(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070542
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】自律型調熱窓
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240516BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1333
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181101
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晴美
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088GA02
2H088GA03
2H088GA04
2H088JA17
2H088JA22
2H088MA20
2H189BA11
2H189HA16
2H189JA22
2H189LA24
2H189MA15
(57)【要約】
【課題】セルフアクティブ方式において、可視光透過率に優れ、且つ、外気温に応じて赤外光の透過率を調整できる環境配慮型の自律型調熱窓を提供する。
【解決手段】可視光透過率が70%以上の領域を有する自律型調熱窓10であって、第一透明基板1と、外気側に配置され、第一透明基板1と間隙を持って対向配置された第二透明基板2と、これらに挟持された調熱層3とを備える。調熱層3は、所定の温度または所定の温度範囲に対して可逆的に配向が変位する液晶成分31と、液晶成分31に分散され、赤外光の吸収および反射の少なくとも一方に異方性を有する形状異方性成分32とを有する。調熱層3は、所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光の透過率が低くなる。また、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光透過率が70%以上の領域を有する自律型調熱窓であって、
第一透明基板と、
外気側に配置され、前記第一透明基板と間隙を持って対向配置された第二透明基板と、
前記第一透明基板と前記第二透明基板に挟持された調熱層とを備え、
前記調熱層は、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に配向が変位する液晶成分と、前記液晶成分に分散され、赤外光の吸収および反射の少なくとも一方に異方性を有する形状異方性成分とを有し、
前記調熱層は、前記所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光透過率が低くなり、
前記調熱層の両側において、前記第一透明基板側の厚み方向の熱伝導率が前記第二透明基板側の厚み方向の熱伝導率より低い自律型調熱窓。
【請求項2】
前記第一透明基板の外側に、更に、間隙を持って対向配置された第三透明基板を有し、
前記間隙に空気、希ガス、真空、または液体が充填されている請求項1に記載の自律型調熱窓。
【請求項3】
前記第一透明基板の外側主面に、赤外光反射膜および透明断熱層の少なくとも一方が形成されている請求項1に記載の自律型調熱窓。
【請求項4】
前記形状異方性成分は、赤外光吸収剤または/および赤外光反射剤である二色性色素、ナノロッドおよびナノシートの少なくともひとつを含む請求項1に記載の自律型調熱窓。
【請求項5】
前記形状異方性成分の長径Lと短径Wとの比であるアスペクト比L/Wが2以上である請求項1に記載の自律型調熱窓。
【請求項6】
前記第一透明基板の外側に、間隙を持って対向配置された第三透明基板と、
前記第一透明基板と前記第三透明基板に挟持された補助調熱層と、を更に有し、
前記補助調熱層は、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に配向が変位する液晶成分と、当該液晶成分に分散された形状異方性成分とを含有し、
前記補助調熱層は、前記所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光の透過率が低くなり、
以下の(I)および(II)を満たす請求項1に記載の自律型調熱窓。
(I)前記調熱層の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲<前記補助調熱層の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲。
(II)前記調熱層の形状異方性成分の濃度>前記補助調熱層の形状異方性成分の濃度。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律型調熱窓に関する。
【背景技術】
【0002】
調光システムとして、ロー・Eガラスを用いるパッシブ方式、電解駆動型のアクティブ方式、感温度型のセルフアクティブ方式がある。パッシブ方式は、配線等が不要である反面、気温に合わせた調光熱能力の制御ができないという問題がある。アクティブ方式は、電極および配線が必要であり、コスト・施工の手間などが問題となる。セルフアクティブ方式(感温度型)は、電極、配線および電界等の物理的様式を必要としない利点を有する。
【0003】
セルフアクティブ方式として、特許文献1には、高分子分散型液晶(PDLC)を用いた調光窓が提案されている。この調光窓は、配向相分離構造により、ネマチック-等方相転移点温度を境に光散乱状態と光透過状態を可逆的に変位させる方式を採用している。
【0004】
また、特許文献2には、可視光透過率を高め、断熱性能を高めることが可能な複層ガラスが開示されている。更に、特許文献3には、液晶成分と、二色性色素とを含む感温度型調光熱用組成物が開示されている。液晶成分は、予め定めた温度又は温度範囲に対して、低温度領域においてはホメオトロピック配向をなし、高温度領域においてはプラナー配向をなす可逆的配向変位(アンカーリングトランジション)をなすものであり、このアンカーリングトランジションによる配向変位に伴って、二色性色素の配向が変位することにより光および/又は熱の透過を調整する。なお、特許文献4は後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-152445号公報
【特許文献2】特開2016-664号公報
【特許文献3】特開2020-84149号公報
【特許文献4】国際公開第2015/099060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市場では車載用の調光窓が出ているが、色味があるため透明性がなく一般家庭や店舗の窓としては普及しにくい。また、電極、配線を必要とするアクティブ方式の調光窓は、電力を用いるため節電効果に課題がある。特許文献1に開示の調光窓は、散乱現象により透明体から白濁(可視光領域)することで遮光するため透明性がなくなる。また、特許文献2等に開示の断熱性能の高い窓ガラスは、夏場は外気の熱を遮蔽できる一方で、冬場の外気の熱も遮熱してしまうという問題がある。特許文献3に開示の感温度型調光熱用組成物によれば、節電効果を期待できる。しかし、節電効果が充分とはいえず、年間を通じて更なる節電効果が得られる調光窓が地球環境保全の観点からも望ましい。
【0007】
本開示は上記背景に鑑みてなされたものであり、セルフアクティブ方式において、可視光透過率に優れ、且つ、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に赤外光の透過率を調整できる環境配慮型の自律型調熱窓を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の自律型調熱窓を提供する。
[1]: 可視光透過率が70%以上の領域を有する自律型調熱窓であって、
第一透明基板と、
外気側に配置され、前記第一透明基板と間隙を持って対向配置された第二透明基板と、
前記第一透明基板と前記第二透明基板に挟持された調熱層とを備え、
前記調熱層は、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に配向が変位する液晶成分と、前記液晶成分に分散され、赤外光の吸収および反射の少なくとも一方に異方性を有する形状異方性成分とを有し、
前記調熱層は、前記所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光透過率が低くなり、
前記調熱層の両側において、前記第一透明基板側の厚み方向の熱伝導率が前記第二透明基板側の厚み方向の熱伝導率より低い自律型調熱窓。
[2]: 前記第一透明基板の外側に、更に、間隙を持って対向配置された第三透明基板を有し、
前記間隙に空気、希ガス、真空、または液体が充填されている[1]に記載の自律型調熱窓。
[3]: 前記第一透明基板の外側主面に、赤外光反射膜および透明断熱層の少なくとも一方が形成されている[1]または[2]に記載の自律型調熱窓。
[4]: 前記形状異方性成分は、赤外光吸収剤または/および赤外光反射剤である二色性色素、ナノロッドおよびナノシートの少なくとも一つを含む[1]~[3]のいずれかに記載の自律型調熱窓。
[5]: 前記形状異方性成分の長径Lと短径Wとの比であるアスペクト比L/Wが2以上である[1]~[4]のいずれかに記載の自律型調熱窓。
[6]: 前記第一透明基板の外側に、間隙を持って対向配置された第三透明基板と、
前記第一透明基板と前記第三透明基板に挟持された補助調熱層と、を更に有し、
前記補助調熱層は、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に配向が変位する液晶成分と、当該液晶成分に分散された形状異方性成分とを含有し、
前記補助調熱層は、前記所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光の透過率が低くなり、
以下の(I)および(II)を満たす[1]~[5]のいずれかに記載の自律型調熱窓。
(I)前記調熱層の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲<前記補助調熱層の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲。
(II)前記調熱層の形状異方性成分の濃度>前記補助調熱層の形状異方性成分の濃度。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、セルフアクティブ方式において、可視光透過率に優れ、且つ、外気温に応じて赤外光の透過率を調整できる環境配慮型の自律型調熱窓を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る自律型調熱窓を説明するための模式的断面図。
【
図3】形状異方性成分の別の一例を示す模式的説明図。
【
図4】(a)低温領域の調熱層の赤外光の透過状態を説明するための模式的説明図。(b)高温領域の調熱層の赤外光の遮蔽状態を説明するための模式的説明図。
【
図5】第2実施形態に係る自律型調熱窓を説明するための模式的断面図。
【
図6】第3実施形態に係る自律型調熱窓を説明するための模式的断面図。
【
図7】第4実施形態に係る自律型調熱窓を説明するための模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参酌して説明する。本開示は、下記実施形態に制限されるものではなく、本開示の趣旨に合致する限り他の実施形態も本開示の範疇に含まれる。また、各実施形態は任意に組み合わせられる。本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む。本明細書において可視光は、波長380~780nmの範囲の光をいい、赤外光は波長780~2500nmの範囲をいう。可視光透過率は、測定波長が380~780nmの範囲の透過率を意味し、赤外光透過率は、ここでは近赤外帯域とし、測定波長が780~2500nmの範囲で求めた透過率であり、JISR 3106(2019年)に準じて測定できる。
【0012】
<第1実施形態>
本開示の自律型調熱窓は(本調熱窓ともいう)セルフアクティブ方式であり、電極・配線不要の電界を用いない調熱窓である。本調熱窓を用いることにより、例えば、夏などの高温時には外気からの熱の出入りを抑制し、冬などの低温時には外気からの熱を室内に積極的に取り入れる自律型の窓を提供できる。
【0013】
図1に、第一実施形態に係る自律型調熱窓の一例の模式的断面図を示す。自律型調熱窓10は、第一透明基板1、第二透明基板2,調熱層3を備える。第二透明基板2は、外気側に配置され、スペーサ4を介して第一透明基板1と間隙を持って対向配置されている。調熱層3は、第一透明基板1と第二透明基板2に挟持されている。自律型調熱窓10は可視光透過率が70%以上の領域を有する。可視光透過率は80%以上であることが好ましく90%以上であることがより好ましい。なお、透過率とは、自律型調熱窓に入光する光の量に対する、自律型調熱窓を透過する光の量の割合をいう。また、本明細書でいう外気とは、調温したい側とは反対側をいい、室内間を仕切る窓であってもよい。室内間を仕切る窓の場合には、より温度調節したい側を室内、その反対側を外気とする。
【0014】
第1実施形態においては、第一透明基板1の外側に、第三透明基板6がスペーサ5を介して第一透明基板1と対向配置されている。第一透明基板1と第三透明基板6の間隙に熱伝導調節層7を有する。
【0015】
調熱層3は、所定の温度または所定の温度範囲に対して可逆的に配向が変位する液晶成分と、液晶成分に分散された形状異方性成分とを有する。液晶成分を構成する液晶分子が温度により可逆的に配向変化し、それに連動して形状異方性成分の長径方向の配向が変化する。これにより、調熱層3は、前記所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光の透過率が低くなる。
【0016】
調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向D1の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向D2の熱伝導率より低くなるように設計されている。つまり、本調熱窓は、外気側よりも室内側の断熱性が高くなるように設計されている。なお、本調熱窓において、赤外光全体(800~2500nm)において、高温領域が低温領域よりも赤外光の透過率が低くなっていればよく、各波長において前記条件を満たしていなくてもよい。また、ここでいう熱伝導率は、厚み方向D1、D2全体で考えたときの熱伝導率であり、厚み方向D1、D2において部分的に熱伝導率が逆転している箇所があってもよい。
【0017】
形状異方性成分32は光の入射方向により、赤外光の吸収率および反射率の少なくとも一方に異方性をもつ。
図2に形状異方性成分の一例を示す模式図を、
図3に形状性異方性成分の別の例を示す模式図を示す。形状異方性成分は、例えば
図2に示すような棒状粒子、
図3に示すようなナノプレート状粒子が例示できる。長径L方向に入射した光は、短径W方向に入射した光に比べて赤外光の吸収率および反射率の少なくとも一方が高い。長径Lと短径Wの好適なアスペクト比L/Wは2以上であることが好ましい。
【0018】
形状異方性成分32の具体例として、二色性赤外光吸収剤、二色性赤外光反射剤、赤外領域異方性吸収剤が挙げられる。また、表面プラズモン共鳴により吸収する、金属ナノロッド、金属のナノシートが例示できる。吸収および反射が可視光の領域において小さく、赤外光の領域で大きい形状異方性成分がより好ましい。このような形状異方性成分を用いることにより、形状異方性成分の配向による可視光領域の視認性低下を抑制できる。
【0019】
形状異方性成分32の含有率は、液晶成分の可逆的な配向変化に連動して形状異方性成分の長軸の方向を可逆的に調整できればよく、適宜設計できる。例えば、調熱層100質量%に対して0.1~5質量%程度とすることができる。
【0020】
図4(a)に低温領域の調熱層において赤外光が透過している状態を説明する模式的説明図を、
図4(b)に高温領域の調熱層において赤外光が遮蔽されている状態を説明する模式的説明図を示す。なお、赤外光の遮蔽は、低温領域に比べて高温領域の赤外光の透過率が低下しているものを含み、完全に遮蔽されている必要はない。
【0021】
低温領域では
図4(a)に示すように、液晶成分31がホメオトロピック配向(第一透明基板1等の主面に対して略垂直方向に配向)している。この液晶成分31の配向に連動して、調熱層3の主面に対して形状異方性成分32の長軸が基板面に略垂直方向に配向している。例えば車のサンルーフの場合、液晶成分31がホメオトロピック配向であることが好ましい。住宅窓に用いる場合には、低温領域において太陽光の輻射熱を効率的に室内に取り入れるために、設置場所の緯度等に応じた太陽光の平均入射角と、低温領域の液晶成分の長軸方向(配向方向)を略一致させるように、第一透明基板1等の主面の垂直方向に対してチルトするように液晶成分を配向させてもよい。液晶成分の配向制御は例えば配向膜により調整できる。
【0022】
一方、高温領域では
図4(b)に示すように、液晶成分31がランダム配向している。形状異方性成分32は、高温領域では液晶成分31の配向に連動してランダムに配向する。その結果、高温領域では、形状異方性成分32の長軸の方向がランダムになる。その結果、高温領域において形状異方性成分32の赤外光吸収および/又は反射を大きくすることができ、赤外光の透過率を高温領域において低減させることができる。ランダム配向に代えて、高温領域で液晶分子の長軸方向が基板面に略水平方向になるようにしてもよい。
【0023】
液晶成分31としては、液晶相、等方相共に可視光透過率の高いものを用いる。可視光透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0024】
液晶成分31の配向性は、例えば液晶相-等方相の転移点温度により制御できる。即ち、液晶相のときには液晶分子が配向し、等方相のときには液晶分子の配向はランダムとなる。この液晶相-等方相の転移点温度は用途に応じて設定できる。例えば転移点温度を20~25℃に設定できる。液晶成分の種類は限定されないが、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、強誘電性液晶が例示できる。これらの中でも、液晶温度範囲が比較的広く、粘性が低い点からネマチック液晶が好適である。温度により配向変化させる方法はこれに限定されない。
【0025】
液晶の配向変化温度は用途により適宜設計できる。家や店舗の窓、サンルーフなどに利用する場合には例えば相転移温度を20~60℃のいずれかに設定できる。
【0026】
液晶成分31は、一種または二種以上の液晶化合物を含む。液晶成分31は、公知の材料を使用可能である。例えば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゼン系、アゾキシベンゼン系、アゾベンゼン系、アゾメチン系、ターフェニル系、ビフェニルベンゾエート系、シクロヘキシルビフェニル系、フェニルピリジン系、シクロヘキシルピリミジン系、コレステロール系が例示できる。
【0027】
第一透明基板1,第二透明基板2の調熱層3側の最表面に液晶成分の配向を制御するために、必要に応じて配向膜11を設けることができる。配向膜11は、第一透明基板1,第二透明基板2のどちらか一方に設けてもよいし、
図1に示すように両方に設けてもよい。配向膜11の種類は限定されないが、低温時に液晶相をホメオトロピック配向にする場合には垂直配向膜、液晶成分を基板面に対してチルト配向させる場合にはチルト角を有する配向膜が好適である。配向膜は、例えば、第一透明基板1および第二透明基板2の調熱層3側の表面に配向膜を塗膜し、ラビング処理を施すことにより形成できる。また、配向膜を塗膜した後、偏光UV照射により配向規制力を発現させることにより配向膜を形成してもよい。また、温度により配向変化する配向膜を用いてもよい。例えば低温側で撥油性(チルト大)、高温側で親油性(チルト小)になる温度可変の配向膜が好適である。前記配向膜を用いて、液晶成分の相転移温度による配向制御に代えて、又は併用して、可逆的に液晶成分の配向を変位させることにより赤外光の透過率を制御してもよい。
【0028】
第一透明基板1/調熱層3/第二透明基板2の積層構成を示す本調熱窓において、温度によらず可視光透過率が70%以上の領域を有する。液晶成分31は、液晶相、等方相共に可視光透過率が高いものを選定する。なお、本調熱窓の全ての領域で可視光透過率が70%以上を満たしていなくてもよい。
【0029】
低温時透過率/高温時透過率のコントラストは好ましくは近赤外領域で2以上あり、可視光領域で1.5以下である。このような範囲にすることにより透明性を維持しつつ、熱の出入りを抑えることができる。
【0030】
第一透明基板1,第二透明基板2および第三透明基板6は、それぞれ独立に公知のガラス板、プラスチックシート等を用いることができる。ガラス板の例として、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入板ガラス、線入板ガラス、熱線吸収板ガラス、それらを用いた合わせガラス、強化ガラス(風冷強化ガラス、化学強化ガラス)が挙げられる。ガラス板の材質は限定されず、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが例示できる。プラスチックシートの例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、EVA等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリサルホン(PEF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリエーテル(PE)、ポリエーテルケトン(PEK)、(メタ)アクロニトリル、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー等が例示できる。これらのうちでも、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂が可視光透過性の観点から優れている。
【0031】
第一透明基板1,第二透明基板2および第三透明基板6の可視光透過率はそれぞれ89%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。これらの厚みは用途により適宜選定すればよい。低温領域の液晶成分の配向方向と入射光の方向とが略一致するように、自律型調熱窓が支持体に対して回動自在に構成されていてもよい。
【0032】
第一透明基板1,第二透明基板2および第三透明基板6の厚さは特に限定されず、複層ガラスに要求される強度、サイズ、断熱性能等に応じて選択すればよい。例えば、0.2~10mm程度である。第一透明基板1,第二透明基板2および第三透明基板6の厚さは同じであってもよく、異なる厚さのガラス板を組み合わせてもよい。
【0033】
第一透明基板1,第二透明基板2,第三透明基板6において、それぞれ独立に紫外線吸収膜または紫外線反射膜が形成されていてもよい。また、液晶成分に紫外線吸収剤または紫外線反射剤が含まれていてもよい。
【0034】
調熱層3は公知の方法により形成できる。例えば、第一透明基板1および第二透明基板2の間に形状異方性成分と液晶成分を含む組成物を、通常の真空注入法、ODF法などを用いて形成できる。
【0035】
熱伝導調節層7は、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向(
図1中のD1)の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向(
図1中のD2)の熱伝導率より低くするための役割を担う。前記機能を有していればよく特に限定されないが、熱伝導調節層7は、空気の他、Ar,Kr等の希ガスをはじめとする各種ガスにより充填した層とすることができる。また、減圧層としたり、真空としたりしてもよい。また、液体としてもよい。
【0036】
熱伝導調節層7の厚さ(幅)は特に限定されず、要求されるガラス全体の厚さ、断熱性能等に応じて選択できる。例えば5μm~20mmとすることができる。
【0037】
スペーサ4,5は基板間を所定の間隔に保持し、封止できるものであればよい。例えば樹脂、ガラス、金属により構成できる。また、熱伝導調節層7側の第一透明基板1、第三透明基板6の表面で結露しないように、調熱層3内の湿度を低減するため乾燥剤をスペーサ内に配置してもよい。第一透明基板1と第二透明基板2の間隙、第一透明基板1と第三透明基板6との間隙を保持するために、適宜、それぞれ独立に間隙保持部材(不図示)を設けてもよい。
【0038】
本調熱窓10によれば、低温領域において赤外光の透過率を高めることができる調熱層3を設けているので、冬などの低温時に外気からの赤外光を積極的に取り入れる設計とすることができる。また、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低い構成により、室内の温度低下を防ぎ、暖房効率をアップできる。太陽からの輻射熱である赤外光はガラスを透過し室内を暖める一方、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低い構成により、調熱層3が室内よりも外気の温度の影響を受けやすくすることができる。
【0039】
一方、高温領域において赤外光の透過率を低下させることができる調熱層3を設けているので、夏などの高温時に外気からの赤外光を低減する設計とすることができる。また、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低い構成とすることにより、例えば冷房効率を向上させることができる。換言すると、室内冷房温度で本調熱窓の室内側が低温となった場合にも、調熱層3は外気温の影響により温度調整しやすく設計され、赤外光を抑制できる。本自律型調熱窓10は、可視光透過率に優れ、窓からの熱の出入りのロスを効果的に防止できるので、環境に配慮したサスティナビリティ性に優れる節電型の家や店舗の窓、車のサンルーフなどに好適に用いることができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、第1実施形態とは異なる自律型調熱窓の一例について説明する。なお、以降の図において、上記実施形態と同一の要素部材は同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0041】
第2実施形態に係る自律型調熱窓は、以下の点を除く基本的な構成は第1実施形態の自律型調熱窓と同様である。即ち、第2実施形態の自律型調熱窓10は、
図5に示すように、第三透明基板6、熱伝導調節層7等を有していない点において相違する。また、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低くなるように、第一透明基板1の厚みが第二透明基板2の厚みよりも厚く設計されている。このような構成により、第2実施形態に係る自律型調熱窓10によれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、製造コストを削減できるというメリットを有する。
【0042】
なお、第一透明基板1の厚みを第二透明基板2の厚みよりも厚くする構成に代えて、または併用して、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低くなるように、第一透明基板1の材質と第二透明基板2の材質を変更してもよい。
【0043】
<第3実施形態>
第3実施形態の自律型調熱窓の一例について説明する。第3実施形態に係る自律型調熱窓は、以下の点を除く基本的な構成は第2実施形態の自律型調熱窓と同様である。即ち、第3実施形態の自律型調熱窓10は、
図6に示すように、調熱層3の両側において、第一透明基板1側の厚み方向の熱伝導率が第二透明基板2側の厚み方向の熱伝導率より低くなるように、第一透明基板1の外側主面に、熱伝導調節膜8が形成されている点において相違する。また、第一透明基板1と第二透明基板2の厚みが同等である点において相違する。なお、第一透明基板1と第二透明基板2の厚みや材質を変更してもよい。
【0044】
熱伝導調節膜8として、赤外光反射膜、透明断熱層が例示できる。赤外光反射膜としては、例えば、コレステリック液晶相を有する膜、特許文献4に記載の反射層が例示できる。更に、第一透明基板1の外側主面にフッ化水素によりエッチング処理を施すことにより赤外光の反射防止面を形成したり、Low-E膜などの熱線反射膜(遮熱膜)を形成したりしてもよい。
透明断熱層の例として、PETなどの樹脂シートが例示できる。また、エアロゲル層を形成してもよい。
熱伝導調節膜8を形成する方法としては、例えば、バーコード法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法、インクジェット法、真空蒸着、スパッタリング法が挙げられる。
【0045】
第3実施形態に係る自律型調熱窓によれば、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0046】
<第4実施形態>
第4実施形態の自律型調熱窓の一例について説明する。第4実施形態に係る自律型調熱窓は、以下の点を除く基本的な構成は第1実施形態の自律型調熱窓と同様である。即ち、第4実施形態の自律型調熱窓10は、熱伝導調節層7の代わりに、補助調熱層9が設けられている点において相違する。
【0047】
図7に、第4実施形態に係る自律型調熱窓の模式的断面図の一例を示す。補助調熱層9の基本的な構成は、第1実施形態の調熱層3と同様である。即ち、補助調熱層9は、所定の温度または所定の温度範囲に対して、可逆的に配向が変位する液晶成分と、当該液晶成分に分散された形状異方性成分とを含有する。この補助調熱層9は、所定の温度または所定の温度範囲に対して高温領域では、低温領域よりも赤外光の透過率が低くなる。調熱層3と補助調熱層9は、以下の(I),(II)の関係にある。
(I)調熱層3の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲<補助調熱層9の液晶成分の配向が変位する温度または温度範囲。
(II)調熱層3の形状異方性成分の濃度>補助調熱層9の形状異方性成分の濃度。
補助調熱層9を設けることにより、室内側の温度に合わせた自律的な熱の出入り調整をより効率的に設計することが可能となる。
【0048】
第4実施形態に係る自律型調熱窓によれば、前記実施形態と同様の効果が得られる。また、調熱層と補助調熱層の組合せにより、第一透明基板1側の熱調節を自律的に行い、ニーズにより合わせた自律型調熱窓の設計が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 第一透明基板
2 第二透明基板
3 調熱層
4 スペーサ
5 スペーサ
6 第三透明基板
7 熱伝導調節層
8 熱伝導調節膜
9 補助調熱層
10 自律型調熱窓
11 配向膜
31 液晶成分
32 形状異方性成分