(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070325
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】試料中の基質の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20240516BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G01N27/327 353S
G01N27/327 353F
G01N27/327 ZNA
G01N27/416 338
G01N27/327 353Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180729
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 尚▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】米田 圭三
(72)【発明者】
【氏名】平塚 淳典
(72)【発明者】
【氏名】田中 丈士
(72)【発明者】
【氏名】六車 仁志
(57)【要約】
【課題】芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサを用いた試料中の基質を測定する方法の改善。
【解決手段】試料中の基質を測定する方法であって、芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサに試料を導入する工程A、試料が導入された前記センサに電圧を印加する工程B、及び電圧が印加された前記センサを用いて試料中の基質と酵素との反応を電気化学的に測定する工程Cを含む方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の基質を測定する方法であって、
芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサに試料を導入する工程A、
試料が導入された前記センサに電圧を印加する工程B、及び
電圧が印加された前記センサを用いて試料中の基質と酵素との反応を電気化学的に測定する工程Cを含む方法。
【請求項2】
工程Bが、0.8V以下の電圧を1秒以下印加する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程Bが、0.1V~0.4Vの電圧を1ミリ秒~1秒印加する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程Cが、工程Bの印加電圧よりも低い電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程Cが、工程Bの印加電圧よりも低い電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
工程Cが、0.1V以下の電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ナノカーボンがカーボンナノチューブである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
酵素がフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
芳香環骨格を有する化合物が、チモール、フェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、チロシン二ナトリウム水和物、サリチル酸ナトリウム、トルエン、5-ヒドロキシインドール、アニリン、ロイコキニザリン、カルバクロール、1,5-ナフタレンジオール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、2-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、1-ナフトール、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,6-ジイソプロピルフェノール、2-tert-ブチル-4-エチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-6-メチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、3-tert-ブチルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルアニソール、o-クレゾール、m-クレゾール、及びp-クレゾールからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記作用極が、分散剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記対極が、多孔質炭素及び金属酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記センサが、参照極を更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
試料中の基質の測定方法に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボンは電気の伝導率が高いことから他の物質との電子伝達を行う導電材料としての応用が進んでいる。例えばナノカーボンをカーボン、樹脂及び有機溶剤からなるインクに混合し基板上に印刷してバイオセンサ用の電極として用いることが提案されている(特許文献1)。また、ナノカーボンの一種であるカーボンナノチューブは過酸化物を測定するセンサに用いられたり(特許文献2)、酵素とともにフィルム状に成形し、センサや燃料電池の電極として用いられたりしている(特許文献3)。さらに単層カーボンナノチューブを用いることで酵素から直接電子移動で電極への電子伝達を行うことも報告されている(非特許文献1)。これは従来メディエータが必須であった、フラビンアデニンジヌクレオチドを補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)をメディエータなしでグルコースセンサに用いることを可能にする。また、ナノカーボンの電子伝達作用促進剤として、芳香環骨格を有する化合物を用いることも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005088288
【特許文献2】WO2011007582
【特許文献3】WO2012002290
【特許文献4】WO2019189808
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Catal. 2017, 7, 725-734
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサによって試料中の基質を測定することができる。当該センサにおいて、ナノカーボンに芳香環骨格を有する化合物を付着又は近接させることにより、ナノカーボンによる酵素と作用極との間の電子伝達を増強して測定感度を向上させることができるが、更なる改善の余地があることを見出した。
【0006】
芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサを用いた試料中の基質を測定する方法の改善が1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサに試料を導入する工程A、試料が導入された前記センサに電圧を印加する工程B、電圧が印加された前記センサを用いて試料中の基質と酵素との反応を電気化学的に測定する工程Cを含む方法により、試料中の基質を感度良く測定することができることを見出した。かかる知見を基にさらに検討を重ねることにより、下記に代表される発明を完成するに至った。
【0008】
[項1]
試料中の基質を測定する方法であって、
芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサに試料を導入する工程A、
試料が導入された前記センサに電圧を印加する工程B、及び
電圧が印加された前記センサを用いて試料中の基質と酵素との反応を電気化学的に測定する工程Cを含む方法。
[項2]
工程Bが、0.8V以下の電圧を1秒以下印加する工程である、項1に記載の方法。
[項3]
工程Bが、0.1V~0.4Vの電圧を1ミリ秒~1秒印加する工程である、項1又は2に記載の方法。
[項4]
工程Cが、工程Bの印加電圧よりも低い電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、項2に記載の方法。
[項5]
工程Cが、工程Bの印加電圧よりも低い電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、項3に記載の方法。
[項6]
工程Cが、0.1V以下の電圧で前記反応に基づく電流を測定する工程である、項1~5のいずれかに記載の方法。
[項7]
ナノカーボンがカーボンナノチューブである、項1~6のいずれかに記載の方法。
[項8]
酵素がフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼである、項1~7のいずれかに記載の方法。
[項9]
芳香環骨格を有する化合物が、チモール、フェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、チロシン二ナトリウム水和物、サリチル酸ナトリウム、トルエン、5-ヒドロキシインドール、アニリン、ロイコキニザリン、カルバクロール、1,5-ナフタレンジオール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、2-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、1-ナフトール、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,6-ジイソプロピルフェノール、2-tert-ブチル-4-エチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-6-メチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、3-tert-ブチルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルアニソール、o-クレゾール、m-クレゾール、及びp-クレゾールからなる群より選択される少なくとも一種である、項1~8のいずれかに記載の方法。
[項10]
前記作用極が、分散剤を更に含む、項1~9のいずれかに記載の方法。
[項11]
前記対極が、多孔質炭素及び金属酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、項1~10のいずれかに記載の方法。
[項12]
前記センサが、参照極を更に含む、項1~11のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサを用いて、試料中の基質を感度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で作製した二電極閉鎖系チップの構造を示す。「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は粘着シート(0.03mm厚)であり、「3」はPETシート(0.19mm厚)であり、「4」はPETシートであり、「5」は作用極部位(1.5mm
2)であり、「6」は対極部位(4.5mm
2)である。
【
図2】実施例1において、リニアスイープボルタンメトリー法による1回目の測定結果を示す。
【
図3】実施例1において、リニアスイープボルタンメトリー法による2回目の測定結果を示す。
【
図4】実施例2において、クロノアンペロメトリー法による測定結果を示す。
【
図5】実施例3で作製した三電極閉鎖系チップの構造を示す。「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は粘着シート(0.03mm厚)であり、「3」はPETシート(0.19mm厚)であり、「4」はPETシートであり、「5」は作用極部位(1.5mm
2)であり、「6」は対極部位(1.5mm
2)であり、「7」は参照極部位(1.5mm
2)である。
【
図6】実施例3において、リニアスイープボルタンメトリー法による1回目の測定結果を示す。
【
図7】実施例3において、リニアスイープボルタンメトリー法による2回目の測定結果を示す。
【
図8】実施例3において、クロノアンペロメトリー法を用い、測定開始前の電圧印加を0V、1ミリ秒の条件で行った際の0.1Vでの測定結果を示す。
【
図9】実施例3において、クロノアンペロメトリー法を用い、測定開始前の電圧印加を0.4V、1ミリ秒の条件で行った際の0.1Vでの測定結果を示す。
【
図10】実施例3において、
図9で得られた電流値のうち、測定開始から1秒後及び5秒後の電流値をプロットした結果を示す。
【
図11】実施例5において、測定開始から1秒後、2秒後、及び5秒後の電流値をプロットした結果を示す。
【
図12】比較例で作製した二電極閉鎖系チップの構造を示す。「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は両面に粘着シートを有するPETシート(0.1mm厚)であり、「3」はPETシートであり、「4」は作用極部位(2.3mm
2)であり、「5」は対極部位(2.3mm
2)である。
【
図13】比較例において、リニアスイープボルタンメトリー法による1回目の測定結果を示す。
【
図14】比較例において、リニアスイープボルタンメトリー法による2回目の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態において、試料中の基質を測定する方法は、下記の工程A、B、及びCを含むことが好ましい。
(A)芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むセンサに試料を導入する工程A、
(B)試料が導入された前記センサに電圧を印加する工程B、
(C)電圧が印加された前記センサを用いて試料中の基質と酵素との反応を電気化学的に測定する工程C。
【0012】
試料は、基質の測定が求められるものであれば、特に制限されない。試料は、生体試料であっても非生体試料であってもよい。
【0013】
生体試料における生体としては、例えば、哺乳類、鳥類、無脊椎動物、植物、微生物が挙げられる。これらの中では哺乳類が好ましい。哺乳類としては、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギが挙げられる。これらの中ではヒトが好ましい。生体試料は、前記生体に由来する試料であることができ、例えば、血液、血清、血漿、唾液、髄液、汗、尿、便、糞、リンパ液、涙液、細胞又は組織の破砕液が挙げられる。
【0014】
非生体試料は、生体試料以外の任意の試料(環境試料等)を包含し、例えば、食品、河川、土壌等に由来する試料、廃液等が挙げられる。
【0015】
測定は、定性的測定及び定量的測定を包含する。定性的測定としては、例えば、試料に基質が含まれるか否か検出すること、試料中の基質の量(又は濃度)が閾値以下(又は閾値以上)であるか否か判定することが挙げられる。定量的測定としては、例えば、試料中の基質の量(又は濃度)を測定することが挙げられる。なお、試料中の基質の量(又は濃度)は、基質と酵素の反応に基づく電流値に対応するため、試料中の基質の測定は、当該電流値の測定であってもよい。
【0016】
基質は、作用極に含まれる酵素によって反応を触媒されるものが好ましい。基質は、酵素の種類に応じて様々な物質を使用し得る。例えば、酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである場合、基質はグルコースであり得る。
【0017】
センサは、芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極、及び対極を含むことが好ましい。
【0018】
酵素は、触媒反応に伴って電子を遊離するものが好ましい。そのような酵素としては、例えば、酸化還元酵素を挙げることができる。酸化還元酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセロールオキシダーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、ウリカーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0019】
一実施形態において、酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼであることが好ましく、フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼであることが好ましく、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(「FADGDH」とも称する)が好ましい。FADGDHは、ポリペプチドで形成される3次元構造のくぼみにFADを保持するため、そこで生成された電子を作用極に伝達するためには、従来、メディエータと呼ばれる物質を要した。これに対し、ナノカーボンを用いることにより、メディエータを利用しなくても、電子を作用極に伝達することが可能となる。また、芳香環骨格を有する化合物を利用することにより、ナノカーボンを介した電子伝達を格段に効率的に(又は強力に)行うことが可能となる。
【0020】
FADGDHの種類は制限されず、任意のものを使用することができる。FADGDHの具体例としては、次の生物のいずれかに由来するものを挙げることができる:アスペルギルス・テレウス、アスペルギルス・オリゼ、アルペルギルス・ニガー、アスペルギルス・フォエチダス、アルペルギルス・アウレウス、アスペルギルス・バージカラー、アスペルギルス・カワチ、アルペルギルス・アワモリ、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、サイトファーガ・マリノフラバ、アガリカス・ビスポラス、マクロレピオタ・ラコデス、ブルクホルデリア・セパシア、ムコール・サブチリシマス、ムコール・ギリエルモンディ、ムコール・プライニ、ムコール・ジャバニカス、ムコール・シルシネロイデス、ムコール・シルシネロイデス・エフ・シルシネロイデス、ムコール・ヒエマリス、ムコール・ヒエマリス・エフ・シルバチカス、ムコール・ダイモルフォスポラス、アブシジア・シリンドロスポラ、アブシジア・ヒアロスポラ、アクチノムコール・エレガンス、シルシネラ・シンプレックス、シルシネラ・アンガレンシス、シルシネラ・シネンシス、シルシネラ・ラクリミスポラ、シルシネラ・マイナー、シルシネラ・ムコロイデス、シルシネラ・リジダ、シルシネラ・アンベラータ、シルシネラ・ムスカエ、メタリジウム・エスピー及びコレトトリカム・エスピー。
【0021】
一実施形態において好ましいFADGDHは、アスペルギルス・オリゼ由来のFADGDH、ムコール・ヒエマリス由来のFADGDH、ムコール・サブチリシマス由来のFADGDH、シルシネラ・シンプレックス由来のFADGDH、メタリジウム・エスピー由来のFADGDH又はコレトトリカム・エスピー由来のFADGDHであり、好ましくは、配列番号1~6のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、より好ましくは、配列番号1~6のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、さらに好ましくは、配列番号1~6のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有し、グルコース脱水素活性を有するものを挙げることができる。アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて、算出することができる。なお、配列番号1のアミノ酸配列は、アスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHのものであり、配列番号2のアミノ酸配列は、ムコール・ヒエマリス由来のFADGDHのものであり、配列番号3のアミノ酸配列は、ムコール・サブチリシマス由来のFADGDHのものであり、配列番号4のアミノ酸配列は、シルシネラ・シンプレックス由来のFADGDHのものであり、配列番号5のアミノ酸配列は、メタリジウム・エスピー由来のFADGDHのものであり、配列番号6のアミノ酸配列は、コレトトリカム・エスピー由来のFADGDHのものである。
【0022】
ナノカーボンは、電子伝達機能を有する、ナノカーボンとして認識される物質であれば特に制限されない。そのような物質としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノツイスト、コクーン、カーボンナノコイル、グラフェン、フラーレンなどを含む、主に炭素により構成されている炭素材料が挙げられる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、二層カーボンナノチューブ、三層以上の多層カーボンナノチューブであってもよい。一実施形態において、ナノカーボンは、カーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0023】
ナノカーボンに付着又は近接する芳香環骨格を有する化合物は、ナノカーボンによる酵素と作用極との間の電子伝達を促進させる電子伝達促進剤である限り、特に制限されない。芳香環骨格の環構成原子の数は、例えば、5~18、好ましくは5~16、さらに好ましくは5~14である。芳香環骨格には、1つのベンゼン環からなる骨格、2以上(例えば、2~4)のベンゼン環からなる骨格(ナフタレン骨格、アントラセン骨格など)、ベンゼン環と他の芳香環(含窒素芳香環、含酸素芳香環、含硫黄芳香環など)との縮合環からなる骨格(フェナントロリン骨格、ベンゾフラン骨格、ベンゾイミダゾール骨格、カルバゾール骨格など)、炭素と他の元素(窒素、酸素、硫黄など)により構成される芳香環からなる骨格(トリアジン骨格、トリアゾール骨格、ピリジン骨格など)を有するものが包含される。芳香環骨格を有する化合物は、単独ではメディエータとしての機能を有しない化合物であることが好ましい。ここで、「単独ではメディエータとしての機能を有しない」とは、ベンゾキノンや1-メトキシフェナジンメトサルフェートのように電極と酵素との間あるいは電極と基質との間で電子伝達を単独で行うという機能を持たないことを意味する。
【0024】
一実施形態において、芳香環骨格を有する化合物は、電子供与性の置換基を有することが好ましい。電子供与性の置換基とは、ヒドロキシ基、アミノ基、及びメチル基等のことである。好ましい電子供与性の置換基は、ヒドロキシ基である。電子供与性の置換基及び芳香環骨格を有する化合物としては、ヒドロキシ基が置換されたベンゼン環を有する化合物(例えば、チモール、フェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、チロシン二ナトリウム水和物、サリチル酸ナトリウム、5-ヒドロキシインドール、ロイコキニザリン、カルバクロール、1,5-ナフタレンジオール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、2-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、1-ナフトール、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,6-ジイソプロピルフェノール、2-tert-ブチル-4-エチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-6-メチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、3-tert-ブチルフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール)、アミノ基が置換されたベンゼン環を有する化合物(例えば、アニリン)、メチル基が置換されたベンゼン環を有する化合物(例えば、トルエン、2-イソプロピル-5-メチルアニソール)を挙げることができる。
【0025】
上記化合物の中でも、チモール、フェノール、及びカルバクロールから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0026】
芳香環骨格を有する化合物をナノカーボンに付着又は近接させることによって、ナノカーボンによる酵素と作用極との間の電子伝達を促進させることができる。芳香環骨格を有する化合物とナノカーボンとは、分子間相互作用によって付着又は近接していることが好ましい。
【0027】
芳香環骨格を有する化合物をナノカーボンに付着又は近接させる手段は特に制限されない。例えば、ナノカーボンと芳香環骨格を有する化合物とを混合すること(溶液中での混合を含む)、又はナノカーボン上に芳香環骨格を有する化合物を配置することによって実施することができる。ナノカーボンに近接又は付着して配置された芳香環骨格を有する化合物は、固定されていても、固定されていなくてもよい。固定は、ナノカーボン及び芳香環骨格を有する化合物の機能を阻害しない限り制限されず、公知の手段から適宜選択して使用することができる。
【0028】
ナノカーボンに付着又は近接させる芳香環骨格を有する化合物の量は特に制限されない。芳香環骨格を有する化合物の量は、ナノカーボン100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。また、芳香環骨格を有する化合物の量は、ナノカーボン100質量部に対して、例えば、100000質量部以下、好ましくは10000質量部以下、さらに好ましくは1000質量部以下である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。また、芳香環骨格を有する化合物の量は、酵素100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。また、芳香環骨格を有する化合物の量は、酵素100質量部に対して、例えば、1000000質量部以下、好ましくは100000質量部以下、さらに好ましくは10000質量部以下である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。
【0029】
作用極は、さらに分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、ナノカーボンの凝集を抑制し、分散させることが可能な物質であれば、特に制限されない。分散剤としては、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルフェノールエトキシレート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩等を挙げることができるが、これらには限定されない。例えば、特開2016-56230号公報、特開2013-230951号公報等に記載されている、上記以外の分散剤も同様に使用することができる。本明細書で引用される全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。分散剤は1種単独であっても2種以上の組合せであってもよい。一実施形態において、好ましい分散剤は、コール酸ナトリウム及び/又はデオキシコール酸ナトリウムである。
【0030】
作用極の形状は、電極として使用し得る形状であれば特に制限されず、例えば、線状、コイル状、網状、棒状、フィルム状、又は板状であってもよい。一実施形態において、作用極は、バイオセンサに利用される酵素を固定させた電極に適した基板を有することが好ましく、基板は、絶縁性基板上に金属膜(例えば、金属薄膜)が形成されたものであることが好ましい。絶縁性基板の材料としては、例えば、プラスチック、感光性材料、紙、ガラス、セラミック、生分解性材料等が挙げられる。絶縁性基板は、好ましくはガラス基板又はプラスチック基板(例えば、PET基板)を用いることができる。金属膜を形成する金属の種類は、電極に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、金、白金、パラジウム等の貴金属、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等を挙げることができる。また、基板は、絶縁性基板上に金属膜の代わりに炭素膜(例えば、カーボンペーストによる炭素薄膜)が形成されたものであってもよい。
【0031】
一実施形態において、作用極は、ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素が基板に積載(特に固定化)されたものであることが好ましく、基板と、基板の少なくとも一方の面に形成(又は積層)された、ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素を含む層(「試薬層」とも表記し得る)とを有することが好ましい。一実施形態において、作用極は、溶媒に浸漬させることが好ましい。当該実施形態は「開放系」と称する場合がある。開放系では、試料を添加した溶媒に作用極を浸漬させてもよく、作用極を浸漬させた溶媒に試料を添加してもよい。別の実施形態において、作用極及び対極を含む電極と、該電極上に、スリットを有するスペーサを介して、積層されたカバーとを有することが好ましい。当該実施形態では、電極、スリット、及びカバーにより、試料を供給するためのキャビティを形成することができる。当該実施形態は「閉鎖系」と称する場合がある。閉鎖系の構成については、例えば、国際公開第2018/043050号(又は米国特許出願公開第2019/194714号)等を参照することができる。閉鎖系では、試料を添加した溶媒を、キャビティ(特にその先端部分又は入口)と接触させることで毛細管現象によりキャビティ内に注入することができる。前記溶媒としては、典型的には緩衝液であり、例えば、酢酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、硼酸塩緩衝液が挙げられる。溶媒は、芳香環骨格を有する化合物を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0032】
ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素の積載方法は、特に制限されない。例えば、これらの物質の各々を分散又は溶解させた溶液を調製し、順次基板上の所定部位(基板が、絶縁性基板上に金属薄膜が形成されたものである場合、金属薄膜が形成された場所)に滴下し、乾燥させるという操作を繰り返すことにより、積載することができる。又は、これらの物質の各々を分散又は溶解させた溶液を調製した後、これらを1つに混合し、基板上の所定部位に滴下し、乾燥させることにより、積載することができる。分散媒又は溶媒としては、特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶媒(例えば、エタノール)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン)、これら2種以上の組合せが挙げられる。
【0033】
一実施形態において、ナノカーボンを分散させた分散液に分散剤を配合することが好ましい。分散剤の配合割合は任意であるが、例えば、0.2~2%(w/v)配合することが好ましい。なお、ナノカーボンの配合割合も任意であるが、例えば、0.05~0.5%(w/v)配合することが好ましい。
【0034】
積載する順序は任意であるが、一実施形態において、ナノカーボン→酵素→芳香環骨格を有する化合物、又はナノカーボン→芳香環骨格を有する化合物→酵素の順で積載することが好ましく、これらを同時に積載することも好ましい。
【0035】
ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素の使用量は特に制限されない。
【0036】
一実施形態において、ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素は、基板に固定化されていてもよい。固定化は、公知の方法を適宜選択して実施することができる。例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ[2-(フルオロスルホニルエトキシ)ポリビニルエーテル]共重合体(例:ナフィオン(商標))及びカルボキシルメチルセルロース等の固定化に適した物質を溶解させた液体を、基板上の上記各物質を積載した部位に滴下し、乾燥させることによって、固定化することができる。一実施形態において、ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素を基板に積載したのち、これらの物質を覆うようにカルボキシルメチルセルロース等のポリマー物質で処理することが好ましい。
【0037】
一実施形態において、作用極は、ナノカーボン及び酵素が基板に積載(特に固定化)されたものであることが好ましく、基板と、基板の少なくとも一方の面に形成(又は積層)された、ナノカーボン及び酵素を含む層(「試薬層」とも表記し得る)とを有することが好ましい。ナノカーボン及び酵素を基板に積載(又は固定化)する方法としては、ナノカーボン、芳香環骨格を有する化合物、及び酵素を基板に積載(又は固定化)する方法と同様の方法を採用することができる。前記作用極(又は前記層)には芳香環骨格を有する化合物が含まれていない(固定化されていない)ことが好ましい。開放系では、試料及び芳香環骨格を有する化合物を含む溶媒に作用極を浸漬させてもよく、作用極を浸漬させた、芳香環骨格を有する化合物を含む溶媒に試料を添加してもよい。閉鎖系では、試料及び芳香環骨格を有する化合物を含む溶媒を、キャビティ(特にその先端部分又は入口)と接触させることで毛細管現象によりキャビティ内に注入することができる。前記溶媒としては、典型的には緩衝液であり、例えば、酢酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、硼酸塩緩衝液が挙げられる。
【0038】
溶媒中の芳香環骨格を有する化合物の濃度は、特に限定されない。前記濃度の下限は、例えば0.000001%(w/v)、好ましくは0.000005%(w/v)、より好ましくは0.00001%(w/v)、より好ましくは0.00005%(w/v)、より好ましくは0.0001%(w/v)、より好ましくは0.0005%(w/v)、より好ましくは0.001%(w/v)、より好ましくは0.005%(w/v)、より好ましくは0.01%(w/v)である。前記濃度の上限は、例えば2%(w/v)、好ましくは1.5%(w/v)、より好ましくは1%(w/v)である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。
【0039】
対極は、芳香環骨格を有する化合物が付着又は近接するナノカーボンと酵素とを含む作用極に対するものである限り、特に制限されない。一実施形態において、対極は、対極の改質剤を含むことが好ましい。一実施形態において、対極の改質剤は、金属酸化物及び/又は多孔質炭素を含むことが好ましい。
【0040】
金属酸化物としては、特に制限はなく、例えば、水及び/又は有機溶媒に不溶な金属酸化物が挙げられる。ここで、「不溶」とは、完全に溶解しない場合のみならず、僅かに溶解する(例えば、室温での溶解度が0.0001g/mL以下である)場合も含む意味で用いる。このような金属酸化物としては、例えば、銅酸化物、銀酸化物、マンガン酸化物、オスミウム酸化物、鉛酸化物が挙げられる。銅酸化物としては、例えば、Cu2O、CuOが挙げられ、銀酸化物としては、例えば、Ag2Oが挙げられ、マンガン酸化物としては、例えば、MnO2、BaMnO4が挙げられ、オスミウム酸化物としては、例えば、OsO4が挙げられる。鉛酸化物としては、例えば、PbO2が挙げられる。金属酸化物は1種単独であっても2種以上の組合せであってもよい。金属酸化物としては、銀酸化物及びマンガン酸化物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、Ag2O、MnO2、及びBaMnO4からなる群より選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0041】
多孔質炭素の種類は、特に制限されない。多孔質炭素としては、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、酸化物を鋳型とする多孔質炭素が挙げられる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、二層カーボンナノチューブ、三層以上の多層カーボンナノチューブであってもよい。酸化物を鋳型とする多孔質炭素としては、例えば、酸化マグネシウムを鋳型とする多孔質炭素(例えば、東洋炭素株式会社製多孔質炭素、商品名:クノーベル(商標))、ゼオライトを鋳型とする多孔質炭素、アルミナを鋳型とする多孔質炭素が挙げられる。
【0042】
多孔質炭素の比表面積は、特に制限されない。前記比表面積の下限は、例えば500m2/g、好ましくは1000m2/gである。前記比表面積の上限は、例えば5000m2/g、好ましくは4000m2/g、さらに好ましくは3000m2/gである。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。前記比表面積が大きいほど、対極から対極表面の物質へ電子を受け渡す還元反応を促進することができる。前記比表面積は、例えば、液体窒素温度(77K)での窒素分子の吸着等温線からBrunauer-Emmett-Teller(BET)の方法により求めることができる。
【0043】
多孔質炭素は粉粒体であることが好ましい。多孔質炭素の粒径又は平均粒径は、特に制限されない。前記粒径又は平均粒径の上限は、例えば200μm、好ましくは180μm、さらに好ましくは150μmである。前記平均粒径の上限は、100μm、80μm、50μm、30μm、又は10μmであることも好ましい。前記粒径又は平均粒径の下限は、例えば10nm、好ましくは15nm、さらに好ましくは20nmである。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。前記粒径又は平均粒径は小さいほど、溶液中での分散性が高く、マイクロピペット、ディスペンサーなどによるハンドリングの際に目詰まりすることを防止でき、ハンドリングの正確性を向上することができる。前記粒径又は平均粒径は、例えば、メッシュ法又はレーザー回折散乱法により測定することができる。
【0044】
対極は、さらに分散剤を含んでいてもよい。特に、対極が対極の改質剤として多孔質炭素を含む場合、分散剤は多孔質炭素の凝集を抑制して分散させることが可能であるため好ましい。分散剤としては、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルフェノールエトキシレート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩等を挙げることができるが、これらには限定されない。例えば、特開2016-56230号公報、特開2013-230951号公報等に記載されている、上記以外の分散剤も同様に使用することができる。分散剤は1種単独であっても2種以上の組合せであってもよい。一実施形態において、好ましい分散剤は、コール酸ナトリウム及び/又はデオキシコール酸ナトリウムである。
【0045】
対極の形状は、電極として使用し得る形状であれば特に制限されず、例えば、線状、コイル状、網状、棒状、フィルム状、又は板状であってもよい。一実施形態において、対極は、電極に適した基板を有することが好ましく、基板は、絶縁性基板上に金属膜(例えば、金属薄膜)が形成されたものであることが好ましい。絶縁性基板の材料としては、例えば、プラスチック、感光性材料、紙、ガラス、セラミック、生分解性材料等が挙げられる。絶縁性基板は、好ましくはガラス基板又はプラスチック基板(例えば、PET基板)を用いることができる。金属膜を形成する金属の種類は、電極に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、金、白金、パラジウム等の貴金属、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等を挙げることができる。
【0046】
一実施形態において、対極は、前記金属膜の代わりに、又は、前記金属膜上の少なくとも一部に、炭素膜(例えば、カーボンペーストによる炭素膜、好ましくは炭素薄膜)が形成されたものであることが好ましい。カーボンペーストは、電極に使用される成分に加えて、対極の改質剤を含有することが好ましく、カーボン、バインダー、及び対極の改質剤を含有することが好ましい。
【0047】
カーボンとしては、例えば、グラファイト、カーボンブラックが挙げられる。バインダーとしては、例えば、炭化水素バインダー、アルコールバインダー、エステルバインダーが挙げられる。炭化水素バインダーとしては、例えば、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、流動パラフィン、スクワランが挙げられる。アルコールバインダーとしては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコールが挙げられる。エステルバインダーとしては、例えば、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステルが挙げられる。カーボン及びバインダーは、それぞれ、1種単独であってもよく2種以上の組合せであってもよい。
【0048】
カーボンペーストにおけるバインダーの含有量は、特に制限されない。前記含有量の下限は、カーボン100質量部に対して、例えば1質量部、好ましくは5質量部、より好ましくは10質量部、さらに好ましくは20質量部である。前記含有量の上限は、カーボン100質量部に対して、例えば1000質量部、好ましくは500質量部、さらに好ましくは200質量部である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。
【0049】
カーボンペーストにおける対極の改質剤の含有量も特に制限されない。前記含有量の下限は、カーボン100質量部に対して、例えば1質量部、好ましくは5質量部、より好ましくは10質量部、さらに好ましくは20質量部である。前記含有量の上限は、カーボン100質量部に対して、例えば1000質量部、好ましくは500質量部、さらに好ましくは200質量部である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。
【0050】
対極における、カーボン100質量部当たりの対極の改質剤の含有量(又は積載量)は、カーボンペーストにおける、カーボン100質量部当たりの対極の改質剤の含有量と同じ範囲から選択することができる。
【0051】
一実施形態において、対極は、基板に対極の改質剤が積載されたものであることが好ましく、基板と、基板の少なくとも一方の面に形成(又は積層)された、対極の改質剤を含む層(「試薬層」とも表記し得る)とを有することが好ましい。対極の改質剤の積載量は、特に制限されない。
【0052】
対極の改質剤の積載方法は、特に制限されない。例えば、対極の改質剤を分散又は溶解させた溶液を調製し、基板上の所定部位(基板が、絶縁性基板上に金属薄膜が形成されたものである場合、金属薄膜が形成された場所)に滴下し、乾燥させることにより、積載することができる。分散媒又は溶媒としては、特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶媒(例えば、エタノール)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン)、これらの組合せが挙げられる。
【0053】
一実施形態において、対極の改質剤(特に多孔質炭素)を分散させた分散液に分散剤を配合することが好ましい。分散剤の配合割合は任意であるが、例えば、0.2~2%(w/v)配合することが好ましい。なお、多孔質炭素の配合割合も任意であるが、例えば、0.05~0.5%(w/v)配合することが好ましい。
【0054】
一実施形態において、対極の改質剤は、基板に固定化されていてもよい。固定化は、公知の方法を適宜選択して実施することができる。例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ[2-(フルオロスルホニルエトキシ)ポリビニルエーテル]共重合体(例:ナフィオン(商標))及びカルボキシルメチルセルロース等の固定化に適した物質を溶解させた液体を、基板上の対極の改質剤を積載した部位に滴下し、乾燥させることによって、固定化することができる。一実施形態において、対極の改質剤を基板に積載したのち、これらの物質を覆うようにカルボキシルメチルセルロース等のポリマー物質で処理することが好ましい。
【0055】
対極の表面積は、特に制限されない。一実施形態において、ナノカーボンによる酵素と作用極との間の電子伝達による電流値を増幅する点から、対極の表面積は、作用極の表面積以上であることが好ましい。対極の表面積の下限は、作用極の表面積の1倍、1.5倍、2倍、2.5倍、又は3倍であることが好ましい。対極の表面積の上限は、特に制限されないが、例えば、作用極の表面積の200倍、150倍、又は100倍である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。
【0056】
開放系では、対極は、溶媒に浸漬されたものであってもよい。溶媒としては、作用極を浸漬させる溶媒として例示したものと同じものを挙げることができる。対極及び作用極は同一の溶媒に浸漬させてもよい。
【0057】
センサ(特に電極層)は、更に参照極を含んでいてもよい。参照極は、電極電位の測定時に電位の基準とすることができる。閉鎖系では、キャビティに試料が供給されたことを検知するための検知電極を含んでいてもよい。参照極及び検知電極は、作用極及び対極と同様の材料(白金、金、パラジウム等の貴金属、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、ITO、ZnO、カーボン等)で構成されていてもよい。一実施形態において、参照極は、銀-塩化銀電極であってもよい。センサは、参照極を含んでいなくても、作用極及び対極の2電極により、電子伝達を検出又は測定することができるため、構成の簡略化の点では、参照極を含まないことが好ましい。
【0058】
センサは、更にポテンショスタット及び電流検出回路等のバイオセンサが通常備える構成を備えることができる。作用極、対極、ポテンショスタット、及び電流検出回路等の具体的な構成は、センサが目的とする測定が可能である限り任意であり、当該技術分野に公知の手段から適宜選択して設計することができる。
【0059】
工程Aにおいて、センサに試料を導入する方法としては、センサの構成に応じて適切な方法を適宜採用することができる。開放系では、例えば、電極を浸漬させる溶媒に試料を添加する方法等が挙げられ、閉鎖系では、例えば、試料をキャビティ(特にその先端部分又は入口)に接触させる方法等が挙げられる。
【0060】
工程Bにおいて、センサに電圧を印加することを「コンディショニング」と表記する場合がある。センサに印加される印加電圧は、特に制限されず、例えば0.8V以上であってもよいが、0.8V以下であっても十分な効果を発揮し得る。前記印加電圧は、好ましくは0.7V以下、0.6V以下、0.5V以下、又は0.4V以下である。また、前記印加電圧は、例えば、0V超、0.01V以上、0.05V以上、0.08V以上、0.1V以上、又は0.15V以上である。前記下限及び上限は任意に組み合わせることができる。なお、センサが参照極を含む場合、前記印加電圧は、例えば0.15V以上、好ましくは0.2V以上、より好ましくは0.3V以上、さらに好ましくは0.4V以上である。
【0061】
工程Bにおいて、センサへの電圧の印加時間は、特に制限されず、例えば1秒以上であってもよいが、1秒以下で十分な効果を発揮し得る。前記印加時間は1ミリ秒以上であることが好ましく、1ミリ秒~1秒の範囲内で任意の印加時間を選択することができる。
【0062】
工程Cにおいて、試料中の基質と酵素との反応の電気化学的測定は、所定の電圧を印加した時の前記反応に基づく電流の測定であることが好ましい。工程Cの印加電圧は、工程Bの印加電圧よりも低い電圧であることが好ましく、0.4V以下、0.3V以下、0.2V以下、又は0.1V以下であることが好ましい。工程Cの印加電圧は、-0.8V以上、-0.6V以上、又は-0.4V以上であることが好ましい。電圧-電流測定法としては、例えば、ステップ法(クロノアンペロメトリー等)、スイープ法(サイクリックボルタンメトリー等)が挙げられるが、これらには限定されない。
【0063】
試料中の基質を測定する方法は、工程A、B、及びCに加えて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、試料中の基質の測定を2回以上実施する場合、2回目以降の測定においては工程Bを省略することが可能であるため、工程Cのみを繰り返す工程Dを含んでいてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0065】
[実施例1]
PET基板に金を蒸着したシートを用いて、2つの電極部位を持つ電極チップを設計した(
図1)。
図1において、「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は粘着シート(0.03mm厚)であり、「3」はPETシート(0.19mm厚)であり、「4」はPETシートであり、「5」は作用極部位(1.5mm
2)であり、「6」は対極部位(4.5mm
2)である。
【0066】
図1の「1」~「3」の部材を貼り合わせることで作用極部位及び対極部位を作製した。
【0067】
1チップ当たりの換算量として2%(w/v)のコール酸ナトリウム及び0.15%(w/v)の単層カーボンナノチューブ(Meijo eDIPS EC1.5、名城ナノカーボン社、中心直径1~3nm)を含む水分散液0.21μL(0.31μg)と、超純水に溶解したFADGDH(配列番号2のアミノ酸配列を有する;16.6U/μL)0.03μL(0.5U)とを混合した。チモール20mgを50%(v/v)エタノール2000μLに溶解し1%(w/v)チモール溶液を作製した後、当該チモール溶液100μLを純水900μLに加えて混合することで0.1%(w/v)チモール溶液を作製した。1チップ当たりの換算量として0.1%(w/v)チモール溶液0.18μL(0.18μg)を上記単層カーボンナノチューブ及びFADGDH混合液に添加混合することで、単層カーボンナノチューブ、FADGDH、及びチモールが混合された作用極試薬(1チップ当たり0.42μL)を作製し、
図1の「5」の作用極部位に滴下し乾燥させ、単層カーボンナノチューブ、FADGDH、及びチモールを作用極部位に固定化した。
【0068】
0.3μmの粒径を有する活性炭粉末(UNP、ユー・イー・エス社、レーザー回折散乱法により測定された平均粒径0.3μm、比表面積1355m
2/g)を10%(w/v)含む水分散液を調製し、1チップ当たりの換算量として当該水分散液2μL(200μg)を、5%(w/v)ナフィオン(商標)液0.5μL(25μg)と混合することで、活性炭粉末及びナフィオン(商標)が混合された対極用試薬(1チップ当たり2.5μL)を作製し、
図1の「6」の対極部位に滴下し乾燥させ、活性炭粉末を対極部位に固定化した。
【0069】
上記の電極チップにPETシート(
図1の「4」)を貼り合わせることで、作用極部位及び対極部位上に2.25μLのキャビティが形成され、試料の液滴を接触させることで毛細管現象により規定量の試料を注入することができる二電極閉鎖系チップを作製した。
【0070】
電気化学アナライザー(ALS/CHI 660B、ビー・エー・エス社)の作用極及び対極に、それぞれ、上記で作製した電極チップの作用極部位及び対極部位をセットした。グルコースを含有しない(0mg/dL)又は100mg/dLグルコースを含有する40mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)を調製し、この試料の液滴を電極チップに接触させキャビティに注入し、電流-電圧特性を調べるためにリニアスイープボルタンメトリー法による測定を行った。各グルコース試料で連続2回の測定を行った。
【0071】
各グルコース試料の1回目の測定結果を
図2に示す。0mg/dLグルコースの場合(
図2(a))と比較して、100mg/dLグルコース存在下の場合ではグルコース応答電流が検出され、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は-0.2Vであった(
図2(b))。各グルコース試料の2回目の測定結果(
図3)において、0mg/dLグルコースの場合(
図3(a))と比較して、100mg/dLグルコース存在下の場合ではグルコース応答電流が検出され、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は-0.4Vとなり、1回目の場合よりも最小印加電圧が0.2V小さい結果となった(
図3(b))。この最小印加電圧のシフトは、1回目の測定における電圧印加により、電子伝達に関わる物質、すなわち、FADGDH、チモール、単層カーボンナノチューブ、及び電極において物質間の相互作用の再配置が起こったことが考えられる。
【0072】
[実施例2]
実施例1と同様に二電極閉鎖系チップ及びグルコース試料(100mg/dLグルコースを含有する40mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4))を調製し、クロノアンペロメトリー法による測定を行った。血液中のアスコルビン酸や2-ピリジンアルドキシムメチオジド(PAM)等、グルコースの測定値の正確性に影響を与える物質の反応を低減する目的においては、低い測定電圧の方が好ましい。
図3の結果から、クロノアンペロメトリーによる定電圧での測定を-0.1Vで行った。測定回数は電極チップ1つあたり1回のみとした。-0.1Vで測定する際、測定開始前の電圧印加条件を0V、1ミリ秒としたところ、グルコース応答電流が検出されなかった(
図4(a))。一方、測定開始前の電圧印加条件を0.8V、1秒としたところ、グルコース応答電流が検出された(
図4(b))。これらの結果から、測定開始前の特定の条件での電圧印加により、クロノアンペロメトリー法においても電子伝達に関わる物質間の相互作用の再配置が起こったと考えられる。
【0073】
測定開始前の電圧印加を複数の条件で行った。測定を-0.1Vで行った。測定開始から10秒後の電流値は表1の通りであった。
【0074】
【0075】
表1の結果から、クロノアンペロメトリー法におけるコンディショニングは、電圧印加時間が1ミリ秒、0.1秒、及び1秒のいずれにおいても、印加電圧0.1V~0.8V、好ましくは0.2V~0.8V、より好ましくは0.3~0.8Vで効果がありグルコース応答電流が検出されることが判明した。尚、印加電圧が0.1V以上、及び電圧印加時間1ミリ秒以上のコンディショニング条件であればグルコース応答電流が検出されていることから、印加電圧0.8V以上、及び電圧印加時間1秒以上の条件においてもコンディショニング効果があると言える。
【0076】
[実施例3]
PET基板に金を蒸着したシートを用いて、3つの電極部位を持つ電極チップを設計した(
図5)。
図5において、「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は粘着シート(0.03mm厚)であり、「3」はPETシート(0.19mm厚)であり、「4」はPETシートであり、「5」は作用極部位(1.5mm
2)であり、「6」は対極部位(1.5mm
2)であり、「7」は参照極部位(1.5mm
2)である。
【0077】
図5の「1」~「3」の部材を貼り合わせることで作用極部位、対極部位、及び参照極部位を作製した。
【0078】
作用極部位に使用する試薬について、実施例1と同様に調製し、作用極部位に滴下、乾燥させ、単層カーボンナノチューブ、FADGDH、及びチモールを固定化した。対極部位及び参照極部位上には試薬を用いなかった。
【0079】
上記の電極チップにPETシート(
図5の「4」)を貼り合わせることで、作用極部位、対極部位、及び参照極部位上に2.25μLのキャビティが形成され、試料の液滴を接触させることで毛細管現象により規定量の試料を注入することができる三電極閉鎖系チップを作製した。
【0080】
電気化学アナライザー(ALS/CHI 660B、ビー・エー・エス社)の作用極、対極、及び参照極に、それぞれ、上記で作製した電極チップの作用極部位、対極部位、及び参照極部位をセットした。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に溶解させた0、100、300、又は600mg/dLグルコース試料の液滴を電極チップに接触させキャビティに注入し、リニアスイープボルタンメトリー法による測定を実施した。各グルコース試料で連続2回の測定を行った。
【0081】
各グルコース試料の1回目の測定結果を
図6に示す。0mg/dLグルコースの場合(
図6(a))と比較して、100~600mg/dLグルコース存在下の場合ではグルコース応答電流が検出され(
図6(b)~(d))、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は0.15Vであった。各グルコース試料の2回目の測定結果(
図7)において、0mg/dLグルコースの場合(
図7(a))と比較してグルコース存在下では応答電流が検出され(
図7(b)~(d))、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は-0.2Vとなり、1回目の場合よりも最小印加電圧が0.35V小さい結果となった。実施例1の二電極閉鎖系チップと同様に、三電極閉鎖系チップにおいても1回目の測定における電圧印加により、電子伝達に関わる物質、すなわち、FADGDH、チモール、単層カーボンナノチューブ、及び電極において物質間の相互作用の再配置が起こったことが考えられる。
【0082】
[実施例4]
実施例3と同様に三電極閉鎖系チップを調製し、クロノアンペロメトリー法による測定を実施した。
図7の結果から、クロノアンペロメトリーによる定電圧での測定を0.1Vで行った。測定回数は電極チップ1つあたり1回のみとした。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に溶解させたグルコース濃度は0~750mg/dLで調製した。0.1Vで測定する際、測定開始前の電圧印加条件を0V、1ミリ秒としたところ、グルコース応答電流が検出されなかった(
図8)。一方、測定開始前の電圧印加条件を0.4V、1ミリ秒としたところ、グルコース濃度依存的な応答電流が検出された(
図9)。測定開始から1秒後及び5秒後の電流値をプロットした結果、1秒以上でグルコース濃度に応じた電流値が得られた(
図10)。
【0083】
[実施例5]
参照極部位上に銀塩化銀インク(ビー・エー・エス社)を塗布、乾燥させた以外は実施例3と同様に三電極閉鎖系チップを調製し、クロノアンペロメトリー法による測定を実施した。測定開始前の電圧印加条件を0.4V、1ミリ秒とし、定電圧での測定を0.05Vとした。測定回数は電極チップ1つあたり1回のみとした。50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に溶解させたグルコース濃度は0~750mg/dLで調製した。測定開始から1秒後、2秒後、及び5秒後の電流値をプロットした結果、1秒以上でグルコース濃度に応じた電流値が得られた(
図11)。
【0084】
実施例4及び5の結果から、実施例2の二電極閉鎖系チップと同様に、三電極閉鎖系チップでのクロノアンペロメトリー法においても測定開始前の電圧印加により、コンディショニング効果が得られることが判明した。
【0085】
[比較例]
PET基板に金を蒸着したシートを用いて、2つの電極部位を持つ電極チップを作製した(
図12)。
図12において、「1」は金蒸着PETシートであり、「2」は両面に粘着シートを有するPETシート(0.1mm厚)であり、「3」はPETシートであり、「4」は作用極部位(2.3mm
2)であり、「5」は対極部位(2.3mm
2)である。
【0086】
図12の「1」及び「2」の部材を貼り合わせることで作用極部位及び対極部位を作製した。
【0087】
超純水に溶解したFADGDH(配列番号2のアミノ酸配列を有する;5.4U/μL)を作製し、
図12の「4」の作用極部位に0.5μL(2.7U)を滴下し乾燥させた。酸化還元メディエータであるフェリシアン化カリウムを超純水に溶解させて134mMの溶液を作製し、この作用極部位上に0.5μLを滴下し乾燥させた。対極部位上には試薬を用いなかった。
【0088】
上記の電極チップにPETシート(
図12の「3」)を貼り合わせることで、作用極部位及び対極部位上に0.9μLのキャビティが形成され、試料の液滴を接触させることで毛細管現象により規定量の試料を注入することができる二電極閉鎖系チップを作製した。
【0089】
実施例1と同様にリニアスイープボルタンメトリー法を用いて各グルコース試料で連続2回の測定を行った。各グルコース試料の1回目の測定結果を
図13に示す。0mg/dLグルコースの場合(
図13(a))と比較して、100mg/dLグルコース存在下の場合ではグルコース応答電流が検出され、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は-0.1Vであった((
図13(b))。各グルコース試料の2回目の測定結果(
図14)において、0mg/dLグルコースの場合(
図14(a))と比較して100mg/dLグルコース存在下では応答電流が検出され、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は-0.03Vとなった(
図14(b))。
【0090】
尚、
図14(b)では-0.2~-0.04Vにおいてマイナスの電流値が計測されたが、これはグルコースの酸化反応に伴う応答電流ではないと考えられる。即ち、100mg/dLグルコース存在下の1回目の測定によって、作用極部位上ではFADGDHの酵素反応によりグルコースが酸化されるとともにフェリシアン化カリウムの還元型が生じ、これが作用極部位によって酸化され電子が電極に伝達されることで結果的にグルコースの応答電流としてプラスの電流値が計測される。一方、対極部位上では還元反応が起こり、フェリシアン化カリウムの還元型が生じる。2回目の測定では-0.2~-0.04Vの低い印加電圧範囲においては逆反応が起き、即ち、対極部位上では1回目の測定によって生じた還元型メディエータが酸化され、もう一方の作用極部位上では電子が電極からフェリシアン化カリウムへ伝達され還元型のフェリシアン化カリウムが生じることで、還元電流がマイナスの電流値として計測されたと考えられる。
【0091】
従って、酸化還元メディエータであるフェリシアン化カリウムを用いた場合においては、グルコース応答電流が検出される最小印加電圧は1回目の測定よりも2回目の測定の方が低くなることはなく、実施例1~5に見られたコンディショニング効果は認められなかった。