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特開2024-71297多層ポリイミドフィルム、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071297
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】多層ポリイミドフィルム、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240517BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240517BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240517BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240517BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240517BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240517BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20240517BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240517BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B32B27/30 D
C08L79/08 Z
C08L27/18
B32B27/34
B32B7/023
B32B7/027
B32B15/082 B
B32B15/088
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182162
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 蔵
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AB00D
4F100AB00E
4F100AK18A
4F100AK18C
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK49C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100GB43
4F100JA04A
4F100JA04C
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JG05
4F100JJ03
4F100JK06
4F100JN01
4F100YY00A
4F100YY00C
4J002BD15X
4J002BD16X
4J002BE04X
4J002CM04W
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD060
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD110
4J002FD130
4J002FD160
4J002FD170
4J002FD200
4J002FD310
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
4J002GT00
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】透明性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)、耐熱性、接着性等の物性に優れる、多層ポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有し、前記上層及び前記下層のそれぞれが、熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、多層ポリイミドフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有し、前記上層及び前記下層のそれぞれが、熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、多層ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基を有する、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下のカルボニル基を有する、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記熱処理における温度が、(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+50℃)~(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度-50℃)である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有する、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造若しくはフッ素原子を含む構造を有する、テトラカルボン酸又はその二無水物に由来する構造単位の少なくとも1種以上を有する、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造を有するジアミンに由来する構造単位の少なくとも1種以上を有する、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記上層及び前記下層における、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記ポリイミドの合計量に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの割合が、25質量%超である、請求項1に記載の多層ポリイミドフィルム。
【請求項10】
ポリイミド前駆体と、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下の熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの、平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm未満である粒子と、含窒素有機溶媒とを含む液状組成物を、ポリイミドのベースフィルムの両方の表面に配置し加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリイミド層を形成する、前記ポリイミド層が上層及び下層を構成し、前記ベースフィルムで構成される層を中層とする、上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有する、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、多層ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が2.5μm未満である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記液状組成物における、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記ポリイミド前駆体の合計量に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の割合が、25質量%超である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理における温度が、(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+50℃)~(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度-50℃)である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ポリイミド前駆体及び前記ベースフィルムを構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか1項に記載の多層ポリイミドフィルムの片面又は両面に金属層を有する、配線基板用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリイミド層を有する多層ポリイミドフィルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、スマートフォン等の電子機器の小型軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で可撓性を有し、耐屈曲性等の耐久性に優れるフレキシブルプリント基板(FPC)の需要が増大している。FPCを構成する絶縁樹脂層の材料としては、ポリイミドが汎用されている。ポリイミドは耐熱性、耐薬品性、柔軟性、機械的特性及び電気的特性に優れるが、一般に黄褐色を呈するため、構成モノマーの検討等による透明性改良が進められている(特許文献1参照)。
一方、近年の通信機器における高速化や高周波化に対応するため、FPCの伝送損失を小さくすることが求められている。ポリイミド単体の誘電正接を下げるには分子の秩序構造形成が有効である半面、分子間での電荷移動錯体形成による相互作用が起きやすく、全光線透過率が低下し透明性が悪化する傾向となる。かかる観点から、低誘電率かつ低誘電正接で伝送損失が小さいテトラフルオロエチレン系ポリマー層をポリイミド層に積層した積層体を回路基板に適用することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/241573号
【特許文献2】特開2022-150086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される積層体は、その伝送損失等の電気特性になお改善の余地がある。特許文献2に開示される積層体は、透明性の改良されたポリイミドを基材として用いているものの、テトラフルオロエチレン系ポリマー層との接着性には改良の余地がある。
本発明者らは、ポリイミド層、及び特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリイミド層からなる積層体、好適には、各層を構成するポリイミドが透明性に優れるポリイミドから形成される層を複数有する積層体が、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)等の物性に優れ、また透明性及び接着性に優れることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、透明性、電気特性、耐熱性、接着性等の物性に優れる、多層ポリイミドフィルムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有し、前記上層及び前記下層のそれぞれが、熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、多層ポリイミドフィルム。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]の多層ポリイミドフィルム。
[3] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基を有する、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]又は[2]の多層ポリイミドフィルム。
[4] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下のカルボニル基を有する、融点260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]~[3]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[5] 前記熱処理における温度が、(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+50℃)~(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度-50℃)である、[1]~[4]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[6] 前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有する、[1]~[5]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[7] 前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造若しくはフッ素原子を含む構造を有する、テトラカルボン酸又はその二無水物に由来する構造単位の少なくとも1種以上を有する、[1]~[6]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[8] 前記上層、前記中層、及び前記下層を構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造を有するジアミンに由来する構造単位の少なくとも1種以上を有する、[1]~[7]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[9] 前記上層及び前記下層における、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと前記ポリイミドの合計量に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの割合が、25質量%超である、[1]~[8]のいずれかの多層ポリイミドフィルム。
[10] ポリイミド前駆体と、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下の熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの、平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm未満である粒子と、含窒素有機溶媒とを含む液状組成物を、ポリイミドのベースフィルムの両方の表面に配置し加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリイミド層を形成する、前記ポリイミド層が上層及び下層を構成し、前記ベースフィルムで構成される層を中層とする、上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有する、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、多層ポリイミドフィルムの製造方法。
[11] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が2.5μm未満である、[10]の製造方法。
[12] 前記液状組成物における、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記ポリイミド前駆体の合計量に対する前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の割合が、25質量%超である、[10]又は[11]の製造方法。
[13] 前記熱処理における温度が、(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+50℃)~(前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度-50℃)である、[10]~[12]のいずれかの製造方法。
[14] 前記ポリイミド前駆体及び前記ベースフィルムを構成するポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有する、[10]~[13]のいずれかの製造方法。
[15] [1]~[8]のいずれかの多層ポリイミドフィルムの片面又は両面に金属層を有する、配線基板用積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、透明性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)、耐熱性、接着性等の物性に優れる、多層ポリイミドフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子又はフィラーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子又はフィラーのD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「平均粒子径(D90)」は、D50と同様にして求められる、粒子の体積基準累積90%径である。
粒子又はフィラーの比表面積は、ガス吸着(定容法)BET多点法で粒子を測定し算出される値であり、NOVA4200e(Quantachrome Instruments社製)を使用して求められる。
「溶融温度(Tm)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で分散液を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、液状組成物の、回転数が30rpmの条件で測定される粘度ηを、回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の多層ポリイミドフィルム(以下、「本多層フィルム」とも記す。)は、上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有し、前記上層及び前記下層のそれぞれが、熱処理された熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)を含み、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である。
【0009】
本多層フィルムは、透明性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)、耐熱性、接着性等の物性に優れる。詳細には、本多層フィルムは、Fポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れる、複数の透明なポリイミド層と、耐熱性、耐薬品性、柔軟性、機械的特性に優れ、かつ透明性に優れるポリイミド層とで構成されることで、透明性に優れたフレキシブルなフィルムとして取扱い性に優れ、またこれらの層間の接着性に優れる。
本多層フィルムが透明性及び各種の層物性に優れる理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0010】
Fポリマーは、ラジカル重合により製造されるためその分子量分布が広く、オリゴマー成分を含む。かかるオリゴマー成分には、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、重合媒体等を含めた使用剤に由来する、その末端基が塩又は塩基である副生成物や、又は重合時若しくは重合前後の外部環境への暴露、例えば空気雰囲気下への暴露時に発生し得る低分子量化合物も含まれる。このようなオリゴマー成分を多く含むFポリマーを含むポリイミド層の場合、かかるオリゴマー成分が層の着色原因となったり、層表面にブリードアウトし、接着性をはじめとする層物性に影響する。
本多層フィルムにおいては、その上層及び下層は熱処理されたFポリマーを含有し、着色原因となり得る上記したオリゴマー成分を揮発又は分解により除去できていると考えられ、本多層フィルムの色彩や透明性を損なわない。また、本多層フィルムにおけるフィルム表面及び各層間の親水性が高まりやすく、各層の接着性及び層間剥離強度を高めやすくなると推測される。さらに、本多層フィルムの上層及び下層においてポリイミド分子間の相互作用を緩和させ、ポリイミドの着色や透明性の低下の原因となる分子間電荷移動錯体の形成を抑制しやすくなるとも推測され、本多層フィルムの色相及び透明性を高めやすいと考えられる。
かかる作用機構は、本多層フィルムの上層及び下層を構成するFポリマーが、所定量のカルボニル基を有するFポリマーである場合、より顕著となりやすい。
【0011】
本多層フィルムは、上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層を有する。すなわち、中層はポリイミドから構成され、また上層及び下層はそれぞれ、熱処理されたFポリマーを含むポリイミドから構成される。かかるポリイミドはいずれも、テトラカルボン酸又はテトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させて得られる化学構造を有し、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリイミドであるのが好ましい。
【0012】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えばビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコールビストリメリット酸無水物、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物、2,3’,3,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-、1,2,5,6-、1,2,6,7-、1,4,5,8-又は2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物等の、芳香族環構造又は複素環構造を有するテトラカルボン酸二無水物;
【0013】
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸-1,2:4,5-二無水物、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-オキシビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-スルホニルビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、4,4’-(テトラフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物)、オクタヒドロペンタレン-1,3,4,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3;5,6-テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、9-オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物等の、脂環構造を有するテトラカルボン酸二無水物;
【0014】
4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,2-トリフルオロ-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-(トリフルオロメチル)プロピリデン]ジフタル酸無水物、1H-ジフロ[3,4-b:3’,4’-i]キサンテン-1,3,7,9(11H)-テトロン、5,5’-オキシビス[4,6,7-トリフルオロ-ピロメリット酸無水物]、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4-(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4-ジフルオロピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス[3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ]ピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5’-ビス(トリフルオロメチル)-3,3’,4,4’-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス[(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ]ベンゼン二無水物、ビス[(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ]トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物等の、フッ素原子を含む構造を有するテトラカルボン酸二無水物;
が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-又はp-キシリレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、2,5-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル(ベンジジン)、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、3,3’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、4,4’-メチレン-ジ-o-トルイジン、4,4’-メチレン-ジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,3-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,5-又は2,6-ジアミノナフタレン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、2,6-又は2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタル酸、1,4-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、ピペラジン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、3,3’-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-エチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アニリノ-1,3,5-トリアジン等の、芳香族環構造又は複素環構造を有するジアミン;
1,3-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチルジシロキサン等の、直鎖脂肪族構造を有するジアミン;
【0016】
トランス又はシス-1,4-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビ(シクロヘキサン)-4,4’-ジアミン、4,4’-メチレンジシクロヘキサンアミン、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’-スルホニルジシクロヘキサンアミン、4,4’-(ジメチルシランジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’-(パーフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジシクロヘキサンアミン、4,4’-オキシジシクロヘキサンアミン、4,4’-チオジシクロヘキサンアミン、イソホロンジアミン等の、脂環構造を含む構造を有するジアミン;
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ジアミノベンゼン、2,4,5,6-テトラフルオロ-1,3-ジアミノベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’-ジフルオロ-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、2,2’,6,6’-テトラフルオロ-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-オキシビス(2,3,5,6-テトラフルオロアニリン)、3’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノベンズアニリド、2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノベンズアニリド等の、フッ素原子を含む構造を有するジアミン;
が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本多層フィルムの全光線透過率を90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満とするために、上層、中層及び下層を構成するポリイミドはそれぞれ、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られる、無色透明性を有するポリイミドが好ましい。
無色透明性を有するポリイミドを得る観点からは、ポリイミド分子鎖間の充填を立体的に阻害する構造を有するか、又は残基の電子吸引性や電子供与性の制御により、分子間電荷移動錯体の形成を阻害する手法が挙げられる。すなわち、ポリイミドがビフェニル構造等の連結基や、折れ曲がり構造、非対称構造、嵩高い置換基が導入された構造単位を有するのが好ましい。中でも、ポリイミドが、脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有するのがより好ましい。
具体的には、ポリイミドが、上記した脂環構造若しくはフッ素原子を含む構造を有するテトラカルボン酸又はその二無水物に由来する構造単位の少なくとも1種以上を有するか、上記した脂環構造又はフッ素原子を含む構造を有するジアミンに由来する構造単位の少なくとも1種以上を有するのが好ましい。中でも、上層、中層及び下層を構成するポリイミドは、脂環構造を有するテトラカルボン酸又はその二無水物に由来する構造単位と、フッ素原子を含む構造を有するジアミンに由来する構造単位を有するのがより好ましい。
ポリイミドは、上記したテトラカルボン酸二無水物と上記したジアミンとを、ジアミンに対するテトラカルボン酸のモル比を0.90~1.10、好ましくは0.95~1.05の範囲で溶媒中で反応させ、ポリイミド前駆体を経て製造できる。
【0018】
本多層フィルムの全体の厚さは5μm以上250μm以下であるのが好ましく、機械的特性及び透明性との両立の観点から、10μm以上100μm以下がより好ましい。
本多層フィルムの黄色度(YI)は5.0未満であり、透明性が良好となることから4以下であるのが好ましく、3.5以下がより好ましい。YIの下限は特に限定されず、工業的には0.1以上であることができる。
本多層フィルムの全光線透過率は90%以上であり、透明性が良好となることから95%以上がより好ましい。全光線透過率の上限は特に限定されず、100%であることができる。
【0019】
本多層フィルムの中層の厚さは、10μm以上であるのが好ましく、20μm以上であるのがより好ましい。また、本多層フィルムの中層の厚さは、100μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのがより好ましい。この場合、本多層フィルムの機械的特性及び透明性がバランスしやすい。
本多層フィルムの中層は、厚さ25±5μmのフィルムとした際に、黄色度(YI)が5以下、かつ全光線透過率が90%以上である、上述した無色透明性を有するポリイミドから構成されるのが好ましい。また、中層は、上記したポリイミドから構成される基材フィルム(ベースフィルム)であってもよく、かかる基材フィルムであるのが好ましい。
中層のYIは、4以下であるのが好ましく、3.5以下がより好ましい。YIの下限は特に限定されず、工業的には0.1以上であることができる。
中層の上記全光線透過率は90%以上であるのが好ましく、95%以上がより好ましい。全光線透過率の上限は特に限定されず、100%であることができる。
【0020】
本多層フィルムの上層及び下層の厚さは、1μm以上50μm以下であるのが好ましく、機械的特性及び透明性との両立の観点から、5μm以上25μm以下がより好ましい。
本多層フィルムの上層及び下層は、厚さ25±5μmのフィルムとした際に、黄色度(YI)が10以下、かつ全光線透過率が90%以上である、上述した無色透明性を有するポリイミドから構成されるのが好ましい。
上層及び下層のYIは、9以下であるのが好ましく、8以下がより好ましい。YIの下限は特に限定されず、工業的には0.1以上であることができる。
上層及び下層の上記全光線透過率は90%以上であるのが好ましく、95%以上がより好ましい。全光線透過率の上限は特に限定されず、100%以下であることができる。
本多層フィルム、及び本多層フィルムを構成する上層、中層及び下層の各々のYIや全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
なお、上層、中層及び下層を構成するポリイミドは、同種であっても異なっていてもよい。
【0021】
本多層フィルムの中層の厚さに対する、上層及び下層の合計での厚さの比は0.1以上であるのが好ましく、1以上であるのがより好ましい。上記比は、3以下が好ましい。この場合、中層を構成するポリイミド層の物性と、上層及び下層におけるFポリマーの物性(低誘電率、低誘電正接等の電気特性、低吸水性等)とがバランスよく発現しやすい。また、上記比が大きく、上層及び下層の合計が厚い本多層フィルムにおいても、反りや剥離が抑制されやすい。
熱処理されたFポリマーを含有するポリイミド層である、上層及び下層の厚さは、等しいのが好ましい。この場合、上層及び下層の線膨張係数がより近づくため、フィルムに反りが発生しにくくなる。なお、本多層フィルム及び各層の厚さは、接触式厚み計DG-525H(小野測器社製)にて、測定子AA-026(Φ10mm、SR7)を使用して求められる。
【0022】
また、本多層フィルムでは、上層、中層及び下層がこの順に直接積層されているのが好ましい。この場合、本多層フィルムの物性が低下しにくい。本多層フィルムでは、上層、中層及び下層が直接積層していても、上述した作用機構により層間の接着性に優れる。
本多層フィルムの誘電率(比誘電率)は、2.0~3.0が好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板材料等に、本多層フィルムを好適に使用できる。
本多層フィルムの誘電正接は、0.0001~0.003が好ましい。本多層フィルムの誘電正接は、0.003未満が好ましく、0.0025以下がより好ましく、0.002以下がさらに好ましい。
【0023】
上層及び下層におけるFポリマーの含有量はそれぞれ、50質量%超が好ましく、75質量%以上がより好ましい。また、上記含有量は、99質量%以下が好ましく、95質量%以下が好ましい。また、上層及び下層におけるポリイミドの含有量はそれぞれ、50質量%未満が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、上記含有量は5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
上層及び下層それぞれにおいて、Fポリマーとポリイミドの合計量に対するFポリマーの割合は、25質量%超であるのが好ましく、50質量%超がより好ましい。上記Fポリマーの割合は99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
上層及び下層に含まれる、熱処理されたFポリマー及びポリイミドの含有量、またFポリマーとポリイミドの合計量に対するFポリマーの割合が上記の範囲にあると、上層及び下層において、Fポリマーとポリイミドが高度に分散した状態を形成しやすい。そして、上層及び下層の透明性、Fポリマーに基づく物性の発現、各層間の接着性の向上と、それによるフィルムの反り及び剥離の抑制とがバランスしやすい。
【0024】
本発明において、上層及び下層に含有されるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。
Fポリマーは、熱溶融性であっても非熱溶融性であってもよいが、熱溶融性であるのが好ましい。ここで、熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。
熱溶融性であるFポリマーの溶融温度は、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。前記Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。この場合、本組成物から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が耐熱性に優れやすい。
Fポリマーのガラス転移点(以下、「Tg」とも記す。)は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。FポリマーのTgは、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
【0025】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、PFA及びFEPがより好ましく、PAVE単位を含む、溶融温度260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーであるのがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PTFEとしては、低分子量PTFE、変性PTFEが挙げられる。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0026】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましい。この場合、本多層フィルムが耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)、透明性等の物性に優れやすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
上記の中でも、Fポリマーは、カルボニル基を有する、溶融温度260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーであるのがさらに好ましい。
Fポリマーがカルボニル含有基を有する場合、Fポリマーにおけるカルボニル基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~2000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおけるカルボニル基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0027】
カルボニル基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基としてカルボニル基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
【0028】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下のカルボニル基を有する、溶融温度260~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーであるのがさらに好ましい。
換言すれば、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0029】
本多層フィルムは、例えば、ポリイミド前駆体と、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下の熱処理された熱溶融性のFポリマーの、平均粒子径(D50)が0.1μm以上10μm未満である粒子(以下、「F粒子」とも記す。)と、含窒素有機溶媒とを含む液状組成物(以下、「本組成物」とも記す。)を、ポリイミドのベースフィルムの両方の表面に配置し加熱して、Fポリマーを含むポリイミド層を形成することで製造できる。
【0030】
本組成物が含有するF粒子は、中実状の粒子であってもよく、非中空状の粒子であってもよい。F粒子は、nmオーダーの微粒子から形成された二次粒子であってもよい。F粒子のD50は、6μm以下が好ましく、2.5μm未満であるのがより好ましい。
F粒子のD50は、0.3μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
また、F粒子のD90は8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。F粒子のD90が上記範囲以下であると、粗大粒子の数が少ない本組成物が得られやすい。
F粒子の比表面積は、1~25m/gであるのが好ましく、6~15m/gがより好ましい。この場合、本組成物が分散安定性と取扱い性に優れやすい。
【0031】
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、主鎖炭素数10個当たり10個以上2000個以下のカルボニル基を有する、溶融温度260~320℃のFポリマーの粒子であるのがより好ましい。この場合、F粒子の凝集も抑制されやすい。
F粒子は、Fポリマー以外の樹脂や無機化合物を含んでいてもよく、FポリマーをコアとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をシェルとするコア-シェル構造を形成していてもよく、FポリマーをシェルとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をコアとするコア-シェル構造を形成していてもよい。
ここで、Fポリマー以外の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、マレイミドが挙げられ、無機化合物としては、シリカ、窒化ホウ素が挙げられる。
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
F粒子は、TFE及び他の単量体を重合媒体中でラジカル重合させてFポリマーを製造し、重合媒体を除去して粒状Fポリマーを回収してジェットミル等で機械的粉砕処理を行い、さらに必要に応じ分級して得るのが好ましい。また、F粒子として、重合媒体中でラジカル重合させて得られた熱溶融性の含フッ素共重合体から形成された粉末である市販品の、PFA粉末(FluonPFA P-62X、FluopnPFA P-63等。いずれもAGC社製。)やETFE粉末を使用してもよい。
【0033】
本多層フィルムの上層及び下層に含有されるFポリマーは熱処理されている。Fポリマーの熱処理は、好適には、本組成物を構成するF粒子を予め、減圧雰囲気下にて所定の温度領域で処理することにより行える。熱処理により、Fポリマーが含有し得るオリゴマー成分、すなわち低分子量のFポリマーのほか、上記した、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤、重合媒体等を含めた使用剤に由来する、その末端基が塩又は塩基である副生成物、又は重合時若しくは重合前後の外部環境への暴露、例えば空気雰囲気下への暴露時に発生し得る低分子量化合物が揮発又は分解により、F粒子から除去でき、上記した作用機構が発現しやすいと考えられる。
減圧雰囲気は、オリゴマー成分の揮発を促しつつ、形状を含めたF粒子の物性を保持する観点から、30kPa以下が好ましい。減圧雰囲気は、0.1kPa以上が好ましい。
【0034】
Fポリマーの熱処理の温度領域は、オリゴマー成分の揮発及び分解を促しつつ、形状を含めたF粒子の物性を保持する観点から、Fポリマーの溶融温度をTmとしたとき、Tm-50℃以下であるのが好ましい。
熱処理における温度領域は、Tg+50℃以上が好ましい。
換言すれば、Fポリマーの熱処理における温度は、(FポリマーのTg+50℃)~(FポリマーのTm-50℃)の範囲であるのが好ましい。
【0035】
F粒子を減圧雰囲気下、所定の温度領域で熱処理する際、F粒子を流動させてもよい。かかる流動は、F粒子を振動又は回転させて行うことができる。このような熱処理には、ナウターミキサー、コニカルドライヤー、箱形乾燥器、バンド乾燥器、トンネル乾燥器、噴出流乾燥器、移動層乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥機、気流乾燥器、円盤乾燥器、円筒型撹拌乾燥器、逆円錐型撹拌乾燥器、マイクロウェーブ装置、真空熱処理装置、箱型電気炉、熱風循環装置、フラッシュ乾燥機、振動乾燥機、ベルト乾燥機、押出乾燥機、スプレードライヤー、赤外線ヒータ等の装置を使用できる。熱処理の時間は20分以上5時間以下が好ましい。
【0036】
本組成物が含有するポリイミド前駆体、及び前記ベースフィルムを構成するポリイミドはそれぞれ、本多層フィルムの全光線透過率及びYIの規定を満たす観点から、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られる、無色透明性を有するポリイミド前駆体及びポリイミドが好ましく、上述した脂環構造又はフッ素原子を含む構造の少なくとも1種以上を有するのが好ましい。
【0037】
本組成物を構成する含窒素有機溶媒は、その黄色度(YI)が20以下であることが好ましく、かつ、その色彩値(b)が1以下であることが好ましい。含窒素有機溶媒のYIは、10以下であるのがより好ましく、2以下であるのがさらに好ましい。含窒素有機溶媒のbは、0.90以下であるのがより好ましく、0.85以下であるのがさらに好ましい。
このような含窒素有機溶媒を用いると、本組成物から得られる上層及び下層のYI及び全光線透過率を、既述した範囲に制御しやすい。
含窒素有機溶媒のYI及びbは、後述する本組成物のYI及びbの測定方法と同様にして測定できる。
【0038】
含窒素有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンからなる群より選ばれる1種以上であるのが好ましい。
【0039】
本組成物は、さらにノニオン性界面活性剤を含有していてもよい。この場合、本組成物中のF粒子の分散安定性をより向上させる傾向となりやすい。ノニオン性界面活性剤としては、グリコール系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、又はフッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0040】
本組成物は、無機フィラーをさらに含有していてもよい。この場合、本組成物から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が、電気特性と低線膨張性とに優れやすい。
無機フィラーの形状は、球状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよく、具体的には、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状であってもよい。
無機フィラーとしては、例えば石英粉、シリカ、ウォラストナイト、タルク、窒化ケイ素、炭化ケイ素、雲母等のケイ素化合物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒素化合物;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物;炭素繊維;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素同素体;銀、銅等の金属;が挙げられる。無機フィラーは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機フィラーのD50は、0.1~50μmが好ましい。
無機フィラーの表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
本組成物が無機フィラーを含む場合、本組成物における無機フィラーの含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0041】
本組成物は、ポリイミド前駆体及びFポリマーとは異なる他の樹脂をさらに含んでいてもよい。かかる他の樹脂は、本組成物に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本組成物を構成する含窒素有機溶媒、また必要に応じて含有する他の分散媒等(以下、含窒素有機溶媒及び他の分散媒等を総称して「液状分散媒」とも記す。)に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。本組成物が他の樹脂をさらに含む場合、F粒子に対する他の樹脂の含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0042】
本組成物は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0043】
本組成物は、ポリイミド前駆体とF粒子と含窒素有機溶媒と、必要に応じて前記した他の分散媒、無機フィラー、他の樹脂、添加剤等を混合することで得られる。
本組成物は、ポリイミド前駆体とF粒子と含窒素有機溶媒を一括で混合して得てもよいし、別々に順次混合してもよいし、これらのマスターバッチを予め作成し、それと残りの成分を混合してもよい。混合の順は特に制限はなく、また混合の方法も一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
【0044】
例えば、F粒子を含窒素有機溶媒の一部に予め分散し、次いでポリイミド前駆体を添加して混合し、得られた混合物を残余の含窒素有機溶媒に添加して本組成物を得るのが、F粒子の含有量が高い場合もその分散安定性を向上しやすい観点から好ましい。
ポリイミド前駆体は、そのまま又は含窒素有機溶媒の溶液として添加してもよく、他の分散媒に分散または溶解させた状態で添加してもよい。
また、前記した他の分散媒、無機フィラー、他の樹脂、添加剤等を必要に応じてさらに混合する場合、F粒子と含窒素有機溶媒との混合に際して混合してもよく、前記混合物を含窒素有機溶媒に添加するに際して混合してもよい。
【0045】
本組成物におけるF粒子の含有量は、30質量%以上であり、40質量%以上であるのがより好ましい。F粒子の含有量は、75質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
【0046】
本組成物において、本組成物の透明性、分散安定性及び取扱い性を良好とし、Fポリマーの物性をより発現させる観点から、通常、F粒子とポリイミド前駆体の合計量に対するF粒子の割合が25質量%超であるのが好ましく、50質量%超であるのがより好ましい。F粒子及びポリイミド前駆体の合計量に対するF粒子の割合は99質量%以下であるのが好ましい。
【0047】
本組成物における含窒素有機溶媒の含有量は、25質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのがより好ましい。含窒素有機溶媒の含有量は、70質量%未満であるのが好ましく、65質量%以下であるのがより好ましい。また、本組成物における含窒素有機溶媒の含有量は、F粒子の含有量に対して、60~180質量%であるのが好ましい。
【0048】
本組成物のYIは5.0未満であるのが好ましく、かつ色彩値(b)が2.0未満であるのが好ましい。本組成物のYIは4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。本組成物のbは1.5以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。YI、bの両者が上記の範囲内であると、本組成物から形成される、本多層フィルムの上層及び下層であるポリイミド層が透明性に優れる。
また、本組成物の色彩値Lは、90.0以上が好ましく、93.0以上がより好ましい。本組成物の色彩値aは、-2.0~2.0の範囲が好ましく、-1.0~1.0の範囲がより好ましい。
本組成物のYIは、SHIMADZU UV-3600分光光度計、光路長1cmの石英標準セルを用い、超純水をブランクとして、400nmにおける光透過率を測定し、下記式で表される計算式(1)に基づいて算出できる。
YI=100×(1.2879X-1.0592Z)/Y ・・・(1)
計算式(1)において、X,Y,Zは、JIS Z 8722で規定する試験片の三刺激値である。三刺激値X,Y,Zから色彩値(L、a、b)を算出できる。
【0049】
本組成物の粘度は3000mPa・s以下であるのが好ましい。本組成物の粘度は、2000mPa・s以下がより好ましく、1000mPa・s以下がさらに好ましい。また、本組成物の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、15mPa・s以上がより好ましく、25mPa・s以上がさらに好ましい。この場合、本組成物は塗工性に優れ、任意の厚さを有する上層及び下層を形成しやすく、また、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
本組成物のチキソ比は、1.0~2.5が好ましい。この場合、本組成物は、塗工性及び均質性に優れ、より緻密な層を生成しやすい。
【0050】
本組成物をポリイミドのベースフィルムの両方の表面に配置し加熱して、Fポリマーを含むポリイミド層(以下、「F層」とも記す。)を形成すれば、F層が上層及び下層を構成し、前記ベースフィルムで構成される層を中層とする、上層、中層、下層からなる3層のポリイミド層をこの順で有する、全光線透過率が90%以上かつ黄色度(YI)が5.0未満である、本多層フィルムが得られる。
【0051】
ポリイミドのベースフィルムは、単独で厚さ25±2μmのフィルムとした際に、黄色度(YI)が10以下、かつ全光線透過率が90%以上であるポリイミドから構成されるのが好ましい。
ポリイミドのベースフィルムの表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。また、ポリイミドのベースフィルムの表面は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよく、プラズマ処理されていてもよい。
F層は、本組成物をポリイミドのベースフィルムの表面に配置し、加熱して液状分散媒を除去し、さらに加熱してポリイミド前駆体をイミド化し、それと共にFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。
【0052】
本組成物の配置の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
液状分散媒の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において液状分散媒は、完全に除去する必要はなく、F粒子のパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって液状分散媒の除去を促してもよい。
【0053】
ポリイミド前駆体のイミド化及びFポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの溶融温度以上の温度にて行うのが好ましく、360~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
【0054】
F層は、本組成物の配置、加熱の工程を経て形成される。これら工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、ポリイミドのベースフィルムの表面に本組成物を配置し加熱してF層を形成し、さらに前記F層の表面に本組成物を配置し加熱して2層目のF層を形成してもよい。また、ポリイミドのベースフィルムの表面に本組成物を配置し加熱して液状分散媒を除去した段階で、さらにその表面に本組成物を配置し加熱してF層を形成してもよい。
【0055】
F層の厚さは、本多層フィルムの用途によっても異なるが、本多層フィルムの上層及び下層の好適な厚さとして上述した範囲が好ましい。
F層、すなわち本多層フィルムにおける上層及び下層の誘電率は2.4以下であるのが好ましく、2.0以下であるのがより好ましい。また、誘電率は1.0超であるのが好ましい。
F層の誘電正接は、0.0022以下であるのが好ましく、0.0020以下であるのがより好ましい。また、誘電正接は、0.0010超であるのが好ましい。
F層の熱伝導率は、1W/m・K以上であるのが好ましく、3W/m・K以上がより好ましい。なお、F層における熱伝導率とは、F層の面内方向における熱伝導率を意味する。
F層の線膨張係数は、100ppm/℃以下が好ましく、80ppm/℃以下がより好ましい。F層の線膨張係数の下限は、30ppm/℃である。なお、線膨張係数は、JIS C 6471:1995に規定される測定方法に従って、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した値を意味する。
F層の、ポリイミドのベースフィルムとの剥離強度は、10~100N/cmが好ましい。
【0056】
また、本組成物を例えばシート状に押出す等の成形方法に供すれば、Fポリマーを含む、シート等の成形物を形成できる。押出して得たシートは、さらにプレス成形、カレンダー成形等をして流延してもよい。シートは、さらに加熱して、液状分散媒を除去し、ポリイミド前駆体のイミド化及びFポリマーを焼成するのが好ましい。形成されるシートの厚さは、1~1000μmが好ましい。シートの誘電率、誘電正接、熱伝導率及び線膨張係数の好適な範囲は、それぞれ、上述したF層の誘電率、誘電正接及び熱伝導率の範囲と同様である。なお、シートにおける熱伝導率とは、シートの面内方向における熱伝導率を意味する。
かかるシートをポリイミドのベースフィルムの両方の表面に積層することでも、本多層フィルムを形成できる。例えば、ポリイミドのベースフィルム上に本組成物を押出成形する方法、シートとポリイミドのベースフィルムとを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0057】
また、支持体上に本組成物を配置して、本多層フィルムの下層に相当するF層をまず形成し、かかるF層上に、無色透明性を有するポリイミド前駆体の溶液を配置して加熱してイミド化して、中層に相当するポリイミド層を形成し、次いでポリイミド層上にさらに本組成物を配置して、上層に相当するF層を形成し、支持体を分離する方法で、本多層フィルムを製造してもよい。
【0058】
本多層フィルムは、さらにその片面又は両面に金属層を有する積層体としてもよい。積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、すなわち、本組成物をイミド化してなるポリイミドを含むポリイミド層と、該ポリイミド層の片面又は両面に金属層を有する、配線基板用積層体が挙げられる。金属箔の厚さは、金属張積層体の用途において充分な機能が発揮できる観点から、20μm未満が好ましく、2~15μmがより好ましい。
【0059】
本多層フィルム及びそれから形成される積層体は、透明性に優れた積層体として各種のフレキシブルデバイスに適用でき、具体的には液晶表示装置、有機EL表示装置、タッチパネル、液晶表示ディスプレイ、有機ELディスプレイ、カラーフィルター、電子ペーパー等の表示装置、ガラス積層透明アンテナ、透明アンテナフィルム、アンテナオンディスプレイ、太陽電池パネル用表面保護膜、太陽電池用基板材料、フォルダブルディスプレイ又はこれらの構成部品として有用である。
【0060】
以上、本多層フィルム、本多層フィルムの製造方法、及び配線基板用積層体について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本多層フィルム及び配線基板用積層体は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。また、本多層フィルムの製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例0061】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)
Fポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、カルボニル基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)
Fポリマー3:TFE単位、無水イタコン酸単位及びPPVE単位を、この順に96.2モル%、1.8モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり18000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:240℃)
【0062】
[Fポリマーの粒子]
F粒子1:Fポリマー1からなり、減圧乾燥機を用いて180℃、5kPa、3時間の熱処理条件で熱処理された粒子(D50:2.0μm)
F粒子2:Fポリマー2からなり、前記熱処理条件で熱処理された粒子(D50:2.3μm)
F粒子3:Fポリマー2からなり、前記熱処理条件で熱処理された粒子(D50:2.6μm)
F粒子4:Fポリマー3からなり、前記熱処理条件で熱処理された粒子(D50:2.7μm)
F粒子5:Fポリマー2からなり、熱処理をしなかった粒子(D50:2.3μm)
【0063】
[ポリイミド前駆体]
PAA1:等モルの1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとから調製されたポリイミド前駆体
[含窒素有機溶媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(YI=1.86、b=0.97)
【0064】
2.液状組成物の製造例
[製造例1]
ポットに、F粒子1、PAA1溶液及びNMPを投入し、次いでジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がして、F粒子1(40質量部)、PAA1(4質量部)及びNMP(56質量部)を含む液状組成物1(粘度:300mPa・s)を得た。
【0065】
[製造例2~5]
Fポリマーの粒子の種類を表1のとおり変更した以外は製造例1と同様にして、液状組成物2~5を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
3.多層ポリイミドフィルムの作成例
[例1]
ロール・ツー・ロールプロセスにより、基材(ポリイミドフィルム(PI Advanced Materials社製「FG-100」:厚さ25μm)の一方の表面に、液状組成物1を小径グラビアリバース法で塗工して塗工層を形成し、通風乾燥炉(炉温150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去してドライ膜を形成した。また、基材の他方の表面にも同様に液状組成物1を塗工して塗工層を形成し、乾燥してドライ膜を形成した。次いで、両面にドライ膜が形成された基材を、遠赤外線炉(炉内入口、出口付近の炉温度300℃、中心付近の炉温度360℃)に5分間で通過させてF粒子を溶融焼成し、基材の両面にポリマー層(Fポリマー1を含有するポリイミド層:厚さ25μm)を有する、多層ポリイミドフィルム1を得た。
[例2~5]
液状組成物1の代わりに液状組成物2~5をそれぞれ用いた以外は例1と同様にして、多層ポリイミドフィルム2~5を得た。
【0068】
4.評価
4-1.多層ポリイミドフィルムの透明性
例1~5で得た多層ポリイミドフィルムの308nm及び500nmにおける光透過率を、分光光度計(島津製作所製「SHIMADZU UV-3600」)を用いて測定し、下記計算式(1)に基づいてYIを算出した。
YI=100×(1.2879X-1.0592Z)/Y ・・・(1)
計算式(1)において、X,Y,Zは、JIS Z 8722で規定する試験片の三刺激値である。三刺激値X,Y,Zから色彩値(L、a、b)を算出できる。
そして、下記計算式(2)によって、厚み10μmに換算したYI(10)を算出した。
YI(10)=YI/厚み×10 ・・・(2)
計算式(2)において、厚みは、各多層ポリイミドフィルムの実際の厚みである。
また、JIS K 7136に準拠し、例1~6で得た多層ポリイミドフィルムの全光線透過率(T.T.)を、曇り度計(日本電色工業社製「HAZE METER NDH5000」)を用いて測定した。
得られた値より、下記の基準に従って多層ポリイミドフィルムの透明性を評価した。結果を表2に示す。
[透明性の評価基準]
○:YIが5未満であり、かつ、全光線透過率が90%以上である
△:YIが5~10の範囲であり、かつ、全光線透過率が90%以上である
×:YIが10超であり、かつ、全光線透過率が80%未満である
【0069】
4-2.多層ポリイミドフィルムの剥離強度
例1~5で得たそれぞれの多層ポリイミドフィルムについて、長さ150mm、幅10mmの大きさに切断し、試験片を作製した。該試験片の長さ方向の一端から50mmの位置までポリマー層と基材との間を剥離し、次いで引張試験機を用いて、引張り速度50mm/分でポリマー層と基材が90°になるように剥離させた際の最大荷重(N/cm)を測定して剥離強度とし、下記の基準に従って評価した。結果を表2に併せて示す。
[剥離強度の評価基準]
○:剥離強度が10N/cm以上である
△:剥離強度が5~10N/cmの範囲内である
×:剥離強度が5N/cm未満である
【0070】
4-3.多層ポリイミドフィルムの耐熱性(はんだリフロー耐性)
例1~5で得たそれぞれの多層ポリイミドフィルムを288℃のはんだ浴に60秒間、10回浮かべた後、ポリマー層間の界面の膨れの有無、及び、上記界面の剥離の有無を確認し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表2に併せて示す。
[耐熱性の評価基準]
○(良):上記界面に膨れ及び剥離のいずれも発生していない
△(可):上記界面に膨れは発生していないが、一部の縁で剥離が発生している
×(不可):上記界面に膨れ及び剥離の双方が発生している
【0071】
4-4.誘電正接の測定
例1~5で得たそれぞれの多層ポリイミドフィルムについて、ファブリペロー共振器及びベクトルネットワークアナライザ(キーコム社製)を使用して10GHzの誘電正接を測定し、以下の基準で伝送損失を評価した。結果を表2に併せて示す。
[伝送損失の評価基準]
○:0.0015以下
△:0.0015超0.0030以下
×:0.0030超
【0072】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の多層ポリイミドフィルムは、Fポリマーの物性を高度に発現し、透明性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率、低誘電正接及び低伝送損失)、耐熱性、接着性等の物性に優れており、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等のプリント基板をはじめとする多方面の用途に有用である。