(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070684
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】金属有機構造体薄膜の作製方法
(51)【国際特許分類】
C23C 20/00 20060101AFI20240516BHJP
C23C 18/18 20060101ALI20240516BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240516BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240516BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C23C20/00
C23C18/18
B05D1/36 B
B05D1/26 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181316
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】南 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 由比
(72)【発明者】
【氏名】大代 晃平
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
【テーマコード(参考)】
4D075
4K022
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC92
4D075AC93
4D075AC94
4D075AE06
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4D075BB65X
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4D075DB54
4D075DC21
4D075EA07
4D075EA41
4D075EC07
4D075EC10
4D075EC54
4K022AA03
4K022BA05
4K022BA08
4K022BA15
4K022BA25
4K022BA28
4K022BA33
4K022CA03
4K022CA09
4K022DA09
4K022DB01
4K022DB18
4K022DB24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便な手法により均一性の高いMOF薄膜を効率的に作製できる方法を提供すること。
【解決手段】印刷技術を用いて金属イオンと有機配位子を交互に基材上で積層させる、金属有機構造体(MOF)薄膜の作製方法であって、以下の工程:A)基材上に、金属イオンを含む第1の溶液を掃引により塗布する工程;B)次いで、前記基材上に、有機配位子を含む第2の溶液を掃引により塗布する工程;及びC)前記工程A)及びB)を複数回繰り返す工程;及びD)前記基材を乾燥させることにより、金属有機構造体(MOF)薄膜を表面に有する基材を得る工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体(MOF)薄膜の作製方法であって、以下の工程:
A)基材上に、金属イオンを含む第1の溶液を掃引により塗布する工程;
B)次いで、前記基材上に、有機配位子を含む第2の溶液を掃引により塗布する工程;及び
C)前記工程A)及びB)を複数回繰り返す工程;及び
D)前記基材を乾燥させることにより、金属有機構造体(MOF)薄膜を表面に有する基材を得る工程
を含む、作製方法。
【請求項2】
前記工程A)及びB)における塗布が、0.05~0.5mmの溝幅及び0.5~5cmの長さのスリットを有するディスペンサーを所定の速度で掃引し、当該スリットから前記第1又は第2の溶液を基材上に排出することによって行われる、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記工程A)の前に、前記基材上に、前記金属イオンと結合し得る自己組織化単分子膜を形成させる工程をさらに含む、請求項1に記載の作製方法。
【請求項4】
前記工程C)における繰り返し回数を変化させることによって、得られる金属有機構造体(MOF)薄膜の導電性を制御することを含む、請求項1に記載の作製方法。
【請求項5】
前記工程A)及び/又はB)における塗布速度が、1~50μL/sである、請求項1に記載の作製方法。
【請求項6】
前記工程A)及び/又はB)における掃引速度が、1~30mm/sである、請求項1に記載の作製方法。
【請求項7】
前記第1の溶液中における金属イオン濃度が、0.1~10mMである、請求項1に記載の作製方法。
【請求項8】
前記第2の溶液中における有機配位子濃度が、0.1~10mMである、請求項1に記載の作製方法。
【請求項9】
前記基材を所定温度に加熱しながら前記工程A)~C)の各工程を行う、請求項1に記載の作製方法。
【請求項10】
前記基材温度が25~100℃の条件で、前記工程A)~C)の各工程を行う、請求項1に記載の作製方法。
【請求項11】
前記金属イオンが、銅(II)イオン又は亜鉛(II)イオンである請求項1に記載の作製方法。
【請求項12】
前記有機配位子が、前記金属イオンに配位結合する2以上の配位基を有する、請求項1に記載の作製方法。
【請求項13】
前記有機配位子が、カテコール基を有する、請求項1に記載の作製方法。
【請求項14】
前記第1及び/又は第2の溶液における溶媒が、有機溶媒である、請求項1に記載の作製方法。
【請求項15】
前記工程C)の前に、基材表面を溶媒で洗浄する工程をさらに有する、請求項1に記載の作製方法。
【請求項16】
前記自己組織化単分子膜が、前記基材表面と共有結合し得る官能基と、前記金属イオンと結合し得る官能基とを有する分子によって形成される、請求項3に記載の作製方法。
【請求項17】
金属有機構造体(MOF)薄膜が、10~100nmの厚さを有する、請求項1に記載の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷技術を用いて均一性の高いMOF薄膜作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性化合物である金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)は、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)とも呼ばれる材料である。MOFは、金属と有機配位子との相互作用により形成された高表面積の配位ネットワーク構造を有する。近年、このような金属有機構造体に関して、様々な研究開発が行われている。
【0003】
近年、このような金属有機構造体に関して、様々な研究開発が行われている。例えば、センサデバイスにおいて、金属有機構造体から形成された薄膜(MOF薄膜)を活用することが試みられている。このようなMOF薄膜センサデバイスの開発において、再現性のあるデバイスを確立するためには均一なMOF薄膜の作製技術が重要となる。
【0004】
このようなMOF薄膜を作製するための従来手法としては、溶液で合成したMOFを基板上に滴下するドロップキャスト法(例えば、非特許文献1)や、気液界面で合成したMOFを基板上に転写させる転写法(例えば、非特許文献2)が知られている。しかしながら、ドロップキャスト法では、局所的には秩序高いMOFが形成され得るものの、バルクMOFの分散液を用いるため膜全体としては不均一になってしまうという問題があった。また、転写法では、基板上へのMOFの転写量の制御が困難であり、この場合も膜の均一性が十分ではないという課題があった。
【0005】
その他にも、基板上で金属イオンと有機配位子を交互に積層させる、いわゆるLbL(Layer-by-Layer)法に属するいくつかの手法も存在するが、いずれも実用面で十分なものではなかった。例えば、浸漬法は、金属イオン溶液と有機配位子溶液に基板を交互に浸漬させ、基板上にMOF膜を形成させる手法であるが、各段階における浸漬に時間を要するため、プロセスの長時間化が課題となる(例えば、非特許文献3)。また、スプレー法は、金属イオン溶液と有機配位子溶液を交互に基板表面にスプレーすることで、基板上にMOF膜を形成させる手法であるが、大面積化が困難であるのに加え、実際の塗布量に対して過剰量の試薬や溶媒量を必要とするため、経済効率等の点で実用化のための課題があった(例えば、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Z. Wang, et al., Appl. Phys. Lett., 2020, 117, 093303.
【非特許文献2】G. Xu, et al, J. Am. Chem. Soc., 2017, 139, 1360.
【非特許文献3】L. Chen, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2020, 59, 1118.
【非特許文献4】M. Dinca, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 16510.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、簡便な手法により均一性の高いMOF薄膜を効率的に作製できる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、印刷技術を用いて金属イオンと有機配位子を交互に基材上で積層させることで、均一性の高いMOF薄膜を形成させることができることを見出した。さらに、かかる方法では、掃引塗布する速度、塗布量、積層数の適宜制御することができ、特に、積層数を変化させることでMOF薄膜の導電性を制御できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1> 金属有機構造体(MOF)薄膜の作製方法であって、以下の工程:A)基材上に、金属イオンを含む第1の溶液を掃引により塗布する工程;B)次いで、前記基材上に、有機配位子を含む第2の溶液を掃引により塗布する工程;及びC)前記工程A)及びB)を複数回繰り返す工程;及びD)前記基材を乾燥させることにより、金属有機構造体(MOF)薄膜を表面に有する基材を得る工程を含む、作製方法
を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、好ましい態様において、
<2>前記工程A)及びB)における塗布が、0.05~0.5μmの溝幅及び0.5~5cmの長さのスリットを有するディスペンサーを所定の速度で掃引し、当該スリットから前記第1又は第2の溶液を基材上に排出することによって行われる、上記<1>に記載の作製方法;
<3>前記工程A)の前に、前記基材上に、前記金属イオンと結合し得る自己組織化単分子膜を形成させる工程をさらに含む、上記<1>に記載の作製方法;
<4>前記工程C)における繰り返し回数を変化させることによって、得られる金属有機構造体(MOF)薄膜の導電性を制御することを含む、上記<1>に記載の作製方法;
<5>前記工程A)及び/又はB)における塗布速度が、1~50μL/sである、上記<1>に記載の作製方法;
<6>前記工程A)及び/又はB)における掃引速度が、1~30mm/sである、上記<1>に記載の作製方法;
<7>前記第1の溶液中における金属イオン濃度が、0.1~10mMである、上記<1>に記載の作製方法;
<8>前記第2の溶液中における有機配位子濃度が、0.1~10mMである、上記<1>に記載の作製方法;
<9>前記基材を所定温度に加熱しながら前記工程A)~C)の各工程を行う、上記<1>に記載の作製方法;
<10>前記基材温度が25~100℃の条件で、前記工程A)~C)の各工程を行う、上記<1>に記載の作製方法;
<11>前記金属イオンが、銅(II)イオン又は亜鉛(II)イオンである上記<1>に記載の作製方法;
<12>前記有機配位子が、前記金属イオンに配位結合する2以上の配位基を有する、上記<1>に記載の作製方法;
<13>前記有機配位子が、カテコール基を有する、上記<1>に記載の作製方法;
<14>前記第1及び/又は第2の溶液における溶媒が、有機溶媒である、上記<1>に記載の作製方法;
<15>前記工程C)の前に、基材表面を溶媒で洗浄する工程をさらに有する、上記<1>に記載の作製方法;
<16>前記自己組織化単分子膜が、前記基材表面と共有結合し得る官能基と、前記金属イオンと結合し得る官能基とを有する分子によって形成される、上記<3>に記載の作製方法;及び
<17>金属有機構造体(MOF)薄膜が、10~100nmの厚さを有する、上記<1>に記載の作製方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば掃引塗布する速度、塗布量、積層数の適宜制御することができ、オンデマンドに均一性の高いMOF薄膜を形成させることができる。特に、本発明によれば、積層数を変化させることでMOF薄膜の導電性を制御できる。また、本発明の方法は、プラスチックなどの柔軟な基材に対しても適用できる手法であるため、フレキシブルデバイスへの応用も可能である。さらに、塗布量を少量に制御できるため、省材料化による材料費の削減でき、簡便かつ安価な手法によりMOF薄膜を製造できるため、大量生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明における掃引塗布の機構を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明によるMOF薄膜形成の全体工程を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例で用いたロボティックディスペンサーの写真である。
【
図4】
図4は、実施例におけるMOF薄膜作成工程である(手順1~3)。
【
図5】
図5は、実施例におけるMOF薄膜作成工程である(手順4~5)。
【
図6】
図6は、実施例におけるMOF薄膜作成工程である(手順6~8)。
【
図7】
図7は、ボトムアップアプローチを用いた基板上へのMOF(Cu
3(HHTP)
2)薄膜の作製工程を示す概略図である。
【
図8】
図8は、実施例で得られたMOF薄膜のレーザー顕微鏡画像である。
【
図9】
図9は、実施例で得られたMOF薄膜のUV-Vis吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図10】
図10は、四端子法を用いた導電性の評価における電極構成を示したものである。
【
図11】
図11は、実施例で得られたMOF薄膜の導電性の測定結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例で得られたMOF薄膜のアンモニアガス濃度増加に伴う導電性の変化を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例で得られたMOF薄膜のアンモニアガス濃度増加に伴う導電性の変化率を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例で得られたMOF薄膜の各ガス分子に対する導電性の変化率を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例で得られたMOF薄膜のアミン系ガス分子に対する線形判別分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0014】
上述のように、本発明は、金属有機構造体(MOF)薄膜の作製方法であって、以下の工程A)~D)を含むことを特徴とする:
A)基材上に、金属イオンを含む第1の溶液を掃引により塗布する工程;
B)次いで、前記基材上に、有機配位子を含む第2の溶液を掃引により塗布する工程;及び
C)前記工程A)及びB)を複数回繰り返す工程;及び
D)前記基材を乾燥させることにより、金属有機構造体(MOF)薄膜を表面に有する基材を得る工程。
【0015】
1.工程A)
工程A)は、金属有機構造体(MOF)を構成する金属イオンを含む溶液(第1の溶液)を、基材上に塗布する工程である。当該塗布は、第1の溶液を格納するディスペンサーを基材上で掃引することにより当該溶液を塗布する、いわゆるスリットコート法を用いることを特徴とするものである。
【0016】
典型的には、当該スリットコート法による掃引塗布は、
図1に示すように、基材を固定した状態で、特定のサイズのスリット(溝)を有するディスペンサーを所定の速度で掃引し、当該スリットから第1の溶液を基材上に排出することによって行うことができる。当該ディスペンサーは、スリットコーターと呼ばれる場合もある。かかる掃引塗布は、スリットから供給される溶液の表面張力によって形成されるメニスカスを利用することで、基材表面上に均一に塗布するものである。
【0017】
当該スリットへの第1の溶液の供給は、第1の溶液を格納したシリンジ等の機器を用いて行うことができる。当該シリンジは、供給する溶液量を調整するためのノズルを先端に設けてもよい。好ましくは、当該掃引塗布は、掃引速度及び溶液供給量を機械的に制御可能なロボティックディスペンサーを用いて行うことができる。
【0018】
好ましい態様において、上記ディスペンサーに設けられたスリットの溝幅は、0.05~0.5mmの範囲、より好ましくは、0.075~0.3mmであることができる。当該溝幅が小さいほど、少量の溶液を均一に基材上に塗布することができる。
【0019】
また、上記スリットの長さ(これは、掃引方向と垂直方向におけるディスペンサーの横幅に対応する)は、基材等の大きさに応じて適宜変更することができるが、好ましくは、0.5~5cmの範囲、より好ましくは、0.75~3cmであることができる。
【0020】
第1の溶液に含有される金属イオンとしては、当該技術分野においてMOFを形成し得ることが知られている金属イオンであれば特に限定されないが、典型的には遷移金属イオン又はアルカリ土類金属イオンであることができる。遷移金属としては、周期表の3A、4A、5A、6A、7A、8、1B、2B族の元素を用いることができる。また、かかる金属イオンは、二価又は三価の陽イオンであることができ、例えば、二価の金属イオンは、Ni+2、Zn+2、Cu+2、Co+2、Mg+2、Ca+2、Fe+2、Mn+2など、および三価の金属イオンたとえば、Fe+3、Al+3、Cr+3、Mn+3などを挙げることができる。6配位錯体を形成しやすいという観点から、銅(II)イオン(Cu+2)を用いることが特に好ましく、亜鉛(II)イオン(Zn+2)も同様に好ましい。これらの金属イオンは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記金属イオンは、金属塩の形態で第1の溶液に溶解させることによって提供することができる。例えば、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩などであることができ、場合により、それらの水和物であってもよい。
【0022】
第1の溶液中における金属イオン濃度は、好ましくは、0.1~10mMの範囲であり、より好ましくは、1~5mMの範囲である。
【0023】
工程A)における第1の溶液の塗布速度は、基材の種類や温度条件、第1の溶液に用いられる溶媒の種類等に応じて適宜変更することができるが、好ましくは、1~50μL/sの範囲である。そのため、ディスペンサーの掃引速度は、好ましくは、1~30mm/sの範囲とすることができる。
【0024】
第1の溶液における溶媒は、所望の揮発性を有する任意の溶媒を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、及びそれらの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、溶媒は、有機溶媒、又は有機溶媒と水の混合溶媒である。場合により、溶媒には、特定量のギ酸や酢酸等の酸を含むことができる。
【0025】
工程A)で用いられる基材は、その表面上にMOF薄膜を形成するための基材となりものであり、例えば、ガラス、金属、ポリエチレン、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、金属酸化物、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の素材を用いることができる。好ましい態様では、表面に機能性の修飾を付与された基材を用いることもできる。これを主として、基材上に金属イオンの足場を形成させる目的である。より具体的には、基材は、上記金属イオンと結合し得る機能性表面を有することができ、かかる機能性表面は、好ましくは、自己組織化単分子膜(SAM)であることができる。
【0026】
したがって、本発明の作製方法は、好ましい態様において、工程A)の前に、前記基材の表面を修飾する工程をさらに含むことができる。より好ましくは、本発明の作製方法は、工程A)の前に、前記基材上に、前記金属イオンと結合し得る自己組織化単分子膜を形成させる工程をさらに含むことができる。かかる自己組織化単分子膜は、基材表面と共有結合し得る官能基Xを有する分子を基材表面上に添加することで形成することができる。好ましくは、当該分子は、基材表面と共有結合し得る官能基Xと、金属イオンと結合し得る官能基Yとを有する。
【0027】
上記自己組織化単分子膜を形成するための分子において、官能基Xとしては、例えば、チオール基(-SH)、アミノ基、シラノール基、ジスルフィド基、ホスホン酸基、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等の活性エステル基などを用いることができる。一方、官能基Yとしては、例えば、カルボキシル基、アミノ基などを用いることができる。これらの官能基X及びYは、それぞれ分子の末端に存在することが好ましい。上記自己組織化単分子膜を形成するための分子の具体例としては、4-メルカプト安息香酸(4-MBA)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
また、工程A)において、基材の温度は、第1の溶液における溶媒が揮発する温度である限り任意の条件で行うことができるが、典型的には、20~100℃の範囲で行うことができる。用いる溶媒の種類にもよるが、好ましい態様では、工程A)は、基材を所定温度に加熱しながら行うことができ、その場合、基材温度は、25~100℃の範囲、好ましくは40~80℃とすることができる。これらの基材温度の条件は、後述の工程B)及びC)についても同様である。
【0029】
2.工程B)
工程B)は、工程A)によって第1の溶液を塗布した基材上に、次いで、MOFを構成するもう一方の成分である有機配位子を含む溶液(第2の溶液)を塗布する工程である。当該塗布は、工程A)と同様に、第2の溶液を格納するディスペンサーを基材上で掃引することにより当該溶液を塗布するスリットコート法によって行われる。
【0030】
当該ディスペンサーの構造等については、上記工程A)で述べたとおりである。上述のようにシリンジからディスペンサーに溶液を供給する機構を採用した場合には、工程A)の終了後に、用いたシリンジを第2の溶液を格納した新たなシリンジと交換することで、工程B)を続けて行うことができる。
【0031】
第2の溶液に含有される有機配位子としては、当該技術分野においてMOFを形成し得ることが知られている化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、上記金属イオンへの配位のための2以上の配位基、たとえばビ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、ヘキサ-デンテートの配位子である化合物を挙げることができる。すなわち、好ましい態様において、有機配位子は、上記金属イオンに配位結合する2以上の配位基を有する化合物である。
【0032】
好ましい態様では、上記配位基は、カテコール基、カルボキシル基(カルボキシレートアニオン)、ピリジル基、アミノ基などを挙げることができる。そのような配位基を有する有機配位子の具体例としては、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン (HHTP)、芳香族カルボン酸、ヘテロ芳香族化合物などを挙げることができる。好ましくは、本発明における有機配位子は、配位基として1又は2以上のカテコール基を有する。
【0033】
上記有機配位子は、中性又はアニオン性の配位子であることができるが、いずれの場合も有機溶媒への溶解性を有する化合物であることが好ましい。場合によって、有機配位子は、塩の形態で第2の溶液に溶解させることによって提供することもでき、例えば、アルカリ金属塩などであることができる。
【0034】
第2の溶液中における有機配位子の濃度は、好ましくは、0.1~10mMの範囲であり、より好ましくは、1~5mMの範囲である。
【0035】
工程B)における第2の溶液の塗布速度は、基材の種類や温度条件、第2の溶液に用いられる溶媒の種類等に応じて適宜変更することができるが、好ましくは、1~50μL/sの範囲である。そのため、ディスペンサーの掃引速度は、好ましくは、1~30mm/sの範囲とすることができる。工程B)における塗布速度及び/又は掃引速度は、工程A)と同一又は異なる条件とすることができるが、互いに同一であることが好ましい。
【0036】
第2の溶液における溶媒は、上記第1の溶液と同様に、所望の揮発性を有する任意の溶媒を用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)、水、及びそれらの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、溶媒は、有機溶媒、又は有機溶媒と水の混合溶媒である。場合により、溶媒には、特定量のギ酸や酢酸等の酸を含むことができる。第1の溶液と第2の溶液における溶媒は、互いに同一又は異なる種類のものを用いることができるが、同一の溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
3.工程C)
工程C)は、上記工程A)及びB)を交互に複数回繰り返す工程である。
図2に示すように、基材表面への金属イオンの掃引塗布及び有機配位子の掃引塗布を1サイクルとし、これをn回のサイクルで繰り返し行うことで、基材表面に均質性の高いMOF層を形成させることができる。本発明の作製方法によれば、従来の手法である浸漬法やスプレー法に比べて、少ないサイクル数(すなわち、少ない積層数)によって導電性を有するMOF薄膜を得ることができる点に優位性が存在する。
【0038】
好ましい態様では、工程A)及びB)は、2~20サイクル、2~15サイクル、或いは、2~10サイクルで行うことができ、特に好ましくは、2~5サイクルで行うことができる。後述の実施例で実証されているように、かかるサイクル数を変化させることによって、得られるMOF薄膜の導電性を制御できる。すなわち、サイクル数を増加させることに伴い、MOF薄膜の導電性を高めることができる。したがって、本発明の作製方法は、工程C)における繰り返し回数を変化させることによって、得られる金属有機構造体(MOF)薄膜の導電性を制御することを含むことができる。なお、所望の導電性の観点以外にも、目的とするMOF自体の種類や塗布する溶液の濃度等に応じて、サイクル数を設定することができる。
【0039】
また、本発明の作製方法は、必要に応じて、工程C)の前に、基材表面を任意の溶媒で洗浄する工程をさらに有することもできる。そのような溶媒としては、第1及び/第2の溶液に用いたものと同じ溶媒であることができ、或いは、それとは異なる溶媒を用いることもできる。典型的には、洗浄工程で用いる溶媒は、エタノール等の有機溶媒である。
【0040】
4.工程D)
工程D)は、工程C)の処理を行った後の基材を乾燥させることで、目的とするMOF薄膜を表面に有する基板を得る工程である。これにより、残存する溶媒等を除去することができる。当該乾燥は、一定時間、自然乾燥させること、或いは、所定の温度まで加熱した条件で乾燥させることにより行うことができる。場合により、減圧条件下で乾燥させてもよい。典型的には、室温~40℃で24時間~48時間、乾燥させることができる。
【0041】
かかる工程によって得られるMOF薄膜は、大面積で、従来より薄い薄膜であることができる。例えば、本発明の作製方法により得られるMOF薄膜は、所望の導電性を有しつつ、10~100nmの範囲、好ましくは、20~80nmの範囲の厚さを有することができる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。