(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070140
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
C23C14/35 B
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180563
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大
(72)【発明者】
【氏名】石榑 文昭
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029BA44
4K029BA45
4K029BA49
4K029BA50
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC42
4K029DC43
4K029DC46
(57)【要約】
【課題】非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクル発生原因を減らす。
【解決手段】スパッタリング装置1では、被成膜基板11の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニット22が、エロージョン領域が形成されるターゲット23と、ターゲットに対して被成膜基板とは反対側に配置されるマグネットユニット25と、マグネットユニットと被成膜基板とを相対的に基板表面に沿った揺動方向(走査方向)において往復動作可能なマグネットユニット走査部29と、を有し、マグネットユニットは、その長手方向が被成膜基板表面に沿って揺動方向に交差する揺動幅方向に延在する端部において、長手方向の中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを相対的に基板表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間で往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するとともに、
前記マグネットユニットは、一方の前記揺動端と他方の前記揺動端とを結ぶ揺動領域の輪郭辺の近傍に位置する前記長手方向の端部において、前記長手方向の中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するように配置されている、
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記マグネットユニットは、
線状に配置されて前記ターゲットへ向かう磁極である中央磁石部と、
前記ターゲットへ向かう磁極で前記中央磁石部と極性が異なり、前記中央磁石部の両側に等間隔で平行に延びる長手直線部および両方の前記長手直線部の端部を夫々橋渡す橋渡し部を有するとともに前記揺動領域に沿って前記中央磁石部の周囲を囲う周縁磁石部と、
を備え、
前記長手方向の中央部に対して前記長手方向の端部では前記中央磁石部と前記周縁磁石部との磁力密度が均一化するように配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記周縁磁石部は、前記橋渡し部のコーナー部で前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部の前記長手直線部に対して小さく形成される、
ことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部が前記長手直線部とほぼ等しい肉厚で形成される、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の延長線と前記長手直線部の延長線とで形成される前記揺動領域に沿った外周輪郭形状に比べて、前記揺動領域に沿った前記コーナー部の外周輪郭が前記中央磁石部に近接して形成される、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記コーナー部が、前記短手直線部に対して前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った端部よりも、前記長手方向の中央部に近接する位置で接続される、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った長さが、前記揺動領域に沿って前記長手方向の中央部における前記揺動方向に沿った前記長手直線部の離間距離よりも短く形成される、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記長手方向における前記コーナー部の長さが、前記長手方向の中央部における前記揺動領域に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離近とほぼ等しい、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記揺動領域に沿った前記短手直線部と前記中央磁石部の端部との離間距離が、前記長手方向の中央部での前記揺動方向に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離よりも小さく形成される、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記中央磁石部は、前記長手方向の端部に、前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部に対して小さく形成される挟幅部を有する、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項11】
前記中央磁石部の前記挟幅部は、前記長手方向で前記長手直線部よりも前記短手直線部に近接して配置される、
ことを特徴とする請求項10記載のスパッタリング装置。
【請求項12】
前記マグネットユニットは、前記コーナー部が減肉されていない構造に比べて前記長手方向の寸法が短い、
ことを特徴とする請求項3記載のスパッタリング装置。
【請求項13】
前記マグネットユニットが、前記揺動方向に複数本並んで平行に配置される、
ことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置に関し、特に、マグネトロンカソードを有する成膜に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンカソードを有する成膜装置においては、ターゲットの利用効率を向上することなどを目的として、マグネットをターゲットに対して移動させる方式が知られている。
特許文献1に開示の技術のように、成膜の均一性向上等の目的のために、マグネットの移動に加え、カソードおよびターゲットを被成膜基板に対して揺動させることも知られている。
【0003】
また、特許文献2に開示の技術のように、発生したパーティクルがスパッタ処理室内における成膜に悪影響を及ぼすことを防止する目的などで、マグネットおよびカソードを揺動させることが知られている。
さらに、マグネットおよびカソードに対して被成膜基板を揺動させる技術として、本出願人らは特許文献3のような技術を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-41115号公報
【特許文献2】特開2012-158835号公報
【特許文献3】特許第6579726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようにターゲットに対してマグネットを走査(揺動)させる技術であっても、非エロージョン領域の発生により、マグネットの揺動範囲の縁部に近接する成膜領域の周縁部付近においては、パーティクル発生原因となる場合があるためこれを解消したいという要求があった。特に、非エロージョン領域の発生そのものよりも、非エロージョン領域とエローション領域との境界がぼやけた場合に、これがリデポ膜(ターゲットに着膜したスパッタ膜)の再スパッタ発生など、問題となるパーティクル発生の原因となることがわかった。
【0006】
また、上記のようにターゲットに対してマグネットを走査(揺動)させる技術であっても、非エロージョン領域の発生により、マグネットの揺動範囲に近接する成膜領域の周縁部付近においては、膜厚の減少、膜厚分布や膜質分布にムラができてしまうなどの問題が、依然として解消されていない。さらに、基板の大型化によってこのような不具合に対する改善要求が大きくなっていた。
【0007】
特に、矩形となるマグネットの揺動範囲の縁部のうち、揺動方向に沿った辺となる縁部における上記の課題を重点的に解決したいという要求がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクル発生原因を減らすこと。
2.形成されたプラズマ分布を安定させ、膜厚分布・膜厚特性分布の均一性を向上すること。
3.これらの改善を、特に、矩形となるマグネットの揺動範囲の縁部のうち、揺動方向に沿った辺となる縁部付近において可能とすること。
4.ターゲットライフを延ばすこと。
5.部品点数を削減し、装置部品の小型化軽量化を可能とすること。
6.形成されたプラズマ分布を安定させ、マグネットの揺動位置にかかわらずに膜厚分布・膜厚特性分布の均一性を向上すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、非エロージョン領域によるパーティクル発生の抑制、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきの抑制に成功した。
【0010】
スパッタリング中は、印加された電力によりマグネットユニットの磁極(マグネット)からは磁界(磁場、磁力線)が発生している。このとき、スパッタリングに寄与するプラズマまたは電子は、マグネットの形成する磁力線に沿って移動している。つまり、電子等は、中央に棒状に形成されたS極のまわりに、レーストラック形状に形成されたN極との間を、このレーストラック形状に沿って周回する。
ここで、マグネットユニットによる磁力線のうち、プラズマ発生に寄与するものは、ターゲットと平行に面一として配置されるマグネットの両極のうち、N極からターゲットに向かい円弧状にS極に到達する。このとき、マグネットによる磁力線は、N極から、ターゲットを裏面側から表面側に向けて厚さ方向に貫通し、プラズマ発生空間で円弧状に形成され、ターゲットを表面側から裏面側に向けて厚さ方向に貫通してS極へと戻る。
【0011】
ターゲットの端部周辺にはアノード等グランド電位の部分が配置されている。この状態で、マグネットユニットを走査(揺動)させてマグネットが揺動端付近に位置した場合には、マグネットがこのアノードに近接した位置となる。
すると、マグネットユニットの揺動端付近で、N極からの磁力線が近接しているアノードに向かい、S極に戻らないという現象が起こる場合がある。すると、電子は磁力線に沿ってトラッキングされる(動く)ため、プラズマ形成空間に戻らず、プラズマ形成に寄与せずにアノードに流れてしまう。これを電子が吸われると称する。
【0012】
電子がアノードに吸われると、ターゲットの表面側、つまり、プラズマ発生空間における電子密度が低下する。すると、形成されるプラズマ密度が低下する、あるいは、プラズマが発生しない、という現象が起こる場合がある。これをプラズマが吸われると称する。このような現象が発生した場合、プラズマによりターゲットがスパッタリングされないために、非エロージョン領域が発生し、さらに、非エロージョン領域が大きくなる場合がある。
【0013】
ここで、電子がアノードに吸われた場合、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生し、プラズマの発生状態が不安定になる。これにより、プラズマによるスパッタリングのオンオフが発生する。すると、リデポ膜のスパッタリングに起因するパーティクルが発生する可能性が増大する。
【0014】
つまり、非エロージョン領域の発生により、マグネットユニットの揺動範囲に近接する成膜領域の周縁部付近においては、パーティクル発生原因となる場合がある。
このとき、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になっており、エロージョン-非エロージョン境界領域が形成されることになる。
【0015】
このように、非エロージョン領域の発生そのものよりも、非エロージョン領域とエローション領域との境界がぼやけた場合に、これがリデポ膜の再スパッタ発生など、問題となるパーティクル発生の原因となることがわかった。
【0016】
上記のように、電子がアノードに吸われる場合、マグネットユニットからの磁力線が、アノードに向かう状態、つまり、ターゲットの厚さ方向よりも、ターゲットの輪郭外向きに傾斜した状態である。
【0017】
この状態を回避するためには、矩形となるマグネットユニットの揺動範囲の縁部のうち、揺動方向に沿った辺となる縁部においてマグネットユニットの形成する磁力線を、アノードに向かわないようにすることで、吸われる電子を減少することが必要である。このため、従来から、マスクと呼ばれる基板周辺に配置されるアノードに、磁力線を吸収するアノードブロックという別部品を取り付けていた。しかし、このアノードブロックは、ターゲットに対向する位置にあり、着膜部材である上、取り外しが必要なため、かえってパーティクス発生源となる場合があった。
【0018】
このため、本願発明者らはこのような問題を解決するために、マグネットユニットの揺動端においてマグネットユニットの形成する磁力線を、アノードブロックを用いることなくアノードに向かわないようにすることで、パーティクス発生を低減しつつ、吸われる電子を減少することが可能であることを見出した。つまり、矩形となるマグネットユニットの揺動範囲の縁部のうち揺動方向に沿った辺となる縁部の一端において、マグネットユニットの形成する磁力線を、ターゲットの厚さ方向よりもマグネットユニットの揺動範囲の縁部の他端に向けて傾斜させる、すなわち、ターゲットの厚さ方向よりもターゲットの輪郭内向きに傾斜させることが、非エロージョン領域の低減に有効であることを見出した。
【0019】
なお、上記の説明では、通常の表記に従って磁力線をN極からS極へ到達するように表記したが、逆の極性としても現象の理解には支障がない。
【0020】
さらに、非エロージョン領域が発生している場合には、プラズマ発生が抑制されていることになる。このため、印加された供給電力がプラズマ発生に消費されずに余剰となる。この余剰電力が、もともとの非エロージョン領域とは異なる領域に対して再分配される、あるいは、全体の電圧(電力)変動として吸収されることになる。従って、電圧変動のようにプラズマ発生条件が変動してしまい、結果的に膜厚分布のばらつき、膜質特性分布のばらつき拡大の原因となる。
【0021】
つまり、電子がアノードに吸われた場合、非エロージョン領域発生に起因して、膜厚分布のばらつき、膜質特性分布のばらつきが拡大することになる。
【0022】
さらに、非エロージョン領域が発生している場合、電圧変動等によるプラズマ発生条件の部分的変動により、もともとの非エロージョン領域とは異なる非エロージョン領域が発生してしまうこともある。この場合、パーティクル発生、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきなどが拡大してしまうことになる。
【0023】
このため、本願発明者らはこの問題を解決するために、矩形となるマグネットユニットの揺動範囲の縁部のうち揺動方向に沿った辺となる縁部において、マグネットユニットの形成する磁力線を、アノードに向かわないようにすることで、吸われる電子を減少することが可能であることを見出した。つまり、矩形となるマグネットユニットの揺動範囲の縁部のうち揺動方向に沿った辺となる縁部の一端において、マグネットの形成する磁力線を、ターゲットの厚さ方向よりもマグネットユニットの揺動範囲の縁部の他端に向けて傾斜させる、すなわち、ターゲットの厚さ方向よりもターゲットの揺動範囲における輪郭内向きに傾斜させることが、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制に有効であることを見出した。
なお、本願発明者らはこの問題を解決するために、マグネットユニットの揺動端の一端においても、同様に磁力線を形成可能とすることが好ましいことも見出した。
【0024】
一方、プラズマが発生している間、レーストラック形状のマグネットに沿って周回する電子等は、隣接するマグネットユニットで周回している電子等とは独立に周回している。しかし、マグネットユニットの形成する磁力線が乱れた場合、隣接するマグネットユニットで周回している電子等が混ざってしまう可能性がある。この状態では、発生するプラズマが不安定になる。このようなプラズマの不安定な状態は、複数本並列に並べられたマグネットユニットの長手方向の端部付近で発生していることが判明した。
【0025】
特に、フラットパネルディスプレイの製造に利用されるガラス基板のように大面積の基板に成膜するような場合、ターゲットも長く製作せざるを得ず、これに伴い、マグネットユニットにおけるマグネット、つまり、磁石ユニットの中央磁石部や周縁磁石部の長さも長くなる。この場合、電磁場によって曲げられて向きを変える前の周辺領域で、レーストラック状に周回する電子の密度が局所的に高くなり、向きを変えた後の周辺領域での周回電子の密度が局所的に低くなる。このような現象に起因して、隣接するマグネットユニットで周回している電子等が混ざってしまう可能性があることを本願発明者らは見出した。
【0026】
ここで、電子の密度が局所的に高くなった領域では、プラズマが集中して、基板温度が上がってしまう。また、電子の密度が局所的に低くなった領域では、プラズマの発生が不安定化して、プラズマが消えてしまう場合がある。つまり、このような現象が発生した場合には、結果的にプラズマが不安定化し、パーティクル発生、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきなどが拡大してしまうことになる。
【0027】
本願発明者らはこの問題を解決するために、電子等が、複数本並列に並べられたマグネットユニットにおいて、それぞれ独立に分離した状態で、レーストラック形状に安定して周回する状態が可能な磁力線を形成することで、安定したプラズマ発生を持続することが可能なことを見出した。これにより、プラズマの局所的な消失などを招くことなく、スパッタリングの進行に伴うターゲットの侵食領域を略均一にでき、ターゲットの利用効率を高めることができる。
【0028】
これらを鑑みて、本願発明者らは、以下のように本願発明を完成した。
【0029】
(1)本発明の一態様にかかるスパッタリング装置は、
被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを相対的に基板表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間で往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するとともに、
前記マグネットユニットは、一方の前記揺動端と他方の前記揺動端とを結ぶ揺動領域の輪郭辺の近傍に位置する前記長手方向の端部において、前記長手方向の中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するように配置されている、
ことにより上記課題を解決した。
(2)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)において、
前記マグネットユニットは、
線状に配置されて前記ターゲットへ向かう磁極である中央磁石部と、
前記ターゲットへ向かう磁極で前記中央磁石部と極性が異なり、前記中央磁石部の両側に等間隔で平行に延びる長手直線部および両方の前記長手直線部の端部を夫々橋渡す橋渡し部を有するとともに前記揺動領域に沿って前記中央磁石部の周囲を囲う周縁磁石部と、
を備え、
前記長手方向の中央部に対して前記長手方向の端部では前記中央磁石部と前記周縁磁石部との磁力密度が均一化するように配置されている、
ことができる。
(3)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記周縁磁石部は、前記橋渡し部のコーナー部で前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部の前記長手直線部に対して小さく形成される、
ことができる。
(4)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部が前記長手直線部とほぼ等しい肉厚で形成される、
ことができる。
(5)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の延長線と前記長手直線部の延長線とで形成される前記揺動領域に沿った外周輪郭形状に比べて、前記揺動領域に沿った前記コーナー部の外周輪郭が前記中央磁石部に近接して形成される、
ことができる。
(6)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記コーナー部が、前記短手直線部に対して前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った端部よりも、前記長手方向の中央部に近接する位置で接続される、
ことができる。
(7)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った長さが、前記揺動領域に沿って前記長手方向の中央部における前記揺動方向に沿った前記長手直線部の離間距離よりも短く形成される、
ことができる。
(8)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記長手方向における前記コーナー部の長さが、前記長手方向の中央部における前記揺動領域に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離近とほぼ等しい、
ことができる。
(9)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記揺動領域に沿った前記短手直線部と前記中央磁石部の端部との離間距離が、前記長手方向の中央部での前記揺動方向に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離よりも小さく形成される、
ことができる。
(10)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記中央磁石部は、前記長手方向の端部に、前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部に対して小さく形成される挟幅部を有する、
ことができる。
(11)本発明のスパッタリング装置は、上記(10)において、
前記中央磁石部の前記挟幅部は、前記長手方向で前記長手直線部よりも前記短手直線部に近接して配置される、
ことができる。
(12)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記マグネットユニットは、前記コーナー部が減肉されていない構造に比べて前記長手方向の寸法が短い、
ことができる。
(13)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)から(12)のいずれかにおいて、
前記マグネットユニットが、前記揺動方向に複数本並んで平行に配置される、
ことができる。
【0030】
(1)本発明の一態様にかかるスパッタリング装置は、
被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを相対的に基板表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間で往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するとともに、
前記マグネットユニットは、一方の前記揺動端と他方の前記揺動端とを結ぶ揺動領域の輪郭辺の近傍に位置する前記長手方向の端部において、前記長手方向の中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するように配置されている、
ことにより上記課題を解決した。
【0031】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部において、形成する磁力線を、長手方向中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するようにバランスをとって配置されたマグネット(磁極)によって、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができる。これにより、アノードに吸われる電子を減少することが可能となる。そのため、プラズマが吸われてしまいプラズマ密度が減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制できる。これにより、発生するプラズマを安定させて、エロージョン-非エロージョン境界領域を効果的に低減して、エロージョン-非エロージョン境界領域が形成されることに起因するパーティクル発生を低減することができる。
【0032】
同時に、マグネットユニットにおいて周回する電子等をきれいに閉じ込めて、レーストラック形状に沿って周回させて、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となる。これにより、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0033】
(2)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)において、
前記マグネットユニットは、
線状に配置されて前記ターゲットへ向かう磁極である中央磁石部と、
前記ターゲットへ向かう磁極で前記中央磁石部と極性が異なり、前記中央磁石部の両側に等間隔で平行に延びる長手直線部および両方の前記長手直線部の端部を夫々橋渡す橋渡し部を有するとともに前記揺動領域に沿って前記中央磁石部の周囲を囲う周縁磁石部と、
を備え、
前記長手方向の中央部に対して前記長手方向の端部では前記中央磁石部と前記周縁磁石部との磁力密度が均一化するように配置されている、
ことができる。
【0034】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部において、形成する磁力線を、長手方向中央部に対して両磁極の磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって配置された中央磁石部と周縁磁石部とによって、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができる。これにより、アノードに吸われる電子を減少することが可能となる。そのため、プラズマが吸われることで不安定化することを防止して、プラズマ密度を均一化することができる。これにより、エロージョン-非エロージョン境界領域を効果的に低減して、エロージョン-非エロージョン境界領域が形成されることに起因するパーティクル発生を低減することができる。
【0035】
同時に、マグネットユニットによって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、レーストラック形状に沿って周回させて、マグネットユニットの長手方向の端部において、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0036】
(3)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記周縁磁石部は、前記橋渡し部のコーナー部で前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部の前記長手直線部に対して小さく形成される、
ことができる。
【0037】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部において、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする中央磁石部と周縁磁石部との磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって配置することができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
【0038】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、中央磁石部と周縁磁石部とによって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0039】
(4)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部が前記長手直線部とほぼ等しい肉厚で形成される、
ことができる。
【0040】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとった配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
【0041】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0042】
(5)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の延長線と前記長手直線部の延長線とで形成される前記揺動領域に沿った外周輪郭形状に比べて、前記揺動領域に沿った前記コーナー部の外周輪郭が前記中央磁石部に近接して形成される、
ことができる。
【0043】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、コーナー部が中央磁石部に近接して形成されることで、中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0044】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0045】
(6)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記コーナー部が、前記短手直線部に対して前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った端部よりも、前記長手方向の中央部に近接する位置で接続される、
ことができる。
【0046】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、コーナー部が中央磁石部に近接する位置で接続されることで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0047】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0048】
(7)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記短手直線部の前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った長さが、前記揺動領域に沿って前記長手方向の中央部における前記揺動方向に沿った前記長手直線部の離間距離よりも短く形成される、
ことができる。
【0049】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、短手直線部の長さを上述したように構成することで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0050】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0051】
(8)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記長手方向における前記コーナー部の長さが、前記長手方向の中央部における前記揺動領域に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離近とほぼ等しい、
ことができる。
【0052】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、コーナー部の長さを上述したように構成することで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0053】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0054】
(9)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記揺動領域に沿った前記短手直線部と前記中央磁石部の端部との離間距離が、前記長手方向の中央部での前記揺動方向に沿った前記長手直線部と前記中央磁石部との離間距離よりも小さく形成される、
ことができる。
【0055】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、中央磁石部の端部位置を上述したように構成することで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0056】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0057】
(10)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記周縁磁石部の前記橋渡し部は、
前記長手直線部に接続する前記コーナー部と、
両方の前記コーナー部に接続されて前記揺動領域の輪郭のうち前記揺動方向に沿った短手直線部と、
を備え、
前記中央磁石部は、前記長手方向の端部に、前記揺動領域に沿った肉厚が前記長手方向の中央部に対して小さく形成される挟幅部を有する、
ことができる。
【0058】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、コーナー部を上述したように減肉した構成することで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置として、安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0059】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0060】
(11)本発明のスパッタリング装置は、上記(10)において、
前記中央磁石部の前記挟幅部は、前記長手方向で前記長手直線部よりも前記短手直線部に近接して配置される、
ことができる。
【0061】
上記の構成によれば、マグネットユニットの長手方向の端部では、コーナー部と短手直線部とによって、レーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した配置とすることができる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、ターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができるので、アノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、プラズマ発生を安定化することができる。
ここで、挟幅部を上述したように構成することで、周縁磁石部と中央磁石部とのバランスを取った配置としても安定して電子等をトラップする磁場を発生させて周回させることができる。
【0062】
同時に、マグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、マグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0063】
(12)本発明のスパッタリング装置は、上記(3)において、
前記マグネットユニットは、前記コーナー部が減肉されていない構造に比べて前記長手方向の寸法が短い、
ことができる。
【0064】
上記の構成によれば、上述したマグネットユニットの長手方向の端部で、コーナー部が減肉されていない構造に比べて、マグネットユニットで発生する水平磁場のピーク位置を、長手方向に沿って外側に移動させることができる。これにより、同じ面積のエロージョン領域でスパッタリング処理をおこなうターゲットに対して、マグネットユニットの長手方向の寸法を小さくすることができる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【0065】
(13)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)から(12)のいずれかにおいて、
前記マグネットユニットが、前記揺動方向に複数本並んで平行に配置される、
ことができる。
【0066】
上記の構成によれば、揺動する複数のマグネットユニットにおいて、その長手方向の端部で、いずれもレーストラック形状に周回する電子の軌跡に沿って、この電子等をトラップする磁力密度が均一化するように互いにバランスをとって安定した状態のままで、揺動させることができる。これにより、複数本のマグネットユニットの長手方向の端部において、いずれもターゲット面の法線から傾斜しない磁場として発生させることができる。したがって、全てのマグネットユニットの端部において、いずれもアノードに吸われる電子を減少すること、および、プラズマ密度の減少にともなって隣接してプラズマ密度が増大してしまうことを抑制可能とすることができる。そのため、ターゲット全体において、プラズマ発生を安定化することができる。
【0067】
同時に、全てのマグネットユニットの長手方向の端部において、コーナー部および短手直線部と、中央磁石部と、によって周回する電子等をきれいに閉じ込めて、トラップした電子等をレーストラック形状に沿って周回させ、外部へと漏洩しない状態にできる。これにより、全てのマグネットユニットの長手方向の端部において、電子やプラズマが集中してその密度が増大することを防止できる。同時に、揺動領域の全域において、供給電圧の変動を抑制して、マグネットユニットの長手方向端部付近におけるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定した状態でマグネットユニットを揺動することが可能となり、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。これにより、ターゲットライフを延ばし、パーティクル発生を抑制することが容易に可能となる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、必要な磁束密度を維持してプラズマ密度を維持することを可能として、非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクルの削減を図ること、および、形成されたプラズマ分布を安定させ、マグネットユニットの揺動位置にかかわらずに膜厚分布・膜厚特性分布の均一性向上を図るとともに、ターゲットライフを延ばすことができることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形を示す模式平面図である。
【
図2】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形における成膜室を示す模式側面図である。
【
図3】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるガラス基板とカソード装置の構成との位置関係を示す模式図である。
【
図4】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるガラス基板とターゲットとマグネットユニットとの位置関係を示す正面図である。
【
図5】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大断面図である。
【
図6】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大正面図である。
【
図7】スパッタリング装置におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図8】スパッタリング装置におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図9】スパッタリング装置におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図10】スパッタリング装置におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図11】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図12】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図13】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図14】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図15】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図16】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図17】本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大正面図である。
【
図18】本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図19】本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図20】本発明に係るスパッタリング装置の第3実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大正面図である。
【
図21】本発明に係るスパッタリング装置の第4実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大断面図である。
【
図22】本発明に係るスパッタリング装置の第4実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図23】本発明に係るスパッタリング装置の第4実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【
図24】本発明に係るスパッタリング装置の実施例を説明するための図である。
【
図25】本発明に係るスパッタリング装置の実施例を説明するための図である。
【
図26】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるスパッタリング装置を示す模式平面図である。
図2は、本実施形態におけるスパッタリング装置における成膜室を示す模式側面図である。図において、符号1は、スパッタリング装置である。
【0071】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、例えば、半導体装置の製造工程や、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造工程においてガラス等からなる基板上にTFT(Thin Film Transistor)を形成する場合などに用いる。本実施形態に係るスパッタリング装置1は、ガラスや樹脂からなる被処理基板に対して、真空環境下で加熱処理、成膜処理、エッチング処理等を行うインターバック式の真空処理装置である。
【0072】
本実施形態では、ガラス基板(被成膜基板、透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2500mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0073】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、
図1に示すように、ロード・アンロード室(真空チャンバ)2と、成膜室(真空チャンバ)4と、搬送室(真空チャンバ)3と、を備えている。
ロード・アンロード室2は、略矩形のガラス基板11(被処理基板)を外部との間で搬入/搬出する。成膜室4は、ガラス基板11上に、例えば、ZnO系やIn
2O
3系の透明導電膜等、アルミニウムや銀等の金属や酸化物、それ以外の被膜をスパッタリング法により形成する耐圧の真空チャンバである。搬送室3は、成膜室4とロード・アンロード室2との間に位置し、成膜室4とロード・アンロード室2(真空チャンバ)との間でガラス基板11を搬送する。
【0074】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、
図1に示すように、サイドスパッタ式の装置として構成できる。あるいは、本実施形態に係るスパッタリング装置1は、
図2に示すように、スパッタダウン式の装置として構成できる。さらに、スパッタアップ式の装置として構成することもできる。
【0075】
さらに、スパッタリング装置1には、成膜室(真空チャンバ)4Aとロード・アンロード室(真空チャンバ)2aとを設けてもよい。これら複数のチャンバであるロード・アンロード室2、ロード・アンロード室2a、成膜室4、成膜室4Aは、搬送室3の周囲を取り囲むように形成されている。こうしたチャンバは、例えば、互いに隣接して形成された2つのロード・アンロード室(真空チャンバ)と、複数の処理室(真空チャンバ)とを有して構成されることになる。
【0076】
例えば、一方のロード・アンロード室2は、外部からスパッタリング装置1(真空処理装置)の内部に向けてガラス基板11を搬入するロード室であり、他方のロード・アンロード室2aは、スパッタリング装置1の内部から外部にガラス基板11を搬出するアンロード室である。また、成膜室4と成膜室4Aとが異なる成膜工程を行う構成が採用されてもよい。また、成膜室4と成膜室4Aとが異なる方式のスパッタリング処理を行う構成が採用されてもよい。たとえば、成膜室4と成膜室4Aとの一方がサイドスパッタ式、他方がスパッタダウン式の装置として構成できる。
【0077】
搬送室3とロード・アンロード室2との間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。同様に、搬送室3とロード・アンロード室2aとの間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。搬送室3と成膜室4との間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。搬送室3と成膜室4Aとの間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。
【0078】
ロード・アンロード室2には、スパッタリング装置1の外部から搬入されたガラス基板11の載置位置を設定してアライメント可能な位置決め部材が配置されていてもよい。ロード・アンロード室2には、また、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の粗引き排気装置(粗引き排気手段、低真空排気装置)が設けられる。
【0079】
搬送室3の内部には、
図1に示すように、搬送装置(搬送ロボット)3aが配置されている。
搬送装置3aは、回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動装置と、回転軸に取り付けられたロボットアームと、ロボットアームの一端に形成されたロボットハンドと、ロボットハンドを上下動させる上下動装置とを有している。ロボットアームは、互いに直交してそれぞれ水平方向にスライド可能な第一のアーム部と、第二のアーム部とから構成されている。搬送装置3aは、被搬送物であるガラス基板11を、ロード・アンロード室2、ロード・アンロード室2a、成膜室4、成膜室4Aの各々と、搬送室3と、の間で移動させることができる。
【0080】
成膜室4には、
図1に示すように、カソード装置10と、マスク等を有する基板ホルダとされた基板保持部13と、ガス導入装置(ガス導入手段)および高真空排気装置(高真空排気手段)を備えるガス制御部14と、が設けられている。
成膜室4の内部は、
図1に示すように、成膜時にガラス基板11の表面が露出する前側空間41と、成膜時にガラス基板11の裏面側に位置する裏側空間42とで構成されている。前側空間41には、カソード装置10が配置される。
【0081】
カソード装置10は、
図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、搬送室3に接続される搬送口4aから最も遠い位置に立設される。
また、カソード装置10は、
図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部において、搬送口4aから搬送室3に搬送した水平位置のガラス基板11の上方に、かつ、ガラス基板11と平行に対向して配置される。ここで、成膜口4bの周囲には、マスク20が配置されてもよい。
【0082】
基板保持部(基板保持機構)13は、
図1または
図2に示すように、裏側空間42内部に設けられている。基板保持部13は、搬送口4aから搬入されたガラス基板11を支持可能とされる。
基板保持部13は、
図1に示すように、成膜中に後述するターゲット23とガラス基板11の被処理面(成膜面)11aとが対向するように、ガラス基板11を保持する。基板保持部13は、成膜中には、立設されたカソード装置10に対向する縦位置にガラス基板11を保持する。
【0083】
基板保持部13(基板保持手段)は、
図2に示すように、成膜中に後述するターゲット23とガラス基板11の被処理面(成膜面)11aとが対向するように、ガラス基板11を保持する。基板保持部13は、成膜中には、下方に向いたカソード装置10に対向する水平位置にガラス基板11を保持する。
基板保持部13は、
図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、裏側空間42の下側位置で、搬送口4aおよび/または成膜口4bと略並行に延在する揺動軸と、揺動軸に取り付けられガラス基板11の裏面を保持する保持部と、を備えてもよい。
【0084】
ガス制御部14におけるガス導入装置(ガス導入手段)は、成膜室4の内部にガスを導入する。ガス制御部14における高真空排気装置(高真空排気手段)は、成膜室4の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
【0085】
カソード装置10は、
図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、成膜室4の内部における成膜位置(プラズマ処理位置)とされたガラス基板11に対してガラス基板11の主面に沿った水平方向に揺動可能とされている。この場合、カソード装置10は、カソードボックスと称される箱形に構成されてもよい。
カソード装置10は、
図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部において、成膜室4の内部における成膜位置(プラズマ処理位置)とされたガラス基板11に対してガラス基板11の主面に沿った水平方向に揺動可能とされている。
【0086】
以下の説明では、
図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部におけるカソード装置10について説明するが、揺動方向が異なるだけで、
図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部におけるカソード装置10も、同じ構成とすることができる。
【0087】
図3は、本実施形態のスパッタリング装置におけるガラス基板とカソード装置の構成との位置関係を示す模式図である。
カソード装置10は、
図3に示すように、1つのカソードユニット22を有する。
カソードユニット22は、
図3に示すように、ガラス基板11の表面と対向するZX平面に沿って配置されている。カソードユニット22では、ターゲット23、バッキングプレート24、および、マグネットユニット25が、ガラス基板11に近い位置から離間するY方向に向けて、この順に配置されている。
【0088】
なお、
図3おいて、カソード装置10は、
図1に示すサイドスパッタ式に即して、ガラス基板11と略平行にターゲット23を鉛直方向に立てた縦型として記載している。さらに本実施形態の構成は、
図2に示すダウンスパッタ式に即して、ガラス基板11が水平状態でターゲット23の下側に配置されたダウンデポの場合でも、XYZの方向をそれぞれ対応して読み替えることで、同様の構成に対応することができる。
【0089】
図4は、本実施形態のスパッタリング装置におけるガラス基板とターゲットとマグネットユニットとの位置関係を示す正面図である。
ターゲット23は、ガラス基板11と対向するZX平面に沿った平板状に配置される。ターゲット23は、カソードボックスの表面でガラス基板11に対向する位置に露出している。
【0090】
ターゲット23は、
図4に示すように、Z方向においてガラス基板11よりも長い幅を有する。また、ターゲット23は、揺動方向であるX方向においてガラス基板11よりも大きい幅を有する。ターゲット23の周囲には、アノード28が設けられる。
アノード28は、ターゲット23の全周に設けられる。アノード28は、ターゲット23からはみ出したバッキングプレート24を、ガラス基板11に対して覆っている。
【0091】
バッキングプレート24は、ガラス基板11と対向するZX平面に沿った平板状に形成される。バッキングプレート24は、ターゲット23のガラス基板11と向かい合わない面に接合されている。バッキングプレート24には、直流電源を有する制御部26が接続している。直流電源から供給される直流電力は、バッキングプレート24を通じてターゲット23に供給される。カソードの電源として直流電源に変えて、直流電源・パルス電源・RF電源を用いてもよい。
カソードユニット22は、ガラス基板11の成膜面11aと対向するZX平面に沿ってターゲット23が配置されている。カソードユニット22には、ターゲット23の裏面側、つまり、ターゲット23に対してバッキングプレート24に近接する位置に、複数本のマグネットユニット25が設けられる。
【0092】
複数本のマグネットユニット25は、多連マグネットである。複数本のマグネットユニット25は、長手方向がZ方向に沿って配置されている。複数本のマグネットユニット25は、ZX平面に沿って互いに平行に配置される。マグネットユニット25は、その長手方向がガラス基板11の表面に沿って揺動方向であるX方向に交差する揺動幅方向であるY方向に延在する。X方向において、複数本のマグネットユニット25は、互いに等間隔に配置される。
【0093】
本実施形態では、例えば9本のマグネットユニット25がX方向に隣接される。マグネットユニット25の本数は、ガラス基板11の面積やターゲット23の面積、あるいは、後述するマグネットユニット25の揺動範囲等に応じて適宜設定することができる。なお、本実施形態におけるカソードユニット22では、ガラス基板11に対してターゲット23が固定配置されて、ターゲット23が成膜室4に固定された構成とされる。
【0094】
マグネットユニット25は、それぞれ磁気回路を形成している。
1本のマグネットユニット25は、ガラス基板11と向かい合うターゲット23の表面23aにそれぞれマグネトロン磁場を形成する。
それぞれのマグネットユニット25は、永久磁石の組み合わせによって所定の磁気回路を形成する構成されてもよい。それぞれのマグネットユニット25は、個別に制御部26に接続されて、個々に発生する磁場状態を制御可能な構成としてもよい。
【0095】
図5は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットにおける端部を示す拡大断面図である。
図6は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットにおける端部を示す拡大正面図である。
マグネットユニット25は、
図4~
図6に示すように、ヨーク31と、中央磁石部50と、周縁磁石部60と、を有する。
【0096】
ヨーク31は、略矩形輪郭を有する平板状の磁石ベースとされる。ヨーク31は、その表面に中央領域25aを有する。
中央磁石部50は、Z方向を長手方向とする棒状の複合磁石体である。中央磁石部50は、中央領域25aにおいてX方向の中央位置に配置される。中央磁石部50は、Z方向に沿った略直線状に配置される。
周縁磁石部60は、磁石ベース(ヨーク)31平面において、中央磁石部50から離間して、この中央磁石部50を囲むように周設される。周縁磁石部60は、ZX面に沿って配置される略長円の環状磁石である。
【0097】
中央磁石部50と周縁磁石部60とは、いずれもZ方向に向かう磁極面(磁極平面)30を有する。中央磁石部50と周縁磁石部60とは、いずれもZX面に沿った磁極面30を有する。中央磁石部50と周縁磁石部60とは、互いに極性が異なる。中央磁石部50と周縁磁石部60とは磁気回路を構成する。
中央磁石部50および周縁磁石部60は、マグネットユニット25の長手方向であるZ方向の中央領域25aにおいて、互いに平行である平行領域を形成する。
【0098】
中央磁石部50は、その延在するZ方向に複数に分割されている。中央磁石部50は、分割された個々の磁石がZ方向に連続的に隣接して配置される。中央磁石部50は、複数の磁石を棒状に並べた構成である。
【0099】
同様に、周縁磁石部60は、環状に延在するZ方向およびX方向に沿って複数個に分割されている。周縁磁石部60は、分割された個々の磁石がZ方向およびX方向に連続的に隣接して配置される。周縁磁石部60は、複数の磁石を環状に並べた構成である。周縁磁石部60は、ZX面において、長円形状、言い換えると、レーストラック形状に配置される。または、周縁磁石部60は、ZX面において、四隅を角丸めした長方形に近い形状として配置される。
【0100】
ここで、長円形状とは、平面上で2分割した円を分割線と直交する方向に離間し、分割して対向する位置の端部どうしを平行な2直線で結んだ形状である。あるいは、レーストラック形状とは、長方形の四隅を角丸めするとともに、短辺がなくなる程度まで円弧状に角丸めした輪郭形状を意味する。
【0101】
周縁磁石部60は、
図5,
図6に示すように、長手直線部61と、長手直線部62と、橋渡し部63と、を有する。
長手直線部61と長手直線部62とは、周縁磁石部60のうち、Z方向に延在する部分である。長手直線部61と長手直線部62とは、ZX面において、いずれも、中央磁石部50の両側に平行に延びる。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向における互いの離間距離が等しい。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向に等間隔に配置される。
【0102】
長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長が、互いに等しく形成される。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向において、互いに等しい位置に配置される。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向における幅寸法が等しく形成される。長手直線部61の外周面(外周部)61dと長手直線部62の外周面(外周部)62dとは、ヨーク31の外周輪郭のうちZ方向に沿った辺に沿って配置される。
【0103】
長手直線部61の端部(端面)61aと長手直線部62の端部(端面)62aとは、Z方向の位置が互いに同じ配置である。長手直線部61の内周面(内周部)61cと長手直線部62の内周面(内周部)62cとは、互いに平行に対向する。長手直線部61の内周面61cと長手直線部62の内周面62cとは、いずれもZY平面に沿って形成される。
【0104】
橋渡し部63は、長手直線部61と長手直線部62とにおけるZ方向の端部を夫々橋渡ししている。橋渡し部63は、Z方向における長手直線部61と長手直線部62との橋渡し部を有する。橋渡し部63は、マグネットユニット25におけるZ方向の端部に配置される。橋渡し部63は、長手直線部61の端部61aからZ方向に向かい、X方向に曲がって、さらにZ方向に曲がって長手直線部62の端部62aに接続する。橋渡し部63は、中央領域25aよりもZ方向で外側となる端部領域25bに含まれる。
【0105】
橋渡し部63は、長手直線部62の端部62aに接続するコーナー部64と、長手直線部61の端部61aに接続するコーナー部65と、両方のコーナー部64およびコーナー部65に接続されてX方向に沿って延在する短手直線部66と、を備える。橋渡し部63は、長円形状の半円部分に相当する。
【0106】
短手直線部66は、Y方向視して、略矩形の輪郭を有する。短手直線部66の外周面66dは、ヨーク31のZ方向端部に沿って配置される。短手直線部66は、ヨーク31のZ方向端部に対して、X方向の中央部に配置される。短手直線部66のZ方向の幅寸法は、長手直線部61および長手直線部62のX方向の幅寸法とほぼ等しい。あるいは、短手直線部66のZ方向の幅寸法は、長手直線部61および長手直線部62のX方向の幅寸法よりも若干大きい。
【0107】
短手直線部66は、X方向に沿った略直線状に形成される。X方向において、短手直線部66の長さは、長手直線部61と長手直線部62との離間距離とほぼ同じである。つまり、短手直線部66の端部(端面)66aは、X方向の位置が、長手直線部61の内周面61cとほぼ一致する。短手直線部66の端部66aは、長手直線部61の内周面61cと面一である。同様に、短手直線部66の端部66bは、X方向の位置が、長手直線部62の内周面62cとほぼ一致する。短手直線部66の端部66bは、長手直線部61の内周面62cと面一である。
【0108】
あるいは、X方向において、短手直線部66の長さは、中央領域25aにおける長手直線部61と長手直線部62との離間距離よりも若干小さい。つまり、短手直線部66の端部66aは、X方向の位置が、長手直線部61の内周面61cよりも中央磁石部50に近接する。同様に、短手直線部66の端部66bは、X方向の位置が、長手直線部62の内周面62cよりも中央磁石部50に近接する。
【0109】
コーナー部65の一方の端部は、長手直線部61の端部61aに接続する。コーナー部65の他方の端部は、短手直線部66の内周面66cに接続する。つまり、コーナー部65は、短手直線部66に対して揺動領域の輪郭のうち揺動方向に沿った端部66aよりも、Z方向の中央部に近接する位置で接続される。コーナー部65の他方の端部は、短手直線部66の端部66aよりも、X方向で中央磁石部50に近接する内周面66cに接続する。
【0110】
コーナー部65は、Y方向視して正方形の輪郭形状を有する3つの磁石から構成される。すなわち、コーナー部65は、第1コーナー部651と、第2コーナー部652と、第3コーナー部653と、から構成される。
第1コーナー部651と第2コーナー部652と第3コーナー部653とは、Y方向視していずれも同じ輪郭形状を有する。
【0111】
第1コーナー部651は、Z方向の一端が長手直線部61の端部61aに接続する。第1コーナー部651は、Z方向の一端の全面が長手直線部61の端部61aに接続する。第1コーナー部651は、Z方向の他端が第2コーナー部652に接続する。
第2コーナー部652は、Z方向の一端が第1コーナー部651に接続する。第2コーナー部652は、X方向の幅寸法のうち半分が第1コーナー部651に接続する。第2コーナー部652は、Z方向の他端が第3コーナー部653に接続する。
第3コーナー部653は、Z方向の一端が第2コーナー部652に接続する。第3コーナー部653は、X方向の幅寸法のうち半分が第2コーナー部652に接続する。
第3コーナー部653は、Z方向の他端が短手直線部66の内周面66cに接続する。第3コーナー部653は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の内周面66cに接続する。第3コーナー部653は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の端部66aからはみ出している。
【0112】
第1コーナー部651の内周面(内周部)651bは、長手直線部61の内周面61cと面一である。第1コーナー部651の外周面(外周部)651aは、長手直線部61の外周面61dよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第2コーナー部652の内周面(内周部)652bは、第1コーナー部651の内周面651bよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第2コーナー部652の外周面(外周部)652aは、第1コーナー部651の外周面651aよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第3コーナー部653の内周面(内周部)653bは、第2コーナー部652の内周面652bよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第3コーナー部653の外周面(外周部)653aは、第2コーナー部652の外周面652aよりもX方向で中央磁石部50に近接する。
【0113】
つまり、コーナー部65の外周面は、Z方向において長手直線部61から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部61の外周面651aから短手直線部66の端面66aへと近接するように複数の段差を形成している。コーナー部65の内周面は、外周面と同様に、Z方向において長手直線部61から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部61から中央磁石部50へと近接するように複数の段差を形成している。
【0114】
コーナー部65は、長手直線部61の外周面61dに沿ったZ方向から、短手直線部66の内周面66cに沿ったX方向へと傾斜して湾曲する。コーナー部65は、湾曲する全長にわたって、同じX方向の幅寸法を有する。コーナー部65のX方向の幅寸法は、長手直線部61のX方向の幅寸法よりも小さい。コーナー部65のX方向の幅寸法は、短手直線部66のZ方向の幅寸法よりも小さい。
【0115】
コーナー部65の外周面は、ヨーク31の輪郭よりもマグネットユニット25の内側に向かって凹んでいる。つまり、コーナー部65の外周面は、長手直線部61の外周面61dをZ方向に延長した平面と、短手直線部66の外周面66dをX方向に延長した平面とで形成されるマグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、マグネットユニット25の内側に凹んでいる。コーナー部65の外周面は、マグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、中央磁石部50に近接するように凹んでいる。
【0116】
コーナー部65のZ方向における長さは、後述する中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。つまり、Z方向において、長手直線部61の端部61aと、短手直線部66の内周面66cと、の離間距離は、中央領域25aにおける中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。
【0117】
コーナー部64は、コーナー部65と同様に、Y方向視して正方形の輪郭形状を有する3つの磁石から構成される。すなわち、コーナー部64は、第1コーナー部641と、第2コーナー部642と、第3コーナー部643と、から構成される。
第1コーナー部641と第2コーナー部642と第3コーナー部643とは、Y方向視していずれも同じ輪郭形状を有する。
【0118】
第1コーナー部641は、Z方向の一端が長手直線部62の端部62aに接続する。第1コーナー部641は、Z方向の一端の全面が長手直線部62の端部62aに接続する。第1コーナー部641は、Z方向の他端が第2コーナー部642に接続する。
第2コーナー部642は、Z方向の一端が第1コーナー部641に接続する。第2コーナー部642は、X方向の幅寸法のうち半分が第1コーナー部641に接続する。第2コーナー部642は、Z方向の他端が第3コーナー部643に接続する。
第3コーナー部643は、Z方向の一端が第2コーナー部642に接続する。第3コーナー部643は、X方向の幅寸法のうち半分が第2コーナー部642に接続する。
第3コーナー部643は、Z方向の他端が短手直線部66の内周面66cに接続する。第3コーナー部643は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の内周面66cに接続する。第3コーナー部643は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の端部66bからはみ出している。
【0119】
第1コーナー部641の内周面(内周部)641bは、長手直線部62の内周面62bと面一である。第1コーナー部641の外周面(外周部)641aは、長手直線部62の外周面62dよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第2コーナー部642の内周面(内周部)642bは、第1コーナー部641の内周面641bよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第2コーナー部642の外周面(外周部)642aは、第1コーナー部641の外周面641aよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第3コーナー部643の内周面(内周部)643bは、第2コーナー部642の内周面642bよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第3コーナー部643の外周面(外周部)643aは、第2コーナー部642の外周面642aよりもX方向で中央磁石部50に近接する。
【0120】
つまり、コーナー部64の外周面は、Z方向において長手直線部62から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部62の外周面641aから短手直線部66の端面66aへと近接するように複数の段差を形成している。コーナー部64の内周面は、外周面と同様に、Z方向において長手直線部62から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部62から中央磁石部50へと近接するように複数の段差を形成している。
【0121】
コーナー部64は、長手直線部62の外周面62dに沿ったZ方向から、短手直線部66の内周面66cに沿ったX方向へと傾斜して湾曲する。コーナー部64は、湾曲する全長にわたって、同じX方向の幅寸法を有する。コーナー部64のX方向の幅寸法は、長手直線部62のX方向の幅寸法よりも小さい。コーナー部64のX方向の幅寸法は、短手直線部66のZ方向の幅寸法よりも小さい。
【0122】
コーナー部64の外周面は、ヨーク31の輪郭よりもマグネットユニット25の内側に向かって凹んでいる。つまり、コーナー部64の外周面は、長手直線部62の外周面62dをZ方向に延長した平面と、短手直線部66の外周面66dをX方向に延長した平面とで形成されるマグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、マグネットユニット25の内側に凹んでいる。コーナー部64の外周面は、マグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、中央磁石部50に近接するように凹んでいる。
【0123】
コーナー部64のZ方向における長さは、後述する中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。つまり、Z方向において、長手直線部62の端部62aと、短手直線部66の内周面66cと、の離間距離は、中央領域25aにおける中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。
【0124】
コーナー部64とコーナー部65とは、マグネットユニット25の中心軸線に対して軸対称に形成される。コーナー部64とコーナー部65とは、周縁磁石部60の中心軸線に対して軸対称に形成される。
橋渡し部63は、マグネットユニット25の中心軸線に対して軸対称に形成される。
橋渡し部63のZ方向における寸法は、中央領域25aにおける中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離、および、短手直線部66のZ方向の幅寸法を積算したものと等しい。
【0125】
周縁磁石部60は、長手直線部61および長手直線部62が所定の長さに分割されて直線状に組み合わされている。長手直線部61および長手直線部62を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。また、橋渡し部63は、コーナー部64とコーナー部65と短手直線部66とが、所定の長さに分割されて組み合わされる。橋渡し部63を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。
【0126】
周縁磁石部60のZX面に沿った径方向の肉厚は、長手直線部61および長手直線部62、短手直線部66でほぼ等しく形成される。周縁磁石部60のZX面に沿った径方向の肉厚は、長手直線部61および長手直線部62、短手直線部66に比べて、コーナー部64およびコーナー部65が小さく形成されている。
【0127】
中央磁石部50は、
図5,
図6に示すように、長手方向となるZ方向に直線状、あるいは棒状に形成される。中央磁石部50は、所定の長さに分割されて直線状に組み合わされる。中央磁石部50を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。中央磁石部50は、周縁磁石部60には接していない。中央磁石部50は、周縁磁石部60から離間している。
【0128】
中央磁石部50は、長手直線部51と、長手方向であるZ方向の端部となる位置に挟幅部56と、を有する。
【0129】
長手直線部51は、中央領域25aにおいて、Z方向に延在する直線状に形成される。長手直線部51は、マグネットユニット25におけるX方向の中心である中心軸線25Zと平行に配置される。長手直線部51のZ方向に延びる軸線、すなわち、X方向の中心位置は、マグネットユニット25のZ方向に沿った中心軸線25Zと一致する。長手直線部51は、中央領域25aから端部領域25bにはみ出して延在する。長手直線部51の端部領域25bにはみ出した部分は、Z方向に延在する直線状に形成される。長手直線部51のZ方向長さは、長手直線部61および長手直線部62のZ方向長さと等しい。長手直線部51は、中央領域25aにおいて、長手直線部61および長手直線部62と平行である。長手直線部51は、端部領域25bにおいて、長手直線部61および長手直線部62と平行である。
【0130】
長手直線部51は、中央領域25aおよび端部領域25bにはみ出した部分におけるその全長で、X方向の幅寸法は等しく形成される。また、長手直線部51のZX面に沿ったX方向の肉厚は、中央領域25aにおける長手直線部61および長手直線部62の肉厚と、短手直線部66の肉厚と、ほぼ等しく形成される。
【0131】
挟幅部56は、端部領域25bに位置する。挟幅部56は、Y方向視して、矩形輪郭を有する。挟幅部56のX方向幅寸法は、中央領域25aにおける長手直線部51のX方向幅寸法よりも小さい。挟幅部56のX方向幅寸法は、中央領域25aにおける長手直線部51のX方向幅寸法よりも一割から二割程度小さい。挟幅部56は、長手直線部51のZ方向の端部(端面)51aに接続される。
挟幅部56は、長手直線部51の端部51aにおいて、X方向の中央位置に配置される。つまり、長手直線部51の端部51aは、X方向における両端に挟幅部56とは接していない部分を有する。
【0132】
挟幅部56は、長手直線部51の端部51aと接している端面(端部)56cが、長手直線部61の端面61aおよび長手直線部62の端面62aと面一に形成される。挟幅部56は、Z方向において、端面(端部)56cが、コーナー部65が長手直線部61に接続される位置と同じ位置に配置される。
挟幅部56は、Z方向で長手直線部61および長手直線部62よりも短手直線部66に近接して配置される。
【0133】
挟幅部56のZ方向寸法は、Z方向における長手直線部51の端部51aと、短手直線部66の内周面66cとの離間距離の約半分程度である。挟幅部56のZ方向寸法は、コーナー部64およびコーナー部65のZ方向寸法の半分程度である。
Z方向において互いに対向している挟幅部56の端面(端部)56dと、短手直線部66の内周面66cとの離間距離は、中央領域25aにおける長手直線部51と長手直線部61とのX方向離間距離よりも小さい。つまり、Z方向において互いに対向している挟幅部56の端面(端部)56dと、短手直線部66の内周面66cとの離間距離は、中央領域25aにおける長手直線部51と長手直線部61とのX方向離間距離のほぼ半分程度である。
【0134】
本実施形態におけるマグネットユニット25は、コーナー部64及びコーナー部65、挟幅部56の肉厚寸法を小さくすることで、端部領域25bにおいて、中央領域25aに比べて両磁極の磁力密度を均一化して、ターゲット23に向かわずにアノード28へ向かう磁力線を低減し、磁力線の不必要な集中を防止し、レーストラック形状に周回する電子等の乱れを防止し、プラズマ発生の安定化を図り、プラズマ密度の均一化を図り、パーティクル発生を抑制することが可能となる。
【0135】
カソード装置10は、マグネットユニット25を1つの走査方向である揺動方向に沿って移動させるマグネットユニット走査部29を備える。揺動方向は、複数本のマグネットユニット25が立設されるZ方向と直交するX方向である。
マグネットユニット走査部29は、ターゲット23に対するマグネットユニット25の位置を変える。マグネットユニット走査部29は、複数本のマグネットユニット25の相対位置関係を変えずに揺動することが可能である。つまり、マグネットユニット25は、いずれも、ターゲット23に対して、マグネットユニット走査部29によってターゲット23の粒子放出面と平行に移動(揺動)可能とされている。
【0136】
Y方向から見た場合に、マグネットユニット走査部29によってマグネットユニット25が走査する範囲である領域を、揺動領域と称する。なお、揺動領域に沿った、との表現をZX面に沿った、との意味で用いることがある。Y方向から見て、揺動領域は略矩形輪郭を有する。揺動領域は、X方向におけるそれぞれの揺動端となる一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される。
【0137】
マグネットユニット走査部29は、例えば、走査方向に沿って延びるレールと、カソードユニット22におけるX方向の2つの端部の各々に取り付けられたローラーと、ローラーの各々を自転させる複数のモーター等から構成される。マグネットユニット走査部29は、走査方向に沿って延びるレールを有するLMガイド等から構成されてもよい。
マグネットユニット走査部29のレールは、走査方向(X方向)においてターゲット23と同程度かそれよりも長い幅を有する。なお、マグネットユニット走査部29は、走査方向に沿って複数本のマグネットユニット25を一体として移動させることが可能であれば、他の構成として具体化されてもよい。
【0138】
本実施形態におけるカソードユニット22では、
図3,
図4に示すように、マグネットユニット走査部29によって、スパッタ粒子を放出して成膜するとき、マグネットユニット25を揺動端位置Reversと揺動端位置Forwardとの間で往復移動させる。
【0139】
カソードユニット22では、複数本のマグネットユニット25からなる多連マグネットをまとめて、マグネットユニット走査部29により、揺動方向(X方向)中央位置centerから、図において右向きに揺動端位置Forwardまで、さらに揺動端位置Forwardから左向きに中央位置centerを経由して揺動端位置Reversまで、さらに、揺動端位置Reversから中央位置centerまで移動させて、1スキャンが終了する。カソードユニット22では、このスキャンを複数回繰り返す。
【0140】
同時に、マグネットユニット25では、中央磁石部50と周縁磁石部60とが磁場を形成する。このとき、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31で磁気回路を形成する。
【0141】
次に、本実施形態に係るスパッタリング装置1において、ガラス基板11に対する成膜について説明する。
【0142】
まず、スパッタリング装置1の外部から内部に搬入されたガラス基板11は、まず、ロード・アンロード室2内の位置決め部材に載置され、ガラス基板11がアライメントされる(
図1参照)。
次に、ガラス基板11は、搬送装置3aのロボットハンドで支持され、ロード・アンロード室2から取り出される。そして、ガラス基板11は、搬送室3を経由して成膜室4へ搬送される。
【0143】
成膜室4においては、基板保持部13が駆動部によって回転されて水平載置位置に配置される。さらに、図示しないリフトピン移動部によって、リフトピンは、基板保持部13から上方に突出した準備位置に配置されている。
この状態で、成膜室4へ到達したガラス基板11は、搬送装置3aによって基板保持部13の上側に挿入される。
【0144】
次いで、搬送装置3aのロボットハンドが降下して基板保持部13に近接することで、基板保持部13の所定の位置にアライメントされた状態として、リフトピン上にガラス基板11が載置される。その後、搬送ロボット3aのロボットハンドが搬送室3へ後退する。そして、リフトピンが下降し、ガラス基板11が基板保持部13上に支持される。
【0145】
次いで、スパッタリング装置1がサイドスパッタ式の装置である場合には、基板保持部13が回動されることで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は鉛直処理位置に到達するように立ち上がる。これにより、ガラス基板11によって成膜口4bがほぼ閉塞され、ガラス基板11が成膜位置に保持される。この状態でガス制御部14によって所定のガス雰囲気とし、制御部26によってプラズマを発生させ、スパッタリングにより成膜処理をおこなう。成膜処理時の磁場形成等については後述する。
【0146】
スパッタリング装置1がスパッタダウン式の装置である場合には、基板保持部13が上昇することで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は鉛直処理位置に到達する。これにより、ガラス基板11によって成膜口4bがほぼ閉塞され、ガラス基板11が成膜位置に保持される。この状態でガス制御部14によって所定のガス雰囲気とし、制御部26によってプラズマを発生させ、スパッタリングにより成膜処理をおこなう。成膜処理時の磁場形成等については同様に後述する。
【0147】
スパッタリング装置1がサイドスパッタ式の装置である場合には、成膜処理が終了した際に、基板保持部13が回動されることで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は水平載置位置に到達する。
スパッタリング装置1がスパッタダウン式の装置である場合には、成膜処理が終了した際に、基板保持部13が下降することで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は搬出可能位置に到達する。
成膜処理が終了したガラス基板11は、搬送装置3aによって、成膜室4から取り出される。そして、ガラス基板11は、搬送室3を経由してロード・アンロード室2から取り出される。
【0148】
以下、本実施形態におけるマグネットユニット25の作用について説明する。
【0149】
図7は、マグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニットが減肉されていない場合における電子トラッキング状態を示すZ方向に沿った断面模式図である。
図8は、マグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニットが減肉されていない場合のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
図9は、マグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニットが減肉されていない場合における磁力線の向きを示すZY面における模式図である。
図10は、マグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニットが減肉されていない場合におけるプラズマによって掘られたターゲットの厚さを示す模式図である。
まず、マグネットユニット25が減肉されていない場合について説明する。
【0150】
なお、以下の説明では、3本のマグネットユニット25をX方向に並べた状態として説明する。
【0151】
上述したように、マグネットユニット25の形成した磁場により、ターゲット23の表面23aとガラス基板11との間にプラズマを発生させる。この状態で、後述するスパッタ条件とすることで、ガラス基板11の表面に成膜をおこなう。
【0152】
ここで、スパッタリング中、
図9に示すように、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31により磁気回路が形成されている。
これにより、
図8に示すように、磁力線に沿って電子がトラッキングされて、レーストラック状に周回する。このとき、トラッキングされた電子は、周縁磁石部60に沿ったレーストラック状に周回する。トラッキングされた電子は、ZX面において、周縁磁石部60と中央磁石部50との間を周回する。
【0153】
このとき、ターゲット23の揺動領域のうち揺動方向に沿った辺となる端部領域25b付近では、
図9に示すように、N極の周縁磁石部60からの磁力線が、ターゲット23に向かう方向ではなく近接しているアノード28に向かう。つまり、ターゲット23の表面23aの法線に沿った方向よりも、ターゲット23の揺動領域の外側に向かって開いてしまう。
N極の周縁磁石部60からの磁力線は、
図9において、Z方向で下方に向かうに連れて、X方向で左向きに傾いてアノード28に向かっている。
【0154】
このため、ターゲット23の表面23a付近では、N極の周縁磁石部60からの磁力線の密度が低下してしまう。このとき、端部領域25bでは、レーストラック状に電子が周回するため、中央領域25aに比べて電子の流れが不安定になってトラッキングされる電子密度が不安定になる。電子密度が不安定な場合、たとえば、レーストラック状の流れに沿って、電子密度が高い部分と低い部分とが交互に発生する。
図7には、トラッキングされる電子密度が過分になり、プラズマが集中してしまった状態を示している。
【0155】
トラッキングされる電子密度が不充分な場合には、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョン領域が形成されず、Z方向の両端で、非エロージョン領域が形成される。また、トラッキングされる電子密度が過分な場合には、非エロージョン領域をプラズマが叩いてしまい、パーティクルの発生原因となる。さらに、トラッキングされる電子密度が過分な場合には、ターゲット23の掘れ量が多くなり、局所的にターゲット23の厚さが過分に減ってしまう。
【0156】
また、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。この磁力線により、ターゲット23の表面23aにおいては、周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を電子が周回する。このとき、マグネットユニット25の長手方向で電子の移動方向の端部、つまり、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、中央領域25aに比べて移動速度が遅くなり密度が上昇する。
【0157】
その結果、橋渡し部63に沿って電子密度が上昇した位置からさらに電子がX方向からZ方向に曲がる位置においては、密度が減少する。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョンが減少し、非エロージョン領域が形成される。
しかし、この現象は隣り合うマグネットユニット25においてそれぞれ発生するため、1本ずつ分離して周回しているはずの電子が、隣接するマグネットユニット25へと飛び出してしまう。この結果、
図8に示すように、複数のマグネットユニット25でのトラッキングされた電子の流れが混ざった状態となる。
【0158】
図10には、端部領域25bに対応するターゲット23の揺動方向に沿った辺においてプラズマにより掘られたターゲット23の厚さを示している。なお、
図10には、スパッタリングに使用した後のターゲットの厚さ方向断面を模式的にあらわした輪郭形状を添えている。
さらに、マグネットユニット25が減肉されていない場合には、
図10に示すように、端部領域25bに対応するターゲット23の揺動方向に沿った辺に沿って、ターゲット23に、プラズマによって局所的に干された部分と、プラズマによって掘られていない部分とが生じてしまう。ここで、ターゲットライフは、ターゲット23の厚さが最も小さくなった部分によって決定される。このため、同じ厚さのターゲット23であっても、ターゲットライフが短くなってしまう。
【0159】
さらに、ターゲット23の対角となる2箇所に非エロージョン領域が形成される。すると、対角となる2箇所以外にも、非エロージョン領域が形成されやすい。これは、非エロージョン領域が形成された場合には、印加された供給電力がプラズマ発生に消費されずに余剰となる。この余剰電力が、対角となる2箇所の非エロージョン領域とは異なる領域に対して再分配される、あるいは、全体の電圧(電力)変動として吸収されることになる。このような現象が繰り返されるため、マグネットユニット25が減肉されていない場合には、電圧変動のようにプラズマ発生条件が変動してしまうと考えられる。
このようなプラズマ発生の不安定性は、成膜特性の悪化、あるいは、パーティクル発生の原因となることが判明している。
【0160】
このように、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向からずれる現象、電子のトラッキングが充分でなくなる現象、および、プラズマ発生が不安定化する現象は、マグネットユニット25が減肉されていない場合に、橋渡し部63の付近で、中央磁石部50と周縁磁石部60との磁力のバランスが悪くなっていることに起因していると、本願発明者らはみなした。
【0161】
つまり、長手直線部61と長手直線部51とで挟まれた中央領域25a、および、長手直線部62と長手直線部51とで挟まれた中央領域25aでは、N極とS極との強度バランスが好適であるため、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向を向き、電子のトラッキングが充分なされて、電子はスムーズに流れている。
これに対して、橋渡し部63の付近の端部領域25bでは、レーストラック状に曲がる電子の軌跡に沿って、N極とS極との強度バランスが中央領域25aに対して変化している。このような磁石配置が原因で、磁力のバランスが悪くなっていると考えられる。
本実施形態では、このようなバランスの改善を目指した。
【0162】
図11は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25における電子トラッキング状態を示すZ方向に沿った断面模式図である。
図12は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
図13は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25における磁力線の向きを示すZY面における模式図である。
図14は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25におけるプラズマによって掘られたターゲットの厚さを示す模式図である。
次に、マグネットユニット25が減肉された場合について説明する。
【0163】
同様に、3本のマグネットユニット25をX方向に並べた状態として説明する。
【0164】
ここで、スパッタリング中、減肉されたマグネットユニット25においても、
図13に示すように、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。このとき、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31により磁気回路が形成されている。
これにより、
図12に示すように、磁力線に沿って電子がトラッキングされて、レーストラック状に周回する。このとき、トラッキングされた電子は、周縁磁石部60に沿ったレーストラック状に周回する。トラッキングされた電子は、ZX面において、周縁磁石部60と中央磁石部50との間を周回する。
【0165】
このとき、端部領域25b付近では、
図13に示すように、橋渡し部63が中央領域25aに比べて減肉されていることにより、N極の周縁磁石部60からの磁力線が、アノード28に向かう方向ではなく近接しているターゲット23に向かう。つまり、橋渡し部63からの磁力線が、ターゲット23の表面23aの法線に沿って、ターゲット23の揺動領域の外側に向かって開いてしまうことがない。
N極の橋渡し部63からの磁力線は、
図13において、Z方向で下方に向かうに連れて、X方向で左向きに傾くことがなくアノード28には向かわない。
【0166】
このため、ターゲット23の表面23a付近では、N極の橋渡し部63からの磁力線の密度が低下しない。橋渡し部63からの磁力線は均一な密度を維持する。このとき、端部領域25bでは、レーストラック状に電子が周回するため、中央領域25aに比べて電子の流れが不安定になることがない。端部領域25bでは、中央領域25aに比べてってトラッキングされる電子密度が安定化する。電子密度が不安定にならないので、レーストラック状の流れに沿って、電子密度が高い部分と低い部分とが交互に発生することがない。
図11には、トラッキングされる電子密度が均一になり、プラズマが集中していない状態を示している。
【0167】
トラッキングされる電子密度が不充分にならないため、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョン領域がきちんと形成され、Z方向の両端には、非エロージョン領域が形成されたとしてもわずかな大きさである。また、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、非エロージョン領域をプラズマが叩いてしまい、パーティクルの発生原因となることがない。さらに、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、ターゲット23の掘れ量が多くなることがなく、局所的にターゲット23の厚さが過分に減らない状態を維持し、比較的均一にターゲット23の厚さを減らすことができる。
【0168】
また、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。この磁力線により、ターゲット23の表面23aにおいては、周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を電子が周回する。このとき、マグネットユニット25の長手方向で電子の移動方向の端部、つまり、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、中央領域25aに比べて移動速度が遅くなることがない。このため、端部領域25bで電子密度は過分に上昇せず、中央領域25aと同等の電子密度を維持する。
【0169】
その結果、橋渡し部63に沿って電子がX方向からZ方向に曲がる位置においては、電子密度は均一な状態を維持する。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョンが減少することがなく、非エロージョン領域の形成も抑制される。
しかも、この現象は隣り合うマグネットユニット25においてそれぞれ発生し、1本ずつ分離して周回しているはずの電子が、隣接するマグネットユニット25へと飛び出してしまうことがほとんどない。この結果、
図12に示すように、複数のマグネットユニット25で、それぞれのトラッキングされた電子の流れが分離して周回する状態を維持できる。
【0170】
図14には、端部領域25bに対応するターゲット23の揺動方向に沿った辺においてプラズマにより掘られたターゲット23の厚さを示している。なお、
図14には、スパッタリングに使用した後のターゲットの厚さ方向断面を模式的にあらわした輪郭形状を添えている。
本実施形態のように、マグネットユニット25が減肉された場合には、
図14に示すように、端部領域25bに対応するターゲット23の揺動方向に沿った辺に沿って、プラズマによって掘られるターゲット23の深さが均一化する。つまり、ターゲット23には、プラズマによって局所的に深く掘られた部分と、プラズマによって浅く掘られた部分との深さの差を抑制することができる。すると、ターゲットライフが短くなることを抑制できる。すなわち、同じ厚さのターゲット23において、その使用効率を向上することが可能となる。
【0171】
さらに、通常、ターゲット23の対角となる2箇所、および、対角となる2箇所以外にも、非エロージョン領域が形成されやすいが、本実施形態のマグネットユニット25では、非エロージョン領域の形成を抑制できる。あるいは、本実施形態のマグネットユニット25では、非エロージョン領域が形成された場合でも、その境界をはっきりした状態とすることができる。
【0172】
したがって、本実施形態のマグネットユニット25では、非エロージョン領域が形成された場合に発生する、電力余剰と余剰電力の再分配との繰り返し、あるいは、全体電力変動の繰り返しという現象を抑制できる。このため、電圧変動によるプラズマ発生条件の変動を抑制できる。
このようなプラズマ発生の安定性を向上できるので、成膜特性の悪化、あるいは、パーティクル発生を抑制することが可能となる。
【0173】
このように、本実施形態のマグネットユニット25では、橋渡し部63の付近で、中央磁石部50と周縁磁石部60との磁力のバランスを向上したため、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向からずれる現象、電子のトラッキングが充分でなくなる現象、および、プラズマ発生が不安定化する現象を、いずれも抑制することが可能となる。
【0174】
つまり、長手直線部61と長手直線部51とで挟まれた中央領域25a、および、長手直線部62と長手直線部51とで挟まれた中央領域25aと同様に、本実施形態のマグネットユニット25では、橋渡し部63の付近におけるN極とS極との強度バランスが好適である。このため、本実施形態のマグネットユニット25では、端部領域25bにおいて、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向を向き、電子のトラッキングが充分なされて、電子はスムーズに流れている。本実施形態では、このようなバランスを改善することができた。
【0175】
本実施形態のマグネットユニット25では、減肉した橋渡し部63によって、非エロージョン領域の発生を低減し、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。つまり、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になってパーティクル発生の原因となるエロージョン-非エロージョン境界領域の形成が低減されている。
さらに、本実施形態では、非エロージョン領域の発生を抑制することで、供給パワーが再分配されないようにして、電圧変動等によるプラズマ発生条件の部分的変動を抑制し、パーティクル発生、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきなどを抑制することができる。
【0176】
図15は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25で発生した水平磁場のピーク位置のマグネットユニット25のX方向で中央位置におけるZ方向に沿った位置変化を示すグラフである。
図16は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25で発生した水平磁場のピーク位置のマグネットユニット25のZ方向で中央位置におけるX方向に沿った位置変化を示すグラフである。
【0177】
本実施形態の減肉されたマグネットユニット25においては、周縁磁石部60と中央磁石部50とで形成される磁場のうち、水平磁場の大きさが
図15,
図16に示すように形成される。
【0178】
すなわち、減肉されたマグネットユニット25においては、Z方向において、周縁磁石部60と中央磁石部50とで形成される水平磁場のピーク位置が、減肉していないものに比べて、
図15に示すように、Z方向でマグネットの輪郭最外位置からの磁場強度の立ち上がりは、減肉していないものと同じである。減肉されたマグネットユニット25においては、磁場強度が内側に向かって減少し始める位置、つまり、水平磁場のピーク位置が異なる。減肉されたマグネットユニット25においては、減肉していないものに比べて、約20mm中央領域25aから離間している。
【0179】
また、
図16に示すように、X方向においては、揺動方向であるX方向の端部に位置するマグネットユニット25において、X方向で最も端に位置する周縁磁石部60の長手直線部62によって形成される磁場強度が、中央磁石部50の長手直線部51を挟んで揺動領域の内側に隣接する周縁磁石部60の長手直線部61によって形成される磁場強度に比べて、0.9(0.027/0.030)程度小さくなっている。
【0180】
また、3本のマグネットユニット25のうち、X方向で真ん中のマグネットユニット25では、隣接するマグネットユニット25の周縁磁石部60の長手直線部61によって形成される磁場強度に比べて、周縁磁石部60の長手直線部61によって形成される磁場強度が、0.983(0.0295/0.030)程度小さくなっている。
【0181】
このように、本実施形態の減肉されたマグネットユニット25においては、水平磁場のピーク位置が、減肉されていないものに比べて、外向きとなる位置に移動しているために、同じ空間位置としてプラズマを発生させる際に、必要なZ方向長さを短くすることができる。このため、中央領域25aにおいて、長手直線部61、長手直線部62、長手直線部51の長さを減らすことができる。つまり、中央領域25aにおいて構成する磁石の個数を減らし、部品点数を削減し、マグネットユニット25を小型化することができる。
【0182】
同時に、マグネットユニット走査部29によって揺動するマグネットユニット25の重量を軽量化して、マグネットユニット走査部29を小型化することが可能となる。これにともなって、成膜室4内のカソードボックスを小型化し、カソード装置10を小型化して、パーティクルの発生をさらに低減することができる。
【0183】
なお、本実施形態では、橋渡し部63の減肉を、外周輪郭が内側に入り込むように凹ませたが、内周輪郭を外方に膨らませるように減肉することは好ましくない。この構造では、
図26に示すように、コーナー部65およびコーナー部64付近におけるプラズマの集中は改善することができるが、周回するトラッキング電子が隣接するマグネットユニット25で周回する電子と混入してしまうことが低減できないためである。
内周輪郭を外方に膨らませるように減肉したマグネットユニット25で周回する電子を
図26に示す。
【0184】
本実施形態のスパッタリング装置1においては、減肉されたマグネットユニット25を揺することで、橋渡し部63の付近で、中央磁石部50と周縁磁石部60との磁力のバランスを向上したため、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向からずれる現象、電子のトラッキングが充分でなくなる現象、および、プラズマ発生が不安定化する現象を、いずれも抑制することが可能となる。これにより、非エロージョン領域の発生を抑制し、非エロージョン領域からパーティクルが発生することを抑制し、成膜特性の低下を抑制し、膜厚の均一性を向上することが可能となる。
【0185】
つまり、コーナー部64およびコーナー部65の幅寸法が、長手直線部61と長手直線部51と長手直線部62との幅寸法よりも小さくされ、短手直線部66の延長線と長手直線部61および長手直線部62の延長線とで形成される揺動領域に沿った外周輪郭形状に比べて、ZX面におけるコーナー部64およびコーナー部65の外周輪郭が中央磁石部50に近接して形成され、Z方向におけるコーナー部64およびコーナー部65の長さが、中央領域25aにおけるZX面に沿った長手直線部61と長手直線部51との離間距離近、および、長手直線部62と長手直線部51との離間距離近と、ほぼ等しく、ZX面における短手直線部66と中央磁石部50の端部56dとの離間距離が、中央領域25aでのX方向に沿った長手直線部61と長手直線部51との離間距離、長手直線部62と長手直線部51との離間距離よりも小さく形成される構成を採用することで、マグネットユニット25の端部領域25bにおいて、中央領域25aに対して中央磁石部50と周縁磁石部60との両磁極の磁力密度が均一化するようにバランスをとった配置にすることができ、上記の効果を奏することができる。
【0186】
さらに、本実施形態においては、プラズマの局所的な集中が解消されることによって、基板温度の偏りと膜質の偏りを改善するという効果を奏することができる。
【0187】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0188】
図17は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットにおける端部を示す拡大正面図である。本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、コーナー部の輪郭形状に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0189】
本実施形態におけるコーナー部64およびコーナー部65は、
図17に示すように、ZX面における輪郭が平行四辺形である第4コーナー部645および第4コーナー部655を有する。
【0190】
コーナー部65の一方の端部は、長手直線部61の端部61aに接続する。コーナー部65の他方の端部は、短手直線部66の内周面(内周部)66cに接続する。つまり、コーナー部65は、短手直線部66に対して揺動領域の輪郭のうち揺動方向に沿った端部66aよりも、Z方向の中央部に近接する位置で接続される。コーナー部65の他方の端部は、短手直線部66の端部66aよりも、X方向で中央磁石部50に近接する内周面66cに接続する。
【0191】
第4コーナー部655は、Z方向の一端が長手直線部61の端部61aに接続する。第4コーナー部655は、Z方向の一端の全面が長手直線部61の端部61aに接続する。第4コーナー部655は、Z方向の一端がX方向における長手直線部61の端部61aの中央位置に接続する。第4コーナー部655は、Z方向の他端が短手直線部66の内周面66cに接続する。第4コーナー部655は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の内周面66cに接続する。第4コーナー部655は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の端部66aからはみ出している。
【0192】
第4コーナー部655の内周面(内周部)655bは、Z方向の端部が長手直線部61の内周面61cよりもX方向で外方となる位置で接続される。第4コーナー部655の内周面655bは、Z方向の端部が長手直線部61の内周面61bと一致するように接続されてもよい。第4コーナー部655の内周面655bは、マグネットユニット25のZ方向の軸線に対して傾斜している。第4コーナー部655の内周面655bは、Z方向で外方に向かうに連れて、後述する第4コーナー部645の内周面645bに近接するように傾斜している。
【0193】
第4コーナー部655の外周面(外周部)655aは、長手直線部61の外周面61dよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第4コーナー部655の外周面655aは、マグネットユニット25のZ方向の軸線に対して傾斜している。第4コーナー部655の外周面655aは、Z方向で外方に向かうに連れて、後述する第4コーナー部645の外周面645aに近接するように傾斜している。
【0194】
つまり、コーナー部65の外周面655aは、Z方向において長手直線部61から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部61の外周面61dから短手直線部66の端面66aへと近接するように傾斜している。コーナー部65の内周面655bは、外周面655aと同様に、Z方向において長手直線部61から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部61から中央磁石部50へと近接するように傾斜している。
【0195】
コーナー部65は、長手直線部61の外周面61dに沿ったZ方向から、短手直線部66の内周面66cに沿ったX方向へと傾斜する。コーナー部65は、傾斜する全長にわたって、同じX方向の幅寸法を有する。コーナー部65のX方向の幅寸法は、長手直線部61のX方向の幅寸法よりも小さい。コーナー部65のX方向の幅寸法は、短手直線部66のZ方向の幅寸法よりも小さい。
【0196】
コーナー部65の外周面655aは、ヨーク31の輪郭よりもマグネットユニット25の内側に向かって凹んでいる。つまり、コーナー部65の外周面655aは、長手直線部61の外周面61dをZ方向に延長した平面と、短手直線部66の外周面66dをX方向に延長した平面とで形成されるマグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、マグネットユニット25の内側に凹んでいる。コーナー部65の外周面655aは、マグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、中央磁石部50に近接するように凹んでいる。
【0197】
コーナー部65のZ方向における長さは、中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。つまり、Z方向において、長手直線部61の端部61aと、短手直線部66の内周面66cと、の離間距離は、中央領域25aにおける中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。
【0198】
コーナー部64の一方の端部は、長手直線部62の端部62aに接続する。コーナー部64の他方の端部は、短手直線部66の内周面(内周部)66cに接続する。つまり、コーナー部64は、短手直線部66に対して揺動領域の輪郭のうち揺動方向に沿った端部66aよりも、Z方向の中央部に近接する位置で接続される。コーナー部64の他方の端部は、短手直線部66の端部66aよりも、X方向で中央磁石部50に近接する内周面66cに接続する。
【0199】
第4コーナー部645は、Z方向の一端が長手直線部62の端部62aに接続する。第4コーナー部645は、Z方向の一端の全面が長手直線部62の端部62aに接続する。第4コーナー部645は、Z方向の一端がX方向における長手直線部62の端部62aの中央位置に接続する。第4コーナー部645は、Z方向の他端が短手直線部66の内周面66cに接続する。第4コーナー部645は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の内周面66cに接続する。第4コーナー部645は、X方向の幅寸法のうち半分が短手直線部66の端部66aからはみ出している。
【0200】
第4コーナー部645の内周面(内周部)645bは、Z方向の端部が長手直線部62の内周面61cよりもX方向で外方となる位置で接続される。第4コーナー部645の内周面645bは、Z方向の端部が長手直線部62の内周面61cと一致するように接続されてもよい。第4コーナー部645の内周面645bは、マグネットユニット25のZ方向の軸線に対して傾斜している。第4コーナー部645の内周面645bは、Z方向で外方に向かうに連れて、第4コーナー部655の内周面655bに近接するように傾斜している。
【0201】
第4コーナー部645の外周面(外周部)645aは、長手直線部62の外周面62dよりもX方向で中央磁石部50に近接する。第4コーナー部645の外周面645aは、マグネットユニット25のZ方向の軸線に対して傾斜している。第4コーナー部645の外周面645aは、Z方向で外方に向かうに連れて、第4コーナー部655の外周面655aに近接するように傾斜している。
【0202】
つまり、コーナー部64の外周面645aは、Z方向において長手直線部62から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部62の外周面62dから短手直線部66の端面66aへと近接するように傾斜している。コーナー部64の内周面645bは、外周面645aと同様に、Z方向において長手直線部62から短手直線部66へと向かうに伴って、長手直線部62から中央磁石部50へと近接するように傾斜している。
【0203】
コーナー部64は、長手直線部62の外周面62dに沿ったZ方向から、短手直線部66の内周面66cに沿ったX方向へと傾斜する。コーナー部64は、傾斜する全長にわたって、同じX方向の幅寸法を有する。コーナー部64のX方向の幅寸法は、長手直線部61のX方向の幅寸法よりも小さい。コーナー部64のX方向の幅寸法は、短手直線部66のZ方向の幅寸法よりも小さい。
【0204】
コーナー部64の外周面645aは、ヨーク31の輪郭よりもマグネットユニット25の内側に向かって凹んでいる。つまり、コーナー部64の外周面645aは、長手直線部62の外周面62dをZ方向に延長した平面と、短手直線部66の外周面66dをX方向に延長した平面とで形成されるマグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、マグネットユニット25の内側に凹んでいる。コーナー部64の外周面645aは、マグネットユニット25の仮想的な矩形の輪郭よりも、中央磁石部50に近接するように凹んでいる。
【0205】
コーナー部64のZ方向における長さは、中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。つまり、Z方向において、長手直線部62の端部62aと、短手直線部66の内周面66cと、の離間距離は、中央領域25aにおける中央磁石部50と周縁磁石部60とのX方向における離間距離とほぼ等しい。
【0206】
図18は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25における電子トラッキング状態を示すZ方向に沿った断面模式図である。
図19は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
【0207】
本実施形態のマグネットユニット25においても、周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。このとき、端部領域25b付近では、
図17に示すように、橋渡し部63が中央領域25aに比べて減肉されていることにより、N極の周縁磁石部60からの磁力線が、アノード28に向かう方向ではなく近接しているターゲット23に向かう。つまり、橋渡し部63からの磁力線が、ターゲット23の表面23aの法線に沿って、ターゲット23の揺動領域の外側に向かって開いてしまうことがない。
本実施形態のN極の橋渡し部63からの磁力線は、
図13に示した第1実施形態と同様に、Z方向で下方に向かうに連れて、X方向で左向きに傾くことがなくアノード28には向かわない。
【0208】
このため、ターゲット23の表面23a付近では、N極の橋渡し部63からの磁力線の密度が低下しない。橋渡し部63からの磁力線は均一な密度を維持する。このとき、端部領域25bでは、レーストラック状に電子が周回するため、中央領域25aに比べて電子の流れが不安定になることがない。端部領域25bでは、中央領域25aに比べてってトラッキングされる電子密度が安定化する。電子密度が不安定にならないので、レーストラック状の流れに沿って、電子密度が高い部分と低い部分とが交互に発生することがない。
図18には、トラッキングされる電子密度が均一になり、プラズマが集中していない状態を示している。
【0209】
トラッキングされる電子密度が不充分にならないため、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョン領域がきちんと形成され、Z方向の両端には、非エロージョン領域が形成されたとしてもわずかな大きさである。また、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、非エロージョン領域をプラズマが叩いてしまい、パーティクルの発生原因となることがない。さらに、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、ターゲット23の掘れ量が多くなることがなく、局所的にターゲット23の厚さが過分に減らない状態を維持し、比較的均一にターゲット23の厚さを減らすことができる。
【0210】
また、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。この磁力線により、ターゲット23の表面23aにおいては、周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を電子が周回する。このとき、マグネットユニット25の長手方向で電子の移動方向の端部、つまり、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、中央領域25aに比べて移動速度が遅くなることがない。このため、端部領域25bで電子密度は過分に上昇せず、中央領域25aと同等の電子密度を維持する。
【0211】
その結果、橋渡し部63に沿って電子がX方向からZ方向に曲がる位置においては、電子密度は均一な状態を維持する。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョンが減少することがなく、非エロージョン領域の形成も抑制される。
しかも、この現象は隣り合うマグネットユニット25においてそれぞれ発生し、1本ずつ分離して周回しているはずの電子が、隣接するマグネットユニット25へと飛び出してしまうことがほとんどない。この結果、
図19に示すように、複数のマグネットユニット25で、それぞれのトラッキングされた電子の流れが分離して周回する状態を維持できる。
【0212】
本実施形態においては上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。さらに、本実施形態においてはプラズマの局所的な集中が解消されることによって、基板温度の偏りと膜質の偏りを改善するという効果を奏することができる。
【0213】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0214】
図20は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットにおける端部を示す拡大正面図である。本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、中央磁石部の形状に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0215】
本実施形態における中央磁石部50は、
図20に示すように、端部領域25bにおいて、X方向に偏心している。つまり、中央領域25aにおける長手直線部51の沿った中心軸線25Zに対して、端部領域25bでは、Z方向において中央領域25aから離間するにしたがって、中央磁石部50がX方向にずれて配置される。端部領域25bでは、Z方向において中央領域25aから離間するにしたがって、中央磁石部50におけるX方向のずれ量が、大きくなるように配置される。
【0216】
すなわち、中央領域25aにおける長手直線部51の端部51aには、
図20で右側にずれた直線部52が接続される。直線部52の一端は、長手直線部51の端部51aに接続される。直線部52は、マグネットユニット25の中心軸線25Zと平行に配置される。直線部52のX方向の中心位置(Z方向に延在する中心軸線)は、マグネットユニット25のZ方向に沿った中心軸線25Zより
図20で右側にずれて配置される。直線部52のX方向幅寸法は、長手直線部51のX方向幅寸法と同じである。
【0217】
直線部52には、直線部53が接続される。直線部53の一端は、直線部52の他端に接続される。直線部53は、マグネットユニット25の中心軸線25Zと平行に配置される。直線部53のX方向の中心位置(Z方向に沿った中心軸線)は、直線部52のZ方向の中心軸線より
図20で右側にずれて配置される。直線部53のX方向幅寸法は、長手直線部51のX方向幅寸法と同じである。
【0218】
直線部53には、直線部54が接続される。直線部54の一端は、直線部53の他端に接続される。直線部54は、マグネットユニット25の中心軸線25Zと平行に配置される。直線部54のX方向の中心位置(Z方向に沿った中心軸線)は、直線部53のZ方向の中心軸線より
図20で右側にずれて配置される。直線部54のX方向幅寸法は、長手直線部51のX方向幅寸法と同じである。直線部54のX方向の端部(端面)54aには、挟幅部56のZ方向の端部56cが接続される。
【0219】
挟幅部56のX方向幅寸法は、中央領域25aにおける長手直線部51のX方向幅寸法よりも小さい。挟幅部56のX方向幅寸法は、中央領域25aにおける長手直線部51のX方向幅寸法よりも一割から二割程度小さい。
挟幅部56は、直線部54の端部54aにおいて、X方向の中央位置に配置される。つまり、直線部54の端部54aは、X方向における両端に挟幅部56とは接していない部分を有する。
【0220】
これら直線部52、直線部53、直線部54は、いずれも、端部領域25bに配置される。直線部52、直線部53、直線部54は、Z方向に複数の段差を形成している。なお、直線部52、直線部53、直線部54は、長手直線部51よりも
図20で右側にずれて配置されていれば、上記の構成に限定されない。
【0221】
本実施形態のマグネットユニット25は、端部領域25bにおいて、中央磁石部50と長手直線部61とのX方向離間距離が、中央磁石部50と長手直線部62とのX方向離間距離よりも短くなっている。
本実施形態のマグネットユニット25において形成される磁場は、X方向からZ方向、および、Z方向からX方向へと向きを変える前後の端部領域25bでの周回電子の密度差はそれほどなく均一化されている。
【0222】
端部領域25bでは、ZX平面において向きを変えた後の中央領域25aに向かう周回電子のガラス基板11への飛散は、第1実施形態におけるマグネットユニット25よりも抑制される。言い換えると、ZX平面において向きを変えた後の中央領域25aに向かう周回電子のガラス基板11への飛散は、第1実施形態におけるマグネットユニット25に比べて漏洩磁場にきちんとトラップされる。
【0223】
一方、向きを変えた後、端部領域25bから中央領域25aに向かう所定長さの範囲では、端部領域25bでの周回電子の密度が大きくなってY軸方向に拡がることがない。したがって、周回電子の密度が大きくなりY軸方向に拡がることに起因するプラズマの局所的な消失などをもたらすことがない。
【0224】
ここで、端部領域25bとして、X方向に中央磁石部50をずらす範囲は、マグネットユニット25のZ軸方向長さ、スパッタ面とガラス基板11との間の距離、スパッタリング時のターゲット23への投入電力等に応じて適宜設定される。端部領域25bのZ方向長さは、例えば、中央領域25aにおける長手直線部51と長手直線部61のX方向離間距離、および、長手直線部51と長手直線部62のX方向離間距離の倍以上に設定されることができる。
【0225】
このとき、中央磁石部50の一方の端部は、端部領域25bでZ方向外方に向かうに従い、長手直線部61との間のX方向間隔が段階的に小さくなるようにシフトさせることが好ましい。同様に、中央磁石部50の他方の端部は、端部領域25bでZ方向外方に向かうに従い、長手直線部62との間のX方向間隔が段階的に小さくなるようにシフトさせることが好ましい。
【0226】
本実施形態のマグネットユニット25では、端部領域25bにおいて、ZX平面に沿って向きを変える前後の周回電子の密度差はそれほどない。また、マグネットユニット25では、ZY平面にて、向きを変えた後の中央領域25aに向かう周回電子のガラス基板11に向かう飛散も、一層抑制されている。つまり、マグネットユニット25では、電子が、中央磁石部50と周縁磁石部60とで形成される磁場に充分トラップされる。しかも、マグネットユニット25では、向きを変えた後でも、端部領域25bにおける周回電子の密度は中央領域25aにおける電子の密度と同等である。マグネットユニット25では、磁力線がY軸方向に向けて拡がらないことが確認された。
【0227】
これらにより、マグネットユニット25のように、中央磁石部50の両端部分を周縁磁石部60の互いに異なる長手直線部61および長手直線部62に向けて近接するように、おのおのシフトさせる構成が好ましいことがわかった。本実施形態のマグネットユニット25は、周回する電子の上方への発散を抑止する電子発散抑止手段として好適であることが判明した。
【0228】
本実施形態のマグネットユニット25によれば、Z方向の略全長に亘って、X方向に略対称で電子密度分布の揃ったレーストラック状のプラズマを発生することができる。
このため、上記マグネットユニット25を設けたスパッタリング装置1を用いてガラス基板11に所定の薄膜を成膜すると、その全面に亘って膜厚や膜質の分布よく成膜することができ、しかも、マグネットユニット走査部29によるX軸方向の往復動のストローク長を長く設定できることで、ターゲット23の利用効率を向上させることができる。
【0229】
なお、特に図示して説明しないが、上記とは逆に、中央磁石部50を直線とし、この中央磁石部50に対して、端部領域25bでは周縁磁石部60の橋渡し部63付近を互いに異なる方向にシフトさせることも考えられるが、これでは、向きを変えた後の周辺領域での周回電子の拡がりを抑制できないことが確認された。
【0230】
本実施形態においては上述した実施形態と同等の効果を奏することができる。さらに、本実施形態においてはプラズマの局所的な集中が解消されることによって、基板温度の偏りと膜質の偏りを改善するという効果を奏することができる。
【0231】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第4実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0232】
図21は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットにおける端部を示す拡大正面図である。本実施形態において、上述した第1~第3実施形態と異なるのは、補助マグネットに関する点であり、これ以外の上述した第1~第3実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0233】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、
図21に示すように、補助マグネット27を備える。
補助マグネット27は、揺動方向であるX方向端部のマグネットユニット25に対して、揺動終端と揺動始端の外縁に配置される。補助マグネット27は、直線状に形成される。補助マグネット27は、周縁磁石部60の長手直線部61と平行に配置される。補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60と同極とされる。つまり、
図21に示すように、周縁磁石部60がN極であれば、補助マグネット27は同極のN極とされる。
補助マグネット27は、複数本のマグネットユニット25のうち、X方向両端の最外周に位置するマグネットユニット25の周縁磁石部60に最近接する位置以外には設けられていない。つまり、補助マグネット27は、X方向でターゲット23の端部に対応する位置のみに設けられる。
【0234】
補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60と同じZ方向長さとされる。つまり、補助マグネット27のZ方向寸法は、X方向両端の最外周に位置するマグネットユニット25のZ方向寸法とほぼ等しい。ここで、補助マグネット27のZ方向寸法は、X方向両端の最外周に位置するマグネットユニット25のZ方向寸法に対してプラスマイナス5mm程度とされることができる。マグネットユニット25のZ方向寸法は、中心軸線25Zに沿った周縁磁石部60の長さとされる。
【0235】
補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60の長手直線部61と同様に、XY面における断面形状が略矩形の磁石とされる。補助マグネット27は、Z方向の全長で同じ断面形状を有する。補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60に対して、X方向に極めて近接して配置される。具体的には、
図21に示すように、補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60に対して、X方向に極めて近接して接触している。あるいは、後述するように、補助マグネット27は、最近接する周縁磁石部60に対して、所定のX方向距離だけ離間することもできる。
【0236】
補助マグネット27は、突条27aを有する。突条27aは、マグネットユニット25の周縁磁石部60の端面(磁極平面)30によって形成されるZX平面に対して、ターゲット23に向かって突出する。突条27aは、ZX平面からY方向に突出する凸部である。突条27aは、Z方向に連続して形成される。突条27aの先端は、磁極平面30よりもターゲット23に向かって突出していてもよい。突条27aの先端は、Y方向で磁極平面30と同じ位置にあってもよい。突条27aの先端は、磁極平面30よりもターゲット23から離間していてもよい。
【0237】
なお、補助マグネット27は、XY断面が矩形の補助マグネット27を磁極平面30に対して傾斜して配置して、その磁極面の隅となる角部をY方向に突出させて、突条27aを形成することができる。あるいは、補助マグネット27は、XY断面が矩形の補助マグネット27を磁極平面30に対して磁極面を平行に配置し、ターゲット23に対向する磁極面の幅方向の所定位置に凸部を設けて突条27aを形成することもできる。
本実施形態の補助マグネット27は、磁極平面30に対して傾斜して配置する構成を採用する。
【0238】
補助マグネット27は、磁極平面30に対して傾斜している。つまり、補助マグネット27は、
図21に示すように、磁極となる端面がZX平面に対して、角度θだけ傾いていてもよい。ここで、角度θは、ターゲット23の表面23aの法線であるY方向に対して、Z方向を軸線としてX方向に回転するように傾斜している。角度θは、マグネットユニット25の揺動領域の内側に補助マグネット27の磁極面が向かうように傾斜する向きをプラスとして、0degから90degの範囲、より好ましくは、0degから60degの範囲、さらに、0degから45degの範囲、0degから30degの範囲とされることができる。
【0239】
補助マグネット27の磁気強度は、最近接する周縁磁石部60長手直線部61の磁気強度と同等かまたは小さい。具体的には、補助マグネット27の磁気強度は、最近接する長手直線部61の磁気強度の1/2~3/4、あるいは、1/2~1/3の範囲とすることができる。最近接する長手直線部61の磁気強度が、補助マグネット27の磁気強度の1~1.5倍、あるいは、1.1~1.4倍、例えば、1.39倍程度とすることができる。
【0240】
補助マグネット27は、補助ヨーク31dを介してヨーク31に固定される。補助ヨーク31dは、ヨーク31のX方向端部に隣接している。補助ヨーク31dは、ヨーク31と一体とされることもできる。この場合、補助ヨーク31dは、ヨーク31と同材とされる。補助ヨーク31dは、磁性体または誘電体からなる。
補助マグネット27は、固定部材27gによって所定の角度θとなるように補助ヨーク31dに固定される。補助マグネット27は、ターゲット23とは逆側の磁極面が補助ヨーク31dに当接している。これにより、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31で形成する磁気回路に対して、補助マグネット27と補助ヨーク31dとの磁気も加わることになる。
【0241】
本実施形態のスパッタリング装置1において、上述した各実施形態と同様に、スパッタリング中、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31に加えて、補助マグネット27と補助ヨーク31dとも含んで磁気回路が形成されている。
これにより、磁力線に沿って電子がトラッキングされる。
【0242】
このとき、ターゲット23の揺動範囲のうち揺動端となる位置では、N極の周縁磁石部60からの磁力線が、補助マグネット27からの磁力線によってアノード28に向かわないように、磁極平面30に直交するY方向、あるいは、図中でX方向の右向きに傾く。
すると、ターゲット23の表面23aにおいては、磁力線密度が低下することがない。つまり、トラッキングされる電子密度が過不足することがなく充分に維持されて、プラズマ密度が充分に維持される。この結果、ターゲット23の表面23aにおいて、X方向の両端に形成されていた非エロージョン領域を抑制することができる。
【0243】
また、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31と補助マグネット27と補助ヨーク31dとも含んで磁気回路が形成されている。このため、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと向かう磁力線により、電子がターゲット23の表面23aにおいて周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を周回する。このとき、マグネットユニット25の端部領域25bでは、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、電子の移動速度が遅くなることをより一層抑制し、密度上昇をさらに抑制することができる。
【0244】
その結果、橋渡し部63に沿ってX方向からZ方向に電子が曲がる位置においては、電子密度の減少が発生しない。この結果、揺動端、つまり、X方向の両端となる2本のマグネットユニット25においてターゲット23の表面23aにおける非エロージョン領域の形成が抑制される。つまり、X方向の両端となる2本のマグネットユニット25にそれぞれ補助マグネット27が隣接していることで、対角となる2箇所の非エロージョン領域の形成が抑制できる。これにより、電圧変動が抑制されて非エロージョン領域の形成が抑制されると、対角となる2箇所以外に非エロージョン領域が形成されやすくなることをさらに抑制できる。
【0245】
本実施形態におけるスパッタリング装置1によれば、上記の各実施形態と同等に、揺動領域のZ方向の端部付近での効果を奏することができる。さらに、本実施形態におけるスパッタリング装置1によれば、補助マグネット27によってマグネットユニット25の揺動端においてマグネットユニット25で形成される磁力線を、さらにアノード28に向かわないようにすることができる。これにより、本実施形態では、アノード28に吸われる電子をさらに抑制することが可能である。つまり、本実施形態では、マグネットユニット25で形成する磁力線を揺動端でY方向に向かわせるか、Y方向よりも
図21の右向きに傾斜させることができる。すなわち、本実施形態では、マグネットユニット25で形成する磁力線を揺動端でターゲット23の厚さ方向よりもターゲット23の輪郭内向きに傾斜させることができる。これにより、非エロージョン領域発生の抑制を図ることができる。
【0246】
つまり、より一層の非エロージョン領域の発生低減により、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。つまり、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になってパーティクル発生の原因となるエロージョン-非エロージョン境界領域の形成が低減されている。
【0247】
図22は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25における電子トラッキング状態を示すZ方向に沿った断面模式図である。
図23は、本実施形態の減肉されたマグネットユニットの作用を説明するための図であり、マグネットユニット25のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
【0248】
本実施形態のマグネットユニット25においても、補助マグネット27および周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。このとき、端部領域25b付近では、
図20に示すように、橋渡し部63が中央領域25aに比べて減肉されていることにより、N極の周縁磁石部60からの磁力線が、アノード28に向かう方向ではなく近接しているターゲット23に向かう。つまり、橋渡し部63からの磁力線が、ターゲット23の表面23aの法線に沿って、ターゲット23の揺動領域の外側に向かって開いてしまうことがない。
本実施形態のN極の橋渡し部63からの磁力線は、
図13に示した第1実施形態と同様に、Z方向で下方に向かうに連れて、X方向で左向きに傾くことがなくアノード28には向かわない。補助マグネット27があってもこの現象はさしたる変化をしない。
【0249】
このため、ターゲット23の表面23a付近では、N極の橋渡し部63からの磁力線の密度が低下しない。橋渡し部63からの磁力線は均一な密度を維持する。このとき、端部領域25bでは、レーストラック状に電子が周回するため、中央領域25aに比べて電子の流れが不安定になることがない。端部領域25bでは、中央領域25aに比べてってトラッキングされる電子密度が安定化する。電子密度が不安定にならないので、レーストラック状の流れに沿って、電子密度が高い部分と低い部分とが交互に発生することがない。補助マグネット27があってもこの現象はさしたる変化をしない。
図22には、トラッキングされる電子密度が均一になり、プラズマが集中していない状態を示している。
【0250】
トラッキングされる電子密度が不充分にならないため、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョン領域がきちんと形成され、Z方向の両端には、非エロージョン領域が形成されたとしてもわずかな大きさである。また、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、非エロージョン領域をプラズマが叩いてしまい、パーティクルの発生原因となることがない。さらに、トラッキングされる電子密度が過分にならないため、ターゲット23の掘れ量が多くなることがなく、局所的にターゲット23の厚さが過分に減らない状態を維持し、比較的均一にターゲット23の厚さを減らすことができる。
【0251】
また、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。この磁力線により、ターゲット23の表面23aにおいては、周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を電子が周回する。このとき、マグネットユニット25の長手方向で電子の移動方向の端部、つまり、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、中央領域25aに比べて移動速度が遅くなることがない。このため、端部領域25bで電子密度は過分に上昇せず、中央領域25aと同等の電子密度を維持する。
【0252】
その結果、橋渡し部63に沿って電子がX方向からZ方向に曲がる位置においては、電子密度は均一な状態を維持する。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョンが減少することがなく、非エロージョン領域の形成も抑制される。
しかも、この現象は隣り合うマグネットユニット25においてそれぞれ発生し、1本ずつ分離して周回しているはずの電子が、隣接するマグネットユニット25へと飛び出してしまうことがほとんどない。この結果、
図23に示すように、複数のマグネットユニット25で、それぞれのトラッキングされた電子の流れが分離して周回する状態を維持できる。補助マグネット27があってもこの現象はさしたる変化をしない。
【0253】
したがって、本実施形態によれば、減肉した橋渡し部63を有する各マグネットユニット25と、補助マグネット27とにより、揺動領域におけるX方向の端部およびZ方向の端部の両方で、磁力線がターゲット23の表面23aの法線方向からずれる現象、電子のトラッキングが充分でなくなる現象、および、プラズマ発生が不安定化する現象を、いずれも抑制することが可能となる。これにより、揺動領域の全周で、非エロージョン領域の発生を抑制し、非エロージョン領域からパーティクルが発生することを抑制し、成膜特性の低下を抑制し、膜厚の均一性を向上し、ターゲットライフの向上を図ることが可能となる。
【0254】
したがって、本実施形態におけるスパッタリング装置1によれば、上記の各実施形態における揺動領域のZ方向の端部付近での効果を、X方向の端部付近で同様に奏することができる。すなわち、上記の効果を揺動領域の4方の全周で奏することが可能となる。
【0255】
さらに、本発明においては、上述した各実施形態における個々の構成を個別に選択して、それぞれ組み合わせて実施することも可能である。
【0256】
たとえば、第4実施形態の補助マグネット27を、第1~第3実施形態のいずれかと組み合わせることができる。また、第2実施形態の第4コーナー部655および第4コーナー部645と、第3実施形態のX方向に偏心した中央磁石部50とを、組み合わせることなどができる。あるいは、第2実施形態の第4コーナー部655および第4コーナー部645と、第3実施形態のX方向に偏心した中央磁石部50と、第4実施形態の補助マグネット27とを、組み合わせることができる。
【実施例0257】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0258】
ここで、本発明におけるスパッタリング装置の具体例としておこなう確認試験について説明する。ここでは、ターゲット23における非エロージョン領域の確認およびターゲットの掘れ量分布測定、膜厚分布測定、シート抵抗値分布測定をおこなった。
【0259】
<実験例1>
第3実施形態で示した偏心した中央磁石部50および減肉した橋渡し部63を有するスパッタリング装置1を用いて、マグネットユニット25のZ方向長さを2340mmとした。それ以外の寸法は
図24,
図25に示すように形成した。このマグネットユニット25を3本X方向に並べてカソード装置10とした。
同時に、減肉しておらずX方向に偏心していないマグネットユニットを用意した。
【0260】
ここでは、成膜における諸元を示す。
・条件0
ターゲット組成;ITO(Indium Tin Oxide;酸化インジウムスズ)
ターゲット寸法;X方向×Z方向;1800mm×2300mm
ターゲット厚さ;16mm
基板寸法;X方向×Z方向;1500mm×1850mm
膜組成;ITO
成膜厚さ;80nm
供給電力(プラズマ形成電力);15kW
バイアス電力;未使用
供給ガスおよびガス流量;Ar 120sccm
雰囲気圧;0.2Pa
成膜時間;53sec
【0261】
この結果、減肉していないマグネットユニットに比べて、減肉したマグネットユニットを用いた場合、膜厚分布、および、シート抵抗分布%の成膜特性を改善することができた。
【0262】
このときの、ターゲットにおける揺動領域のZ方向外周付近において、X方向に沿ったターゲットの掘れ量を測定した。その結果を
図10および
図14に示す。
【0263】
ここで、減肉していないマグネットユニットに比べて、減肉したマグネットユニットを用いたターゲット掘れ量は、最小掘れ量、および、最大掘れ量が改善した。
【0264】
<実験例2>
また、このときの、減肉していないマグネットユニット、減肉したマグネットユニット25、および、減肉したマグネットユニット25に第4実施形態の補助マグネット27を追加した構成のそれぞれで、形成する水平磁場のピーク位置をシミュレーションした。その結果を
図15~
図16に示す。また、補助マグネットの諸元を以下に示す。
【0265】
補助マグネット27のX方向幅寸法(磁極面の幅)185mm
角度θ;30°
Wx;17mm
Wy;20mm
補助ヨーク31d;SUS430
【0266】
図15には、各マグネットユニットで発生した水平磁場のピーク位置を、マグネットユニットの中心軸線25Zに沿った位置変化を示す。ここで、減肉していないマグネットユニットによるピーク位置を実験例2-0として示す。また、減肉したマグネットユニット25によるピーク位置を実験例2-1として示す。減肉したマグネットユニット25に第4実施形態の補助マグネット27を追加した構成によるピーク位置を実験例2-2として示す。
【0267】
図15に示す結果から、減肉されたマグネットユニット25を用いた場合、減肉していないものに比べて、Z方向のマグネットの輪郭最外位置から内方への磁場強度の立ち上がりは同様であることがわかる。同時に、減肉されたマグネットユニット25においては、磁場強度が内側に向かって減少し始める位置が、減肉していないマグネットユニットに比べて、Z方向で外向きに移動している。減肉されたマグネットユニット25を用いることで、減肉していないマグネットユニットに比べて、Z方向における水平磁場のピーク位置が、約20mm中心軸線25Zに沿って外向きに移動していることがわかる。
この結果から、減肉されたマグネットユニット25を用いることで、減肉していないものに比べて、20mm程度、マグネットユニット25のZ方向長さを短縮しても、減肉していないマグネットユニットと同等の磁場を形成できることがわかる。
【0268】
図15に示す結果から、補助マグネットを備え減肉されたマグネットユニット25を用いた場合、減肉していないものに比べて、Z方向のマグネットの輪郭最外位置から内方への磁場強度の立ち上がりは同様であることがわかる。同時に、補助マグネットを備え減肉されたマグネットユニット25においては、磁場強度が内側に向かって減少し始める位置が、減肉していないマグネットユニットに比べて、Z方向で外向きに移動している。補助マグネットを備え減肉されたマグネットユニット25を用いることで、減肉していないマグネットユニットに比べて、Z方向における水平磁場のピーク位置が、約20mm中心軸線25Zに沿って外向きに移動していることがわかる。
この結果から、補助マグネットを備え減肉されたマグネットユニット25を用いることで、減肉していないものに比べて、20mm程度、マグネットユニット25のZ方向長さを短縮しても、減肉していないマグネットユニットと同等の磁場を形成できることがわかる。
【0269】
図16には、各マグネットユニットで発生した水平磁場のピーク位置を、マグネットユニットの中央領域25aの中心部においてX方向に沿った位置変化を示す。ここで、減肉していないマグネットユニットによるピーク位置を実験例2-0として示す。また、減肉したマグネットユニット25によるピーク位置を実験例2-1として示す。減肉したマグネットユニット25に第4実施形態の補助マグネット27を追加した構成によるピーク位置を実験例2-2として示す。
【0270】
図16に示す結果から、減肉されたマグネットユニット25と減肉していないマグネットユニットを用いた場合で、中央領域25aで形成される磁場強度はX方向においてそれほど違いがないことがわかる。すなわち、X方向においては、揺動端に位置するマグネットユニット25において、X方向で最も端に位置する周縁磁石部60の長手直線部62付近に形成される磁場強度が、長手直線部51を挟んで揺動領域の内側に隣接する長手直線部61によって形成される磁場強度に比べて、0.9(0.027/0.030)程度小さくなっていることがわかる。
【0271】
また、中央領域25aで形成される磁場強度は、3本のマグネットユニット25のうち、X方向で真ん中のマグネットユニット25の長手直線部61の付近に形成される磁場強度が、隣接するマグネットユニット25の長手直線部61の付近に形成される磁場強度に比べて、0.983(0.0295/0.030)程度小さくなっていることがわかる。
【0272】
<実験例3>
さらに、実験例2と同様に、第2実施形態の傾斜したコーナー部64およびコーナー部65と、偏心した中央磁石部50を備えたマグネットユニット25を用いて成膜をおこなった。その寸法は
図25に示すように形成した。
この結果から、傾斜したコーナー部を有するマグネットユニット25でも、段差を形成したコーナー部と同様になっていることがわかる。