(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070398
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】距離測定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/497 20060101AFI20240516BHJP
G01B 9/02003 20220101ALI20240516BHJP
G01S 17/34 20200101ALI20240516BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G01S7/497
G01B9/02003
G01S17/34
G01C3/06 120Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180861
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丸野 兼治
(72)【発明者】
【氏名】針山 達雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正浩
(72)【発明者】
【氏名】神藤 英彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘人
【テーマコード(参考)】
2F064
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064CC01
2F064GG22
2F064GG55
2F064JJ05
2F112AD10
2F112BA15
2F112CA12
2F112DA04
2F112DA09
2F112DA15
2F112DA25
2F112DA28
2F112DA30
2F112EA20
2F112FA07
5J084AA05
5J084AD08
5J084BA04
5J084BA38
5J084BA45
5J084BA49
5J084BA50
5J084BA52
5J084BB01
5J084BB14
5J084BB26
5J084BB28
5J084BB31
5J084CA08
5J084CA24
5J084CA25
5J084CA33
5J084CA34
5J084CA49
5J084CA52
5J084EA20
5J084EA29
(57)【要約】
【課題】 光源の周波数掃引状態が正常であるかを容易に評価できる距離測定システムを提供する。
【解決手段】 FM光を出力する光源と、ビームスプリッタで2分割したFM光の一方を更に2分割し、測定ビート信号を出力する測定光学系と、ビームスプリッタで2分割したFM光の他方を更に2分割し、参照ビート信号を出力する参照光学系と、測定ビート信号と参照ビート信号を演算処理する演算装置と、を備え、該演算装置は、測定ビート信号に基づき測定対象物までの距離を演算する測距部と、参照ビート信号を処理して所望の信号を生成するビート信号処理部と、所望の信号を基準値と比較することで光源の異常を判定する判定処理部と、を有する距離測定システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物までの距離を非接触で測定する距離測定システムであって、
光周波数が周期的に掃引されたFM光を出力する光源と、
前記FM光を2分割するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで2分割した前記FM光の一方を更に2分割し、一方のFM光を前記測定対象物に照射したときの反射光と他方のFM光の周波数差に基づく測定ビート信号を出力する測定光学系と、
前記ビームスプリッタで2分割した前記FM光の他方を更に2分割し、該更に2分割したFM光の双方を光路長差が既知の干渉計に入力するとともに、該干渉計が出力するFM光同士の周波数差に基づく参照ビート信号を出力する参照光学系と、
前記測定ビート信号と前記参照ビート信号を演算処理する演算装置と、を備え、
該演算装置は、
前記測定ビート信号に基づき前記測定対象物までの距離を演算する測距部と、
前記参照ビート信号を処理して所望の信号を生成するビート信号処理部と、
前記所望の信号を基準値と比較することで前記光源の異常を判定する判定処理部と、
を有することを特徴とする距離測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号から算出した瞬時位相を一定期間分、順次接続した、前記参照ビート信号の位相の時間変化を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記参照ビート信号の位相の時間変化の最大値が前記基準値以下である場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号から算出した瞬時位相を一定期間分、順次接続した、前記参照ビート信号の位相の時間変化の変化率の最大値と最小値の差を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記差が前記基準値以上である場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項4】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号の周波数をFFT解析した周波数スペクトルの広がり幅を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記周波数スペクトルの広がり幅が前記基準値以上である場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項5】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号から算出した瞬時位相を一定期間分、順次接続した、前記参照ビート信号の位相の時間変化の変化率の最小値を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記最小値が前記基準値を下回る場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項6】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号から算出した瞬時位相を一定期間分、順次接続した、前記参照ビート信号の位相の時間変化の変化率の最大値を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記最大値が前記基準値を上回る場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項7】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号の包絡線を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記包絡線のハイパスフィルタ処理結果の絶対値が前記基準値以上である場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項8】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号の包絡線を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記包絡線の最大値が前記基準値を下回る場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項9】
請求項1に記載の距離測定システムにおいて、
前記ビート信号処理部は、前記参照ビート信号の包絡線を、前記所望の信号として生成し、
前記判定処理部は、前記包絡線の最大値が前記基準値以上である場合に、前記光源を異常と判定することを特徴とする距離測定システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の距離測定システムにおいて、
更に、表示装置を備えており、
前記判定処理部が異常を判定した場合、前記表示装置には、エラーコード、エラー内容、対策内容の何れかが表示されることを特徴とする距離測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物までの距離を非接触で測定する距離測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物までの距離を非接触で測定する方法として、周波数を掃引したFM光を測定対象物に照射し、照射光と反射光の干渉によって発生する干渉ビート信号を解析することで、測定対象物までの距離を間接的に測定する、FMCW(Frequency Modulated Continuous Waves)方式が知られている。そして、FMCW方式を使った距離測定システムの一例として特許文献1に記載の技術が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1の段落0034、0035、0037には、「
図2は、FMCW方式の原理を説明するための図である。」、「同図に示されるように、参照光201が受光器107に到着するタイミングと、測定光202が受光器109に到達するタイミングとの間には、時間差Δtが存在する。そして、この時間差Δtにおいて、レーザ光源101からのFM光は、その光周波数が変化しているので、距離計測部116では、光周波数の変化による周波数差に等しいビート周波数f
bのターゲット測定ビート信号が検出される。周波数掃引幅をΔνとし、Δνだけ変調するのに要する時間をTとした場合、時間差Δtは次式(1)によって表される。」、「そして、対象物113までの距離L
1は、時間差Δtの間に光が進む距離の1/2なので、距離L
1は、大気中の光速度cを用いて、次式(2)に示すように演算できる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1の技術では、測定対象物までの距離を非接触で測定できるが、光源に供給する周波数掃引信号にノイズが重畳した場合や、光源が破損して測定光の周波数掃引幅が変化した場合等に生じる、距離測定値の異常検知が難しく、また、距離測定値の変化からは異常の原因(周波数掃引信号へのノイズの重畳、光源の破損など)の特定が難しいという課題がある。
【0006】
この課題に対し、例えば、測定光を分岐して光スペクトルアナライザに入力することで、測定光の周波数掃引幅の変動を評価することも可能ではあるが、その場合は、装置規模が大きくなるという新たな課題が発生する。また、周波数掃引中の周波数変化の特性を直接観測することが難しいという課題もある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、測定対象物までの距離を非接触測定しながら、光源の周波数掃引状態が正常であるかを容易に評価できる、距離測定システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る距離測定システムは、測定対象物までの距離を非接触で測定する距離測定システムであって、光周波数が周期的に掃引されたFM光を出力する光源と、前記FM光を2分割するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタで2分割した前記FM光の一方を更に2分割し、一方のFM光を前記測定対象物に照射したときの反射光と他方のFM光の周波数差に基づく測定ビート信号を出力する測定光学系と、前記ビームスプリッタで2分割した前記FM光の他方を更に2分割し、該更に2分割したFM光の双方を光路長差が既知の干渉計に入力するとともに、該干渉計が出力するFM光同士の周波数差に基づく参照ビート信号を出力する参照光学系と、前記測定ビート信号と前記参照ビート信号を演算処理する演算装置と、を備え、該演算装置は、前記測定ビート信号に基づき前記測定対象物までの距離を演算する測距部と、前記参照ビート信号を処理して所望の信号を生成するビート信号処理部と、前記所望の信号を基準値と比較することで前記光源の異常を判定する判定処理部と、を有するものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の距離測定システムによれば、測定対象物までの距離を非接触測定しながら、光源の周波数掃引状態が正常であるかを容易に評価することができる。なお、上記した以外の課題、構成、効果は、以下の実施例により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の距離測定システムの構成例を示す模式図。
【
図4】反射強度プロファイルに基づき測定対象物での反射位置を求める方法の説明図。
【
図5】実施例1での参照ビート信号の周波数処理と位相解析処理の詳細を示す図。
【
図6A】実施例1の参照ビート信号の評価処理の説明図(正常時)。
【
図6B】実施例1の参照ビート信号の評価処理の説明図(異常時)。
【
図7】実施例1の参照ビート信号の評価処理のフローチャート。
【
図8】実施例1の異常判定時に、表示装置に表示されるGUI画面例。
【
図9】実施例2の参照ビート信号の評価処理のフローチャート。
【
図10】実施例3の参照ビート信号の評価処理の説明図。
【
図11A】実施例4の参照ビート信号の評価処理の説明図。
【
図11B】実施例4の参照ビート信号の評価処理の説明図。
【
図11C】実施例4の参照ビート信号の評価処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る距離測定システムの実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施例において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、各実施例において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、「Aからなる」、「Aよりなる」、「Aを有する」、「Aを含む」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでないことは言うまでもない。同様に、各実施例において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。
【0012】
また、各実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0013】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0014】
各種情報の例として、「テーブル」、「リスト」、「キュー」等の表現にて説明することがあるが、各種情報はこれら以外のデータ構造で表現されてもよい。
【0015】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0016】
各実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0017】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【実施例0018】
以下、
図1から
図8に基づいて、本発明の実施例1に係る距離測定システム1を説明する。
【0019】
図1は、実施例1の距離測定システム1の構成例を示す模式図である。ここに示す本実施例の距離測定システム1は、測距装置10と計算機20を用い、測定対象物30までの距離Lを非接触で測定するシステムである。なお、
図1では図示を省略しているが、距離測定システム1は、測定光走査機構40を備えても良い。
【0020】
測定光走査機構40は、測距装置10が照射する測定光の照射位置を走査する機構であり、ガルバノミラー、MEMSミラー、ポリゴンミラー、直動ステージ、回転ステージなどの機構を用いることができる。例えば、ガルバノミラーを1つ用いた場合であれば、測定光の照射位置を1次元的に走査することができ、ガルバノミラーを2つ用いた場合であれば、測定光の照射位置を2元的に走査することができる。従って、距離測定システム1に測定光走査機構40を搭載すれば、測定対象物30の表面での測定光の照射位置を適当に走査し、測定対象物30の表面形状を連続的かつ正確に測定することができる。
【0021】
<測距装置10>
本実施例の測距装置10は、
図1に示すように、発振部11、発光部12、光ファイバ13、光ファイバカプラ14、光サーキュレータ15、受光部16、レンズ17、測距制御部18を有する。以下、各構成を順次説明する。
【0022】
発振部11は、測距制御部18からの指令(掃引波形信号)に基づき、鋸歯状波、三角波電流または正弦波などの周期的に変調させた電流を注入し、発光部12に供給する駆動電流を変調する。なお、変調電流の波形は上記に限らず、例えば発光部12に対して注入する電流値と出力する光周波数の特性を把握したうえで、出力する光周波数掃引が略線形となるように生成した変調電流であってもよい。
【0023】
発光部12は、発振部11で変調された駆動電流により、一定の変調速度で時間的に周波数掃引されたFM(Frequency Modulated)光を発生させ、光ファイバ13を介して光ファイバカプラ14aに出力する。なお、発光部12を外部共振器付き半導体レーザ装置として構成し、発光部12の共振波長を発振部11からの制御信号により変化させてもよい。この場合においても、発光部12は、時間的に周波数掃引されたFM光を発生することができる。
【0024】
光ファイバカプラ14aは、入射されたFM光を2分割するビームスプリッタであり、一方のFM光を測定光学系(14b、13a、15、14c、16a、17)に出射し、他方のFM光を参照光学系(14d、13b、14e、16b)に出射する。なお、この構成から自明なように、本実施例の距離測定システム1では、測定光学系の出力に基づく処理と、参照光学系の出力に基づく処理を並行して実施することができる。
【0025】
参照光学系に入射した光は、光ファイバカプラ14dで更に2分割された後、光ファイバカプラ14eにて合波され、受光部16bで受光される。光ファイバカプラ14dと光ファイバカプラ14eを接続する2本の光ファイバ13のうち一方には相対的に長い光ファイバ13bが用いられており、他方に対して所定の光路差が設けられる。従って、参照光学系は、光路長差が既知のマッハツェンダー干渉計として機能し、受光部16bは光路差に比例した一定のビート信号(以後、参照ビート信号)を検出する。参照光学系で検出した参照ビート信号は、測距制御部18と計算機20に送信される。
【0026】
また、測定光学系に入射した光は、光ファイバカプラ14bで更に2分割され、一方は参照光として光ファイバ13aに出射され、他方は光サーキュレータ15を通過してレンズ17に出射され、測定対象物30に照射される。そして、測定対象物30にて反射または散乱した光(以後、測定光)は、レンズ17と光サーキュレータ15を介して光ファイバカプラ14cに導光される。この測定光は、光ファイバカプラ14cにて光ファイバ13aを経由した参照光と合波され、受光部16aで受光される。受光部16aは、参照光と測定光の干渉により発生するビート信号(以後、測定ビート信号)を検出する。測定光学系で検出した測定ビート信号は、測距制御部18と計算機20に送信される。なお、測定光学系の構成は上記に限らない。例えば、測定光学系に入射した光を2分割し、測定ビート信号を生成する手段として、光ファイバカプラ14bと光ファイバ13aと光ファイバカプラ14cを用いる代わりに、光サーキュレータ15から測定対象物30までの光路の間に部分反射面を設け、前記部分反射面からの反射光(以後、部分反射光)と測定光を干渉によって測定ビート信号を生成してもよい(すなわち、フィゾー干渉計のように同一光軸上で光を2分割することで測定ビート信号を生成する)。光サーキュレータ15とレンズ17の間の光ファイバの端面や、レンズ17の表面で生じるフレネル反射光を、前記部分反射光として用いてもよい。光学系の構成に応じて、受光部16aおよび受光部16bは、2個の受光素子を備えたバランス型光検出器を用いてもよいし、1個の受光素子を備えた光検出器を用いてもよい。
【0027】
<計算機20>
本実施例の計算機20は、測距装置10から送信された測定ビート信号や参照ビート信号を処理等する演算装置21と、演算装置21の演算結果等を表示する表示装置22(例えば、液晶ディスプレイ)を備える。
【0028】
図2は、演算装置21の機能ブロック図である。ここに示すように、演算装置21は、ビート信号処理部21a、判定処理部21b、記憶部21cの各機能部を備えており、測距装置10、表示装置22、測定光走査機構40等と通信可能に接続されている。
図2では、ビート信号処理部21a等の機能部を演算装置21に搭載した構成を例示しているが、これらの機能部を、測距装置10の測距制御部18に搭載した構成としても良い。逆に、本実施例の測距制御部18の機能を演算装置21で実現する構成としても良い。
【0029】
なお、演算装置21は、具体的には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の記憶装置、および、通信装置などのハードウェアを備えたコンピュータである。そして、演算装置が所定のプログラムを実行することで、ビート信号処理部21a等の各機能部を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0030】
<測定ビート信号に基づく測距方法>
本実施例の距離測定システム1では、測定対象物30までの距離Lの測距方法として、FMCW(Frequency Modulated Continuous Waves)、または、SS-OCT(Swept-Source Optical Coherence Tomography)(あるいは波長掃引OCT)を用いる。FMCWとSS-OCTの原理は共通するが、FMCWは、主に可干渉距離の長い光源を用いる長距離の測定に用いられる測距方法であり、SS-OCTは、主に可干渉距離の短い光源を用いる微細構造の測定に用いられる測距方法である。
【0031】
図3は、FMCW方式の距離測定原理の説明図である。測定光学系における測定光と参照光の受光部16aへの到達タイミングには、測定光と参照光の光路差に起因する時間差Δtが存在する。本実施例の発光部12は、この時間差Δtの期間に光周波数が変化しているので、受光部16aは、測定光と参照光の周波数差に等しいビート周波数fbの測定ビート信号を検出する。例えば、発振部11による変調が鋸歯状波の周波数変調であれば、発光部12の出射光の最低周波数をν0、周波数掃引幅をΔνとし、Δνだけ変調するのに要する時間をTとすると、次の(式1)の関係が成立する。
【0032】
【0033】
測定対象物30までの距離Lは、(式1)で算出した時間差Δtの間に光が進む距離の半分である。よって、距離Lは、大気中の光速度cを用い、次の(式2)によって算出できる。
【0034】
【0035】
距離Lとビート周波数fbは線形な関係にある。よって受光部16aで得られた測定信号にFFT(First Fourier Transform:高速フーリエ変換)を行い、ピーク位置と大きさを求めれば、測定対象物30の反射位置と反射光量を求めることができる。
【0036】
図4は、反射強度プロファイルから測定対象物30の表面における反射位置を求める方法の一例を説明するための図である。同図において、横軸はFFTの周波数を示し、縦軸は反射強度を示す。同図に示されるように、反射強度のピーク付近は離散的なデータとなる。点の間隔、すなわち距離分解能は、c/2Δνとなる。
【0037】
測距方法がSS-OCTの場合、一般的な波長は例えば1300nm、掃引幅は100nmであり、周波数掃引幅Δνは17.8THzとなるので、距離分解能c/2Δνは8.4μmとなる。また、測距方法がFMCWの場合、一般的な波長は例えば1500nm、掃引幅は2nmであり、周波数掃引幅Δνは267GHzとなるので、距離分解能c/2Δνは0.56mmとなる。
【0038】
これに対し、
図4に示すようにピーク付近の3点以上の点を用いて、二次関数またはガウス関数等の関数を当てはめ、当てはめられた関数のピーク付近の値を用いて補間すれば、分解能を1/10程度に高めることが可能となる。
【0039】
なお、ビート周波数の解析の一例としてFFTを挙げたが、ビート周波数の解析には例えば最大エントロピー法を用いてもよい。この場合、FFTよりも高分解能にピーク位置を検出することができる。
【0040】
<参照ビート信号に基づく評価処理の概要>
次に、
図5および
図6A、6Bを用いて、参照光学系の受光部16bで検出した参照ビート信号に基づく評価処理の概要を説明する。なお、以下では、参照ビート信号の評価処理を、計算機20の演算装置21(
図2参照)で実施するものとして説明するが、同様の評価処理を測距装置10の測距制御部18で実施し、その評価結果を計算機20に出力する構成としても良いし、同様の評価処理を測距制御部18と演算装置21が協働して実施する構成としても良い。
【0041】
まず、演算装置21のビート信号処理部21aは、測定周期中に得た参照ビート信号のオリジナル信号(
図5(a)のB(t))をヒルベルト変換することにより、位相をπ/2だけずらした信号(
図5(b)のC(t))を作成する。
【0042】
次に、ビート信号処理部21aは、ヒルベルト変換前後の参照ビート信号B(t)とC(t)から、(式3)に基づいて信号の瞬時位相θ(t)を算出する(
図5(c))。
【0043】
【0044】
さらに、ビート信号処理部21aは、算出した瞬時位相を順次接続することで、測定周期中の参照ビート信号の位相Φ(t)の時間変化を求める(
図5(d))。
【0045】
その後、演算装置21の判定処理部21bは、位相接続後の位相Φ(t)の変化に基づいて参照ビート信号の良否を評価する。具体的には、測定周期中に得た位相Φ(t)の最大値を、記憶部21cに登録された閾値Th1と比較する。なお、この閾値Th1は、参照光学系の特性に依存する変数であり、測距装置10の仕様に応じた適当な値が記憶部21cに予め登録されているものとする。これは後述する各種閾値についても同様である。
【0046】
そして、
図6Aのように、位相変化の最大値が閾値Th1より大きければ、判定処理部21bは、その参照ビート信号が正常であると判断する。これにより、判定処理部21bは、同じ測定周期の測定ビート信号に基づいて演算した距離Lも正常であると判断することができる。
【0047】
一方、
図6Bのように、位相変化の最大値が閾値Th1以下であれば、判定処理部21bは、その参照ビート信号が異常であると判断する。この場合、判定処理部21bは、同じ測定周期の測定ビート信号に基づいて演算した距離Lの信頼性は低いと判断する。
【0048】
例えば、発振部11の周波数掃引信号が不適切で周波数掃引幅が減少した場合や、発光部12が故障した場合には、参照ビート信号の周波数が想定よりも低下し、位相変化の最大値が低下する。そこで、
図6Bのように、参照ビート信号の位相変化の最大値を閾値Th1と比較することで、発振部11や発光部12の異常状態を評価することができる。
【0049】
また、上記の評価処理以外にも、装置が正常状態の際にあらかじめ取得した位相変化のテーブルを保持し、保持したテーブルに対する参照ビート信号を処理して得た位相変化の差分の値を閾値と比較しても同様の効果を奏する。この場合、周波数掃引中の周波数掃引特性の変化やジッタを評価することが可能である。
【0050】
<参照ビート信号に基づく評価処理の詳細>
次に、
図7のフローチャートを用いて、上記した参照ビート信号の評価処理をより具体的に説明する。なお、上記したように、本実施例の距離測定システム1では、測定光学系の出力に基づく処理と、参照光学系の出力に基づく処理を並行して実施することができるため、
図7では両処理を並行実施する状況を例示するが、評価処理に特化する場合は、参照光学系の出力のみを処理すれば良い。
【0051】
図7の処理は、ユーザから計算機20への所定の操作入力に応じて開始される。所定の操作入力は、例えば、計算機20の起動に伴う制御プログラムの立ち上げ操作や、測定対象物30の測定開始操作が挙げられる。
【0052】
まず、ステップS1では、距離測定システム1を構成する測距装置10と計算機20等を起動する。具体的には、測距装置10の測距制御部18を信号の送受信可能な待機状態にするとともに、計算機20の演算装置21も信号の送受信可能な待機状態にする。
【0053】
次に、ステップS2では、発振部11は測距制御部18からの指令(掃引波形信号)に基づいて変調電流を出力し、発光部12は発振部11からの変調電流に基づいて光周波数を変調させながらFM光を出力する。この結果、
図1で説明したように、測定光学系と参照光学系の双方に、発光部12からのFM光が入射される。
【0054】
ステップS3では、測距装置10の測距制御部18は、測定光学系の受光部16aから測定ビート信号を受信するとともに、参照光学系の受光部16bから参照ビート信号を受信する。また、測距制御部18は、受信した測定ビート信号と参照ビート信号を、計算機20の演算装置21に送信する。
【0055】
ステップS4では、測距制御部18は、
図3と
図4で説明したように、測定ビート信号を解析して測定対象物30までの距離Lを算出する。また、演算装置21のビート信号処理部21aは、
図5で説明したように、参照ビート信号をヒルベルト変換した後、瞬時位相θ(t)を求め、更に、瞬時位相を順次接続することで参照ビート信号の位相Φ(t)の時間変化を求める。
【0056】
ステップS5では、演算装置21の判定処理部21bは、参照ビート信号の判定処理を実行する。具体的には、判定処理部21bは、
図6Aや
図6Bで例示したように、記憶部21cから取得した閾値Th1と参照ビート信号の大きさを比較する。
【0057】
ステップS6は、判定処理部21bは、ステップS5での比較結果に基づき、参照ビート信号が正常かを判定する。そして、要件を満たす場合は、
図7の処理を終了し、要件を満たさない場合は、ステップS7に移行する。
【0058】
なお、ステップS6の要件を満たす場合、すなわち、参照ビート信号の位相Φ(t)の最大値が閾値Th1より大きく、参照ビート信号を正常と判定できた場合には、システムに異常が無く、計測ビート信号に基づいて算出した距離Lも正常と判定できるため、参照ビート信号の判定処理の終了後も、測定ビート信号に基づく測定処理を継続すれば良い。
【0059】
一方、ステップS7では、表示装置22は、エラーを表示して、ユーザにシステム異常を報知する。ステップS6の要件を満たさずステップS7に進んだ場合、すなわち、参照ビート信号の位相Φ(t)の最大値が閾値Th1以下であり、参照ビート信号を異常と判定できた場合には、同じ測定周期に取得した測定ビート信号に基づいて演算した距離Lも異常であると判定できるため、誤った距離Lの測定を避けるべく、以後の測定処理を中断する。
【0060】
<エラー表示の方法>
次に、
図8を用いて、ステップS7における、エラーの表示方法を具体的に説明する。同図は、ステップS6にて参照ビート信号が異常と判断されステップS7に進んだ場合に、表示装置22に表示されるGUI画面の表示例を示している。
【0061】
ここに例示するGUI画面には、エラーコード表示欄22a、エラー内容表示欄22b、対策内容表示欄22c、確認ボタン22dが表示されている。エラーコード表示欄22aには、ステップS6での評価内容に応じて割り振られたコード番号を表示する。エラー内容表示欄22bには、各コード番号に対応したエラー内容の詳細を表示する。対策内容表示欄22cには、エラー内容に対応した対策内容を表示する。確認ボタン22dを押下することで、GUI画面の表示を中断する。ここで表示するエラーコードやエラー内容や対策内容は、記憶部21cに予め登録されたものを利用すれば良い。
【0062】
なお、GUI画面の表示は
図11に示す内容に限らず、一部のみを表示させてもよい。例えばエラー内容表示欄22bには、エラー内容の詳細を表示せず、対応内容のみを表示させてもよい。また、確認ボタン22dを押下した際には、測定動作を中断し、装置を終了させる動作に移行してもよいし、これら以外に例えば発生時刻などの他の付随情報を表示させてもよい。
【0063】
また、評価結果をユーザに通知する他の方法として、警報灯またはブザーを備えて、異常状態と判定された場合に作動させてもよい。また、健全状態を示すランプを測距装置10や表示装置22の画面上に備え、判定結果が正常と判定された場合に点灯させてもよい。さらに、装置のステータスを記録するログファイルを保持し、判定結果と評価した値と日付とを、共に記録してもよいし、距離測定データをファイルとして保存する際のヘッダ領域に記録してもよい。また、演算装置21に外部出力端子を備えて、中断処理時に外部機器に対して信号を出力してもよい。
【0064】
また、評価処理で用いる閾値Thは、GUIでパラメータ設定画面を備えて、変更可能にしてもよい。各閾値の値は閾値設定ファイルに保存し、プログラム起動時に閾値設定ファイルをロードしてもよい。
【0065】
以上で説明した本実施例の距離測定システムによれば、測定対象物までの距離を非接触測定しながら、光源の周波数掃引状態が正常であるかを容易に評価することができる。
ステップS6aでは、測距制御部18は、発振部11から出力する変調信号の電流値が許容範囲内であるか、すなわち、変調信号の電流値を変更することで参照ビート信号を改善できる余地があるかを判定する。そして、要件を満たす場合(改善余地がある場合)はステップS8に移行し、要件を満たさない場合(改善余地がない場合)は前述のステップS7(エラー表示)に移行する。なお、後者の場合のエラー表示としては、自動回復不可である旨などを表示すれば良い。
ステップS8では、測距制御部18は、発振部11に送信する指令(掃引波形信号)を更新する。より具体的には、例えば発振部11から出力する変調信号の波形の振幅やDC(Direct Current)成分を一定量増加させて更新することで、出力光の光周波数変調幅や光周波数を増加させ、参照ビート信号の最大位相値の増加を試行する。
以上のステップS6a、S8により、ステップS6で参照ビート信号が異常と判定された場合であっても、更新した変調信号で変調を再開し(ステップS2)、参照ビート信号を再評価(ステップS5、S6)する処理経路が追加されることになる。従って、本実施例の距離測定システムによれば、異常と判定された参照ビート信号を改善するようにシステム制御を変更することで、正常な測定ビート信号を検出できるようになる。