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特開2024-706343次元プリンタ用材料及びこれを用いた樹脂成形体の製造方法
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  • 特開-3次元プリンタ用材料及びこれを用いた樹脂成形体の製造方法 図1
  • 特開-3次元プリンタ用材料及びこれを用いた樹脂成形体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070634
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】3次元プリンタ用材料及びこれを用いた樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20240516BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240516BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240516BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y70/00
B29C64/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181253
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 亜希子
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA29
4F213AB17
4F213AB18
4F213AB25
4F213AR06
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL24
4F213WL96
(57)【要約】      (修正有)
【課題】融点の高いエンプラ系又はスーパーエンプラ系の樹脂であっても、3次元プリンタにおける高温雰囲気下での成形性に優れ、機械強度に優れた樹脂成形体を得ることができる3次元プリンタ用材料を提供すること。
【解決手段】結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)とを含有し、以下の(i)~(iii)を満たす、3次元プリンタ用材料。
(i)示差走査熱量計(DSC)で10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である。
(ii)DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が、以下の関係を満たす。
0℃<Tm-Tc≦50℃
(iii)DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が、以下の関係を満たす。80℃≦Tc-Tg≦150℃
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)とを含有し、
以下の(i)~(iii)を満たす、3次元プリンタ用材料。
(i)示差走査熱量計(DSC)で10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である。
(ii)DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が、以下の関係を満たす。
0℃ < Tm-Tc ≦ 50℃
(iii)DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が、以下の関係を満たす。
80℃ ≦ Tc-Tg ≦ 150℃
【請求項2】
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項3】
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が25J/g以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項4】
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)が230℃以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項5】
前記結晶性樹脂(A)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が55℃以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項6】
前記結晶性樹脂(A)が結晶性ポリアミド樹脂である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項7】
前記結晶性樹脂(A)が、ポリアミド66、ポリアミド9T、ポリアミド10T或いはこれらから選択される少なくとも2種の繰り返し単位を含む共重合ポリアミドからなるか、又は、これらから選択される2種以上の混合物である、請求項6に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項8】
前記非晶性樹脂(B)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が130℃以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項9】
前記非晶性樹脂(B)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が前記結晶性樹脂(A)のTgより高い、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項10】
前記非晶性樹脂(B)のTgと前記結晶性樹脂(A)のTgとの差が10℃以上、100℃以下である、請求項9に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項11】
前記非晶性樹脂(B)が非晶性ポリアミド樹脂である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項12】
DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)における、振動周波数1Hzで動的粘弾性測定をした際の引張貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上である、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項13】
無機フィラーを含有する、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項14】
前記無機フィラーが、炭素繊維、ガラス繊維及びタルクからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項13に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項15】
3次元プリンタ用材料の総重量に対する前記無機フィラーの含有率が1質量%以上、20質量%以下である、請求項13に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項16】
前記結晶化温度(Tc)-100℃以上、前記結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で造形するための、請求項1に記載の3次元プリンタ用材料。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の3次元プリンタ用材料を用いて、前記結晶化温度(Tc)-100℃以上、前記結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で3次元プリンタにより造形する工程を含む、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元プリンタ用材料及びこれを用いた樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加造形技術(アディティブ・マニュファクチュアリング)、即ち今日一般的に3次元プリンタ(3Dプリンタ)と呼称されているシステム(例えば、米国のストラタシス・インコーポレイテッド社製の熱積層堆積システム)は、流動性を有する原料を押出ヘッドに備えたノズル部位から押し出して、コンピュータ支援設計(CAD)モデルを基にして3次元物体を層状に構築するために用いられている。その中でも材料押出方式(MEX法)は、熱可塑性樹脂からなる原料をペレットやフィラメント等として押出ヘッドへ挿入し、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内のX-Y平面基盤上に連続的に押し出し、押し出した樹脂を既に堆積している樹脂積層体上に堆積させると共に融着させ、これが冷却するにつれ一体固化する、という簡単なシステムであるため、広く用いられている。MEX法では、通常、基盤に対するノズル位置がX-Y平面に垂直方向なZ軸方向に上昇しつつ前記押出工程が繰り返されることにより、CADモデルに類似した3次元物体が構築される(特許文献1、2)。
【0003】
従来、MEX方式の3次元プリンタ用材料としては、一般的に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂やポリ乳酸等の非晶性樹脂、あるいは、結晶化速度が非常に遅いため成形中にはほぼ非晶性樹脂と同等の挙動を示す熱可塑性樹脂を、フィラメント形状に加工したものが、成形加工性や流動性の観点から好適に用いられてきた(特許文献3~5)。これらは、3次元プリンタでの成形中に結晶化収縮が起きないため成形物に反りなどの変形が発生しにくく、成形性に優れる。また、結晶化による層間接着性の阻害もおきないため、成形物の層間接着性にも比較的優れている。
【0004】
一方で、近年、上記の非晶性あるいは非晶性に近い汎用プラスチックだけでなく、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアリールエーテルケトン系樹脂などの結晶性のエンプラ系又はスーパーエンプラ系の樹脂も、3次元プリンタ用材料としての実用化が検討されてきている。これらは、従来の汎用プラスチック材料と比較し、耐熱性や耐薬品性、強度などに優れるため、製品や製造ツールの成形といった産業用途も含めて広く活用の可能性がある。その一方で、溶融温度が高く結晶化も速いため、汎用プラスチックと比べて、3次元プリンタでの成形時に成形物の反りによる成形不良がおきやすく、また、成形した樹脂成形体の層間接着性が悪くなるという課題がある。
【0005】
上記課題に対して、例えば特許文献6では、結晶性樹脂に非晶性樹脂を混ぜることで結晶化速度を調整し、造形性に優れる造形材料を得る手法が開示されている。また、例えば特許文献7では、結晶性樹脂と非晶性樹脂との混合物を3次元プリンタ用材料として用いて、かつ混合物の降温過程の結晶化温度近傍で造形することで、成形した樹脂成形体の層間の接着性(Z軸強度)を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003-502184号公報
【特許文献2】特表2003-534159号公報
【特許文献3】特表2010-521339号公報
【特許文献4】特開2008-194968号公報
【特許文献5】国際公開第2015/037574号
【特許文献6】特許第6235717号公報
【特許文献7】特開2022-80968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献6~7に開示されている手法に従って、融点の高いエンプラ系又はスーパーエンプラ系の樹脂を用いた非晶性樹脂と結晶性樹脂とのブレンドによる3次元プリンタ用材料を作製し、樹脂成形体の層間接着性(Z軸強度)を高めるために、3次元プリンタ用材料の降温過程の結晶化温度近傍の雰囲気温度で造形しようとすると、3次元プリンタでの成形時に樹脂成形体の形状が崩れたり、樹脂成形体が熱劣化して脆くなるなどの課題があることがわかった。
【0008】
上記の課題に鑑み、本発明の目的は、融点の高いエンプラ系又はスーパーエンプラ系の樹脂であっても、3次元プリンタにおける高温雰囲気下での成形性に優れ、機械強度に優れた樹脂成形体を得ることができる3次元プリンタ用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、3次元プリンタ用材料に特定の熱特性をもたせることで前記課題を解消できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
本発明の態様1は、
結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)とを含有し、
以下の(i)~(iii)を満たす、3次元プリンタ用材料である。
(i)示差走査熱量計(DSC)で10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である。
(ii)DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が、以下の関係を満たす。
0℃ < Tm-Tc ≦ 50℃
(iii)DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が、以下の関係を満たす。
80℃ ≦ Tc-Tg ≦ 150℃
【0012】
本発明の態様2は、
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である、態様1に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0013】
本発明の態様3は、
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が25J/g以上である、態様1又は2に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0014】
本発明の態様4は、
前記結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)が230℃以上である、態様1~3のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0015】
本発明の態様5は、
前記結晶性樹脂(A)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が55℃以上である、態様1~4のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0016】
本発明の態様6は、
前記結晶性樹脂(A)が結晶性ポリアミド樹脂である、態様1~5のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0017】
本発明の態様7は、
前記結晶性樹脂(A)が、ポリアミド66、ポリアミド9T、ポリアミド10T或いはこれらから選択される少なくとも2種の繰り返し単位を含む共重合ポリアミドからなるか、又は、これらから選択される2種以上の混合物である、態様6に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0018】
本発明の態様8は、
前記非晶性樹脂(B)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が130℃以上である、態様1~7のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0019】
本発明の態様9は、
前記非晶性樹脂(B)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が前記結晶性樹脂(A)のTgより高い、態様1~8のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0020】
本発明の態様10は、
前記非晶性樹脂(B)のTgと前記結晶性樹脂(A)のTgとの差が10℃以上、100℃以下である、態様9に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0021】
本発明の態様11は、
前記非晶性樹脂(B)が非晶性ポリアミド樹脂である、態様1~10のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0022】
本発明の態様12は、
DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)における、振動周波数1Hzで動的粘弾性測定をした際の引張貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上である、態様1~11のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0023】
本発明の態様13は、
無機フィラーを含有する、態様1~12のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0024】
本発明の態様14は、
前記無機フィラーが、炭素繊維、ガラス繊維及びタルクからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、態様13に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0025】
本発明の態様15は、
3次元プリンタ用材料の総重量に対する前記無機フィラーの含有率が1質量%以上、20質量%以下である、態様13又は14に記載の3次元プリンタ用材料である。
【0026】
本発明の態様16は、
前記結晶化温度(Tc)-100℃以上、前記結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で造形するための、態様1~15のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料である。
【0027】
本発明の態様17は、
態様1~16のいずれか1つに記載の3次元プリンタ用材料を用いて、前記結晶化温度(Tc)-100℃以上、前記結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で3次元プリンタにより造形する工程を含む、樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、融点の高いエンプラ系又はスーパーエンプラ系の樹脂であっても、3次元プリンタにおける高温雰囲気下での成形性に優れ、機械強度に優れた樹脂成形体を得ることができる3次元プリンタ用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、Z軸方向の強度評価用の試験片を作成するためのダンベル状サンプル4本がリブで繋がれた形状を、斜め方向から見た図である。
図2図2は、Z軸方向の強度評価用の試験片を作成するためのダンベル状サンプル4本がリブで繋がれた形状を、上方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いる。
【0031】
本発明の3次元プリンタ用材料は、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)とを含有し、以下の(i)~(iii)を満たすことを特徴とする。
(i)示差走査熱量計(DSC)で10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上である。
(ii)DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が、以下の関係を満たす。
0℃ < Tm-Tc ≦ 50℃
(iii)DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が、以下の関係を満たす。
80℃ ≦ Tc-Tg ≦ 150℃
【0032】
本発明の3次元プリンタ用材料は、上記(i)、すなわち、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)が200℃以上であること、を満たすため、高い融点を有し、耐熱性に優れた樹脂成形体を得ることができる。上記(i)におけるTcは、耐熱性の観点から、210℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、市販の3次元プリンタで成形可能にする観点から、上記(i)におけるTcは、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、270℃以下がさらに好ましく、260℃以下が特に好ましい。上記(i)におけるTcは、結晶性樹脂(A)および/または非晶性樹脂(B)の組成や、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)のブレンド比率、混練方法等によって調整することができる。
なお、上記(i)におけるTcは、結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以上のピークのピークトップの温度である。また、本発明の3次元プリンタ用材料においてTcが複数発現した場合は、少なくとも1つのTcが上記(i)を満たすが、全てのTcが上記(i)を満たすことが好ましい。
【0033】
<(ii)の関係における上限値と(iii)の関係における下限値>
本発明の3次元プリンタ用材料は、上記(ii)の関係における上限値を満たす。すなわち、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)との差が50℃以下である。
また、上記(iii)の関係における下限値を満たす。すなわち、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)との差が80℃以上である。
【0034】
本発明の3次元プリンタ用材料がこれら2つの条件を満たすことで、3次元プリンタにおける高温雰囲気下での成形時に、樹脂の結晶化が極端に遅くなることが防止され、吐出された樹脂が適度に結晶化することで、樹脂成形体の外観を良好に保つことができる。
上記(ii)の関係における上限値を超えた場合、樹脂が溶融後に冷却される過程で結晶化にかかる時間が長くなるため、3次元プリンタでの成形時にノズルから吐出された樹脂が固化しにくくなり、樹脂成形体の外観が悪化する。
また、上記(iii)の関係における下限値を下回った場合、3次元プリンタにおける高温の雰囲気温度(後述するように、これは3次元プリンタ用材料の結晶化温度(Tc)付近であることが好ましい)が3次元プリンタ用材料のガラス転移温度(Tg)と近くなる。これにより、3次元プリンタ用材料を構成する樹脂の分子鎖が動きにくくなることで結晶化しにくくなるため、3次元プリンタでの成形時にノズルから吐出された樹脂が固化しにくく、樹脂成形体の外観が悪化する。
【0035】
上記(ii)の関係における融点(Tm)と結晶化温度(Tc)との差は、樹脂成形体の外観をより良好に保つ観点から、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、上記(iii)の関係における結晶化温度(Tc)と上記ガラス転移温度(Tg)との差は、90℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、105℃以上であることがよりさらに好ましい。これらは、結晶性樹脂(A)や非晶性樹脂(B)の組成や、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)のブレンド比率、混練方法等によって調整することができる。
【0036】
なお、上記Tmは、結晶融解熱量(ΔHm)が5J/g以上のピークのピークトップの温度であり、上記Tcは、結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以上のピークのピークトップの温度であり、上記Tgは、中間点ガラス転移温度である。
本発明の3次元プリンタ用材料において、上記TcやTmが複数発現した場合は、少なくとも1つの組み合わせのTcとTmとの差が上記(ii)の関係における上限値を満たすが、結晶融解熱量(ΔHm)が最も大きいTmと結晶化熱量(ΔHc)が最も大きいTcとの差が上記(ii)の関係における上限値を満たすことが好ましく、全ての組み合わせのTcとTmとの差が上記(ii)の関係における上限値を満たすことがより好ましい。
また、本発明の3次元プリンタ用材料において、上記TcやTgが複数発現した場合は、少なくとも1つの組み合わせのTcとTgとの差が上記(iii)の関係における下限値を満たすが、結晶化熱量(ΔHc)が最も大きいTcと最も高温のTgとの差が上記(iii)の関係における下限値を満たすことが好ましく、全ての組み合わせのTcとTgとの差が上記(iii)の関係における下限値を満たすことがより好ましい。
【0037】
<(ii)の関係における下限値>
本発明の3次元プリンタ用材料は上記(ii)の関係における下限値を満たす。すなわち、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)と、10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)との差が0℃より大きい。このため、3次元プリンタで成形した際に、溶融吐出された樹脂の結晶化が適度に抑制され、樹脂成形体の層間接着性(Z軸強度)に優れる。層間接着性により優れる観点から、上記(ii)の関係におけるTmとTcとの差は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることがさらに好ましい。これは、結晶性樹脂(A)や非晶性樹脂(B)の組成や、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)のブレンド比率、混練方法等によって調整することができる。
【0038】
なお、上記Tcは、結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以上のピークのピークトップの温度であり、上記Tmは、結晶融解熱量(ΔHm)が5J/g以上のピークのピークトップの温度である。
本発明の3次元プリンタ用材料において、上記TcやTmが複数発現した場合は、少なくとも1つの組み合わせのTcとTmとの差が上記(ii)の関係における下限値を満たすが、結晶融解熱量(ΔHm)が最も大きいTmと結晶化熱量(ΔHc)が最も大きいTcとの差が上記(ii)の関係における下限値を満たすことが好ましく、全ての組み合わせのTcとTmとの差が上記(ii)の関係における下限値を満たすことがより好ましい。
【0039】
<(iii)の関係における上限値>
本発明の3次元プリンタ用材料は上記(iii)の関係における上限値を満たす。すなわちDSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)と、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)との差が150℃以下である。これにより、3次元プリンタにおける高温の雰囲気温度(後述するように、これは3次元プリンタ用材料の結晶化温度(Tc)付近であることが好ましい)が3次元プリンタ用材料のガラス転移温度(Tg)よりも極端に高温になりすぎないため、このような雰囲気温度下での成形であっても樹脂成形体の熱劣化を抑制することができ、その結果、樹脂成形体の変色や脆化を防ぐことができる。樹脂成形体の変色や脆化をより効果的に防ぐ観点から、上記(iii)の関係における結晶化温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差は、140℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。これは、結晶性樹脂(A)や非晶性樹脂(B)の組成や、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)のブレンド比率、混練方法等によって調整することができる。
【0040】
なお、上記Tcは、結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以上のピークのピークトップの温度であり、上記Tgは、中間点ガラス転移温度である。
本発明の3次元プリンタ用材料において、上記TcやTgが複数発現した場合は、少なくとも1つの組み合わせのTcとTgとの差が上記(iii)の関係における上限値を満たすが、結晶化熱量(ΔHc)が最も大きいTcと最も高温のTgとの差が上記(iii)の関係における上限値を満たすことが好ましく、全ての組み合わせのTcとTgとの差が上記(iii)の関係における上限値を満たすことがより好ましい。
【0041】
<結晶性樹脂(A)>
本発明の3次元プリンタ用材料は、結晶性樹脂(A)を含有する。ここで結晶性樹脂(A)とは、一般的に、示差走査熱量計(DSC)による測定における昇温速度10℃/分で測定される結晶融解熱量(ΔHm)が、5J/g以上のものをさす。
【0042】
本発明の3次元プリンタ用材料や、それを用いて成形された樹脂成形体の耐熱性を高める観点から、この結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)は200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましく、255℃以上であることが特に好ましい。また、上記結晶化温度(Tc)は、成形時の3次元プリンタのチャンバー内の温度を過剰に上げずにすむという観点から、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましい。
ここで、上記Tcは、結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以上のピークのピークトップの温度であり、上記Tcが複数発現した場合は、少なくとも1つのTcが上記条件を満たすことが好ましいく、結晶化熱量(ΔHc)が最も大きいTcが上記条件を満たすことがより好ましく、全てのTcが上記条件を満たすことがさらに好ましい。なお、上記結晶化温度(Tc)は、結晶性樹脂(A)の組成や、異なるTcを持つ結晶性樹脂同士のブレンド等により調整することができる。
【0043】
また、結晶性樹脂(A)の、示差走査熱量計(DSC)による測定における10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は、25J/g以上であることが好ましい。さらに、結晶化熱量(ΔHc)は、80J/g以下であることが好ましい。かかる範囲内であれば、後述する3次元プリンタ用材料や、それを用いて成形された樹脂成形体の、耐熱性、耐薬品性および機械強度などのバランスを調整し易いため好ましい。これらのことから、上記結晶性樹脂(A)の結晶化熱量は、30J/g以上、50J/g以下であることがより好ましい。
ここでいう結晶化熱量(ΔHc)とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から結晶融解温度(融点Tm)+30℃程度まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した際に測定される値である。また、示差走査熱量計(DSC)による測定において、降温過程における結晶化温度(Tc)が複数発現した場合の結晶化熱量は、各結晶化温度における結晶化熱量の合計の値とする。なお、上記結晶化熱量(ΔHc)は、結晶性樹脂(A)の組成や、異なるΔHcを持つ結晶性樹脂同士のブレンド等により調整することができる。
【0044】
本発明の3次元プリンタ用材料や、それを用いて成形された樹脂成形体の耐熱性を高める観点から、この結晶性樹脂(A)の、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際の融点(Tm)は、230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。一方、融点の上限は、成形時の3次元プリンタのチャンバー内の温度を過剰に上げずにすむという観点から、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、330℃以下がさらに好ましい。
ここで、上記Tmは、結晶融解熱量(ΔHm)が5J/g以上のピークのピークトップの温度である。また、上記Tmが複数発現した場合は、少なくとも1つのTmが上記条件を満たすことが好ましく、結晶融解熱量(ΔHm)が最も大きいTmが上記条件を満たすことがより好ましく、全てのTmが上記条件を満たすことがさらに好ましい。なお、上記融点(Tm)は、結晶性樹脂(A)の組成や、異なるTmを持つ結晶性樹脂同士のブレンド等により調整することができる。
【0045】
本発明の3次元プリンタ用材料や、それを用いて成形された樹脂成形体の耐熱性を高める観点から、結晶性樹脂(A)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)は55℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。一方で、成形時の3次元プリンタのチャンバー内の温度を過剰に上げずにすむという観点から、上記ガラス転移温度(Tg)は200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましい。
ここで、上記Tgは中間点ガラス転移温度であり、上記Tgが複数発現した場合は、少なくとも1つのTgが上記条件を満たすことが好ましく、最も高温のTgが上記条件を満たすことがより好ましく、全てのTgが上記条件を満たすことがさらに好ましい。なお、上記Tgは、結晶性樹脂(A)の組成や、異なるTgを持つ結晶性樹脂同士のブレンド等により調整することができる。
【0046】
このような結晶性樹脂(A)としては、特に限定されるものではないが、結晶性ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は公知の方法で重合可能であり、また、市販品を用いることができる。なお、これらから選択される樹脂のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
このような結晶性樹脂(A)として、価格や耐薬品性、耐熱性のバランスに優れることから、結晶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂としては特に限定されるものではないが、組成の具体例として以下のものが挙げられる。すなわち、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMDT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)及びこれらの共重合物等が挙げられる。なお、結晶性ポリアミド樹脂は、1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。なかでも特に耐熱性に優れる観点から、ポリアミド66、ポリアミド9T、ポリアミド10T或いはこれらから選択される少なくとも2種の繰り返し単位を含む共重合ポリアミドからなるか、又は、これらから選択される2種以上の混合物であることが好ましい。
【0048】
<非晶性樹脂(B)>
本発明の3次元プリンタ用材料は、非晶性樹脂(B)を含有する。ここで非晶性樹脂(B)とは、一般的に、示差走査熱量計(DSC)による測定における昇温速度10℃/分で測定した際に結晶融解熱量(ΔHm)が、5J/g未満のものをさす。
【0049】
本発明の3次元プリンタ用材料や、それを用いて成形された樹脂成形体の耐熱性を高める観点から、非晶性樹脂(B)の、10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)は、130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。一方で、成形時の3次元プリンタのチャンバー内の温度を過剰に上げずにすむという観点から、上記ガラス転移温度(Tg)は、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましい。ここで、上記Tgは中間点ガラス転移温度であり、上記Tgが複数発現した場合は、少なくとも1つのTgが上記条件を満たすことが好ましく、最も高温のTgが上記条件を満たすことがより好ましく、全てのTgが上記条件を満たすことがさらに好ましい。なお、上記Tgは、非晶性樹脂(B)の組成や、異なるTgを持つ非晶性樹脂同士のブレンド等により調整することができる。
【0050】
また、本発明に用いられる非晶性樹脂(B)のTgは、3次元プリンタ用材料の耐熱性を効率よく高める観点から、結晶性樹脂(A)のTgよりも高いことが好ましい。より耐熱性を高める観点から、非晶性樹脂(B)のTgが結晶性樹脂(A)のTgよりも高い場合において、非晶性樹脂(B)のTgと結晶性樹脂(A)のTgとの差が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。一方で、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)との最適な溶融混練温度の差が開きすぎない観点から、非晶性樹脂(B)のTgと結晶性樹脂(A)のTgとの差が100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。なお、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)がそれぞれTgを複数持つ場合は、少なくとも1つの組み合わせの非晶性樹脂(B)のTgと結晶性樹脂(A)のTgとの差が上記条件を満たすことが好ましく、非晶性樹脂(B)の最も高温のTgと結晶性樹脂(A)の最も高温のTgとの差が上記条件を満たすことがより好ましく、全ての組み合わせの非晶性樹脂(B)のTgと結晶性樹脂(A)のTgとの差が上記条件を満たすことがさらに好ましい。
【0051】
このような非晶性樹脂(B)としては、特に限定されるものではないが、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は公知の方法で重合可能であり、また、市販品を用いることができる。なお、これらから選択される樹脂のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
このような非晶性樹脂(B)として、価格や耐薬品性、耐熱性のバランスに優れることから、非晶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。非晶性ポリアミド樹脂は特に限定されるものではないが、組成の具体例として以下のものが挙げられる。すなわち、イソフタル酸/炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸/メタキシリレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/4,4-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)の重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体等が挙げられる。また、これらの重縮合体を構成するテレフタル酸成分及び/又はイソフタル酸成分のベンゼン環として、アルキル基やハロゲン原子で置換されたものも含まれる。これらの非晶性ポリアミド系樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上併用することもできる。中でも、後述する結晶性樹脂との混練のしやすさや、3次元プリンタ用の物性の調整しやすさ等の観点から、非晶性ポリアミド系樹脂として、イソフタル酸をジカルボン酸成分として30~65モル%、より好ましくは40~60モル%含む重縮合体を用いることが好ましい。
【0053】
<3次元プリンタ用材料>
本発明の3次元プリンタ用材料は、上記結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)とを含有し、上記(i)から(iii)を満たしていれば特に限定されないが、さらに以下の物性を満たすことが好ましい。
【0054】
本発明の3次元プリンタ用材料の、示差走査熱量計(DSC)による測定における10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は、5~50J/gであることが好ましい。このような範囲であれば、3次元プリンタ用材料としての成形性や、それを用いて3次元プリンタにより成形された樹脂成形体の耐熱性などのバランスに優れるため好ましい。これらのことから、前記3次元プリンタ用材料の結晶化熱量(ΔHc)は10~40J/gであることがより好ましく、20~35J/gであることがさらに好ましい。
ここでいう結晶化熱量(ΔHc)とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料として3次元プリンタ用材料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から結晶融解温度(融点Tm)+30℃程度まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した際に測定される値である。また、示差走査熱量計(DSC)による測定において、降温過程において結晶化温度(Tc)が複数発現した場合の結晶化熱量は、各結晶化温度における結晶化熱量の合計の値とする。この結晶化熱量(ΔHc)は、前述した結晶性樹脂(A)の組成や、前述した結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)のブレンド比率等により調整することができる。
【0055】
本発明の3次元プリンタ用材料は、DSCで10℃/分の昇温速度で測定した際のガラス転移温度(Tg)が、20℃~3次元プリンタ用材料の融点(Tm)までの範囲で単一であることが好ましい。これはすなわち、上記結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)が相溶性に優れることを示している。結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)との相溶性が低いと、結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)に由来するそれぞれのガラス転移温度(Tg)が個別に発現するが、この場合、後述する3次元プリンタ用フィラメントの線径が不安定になることや、成形した樹脂成形体の層間接着性に劣ることがある。上記結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)の相溶性を優れたものにするためには、それぞれの樹脂の組成の調整(たとえばそれぞれの樹脂の構成単位に類似の構造を用いるなど)や、混練条件の調整等の手法がある。
【0056】
本発明の3次元プリンタ用材料は、3次元プリンタで成形する樹脂成形体の外観を良好にする観点から、DSCで10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化温度(Tc)における、振動周波数1Hzで動的粘弾性測定をした際の引張貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上であることが好ましい。これを満たすことで、3次元プリンタにおける高温の雰囲気温度(後述するように、これは3次元プリンタ用材料の結晶化温度(Tc)付近であることが好ましい)でも成形中の樹脂成形体が適度な剛性を有するため、成形中の装置の振動等があっても外観が崩れず、樹脂成形体の外観を良好に保つことができる。この観点から、上記引張貯蔵弾性率(E’)は120MPa以上がより好ましく、200MPa以上がさらに好ましく、300MPa以上が特に好ましい。また、後述する3次元プリンタ用フィラメントとして用いた場合のハンドリング性などから、上記引張貯蔵弾性率(E’)は、2000MPa以下が好ましく、1000MPa以下がより好ましく、800MPa以下がさらに好ましい。これは、前述した結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)のブレンド比率や、後述するフィラーの含有量等により調整することができる。
【0057】
本発明の3次元プリンタ用材料における、上記結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)の含有率は特に限定されないが、3次元プリンタ用材料の上記(i)~(iii)の関係、3次元プリンタ用材料の上記結晶化熱量(ΔHc)、及び、3次元プリンタ用材料の結晶化温度(Tc)における上記引張貯蔵弾性率(E’)の各特性を所望の範囲に調整しやすい観点から、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)の合計量を100質量部とした場合、結晶性樹脂(A)99~1質量部と非晶性樹脂(B)1~99質量部とすることが好ましい。さらに、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)の合計量を100質量部とした場合、結晶性樹脂(A)の配合量は、40質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることがさらに好ましく、60質量部以上であることが特に好ましい。一方、結晶性樹脂(A)と非晶性樹脂(B)の合計量を100質量部とした場合、結晶性樹脂(A)の配合量の上限は、95質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、85質量部以下が特に好ましい。
【0058】
本発明の3次元プリンタ用材料は、上記貯蔵弾性率(E’)を所望の範囲に制御する観点から、無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーの具体例としてはたとえば、シリカ、アルミナ、カオリン、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、石膏、焼成カオリン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ワラストナイト、シリカ、タルク、金属粉、アルミナ、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスファイバー、石膏ウィスカー、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどが挙げられる。この中でも、樹脂との親和性や、高い強度を付与できる観点から、本発明の3次元プリンタ用材料は、炭素繊維、ガラス繊維及びタルクからなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機フィラーを含有することがより好ましい。
【0059】
前記無機フィラーの、3次元プリンタ用材料の総重量に対する含有率は、上記貯蔵弾性率(E’)を高める観点から、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。一方で、後述する3次元プリンタ用フィラメントとして用いた場合のハンドリング性の観点から、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。例えば、3次元プリンタ用材料の総重量に対する前記無機フィラーの含有率は、1質量%以上、20質量%以下であることができる。
【0060】
本発明の3次元プリンタ用材料は、本発明の効果を損なわない程度に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、前述した結晶性樹脂(A)以外の結晶性樹脂、前述した非晶性樹脂(B)以外の非晶性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、香料、難燃剤、有機系粒子などが挙げられる。
【0061】
ここで、前述した結晶性樹脂(A)以外の結晶性樹脂、及び、前述した非晶性樹脂(B)以外の非晶性樹脂の具体例としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)、ポリ乳酸(PLA樹脂)、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂および各種ゴム、エラストマー等が挙げられる。
【0062】
<3次元プリンタ用材料の製造方法>
本発明の3次元プリンタ用材料は、上述の結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)、並びに、必要に応じてその他の成分を混合して製造される。これらの混合方法としては特に制限されるものではないが、公知の方法、例えば単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどの溶融混練装置を用いることができる。本発明においては、各成分の分散性や相溶性を向上させる観点から、ミキシング構造(ダブルフライト、ダルメージ、マドックなど)を持つスクリューを用いた単軸押出機や、同方向二軸押出機を用いることが好ましい。3次元プリンタ用材料に含まれる各成分の分散性や相溶性に優れると、後述する3次元プリンタ用フィラメントを成形する際や、3次元プリンタにて成形する際の、溶融樹脂の吐出量のムラを抑制でき、フィラメント径や成形物の寸法精度を高めることができるため好ましい。
【0063】
本発明の3次元プリンタ用材料は、用いる3次元プリンタの成形方式に合わせた形状で用いて構わない。形状としては、例えば、ペレット、粉体、顆粒、フィラメント等が挙げられる。中でも、フィラメント形状(以下、フィラメント形状の3次元プリンタ用材料を「3次元プリンタ用フィラメント」ともいう。)又はペレット形状(以下、ペレット形状の3次元プリンタ用材料を「3次元プリンタ用ペレット」ともいう。)で用いることが好ましく、フィラメント形状で用いることがより好ましい。
【0064】
<3次元プリンタ用フィラメントの製造方法>
本発明の3次元プリンタ用フィラメントは、一態様として、上述の3次元プリンタ用材料からなる。本発明の3次元プリンタ用フィラメントの製造方法は特に制限されるものではないが、上述の3次元プリンタ用材料を押出成形等の公知の成形方法により成形する方法や、3次元プリンタ用材料の製造時の形状のままフィラメントとする方法等を挙げることができる。
【0065】
<3次元プリンタ用フィラメントの物性等>
本発明の3次元プリンタ用フィラメントの直径は、材料押出方式による樹脂成形体の成形に使用するシステムの仕様に依存するため限定されるものではないが、通常1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは1.6mm以上、さらに好ましくは1.7mm以上である。一方、直径の上限も限定されるものではないが、通常5.0mm以下、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下である。さらに、径の精度は、フィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に収めることが原料供給の安定性の観点から好ましい。特に、本発明の3次元プリンタ用フィラメントは、径の標準偏差が0.07mm以下であることが好ましく、0.06mm以下であることがより好ましい。
【0066】
また、本発明の3次元プリンタ用フィラメントは、真円度(フィラメント断面の、長径に対する短径の比率)が0.93以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。真円度の上限は1.0である。
【0067】
<3次元プリンタ用フィラメントの巻回体及びカートリッジ>
本発明の3次元プリンタ用フィラメントを用いて3次元プリンタにより樹脂成形体を製造するにあたり、3次元プリンタ用フィラメントを安定に保存すること、及び、3次元プリンタに3次元プリンタ用フィラメントを安定に供給することが求められる。そのために、本発明の3次元プリンタ用フィラメントは、巻回体、例えばボビンに巻きとった巻回体、として密閉包装されているか、又は、巻回体が収納された3次元プリンタ装着用カートリッジであることが、長期保存、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。カートリッジとしては、例えば、巻回体の他、内部に防湿材または吸湿材を使用し、フィラメントを繰り出すオリフィス部以外が少なくとも密閉されている構造のものが挙げられる。
【0068】
通常、3次元プリンタ用フィラメントの巻回体、又は、巻回体を含むカートリッジは、3次元プリンタ内又は3次元プリンタの周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが3次元プリンタに導入され続ける。
【0069】
<3次元プリンタ用ペレットの製造方法>
本発明の3次元プリンタ用ペレットは、上述の3次元プリンタ用材料を用いて製造される。本発明の3次元プリンタ用ペレットの製造方法は特に制限されるものではないが、上述の3次元プリンタ用材料の製造時に混練機から所望の断面形状で押し出されたものを、ペレタイザーなどを用いて所望の大きさにカットすることが好ましい。
【0070】
<3次元プリンタ用ペレットの物性等>
本発明の3次元プリンタ用ペレットの形状は、特に制限されるものではないが、円柱状(断面が楕円のものも含む)、球状、米粒状、円盤状、四角状などが挙げられる。また、成形時における、3次元プリンタのノズル上部に通常設けられているスクリューへの噛みこみを良好にする観点から、ペレットの一番長い部分の長さが10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。また、スクリューへの巻き付きを抑制する観点から、ペレットの一番短い部分の長さが0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。
【0071】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、本発明の3次元プリンタ用材料を用い、3次元プリンタにより成形することにより樹脂成形体を得る。3次元プリンタによる成形方法としては、材料押出方式(MEX法)、粉末床溶融結合法(PBF法)、焼結方式、インクジェット方式、光成形方式(SLA法)などが挙げられる。本発明の3次元プリンタ用材料は、これらの中でも、材料押出方式や粉末焼結方式に用いることが好ましく、材料押出方式に用いることがより好ましい。
【0072】
本発明の3次元プリンタ用材料を用いて成形する場合、チャンバー内の温度(すなわち造形雰囲気温度)を、3次元プリンタ用材料の、降温過程における結晶化温度(Tc)付近に設定することが、成形時の反りを抑制し、樹脂成形体の層間接着性を高める点から好ましい。樹脂成形体の形状を保持する観点から、チャンバー内の温度は結晶化温度(Tc)+10℃以下が好ましく、結晶化温度(Tc)以下であることがより好ましい。また、反り抑制や層間接着性の向上の観点から、結晶化温度(Tc)-100℃以上が好ましく、結晶化温度(Tc)-80℃以上がより好ましく、結晶化温度(Tc)-60℃以上がさらに好ましい。なお、この際、基盤の温度もチャンバー内の温度と同等の温度に設定することが好ましい。本発明の3次元プリンタ用材料は上記熱特性等を有するため、このような高温での成形であっても、強度および外観にすぐれた樹脂成形体を成形することができる。
【0073】
すなわち、本発明の樹脂成形体の製造方法は、本発明の3次元プリンタ用材料を用いて、結晶化温度(Tc)-100℃以上、結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で3次元プリンタにより造形する工程を含むことが好ましい。
また、本発明の3次元プリンタ用材料は、結晶化温度(Tc)-100℃以上、結晶化温度+10℃以下の雰囲気温度で造形するための3次元プリンタ用材料であることが好ましい。
【0074】
ここでいう結晶化温度(Tc)とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料として3次元プリンタ用材料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から結晶融解温度(融点Tm)+30℃程度まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した際に測定される値である。また、降温過程において結晶化温度(Tc)が複数発現した場合は、最もピーク面積の大きいものを、この結晶化温度(Tc)とする。
【0075】
<3次元プリンタ用フィラメントを用いた樹脂成形体の製造方法>
本発明の3次元プリンタ用材料は、材料押出方式において、3次元プリンタ用フィラメントの態様で用いることが特に好ましい。以下、材料押出方式による実施態様を例示して説明する。
【0076】
3次元プリンタは一般にチャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押出ヘッド、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメントカートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3次元プリンタの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものや、チャンバー内の温度が制御可能なものもある。
【0077】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との接着性を得たり、得られる樹脂成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。また、積層物との接着性を向上させるため、基盤上に粘着性のある糊を塗布したり、積層物との接着性が良好なシート等を貼りつけてもよい。ここで、積層物との接着性が良好なシートとしては、無機繊維のシートなど表面に細かな凹凸を有するシートや、積層物と同種の樹脂からなるシートなどが挙げられる。なお、押出ヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0078】
3次元プリンタ用フィラメントは原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この際、必要に応じて、本発明の3次元プリンタ用フィラメントとは別に、サポート用のフィラメント(例えば、ポリビニルアルコール(PVOH)や高衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのフィラメント)を用いて、樹脂成形体の支持材となる部分を同時に成形してもよい。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じてサポート材等を剥離したり、余分な部分を切除したりすることにより、所望の3次元物体として樹脂成形体を得ることができる。
【0079】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段は、工程の簡便さと供給安定性の観点から、フィラメントを繰り出して供給する方法、すなわち、前述の本発明の3次元プリンタ用フィラメントを繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0080】
押出ヘッドにて加熱溶融され吐出される樹脂は、好ましくは直径0.01~1.0mm、より好ましくは直径0.02~0.5mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、CADモデルの再現性が良好となる傾向にあるために好ましい。
【0081】
<3次元プリンタ用ペレットを用いた樹脂成形体の製造方法>
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、3次元プリンタ用ペレットを用いることもできる。
【0082】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段としては、ペレットを加熱して可塑化したものを、スクリューにより押出ヘッドに供給する方法等が例示できる。
【0083】
3次元プリンタ用ペレットを用いる場合においても、3次元プリンタは、3次元プリンタ用フィラメントを用いる場合と同様のものを用いることができる。なお、3次元プリンタ用ペレットを用いる場合には、通常、フィラメントのガイド、フィラメントカートリッジ設置部に代えて、原料ホッパーや、押出スクリューを備えた小型押出機を用いる。
【0084】
<その他の3次元プリンタ用材料を用いた樹脂成形体の製造方法>
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、上述した3次元プリンタ用フィラメント及び3次元プリンタ用ペレット以外の3次元プリンタ用材料を用いることもできる。このような3次元プリンタ用材料としては、粉体状又は液体状の3次元プリンタ用材料等を挙げることができる。
この場合において、押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段としては、粉体状又は液体状の3次元プリンタ用材料を、タンク等から定量フィーダを介して供給する方法等が例示できる。また、粉末状のものについては、粉末床溶融結合法(PBF法)の3次元プリンタに使用することもできる。
【0085】
<樹脂成形体の用途>
本発明の樹脂成形体は、外観や強度、耐熱性、耐薬品性などにも優れたものである。用途については特に制限されるものではないが、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車、航空機等の各種パーツ;電機・電子機器用資材、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、医療用品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例0086】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値および評価は次のようにして行った。
【0087】
(1)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、結晶化熱量(ΔHc)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計、商品名「Pyris1 DSC」を用いて、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から融点(Tm)+30℃程度まで昇温し、該温度で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した際に測定されたサーモグラムの発熱ピークのピークトップ温度およびピーク面積から、結晶化温度(Tc)及び結晶化熱量(ΔHc)を求めた。またその後、再度結晶融解温度(融点Tm)+30℃程度まで昇温した際に得られたサーモグラムから、吸熱ピークのピークトップ温度として融点(Tm)を、また中間点ガラス転移温度としてガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0088】
(2)結晶化温度(Tc)における引張貯蔵弾性率(E’)
実施例および比較例で得られた3次元プリンタ用材料を、熱プレスによりそれぞれ厚み約0.5mmのシートに成形し、幅約4mmの短冊状に切り出し、標線間距離を2.5cmとして測定用サンプルとした。動的粘弾性測定機(アイティー計測制御株式会社製、商品名:粘弾性スペクトロメーターDVA-200)を用いて、歪み0.1%、振動周波数1Hz、昇温速度3℃/分の条件で、引張貯蔵弾性率(E’)を0℃から融点(Tm)+30℃程度まで測定し、得られたデータから、上記(1)で求めた結晶化温度(Tc)における引張貯蔵弾性率(E’)を読み取った。
【0089】
(3)樹脂成形体の外観評価
実施例又は比較例に記載の3次元プリンタ用フィラメントを用いて、図1~2に示す形状の樹脂成形体を、ダンベルの長さ方向を積層方向として、3次元プリンタにより後述する実施例又は比較例に記載の製造条件に従って成形した。詳細には、樹脂成形体は、長さ75mm、幅10mm、厚み5mmのダンベル状サンプル4本が、長さ2cm、厚さ0.8mmのリブで繋がれた形状であった。樹脂成形体を成形する際、3次元プリンタのチャンバー内の温度は、用いる3次元プリンタ用フィラメントの結晶化温度(Tc)より約30℃低い温度に設定した。
【0090】
この樹脂成形体の外観を目視で評価し、外観を以下のように評価した。
・Excellent:樹脂成形体表面に、波うち等の不具合がみられなかった。
・Good:樹脂成形体表面のうち一部に波うち等の不具合がみられたが、許容範囲であった。
・NG:樹脂成形体表面のほぼ全面に波うち等の外観不良がみられた。
【0091】
(4)樹脂成形体の靭性評価
上記(3)における成形後、3次元プリンタのチャンバー内の温度を100℃以下程度まで冷却して樹脂成形体を取り出す際、造形テーブルから剥がすときの樹脂成形体の挙動で、樹脂成形体の脆さを以下のように判断した。
・OK:スクレーパーで造形テーブルから剥がす際、樹脂成形体が破壊されなかった。
・NG:スクレーパーで造形テーブルから剥がす際、剥がす力により樹脂成形体の一部が破壊された。
【0092】
(5)樹脂成形体の層間接着性評価
上記(3)において成形した樹脂成形体からリブおよび台座部分を取り除いて得られる4本のダンベル状サンプルを、Z軸方向(積層方向)の強度評価用の試験片として用いた。この4本の試験片のそれぞれについて、JIS K7161に準拠して引張強度を測定し、測定された引張強度の平均値を樹脂成形体の層間接着強度(Z軸方向の強度)として評価した。
【0093】
実施例、比較例で用いた結晶性樹脂(A)および非晶性樹脂(B)を以下に示す。
・結晶性樹脂(A-1);ポリアミド9T(株式会社クラレ製、商品名:ジェネスタN1000A、Tg:118℃、Tm:290℃および299℃、Tc:276℃、ΔHc:39J/g、ペレット状)
・結晶性樹脂(A-2);結晶性樹脂(A-1)の炭素繊維30質量%混練品、ペレット状、Tg:116℃、Tm:288℃および297℃、Tc:270℃、ΔHc:27J/g、ペレット中の炭素繊維長:約10~500μm
・結晶性樹脂(A-3);結晶性樹脂(A-1)と、ポリアミド9T(株式会社クラレ製、商品名:ジェネスタN1001D、Tg:119℃、Tm:263℃、Tc:228℃、ΔHc:22J/g、ペレット状)を、質量比で40/60でドライブレンドし、単軸押出機(Φ25mm、L/D=30)にて設定温度320℃で、スクリュー回転数70rpmで混練し、ダイス径2mmから押出してペレタイズした、ペレット状の混練品。この樹脂の物性は、Tg:118℃、Tm:263℃、Tc:253℃、ΔHc:21J/gであった。
・非晶性樹脂(B-1);(EMS社製、商品名:グリルアミドTR-60、Tg:185℃、ジカルボン酸成分:イソフタル酸44モル%/テレフタル酸56モル%)、ペレット状
【0094】
(実施例1)
使用するペレット状の各樹脂を事前に120℃で24時間乾燥させて、ペレットの含水率を0.1質量%以下とした。結晶性樹脂(A-1)/結晶性樹脂(A-2)/非晶性樹脂(B-1)を質量比で60/10/30でドライブレンドし、同方向2軸押出機(Φ30mm、L/D=30)にて設定温度320℃で、スクリュー回転数70rpmで混練し、ノズル径Φ3mmから吐出されたストランドを水冷後ペレタイズして、炭素繊維が3質量%含有された3次元造形材料を得た。この3次元造形材料を、120℃で24時間乾燥させてから、単軸押出機(Φ25mm、L/D=30)にて設定温度320℃で、スクリュー回転数70rpmで混練し、ダイス径2mmから押出し、85℃水槽を経て引取装置で30m/分で引き取って、炭素繊維が3質量%含有された、平均直径1.75mmの3次元プリンタ用フィラメントを製造した。得られたフィラメントは、120℃で24時間乾燥させた。このフィラメントを用いて、MEX方式3次元プリンタ(miniFactory社製、商品名:Ultra 3D printer)により、チャンバー内の温度220℃、テーブル温度220℃、ノズル温度340℃、成形速度30mm/s、積層ピッチ0.25mmの条件で、樹脂成形体を成形した。樹脂成形体の外観は良好であり、脆化もなく、3次元プリンタから良好に取り出すことができた。
得られた3次元プリンタ用フィラメントの組成を表1に示し、樹脂成形体についての各種評価結果を表2に示す。
【0095】
(実施例2)
使用するペレット状の各樹脂を事前に120℃で24時間乾燥させて、ペレットの含水率を0.1質量%以下とした。結晶性樹脂(A-1)/非晶性樹脂(B-1)を質量比で70/30でドライブレンドし、単軸押出機(Φ25mm、L/D=30)にて設定温度320℃で、スクリュー回転数70rpmで混練し、ダイス径2mmから押出し、85℃水槽を経て引取装置で30m/分で引き取って、平均直径1.75mmの3次元プリンタ用フィラメントを製造した。得られたフィラメントは、120℃で24時間乾燥させた。このフィラメントを用いて、実施例1と同様に樹脂成形体を成形した。樹脂成形体の外観は、一部表面に波うちがみられるものの良好であり、脆化もなく、3次元プリンタから良好に取り出すことができた。
得られた3次元プリンタ用フィラメントの組成を表1に示し、樹脂成形体についての各種評価結果を表2に示す。
【0096】
(比較例1)
結晶性樹脂(A-1)を結晶性樹脂(A-3)に変更し、3次元プリンタのチャンバー内およびテーブル温度を180℃にした以外は実施例2と同様にして、平均直径1.75mmの3次元プリンタ用フィラメントおよび樹脂成形体を製造した。樹脂成形体に脆化はみられず、3次元プリンタから良好に取り出すことができたが、造形物全面に大きな波うちがみられ、外観が不良であった。
得られた3次元プリンタ用フィラメントの組成を表1に示し、樹脂成形体についての各種評価結果を表2に示す。
【0097】
(比較例2)
樹脂材料として結晶性樹脂(A-1)のみを用いたこと、及び、3次元プリンタのチャンバー内およびテーブル温度を250℃にした以外は実施例2と同様にして、平均直径1.75mmの3次元プリンタ用フィラメント及び樹脂成形体を製造した。樹脂成形体の外観は実施例2と同等であったが、樹脂成形体は脆化しており、3次元プリンタから取り出す際に台座部分が破損した。
得られた3次元プリンタ用フィラメントの組成を表1に示し、樹脂成形体についての各種評価結果を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表1~2より、実施例1および実施例2の3次元造形材料は、本発明の(i)~(iii)に特定される熱特性を満たしているため、外観や強度に優れる樹脂成形体を製造することができた。また、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1では結晶化温度(Tc)での引張貯蔵弾性率(E’)がより好ましい範囲となっているため、樹脂成形体の外観により優れる結果となっている。
一方で、比較例1は、融点(Tm)-結晶化温度(Tc)が上記(ii)の範囲を超えることと、結晶化温度(Tc)-ガラス転移温度(Tg)が上記(iii)の範囲を下回ることにより、3次元プリンタのノズルから吐出された樹脂が固化しにくく、成形した樹脂成形体の外観に劣る結果となった。また、比較例2では、結晶化温度(Tc)-ガラス転移温度(Tg)が上記(iii)の範囲を超えるため、結晶化温度(Tc)-30℃付近の温度では熱劣化がおきやすく、成形した樹脂成形体は脆いものであった。
また、実施例1および実施例2では、融点(Tm)-結晶化温度(Tc)が比較例2よりもさらに好ましい範囲になっているため、比較例2よりも樹脂成形体の層間接着性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の3次元プリンタ用材料は、融点の高いエンプラ系/スーパーエンプラ系の樹脂であっても、3次元プリンタにおける高温雰囲気下での成形性に優れ、機械強度に優れた樹脂成形体を得ることができるため、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車、航空機等の各種パーツ;電機・電子機器用資材、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、医療用品等の用途に利用可能である。
図1
図2