(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070827
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】一価アルコール系溶剤
(51)【国際特許分類】
C09D 11/00 20140101AFI20240516BHJP
【FI】
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187867
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2022181147
(32)【優先日】2022-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】倉富 格
(72)【発明者】
【氏名】川辺 正直
(72)【発明者】
【氏名】永井 宗仁
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD09
4J039AE06
4J039AE11
4J039BC07
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
(57)【要約】
【課題】 引火点が高く、取扱う上での安定性が高く、かつ溶剤としての特性に優れている一価アルコール系溶剤を提供する。
【解決手段】 単環の脂環骨格を有する炭素数7~9の脂環式一価アルコールを96.0質量%以上含み、
前記脂環式一価アルコールの94.0質量%以上が単環の炭素数8の脂環式一価アルコールと単環の炭素数9の脂環式一価アルコールで構成され、
前記炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量が0.4~4.0質量%である一価アルコール系溶剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単環の脂環骨格を有する、炭素数7~9の脂環式一価アルコールを96.0質量%以上含み、
前記脂環式一価アルコールの94.0質量%以上が単環の炭素数8の脂環式一価アルコールと単環の炭素数9の脂環式一価アルコールで構成され、
前記炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量が0.4~4.0質量%である一価アルコール系溶剤。
【請求項2】
単環の炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び単環の炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、単環の炭素数7の脂環式一価アルコールの含有量が0.5~7.0質量%である請求項1に記載の一価アルコール系溶剤。
【請求項3】
前記炭素数7~9の脂環式一価アルコールがアルキル化シクロヘキサノールである、請求項1に記載の一価アルコール系溶剤。
【請求項4】
前記炭素数8の脂環式一価アルコールのうち70.0質量%以上がジメチルシクロヘキサノールである、請求項1に記載の一価アルコール系溶剤。
【請求項5】
JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点が70℃以上である、請求項1に記載の一価アルコール系溶剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の一価アルコール系溶剤の塗料用溶剤への使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の一価アルコール系溶剤の接着剤用溶剤への使用。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の一価アルコール系溶剤の粘着剤用溶剤への使用。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の一価アルコール系溶剤のインク用溶剤への使用。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の一価アルコール系溶剤の銀粒子を含まないインクへの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利便性に優れた一価アルコール系溶剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
一価アルコール系溶剤の中でも脂肪族系・脂環式系一価アルコール溶剤は、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶剤に比べ作業環境、自然環境に対し低負荷であり、安定性が高い溶剤として需要が拡大している。なかでも脂環式一価アルコール系溶剤は、環状構造を持つ事に起因して同じ炭素数の鎖状脂肪族一価アルコール系溶剤より環状化合物の溶解性に優れており、適用範囲がより広い溶剤である。
一方で、日本の消防法で危険物第四類第三石油類に該当する溶剤は、高温下で安定的にできることから好ましい溶剤とされ、輸送及び貯蔵可能量の面で規制が厳しくなく、需要が高まっている。第三石油類に該当する溶剤には、引火点が70℃以上であることが求められる。
【0003】
このような需要に適する脂環式一価アルコール系溶剤の技術として、特許文献1及び特許文献2では、脂環式一価アルコールと、炭化水素とを含有する、銀ナノ粒子を使用したインク用溶剤が開示されている。具体的には、特許文献1では、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(引火点74℃)、d,l-メントール(引火点95℃)、シクロヘキサンメタノール(引火点71℃)、シクロヘキサンエタノール(引火点72℃)が開示され、また、特許文献2では、前記に加え、3,5-ジメチルシクロヘキサノール(引火点73℃)、2-エチルシクロヘキサノール(引火点68℃)、1-メチルシクロヘキサノール(引火点68℃)が開示され、特許文献1及び2では、これらの溶剤とn-ヘキサデカン(引火点136℃)又はn-ペンタデカン(引火点120℃)を混合して使用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2で提案されている溶剤は、構造が大きく異なる異種の化合物を混合したものである。その場合、揮発性が大きく異なる等、混合物とした際、使用性に課題を有する場合がある。例えば、複数の成分からなる溶剤を塗料に使用した場合、溶剤成分の揮発により溶剤の組成比が変化して、溶解性(溶解性パラメータ)や粘性が大きく変化し、当初は溶解していた材料成分の予期せぬ析出や凝集等が起こることがある。特許文献1及び2に記載の発明においては、このような使用性に関する考慮はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-099756号公報
【特許文献2】特開2019-102376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、引火点が高く、取扱う上での安定性が高く、かつ溶剤としての諸特性に優れている一価アルコール系溶剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、脂環式一価アルコール系溶剤の構成成分が特定範囲にある混合物が上記の課題を達成することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、第1の本発明は、単環の脂環骨格を有する、炭素数7~9の脂環式一価アルコールを96.0質量%以上含み、前記脂環式一価アルコールの94.0質量%以上が単環の炭素数8の脂環式一価アルコールと単環の炭素数9の脂環式一価アルコールで構成され、
前記炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量が0.4~4.0質量%である、一価アルコール系溶剤にかかるものである。
【0009】
また、第2の本発明は、単環の炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び単環の炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、単環の炭素数7の脂環式一価アルコールの含有量が0.5~7.0質量%である前記の一価アルコール系溶剤にかかるものである。
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地上のほとんどの屋外環境温度で引火しない、高い安定性を有する一価アルコール系溶剤が提供される。本発明の一価アルコール系溶剤は、揮発操作に対し安定した溶解度パラメータを有し、また、高い引火点と優れた溶剤特性を兼ね備えた一価アルコール系溶剤であり、引火性の低い溶剤として、高温下にて使用する用途の溶剤として利用することができる。
【0011】
本発明の一価アルコール系溶剤は、特に、塗料用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、インク用溶剤として良好に使用できるという優れた効果を奏する。具体的には、本発明の一価アルコール系溶剤を使用することにより、付着性が良好な塗膜を形成する塗料、粘着性の高い粘着剤、分散性に優れた油性インクが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一価アルコール系溶剤は、特定の成分を特定の比率で含有する一価アルコール系混合物からなる。本発明の一価アルコール系溶剤は、単一の一価アルコールと比較して、溶剤として使用する上での諸特性に優れている。
本発明において、単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールとは、芳香族性を有せず、縮合していない飽和または不飽和の炭素環を1個有する飽和または不飽和の炭素環を構成するいずれか一つの炭素原子が1個水酸基の結合した化合物を指し、好ましくは、縮合していない飽和の炭素環を1個有する飽和の炭化水素骨格に水酸基が1個結合した化合物である。単環の脂環骨格として、縮合していない飽和の炭素環の例は、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環であり、より好ましくは、化合物の安定性、安価入手性という理由からシクロヘキサン環である。
【0013】
本発明の脂環式一価アルコールにおいては、単環の脂環骨格に脂肪族の分枝が一つ又は複数置換されていても差支えない。例えば、本発明において、「単環の炭素数8の脂環式一価アルコール」とは、前記単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールであって、かつ当該脂環式一価アルコールを構成する炭素原子の数が分枝を含めて全部で8である化合物を意味する。
以下、一価アルコール系溶剤に含まれる炭素数7,8又は9の単環の脂環式一価アルコールを、それぞれC7成分、C8成分又はC9成分と略称することがある。
【0014】
本発明における脂環式一価アルコールを構成する成分比は、ガスクロマトグラフィー法により求められる。ガスクロマトグラフィー法としては、脂環式一価アルコールの各成分のピークを良好に分離し、内部標準法により定量する方法が採用される。具体的には、無極性カラム、極性カラム及びFID検知器を用いて、カラム温度を40℃から220℃に昇温する方法が採用できる。無極性カラムとしては、TC-1(ヒューレットパッカード社製)、SH-I-1MS(島津製作所(株)製)、DB-1(アジレントテクノロジー社製)が例示される。また、極性カラムとしてはDB-WAXetr(島津製作所(株)製)、DB-WAX(アジレントテクノロジー社製)が例示される。
【0015】
本発明においては、脂環式一価アルコールの94.0質量%以上が単環の炭素数8の脂環式一価アルコール(C8成分)と単環の炭素数9の脂環式一価アルコール(C9成分)とで構成され、かつ、C8成分含有量とC9成分含有量の和を100.0質量%としたとき、C9成分含有量が0.4~4.0質量%で、C8成分が残部である。本発明の一価アルコール系溶剤において、単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールの含有量並びに脂環式一価アルコールのC8成分及びC9成分の含有量が重要である。
【0016】
本発明における一価アルコール系溶剤において、単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールは96.0質量%以上含まれる。一価アルコール系溶剤全体に対する単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにおいて検出される、脂環式一価アルコール含有量の総和として求めることができる。例えば、ガスクロマトグラフィーに現れる各ピークについてGC-MSと原料構成等からの推定にて構造を同定し、その結果を元に内部標準物質を用いて定量することによって求めることができる。
【0017】
当該脂環式一価アルコールの含有率は、一価アルコール系溶剤全体に対し96.0質量%以上であり、97.0質量%以上が好ましく、98.0質量%以上がより好ましい。脂環式一価アルコールの含有量がこの範囲にあることにより、本発明の一価アルコール系溶剤が揮発した際、成分組成の変化に伴う溶解度パラメータや粘性の差異を比較的小さくすることを担保できる。
【0018】
本発明を構成する単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールのうち、その94.0質量%以上が、単環の炭素数8の脂環式一価アルコールと単環の炭素数9の脂環式一価アルコールで構成される。単環の脂環骨格を有する脂環式一価アルコールに対する、炭素数8の単環の脂環式一価アルコールと炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの含有量の和は、ガスクロマトグラフィーにおいて、例えば、各ピークについてGC-MSと原料構成等からの推定にて構造を同定し、炭素数8の単環の脂環式一価アルコールの含有量と炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの含有量を内部標準物質を用いて定量し、両者を合算し、前記脂環式一価アルコールの含有量と比較することによって求めることができる。後述する炭素数7の単環の脂環式一価アルコールの含有量についても、同様の方法で求めることができる。
【0019】
本発明においては、前記炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき、炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量が0.4~4.0.0質量%である。炭素数8の単環の脂環式一価アルコール及び炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの和に対する、炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの比率は、ガスクロマトグラフィーにおいて、前記した方法によって求めることができる。
【0020】
C9成分は、C8成分含有量とC9成分含有量の和に対して、0.4~4.0質量%含まれる。C9成分は沸点が高く、一価アルコール系溶剤が揮発した際、少量残留することにより、例えば接着用溶剤として使用時の被接着物との密着性向上に寄与する。C9成分の含有量が0.4質量%未満であると前記密着性の効果が十分でなく、4.0質量%を超えると高沸点成分が過多となって一価アルコール系溶剤としての揮発性が損なわれるため、好ましくない。C9成分は、より好ましくは、脂環式一価アルコール中、下限値として0.36質量%、上限値として4.0質量%含有される。C9成分は、具体的には二級アルコールが好ましく、トリメチルシクロヘキサノールがより好ましく、この位置異性体である2,3,6-トリメチルシクロヘキサノール、3,4,5-トリメチルシクロヘキサノールもしくは3,4,6-トリメチルシクロヘキサノール、又は4-エチル2-メチルシクロヘキサノールなどであることがより好ましい。
【0021】
C8成分は、本発明の一価アルコール系溶剤の主成分であり、高い引火点及び優れた溶剤特性を有する。C8成分は、C8成分含有量とC9成分含有量の和に対して96.0~99.6質量%含まれる。C8成分の含有量が、C8成分含有量とC9成分含有量の和に対して96.0質量%に満たない場合、又は、99.6質量%を超える場合、上記特性を両立させることが困難になる。C8成分は、具体的には二級アルコールが好ましく、ジメチルシクロヘキサノール又はエチルシクロヘキサノールがより好ましく、これらの位置異性体である3,5-ジメチルシクロヘキサノール、3,4-ジメチルシクロヘキサノール、2,4-ジメチルシクロヘキサノール又は4-エチルシクロヘキサノールなどであることがより好ましい。
【0022】
本発明の一価アルコール系溶剤は、特定の組成からなる混合物であることによって、成分組成の変化に伴う溶解度パラメータや粘性の差異を比較的小さくして揮発し、JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点を69℃以上、好ましくは70℃以上の温度とすることができる。
【0023】
なお、JIS K 2265-1のタグ密閉法による引火点は、市販のタグ密閉式引火点試験器を用いて測定することができる。具体的には、50 mL±0.5 mLの試料を密閉した試料カップの中で、予想引火点が60℃を超える場合、60℃から60±6秒間に3℃昇温速度で徐々に加熱し、1.0℃の温度間隔ごとに引火源を試料カップにのぞかせ,試料の蒸気に引火する最低の温度を求める方法による。
【0024】
本発明の好ましい態様は、さらに、単環の炭素数8の脂環式一価アルコールの含有量及び単環の炭素数9の脂環式一価アルコールの含有量の和に対して、単環の炭素数7の脂環式一価アルコールの含有量が0.5~7.0質量%である一価アルコール系溶剤である。C7成分を一定量含むことで、より良好な揮発性やより良好な塗膜特性を付与することができる。C7成分は、具体的には二級アルコールが好ましく、メチルシクロヘキサノールがより好ましく、この位置異性体である3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノールであることが特に好ましい。
【0025】
C7成分の含有量が前記範囲より低いと前記改良効果が比較的出にくい。例えば、塗料の溶剤に使用した場合、塗膜としての被塗布物の密着性が低下する傾向にある。一方、C7成分は、低引火点成分に相当するため、含有量が前記範囲より高いと一価アルコール系溶剤としての引火点が比較的低くなる傾向にある。C7成分の含有量が前記範囲より高いと、溶剤が一度に揮発してしまい、塗膜の表面がみかんの皮肌のように凹凸が生じる現象(「オレンジピール」又は「ゆず肌」ともいう。)を生じやすくなる傾向にある。
【0026】
また、本発明の一価アルコール系溶剤は、25℃における溶解度パラメータが15.7~16.3MPa0.5での範囲にあることが好ましい。この範囲にある脂環式一価アルコール溶剤はポリエチレン、ポリプロピレンなどの鎖状炭化水素系樹脂、石油樹脂、シクロオレフィン系樹脂、テルペン系樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、ポリブタジエンなどのゴム類など幅広い材料を溶解しうる。ここで、前記溶解度パラメータは、公知の手法を適用できるが、具体例としては、コンピュータソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP)ver5.2.06にてDIY(溶媒の分子構造からハンセンの溶解度パラメータを推算する機能)のSMILESによる、25℃におけるハンセン溶解度パラメータ推算値が挙げられる。
【0027】
本発明の一価アルコール系溶剤は、以上に述べてきた脂環式一価アルコールが特定の組成範囲にあることで、望む効果が発揮されるが、特に、構造が類似して溶解度パラメータが近い化合物で構成されているとより好ましい。具体的には、単環の脂環骨格を有する、炭素数7~9の脂環式一価アルコールの94.0質量%以上、好ましくは95.0質量%以上がメチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール、及びトリメチルシクロヘキサノールから選ばれる3種類以上で占められることが好ましく、一価アルコール系溶剤の95.0質量%以上、好ましくは96.0質量%以上が前記4種類で占められることが最も好ましい。
【0028】
本発明の溶剤は、高い透明性を有していることが好ましい。具体的には、JIS K0071-1にて規定されるハーゼン単位色数測定において、本発明の溶剤混合物のハーゼン単位色数(APHA)は、好ましくは100未満、さらに好ましくは80未満である。ハーゼン単位色数(APHA)がこの範囲にある溶剤は比較的透明性に優れ、染料や顔料等の溶剤に使用することができる。
【0029】
ハーゼン単位色数は1L中にヘキサクロロ白金イオンの形態の白金1mg及び塩化コバルト(II)六水和物2mgを含む溶液の色を1とする色の尺度を指し、試料を当か測定した際の三刺激値X,Y,Zより求められる。測定方法として、例えば白金-コバルト色標準液の三刺激値X,Y,Zから作成した検量線を用いて、同じ測色機にて測定した試料の三刺激値X,Y,Z値より対応する色数を求める方法が挙げられる。測色機として分光測光器、光電色彩計、分光光度計を用いる。
【0030】
本発明の好ましい一価アルコール系溶剤の製造方法について、以下に例示する。
本発明の一価アルコール系溶剤は、アルキルフェノール混合物の芳香環水素化反応(「核水素添加反応」、「核水添反応」ともいう)により製造することができる。アルキルフェノール混合物が、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、トリメチルフェノールの混合物である場合、主に、C7成分がメチルシクロヘキサノール、C8成分がジメチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール、C9成分がトリエチルシクロヘキサノールの混合物からなる一価アルコール系溶剤を得ることができる。本発明では、それぞれの脂環式一価アルコールに対応するアルキルフェノールを前駆体と称する。
【0031】
芳香環水素化反応は、フェノール類の核水素添加(核水添)反応条件を採用できる。すなわち、核水添用触媒の存在下に、温度100~300℃、水素圧1~10MPaから適宜選定された条件で行うことが可能である。触媒量、反応時間等は、残存芳香族成分が1.0質量%以下となるよう、前記反応温度、水素圧等を考慮して決定される。この反応方式は、バッチ式、流通式等いずれでも行うことができる。核水添用触媒には、例えば、ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル/けいそう土、ラネーニッケル、ニッケル/銅、白金、酸化白金、白金/活性炭、又は白金/ロジウムが使用でき、製造コストを考慮した場合、白金/アルミナ、ニッケル系触媒を使用するのが好適である。
【0032】
本発明の一価アルコール系溶剤を構成する、C7成分、C8成分、C9成分比率は、その前駆体の成分比率が反映される。そのため、これら前駆体の混合物(以下、「前駆体混合物」という。)を適切な成分比率に制御することが重要である。前駆体混合物は、例えば、特定沸点範囲のタール蒸留分を酸処理、塩基処理等の処理を行い、成分分離を行ったフェノール類を主とする混合物を製造し、このフェノール類混合物から、フェノール、クレゾールを留去して得ることができる。ここでフェノール、クレゾールの留去条件(留去温度、圧力、蒸留塔の理論段数等)を最適化することで、本発明の一価アルコール系溶剤の前駆体混合物を得ることができる。
【0033】
具体的には、フェノール類混合物からフェノールを完全留去する際、クレゾールを完全に留去させるのではなく、0.5~6.0質量%残存させるようにすることが好ましい。また、併せて、前記前駆体混合物に単環のフェノール類を95.0質量%以上含み、かつ、前記フェノールの94.0質量%以上がC8成分の前駆体とC9成分の前駆体で構成され、かつ、前記C8成分の前駆体とC9成分の前駆体の和を100.0質量%としたとき、C9成分の前駆体を、その含有量が0.4~4.0質量%になるよう前駆体混合物に残存させるようにする。また、前駆体混合物における硫黄分は、水素化反応の触媒毒となるため50ppm以下が好ましく、さらに好ましくは30ppm以下である。
【0034】
本発明の一価アルコール系溶剤は、塗料用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、インク用溶剤として好適に使用される。
【0035】
塗料用溶剤としては、アクリル系樹脂塗料、アルキッド樹脂塗料等のエステル系樹脂塗料、ウレタン系樹脂塗料、エポキシ系樹脂塗料、などに例示される樹脂を含有する油性塗料に配合される溶剤として使用される。例えば、アルキッド樹脂塗料は主成分であるアルキッド樹脂を、本発明の一価アルコール系溶剤を含む塗料用溶剤に溶解させてなる。本発明の一価アルコール系溶剤を含む溶剤は、中でもエステル系樹脂塗料、ウレタン系樹脂塗料への用途において、樹脂溶解性が高いので好適である。例えば、塗料用溶剤は、塗料全体の1~99質量%配合される。
【0036】
塗料用溶剤には、さらに、乾燥剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、防カビ剤、防錆剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤等、塗料用の添加剤を加えてもよい。
【0037】
一般的に塗料は顔料、樹脂、溶剤、添加剤で構成される。そのため、溶剤は顔料の分散と樹脂の溶解が要求される。そこで、前記要求を満足させるために、塗料用溶剤には、本発明の一価アルコール系溶剤以外の塗料用の溶剤を併用してもよい。すなわち、塗料用溶剤は、本発明の一価アルコール系溶剤以外の塗料用の溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0038】
接着剤用溶剤としては、極性基改質ゴム系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤などに例示される樹脂を主材料として含有する樹脂系接着剤に配合される溶剤として使用される。極性基改質ゴム系は、例えば、末端を水酸基、(メタ)アクリル基等の極性基を付与した極性基改質ブタジエンが挙げられる。クロロプレンゴム系接着剤は主材がクロロプレンゴムである他は、上記極性基改質ゴム系接着剤と同様の組成である。極性基改質ゴム系接着剤は主成分である極性基改質ゴムを、本発明の一価アルコール系溶剤を含む接着剤用溶剤に溶解させてなる。例えば、接着剤用溶剤は、接着剤全体の1~99質量%配合される。
【0039】
接着剤用溶剤には、さらに、テルペン樹脂等の粘着付与剤や、硬化剤、可塑剤、充てん剤等、接着剤用の添加剤を加えてもよい。
接着剤用溶剤は、本発明の一価アルコール系溶剤以外の接着剤用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0040】
粘着剤用溶剤としては、極性基改質ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤などに例示される樹脂を主材料として含有する樹脂系粘着剤に配合される溶剤として使用される。極性基改質ゴム系粘着剤は、例えば、末端を水酸基、(メタ)アクリル基等の極性基を付与した極性基改質ブタジエンが挙げられる。アクリル系粘着剤は主材が(メタ)アクリル系ポリマーである他は、上記極性基改質ゴム系粘着剤と同様の組成である。例えば、極性基改質ゴム系粘着剤は、主成分である極性基改質ゴムを、粘着剤用溶剤に溶解させてなる。例えば、粘着剤用溶剤は、粘着剤全体の1~99質量%配合される。
【0041】
粘着剤には、さらに、テルペン樹脂等の粘着付与剤や、充てん剤、架橋剤、老化防止剤等、粘着剤用の添加剤を加えてもよい。
粘着剤用溶剤は、本発明の一価アルコール系溶剤以外の粘着剤用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0042】
インク用溶剤としては、アクリル系材料、シリコン系材料、などに例示される樹脂を主材料として含有する油性インクに配合される溶剤として使用される。中でもアクリル系材料を用いたインク用として、樹脂溶解性の高さの観点で好適である。例えば、アクリル系インクは、主成分であるアクリル樹脂を、インク用溶剤に溶解させてなる。特に、銀粒子を含まないインク用として好適である。
【0043】
アルキルシクロヘキサノール類は金属の種類によってごく弱い金属酸化性を有する。インクが銀粒子を含む場合、銀は酸化による変色が他の金属より大きいため、銀粒子を含むインク向けに使用する場合、他の金属粒子を使用するインク用途の場合より留意するべき点となる。
【0044】
本発明の一価アルコール系溶剤をインク用溶剤として使用する際は、インク全体の1~99質量%配合される。さらに、乾燥剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、防カビ剤、防錆剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤等、公知の添加剤を加えてもよい。
【0045】
一般的にインクは顔料、染料、樹脂、溶剤、油等で構成されるビヒクル、及び、各種調整剤等の助剤で構成される。そのため、溶剤は顔料の分散、染料や樹脂の溶解が要求される。そこで、前記要求を満足させるために、本発明の一価アルコール系溶剤以外の公知の溶剤を併用してもよい。すなわち、インク用溶剤は、本発明の一価アルコール系溶剤以外のインク用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0046】
本発明の一価アルコール系溶剤には、多種類の物質を同時に溶解する必要がある場合等に、異種の溶剤を混合して使用することは可能であるが、物理化学特性を維持するため、混合される溶剤はその化学構造が似ていることが望ましい。
【0047】
本発明の一価アルコール系溶剤は、用途や溶解させる対象に応じ、公知の溶剤と組み合わせ、最適化して使用することができる。組み合わせる溶剤の具体例として、水、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、アルコール類、グリコール類、エーテルアルコール類、フェノール系化合物などが挙げられる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
前駆体および水素化物の成分は、構成成分について各ピークをGCマススペクトルにて同定した。次いで前駆体および本発明成分の試薬や、前駆体および本発明成分を蒸留分画し濃縮した留分などの高濃度成分、前駆体の高濃度成分を水素化したものを試料として使用し、内部標準物質にn-プロピルベンゼンを用い、内部標準法を用いて下記のガスクロマトグラフィー分析条件にて定量した。それらの定量結果を使用して前駆体、および実施例と比較例に記載の溶剤成分を定量した。
また異性体の沸点について、データベースの沸点順等からの推測等で補足した。
【0049】
ガスクロマトグラフィー分析は、試料をアセトンで10重量パーセントに希釈し、内部標準物質にn-プロピルベンゼンを用い、内部標準法にて下記条件のガスクロマトグラフィー分析によって得られたクロマトグラフをもって組成とした。ガスクロマトグラフィー分析においては、カラムAで主分析を実施し、沸点が近接して分離困難なピークを分離確認するためにカラムBの分析結果をもって補足した。以上のガスクロマトグラフィー分析条件は下記条件にて実施した。
【0050】
GC装置:7890A GC System(Agilent Technologies社製)
カラムA:TC-1(ジーエルサイエンス社製、無極性) φ0.25mm×60m 膜厚0.25μm
カラムB:DB-WAX(Agilent Technologies社製、極性) φ0.25mm×30m 膜厚0.25μm
スプリット比:100
注入部温度:250℃
カラム内ガス線速度:20cm/秒
検出方法:FID(水素炎イオン化型検出器)
検出部温度:250℃
オーブン温度:40℃にて10分保持後、一分間あたり4℃で220℃まで昇温、到達後、220℃を5分保持
【0051】
ハーゼン単位色数(APHA)評価
測色計(東京電色(株) TC-8600A)を使用して、JIS K 0071-1の測色計による色数の求め方により、段階別に用意した白金-コバルト色標準液の三刺激値X,Y,Zから作成した検量線を用いて、同じ測色機にて測定した試料の三刺激値X,Y,Z値より対応する色数を求めた。
【0052】
実施例1
フェノール類を主として含むタール蒸留成分より脱硫分・脱窒素分工程を経た、フェノールとアルキルフェノールの混合物からフェノール、クレゾールを留去し、キシレノール、エチルフェノールを主成分とし、クレゾール、トリメチルフェノールを含む前駆体混合物を得た。1リットル容オートクレーブにこの前駆体混合物600g、触媒としてNi系触媒(堺化学工業(株)製、SN-300L)6.0gを入れ、温度200℃、圧力8MPa、撹拌翼回転数600回転/分で40時間水素化反応を行った。水素ボンベの圧力変化による水素吸収量は理論量の99.0質量%であった。水素化中の前駆体混合物の組成変化をガスクロマトグラフィー分析にて追跡し、前駆体混合物中の芳香族化合物が、水素化によりシクロヘキサノール類等の脂環式一価アルコールに転化されたのを確認した。
【0053】
水素化反応終了後、表2に示す組成からなる一価アルコール系溶剤を取得した。得られた一価アルコール系溶剤中、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は50であった。
この一価アルコール系溶剤を使用し、以下に示す種々の溶剤特性評価を実施した。結果を表2に示す。
【0054】
実施例1の一価アルコール系溶剤を塗料に使用すると、表面が平滑で剥がれにくい塗膜が得られた。実施例1の一価アルコール系溶剤を粘着剤に使用すると、粘着性が高い粘着板が得られた。実施例1の一価アルコール系溶剤を油性インクに使用すると、インクの分散性に優れた希釈油性インクが得られた。
【0055】
引火点
タグ密閉式自動引火点試験器(田中科学機器製作所(株)製、atg-8)を使用して、JIS K 2265-1:タグ密閉法による引火点の求め方により測定した。
【0056】
塗膜評価
得られた一価アルコール系溶剤100g、酢酸ブチル70g、アルキッド樹脂200g、顔料20gを混合しアルキッド塗料を作成した。この塗料をSUS304製の平板に塗布後、約20℃で18時間乾燥させ、塗膜を形成した。
この塗膜について、(ア)目視により表面の状態を観察し、表面が平滑である場合を○、表面に凹凸がある場合を×として表面平滑性を評価した。また、(イ)JIS K 5600-5-6記載のクロスカット法にて塗膜の剥がれ具合を表1の分類0~5に当て嵌めることにより、塗膜の付着性を評価した。前記分類において数値が小さいほど剥がれにくく、塗膜付着性が良好である。
【0057】
【0058】
粘着性評価
末端メタアクリル基導入ウレタン結合型ポリブタジエン(日本曹達(株)製、TE-2000)100重量部を、得られた一価アルコール系溶剤720重量部に溶解し、さらにポリイソシアネート系硬化剤(東ソー(株)製、コロネートL)を加えアクリル系溶剤型粘着剤を得た。これをコーターで試験板に塗布し、100℃で一晩乾燥させ、さらに一日室温で安定させて、長さ100mm、厚さ0.30μmの粘着性試験板を作成し、JIS Z 0237傾斜式ボールタックによる粘着性評価を粘着性評価試験機((株)安田精機製作所製、ボールタックテスターNo.183-BT)にて行った。傾斜角30°で、測定部でボールが5秒以上制止する最大ボールNo.にて評価した。ボールNo.が大きいほど呼び径の大きなボールを制止可能で、粘着性が高い。
【0059】
インク希釈性評価
アクリル系材料を使用した油性インクを、前記得られた一価アルコール系溶剤で2倍に希釈した場合と、対照例として同油性インクを市販の希釈剤(東洋石油化学(株)製、インク用シンナー)を用いて2倍に希釈した場合の油性インクの分散状態について目視評価し、さらに希釈した油性インクを-5度で24時間静置保存した後の油性インクの分散状態、すなわち、分離や沈殿の有無を目視により比較評価した。この2つの比較評価において、分離や沈殿の生成が認められなかった場合をインク希釈性○、分離又は沈殿の生成が認められた場合をインク希釈性×と評価した。
【0060】
実施例2
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は70であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。実施例2の一価アルコール系溶剤を使用して、良好な塗膜、良好な粘着板、良好な希釈油性インクが得られた。
【0061】
実施例3
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた脂環式一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は40であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。実施例3の一価アルコール系溶剤を使用して、良好な塗膜、良好な粘着板、良好な希釈油性インクが得られた。
【0062】
実施例4
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満、C8成分の脂環式一価アルコール(1)とC9成分の脂環式一価アルコール(3)の合計含有量は95.0質量%であり、炭素数8の単環の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき炭素数9の単環の脂環式一価アルコールが2.0質量%、C8成分の脂環式一価アルコールであるジメチルシクロヘキサノールが68.0質量%であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は50であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。実施例4の一価アルコール系溶剤を使用して、良好な塗膜、良好な希釈油性インクが得られた。
【0063】
実施例5
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満、C8成分の脂環式一価アルコール(1)とC9成分の脂環式一価アルコール(3)の合計含有量は95.0質量%であり、炭素数8の単環の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき炭素数9の単環の脂環式一価アルコールが2.0質量%、C8成分の脂環式一価アルコールであるジメチルシクロヘキサノールが68.0質量%であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は70であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。実施例5の一価アルコール系溶剤を使用して、良好な塗膜、良好な希釈油性インクが得られた。
【0064】
比較例1
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満、C8成分の脂環式一価アルコール(1)とC9成分の脂環式一価アルコール(3)の合計含有量は92.0質量%であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は40であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。比較例1の一価アルコール系溶剤を使用すると、良好な塗膜、及び良好な粘着板は得られなかった。
【0065】
比較例2
フェノール、クレゾールの留去条件を変更して得た前駆体混合物を使用した他は、実施例1と同様の方法で、表2記載の組成からなる脂環式一価アルコール系溶剤を取得した。
得られた一価アルコール系溶剤は、残存芳香族成分の含有量は1.0質量%未満、炭素数8の単環の脂環式一価アルコールの含有量及び前記炭素数9の単環の脂環式一価アルコールの含有量の和を100.0質量%としたとき炭素数9の単環の脂環式一価アルコールが5.0質量%であった。GCマススペクトル分析から、C7成分はメチルシクロヘキサノールで、C8成分はジメチルシクロヘキサノール及びエチルシクロヘキサノール、C9成分はトリメチルシクロヘキサノール及びエチルメチルシクロヘキサノール(C7、C8及びC9成分は、いずれも位置異性体混合物)であった。また、色相を示すハーゼン単位色数(APHA)は80であった。
この一価アルコール系溶剤を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
結果を表2に示す。比較例2の一価アルコール系溶剤を使用すると、良好な塗膜は得られなかった。
【0066】
本発明の一価アルコール系溶剤は、高温下にて使用可能な引火性の低い溶剤として利用でき、特に、塗料用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、インク用溶剤の用途において優れた工業用溶剤として使用することができる。