(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069383
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物および導電性高分子溶液の安定保管方法
(51)【国際特許分類】
C08L 39/00 20060101AFI20240514BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240514BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240514BHJP
C08F 126/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08L39/00
C08L65/00
C08L25/18
C08F126/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037257
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2021519471の分割
【原出願日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2019092903
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 篤
(72)【発明者】
【氏名】小西 淳
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冬季、夏期などの気温変化に影響を受けることなく、長期保管における分散安定性が高い導電性高分子組成物および導電性高分子溶液の安定保管方法を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が5000以上100万以下の範囲にあるN-ビニルカルボン酸アミド重合体と、導電性高分子と、溶媒を少なくとも含むことを特徴とする導電性高分子組成物。N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重量平均分子量が5000以上100万以下の範囲にあるN-ビニルカルボン酸アミド重合体を、導電性高分子溶液に添加する、導電性高分子溶液の安定保管方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5000以上100万以下の範囲にあり、固形分中の硫黄濃度が3000質量ppm以下であるN-ビニルアセトアミド単独重合体を、導電性高分子溶液に添加する、導電性高分子溶液の安定保管方法。
【請求項2】
前記導電性高分子溶液が、少なくともPEDOT-PSSおよび水を含むことを特徴とする、請求項1に記載の導電性高分子溶液の安定保管方法。
【請求項3】
前記N-ビニルアセトアミド単独重合体が、硫黄原子を含まない連鎖移動剤の存在下または連鎖移動剤を使用することなく、N-ビニルカルボン酸アミドを重合して製造されたものである、請求項1または請求項2に記載の導電性高分子溶液の安定保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が高い導電性高分子組成物に関し、より詳しくは、冬季、夏期などの気温変化に影響を受けることなく、長期保管における分散安定性が高い導電性高分子組成物および導電性高分子溶液の安定保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、固体電解コンデンサの電解質や光学フィルムなどの帯電防止材、有機ELや太陽電池の正孔注入層、透明電極、アクチュエーター,センサー,熱電変換素子等に広く用いられている。
【0003】
このような導電性高分子として、本出願人は、下記特許文献1にて、少なくとも一方が透明である一対の電極間に、ブレンステッド酸基を分子内に有する自己ドープ型導電性高分子およびN-ビニルカルボン酸アミド系ポリマーを含む導電性高分子複合体を提案しており、これを電解質として介在させたエレクトロクロミック素子を提案している。
【0004】
また、本出願人は、下記特許文献2にて、π電子共役系を持ち電子伝導性機構で導電性を発揮する水系溶媒可溶性導電性高分子及び水系溶媒可溶性樹脂を含む導電性組成物を提案している。特許文献2では、水系溶媒可溶性導電性高分子として、ポリ(5-スルホイソチアナフテン-1,3-ジイル)を含み、水系溶媒可溶性樹脂としてポリビニルアセトアミドを含むものを実施例として評価している。
【0005】
導電性高分子の中でも、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOT-PSSともいう)は、導電性が良好であること、薄膜として使用した場合に光透過性が高いことから、最も一般的に使用される導電性高分子の一つである。
【0006】
下記特許文献3には、導電性高分子として、PEDOT-PSSとポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA)からなる導電性組成物が開示されている。この特許文献3では、PNVA水溶液に、硫酸系酸化剤、重合性モノマーとして3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を添加して、EDOTの重合反応を行うことで調製した、PEDOT-PSSが開示されている。PNVAは、PEDOT/PSS粒子間の密着性や、基板との接着性を向上させるために、添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-239715号公報
【特許文献2】特開2006-77229号公報
【特許文献3】特開2012-153867号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大西・國方・中島、「PEDOT/PSSの導電特性におよぼす添加剤の効果」航空電子技報、2013年3月、No.35、p.1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
導電性高分子は、溶媒中に分散して存在しているが、その分散状態の保持は永続的ではない。例えばPEDOT-PSSでは、疎水性の高分子であるPEDOTを、親水性のPSSにて分散させている(非特許文献1)。しかしながら、PEDOT-PSS製品についてはその多くが2~8℃の保管条件をメーカー、販売店より指定されている。また、そのような条件下においてもシェルフライフは製造後12か月とすることが多く、保管条件・期間による性能変化が起きやすい物質であることが課題となっていた。
【0010】
具体的には、PSS同士の分子間力が働き次第にPSS同士で三次構造を取り始めることから、長期間において当初の分散状態を保持することは難しいことが分かっている。
特に寒冷地での保管で冷却され冷凍状態となり再融解した場合や加温などにより分子の動きが活発化されるなどした場合に初期の分散状態が大きく崩れてしまう事が分かっている。
【0011】
また、前記の分散崩壊あるいはPSSが三次構造を形成する過程で、絶縁層であるPSSがPEDOTを内側に閉じ込めるなどしてPSSが最外層となる可能性が高くなり、導電性の保持という観点で懸念されていた。
【0012】
また、特許文献3では、EDOTを重合する際にPNVA存在下に、硫酸塩や過硫酸塩などの硫黄成分を含む酸化剤を使用しているため、組成物中に多くの硫黄が含まれており、また重合時に使用されるPNVAは、粘度や分子量が高いものが使用されていた。さらに、特許文献3では、PNVAとして、本出願人の製品であるGE191-000が使用されており、これは、1質量%水溶液の粘度は500mPa・sと高い上に、重量平均分子量が400万であり、また連鎖移動剤由来で半導体において好まれない硫黄分がPNVA中に含まれる。このため、このようなPNVAを使用した特許文献3に記載の導電性組成物では、半導体において使用しづらく、粘度が高く分散剤として使用に困難があるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる状況下において、本発明者達は鋭意検討した結果、導電性高分子組成物の長期保管の安定性には、N-ビニルカルボン酸アミド重合体の分子量が大きく影響していることを見出した。そして、導電性高分子組成物中に特定のN-ビニルカルボン酸アミド重合体を添加することで、保存安定性が顕著に改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]重量平均分子量が5000以上100万以下の範囲にあるN-ビニルカルボン酸アミド重合体と、導電性高分子と、溶媒を少なくとも含むことを特徴とする導電性高分子組成物。
[2]前記導電性高分子の固形分を100質量部として、前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体の固形分が、10質量部以上200質量部以下であることを特徴とする、[1]の導電性高分子組成物。
[3]前記導電性高分子組成物中の前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体の固形分濃度が、0.3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、[1]または[2]の導電性高分子組成物。
[4]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体が、N-ビニルアセトアミド重合体であることを特徴とする、[1]~[3]の導電性高分子組成物。
[5]前記導電性高分子がポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOT―PSSと表す)であることを特徴とする、[1]~[4]の導電性高分子組成物。
[6]前記溶媒が水であることを特徴とする、[1]~[5]の導電性高分子組成物。
[7]前記導電性高分子組成物の20℃における粘度が、10mPa・s以上400mPa・s以下であることを特徴とする、[1]~[6]の導電性高分子組成物。
[8]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体固形分中の硫黄濃度が3000質量ppm以下であることを特徴とする、[1]~[7]の導電性高分子組成物。
[9]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体が、硫黄原子を含まない連鎖移動剤の存在下、あるいは、連鎖移動剤を使用せずに、N-ビニルカルボン酸アミドを重合して製造されたものである、[1]~[8]の導電性高分子組成物。
[10]N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重量平均分子量が5000以上100万以下の範囲にあるN-ビニルカルボン酸アミド重合体を、導電性高分子溶液に添加する、導電性高分子溶液の安定保管方法。
[11]前記導電性高分子溶液が、少なくともPEDOT-PSSおよび水を含むことを特徴とする、[10]に記載の導電性高分子溶液の安定保管方法。
[12]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体がN-ビニルアセトアミド重合体であることを特徴とする、[10]または[11]の導電性高分子溶液の安定保管方法。
[13]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体が、硫黄原子を含まない連鎖移動剤の存在下または連鎖移動剤を使用することなく、N-ビニルカルボン酸アミドを重合して製造されたものである、[10]~[12]の導電性高分子溶液の安定保管方法。
[14]前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体固形分中の硫黄濃度が3000質量ppm以下であることを特徴とする、[10]~[13]の導電性高分子溶液の安定保管方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性高分子溶液に特定のN-ビニルカルボン酸アミド重合体を添加することで、保存安定性が著しく改善する。
本発明で使用されるN-ビニルカルボン酸アミド重合体は、たとえばPEDOT-PSSに添加することにより、PEDOTとPSS間の分子間力またはPSSとPEDOTの複合体間の分子間力を弱めることが可能となりPSS単独の三次構造化を防止することが可能となると本発明者らは考察している。なお、PEDOT-PSSは高次構造を取り、それが凝集性に寄与していることが知られている。
【0016】
また、PEDOTの水中分散性についてもN-ビニルカルボン酸アミド重合体の両親媒性により担保、または向上させることが可能となり、ひいては長期間における導電性能を保持することが可能となる。また、PEDOT-PSS溶液は安定のために強酸性としているが、そのような強酸性溶液中でも耐酸性の優れるPNVAは変質することがなく、さらには耐熱性も優れることから導電性高分子膜成型の際の加熱時にも効果を持続的に発揮することが可能となる。
【0017】
硫黄原子は、電子の動きに影響を与える可能性が高いことから、本発明では、硫黄含量を所定の範囲に低減したN-ビニルカルボン酸アミド重合体を使用すると、より安定的に高導電性能が保持可能となる。
【0018】
実際にSH基を含む連鎖移動剤を使用して重合したN-ビニルカルボン酸アミド重合体や硫黄原子を多く含むN-ビニルカルボン酸アミド重合体では、他材料を促進試験で変色してしまうこともある。
【0019】
また、本発明のN-ビニルカルボン酸アミド重合体は十分な濡れ性を保有しており、導電性高分子膜形成時におけるガラス基板や金属などにおける親和性を向上させることも可能である。
【0020】
さらにN-ビニルカルボン酸アミド重合体自体が優れた透明性を持つことから、透明性が必要な用途にも適用可能であり、また帯電防止効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1で評価した、冷凍および加熱試験後の導電性高分子組成物の粒子径分布を示す。
【
図2】比較例1で評価した、冷凍および加熱試験後の導電性高分子組成物の粒子径分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の組成物は勿論これらに限定されるものではない。
本発明の導電性高分子組成物は、N-ビニルカルボン酸アミド重合体と、導電性高分子と、溶媒を少なくとも含む。
【0023】
<N-ビニルカルボン酸アミド重合体>
本発明のN-ビニルカルボン酸アミド重合体は、式(1)に示されるN-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合したものである。
【0024】
【化1】
(一般式(1)中、R
1は水素原子および炭素数1~6の炭化水素基からなる群より選ばれるいずれか1種である。R
2は水素原子または炭素数1~6の炭化水素基を示す。R
1は、NR
2と環構造を形成してもよい。)
【0025】
N-ビニルカルボン酸アミドとしては、具体例には、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルベンズアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどが挙げられる。このうち、重合体の親水性と疎水性とのバランスから、N-ビニルアセトアミドが特に好ましい。N-ビニルカルボン酸アミドは、単独で或いは複数を組み合わせて用いて構わない。
【0026】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体は、N-ビニルカルボン酸アミドのみの単独重合体が好ましい。一方でN-ビニルカルボン酸アミド以外に、N-ビニルカルボン酸アミドと共重合可能な単量体(以下、「他の単量体」という場合がある。)を含んでいてもよい。他の単量体は、不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸単量体の塩、不飽和カルボン酸エステル単量体、ビニルエステル単量体、不飽和ニトリル単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体である。このうち更に好ましくは、(メタ)アクリル酸およびその塩であり、より更に好ましくは、アクリル酸ナトリウムである。なお本明細書にいて、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。
【0027】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体は、N-ビニルカルボン酸アミド由来の構成単位を1.00とした場合の前記N-ビニルアセトアミド由来の他の構成単位のモル数の比が0.250未満であれば、水に対する溶解性が得られ好ましい。N-ビニルアセトアミド共重合体は、上記の構成単位のモル数の比が0.150以下のものであることがより好ましく、0であることが更に好ましい。
【0028】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合する際に、重合開始剤を用いても良い。重合開始剤としては、ビニル化合物のラジカル重合に一般的に使用されるものを限定することなく使用できる。例えば、レドックス系重合開始剤、アゾ化合物系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤があげられる。
【0029】
これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
レドックス系重合開始剤の例としては過酸化物と還元剤を添加する手法であれば特に限定されるものではないが、着色などの原因となるため、硫黄原子を含有しないものが好ましい。過酸化物は酸素原子同士の結合をもつ化合物であり、過酸化ナトリウム・過酸化バリウムなどの過酸化水素の誘導体が好ましい。また、還元剤としては2価の鉄イオンを含む還元剤やアミン類、過酸化水素-塩化第一鉄系の還元剤などが好ましく、硫黄原子を含有しないものがより好ましい。
【0030】
過酸化物系重合開始剤の例としてはナトリウム、カリウムおよびアンモニウム等の過硫酸塩、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化カプロイル、t-ブチルパーオクトエイト、過酸化ジアセチル等の有機過酸化物が挙げられる。
【0031】
アゾ化合物系の重合開始剤としては2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルブチレート)及びジメチル-2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルペンタノエート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’ -アゾビス[2-[N-(2-カルボキシエチル)アミジ)ノ]プロパン}n水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0032】
溶媒に水を用いることが好ましいため、上記の重合開始剤の中でも水溶性の重合開始剤が好ましい。また重合体への残渣の影響を考慮し、ハロゲンを含有していない2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(商品名:富士フィルム和光純薬株式会社製 アゾ化合物系重合開始剤VA-057)を用いることが最も好ましい。
【0033】
重合開始剤は、イオン交換水等の水に溶解して使用するのが好ましい。
これらラジカル重合開始剤を併用してもよく、レドックス系重合開始剤と水溶性アゾ化合物系重合開始剤の併用でも重合可能である。レドックス系重合開始剤としては、過酸化水素の誘導体とアミン類を用いることが好ましく、水溶性アゾ化合物系重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩を用いることがより好ましい。
【0034】
ラジカル重合開始剤の使用量は、全ての単量体の合計量100質量部に対し、アゾ化合物系重合開始剤の場合は、好ましくは0.05質量部以上8.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上6.0質量部以下であり、更に好ましくは1.0質量部以上4.0質量部以下である。レドックス系重合開始剤の場合は、全ての単量体の合計量100質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上0.03質量部以下、より好ましくは0.003質量部以上0.01質量部以下、更に好ましくは0.004質量部以上0.009質量部以下である。ラジカル重合開始剤の使用量が上記の範囲内であれば、重合速度と共重合体の分子量がいずれも好適となりやすい。
【0035】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体を重合する際に、連鎖移動剤を用いて分子量調整を行ってもよい。連鎖移動剤としては、上記単量体や溶媒に溶解できれば特に限定されず、たとえば、ドデシルメルカプタンやヘプチルメルカプタン等のアルキルチオール、3-メルカプトプロピオン酸(BMPA)等の極性基を有する水溶性チオール、α-スチレンダイマー等の油性ラジカル抑止剤が挙げられる。また、イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸およびその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)等、四塩化炭素などを用いることも可能である。
【0036】
低分子量や低粘度を有するN-ビニルカルボン酸アミド重合体を重合するには、連鎖移動剤を使用しないことが好ましいが、使用する場合にはチオールなどの硫黄原子を含まないものが好ましい。連鎖移動剤中の硫黄原子が、導電性高分子の電子移動に影響を与えると考えられる。また、重合開始剤や連鎖移動剤として使用される、水溶性の高い亜硫酸、亜硫酸塩等は硫黄濃度を低減するためには、使用しないことが好ましい。硫黄原子が含まれていると、着色などの原因にもなり、長期保管の分散性についても損なう場合がある。
【0037】
一方で、硫黄成分を含む連鎖移動剤や重合開始剤を用いても、後記するように、硫黄原子の濃度に配慮すれば使用可能である。その場合は2-ヒドロキシエタンチオール、3-メルカプトプロピオン酸、ドデカンチオール、チオ酢酸、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のチオール化合物が好ましい。
【0038】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体中の硫黄原子の濃度は、全ての単量体の合計量に対し、好ましくは0以上6000質量ppm以下、より好ましくは0以上3000質量ppm以下、更に好ましくは0以上500質量ppm以下である。
【0039】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体を含む水溶液は、高屈折率かつレドックス系の条件においても安定であるため、導電性高分子と混合しても加熱変化や経時変化による変化が発生しにくく、結果として透明性を保つことができる。
【0040】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重量平均分子量は、導電性高分子組成物を増粘させないために、5000以上100万以下であり、好ましくは1万以上50万以下であり、より好ましくは2万以上30万以下であり、さらに好ましくは3万以上10万以下である。
【0041】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体の5質量%水溶液の20℃における粘度が、10mPa・s以上5000mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以上2000mPa・s以下であり、更に好ましくは30mPa・s以上100mPa・s以下である。粘度が10mPa・s以上であれば、分散性に必要な分子量を得ることができ好ましい。粘度が2000mPa・s以下であれば、増粘させることがないため、PEDOT-PSSの液性を変えることなく分散安定性を付与することが可能となり好ましい。
【0042】
N-ビニルカルボン酸アミド重合体が溶媒として水を含む場合には、導電性高分子のpHは、通常4~10の範囲にある。
N-ビニルカルボン酸アミドが溶媒を含む場合、N-ビニルカルボン酸アミドの固形分濃度は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以上20質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上12質量%以下である。N-ビニルカルボン酸アミド重合体が1質量%以上40質量%であれば、導電性高分子組成物のハンドリングが容易となり好ましい。
【0043】
<導電性高分子>
導電性高分子としては、アニオンドープ系の導電性高分子とドーパントの組み合わせが好ましい。
【0044】
アニオンドープ系の導電性高分子としては、具体的には脂肪族共役系:ポリアセチレン、芳香族共役系:ポリ(p-フェニレン)、混合型共役系ポリ(p-1,4-フェニレンビニレン)、複素環共役系ポリピロール、ポリチオフェン、含ヘテロ原子共役系:ポリアニリン、複鎖型共役系:ポリアセン(仮想分子)等から選択される少なくとも1種が好ましい。このうち、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOTともいう)が特に好ましい。
【0045】
ドーパントとしては電子の授受を行う作用があれば良いが、好ましくはコーティング膜の電導度を維持するため、スルフォン酸基を有するドーパントが適しており、ポリスチレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,5-アントラキノンジスルホン酸、2,6-アントラキノンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、メチルスルホン酸、及びニトロベンゼンスルホン酸等から選択される少なくとも1種が好ましい。このうち、ポリ(4-スチレンスルホン酸)(以下PSSともいう)が特に好ましい。
【0046】
このうち、ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOT-PSSともいう)の組み合わせが最も好ましい。
導電性高分子とN-ビニルカルボン酸アミド重合体の関係は、導電性高分子の固形分を100質量部として、N-ビニルカルボン酸アミド重合体の固形分が、好ましくは10質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは20質量部以上140質量部以下であり、更に好ましくは30質量部以上70質量部以下の範囲である。
このような比率で含まれていると、十分に導電性高分子の経時変化を抑制することができ好ましい。
【0047】
<溶媒>
本発明の導電性高分子組成物に用いる溶媒としては、好ましくは水やアルコール等の極性溶媒であり、特に好ましくは水である。この中で、導電性高分子およびN-ビニルカルボン酸アミド重合体の分散性から、水が特に好ましい。
【0048】
<組成>
導電性高分子組成物の組成は、組成物の合計を100質量%としたときに、N-ビニルカルボン酸アミド重合体と導電性高分子から構成される固形分が好ましくは0.1~30.0質量%、より好ましくは0.5~20.0質量%、更に好ましくは1.0~5.0質量%の範囲にあることが好ましい。
【0049】
また、固形分中のN-ビニルカルボン酸アミド重合体は、固形分中に、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~60質量%、更に好ましくは30~40質量%の範囲にあることが好ましい。
【0050】
導電性高分子組成物中の前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体の固形分濃度は、0.3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下であり、更に好ましくは0.7質量%以上3質量%以下である。
【0051】
このような比率で含まれていると、十分に導電性高分子の経時変化を抑制することができ、また、導電性高分子組成物の粘度が上昇することがなく好ましい。
N-ビニルカルボン酸アミド重合体は、それ単独で、導電性高分子を分散安定させる効果があり、この場合、溶媒に溶解させた溶液ないし分散液の態様で用いられる。
【0052】
導電性高分子組成物の粘度は、10mPa・s以上400mPa・s以下が好ましく、より好ましくは20mPa・s以上300mPa・s以下であり、更に好ましくは30mPa・s以上200mPa・s以下である。粘度が10mPa・s以上であれば、分散性に必要な分子量を有する重合体が含まれている。粘度が400mPa・s以下であれば、増粘させることがないため、PEDOT-PSSの液性を変えることなく分散安定性を付与することが可能となり好ましい。
【0053】
添加される導電性高分子としては特に制限されず、前記したものが例示され、好ましくは、PEDOTとPSSである。
本発明によれば、前記N-ビニルカルボン酸アミド重合体またはこれを含む導電性高分子分散安定剤を、導電性高分子溶液に添加することで、導電性高分子溶液の安定保管方法も提供される。
【実施例0054】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに何ら限定的に解釈されない。
<固形分濃度>
固形分濃度は、以下にて算出した。
サンプル(N-ビニルカルボン酸アミド重合体または、導電性高分子組成物)を約3.0g採取し、アルミカップに乗せ、薬さじでアルミカップ底部に平滑に均一に広げ熱天秤(メトラー・トレド株式会社製、PM460)にて140℃、90分加熱乾燥し、冷却後の質量を測定し以下の式にて固形分濃度を測定した。
固形分濃度(質量%)=100×(M3-M1)÷(M2-M1)
M1:アルミカップ質量(g)
M2:乾燥前の試料質量+アルミカップ質量(g)
M3:乾燥後の試料質量+アルミカップ質量(g)
【0055】
<粘度>
N-ビニルカルボン酸アミド重合体水溶液の粘度を測定する場合は、N-ビニルカルボン酸アミド重合体を300mlのトールビーカーに入れ、固形分濃度が5質量%となるようにイオン交換水にて希釈する。また導電性高分子組成物の粘度を測定する場合は、希釈せずに測定を行う。12時間以上20℃の恒温槽に静置し内部の気泡が完全に無い状態とする。その後、20℃に調温された恒温水槽にビーカーを入れ温度計にて試験体温度が20±0.5℃であることを確認し、JIS K-7117-1-1999に示すB型粘度計を用いて以下の条件にて粘度を測定する。粘度計設置から10分後の粘度を記録する。
粘度計:DVE(ブルックフィールド)粘度計 HA型
スピンドル:No.6スピンドル
回転数:50rpm
温度:20℃
【0056】
<粒子径>
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置株式会社((株)堀場製作所製、Partica mini LA-350)にて、体積分布基準のメジアン径(以下d50と言うこともある),体積分布基準の体積平均径を測定した。
【0057】
<GPC較正曲線作成用標準N-ビニルアセトアミド重合体の絶対分子量測定>
各分子量帯のN-ビニルアセトアミドホモ重合体を溶離液に溶解させ、20時間静置した。この溶液における固形分濃度は0.05質量%である。
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALS(多角度光散乱検出器)にてピーク位置の絶対分子量を測定した。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)LB-80
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaH2PO4+0.1mol/L Na2HPO4
流速:0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション製、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0058】
<重量平均分子量>
固形分濃度が0.1質量%濃度となるよう、N-ビニルアセトアミド重合体を蒸留水にて希釈し、以下の条件でGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)法にて重量平均分子量Mwを測定した。
【0059】
なお、本測定での重量平均分子量は、各分子量帯のN-ビニルアセトアミド重合体の多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量測定結果から作成した較正曲線を用いた。
検出器(RI):昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標)RI-201H
ポンプ:株式会社島津製作所製 LC-20AD
カラムオーブン:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標)AO-30C
解析装置:システムインスツルメンツ(株)製 SIC 480II Deta Station
カラム:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標)SB806 (2本)
溶離液:蒸留水/2-プロパノール=8/2(質量比)
流量:0.7ml/min
【0060】
<吸引濾過テスト>
孔径0.45μmのメンブレンフィルターとロートを用い、導電性高分子組成物10mlを減圧ろ過し、ろ紙上に得られた凝集物の個数を目視にて測定した。
【0061】
<変色>
目視にて、導電性高分子組成物の保存安定性試験前後の色の変化を確認した。
【0062】
[製造例1]
5つ口1Lセパラブルフラスコに窒素ガス挿入管、撹拌機、溶媒滴下装置2個、温度計を装着しセパラブルフラスコにトリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水250gを投入した。溶液の窒素ガス置換を行いながら撹拌し、99℃、120分間撹拌を行った。溶媒滴下装置に、N-ビニルアセトアミド(昭和電工株式会社製)107gおよびトリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水140gを入れ、溶解させた。別の溶媒滴下装置に、重合開始剤2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(以下、VA-057)(富士フィルム和光純薬株式会社製)3.2g、トリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水40gに分散させた。セパラブルフラスコを99℃に保持して、2つの溶媒滴下装置からセパラブルフラスコにポンプを用い、前記溶解液および分散液をそれぞれ2時間かけ滴下した。滴下終了後15分間保持した後、VA-057 0.5gをトリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水35gに分散させ、溶媒滴下装置から5分間掛けて滴下した。重合開始剤は、単量体に対して3.4質量%となる。45分後に、トリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水488gを添加・冷却し、50℃にて1時間保持したところでサンプリングし残留N-ビニルアセトアミド単量体濃度が1,000質量ppm以下であることを確認し反応終了とした。N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重量平均分子量は、80,000であり、固形分濃度が5質量%水溶液の粘度は80mPa・Sであった。
【0063】
[製造例2]
N-ビニルアセトアミド(昭和電工株式会社製)107gおよびトリエタノールアミンにてpH=7.0に調整したイオン交換水140gを入れる際に、連鎖移動剤である3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(旭化学工業株式会社製)1.6gを追加する以外は、製造例1と同様に行った。N-ビニルカルボン酸アミド重合体の重量平均分子量は、59,000であり、固形分濃度が5質量%水溶液の粘度は78mPa・Sであった。またN-ビニルカルボン酸アミド重合体固形分中の硫黄濃度は4500質量ppmであった。
【0064】
[実施例1]
50mlのビーカーに、PEDOT-PSS4.0質量%分散液をイオン交換水にて2質量倍に希釈した溶液20gに、製造例1にて製造したN-ビニルアセトアミド重合体水溶液2.0gを添加し、5分間、マグネチックスターラー(400rpm)にて撹拌し、導電性高分子組成物を得た。
【0065】
[実施例2]
N-ビニルアセトアミド重合体として、製造例2にて製造した硫黄を含有したN-ビニルアセトアミド重合体を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0066】
[比較例1]
N-ビニルアセトアミド重合体水溶液の替わりに水2.0gを添加する以外は、実施例1と同様に行った。なお、水の粘度は、20.1mPa・Sであった。
【0067】
[比較例2]
N-ビニルアセトアミド重合体水溶液の替わりにN-ビニルピロリドン重合体(重量平均分子量:40000、固形分濃度5質量%水溶液の粘度:56.6mPa・S)11gをイオン交換水99gに溶解させたものを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
[比較例3]
N-ビニルアセトアミド重合体として、粉体のN-ビニルアセトアミド重合体(昭和電工株式会社製、GE191-000)11gをイオン交換水99gに溶解させたものを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0069】
[実施例3]
50mlのビーカーに、PEDOT-PSS4.0質量%分散液をイオン交換水にて2質量倍に希釈した溶液25gに、製造例1にて製造したN-ビニルアセトアミド重合体水溶液2.0gを添加し、5分間、マグネチックスターラー(400rpm)にて撹拌し、導電性高分子組成物を得た。
【0070】
[実施例4]
50mlのビーカーに、PEDOT-PSS4.0質量%分散液をイオン交換水にて2質量倍に希釈した溶液25gに、製造例1にて製造したN-ビニルアセトアミド重合体水溶液1.0gを添加し、5分間、マグネチックスターラー(400rpm)にて撹拌し、導電性高分子組成物を得た。
【0071】
[比較例4]
N-ビニルアセトアミド重合体水溶液の替わりに水1.0gを添加する以外は、実施例3と同様に行った。
【0072】
[実施例5]
50mlのビーカーに、PEDOT-PSS4.0質量%分散液25gおよび、製造例1にて製造したN-ビニルアセトアミド重合体水溶液1.0gを添加し、5分間、マグネチックスターラー(400rpm)にて撹拌し、導電性高分子組成物を得た。
【0073】
[比較例5]
N-ビニルアセトアミド重合体水溶液の替わりに水1.0gを添加する以外は、実施例5と同様に行った。
【0074】
使用した試薬は、以下である。
PEDOT-PSS:シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製、3.0-4.0%水溶液、高導電性グレード
N-ビニルピロリドン重合体:東京化成株式会社製、K 30(重量平均分子量40000)
N-ビニルアセトアミド重合体(粉体):昭和電工株式会社製、GE191-000
【0075】
<保存安定性評価>
実施例1、2、比較例1、2について、保存安定性評価を行った。なお比較例3は、N-ビニルアセトアミドの粘度が高く不適であり、評価は行わなかった。
作製した導電性高分子組成物を、ガラス製20ml蓋つき試験管に10g入れ密閉し、以下の処理条件で処理した状態サンプルを作製した。
i)冷凍 -15℃×6Hr
冷凍機(日本フリーザー(株)KD-3142)にて-15℃の環境を6時間保ち冷凍状態とし、その後2時間かけてサンプル温度を30℃とした。
ii)加熱 80℃×48Hr
別のサンプルに対し、オートクレーブ(ヤマト科学(株)、DN-41)にて80℃の環境を48時間保ち、その後2時間かけてサンプル温度を30℃とした。
iii)加熱 97℃×72Hr
更に別のサンプルに対し、オートクレーブ(ヤマト科学(株)、DN-41)にて97℃の環境を72時間保ち、その後2時間かけてサンプル温度を30℃とした。
【0076】
なお加熱や凍結は、加速試験として行ったものである。
それぞれについて、粒子径測定、吸引濾過テスト、目視による変色の確認を行った。
凝集物数が0個を○、1~3個を△、4個以上を×とし、変色なしが○、わずかに変色有を△、顕著な変色有が×とし、総合判定として、2つとも○を○、○△および△△を△、それ以外を×判定とした。
【0077】
実施例3~5、比較例4,5について、実施例1,2、比較例1,2よりも更に長期の、保存安定性試験を行い、粘度変化および粒子径測定で評価した。
実施例3~5、比較例4,5では作製した導電性高分子組成物を、ガラス製20ml蓋つき試験管に10g入れ密閉し、以下の処理条件で処理した状態サンプルを作製した。 オートクレーブ(ヤマト科学(株)、DN-41)にて表2、表3記載の温度を表2,3記載の時間保ち、その後2時間かけてサンプル温度を30℃とした。
結果をそれぞれ表1~3に示す。
【0078】
【0079】
図1に実施例1の、また
図2に比較例1の、冷凍および加熱試験後の導電性高分子組成物の粒子径分布を示す。
【0080】
実施例1では、変色なく、また凝集物数は少なく、粒子径は小さく使用可能である。
実施例2では、色が青く変化しており、連鎖移動剤由来の硫黄化合物の存在により、導電性高分子の分散状態が変化していることを示唆するが、粒子径は小さく、また凝集物数は少なく使用可能である。
【0081】
表1および
図1、
図2より、PNVAが添加されていない比較例1、比較例2では、実施例1に比べて粒子径が大きくなり、凝集が進んでいることが確認された。
また凝集試験において、比較例1、比較例2では、実施例1に比べて凝集物が多いことも分かる。
【0082】
比較例2では、色が青く変化しており、凝集状態も変化していることを示唆する。N-ビニルピロリドン重合体では、導電性高分子の酸性状態により高分子が変化していることを示唆する。
【0083】
比較例3では、特許文献3と同様の条件として、N-ビニルカルボン酸アミド重合体が1質量%の導電性高分子組成物を作製したが、粘度が500mPa・sと高く、移送等の導電性高分子組成物としての取り扱いに困難があった。
【0084】
【0085】
PNVAが添加されていない比較例4では、実施例3、4に比べて粒子径が大きくなり、凝集が進んでいることが確認された。
【0086】
【0087】
PEDOT-PSS濃度が他の実施例・比較例に比べて高い実施例5、比較例5は、いずれも劣化試験による粘度の増加は確認された。PEDOT-PSSの分子間の相互作用と推測される。
【0088】
しかしながら、PNVAが添加されていない比較例5では、実施例5に比べて粒子径が大きくなり、凝集が進んでいることが確認された。