(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070222
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】SmFeN系希土類磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/00 20210101AFI20240515BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240515BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240515BHJP
B22F 1/145 20220101ALI20240515BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240515BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240515BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240515BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240515BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20240515BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20240515BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240515BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20240515BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240515BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240515BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20240515BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20240515BHJP
C22C 21/06 20060101ALN20240515BHJP
C22C 21/10 20060101ALN20240515BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20240515BHJP
C22C 23/00 20060101ALN20240515BHJP
C22C 23/02 20060101ALN20240515BHJP
C22C 23/04 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
B22F1/145 100
B22F1/14 500
B22F1/052
B22F1/14 200
B22F3/24 B
B22F3/02 R
B22F9/20 D
B22F1/142 100
H01F41/02 G
H01F1/059 160
C22C38/00 303D
C22C13/00
C22C18/00
C22C18/04
C22C21/06
C22C21/10
C22C21/00 N
C22C23/00
C22C23/02
C22C23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173558
(22)【出願日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2022180270
(32)【優先日】2022-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前▲原▼ 永
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 智憲
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正朗
(72)【発明者】
【氏名】平岡 基記
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB09
4K017BB12
4K017BB13
4K017BB18
4K017CA07
4K017DA04
4K017EH18
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4K017FB10
4K018AA27
4K018BA18
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC12
4K018BC19
4K018BC32
4K018CA02
4K018CA04
4K018DA18
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018EA21
4K018FA08
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA03
5E040AA19
5E040BC01
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN18
5E062CD04
5E062CF03
5E062CG01
(57)【要約】
【課題】磁気特性に優れたSmFeN系希土類磁石およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する磁性粉末の熱処理工程と、前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散し、前記SmFeN系異方性磁性粉末と前記改質材粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る圧縮成形工程と、前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る焼結工程と、を含む、SmFeN系希土類磁石の製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する磁性粉末の熱処理工程と、
前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散し、前記SmFeN系異方性磁性粉末と前記改質材粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る圧縮成形工程と、
前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る焼結工程と、
を含む、SmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
さらに、
前記磁性粉末の熱処理工程の前に、前記熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末を酸で処理する酸処理工程と、
前記酸処理されたSmFeN系異方性磁性粉末をリン酸塩源で処理することにより前記表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸塩源処理工程と、
を含む請求項1に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、乾式で分散する請求項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記メディアの比重が4以上である請求項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末が、第一粒子群及び第二粒子群を含み、
前記第一粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50が、前記第二粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50より大きい、請求項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項6】
前記SmFeN系異方性磁性粉末は、La、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含む請求項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項7】
さらに、
Sm、Fe、La、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、部分酸化物を得る前処理工程と、
前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る還元工程と、
前記合金粒子を窒化して窒化物を得る窒化工程と、
前記窒化物を洗浄して、前記熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末を得る洗浄工程と、
を含む請求項6に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項8】
さらに、
前記焼結体を熱処理して、SmFeN系希土類磁石を得る焼結体の熱処理工程を含む請求項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【請求項9】
SmFeN系異方性磁性粉末と、
前記SmFeN系異方性磁性粉末を被覆する被覆部と、を含み、
前記被覆部は、Pが局在している外周領域と、前記外周領域よりも内側に位置しておりZnが局在している内側領域と、を含む、SmFeN系希土類磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、SmFeN系希土類磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶媒中でセラミックスのメディアを用いてSmFeN系異方性磁性粉末を粉砕する製造方法が開示されている。しかしながら、硬いセラミックスのメディアを使用すると、チッピングによる微小粒子が生成し、粉砕後に得られたSmFeN系異方性磁性粉末の酸素含有量が増加し、磁気特性が低下することが考えられる。
【0003】
特許文献2には、SmFeN系希土類磁石の製造方法として、SmFeN系異方性磁性粉末を6kOe以上の磁場中で予備圧縮した後、600℃以下の温度、1~5GPaの成形面圧で温間圧密成形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-195326号公報
【特許文献2】国際公開第2015/199096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、磁気特性に優れたSmFeN系希土類磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施態様にかかるSmFeN系希土類磁石の製造方法は、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する磁性粉末の熱処理工程と、前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散し、前記SmFeN系異方性磁性粉末と前記改質材粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る圧縮成形工程と、前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る焼結工程と、を含む。
【0007】
本開示の一実施態様にかかるSmFeN系希土類磁石は、SmFeN系異方性磁性粉末と、
前記SmFeN系異方性磁性粉末を被覆する被覆部と、を含み、
前記被覆部は、Pが局在している外周領域と、前記外周領域よりも内側に位置しておりZnが局在している内側領域と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、磁気特性が高いSmFeN系希土類磁石とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のSmFeN系希土類磁石に含まれるSmFeN系異方性磁性粉末断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための一例であり、本開示を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0011】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法は、
表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する磁性粉末の熱処理工程と、
前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散し、前記SmFeN系異方性磁性粉末と前記改質材粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る圧縮成形工程と、
前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る焼結工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
<磁性粉末の熱処理工程>
熱処理工程では、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する。熱処理は、表面にリン酸塩を被覆するリン酸塩源処理後、たとえば、減圧下または真空下で行うことができる。後述するリン酸塩源処理工程時の乾燥工程として行うこともできる。リン酸塩で被覆するだけでなく、熱処理により化学結合させることで、保磁力が向上する。また、熱処理によりリンが化学結合するため、SmFeN系磁性粉末を熱処理する工程において、改質材粉末に含まれるZnからZnOが生成することを抑制することができる。なお、熱処理温度が80℃未満では、SmFeN系異方性磁性粉末中に水分が残り、磁気特性が低下する。
【0013】
リン酸塩被覆形成後の熱処理温度(乾燥温度)が150℃以上の高い温度では、リン酸塩膜が磁性粒子の表面の大部分を覆い、磁性粒子の磁気特性が向上する。また、150℃を超える高い温度では、磁性粒子の表面でリン酸塩膜が反応して非磁性相を形成し、磁性粒子の保磁力が向上する。一方で、リン酸塩膜が粒子表面を被覆しすぎると、Znをバインダーに用いた焼結磁石において、焼結時に液状になったZnが充分に磁性粉末中に拡散することができず、焼結時に流動層が形成されにくくなる。流動層が形成されないと、焼結時に磁性粒子に余計な圧力が加わり、磁性粒子の割れや結晶構造の歪みが生じ、磁気特性が低下する。本実施形態では、150℃未満で熱処理することにより、リン酸塩膜が磁性粉末粒子表面の大部分を被覆しすぎることがなくなり、焼結して得られたSmFeN系希土類磁石の残留磁束密度Brと保磁力iHcを向上させることができる。熱処理温度は、80℃以上150℃未満であるが、100℃超150℃未満が好ましく、100℃超130℃以下がより好ましい。これらの好ましい温度では、得られるSmFeN系希土類磁石の残留磁束密度Brと保磁力iHcをさらに向上させることができる。
【0014】
SmFeN系異方性磁性粉末としては、SmFeN、SmFeLaN、SmFeLaWN、SmFeLaWRN(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を使用することができる。SmFeLaWNを含む異方性磁性粉末とSmFeLaWTiNを含む異方性磁性粉末の混合物を使用してもよい。Rを含むSmFeN系異方性磁性粉末は磁気特性に優れているため、後述する第一粒子群と第二粒子群のように異なる粒子群を含む混合物を使用する場合、混合割合の多い粒子群にRを含むSmFeN系異方性磁性粉末を使用することが好ましい。なお、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末は、SmFeN系異方性磁性粉末の表面のすべてが完全にリン酸塩膜で覆われているものに限らず、表面の少なくとも一部にリン酸塩膜が形成されていればよい。
【0015】
<改質材粉末との混合工程>
混合工程では、分散されたSmFeN系異方性磁性粉末と改質材粉末を混合して、混合粉末を得る。改質材粉末としては、亜鉛、亜鉛合金などが挙げられる。改質材粉末の配合量は、残留磁化の点からSmFeN系異方性磁性粉末に対して、上限は、例えば15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がより好ましい。下限は、例えば1質量%以上とすることができる。
【0016】
亜鉛合金をZn-M2で表すと、M2は、Zn(亜鉛)と合金化して、亜鉛合金の溶融開始温度を、Znの融点よりも降下させる元素及び不可避的不純物元素から選択することができる。これにより、後述する加圧焼結工程で、焼結性が向上する。Znの融点よりも降下させるM2としては、ZnとM2とで共晶合金を形成する元素等が挙げられる。このようなM2としては、典型的には、Sn、Mg、及びAl並びにこれらの組み合せ等が挙げられる。Snはスズ、Mgはマグネシウム、そして、Alはアルミニウムである。これらの元素による融点降下作用、及び、成果物の特性を阻害しない元素についても、M2として選択することができる。また、不可避的不純物元素とは、改質材粉末の原材料に含まれる不純物等、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。
【0017】
Zn-M2で表される亜鉛合金において、Zn及びM2の割合(モル比)は、焼結温度が適正になるように適宜決定すればよい。亜鉛合金全体に対するM2の割合(モル比)は、例えば、0.05以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0018】
改質材粉末の粒径D50(メジアン径)は、特に限定されないが、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、又は2μm以上であってよく、12μm以下、11μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、又は4μm以下であってよい。ここで、D50とは、改質材粉末の体積基準による粒度分布の積算値が50%に相当する粒径である。D50は、乾式レーザー回折・散乱法によって測定することができる。
【0019】
SmFeN粉末中の酸素を多く吸収できるという点で、改質材粉末の酸素含有量が少ないことが好ましい。改質材粉末の酸素含有量は、改質材粉末全体に対し、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。一方、改質材粉末の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、改質材粉末の酸素の含有量は、改質材粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
【0020】
混合工程では、熱処理工程で熱処理された表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散する。混合工程において、SmFeN系異方性磁性粉末と改質材粉末の混合と分散は、いずれかを先に行ってもよく、同時でもよい。たとえば、まだ混合していないSmFeN系異方性磁性粉末と改質材粉末を分散装置に投入し、分散を行うことで、混合と分散を同時に行うこともできる。ここでいう分散とは、SmFeN系異方性磁性粉末に含まれる焼結により生じた凝集粒子や磁気凝集により生じた凝集粒子などが、分かれて単一からなる粒子であるか、数少ない粒子から構成されている粒子になることを意味する。樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアがSmFeN系異方性磁性粉末に衝突する場合、樹脂で被覆されていない金属のメディアまたは樹脂で被覆されていないセラミックスのメディアがSmFeN系異方性磁性粉末に衝突する場合と比べて衝突エネルギーが小さいので、粉砕よりも分散が起こりやすくなる。従来のように、SmFeN系異方性磁性粉末の粉砕が行われると、チッピングにより生成する微小粒子が酸化劣化することによるSmFeN系異方性磁性粉末の磁気特性の低下が起こり、また、微小粒子を含むSmFeN系異方性磁性粉末を用いてSmFeN系希土類磁石を作製することにより、磁場中で圧縮成形する際に、微小粒子が十分に配向せず、SmFeN系希土類磁石の磁気特性の低下が起こると考えられる。一方で、本実施形態のように、SmFeN系異方性磁性粉末の分散が行われると、微小粒子と凝集粒子が少ないSmFeN系異方性磁性粉末が得られるので、微小粒子が酸化劣化することによるSmFeN系異方性磁性粉末の磁気特性の低下を抑制することでき、また、磁場中で圧縮成形する場合でも十分に配向するのでSmFeN系希土類磁石の磁気特性が高くなりやすいと考えられる。樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散することにより、SmFeN系異方性磁性粉末の表面のリン酸塩被覆部の剥離や損傷を抑えることができる。
【0021】
分散のために使用する分散装置としては、例えば振動ミルが挙げられる。振動ミル等の分散装置で使用するメディアは、金属コアと、それを被覆する樹脂とを有することができる。金属の材質としては、鉄、クロム鋼、ステンレス、スチールなどが挙げられる。また、振動ミル等の分散装置で使用するメディアは、セラミックコアと、それを被覆する樹脂を有することができる。セラミックスの材質としては、金属または非金属の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物が挙げられ、より具体的には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、ガラスなどが挙げられる。これらの中では、高比重により分散能力が高いことと、高硬度により摩耗が少ないことと、摩耗により発生する鉄を含んだ摩耗粉は、SmFeN系異方性磁性粉末に対する影響が小さい点から鉄、クロム鋼が好ましい。すなわち、樹脂で被覆された鉄またはクロム鋼のメディアを分散装置で使用することが好ましい。被覆する樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂による被覆層は、射出成形により形成することができ、熱硬化性樹脂と比較して流動性が高いため、熱硬化性樹脂で被覆する場合よりも膜厚を薄くすることができる。そのため、熱硬化性樹脂で被覆する場合よりもメディアの比重を増大させることができ、サイズを低減させることができる。熱可塑性樹脂として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のナイロンを用いることが好ましい。ナイロンは、熱可塑性樹脂の中でも比較的柔らかく安価であるためである。例えばナイロンで被覆された鉄のメディアを分散装置で使用してよい。これにより、微粉の発生をより抑制しつつ、SmFeN系異方性磁性粉末を分散することができる。
【0022】
分散のために振動ミルを使用する場合は、SmFeN系異方性磁性粉末とメディアを入れる容器の容積に対して、例えば、メディアの量を60体積%以上70体積%以下とし、SmFeN系異方性磁性粉末の量を3体積%以上20体積%以下とすることができ、5体積%以上20体積%以下が好ましい。
【0023】
分散で使用するメディアの比重は、4以上が好ましく、5以上がより好ましい。4未満では、分散時の衝突エネルギーが小さくなりすぎるため分散が起こりにくくなる傾向がある。上限は特に限定されないが、8以下が好ましく、7.5以下がより好ましい。分散で使用するメディアの比重は、6以上7.5以下であってもよい。樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアは、金属またはセラミックスのコアと、コアを被覆する樹脂膜とを有することができる。樹脂膜の厚みは、例えば0.1μm以上5mm以下とすることができる。これにより、メディアの直径の増大を抑えることができるため、SmFeN系異方性磁性粉末の分散に適しており、得られるSmFeN系異方性磁性粉末のσrを向上させることができる。
【0024】
メディアの直径は、2mm以上100mm以下が好ましく、3mm以上15mm以下がより好ましく、3mm以上10mm以下がさらに好ましい。2mm未満では、樹脂で被覆することが難しく、100mmを超えると、メディアが大きいため、粉末との接触が少なくなり、分散が起こりにくくなる傾向がある。
【0025】
分散は、湿式で(液体の分散媒の存在下で)行うこともできるが、分散媒中に含まれる成分(例えば水分など)によるSmFeN系異方性磁性粉末の酸化を抑制する点から、乾式で(液体の分散媒の非存在下で)行うことが好ましい。
【0026】
分散は、SmFeN系異方性磁性粉末の酸化を抑制する点から窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気にて行うことが好ましい。窒素ガス雰囲気中の窒素の濃度は、90体積%以上であってよく、95体積%以上であることが好ましい。アルゴンガス雰囲気中のアルゴンの濃度は、90体積%以上であってよく、95体積%以上であることが好ましい。不活性ガス雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを2種類以上混合した雰囲気であってもよい。不活性ガス雰囲気中の不活性ガスの濃度は、90体積%以上であってよく、95体積%以上であることが好ましい。
【0027】
分散されたSmFeN系異方性磁性粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、2.5μm以上5μm以下が好ましく、2.6μm以上4.5μm以下がより好ましい。2.5μm未満では、表面積が大きいので酸化が起こりやすく、5μmを超えると、SmFeN系異方性磁性粉末が多磁区構造になることで、磁気特性が低下する傾向がある。ここで、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて乾式条件で測定した粒子径を意味する。
【0028】
分散されたSmFeN系異方性磁性粉末の粒径D10は、0.5μm以上3μm以下が好ましく、1μm以上2μm以下がより好ましい。0.5μm未満では、磁石中のSmFeN系異方性磁性粉末の充填量が小さくなるため磁化が低下し、一方で3μmを超えると、磁石の保磁力が低下する傾向がある。ここで、D10とは、SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が10%に相当する粒径である。
【0029】
分散されたSmFeN系異方性磁性粉末の粒径D50は、2μm以上5μm以下が好ましく、2.5μm以上4.5μm以下がより好ましい。2μm未満では、磁石中のSmFeN系異方性磁性粉末の充填量が小さくなるため磁化が低下し、5μmを超えると、磁石の保磁力が低下する傾向がある。ここで、D50とは、SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が50%に相当する粒径である。
【0030】
分散されたSmFeN系異方性磁性粉末の粒径D90は、3μm以上7μm以下が好ましく、4.5μm以上6.5μm以下がより好ましい。3μm未満では、磁石中のSmFeN系異方性磁性粉末の充填量が小さくなるため磁化が低下し、7μmを超えると、磁石の保磁力が低下する傾向がある。ここで、D90とは、SmFeN系異方性磁性粉末の体積基準による粒度分布の積算値が90%に相当する粒径である。
【0031】
熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末は、第一粒子群及び第二粒子群を含み、前記第一粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50が、前記第二粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50より大きいことが好ましい。第一粒子群及び第二粒子群を含むことにより、得られるSmFeN系希土類磁石の密度を向上させることができる。第一粒子群のD50は、第二粒子群のD50の1.5倍以上大きいことがより好ましい。なお、ここでいう第一粒子群及び第二粒子群の粒径D50は、第一粒子群及び第二粒子群を混合する前のそれぞれの粒径D50を指す。たとえば、粒径の異なる2種の磁性粉末を混合した後に分散する方法や、粒径の異なる2種の磁性粉末を別々に分散させた後に混合する方法などにより、第一粒子群及び第二粒子群を含むSmFeN系異方性磁性粉末とすることができる。上述の分散されたSmFeN系異方性磁性粉末の粒径D10と粒径D50と粒径D90の好ましい数値範囲は、第一粒子群及び第二粒子群のような複数の粒子群を混合した混合物の好ましい数値範囲として採用することができる。
【0032】
第一粒子群及び第二粒子群を含むSmFeN系異方性磁性粉末において、第一粒子群の含有量は、75質量%以上95質量%以下が好ましく、80質量%以上90質量%以下がより好ましい。第一粒子群より第二粒子群の方は磁化が低い傾向があるため、75質量%未満では、得られる焼結磁石の磁化が低下する傾向がある。95質量%を超えると、得られる焼結磁石の密度が低下する傾向がある。
【0033】
分散とは別に混合を行う場合の混合方法は、特に限定されないが、乳鉢、マラーホイール式ミキサー、アジテータ式ミキサー、メカノフュージョン、V型混合器、及びボールミル等が挙げられる。これらの方法を組み合わせることもできる。なお、V型混合器は、2つの筒型容器をV型に連結した容器を備え、その容器を回転することにより、容器中の粉末が、重力と遠心力で集合と分離が繰り返され、混合される装置である。
【0034】
<圧縮成形工程>
圧縮成形工程では、混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る。磁場配向により、磁場成形体に配向性を付与することができ、SmFeN系希土類磁石に異方性を付与して残留磁化を向上させることができる。磁場成形方法は、周囲に磁場発生装置を設置した成形型を用いて、混合粉末を圧縮成形する方法等、周知の方法が適用できる。成形圧力は、10MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、又は150MPa以上であってよく、1500MPa以下、1000MPa以下、又は500MPa以下であってよい。印加する磁場の大きさは、500kA/m以上、1000kA/m以上、1500kA/m以上、又は1600kA/m以上であってよく、20000kA/m以下、15000kA/m以下、10000kA/m以下、5000kA/m以下、3000kA/m以下、又は2000kA/m以下であってよい。磁場の印加方法としては、電磁石を用いた静磁場を印加する方法、及び交流を用いたパルス磁場を印加する方法等が挙げられる。
【0035】
<焼結工程>
加圧焼結工程では、磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る。焼結体を、そのままSmFeN系希土類磁石とすることもできる。加圧焼結の方法は、特に限定されず、例えば、キャビティを有するダイスと、キャビティの内部を摺動可能なパンチを準備し、キャビティの内部に磁場成形体を挿入し、パンチで磁場成形体に圧力を付加しつつ、磁場成形体を焼結する方法等が挙げられる。加圧焼結の方法として、たとえば、放電プラズマ焼結(SPS)を用いることができる。磁場成形体に圧力を付与しつつ、磁場成形体を焼結(以下、「加圧焼結」ということがある。)できるように、加圧焼結条件を適宜選択することができる。焼結温度が300℃以上であれば、磁場成形体中で、SmFeN系異方性磁性粉末の粒子表面のFeと改質材粉末(たとえば金属亜鉛)とが僅かに相互拡散して、焼結に寄与する。焼結温度は、例えば、310℃以上、320℃以上、340℃以上、又は350℃以上であってよい。一方、焼結温度が400℃以下であれば、SmFeN系異方性磁性粉末の粒子表面のFeと改質材粉末とが過剰に相互拡散することを抑えられる。このため、後述する熱処理工程に支障を生じたり、得られた焼結体の磁気特性に悪影響を及ぼしたりすることを抑制することができる。これらの観点からは、焼結温度は、400℃以下、390℃以下、380℃以下、又は370℃以下であってよい。本実施形態では、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を150℃未満で熱処理することにより、リン酸塩膜が磁性粉末粒子表面の大部分を被覆しすぎることを抑制している。このため、焼結工程においてSmFeN系異方性磁性粉末の粒子表面のFeと改質材粉末(たとえば金属亜鉛)との相互拡散が適度に生じていると考えられる。
【0036】
焼結圧力については、焼結体の密度を高めることができる焼結圧力を、適宜選択することができる。焼結圧力は、典型的には、100MPa以上、200MPa以上、400MPa以上、600MPa以上であってよく、2000MPa以下、1800MPa以下、1600MPa以下、1500MPa以下、1300MPa以下、又は1200MPa以下であってよい。
【0037】
焼結時間は、SmFeN系異方性磁性粉末の粒子表面のFeと改質材粉末の金属亜鉛とが僅かに相互拡散するよう、適宜決定することができる。なお、焼結時間には、熱処理温度に達するまでの昇温時間は含まない。焼結時間は、例えば、1分以上、2分以上、又は3分以上であってよく、90分以下、60分以下、30分以下であってよい。焼結時間は、20分以下、10分以下、又は5分以下であってもよい。
【0038】
焼結時間が経過したら、焼結体を冷却して、焼結を終了する。冷却速度は、速い方が、焼結体の酸化等を抑制することができる。冷却速度は、例えば、0.5℃/秒以上200℃/秒以下であってよい。焼結雰囲気については、磁場成形体及び焼結体の酸化を抑制するため、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0039】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法において、さらに、前記焼結体を熱処理して、SmFeN系希土類磁石を得る工程を含むことが好ましい。
【0040】
<焼結体の熱処理工程>
焼結体の熱処理工程では、焼結して得られたSmFeN系希土類磁石を熱処理する。熱処理により、SmFeN系異方性磁性粉末の粒子に関し、粒子表面で被膜状にFe-Zn合金相が形成され、SmFeN系異方性磁性粉末の粒子と改質材粉末の粒子とをより一層強固に結合(以下、「固化」ということがある。)すると同時に、改質が促進される。熱処理温度が、350℃以上であれば、粒子のほぼ全体でFe-Zn合金相が適切に形成され、固化及び改質ができる。熱処理温度は、360℃以上、370℃以上、又は380℃以上であってもよい。
【0041】
SmFeN系異方性磁性粉末中の磁性相は、Th2Zn17型及び/又はTh2Ni17型の結晶構造を有しており、熱処理時間が40時間で、Fe-Zn合金相の形成が飽和する。経済性(短時間化)の観点から、熱処理時間は、40時間以下、35時間以下、30時間以下、25時間以下、又は24時間以下であることが好ましい。焼結体の酸化を抑制するため、真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼結体を熱処理することが好ましい。ここで、不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。焼結体の熱処理は、加圧焼結に用いた型内で行ってもよいが、熱処理中は焼結体に圧力を印加しない。これにより、上述した熱処理条件を満足すれば、正常な磁性相とFe-Zn合金相が適切に生成され、FeとZnとが過剰に相互拡散することはない。
【0042】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法において、さらに、前記磁性粉末の熱処理工程の前に、前記磁性粉末の熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末を酸で処理する酸処理工程と、前記酸処理されたSmFeN系異方性磁性粉末をリン酸塩源で処理することにより前記表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸塩源処理工程とを含むことが好ましい。
【0043】
<酸処理工程>
酸処理工程では、磁性粉末の熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末のSmリッチ層の少なくとも一部を除去して、磁性粉末全体中の酸素濃度を低減する。また、粉砕を行わずに作製したSmFeN系異方性磁性粉末の場合、SmFeN系異方性磁性粉末の平均粒子径が小さく、粒度分布が狭く、また粉砕で生じる微粉を含まないため、酸素濃度の増加を抑制することが可能となる。
【0044】
酸処理工程に用いる酸としては、たとえば塩化水素、硝酸、硫酸、酢酸などが挙げられる。なかでも、不純物が残留しない点で、塩化水素、硝酸が好ましい。
【0045】
酸処理工程に用いる酸の使用量は、SmFeN系異方性磁性粉末100質量部に対して3.5質量部以上13.5質量部以下が好ましく、4質量部以上10質量部以下がより好ましい。3.5質量部未満では、SmFeN系異方性磁性粉末表面の酸化物が残り、酸素濃度が高くなり、13.5質量部を超えると、大気に暴露した際に再酸化が起こりやすく、また、SmFeN系異方性磁性粉末を溶解するため、コストも高くなる傾向がある。酸の量をSmFeN系異方性磁性粉末100質量部に対して3.5質量部以上13.5質量部以下とすることにより、酸処理後に大気に暴露した際に再酸化が起こりにくい程度に酸化されたSmリッチ層がSmFeN系異方性磁性粉末表面を覆うようにすることができるので、酸素濃度が低く、平均粒子径が小さく、粒度分布の狭いSmFeN系異方性磁性粉末が得られる。
【0046】
酸処理は、SmFeN系異方性磁性粉末を含むスラリーを攪拌しながら行ってもよい。酸処理工程において、酸で処理した後に得られたSmFeN系異方性磁性粉末は、必要によりデカンテーションなどの方法で水分を低減することもできる。
【0047】
<リン酸塩源処理工程>
磁性粉末の熱処理工程の前に、異方性磁性粉末をリン酸塩源で処理する工程を含むことができる。酸処理工程を行う場合は、酸処理工程の後にリン酸塩源処理工程を行う。SmFeN系異方性磁性粉末をリン酸源処理することで、磁性粉末の表面にP-O結合を有する不動態膜が形成される。磁性粉末をPとOを含む膜で被覆することによって、加工中の大気による酸化劣化を低減することができる。
【0048】
リン酸塩源処理工程では、SmFeN系異方性磁性粉末をリン酸塩源で処理する。リン酸塩源としては、例えば、オルトリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等のリン酸塩系、次亜リン酸系、次亜リン酸塩系、ピロリン酸、ポリリン酸系等の無機リン酸、有機リン酸およびそれらの塩が挙げられる。これらのリン酸源を基本的には水中、またはIPAなどの有機溶媒中に溶解させ、必要に応じて硝酸イオン等の反応促進剤、Vイオン、Crイオン、Moイオン等の結晶微細化剤を添加したリン酸浴中に磁性粉末を投入し、異方性磁性粉末の表面にP-O結合を有する不動態膜を形成させる。リン酸塩源は水に溶解することが好ましい。これにより、有機溶媒に溶解させる場合と比較して、SmFeN系異方性磁性粉末の炭素含有量を低減させることができるため、リン酸塩で被覆した被覆部に炭素を含む有機不純物に起因した欠陥が生じにくく、SmFeN系異方性磁性粉末の保磁力の低下を抑制することができる。また、同様の理由から、リン酸塩源は無機リン酸であることが好ましい。リン酸塩源処理は、SmFeN系異方性磁性粉末を含むスラリーを攪拌しながら行ってもよい。
【0049】
磁性粉末の熱処理工程で使用する表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末におけるSmFeN系異方性磁性粉末は、Sm、Feだけでなく、La、Wを含むことが好ましく、さらにR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含むことができる。このような磁性粉末は、例えば、特開2017-117937号公報や特開2021-055188号公報に開示された方法を参照して作製することができる。以下に、SmFeN系異方性磁性粉末の製造方法の一例について説明する。
【0050】
磁性粉末の熱処理工程で使用する分散前のSmFeN系異方性磁性粉末は、SmとFeを含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、部分酸化物を得る前処理工程、前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る工程、前記合金粒子を窒化して窒化物を得る窒化工程、前記窒化物を洗浄してSmFeN系異方性磁性粉末を得る洗浄工程を含む製造方法により作製することができる。これらの工程により、粉砕を行わずにSmFeN系異方性磁性粉末を得ることができる。また、これ以降の工程において粉砕を行う必要のないSmFeN系異方性磁性粉末を得ることができる。窒化工程後に、窒化工程で得られた窒化物を後処理する工程、窒化工程で得られた窒化物をアルカリ処理する工程を含んでいてもよい。好ましくは、前記酸化物は、さらにLa、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含むことが好ましい。
【0051】
前処理工程で使用するSmとFeを含む酸化物は、Sm酸化物とFe酸化物を混合することにより作製してもよいが、SmとFeを含む溶液と沈殿剤を混合し、SmとFeとを含む沈殿物を得る工程(沈殿工程)、および、前記沈殿物を焼成することにより、SmとFeを含む酸化物を得る工程(酸化工程)によって、製造することができる。
【0052】
[沈殿工程]
沈殿工程では、強酸性の溶液にSm原料、Fe原料を溶解して、SmとFeを含む溶液を調製する。Sm2Fe17N3を主相として得る場合、SmおよびFeのモル比(Sm:Fe)は1.5:17~3.0:17が好ましく、2.0:17~2.5:17がより好ましい。La、W、Co、Ti、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Ba、Srなどの原料を上述した溶液に加えても良い。残留磁束密度の点で、Laを含むことが好ましい。保磁力と角形比の点で、Wを含むことが好ましい。温度特性の点で、Co、Tiを含むことが好ましい。特に、La、Wを含むことが好ましく、さらにR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含むこともできる。
【0053】
Sm原料、Fe原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されない。例えば、入手のしやすさの点で、Sm原料としては酸化サマリウムが、Fe原料としてはFeSO4が挙げられる。SmとFeを含む溶液の濃度は、Sm原料とFe原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整することができる。酸性溶液としては溶解性の点で硫酸などが挙げられる。
【0054】
SmとFeを含む溶液と沈殿剤を反応させることにより、SmとFeを含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、SmとFeを含む溶液は、沈殿剤との反応時にSmとFeを含む溶液となっていればよく、たとえばSmを含む原料とFeを含む原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良い。別々の溶液として調製する場合においても各原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整する。沈殿剤としては、アルカリ性の溶液でSmとFeを含む溶液と反応して沈殿物が得られるものであれば限定されず、アンモニア水、苛性ソーダなどが挙げられ、苛性ソーダが好ましい。
【0055】
沈殿反応は、沈殿物の粒子の性状を容易に調整できる点から、SmとFeを含む溶液と、沈殿剤とを、それぞれ水などの溶媒に滴下する方法が好ましい。SmとFeを含む溶液と沈殿剤の供給速度、反応温度、反応液濃度、反応時のpH等を適宜制御することにより、構成元素の分布が均質で、粒度分布が狭く、粉末形状の整った沈殿物が得られる。このような沈殿物を使用することによって、最終製品であるSmFeN系異方性磁性粉末の磁気特性が向上する。反応温度は、0℃以上50℃以下が好ましく、35℃以上45℃以下がより好ましい。反応液濃度は、金属イオンの総濃度として0.65mol/L以上0.85mol/L以下が好ましく、0.7mol/L以上0.85mol/L以下がより好ましい。反応pHは、5以上9以下が好ましく、6.5以上8以下がより好ましい。
【0056】
SmとFeを含む溶液は、磁気特性の点で、さらにLa、W、R(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)からなる群から選ばれる1種以上の金属を含むことが好ましい。例えば、残留磁束密度の点で、Laを含むことが好ましく、保磁力と角形比の点で、Wを含むことが好ましく、温度特性の点で、Tiを含むことが好ましく、La、W、およびRを含むことがより好ましい。La原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されず、例えば、入手のしやすさの点で、La2O3、LaCl3などが挙げられる。Sm原料とFe原料とともに、La原料、W原料、Ti原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整し、酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。W原料としては、タングステン酸アンモニウムが挙げられ、Ti原料としては硫酸チタニアが挙げられ、Ba原料としては、炭酸バリウムが挙げられ、Sr原料としては、炭酸ストロンチウムが挙げられる。
【0057】
SmとFeを含む溶液が、さらにLa、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)からなる群から選ばれる1種以上の金属を含む場合、Sm、Feと、La、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)からなる群から選ばれる1種以上を含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、該溶液は、沈殿剤との反応時にLa、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)からなる群から選ばれる1種以上を含んでいればよく、例えば各原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良いし、SmとFeを含む溶液と一緒に調整しても良い。
【0058】
沈殿工程で得られた粉末により、最終的に得られるSmFeN系異方性磁性粉末の粉末粒子径、粉末形状、粒度分布がおよそ決定される。得られた粉末の粒子径をレーザー回折式湿式粒度分布計により測定した場合、全粉末が0.05μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下の範囲にほぼ入るような大きさと分布であることが好ましい。
【0059】
沈殿物を分離した後は、続く酸化工程の熱処理において残存する溶媒に沈殿物が再溶解して、溶媒が蒸発する際に沈殿物が凝集したり、粒度分布、粉末粒子径等が変化したりすることを抑制するために、分離物を脱溶媒しておくことが好ましい。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70℃以上200℃以下のオーブン中で5時間以上12時間以下の時間、乾燥する方法が挙げられる。
【0060】
沈殿工程の後に、得られる沈殿物を分離洗浄する工程を含んでもよい。洗浄する工程は上澄み溶液の導電率が5mS/m2以下となるまで適宜行う。沈殿物を分離する工程としては、例えば、得られた沈殿物に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、濾過法、デカンテーション法等を用いることができる。
【0061】
[酸化工程]
酸化工程とは、沈殿工程で形成された沈殿物を焼成することにより、SmとFeとを含む酸化物を得る工程である。例えば、熱処理により沈殿物を酸化物に変換することができる。沈殿物を熱処理する場合、酸素の存在下で行われる必要があり、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、酸素存在下で行われる必要があるため、沈殿物中の非金属部分に酸素原子を含むことが好ましい。
【0062】
酸化工程における熱処理温度(以下、酸化温度)は特に限定されないが、700℃以上1300℃以下が好ましく、900℃以上1200℃以下がより好ましい。700℃未満では酸化が不十分となり、1300℃を超えると、目的とするSmFeN系異方性磁性粉末の形状、平均粒子径および粒度分布が得られない傾向にある。熱処理時間も特に限定されないが、1時間以上3時間以下が好ましい。
【0063】
得られる酸化物は、酸化物粒子内においてSm、Feの微視的な混合が充分になされ、沈殿物の形状、粒度分布等が反映された酸化物粒子である。
【0064】
[前処理工程]
前処理工程とは、上述のSmとFeを含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、酸化物の一部が還元された部分酸化物を得る工程である。還元性ガス含有雰囲気中の還元性ガスの濃度は90体積%以上であってよく、95体積%以上であることが好ましい。
【0065】
ここで、部分酸化物とは、酸化物の一部が還元された酸化物をいう。部分酸化物の酸素濃度は特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。10質量%を超えると、還元工程においてCaとの還元発熱が大きくなり、焼成温度が高くなることで異常な粒子成長をした粒子ができてしまう傾向がある。ここで、部分酸化物の酸素濃度は、非分散赤外吸収法(ND-IR)により測定することができる。
【0066】
還元性ガスは、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)等の炭化水素ガス及びそれらの組み合わせなどから適宜選択されるが、コストの点で水素ガスが好ましく、ガスの流量は、酸化物が飛散しない範囲で適宜調整される。前処理工程における熱処理温度(以下、前処理温度)は、300℃以上950℃以下が好ましく、下限は400℃以上がより好ましく、750℃以上がさらに好ましい。上限は900℃未満がより好ましい。前処理温度が300℃以上であるとSmとFeを含む酸化物の還元が効率的に進行する。また950℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒子径を維持することができる。熱処理時間は、特に限定されないが、1時間以上50時間以下とすることができる。また、還元性ガスとして水素を用いる場合、使用する酸化物層の厚みを20mm以下に調整し、更に反応炉内の露点を-10℃以下に調整することが好ましい。
【0067】
[還元工程]
還元工程とは、前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る工程であり、例えば部分酸化物をカルシウム融体またはカルシウムの蒸気と接触することで還元が行われる。熱処理温度は、磁気特性の点より、920℃以上1200℃以下が好ましく、950℃以上1150℃以下がより好ましく、980℃以上1100℃以下がさらに好ましい。
【0068】
還元工程における上述の熱処理とは別の熱処理として、1000℃以上1090℃以下の第一温度で熱処理した後、第一温度よりも低い980℃以上1070℃以下の第二温度で熱処理してもよい。第一温度は、1010℃以上1080℃以下が好ましく、第二温度は、990℃以上1060℃以下が好ましい。第一温度と第二温度の温度差は、第二温度が第一温度よりも15℃以上60℃以下の範囲で低いことが好ましく、15℃以上30℃以下の範囲で低いことがより好ましい。第一温度による熱処理と第二温度による熱処理は連続で行っても良く、これらの熱処理間において、第二温度より低い温度での熱処理を含むこともできるが、生産性の点で、連続で行うことが好ましい。各熱処理時間は、還元反応をより均一に行う観点から、120分未満が好ましく、90分未満がより好ましく、熱処理時間の下限は10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。
【0069】
還元剤である金属カルシウムは、粒状又は粉末状の形で使用されるが、その粒子径は10mm以下が好ましい。これにより還元反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。また、金属カルシウムは、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、Fe成分が酸化物の形である場合には、これを還元するために必要な分を含む)の1.1~3.0倍量の割合で添加することが好ましく、1.5~2.5倍量がより好ましい。
【0070】
還元工程では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する後処理工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、サマリウム酸化物当り1質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下の割合で使用される。
【0071】
[窒化工程]
窒化工程とは、還元工程で得られた合金粒子を窒化処理することにより、異方性の磁性粒子を得る工程である。上述の沈殿工程で得られる粒子状の沈殿物を用いていることから、還元工程にて多孔質塊状の合金粒子が得られる。これにより、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化することができるため、窒化を均一に行うことができる。
【0072】
合金粒子の窒化処理における熱処理温度(以下、窒化温度)は、好ましくは300~610℃、特に好ましくは400~550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。熱処理時間は、合金粒子の窒化が充分に均一に行われる程度に設定されればよい。
【0073】
合金粒子の窒化処理における熱処理温度は、400℃以上470℃以下の第一温度で熱処理した後、480℃以上610℃以下の第二温度で熱処理して窒化処理することもできる。第一温度で窒化することなく、第二温度の高温で熱処理すると、窒化が急激に進行することにより異常発熱が生じ、SmFeN系異方性磁性粉末が分解し、磁気特性が大きく低下することがある。また、窒化工程における雰囲気は窒化の進行をより遅くできることから、実質的に窒素含有雰囲気下であることが好ましい。
【0074】
ここでいう実質的にとは、不純物の混入等に起因して不可避的に窒素以外の元素が含まれることを考慮して使用しており、例えば、雰囲気における窒素の割合が95%以上であり、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0075】
窒化工程における第一温度は、400℃以上470℃以下が好ましく、410℃以上450℃以下がより好ましい。400℃未満では、窒化の進行が非常に遅く、470℃を超えると、発熱により過窒化または分解が起こりやすくなる傾向にある。第一温度での熱処理時間は、特に限定されないが、1時間以上40時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。1時間未満では、窒化が十分に進行しない場合があり、40時間を超えると、生産性が悪くなる。
【0076】
第二温度は、480℃以上610℃以下が好ましく、500℃以上550℃以下がより好ましい。480℃未満では、粒子が大きいと窒化が十分に進行しない場合があり、610℃を超えると、過窒化または分解が起こりやすい。第二温度での熱処理時間は、15分以上5時間以下が好ましく、30分以上2時間以下がより好ましい。15分未満では、窒化が十分に進行しない場合があり、5時間を超えると、生産性が悪くなる。
【0077】
第一温度による熱処理と第二温度による熱処理は連続で行っても良く、これらの熱処理間において、第二温度より低い温度での熱処理を含むこともできるが、生産性の点で、連続で行うことが好ましい。
【0078】
[洗浄工程]
窒化工程後に得られる窒化物を洗浄してSmFeN系異方性磁性粉末を得る洗浄工程を有することができる。窒化工程後に得られる生成物には、磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。窒化工程後に得られる生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH)2)懸濁物としてSmFeN系異方性磁性粉末から分離することができる。さらに残留する水酸化カルシウムは、SmFeN系異方性磁性粉末を酢酸等で洗浄して充分に除去してもよい。生成物を水中に投入した際には、金属カルシウムの水による酸化及び副生CaOの水和反応によって、複合した焼結塊状の反応生成物の崩壊、すなわち微粉化が進行する。
【0079】
[アルカリ処理工程]
窒化工程後に得られる生成物をアルカリ溶液中に投入してもよい。アルカリ処理工程に用いるアルカリ溶液としては、たとえば水酸化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。なかでも、排水処理、高pHの点で、水酸化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。窒化工程後に得られる生成物のアルカリ処理において、酸素をある程度含有するSmリッチ層が残存して保護層として機能するため、アルカリ処理により酸素濃度が増大することを抑制している。
【0080】
アルカリ処理工程に用いるアルカリ溶液のpHは特に限定されないが、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。pHが9未満では、水酸化カルシウムになる際の反応速度が速く、発熱が大きくなるため、最終的に得られるSmFeN系異方性磁性粉末の酸素濃度が高くなる傾向がある。
【0081】
アルカリ処理工程において、アルカリ溶液で処理した後に得られたSmFeN系異方性磁性粉末は、必要によりデカンテーションなどの方法で水分を低減することもできる。アルカリ処理工程に替えて酸性溶液を用いた酸処理工程を行ってもよく、両工程をともに行ってもよい。
【0082】
<脱水工程>
洗浄工程またはアルカリ処理工程の後に、脱水処理する工程を含むこともできる。脱水処理によって、真空乾燥前の固形分中の水分を低減させ、真空乾燥前の固形分が水分をより多く含むことにより生じる乾燥時の酸化の進行を抑制することができる。ここで、脱水処理は、圧力や遠心力を加えることで、処理前の固形分に対して処理後の固形分に含まれる水分値を低減する処理のことを意味し、単なるデカンテーションや濾過や乾燥は含まない。脱水処理方法は特に限定されないが、圧搾、遠心分離などが挙げられる。
【0083】
脱水処理後のSmFeN系異方性磁性粉末に含まれる水分量は特に限定されないが、酸化の進行を抑制する点から13質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0084】
酸処理して得られたSmFeN系異方性磁性粉末、または、酸処理後、脱水処理して得られたSmFeN系異方性磁性粉末は、真空乾燥することが好ましい。乾燥温度は特に限定されないが、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。乾燥時間も特に限定されないが、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。
【0085】
<分散工程>
洗浄工程の後に、SmFeN系異方性磁性粉末を分散する分散工程を含んでもよい。分散工程における分散方法は、混合工程において述べた分散方法と同様の方法を使用することができる。すなわち、SmFeN系異方性磁性粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散することができる。アルカリ処理工程や脱水工程を行う場合は、それらの工程の後に分散工程を行う。
【0086】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法により作製したSmFeN系希土類磁石は、典型的には下記一般式SmvFe(100-v―w-x-y-z-u)NwLaxWyTiz
(式中、3≦v≦30、5≦w≦15、0≦x≦0.3、0≦y≦2.5、0≦z≦2.5である。)で表される。
【0087】
一般式において、vを3以上30以下と規定するのは、3未満では鉄成分の未反応部分(α-Fe相)が分離してSmFeN系異方性磁性粉末の保磁力が低下し、実用的な磁石ではなくなり、30を超えると、Sm元素が析出し、SmFeN系異方性磁性粉末が大気中で不安定になり、残留磁束密度が低下するからである。また、wを5以上15以下と規定するのは、5未満では、ほとんど保磁力が発現できず、15を超えるとSmや、鉄自体の窒化物が生成するからである。
【0088】
なかでも、SmFeN、SmFeLaN、SmFeLaWN、SmFeLaWRN、SmFeLaWTiNが好ましい。
【0089】
Laを含む場合、Laの含有量は、残留磁束密度の点から、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.15質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0090】
Wを含む場合、Wの含有量は、保磁力と角形比の点から、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.15質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0091】
R(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含む場合、Rの含有量は、温度特性の点から、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.15質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0092】
Nの含有量は、3.3質量%以上3.5質量%以下が好ましい。3.5質量%を超えると、過窒化となり、3.3質量%未満では、窒化不十分となり、ともに磁気特性が低下する傾向がある。
【0093】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法により作製したSmFeN系希土類磁石の密度は、特に限定されないが、5.8g/cm3以上7g/cm3以下が好ましく、6g/cm3以上6.7g/cm3以下がより好ましい。
【0094】
本実施形態のSmFeN系希土類磁石は、
SmFeN系異方性磁性粉末と、
前記SmFeN系異方性磁性粉末を被覆する被覆部と、を含み、
前記被覆部は、Pが局在している外周領域と、前記外周領域よりも内側に位置しておりZnが局在している内側領域と、を含むことを特徴とする。
【0095】
前記SmFeN系希土類磁石は、たとえば前述した本実施形態のSmFeN系希土類磁石の製造方法により製造することができる。段落[0013]に記載したように、磁性粉末にリン酸塩被覆を形成した後、80℃以上150℃未満という低温で熱処理することにより、リン酸塩膜が磁性粉末の粒子表面を被覆しすぎることがなく、焼結時に、Znが磁性粉末中に拡散して流動層が形成される。その結果、本実施形態のSmFeN系希土類磁石に含まれるSmFeN系異方性磁性粉末は、
図1に示す模式図のような特異な構造を有する。被覆部20において、Pが局在している外周領域21よりも内側に、Znが局在している内側領域22が形成され、得られたSmFeN系希土類磁石は、高い残留磁束密度Brと保磁力iHcを発現する。
【0096】
前記SmFeN系希土類磁石に含まれるSmFeN系異方性磁性粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、0.5μm以上5μm以下が好ましく、2.5μm以上3.5μm以下がより好ましい。前記被覆部の厚さは、1nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上30nm以下がより好ましい。Pが局在している外周領域の厚さは、0.5nm以上10nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。Znが局在している内側領域の厚さは、0.5nm以上10nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がより好ましい。
【実施例0097】
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0098】
[評価]
SmFeN系異方性磁性粉末のD50、残留磁化σr、残留磁束密度Br、保磁力iHc、Hk、およびBHmax、SmFeN系磁石の密度は、以下の方法で評価した。
【0099】
<D50>
SmFeN系異方性磁性粉末の平均粒子径および粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本レーザー株式会社のHELOS&RODOS)により測定した。
【0100】
<残留磁化σr、残留磁束密度Br、保磁力iHc、角形比Hkおよび最大エネルギー積BHmax>
得られたSmFeN系の希土類磁性粉末を、パラフィンワックスと共に試料容器に詰め、ドライヤーにてパラフィンワックスを溶融させた後、16kA/mの配向磁場にてその磁化容易磁区を揃えた。この磁場配向した試料を32kA/mの着磁磁場でパルス着磁し、最大磁場16kA/mのVSM(振動試料型磁力計)を用いて、残留磁化σr、保磁力iHc、角形比Hk、最大エネルギー積BHmaxを測定した。なお、残留磁束密度Br(単位:T)は、残留磁化σr(単位:emu/g)と計算式(Br=4×π×ρ×σr、ρ:密度=7.66g/cm3)を用いて算出した。
【0101】
<焼結磁石の密度>
焼結磁石の質量と外形寸法を測定し、外形寸法から推定体積を算出し、質量を推定体積で除した値を焼結磁石の密度とした。
【0102】
製造例1(SmFeLaWTi系磁性粉末)
[沈殿工程]
純水2.0kgにFeSO4・7H2O 5.0kgを混合溶解した。さらにSm2O3 0.49kg、La2O3 0.035kg、酸化チタン0.006kg、70%硫酸0.74kgを加えてよく攪拌し、完全に溶解させた。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/L、Sm濃度が0.112mol/Lとなるように調整し、SmFeLaTi硫酸溶液とした。
【0103】
温度が60℃に保たれた純水20kg中に、調製したSmFeLaTi硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15質量%アンモニア液と13質量%のタングステン酸アンモニウム溶液0.190kgを滴下させ、pHを7~8に調整した。これにより、SmFeLaWTi水酸化物を含むスラリーを得た。デカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0104】
[酸化工程]
沈殿工程で得られた水酸化物を大気中1000℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のSmFeLaWTi酸化物を得た。
【0105】
[前処理工程]
SmFeLaWTi酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。
【0106】
[還元工程]
前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒子径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。1060℃まで上昇させて、45分間保持することにより、SmFeLaWTi合金粒子を得た。
【0107】
[窒化工程]
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、第一温度の430℃まで上昇させて、3時間保持した。続いて第二温度の520℃まで上昇させて1時間保持した後、冷却して磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0108】
[洗浄工程]
窒化工程で得られた塊状生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。次いで、6%塩酸120gを投入し、pH=5になるまで攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。固液分離した後、90℃で真空乾燥(熱処理)を3時間行い、SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0109】
[分散工程]
振動ミルに用いる容器の容積に対して、得られたSmFeN系異方性磁性粉末が5体積%、メディア(鉄芯ナイロンメディア、直径10mm、被覆部ナイロンのビッカース定数7、比重7.48、ナイロン層厚み1~3mm程度)が60体積%となるようにSmFeN系異方性磁性粉末とメディアを容器に入れた。振動ミルにより、窒素雰囲気下、30分間分散し、SmFeN系異方性磁性粉末を得た。
【0110】
[酸処理工程]
得られたSmFeN系異方性磁性粉末250gを攪拌した純水3Lに投入してスラリーを作製し、そのスラリーに対して、6%塩酸200gを投入した。スラリーを攪拌して表面酸化膜や汚れ成分を除去した後、排水と注水を繰り返した。
【0111】
[リン酸塩源処理工程]
酸処理工程で得られたスラリーに対して、リン酸溶液を加えた。リン酸溶液を、磁性粒子固形分に対してPO4として1wt%分投入した。5分攪拌後、固液分離した後120℃で真空乾燥(熱処理)を3時間行い、SmFeLaWTi系磁性粉末を得た。
【0112】
製造例2(SmFeLaW系磁性粉末)
製造例1の沈殿工程において、酸化チタンを使用せず、タングステン酸アンモニウム溶液を0.760kgとしたこと以外は、製造例1と同様に行い、SmFeLaW系磁性粉末を得た。
【0113】
比較製造例1(SmFeLaWTi系磁性粉末)
製造例1のリン酸塩源処理工程において、真空乾燥温度を120℃から190℃に変更したこと以外は、製造例1と同様に行い、SmFeLaWTi系磁性粉末を得た。
【0114】
比較製造例2(SmFeLaW系磁性粉末)
製造例1の沈殿工程において、酸化チタンを使用しなかったことと、タングステン酸アンモニウム溶液を0.760kgとしたことと、リン酸塩源処理工程において、真空乾燥温度を120℃から190℃に変更したこと以外は、製造例1と同様に行い、SmFeLaW系磁性粉末を得た。
【0115】
製造例1~2、比較製造例1~2で作製した磁性粉末について、前述した方法でD50、残留磁化σr、保磁力iHcおよび角形比Hkを測定した。測定結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
製造例3~6、比較製造例3~6
[改質材粉末の混合工程]
製造例1~2、比較製造例1~2で作製した磁性粉末および金属亜鉛粉末(D50:0.5μm、純度:99.9質量%)を、表2に示す混合割合となるように振動ミルを用いて分散および混合し、混合粉末を作製した。振動ミルを用いた分散および混合では、メディアとして鉄芯ナイロンメディア(直径10mm、被覆部ナイロンのビッカース定数7、比重7.48、ナイロン層厚み1~3mm程度)を使用し、窒素雰囲気下で行った。得られた混合磁性粉末について、前述した方法で残留磁化σr、保磁力iHcおよび角形比Hkを測定した。測定結果を表2に示す。
【0118】
【0119】
実施例1~4および比較例1~4
[圧縮成形工程]
製造例3~6および比較製造例3~6で作製した混合粉末を磁場中で圧縮成形し磁場成形体を得た。圧縮成形の圧力は200MPaであり、印加した磁場は2Tとした。
【0120】
[焼結工程]
磁場成形体を加圧焼結し、焼結体を得た。加圧焼結(放電プラズマ焼結(SPS))の条件は、真空下、焼結温度380℃、印加圧力550MPa、印加時間30分とした。
【0121】
[熱処理工程]
焼結体を熱処理し、実施例1のSmFeN系希土類磁石を得た。熱処理の条件は、真空雰囲気にて、熱処理温度380℃、熱処理時間24時間とした。
【0122】
実施例1~4および比較例1~4で得られたSmFeN系希土類磁石を用い、前述した方法で密度、残留磁束密度Br、保磁力iHc、角形比HkおよびBHmaxを測定した。測定結果を表3に示す。
【0123】
【0124】
表3より、表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を120℃で熱処理した磁性粉末を使用した実施例1~4では、190℃で熱処理した磁性粉末を使用した比較例1~4と比較して、磁気特性に優れた焼結磁石を得ることができた。
【0125】
本開示は以下の形態を含む。
(項1)
表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を80℃以上150℃未満で熱処理する磁性粉末の熱処理工程と、
前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末とZnを含む改質材粉末を、樹脂で被覆された金属のメディアまたは樹脂で被覆されたセラミックスのメディアを用いて分散し、前記SmFeN系異方性磁性粉末と前記改質材粉末を含む混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を磁場中で圧縮成形して、磁場成形体を得る圧縮成形工程と、
前記磁場成形体を加圧焼結して、焼結体を得る焼結工程と、
を含む、SmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0126】
(項2)
さらに、
前記磁性粉末の熱処理工程の前に、前記熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末を酸で処理する酸処理工程と、
前記酸処理されたSmFeN系異方性磁性粉末をリン酸塩源で処理することにより前記表面にリン酸塩が被覆されたSmFeN系異方性磁性粉末を得るリン酸塩源処理工程と、
を含む項1に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0127】
(項3)
前記混合工程において、乾式で分散する項1または2に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0128】
(項4)
前記メディアの比重が4以上である項1~3のいずれかに記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0129】
(項5)
前記熱処理されたSmFeN系異方性磁性粉末が、第一粒子群及び第二粒子群を含み、
前記第一粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50が、前記第二粒子群の体積基準による累積粒度分布の50%粒径D50より大きい、項1~4のいずれかに記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0130】
(項6)
前記SmFeN系異方性磁性粉末は、La、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含む項1~5のいずれかに記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0131】
(項7)
さらに、
Sm、Fe、La、WおよびR(RはTi、BaおよびSrからなる群から選択される少なくとも1種)を含む酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理することにより、部分酸化物を得る前処理工程と、
前記部分酸化物を、還元剤の存在下で熱処理することにより、合金粒子を得る還元工程と、
前記合金粒子を窒化して窒化物を得る窒化工程と、
前記窒化物を洗浄して、前記熱処理工程で使用するSmFeN系異方性磁性粉末を得る洗浄工程と、
を含む項6に記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0132】
(項8)
さらに、
前記焼結体を熱処理して、SmFeN系希土類磁石を得る焼結体の熱処理工程を含む項1~7のいずれかに記載のSmFeN系希土類磁石の製造方法。
【0133】
(項9)
SmFeN系異方性磁性粉末と、
前記SmFeN系異方性磁性粉末を被覆する被覆部と、を含み、
前記被覆部は、Pが局在している外周領域と、前記外周領域よりも内側に位置しておりZnが局在している内側領域と、を含む、SmFeN系希土類磁石。