(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070075
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】接着性構造物及びその製造方法、転写用接着層、並びに電子部品
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20240515BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240515BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
C09J7/30
H01L21/52 E
H01L21/52 C
C09J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180452
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】八代 徹
(72)【発明者】
【氏名】松本 真二
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F047
【Fターム(参考)】
4J004AA01
4J004AA06
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4J040PB03
5F047BA14
5F047BA15
5F047BA34
5F047BA39
5F047BA52
5F047BB11
5F047BB16
(57)【要約】
【課題】歪みを低減することができる接着性構造物を提供すること。
【解決手段】接触対象物と接着可能な接着部と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部とを有し、-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満である接着性構造物である。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触対象物と接着可能な接着部と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部とを有し、
-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満であることを特徴とする接着性構造物。
【請求項2】
前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が5GPa以下である、請求項1に記載の接着性構造物。
【請求項3】
前記接着性構造物が層状であり、
前記低弾性部が、前記接着部の平面方向の少なくとも一部の端部に接するようにパターニング形成されてなる、請求項1から2のいずれかに記載の接着性構造物。
【請求項4】
ダイと、ダイ又はプリント配線板との間の接着に用いられる、請求項3に記載の接着性構造物。
【請求項5】
前記接着部のガラス転移温度(Tg)が50℃~200℃である、請求項1に記載の接着性構造物。
【請求項6】
前記接着部の硬化温度が100℃~260℃である、請求項1に記載の接着性構造物。
【請求項7】
前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が0.5GPa以上である、請求項1に記載の接着性構造物。
【請求項8】
前記接着部及び前記低弾性部の少なくともいずれかが、インクジェット法により形成された、請求項1に記載の接着性構造物。
【請求項9】
接触対象物と接着可能な接着部を形成するための接着部形成用インクをノズルから吐出して前記接着部を形成する接着部形成工程と、
前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部を形成するための低弾性部形成用インクをノズルから吐出して、前記接着部と接するように前記低弾性部をパターニング形成する低弾性部形成工程と、
を含み、
-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満であることを特徴とする接着性構造物の製造方法。
【請求項10】
前記接着部形成用インク及び前記低弾性部形成用インクの少なくともいずれかを、インクジェット法により吐出する、請求項9に記載の接着性構造物の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の接着性構造物を仮支持体上に層状に有することを特徴とする転写用接着層。
【請求項12】
請求項1に記載の接着性構造物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性構造物及びその製造方法、転写用接着層、並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板では高集積化及び高速化に伴い、ICチップ等の発熱性部品による温度上昇が増加し、実装回路の接着及び接続に対する耐熱信頼性が要求されている。接着及び接続信頼性を低下させる要因としては、ダイ(半導体)と該ダイに接着する各種材料との線熱膨張係数差から生じる熱応力が挙げられる。具体的には、ダイの線熱膨張係数が約3ppm/K程度であることに対し、実装基板では15ppm/K以上と大きいことから、リフローなどの作製プロセス工程及び駆動発熱等によるヒートサイクルにより熱応力が発生することで、ダイの接着不要及び接続不良が発生しやすい。
【0003】
従来、ダイとダイ及びダイと基板を接着するダイボンディング部材としては、溶液系のダイボンディングペースト、シート状のダイアタッチフィルムが用いられてきた。しかしながら、従来のダイボンディング部材は単層構造であるため、ダイボンディング部材自体の熱による膨張収縮や、ダイ及び基板の少なくともいずれかの変形によるダイボンディング部材の歪みから発生する熱応力が、ダイボンディング部材自体、ダイ、及び基板へ直接的に働いているという問題があった。
【0004】
このような熱応力の問題に対して、簡単な手法で、低温かつ短時間にインナーリードを固定することができ、また、熱歪の少ない、高信頼性のリードフレームを製造することを目的として、打ち抜き、貼り付け金型を用いずにリードフレームのインナーリードを固定する工程において、剥離性の担持基材上に、紫外線硬化性樹脂組成物よりなるBステージ状に硬化されたパターン状接着剤層を担持させたリードフレーム固定用接着シートを使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歪みを低減することができる接着性構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の接着性構造物は、接触対象物と接着可能な接着部と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部とを有し、-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、歪みを低減することができる接着性構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、従来の接着性構造物を示す厚み方向の断面模式図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aの領域Aの拡大図であり、シミュレーションソフトウェアを用いて応力分布を解析した結果を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の接着性構造物の実施形態の一例を示す厚み方向の断面模式図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの領域Bの拡大図であり、シミュレーションソフトウェアを用いて応力分布を解析した結果を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、接着性構造物の比較実施形態の一例を示す厚み方向の断面模式図の一部を拡大した図であり、シミュレーションソフトウェアを用いて応力分布を解析した結果を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の接着性構造物の実施形態の一例を示す平面方向の上面模式図である。
【
図4A】
図4Aは、従来の接着性構造物を示す平面方向の上面模式図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例1~9及び比較例1のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の-55℃における歪みと応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が歪みを示す。
【
図5B】
図5Bは、比較例1~5のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の-55℃における歪みと応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が歪みを示す。
【
図5C】
図5Cは、実施例1~9及び比較例1のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の25℃における歪みと応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が歪みを示す。
【
図5D】
図5Dは、比較例1~5のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の25℃における歪みと応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が歪みを示す。
【
図6A】
図6Aは、実施例1~9及び比較例1のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の熱条件を変化させた場合の熱条件と応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が熱条件(℃)を示す。
【
図6B】
図6Bは、比較例1~5のシミュレーション結果に基づく、各接着性構造物の熱条件を変化させた場合の熱条件と応力との関係を示すグラフである。縦軸が応力(MPa)を示し、横軸が熱条件(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(接着性構造物及び接着性構造物の製造方法)
本発明の接着性構造物は、接触対象物と接着可能な接着部と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部とを有し、必要に応じて熱伝導部を有していてもよく、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記接着性構造物は、-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満である。
本発明の接着性構造物は、本発明の接着性構造物の製造方法により好適に製造される。
【0010】
本発明の接着性構造物の製造方法は、接触対象物と接着可能な接着部を形成するための接着部形成用インクをノズルから吐出して前記接着部を形成する接着部形成工程と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部を形成するための低弾性部形成用インクをノズルから吐出して、前記接着部に接するように前記低弾性部をパターニング形成する低弾性部形成工程と、を含み、必要に応じて、熱伝導部を形成するための熱伝導部形成用インクをノズルから吐出して前記接着性構造物の厚み方向に連続した前記熱伝導部を形成する熱伝導部形成工程を含んでいてもよく、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の接着性構造物の製造方法で製造された接着性構造物は、-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満である。
【0011】
本発明の接着性構造物の製造方法は、前記接着部と前記低弾性部とを別々のインクで形成することで、インクの材料配合選択の範囲を広げることができると共に、溶媒を添加することなくインクの低粘度化が可能となる。インクの低粘度化により接着性構造物の薄膜化塗工をすることができ、充填性能が向上し、バブルやボイドの発生を低減することができる。
【0012】
特に、前記接着部及び前記低弾性部を、インクジェット法を用いて塗工することにより、高精度で任意のパターニング形成が可能になると共に薄膜で均一性に優れた接着性構造物を形成することができる点で好ましい。また、低粘度インクの適用により、ワイヤーボンディング、フリップチップ等の配線部において優れた充填性を有しながらパターニング塗工することが可能となり、接着性構造物の剥離起点となるバブルやボイドの発生を抑制することができる点でも有利である。
【0013】
以下に、本発明の接着性構造物及び接着性構造物の製造方法について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、又は削除などの当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用及び効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
[従来の接着性構造物]
まず、従来の接着性構造物の応力分布について説明する。
図1Aは、従来の接着性構造物を示す厚み方向の断面模式図であり、一態様として、接着性構造物2が、基板1とダイ3とを接着する態様を示している。
図1Aに示すように、従来の接着性構造物2は、単一組成の材料からなる単層構造である。
この従来の接着性構造物2の応力分布のシミュレーション結果を
図1Bに示す。
図1Bは、
図1Aの点線の囲みで示す領域Aの拡大図であり、構造解析及び伝熱解析のためのシミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2、ANSYS社製)を用いて応力分布を解析した結果を示す図である。なお、
図1Bのシミュレーションの条件の詳細は、比較例1に示す通りである。
図1Bより、接着性構造物2の熱変化の歪みによる熱応力が、そのまま接着性構造物2自体、基板1、及びダイ3への負荷として働いている。また、
図1Bに示すように、従来の接着性構造物2の熱応力の最大位置は、矢印で示す、接着性構造物2の平面方向(厚み方向に直行する方向)の端部かつ厚み方向の端部(即ち、基板1又はダイ3、及び空気に接する領域)である。このように、従来の接着性構造物2には、歪みから発生する熱応力が、接着性構造物2自体や接触対象物(基板1及びダイ3)に直接的に働いている。
【0015】
前記シミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2)では、一つの部材を細かい要素に分けて計算することができる。この要素を「メッシュ」と呼び、
図1Bでは、接着性構造物2内の格子状で示される単位がメッシュである。メッシュが細かい程、正確な値が得られる。
【0016】
また、前記シミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2)では、前記接着性構造物の歪みを解析することもできる。
従来の接着性構造物2の-55℃で測定した歪みは、比較例1(
図5A及び
図5B)に示すように0.110であり、25℃で測定した歪みは、比較例1(
図5C及び
図5D)に示すように0.114である。
【0017】
また、特許文献1に記載の従来のリードフレーム固定用接着シートは、パターン状接着剤層を担持するものであるが、接着剤層を構成する材料は単一のものであるため、接着剤層自体や接触対象物に熱応力が直接的に働いているという問題は解消できていない。
【0018】
このような従来技術に対して、本発明の接着性構造物は、前記接着部及び前記低弾性部の2種の材料でパターニング形成し、前記接着部及び前記低弾性部の弾力及び膨張収縮の熱特性バランスを調整することで、前記接着部と前記低弾性部との界面の熱変化による歪みを0.11未満と小さくし、前記接着性構造物自体及び前記接触対象物における歪みを直接的に低減することができ、好ましくは、これにより前記接着性構造物自体及び前記接触対象物における熱応力を低減することができるものである。
【0019】
[実施形態1:接着性構造物]
本発明の接着性構造物の応力分布について説明する。
図2Aは、本発明の接着性構造物の実施形態の一例を示す厚み方向の断面模式図であり、接着性構造物102が、基板1とダイ3とを接着する態様を示している。
図2Aの実施形態では、接着性構造物102は、平面方向(厚み方向に直行する方向)の中心部に接着部103を有し、平面方向の外周端部(接着部103の外周)に低弾性部104を有する。
この接着性構造物102の応力分布のシミュレーション結果を
図2Bに示す。
図2Bは、
図2Aの点線の囲みで示す領域Bの拡大図であり、前記シミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2、ANSYS社製)を用いて応力分布を解析した結果を示す図である。なお、
図2Bのシミュレーションの条件の詳細は、実施例3に示す通りである。
図2Bより、接着性構造物102の熱変化の歪みによる熱応力が、
図1Bに示す従来の接着性構造物2と比較して低減している。また、
図2Bに示すように、接着性構造物102の熱応力の最大位置は、矢印で示す、接着性構造物102の接着部103と低弾性部104との界面、かつ、接着部103の厚み方向の端部(即ち、ダイ3及び低弾性部104に接する領域)であるが、後述する実施例3で示すように、その最大応力は、
図1Bに示す従来の接着性構造物2(比較例1)の最大応力と比較して低減している。このように、接着性構造物102では、接着性構造物102自体や接触対象物(基板1及びダイ3)に負荷される歪み及び熱応力が低減する。
【0020】
また、前記シミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2)では解析した接着性構造物102の-55℃で測定した歪みは、実施例3(
図5A)に示すように0.07であり、25℃で測定した歪みは、実施例3(
図5C)に示すように0.09である。
【0021】
このように、前記接着性構造物の-55℃で測定した歪みは、0.11未満であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10以下が好ましい。
また、前記接着性構造物の25℃で測定した歪みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.11未満が好ましく、0.10以下がより好ましい。
-55℃における前記接着性構造物の歪みは、ヒートサイクル試験に基づく温度条件で測定したものである。ヒートサイクル試験の規格としては、ED-4701/100、JESD22-A104E、IPC-9701などが挙げられる。
また、25℃における前記接着性構造物の歪みは、保管温度及び使用温度(常温)を想定して測定したものである。
【0022】
[比較実施形態1:接着性構造物]
一方、接着性構造物が接着部及び低弾性部を有していたとしても、前記接着部及び前記低弾性部の弾力及び膨張収縮の熱特性バランスが取れず、-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11以上となる場合は、前記低弾性部が膨張し、歪みから発生する熱応力が、接着性構造物自体や接触対象物(基板及びダイ)に直接的に働いてしまう。
図2Aの実施形態において、接着性構造物102を、接着部及び低弾性部の熱特性バランスが異なる、接着部203及び低弾性部204を有する接着性構造物202に変更した場合の実施形態について説明する。接着性構造物202の応力分布のシミュレーション結果を
図2Cに示す。
図2Cは、シミュレーションの条件の詳細は、比較例2に示す通りである。
図2Cより、接着性構造物202の熱変化の歪みによる熱応力が、
図2Bに示す接着性構造物102と比較して増加している。また、
図2Cに示すように、接着性構造物202の熱応力の最大位置は、矢印で示す、接着性構造物202の接着部203と低弾性部204との界面かつ接着部203の厚み方向の端部(即ち、ダイ3及び低弾性部204に接する領域)であるが、後述する比較例2で示すように、その最大応力は、
図2Bに示す従来の接着性構造物2の最大応力と比較して増加している(
図6B参照)。このように、接着性構造物202は、接着部203及び低弾性部204を有しているが、これらの熱特性バランスが適当でないため、歪みから発生する熱応力が、接着性構造物202自体や接触対象物(基板1及びダイ3)に直接的に働いている。
【0023】
なお、前記解析ツールのシミュレーションソフトウェア(ANSYS Mechanical 19.2、ANSYS社製)では、前記接着性構造物及び前記接触対象物の物性(ガラス転移温度(Tg)、硬化温度、線熱膨張係数(CTE)、ヤング率、ポアソン比等)、サイズなどのパラメータを入力することで、前記接着部及び前記低弾性部を有する前記接着性構造物における歪み及び熱応力を算出することができる。
【0024】
前記接着性構造物が、例えば、不透明なダイとプリント配線板との接着層として使用される場合、該接着層が密閉されているため、可視化することができない。しかし、前記接着層の歪みや熱応力を測定するために、該接着層内にプローブ等を挿入すると、前記接着層の構造が変化してしまい、正確な歪みや熱応力を測定することができない。また、ダイ又はプリント配線板を剥離して前記接着層を露出させたとしても、該接着層の構造が変化してしまい、更に該接着層自体を破壊してしまうため、正確な歪みや熱応力を測定することができない。このように、前記接着性構造物を実装した電子部品等の製品で歪み及び熱応力を直接的に測定することは困難である。したがって、推定値ではあるが、シミュレーションによる歪み及び熱応力の算出結果が最も信頼できる評価方法である。
【0025】
前記接着性構造物において、前記接着部は、少なくとも接触対象物との接着面と接着するようにパターニング形成されることが好ましく、高温時にも接着機能を保持する機能を有することが好ましい。また、前記低弾性部は、伸縮する機能を有し、歪みから発生する熱応力を緩和するようにパターニング形成されることが好ましく、前記接着部の平面方向の少なくとも一部の端部に接するようにパターニング形成されることがより好ましい。したがって、前記接着性構造物は、歪みを低減することができ、好ましくは熱応力を低減することができ、これにより高温時の接着性と応力緩和特性とを両立した耐熱性に優れるものである。
【0026】
本明細書において、「パターニング形成」とは、前記低弾性部に周囲を囲まれた前記接着部の内部には前記低弾性部が混在していないようなパターンを形成することを意味する。即ち、前記接着性構造物の平面方向(厚み方向と略直行する方向)において、前記接着部と前記低弾性部の疎密分布を形成すること;前記接着性構造物において、前記接着部及び前記低弾性部を所望形状に意図的(人工的)に形成したことの少なくともいずれかを意味する。したがって、前記「パターニング」には、任意形状に意図せず(自然発生的に)形成される海島構造(特開2011-084743号公報参照)は含まれない。
これは前記接着性構造物の製造方法に起因するものであり、前記パターニングは、前記接着性構造物の製造方法により実現可能である。
なお、「低弾性部に周囲を囲まれた接着部」とは、接着部が前記接着性構造物の表面に露出する態様の場合は、該接着性構造物の厚み方向の露出面における前記接着部が前記低弾性部に囲まれてなることを意味する。したがって、前記接着部が前記接着性構造物の平面方向の表面(接触対象物との接着面)に露出する場合、該露出面は前記低弾性部に接している(囲まれている)必要はない。
【0027】
前記パターニングの方法としては、特に制限はなく、前記接着部をパターニング形成した隙間に前記低弾性部を形成する方法、前記低弾性部をパターニング形成した隙間に前記接着部を形成する方法のいずれであってもよい。
また、前記接着性構造物が、前記接着部及び前記低弾性部に加え、その他の部材(例えば、熱伝導部など)を有する場合、前記パターニングの方法としては、前記接着部をパターニング形成した隙間に前記低弾性部及び前記その他の部材を形成する方法、前記低弾性部及び前記その他の部材をパターニング形成した隙間に前記接着部を形成する方法などが挙げられる。前記低弾性部と、前記その他の部材のパターニングの順序としても、特に制限はない。したがって、前記接着性構造物の製造方法において、接着部形成工程、低弾性部形成工程、及び熱伝導部形成工程の順序としては特に制限はない。また、これらの各工程は、それぞれ独立して行われてもよく、同時に行われてもよい。
【0028】
前記接着部は、前記接着部を形成するための接着部形成用インクをノズルから吐出して形成されるが、前記接着部形成用インクの着弾液滴を重ねて厚膜化してもよい。
この場合、前記接着部形成用インク、前記低弾性部を形成するための低弾性部形成用インク、又は後述する熱伝導部を形成するための熱伝導部形成用インクを単独で積層してもよいし、前記接着部形成用インク、前記低弾性部形成用インク、及び前記熱伝導部形成用インクから選択される2種以上のインクを交互に着弾させて積層してもよい。
【0029】
前記接着部及び前記低弾性部、更に必要に応じて、前記熱伝導部をパターン形成する塗工方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ノズルコート法、ディスペンスコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法などが挙げられる。これらの中でも、印刷版を用いず、非接触で塗膜形成が可能な、スプレーコート法、ディスペンスコート法、インクジェット法が好ましい。これらの塗工方法により、パターンに合わせたオンデマンドな塗工が可能となる。高精細なパターン形成が可能である点において、特にインクジェット法が好ましく、前記接着部及び前記低弾性部の少なくともいずれかが、インクジェット法により形成されることがより好ましい。
【0030】
前記接着部及び前記低弾性部、更に必要に応じて、前記熱伝導部のパターン精度を向上するためには、少なくとも前記接着部、前記低弾性部、又は熱伝導部を光硬化させながらパターン形成する方法を用いることが好ましい。即ち、前述の方法により、前記接着部形成用インク、前記低弾性部形成用インク、又は熱伝導部形成用インクを用いてパターン形成した液滴を経時で液滴が広がる前に光硬化することで、パターン形成精度が向上する。光硬化では半硬化状態とする方法、及び光硬化させた液滴を積層し、前記接触対象物との接着面となる前記接着性構造物の最表面の液滴のみ光硬化しない方法の少なくともいずれかを採用することで、貼合せ時の接着面(前記最表面の液滴)の接着性を維持することができる。
【0031】
特に、UV LEDアレイをインクジェットヘッドに搭載したインクジェット印刷システムにより、ジェッティングした着弾液滴をUV LEDで即時硬化させることにより高精度なパターン形成が可能となる。
【0032】
インクジェット法、ディスペンスコート法、又はスプレーコート法では、印刷版を用いずにパターニング形成が可能であり、前記接着部を前記接触対象物に直接塗工できるので、予め作製した接着性構造物をカットして貼り付ける方法に比べ、該接着性構造物の薄膜化形成が可能となるとともに生産性が高い。インクジェット法は、微細パターン形成及び膜厚均一性に優れるため、特に好ましい塗工方法である。
【0033】
前記接着性構造物における前記接着部と前記低弾性部とのパターン比率及び配置を変化させることで、接触対象物に合わせて要求される接着性及び歪み緩和性能、好ましくは熱応力緩和性能を調整することができる。即ち、一般的に接着性構造物の歪みは、厚み方向及び平面方向に均一ではないため、前記接着部と前記低弾性部とをパターニング形成することで、歪み緩和性能が向上する。特に、接触対象物(例えば、ダイや基板)の熱線膨張率差による歪み、及びこれにより生じる熱応力は、
図1Bに示すように従来の接着性構造物の平面方向(前記接触対象物との接着面を有する方向)の外周端部に集中しやすい。そのため、本発明の接着性構造物の平面方向の外周端部では、前記接着部の表面積に対する前記低弾性部の表面積の比表面積(低弾性部/接着部)が大きくなるようにパターニングされることが好ましい。したがって、前記低弾性部は、前記接着性構造物の平面方向の外周端部の少なくとも一部に配することが好ましく、前記接着性構造物の平面方向の外周端部の全領域に配することがより好ましい。
【0034】
前記接着性構造物の形状としては、特に制限はなく、前記接触対象物の形状などに応じて適宜選択することができる。
【0035】
また、前記接着性構造物の構造としては、前記接着部と、前記低弾性部とがパターニング形成されている限り、特に制限はなく、前記接触対象物の構造などに応じて、適宜選択することができ、層状であってもよく、ブロック状であってもよい。
【0036】
なお、前記接着性構造物の形状及び構造(前記接着部及び前記低弾性部の配置など)は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いた断面方向及び平面方向のマッピング解析などにより確認することができる。
【0037】
本明細書において「層状」とは、厚みが1,000μm以下の場合を示し、ブロック状とは、厚みが1,000μm超の場合を示す。
これらの形状は、目的とする使用態様に応じて適宜選択することができる。例えば、薄膜化が要求される、ダイと、ダイに接着する各種材料との接着には、層状の接着性構造物を好適に使用することができる。
【0038】
前記接着性構造物が層状の場合、その厚みとしては、1,000μm以下であるが、1μm~500μmが好ましく、薄型化への要求及び熱抵抗を下げる観点から、1μm~50μmがより好ましい。
前記接着性構造物の厚みは、触針計(Alpha-Step D-500、KLA-Tenchore社製)、光学反射分光式測定器(F50 フィルメトリクス社製)などで測定することができる。なお、本明細書において「厚み」とは、前記触針計で、任意の3箇所について測定し、平均値を算出した「平均厚み」を意味する。
【0039】
<接着部及び接着部形成工程>
前記接着部は、接触対象物と接着可能な部材である。
前記接着部は、前記低弾性部、更に必要に応じて前記熱伝導部とパターニング形成されてなるものであり、前記接着部の内部には前記低弾性部が混在していない(海島構造ではない)。
前記接着部は、前記接着部形成工程により好適に形成される。
【0040】
前記接着部形成工程は、接触対象物と接着可能な接着部を形成するための接着部形成用インクをノズルから吐出して前記接着部を形成する工程である。
【0041】
前記接触対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ダイを含む発熱性部品、冷却部品、基板、電極などが挙げられる。
【0042】
前記接着部は、前記接触対象物と接着可能とすることができる限り、前記接着性構造物の平面方向における片面のみに配されていてもよく、両面に配されていてもよい。
前記接着部は、前記接触対象物との接着面において、前記低弾性部が形成されていない部分にパターニングされる。また、前記接着性構造物が前記熱伝導部を有する場合は、前記接着部は、前記接触対象物との接着面において、前記低弾性部及び前記熱伝導部が形成されていない部分にパターニングされる。また、前記接着性構造物がワイヤーボンディング、フリップチップなどの配線部を有する場合は、前記配線部を形成する領域に前記接着部を形成しない構成としてもよい。
【0043】
前記接着性構造物における前記接着部の平面方向の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、接着力を得るためには、前記接着部と前記低弾性部からなる接着性構造物の厚み以上であることが好ましい。前記接着性構造物における前記接着部の平面方向の大きさとしては、10μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。前記接着性構造物における前記接着部の平面方向の大きさが10μm以上であると、接着力が得られやすい。また、前記接着性構造物における前記接着部の平面方向の大きさは、応力緩和特性の点から、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましい。
【0044】
前記接着性構造物の歪みを低下させ、更に熱応力を低減するためには、前記接着部のヤング率が重要である。
前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率としては、前記低弾性部より大きい限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、7GPa以下であることが好ましく、5GPa以下であることがより好ましく、3GPa以下であることが更に好ましい。前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が7GPa以下であると、前記接着性構造物の歪みを好適に低減することができ、5GPa以下であると、前記接着性構造物の歪みの低下に加えて、熱応力を好適に低減することができ、3GPa以下であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力を更に好適に低減することができる。
前記接着部のヤング率は、例えば、微小硬度計(FISCHERSCOPE(登録商標)HM2000、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)で測定することができる。
【0045】
前記接着部のガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、製造の容易性の点から、50℃~200℃が好ましい。また、前記接着部の歪みの低減の点から、前記接着部のガラス転移温度(Tg)は低いほど好ましく、50℃~150℃がより好ましい。
前記接着部のガラス転移温度(Tg)は、例えば、レオメーター(ARES-G2、TAインスツルメント製)で測定することができる。
【0046】
前記接着部の線熱膨張係数(CTE)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ガラス転移温度(Tg)以下の温度における線熱膨張係数(CTE)が、10×10-5/K以下が好ましく、7×10-5/K以下がより好ましい。前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度における線熱膨張係数(CTE)が、7×10-5/K以下であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力を好適に低減することができる。
前記接着部の線熱膨張係数(CTE)は、例えば、TMA(Thermomechanical Analysis)により測定することができる。
【0047】
前記接着部のポアソン比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その値が小さい程、前記接着性構造物の変形が小さくなり、歪み及び熱応力を好適に低減することができる。
【0048】
前記接着部を形成する材料(以下、「接着材料」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、機械的接着強度を得る観点から、接着機能を有する樹脂を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の材料を含有する。
【0049】
<<樹脂>>
前記接着機能を有する樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
特に、前記接着部と、前記接触対象物との接着面における光透過性が、前記接触対象物を通した光硬化に適していない場合には、前記接着部は少なくとも熱硬化性樹脂を含有することが好ましい。
なお、前記接着部及び前記低弾性部の少なくともいずれかが、光硬化性樹脂を含有することが好ましい。
【0050】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率を7GPa以下とすることができるものが好ましい。このような樹脂は、公知の樹脂材料の中から適宜選択し、樹脂材料を1種又は2種以上用いて製造することができ、また市販の樹脂を使用してもよい。
【0051】
前記樹脂の具体例としては、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エステル系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アミド系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、メラミン樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂が、前記接着部の歪みを低減することができる点で好ましい。
【0052】
前記接着部は、前記樹脂のモノマー成分を含有する接着部形成用インクを用い、前記接触対象物に該接着部形成用インクを塗布し、重合反応させることにより形成することができる。
【0053】
この場合、前記接着部の硬化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100℃~260℃が好ましく、100℃~120℃がより好ましい。前記接着部の硬化温度が100℃~260℃の範囲内であると、前記接着性構造物の歪みを好適に低減することができる。
【0054】
<<<接着部形成用インク>>>
前記接着部形成用インクは、前記樹脂を含有していてもよく、前記樹脂のモノマー成分と、重合開始剤とを含有していてもよく、更に必要に応じてその他の成分を含有していてもよいが、前記樹脂のモノマー成分と、重合開始剤とを含有することが、パターニング形成を良好に行うことができる点で好ましい。
【0055】
-モノマー成分-
前記樹脂のモノマー成分としては、特に制限はなく、使用する樹脂の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシモノマー、(メタ)アクリレートモノマー、オキセタンモノマー、ウレタンモノマー、シリコーンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記接着部形成用インクにおける前記モノマー成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの全質量に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0057】
-重合開始剤-
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
--光カチオン重合開始剤--
前記光カチオン重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スルホニウムイオンやヨードニウムイオンをカチオン部とするオニウム塩等の光酸発生剤などが挙げられる。これらの中でも、前記光カチオン重合開始剤としては、金属部への腐食性が少ないアニオン部を有する化合物が好ましい。
前記光カチオン重合開始剤の具体例としては、アニオン部(発生酸)がB(C6F5)4、PF3(C2F5)3などの化合物が挙げられる。
【0059】
前記光カチオン硬化開始剤は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
前記光カチオン硬化開始剤の市販品としては、例えば、CPI(登録商標)-110P、CPI(登録商標)-110A、CPI(登録商標)-210S、CPI(登録商標)-110B、CPI(登録商標)-310B、CPI(登録商標)-410B、CPI(登録商標)-310FG、IK-1FG(以上、サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。
【0060】
--光ラジカル重合開始剤--
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルフェノン化合物、アシルフォスシンオキサイド化合物、オキシフェニル酢酸エステル化合物などが挙げられる。
【0061】
前記光ラジカル重合開始剤は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
前記光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、Omnirad 184(former Irgacure 184)、Omnirad 651(former Irgacure 651)、Omnirad 1173(former Irgacure 1173)、Omnirad 2959(former Irgacure 2959)、Omnirad 369(former Irgacure 369)、Omnirad 907(former Irgacure 907)、Omnirad BMS、Omnirad DETX、Omnirad TPO H(former Irgacure TPO)、Omnirad 819(former Irgacure 819)(以上、IGM Resins B.V.製)、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure OXE03、Irgacure OXE04(以上、BASFジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0062】
--熱重合開始剤--
前記熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スルホニウムイオンやヨードニウムイオンをカチオン部とするオニウム塩等の光酸発生剤などが挙げられる。
【0063】
前記熱重合開始剤は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
前記熱重合開始剤の市販品としては、例えば、サンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L、サンエイドSI-110、LサンエイドSI-150(以上、三新化学工業株式会社製)、TA-100、TA-100FG、IK-1、IK-1FG(サンアプロ株式会社製)Omnicat 250(former Irgacure 250)、Omnicat 270(former Irgacure 270)(以上、IGM Resins B.V.社製)などが挙げられる。
【0064】
前記接着部形成用インクにおける前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの全質量に対して、0.1質量%~10質量%が好ましく、0.2質量%~2質量%がより好ましい。前記重合開始剤の含有量が0.1質量%~10質量%であると、適性に硬化反応を完了させることができ、未反応分が反応性不純物として残量しにくい。
【0065】
-その他の成分-
前記接着部形成用インクにおける前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機粒子、樹脂又は樹脂粒子、密着改良剤、溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
--無機粒子--
前記無機粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セラミック材料、磁性体粒子などが挙げられる。
前記セラミック材料としては、例えば、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。前記セラミック材料は、樹脂材料に比べて線熱膨張係数が小さく、軟化温度が高いため、接着部の線熱膨張係数を低減するとともに、高温状態での膜強度を向上する効果が得られる。
前記磁性体粒子としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などが挙げられる。前記磁性体粒子は、電磁波をシールドする機能を付与することができる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記無機粒子は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
前記無機粒子の市販品としては、例えば、AEROSIL(登録商標) OX50、AEROSIL(登録商標) 50、AEROSIL(登録商標) 90G、AEROSIL(登録商標) 130、AEROSIL(登録商標) 150、AEROSIL(登録商標) 200、AEROSIL(登録商標) 300、AEROSIL(登録商標) 380、AEROSIL(登録商標) RM50、AEROSIL(登録商標) R711、AEROSIL(登録商標) R7200、AEROXIDE(登録商標) P25、AEROXIDE(登録商標) P90 AluC(以上、日本アエロジル株式会社製)、シーホスター(登録商標)KE-S10、シーホスター(登録商標)S30、シーホスター(登録商標)S50(以上、日本触媒株式会社製)などが挙げられる。
【0068】
前記接着部形成用インクにおける前記無機粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの全質量に対して、10質量%~70質量%が好ましく、10質量%~50質量%がより好ましい。前記無機粒子の含有量が10質量%以上であると、線熱膨張及び膜強度の効果を得やすく、50質量%以下であると接着部が脆くなりにくく、インク粘度が増加しにくいため点で好ましい。
【0069】
--樹脂又は樹脂粒子--
前記樹脂又は樹脂粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低弾性及び柔軟性の少なくともいずれかの性質を有する直鎖状のポリマーを有する材料が好ましく、例えば、スチレンブタジエン系樹脂、アクリルニトリルブタジエン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。更に、アクリル系共重合体内部にゴム状ポリマーを配したコアシェル型の多層構造のポリマー粒子でもよい。前記樹脂又は樹脂粒子は、熱応力を緩和するためにガラス転移温度(Tg)が低く、Tg30℃以下程度と、室温と同程度である点で好ましい。
【0070】
ここで、前記樹脂又は樹脂粒子が「低弾性」であるとは、例えば、弾性率が200MPa以下の材料を意味する。
また、前記樹脂又は樹脂粒子が「柔軟性」を有るとは、例えば、弾性変形仕事率が70%以上の材料を意味する。
前記樹脂及び樹脂粒子の弾性変形仕事率は、例えば、微小硬度計(例えば、FISCHERSCOPE(登録商標)HM2000、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)で押し込み弾性率を測定することにより確認することができる。
【0071】
低弾性な前記樹脂材料は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
低弾性な前記樹脂材料の市販品としては、例えば、アルフォン(登録商標)US-1000、アルフォン(登録商標)UH-2000、アルフォン(登録商標)UC-3000、アルフォン(登録商標)UG-4000、アルフォン(登録商標)UF-5000、アルフォン(登録商標)US-600などが挙げられる。
【0072】
低弾性な前記樹脂粒子は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
低弾性な前記樹脂粒子の市販品としては、例えば、カネエース(登録商標)MX-150、カネエース(登録商標)MX-553(以上、株式会社カネカ製)、ファインスフェア(登録商標)MG-155、ファインスフェア(登録商標)MG-351、ファインスフェア(登録商標)MG-451、ファインスフェア(登録商標)MG-651、ファインスフェア(登録商標)PZP-1003、ファインスフェア(登録商標)BGK-001(以上、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)、メタブレン(登録商標)C-223A、メタブレン(登録商標)C-215AC-201A、メタブレン(登録商標)C-140A、メタブレン(登録商標)E-860A、メタブレン(登録商標)E-870A、メタブレン(登録商標)E-875A、メタブレン(登録商標)W-300A、メタブレン(登録商標)W-450A、メタブレン(登録商標)W-600A、メタブレン(登録商標)W-377、メタブレン(登録商標)S-2002、メタブレン(登録商標)S-2006、メタブレン(登録商標)S-2501、メタブレン(登録商標)S-2030、メタブレン(登録商標)S-2100、メタブレン(登録商標)S-2200、メタブレン(登録商標)SRK200A、メタブレン(登録商標)SX-006、メタブレン(登録商標)SX-00(以上、三菱ケミカル株式会社製)、ゼフィアック F351、スタフィロイド AC-3355、AC-3816N、AC-3832SD、AC-4030、AC-3388(以上、アイカ工業株式会社製)などが挙げられる。
【0073】
前記接着部形成用インクにおける前記樹脂又は樹脂粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの全質量に対して、1質量%~50質量%が好ましく、3質量%~20質量%がより好ましい。前記樹脂又は樹脂粒子の含有量が1質量%以上であると、更に熱応力を好適に緩和することができる。また、前記樹脂又は樹脂粒子の含有量が50質量%以下であると、前記接着部形成用インクの粘度の増加を抑制できるためインクジェット法に好適に用いることができ、50質量%以下であると、高温時においてバブルやボイドの原因となりにくい。
【0074】
--密着改良剤--
前記密着改良剤は、有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に2種以上の異なった反応基を有するシランカップリング剤が、接触対象物(特に、半導体及び半導体用基板)との接着性を向上することができるため、特に好ましい。
前記密着改良剤は、市販品を使用することができ、その具体例としては、DOWSIL Z-6040、DOWSIL Z-6062(以上、DOW社製)、KMB-403(信越シリコーン株式会社製)などが挙げられる。
【0075】
前記接着部形成用インクにおける前記密着改良剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの全質量に対して、0.1質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましい。前記密着改良剤の含有量が0.1質量%以上であると、密着効果を得ることができる。また、前記密着改良剤の含有量が20質量%以下であると、インク強度の低下を抑制できる点で好ましい。
【0076】
--溶媒--
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テルピネオール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸2-メトキシエチル、酢酸2-メトキシブチル、2-ブタノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
前記接着部形成用インクにおける前記溶媒の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着部形成用インクの粘度が適性であれば含有しないことが好ましい。前記溶媒を添加する場合は、前記接着部形成用インクの全質量に対して、1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。前記溶媒の含有量が1質量%以上であると、前記接着部形成用インク溶媒成分管理が容易となると共に、粘度を低粘度化することができ、インクジェット印刷法に好適に用いることができ、10質量%以下であると、高温時においてバブルやボイドの原因となりにくい。
【0078】
これらの中でも、前記接着部形成用インクは、光硬化可能な組成であることが好ましく、前記エポキシモノマー、及び前記光カチオン重合開始剤又は前記光ラジカル重合開始剤を含有することがより好ましい。
【0079】
前記接着部形成用インクの粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェット法で微小径ノズルから吐出できる低粘度のものであることが好ましく、25℃の環境下において、200mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましい。また、前記接着部形成用インクの粘度の下限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出性、造形精度の観点から、25℃の環境下において、5mPa・s以上であることが好ましい。
【0080】
前記接着部形成用インクの粘度は常法により測定することができ、例えば、JIS Z 8803に記載の方法などを用いることができる。また、その他に、例えば、コーンプレート型回転粘度計(例えば、VISCOMETER TVE-22L、東機産業株式会社製)により、コーンロータ(1°34’×R24)を使用し、回転数10rpm、恒温循環水の温度を20℃~65℃の範囲で適宜設定して測定することができる。循環水の温度調整には、循環恒温槽(例えば、VISCOMATE VM-150III、東機産業株式会社製)を用いることができる。
【0081】
<低弾性部及び低弾性部形成工程>
前記低弾性部は、前記接着部よりもヤング率が小さく、パターニング形成されてなる部材である。前記低弾性部は、柔軟性により、熱応力を緩和する機能を有する。
前記低弾性部は、前記低弾性部形成工程により好適に形成される。
【0082】
前記低弾性部形成工程は、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部を形成するための低弾性部形成用インクをノズルから吐出して、前記接着部と接するように前記低弾性部をパターニング形成する工程である。
【0083】
前記接着性構造物の歪みを低下させ、更に熱応力を低減するためには、前記低弾性部のヤング率が重要である。
前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率としては、前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率より低い限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5GPa以上であることが好ましく、1GPa以上であることがより好ましく、2GPa以上であることが更に好ましい。前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が、前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率に近づく程、前記接着性構造物の歪み及び熱応力が低下しやすい。そのため、前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が0.5GPa以上であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力を好適に低減することができる。
前記低弾性部のヤング率は、例えば、微小硬度計(FISCHERSCOPE(登録商標)HM2000、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)で測定することができる。
【0084】
前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率と、前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率との差としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が、前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率に対して40%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が、前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率に対して65%以上であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力が低下しやすい。
【0085】
前記低弾性部の線熱膨張係数(CTE)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ガラス転移温度(Tg)以下の温度における線熱膨張係数(CTE)が、20×10-5/K以下が好ましく、15×10-5/K以下がより好ましい。前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度における線熱膨張係数(CTE)が、20×10-5/K以下であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力を好適に低減することができ、る15×10-5/K以下であると、前記接着性構造物の歪み及び熱応力を更に好適に低減することができる。
前記低弾性部の線熱膨張係数(CTE)は、例えば、TMA(Thermomechanical Analysis)により測定することができる。
【0086】
前記低弾性部のポアソン比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その値が小さい程、前記接着性構造物の変形が小さくなり、歪み及び熱応力を好適に低減することができる。
【0087】
前記低弾性部を形成する材料としては、前記接着部よりもヤング率が小さいものである限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、樹脂を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の材料を含有する。
【0088】
<<樹脂>>
前記低弾性部を形成する樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
前記接着部と、前記接触対象物との接着面における光透過性が、前記接触対象物を通した光硬化に適していない場合には、前記低弾性部は少なくとも熱硬化性樹脂を含有することが好ましい。
【0090】
前記樹脂の具体例としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エステル系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アミド系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、メラミン樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記低弾性部を形成する樹脂は、後述する低弾性部形成用インクの配合により、前記接着部を形成する樹脂よりヤング率が小さい低弾性樹脂として構成される。
【0091】
前記低弾性部は、前記樹脂のモノマー成分を含有する低弾性部形成用インクを用い、前述のパターニング方法により、前記接着部のパターン形成前又はパターン形成後に該低弾性部形成用インクを塗布し、重合反応させることにより形成することができる。
【0092】
<<<低弾性部形成用インク>>>
前記低弾性部形成用インクは、前記樹脂を含有していてもよく、前記樹脂のモノマー成分と、重合開始剤とを含有していてもよく、更に必要に応じてその他の成分を含有していてもよいが、前記樹脂のモノマー成分と、重合開始剤とを含有することが、パターニング形成を良好に行うことができる点で好ましい。
【0093】
前記低弾性部形成用インクの材料ついては、前記接着部形成用インクの材料と同様のものを使用することができるため説明を省略する。また、ヤング率を除く前記低弾性部形成用インクの粘度等の物性についても、前記接着部形成用インクと同様であるため説明を省略する。
【0094】
前記低弾性部の硬化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃~150℃が好ましく、40℃~80℃がより好ましい。前記低弾性部の硬化温度が40℃~80℃の範囲内であると、前記接着性構造物の歪みを好適に低減することができる。
【0095】
前記低弾性部形成用インクは、使用するインク材料種及び混合比率により、前記接着部よりも低弾性であり、柔軟性に優れた硬化物を形成することができる。
具体的には、低弾性部形成用インクのインク材料種として、グリシジルエーテル型エポキシモノマー、(メタ)アクリレートモノマー、オキセタンモノマー、ウレタンモノマー、前記樹脂又は樹脂粒子から選択される少なくとも1種を混合したインクが好ましい。
更に、これら材料の混合比率を前記接着部形成用インクよりも多くすることにより、容易に該接着部形成用インクよりも硬化物が低弾性となるインクを作製することできる。
硬化したインクの弾性率は、例えば、ガラス表面に成膜及び硬化した膜について、微小硬度計(例えば、FISCHERSCOPE(登録商標)HM2000、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)などで押し込み弾性率を測定することにより確認することができる。
【0096】
前記低弾性部の前記接着性構造物に占める体積比(低弾性部/接着性構造物)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記接着性構造物の全体積に対して、5体積%~90体積%であることが好ましく、5体積%~50体積%がより好ましい。前記低弾性部の前記接着性構造物に占める体積比が5体積%以上であると、応力緩和特性が良好であり、90体積%以下であると、前記接着部による接着性が良好である。前記低弾性部は、熱応力の集中しやすい、前記接着性構造物の端部に形成されていることが好ましい。
【0097】
<熱伝導部>
前記熱伝導部は、前記接着性構造物において、厚み方向に連続して形成されてなる部材である。前記熱伝導部は、厚み方向に熱を伝導する機能を有する。したがって、前記接着性構造物において、前記熱伝導部をパターニング形成することにより、前記接着性構造物の厚み方向の上下間で、熱伝導特性、放熱特性、及び電気伝導特性を改善することができる。そのため、前記接着性構造物が、発熱性部品、冷却部品、電極などの接着に使用される場合は、前記熱伝導部を有することが好ましい。
【0098】
前記接着性構造物における前記熱伝導部のパターンとしては、本発明の効果を損なわず、前記接着性構造物の厚み方向に連続してなる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記接着部に周囲を囲まれてなるパターン、前記低弾性部に周囲を囲まれてなるパターン、前記接着部と前記低弾性部との間に形成され、その両方に周囲を囲まれてなるパターンなどが挙げられる。
例えば、前記接着部及び前記低弾性部の少なくともいずれかに囲まれた前記熱伝導部の外周形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直線、円弧、及び楕円弧の組合せ形状などが挙げられる。
【0099】
前記接着性構造物は、一方の表面に露出する、前記熱伝導部の形状及び大きさが、他方の表面に露出する、前記熱伝導部の形状及び大きさと同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0100】
<<熱伝導部形成用インク>>
前記熱伝導部を形成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、熱伝導性材料を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0101】
<<<熱伝導性材料>>>
前記熱伝導性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属材料、カーボン、セラミック材料などが挙げられる。
前記金属材料としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。
前記セラミック材料としては、例えば、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記熱伝導性材料としては、金属材料が好ましく、金属ナノ粒子がより好ましい。前記金属材料は、電気伝導材料としても用いることができる。
【0102】
前記熱伝導部形成用インクにおける前記熱伝導性材料の1次平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm~100μmが好ましく、0.3μm~10μmがより好ましい。
【0103】
前記熱伝導部形成用インクにおける前記金属ナノ粒子の1次平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.005μm~1μmが好ましく、0.005μm~0.2μmがより好ましい。前記金属ナノ粒子の1次平均粒子径が0.005μm~1μmであると、前記接着性構造物を発熱性部品又は冷却部品との接着に用いた場合に、該発熱性部品又は該冷却部品との接着面の凸凹が小さく、接着面が平坦で一体化した高熱伝導部形成が可能となる。また、150℃程度の比較的低い温度処理でシンタリングが可能である点から、前記金属ナノ粒子の1次平均粒子径は、200nm以下であることが好ましい。
また、前記金属ナノ粒子を小粒子径とすることにより、前記熱伝導部を薄膜化することや、微小径ノズルのインクジェット印刷塗工などにより精密パターニングが可能となる。
【0104】
前記熱伝導部形成用インクにおける前記熱伝導性材料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱伝導部形成用インクの全質量に対して、15質量%~100質量%が好ましく、40質量%~100質量%がより好ましい。前記熱伝導部形成用インクにおける前記熱伝導性材料の含有量が、15質量%~100質量%の範囲であると、高い熱伝導特性が得られる。
【0105】
前記熱伝導部の厚みとしては、基本的に前記接着部及び前記低弾性部と同じに設定されるが、前記熱伝導部の面積(体積)は、放熱設計により最適な値に設定される。
また、前記カーボン材料として、カーボンナノ粒子インク、グラフェンインクなどを用いて塗工形成する場合は、前記熱伝導部の厚みは、1μm~300μmであることが好ましい。
また、前記セラミック材料をセラミック粒子と樹脂を混合したセラミックペーストとして塗工する場合は、前記熱伝導部の厚みは、1μm~500μmであることが好ましい。
【0106】
更に、前記熱伝導部形成用インクがモノマー及び重合開始剤を含有する場合は、塗工後に光又は熱で硬化することができる。
前記熱伝導部を前記インクジェット法で形成する場合は、金属材料、カーボン、セラミック材料の分散インクであることが好ましい。前記分散インクによりインクジェッティング吐出に適したインク粘度に調整することができる。
【0107】
前記分散インクの粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェッティング吐出に好適である点で、5mPa・s以上200mPa・s以下が好ましい。
【0108】
前記分散インクでは、溶媒を分散溶媒にする、又は低粘度のモノマーを分散溶媒にすることができる。前記分散溶媒の材料としては、前記接着部形成用インク中の溶媒と同様の材料を使用することができる。
【0109】
前記分散インク中の導電性材料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分散インクの全量に対して、15質量%以上80質量%以下であることが好ましい。前記分散インク中の導電性材料の含有量が15質量%以上であると熱伝導効果を得やすく、80質量%以下であると粘度を低粘度化することができ、インクジェット印刷法に好適に用いることができる。
【0110】
<<<その他の成分>>>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂、モノマー、重合開始剤、溶媒、分散剤、などが挙げられる。
【0111】
前記樹脂、前記モノマー、前記重合開始剤、及び前記溶媒としては、前記接着部形成用インクと同様の材料を使用でき、好ましい態様も同様であるため説明を省略する。前記分散インクとして用いる場合の溶媒、モノマーの好ましい様態については前述の通りである。
【0112】
-分散剤-
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、主鎖にイオン性基、グラフト鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する多官能櫛型の機能性ポリマーなどが挙げられる。イオン性基が粉体表面への吸着基として機能し、グラフト鎖が溶剤への溶解性のコントロール及び立体反発効果を付与する。
前記分散剤の具体例としては、ドデカンチオール等のアルキルチオール、ポリビニルピロリドンポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
前記分散剤は、適宜合成してもよく、市販品を使用してもよい。
前記分散剤の市販品としては、例えば、マリアリム(登録商標)、マリアリムSC(登録商標)、マリアリムFA(登録商標)、エスリームC(登録商標)、エスリームMP(登録商標)、エスリームAD(登録商標)、エスリーム221P(登録商標)(日油株式会社製)などが挙げられる。
【0114】
前記熱伝導部形成用インク中の前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂、前記分散剤、モノマー硬化物等の固形分の含有量が、5質量%以下であることが好ましい。これにより、シンタリング時に分解又はガス化して除去されるなどにより、前記熱伝導部中の前記熱伝導性材料の含有量が95質量%以上の熱伝導部を形成することが可能である。
【0115】
前記熱伝導部形成用インクは、適宜調製してもよく、市販品を使用してもよい。
また、前記熱伝導性材料としては、金属材料を含有する場合は、前記金属材料を含有するインクを用いる方法の他に、金属溶液インクを還元析出する方法を用いることもできる。一般的には銀塩インクとして知られており、これらのインクも用いることができる。
前記熱伝導部形成用インクの市販品としては、下記表1に記載のものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
【0117】
<その他の工程>
前記接着性構造物の製造方法における前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、焼結工程などが挙げられる。
【0118】
<<焼結工程>>
前記焼結工程は、前記熱伝導部形成工程の後に、前記金属ナノ粒子を焼結させる工程である。したがって、前記焼結工程は、前記熱伝導部形成工程において、前記熱伝導部形成用インクが金属ナノ粒子を含む場合に好適に行われる。
【0119】
前記焼結の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、加熱又は光で焼結する方法などが挙げられる。これにより、前記金属ナノ粒子間がシンタリングした高熱伝導性の熱伝導部として形成することができる。
なお、前記熱伝導部形成用インクの焼結工程は、前記接着部形成用インク及び前記低弾性部形成用インクの少なくともいずれかの熱硬化、例えば、前記接着性構造物を接触対象物と貼り合わせる工程と兼ねることもできる。
【0120】
(転写用接着層)
本発明の転写用接着層は、本発明の接着性構造物を仮支持体上に層状に有するものである。
本発明の接着性構造物については、前記(接着性構造物及び接着性構造物の製造方法)の項目に記載の通りであるため、詳細は省略する。
【0121】
<仮支持体>
前記仮支持体としては、その表面に前記接着性構造物を製造可能であり、該接着性構造物においてパターニング形成された前記接着部及び前記低弾性部、更に必要に応じて前記熱伝導部やその他の部材に影響しないものである限り、特に制限はなく、公知の剥離シートを用いることができる。
【0122】
前記剥離シートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クラフト紙、グラシン紙、上質紙等の紙;ポリエチレン、ポリプロピレン(二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、一軸延伸ポリプロピレン(CPP))、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂フィルム;前記紙と樹脂フィルムとを積層したラミネート紙、前記紙にクレーやポリビニルアルコールなどで目止め処理を施したものの片面若しくは両面に、シリコーン系樹脂等の剥離処理を施したものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
前記接着性構造物を仮支持体上に層状に形成する方法としては、特に制限はなく、前記接着性構造物の製造方法において、接触対象物を前記支持体に代えること以外は同様にして形成することができる。
【0124】
前記転写用接着層は、前記接着性構造物の保存及び搬送が容易であり、取扱性に優れ、また、接触対象物に直接前記接着性構造物を形成できない場合であっても、前記転写用接着層を接触対象物に貼り付け、前記支持体を剥離することで、前記接着性構造物を接触対象物に容易に形成できる点で有利である。
【0125】
(電子部品及び電子部品の製造方法)
本発明の電子部品は、少なくとも本発明の接着性構造物を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
本発明の接着性構造物については、前記(接着性構造物及び接着性構造物の製造方法)の項目に記載の通りであるため、詳細は省略する。
【0126】
本発明の電子部品の製造方法は、本発明の接着性構造物を用いて部品を固着することを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0127】
前記接着性構造物を用いて部品を固着する方法としては、特に制限はなく、前記接着性構造物の構成に応じて適宜選択することができ、例えば、光硬化、熱硬化などが挙げられる。
【0128】
<第1の部品及び第2の部品>
前記電子部品は、第1の部品と、前記接着性構造物により固着された第2の部品とを有することが好ましい。
【0129】
前記第1の部品と、前記第2の部品との線熱膨張係数差としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20ppm/K以下が好ましく、10ppm/K以下がより好ましい。前記線熱膨張係数差が、20ppm/K以下であると、前記接着性構造物の反りが少ない。前記第1の部品と、前記第2の部品との線熱膨張係数差は小さい程好ましく、その下限値に特に制限はない。
なお、本発明の電子部品は、本発明の接着性構造物を有するため、前記線熱膨張係数差が高くても、接着性及び応力緩和特性に優れるものであり、接着不要及び接続不良を抑制することができる。特に、前記接着性構造物における前記低弾性部が、前記第1の部品と前記第2の部品との線熱膨張係数差に起因する変形を抑制することができる。
【0130】
前記第1の部品と、前記第2の部品との線熱膨張係数差は、熱機械分析装置(例えば、TMA(Thermomechanical Analysis))により測定することができる。
【0131】
前記第1の部品及び前記2の部品としては、特に制限はなく、目的とする電子部品の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の部品が発熱性部品であり、前記第2の部品が基板である態様、前記第1の部品が冷却部品であり、前記第2の部品が基板である態様などが挙げられる。
【0132】
前記発熱性部品としては、特に制限はなく、目的とする電子部品の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、半導体(ダイ)、半導体パッケージ、バッテリー、LED、コンデンサー、抵抗、ダイオードなどが挙げられる。これらの中でも、前記発熱性部品としては、近年の高集積化及び高速化に伴い、温度上昇による実装回路の接着及び接続に対する耐熱信頼性が要求されている半導体(ICチップ)が好ましい。
【0133】
前記電子部品において、前記接着性構造物は、ダイボンディング層、放熱層、及びレジストの少なくともいずれかであることが好ましい。
前記接着性構造物は、前記接着部を有するため、ダイボンディング層として好適に機能する。
また、前記接着性構造物が前記熱伝導部を有する場合、放熱層として好適に機能する。
【0134】
また、前記電子部品は、前記接着性構造物と、前記第1の部品又は前記第2の部品との間に表面処理層等の中間層を有していてもよい。
【0135】
前記表面処理層は、前記接着性構造物形成表面の濡れ性又は表面エネルギーを調整する層として形成され、表面に親水性基又は疎水性基を有する樹脂膜として形成される。
【0136】
前記表面処理層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂構造中にカルボキシル基、アミノ基、ケト基、OH基、フッ素基、シラノール基などを有する材料を用いることができる。更に、セラミックや金属、カーボンなどの無機粒子を混合することもできる。これらは、前記熱伝導部形成用インクに含有されるものと同様のものを用いることができる。
【0137】
表面処理層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm~10μmが好ましい。
【0138】
前記表面処理層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも反応基を有する有機モノマー材料及び開始剤を混合した樹脂材料や無機材料を混合したものを塗工し、UV照射、熱処理、脱水処理等の硬化処理を行うことにより形成することができる。
【0139】
前記塗工方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、ディスペンスコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷法を用いることができる。
【0140】
前記電子部品は、市販の光硬化性インク、熱硬化性インクなどを使用して、ソルダーレジストを形成してもよい。
前記ソルダーレジストインクの市販品としては、例えば、IJSR4000、IJSR9000(太陽インキ株式会社製)、PR1205(互応化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0141】
前記電子部品の製造方法は、前記接着性構造物を用いて部品を固着することを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、本発明の転写用接着層を用いて部品を固着してもよく、接触対象物としての部品に直接前記接着性構造物を形成してもよい。
【実施例0142】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0143】
(実施例1~9及び比較例2~5)
図3A及び
図3Bに示す、接着部103及び低弾性部104を有する接着性構造物102について、
図2Aに示す、プリント配線板(基板)1と、接着性構造物102と、ダイ3と、をこの順に積層した電子部品に適用した場合の接着部103の最大応力及び歪みを、下記条件にてコンピュータシミュレーションで解析した。
「歪み」は、下記シミュレーションソフトウェアの「ひずみ」のカテゴリから「相当(ミーゼス)」を選択して測定することで得られる「相当弾性ひずみ」と表示された値を意味する。
「最大応力」は、下記シミュレーションソフトウェアの「応力」のカテゴリから「相当(ミーゼス)」を選択して測定することで得られる「相当応力(ミーゼス)」の最大値を意味する。
[条件]
・ シミュレーションソフトウェア:ANSYS Mechanical 19.2(ANSYS社製)
・ プリント配線板1のサイズ:縦37mm、横37mm、厚み0.8mm
・ 接着性構造物102のサイズ:縦15mm、横15mm、厚み5μm
・ ダイ3のサイズ:縦15mm、横15mm、厚み0.725mm
・ ダイ3及びプリント配線板1の物性:下記表2に示す。
・ 接着性構造物102の物性:下記表3及び表4に示す。
・ 接着性構造物102のパターン:
図2A、
図3A、及び
図3Bに示す通り、プリント配線板1の平面方向の中心に、四辺が15mmの正方形の接着性構造物102を配する設定とした。このとき、接着性構造物102の中心と、プリント配線板1の中心が同一となるようにした。接着性構造物102は、四辺が8mmの正方形の接着部103の周囲に、幅が3.5mmとなるように低弾性部104を配する設定とした。
・ 解析種:静的構造
・ モデル:二次元(2D)断面ハーフモデル
・ 断面:プリント配線板1、接着性構造物102、及びダイ3の平面方向の中心を通る線で切断した場合の切断面(
図2AのX-X’断面)。
・ 対称条件:プリント配線板1、接着性構造物102、及びダイ3の中央垂直軸
・ 固定位置:プリント配線板1の底面中央
・ 熱設定条件:全部品を熱条件設定(-55℃~260℃)
・ プリント配線板1のメッシュ設定:面0.1mm
・ 接着性構造物102のメッシュ設定:面0.5μm
・ ダイ3のメッシュ設定:面0.1mm
・ 接触条件:全てボンド
【0144】
(比較例1)
図4A及び
図4Bに示す、単層構造の接着性構造物2について、
図1Aに示す、プリント配線板(基板)1と、接着性構造物2と、ダイ3と、をこの順に積層した電子部品に適用した場合の接着性構造物2の最大応力及び歪みを、下記条件にてコンピュータシミュレーションで解析した。
「歪み」は、下記シミュレーションソフトウェアの「ひずみ」のカテゴリから「相当(ミーゼス)」を選択して測定することで得られる「相当弾性ひずみ」と表示された値を意味する。
「最大応力」は、下記シミュレーションソフトウェアの「応力」のカテゴリから「相当(ミーゼス)」を選択して測定することで得られる「相当応力(ミーゼス)」の最大値を意味する。
なお、接着性構造物2としては、ダイシングダイアタッチフィルム(AFN303、古河電気工業株式会社製)を使用した。
[条件]
・ シミュレーションソフトウェア:ANSYS Mechanical 19.2(ANSYS社製)
・ プリント配線板1のサイズ:縦37mm、横37mm、厚み0.8mm
・ 接着性構造物2のサイズ:縦15mm、横15mm、厚み10μm
・ ダイ3のサイズ:縦15mm、横15mm、厚み0.725mm
・ ダイ3及びプリント配線板1の物性:下記表2に示す。
・ 接着性構造物2の物性:下記表3に示す。
・ 接着性構造物2のパターン:
図1A、
図4A、及び
図4Bに示す通り、プリント配線板1の平面方向の中心に、四辺が15mmの正方形の接着性構造物2を配する設定とした。このとき、接着性構造物2の中心と、プリント配線板1の中心が同一となるようにした。
・ 解析種:静的構造
・ モデル:二次元(2D)断面ハーフモデル
・ 断面:プリント配線板1、接着性構造物2、及びダイ3の平面方向の中心を通る線で切断した場合の切断面(
図1AのY-Y’断面)。
・ 対称条件:プリント配線板1、接着性構造物2、及びダイ3の中央垂直軸
・ 固定位置:プリント配線板1の底面中央
・ 熱設定条件:全部品を熱条件設定(-55℃~260℃)
・ プリント配線板1のメッシュ設定:面0.1mm
・ 接着性構造物2のメッシュ設定:面0.5μm
・ ダイ3のメッシュ設定:面0.1mm
・ 接触条件:全てボンド
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
<-55℃で測定した歪み>
シミュレーションで得られた実施例1~9及び比較例1~5の接着部の-55℃における最大応力(MPa)を縦軸に取り、歪みを横軸に取ったグラフを
図5A及び
図5Bに示す。この結果より、比較例1~5の接着部の-55℃で測定した歪みは0.11以上であったのに対し、実施例1~9の接着部の-55℃で測定した歪みはいずれも0.11未満であることが分かった。
したがって、実施例1~9の接着性構造物は、従来の単層構造の接着性構造物と比較して、優れた接着性構造物であると言える。
【0149】
<25℃で測定した歪み>
シミュレーションで得られた実施例1~9及び比較例1~5の接着部の25℃における最大応力(MPa)を縦軸に取り、歪みを横軸に取ったグラフを
図5C及び
図5Dに示す。この結果より、-55℃の場合と同様に、比較例1の接着部の25℃で測定した歪みは0.11以上であったのに対し、実施例1~9の接着部の25℃で測定した歪みはいずれも0.11未満であることが分かった。なお、比較例2~5の接着部の25℃で測定した歪みも0.11未満であったが、本発明の接着性構造物は-55℃における歪みが0.11未満であればよい。
【0150】
なお、上述の通り、接着性構造物において熱応力が最大となる領域は、接着部と低弾性部との熱特性バランスの調整が十分できない場合は、
図2C及び
図3Bに示すように、接着性構造物の接着部と低弾性部との界面、かつ、接着部の厚み方向の端部であるため、実施例1~9及び比較例2~5の最大応力は、プリント配線板又はダイに接し、かつ、接着部と低弾性部との界面における熱応力を示す。また、比較例1の最大応力は、プリント配線板又はダイに接し、かつ空気に接する領域(
図1B及び
図4Bに示す接着性構造物の断面図における厚み方向かつ平面方向の端部)の熱応力である。
【0151】
<最大応力>
シミュレーションで得られた実施例1~9及び比較例1~5の接着部の-55℃~260℃における最大応力(MPa)のグラフを
図6A及び
図6Bに示す。これより、接着部の最大応力には接着材料のヤング率が大きく影響していることが分かった。また、比較例1の最大応力は515MPaであり、比較例2~5の最大応力は600MPaを超えていた。これに対し、実施例1~3及び6は、比較例1と比較して最大応力が低いことが分かった。
接着性構造物の最大応力は電子部品の耐久性に直接的に影響しており、接着性構造物の最大応力を超えた場合に電子部品が壊れやすくなる。したがって、熱条件に拘わらず、最大応力が比較例1のように515MPa以下である場合、従来の単層構造の接着性構造物と比較して、より優れた接着性構造物であると言える。
【0152】
なお、測定温度-55℃及び120℃は、ヒートサイクル試験に基づく温度条件で測定した。また、測定温度25℃は、保管温度及び使用温度(常温)を想定して測定した。また、測定温度260℃は、リフロー(ダイを組み上げて樹脂封止された半導体ICをより大きなプリント配線板へはんだ実装する工程)温度を想定して測定した。
【0153】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 接触対象物と接着可能な接着部と、前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部とを有し、
-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満であることを特徴とする接着性構造物である。
<2> 前記接着部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が5GPa以下である、前記<1>に記載の接着性構造物である。
<3> 前記接着性構造物が層状であり、
前記低弾性部が、前記接着部の平面方向の少なくとも一部の端部に接するようにパターニング形成されてなる、前記<1>から<2>のいずれかに記載の接着性構造物である。
<4> ダイと、ダイ又はプリント配線板との間の接着に用いられる、前記<3>に記載の接着性構造物である。
<5> 前記接着部のガラス転移温度(Tg)が50℃~200℃である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の接着性構造物である。
<6> 前記接着部の硬化温度が100℃~260℃である、前記<1>から<5>のいずれかに記載の接着性構造物である。
<7> 前記低弾性部のガラス転移温度(Tg)以下の温度におけるヤング率が0.5GPa以上である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の接着性構造物である。
<8> 前記接着部及び前記低弾性部の少なくともいずれかが、インクジェット法により形成された、前記<1>から<7>のいずれかに記載の接着性構造物である。
<9> 接触対象物と接着可能な接着部を形成するための接着部形成用インクをノズルから吐出して前記接着部を形成する接着部形成工程と、
前記接着部よりもヤング率が小さい低弾性部を形成するための低弾性部形成用インクをノズルから吐出して、前記接着部と接するように前記低弾性部をパターニング形成する低弾性部形成工程と、
を含み、
-55℃で測定した前記接着部と前記低弾性部との界面の歪みが0.11未満であることを特徴とする接着性構造物の製造方法である。
<10> 前記接着部形成用インク及び前記低弾性部形成用インクの少なくともいずれかを、インクジェット法により吐出する、前記<9>に記載の接着性構造物の製造方法である。
<11> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の接着性構造物を仮支持体上に層状に有することを特徴とする転写用接着層である。
<12> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の接着性構造物を有することを特徴とする電子部品である。
【0154】
前記<1>から<8>のいずれかに記載の接着性構造物、前記<9>から<10>のいずれかに記載の接着性構造物の製造方法、前記<11>に記載の転写用接着層、及び前記<12>に記載の電子部品は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。