(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007005
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240111BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240111BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240111BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240111BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240111BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20240111BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20240111BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240111BHJP
B60S 1/02 20060101ALI20240111BHJP
B60J 1/20 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/18 J
G02B1/14
B32B9/00 A
B32B27/00 M
C09J7/29
C09J7/22
C09J201/00
B60S1/02 400Z
B60J1/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108100
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】青嶋 有紀
(72)【発明者】
【氏名】梅田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】眞下 尚洋
【テーマコード(参考)】
2K009
3D225
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
2K009AA15
2K009BB11
2K009CC21
3D225AA02
3D225AA03
3D225AC11
3D225AD02
4F100AA25B
4F100AA25D
4F100AA25H
4F100AA33B
4F100AA33D
4F100AB24C
4F100AB25C
4F100AK03A
4F100AK25E
4F100AK25G
4F100AK45A
4F100AK49A
4F100AK51E
4F100AK51G
4F100AK51J
4F100AL08E
4F100AL08G
4F100AL08J
4F100AT00
4F100BA05
4F100CB02E
4F100CB02G
4F100CB05E
4F100CB05G
4F100EC182
4F100EC18E
4F100EC18G
4F100EH662
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EH66D
4F100GB07
4F100GB32
4F100JG01
4F100JJ02
4F100JN01
4J004AA05
4J004AA10
4J004AA14
4J004CA04
4J004CA06
4J004CA07
4J004CB03
4J004CC03
4J004FA04
4J040CA041
4J040DF001
4J040EF001
4J040EK001
4J040JA09
4J040JB09
4J040LA02
4J040LA10
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境下等の過酷な環境下で使用しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加を抑制できるガラス積層体の提供。
【解決手段】ガラス基材(G)の一方の表面上に、接着層(40)を介して、基材樹脂フィルム(10)と無機積層膜(20)とを有する機能性フィルム(F)が貼合された構造を有し、基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルムまたはハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層(21)と、複数の誘電体層の間に挟持された、銀および/または銀合金を含む1層以上の導電体層(22)とを含み、接着層は80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである、ガラス積層体(GL1)。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂フィルムと、当該基材樹脂フィルムの一方の表面上に積層された無機積層膜とを有する機能性フィルムと、当該機能性フィルムの前記無機積層膜上に設けられた接着層とを有する接着層付き機能性フィルムであって、
前記基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルム、または、当該非晶性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に硬化性組成物の硬化物からなるハードコート層が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、
前記無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層と、当該複数の誘電体層の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層とを含み、
前記接着層は、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着剤からなり、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層である、接着層付き機能性フィルム。
【請求項2】
さらに、前記基材樹脂フィルムと前記無機積層膜との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層を有する、請求項1に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項3】
さらに、前記無機積層膜の前記接着層側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層を有する、請求項1または2に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項4】
前記非晶性樹脂フィルムの構成樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィンポリマーおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂である、請求項1または2に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤またはブタジエン系粘着剤である、請求項1または2に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項6】
前記接着層の厚みが25~110μmである、請求項1または2に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項7】
前記無機積層膜の総厚みが90~200nmである、請求項1または2に記載の接着層付き機能性フィルム。
【請求項8】
ガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に、接着層を介して機能性フィルムが貼合されたガラス積層体であって、
前記機能性フィルムは、基材樹脂フィルムと、当該基材樹脂フィルムの前記接着層側の表面上に積層された無機積層膜とを有し、
前記基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルム、または、当該非晶性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に硬化性組成物の硬化物からなるハードコート層が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、
前記無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層と、当該複数の誘電体層の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層とを含み、
前記接着層は、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着剤からなり、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層である、ガラス積層体。
【請求項9】
前記機能性フィルムはさらに、前記基材樹脂フィルムと前記無機積層膜との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層を有する、請求項8に記載のガラス積層体。
【請求項10】
前記機能性フィルムはさらに、前記無機積層膜の前記接着層側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層を有する、請求項8または9に記載のガラス積層体。
【請求項11】
前記非晶性樹脂フィルムの構成樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィンポリマーおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂である、請求項8または9に記載のガラス積層体。
【請求項12】
前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤またはブタジエン系粘着剤である、請求項8または9に記載のガラス積層体。
【請求項13】
前記接着層の厚みが20~105μmである、請求項8または9に記載のガラス積層体。
【請求項14】
前記無機積層膜の総厚みが90~200nmである、請求項8または9に記載のガラス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の窓ガラス等の用途では、ガラス基材の表面に、基材樹脂フィルム上に機能膜と接着層とが順次積層された接着層付き機能性フィルムを貼合して、機能を付与することがある。
本明細書において、特に明記しない限り、「接着層」は粘着層を含む。
【0003】
機能膜の1つとして、透明電熱膜が挙げられる。
例えば、車両用フロントガラスの内面に、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、ADAS(Advanced Driver Assistance systems)カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダーおよび光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含む光学装置が設置される場合がある。かかる構成では、光学装置によるセンシング精度を高めるために、光学機器の前方のガラス部分に、曇り、並びに、雨、霜、氷および雪等の付着を防止する透明電熱膜が配置されることが好ましい。
【0004】
フロントガラスの内面に、基材樹脂フィルム上に機能膜としての透明電熱膜と接着層とが順次積層された接着層付き機能性フィルムを貼合することで、フロントガラスの内面に、透明電熱膜を簡易に配置できる。
抵抗加熱特性および透過率等の観点から、好ましい透明電熱膜として、複数の誘電体層と、複数の誘電体層の間に挟持された、銀または銀合金を含む導電体層とを含む無機積層膜が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、接着層付き機能性フィルムとして、ポリエステルフィルムの一方の主面にハードコート層を有し、他方の主面に日射反射積層膜を有し、前記日射反射積層膜が、第1の亜鉛酸化物層、第1の銀合金層、第2の亜鉛酸化物層、第2の銀合金層、第3の亜鉛酸化物層、保護層および粘着層の積層構造を有する日射調整フィルムが開示されている(請求項1~3)。
特許文献1には、ガラス基材に上記日射反射積層膜が貼合されたガラス積層体が開示されている(請求項8)。
【0006】
特許文献2には、機能性フィルムとして、透明樹脂基材上に、第1の金属酸化物層、銀または銀合金を含む金属層、および第2の金属酸化物層が順次積層されたヒータ用透明導電フィルムが開示されている(請求項1)。
ガラス基材と透明導電フィルムとが接着層を介して積層されたガラス積層体が開示されている(段落0016、0017)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-37634号公報
【特許文献2】国際公開第2020/022270号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学装置付きのフロントガラスにおいて、高いセンシング精度を得るためには、ガラス基材上に接着層付き機能性フィルムを貼合したガラス積層体には、高い光学特性が求められる。具体的には、透過率が高く、ヘイズ値が低く、透視歪が低いことが好ましい。
しかしながら、上記ガラス積層体は、高温環境下、高湿環境下または高温高湿環境下で使用された場合、ヘイズ値が増加する、透視歪が生じる、透明電熱膜(無機積層膜)にクラックが生じる、透明電熱膜(無機積層膜)の抵抗値が増加するなど、特性が低下する場合がある。
【0009】
特許文献1、2の[実施例]の項に記載されているように、従来一般的に、機能性フィルムの基材樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。PETは結晶性樹脂であるため、PETフィルムを高温高湿環境下等で使用すると、低分子量のオリゴマーの生成とその凝集によりフィルムが白化し、ヘイズ値が増加する恐れがある。
【0010】
無機材料からなるガラス基材および透明電熱膜(無機積層膜)の線膨張係数に対して、有機材料からなる基材樹脂フィルムおよび接着層の線膨張係数は非常に大きい。
高温(高湿)環境下では、基材樹脂フィルムおよび接着層は大きく膨張するのに対し、ガラス基材および透明電熱膜(無機積層膜)はほとんど膨張しない。この場合、接着層に歪が生じて、ガラス積層体に透視歪が生じる恐れがある。また、有機材料に挟持された透明電熱膜(無機積層膜)に大きな応力がかかり、透明電熱膜(無機積層膜)にクラックが生じる場合がある。透明電熱膜(無機積層膜)のクラックは、ヘイズ値の増加および/または抵抗値の増加を招く恐れがある。
【0011】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、導電体層と誘電体層とを含む無機積層膜を有し、高温高湿環境下等の過酷な環境下で使用しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加を抑制できるガラス積層体、並びに、その製造に用いて好適な接着層付き機能性フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体を提供する。
[1] 基材樹脂フィルムと、当該基材樹脂フィルムの一方の表面上に積層された無機積層膜とを有する機能性フィルムと、当該機能性フィルムの前記無機積層膜上に設けられた接着層とを有する接着層付き機能性フィルムであって、
前記基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルム、または、当該非晶性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に硬化性組成物の硬化物からなるハードコート層が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、
前記無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層と、当該複数の誘電体層の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層とを含み、
前記接着層は、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着剤からなり、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層である、接着層付き機能性フィルム。
【0013】
[2] さらに、前記基材樹脂フィルムと前記無機積層膜との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層を有する、[1]の接着層付き機能性フィルム。
[3] さらに、前記無機積層膜の前記接着層側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層を有する、[1]または[2]の接着層付き機能性フィルム。
【0014】
[4] 前記非晶性樹脂フィルムの構成樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィンポリマーおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂である、[1]~[3]のいずれかの接着層付き機能性フィルム。
【0015】
[5] 前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤またはブタジエン系粘着剤である、[1]~[4]のいずれかの接着層付き機能性フィルム。
[6] 前記接着層の厚みが25~110μmである、[1]~[5]のいずれかの接着層付き機能性フィルム。
[7] 前記無機積層膜の総厚みが90~200nmである、[1]~[6]のいずれかの接着層付き機能性フィルム。
【0016】
[8] ガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に、接着層を介して機能性フィルムが貼合されたガラス積層体であって、
前記機能性フィルムは、基材樹脂フィルムと、当該基材樹脂フィルムの前記接着層側の表面上に積層された無機積層膜とを有し、
前記基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルム、または、当該非晶性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に硬化性組成物の硬化物からなるハードコート層が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、
前記無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層と、当該複数の誘電体層の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層とを含み、
前記接着層は、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着剤からなり、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層である、ガラス積層体。
【0017】
[9] 前記機能性フィルムはさらに、前記基材樹脂フィルムと前記無機積層膜との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層を有する、[8]のガラス積層体。
[10] 前記機能性フィルムはさらに、前記無機積層膜の前記接着層側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層を有する、[8]または[9]のガラス積層体。
【0018】
[11] 前記非晶性樹脂フィルムの構成樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィンポリマーおよびポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂である、[8]~[10]のいずれかのガラス積層体。
【0019】
[12] 前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤またはブタジエン系粘着剤である、[8]~[11]のいずれかのガラス積層体。
[13] 前記接着層の厚みが20~105μmである、[8]~[12]のいずれかのガラス積層体。
[14] 前記無機積層膜の総厚みが90~200nmである、[8]~[13]のいずれかのガラス積層体。
【発明の効果】
【0020】
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体において、基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルムまたはハードコート層付き非晶性樹脂フィルムであり、接着層は、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層である。本開示によれば、基材樹脂フィルムおよび接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)を好適化したことで、導電体層と誘電体層とを含む無機積層膜を有し、高温高湿環境下等の過酷な環境下で使用しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加を抑制できるガラス積層体、並びに、その製造に用いて好適な接着層付き機能性フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の接着層付き機能性フィルムの模式断面図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態の接着層付き機能性フィルムの模式断面図である。
【
図3】本発明に係る第3実施形態の接着層付き機能性フィルムの模式断面図である。
【
図4】本発明に係る第4実施形態の接着層付き機能性フィルムの模式断面図である。
【
図5】本発明に係る第5実施形態の接着層付き機能性フィルムの模式断面図である。
【
図6】本発明に係る一実施形態のガラス積層体の全体平面図である。
【
図7】
図6の部分拡大模式断面図(VII-VII線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス板等の板状部材の「表面」とは、板状部材の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
一般的に、薄膜構造体は、厚みに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」には「シート」が含まれる場合がある。
本明細書において、特に明記しない限り、「ある成分を実質的に含まない層」とは、その成分の含有量が5モル%以下の層である。
本明細書において、特に明記しない限り、「主成分」とは、含有量が80モル%以上の成分である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
[接着層付き機能性フィルム、ガラス積層体]
図1~
図5を参照して、本発明に係る第1~第5実施形態の接着層付き機能性フィルムの構造について、説明する。
図6および
図7を参照して、本発明に係る一実施形態のガラス積層体の構造について、説明する。
図1~
図5および
図7は、接着層付き機能性フィルムまたはガラス積層体の模式断面図である。
図6はガラス積層体の模式平面図である。
図7は、
図6の部分拡大断面図(VII-VII線断面図)である。視認しやすくするため、各構成要素の縮尺は適宜実際のものとは適宜異ならせてある。同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は適宜省略する。
【0024】
図1~
図5に示すように、第1~第5実施形態の接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5)は、基材樹脂フィルム10と、基材樹脂フィルム10の一方の表面上に積層された無機積層膜20とを有する機能性フィルムF(F1~F5)と、機能性フィルムFの無機積層膜20上に設けられた接着層40とを有する。
【0025】
接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5)において、基材樹脂フィルム10は、非晶性樹脂フィルム11、または、非晶性樹脂フィルム11の少なくとも一方の表面上に硬化性組成物の硬化物からなるハードコート層12が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムである。
図1~
図4に示す例の基材樹脂フィルム10Aは、非晶性樹脂フィルム11である。
図5に示す例の基材樹脂フィルム10Bは、非晶性樹脂フィルム11の両面上にハードコート層12が形成されたハードコート層付き非晶性樹脂フィルムである。
【0026】
接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5)において、無機積層膜20は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層21と、複数の誘電体層21の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層22とを含む。
無機積層膜20は、ガラス基材等の基材の所望の領域に特定の機能を付与する機能膜であることができる。上記構成の無機積層膜20は、抵抗加熱特性および透過率等が良好であり、透明電熱膜等として好適である。
図示例では、接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5)の無機積層膜20は、酸化亜鉛を含む2つの誘電体層21と、2つの誘電体層21の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1つの導電体層22とからなる。
【0027】
接着層付き機能性フィルムAF2、AF4はさらに、基材樹脂フィルム10と無機積層膜20との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層31を有する。
接着層付き機能性フィルムAF3、AF4はさらに、無機積層膜20の接着層40側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層32を有する。
【0028】
接着層付き機能性フィルムAF1、AF5に含まれる機能性フィルムF1は、無機積層膜20/基材樹脂フィルム10の積層構造を有する。
接着層付き機能性フィルムAF2に含まれる機能性フィルムF2は、無機積層膜20/下部金属化合物層31/基材樹脂フィルム10の積層構造を有する。
接着層付き機能性フィルムAF3に含まれる機能性フィルムF3は、上部金属化合物層32/無機積層膜20/基材樹脂フィルム10の積層構造を有する。
接着層付き機能性フィルムAF4に含まれる機能性フィルムF4は、上部金属化合物層32/無機積層膜20/下部金属化合物層31/基材樹脂フィルム10の積層構造を有する。
【0029】
図7に示す一実施形態のガラス積層体GL1は、ガラス基材Gと、ガラス基材Gの一方の表面上に、接着層40を介して機能性フィルムFが貼合された構造を有する。
機能性フィルムFは、ガラス基材Gの一方の表面上の少なくとも一部の領域に貼合できる。
機能性フィルムFは、基材樹脂フィルム10と、基材樹脂フィルム10の接着層40側の表面上に積層された無機積層膜20とを有する。
機能性フィルムFは、
図1~
図5に示した機能性フィルムF1~F5のうちのいずれかであることができる。図示例では、機能性フィルムFは、
図1に示した機能性フィルムF1である。
【0030】
接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5のうちのいずれか)の製造方法は、
基材樹脂フィルム10を用意する工程(S11)と、
基材樹脂フィルム10の一方の表面上に、無機積層膜20を含む複数の無機層を成膜して、機能性フィルムF(F1~F5のうちのいずれか)を得る工程(S12)と、
機能性フィルムF上に接着層40を貼合する工程(S13)とを有する。
【0031】
工程(S12)で成膜する複数の無機層の構成は、無機積層膜20、無機積層膜20/下部金属化合物層31、上部金属化合物層32/無機積層膜20または上部金属化合物層32/無機積層膜20/下部金属化合物層31である。
複数の無機層の成膜方法としては、スパッタリング法およびCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相成膜法が好ましい。
【0032】
ガラス積層体GL1の第1の製造方法は、
ガラス基材Gを用意する工程(S21)と、
接着層付き機能性フィルムAF(AF1~AF5のうちのいずれか)を用意する工程(S22)と、
ガラス基材Gに対して、上記接着層付き機能性フィルムを貼合する工程(S23)とを有する。
工程(S23)では、ガラス基材Gと機能性フィルムF(F1~F5のうちのいずれか)とが接着層40を介して貼合されるように、貼合を行う。
【0033】
ガラス積層体GL1の第2の製造方法は、
ガラス基材Gを用意する工程(S31)と、
機能性フィルムF(F1~F5のうちのいずれか)を用意する工程(S32)と、
ガラス基材Gに対して、上記機能性フィルムFを、接着層40を介して貼合する工程(S33)とを有する。
【0034】
(基材樹脂フィルム)
[背景技術]の項で説明したように、従来一般的に、機能性フィルムの基材樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。PETは結晶性樹脂であるため、PETフィルムを高温高湿環境下等で使用すると、低分子量のオリゴマーの生成とその凝集によりフィルムが白化し、ヘイズ値が増加する恐れがある。
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体に含まれる基材樹脂フィルムは、非晶性樹脂フィルムまたはハードコート層付き非晶性樹脂フィルムである。基材樹脂フィルムがかかる構成である場合、高温高湿環境下等で使用しても、低分子量のオリゴマーの生成とその凝集が抑制され、フィルムの白化およびヘイズ値の増加が抑制される。
【0035】
本明細書において、特に明記しない限り、「非晶性樹脂フィルム」は、樹脂フィルム単独のX線回折(XRD)パターンにおいて、回折角2θが20~30°の範囲内に顕著な結晶ピークが見られないフィルムである。
XRD装置を用いて樹脂フィルム単独のXRD測定を行い、バックグランドおよびKα2ピークを除去して得られたXRDパターンにおいて、回折角2θが20~30°の範囲の積分値を求める。この積分値が、典型的な非晶性材料であるソーダライムガラスについて同様に測定される積分値の100倍以下であれば、回折角2θが20~30°の範囲内に顕著な結晶ピークがなく、樹脂フィルムは非晶性であると言える。
【0036】
非晶性樹脂フィルムの構成樹脂としては、透明性および耐熱性等の観点から、ポリカーボネート系樹脂(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)およびポリイミド(PI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の非晶性樹脂が好ましい。
【0037】
ハードコート層は、硬化性組成物の硬化物からなり、硬化被膜とも言う。ハードコート層は、アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂等の樹脂からなる有機系硬化被膜であることができる。
硬化性組成物は、熱硬化性または活性エネルギー線硬化性の樹脂;加熱または活性エネルギー線照射により樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー;等の1種以上の硬化性化合物を含む。
硬化性化合物としては、熱硬化性または活性エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂;熱硬化性または活性エネルギー線硬化性のウレタン系樹脂等が好ましい。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
ハードコート層は、非晶性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面上に、硬化性組成物を塗工し、硬化させることにより形成できる。
【0038】
(接着層)
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体において、接着層は、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着剤からなる光学透明粘着層である。
接着層の材料として、市販の光学透明粘着フィルム(Optical Clear Adhesive、OCA)を用いることができる。OCAは、1種以上の粘着性樹脂を含む粘着性樹脂フィルムが一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造を有し、両面にある保護フィルムを剥離して、粘着性樹脂フィルムを取り出すことができる。この粘着性樹脂フィルムを接着層とすることができる。この粘着性樹脂フィルムを用いる場合、常温常圧接着が可能である。
【0039】
本明細書において、特に明記しない限り、「光学透明」とは、可視光(380~780nmの波長域の光)が透過可能であることを意味する。光学透明粘着層は、光散乱が小さく、全光線透過率が高いことが好ましい。光学透明粘着層は、JIS K 7136に準拠して、一般的なヘイズメーターを用いて測定されるヘイズ値が1%以下であることが好ましい。光学透明粘着層は、一般的なヘイズメーターで測定される全光線透過率が80%以上であることが好ましい。
【0040】
OCAの両面にある保護フィルムを剥離するタイミングは、特に制限されない。
接着層付き機能性フィルムの製造においては、OCAの両面にある保護フィルムのうち一方の保護フィルムのみを剥離し、このOCAと機能性フィルムとを貼合することが好ましい。残った他方の保護フィルムは、接着層付き機能性フィルムに含まれる接着層を保護できる。
【0041】
ガラス積層体の第1の製造方法においては、ガラス積層体の製造時に、接着層付き機能性フィルムから残った他方の保護フィルムを剥離して、接着層を露出させ、接着層付き機能性フィルムとガラス基材とを貼合することが好ましい。
【0042】
ガラス積層体の第2の製造方法においては、OCAの両面にある保護フィルムのうち一方の保護フィルムのみを剥離し、このOCAと機能性フィルムとを貼合した後、残った他方の保護フィルムを剥離して、接着層を露出させ、接着層を介して、機能性フィルムとガラス基材とを貼合することが好ましい。
【0043】
ガラス積層体の第2の製造方法においては、OCAの両面にある保護フィルムのうち一方の保護フィルムのみを剥離し、このOCAとガラス基材とを貼合した後、残った他方の保護フィルムを剥離して、接着層を露出させ、接着層を介して、機能性フィルムとガラス基材とを貼合してもよい。
【0044】
OCAを用いた貼合では、専用の貼合装置を用いることで、接着を良好に行うことができる。また、内部に空気が残る場合があるので、接着後に、真空または加圧等による脱気処理を行ってもよい。
【0045】
接着層を構成する粘着剤としては特に制限されず、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤およびブタジエン系粘着剤等が挙げられる。本開示の技術は、接着層がアクリル系粘着剤等からなる場合に好適である。
【0046】
[背景技術]の項で説明したように、一般的に、無機材料からなるガラス基材および無機積層膜の線膨張係数に対して、有機材料からなる基材樹脂フィルムおよび接着層の線膨張係数は非常に大きい。高温(高湿)環境下では、基材樹脂フィルムおよび接着層は大きく膨張するのに対し、ガラス基材および無機積層膜はほとんど膨張しない。この場合、接着層に歪が生じて、ガラス積層体に透視歪が生じる恐れがある。また、有機材料に挟持された無機積層膜に大きな応力がかかり、無機積層膜にクラックが生じる場合がある。無機積層膜のクラックは、ヘイズ値の増加および/または抵抗値の増加を招く恐れがある。
【0047】
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体において、接着層は、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである。
一般的に、重合体の貯蔵弾性率曲線においては、以下の領域が存在する。なお、貯蔵弾性率曲線は、動的熱機械特性分析法(DMTA法)により得られる温度と貯蔵弾性率との関係を示す曲線(DMTA曲線)である。
ガラス転移温度Tgまでの温度域はガラス領域と呼ばれる。この領域では温度上昇に伴って貯蔵弾性率は緩やかに降下する。
ガラス転移温度Tgを超えると温度上昇に伴って貯蔵弾性率が大きく低下する温度域がある。この温度域はガラス-ゴム転移領域と呼ばれる。
その後、温度を上げても貯蔵弾性率が大きく変化しない温度域がある。この温度域はゴム状平坦領域と呼ばれる。ゴム状平坦領域では、重合体の分子鎖は動くが、完全には溶融しない領域である。
その後、温度上昇に伴って貯蔵弾性率が大きく低下する温度域がある。この温度域は流動領域と呼ばれる。
【0048】
一般的に、光学透明粘着層は、貯蔵弾性率曲線のゴム状平坦領域内の温度範囲内で使用される。80℃は、一般的な光学透明粘着層の貯蔵弾性率曲線のゴム状平坦領域内の温度である。
光学透明粘着層は、貯蔵弾性率(E’)が高い方が、接着力が高い傾向がある。
光学透明粘着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)が好適な範囲より低い場合、80℃において、ガラス基材に対する光学透明粘着層の接着力が弱く、膨張した光学透明粘着層に歪が発生する恐れがある。80℃における貯蔵弾性率(E’)が7kPa以上であれば、高温(高湿)環境下における接着層の歪、およびこれによるガラス積層体の透視歪を効果的に抑制できる。
接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)は、7kPa以上であり、好ましくは10kPa以上、より好ましくは12kPa以上、特に好ましくは14kPa以上である。
【0049】
光学透明粘着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)が好適な範囲より高い場合、80℃において、無機積層膜は、光学透明粘着層に強く接着した状態で、膨張した光学透明粘着層から大きな応力を受けて、無機積層膜にクラックが発生する恐れがある。80℃における貯蔵弾性率(E’)が40kPa以下であれば、高温(高湿)環境下における無機積層膜のクラック、およびこれによるヘイズ値の増加および/または抵抗値の増加を効果的に抑制できる。
接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)は、40kPa以下であり、好ましくは36kPa以下、より好ましくは30kPa以下、特に好ましくは20kPa以下である。
【0050】
上記したように、一般的に、光学透明粘着層は、貯蔵弾性率曲線のゴム状平坦領域内の温度範囲内で使用される。ゴム状平坦領域内であれば、温度が変化しても、貯蔵弾性率(E’)はそれ程大きく変化しない。また、自動車等の車両用の窓ガラス等の用途において、80℃は、通常の実使用環境よりも過酷な条件である。したがって、接着層は、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaであれば、通常の実使用環境温度においても貯蔵弾性率(E’)が好適であり、接着層の歪および無機積層膜のクラックが効果的に抑制できる。
【0051】
接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)は、レオメーターを用いた動的粘弾性測定により、測定できる。周波数1Hzの条件で、温度を変えて、接着層またはその材料(例えば、粘着性樹脂フィルムが一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造のOCAから、両面にある保護フィルムを剥離して、取り出した粘着性樹脂フィルム)の貯蔵弾性率(E’)を測定し、得られた貯蔵弾性率曲線から、80℃での貯蔵弾性率(E’)を求めることができる。
【0052】
接着層の厚みは、特に制限されない。
本開示の接着層付き機能性フィルムに含まれる接着層の厚みは、好ましくは25~110μm、より好ましくは30~110μm、特に好ましくは40~99μm、最も好ましくは40~80μmである。
本開示のガラス積層体に含まれる接着層の厚みは、好ましくは20~105μm、より好ましくは25~105μm、特に好ましくは35~95μm、最も好ましくは35~75μmである。
なお、ガラス積層体に含まれる接着層の厚みは、貼合時の加圧により、接着層付き機能性フィルムに含まれる接着層の厚みより、5~10μm程度薄くなる傾向がある。
ガラス積層体に含まれる接着層の厚みを比較的小さく設計することで、ガラス積層体の透視歪を抑制でき、好ましい。
【0053】
(無機積層膜)
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体に含まれる無機積層膜は、酸化亜鉛を含む複数の誘電体層と、複数の誘電体層の間に挟持された、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む1層以上の導電体層とを含む。
【0054】
<誘電体層>
無機積層膜に含まれる酸化亜鉛を含む誘電体層の層数は、2以上であり、好ましくは2~4、より好ましくは2~3である。
誘電体層は、酸化亜鉛を含み、酸化亜鉛を主成分とすることが好ましい。誘電体層は必要に応じて、Al、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびW等の、Zn以外の1種以上の金属元素を含むことができる。
電気特性および透過率等の観点から、誘電体層中の酸化亜鉛の含有量は、70モル%以上、好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上である。誘電体層中の酸化亜鉛の含有量の上限値は特に制限されず、好ましくは95モル%、より好ましくは92モル%である。
電気特性および耐久性等の観点から、誘電体層の構成材料としては、TiドープZnO(TZO)等が好ましい。
誘電体層は、上記以外の任意成分および不可避不純物を含むことができる。
誘電体層の厚みは特に制限されず、抵抗加熱特性および透過率等の観点から、好ましくは20~90nm、より好ましくは25~70nm、特に好ましくは25~50nmである。
複数の誘電体層の組成は、同一でも非同一でもよい。複数の誘電体層の厚みは、同一でも非同一でもよい。
【0055】
<導電体層>
導電体層は、銀および銀合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む。
導電体層は、銀以外の金属元素として、Al、Ti、V、Cr、Ni、Cu、Zr、Rh、Pd、W、Ir、PtおよびAu等の、少なくとも1種の金属元素を含むことができる。
電気特性および透過率等の観点から、導電体層中の銀の含有量は、好ましくは97モル%以上、より好ましくは98モル%以上である。
導電体層の厚みは特に制限されず、電気特性および透過率等の観点から、好ましくは5~20nm、より好ましくは5~15nm、特に好ましくは5~10nmである。
導電体層は、上記以外の任意成分および不可避不純物を含むことができる。
【0056】
無機積層膜の総厚みは特に制限されず、電気特性および透過率等の観点から、好ましくは90~200nm、より好ましくは90~150nm、特に好ましくは90~120nmである。
【0057】
(下部金属化合物層)
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体は、基材樹脂フィルムと無機積層膜との間に、SiおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物(MU)を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層を有することができる。
金属化合物(MU)としては、Siの酸化物、窒化物および酸窒化物;Alの酸化物、窒化物および酸窒化物等が挙げられる。
金属化合物(MU)としては、二酸化珪素および窒化珪素等の珪素化合物が好ましい。Al等の1種以上の金属元素をドープした珪素化合物も、好ましい。
下部金属化合物層は、1種以上の金属化合物(MU)を主成分とすることが好ましい。
下部金属化合物層中の1種以上の金属化合物(MU)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
下部金属化合物層は、上記以外の任意成分および不可避不純物を含むことができる。
【0058】
一般的に、銀または銀合金を含む導電体層は、水分および/または酸素の存在下で、銀または銀合金の凝集またはイオンマイグレーション等により変質して、抵抗値が増加する傾向がある。そのため、(高温)高湿環境下でガラス積層体を使用する場合、外部から基材樹脂フィルムを通って導電体層に水分および/または酸素が侵入して、導電体層の抵抗値が増加する恐れがある。
【0059】
一般的に、非晶性樹脂フィルムは、高温高湿環境下等で使用してもヘイズ値が増加しにくいが、PETフィルムよりも線膨張係数および水蒸気透過率が大きい傾向がある。そのため、基材樹脂フィルムとして非晶性樹脂フィルムを用いる場合、無機材料と有機材料との線膨張係数差および基材樹脂フィルムの水蒸気透過性に起因する問題がより起こりやすい傾向がある。
【0060】
上記金属化合物(MU)を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層は、酸化亜鉛を含む誘電体層よりも、水蒸気および/または酸素の透過性が低い傾向がある。下部金属化合物層は、水蒸気および/または酸素のバリア層として作用できる。下部金属化合物層は、(高温)高湿環境下等において、外部から基材樹脂フィルムを通って導電体層に水分および/または酸素が侵入することを効果的に抑制し、銀または銀合金を含む導電体層の変質と抵抗値の増加を効果的に抑制できる。
【0061】
上記金属化合物(MU)を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない下部金属化合物層は、無機材料からなるガラス基材および無機積層膜の線膨張係数と、有機材料からなる基材樹脂フィルムおよび接着層の線膨張係数との差に起因して、高温(高湿)環境下等において無機積層膜にかかる応力を緩和する応力緩和層として作用できる。下部金属化合物層は、(高温)高湿環境下等において、無機積層膜にかかる応力を緩和し、無機積層膜のクラック、およびこれによるヘイズ値の増加および/または抵抗値の増加を効果的に抑制できる。
【0062】
(上部金属化合物層)
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体は、無機積層膜の接着層側の表面上に、Al、Si、Ti、Ga、In、Sn、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む1種以上の金属化合物(MT)を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層を有することができる。
金属化合物(MT)としては、SnO2(酸化錫)、ITO(インジウム錫酸化物)、TTO(タンタル錫酸化物)、GIT(ガリウムインジウム錫酸化物)、WO3、Al2O3、Ga2O5、TiO2、Ta2O5およびこれらの組合せ等が挙げられる。
金属化合物(MT)としては、Ga、In、SnおよびTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属化合物が好ましい。例えば、SnO2、ITO、TTOおよびGIT等が好ましい。
上部金属化合物層は、1種以上の金属化合物(MT)を主成分とすることが好ましい。
上部金属化合物層中の1種以上の金属化合物(MT)(複数種の場合は、合計量)の含有量は、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
上部金属化合物層は、上記以外の任意成分および不可避不純物を含むことができる。
【0063】
接着層に含まれる粘着性樹脂の酸価が比較的高い場合、(高温)高湿環境下等において、粘着性樹脂が加水分解して酸が生成し、その酸が、酸に対する化学的耐久性の良くない酸化亜鉛を含む誘電体層に影響を及ぼす恐れがある。
上記金属化合物(MT)を含み、酸化亜鉛を実質的に含まない上部金属化合物層は、酸化亜鉛を含む誘電体層よりも、耐酸性が高い傾向がある。上部金属化合物層は、酸のバリア層として作用できる。上部金属化合物層は、(高温)高湿環境下等において、酸価の高い粘着性樹脂を含む接着層で酸が生成されても、その酸が誘電体層に侵入することを効果的に抑制し、誘電体層の変質を効果的に抑制できる。
酸価の高い粘着性樹脂を含む粘着剤としては、アクリル系粘着剤等が挙げられる。アクリル系粘着性樹脂はカルボキシ基を含み、(高温)高湿環境下等において、カルボン酸を生成する恐れがある。そのため、上部金属化合物層は特に、接着層がアクリル系粘着剤からなる場合に、有効である。
【0064】
(ガラス基材)
自動車等の車両用の窓ガラス等の用途において、ガラス基材は、複数のガラス板が中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスまたは強化ガラスを含むことが好ましい。
合わせガラスおよび強化ガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。
強化ガラスは、上記のようなガラス板に対して、イオン交換法および風冷強化法等の公知方法にて強化加工を施したものである。強化ガラスとしては、風冷強化ガラスが好ましい。
【0065】
合わせガラスの厚みは特に制限されず、車両用窓ガラス(フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等)の用途では、好ましくは1~6mm、より好ましくは1~3mmである。
強化ガラスの厚みは特に制限されず、車両用窓ガラス(フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等)の用途では、好ましくは1~6mm、より好ましくは1~3mmである。
合わせガラスを構成する複数のガラス板は、通常は複数の未強化ガラスの組合せであるが、強化ガラスと未強化ガラスとの組合せであってもよい。
【0066】
車両用窓ガラスは、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用窓ガラスが合わせガラスである場合、車内側のガラス板および車外側のガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用窓ガラスは、左右方向または上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。車両用窓ガラスの曲率半径は2000~11000mmであってよい。車両用窓ガラスは、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。車両用窓ガラスの曲げ成形には、重力成形、プレス成形、およびローラー成形などが用いられる。
【0067】
合わせガラスの中間膜は、樹脂膜からなる。その構成樹脂としては、複数のガラス板を良好に接着できる樹脂であれば特に制限されない。中間膜は例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
中間膜は必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。
中間膜の材料としては、上記例示の樹脂を含む樹脂フィルムが好ましい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0068】
合わせガラスおよび強化ガラスは、表面の少なくとも一部の領域に、撥水、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有する被膜を有していてもよい。
合わせガラスは、内部の少なくとも一部の領域に、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有する膜を有していてもよい。合わせガラスの中間膜の少なくとも一部の領域が、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有していてもよい。
【0069】
合わせガラスおよび強化ガラスは、表面の所定の領域に遮光層を有していてもよい。遮光層は公知方法にて形成でき、例えば、合わせガラスの材料であるガラス板または強化ガラスの表面の所定の領域に、黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、焼成することで、形成できる。遮光層の厚さは特に制限されず、例えば5~20μmである。遮光層は、合わせガラスおよび強化ガラスの任意の面の周縁領域に形成でき、例えば、合わせガラスおよび強化ガラスの車内側の面の周縁領域に形成できる。
【0070】
本開示のガラス積層体は、車両用窓ガラス(フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス等)であることができ、無機積層膜は、透明電熱膜であることができる。
図6に示すガラス積層体GL1は、車両用フロントガラスであり、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域OPと、光学装置取付領域OP内に位置し、外部から光学装置への入射光および/または光学装置からの出射光が通る透光部TPと、遮光層BLとを有する。
図示するように、透光部TPは、ガラス基材Gの一端辺(図示例では上端辺)に比較的近い領域に形成できる。
遮光層BLの形成領域は、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と、光学装置取付領域OPの周囲の領域と、ガラス基材Gの周縁領域とを含むことができる。
【0071】
光学装置は例えば、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダー、および光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含むことができる。
光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は光学装置の形状に合わせて適宜設計でき、略台形状および略矩形状等が挙げられる。光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、相似形でも非相似形でもよい。図示例では、光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、略台形状である。
図示例では、遮光層BLは透光部TPの四辺すべてを囲んでいるが、遮光層BLは透光部TPの少なくとも一部を囲んでいればよく、例えば、略台形状または略矩形状の透光部TPの三辺のみを囲むものであってもよい。
透光部TPが透過する光の波長域は特に制限されず、例えば、可視光域、赤外光域、および可視光域~赤外光域等である。
【0072】
機能性フィルムFは、ガラス基材Gの車内面上に貼合できる。機能性フィルムFの貼合領域は、透光部TPを含む。機能性フィルムFの貼合領域は、光学装置取付領域OP内であることが好ましい。
図示するように、ガラス基材Gまたは機能性フィルムFは、機能性フィルムFの貼合領域内であって透光部TPを除く領域に、透明電熱膜として機能する無機積層膜20に給電するための、一対の給電用電極(バスバーとも言う。)50Bを有することができる。一対の給電用電極50Bは、無機積層膜20と導通するように形成される。給電用電極50Bは公知方法にて形成でき、その個数および形成位置は、適宜設計できる。
【0073】
[環境試験後の物性]
本開示のガラス積層体のヘイズ値は、好ましくは1.0%以下である。
本開示のガラス積層体は、ガラス積層体を80℃、相対湿度95%の環境下で670時間静置する環境試験を実施したとき、環境試験後のガラス積層体のヘイズ値が1.0%以下であることができる。
本開示のガラス積層体は、ガラス積層体を80℃、相対湿度95%の環境下で670時間静置する環境試験を実施したとき、環境試験前の無機積層膜の抵抗値に対する、環境試験前の無機積層膜の抵抗値の比率が0.8~1.2であることができる。
なお、自動車等の車両用の窓ガラス等の用途において、80℃、相対湿度95%は、通常の実使用環境よりも過酷な条件である。
【0074】
以上説明したように、本開示によれば、導電体層と誘電体層とを含む無機積層膜を有し、高温高湿環境下等の過酷な環境下で使用しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加を抑制できるガラス積層体、並びに、その製造に用いて好適な接着層付き機能性フィルムを提供できる。
【0075】
[用途]
本開示の接着層付き機能性フィルムおよびガラス積層体は、自動車等の車両および建物等の窓ガラスに好適である。例えば、自動車等の車両の窓ガラスの光学装置が設置される部分;自動車等の車両、ビルおよび住宅等の窓ガラスに形成されるガラスアンテナおよび周波数選択板等に好適である。
【実施例0076】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例1~3、11、21、22、31~44が実施例、例51~56が比較例である。
【0077】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(接着層の厚み)
デジタルノギスを用いて、得られた接着層付き機能性フィルムの総厚みを測定した。この総厚みから、基材樹脂フィルムの厚みと、その上に積層した無機積層膜を含む複数の無機層の厚みとを差し引き、ガラス基材に貼合する前の接着層付き機能性フィルム中の接着層の厚み[μm]を求めた。この厚みを「貼合前の厚み」とも言う。
デジタルノギスを用いて、得られたガラス積層体の総厚みを測定し、この総厚みから、基材樹脂フィルムの厚みと、その上に積層した無機積層膜を含む複数の無機層の厚みと、ガラス基材の厚みとを差し引き、ガラス積層体中の接着層の厚み[μm]を求めた。この厚みを「貼合後の厚み」とも言う。
【0078】
(貯蔵弾性率(E’))
レオメーター(アントンパール社製「Physica MCR301)を用いて、動的粘弾性測定を実施した。粘着性樹脂フィルムが一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持されたOCAから、一方の保護フィルムを剥離し、このOCAの一方の端部をステージに貼り付け、他方の端部を測定子に貼り付けた後、他方の保護フィルムを剥離した。周波数1Hzの条件で、温度を変えて、粘着性樹脂フィルムの貯蔵弾性率(E’)を測定し、得られた貯蔵弾性率曲線から、80℃での貯蔵弾性率(E’)を求めた。
【0079】
(透視歪)
ドイツ工業規格52305号に準拠して、透視歪を評価した。得られたガラス積層体を、ゼブラボードとスクリーンとの間に配置し、ガラス積層体を通してスクリーンに投影されたゼブラボードの縞模様を観察した。この縞模様を、ガラス積層体を通さずにスクリーンに直接に投影されたゼブラボードの縞模様と比較した。ガラス積層体の透過によって生じたゼブラボードの縞模様の変化として、定規を使って縞模様の線の間隔の変化を測定した。
ガラス積層体を通さずにスクリーンに直接に投影されたゼブラボードの縞模様の線の間隔に対して、ガラス積層体を通してスクリーンに投影されたゼブラボードの縞模様の線の間隔の変化が2割以上であるとき、「透視歪あり(不良、×)」と判定し、2割未満であるとき、「透視歪なし(良好、○)」と判定した。
【0080】
(外観)
光学顕微鏡を用いて、得られたガラス積層体を無機積層膜側の表面側から観察し、クラック等の外観不良の有無を評価した。下記基準にて評価した。
○(良):クラック等の外観不良あり。
×(不良):クラック等の外観不良なし。
【0081】
(シート抵抗値)
DELCOM社製の非接触抵抗測定器を用いて、無機積層膜を含む複数の無機層のシート抵抗値を測定した。
【0082】
(ヘイズ値)
スガ試験機(株)社製のヘイズメーター「HZ-2」を用いて、得られたガラス積層体のヘイズ値を測定した。光源としてC光源を用い、ガラス積層体の無機積層膜側の最表面を、測定光の入射面とした。
【0083】
(耐湿熱性)
ESPEC社製の環境試験機を用いて、得られたガラス積層体を、温度80℃、相対湿度95%の高温高湿環境下に静置する環境試験を実施した。初期(環境試験前)、670時間の環境試験後および1000時間の環境試験後について、透視歪、外観、シート抵抗値およびヘイズ値の評価を実施した。シート抵抗値については、下式で表される抵抗変化率を求めた。
[抵抗変化率]=[670時間または1000時間の環境試験後のシート抵抗値]/[初期のシート抵抗値]
いずれの例においても、初期(環境試験前)では、透視歪と外観の評価結果はすべて、「良好(○)」であった。
【0084】
[材料]
各例で用いた材料の略号は、以下の通りである。
<ガラス基材>
(G1)ソーダライムガラス板(縦10cm×横10cm、厚み2mm)。
【0085】
<基材樹脂フィルム>(縦5cm×横5cm)
(PC)100μm厚のポリカーボネート系樹脂フィルム、AGC社製「カーボグラス(登録商標) C110C」。
(PC:HC)上記(PC)の両面に、一分子中に複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリル系モノマーを含む硬化性組成物を用いて、アクリル系樹脂からなるハードコート層を形成したハードコート層付きポリカーボネート系樹脂フィルム、総厚み100μm厚。
(COP)100μm厚のシクロオレフィンポリマーフィルム、日本ゼオン社製「ゼオノアフィルム(登録商標) ZF-16」)。
(PI)50μm厚のポリイミドフィルム。
(PET)両面が易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、総厚み100μm厚、東レ社製「ルミラー(登録商標) U34」。
【0086】
<光学透明粘着フィルム(OCA)>(縦5cm×横5cm)
(OCA1)日東電工社製「LUCIACS(登録商標) CS9862」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:25μm、50μm、75μm、100μmまたは125μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA2)PANAC社製「パナクリーン(登録商標) PD-C3」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:50μmまたは75μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA3)PANAC社製「パナクリーン(登録商標) PD-R5」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:50μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA4)三菱ケミカル社「クリアフィット(登録商標) G6.0」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:50μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA5)リンテック社製「NCF-N632」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:50μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA6)3M社製、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:200μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
(OCA7)AGC社製「AD20」、アクリル系粘着性樹脂フィルム(厚み:500μm)が一対の剥離性を有する保護フィルムで挟持された構造。
【0087】
[例1~3、11、21、22、31~44、51~56]
表1-1および表1-2に示すように、各例において、基材樹脂フィルムを用意し、その一方の表面のほぼ全面に、スパッタリング法により、無機積層膜(透明電熱膜)を含む複数の無機層を成膜した。
例31~44、53~56では、複数の無機層の積層構造は、基材樹脂フィルム側から、下部金属化合物層、第1の誘電体層、導電体層、第2の誘電体層および上部金属化合物層の5層構造とした。その他の例では、下部金属化合物層および/または上部金属化合物層を除く、3層構造または4層構造とした。
【0088】
表中の各略号は、以下の通りである。
UC:下部金属化合物層、
OC:上部金属化合物層、
誘電体層1:第1の誘電体層、
誘電体層2:第2の誘電体層。
表に示す例において、表に不記載の条件は共通条件とした。
【0089】
スパッタ装置の成膜室内に、基材樹脂フィルムとスパッタリングターゲットとをセットし、この成膜室内に、Arガス、および必要に応じてN2ガスまたはO2ガスを導入しながら、スパッタリングを行った。なお、ガス組成は、膜組成に応じて調整した。
ターゲットの組成と導入ガスの種類との組合せを変えて複数回成膜を行うことで、複数の無機層を積層した。各層の厚みは、以下のように設計し、電力密度および成膜時間を調整することで、調整した。
【0090】
下部金属化合物層の厚み:20nm、
第1の誘電体層の厚み:45nm、
導電体層の厚み:8nm、
第2の誘電体層と上部金属化合物層との合計厚み:45nm。
各例における上部金属化合物層の厚みを、表1-1および表1-2に示す。
【0091】
<下部金属化合物層>
下部金属化合物層として、Al:SiNx膜またはSiO2膜を成膜した。
(Al:SiNx膜)
Alを10質量%含有するSiターゲットを用い、Ar/N2混合ガス存在下で、AlドープSiNx膜(Al:SiNx膜)を成膜した。
(SiO2膜)
Siターゲットを用い、Ar/O2混合ガス存在下で、SiO2膜を成膜した。
【0092】
<第1の誘電体層、第2の誘電体層>
第1の誘電体層および第2の誘電体層として、TZO膜を成膜した。
(TZO膜)TiO2を10質量%含有するZnOターゲットを用い、Ar/O2混合ガス存在下で、TiドープZnO膜(TZO膜)を成膜した。
【0093】
<導電体層>
導電体層として、Ag膜を成膜した。
(Ag膜)Agターゲットを用い、Ar存在下で、Ag膜を成膜した。
【0094】
<上部金属化合物層>
上部金属化合物層として、ITO膜、TTO膜またはGIT膜を成膜した。
(ITO膜)SnO2を10質量%含有するIn2O3ターゲットを用い、Ar/O2混合ガス存在下で、SnドープIn2O3膜(ITO膜)を成膜した。
(TTO膜)Ta2O5を15質量%含有するSnO2ターゲットを用い、Ar/O2混合ガス存在下でTaドープSnO2膜(TTO膜)を成膜した。
(GIT膜)Ga、InおよびSnの酸化物(GIT)からなるターゲットを用い、Ar/O2混合ガス存在下で、GIT膜を成膜した。
【0095】
各例において、表1-1および表1-2に示すOCAを用意した。
各例において、OCAの両面にある保護フィルムのうち一方の保護フィルムを剥離し、このOCAを、専用の装置を用いて、常温常圧下で、無機積層膜を含む複数の無機層上に貼合した。このようにして、保護フィルム/接着層/無機積層膜を含む複数の無機層/基材樹脂フィルムの積層構造を有する接着層付き機能性フィルムを得た。
【0096】
上記接着層付き機能性フィルムから保護フィルムを剥離し、この接着層付き機能性フィルムをガラス基材上に貼合した。得られた積層体をフィルム製の袋の中に入れ、真空脱気処理した後、袋から取り出した。
以上のようにして、
図1~
図5に示したような、基材樹脂フィルム/無機積層膜を含む複数の無機層/接着層/ガラス基材の積層構造を有するガラス積層体を得た。
【0097】
主な製造条件と評価結果を、表1-1、表1-2、表2-1および表2-2に示す。表1-1および表1-2中の接着層の厚みは、ガラス基材に貼合する前の接着層付き機能性フィルム中の接着層の厚み(貼合前の厚み)である。表2-1および表2-2中の接着層の厚みは、得られたガラス積層体中の接着層の厚み(貼合後の厚み)である。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
[結果のまとめ]
例1~3、11、21、22、31~44では、基材樹脂フィルムとして、非晶性樹脂フィルムまたはハードコート層付き非晶性樹脂フィルムを用いた。
これらの例では、上記基材樹脂フィルム上に、酸化亜鉛を含む2つの誘電体層と、この2つ誘電体層の間に挟持された、銀を含む導電体層とからなる無機積層膜を含む複数の無機層を成膜した。
これらの例では、上記複数の無機層の上に、80℃における貯蔵弾性率(E’)が7~40kPaである光学透明粘着層からなる接着層を積層した。
これらの例で得られたガラス積層体はいずれも、670時間の高温高湿環境試験を実施しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜を含む複数の無機層のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加が、効果的に抑制された。
例11、22、31~44で得られたガラス積層体は、1000時間の高温高湿環境試験を実施しても、透視歪の発生、クラック等の外観不良の発生、無機積層膜を含む複数の無機層のシート抵抗値の増加およびヘイズ値の増加が効果的に抑制された。
無機積層膜を下部金属化合物層および上部金属化合物層で挟持した例31~44では、優良な結果が得られた。
【0103】
接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)が7kPa未満であった例52、55で得られたガラス積層体は、670時間の高温高湿環境試験を実施した後、透視歪が発生した。
接着層の80℃における貯蔵弾性率(E’)が40kPa以上であった51、53、54、56で得られたガラス積層体は、670時間の高温高湿環境試験を実施した後、クラック等の外観不良が発生した。例51で得られたガラス積層体は、670時間の高温高湿環境試験を実施した後、シート抵抗値の増加が見られた。例56で得られたガラス積層体は、670時間の高温高湿環境試験を実施した後、ヘイズ値の増加が見られた。
【0104】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
10、10A、10B:基材樹脂フィルム、11:非晶性樹脂フィルム、12:ハードコート層、20:無機積層膜、21:誘電体層、22:導電体層、31:下部金属化合物層、32:上部金属化合物層、40:接着層、AF、AF1~AF5:接着層付き機能性フィルム、F、F1~F5:機能性フィルム、G:ガラス基材、GL1:ガラス積層体。