(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069126
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】推定方法、推定装置、推定システム、制御プログラム、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61C 19/06 20060101AFI20240514BHJP
A61C 19/00 20060101ALI20240514BHJP
G16H 50/00 20180101ALI20240514BHJP
【FI】
A61C19/06 A
A61C19/00 A
G16H50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059175
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022179822
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
2.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】西本 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】園部 興一
【テーマコード(参考)】
4C052
5L099
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052NN03
4C052NN15
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】施術時における治療部位の誤認を防止する。
【解決手段】推定方法は、施術を受ける対象者の顔の撮像画像において、対象者の口よりも頭頂側に位置する顔の部位である第1ランドマーク(M1)の位置、該口よりも胴体側に位置する顔の部位である第2ランドマーク(M2)の位置、および施術に用いられる器具の位置(K)を検出する検出工程と、撮像画像における第1ランドマーク(M1)の位置および第2ランドマーク(M2)の位置によって規定される第1線(Y)と器具との相対的な位置関係を推定する推定工程とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出工程と、
前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定工程と、を含む、推定方法。
【請求項2】
前記第1目印は、左鼻翼と右鼻翼とを結んだ線分の中点、人中、鼻柱のうちの少なくともいずれかである、
請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記第2目印は、あご先を示すオトガイである、
請求項1に記載の推定方法。
【請求項4】
前記施術は、口腔内および歯のうちのいずれかに対する施術であり、
前記器具は、コントラアングルハンドピース、デンタルミラー、注射器、バキューム・ヘーベル、抜歯鉗子、ピンセット、充填器、エアタービンハンドピース、エアスケーラー、および超音波スケーラーのうちの少なくともいずれかである、
請求項1に記載の推定方法。
【請求項5】
前記検出工程において、
前記撮像画像における前記対象者の唇によって規定される第3目印の位置をさらに検出し、
前記推定工程において、
前記第3目印の位置と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定する、
請求項1に記載の推定方法。
【請求項6】
前記第3目印は、前記対象者の上唇の中央と下唇の中央とを結んだ線分の中点であり、
前記推定工程において、
前記線分の中点を通り前記第1線と直行する第2線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定する、
請求項5に記載の推定方法。
【請求項7】
前記第3目印は、左の口角および右の口角であり、
前記推定工程において、
前記左の口角と前記右の口角とを結ぶ第3線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定する、
請求項5に記載の推定方法。
【請求項8】
前記検出工程において、
前記撮像画像における前記対象者の前歯の位置によって規定される第4目印の位置をさらに検出し、
前記推定工程において、
前記第4目印の位置と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定する、
請求項6または7に記載の推定方法。
【請求項9】
施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出部と、
前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定部と、を備える、推定装置。
【請求項10】
施術を受ける対象者の顔を撮像する撮像装置と、
前記請求項9に記載の推定装置と、を備える、推定システム。
【請求項11】
前記推定装置は、
前記施術を受ける対象者を保持可能な診療装置と通信可能に接続されており、
推定された前記位置関係が、前記施術の対象となる治療部位の位置を示す治療部位情報と一致するか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記治療部位情報と、推定された前記位置関係とが一致しない場合、前記治療部位の誤認が発生したことを前記施術の施術者に知らせるための警告を前記診療装置に出力させるための第1警告出力要求を該診療装置に送信する、請求項10に記載の推定システム。
【請求項12】
前記診療装置は、
前記施術の施術者が使用する機器、および該施術者によって装着される機器を含む1以上の外部機器と通信可能に接続されており、
前記第1警告出力要求を前記推定装置から受信した場合、前記治療部位の誤認が発生したことを前記施術の施術者に知らせるための警告を前記外部機器に出力させるための第2警告出力要求を該外部機器に送信する、請求項11に記載の推定システム。
【請求項13】
請求項9に記載の推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、上記検出部および上記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施術者が施術を行おうとしている(あるいは、施術を行っている)部位を推定する推定方法、推定装置、推定システム、制御プログラム、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、歯科施術においては、狭い口腔内に多数の歯が存在すること、各歯の形態が似ていること、歯の表記方法が複数あること、歯列の個人差が大きいことなどから、歯科医等の施術者が施術を行うべき部位を誤認するという問題が生じている。
【0003】
下記の特許文献1には、歯の状態を容易に認識することができるように、口腔内のすべての歯の情報を模式的に表示し、治療情報の入力誤りを防ぐ歯科情報処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、電子カルテ等への入力誤りを防止することができても、実際の歯科治療の場面において、歯科医等の治療部位誤認を防ぐことはできない。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、施術時における治療部位の誤認を防止する推定方法、推定装置、推定システム、制御プログラム、および記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る推定方法は、施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出工程と、前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定工程と、を含む。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の態様2に係る推定装置は、施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出部と、前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定部と、を備える。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推定システムは、施術を受ける対象者の顔を撮像する撮像装置と、前記態様2に係る推定装置と、を備える。
【0010】
本開示の各態様に係る推定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記推定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記推定装置をコンピュータにて実現させる推定装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本開示の範疇に入る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、施術時における治療部位の誤認を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1に係る推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す推定システムの外観の一例を示す図である。
【
図3】患者の口付近のランドマークを説明する図である。
【
図6】表示部の画面のさらに他の例を示す図である。
【
図7】
図1に示す制御部が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態3に係る推定システムの外観の一例を示す図である。
【
図9】
図8に示す推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】治療器具とランドマークの検出精度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、図面に基づいて説明する。なお、以下では、本発明に係る推定方法を、歯科治療等において、施術者が施術を行おうとしている(あるいは施術を行っている)部位を推定する方法とした例に基づいて説明する。ここで施術者は、医師(例えば歯科医)および歯科衛生士などを含む。しかし、本発明はこの例に限らず、例えば、歯茎、頬の内側、舌部等の口腔内の疾患に対する治療および歯のクリーニングに関連する施術についても適用可能であり、さらには、顔(顎等)の整形術等の各種施術についても適用可能である。
【0014】
<推定システム1の概要>
以下、本発明の実施形態1について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図2は、本発明の実施形態1に係る推定システム1の外観の一例を示す図である。
図2に示すように、歯科治療を行う際、施術者は、仰臥位で診察台9に寝かせた患者(施術を受ける対象者)の頭部側から、患者の歯の治療を行う。
【0016】
診察台9の上部には、患者の顔を、例えば、正面から撮像することができる位置に撮像装置2が設置され、治療中の動画が撮像される。撮像装置2は、施術者の操作により、所望の位置および角度に調節可能である。これにより、撮像装置2の撮像範囲を調整し、治療中の患者の顔を正面から撮像することができる。また、これに限らず、撮像装置2は、患者の顔を斜め上部から、または横側から撮影してもよい。
【0017】
推定システム1は、撮像装置2が撮像した動画データに対して、画像認識および位置検出を行い、治療器具と患者の口腔内歯列との位置関係を推定する。推定システム1は、これらの位置関係から、施術者が施術すべき治療部位(すなわち、施術対象の部位)を誤認していると判断した場合、施術者に対して警告を行う。
【0018】
<推定システム1の構成>
図1は、推定システム1の要部構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、推定システム1は、撮像装置2および推定装置4を含んで構成される。推定装置4は有線又は無線により、撮像装置2および電子カルテ管理装置3と通信可能に接続される。
【0019】
(撮像装置2)
撮像装置2は、上述したように、治療中の患者の顔を正面からみた動画を撮像する。撮像装置2は、動画を撮影する撮像部21、推定装置4等と通信するための通信部22、撮像装置2を統括的に制御する制御部23、および、制御部23が使用する各種データと撮像した動画データとを記憶する記憶部24を備える。
【0020】
撮像装置2は、動画を撮影することができ、かつ、撮影した動画データを、リアルタイムに推定装置4に送信できるものであればよく、例えば、歯科専用の口腔内カメラであってもよいし、一般的なデジタルカメラおよびスマートフォン等であってもよい。また、撮像装置2は、静止画を撮影してもよいし、動画と静止画の両方を撮像してもよい。この場合、推定装置4は、動画データまたは静止画データについて画像認識を行う。
【0021】
(電子カルテ管理装置3)
電子カルテ管理装置3は、患者に関する情報を記憶する患者情報記憶部31、推定装置4等と通信するための通信部32、入力操作を受け付ける入力部33、および情報を出力する出力部34を備える。
【0022】
患者情報記憶部31は、基本情報311、口腔内情報312、および、施術計画情報313を格納する。
【0023】
基本情報311は、例えば、患者の氏名、年齢、住所、患者ID等を含む情報である。
【0024】
口腔内情報312は、患者ごとの口腔内の情報であり、例えば、初診時に撮った口腔内のX線画像、CT(Computer Tomography)画像、口腔内スキャナのスキャン画像等のデータである、これらの画像データから、当該患者の歯列や、各歯の状態を把握することができる。
【0025】
歯列の状態とは、例えば、歯の配列に関する状態であり、配列のアーチの形状や大きさ、歯と歯の間の隙間等の状態を指す。また、各歯の状態とは、例えば、各歯の形状の他、詰め物や被せ物の有無、治療済み歯、未治療歯、抜歯による欠損歯等の状態を指す。
【0026】
施術計画情報313は、所定の患者について、現時点以降に行う予定の施術情報である。例えば、所定の患者の所定の歯について所定の処置を行う予定がある場合、処置の種類、処置を行う歯の位置、処置を行う日付等を特定する情報である。
【0027】
これらの基本情報311、口腔内情報312、および施術計画情報313は、例えば、患者IDによって紐づけられ、患者情報記憶部31に格納される。
【0028】
電子カルテ管理装置3は、推定装置4と通信することにより、患者の基本情報311、口腔内情報312、および施術計画情報313を推定装置4に送信することができる。
【0029】
(推定装置4)
推定装置4は、撮像装置2や電子カルテ管理装置3等と通信する通信部5、推定装置4を統括的に制御する制御部6、制御部6が使用する各種データを記憶する記憶部7、および情報を出力するための出力部8を備える。
【0030】
記憶部7は、検出情報71、推定結果情報72、および、判定情報73を格納する。
【0031】
出力部8は、液晶ディスプレイ等で実現される表示部81、および、音声を出力するスピーカ82を備えていてもよい。あるいは、出力部8は、後述するバイブレーター、およびランプ等であってもよい。
【0032】
取得部61は、通信部5を介して、撮像装置2が撮像した動画データを取得し、画像認識部62へ送信する。
【0033】
(画像認識部62)
画像認識は、公知のアルゴリズムを利用して行うことができ、例えば、リアルタイムの物体検出方法である、YOLO(You Only Look Once)v4、およびDETR(End-to-End Object Detection with Transformers)等を用いて行うことができる。
【0034】
画像認識部62は、取得部61から送信された動画データに対して画像認識を行い、所定の部位を検出する。画像認識部62は、ランドマーク検出部621(検出部)、器具検出部622、および歯検出部623を備える。
【0035】
ランドマーク検出部621は、動画データに含まれる患者の顔から複数のランドマーク(目印)を検出する。ランドマークとその検出の詳細については後述する。
【0036】
器具検出部622は、動画データから歯科治療に用いられる器具を検出する。治療器具は、具体的には、口腔内および歯のうちのいずれかに対して治療(施術)をする器具のことである。治療器具は、例えば、コントラアングルハンドピース(以下、コントラと称す。)、デンタルミラー(以下、ミラーと称す。)、注射器、バキューム・ヘーベル、抜歯鉗子、ピンセット、および充填器等である。以下では、器具検出部622が治療器具を検出する場合を例に挙げて説明するが、これに限定されない。例えば、器具検出部622は、治療器具ではない器具(ハンドピース)を検出する構成であってもよく、例えば、エアタービンハンドピース(所謂、タービン)、エアスケーラー、超音波スケーラー等を検出してもよい。
【0037】
歯検出部623は、動画データから患者の口腔内の歯を検出する。
【0038】
画像認識部62が検出した検出情報は、記憶部7の検出情報71に格納される。画像認識部62が行う検出処理の詳細については後述する。
【0039】
(推定部63)
推定部63は、画像認識部62が検出したランドマークに基づいて、口腔内の画像領域を分割し、治療器具の所定部位がどの画像領域に位置するかを推定する。治療器具の所定部位とは、詳しくは後述するが、治療器具の患者の口腔内に挿入される部位である。推定部63は、第1線設定部631、第2線設定部632、座標情報生成部633、および位置推定部634を備える。
【0040】
第1線設定部631は、画像認識部62が検出したランドマークに基づいて、患者の口腔内の画像領域を左右2つの領域に分割する第1線Y(
図3参照)を設定する。
【0041】
位置推定部634は、器具検出部622が検出した治療器具の位置と、第1線Yに基づいて、使用する治療器具が使用する治療器具が位置する口腔内の画像領域を推定する。
【0042】
第2線設定部632は、さらに、画像認識部62が検出した他のランドマークに基づいて、第1線Yと略垂直に交わり、第1線Yと共に患者の口腔内の画像領域を4つの領域に分割する第2線X(
図3参照)を設定してもよい。
【0043】
位置推定部634は、器具検出部622が検出した治療器具の位置と、第1線Yおよび第2線Xとに基づいて、使用する治療器具が位置する口腔内の画像領域を推定する。
【0044】
推定部63が推定した結果情報、第1線Yおよび第2線Xの情報、および分割された画像領域の情報は、記憶部7の推定結果情報72に格納される。推定部63が行う推定処理の詳細については後述する。
【0045】
(判定部64)
判定部64は、位置推定部634から、位置推定部634が推定した治療器具の位置する口腔内の画像領域を取得する一方で、電子カルテ管理装置3の施術計画情報313から、処置を行おうとしている歯(以下、処置予定歯と称す。)の位置についての情報(治療部位情報)を取得する。すなわち、判定部64は、治療部位情報と、推定部63による推定結果とが一致するか否かを判定する。
【0046】
判定部64は、施術計画情報313から取得した処置予定歯の位置についての治療部位情報と、位置推定部634から取得した治療器具の所定部位が位置する画像領域(推定結果)とを比較する。例えば、治療器具が位置する画像領域と、治療部位情報が示す処置予定歯の位置する画像領域が同一である(すなわち、一致する)場合、判定部64は治療部位の誤認は無いと判定する。一方、画像領域が同一ではない(すなわち、一致しない)場合、判定部64は治療部位の誤認ありと判定し、表示部81およびスピーカ82等から警告を出力する。なお、警告を施術者に提示する態様は、表示部81およびスピーカ82からの出力に限定されない。例えば、警告は、施術時に施術者が着席している椅子および着用しているウェアラブルデバイス等が備えるバイブレーターを振動させることによって当該施術者に提示される構成であってもよい。あるいは、警告は、患者が使用しているチェアユニットが備えているライトを点灯させたり点滅させたりすることによって、施術者に提示される構成であってもよい。あるいは、警告は、患者が使用しているチェアユニットが備えている動作表示部を用いて、施術者に提示される構成であってもよい。
【0047】
なお、治療部位の誤認とは、例えば、隣接する歯の誤認、左右の位置の誤認、または上下の歯の誤認であり、治療部位の誤認は、隣接する歯の誤認、左右の位置の誤認がとりわけ多く認められる。
【0048】
判定部64が判定した判定情報は、記憶部7の判定情報73に格納される。判定部64が行う判定処理の詳細については後述する。
【0049】
<画像認識>
以下、画像認識部62が行う検出処理、および、推定部63が行う推定処理について、図面を参照して詳しく説明する。
【0050】
図3は、患者の口付近のランドマークを説明する図であり、
図4は、表示部の画面の一例を示す図である。
【0051】
上述したように、ランドマーク検出部621は、取得部61から送信された動画データに対して画像認識を行い、動画データに含まれる患者の顔から複数のランドマークを検出する。
【0052】
ランドマーク検出部621は、患者の顔を撮像した動画データ(撮像画像)において、患者の口よりも頭頂側に位置する顔の部位である第1ランドマークM1(第1目印)の位置、患者の口よりも胴体側に位置する顔の部位である第2ランドマークM2(第2目印)の位置をリアルタイムに検出する。
【0053】
具体的には、
図3に示すように、ランドマーク検出部621は、上述した公知の物体検出方法のソフトウェアが左鼻翼として検出したバウンディンクボックスの底辺の中点P1と、右鼻翼を検出したバウンディンクボックスの底辺の中点P2とを結んだ線分の中点を、第1ランドマークM1として設定する。
【0054】
また、オトガイ(あご先)を検出したバウンディンクボックスの中心点を、第2ランドマークM2として設定する。
【0055】
通常、顔認識のランドマークとしてよく用いられるのは両目であるが、歯科治療中は、施術者の手や治療器具によって、患者の目や鼻、口等がしばしば隠れてしまう。さらに、歯科治療中は、患者の目はゴーグルや覆布で覆われており、患者の口周辺と鼻先しか露出していないことが多い。このため、両目をランドマークとして設定することはできない。
【0056】
一方、鼻翼とオトガイは、通常、覆布等で覆われることはなく、所定の距離を置いて互いに離間した位置にあり、たとえ一方が隠れても、もう一方は検出できる可能性が高い。このため、第1ランドマークM1として左鼻翼と右鼻翼とを結んだ線分の中点、第2ランドマークM2としてオトガイを設定した。
【0057】
また、これに限らず、鼻から上唇までの間を縦方向に伸びる溝(窪み)である人中を、第1ランドマークM1として設定してもよいし、両鼻孔の間にある鼻柱を第1ランドマークM1としてもよい。また、複数部位を第1ランドマークM1として設定してもよく、例えば左鼻翼と右鼻翼とを結んだ線分の中点、人中、鼻柱のうち、少なくともいずれかを第1ランドマークM1として設定してもよい。また、第2ランドマークM2は、顎の輪郭および顎髭が生えている領域の形状等に基づいて患者毎に任意に設定されてもよく、オトガイに限定されない。例えば、顎髭でオトガイが隠れている患者の場合、該患者のオトガイの位置に第2ランドマークM2を示す検出用シール等を顎髭に貼付してもよい。なお、第1ランドマークM1と第2ランドマークM2との距離が長いほど、後述する第1線Yを精度良く設定することができる。
【0058】
次に、第1線設定部631は、画像認識部62が検出した第1ランドマークM1および第2ランドマークM2に基づいて、口腔内の画像領域を顔の左側にある領域Y1(
図4参照)、顔の右側にある領域Y2(
図4参照)に分割し、治療器具がどちらの画像領域に位置するかを推定する。
【0059】
具体的には、第1線設定部631は、第1ランドマークM1と第2ランドマークM2とを結んだ線分を、口腔内の領域を左側の領域Y1と右側の領域Y2とに分割する第1線Yとして設定する。
【0060】
器具検出部622は、施術者が治療器具を使用したとき、治療(施術)に用いられる器具の所定部位の位置Kをリアルタイムに検出する。治療器具の所定部位とは、上述したように、治療器具の患者の口腔内に挿入される部位である。治療器具がコントラの場合、器具検出部622は、例えばコントラのヘッド部分(所定部位)を検出したバウンディングボックスの中心点を、コントラの位置Kとして検出する。
【0061】
治療器具がミラーの場合、例えば、ミラーのヘッド部分(所定部位)を検出したバウンディングボックスの中心点を、ミラーの位置Kとして検出する。麻酔用の注射器の場合は、シリンジの先端部分(所定部位)を検出したバウンディングボックスの中心点を注射器の位置Kとして検出する。器具検出部622は、治療器具の位置Kと併せて、治療器具の作用点が向いている方向を検出してもよい。
【0062】
また、コントラのように、電源によって動作する治療器具の場合、電源がONになったことを感知すると、器具検出部622は治療器具の検出を始め、電源がOFFになったことを感知すると検出を中止するようにしてもよい。
【0063】
次に、位置推定部634は、第1ランドマークM1の位置および第2ランドマークM2の位置によって規制される第1線Yと、治療器具の位置Kとの相対的な位置関係を推定する。具体的には、位置推定部634は、器具検出部622が検出した治療器具の位置Kが、領域Y1と領域Y2のうちどちらの画像領域に位置するか推定する。
【0064】
判定部64は、施術計画情報313から取得した処置予定歯の位置についての治療部位情報と、位置推定部634から取得した治療器具の所定部位が位置する画像領域(推定結果)とを比較し、治療部位の誤認の有無を判定する。
【0065】
位置推定部634は、推定結果を座標情報生成部633に通知する。
【0066】
図4は、表示部81の画面の一例を示す図である。推定結果を受け取った座標情報生成部633は、取得部61から送信された動画データに、第1線Yおよび治療器具の位置Kを重畳して表示する加工動画データを作成する。
【0067】
座標情報生成部633は、作成した加工動画データを、出力制御部65を介してリアルタイムに表示部81に表示してもよい。
【0068】
図4に示すように、表示部81には、口腔内の画像領域を左右に分割する第1線Y、分割された領域Y1と領域Y2、および治療器具の位置Kが表示される。
図4の例では、治療器具の位置Kは領域Y1に位置している。
【0069】
また、座標情報生成部633は、出力制御部65を介して、治療器具の位置Kを音声によってスピーカ82からリアルタイムに出力してもよい。これにより、施術者は治療しようとしている歯の位置を、リアルタイムに確認することができ、治療部位の誤認のうち、特に多いとされる左右の位置の誤認を防止することができる。
【0070】
また、上記に限らず、出力制御部65は、判定部64が治療部位の誤認がないと判定したときは表示部81またはスピーカ82から出力を行わず、判定部64が治療部位の誤認ありと判定した場合のみ、表示部81またはスピーカ82から警告を出力しても構わない。なお、警告を出力する態様は、前述のように、表示部81およびスピーカ82からの出力に限定されない。
【0071】
(第3ランドマークM3)
ランドマーク検出部621は、取得部61から送信された動画データの患者の顔画像から、さらに第3ランドマークM3(第3目印)を検出してもよい。
【0072】
再び
図3を参照し、第3ランドマークM3について説明する。
図3に示すように、第2線設定部632は、患者の上唇を検出したバウンディングボックスの中心点P3(患者の上唇の中央)と、下唇を検出したバウンディングボックスの中心点P4(患者の下唇の中央)とを結んだ線分の中点を、第3ランドマークM3に設定する。
【0073】
次に、第2線設定部632は、第3ランドマークM3を通り第1線Yと直行する線を、第1線Yと共に口腔内の画像領域を4つに分割する、第2線Xとして設定する。
【0074】
これにより、口腔内の画像領域は、第2線Xをx軸、第1線Yをy軸、第1線Yと第2線Xとの交点を原点とする座標の第1象限から第4象限が、領域XY1から領域XY4となるように、4つの領域に分割される。
【0075】
次に、位置推定部634は、第3ランドマークM3を通り第1線Yと直行する第2線Xと、治療器具の位置Kとの相対的な位置関係をさらに推定する。具体的には、位置推定部634は、器具検出部622が検出した治療器具の位置Kが、領域XY1から領域XY4のうちどの画像領域に位置するか推定する。これにより、治療器具の位置Kをさらに詳細に推定することができる。
【0076】
判定部64は、施術計画情報313から取得した処置予定歯の位置についての治療部位情報と、位置推定部634から取得した治療器具の所定部位が位置する画像領域(推定結果)とを比較し、治療部位の誤認の有無を判定する。
【0077】
位置推定部634は、推定結果を座標情報生成部633に通知する。
【0078】
推定結果を受け取った座標情報生成部633は、取得部61から送信された動画データに、第1線Y、第2線X、領域XY1から領域XY4、および治療器具の位置Kを重畳して表示する加工動画データを作成する。
【0079】
座標情報生成部633は、作成した加工動画データを、出力制御部65を介してリアルタイムに表示部81に表示する。
【0080】
図5は、表示部81の画面の他の例を示す図である。
図5に示すように、表示部81には、口腔内の画像領域を分割する第1線Y、第2線X、分割された領域XY1から領域XY4、および治療器具の位置Kが表示される。
図5の例では、治療器具の位置Kは領域XY4に位置している。
【0081】
また、座標情報生成部633は、出力制御部65を介して、治療器具の位置Kを音声によってスピーカ82からリアルタイムに出力してもよい。これにより、施術者は治療しようとしている歯の位置を、リアルタイムに確認することができる。
【0082】
また、上記に限らず、出力制御部65は、判定部64が治療部位の誤認がないと判定したときは表示部81またはスピーカ82から出力を行わず、判定部64が治療部位の誤認ありと判定した場合のみ、表示部81またはスピーカ82から警告を出力しても構わない。なお、警告を出力する態様は、前述のように、表示部81およびスピーカ82からの出力に限定されない。
【0083】
また、これに限らず、取得部61から送信された動画データから患者の左右の口角の位置を検出できたときは、第3ランドマークM3と左右の口角を結んだ線分を第2線として用いてもよい。左右の口角を結んだ線分を第3線として設定し、第2線の代わりに用いてもよく、この場合、第3線と第1線との交点を第3ランドマークM3に設定しても良い。
【0084】
なお、上述したように、中心点P3とP4とを結ぶ線分の中点を第3ランドマークM3に設定した場合は、上記の口角の位置を第3ランドマークM3に設定しないで、検出精度を向上させるための追加情報として利用してもよい。
【0085】
また、歯検出部623が、動画データにおける患者の前歯の位置によって規定される第4ランドマークM4(第4目印)の位置をさらに検出してもよい。また、歯検出部623は、例えば、口腔内の一番奥にある奥歯の位置を検出できたときは、第2線設定部632は、第3ランドマークM3または第4ランドマークM4から、左右それぞれの上下奥歯の中点を結んだ線分を第2線として補正してもよい。
【0086】
位置推定部634は、第4ランドマークM4と治療器具の位置Kとの相対的な位置関係をさらに推定してもよい。これにより、精度よく第2線Xを設定することができる。
【0087】
(座標XY)
図6は、表示部81の画面のさらに他の例を示す図である。
図6の符号60Aで示す図は、全てのランドマークが検出できたときの画面を示す図である。符号60Bで示す図は、第1ランドマークM1だけを検出できたときの画面を示す図である。また、符号60Cで示す図は、第2ランドマークM2だけを検出できたときの画面を示す図である。
【0088】
符号60Aで示す図は、全てのランドマークを検出できたため、座標情報生成部633は、検出したランドマークに基づいて、第1線Yおよび第2線Xによって規定される座標XYを生成することができる。上述したように、座標XYは、第2線Xをx軸、第1線Yをy軸、第1線Yと第2線Xとの交点を原点とする座標であり、座標XYにより、口腔内の画像領域を4つに分割する。
【0089】
一方、符号60Bで示す図は、第1ランドマークM1は検出できたが、第2ランドマークM2および第3ランドマークM3を検出できなかったため、座標情報生成部633は、ランドマークに基づいて座標XYを生成することができない。
【0090】
このため、座標情報生成部633は、推定結果情報72に保持されている直前に生成された座標XYを利用して、現在の座標XYを生成する。詳細に説明すると、座標情報生成部633は、直前に生成された座標XYの第1ランドマークM1の位置が、現在検出されている第1ランドマークM1の位置と重なるように、座標XYを移動させて、現在の座標XYとする。
【0091】
これにより、全てのランドマークが検出されなかった場合でも、座標情報生成部633は、座標XYを生成することができ、継続して治療器具の位置Kを推定することができる。
【0092】
符号60Cで示す図は、第2ランドマークM2は検出できたが、第1ランドマークM1および第3ランドマークM3を検出できなかったため、座標情報生成部633は、ランドマークに基づいて座標XYを生成することができない。
【0093】
このため、符号60Bの場合と同様に、座標情報生成部633は、推定結果情報72に保持されている直前に生成された座標XYを利用して、現在の座標XYを生成する。詳細に説明すると、座標情報生成部633は、直前に生成された座標XYの第2ランドマークM2の位置が、現在検出されている第2ランドマークM2の位置と重なるように、座標XYを移動させて、現在の座標XYとする。
【0094】
これにより、全てのランドマークが検出されなかった場合でも、座標情報生成部633は、座標XYを生成することができ、継続して治療器具の位置Kを推定することができる。
【0095】
<制御部6が行う処理の流れ>
次に、
図7を参照して、推定装置4の制御部6が実行する処理の流れの一例を説明する。
図7は、制御部6が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0096】
制御部6は、歯科治療が開始され撮像部21による動画の撮像が開始されたことを検知する(S1)。
【0097】
取得部61は、通信部5を介して、撮像装置2が撮像した動画データを取得し、画像認識部62へ送信する(S2)。
【0098】
画像認識部62は、動画データに対して画像認識を行い、動画データに含まれる患者の顔から複数のランドマークを検出するとともに、使用されている治療器具を検出する(S3:検出工程)。
【0099】
推定部63は、画像認識部62が検出したランドマークに基づいて、口腔内の画像領域を分割し、治療器具がどの画像領域に位置するかを推定する(S4:推定工程)。
【0100】
判定部64は、位置推定部634から、治療器具の位置する領域情報を取得する一方、施術計画情報313から、処置予定歯の位置情報(治療部位情報)を取得する(S5)。
【0101】
判定部64は、治療器具が位置する画像領域と、処置予定歯の位置する画像領域を比較し、両者の画像領域が同一であるか否かを判断する(S6)。
【0102】
判定部64が同一でないと判断した場合(S6でNO)、判定部64は治療部位の誤認ありと判定し、出力制御部65は、表示部81およびスピーカ82から警告を出力する(S7)。なお、警告を出力する態様は、前述のように、表示部81およびスピーカ82からの出力に限定されない。
【0103】
判定部64が同一であると判断した場合(S6でYES)、判定部64は治療部位の誤認は無いと判定する。
【0104】
制御部6は、撮像部21による動画の撮像が終了したことを感知すると(S8でYES)、処理を終了する。動画の撮像が終了したことを感知しない場合(S8でNO)、画像認識を継続して行う。
【0105】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0106】
実施形態2の推定装置4は、実施形態1の構成に加えて、電子カルテ管理装置3の口腔内情報312に記憶されている情報と連携して、治療器具と患者の口腔内歯列との位置関係を推定する点で、実施形態1の推定装置4と相違する。
【0107】
再び
図1を参照して説明する。上述したように、口腔内情報312は、患者ごとの口腔内の情報であり、例えば、初診時に撮った口腔内のX線画像、CT画像、口腔内スキャナのスキャン画像等のデータ(以後、画像データWと称す。)である。これらの画像データWから、当該患者の歯列や、各歯の状態を把握することができる。
【0108】
推定部63は、位置推定部634が推定した治療器具の位置情報(治療部位情報)に加えて、口腔内情報312を利用することにより、治療器具が位置する領域について、精度よく推定することができる。
【0109】
患者の動画を顔の正面から撮像したとき、患者の前歯は、顔の表面に近い位置にあるため、各前歯の境界を認識しやすく、歯検出部623は、前歯ごとに検出することができる。推定部63は、歯検出部623が検出した前歯を基準の歯として設定する。
【0110】
推定部63は、口腔内情報312から画像データWを取得し、画像データWと連携することで、基準の歯から処置予定歯までのおおよその距離および角度を推測することができる。これにより、処置予定歯と治療器具の位置Kとの位置関係をより精度よく把握することができ、治療部位の誤認をさらに防止することができる。
【0111】
〔実施形態3〕
<推定システム1Aの外観および構成>
本発明の実施形態3について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0112】
実施形態3の推定システム1Aは、実施形態1の推定システム1の構成に加えて、さらにチェアユニット10(診療装置)等を含む点で、実施形態1の推定システム1と相違する。推定装置4は、治療部位の誤認が発生したことを施術の施術者に知らせるための警告をチェアユニット10に出力させるための第1警告出力要求を、該チェアユニット10に送信可能である。
【0113】
チェアユニット10は、歯科診療の際に、施術者が施術しやすいように、患者を安定して保持し、施術者との適切な治療位置を確保することができるチェア100を備える装置である。また、チェアユニット10は、例えば、診療器具110、照明装置130等を備え、診療装置としても機能する。また、チェアユニット10は、各装置の動作を制御する制御機能を備えており、推定装置4から第1警告出力要求を受信した場合、当該制御機能により警告を出力することができる。
【0114】
図8は、推定システム1Aの外観の一例を示す図である。
図9は、推定システム1Aの要部構成の一例を示すブロック図である。
【0115】
図8および
図9に示すように、推定システム1Aは、撮像装置2、推定装置4、およびチェアユニット10を含んで構成される。チェアユニット10は、撮像装置2および推定装置4と通信可能に接続されている。撮像装置2、推定装置4、および電子カルテ管理装置3(不図示)については、実施形態1にて説明したため、特に説明する必要がある場合を除いて、ここでは説明を省略する。
【0116】
(チェアユニット10)
チェアユニット10は、上述したように、歯科診療等のために用いられる診察装置である。チェアユニット10は、チェア100、診療器具110、ベースンユニット120、照明装置130、フットコントローラ140、入出力装置150、および、通信部160を備える。チェアユニット10は、通信部160を介して、推定装置4および外部機器等と無線通信または有線通信にて通信することができる。無線通信は、ブルートゥースであってもよいし、その他の無線通信であってもよい。
図9には外部機器の例として、これらに限定されるものではないが、施術者用椅子170およびウェアラブルデバイス180が示されている。
【0117】
チェア100は、歯科診療の際に患者が座る椅子であり、ヘッドレスト102、背もたれ103、座面シート104、および足置き台105を備える。
【0118】
チェア100は、チェア制御部101によって制御される。具体的には、チェア制御部101は、フットコントローラ140または操作パネル154による施術者の入力操作を受付けると、当該入力操作に基づいて、チェア100の姿勢を制御する。
【0119】
例えば、座面シート104を上昇または下降させたり、ヘッドレスト102、背もたれ103、および足置き台105を、座面シート104に対して垂直方向又は水平方向に移動させたりする。ヘッドレスト102、背もたれ103、および足置き台105が、座面シート104に対して垂直方向に位置すると、患者はチェア100に座った状態になる。ヘッドレスト102、背もたれ103、および足置き台105が、座面シート104に対して水平方向に位置すると、患者はチェア100上に仰向け状態となる。
【0120】
このように、チェア制御部101は、ヘッドレスト102、背もたれ103、座面シート104、および足置き台105を移動させて、チェア100の姿勢を制御する。
【0121】
診療器具110は、例えば、エアタービンハンドピース、マイクロモータハンドピース、超音波スケーラー、およびバキュームシリンジ等の歯科診療用のインスツルメントである。診療器具110は、例えば、チェア100のヘッドレスト102近傍に設置される器具ホルダー111に保持される。
【0122】
診療器具110は、器具制御装置112の器具制御部113により制御される。器具制御装置112は、例えば、チェア100の背もたれ103に配置され得る。器具制御部113は、フットコントローラ140または操作パネル154による施術者の入力操作を受付けると、当該入力操作に基づいて、診療器具110の駆動を制御する。
【0123】
例えば、施術者が、フットコントローラ140に設置されるエアタービンハンドピースの駆動スイッチを足踏み操作すると、器具制御装置112は、エアタービンハンドピースのヘッド部に保持された切削工具を回転させる。
【0124】
このように、器具制御装置112は、フットコントローラ140または操作パネル154への入力操作に基づき、診療器具110の駆動を制御する。
【0125】
ベースンユニット120は、給水および排水装置であり、排水口が形成された鉢122、コップが載置されるコップ台123、コップに給水する給水栓124を備える。ベースンユニット120は、ベースン制御部121によって制御される。ベースン制御部121は、ベースンユニット120の給水および排水を制御する。
【0126】
照明装置130は、チェア100またはチェア100が設置された床から延びるポールの上部で分岐するアームの先端に設けられる。照明装置130は、これに限らず、患者の顔または口腔内を照らすことができる位置に配置されればよい。
【0127】
照明装置130は、照明制御部131によって制御される。具体的には、照明制御部131は、フットコントローラ140または操作パネル154による施術者の入力操作を受付けると、当該入力操作に基づいて照明装置130を制御する。照明制御部131は、照明装置130を点灯状態、消灯状態、または点滅状態等に切り替える。また、照明装置130の照度を制御し、明るくしたり暗くしたりすることができる。
【0128】
フットコントローラ140は、術者の足踏みによる入力操作を受付ける、複数のスイッチ(ペダル)を備える。複数のスイッチには、それぞれ所定の機能が割り当てられ、例えば、上述したチェア100の姿勢を制御する機能、診療器具110を駆動させる機能、照明装置130を制御する機能等が割り当てられる。フットコントローラ140は、フットコントローラ制御部141によって制御される。
【0129】
入出力装置150は、例えば、ディスプレイ152、スピーカ153、および操作パネル154を備える。ディスプレイ152は、例えば液晶ディスプレイであり、各種情報を表示する。
【0130】
スピーカ153は音声等を出力し、操作パネル154に配置される。スピーカ153は、これに限らす、施術者がスピーカ153の音声を充分聞き取れる位置であればよく、例えば、背もたれ103の裏側に配置されてもよい。
【0131】
操作パネル154は、チェア100および診療器具110等の動作、または当該動作の設定を行うことができるパネルである。操作パネル154は、例えば、診療器具110の回転速度等の設定、スピーカ153の音量の設定等を行うことができる。
【0132】
入出力装置150は、入出力制御装置151によって制御される。入出力制御装置151は、例えば、ディスプレイ152に表示する画像または文字の制御、スピーカ153から出力する音声等の制御および操作パネル154の制御を行う。
【0133】
(警告の出力)
推定装置4は、上述したように、画像認識によって取得した治療器具が位置する画像領域と、電子カルテ管理装置3から取得した処置予定歯の位置する画像領域とが一致しない場合、治療部位の誤認があると判定する。
【0134】
このとき、推定装置4は、通信部5を介して、第1警告出力要求を、チェアユニット10に送信する。第1警告出力要求は、治療部位の誤認が発生したことを施術の施術者に知らせるための警告をチェアユニット10に出力させるための制御信号である。チェアユニット10は、第1警告出力要求を受信すると、施術者に対する警告を出力する。チェアユニット10は、以下に例示するような態様で、警告を出力することが可能であってもよい。
【0135】
第1警告出力要求を受信した場合、例えば、入出力制御装置151が、ディスプレイ152に警告表示を点滅させたり、警告メッセージを表示させたりしてもよいし、スピーカ153から警告音等を出力させてもよい。また、入出力制御装置151は、危険度の高低に応じて、ディスプレイ152に表示させる警告表示やスピーカ153から出力する警告音の出力レベル(輝度や音量のレベル)を調節してもよい。あるいは、入出力制御装置151は、危険度の高低に応じて、警告を出力する時間間隔を調節してもよい。
【0136】
第1警告出力要求を受信した場合、例えば、照明制御部131が、照明装置130の点滅、照度低下等の制御を行ってもよい。また、照明制御部131は、危険度の高低に応じて、照明装置130の照度を調節してもよい。あるいは、照明制御部131は、危険度の高低に応じて、照明装置130が明滅する時間間隔を調節してもよい。
【0137】
第1警告出力要求を受信した場合、器具制御装置112が、駆動中のエアタービンハンドピースおよびモータハンドピース等の回転数を下げたり、停止させたりしてもよい。また、器具制御装置112は、超音波スケーラーの発振数を低下、または停止させてもよいし、歯の切削時に必要な口腔内注水、口腔内エアーの噴射を停止させてもよい。
【0138】
第1警告出力要求を受信した場合、フットコントローラ制御部141が、フットコントローラ140を踏み込んでも、割り当てられた機能が動作しないようにしてもよいし、ペダルを固定して踏み込みができないように制御してもよい。
【0139】
このように、チェアユニット10は、推定装置4から第1警告出力要求を受信したことに応じて、チェアユニット10が備える各装置および各機能を制御し、治療部位の誤認が発生したことを施術者に知らせる。これにより、推定システム1Aは、施術時の治療部位の誤認の発生を施術者に着実に知らせることができる。
【0140】
(外部機器による警告の出力)
また、チェアユニット10は、チェアユニット10の通信部160を介して、チェアユニット10と通信可能な外部機器に警告を出力させることが可能であってもよい。この場合、チェアユニット10は、施術者が使用する機器(例えば施術者用椅子170等)、および該施術者によって装着される機器(例えば、ウェアラブルデバイス180)を含む1以上の外部機器と通信可能に接続されていればよい。
【0141】
チェアユニット10は、第1警告出力要求を推定装置4から受信した場合、治療部位の誤認が発生したことを施術の施術者に知らせるための警告を外部機器に出力させるための第2警告出力要求を該外部機器に送信する。
【0142】
外部機器は、例えば、施術者用椅子170が備えるクッション170a(外部機器)、施術者が装着するウェアラブルデバイス180(外部機器)等であってもよい。ウェアラブルデバイス180は、例えば、腕時計、眼鏡、および指輪等であってもよい。
【0143】
施術者用椅子170のクッション170aは、内部に振動部を備え、第2警告出力要求を受信したことに応じて、振動部を動作させることにより、警告を出力してもよい。なお、振動部は、クッション170aの内部に限らず、例えば、施術者用椅子170の背もたれ、座面等の内部に配されてもよい。
【0144】
ウェアラブルデバイスである腕時計は、振動部または表示部を備え、第2警告出力要求を受信したことに応じて、振動部を動作させてもよいし、表示部を点灯させたり表示部に警告メッセージを表示させたりしてもよい。
【0145】
ウェアラブルデバイスである眼鏡は、振動部または表示機能を備えた眼鏡であり、第2警告出力要求を受信したことに応じて、振動部を動作させてもよいし、表示部に警告を表示させてもよい。
【0146】
ウェアラブルデバイスである指輪は、振動部または表示部を備え、第2警告出力要求を受信したことに応じて、振動部を動作させてもよいし、表示部を赤色に点灯させたり表示部に警告を表示させたりしてもよい。
【0147】
ここでは、第1警告出力要求を受信したチェアユニット10から外部機器に第2警告出力要求が送信される構成を説明したが、推定システム1Aはこの構成に限定されない。例えば、推定装置4と外部機器とが通信可能に接続されている場合、推定装置4から外部機器に第2警告出力要求を送信する構成であってもよい。
【0148】
チェアユニット10への第1警告出力要求の送信、および外部機器への第2警告出力要求の送信は、診療中にリアルタイムで行われる。これにより、推定システム1Aは、施術時の治療部位の誤認の発生を施術者に迅速かつ着実に知らせることができる。
【0149】
〔実施形態4〕
治療部位情報と推定結果とが一致していなくても、施術を受ける対象者の身体に危険が及ばない施術があり得る。そこで、推定装置4は、治療部位の誤認の可能性があっても、警告の出力が必要か否かを判定可能な構成であってもよい。
【0150】
例えば、判定部64は、危険ではない施術動作として予め記憶されている画像(例えば動画)に写る施術動作と、施術を受ける対象者を撮影可能な撮像装置(撮像装置2を含む)からの画像(例えば動画)に写る施術動作とを比較した比較結果に基づいて、警告の出力が必要か否かを判定してもよい。推定装置4は、推定部63によって治療部位の誤認の発生が推定された場合であっても、判定部64によって警告の出力が不要と判定された場合には、第1警告出力要求(および第2警告出力要求)を送信しない。この構成を採用すれば、不必要な警告を出力することによって施術を妨げてしまうことを回避することができる。
【0151】
〔ソフトウェアによる実現例〕
推定装置4の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部6に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0152】
この場合、推定装置4は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0153】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0154】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0155】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0156】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0157】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る推定方法は、施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出工程と、前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定工程と、を含む。
【0158】
本開示の態様2に係る推定方法は、上記態様1において、前記第1目印は、左鼻翼と右鼻翼とを結んだ線分の中点、人中、鼻柱のうちの少なくともいずれかであってもよい。
【0159】
本開示の態様3に係る推定方法は、上記態様1または2において、前記第2目印は、あご先を示すオトガイであってもよい。
【0160】
本開示の態様4に係る推定方法は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記施術は、口腔内および歯のうちのいずれかに対する施術であり、前記器具は、コントラアングルハンドピース、デンタルミラー、注射器、バキューム・ヘーベル、抜歯鉗子、ピンセット、充填器、エアタービンハンドピース、エアスケーラー、および超音波スケーラーのうちの少なくともいずれかであってもよい。
【0161】
本開示の態様5に係る推定方法は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記撮像画像における前記対象者の唇によって規定される第3目印の位置をさらに検出し、前記推定工程において、前記第3目印の位置と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定してもよい。
【0162】
本開示の態様6に係る推定方法は、上記態様5において、前記第3目印は、前記対象者の上唇の中央と下唇の中央とを結んだ線分の中点であり、前記推定工程において、前記線分の中点を通り前記第1線と直行する第2線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定してもよい。
【0163】
本開示の態様7に係る推定方法は、上記態様5において、前記第3目印は、左の口角および右の口角であり、前記推定工程において、前記左の口角と前記右の口角とを結ぶ第3線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定してもよい。
【0164】
本開示の態様8に係る推定方法は、上記態様6または7において、前記検出工程において、前記撮像画像における前記対象者の前歯の位置によって規定される第4目印の位置をさらに検出し、前記推定工程において、前記第4目印の位置と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係をさらに推定してもよい。
【0165】
本開示の態様9に係る推定装置は、施術を受ける対象者の顔を撮像した撮像画像において、前記対象者の口よりも頭頂側に位置する前記顔の部位である第1目印の位置、該口よりも胴体側に位置する前記顔の部位である第2目印の位置、および前記施術に用いられる器具の所定部位の位置を検出する検出部と、前記撮像画像における、前記第1目印の位置および前記第2目印の位置によって規定される第1線と前記器具の前記所定部位との相対的な位置関係を推定する推定部と、を備える。
【0166】
本開示の態様10に係る推定システムは、施術を受ける対象者の顔を撮像する撮像装置と、前記請求項9に記載の推定装置と、を備える。
【0167】
本開示の態様11に係る推定システムは、上記態様10において、前記推定装置は、前記施術を受ける対象者を保持可能な診療装置と通信可能に接続されており、推定された前記位置関係が、前記施術の対象となる治療部位の位置を示す治療部位情報と一致するか否かを判定する判定部をさらに備え、前記治療部位情報と、推定された前記位置関係とが一致しない場合、前記治療部位の誤認が発生したことを前記施術の施術者に知らせるための警告を前記診療装置に出力させるための第1警告出力要求を該診療装置に送信してもよい。
【0168】
本開示の態様12に係る推定システムは、上記態様11において、前記診療装置は、前記施術の施術者が使用する機器、および該施術者によって装着される機器を含む1以上の外部機器と通信可能に接続されており、前記第1警告出力要求を前記推定装置から受信した場合、前記治療部位の誤認が発生したことを前記施術の施術者に知らせるための警告を前記外部機器に出力させるための第2警告出力要求を該外部機器に送信してもよい。
【0169】
本開示の態様13に係る制御プログラムは、上記態様10に記載の推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、上記検出部および上記推定部としてコンピュータを機能させる。
【0170】
本開示の態様14に係る記録媒体は、上記態様13に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【実施例0171】
本発明の実施例1について以下に説明する。実施例1では、治療器具とランドマークの検出精度を調べた。
【0172】
4名の被検者の歯にコントラとミラーを位置づけた状態で、スマートフォン(iPhone 12 Pro、iPhone:登録商標)を用いて動画を撮影した。アノテーションデータを、labelImgを用いて作成し、YOLOv4の学習のための教師データとした。400枚を学習用に100枚を検証用とし、機械学習を行った。
【0173】
検出精度の評価として、学習に用いたものとは異なる被検者4名の動画を撮影し、作成した200枚の画像に対して教師データと同様にアノテーションデータを作成し、このアノテーションデータを正解データとして画像認識を行った。
【0174】
図7は、治療器具とランドマークの検出精度を示す図である。治療器具のコントラおよびミラーについて、また被験者の右鼻翼、左鼻翼、右口角、左口角、上口唇、下口唇およびオトガイのそれぞれについて、上記条件下、検出精度を検証した。検出精度は、TP(真陽性数)、FP(偽陽性数)およびFN(偽陰性数)に基づき、再現率、適合率、F値(適合率と再現率の調和平均)、およびAP(補間平均精度)を算出した。
【0175】
治療器具については、再現率、適合率、F値およびAPにおいて、ミラーよりコントラの方が、各数値が高く検出精度が高い。これは、ミラーが術野の観察に用いられる以外にも、口唇や頬粘膜を牽引するために使用されることが多く、口腔内に隠れることが多いためと考えられる。
【0176】
顔面のランドマークについては、左右鼻翼、上下口唇、およびオトガイについては、再現率、適合率、F値およびAPの各数値が高く検出精度が高い。一方、左右口角については各数値が低く検出精度が低かった。これは、左右口角は施術者の手や治療器具によって覆われたり、ミラー等で引っ張られて変形したりすることが多いためと考えられる。
【0177】
左右鼻翼、上下口唇、およびオトガイは、左右口角と比較して検出精度が高いため、本発明において、これらの部位を基にランドマークを設定するのが好適であることがわかった。
本発明の実施例2について以下に説明する。実施例2では、治療部位推定精度を調べた。検出したコントラおよびミラーとランドマークの位置関係から、治療部位を推定するプログラムを作成し、部位推定精度を算出した。プログラム言語はPython3(3.10.4)を用い、ライブラリはnumpy(1.22.4)、OpenCV(4.6.0)を用いた。
部位的中率とは、例えば、右上に治療器具を当てたときに、その部位を「右上」と推定した割合である。左右的中率とは、例えば、右上に治療器具を当てたときに、その部位を「右上」もしくは「右下」と推定した割合である。また、上下的中率とは、例えば、右上に器具を当てたときに、その部位を「右上」もしくは「左上」と推定した割合である。
治療部位の誤認は、隣在歯の次に左右の歯で起こることが多いため、本発明の推定システムは、歯科治療において特に多く発生する左右の歯の誤認を防止することができることがわかった。