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特開2024-69851移動体の制御システム、制御プログラム、制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069851
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】移動体の制御システム、制御プログラム、制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/165 20200101AFI20240515BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B60W30/165
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180100
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 公彦
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 亘平
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC33
3D232DA27
3D232DA77
3D232DA84
3D232DA86
3D232DC38
3D232DD08
3D232DD14
3D232EA01
3D232EB04
3D232GG01
3D241BA01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE03
3D241CE05
3D241CE09
3D241DA55Z
3D241DB07Z
3D241DC06Z
3D241DC35Z
(57)【要約】
【課題】より適切に移動体を制御することが可能な制御システムを提供する。
【解決手段】制御システム40は、自動運転制御部640と、制御信号調整部641と、を備える。自動運転制御部640は、ステアリング装置63を駆動させるための操舵角信号を生成する。制御信号調整部641は、ステアリング装置63の駆動に基づく車両60の横位置と、ステアリング装置53の駆動に基づく車両50の横位置との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、適応パラメータに基づいて操舵角信号を調整することにより追従操舵角信号を設定する。ステアリング装置53は、追従操舵角信号に基づいて制御される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の移動体を制御するための制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、前記適応パラメータに基づいて前記制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定する制御信号調整部と、を備え、
前記制御対象の移動体は、前記調整後制御信号に基づいて制御される
移動体の制御システム。
【請求項2】
前記制御信号調整部は、前記調整後制御信号に対して所定の演算を行うことにより得られる演算値と前記誤差とに基づいて前記適応パラメータを設定する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項3】
前記制御信号調整部は、前記制御対象の移動体の挙動を示す物理量に対して所定の演算を行うことにより得られる演算値と前記誤差とに基づいて前記適応パラメータを設定する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項4】
前記制御信号調整部は、前記制御対象の移動体の挙動を示す物理量と前記誤差とに基づいて前記適応パラメータを設定する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項5】
前記制御信号調整部は、前記制御信号と前記誤差とに基づいて前記適応パラメータを設定する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項6】
前記制御信号調整部は、前記適応パラメータの時間微分値に基づいて前記調整後制御信号を設定する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項7】
前記所定の移動体は、第1車両であり、
前記制御対象の移動体は、前記第1車両とは別の第2車両である
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項8】
前記制御信号は、前記第1車両に設けられる第1ステアリング装置を制御するための制御信号であり、
前記調整後制御信号は、前記第2車両に設けられる第2ステアリング装置を制御するための制御信号であり、
前記制御信号調整部は、
前記制御対象の移動体の挙動として、前記第2車両が所定の車線内を走行している際の前記車線内の前記第2車両の横位置を用いるとともに、
前記所定の移動体の挙動として、前記第1車両が前記車線内を走行している際の前記車線内の前記第1車両の横位置を用いる
請求項7に記載の移動体の制御システム。
【請求項9】
前記制御信号調整部は、前記第1車両に設けられ、
前記第1車両に設けられ、前記調整後制御信号を前記第2車両に送信する送信部を更に備え、
前記第2ステアリング装置は、前記送信部により前記第2車両に送信される前記調整後制御信号に基づいて制御される
請求項8に記載の移動体の制御システム。
【請求項10】
前記制御信号生成部を第1制御信号生成部とし、前記制御信号を第1制御信号とするとき、
前記第2車両に設けられ、前記第2ステアリング装置を駆動させるための第2制御信号を生成する第2制御信号生成部と、
前記第2車両に設けられ、前記第2車両の異常を検出する異常検出部と、
前記異常検出部により前記第2車両の異常が検出された際に、前記第2ステアリング装置に入力する信号を前記第2制御信号から前記調整後制御信号に切り換える制御切替部と、を備える
請求項9に記載の移動体の制御システム。
【請求項11】
前記所定の移動体は、前記所定の車両がモデル化された車両モデルであり、
前記制御対象の移動体は、実際の車両であり、
前記車両モデルは、前記実際の車両に設けられる記憶部に記憶されており、前記制御信号を入力信号として前記車両モデルの挙動を出力する
請求項1に記載の移動体の制御システム。
【請求項12】
コンピュータを、
所定の移動体を制御するための制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、前記適応パラメータに基づいて前記制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定する制御信号調整部と、として機能させ、
前記調整後制御信号により前記制御対象の移動体を制御する
移動体の制御プログラム。
【請求項13】
所定の移動体を制御するための制御信号を生成し、
前記所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、前記適応パラメータに基づいて前記制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定し、
前記調整後制御信号により前記制御対象の移動体を制御する
移動体の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の制御システム、制御プログラム、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両の制御装置がある。この制御装置は、ステアリングホイールの操作量をセンサにより検出するとともに、検出された操作量に基づいてアクチュエータを駆動させることにより車輪の舵角を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-241854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような制御装置では、通常、センサにより検出されるステアリングホイールの操作量と所定の制御パラメータとに基づいてアクチュエータの制御量が演算されるとともに、演算された制御量に基づいてアクチュエータが制御される。制御パラメータは、望んだ操舵性が得られるように例えば車種ごとに調整される。しかしながら、適切な制御パラメータを取得するためには長時間のテスト走行等を行う必要があるため、手間がかかる。また、センサに異常が生じたような場合にはアクチュエータの制御量が適切に設定されなくなるため、この場合にもその状況に応じた制御パラメータが必要になるが、そのような制御パラメータを取得することは困難である。
【0005】
なお、このような課題は、車両に限らず、任意の移動体にも同様に発生し得る。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より適切に移動体を制御することが可能な制御システム、制御プログラム、及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の一態様による移動体の制御システムは、制御信号生成部と、制御信号調整部と、を備える。制御信号生成部は、所定の移動体を制御するための制御信号を生成する。制御信号調整部は、所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、適応パラメータに基づいて制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定する。制御対象の移動体は、調整後制御信号に基づいて制御される。
【0007】
この構成によれば、調整後制御信号に基づいて制御対象の移動体が制御されることにより、制御対象の移動体の挙動と所定の移動体の挙動との誤差を小さくすることができる。したがって、制御対象の移動体の挙動を所定の移動体の挙動に追従させることができるため、より適切に制御対象の移動体を制御することが可能である。
【0008】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、調整後制御信号に対して所定の演算を行うことにより得られる演算値と誤差とに基づいて適応パラメータを設定することができる。
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、制御対象の移動体の挙動を示す物理量に対して所定の演算を行うことにより得られる演算値と誤差とに基づいて適応パラメータを設定することができる。
【0009】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、制御対象の移動体の挙動を示す物理量と誤差とに基づいて適応パラメータを設定することができる。
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、制御信号と誤差とに基づいて適応パラメータを設定することができる。
【0010】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、適応パラメータの時間微分値に基づいて調整後制御信号を設定することができる。
上記の移動体の制御システムにおいて、所定の移動体を、第1車両とし、制御対象の移動体を、第1車両とは別の第2車両とすることができる。
【0011】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号は、第1車両に設けられる第1ステアリング装置を制御するための制御信号であり、調整後制御信号は、第2車両に設けられる第2ステアリング装置を制御するための制御信号であり、制御信号調整部は、制御対象の移動体の挙動として、第2車両が所定の車線内を走行している際の車線内の第2車両の横位置を用いるとともに、所定の移動体の挙動として、第1車両が車線内を走行している際の車線内の第1車両の横位置を用いることができる。
【0012】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号調整部は、第1車両に設けられ、第1車両に設けられ、調整後制御信号を第2車両に送信する送信部を更に備え、第2ステアリング装置は、送信部により第2車両に送信される調整後制御信号に基づいて制御されることができる。
【0013】
上記の移動体の制御システムにおいて、制御信号生成部を第1制御信号生成部とし、制御信号を第1制御信号とするとき、第2車両に設けられ、第2ステアリング装置を駆動させるための第2制御信号を生成する第2制御信号生成部と、第2車両に設けられ、第2車両の異常を検出する異常検出部と、異常検出部により第2車両の異常が検出された際に、第2ステアリング装置に入力する信号を第2制御信号から調整後制御信号に切り換える制御切替部と、を備えることができる。
【0014】
上記の移動体の制御システムにおいて、所定の移動体は、所定の車両がモデル化された車両モデルであり、制御対象の移動体は、実際の車両であり、車両モデルは、実際の車両に設けられる記憶部に記憶されており、制御信号を入力信号として車両モデルの挙動を出力する。
本実施形態の他の一態様による移動体の制御プログラムは、コンピュータを、所定の移動体を制御するための制御信号を生成する制御信号生成部と、所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、適応パラメータに基づいて制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定する制御信号調整部と、として機能させ、調整後制御信号により制御対象の移動体を制御する。
【0015】
本実施形態の他の一態様による移動体の制御方法は、所定の移動体を制御するための制御信号を生成し、所定の移動体の挙動と、制御対象の移動体の挙動との誤差に基づいて適応パラメータを設定するとともに、適応パラメータに基づいて制御信号を調整することにより調整後制御信号を設定し、調整後制御信号により制御対象の移動体を制御する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の制御システム、制御プログラム、及び制御方法によれば、より適切に移動体を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】等価二輪モデルの概略構成を示す。
図2】MRACの制御系の概略構成の一例をブロック線図。
図3】車両モデルの一例を模試的に示す図。
図4】MRACの制御系の概略構成の一例をブロック線図。
図5】第1実施形態の制御システムの概略構成を示すブロック線図。
図6】第1実施形態の制御システムにおけるMRACに関連する構成を示すブロック線図。
図7】第1実施形態のシミュレーションに用いられた車両パラメータを示す図表。
図8】第1実施形態のシミュレーションにおける先導車両の走行経路を示す図。
図9】(A)は、第1実施形態のシミュレーションにおける追従車両の走行経路を示す図。(B)は、参考例のシミュレーションにおける追従車両の走行経路を示す図。
図10】第2実施形態のシミュレーションに用いられた車両パラメータを示す図表。
図11】第2実施形態のシミュレーションの結果を示す図表。
図12】他の実施形態の制御システムの概略構成を示すブロック線図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、移動体の制御システム、制御プログラム、及び制御方法の実施形態について説明するに先立ち、実施形態の制御システム等に用いられるモデル規範型適応制御(MRAC:Model Reference Adaptive Controller)の原理について説明する。
<原理の説明>
(車両モデル)
移動体として4輪の車両を用いる場合、当該車両を、図1に示されるような等価二輪モデルでモデル化する。図1に示されるモデル化された車両10では、前輪11が操舵輪であり、後輪12が駆動輪であるとする。
【0019】
なお、図1において、「δ」は車両10の操舵角であり、「V」は車両10の速度であり、「v」は車両10の縦方向の速度であり、「v」は車両10の横方向の速度であり、ドット付きの「φ」は車両10の重心点G周りのヨーレートであり、「l」は前輪軸から重心点Gまでの距離であり、「l」は後輪軸から重心点Gまでの距離である。
【0020】
また、図1には、車両10の理想的な走行経路が実線Rで示され、理想的な走行経路Rと車両10との間の最短の横方向の距離が「y」で示され、理想的な走行経路Rの方向Dと車両10の進行方向Dとの差が「φ」で示されている。「φ」はヘディングエラーと称されるものである。なお、図1において、仮想線Diaは、理想的な走行経路Rの方向Dに平行な線を示している。
【0021】
図1に示されるモデルでは、操舵角δが十分に小さいと仮定すると、操舵角δのみを入力とする車両10の横方向の運動は下記の式f1のように表すことができる。なお、式f1において、「t」は時間を示す。
【0022】
【数1】
なお、式f1においてA、B、u(t)、及びxは以下の式f2,f3に示されるように定義されている。
【0023】
【数2】
また、式f2,f3において、a11、a12、a21、a22、b、及びbは以下の式f4~f8に示されるように定義されている。なお、式f4~f8において、「m」は車体質量であり、「Cαf」は前輪11のコーナリングスティフネスであり、「Cαr」は後輪12のコーナリングスティフネスであり、「I」は、図1に示されるz軸周りの車両10のイナーシャ、換言すれば地面に垂直な方向の軸周りの車両10のイナーシャを示す。
【0024】
【数3】
(MRAC)
一方、本実施形態では、所定の制御対象の応答を、望ましい応答(規範モデルの応答)に追従するように制御パラメータを調整するための制御として、適応制御の一つであるMARCを用いる。図2は、Lyapunovの安定性理論に基づくMRACの制御系20の構成を示すブロック線図である。
【0025】
なお、図2において、「r」は参照入力であり、「W」は制御対象であり、「u」は制御対象Wの入力であり、「y」は制御対象Wの出力である。また、「Λ」は、安定な(n-1)×(n-1)の行列であり、「l」は(n-1)次元のベクトルであり、(Λ,l)は制御可能であるとする。ただし、「n」はシステム状態の次元である。さらに、「ω」は、u(t)及び(Λ,l)から演算されるパラメータであり、「ω」は、y(t)及び(Λ,l)から演算されるパラメータである。
【0026】
また、「θ 」、「θ 」、「θ」、「k」は、適応の過程で調整されるパラメータである。以下では、これらのパラメータを、以下の式f9で定義される適応パラメータθで表記することもある。
【0027】
【数4】
図2に示される制御系20では、図中に破線で囲われる部分がMRACの演算を行う機構21である。すなわち、MRAC機構21は、制御対象Wの出力yを入力として用いる。また、MRAC機構21の出力は制御対象Wの入力uである。このMRAC機構21の出力を「u(t)」とすると、出力u(t)は以下の式f10~f13で表すことができる。
【0028】
【数5】
このMRAC機構21の出力u(t)を用いて、制御対象Wの状態方程式を以下の式f14,f15に示されるように表すことができる。
【0029】
【数6】
このとき、MRAC機構21と制御対象Wとを組み合わせた状態方程式は以下の式f16~f20に示されるように表すことができる。
【0030】
【数7】
一方、制御対象が従うべきモデルを規範モデルとすると、当該規範モデルの状態方程式は参照入力r(t)を用いて以下の式f21,f22に示されるように表すことができる。なお、式f21,f22において、「y」は規範モデルの出力である。
【0031】
【数8】
このとき、制御対象Wの出力yと規範モデルの出力yとの誤差を「e(≡y-y)」とし、図2のMRAC機構21で用いられている適応パラメータθと適応パラメータの真値θとの誤差を「チルダ付きのθ(=θ-θ)」とすると、上記の式f16~f22を用いて出力誤差eは以下の式f23,f24に示されるように表すことができる。なお、式f23,f24において、「s」はラプラス演算子である。
【0032】
【数9】
ここで、出力誤差である「e」及び適応パラメータ誤差である「チルダ付きのθ」を「0」に収束させることができれば、制御対象Wの出力yを規範モデルの出力yに一致させることができる。そのために、本実施形態では、Lyapunovの安定理論に基づく手法を採用している。具体的には、出力誤差である「e」及び適応パラメータ誤差である「チルダ付きのθ」に関するLyapunov関数を作成するとともに、その時間微分値を非正定値関数とする条件から適応則を導出する。
【0033】
まず、Lyapunov関数を以下の式f25に示されるように設定する。
【0034】
【数10】
式f25に示されるようにLyapunov関数を設定すると、上記の式f24に示されるW(s)が強正実性を有するとき、以下の式f26を満たすようなPが存在する。
【0035】
【数11】
このとき、以下の式f27を満たすような適応パラメータθの更新則は以下の式f28に示されるようになる。なお、式f28において、Γ=Γ-1は任意の適応則ゲイン行列である。
【0036】
【数12】
(車両モデルにおけるMRAC)
次に、図3に示される制御システム40に上記のMRACを適用する場合を考える。図3に示されるように、この制御システム40では、車両50及び車両60が同一車線L1を自動運転で走行している。車両60は自動運転制御により車線L1の中央を自動走行している。車両60は、車両50の前方を走行しつつ車両50と無線通信を行うことにより、同一の経路を走行するように車両50を先導する。車両60は、車両50に制御信号を無線送信することにより車両50の走行状態を制御する。なお、車両50及び車両60は同一且つ一定の速度で走行しているとする。したがって、車両60は、制御信号として操舵角信号を車両50に送信するだけで車両60の走行状態を制御可能である。操舵角信号は操舵輪の舵角の目標値を示すものである。車両60は、車両50の横位置が車両60の横位置と一致するような操舵角信号を車両50に送信することで、同一の経路を走行するように車両50を制御する。車両50,60の横位置は、車線L1の幅方向における車両50,60の位置である。以下では、便宜上、車両60を「先導車両60」と称し、車両50を「追従車両50」とも称する。
【0037】
この図3に示される制御システム40と図2に示されるMRACの制御系20とを比較すると、追従車両50が制御対象Wに相当し、追従車両50の操舵角信号が制御対象Wの入力uに相当し、車線L1内の追従車両50の横位置が制御対象Wの出力yに相当する。また、車線L1内の先導車両60の横位置が規範モデルの出力yに相当し、車線L1内の追従車両50及び先導車両60のそれぞれの横位置の誤差が出力誤差eに相当する。以下では、「u」を追従車両50の入力とも称し、「y」を追従車両50の出力とも称し、「y」を先導車両60の出力とも称する。
【0038】
このような場合、追従車両50の出力yは以下の式f29に示されるように表すことができる。なお、式f29において、「C」は、以下の式f30に示される観測行列である。
【0039】
【数13】
一方、式f29,f30に示されるように追従車両50の出力yが表される場合、上記の式f23に示される誤差関数の伝達関数の相対次数は「2」となり、強正実性を満たさない。そのため、正規化法と呼ばれる手法を用いて伝達関数が強正実性を有するように、誤差の伝達関数として、以下の式f31に示されるような伝達関数W(s)を用いる。
【0040】
【数14】
この伝達関数W(s)を用いることにより、上記の式f23を以下の式f32のように変形することができる。
【0041】
【数15】
このとき、上記の式f28に示される適応パラメータθの更新則は以下の式f33,f34に示されるようになる。
【0042】
【数16】
適応パラメータθの更新則が式f33,f34に示されるように表される場合、追従車両50の入力uは以下の式f35に示されるようになる。
【0043】
【数17】
図4は、図2に示されるMRACの制御系20を式f35に基づいて変形したブロック線図である。図4に示されるMRACの制御系20を用いることにより、図3に示される制御システム40に対応した適応パラメータθを得ることが可能である。
<実施形態>
以下、上記の原理を利用した制御システム、制御プログラム、及び制御方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0044】
(制御システムの概要)
本実施形態の制御システムの基本的な構成は、図3に示される制御システム40と同様であるため、符号等に関しては、図3に示されるものをそのまま用いる。
【0045】
図5は、制御システム40の具体的な構成を示すブロック図である。
図5に示されるように、車両50は、周辺監視センサ51と、通信装置52と、ステアリング装置53と、制御装置54とを備えている。本実施形態では、車両50が制御対象の移動体、及び第1車両とは別の第2車両に相当する。
【0046】
周辺監視センサ51は、車両50を自動走行させるために必要な車両50の周辺情報を取得する。例えば、周辺監視センサ51は、車両50が走行している車線L1の情報や、車両50の周辺を走行している他車両の情報、及び信号機の情報等を検出する。また、周辺監視センサ51は、車両50が走行している車線L1内における車両50の横位置、例えば車線L1の中心線に対する車両50の相対的な横位置を検出する。周辺監視センサ51は、例えばカメラやミリ波レーダ装置のそれぞれ、あるいはそれらの組み合わせにより構成されている。
【0047】
通信装置52は、車両60と無線通信を行うことが可能な装置である。通信装置52が車両60と通信を行う方法としては、例えばネットワーク回線を利用した無線通信や、近距離無線通信等を用いることができる。通信装置52は、例えば車両60から車両50に送信される追従操舵角信号を受信する。追従操舵角信号は、車両50を車両60に追従するように走行させるために車両60から車両50に送信される信号であって、操舵輪の舵角の目標値を示すものである。通信装置52は、受信した追従操舵角信号を制御装置54に送信する。本実施形態では、追従操舵角信号が調整後制御信号に相当する。
【0048】
ステアリング装置53は、例えばモータの動力をラック軸に付与することにより、ラック軸の両端にそれぞれ連結される操舵輪の舵角を変化させる装置である。本実施形態では、ステアリング装置53が第2ステアリング装置及び第2アクチュエータに相当する。
制御装置54は車両50の自動運転を制御する装置である。制御装置54は、CPU等のプロセッサや、不揮発性メモリ等の記憶装置を有している。制御装置54は、その記憶装置に記憶されるプログラムを実行することにより実現される機能的な構成として、自動運転制御部540を備えている。
【0049】
自動運転制御部540は車両50のステアリング装置53や制動装置等を制御することにより車両50の自動運転を制御する。例えば、自動運転制御部540は、周辺監視センサ51により検出される車両50の横位置に基づいて操舵角信号を生成するとともに、生成された操舵角信号をステアリング装置53に送信することによりステアリング装置53を自動的に制御する。本実施形態では、自動運転制御部540が第2制御信号生成部に相当し、自動運転制御部540により生成される操舵角信号が第2制御信号に相当する。
【0050】
ところで、このような構成を有する車両50では、例えば周辺監視センサ51に何らかの異常が生じると、適切な操舵角信号を自動運転制御部540が生成することができない可能性がある。そのため、車両50の自動運転を正常に実行することができなくなるおそれがある。そこで、本実施形態の車両50では、周辺監視センサ51に異常が生じた場合には、車両60から車両50に追従操舵角信号を送信するとともに、この追従操舵角信号に基づいてステアリング装置53を制御することにより、車両50を車両60に追従させるように車両50の操舵輪の舵角を変化させる。これを実現するために、制御装置54は、その記憶装置に記憶されるプログラムを実行することにより実現される機能的な構成として、異常検出部541と、制御切替部542とを更に備えている。
【0051】
異常検出部541は、車両に搭載される各種センサの状態を監視している。異常検出部541により監視されるセンサには周辺監視センサ51が含まれている。異常検出部541は、周辺監視センサ51に異常が生じた場合には、その旨を制御切替部542に通知する。
【0052】
制御切替部542は、異常検出部541により周辺監視センサ51の異常が検出された際に、ステアリング装置53の入力信号を、自動運転制御部540により生成される操舵角信号から、通信装置52により受信される追従操舵角信号に切り換える。
車両60は車両50と略同一の構成を備えている。すなわち、車両60は、周辺監視センサ61と、通信装置62と、ステアリング装置63と、制御装置64とを備えている。なお、それらの各要素の構成は、車両50に搭載される各要素の構成と同一又は類似であるため、以下では車両50との相違点を中心に説明する。本実施形態では、車両60が第1車両及び所定の移動体に相当する。また、ステアリング装置63が第1ステアリング装置及び第1アクチュエータに相当する。さらに、通信装置62が送信部に相当する。
【0053】
周辺監視センサ61は、車線L1内における車両60の横位置を検出する。また、周辺監視センサ61は、車両60に追従するように走行する車両50の位置、具体的には車線L1内における追従車両50の横位置を検出する。
制御装置64は、その記憶装置に記憶されるプログラムを実行することにより実現される機能的な構成として、自動運転制御部640と、制御信号調整部641とを備えている。本実施形態では、制御装置64がコンピュータに相当する。
【0054】
自動運転制御部640は車両60のステアリング装置63や制動装置等を制御することにより車両60の自動運転を制御する。例えば、自動運転制御部640は、周辺監視センサ61により検出される車両60の横位置に基づいて操舵角信号を生成するとともに、生成された操舵角信号をステアリング装置63に送信することによりステアリング装置63を自動的に制御する。本実施形態では、自動運転制御部640が第1制御信号生成部に相当し,自動運転制御部640により生成される操舵角信号が第1制御信号に相当する。
【0055】
制御信号調整部641は、周辺監視センサ61により検出される追従車両50の横位置に基づいて追従操舵角信号を生成するとともに、生成された追従操舵角信号を、通信装置62を介して追従車両50に送信する。その際、制御信号調整部641は、上記のMRACの原理を利用することにより、追従車両50が先導車両60に追従することが可能な追従操舵角信号を生成する。
【0056】
具体的には、図6に示されるように、制御信号調整部641は、コントローラ部70と、誤差演算部71と、適応部72とを備えている。
なお、図6に示される制御システム40では、自動運転制御部640により演算される操舵角信号が、MRACにおける参照入力rに相当する。また、先導車両60の横位置が、MRACにおける規範モデルの出力yに相当する。さらに、追従車両50の横位置が、MRACにおける制御対象Wの出力yに相当する。そのため、以下では、自動運転制御部640により演算される操舵角信号を「r」で表し、先導車両60の横位置を「y」で表し、追従車両50の横位置を「y」で表す。
【0057】
誤差演算部71は、周辺監視センサ61により検出される先導車両60の横位置yと追従車両50の横位置yとの誤差を演算する。この誤差は、MRACにおける出力誤差eに相当する。そのため、以下では、誤差演算部71により演算される出力誤差を「e」で表す。
【0058】
コントローラ部70は、自動運転制御部640により演算される操舵角信号rと、適応部72により演算される適応パラメータθとに基づいて追従操舵角信号を生成する。コントローラ部70により演算される追従操舵信号は、MRACにおける制御対象の入力uに相当する。そのため、以下では、コントローラ部70により演算される追従操舵信号を「u」で表す。コントローラ部70は、操舵角信号rと、前回の追従操舵角信号uと、前回の追従操舵角信号uに対応した追従車両50の横位置yとから上記の式f11~f13に準じた演算を行うことによりωを求める。また、コントローラ部70は、演算されたωと、適応部72により演算される適応パラメータθと、誤差演算部71により演算される出力誤差eとから上記の式f33~f35に準じた演算を行うことにより追従操舵角信号uを演算する。コントローラ部70は、演算された追従操舵角信号uを追従車両50に送信する。
【0059】
適応部72は、誤差演算部71により演算される出力誤差eに基づいて適応パラメータθを演算する。具体的には、適応部72は、操舵角信号rと、前回の追従操舵角信号uと、前回の追従操舵角信号uに対応した追従車両50の横位置yとから上記の式f11~f13に準じた演算を行うことによりωを求める。また、適応部72は、演算されたωと、出力誤差eとから上記の式f33,f34に準じた演算を行うことにより適応パラメータθを更新する。
【0060】
この制御システム40では適応パラメータの初期値θが予め設定されている。適応部72は、コントローラ部70により追従操舵角信号uが生成される都度、適応パラメータθを更新する処理を実行する。この処理が逐次実行されることにより、出力誤差eが「0」に収束、すなわち適応パラメータθが、その真値θに収束する。結果的に、追従車両50の横位置yが先導車両60の横位置yに一致するようになる。
【0061】
(実験例)
次に、図5及び図6の制御システム40を用いて発明者により行われたシミュレーションの結果について説明する。
シミュレーションでは、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの車両質量m、前輪軸から重心点Gまでの距離l、後輪軸から重心点Gまでの距離l、前輪のコーナリングスティフネスCαf、後輪のコーナリングスティフネスCαr、及びイナーシャI図7に示されるように設定した。
【0062】
また、シミュレーションでは、先導車両60の動作を式f21,f22に基づいて実現した。式f21,f22におけるパラメータA,Bは、図7に示される先導車両60のパラメータから上記の式f2~f8に基づいて設定した。
同様に、シミュレーションでは、追従車両50の動作を式f14,f15に基づいて実現した。式f14,f15におけるパラメータA,Bは、図7に示される追従車両50のパラメータから上記の式f2~f8に基づいて設定した。
【0063】
シミュレーションでは、先導車両60に対して所定の操舵角信号rを付与することにより、先導車両60の走行経路を、図8に実線R10で示されるような経路、すなわち車線L1の中央を走行する経路に設定した。この先導車両60の走行経路に対して、図5及び図6に示される制御システム40を用いて追従車両50の走行状態をシミュレーションにより求めた。
【0064】
図9(A)は、シミュレーションにより得られた追従車両50の走行経路を実線R11で示したものである。また、図9(B)は、上記のMRACを用いていない制御システムで追従車両50の走行経路をシミュレーションした場合の結果を実線R12で示したものである。図9(B)に示されるように、上記のMRACを用いていない制御システムでは、追従車両50が蛇行して走行する傾向が見られた。これに対して、上記のMRACを用いた本実施形態の制御システム40を用いた場合には、図9(A)に示されるように、追従車両50の走行経路に関しては、適応パラメータθが収束するまでに若干蛇行する状態が見られたものの、適応パラメータθが一旦収束した後は、先導車両60の走行経路に対する良好な追従性を得ることができた。
【0065】
(作用及び効果)
以上説明した本実施形態の制御システム40によれば、以下の作用及び効果を得ることができる。
図5に示されるように、制御システム40では、追従車両50にステアリング装置53が設けられている。ステアリング装置53は追従車両50の横位置を変化させる。先導車両60にはステアリング装置63、自動運転制御部640、及び制御信号調整部641が設けられている。ステアリング装置63は先導車両60の横位置を変化させる。自動運転制御部640は、ステアリング装置63を駆動させるための操舵角信号rを生成する。制御信号調整部641は、追従車両50の横位置yと先導車両60の横位置yとの誤差eに基づいて適応パラメータθを設定するとともに、適応パラメータθに基づいて操舵角信号rを調整することにより追従操舵角信号uを生成する。追従車両50のステアリング装置53は追従操舵角信号uに基づいて制御される。
【0066】
この構成によれば、追従操舵角信号uに基づいて追従車両50のステアリング装置53が制御されることにより、追従車両50の横位置と先導車両60の横位置との誤差を小さくすることができる。すなわち、追従車両50の横位置を先導車両60の横位置に追従させることができるため、より適切に追従車両50を制御することが可能である。
【0067】
制御信号調整部641は、上記の式f33に基づいて適応パラメータθを設定する。具体的には、制御信号調整部641は、追従操舵角信号uに対して上記の式f11に準じた演算を行うことによりωを演算するとともに、この演算値ωと誤差eとに基づいて適応パラメータθを設定する。また、制御信号調整部641は、追従車両50の横位置yに対して上記の式f12に準じた演算を行うことによりωを演算するとともに、この演算値ωと誤差eとに基づいて適応パラメータθを設定する。さらに、制御信号調整部641は、追従車両50の横位置yと誤差eとに基づいて適応パラメータθを設定する。また、制御信号調整部641は、操舵角信号rと誤差eとに基づいて適応パラメータkを設定する。
【0068】
この構成によれば、適応パラメータθを容易に設定することができる。
制御信号調整部641は、上記の式f35に示されるように、適応パラメータθの時間微分値に基づいて追従操舵角信号uを設定する。
【0069】
この構成によれば、出力誤差である「e」及び適応パラメータ誤差である「チルダ付きのθ」を収束させることができるため、より的確に適応パラメータθを設定することが可能となる。
追従車両50には自動運転制御部540、異常検出部541、及び制御切替部542が設けられている。自動運転制御部540は、追従車両50のステアリング装置53を駆動させるための操舵角信号を生成する。異常検出部541は、追従車両50の異常、具体的には周辺監視センサ61の異常を検出する。制御切替部542は、異常検出部541により周辺監視センサ61の異常が検出された際に、ステアリング装置53に入力する信号を、自動運転制御部540により生成される操舵角信号から、先導車両60から追従車両50に送信される追従操舵角信号に切り換える。
【0070】
この構成によれば、追従車両50の周辺監視センサ61に異常が発生することにより追従車両50が周辺監視機能を喪失した場合であっても、追従車両50の走行を維持することができる。また、追従車両50に代わって先導車両60が周辺監視及び制御を行うことにより、追従車両50を安全な場所、例えば高速道路であればパーキングエリアやサービスエリアへ導くことが可能である。このように、本実施形態の構成であれば、先導車両60による追従車両50のリモートコントロール及び電子的牽引が可能となる。
【0071】
<第2実施形態>
次に、制御システム40の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態の制御システム40との相違点を中心に説明する。
図4に示される制御系20では、制御対象Wの入力uに制限が設けられていない。ただし、第1実施形態の制御システム40のように制御対象Wの入力uとして操舵角信号が用いられている場合、ステアリング装置の操舵角に上限値及び下限値が存在することから、制御対象Wの入力uに制限を設ける必要がある。本実施形態では、このように制御対象Wの入力uに制限が設けられている場合の適応パラメータθの設定方法について説明する。
【0072】
まず、制御対象Wの入力uの範囲が以下の式f36に示されるように制限されているとする。なお、式f36において、「umax」は所定の正の値に設定されている。
【0073】
【数18】
このとき、上記の式f33は、以下の式f37~f43に示されるように変形することができる。
【0074】
【数19】
上記の式f37を用いて適応パラメータθを更新すれば制御対象Wの入力uを上記の式f36に示されるように制限することが可能である。
次に、上記の式f37を用いて適応パラメータθを更新した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0075】
シミュレーションでは、先導車両60及び追従車両50のそれぞれのパラメータを図7に示されるように設定した。また、先導車両60及び追従車両50の車速V、適応則ゲインΓ、及び追従操舵角信号の制限値umax図10に示されるように設定した。この条件でシミュレーションを行ったところ、図11に示されるような結果が得られた。
【0076】
図11では、本実施形態の制御システム40における追従車両50の走行経路が実線で示されるとともに、MRACを用いていない制御システムにおける追従車両50の走行経路が一点鎖線で示されている。なお、図11において破線は車線を示している。
図11に示されるように、MRACを用いていない制御システムでは、時間の経過に伴って追従車両50の横位置が発散し、結果として追従車両50の横位置が車線から逸脱していることがわかる。これに対して、本実施形態の制御システム40を用いた場合には、時間の経過に伴って追従車両50の横位置が収束していることが分かる。本実施形態の構成を用いれば、先導車両60の走行経路に対する良好な追従性を得ることが可能である。
【0077】
<他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
上記実施形態では、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの速度を一定として扱ったが、それらの速度が変動することを前提として制御を行ってもよい。
【0078】
上記実施形態では、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの挙動を示す物理量として先導車両60及び追従車両50のそれぞれの横位置を用いたが、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの挙動及びその物理量としては任意のものを用いることができる。例えば、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの挙動を示す物理量として、先導車両60及び追従車両50のそれぞれの加速度及び減速度等を用いても良い。なお、この場合、車両50、60を加速及び減速させる動力装置、例えば内燃機関やモータージェネレータがアクチュエータに相当する。
【0079】
制御信号調整部641は追従車両50に設けられていてもよい。この場合、先導車両60は、追従車両50の横位置、先導車両60の横位置、自動運転制御部540により生成される操舵角信号等、追従操舵角信号の生成に必要な情報を追従車両50に送信する。
上記実施形態の構成は、例えば車両の制御パラメータを設定する際に用いることも可能である。例えば、上記実施形態における先導車両60を規範車両として、また追従車両50を制御車両として用いた上で適応パラメータを設定した後、その適応パラメータを任意の制御車両に記憶させれば、規範車両と同一の挙動を示す制御車両を実現可能である。
【0080】
規範モデルの車両は、実際の車両に限らず、モデル化されて記憶装置に記憶されていてもよい。例えば、図12に示されるように、車両50の制御装置54に設けられる記憶部544に車両モデル544aが記憶されていてもよい。車両モデル544aは、規範となる車両をモデル化したものであって、自動運転制御部540により生成される操舵角信号を入力信号として、規範となる車両モデル544aの横位置の情報を出力する。また、車両50の制御装置54には制御信号調整部543が設けられている。制御信号調整部543は、図5に示される車両60の制御信号調整部641と類似の機能を有する。具体的には、制御信号調整部543は、周辺監視センサ51により検出される車両50の横位置と、車両モデル544aの横位置との誤差eに基づいて適応パラメータθを設定する。また、制御信号調整部543は、設定された適応パラメータθと、自動運転制御部540により生成される操舵角信号とに基づいて追従操舵角信号を生成するとともに、生成された追従操舵角信号に基づいてステアリング装置53を制御する。このような構成によれば、図5に示される先導車両60が不要となり、図12に示されるような一台の車両50だけで適応パラメータθの設定が可能となる。これにより、周辺監視センサ51の故障の有無に関わらず、車両モデル544aの挙動に合うように車両50の挙動をチューニングすることが可能である。なお、この構成では、車両50が制御対象の移動体及び実際の車両であり、車両モデル544aが所定の移動体に相当する。
【0081】
なお、図12に示される構成では、周辺監視センサ51により検出される車両50の横位置が、図6に示される制御対象の出力y_pに相当し、車両モデル544aの横位置が、図6に示される規範モデルの出力y_mに相当する。例えば車線が延びる方向における車両の位置を縦位置とすると、車両50が所定の縦位置に位置しているときにおける車両50の横位置y_pは、周辺監視センサ51により検出される車両50の実際の位置と、その車両50の実際の位置から最短の理想的な走行経路上の所定位置との偏差として演算することが可能である。このとき、車両モデル544aは、モデル化された車両が車両50と同一の所定の縦位置に位置していると仮定したときにおける、モデル化された車両の実際の位置を演算するとともに、そのモデル化された車両の実際の位置と、モデル化された車両の位置から最短の理想的な走行経路上の所定位置との偏差を、モデル化された車両の横位置y_mとして出力することが好ましい。すなわち、車両モデル544aは、車両50と同じダイナミクスを仮定した車両のモデルであることが好ましい。この構成によれば、車両50と、モデル化された車両とが同一の縦位置に位置しているときのそれぞれの横位置y_p,y_mに基づいて誤差eを演算することができるため、より制度の高い誤差eを演算することが可能である。結果的に、より高い制御性を有するシステムを実現することが可能である。
【0082】
適応パラメータθの生成は、自車、他車、外部機器(工場の機械、サーバ等)が行ってもよい。
誤差eがある程度小さくなれば、適応パラメータθの前回の更新時点から次回の更新時点までの時間を順次延ばしてもよい。また、更新間隔延長時間に上限を設定してもよい。更に、誤差eの大きさに基づいて更新間隔を延ばしてもよい。
【0083】
上記実施形態の構成は、4輪車に限らず、3輪車や2輪車等にも適用可能である。また、上記の実施形態の構成は、車両に限らず、船や飛行機等の任意の移動体に適用することも可能である。
本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0084】
40:制御システム、50:車両(制御対象の移動体、第2車両)、53:ステアリング装置(第2ステアリング装置)、60:車両(所定の移動体、第1車両)、62:通信装置(送信部)、63:ステアリング装置(第1ステアリング装置)、64:制御装置(コンピュータ)、540:自動運転制御部(第2制御信号生成部)、541:異常検出部、542:制御切替部、544:記憶部、544a:車両モデル、640:自動運転制御部(第1制御信号生成部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12