(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070592
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】電子線照射装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240516BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240516BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20240516BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01L21/30 541G
H01J37/305 B
H01J37/04 B
H01J37/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181185
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】福留 周一郎
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101EE22
5C101EE48
5C101GG19
5C101HH21
5C101HH23
5F056BA08
5F056CB40
5F056CC05
5F056EA12
(57)【要約】
【目的】電子ビームカラムの傾きに応じた電子ビームの照射位置のずれを低減可能な装置を提供する。
【構成】本発明の一態様の電子線照射装置は、試料を載置するステージ105と、ステージを内部に配置し、真空状態で使用される描画室103と、下部の一部が描画室内に位置し、描画室によって支持され、試料に電子ビームを照射する電子ビームカラム102と、少なくとも裏面が描画室内に位置し、電子ビームカラムに取り付けられたアーム212と、描画室内に位置し、アーム212に取り付けられた、ステージの位置を測定するレーザ干渉計210と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置するステージと、
前記ステージを内部に配置し、真空状態で使用される描画室と、
下部の一部が前記描画室内に位置し、前記描画室によって支持され、前記試料に電子ビームを照射する電子ビームカラムと、
少なくとも裏面が前記描画室内に位置し、前記電子ビームカラムに取り付けられた支持部材と、
前記描画室内に位置し、前記支持部材に取り付けられ、前記ステージの位置を測定するレーザ干渉計と、
を備えたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記支持部材として、少なくとも裏面の一部が前記描画室内に位置し、前記電子ビームカラムを前記描画室の上面に取り付けるフランジが用いられることを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記支持部材として、前記描画室内に位置し、前記電子ビームカラムの側面側に延びる梁が用いられることを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記描画室の4つの側面のうち、1つの側面に、前記ステージ又は前記試料を搬入或いは搬出する開口部が形成されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記電子ビームカラム内に配置され、前記電子ビームを偏向する偏向器と、
前記レーザ干渉計により測定された前記ステージの位置に応じて、前記試料上での前記電子ビームの照射位置を補正するように前記偏向器を制御する偏向制御回路と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記電子ビームカラムの側面とフランジの上面とに固定されたリブを有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置に係り、例えば、電子線描画装置における電子ビームカラムの傾きに起因するビームの照射位置のずれを低減する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ或いはウェハにパターンを形成するマスク等へ電子線を使って回路パターンを描画することが行われている。
【0003】
電子線描画装置では、電子光学鏡筒(電子ビームカラム)が描画室上面に搭載される。そして、試料を載置するステージが描画室内に配置される。また、ステージの位置を測定するレーザ干渉計が描画室側面に取り付けられる。電子ビームカラム内には偏向器が配置され、試料上への電子ビームの照射位置は偏向器により高速、高精度に制御される。レーザ干渉計により高精度に測定されるステージ位置を電子ビームの偏向制御に反映し、ステージに追従するように電子ビーム照射位置を高速制御することで基板の所望の位置に高精度に電子ビームを照射することができる。(これをステージトラッキングという)。さらに、安定した電子ビーム状態を保つため描画室内は真空状態に維持される。このため、描画室を形成する各壁面には外部より大気圧が作用し真空に保たれた内部との間で圧力差が生じる。低気圧の通過時など大気圧が変動すると描画室は変形してしまう。その結果、描画室上面に搭載される電子ビームカラムが描画室上面と共に傾くことになる。電子ビームカラムが傾くと、試料面上における電子ビームの照射位置がずれることになる。その結果、描画精度が劣化してしまう。
【0004】
ここで、レーザ干渉計を描画室天板よりも上方の大気中で架台に取り付け、レーザ干渉計がシール機構で密閉されるように天板を貫通して内部のステージ位置を測定することで、気圧変動の影響を受けないように測定するとした構成について開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、電子ビームカラムの傾きに応じた電子ビームの照射位置のずれを低減可能な装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の電子線照射装置は、
試料を載置するステージと、
ステージを内部に配置し、真空状態で使用される描画室と、
下部の一部が描画室内に位置し、描画室によって支持され、試料に電子ビームを照射する電子ビームカラムと、
少なくとも裏面が描画室内に位置し、電子ビームカラムに取り付けられた支持部材と、
描画室内に位置し、支持部材に取り付けられ、ステージの位置を測定するレーザ干渉計と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、支持部材として、少なくとも裏面の一部が描画室内に位置し、電子ビームカラムを描画室の上面に取り付けるフランジが用いられると好適である。
【0009】
或いは、支持部材として、描画室内に位置し、電子ビームカラムの側面側に延びる梁が用いられると好適である。
【0010】
また、描画室の4つの側面のうち、1つの側面に、ステージ又は試料を搬入或いは搬出する開口部が形成されると好適である。
【0011】
また、電子ビームカラム内に配置され、電子ビームを偏向する偏向器と、
レーザ干渉計により測定されたステージの位置に応じて、試料上での電子ビームの照射位置を補正するように偏向器を制御する偏向制御回路と、
をさらに備えると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、電子ビームカラムの傾きに応じた電子ビームの照射位置のずれを抑制或いは低減できる。よって、高精度なビーム照射ができる。その結果、高精度に描画できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【
図2】実施の形態1における大気圧とビーム照射位置との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】実施の形態1の比較例における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1の比較例における電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態1における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1における電子ビームカラムが傾いていない状態での電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。
【
図7】実施の形態1における電子ビームカラムが傾いた状態での電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
【
図9】実施の形態2における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
【
図10】実施の形態2における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、電子線照射装置の一例である。描画機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)と描画室103(作業チャンバの一例)を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、偏向器204、及び対物レンズ206が配置されている。
【0016】
描画室103内には、ステージ105が配置される。ステージ105は、X軸方向に移動するXステージ106と、Y軸方向に移動するYステージ107と、θ軸及びZ軸に移動するZθステージ109とを有する。
【0017】
ステージ105上、より具体的にはZθステージ109上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。ステージ105上、より具体的にはZθステージ109上には、さらに、ステージ105の位置測定用のミラー108が配置される。ミラー108におけるレーザ光の反射高さ位置は、試料101の上面高さ位置付近に設定されると好適である。
図1の例では、x方向のミラー108が示されているが、y方向にも同様に図示しない位置測定用のミラーが配置される。
【0018】
電子ビームカラム102は、下部の一部が描画室103内に位置し、描画室103によって支持される。
図1の例では、電子ビームカラム102の取り付け位置の外周に配置される図示しないフランジの裏面が描画室103の上面壁に載置されることによって電子ビームカラム102が描画室103に支持される。
【0019】
実質的に直方体の描画室103の4つの側面のうち、1つの側面に、ステージ105を搬入或いは搬出する開口部111が形成される。開口部111は、当該側面に対向する側面には形成されていない大きなサイズで形成される。開口部111は、試料101の搬入又は搬出やステージ105を出し入れするため、大きく開口される。例えば、当該側面の面積の50%以上の面積が開口される。開口部111は、蓋211で閉じられる。
【0020】
描画室103内及び電子ビームカラム102内は、図示しない真空ポンプによって真空引きされ、描画処理時は、真空状態で使用される。
【0021】
電子ビームカラム102下部にアーム212(梁)(支持部材の一例)が取り付けられる。アーム212は、描画室103内に位置し、電子ビームカラム102の側面側に延びる。
図1の例では、例えばx方向に延びる構成について示している。y方向にも同様に図示しないアームが延びる。
【0022】
描画室103内でアーム212にレーザ干渉計210が取り付けられる、又は、固着される。レーザ干渉計210は、ステージ105の位置を測定する。
図1の例では、x方向の位置を測定するためのレーザ干渉計210が示されているが、y方向にも同様に図示しないレーザ干渉計が配置され、ステージ105のy方向の位置を測定する。y方向のステージ位置測定用のレーザ干渉計は、描画室103内で電子ビームカラム102の側面からy方向に延びる図示しないアームに取り付けされる。
【0023】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ位置測定器139及び記憶装置140は、バス120を介して互いに接続されている。偏向器204は、4極以上の電極により構成され、電極毎に図示しないDAC(デジタル・アナログ・コンバータ)アンプを介して偏向制御回路130により制御される。照明レンズ202、及び対物レンズ206は、図示しないレンズ制御回路により制御される。ステージ105の位置は図示しないステージ制御機構によって制御される図示しない各軸のモータの駆動によって制御される。ステージ位置測定器139は、ミラー210からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。
【0024】
制御計算機110に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0025】
描画装置100の描画動作は、描画装置100全体を制御する制御計算機110におって制御される。
【0026】
また、描画装置100の外部からチップデータが入力され、記憶装置140に格納される。チップデータには、描画対象となるチップを構成する複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、例えば、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。
【0027】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0028】
次に、描画機構150の動作の具体例について説明する。電子ビームカラム102は、試料101に電子ビーム200を照射する。具体的には、例えば、以下のように動作する。電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202と対物レンズ206とによって所望の倍率のビームとなって、試料101に照射される。その際、対物レンズ206は、電子ビーム200を試料101面に結像する。
【0029】
また、制御計算機110によって制御された偏向制御回路130から図示しないDACアンプを介して、所望の電位が偏向器204に印加される。偏向器204は、印加される電位に応じて、電子ビームを試料101面上の所望の位置に偏向する。
【0030】
例えば、制御計算機110は、記憶装置140からチップデータを読み出し、データ変換処理によって、ショット毎のショットデータを生成する。ショットデータには、電子ビームの当該ショットの照射位置が定義される。試料面上の各ショット位置は、レーザ干渉計210によって測定されるステージ位置に換算される。ショット同士間のブランキング動作は、図示しないブランキングアパーチャとブランキング偏向器によって制御されればよい。
【0031】
そこで、偏向制御回路130は、レーザ干渉計210により測定されたステージ105の位置に応じて、試料101上での電子ビーム200の照射位置を補正するように偏向器204を制御する。具体的には、ステージ制御位置が目標位置を外れてもレーザ干渉計210により計測されるステージ位置を偏向制御回路130に反映し、ステージに追従するように電子ビーム200を偏向することで、所望の位置に電子ビーム200を照射できる。
【0032】
或いは、偏向器204を介さずに、電子ビーム200で試料101を照射しても良い。かかる場合には、電子ビーム200の軌道中心軸上に、ショットデータに定義される試料面101上の位置が到達するようにステージ105を移動させて、かかる所望の位置を電子ビーム200で照射すればよい。ステージ105の位置は、レーザ干渉計210によって測定される位置が用いられる。
【0033】
上述したように、電子ビーム200でパターンを描画するため、描画室103内は真空状態に維持される。
【0034】
図2は、実施の形態1における大気圧とビーム照射位置との関係の一例を示すグラフである。縦軸に大気圧とビーム照射位置とを示す。横軸に時間を示す。時間の経過に伴い大気圧(B)が変化する。そして、大気圧の変動に連動して、ビーム照射位置(A)が変化することがわかる。これは、大気圧が変動すると描画室103の変形し、描画室103の変形に伴って電子ビームカラム102が傾くからである。
【0035】
図3は、実施の形態1の比較例における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
図3において、比較例では、レーザ干渉計410を描画室303側面に取り付ける。また、
図3において、描画室303を構成する壁面について断面で示されている。その他の構成は外観で示している。描画室303を形成する各壁面には、外部より大気圧が作用し真空に保たれた内部と圧力差が生じる。低気圧の通過時など大気圧が変動すると描画室303は変形してしまう。その結果、描画室303上面に搭載される電子ビームカラム302が描画室303上面と共に傾くことになる。
図3の例では、開口部311が形成された側面の剛性が、開口部311が形成されていない対向する側面の剛性に比べて弱い。そのため、開口部311が形成された側面の側に電子ビームカラム302が傾く。
【0036】
図4は、実施の形態1の比較例における電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。電子ビームカラム102が傾くと、試料301面上における電子ビーム400の照射位置がずれることになる。
図3の例では、ある回転中心に対してx方向に角度θだけ電子ビームカラム302が傾く。その結果、電子ビーム400は、
図4に示すように、ある回転中心Oに対して-x方向に角度θだけ斜めに射出され、試料301上に到達する。
電子ビームカラム302の傾きに応じた照射位置の位置ずれΔxを発生させる。
図4の例では、理想上の電子ビーム400の照射位置r1から-x方向にΔxだけ実際の電子ビーム照射位置r2がずれてしまう。その結果、描画精度が大きく劣化してしまう。
ある回転中心Oに対してx方向に角度θだけ電子ビームカラム102が傾く。その結果、電子ビームは、
図7に示すように、ある回転中心Oに対して-x方向に角度θだけ斜めに射出され、試料101上に到達する。その結果、
図7に示すように、試料101面上における電子ビーム200の照射位置r1が-x方向にΔxだけずれて、電子ビーム200の照射位置r2になる。かかる点は、上述した比較例と同様である。Δxは、回転中心Oから試料101までの距離をhとすると、次の式(1)で定義できる。
(1) Δx=h・tanθ
【0037】
図5は、実施の形態1における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
図5において、描画室103を構成する壁面について断面で示されている。その他の構成は外観で示している。描画室103を形成する各壁面には、外部より大気圧が作用し真空に保たれた内部と圧力差が生じる。低気圧の通過時など大気圧が変動すると描画室103は変形してしまう。その結果、描画室103上面に搭載される電子ビームカラム102が描画室103上面と共に傾くことになる。
図5の例では、開口部111が形成された側面の剛性が、開口部111が形成されていない対向する側面の剛性に比べて弱い。そのため、開口部111が形成された側面の側に電子ビームカラム102が傾く。
【0038】
図6は、実施の形態1における電子ビームカラムが傾いていない状態での電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。
図7は、実施の形態1における電子ビームカラムが傾いた状態での電子ビームの照射位置とステージ測定位置との関係の一例を示す図である。
図6に示す状態から気圧変動により描画室103が変形すると、
図7に示すように、ある回転中心Oに対して角度θだけ電子ビームカラム102が傾く。その結果、電子ビームは、
図7に示すように、ある回転中心Oに対して-x方向に角度θだけ斜めに射出され、試料101上に到達する。その結果、
図7に示すように、試料101面上における電子ビーム200の照射位置r1が-x方向にΔx1だけずれて、電子ビーム200の照射位置r2になる。かかる点は、上述した比較例と同様である。Δx1は、回転中心Oから試料101までの距離をhとすると、次の式(1)で定義できる。
(1) Δx1=h・tanθ
【0039】
実施の形態1では、レーザ干渉計210が描画室103内にてアーム212を介して電子ビームカラム102と固定されている。そのため、
図7に示すように、電子ビームカラム102が傾くと、アーム212を介してレーザ干渉計210が電子ビームカラム102と一体になって傾き、レーザ干渉計210は-x方向にΔx2だけずれる。
装置はステージが+x方向にΔx2だけ移動したと認識し、ステージトラッキング偏向制御回路が働き、試料101上での電子ビーム200の照射位置を+X方向にΔx2だけ補正偏向する。
電子ビームカラム102が傾いていない状態で、電子ビーム200の試料101面上の照射位置r1とレーザ干渉計210のレーザ射出口Qとの間の距離をL0とし、また、電子ビームカラム102の回転中心Oからレーザ干渉計210のレーザ射出口Qまでの高さは試料101と同じくhであるとすると、Δx2は次の式(2)で定義される。
(2)Δx2 = h・tanθ - L0(1-cosθ)
θが微小であるとき、L0(1-cosθ)は十分小さく無視でき、
Δx2 = h・tanθ
となり、電子ビーム200の試料101上での照射位置のずれΔx1と等しくなる。
電子ビームカラム102の傾きによる試料101上の電子ビーム200の照射位置のズレΔx1と同じだけステージトラッキング補正偏向Δx2が働き、電子ビームカラム102の傾きがない状態の照射位置r1に電子ビーム200が照射され、電子ビームカラム102の傾きの影響を受けない。
レーザ干渉計210がアーム212を介して電子ビームカラム102に固定されているので、電子ビーム200の試料101面上の照射位置とレーザ干渉計210のレーザ射出口Qとの位置関係は電子ビームカラム102が傾いた場合でも維持される。
この位置関係が維持される以上、電子ビームカラム102が傾いても、ステージトラッキング補正偏向が作用し、電子ビーム200の照射位置は電子ビームカラム102の傾きがない状態の照射位置r1に保たれ、電子ビームカラム102の傾きの影響を受けない。
ステージトラッキング偏向制御回路を有さない装置の場合、装置はステージを目標位置に戻すよう-X方向にΔx2だけ移動させることで、電子ビーム200の試料101上の照射位置はr1に保たれる。
【0040】
以上のように、実施の形態1によれば、電子ビームカラム102の傾きに応じた電子ビーム200の照射位置のずれを抑制或いは低減できる。よって、高精度なビーム照射ができる。その結果、高精度に描画できる。
【0041】
実施の形態2.
実施の形態1では、アーム212を用いてレーザ干渉計210を描画室103内で取り付ける構成について説明したが、これに限るものではない。実施の形態2では、フランジを用いてレーザ干渉計210を描画室103内で取り付ける構成について説明する。以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。
【0042】
図8は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図8において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。制御系回路160の図示は省略する。描画装置100は、電子線照射装置の一例である。
図8において、電子ビームカラム102の下部が通るサイズの開口部が中心に形成された例えば円盤状のフランジ214が配置される。
図8において、電子ビームカラム102下部にフランジ214(支持部材の他の一例)が取り付けられる。フランジ214は、電子ビームカラム102を描画室103(作業チャンバ)の上面に取り付ける。これにより、電子ビームカラム102は、下部の一部が描画室103内に位置するように描画室103によって支持される。言い換えれば、電子ビームカラム102がフランジ214を介して描画室103によって支持される。なお、フランジ214が描画室103の上面に取り付けられた時、電子ビームカラム102の中心軸がフランジ214の中心軸に同一になるように、フランジ214の形状が設計されることが好ましい。
【0043】
また、フランジ214の少なくとも裏面が描画室103内に位置する。そして、描画室103内でフランジ214の裏面にレーザ干渉計210が取り付けられる。レーザ干渉計210は、ステージ105の位置を測定する。
図8の例では、x方向の位置を測定するためのレーザ干渉計210が示されているが、y方向にも同様に図示しないレーザ干渉計が配置され、ステージ105のy方向の位置を測定する。y方向のステージ位置測定用のレーザ干渉計は、描画室103内でフランジ214の裏面に取り付けされる。
【0044】
【0045】
図9は、実施の形態2における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの一例を示す図である。
図9において、描画室103を構成する壁面とフランジ214について断面で示されている。その他の構成は外観で示している。描画室103を形成する各壁面には、外部より大気圧が作用し真空に保たれた内部との間で圧力差が生じる。低気圧の通過時など大気圧が変動すると描画室103は変形してしまう。その結果、描画室103上面に搭載される電子ビームカラム102が描画室103上面と共に傾くことになる。
図89の例では、開口部111が形成された側面の剛性が、開口部111が形成されていない対向する側面の剛性に比べて弱い。そのため、開口部111が形成された側面の側に電子ビームカラム102が傾く。上述したように、例えば、ある回転中心Oに対してx方向に角度θだけ電子ビームカラム102が傾く。その結果、電子ビームは、
図7に示したケースと同様、ある回転中心Oに対して-x方向に角度θだけ斜めに射出され、試料101上に到達する。その結果、
図7に示したケースと同様、試料101面上における電子ビーム200の照射位置r1が-x方向にΔxだけずれた照射位置r2になる。
【0046】
これに対して、実施の形態2では、レーザ干渉計210が描画室103内にてフランジ214を介して電子ビームカラム102と固定されている。そのため、電子ビームカラム102が傾くと、フランジ214を介してレーザ干渉計210が電子ビームカラム102と一体になって傾く。また、レーザ干渉計210がフランジ214を介して電子ビームカラム102に固定されているので、電子ビーム200の試料101面上の照射位置とレーザ干渉計210のレーザ射出口Qとの位置関係は電子ビームカラム102が傾いた場合でも維持される。よって、
図7に示した場合と同様の位置関係になる。具体的には、電子ビームカラム102が傾いていない状態で、電子ビーム200の試料101面上の照射位置とレーザ干渉計210のレーザ射出口との間の距離をL0とする。この場合、電子ビームカラム102が傾いた状態でも、電子ビーム200の試料101面上の照射位置とレーザ干渉計210のレーザ射出口との間の距離は、実質的にL0のまま維持される。よって、電子ビーム200の照射位置は電子ビームカラム102の傾く前と傾いた後とで実質的に同じになる。
【0047】
図10は、実施の形態2における変形した描画室と傾いた電子ビームカラムの他の一例を示す図である。
図10では、さらに、電子ビームカラム102の側面とフランジ214上面とをつなぐリブ215が配置された点以外は、
図9と同様である。リブ215により電子ビームカラム102とフランジ214との相対位置関係を強固に固定することにより、電子ビームカラム102とレーザ干渉計210との相対変位を抑制できる。
【0048】
以上のように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様、電子ビームカラム102の傾きに応じた電子ビーム200の照射位置のずれを抑制或いは低減できる。よって、高精度なビーム照射ができる。その結果、高精度に描画できる。
【0049】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、シングルビームの電子ビームを用いたが、これに限るものではない。電子ビームによるマルチビームを用いた照射装置(描画装置)であっても良い。
【0050】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0051】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置およびマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0052】
100 描画装置
101,301 試料
102,302 電子ビームカラム
103,303 描画室
105,305 ステージ
106 Xステージ
107 Yステージ
108,308 ミラー
109 Zθステージ
110 制御計算機
111,311 開口部
112 メモリ
120 バス
130 偏向制御回路
139 ステージ位置測定器
140 記憶装置
150 描画機構
160 制御系回路
200,400 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
204 偏向器
206 対物レンズ
210,410 レーザ干渉計
211 蓋
212 アーム
214 フランジ
215 リブ