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特開2024-70333希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法、及び希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070333
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法、及び希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240516BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240516BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20240516BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240516BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240516BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20240516BHJP
   B22F 1/16 20220101ALN20240516BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
H01F1/06
C22C38/00 303D
B22F1/00 Y
B22F9/20 A
B22F1/16 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180746
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山本 惇一
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA09
4K017EH18
4K017FB10
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC28
4K018BD01
5E040AA03
5E040CA01
5E040HB17
5E062CC05
5E062CD04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法および粉末を提供する。
【解決手段】製造方法は、希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物を準備する準備工程、複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る予備還元工程、部分還元酸化物と還元剤の混合物を得る混合工程、混合物を非酸化性雰囲気下で加熱して、部分還元酸化物を還元するとともに合金化し、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生成物とを含む還元拡散処理物を得る還元拡散工程、還元拡散処理物を、その温度を125℃以下に維持した状態で水素雰囲気に暴露し、還元拡散処理物に水素を吸蔵及び崩壊させて解砕処理物を得る水素吸蔵工程、解砕処理物を窒素雰囲気に暴露し、窒化させて窒化処理物を得る窒化工程及び窒化処理物を洗浄液で洗浄して還元剤由来の副生成物を除去する湿式処理工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法であって、以下の工程;
希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物を準備する準備工程、
前記複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る予備還元工程、
前記部分還元酸化物に還元剤を混合して混合物を得る混合工程、
前記混合物を非酸化性雰囲気下で加熱して、前記混合物に含まれる部分還元酸化物を還元するとともに合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生成物とを含む還元拡散処理物を得る還元拡散工程、
前記還元拡散処理物を、その温度を125℃以下に維持した状態で水素雰囲気に暴露し、それにより前記還元拡散処理物に水素を吸蔵及び崩壊させて解砕処理物を得る水素吸蔵工程
前記解砕処理物を窒素雰囲気に暴露して、それにより前記解砕処理物を窒化させて窒化処理物を得る窒化工程、及び
前記窒化処理物を洗浄液で洗浄して還元剤由来の副生成物を除去する湿式処理工程を含み、
前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である、方法。
【請求項2】
前記準備工程の際に、希土類酸化物と遷移金属化合物に湿式処理を施した後に加熱して前記複合酸化物を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元拡散工程、前記水素吸蔵工程、及び前記窒化工程の全てを同一処理容器内で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する前に還元拡散処理物の周囲雰囲気を真空引きする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際の還元拡散処理物の周囲圧力を大気圧に対して+5kPa以上+50kPa未満の圧力に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の温度を40℃以上100℃未満に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の周囲雰囲気の水素分圧を0.5atm以上に調整する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、式:SmFe17で表される基本組成を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末。
【請求項10】
前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、式:SmFe17で表される基本組成を有する、請求項9に記載の希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法、及び希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、希土類金属、遷移金属、及び窒素を主として含む合金粉末である。特に、菱面体晶系、正方晶系、単斜晶系、又は六方晶系の結晶構造をもち、遷移金属として鉄を含有する金属間化合物からなる粉末は、優れた磁気特性を有することから、永久磁石材料として注目されている。
【0003】
例えば、Fe-R-N(R:Y、Th、およびランタノイド元素からなる群の中から選ばれた一種または二種以上)で表される永久磁石や、六方晶系又は菱面体晶系の結晶構造をもつR-Fe-N-H(R:イットリウムを含む希土類元素のうち一種以上)で表される磁気異方性材料が知られている。また、正方晶系の結晶構造をもつThMn12型金属間化合物に窒素を含有させた希土類磁石材料の製造方法や、菱面体晶系、六方晶系、又は正方晶系の結晶構造をもつThZn17型、TbCu型、又はThMn12型金属間化合物に窒素等の元素を含有させた永久磁石材料が知られている。
【0004】
希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法として、溶解鋳造法や還元拡散法が知られている。還元拡散法は、希土類酸化物、遷移金属、及び還元剤を混合した後、不活性ガス雰囲気下で加熱処理して希土類遷移金属系合金を含む生成物を作製し、生成物の温度が下がってから引き続き窒化処理や湿式処理を生成物に施す手法である(特許文献1の請求項1)。この手法では、溶解鋳造法ほど工程が複雑でなく、また原料に高価な希土類金属を用いる必要がない。そのため、低コストで磁石粉末を製造可能という利点がある。
【0005】
ところで特許文献1では、希土類酸化物及び遷移金属といった原料を乾式法で混合して原料混合物を得ている。これに対して、各種原料を湿式法で混合した後に還元拡散する手法(以下、「湿式混合を用いた還元拡散法」)が知られている。例えば、特許文献2には、アルカリ溶液に、希土類化合物と遷移金属化合物とを含む溶液を添加して、生成する沈殿物を撹拌しながら熟成させる第1の工程と、熟成された沈殿物を洗浄及び乾燥して希土類元素と遷移金属元素から成る複合酸化物の前駆体を得る第2の工程と、複合酸化物の前駆体を酸化性雰囲気下で加熱処理して複合酸化物を得る第3の工程と、複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱処理して部分還元複合酸化物とする第4の工程と、部分還元複合酸化物に還元剤を混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱処理して合金粉末を得る第5の工程と、合金粉末を窒化熱処理して希土類-遷移金属-窒素系合金粉末を得る第5の工程を含む製造方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。このような手法によれば、還元剤の添加量を抑えることができるとともに、希土類金属と遷移金属と窒素が均一な組成の磁石粉末を得ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-291257号公報
【特許文献2】特開2022-056073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように還元拡散法で希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末を製造することが広く行われるものの、従来の手法には改良の余地があった。すなわち、還元拡散処理後の生成物(還元拡散処理物)は、希土類遷移金属系合金と還元剤由来の副生成物とを含む塊状又は薄片上のインゴットである。その大きさや厚みは処理装置の規模にもよるが、大きいものではサイズが100mmを超えるものもある。そのため、そのまま窒化した場合、インゴット内部の合金に窒素原子を均一に拡散させるためには過大な時間が必要となり、生産性が悪化するという問題があった。また、たとえ時間をかけて窒化したとしても、インゴット表面の合金に対して、内部の合金の窒素量が相対的に不足してしまい、その結果、処理物全体として窒素量のバラツキが大きく、磁気特性に悪影響を及ぼしていた。
【0008】
この点、特許文献1では、還元拡散処理物に水素処理を施して、処理物中の母合金を崩壊させやすくすることが提案されている(特許文献1の[0033]及び[0034])。このような手法は一定の効果があるものの、水素処理前の還元拡散処理物が大きなインゴット状である場合に、水素吸蔵が効果的に行われず、水素吸蔵後の処理物に数十μm程度の粗大粒子が残留することがある。このような粗大粒子を含む場合には、窒素量のバラツキを抑える上で限界がある。
【0009】
また特許文献2では湿式混合を用いた還元拡散法を提案している。この手法では、還元拡散後の生成物(還元拡散処理物)に含まれる合金粒子は比較的微細である。しかしながら、還元拡散処理物自体が多孔質塊状になっている。本発明者が調べたところ、この手法を用いても窒化量バラツキの抑制を図る上で依然として不十分であった。
【0010】
本発明者は、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。そして、湿式混合を用いた還元拡散法において、さらに水素吸蔵処理を行うことが効果的ではないかとの考えに至った。しかしながら、湿式混合を用いた還元拡散法に従来の水素吸蔵処理をそのまま適用しても、窒素量バラツキを抑制できなかった。
【0011】
本発明者がさらに検討を進めた結果、湿式混合を用いた還元拡散法に水素吸蔵処理を適用し、さらに水素吸蔵処理の条件を適切に制御することで、後続する窒化処理を効率よく進めることができ、その結果、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた磁石粉末を得ることができるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、窒化処理を効率よく進めて、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末を得ることができる製造方法の提供を課題とする。また本発明は、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
(1)希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造方法であって、以下の工程;
希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物を準備する準備工程、
前記複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る予備還元工程、
前記部分還元酸化物に還元剤を混合して混合物を得る混合工程、
前記混合物を非酸化性雰囲気下で加熱して、前記混合物に含まれる部分還元酸化物を還元するとともに合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生成物とを含む還元拡散処理物を得る還元拡散工程、
前記還元拡散処理物を、その温度を125℃以下に維持した状態で水素雰囲気に暴露し、それにより前記還元拡散処理物に水素を吸蔵及び崩壊させて解砕処理物を得る水素吸蔵工程
前記解砕処理物を窒素雰囲気に暴露して、それにより前記解砕処理物を窒化させて窒化処理物を得る窒化工程、及び
前記窒化処理物を洗浄液で洗浄して還元剤由来の副生成物を除去する湿式処理工程を含み、
前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である、方法。
【0015】
(2)前記準備工程の際に、希土類酸化物と遷移金属化合物に湿式処理を施した後に加熱して前記複合酸化物を得る、上記(1)の方法。
【0016】
(3)前記還元拡散工程、前記水素吸蔵工程、及び前記窒化工程の全てを同一処理容器内で行う、上記(1)又は(2)の方法。
【0017】
(4)前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する前に還元拡散処理物の周囲雰囲気を真空引きする、上記(1)~(3)のいずれかの方法。
【0018】
(5)前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際の還元拡散処理物の周囲圧力を大気圧に対して+5kPa以上+50kPa未満の圧力に維持する、上記(1)~(4)のいずれかの方法。
【0019】
(6)前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の温度を40℃以上100℃未満に維持する、上記(1)~(5)のいずれかの方法。
【0020】
(7)前記水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の周囲雰囲気の水素分圧を0.5atm以上に調整する、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【0021】
(8)前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、式:SmFe17で表される基本組成を有する、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0022】
(9)不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末。
【0023】
(10)前記希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、式:SmFe17で表される基本組成を有する、上記(9)の希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、窒化処理を効率よく進めて、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末を得ることができる製造方法が提供される。また本発明によれば、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0026】
<<1.希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造>>
本実施形態は、希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末(以下、単に「磁石粉末」と呼ぶ場合がある)の製造方法を対象とする。磁石粉末は、少なくとも希土類金属(Re)と遷移金属(TM)と窒素(N)とを含む合金からなる。また磁気特性を顕著に劣化させない範囲で、Re、TM、及びN以外の成分を含んでもよい。ここで合金は、固溶体のみならず共晶体や金属間化合物を含む概念である。金属間化合物として、CaCu型、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型、ThMn12型、NaZn13型、NdFe14B型、又はMgCu型などの結晶構造を有する化合物が例示される。また粉末は、多数の粒子の集合体である。多数の粒子が集合して粉末を構成するとも言える。
【0027】
希土類金属(Re)は、原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する金属(元素)の総称である。希土類金属(Re)は、特に限定されない。しかしながら、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)及びセリウム(Ce)からなる群から選ばれる一種以上、あるいはプラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる一種以上が好ましい。特に磁気特性に優れた磁石材料を得る観点から、Sm、Nd及びPrからなる群から選ばれる一種以上がより好ましく、磁気特性のみならず耐熱性及び耐候性に極めて優れた磁石材料を得る観点から、Smが最も好ましい。合金粉末に含まれる希土類金属は、1種類のみであってもよく、あるいは複数種の組み合わせであってもよい。
【0028】
遷移金属(TM)は、周期律表第3族元素から第11族元素の間に存在する金属(元素)の総称である。遷移金属(TM)は、特に限定されない。しかしながら、合金粉末を永久磁石の用途に適用する場合には、磁気特性の観点から鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)からなる群から選ばれる一種以上が好ましく、Feが最も好ましい。合金粉末に含まれる遷移金属は、1種類のみであってもよく、あるいは複数種の組み合わせであってもよい。
【0029】
好ましくは、磁石粉末はサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末である。Sm-Fe-N系磁石粉末は耐熱性及び耐候性に優れており、ボンド磁石の磁石粉末として有用である。Sm-Fe-N系磁石粉末の組成は、磁石特性が得られる限り特に限定されない。しかしながらSm-Fe-N系磁石粉末は、基本組成(SmFe17)において、x=3のときに飽和磁化が最大となる。したがって、特に好ましくは、磁石粉末は、式:SmFe17で表される基本組成を有する。
【0030】
本実施形態の磁石粉末の製造方法は、以下の工程;希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物を準備する準備工程、得られた複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る予備還元工程、得られた部分還元酸化物に還元剤を混合して混合物を得る混合工程、得られた混合物を非酸化性雰囲気下で加熱して、混合物に含まれる部分還元酸化物を還元するとともに合金化し、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生成物とを含む還元拡散処理物を得る還元拡散工程、得られた還元拡散処理物を、その温度を125℃以下に維持した状態で水素雰囲気に暴露し、それにより還元拡散処理物に水素を吸蔵及び崩壊させて解砕処理物を得る水素吸蔵工程、得られた解砕処理物を窒素雰囲気に暴露し、それにより解砕処理物を窒化させて窒化処理物を得る窒化工程、得られた窒化処理物を洗浄液で洗浄して還元剤由来の副生成物を除去する湿式処理工程を含む。また希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である。各工程の詳細を以下に説明する。
【0031】
<準備工程>
準備工程では、希土類金属(Re)と遷移金属(TM)を含む複合酸化物を準備する。ここで、複合酸化物は、希土類金属と遷移金属を構成元素として含む化合物(複酸化物)である。したがって、希土類金属酸化物と遷移金属酸化物の単なる混合物とは区別される。
【0032】
複合酸化物の入手方法は限定されない。希土類金属と遷移金属を含む市販の複合酸化物を用いてもよい。あるいは希土類金属及び遷移金属を含有する磁石材料などの材料を製造する際に副生する副生物、またはリサイクル品であってもよい。しかしながら、好ましくは、湿式法で複合酸化物を合成する。具体的には、希土類酸化物と遷移金属化合物に湿式処理を施した後に加熱して複合酸化物を得る。湿式合成することで、希土類金属と遷移金属が原子レベルで均一に分散した複合酸化物を作製することが可能になる。
【0033】
湿式法で複合酸化物を合成するには、希土類金属及び遷移金属を含む酸溶液から中和反応により水酸化物を生成させ、得られた水酸化物を熱処理すればよい。具体的には、まず希土類金属原料及び遷移金属原料を酸溶液中に溶解して原料溶液を作製する。希土類金属原料及び遷移金属原料として酸溶液に溶解するものであれば限定されない。例えば、酸化サマリウム(Sm)等の希土類酸化物が挙げられる。また遷移金属原料として、遷移金属の硫酸塩や硝酸塩、例えば、硫酸第一鉄(FeSO)が挙げられる。酸溶液の種類は、原料に応じて決めればよく、例えば硫酸水溶液や硝酸水溶液が挙げられる。この際、希土類金属原料及び遷移金属原料が完全に溶解するように、酸溶液のpHを調整することが好ましい。
【0034】
次いで、得られた原料溶液にアルカリ溶液を加える。これにより中和反応が起こり、希土類金属と遷移金属を含む水酸化物、例えばSm-Fe水酸化物を沈殿物として含むスラリーが得られる。アルカリ溶液として、アンモニア水溶液、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び/又は尿素等を含む水溶液が挙げられる。均一で微細な水酸化物を得るためには、アルカリ溶液を滴下して加えることが好ましい。次いで、得られたスラリー中の沈殿物をろ過等の手法で回収する。さらにイオン交換水等の洗浄液を用いて沈殿物を洗浄してもよい。洗浄処理を行うことで、最終的に得られる磁石粉末中の不純物量を低く抑えることが可能となる。
【0035】
次いで、回収した沈殿物を乾燥し、さらに加熱処理する。これにより、希土類金属と遷移金属を含む複合酸化物、例えばSm-Fe酸化物を得ることができる。乾燥は、水分を効率的に除去できる温度、例えば80℃以上400℃以下で行えばよい。乾燥を減圧下で行ったり、あるいは乾燥時に乾燥用ガスを流通させたりしてもよい。複合酸化物が得られる限り、加熱処理雰囲気は限定されない。例えば、空気、酸素と不活性ガスの混合ガス、又は空気と不活性ガスの混合ガスなどの酸素含有雰囲気が挙げられる。加熱処理温度は500℃以上1400℃以下が好ましく、700℃以上1200以下がより好ましい。加熱処理温度が過度に低いと、沈殿物の酸化が不十分になる恐れがある。一方で加熱処理温度が過度に高いと、得られる酸化物が粒成長する恐れがある。
【0036】
必要に応じて、希土類金属及び遷移金属以外の他の成分、例えば添加成分を複合酸化物に加えてもよい。このような成分として、限定される訳ではないが、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上を含む成分が挙げられる。他の成分は、希土類金属原料及び遷移金属原料とともに酸溶液中に溶解して加えればよい。
【0037】
<予備還元工程>
予備還元工程では、準備した複合酸化物を還元性雰囲気下で加熱して、希土類金属と遷移金属を含む部分還元酸化物を得る。予備還元により、複合酸化物の一部、特に遷移金属成分が還元される。予備還元工程を設けることで、後述する還元拡散工程で必要とされる還元剤の量を減らすことができる。また還元拡散工程で還元拡散処理物の均一な還元が促される。
【0038】
予備還元工程での加熱雰囲気は、複合酸化物が部分的に還元されるものであれば、特に限定されない。水素(H)、一酸化炭素(CO)、及び/又はメタン(CH)などの炭化水素ガスを含む雰囲気が挙げられる。予備還元工程での加熱温度は400℃以上900℃以下が好ましい。また加熱時間は0.5時間以上10時間以下が好ましい。
【0039】
<混合工程>
混合工程では、得られた部分還元酸化物に還元剤を混合して混合物を得る。還元剤は、部分還元酸化物の還元及び合金化を促す働きがある。還元剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらの水素化物から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びこれらの水素化物からなる群から選択される1種以上が好ましい。取り扱い時の安全性及びコストの観点から、Li及び/又はCaがより好ましく、Caが特に好ましい。
【0040】
還元剤の配合量は、部分還元酸化物を完全還元するのに必要な量(当量)に対して1.1倍以上2.0倍以下が好ましい。還元剤量が過度に少ないと、後続する還元拡散工程での部分還元酸化物の還元及び合金化が十分に進行せず、合金粉末中に酸化物が残存する恐れがある。また還元剤量が過度に多いと、後述する湿式処理工程での残存成分の除去に手間がかかる。
【0041】
必要に応じて、部分還元酸化物及び還元剤以外の他の成分を混合物に加えてもよい。例えば、最終的に得られる磁石粉末の組成を調整するため、希土類金属や遷移金属を含む成分を加えてもよい。また磁石粉末の添加成分を加えてもよい。このような成分として、限定される訳ではないが、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上を含む成分が挙げられる。
【0042】
混合は、配合する各成分が均一に分散するように行うことが望ましい。混合は、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、及び/又はジェットミルなどの装置を用いて行えばよい。
【0043】
<還元拡散工程>
還元拡散工程では、得られた混合物を非酸化性雰囲気下で加熱して、混合物に含まれる部分還元酸化物を還元するとともに、希土類金属と遷移金属の合金化を進める。そして、それにより希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生成物とを含む還元拡散処理物を得る。具体的には、非酸化性雰囲気下で混合物を加熱すると、還元剤の作用により、混合物に含まれる希土類金属や遷移金属の酸化物が還元されて、希土類金属や遷移金属が生成する。生成した希土類金属は遷移金属中に拡散して合金化し、希土類遷移金属合金を形成する。一方で還元剤は還元されて酸化物に変化する。
【0044】
例えば、希土類金属としてサマリウム(Sm)を、遷移金属として鉄(Fe)を、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いてサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末を合成する場合、部分還元酸化物を構成するSmとFeの部分酸化物が還元されて、金属Smと金属Feに変化する。そして金属Smが金属Feに拡散して、ThZn17型結晶構造を有するSmFe17合金が生成する。場合によってはSmFeやSmFeなどの異相が生成することもある。一方で、還元剤(金属Ca)は酸化されて酸化カルシウム(CaO)に変化する。還元剤を当量以上に配合した場合には、余剰の金属Caが残留する。したがって、還元拡散工程で得られた還元拡散処理物は、希土類遷移金属合金成分(SmFe17等)と還元剤由来の副生成物(CaO、金属Ca)を含み、場合によってはさらに異相(SmFe、SmFe等)を含む。通常、還元拡散処理物は、多孔質インゴットである。
【0045】
還元拡散工程での加熱は非酸化性雰囲気下で行う。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気である。雰囲気ガスとして、不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)ガス及び/又はヘリウム(He)ガスが好ましく、Arガスが特に好ましい。加熱は、還元剤が溶融する温度以上且つ得られる希土類遷移金属合金成分が溶融しない温度で行う。還元剤がカルシウム(Ca)である場合には、Caの融点(838℃)以上の温度で行う。具体的な加熱温度は1000℃以上1200℃以下が特に好ましい。また適切な加熱時間は処理量に依存するため、これを一概に決めることはできない。しかしながら3時間以上10時間以下が好ましい。加熱が終わればヒーターを停止し、任意の温度にまで冷却する。
【0046】
<水素吸蔵工程>
水素吸蔵工程では、得られた還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する。これにより還元拡散処理物に水素を吸蔵及び崩壊させて解砕処理物を得る。これにより後続する窒化工程での窒化処理を効率よく行うことが可能となる。還元拡散処理物に含まれる希土類遷移金属合金(金属間化合物)は、その多くが水素を吸収する。また水素吸収の際に、水素が合金の格子間に可逆的に侵入するため、合金は体積膨張する。例えばSmFeは水素吸収により体積が19%膨張する。同様にSmFe17は3.4%膨張する。また水素を吸収した合金は脆性が高い。そのため体積膨張に伴う応力に抗することができず、自己破壊(崩壊)する。したがって、水素吸蔵工程後には、崩壊した、あるいは崩壊しやすい処理物を得ることができる。
【0047】
水素吸蔵工程を設けることで、窒素量のバラツキが少なく、高特性の磁石粉末の製造が可能となる。すなわち、水素吸蔵工程後の還元拡散処理物(解砕処理物)は崩壊して微細化されている。そのため、後続する窒化工程で、微細化された合金粒子間の間隙に窒素が侵入することができる。また粒子が微細であるため、窒化時の窒素到達距離を長くする必要がない。そのため、粒子内部にまで短時間で十分に窒化させることが可能である。これに対して、水素吸蔵工程を経ない還元拡散処理物では、窒素の侵入経路が限られている。また合金粒子が粗大であるため、粒子内部にまで十分に窒化させることが困難である。機械的手法により還元拡散処理物を解砕することも考えられるが、機械的に解砕した処理物は粒度分布のバラツキが大きく、均一窒化が困難である。また機械的解砕の際に、どうしても処理物中へ酸素が取り込まれるため処理物の表面酸化が進み、これも均一窒化を妨げる。
【0048】
ところで、水素吸収反応は発熱反応である。そのため水素を吸収する際に、希土類遷移金属合金(金属間化合物)及びそれを含む還元拡散処理物は自己発熱する。また還元拡散処理物が複数の金属間化合物を含む場合には、連鎖反応が起こることがある。この場合には低温で水素吸収する化合物から吸収が始まり、これにより発熱し、発熱することで処理物の温度が上昇し、次の化合物が水素吸収する。このような連鎖反応が起こると、処理物の温度が過度に高くなることがある。例えばSmを27質量%程度の量で含むSmFe合金を還元拡散法で作製すると、反応生成物中にSmFe17金属間化合物粒子、及びSmFeやSmFe金属間化合物などのSmリッチな粒子が形成される。この反応生成物を水素に曝すと、Smリッチな粒子から水素吸収が始まり、その後にSmFe17粒子が水素吸収する。水素吸収が連鎖的に起こる結果、蓄熱が起こり、反応生成物の温度が上昇する。
【0049】
特に、本実施形態の製造方法のように、湿式混合を用いた還元拡散法では、発熱が顕著に進行しやすい。湿式混合を用いた還元拡散法では、複合酸化物を部分還元した後に還元拡散処理を行っている。複合酸化物由来の還元拡散処理物では、それに含まれる合金成分が微細化しており、自己発熱、及びそれによる特性劣化が顕著に起こり易い。具体的には、微細な合金成分は、水素と接する表面積が大きいため、水素吸収が起こり易い。また合金成分間の間隙が多いため熱伝導が起こりにくく、蓄熱しやすい。これらが複合的に作用して、自己発熱による温度上昇が顕著に進行しやすい。
【0050】
しかしながら、還元拡散処理物の温度が過度に高くなると様々な問題が引き起こされる。例えば、温度が過度に高いと、合金(金属間化合物)の水素吸収スピードが低くなる。水素吸収により合金を含む処理物の解砕が不十分となり、後続する工程での窒化処理が十分に進まなくなる。また温度が過度に高いと、合金成分が分解して、目的とする合金粉末の特性が劣化することがある。例えばSmFe17粒子製造時に合金成分が分解してαFeが析出すると、得られるSmFe17粒子を窒化して磁石粉末を作製しても、この磁石粉末の磁気特性、特に保磁力が低下してしまう。
【0051】
そのため、本実施形態の製造方法では、水素吸蔵処理時の還元拡散処理物の温度を125℃以下に限定している。温度が125℃を超えると、還元拡散処理物中の合金成分(金属間化合物)が分解してαFeのような遷移金属成分が分解する恐れがある。また後続する工程での窒化が不均一に進行し、最終的に得られる磁石粉末の窒素量バラツキが大きくなる恐れがある。合金成分の分解及び窒素量バラツキの抑制を図る観点から、還元拡散処理物の温度は、好ましくは100℃未満、より好ましくは95℃未満である。一方で、還元拡散処理物の温度が過度に低いと、水素吸収スピードが低下してしまう。この原因は定かではなかいが、温度が低いと水素活性が低くなり、反応性が低下してしまうためではないかと推測している。還元拡散処理物の温度は10℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。特に好ましくは、水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の温度を40℃以上100℃未満に維持する。
【0052】
還元拡散処理物の温度制御手法は特に限定されない。例えば、水素供給量や処理温度を調整する手法が挙げられる。水素供給量を抑えることで、合金成分の水素吸収スピード、及びそれによる温度上昇を抑えることができる。また水素吸蔵処理に用いる装置(水素吸蔵装置)を冷却する方法、例えば水素吸蔵装置にジャケットを設け、このジャケットに通水して冷却する手法や、この装置に空気を吹き付けて冷却する手法でも処理物温度を制御できる。
【0053】
水素吸蔵処理は、水素含有ガスを用いて水素雰囲気中で行う。水素含有ガスとして、水素(H)ガスを単独で用いてもよく、あるいはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)などの不活性ガスと水素ガスとの混合ガスを用いてもよい。混合ガスを用いることで、水素吸収に伴う発熱を緩和することができる。
【0054】
好ましくは、水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する前に還元拡散処理物の周囲雰囲気を真空引きする。ここで周囲雰囲気とは、水素吸蔵装置などの処理容器の内部雰囲気である。水素吸蔵装置を予め真空脱気することで、装置内に残留する水素以外のガスの影響を取り除くことができ、その結果、最終的に得られる磁石粉末の窒素バラツキをより小さく抑えることが可能になる。
【0055】
好ましくは、水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際の還元拡散処理物の周囲圧力を大気圧に対して+5kPa以上+50kPa未満の圧力に維持する。ここで周囲圧力とは、水素吸蔵装置などの処理容器の内部圧力である。周囲圧力を+5kPa以上とすることで、還元剤由来の多孔質副生成物表面から水素が浸透しやすくなり、水素吸蔵が促進される。一方で、水素吸蔵は処理物の性状が律速となるため、周囲圧力を+50kPa以上に高めても水素吸蔵スピードはそれ以上には変化しない。水素圧力を高めることは製造コスト増加の原因となる。
【0056】
好ましくは、水素吸蔵工程で、還元拡散処理物を水素雰囲気に暴露する際に、還元拡散処理物の周囲雰囲気の水素分圧を0.5atm以上に調整する。これにより水素吸収スピードが高くなり、生産性が向上するとともに、不純物量の少ない磁石粉末を得ることが可能になる。これに対して水素分圧が0.5atm未満であると、装置内に導入される水素量が少なくなる結果、水素吸収スピードが遅くなり、生産性が低下する。
【0057】
好ましくは、水素吸蔵装置内の圧力(還元拡散処理物の周囲圧力)の変動をモニタリングする。水素吸蔵に伴い圧力が低下して、この圧力がある閾値を下回ったら水素を初期圧力になるまで導入する。この操作を繰り返して、圧力変動が小さくなったら、処理物の水素吸蔵及び崩壊が十分に進んだと判断して、後続の工程に移ることができる。
【0058】
<窒化工程>
窒化工程では、得られた解砕処理物(水素吸蔵工程後の還元拡散処理物)を窒素雰囲気に暴露する。それにより解砕処理物を窒化させて窒化処理物を得る。窒化工程での処理により、SmFe17などの窒化物系合金粉末を得ることができる。
【0059】
窒化工程では、解砕処理物を、好ましくは300℃以上500℃以下、より好ましくは400℃以上470℃以下の温度に加熱しながら、窒素含有ガスを流す。これにより解砕処理物に含まれる合金成分が窒化する。加熱温度が300℃未満であると、窒化反応が効率的に進まない。一方で、加熱温度が過度に高いと、主相が分解することがある。例えば、SmFe17組成の合金成分を窒化してSmFe17組成の磁石粉末を製造する場合、窒化処理温度が高すぎると、主相であるSmFe17が分解してαFeが生成することがある。αFeの生成は、磁石粉末の保磁力及び角形性を低下させるため好ましくない。窒化処理温度を500℃以下にすることで、主相分解を抑制することができる。保持時間は、処理物の量にもよるが、5時間以上24時間以下が好ましい。
【0060】
窒化処理時に流通させる窒素含有ガスは、少なくとも窒素を有していればよい。窒素(N)ガスやアンモニア(NH)ガスが好適である。また、反応をコントロールするために、さらに水素(H)やアルゴン(Ar)などを含んでもよい。アンモニアと水素の混合気流を用いる場合、その混合比(ガス流量比)は、アンモニア:水素=10~70:30~90が好ましく、30~60:40~70がより好ましい。ここでアンモニアと水素の混合比の合計は100である。この範囲内で、アンモニアの流通量が十分になり、窒化効率がより向上する。
【0061】
好ましくは、還元拡散工程、水素吸蔵工程、及び窒化工程の全てを同一処理容器内で行う。すなわち、還元拡散処理、水素吸蔵処理、及び窒化処理を、連続的に同一処理容器内で行い、各工程間で処理物を容器外に出さない。同一容器内で連続処理することで、処理物の大気暴露を防ぐことができる。そのため酸素量の低い高品質の磁石粉末を得ることが可能となる。また連続処理のため、サイクルタイムが短縮化され、製造コスト低減につながる。
【0062】
還元拡散工程と水素吸蔵工程を同一処理容器内で連続して行う場合、還元拡散後に容器内の雰囲気を水素雰囲気に置換する。水素雰囲気への置換は、水素含有ガスをフローさせることで行うことができる。しかしながら、先述したように還元拡散処理物の周囲雰囲気を真空引きした後に水素含有ガスを導入することが好ましい。真空引きすることで、水素雰囲気への完全置換が短時間で行われる。
【0063】
水素吸蔵工程と窒化工程を同一処理容器内で連続して行う場合、水素吸蔵後に容器内の雰囲気を窒素雰囲気に置換する。窒素雰囲気への置換は、窒素含有ガスをフローさせることで行うことができる。しかしながら、水素吸蔵後の還元拡散処理物(解砕処理物)の周囲雰囲気を真空引きした後に窒素含有ガスを導入することが好ましい。これにより窒素雰囲気への完全置換が短時間で行われる。真空引き時の真空度は、大気圧に対して-30kPa以下が好ましく、-90kPa以下がさらに好ましい。
【0064】
<湿式処理工程>
湿式処理工程では、得られた窒化処理物を洗浄液で洗浄して還元剤由来の副生成物を除去する。これにより湿式処理物が得られる。具体的には、窒化処理物を洗浄液中に投入及び撹拌する。洗浄液中に投入した処理物は、崩壊してスラリー状になる。このとき、還元剤由来の副生成物は水と反応して、水酸化物からなる固体状副生物由来成分に変化する。そのため固体状副生物由来成分はアルカリ金属及び/アルカリ土類金属の水酸化物を含む。例えば、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いた場合、窒化処理物は、窒化した合金成分と副生物(CaO、Ca、Ca等)とを含む。水洗浄の際に、この副生物(CaO、Ca、Ca等)は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))に変化する。水酸化カルシウムは水への溶解度が低いため、大部分が懸濁物となり、水に浮遊する。水洗浄により得られたスラリーは、窒化した合金成分と固体状副生物由来成分(Ca(OH))の懸濁液である。スラリー中の固体状副生物由来成分を合金成分から分離することで、高純度な高特性合金粉末を得ることができる。
【0065】
洗浄液として、水、グリコール、または水とグリコールの混合溶液を用いることができる。水としてイオン交換水が好ましい。グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0066】
固体状副生物由来成分の分離は、デカンテーションにより行うことができる。デカンテーションは、1回又は複数回行ってもよい。例えば、窒化処理物を洗浄液中に投入、撹拌、及び静置した後に上澄み液を除去し、得られた残留物に更に洗浄液を加え、撹拌及び静置した後に上澄み液の除去を繰り返してよい。合金成分は、比重が比較的大きいのに対して、固体状副生成物由来成分は比重が小さい。したがってデカンテーションにより、比重の小さい固体状副生性物由来成分を上澄み液とともに分離除去することができる。あるいはデカンテーションを行う代わりに、液体サイクロンや遠心分離機などの比重分離機を用いて固体状副生成物由来成分の分離除去を行ってもよい。
【0067】
湿式処理の際に、解砕物に酸洗処理を施してもよい。これにより固体状副生物由来成分や異相をより効果的に除去することができる。例えば、生成物中の異相(SmFe等)とともに、洗浄液での処理中に取り除ききれなかった固体状副生物由来成分(Ca(OH)等)を除去することができる。酸洗処理は、例えば、生成物を水に投入し、撹拌しながら酸を添加することで行える。酸の種類として、塩酸、酢酸、硝酸及び硫酸等の無機酸や有機酸を使用することができる。酸を添加する際に、水中のpHをモニタリングし、pHを7以下、好ましくは5以上6以下の間で所定時間保持することが望ましい。保持時間は、処理量にもよるため一概には決められないが、1時間以上2時間以下程度である。
【0068】
湿式処理により得られた湿式処理物を乾燥してもよい。乾燥は、処理物を50℃以上200℃以下の温度に加熱して行う。乾燥効率を上げるため、乾燥を減圧雰囲気下で行ってもよい。乾燥後に処理物を室温まで冷却して回収する。
【0069】
<粉砕処理>
必要に応じて、得られた湿式処理物を粉砕してもよい。粉砕は、処理物の平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内に入るように行うことが好ましい。粉砕機は、特に限定されないが、粉末の組成や粒子径を均一し易いビーズミルなどの湿式型媒体撹拌ミルが好ましい。
【0070】
湿式で粉砕を行う場合には、粉砕に用いる溶媒として、水のほか、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等の有機溶媒を使用することができる。このうち、イソプロピルアルコールが特に好ましい。このときリン酸化合物などの表面処理剤を溶媒に加えると、粉末の表面処理を粉砕と同時に行うことができ、リン酸化合物被膜を有する磁石粉末を得ることができる。
【0071】
リン酸化合物として、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、及び/又はリン酸アルミニウムなどが挙げられる。このうち、コスト面からオルトリン酸が好ましい。リン酸化合物(表面処理剤)の添加量は、最終的に得られる磁石粉末中のリン分析値が0.2質量%以上0.6質量%以下の範囲に入るように調整することが好ましい。リン分析値を0.2質量%以上にすることで、リン酸化合物被膜の形成を十分に進ませることが可能となる。一方で0.6質量%以下にすることで、磁気特性に寄与しないリン酸化合物の被覆部分が過度に増えることを防ぐことができ、その結果、磁石粉末の磁気特性向上を図ることできる。
【0072】
湿式で粉砕を行った場合には、粉砕後の処理物を乾燥することが好ましい。乾燥装置は特に限定されない。例えばスラリーを撹拌しながら減圧加熱する方式の撹拌式乾燥機や静置式の電気炉などの乾燥機が挙げられる。特にスラリーを均一に加熱乾燥できる、撹拌機構を備えた乾燥機が好ましい。乾燥温度は、特に限定されないが100℃以上200℃以下が好ましい。100℃未満では乾燥が十分に進まない。溶媒除去に過大な時間が必要となり、生産性が低下する問題がある。また粉砕時に表面処理剤を加えた場合には、安定な表面被膜の形成が阻害されることがある。一方で200℃を超えると、磁石粉末の表面が熱的ダメージを受けて、磁気特性が顕著に低下する恐れがある。適切な乾燥時間は、処理量に依存するため、一概に決めることはできない。しかしながら、典型的には乾燥時間は1時間以上10時間以下である。乾燥雰囲気は、粉砕溶媒を効率的に除去できる減圧雰囲気とするのが好ましい。また磁石粉末から余分な水素を除去するため、酸素濃度を調整して雰囲気であってもよい。
【0073】
このようにして本実施形態の希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末を得ることができる。本実施形態の製造方法では、湿式混合を用いた還元拡散法と水素吸蔵処理を組み合わせて用いているため、窒化処理を効率よく進めることが可能である。そのため、窒素量のバラツキが小さい磁石粉末を得ることができる。得られた磁石粉末は、不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが、例えば0.020質量%以下である。また窒素量のバラツキが小さい故に、磁石粉末の示す磁気特性は優れたものになる。
【0074】
<<2.希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末>>
本実施形態の希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、不活性ガス中加熱融解式分析計を用いて測定した窒素量のバラツキが0.020質量%以下である。ここで、窒素量のバラツキとは、磁石粉末の複数個所から採取したサンプルの窒素量のバラツキである。すなわち、粉末に含まれる各粒子毎の窒素量バラツキともいえる。窒素量バラツキは後述する実施例で説明する手法にしたがって求めることができる。
【0075】
本実施形態の磁石粉末は、窒素量バラツキが小さいがために、磁気特性、特に角形性に優れる。希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末は、その窒素量に応じて、飽和磁化や保磁力といった磁気特性が変化する。窒素量バラツキの大きい磁石粉末は、粒子毎の磁気特性(飽和磁化、保磁力)が不均一であり、全体として磁気特性が低くなる。特に、角形性は粒子毎の保磁力の均一性の指標となるものであり、窒素量バラツキが大きい磁石粉末では、その値は大きく低下する。
【0076】
本実施形態の磁石粉末は、永久磁石に利用できる限り、その組成は限定されない。しかしながら、好ましくは、式:SmFe17で表される基本組成を有する、
【実施例0077】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(1)希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末の製造
[実施例1]
<準備工程>
撹拌状態のイオン交換水に硫酸第一鉄と酸化サマリウムを原料として投入してスラリーを作製した。原料投入量は、最終的にSmFe17組成の磁石粉末:1kgが得られるよう調整した。スラリーをよく撹拌し、ダマが無いことを確認したら、スラリーのpHが6~9になるように70%硫酸を滴下して、Fe-Sm硫酸水溶液を作製した。次いで、Fe-Sm水溶液を、40℃に保持した撹拌状態のイオン交換水に滴下した。全量滴下後、スラリーのpHが7~8になるように25%アンモニア液を水溶液に滴下して、Fe-Sm水酸化物を含むスラリーを作製した。
【0079】
得られたFe-Sm水酸化物スラリーを、イオン交換水を用いて洗浄した後、乾燥機を用いて処理物温度100℃で10時間、次いで900℃で1時間加熱して水分を除去した。これによりFe-Sm酸化物(複合酸化物)を得た。得られたFe-Sm酸化物を水素ガス雰囲気下650~800℃で9時間保持して水素還元した。これにより部分還元酸化物を得た。
【0080】
<混合工程>
得られた部分還元酸化物に金属カルシウムを混合した。混合はヘンシェルミキサーを用いて1時間行った。また金属カルシウムの混合量は、部分還元酸化物に含まれる酸素を還元するのに必要な量(当量)の1.45倍とした。
【0081】
<還元拡散工程>
得られた混合物を処理容器に入れ、アルゴン雰囲気下1150℃で10時間加熱して還元拡散処理物を得た。
【0082】
<水素吸蔵工程>
還元拡散工程を経た処理容器の内部温度が100℃を下回ったら、内部圧力が-90kPaとなるまで容器内を真空引きし、その後、水素ガスを導入して+10KPaになるまで加圧し、その圧力を維持した。処理容器内の圧力をモニタリングして、水素吸収により圧力が+5kPaを下回ったら+10kPaになるまで水素ガスを導入して再び維持した。水素導入を繰り返すことで、最終的に圧力が+5kPaを下回らなくなる状態となった。この状態に到達するまで6時間を要した。このようにして還元拡散処理物を解砕して解砕処理物を得た。なお水素吸蔵に用いる装置にはジャケットが設けられており、水素吸蔵処理中にジャケットに通水して処理物温度を90℃~94℃に維持した。
【0083】
<窒化工程>
水素吸蔵工程に引き続き、処理容器の内部圧力が-90kPaとなるまで真空引きし、その後、水素ガスを導入して+5kPaになるまで復圧した。次いで、窒素ガスを1.5L/分の流量でフローした雰囲気下450℃で9時間処理物を保持した。これにより解砕処理物が窒化されて窒化処理物となった。なお還元拡散工程、水素吸蔵工程、及び窒化工程は同一の炉を用いて行い、各工程間で処理物を処理容器の中から出さなかった。
【0084】
<湿式処理工程>
得られた窒化処理物をイオン交換水に投入した。これにより窒化処理物が崩壊してスラリー状になった。得られたスラリーの撹拌、静置、及び上澄み液除去の操作を5回繰り返した後、酢酸を加えてpH5~6の状態を1時間維持した。次いで、上澄み液除去、イオン交換水の投入、撹拌、静置、及び上澄み液除去の操作を5回繰り返した。このようにして湿式処理物を得た。その後、得られた湿式処理物を減圧下175℃で1時間加熱して乾燥した。
【0085】
<粉砕処理工程>
乾燥した湿式処理物:1000g、粉砕溶媒としてのイソプロピルアルコール:1500g、表面処理剤としてのオルトリン酸をビーズミルの処理容器に入れて粉砕した。オルトリン酸の添加量は、最終的に得られる磁石粉末のリン量が0.5質量%となるように調整した。また粉砕は、粉砕処理物の平均粒子径が2.0μmとなるまで行った。その後、得られた粉砕処理物のスラリーを乾燥機に入れ、真空ポンプで乾燥機内を減圧した。次いで、処理物を135℃で2時間保持した後に室温まで冷却した。このようにして、SmFe17基本組成とするSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0086】
[実施例2]
水素吸蔵工程において、水素ガス導入前の処理容器の真空引きを行わなかった。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0087】
[実施例3]
水素吸蔵工程において、ジャケットへの通水量を増やして処理物温度を21℃~36℃に調整した。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0088】
[実施例4]
水素吸蔵工程において、水素ガスを導入して処理容器の内部圧力が+3kPaになるまで加圧し、水素吸蔵により圧力が+2kPaを下回ったら+3kPaになるまで水素ガスを導入した。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0089】
[比較例1]
水素吸蔵工程において、ジャケットへの通水を行わなかった。その結果、処理物温度は271℃~303℃になった。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0090】
[比較例2]
水素吸蔵工程での処理(水素吸蔵処理)を行わなかった。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0091】
[比較例3]
水素吸蔵処理を行わず、その代わり、スタンプミルを用いて還元拡散処理物を粗粉砕した。粗粉砕により還元拡散処理物は長辺が最大155mmのインゴットから25mm角のさいころ状に変化した。さいころ状の処理物を装置に投入して、水素吸蔵処理を行わず窒化処理を行った。それ以外は実施例1と同様にしてSm-Fe-N系磁石粉末を作製した。
【0092】
(2)評価
実施例1~4及び比較例1~3で得られたSm-Fe-N系磁石粉末について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0093】
<窒素量>
磁石粉末の窒素量を分析して、その平均値とバラツキを求めた。具体的には、各水準の磁石粉末からランダムに10点のサンプルを採取した。各サンプルの採取量は10gとした。次いで、サンプルを黒鉛坩堝に投入し、サンプルの窒素量を酸素・窒素水素同時分析装置(LECO社、ONH836)を使用して測定した。測定は、インパルス炉への電力値を4000Wとし、ヘリウムガス雰囲気中で行った。そして、各サンプルの窒素量から、磁石粉末の窒素量の平均(Nave)と偏差(Nσ)を算出し、偏差(Nσ)を窒素量のバラツキと定めた。
【0094】
<磁気特性>
磁石粉末をパラフィンとともにサンプルケースに詰めた後に、加熱配向及び冷却固化して測定用サンプルを作製した。次に、測定用サンプルを、日本ボンド磁石工業協会ボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2002に従って、振動試料型磁力計により常温で、磁気特性の測定を行った。測定の際は、最大印加磁場1670kA/m(21kOe)の条件でヒステリシスカーブを描き、このヒステリシスカーブから残留磁化(Br)、保磁力(iHc)、及び角形性(Hk)を読み取った。
【0095】
(3)結果
得られた評価結果を、製造条件とともに表1にまとめて示す。
【0096】
<窒素量>
水素吸蔵処理を行ったものの、水素吸蔵時の処理物温度が271~303℃と高かった比較例1の磁石粉末は、その窒素量バラツキ(Nσ)が0.023質量%と比較的大きかった。また水素吸蔵処理を行わなかった比較例2及び3の磁石粉末では、窒素量バラツキが0.022~0.035質量%と大きかった。
【0097】
これに対して、本実施形態で定める条件下で水素吸蔵処理を行った実施例1~4の磁石粉末は、窒素量バラツキが0.019質量%以下と小さかった。特に水素吸蔵時に真空引きを行い、維持圧力を+10kPaとし、処理物温度を90~94℃とした実施例1の磁石粉末は、窒素量バラツキが0.009質量%と非常に小さかった。
【0098】
<磁気特性>
実施例1の磁石粉末はBrが13.78kG、iHcが11.19kOe、Hkが6.25kOeであった。一方で、比較例1の磁石粉末はBrが13.76kG、iHcが10.89kOe、Hkが5.77kOeであり、実施例1に比べてiHc及びHkに劣っていた。
【0099】
以上の結果より、本実施形態の製造方法によれば、窒化処理を効率よく進めて、窒素量のバラツキが小さく且つ磁気特性に優れた希土類-遷移金属-窒素系磁石粉末を得ることができることが分かる。
【0100】
【表1】