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特開2024-69871半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置
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  • 特開-半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置 図1
  • 特開-半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置 図2
  • 特開-半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置 図3
  • 特開-半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069871
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/872 20060101AFI20240515BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240515BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240515BHJP
   H01L 29/47 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
H01L29/86 301D
H01L29/86 301P
C30B29/36 A
H01L21/205
H01L29/48 D
H01L29/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180129
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【テーマコード(参考)】
4G077
4M104
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EE08
4G077HA06
4M104AA03
4M104BB02
4M104BB06
5F045AA06
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AD18
5F045AE23
5F045AF02
5F045BB16
5F045HA05
(57)【要約】
【課題】
転位の拡長による順方向劣化を容易に抑制できる半導体エピタキシャル基板の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
4H-SiC基板の表面にHを注入するイオン注入工程と、前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に4H-SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、を含むことを特徴とする半導体エピタキシャル基板の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4H-SiC基板の表面にHを注入するイオン注入工程と、
前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に4H-SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とする半導体エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項2】
前記イオン注入工程において、イオン源として水素ガス、又は水素を含む化合物を用いることを特徴とする、請求項1に記載の半導体エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入工程において、前記4H-SiC基板の表面へのH注入量を1×1013atoms/cm以上、5×1015atoms/cm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の半導体エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項4】
が注入された注入層を有する4H-SiC基板と、
前記4H-SiC基板上に設けられた4H-SiCのエピタキシャル層と、
を備えることを特徴とする半導体エピタキシャル基板。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体エピタキシャル基板を備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、2.2~3.3eVという広いバンドギャップを有することから高い絶縁破壊強度を有し、また熱伝導率も大きいためパワーデバイスや高周波用デバイスなどの各種半導体デバイス用の半導体材料として期待されている材料である。
【0003】
しかしながら、SiCを用いてダイオードなど実際の素子を作製した場合に順方向に通電した場合、多数のキャリアが基板に注入されて転位が拡張することで、順方向特性が変動してしまい(Vf変動)、動作が不安定になり信頼性が損なわれる、順方向劣化と呼ばれる現象が生じることが知られており、大きな問題である(非特許文献1)。
【0004】
この転位の拡張を止める方法として、Cuイオンを注入する方法(非特許文献2)が2010年に提案されたのち、最近になってHでも同様の効果があることが報告されている(非特許文献3及び4)。
具体的には非特許文献3、4ではHを1×1015atoms/cm程度注入する方法が提案されている。この方法は高ドーズのHを深い位置(SiCエピタキシャルであれば5μm以上)に注入することが必要であるが、装置構成上、Hの高いドーズ量と深い位置(高加速)を同時に満たすことが難しく実際の応用には課題がある(高加速を優先すると、1枚のSiCウェーハにHを注入するのに10時間以上を要する)。
【0005】
このHのSiCへの注入に関しては他にもいくつかの先行技術が報告されている。特許文献1には、2枚のSiC単結晶ウェーハを準備し、それぞれに酸化膜を形成したのち、片方の基板に水素イオンを注入し、その後、酸化膜を介して室温で接合一体化してから、500℃以上に加熱処理することにより水素イオン注入された箇所でSiC単結晶ウェーハを2分割し半導体電子素子用基板を作製する方法が開示されている。この方法では、接合部に酸化膜が存在しており、縦方向デバイスとする際に、この酸化膜が絶縁層として機能しパワーデバイス基板としての機能が大きく制限されてしまう。また、特許文献2には、H注入した単結晶と多結晶のSiC基板を貼り合わせたのちに、単結晶及び多結晶それぞれを剥離する方法が開示されているが、2回剥離をおこなうことによるコストの増加とそれぞれ所定の工程で剥離をおこなう難しさがあり、また順方向劣化については言及がされていない。さらに、特許文献3では、不純物濃度と欠陥密度に注目しており欠陥密度の少ない高抵抗基板をH注入を用いて転写する方法が開示されている。この方法は、もともとの基板に存在する欠陥を低減する方法ではあるが、その後の信頼性に関わる順方向劣化については言及がない。さらに、特許文献4には、Hによる基板剥離のもととなる技術が開示されており、拡散バリア(酸素拡散バリア)機能については言及があるが、こちらも順方向劣化については言及がない。最後の特許文献5はHによる分離への記述はあるが、同じく順方向劣化に対する解決策は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-003842号公報
【特許文献2】特開2016-018890号公報
【特許文献3】特開2014-022711号公報
【特許文献4】特開2007-329470号公報
【特許文献5】特開2007-227415号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Skowronski and S. Ha, “Degradation of hexagonal silicon-carbide-based bipolar devices”, J. Appl., Phys., 99, 01101(2006).
【非特許文献2】B. Chen, H. Matsuhara, T. Sekiguchi, T. Ohyanagi, A. Kinoshita and H. Okumura, “Pinning of recombination-enhanced dislocation mition in 4H-SiC : Role of Cu and EH1 complex”, Appl. Phys. Lett., 96, 212110(2010).
【非特許文献3】M. Kato, O. Watanabe, T. Mii, H. Sakane, S. Harada, “Suppression of stacking fault expansion in SiC PiN diodes by H+ implantation”, Abstract of 19th International Conference on Silicon Carbide and Related Materials, 453(2022).
【非特許文献4】S. Harada, T. Mii, H. Sakane, M. Kato, “Suppression of recombination enhanced dislocation glide motion in 4HSiC by hydrogen ion implantation”, Abstract of 19th International Conference on Silicon Carbide and Related Materials, 459(2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、SiC基板にHを注入する方法は多数知られているが、順方向劣化を現実的に解決するには課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、上記のSiC素子の順方向劣化の問題を基板レベルで解決するためになされたものである。より詳しくは高耐圧デバイス基板として期待されている4H-SiCが、通電によりキャリアが注入されることで転位が拡張して電気特性が変化する順方向劣化(通電劣化)の問題を解決するものであり、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能となる半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、4H-SiC基板の表面にHを注入するイオン注入工程と、前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に4H-SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、を含むことを特徴とする半導体エピタキシャル基板の製造方法を提供する。
【0011】
本発明では4H-SiC基板上にエピタキシャル層を形成する前に、この4H-SiC基板表面にHをイオン注入しておき、その後に4H-SiC基板表面上に4H-SiCをエピタキシャル成長させる。こうすることで、エピタキシャル層と基板の界面にHが存在するため、このHが基板からエピタキシャル層への転位の拡張を抑制でき転位の拡長による順方向劣化を抑制できる。エピタキシャル成長中にHはもちろん外方拡散するが、イオン注入によって生じたダメージによってHがトラップされ、エピタキシャル成長中にSiC中に存在することで転位の伸展を抑制することが可能になる。また、この方法では4H-SiC基板表面上にHをイオン注入すればよいため、従来のH注入技術のように4H-SiC基板やエピタキシャル層の深い位置にイオン注入を行う必要がなく、加速電圧を高くする必要がない。そのため、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能となる。
【0012】
前記イオン注入工程において、イオン源として水素ガス、又は水素を含む化合物を用いることができる。
このように、イオン源は水素ガスを使用することはもちろん、水素を含む化合物であれば使用することが可能であり、イオン源の選択肢を広げることができる。またこの時のイオン源はCHのようなものでもよいし、注入するイオンはクラスターイオン(例えば特表2006-515711号公報、特開2014-099477号公報に記載)のようなものでもよく、適宜選択される。
【0013】
前記イオン注入工程において、前記4H-SiC基板の表面へのH注入量を1×1013atoms/cm以上、5×1015atoms/cm以下とすることができる。
の濃度は、その後の熱処理などで変化するので、適宜決定されるが、H注入量を1×1013atoms/cm以上とすることで、エピタキシャル層への転位の拡張を抑制するのに必要なHの濃度を十分に確保できる。また、H注入量を5×1015atoms/cm以下とすることで、その後の熱処理の際に、Hを注入した注入層を起点に4H-SiC基板からエピタキシャル層が剥離するのを十分に防止できる。
【0014】
また本発明は、Hが注入された注入層を有する4H-SiC基板と、前記4H-SiC基板上に設けられた4H-SiCのエピタキシャル層と、を備えることを特徴とする半導体エピタキシャル基板を提供する。
この構成により、注入層内のHがエピタキシャル層の転位の拡張を抑制でき、転位の拡長による順方向劣化を容易に抑制できるものとなる。
【0015】
そして、本発明は、上記に記載の半導体エピタキシャル基板を備えることを特徴とする半導体装置である。
この構成では、半導体装置が転位の拡長による順方向劣化が抑制された半導体エピタキシャル基板を備えるため、半導体装置も順方向劣化による信頼性の低下が抑制できるものとなる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の半導体エピタキシャル基板の製造方法によれば、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能となる。本発明の半導体エピタキシャル基板、及び、半導体装置は従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る半導体エピタキシャル基板の製造方法のフロー図を示す。
図2】実施例の順方向劣化試験の試験方法の手順を示す。
図3】実施例の順方向劣化試験におけるVfの測定結果を示す。
図4】実施例の順方向劣化試験におけるH注入量とΔVfの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
上述のように、転位の拡長による順方向劣化を容易に抑制できる半導体エピタキシャル基板の製造方法が求められていた。
【0020】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、4H-SiC基板の表面にHを注入するイオン注入工程と、前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に4H-SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、を含む方法により、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
また本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、Hが注入された注入層を有する4H-SiC基板と、前記4H-SiC基板上に設けられた4H-SiCのエピタキシャル層と、を備えることを特徴とする半導体エピタキシャル基板が、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
さらに本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上記に記載の半導体エピタキシャル基板を備えることを特徴とする半導体装置が、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る半導体エピタキシャル基板の製造方法、半導体エピタキシャル基板、及び半導体装置について図1を参照しながら説明する。
まず、半導体エピタキシャル基板の製造方法について説明する。
【0024】
まず、図1(a)に示すように4H-SiC基板1(バルク4H-SiC)を準備し、図1(b)に示すように、この基板表面にイオン注入装置を使用して、例えば注入量が1×1013atoms/cm以上の条件でHのイオン注入を行い、注入層2を形成する(イオン注入工程)。この際のHのイオン源としては水素ガスでも良いし、CHのような水素を含む化合物を使用してもよい。イオン源が化合物である場合、注入するイオンはクラスターイオンのようなものでもよく、適宜選択される。また、注入深さは、深くなるほど注入するHの加速エネルギーが高くなるので、それほど深くなくてもよく、最大でも5μm程度(加速エネルギーで50keV程度)でよい。なお、このHの濃度1×1013atoms/cmの条件は、ピーク濃度では、1×1018atoms/cmに相当するため、この濃度をターゲットに注入すればよいが、好ましくはH注入量が1×1013atoms/cm、体積濃度では1×1019atoms/cm以上が好ましい。H注入量を1×1013atoms/cm以上とすることで、エピタキシャル層3への転位の拡張を抑制するのに必要なHの濃度を十分に確保できる。
一方でHの注入量は5×1015atoms/cm以下とするのが好ましい。その後のエピタキシャル層3を形成する際の熱処理で、Hを注入した注入層2を起点に4H-SiC基板1からエピタキシャル層3が剥離するのを十分に防止できるためである。エピタキシャル層3が剥離するのをより確実に防止する観点からは、Hの注入量は1×1015atoms/cm以下とするのが、より好ましい。
【0025】
イオン注入工程が終了すると、つぎに図1(c)に示すようにイオン注入工程を行った4H-SiC基板1の表面に4H-SiCのホモエピタキシャル成長をおこない、エピタキシャル層3を形成する(エピタキシャル成長工程)。具体的にはエピタキシャル成長工程時の温度は例えば1600℃前後で、原料ガスとしてSiHとCを使用したCVDエピタキシャルをおこなえばよい。
以上の工程により図1(c)に示すような半導体エピタキシャル基板4が得られる。
【0026】
次に、図1を参照して本実施形態に係る半導体エピタキシャル基板4について説明する。
本発明の半導体エピタキシャル基板4は、Hが注入された注入層2を有する4H-SiC基板1と、4H-SiC基板1上に設けられた4H-SiCのエピタキシャル層3を備える。
半導体エピタキシャル基板4は、例えば本発明に係る半導体エピタキシャル基板4の製造方法で製造できる。
【0027】
次に、図1を参照して本実施形態に係る半導体装置5について説明する。
半導体エピタキシャル基板4は半導体装置5に用いることができる。例えば図1(c)に示すように半導体エピタキシャル基板4の表面であるエピタキシャル層3にデバイスを作製した後にAl/Pt電極7を蒸着し、裏面である4H-SiC基板1にAu電極9を蒸着することで、ショットキーバリアダイオード(SBD)を形成できる。よって半導体エピタキシャル基板4を備える半導体装置5としては、ショットキーバリアダイオードを形成した半導体エピタキシャル基板4を例示できる。もちろん、ダイシングすることで、半導体装置5をチップ化することもできる。
【0028】
このように本発明に係る半導体エピタキシャル基板4の製造方法では4H-SiC基板1上にエピタキシャル層3を形成する前に、この4H-SiC基板1の表面にHをイオン注入しておき、その後に4H-SiC基板1の表面上に4H-SiCをエピタキシャル成長させる。こうすることで、エピタキシャル層3と4H-SiC基板1の界面にHが存在するため、このHが4H-SiC基板1からエピタキシャル層3への転位の拡張を抑制でき転位の拡長による順方向劣化を抑制できる。また、この方法では4H-SiC基板1の表面上にHをイオン注入すればよいため、従来のH注入技術のように4H-SiC基板1やエピタキシャル層3の深い位置にイオン注入を行う必要がなく、加速電圧を高くする必要がない。そのため、従来よりも順方向劣化を容易に抑制することが可能となる。
【実施例0029】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。図1に示す手順で半導体エピタキシャル基板4を製造して順方向劣化試験を行い、順方向特性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0030】
直径150mm、厚さ355μmで、n型、抵抗率0.01Ω・cmで(0001)面に対して4°オフの4H-SiC基板1を準備し、これにHを加速エネルギー50keVで注入量1×1012atoms/cm~1×1016atoms/cmの範囲で注入した(注入は室温)。この基板に、ホットウォール型CVD装置を用いて、Hをキャリアガスとして、SiH、Cを原料ガスとしてエピタキシャル層3の成長をおこない、半導体エピタキシャル基板4を製造した。このときの温度は1600℃で炉内圧力は7kPaとした。
この半導体エピタキシャル基板4に、直径1mmのAl/Pt電極7を蒸着しショットキーバリアダイオード(SBD)を形成した(エピタキシャル層3にはAl/Pt電極7を蒸着し、裏面である4H-SiC基板1にはAu電極9を蒸着した)。
【0031】
次に、製造した半導体エピタキシャル基板4に対して、実際に順方向特性を評価し、Hを注入した効果を確認した。
【0032】
まず、製造した半導体エピタキシャル基板4のうち、Hの注入量が1×1013atoms/cmの基板に、Al/Pt電極7を使用したショットキーバリアダイオード(SBD)を形成したものに対して、図2のようなストレスシーケンスで順方向ストレスを20A/cmから100分ごとに段階的に増加させて印加し、各段階での順方向電圧Vfと電流Iの関係を測定した。その結果、高電流ストレスを印加したにも関わらず、図3のように各段階でのVfの差がほとんどないため、Vfの変動がほとんどみられず、すなわち本方法で形成した基板では順方向劣化がほとんどみられないことがわかった。
【0033】
次に、製造した全ての半導体エピタキシャル基板4に対して、図2のストレスシーケンスに従って順方向ストレスを印加し、初期(「Vf測定Init.」)と「Vf測定4」でのVfの差をΔVfと定義(このときの電流値は0.0002A)し、この値を、Vf変動を示す値とした。その結果、図4に示すようにHの注入量が多くなるほどΔVfが低下し、特に注入量が1×1014atoms/cmを超えると、ΔVfが0に近くなり、Vf変動がほとんど見られなくなった。
以上の結果から、本発明の実施例によれば、Hの注入により、順方向劣化が抑制されることがわかった(図4)。
【0034】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:4H-SiC基板の表面にHを注入するイオン注入工程と、
前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に4H-SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、
を含むことを特徴とする半導体エピタキシャル基板の製造方法。
[2]:前記イオン注入工程において、イオン源として水素ガス、又は水素を含む化合物を用いることを特徴とする、上記[1]に記載の半導体エピタキシャル基板の製造方法。
[3]:前記イオン注入工程において、前記4H-SiC基板の表面へのH注入量を1×1013atoms/cm以上、5×1015atoms/cm以下とすることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の半導体エピタキシャル基板の製造方法。
[4]:Hが注入された注入層を有する4H-SiC基板と、
前記4H-SiC基板上に設けられた4H-SiCのエピタキシャル層と、
を備えることを特徴とする半導体エピタキシャル基板。
[5]:上記[4]に記載の半導体エピタキシャル基板を備えることを特徴とする半導体装置。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0036】
1…4H-SiC基板、 2…注入層、 3…エピタキシャル層、 4…半導体エピタキシャル基板、 5…半導体装置、 7…Al/Pt電極、 9…Au電極。
図1
図2
図3
図4