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特開2024-70613高強度固体バイオ燃料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070613
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】高強度固体バイオ燃料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/44 20060101AFI20240516BHJP
   C10L 9/08 20060101ALI20240516BHJP
   B30B 9/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C10L5/44
C10L9/08
B30B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181225
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 高広
(72)【発明者】
【氏名】水野 諭
(72)【発明者】
【氏名】澤井 徹
(72)【発明者】
【氏名】井田 民男
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA12
4H015AB01
4H015BA01
4H015BA04
4H015BA09
4H015BA13
4H015BB03
4H015BB05
4H015BB10
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】石炭コークスの代替品もしくは混合品としての固体バイオ燃料としては、燃焼比が高く、長時間の燃焼と、燃焼中の形状維持が可能な固体バイオ燃料が求められている。
【解決手段】光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料を、半炭化処理し、前記原料中の水分・揮発分の一部を放出させる半炭化済原料を得る第一段工程と、
前記半炭化済原料を加熱加圧し、圧密成型物を得る第二段工程を有する製造方法で得られた固体バイオ燃料は燃料比が0.4を超え、700℃における熱間圧縮強度が0MPaを超え、石炭コークスの代替品としても利用することができ、COの削減に寄与することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料だけを用い、前記原料を少なくとも1個以上押し固めた固体バイオ燃料であって、700℃における熱間圧縮強度が0MPaを超える固体バイオ燃料。
【請求項2】
燃料比が0.4以上2.0以下であり、密度が0.65g/cm以上である請求項1に記載された固体バイオ燃料。
【請求項3】
前記バイオマスがスギである請求項1または2に記載された固体バイオ燃料。
【請求項4】
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料を、半炭化処理し、前記原料中の水分・揮発分の一部を放出させる半炭化済原料を得る第一段工程と、
前記半炭化済原料を常に最大圧力を更新しながら加熱加圧し加熱加圧品を得る加熱加圧工程と、
前記加熱加圧品に、常に最大圧力を更新しながら所定時間成型し、成型品を得る成型工程と、
冷却開始時の前記成型品にかかる圧力を維持した状態で、前記成型品を冷却する冷却工程によって圧密成型物を得る第二段工程を有する固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項5】
前記第一段工程は、前記原料を300℃まで加熱させる前加熱工程と、
前記前加熱工程より低い昇温レートで400℃まで加熱させる後加熱工程と、
前記400℃で前記原料を維持する工程と、
前記原料を冷却する工程を有する請求項4に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【請求項6】
前記第二段工程の最大成型温度は190℃より高い請求項4または5に記載された固体バイオ燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来バイオマスから褐炭から瀝青炭に匹敵する固体バイオ燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスは、原料、燃料として利用できる生物起源の有機物である。例えば、木材、乾燥草木、農産廃棄物、畜産廃棄物、食品・飲料廃棄物、生物学的廃水処理設備や下水処理場における初沈汚泥、余剰汚泥などの有機性汚泥やその脱水汚泥などがこれに該当する。
【0003】
近年では、石油や石炭などの代替燃料または一部代替燃料として、上記のようなバイオマスを用いた燃料の利用促進が図られている。特にバイオマスは、カーボンニュートラルの観点からCO排出削減には非常に効果的であるため、世界的に利用が推奨されている。
【0004】
バイオマス固体燃料は、バイオマスを圧縮・成型する成型工程と、成型工程を経て得た未加熱塊状物を150~400℃で加熱する加熱工程とで製造されるため、石炭と比較し揮発分が多く、それゆえ燃料比(固定炭素量/揮発分量)が低い。例えば、石炭のグレードは、無煙炭、瀝青炭、褐炭と分けられるが、燃料比としては、無煙炭が4.0以上、瀝青炭は1.5以上と1.5未満のものにわかれ、褐炭は1.0以下とされている。それに対して、バイオマス固体燃料としては、0.8程度のものとされる(特許文献1)。
【0005】
燃料比が低いと、着火性は高くなるものの、燃焼時間は短くなり、燃焼中の形状維持性も低くなる。高炉において、石炭コークスの代替品若しくは石炭コークスとの混合品として用いる場合は、高炉上端から底に向かって燃焼しながら落下する必要があり、下方からの燃焼風で吹き上げられたり、落下の間に燃え尽きてしまうのは好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-90673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
石炭コークスの代替品もしくは混合品としての固体バイオ燃料としては、燃料比が高く、長時間の燃焼と、燃焼中の形状維持が可能な固体バイオ燃料が求められている。また、固体バイオ燃料が、高炉の投入口から供給する際には、炉底まで崩壊せずに燃焼しながら落下することが望まれる。本発明はバイオマスだけで製造され、燃料比が褐炭を超えるような値を有し、従来の固体バイオ燃料よりも熱間圧縮強度の高い固体バイオ燃料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
より具体的に本発明に係る固体バイオ燃料は、
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料だけを用い、前記原料を少なくとも1個以上押し固めた固体バイオ燃料であって、700℃における熱間圧縮強度が0MPaを超えることを特徴とする。
【0009】
また本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法は、
光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料を、半炭化処理し、前記原料中の水分・揮発分の一部を放出させる半炭化済原料を得る第一段工程と、
前記半炭化済原料を常に最大圧力を更新しながら加熱加圧し加熱加圧品を得る加熱加圧工程と、
前記加熱加圧品に、常に最大圧力を更新しながら所定時間成型し、成型品を得る成型工程と、
冷却開始時の前記成型品にかかる圧力を維持した状態で、前記成型品を冷却する冷却工程によって圧密成型物を得る第二段工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る固体バイオ燃料は、バイオマスの原料を半炭化させ半炭化済原料を得た後、さらに常に最大圧力を更新しながら加熱し半炭化処理を進める二段階の工程を経ることによって得ることができ、燃料比が0.4を超え、密度が0.65g/cm以上で、700℃での熱間圧縮強度が0MPaを超える特性を有する。この燃料比の値は褐炭から瀝青炭に匹敵する燃料比であり、従来の固体バイオ燃料より、長時間燃焼させることができるという効果を奏する。また、密度が0.65g/cm以上であるので、高炉の落下中に吹き上げる燃焼風で崩壊する若しくは、飛ばされるという事態を抑制することができる。
【0011】
本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法は、バイオマスの原料を半炭化処理させる第一段工程、半炭化処理を伴い圧密成型させる第二段工程からなる二段階炭化工程により、固体バイオ燃料を製造する。本製造方法で製造することで、燃料比が0.4を超える、すなわち褐炭から瀝青炭相当の固体バイオ燃料を得ることができる。この値は、国際公開第2006/078023号に示される従来の製造法による固体バイオ燃料では達成できなかった値であり、より長時間燃焼することができる。また、700℃という高温下においても、従来の固体バイオ燃料では実現できなかった0MPaを超えるという高い熱間圧縮強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法において、第一段工程の温度遷移を示すグラフである。
図2】本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法において、第二段工程の温度および圧力のプロセスを示すグラフである。
図3図2における加熱加圧工程の他の実施形態を示すグラフである。
図4】初期圧力が30MPa未満の場合の加熱加圧工程を示すグラフである。
図5】初期圧力から成型開始圧力まで強制的に圧力が加えられた場合を示すグラフである。
図6】最初は強制的に圧力を加え、途中から最大圧力を更新するような加熱加圧工程を示すグラフである。
図7】本発明に係る固体バイオ燃料において、半炭化時間と700℃の熱間圧縮強度の関係を示したグラフである。
図8】半炭化時間15minの半炭化済原料から複数個の固体バイオ燃料を作成し、熱間圧縮強度を測定した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る固体バイオ燃料および固体バイオ燃料の製造方法について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中の数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0014】
本発明に係る固体バイオ燃料は、光合成に起因するバイオマスだけを原料とする。ここでバイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」という一般的な定義と考えてよい。また、「光合成に起因するバイオマス」とは、木質類、草本類、農作物類、厨芥類などのバイオマスがあげられる。
【0015】
木質類としては、木、枯葉またはその廃棄物である林地残渣、剪定・葉刈り材、流木、紙などが好適に利用できる。草本類としては、竹、ケナフなどが好適に利用できる。農作物類としては、オオバ茎、ゴマ茎、芋つる、籾殻といった、非食部位が好適に利用できる。厨芥類としては、コーヒー滓、茶殻、オカラ等が好適に利用できる。
【0016】
また、本発明に係る固体バイオ燃料は、原料が半炭化前状態にされている。
【0017】
<チップ化工程>
まず、原料は、所定の大きさに裁断される。具体的には、数十μmから数cm程度であるのが好ましい。これは、原料となるバイオマスをチップ化する工程と呼んでよい。また、このようにして得た原料は、「光合成に起因するバイオマスをチップ化した原料」であり、「半炭化前状態」の原料ということができる。以下単に「バイオマス原料」とも呼ぶ。
【0018】
<半炭化工程(第一段工程)>
バイオマス原料は、半炭化処理が施される。なお、半炭化工程とは、十分に炭化させない程度の温度処理であり、400℃程度以下の温度処理と考えてよい。具体的には、加熱処理が加えられる。加熱処理の温度は、200℃から400℃が好適に利用することができる。
【0019】
第一段工程の様子を図1に例示する。図1を参照して、横軸は時間であり、縦軸は半炭化処理炉内の温度である。なお、この際原料は特に圧力はかかっていない。バイオマス原料は、室温RTから第1昇温レートUr1で目標前温度まで加熱される。次に第1昇温レートUr1より低い昇温レートUr2で目標温度まで加熱する。目標前温度は半炭化処理が可能な200℃以上であるのが好ましい。目標温度は上記の通り400℃以下が好ましい。
【0020】
バイオマス原料が、目標温度に達したら目標温度のまま一定時間保持を行う。この保持によってバイオマス原料は半炭化される。なお、ここで半炭化時間は目標前温度になった時t1からの時間をいう。実験によれば、半炭化時間は、1分から60分程度が好適であった。図1では、半炭化時間が10.5分、13分、15分の場合を示している。一定温度保持が終了したら常温まで冷却させる。冷却の方法は特に問わない。自然冷却であってもよいし、強制冷却であってもよいし、冷媒を用いた冷却でもよい。
【0021】
この第一段工程の半炭化工程によって、被処理物(第一段工程を経たバイオマス原料)の燃料比は、少なくとも半炭化前状態の原料の燃料比よりも向上する。第一段工程による生成物を「半炭化済原料」と呼ぶ。
【0022】
<半炭化成型工程(第二段工程)>
次に半炭化済原料をさらに半炭化処理を行いながら圧縮成型する。この第二段工程では、所定の成型型(以後「成型空間」とも呼ぶ。)に充填された半炭化済原料は、加熱加圧工程、成型工程、冷却工程の各工程が順に施される。したがって、所定の空間に充填された半炭化済原料を加圧しながら加熱する装置が用いられる。以下に各工程を詳説する。なお、ここでの処理温度は190℃から300℃が好適に用いられる。
【0023】
[加熱加圧工程]
半炭化済原料を、加圧・加熱できる成型空間(成型装置の成型室)に投入し、初期圧力ILP(Initial Loading Pressure)が8MPa以上の条件で、成型開始温度Tt(例えば190℃)まで加熱する。成型開始温度Ttの時の圧力が成型開始圧力Ptである。成型開始圧力Ptは初期圧力ILPより高い圧力にする。昇温レートTrupは10℃/分程度が通常利用されるが、この昇温レートTrupに限定されない。成型開始温度Ttは190℃から300℃が好適に用いられる。
【0024】
加熱加圧工程における加圧では、常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法が用いられる。「常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法」とは、加熱によって原料が膨張し、成型空間内の圧力が高くなったら、高くなった圧力より低い圧力にすることなく加熱を行う方法である。
【0025】
より具体的には、微小時間前の圧力を最大圧力Pmとし、現在の圧力がPmより高ければ、現在の圧力を新たな最大圧力Pmとする。そして、成型装置は常に最大圧力Pmが成型空間にかかるように制御される。したがって、加熱によって原料の温度が上昇し、それによって成型空間の圧力が上昇するのであれば、成型空間の体積は一定のままでよい。
【0026】
しかし、微小時間前の最大圧力Pmより圧力が減少するようなことがあれば、成型空間の体積を減少させ、微小時間前の最大圧力Pmを維持するように成型装置は動作する。すなわち、常に最大圧力Pmが維持されるように成型空間の体積が調節される。なお、ここで微小時間は、成型装置のマシンタイムで決めてよく、例えば0.01秒から3秒の範囲が好適に利用できる。
【0027】
加熱加圧工程における加圧動作は、所定の昇圧レートで強制的に成型空間の圧力を上昇させてもよい。例えば、一定体積の成型空間内の原料を加熱し、加熱によって上昇する圧力よりも早く成型空間の圧力を高くしたい場合は、強制的な加圧を行いながら加熱することができる。なお、ここで強制的な加圧とは成型空間を強制的に小さくする方向に力が加わることである。また、この際の昇圧レートは、時間と圧力の直線的な比例関係だけに限定されない。例えば、時間に対して圧力が2次関数的に増加するような昇圧レートであってもよい。
【0028】
また、加熱加圧工程における加圧動作は、常に最大圧力を更新しながら加熱加圧する方法と、強制的に加圧しながら加熱加圧する方法を組み合わせてもよい。例えば、昇温の途中までは、常に強制的に加圧しながら加熱加圧し、途中からは最大圧力を更新しながら加圧加熱してもよい。後述する成型工程が開始されるまで加熱加圧された半炭化済原料を加熱加圧品と呼ぶ。
【0029】
なお、本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法では、後述する「最大成型圧力Pmx」が30MPaより高い値で成型されたものである。したがって、成型開始圧力Ptは、30MPaより高い値であるか、後述する成型工程で、最大成型圧力Pmxが30MPaを超えることができるような圧力である。また、加熱加圧工程および後述する成型工程において、初期圧力ILPより高くなる圧力をバックプレッシャー(BP)と呼ぶ。本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法では、バックプレッシャーを有することも必要である。つまり、加熱加圧工程がどのような手順で行われても、成型開始圧力Ptは初期圧力ILPより高くなる。
【0030】
[成型工程]
成型開始温度Ttに到達したら、常に最大圧力Pmを更新しながら、所定時間の間、成型空間を保持する。加熱加圧品を常に最大圧力Pmを更新しながら、所定時間の間保持するといってもよい。ここで、成型工程における成型空間の圧力を「成型圧力」と呼ぶ。成型圧力は成型空間内の加熱加圧品にかかる圧力と解してよい。
【0031】
「常に最大圧力を更新しながら」とは、[加熱加圧工程]での説明と同様である。すなわち、微小時間前の圧力を最大圧力Pmとし、現在の圧力が最大圧力Pmより高ければ、現在の圧力を新たな最大圧力Pmとする。そして、成型装置は常に最大圧力Pmが成型空間にかかるように成型空間の体積を制御する。
【0032】
成型工程の間で最も圧力が大きい圧力を「最大成型圧力Pmx」と呼ぶ。常に最大圧力を更新しながら圧力制御が行われるので、最大成型圧力Pmxは、成型工程の最終時点(後述する冷却工程の開始時)の圧力である。
【0033】
成型工程の時間である「所定時間」は、1分乃至数時間程度が好適に採用される。また、「所定時間」は「成型時間」といってもよい。成型時間はあらかじめ設定される時間である。
【0034】
成型工程における成型空間の温度を「成型温度」と呼ぶ。成型温度は成型空間内の加熱加圧品の温度と解してよい。成型温度は通常成型開始温度Ttを維持するように制御される。しかし、成型時間の間、成型温度を強制的に(成型装置が加熱若しくは冷却して)変化させてもよい。また、加熱加圧品の内部に発熱が生じ、成型空間内の温度(加熱加圧品の温度)が上昇した場合、それを一定の温度にするように冷却してもよいし、上昇した温度をそのまま維持するように温度制御が行われてもよい。ただし、本発明に係る固体バイオ燃料の製造方法においては、成型温度に変化があっても、成型圧力は常に最大圧力を更新するように制御される。成型工程を経た成型空間内の加熱加圧品を成型品と呼ぶ。
【0035】
成型工程において、常に最大圧力Pmを更新することで、熱伝導による加熱が足りず、成型品内部の温度が低い場合でも、軟化による樹脂化を発現させることができるという効果を奏する。加えて、最大成型圧力Pmxを長時間(60分程度)維持すれば、熱伝導により成型品内部の温度が上昇し、成型品内部の大部分を軟化・樹脂化させることができるという効果も奏する。これらの効果は、成型品が冷却され固体バイオ燃料となった際にも残る。
【0036】
[冷却工程]
成型工程において成型開始から成型時間が経過したら、冷却工程に移る。冷却工程では成型空間内の温度(成型品の温度)を所定のレートで降下させる。
【0037】
冷却工程では、急激な除荷は成型品に割れを生じさせるため好ましくない。冷却開始時の成型空間の大きさ(体積:成型品の体積)を維持したまま、成型品の冷却が行われる。成型品は温度が下がるにつれ体積が減少する。その結果成型空間にかかる圧力も減少する。本発明における冷却工程では、成型空間の体積が、少なくとも冷却開始時の成型空間以下になるように圧力が制御されながら冷却が行われる。すなわち、冷却工程においては、成型空間は、冷却開始時の成型空間を維持するか、もしくは成型品に圧力がかかるように冷却開始時の成型空間より小さくなるように制御される。
【0038】
特に、冷却開始時の成型空間の圧力(最大成型圧力Pmx)を維持したまま冷却するのが好ましい。このような冷却では、温度低下による成型品の体積減少に伴う圧力減少を補償するため、成型空間の体積を減少させるように成型装置は制御される。冷却工程が終了した成型品は圧密成型物であり、これが固体バイオ燃料である。
【0039】
<グラフによる説明>
図2に上記に説明した第二段工程の例を具体的に示す。図2は成型装置の運転プログラムを表しているともいえる。図2を参照して、横軸は時刻(経過時間としてもよい。)であり、左縦軸は成型空間の温度(被処理物の温度)、右縦軸は成型空間の圧力(被処理物にかかる圧力)を示す。温度の単位は「℃:摂氏」若しくは「K:ケルビン」が好適に用いられる。圧力の単位はMPaが好適に利用できる。
【0040】
時刻t0は第二段工程の処理開始時刻である。通常処理開始時刻における初期温度Tsは常温である。成型装置は、時刻t2に成型開始温度であるTtまで加温し、時刻t2から時刻t4まで成型開始温度Ttを維持し、その後時刻t5まで一定の降温レートで冷却する。つまり、時刻t0から時刻t2までが加熱加圧工程であり、時刻t2から時刻t4までが成型工程であり、時刻t4から時刻t5までが冷却工程である。
【0041】
処理開示時刻t0において、成型空間には初期圧力ILPが載荷されている。図2では、加熱加圧工程の途中である時刻t1から成型空間内の半炭化前原料の温度が上昇し、圧力が高くなっていることを示している。加熱加圧工程では、常に最大圧力を更新するように、成型空間の体積が調節される。ほとんどの半炭化前原料は加熱によって体積が膨張するので、成型空間は初期圧力ILP時の体積を保持するだけでよい。しかし、加熱によって半炭化前原料の体積が一時的に減少する場合、体積減少による圧力減少を補償するために成型空間の体積が減少するように圧力が制御される。
【0042】
加熱加圧工程を常に最大圧力を更新するように成型空間が調節される方法で加圧する場合は、加熱加圧工程から成型工程に移行するのは、成型開始温度Ttへ到達したか否かで判断される。この場合は、成型開始圧力Ptは、いわば成り行きによる圧力になるからである。
【0043】
図2では、時刻t2の時の圧力が成型開始圧力Ptである。成型工程(時刻t2から時刻t4)においては、常に最大圧力Pmを更新するように圧力制御が行われる。なお、加熱加圧の条件で、成型品内部で膨張する変化が生じた場合は、成型空間の圧力は上昇する。図2では時刻t3において、そのような変化が生じたことを示している。
【0044】
成型圧力は常に最大圧力Pmを更新するように成型空間が制御されるので、一度上昇した圧力は最大圧力Pmとして維持される。すなわち、仮にその後成型品の体積が縮小しても、圧力が維持されるように成型空間は小さくなるように制御される。加熱加圧工程において、加熱の最中に原料に圧力がかかるように成型空間が制御されるので、成型開始圧力Ptは必ず、初期圧力ILPより大きい圧力(バックプレッシャー:BP)となる。
【0045】
図2では、成型工程における成型温度は成型開始温度Ttを維持するように制御されている例を示している。しかし、[成型工程]で説明したように、成型温度を強制的に変化させてもよい。
【0046】
成型工程は時間で管理される。すなわち、時刻t2から時刻t4の間の時間は予め設定されている。
【0047】
成型工程が終了したら、冷却工程に移行する(時刻t4から時刻t5)。冷却開始時の圧力は最大成型圧力Pmxである。本発明はこの最大成型圧力Pmxが30MPa以上であるように設定することで、燃料比が0.4を超える固体バイオ燃料を得ることができる。
【0048】
冷却開始時の成型空間を維持したまま、冷却すると、成型品の体積減少若しくは成型品の内部圧力減少に従い成型空間の圧力は減少する。この圧力減少を「成型空間一定冷却」と呼ぶ。本発明では、成型空間一定冷却以上の圧力をかけながら冷却を行う。図2では、灰色の領域に、成型空間の減圧線(時間と成型空間の圧力の関係を示すライン)があればよい。この領域に減圧線があれば、冷却開始時の成型空間以下の体積の成型空間となる圧力で成型空間を冷却すると言える。
【0049】
特に本発明では、冷却開始時の最大成型圧力Pmxを維持するように、成型空間を制御しながら冷却するのが好ましい形態として挙げられる。図2では、符号12で表される減圧線である。なお、成型空間一定冷却を表す減圧線は符号10で示した。減圧線12は、温度が常温(図2ではTs)付近まで冷却され処理が終了する直前まで最大成型圧力Pmxが維持されるように、成型空間が調節される。そして処理終了時刻(時刻t5)に一気に除荷される。なお、最大成型圧力Pmxを維持するように成型空間を制御しつつ冷却するとは、常に最大圧力を更新しながら冷却するのではない。
【0050】
本発明においては、減圧線12だけでなく、灰色の領域であれば、他の減圧線を経てもよい(例えば減圧線14、16等)。また冷却開始時の最大成型圧力Pmx以上の圧力をかけながら冷却してもよい(減圧線18等)。なお、冷却開始時の最大成型圧力Pmx以上の減圧線の存在領域の上限は特になく、成型装置の限界であってよい。図では、白矢印で最大成型圧力Pmx以上の圧力でもよいことを示した。
【0051】
図3には加熱加圧工程の一形態を示す。本発明においては最大成型圧力Pmxが30MPaより大きいことが必要であるが、そのためには、初期圧力ILPが30MPa以上に設定することで達成される。また、図4に示すように、初期圧力ILPが30MPa未満であっても、その後の加熱加圧工程と成型工程によって30MPaを超えることができるのであれば、初期圧力ILPが30MPaより低くてもよい。いずれの場合も加熱加圧工程での加圧は常に最大圧力を更新するように行う加圧である。したがって、バックプレッシャーをかけながら成型工程が行われる。
【0052】
図5では、初期圧力ILPから成型開始圧力まで強制的に圧力を加える場合を示す。この場合は成型開始圧力Ptも予め設定されているので、確実に成型開始圧力Ptを、30MPaを超える圧力にすることができ、バックプレッシャーも付与することができる。
【0053】
図6では、加熱加圧工程の始めの部分(時刻t0から時刻t6まで)では、常に外部から強制的に圧力を加えるが、時刻t6からは最大圧力を更新するように加圧を行っている場合を示す。本発明では、このように、強制的に加圧する方法と、常に最大圧力を更新しながら加圧する方法を組み合わせて、加熱加圧工程を実施してもよい。以上のような工程を経て、第二段工程は実施される。
【0054】
このように二段階の工程を経ることで燃料比が0.4を超える固体バイオ燃料を得ることができる。この値は褐炭から瀝青炭に匹敵し、高炉などで用いる石炭コークスの代替品の可能性や、石炭コークスとの併用品としての実用性も視野に入れることができる。なお、本発明に係る固体バイオ燃料は燃料比が0.4~2.0のものを得ることができる。若しくは0.7~2.0のものを得るとすることもできる。また、燃料比が1.0~2.0のものを得ることができるとしてもよい。
【0055】
また、本発明に係る固体バイオ燃料は、バイオマス原料をまず半炭化し半炭化済原料を得て、その半炭化済原料を加圧しながら加熱する方法によって形成される。したがって、第一段階の半炭化処理によって、ある程度の揮発分は抜ける。そのため、第二段工程の半炭化成型工程では、半炭化済原料中の揮発分の揮発量は少なく、加熱・加圧することによって密度の高い固体バイオ燃料を得ることができる。
【0056】
本発明に係る固体バイオ燃料の密度は0.65g/cm以上、より好ましくは1.0g/cm以上であることが望ましい。密度は高い方が好ましいので、上限値について限定する必要はない。また、熱間圧縮強度は温度700℃下において0MPaを超えることが好ましい。熱間圧縮強度についても高い方が望ましいので上限値について限定する必要はない。
【実施例0057】
半炭化前状態の原料として、スギを1mm以下にチップ化したものを用いた。原料をアルミナ容器に約50g充填して蓋をし、半炭化処理装置に投入した。炉中にNは供給せず、第1昇温レートを10K/分より早い昇温速度として300℃まで昇温させた。300℃は目標前温度である。その後第2昇温レートとして第1昇温レートより遅い昇温速度として400℃まで昇温させその後温度を維持した。400℃は目標温度である。
【0058】
目標前温度(300℃)と目標温度(400℃)の間で熱分解が生じ、揮発分の一部が適度に放出される。この温度領域が半炭化温度域である。そこで、300℃に到達した時点を半炭化の開始時間とし、半炭化温度として10.5分、13分、15分のサンプルを作製した。半炭化時間が終了したサンプルは、50℃まで自然冷却してアルミナ容器から取り出し、第一段工程サンプルとした。これは半炭化済原料である。
【0059】
第一段工程により得られた半炭化済原料の燃料比を熱天秤で測定した。不活性雰囲気下で10℃/minで常温から設定温度107℃まで昇温し、設定温度到達後に30min保持、保持後に10℃/minで設定温度900℃まで昇温させ、900℃到達後に10min保持した。その重量減少から燃料比を算出すると、測定結果の一例としては、半炭化時間10.5minで0.36、13minで0.50、15minで0.69程度の原料が得られた。
【0060】
つづいて第二段工程では、第一段工程により得られた半炭化済原料を自動式固体バイオ燃料製造装置用成型容器に充填し、固体バイオ燃料を成型した。
【0061】
第二段工程で用いた成型容器は、φ20mmの鉄製の成型容器を用いた。この成型容器は、上方だけが開口している円筒形状の内形状をしており、上方から円筒状の押し側金型が容器内に挿入し、所定の圧力を成型容器内の被処理物に掛けることができる。また、成型容器内の被処理物に所定の温度をかけることもできる。
【0062】
この成型容器に前述の第一段工程で半炭化処理した半炭化済原料を約9g充填した。押し側金型で初期荷重(約43-44MPa)をかけ250℃まで昇温させ、成型温度250℃に到達後バックプレッシャーのかかる荷重で6min15sec温度を維持し、さらに自然冷却過程で50℃以下になるまで初期荷重程度を維持しながら50℃以下になるのを確認し成型品として取り出した。
【0063】
この成型品(固体バイオ燃料)の質量mと、直径d(ここでは、φ20mm)および高さhから体積Vを導出し((1)式)、粒子密度ρを以下のように算出した((2)式)。
【0064】
【数1】
V[cm]:固体バイオ燃料の体積
d[cm]:固体バイオ燃料の直径
h[cm]:固体バイオ燃料の高さ
ρ[g/cm]:固体バイオ燃料の粒子密度
m[g]:固体バイオ燃料の質量
【0065】
<熱間圧縮強度>
この固体バイオ燃料の高温雰囲気での圧縮強度を、熱間圧縮強度試験装置を用いて測定した。測定温度は700℃であった。より具体的な測定手順は以下の通りである。
(1)固体バイオ燃料に0.1MPaの圧力が常にかかるようにし、700℃まで10℃/minで昇温させた。
(2)700℃に到達したら、載荷速度1.5mm/minで圧縮試験を行った。
なお、(1)と(2)の手順はほぼ連続的に行った。つまり、(1)の手順と(2)の手順の間に待機時間は設定しなかった。
【0066】
結果の一例を図7に示す。図7を参照して、横軸は半炭化時間および半炭化済原料の燃料比であり、縦軸は700℃雰囲気下における熱間圧縮強度(MPa)である。半炭化時間10.5minで得られた熱間圧縮強度は1.69MPa、13minで得られた熱間圧縮強度は3.36MPaと従来型の固体バイオ燃料の圧縮強度0MPaを超える性能を有していた。さらに、15minで得られた熱間圧縮強度は5.63MPaと飛躍的に性能を向上させていた。
【0067】
なお、ここで従来型の固体バイオ燃料とは、伐採したブナの木から円柱状の固体バイオ燃料に切削加工したものをいう。このような従来型の固体バイオ燃料は700℃雰囲気下では、形を維持すらできないので、熱間圧縮強度は0MPa(計測不能)である。
【0068】
半炭化時間15minの半炭化済原料から複数個の固体バイオ燃料を作成し、熱間圧縮強度を測定した結果の一例を図8に示す。図8を参照して、横軸は成型後の固体バイオ燃料の粒子密度(g/cm)を表し、縦軸は熱間圧縮強度(MPa)を表す。成型後の固体バイオ燃料の熱間圧縮強度は、粒子密度と正の相関の関係が見られた。
【0069】
強度値が向上した要因として、二段階半炭化による製造方法により、第一段工程でバイオマス中の水分と揮発分の一部を取り除くことにより、エネルギー収率を高めながら燃料比を向上させつつ、第二段工程で成型中の揮発分の影響を低減し、バイオマス原料から直接圧密成型できない250℃の半炭化温度領域においても自己接着力を有しながら固形化を可能にしたからと考えられた。
【0070】
<燃料比>
次に、第一段工程により得られた半炭化時間10.5minの半炭化済原料をφ4mmの円筒形成型容器に充填した。成型容器は、圧力をかけながら加熱できる手動式固体バイオ燃料製造装置にセットし、初期圧縮荷重として約43-44MPaの圧力を成型容器内の半炭化済原料に印加した。その後設定温度である250℃まで加熱した。昇温過程では、バックプレッシャーが掛かり、250℃の目標温度到達時には、初期圧縮荷重を超える圧縮荷重が成型容器内の原料にかかった。
【0071】
成型温度250℃の状態でその最大到達圧力を維持ながら1分15秒維持し、さらに自然冷却過程で少なくとも100℃以下になるまでその到達最大圧力を維持させ、50℃以下になるのを確認し固体バイオ燃料を取り出した。この固体バイオ燃料は本発明に係る固体バイオ燃料である。
【0072】
この固体バイオ燃料を、熱天秤により不活性雰囲気下で10℃/minで常温から設定温度107℃まで昇温し、設定温度到達後に30min保持、保持後に10℃/minで設定温度900℃まで昇温させ、900℃到達後に10min保持した。その重量減少から燃料比を算出すると約0.7の実測値が得られた。すなわち、図7で示した半炭化時間が10.5分の半炭化済原料(その時の半炭化済原料の燃料比は0.36)から燃料比約0.7の固体バイオ燃料を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る固体バイオ燃料は燃料比が0.4を超え、高温下の圧縮強度が0MPaを超えるものを得ることができる。したがって、石炭コークスの代替品若しくは併用品として好適に利用できCO削減に寄与することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8