地を供給し、48時間培養することで、NHEKの一次繊毛の形成を誘導した(IL13群)。また、コントロールとして、IL-13を含まない培地中においても、NHEKを48時間培養した(コントロール群)。
なお、上記のサイトカインを含む培地における、サイトカインの種類および最終濃度は以下の通りであった:
IL13 :100ng/ml。
【0048】
培養後、IL13群およびコントロール群のNHEKを回収し、各群ごとにDNAマイクロアレイを用いて、発現遺伝子の網羅的解析を行った。簡潔には、RNeasy mini kit(Qiagen社製)を用いてNHEK細胞の総RNAを抽出し、当該総RNAおよびDNAマイクロアレイ(ThermoFisher社製、GeneChip(登録商標) 3’IVT PLUS Reagent Kit)を用いて、発現遺伝子の網羅的解析を行った。
【0049】
DNAマイクロアレイの結果を図1に示す。図1は、IL13群と、コントロール群とのシグナル値に換算された遺伝子発現量の相対比率(fold change)である。
【0050】
図1から明らかなように、一次繊毛の形成を誘導したIL13群においては、コントロールと比較して、EDNRAおよびTGFb2を含む13の因子において、その発現量が増加または低下していることが分かる。この結果から、これらのEDNRAおよびTGFb2を含む13の因子が、一次繊毛の形成に関与していることが示唆された。
【0051】
<2.一次繊毛の形成に関与する因子のタンパク質レベルでの解析>
Lipofectamine(Thermo Fisher Scientific社製)およびsiIFT88(最終濃度30nM)を含む培地にてNHEKを6時間培養することで、IFT88がノックダウンされたNHEKを得た(SiIFT88群)。IFT88は一次繊毛の形成に関与するタンパク質であり、IFT88がノックダウンされることは、一次繊毛がノックダウンされることを意味する。また、コントロールとして、siIFT88の代わりにsiCTRLを含む培地にて6時間培養したNHEK(siCtrl群)を用意した。
【0052】
SiIFT88群およびsiCtrl群のNHEKを、ウェルプレート上に、ウェルプレート表面の面積の約50~60%を覆う密度にて播種した。このウェルプレートに培地を供給し、48時間培養することで、NHEKの一次繊毛の形成を誘導した。なお、SiIFT88群において一次繊毛がノックダウンされていることは、IFT88抗体(proteintech社製、型番:Ap-1-13967)でIFT88を検出することによって確認した。
【0053】
培養後、SiIFT88群およびsiCtrl群のNHEKを回収し、各細胞を冷やしたDPBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)を用いて洗浄した後、当該細胞を、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファー中に溶解させて、細胞溶解液を得た。
【0054】
同一量のタンパク質を含む各細胞溶解液を、10%ポリアクリルアミドゲル内に充填し、電気泳動させた後、ポリアクリルアミドゲル内で分離されたタンパク質をPVDF膜上に転写した。
【0055】
当該PVDF膜上に転写された各因子をウエスタンブロット法にて検出し、検出結果に基づいて、各因子を定量した。
【0056】
EDNRAおよびTGFb2を検出するための1次抗体として、各々、EDNRA抗体(abcam社製、型番:ab178454)およびTGFb2抗体(abcam社製、型番:ab36495)を用いた。また、タンパク質を定量化するための基準となるβactinを検出するために、βactin抗体(cell signaling technology社製、型番:3700,4970)を用いた。目的のタンパク質が転写されたPVDF膜と、各抗体とを4℃で一晩接触させた後、当該PVDF膜をTBSTで洗浄した。
【0057】
2次抗体として、HRPが結合した2次抗体を用いた。TBSTで洗浄したPVDF膜と、2次抗体とを接触させた後、当該PVDF膜をTBSTで洗浄した。
【0058】
TBSTで洗浄したPVDF膜と、HRPの基質とを接触させることによって、PVDF膜に転写された目的の因子をバンドとして画像化した。バンドの強度を数値化し、統計的に分析した。
【0059】
実験1で見出された13因子のうち、EDNRAおよびTGFb2において、SiIFT88群とsiCtrl群との比較において、発現量の差異が検出された。EDNRAおよびTGFb2についての、PVDF膜転写された画像と、数値化されたバンドの強度とを、図2に示す。なお、TGFb2は前駆体として存在しているときはタンパク質の二量体として存在し、その質量は55kDa(TGFb2 55kDa)であるが、切断されると活性化し成熟型となり、質量が25kDa(TGFb2 25kDa)となる。
【0060】
図2から明らかなように、EDNRAは、一次繊毛をノックダウンした場合(SiIFT88群)に、対照(siCtrl群)と比較して、その発現量が減少した。一方、TGFb2は、一次繊毛をノックダウンした場合(SiIFT88群)に、対照(siCtrl群)と比較して、その発現量が増加した。
【0061】
以上の結果から、免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量が、当該免疫関連細胞における一次繊毛の状態と相関関係にあること、および、免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を指標として、当該免疫関連細胞における一次繊毛の状態を評価し得ること、すなわち、免疫関連細胞におけるEDNRAおよび/またはTGFb2の発現量を測定することで、当該免疫関連細胞における一次繊毛の状態を評価し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の一実施形態は、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価する方法、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価する方法、および、疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質のスクリーニング方法として好適に利用することができる。特許文献1に記載のとおり、免疫関連細胞の一次繊毛と免疫関連疾患とが相関していることから、免疫関連細胞の一次繊毛の状態を評価できる本発明の一実施形態によれば、例えば、免疫関連疾患の指標の検出、免疫関連疾患の罹患の有無の診断の補助または免疫関連疾患の予後の診断の補助、免疫関連疾患の治療または免疫関連疾患抑制剤による免疫関連疾患に対する抑制効果の評価ならびに被験物質が免疫機能制御作用を有する物質であるかどうかの評価を行なうことができる。また、免疫関連細胞の一次繊毛は、免疫関連細胞の増殖および免疫関連疾患に関与していることから、免疫関連細胞の一次繊毛の形成を制御することにより、免疫機能の制御を行なうこともできる。したがって、被験物質の免疫関連細胞の一次繊毛調整作用を評価できる、または、疫関連細胞の一次繊毛調整作用を有する物質をスクリーニングできる本発明の一実施形態は、免疫関連疾患の治療薬の開発、免疫関連疾患を抑制するための医薬部外品または化粧料成分の開発などに用いられることが期待されるものである。
図1
図2