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  • 特開-光学素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071169
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/26 20060101AFI20240517BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20240517BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20240517BHJP
   G11B 7/24044 20130101ALI20240517BHJP
   G11B 7/0065 20060101ALI20240517BHJP
   G11B 7/244 20060101ALI20240517BHJP
   G02B 27/02 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
G11B7/26 531
G03H1/02
G02B5/32
G11B7/24044
G11B7/0065
G11B7/244
G02B27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181980
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲
(72)【発明者】
【氏名】大津 佑太
(72)【発明者】
【氏名】井上 一真
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
2K008
5D090
【Fターム(参考)】
2H199CA53
2H199CA68
2H199CA81
2H249CA22
2H249CA28
2K008BB03
2K008BB08
2K008DD13
2K008FF17
2K008HH03
2K008HH13
2K008HH18
2K008HH25
2K008HH28
5D090BB16
5D090LL01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ホログラム等が記録された光学素子における着色を抑制する光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】重合性化合物と式(1)で示される光重合開始剤とを含む記録層を有する媒体を記録露光し、さらに100J/cm以上の露光量にて記録露光後の媒体をポスト露光する、光学素子の製造方法。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と光重合開始剤とを含む記録層を有する媒体を記録露光し、さらに100J/cm以上の露光量にて記録露光後の該媒体をポスト露光する、光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記光重合開始剤が下記式(1)で示される化合物である、請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【化1】
[式(1)中、Rは、アルキル基を示し、
は、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれかを示し、
は、-(CH-基を示し、nは、1以上6以下の整数を示し、
は、水素原子、又は任意の置換基を示し、
は、結合するカルボニル基に対して共役する多重結合を有しない任意の置換基を示す。]
【請求項3】
前記記録露光がホログラム記録露光である、請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム等が記録された光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、注目を浴びているホログラム記録媒体は、光の干渉、回折現象を利用する記録媒体である。ホログラムとは、参照光と物体光(情報光又は信号光ともいう)と呼ばれる2つの光の干渉縞が作る干渉パターンを記録媒体内部に立体的に記録する記録手法である。ホログラム記録媒体は記録層に感光材料を含んでおり、感光材料が干渉パターンに応じて化学変化し光学特性が局所的に変化することによって干渉縞を記録する。
【0003】
ホログラム記録媒体はメモリ用途向けに開発が進められていたが、他の用途としてARグラス導光板の光学素子用途へ適用する検討が行われている。ARグラス(AR眼鏡)
用途の場合、導光板(導波板)に用いられるホログラム記録された光学素子には広い視野角、可視領域の光に対する高い回折効率及び媒体の高い透明性が求められる。
ホログラム記録媒体はどのような光学特性を変化させるかによりいくつかの種類に分けられるが、一定以上の厚みを有する記録層内屈折率差を生じさせることにより記録を行う体積型ホログラム媒体が、省スペースかつ高い回折効率、波長選択性を実現できるためARグラス導光板用途に有利であると考えられている。
【0004】
体積型ホログラム記録媒体の例としては、湿式処理や漂白処理が不要なライトワンス形式があり、その記録層の組成としては、マトリクス樹脂に光活性化合物を相溶させたものが一般的である。例えば、記録層として、マトリクス樹脂に、光活性化合物として、光重合開始剤とラジカル重合やカチオン重合可能な重合性の反応性化合物とを組み合わせたフォトポリマーを用いることが知られている(特許文献1~4)。
【0005】
ホログラムを記録するとき、参照光と物体光が交差して干渉縞が形成される部分にフォトポリマーからなる記録層があると、干渉縞のうち光強度の高い部分では光重合開始剤が化学反応を起こし活性物質となり、これが重合性化合物に作用して重合性化合物が重合する。この際、マトリックス樹脂と重合性化合物から生成する重合物の間で屈折率に差があると、干渉縞が屈折率差となって記録層の中に固定化される。また、重合性化合物が重合する際、周辺から重合性化合物の拡散が起こり、記録層内部で、重合性化合物またはその重合物の濃度分布が発生する。この原理により、ホログラム記録媒体に干渉パターンが屈折率差として記録される。
さらに、この参照光と物体光の交差角度を変えることにより、同位置に異なるデータを重複して記録できる。
以下、上記のように媒体の記録層を所定の条件で露光することで記録層の光学特性を変化させる過程を「記録露光」と呼ぶ。
【0006】
一方、データ再生時は再生光のみを使用し、照射された再生光は前記干渉縞に応じて回折を生じる。この際、再生光の波長が記録光の波長と一致していなくても、前記干渉縞とブラッグ条件が成立すれば回折を生じる。したがって回折させたい再生光の波長と入射角に応じて、対応した干渉縞を記録しておけば、広い波長域の再生光に対して回折を生じさせることができ、ARグラスの表示色域を広げることができる。
【0007】
記録露光の後には、記録層全体に光を照射するポスト露光を行うのが一般的である。
すなわち、記録露光により媒体にホログラムを記録した場合は、ホログラム記録部分以外(以下、「非記録部分」ともいう)も含めて光を照射し、ポスト露光を行う(特許文献5~7)。この場合、ポスト露光はホログラムを記録していない非記録部分のフォトポリマーの重合を促進させることで、記録露光によって形成された重合物の濃度分布を固定するためのものである。ポスト露光は、この工程以降の光によるフォトポリマーの重合反応を起こさせないことで、記録露光によってできた重合物の濃度分布が壊されないようにするとともに、新たな濃度分布が形成されないようにする目的で行われる。
【0008】
このようにしてホログラム記録された光学素子の課題としては、わずかだが光学素子自体が着色して見えることが挙げられる。ここで問題となる着色は主に、記録層を構成する物質に由来する光吸収が原因である。特にARグラス導光板用途においては、その要求される光学性能が厳しく、わずかな着色についても、導光板を導波する光量の損失や、画質低下の原因となることから、これを防止する必要がある。
特に、光学素子の長期使用に関する耐性の評価のための劣化試験として加熱を行った場合において、着色が増幅されることがあった。
【0009】
なお、特許文献8には、光重合開始剤として本発明で好ましく用いられる後述の式(1)で表される化合物が、優れた記録感度と保存安定性を維持しつつ、記録後の光の照射による着色の少ないホログラム記録媒体用組成物に用いられる光重合開始剤用化合物として提案されているが、記録露光後のポスト露光の露光量と加熱による着色との関係についての示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-12249号公報
【特許文献2】特開2007-34334号公報
【特許文献3】特開平8-160842号公報
【特許文献4】特開2003-156992号公報
【特許文献5】特開平10-187013号公報
【特許文献6】特開2014-209217号公報
【特許文献7】特開2005-134762号公報
【特許文献8】特開2019-147789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたものであり、ホログラム等が記録された光学素子の着色、特に加熱による着色を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、記録露光後に、特定の条件下でポスト露光を行うことで、ホログラム等が記録された光学素子における着色を抑制できることを見出した。
【0013】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]重合性化合物と光重合開始剤とを含む記録層を有する媒体を記録露光し、さらに100J/cm以上の露光量にて記録露光後の該媒体を
[2]ポスト露光する、光学素子の製造方法。
[2]前記光重合開始剤が下記式(1)で示される化合物である、[1]に記載の光学素子の製造方法。
【0014】
【化1】
【0015】
[式(1)中、Rは、アルキル基を示し、
は、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれかを示し、
は、-(CH-基を示し、nは、1以上6以下の整数を示し、
は、水素原子、又は任意の置換基を示し、
は、結合するカルボニル基に対して共役する多重結合を有しない任意の置換基を示す。]
[3]前記記録露光がホログラム記録露光である、[1]又は[2]に記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学素子の製造方法によれば、ホログラム等が記録された光学素子における着色を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】媒体へのホログラム記録装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の光学素子の製造方法の実施形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0019】
[本発明の光学素子の製造方法]
例えば、本発明にてホログラム記録された光学素子を製造する場合は、まず、重合性化合物と光重合開始剤とを含む記録層を有する媒体に対して、参照光と物体光(情報光)を交差させ干渉縞を形成し、記録層に干渉パターンを記録露光し、さらに、この記録露光した媒体に対して、100J/cm以上の露光量でポスト露光を行う。
【0020】
本発明における露光量とは、記録層を有する媒体に照射される光の単位面積当たりの総露光エネルギー量を意味する。
また、光強度は、記録層を有する媒体に照射される光の単位面積当たりの強度(エネルギー)を意味する。
本発明において、参照光とは、媒体に干渉パターンを記録(以下、「記録露光」ともいう)する際の基準となる光で、媒体の記録層に露光を行う際に物体光と重複させてこの記録層に照射する光である。また、本発明において、物体光とは、ARグラス等に用いられる光学素子として必要な再生光の波長と回折に応じて、参照光との干渉によって対応した干渉縞を媒体内にホログラム記録させるために媒体の記録層に照射する光である。
【0021】
<記録露光>
本発明において記録露光に用いられる光強度は、参照光と物体光のそれぞれの光強度の和である。
この記録露光時における光強度は、好ましくは2mW/cm以上であり、より好ましくは5mW/cm以上であり、さらに好ましくは10mW/cm以上である。この範囲であれば、速やかな記録露光が可能となり、製造タクトを低下させることができる。
一方、この記録露光時における光強度は、好ましくは200mW/cm以下であり、より好ましくは150mW/cm以下であり、さらに好ましくは100mW/cm以下である。この範囲であれば、露光時間による重合反応制御が容易となり、所望の干渉縞を安定して記録することができる傾向にある。
【0022】
本発明における記録露光時の露光量は、光重合開始剤の種類及び光重合開始剤の効率によって任意に選択可能であるが、好ましくは0.5J/cm以上、より好ましくは1J/cm以上である。この範囲であれば、記録露光時に必要な光重合開始剤が光により反応し活性物質になる。一方、記録露光時の露光量は好ましくは80J/cm以下、より好ましくは40
J/cm以下である。この範囲であれば、製造のタクトタイムを短くすることが出来る。
【0023】
本発明における記録露光に用いることができる光源としては、光重合開始剤の吸収波長領域で任意に選択可能である。特に好適なものとしては、例えば、ルビー、ガラス、Nd-YAG、Nd-YVO等の固体レーザ;GaAs、InGaAs、GaN等のダイオードレーザ;ヘリウム-ネオン、アルゴン、クリプトン、エキシマ、CO等の気体レーザ;色素を有するダイレーザ等の、単色性と指向性に優れたレーザ等が挙げられる。
【0024】
本発明における記録露光に用いることができる光源の波長は、光重合開始剤の吸収波長領域であればよく、紫外領域から可視領域の波長で任意に選択可能であるが、好ましくは300nm以上であり、より好ましくは350nm以上である。また、好ましくは600nm以下であり、より好ましくは450nm以下である。
【0025】
<ポスト露光>
本発明において、ポスト露光における露光量は、加熱による着色を抑制するために、100J/cm以上であり、好ましくは200J/cm以上である。一方、適切な露光量とすることで製造のタクトタイムを短縮するため、ポスト露光時の露光量は、好ましくは5000J/cm以下であり、より好ましくは1000J/cm以下、さらに好ましくは500J/cmである。
【0026】
通常、ポスト露光は、記録部分および非記録部分のフォトポリマーの重合を促進させることで、記録露光によって形成された重合物の濃度分布を固定し、この工程以降の光照射により、記録露光によってできた重合物の濃度分布が壊されないようにするなどの目的で行われるため、固定化に必要な露光量以上の照射について、特に考慮されることはない。しかし、本発明者は、加熱による着色の原因が記録層を構成する物質に由来する場合、原因となる物質を無害化するために、さらに大きい露光量のポスト露光を実施することで、加熱後の着色の抑制を実現できることを見出した。
このため、本発明では、100J/cm以上の露光量でポスト露光を行う。
【0027】
本発明において、ポスト露光時における光強度は任意に設定されればよいが、好ましくは2mW/cm以上であり、より好ましくは5mW/cm以上であり、さらに好ましくは10mW/cm以上である。この範囲であれば、速やかなポスト露光が可能となり、製造のタクトタイムを低下させることができる。
一方、このポスト露光時における光強度は、好ましくは1000mW/cm以下であり、より好ましくは、500mW/cm以下であり、さらに好ましくは200mW/cm以下である。この範囲であれば、ポスト露光による急激な重合反応による媒体の温度上昇を抑制することが可能となり、記録による干渉縞の温度上昇による乱れを起こすことなく安定して固定化することができる傾向にある。
【0028】
本発明におけるポスト露光は、媒体のいずれか一方の片面から露光することで実施することができるが、媒体の両面から露光してもよいし、複数の光源を用いて同時に露光してもよい。これにより、大きい面積のホログラム記録媒体であっても、記録部分および非記録部分のポスト露光を一度に短時間で終了させることができる。
【0029】
本発明におけるポスト露光に用いる光源としては、少なくとも1つの光源がインコヒーレント光であることが好ましい。インコヒーレント光を用いることで、上記の両面露光の場合等のように複数の光源を採用する場合でも、非記録部への不必要な干渉縞の形成を抑制できる。インコヒーレント光の光源としては、LED、UVランプ、キセノンランプ、水銀灯などがあるが、光重合開始剤の吸収波長領域の光を照射できる光源であれば任意に選択できる。
【0030】
また、本発明におけるポスト露光用の光の波長は、光重合開始剤の吸収波長領域であればよく、好ましくは300nm以上であり、さらに好ましくは350nm以上である。また、好ましくは600nm以下であり、さらに好ましくは450nm以下である。この範囲であれば、ポスト露光時に必要な光重合開始剤が光により反応し活性物質になる。
【0031】
[媒体の構成要素]
本発明に用いられる媒体は、ホログラム記録用媒体として有用であり、少なくとも重合性化合物、及び光重合開始剤を含む記録層を有する。このような記録層を形成するための組成物(以下、「記録層形成用組成物」ともいう)としては、例えば、適当なマトリクス樹脂に、重合性化合物としてラジカル重合やカチオン重合可能な重合性モノマーと、前記重合性モノマーの重合を促進する光重合開始剤と、前記重合性モノマーの重合を阻害する物質である重合阻害剤とを組み合わせたフォトポリマーが好適に用いられる。
【0032】
[記録層]
<ホログラム記録層形成用組成物について>
本発明に係る媒体の記録層は、以下に詳述する記録層形成用組成物により形成される。ここで、マトリクス樹脂については、通常、記録層形成用組成物を平面基板間に充填後に重合や架橋させることにより、記録層内に架橋ネットワーク構造として存在せしめることになるため、記録層形成用組成物には、重合や架橋によりマトリクス樹脂を形成するためのマトリクス樹脂用組成物の形で含有されることとなる。
つまり、本発明に係る記録層形成用組成物には、重合性モノマー、マトリクス樹脂形成用組成物、光重合開始剤及び重合阻害剤、必要に応じてさらにラジカル捕捉剤を含有させることができる。以下、ホログラム記録層形成用組成物の構成成分について詳述する。
【0033】
<<重合性モノマーについて>>
本発明に係る重合性モノマーとは、後述の光重合開始剤によって重合され得る化合物をいう。重合性モノマーの種類は特に制限されず、公知の化合物の中から適宜選択することが可能である。重合性モノマーの例としては、カチオン重合性モノマー、アニオン重合性モノマー、ラジカル重合性モノマー等が挙げられる。これらは、何れを使用することもでき、また二種以上を併用してもよい。
【0034】
カチオン重合性モノマーの例としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チエタン化合物、ビニルエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、エチレン性不飽和結合化合物、環状エーテル化合物、環状チオエーテル化合物、ビニル化合物等が挙げられる。カチオン重合性モノマーは、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
アニオン重合性モノマーの例としては、炭化水素モノマー、極性モノマー等が挙げられる。炭化水素モノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、ビニルピリジン、ビニルアントラセン、およびこれらの誘導体等が挙げられる。極性モノマーの例としては、メタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類、ビニルケトン類、イソプロペニルケトン類、その他の極性モノマーなどが挙げられる。アニオン重合性モノマーは、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
ラジカル重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル類、ビニル化合物、スチレン類、スピロ環含有化合物等が挙げられる。ラジカル重合性モノマーは、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。上記の中でも、ラジカル重合する際の立体障害の点から(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
【0037】
上記重合性モノマーにおいて、分子内にハロゲン原子(ヨウ素、塩素、臭素など)を有する化合物やヘテロ原子(窒素、硫黄、酸素など)を有する化合物が、屈折率が高く好ましい。上記の中でも、複素環構造を有するものがより高い屈折率を得られることから好ましい。
【0038】
<<マトリクス樹脂及びマトリクス樹脂形成用組成物について>>
本発明に係るマトリクス樹脂とは、重合反応又は架橋反応によって結合形成された架橋ネットワーク構造を持つ硬化物をいい、マトリクス樹脂形成用組成物とは、重合反応及び架橋反応による結合形成前のマトリクス樹脂前駆体をいう。
【0039】
マトリクス樹脂は、架橋ネットワーク構造を有するが故に、重合性モノマーや光重合開始剤の運動性を適度に抑制することで、記録層中の重合性モノマーや光重合開始剤を空間的に均一に分散した状態を安定に保つ役割を有している。また、マトリクス樹脂は記録層中に生成した重合体との絡み合いなどにより重合体の拡散を抑制することで、記録情報が消去されることを防いでいる。更に、液体状態と比べて高い弾性率を有するため、記録層の物理的形状を保持するなどの役割を有する。
【0040】
マトリクス樹脂形成用組成物としては、重合反応又は架橋反応により結合形成させた後も重合性モノマーやその重合体、及び、光重合開始剤との十分な相溶性を維持しうるものであれば、特に制限されず、好ましくは、分子中にイソシアネート基、水酸基、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基およびカルボキシ基からなる群から選ばれる官能基を、少なくとも2以上有する化合物を単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0041】
これらの化合物を単独もしくは複数組み合わせて、架橋ネットワーク構造となるある種の化学結合を実現する例としては、以下の(1)~(8)のような例が挙げられる。
(1) イソシアネート基を有する化合物同士の反応によりイソシアヌレート結合を形成させる。
(2) イソシアネート基を有する化合物と、分子内に活性水素を有する化合物、例えば、水酸基やメルカプト基、アミノ基、カルボキシ基を含む化合物を組み合わせてウレタン結合、チオウレタン結合、尿素結合、アミド結合などを形成させる。
(3) 水酸基を有する化合物とカルボキシ基を有する化合物を組み合わせてエステル結合を形成させる。
(4) アミノ基を有する化合物とカルボキシ基を有する化合物を組み合わせてアミド結合を形成させる。
(5) エポキシ基を有する化合物同士の反応によりエーテル結合を形成させる。
(6) エポキシ基と水酸基の組み合わせによりエーテル結合を形成させる。
(7) エポキシ基を有する化合物とアミノ基を有する化合物の組み合わせによりアミン結合を形成させる。
(8) 上記(1)~(7)を含む複数種の結合を形成させる。
【0042】
中でも、イソシアネート基を有する化合物と、イソシアネート反応性官能基として分子内に2つ以上の水酸基を有する化合物との組み合わせは、マトリクス樹脂構造の選択の自由度が高い点や臭気のない点で好ましい。
【0043】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、イソシアン酸、イソシアン酸ブチル、イソシアン酸オクチル、ジイソシアン酸ブチル、ジイソシアン酸ヘキシル(HMDI)、イソホロジイソシアネート(IPDI)、1,8-ジイソシアナト-4-(イソシアナトメチル)オクタン、2,2,4-及び/又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’-イソシアナトシクロヘキシル)メタン及び任意の異性体含量を有するその混合物、イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、異性体シクロヘキサンジメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び/又は2,6-トルエンジイソシアネート、1,5-ナフレチレンジイソシアネート、2,4’-又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はトリフェニルメタン4,4’,4”-トリイソシアネートなどが挙げられる。
【0044】
また、ウレタン、ウレア、カルボジイミド、アクリルウレア、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、オキサジアジントリオン、ウレットジオン及び/又はイミノオキサジアジンジオン構造を有するイソシアネート誘導体の使用も可能である。これらは何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0045】
イソシアネート反応性官能基として分子内に2つ以上の水酸基を有する化合物の例としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、テトラメチレングリコール等のジオール類;ビスフェノール類、又はこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、デカントリオール等のトリオール類などのこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物;多官能ポリオキシブチレン;多官能ポリカプロラクトン;多官能ポリエステル;多官能ポリカーボネート;多官能ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
マトリクス樹脂を形成する場合、例えば、エポキシ基を有する化合物とアミノ基を有する化合物の組み合わせなどは、マトリクス樹脂形成用組成物の結合形成の反応速度が比較的高いため、室温で放置することによって短時間で結合形成反応が進行することでマトリクス樹脂が形成されるものがある。
その一方で、例えば、マトリクス樹脂構造の選択の自由度が高くマトリクス樹脂形成用組成物として好ましい組み合わせである、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物の組み合わせなどは、その結合形成の反応速度は高くなく、室温で数日間放置しても結合形成が完結せずマトリクス樹脂が形成されない場合がある。そのような結合形成反応速度の低いマトリクス樹脂形成用組成物を用いる場合には、一般的な化学反応と同様に、加熱することによりマトリクス樹脂形成用組成物の結合形成反応を促進することができる。従って、マトリクス樹脂形成用組成物によっては、両基板間に記録層形成用組成物を充填後、マトリクス樹脂の形成のために適宜加熱することが好ましい。
【0047】
さらに、適当な触媒を用いることによっても、マトリクス樹脂形成用組成物の結合形成反応を促進することができる。そのような触媒の例として、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロ-1-ブタンスルホン酸、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホン酸などのオニウム塩類;塩化亜鉛、塩化すず、塩化鉄、塩化アルミニウム、BFなどのルイス酸を主成分にした触媒;塩酸、リン酸などのプロトン酸;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン類;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリメリット酸1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリルウムなどのイミダゾール類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどの塩基類;ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレート、ジブチルスズオクトエートなどのスズ触媒;トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマス、トリベンゾイルオキシビスマス、三酢酸ビスマス、トリス(ジメチルジオカルバミン酸)ビスマス、水酸化ビスマスなどのビスマス触媒が挙げられる。触媒は以上の何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0048】
<<光重合開始剤について>>
本発明に係る光重合開始剤とは、光の照射によってカチオン、アニオン、ラジカルを発生するものをいい、上述の重合性モノマーの重合に寄与する。光重合開始剤の種類は特に制限はなく、重合性モノマーの種類等に応じて適宜選択することができる。
【0049】
カチオン光重合開始剤は、公知のカチオン光重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例としては芳香族オニウム塩等が挙げられる。具体例としては、SbF 、BF 、AsF 、PF 、CFSO 、B(C 等のアニオン成分と、ヨウ素、硫黄、窒素、リン等の原子を含む芳香族カチオン成分とからなる化合物が挙げられる。中でも、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルフォニウム塩等が好ましい。上記例示したカチオン光重合開始剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
アニオン光重合開始剤は、公知のアニオン光重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例としてはアミン類等が挙げられる。アミン類の例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のアミノ基含有化合物、およびこれらの誘導体;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、およびその誘導体;等が挙げられる。上記例示したアニオン光重合開始剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
ラジカル光重合開始剤は、公知のラジカル光重合開始剤であれば、何れを用いることも可能である。例としては、ホスフィンオキシド化合物、アゾ化合物、アジド化合物、有機過酸化物、有機硼素酸塩、オニウム塩類、ビスイミダゾール誘導体、チタノセン化合物、ヨードニウム塩類、有機チオール化合物、ハロゲン化炭化水素誘導体、オキシムエステル化合物等が用いられる。上記例示したラジカル光重合開始剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
他の光重合開始剤としては、イミダゾール誘導体やオキサジアゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体、ルブレン、ペリミドン誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、フェニルピリジン錯体、ポルフィリン錯体、ポリフェニレンビニレン系材料等が挙げられる。
【0053】
<<好ましい光重合開始剤>>
加熱による着色の原因物質の一つとして光重合開始剤の分解物由来が挙げられるが、高い露光エネルギーの光を照射した場合でも、着色の原因物質になりにくい特徴をもつことから、本発明では、特に、光重合開始剤として、下記式(1)で示される化合物(以下、「化合物(1)」と称す場合がある。)を用いることが好ましい。
化合物(1)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
【化2】
【0055】
[式(1)中、Rは、アルキル基を示し、
は、アルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれかを示し、
は、-(CH-基を示し、nは、1以上6以下の整数を示し、
は、水素原子、又は任意の置換基を示し、
は、結合するカルボニル基に対して共役する多重結合を有しない任意の置換基を示す。]
【0056】
以下、式(1)中の各置換基や化合物(1)の好適物性等について説明する。
【0057】
(R
はアルキル基を示す。Rが、例えば芳香環基等のアルキル基以外の場合、Rが結合する窒素原子のsp性が高まり、式(1)のカルバゾール環からRへの共役が延長されることから、光照射後の分解物による発光が生じるため、このような共役系を有しないアルキル基が好ましい。
【0058】
のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、4-ブチルメチルシクロヘキシル基等の直鎖、分岐鎖及び環状のアルキル基が挙げられる。この中でも、炭素数が好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、また、好ましくは18以下、より好ましくは8以下であること、特に直鎖で炭素数が1から4の範囲のアルキル基が、化合物(1)の結晶性の点から好ましい。
【0059】
該アルキル基は置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、芳香環基、及び複素環基等が挙げられる。この中でも、アルコキシ基が化合物(1)の溶解性調節の容易さの点で好ましい。
好ましいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
またフッ素原子で置換されたアルキル基は撥水性が高まり化合物(1)の耐水性向上の点から好ましい。
【0060】
(R
はアルキル基、アリール基、アラルキル基のいずれかを示す。Rは光重合開始剤が光照射されて発生するラジカル部位であり、ホログラム記録媒体用組成物中のラジカルの移動容易性の観点から分子量の小さいアルキル基であることが好ましい。
のアルキル基の具体例としては、前述したRと同義であり、有していてもよい置換基も同義である。この中でも、炭素数が好ましくは1以上であり、また、好ましくは4以下、より好ましくは2以下であることが、ラジカル移動度の点から好ましい。
【0061】
一方、化合物(1)の耐水性向上の観点からはRはアリール基が好ましい。
のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、インデニル基等が挙げられる。ラジカル移動度の点からはフェニル基が好ましい。
のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。ベンジル基、ナフチルメチル基等のラジカルは特異な反応性が期待され好ましい。
のアリール基、アラルキル基のアリール環部位への置換基としてはアルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基等が挙げられるが、ラジカル移動度の点からは無置換が好ましい。
【0062】
(R及びn)
は、-(CH-基を示す。Rが式(1)のカルバゾール環と共役可能な置換基の場合、カルバゾール環からRの共役が延長されることから、吸収波長の長波長化が生じてしまう。したがって、Rは、このような共役系を有しない-(CH-基が好ましい。
nは、1以上6以下の整数を示す。この中でも好ましくは2以上4以下である。nが上記好ましい範囲であることで、その先に置換している置換基Rの電子的効果が反映されやすくなる傾向がある。
【0063】
(R
は、水素原子、又は任意の置換基を示す。任意の置換基は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、アルキル基、アルコキシカルボニル基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、芳香環基、及び複素環基等が挙げられる。
は、これらの中でも、アルキル基、アルコキシカルボニル基、芳香環基、複素環基のいずれかであることが原料入手や合成容易さの点から好ましく、アルコキシカルボニル基であることが遠い電子的効果発現の点から特に好ましい。
【0064】
のアルキル基の具体例としては、前述したRと同義であり、有していてもよい置換基も同義である。この中でも、炭素数が好ましくは1以上であり、また、好ましくは8以下、より好ましくは4以下であることが、化合物(1)の溶解性調整の点から好ましい。
【0065】
のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数が好ましくは2以上であり、また、好ましくは19以下、より好ましくは7以下であることが、化合物(1)の溶解性調整の点から好ましい。
また、該アルコキシカルボニル基は置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。この中でも、アルコキシ基が化合物(1)の溶解性調整の容易さの点で好ましい。
【0066】
のモノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基のアルキル基部分の具体例としては、前述したRのアルキル基と同義であり、有していてもよい置換基も同義である。この中でも、アミノ基に結合したアルキル基部分の炭素数は、好ましくは1以上、また、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である。アミノ基に結合したアルキル基部分の炭素数が上記好ましい範囲にあることで、化合物(1)の溶解性が得られる傾向にある。
【0067】
の芳香環基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の単環または縮合環が挙げられる。この中でも、炭素数は6以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは10以下であることが、化合物(1)の溶解性の点から好ましい。
また、該芳香環基は置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。この中でも、アルキル基が化合物(1)の溶解性調整の容易さの点で好ましい。
好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、イソブチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0068】
の複素環基としては、環中に1以上のヘテロ原子を有する複素環構造を少なくとも含む基が好ましい。複素環基に含まれるヘテロ原子は特に限定されず、S、O、N、Pなどの各原子を用いることができるが、原料入手や合成容易さの点から、S、O、Nの各原子が好ましい。
【0069】
該複素環基としては、具体的には、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、キノリル基、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基等の単環または縮合環基が挙げられる。この中でも、炭素数は1以上、より好ましくは2以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは5以下であることが、原料入手や合成容易さの点から好ましい。
【0070】
また、該複素環基は置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。この中でも、アルキル基が化合物(1)の溶解性調整の容易さの点で好ましい。
好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、イソブチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0071】
(R
は、結合するカルボニル基に対して共役する多重結合を有しない、任意の置換基を示す。これらの基であることでカルバゾール環以上に共役系が伸びない。よって、光照射後に生成する分解遺物の共役系が長くならないため、分解物の吸収波長が長波長化しない。これにより、記録後の吸収抑制効果が得られる。
としては、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルキルスルホニル基、ジアルキルアミノスルホニル基等が挙げられ、これらの中でもアルキル基が化合物(1)の安定性の点で好ましい。
【0072】
のアルキル基の具体例としては、前述したRと同義であり、有していてもよい置換基も同義である。この中でも、炭素数が好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、また、好ましくは18以下、より好ましくは10以下でかつ分岐のアルキル基であることが、化合物(1)の製造の容易さの点から好ましい。具体的にはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、アダマンチル基、1-エチルペンチル基が特に好ましい。
【0073】
のアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アルキルスルホニル基、ジアルキルアミノスルホニル基のアルキル部分の具体例としては、前述したRと同義であり、有していてもよい置換基も同義である。この中でも、炭素数が好ましくは3以上であり、また、好ましくは18以下、より好ましくは8以下であることが、化合物(1)の結晶性の点から好ましい。
【0074】
(化合物(1)の好適物性)
化合物(1)の吸収波長域としては、好ましくは340nm以上、さらに好ましくは350nm以上であり、また、好ましくは700nm以下、さらに好ましくは650nm以下である。例えば、露光に用いる光源が青色レーザの場合は少なくとも350~430mに吸収を有することが好ましく、緑色レーザの場合は少なくとも500~550nmに吸収を有することが好ましい。吸収波長域が上述の範囲と異なる場合は、照射された光エネルギーを効率的に光重合反応に使いにくくなるため感度が低下しやすい傾向がある。
【0075】
化合物(1)は、ホログラムの記録波長における、モル吸光係数が10L・mol-1・cm-1以上であることが好ましく、50L・mol-1・cm-1以上であることがより好ましい。また20000L・mol-1・cm-1以下であることが好ましく、10000L・mol-1・cm-1以下であることがより好ましい。モル吸光係数が上記範囲であることで、有効な記録感度を得ることができ、また媒体の透過率が低くなりすぎることを防ぎ、厚みに対して十分な回折効率を得ることができる傾向にある。
【0076】
化合物(1)の溶解度は、25℃、1気圧の条件下におけるマトリクス樹脂形成用組成物への溶解度が0.01質量%以上であることが好ましく、中でも0.1質量%以上であることがさらに好ましい。
一般的に用いられるオキシムエステル系光重合開始剤のうち、上述の吸収極大を有するものは、イソシアネート類、ポリオール類などのマトリクス樹脂の構成材料や、(メタ)アクリロイル基を有する化合物等の重合性モノマーに対する溶解性が悪いことが多いが、化合物(1)は、イソシアネート類、ポリオール類などのマトリクス樹脂の構成材料や、(メタ)アクリロイル基を有する化合物等の重合性モノマーに対する優れた溶解性を有しているため、ホログラム記録媒体用組成物に好適に使用することができる。
【0077】
(化合物(1)との併用光重合開始剤)
本発明において、光重合開始剤として化合物(1)を単独で用いることもできるが、必要に応じて、その他の光重合開始剤を併用して用いることもできる。
併用し得るその他の光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ヒドロキシベンゼン類、チオキサントン類、アントラキノン類、ケタール類、ヘキサアリールビイミダゾール類、チタノセン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ハロゲン化炭化水素誘導体類、有機ホウ素酸塩類有機過酸化物類、オニウム塩類、スルホン化合物類、カルバミン酸誘導体類、スルホンアミド類、トリアリールメタノール類などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0078】
その他の光重合開始剤を用いる場合、その配合量(2種以上組み合わせる場合にはその合計量)は、化合物(1)の機能を損なわない範囲であれば任意であるが、化合物(1)に対する比で、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、また、通常100質量%以下、好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0079】
(化合物(1)の具体例)
化合物(1)の具体例を以下に示すが、これに限定されるものではない。
【0080】
【化3】
【0081】
【化4】
【0082】
【化5】
【0083】
【化6】
【0084】
<<重合阻害剤について>>
本発明に係る重合阻害剤とは、前記重合性モノマーの重合反応を阻害するものを指し、必要に応じて用いることができるものである。例えば、ホログラム記録がなされる前の記録層において、保存環境におけるわずかな光や熱により重合開始剤や重合性モノマーが発生したラジカルにより重合性モノマーの重合反応が開始されてしまうといった、予期せぬ重合反応の進行を阻害し、媒体のホログラム記録前の保存安定性を改善する効果がある。
【0085】
重合阻害剤の種類は、前記重合性モノマーの重合反応を阻害出来れば特に制限されない。具体的には、例えば、リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のホスフィン酸塩類;メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール、チオフェノール等のメルカプタン類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;テルピノレン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン等のテルペン類;1,4-シクロヘキサジエン、1,4-シクロヘプタジエン、1,4-シクロオクタジエン、1,4-ヘプタジエン、1,4-ヘキサジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、3,6-ノナンジエン-1-オール、9,12-オクタデカジエノール等の非共役ジエン類;リノレン酸、γ-リノレン酸、リノレン酸メチル、リノレン酸エチル、リノレン酸イソプロピル、リノレン酸無水物等のリノレン酸類;リノール酸、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸無水物等のリノール酸類;エイコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸エチル等のエイコサペンタエン酸類;ドコサヘキサエン酸、ドコサヘキサエン酸エチル等のドコサヘキサエン酸類;2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、p-メトキシフェノール、ジフェニル-p-ベンゾキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ピロガロール、レソルシノール、フェナントラキノン、2,5-トルキノン、ベンジルアミノフェノール、p-ジヒドロキシベンゼン、2,4,6-トリメチルフェノール、ブチルヒドロキシトルエン等のフェノール誘導体;o-ジニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン等のニトロベンゼン誘導体;N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、クペロン、フェノチアジン、タンニン酸、p-ニトロソアミン、クロラニル、アニリン、ヒンダードアニリン、塩化鉄(III)、塩化銅(II)、トリエチルアミン、ヒンダードアミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルを含むニトロキシラジカル、トリフェニルメチルラジカル、及び酸素等が挙げられる。これらの成分は従来公知の材料をいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0086】
<<ラジカル捕捉剤について>>
ホログラム記録において、干渉光強度パターンをホログラム記録媒体中のポリマー分布として精度よく固定するために、ラジカル捕捉剤を添加してもよい。ラジカル捕捉剤はラジカルを捕捉する官能基とマトリックス樹脂に共有結合で固定される反応基の両方を有するものが好ましい。ラジカルを捕捉する官能基としては安定ニトロキシルラジカル基が挙げられる。
【0087】
マトリックス樹脂に共有結合で固定される反応基としては水酸基、アミノ基、イソシアネート基、チオール基が挙げられる。このようなラジカル捕捉剤としては4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(TEMPOL)や、3-ヒドロキシ-9-アザビシクロ[3.3.1]ノナンN-オキシル、3-ヒドロキシ-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタンN-オキシル、5-HO-AZADO:5-ヒドロキシ-2-アザトリシクロ[3.3.1.13,7]デカンN-オキシルが挙げられる。
上記の各種のラジカル捕捉剤は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0088】
<<その他の添加剤について>>
記録層形成用組成物に含まれるその他の成分としては、溶媒、可塑剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、接着促進剤、相溶化剤、増感剤などが挙げられる。これらの成分は従来公知の材料をいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0089】
<<各材料の含有率等について>>
本実施の形態に係る記録層形成用組成物における各成分の含有率は、本発明の主旨に反しない限り任意であるが、各成分の割合は組成物の全質量を基準に以下の範囲であることが好ましい。
【0090】
マトリクス樹脂は、合計で通常0.1質量%以上であり、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。また通常99.9質量%以下であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。マトリクス樹脂の含有率を上記の下限値以上とすることで、記録層を形成することが容易となる。
【0091】
マトリクス樹脂形成促進に用いられる触媒の含有率は、上記マトリクス形成成分の結合形成速度を考慮して決定することが好ましく、通常5質量%以下、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。通常0.005質量%以上用いることが好ましい。
【0092】
重合性モノマーの含有率は通常0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。また通常80質量%以下であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。重合性モノマーの含有率が上記の下限値以上であれば十分な回折効率が得られ、上記の上限値以下であれば記録層の相溶性が保たれる。
【0093】
光重合開始剤の含有率は通常0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。光重合開始剤の含有率が上記の下限値以上であれば、十分な記録感度が得られる。光重合開始剤の含有率が上記の上限値以下であれば、着色の原因物質を少なくすることができ、好ましい。
【0094】
重合阻害剤の含有率は通常0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上である。また、通常30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。重合阻害剤の含有率が上記範囲内にあることで、わずかな光や熱により発生したラジカルにより開始する予期せぬ重合反応の進行を阻害することができる。
【0095】
ラジカル捕捉剤の含有率は、マトリクス形成成分の単位重量あたりのモル量で、0.5μmol/g以上が好ましく、より好ましくは1μmol/g以上で、100μmol/g以下が好ましく、より好ましくは50μmol/g以下である。
ラジカル捕捉剤の含有率が上記下限以上であれば、ラジカル捕捉効率に優れ、低重合度のポリマーが拡散することなく信号に寄与しない成分が少なくなる傾向にある。一方、ラジカル捕捉剤の含有率が上記上限以下であれば、ポリマーの重合効率に優れる。
【0096】
その他の成分の総含有率は、通常30質量%以下であり、15質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0097】
<記録層の膜厚について>
本発明における記録層の厚みは、好ましくは0.1mm以上、3.0mm以下であり、より好ましくは0.3mm以上、2mm以下である。この範囲であれば、ホログラム記録媒体における多重記録の際、各ホログラムの選択性が高くなり、多重記録の度合いを高くできる傾向にある。また記録光波長における記録層の光透過率を高く維持でき、厚み方向にわたって記録層全体に均一な記録をすることが可能となり、S/N比の高い多重記録が実現できる傾向にある。
【0098】
[その他の層]
本発明における媒体は、記録層と、必要に応じて、更に支持体やその他の層を備える。通常、媒体は支持体を有し、記録層やその他の層は、この支持体上に積層されて媒体を構成する。ただし、記録層またはその他の層が、媒体に必要な強度や耐久性を有する場合には、媒体は支持体を有していなくてもよい。その他の層の例としては、保護層、反射層、反射防止層(反射防止膜)等が挙げられる。
【0099】
<支持体>
支持体は、媒体に必要な強度および耐久性を有しているものであれば、その詳細に特に制限はなく、任意の支持体を使用することができる。
支持体の形状にも制限は無いが、通常は平板状またはフィルム状に形成される。
支持体を構成する材料にも制限は無く、透明であっても不透明であってもよい。
【0100】
支持体の材料として透明なものを挙げると、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトエート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アモルファスポリオレフィン、ポリスチレン、酢酸セルロース等の有機材料;ガラス、シリコン、石英等の無機材料が挙げられる。この中でも、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、アモルファスポリオレフィン、ガラス等が好ましく、特に、ポリカーボネート、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ガラスがより好ましい。
【0101】
一方、支持体の材料として不透明なものを挙げると、アルミニウム等の金属;前記の透明支持体上に金、銀、アルミニウム等の金属、または、フッ化マグネシウム、酸化ジルコニウム等の誘電体をコーティングしたものなどが挙げられる。
【0102】
支持体の厚みにも特に制限は無いが、通常は0.05mm以上、1mm以下の範囲とすることが好ましい。支持体の厚みが上記下限値以上であれば、媒体の機械的強度を得ることができ、基板の反りを防止できる。また支持体の厚みが上記上限値以下であれば、光の透過量が保たれ、コストの上昇を抑えることができる。
【0103】
また、支持体の表面に表面処理を施してもよい。この表面処理は、通常、支持体と記録層との接着性を向上させるためになされる。表面処理の例としては、支持体にコロナ放電処理を施したり、支持体上に予め下塗り層を形成したりすることが挙げられる。ここで、下塗り層の組成物としては、ハロゲン化フェノール、または部分的に加水分解された塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0104】
更に、表面処理は、接着性の向上以外の目的で行なってもよい。その例としては、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属を素材とする反射コート層を形成する反射コート処理;フッ化マグネシウムや酸化ジルコニウム等の誘電体層を形成する誘電体コート処理等が挙げられる。また、これらの層は、単層で形成してもよく、2層以上を形成してもよい。
また、これらの表面処理は、基板の気体や水分の透過性を制御する目的で設けてもよい。例えば記録層を挟む支持体にも気体や水分の透過性を抑制する働きを持たせることにより、より一層媒体の信頼性を向上させることができる。
【0105】
また、支持体は、本発明における媒体の記録層の上側および下側の何れか一方にのみ設けてもよく、両方に設けてもよい。但し、記録層の上下両側に支持体を設ける場合、支持体の少なくとも何れか一方は、活性エネルギー線(励起光、参照光、再生光など)を透過させるように、透明に構成する。
また、記録層の片側または両側に支持体を有する媒体の場合、透過型または反射型のホログラムが記録可能である。また、記録層の片側に反射特性を有する支持体を用いる場合は、反射型のホログラムが記録可能である。
【0106】
更に、支持体にデータアドレス用のパターニングを設けてもよい。この場合のパターニング方法に制限は無い。例えば、支持体自体に凹凸を形成してもよく、後述する反射層にパターンを形成してもよく、これらを組み合わせた方法により形成してもよい。
【0107】
<保護層>
保護層は、記録層の酸素や水分による感度低下や保存安定性の劣化等の影響を防止するための層である。保護層の具体的構成に制限は無く、公知のものを任意に適用することが可能である。例えば、水溶性ポリマー、有機/無機材料等からなる層を保護層として形成することができる。
保護層の形成位置は、特に制限はなく、例えば記録層表面や、記録層と支持体との間に形成してもよく、また支持体の外表面側に形成してもよい。また支持体と他の層との間に形成してもよい。
【0108】
<反射層>
反射層は、媒体を反射型のホログラム媒体として構成する際に形成される。反射型のホログラム記録媒体の場合、反射層は支持体と記録層との間に形成されていてもよく、支持体の外側面に形成されていてもよいが、通常は、支持体と記録層との間にあることが好ましい。
反射層としては、公知のものを任意に適用することができ、例えば金属の薄膜等を用いることができる。
【0109】
<反射防止膜>
本発明における媒体を透過型および反射型の何れのホログラム記録媒体として構成する際には、物体光および読み出し光が入射および出射する側や、あるいは記録層と支持体との間に、反射防止膜を設けてもよい。反射防止膜は、光の利用効率を向上させ、かつゴースト像の発生を抑制する働きをする。
反射防止膜としては、公知のものを任意に用いることができる。
【実施例0110】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
[使用原料]
実施例、比較例で用いた組成物原料は以下の通りである。
(イソシアネート基を有する化合物)
・デュラネートTMTSS-100:ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート(NCO17.6%、旭化成社製)
・タケネート600:脂肪族系ジイソシアネート(三井化学社製)
(イソシアネート反応性官能基を有する化合物)
・プラクセルPCL-305:ポリカプロラクトントリオール(分子量550、ダイセル社製)
・プラクセルPCL-204HGT:ポリカプロラクトンジオール(分子量400、ダイセル社製)
(重合性モノマー)
・HLM303A:2-[[2,2-ビス[(2-ジベンゾチオフェン-4-イルフェニル)スルファニルメチル]-3-(1,3-ベンゾチアゾ-2-リルスルファニルメチル)プロポキシ]カルボニルアミノ]エチルアクリレート
・HLM303B:2-[[2,2-ビス[(2-ジベンゾチオフェン-4-イルフェニル)スルファニルメチル]-3-(1,3-ベンゾチアゾ-2-リルスルファニルメチル)プロポキシ]カルボニルアミノ]エチルアクリレート
(HLM303AとHLM303Bは、同一の化合物である。HLM303Aについては、加熱時に着色する不純物が含まれているが、それぞれの重合性モノマーを用いた媒体同士で対比するのであれば、本発明のポスト露光量による効果に影響を与えるものではない。)
(光重合開始剤)
・HLI02:1-(9-エチル-6-シクロヘキサノイル-9H-カルバゾール-3-イル)-1-(O-アセチルオキシム)グルタル酸メチル
(硬化触媒)
・トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液(有効成分量56質量%)
(ラジカル捕捉剤)
・4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル(TEMPOL、東京化成社製)
【0112】
[TEMPOLマスターバッチの調製]
デュラネートTMTSS-100:2.97gに、TEMPOL:0.03gを溶解させた。次いでここへトリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液:0.0003gを溶解させた後、減圧下、45℃で撹拌し、2時間反応させた。
【0113】
[記録層用組成物の調製とホログラム記録媒体の作成]
<ホログラム記録媒体1>
デュラネートTMTSS-100:1.9341gに、タケネート600:0.5952g、重合性モノマーHLM303A:1.2315g、光重合開始剤HLI02:0.0387g、TEMPOLマスターバッチ:1.4531gを溶解させてA液とした。
別に、プラクセルPCL-204HGT:3.6289gとプラクセルPCL-305:0.4032gを混合し(プラクセルPCL-204HGT:プラクセルPCL-305=90:10(質量比))、トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマスのオクチル酸溶液:0.00024gを溶解させてB液とした。
【0114】
A液を減圧下で2時間脱気し、B液を減圧下で45℃にて2時間脱気した後、A液3.2829gとB液2.5202gを撹拌混合した。
続いて、厚さ0.5mmのスペーサーシートを対向する2端辺部にのせたスライドガラスの上に、上記混合液を流し込み、その上にスライドガラスをかぶせ、クリップで周辺を固定して80℃で24時間加熱してホログラム記録媒体サンプルを作製した。この評価用サンプルは、カバーとしてのスライドガラス間に、厚さ0.5mmの記録層が形成されたものである。
【0115】
<ホログラム記録媒体2>
重合性モノマーにHLM303Bを用いた以外は、ホログラム記録媒体1と同様にホログラム記録媒体サンプルを作製した。
【0116】
[光学素子の製造:媒体へのホログラム記録露光]
<ホログラム記録装置>
図1は、媒体へのホログラム記録に用いた装置の概要を示す構成図である。
図1中、Sはホログラム記録媒体のサンプルであり、M1、M2は何れもミラーを示す。CSは露光時間制御シャッターであり、BSはビームシャッターである。PBSは偏光ビームスプリッタであり、LEDはポスト露光用の光源(THORLAB社製の中心波長405nmのLED)であり、LDは波長405nmの光を発する記録光用レーザー光源(波長405nm付近の光が得られるTOPTICA Photonics製シングルモードレーザー)を示し、PD1、PD2はフォトディテクタを示す。
【0117】
<ホログラム記録露光>
LDから発生した波長405nmの光をPBSにより分割し、それらを物体光(M1側)および参照光(M2側)とみなして、2本のビームのなす角が59.3°になるように記録面上にて交差するように照射した。このとき、2本のビームのなす角の2等分線(以下、光軸と記載)がホログラム記録媒体の記録層の記録面に対して垂直になるようにし、更に、分割によって得られた2本のビームの電場ベクトルの振動面は、交差する2本のビームを含む平面と垂直になるようにした。上記の場合を0°とし、ビームシャッターBSは開き、2本のビームの入射方向は固定したまま、ホログラム記録媒体の向きを24°の角度に変えて、前処理露光として露光時間制御シャッターを350ミリ秒開き、物体光および参照光を照射し、10秒間暗状態でラジカルクエンチャーとして働く酸素の失活を待った。その後、記録面の光軸に対する角度を0.2°ずつ変えながら、多重露光記録を行った。
【0118】
<ポスト露光>
多重記録露光後、前記回転角度を0°に戻し、暗状態で120秒の信号成長時間を待ち、ポスト露光用光源LEDの光強度を20mW/cmとし、ポスト露光時間を変えて、ポスト露光量(記録層を有する媒体に照射される光の単位面積当たりの総露光エネルギー量)が表1にある値となるように光照射を行い、光学素子を製造した。
【0119】
[実施例のポスト露光]
実施例1~3では、ホログラム記録媒体1又はホログラム記録媒体2を用い、ポスト露光量が105、216および432J/cmとなるように調整して光照射を行った。
【0120】
[比較例のポスト露光]
比較例1,2では、ホログラム記録媒体1又はホログラム記録媒体2を用い、ポスト露光量が36J/cmとなるように調整して光照射を行った。
【0121】
[加熱劣化試験]
ポスト露光後の加熱劣化試験として、ホログラム記録媒体を75℃で500時間加熱した。
【0122】
[光学素子の着色の評価]
ポスト露光直後および加熱劣化試験後のホログラム記録媒体を、JIS:Z8722:2009に基づいて、日本電色工業株式会社製SE7700分光色差計を用いて、全面露光したホログラム記録媒体の10度視野でのΔE00を測定した。リファレンスには、Corning社EAGLE XGガラス1枚を用いた。
【0123】
[評価結果]
以下に、実施例1~3及び比較例1,2における加熱劣化試験前後のΔE00と加熱によるΔE00の変化分(75℃500時間加熱後のΔE00-ポスト露光直後のΔE00)を示す。
【0124】
【表1】
【0125】
実施例1と比較例1から、ポスト露光量を108J/cm以上とすることで、得られた光学素子のΔE00の75℃500時間の加熱による上昇が、有意に小さくなる、即ち、着色を抑制できることが分かる。また、実施例2及び実施例3と比較例2から、ポスト露光量を216J/cm以上とすることで、さらに着色を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の光学素子の製造方法は、特にARグラス導光板等(導波板)に用いられる、ホログラムが記録された光学素子において、着色を小さくする手段として有用である。
【符号の説明】
【0127】
S ホログラム記録用媒体
M1,M2 ミラー
LD 記録光用半導体レーザー光源
PD1,PD2 フォトディテクタ
LED ポスト露光用LED光源
BS ビームシャッター
PBS 偏光ビームスプリッタ
CS 露光時間制御シャッター
図1