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特開2024-71346溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071346
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240517BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 17/06 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 3/33 20060101ALI20240517BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01N33/50 L
C11D7/26
C11D17/06
C11D7/22
C11D1/72
C11D3/20
C11D3/37
C11D3/33
C11D7/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174495
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022182000
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
【テーマコード(参考)】
2G045
4H003
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA48
4H003AC08
4H003BA01
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB08
4H003EB16
4H003EB36
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、従来液体状態で供給されてきた血液の分析に用いられる溶血及び希釈液の輸送及び保管コストを低減し得る手段を提供することにある。
【解決手段】
キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含む、塊として形成された、溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物、及びそれを製造する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含む、塊として形成された、溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物を製造する方法であって、以下(i)~(vi)のいずれか:
(i)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下に冷却することで前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(ii)微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下の冷却することで、前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(iii)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(iv)微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを加圧することで塊として錠剤化組成物を形成すること;
(v)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合しして粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;又は
(vi)微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;
を含む、方法。
【請求項2】
前記第三の成分がポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンラウリルエーテルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸塩、クエン酸塩、フィチン酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム-カリウム、及びエチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミンからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二カリウム及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記錠剤化組成物が、さらに界面活性剤を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
請求項1又は2により作製される錠剤化組成物を水に溶解し、溶血用溶液を調製する方法。
【請求項8】
請求項7で得られる溶血用溶液を溶血および希釈液として用いるグリコヘモグロビンを分析する方法。
【請求項9】
キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含み、
前記少なくとも2種以上の有機酸塩は、粒形が均等になるよう微粉末化された有機酸塩であって、
塊として形成されている溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物。
【請求項10】
前記第三の成分がポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンラウリルエーテルである、請求項9に記載の錠剤化組成物。
【請求項11】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸塩、クエン酸塩、フィチン酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の錠剤化組成物。
【請求項12】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム-カリウム、及びエチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミンからなる群から選択される、請求項9又は10に記載の錠剤化組成物。
【請求項13】
前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二カリウム及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む、請求項9又は10に記載の錠剤化組成物。
【請求項14】
前記錠剤化組成物が、さらに界面活性剤を含む請求項9又は10に記載の錠剤化組成物。
【請求項15】
請求項9又は10に記載の錠剤化組成物が水に溶解された、溶血用溶液。
【請求項16】
グリコヘモグロビン分析ための溶血および希釈液として用いられる、請求項15に記載の溶血用溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物及びその製造方法に関する。また、本発明は、溶血用溶液、溶血用溶液を調製する方法およびそれにより得られる溶血用溶液を用いるグリコヘモグロビンを分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の指標とされるヘモグロビンA1c(以下、「HbA1c」もしくは「SA1c」と称する)の測定法は、その目的や処理可能な検体数により複数存在する。そのなかで、HPLC(High Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィ)法は、患者血液検体の遠心分離等の前処理が必要なく、処理数も比較的多いことから頻繁に用いられる測定法であり、患者血液検体を溶血および希釈した後、陽イオン交換カラムに導入し、電荷の差によりヘモグロビンの各成分を分離定量し、HbA1cを算出する方法である(例えば、非特許文献1)。
【0003】
患者血液検体に含まれるHbA1cを測定するためには、通常、赤血球を溶血し、希釈する必要がある。HPLC法において、「溶血および希釈」の工程は、通常1種類の試薬溶液で、溶血と希釈を同時に行われる(以降、溶血と希釈を同時に行う試薬溶液を「溶血/希釈液」と呼ぶ)。溶血/希釈液は有機酸塩や各種界面活性剤で構成されることが多い(特許文献1)。溶血/希釈液は文字通り液体の状態であり、使用量も多いことから数L程度のプラスチック容器に封入した状態で提供される。溶血/希釈液は容量が大きく、常に輸送及び保管コストが問題視されている。更に、近年では、廃プラスチック削減が社会的に求められるようになっており、この溶血/希釈液を封入する廃プラスチック容器の処理も課題とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-80390号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】柴田真衣子ら、HPLC法による新規HbA1c測定機器HLC-723G11の基本的性能評価、医学検査、65巻1号、84-90、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、液体状態で供給されてきた血液の分析に用いられる溶血及び希釈液の輸送及び保管コストを低減し得る手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明者らが鋭意研究、開発を行った結果、本発明を開発するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
【0008】
[1] キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含む、塊として形成された、溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物を製造する方法であって、以下(i)~(vi)のいずれか:
(i)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下に冷却することで前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(ii)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下の冷却することで、前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(iii)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;
(iv)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを加圧することで塊として錠剤化組成物を形成すること;
(v)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合しして粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;又は
(vi)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること;
を含む、方法。
[2] 前記第三の成分がポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンラウリルエーテルである、項目1に記載の方法。
[3] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸塩、クエン酸塩、フィチン酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される、項目1又は2に記載の方法。
[4] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム-カリウム、及びエチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミンからなる群から選択される、項目1又は2に記載の方法。
[5] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二カリウム及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む、項目1又は2に記載の方法。
[6] 前記錠剤化組成物が、さらに界面活性剤を含む項目1又は2に記載の方法。
[7] 前記錠剤化組成物が防腐剤を含まない、項目1又は2に記載の方法。
[8] 前記錠剤化組成物が防腐剤を含む、項目1又は2に記載の方法。
[9] 項目1又は2により作製される錠剤化組成物を水に溶解し、溶血用溶液を調製する方法。
[10] 項目9で得られる溶血用溶液を溶血および希釈液として用いるグリコヘモグロビンを分析する方法。
【0009】
[11] キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含み、
前記少なくとも2種以上の有機酸塩は、粒形が均等になるよう微粉末化された有機酸塩であって、
塊として形成されている溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物。
[12] 前記第三の成分がポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンラウリルエーテルである、項目11に記載の錠剤化組成物。
[13] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸塩、クエン酸塩、フィチン酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択される、項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[14] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム-カリウム、及びエチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミンからなる群から選択される、項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[15] 前記少なくとの2種以上の有機酸塩が、エチレンジアミン四酢酸二カリウム及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを含む、項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[16] 前記錠剤化組成物が、さらに界面活性剤を含む項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[17] 前記錠剤化組成物が防腐剤を含まない、項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[18] 前記錠剤化組成物が防腐剤を含む、項目11又は12に記載の錠剤化組成物。
[19] 項目11に記載の錠剤化組成物が水に溶解された、溶血用溶液。
[20] グリコヘモグロビン分析ための溶血および希釈液として用いられる、項目19に記載の溶血用溶液。
【発明の効果】
【0010】
一般的に、溶血/希釈液は、文字通り液体の状態で、また、使用量も多いことから数L程度のプラスチック容器に封入した状態で提供される。容量が大きく、常に輸送/保管コストが問題視される。本発明の手法で得られた「溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物」は、例えば、10mmφ程度と極端に小さくできることから、輸送/保管コストを大幅に圧縮することができる。
【0011】
また、近年では、廃プラスチック削減が社会的に求められるようになっており、本発明は、この要求にも大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一の様態での、「錠剤化」の流れを模式的に示した図である。
図2】第二の様態での、「錠剤化」の流れを模式的に示した図である。
図3】第三の様態での、「錠剤化」の流れを模式的に示した図である。
図4】形状の異なる試薬からなる混合物を小分けするイメージ図である。(a)は粉砕なしで小分けした場合、(b)は粉砕した場合である。
図5】「錠剤化」の流れを示したフローチャートである。(a)は試薬を混合後に粉砕する場合、(b)は試薬を混合前に粉砕する場合を示している。
図6】実施例で用いた「錠剤化」の流れを示した図である。
図7】実施例で得られた「錠剤化組成物」の写真である。
図8】実施例で得られた「錠剤化組成物」を用いて調液した流れを示したフロー図である。
図9】実施例で得られた「錠剤化組成物」を用いて調液した流れを示した図である。
図10】実施例で用いた「グリコヘモグロビン分析計」の構成の一部を示した図である。
図11】実施例で用いた「グリコヘモグロビン分析計」の測定の流れを示したフローチャートである。
図12】実施例で用いた「グリコヘモグロビン分析計」の測定結果(クロマトグラム)の代表例を示した図である。
図13】実施例で得られた「錠剤化組成物」で調液した「溶血/希釈液」の効果を示した図である(手動希釈検体)。(a)は検体A、(b)は検体Bを示している。なお、図中、凡例実線は通常の「溶血/希釈液」、凡例破線は本発明の錠剤で調製した「溶血/希釈液」を用いて得られたクロマトグラムである。
図14】実施例で得られた「錠剤化組成物」で調液した「溶血/希釈液」の効果を示した図である(自動希釈検体)。(a)は検体A、(b)は検体Bを示している。なお、図中、凡例実線は通常の「溶血/希釈液」、凡例破線は本発明の錠剤化組成物で調製した「溶血/希釈液」を用いて得られたクロマトグラムである。
図15】実施例で得られた「錠剤化組成物」と従来の溶血液/洗浄液のプラスチック容器を比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。但し本発明は異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでは無い。なお、本明細書で引用される文献は、その全内容を参照により本明細書の一部として援用される。
【0014】
一実施態様において、本発明は、
キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含む、塊として形成された、溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物、及びそれを製造する方法を提供する。
【0015】
なお、本明細書において、使用する第一の有機酸塩を「試薬A」、使用する第二の有機酸塩を「試薬B」、および、以下の特性、
(1)融点が30℃から80℃の範囲
(2)平均分子量が1000~6000の範囲
(3)pHが4から8(50g/L,25℃)
(4)水への溶解度が0.5g/L以上
(5)非イオン性
を有した第三の成分を「増量剤/増結剤」と称して説明することがある。
【0016】
本発明の方法は、第一の様態として、
(i)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下に冷却することで前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること
を含むものである(図1参照)。
【0017】
また、前記第一の態様において、前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分を混合する前に、粉砕し微粉末化するものであってもよく、例えば、本発明は、
(ii)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三の成分の融点以上に加熱して前記第三の成分を融解させ、その後25℃以下の冷却することで、前記少なくとも2種以上の有機酸塩を包含する塊としての錠剤化組成物を形成すること
を含むものであってもよい。
【0018】
本発明の方法は、第二の様態として、
(iii)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合して粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること
を含むものであってもよい(図2参照)。
【0019】
また、前記第二の態様において、前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分を混合する前に、粉砕し微粉末化するものであってもよく、例えば、本発明は、
(iv)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを加圧することで塊として錠剤化組成物を形成すること
を含むものであってもよい。
【0020】
本発明の方法は、第三の様態として、
(v)前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分とを混合しして粉砕処理を施すことにより微粉末化し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること
を含むものであってもよい(図3参照)。
【0021】
また、前記第三の態様において、前記少なくとも2種以上の有機酸塩と前記第三の成分を混合する前に、粉砕し微粉末化するものであってもよく、例えば、本発明は、
(vi)粒形が均等になるように微粉末化された前記少なくとも2種以上の有機酸塩及び前記第三の成分を混合し、それを前記第三成分の融点以下の温度を加えながら加圧することで塊としての錠剤化組成物を形成すること
を含むものであってもよい。
【0022】
本発明により提供される錠剤化組成物は、
キレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩と、
以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を有する第三の成分と
を含み、
前記少なくとも2種以上の有機酸塩は、粒形が均等になるよう微粉末化された有機酸塩であって、塊として形成されているものである。
【0023】
本発明により提供される錠剤化組成物を、水(例えば、蒸留水、純水、超純水、イオン交換水、RO水など)に投入し、攪拌などによって溶解することで、血液の溶血用溶液を調製することが可能となる。
【0024】
また、前記溶血用溶液を、溶血および希釈液として用いるグリコヘモグロビンを分析する方法も、本発明により提供される。
【0025】
本発明を提供する際に用いられるキレート作用を有する少なくとも2種以上の有機酸塩は、血液を溶血させた際に放出されるタンパク質、特にヘモグロビンを安定化させるために、キレート作用を有する有機酸塩が用いられ得る。キレート作用を有する有機酸塩が溶解することで、溶液中でキレート剤として働き、金属イオン(例えば、カルシウムやマグネシウムなどの二価の金属イオン)と結合し、金属イオン要求性の酵素、例えばプロテアーゼを阻害する。これによりタンパク質(例えば、ヘモグロビン)が分化することが防止される。本発明に用いられ得る有機酸塩は、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸塩、クエン酸塩、フィチン酸塩、及びグルコン酸塩からなる群から選択され得る。これらの塩は、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩などの金属塩や、例えばトリエチルアミン塩、グアニジン塩、アンモニウム塩、ヒドラジン塩、キニーネ塩、シンコニン塩などの塩基と形成される塩であってもよく、さらにこれらの溶媒和物もしくは水和物も含まれる。
【0026】
本発明に用いられ得る有機酸塩は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム-カリウム、及びエチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミンからなる群から選択されるものであってもよく、好ましくは、エチレンジアミン四酢酸二カリウム及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムであり得る。
【0027】
本発明に用いられ得る有機酸塩は、溶解した時に、pHが4~8となるものが好ましい。また、本発明において提供される錠剤化組成物は、溶解した時に所望のpH、例えばpHが4~8になるようにさらに緩衝剤、例えばカルボン酸塩、リン酸塩、アンモニウム塩、又はアルキルアミン等を含むものであってもよい。
【0028】
本発明において提供される錠剤化組成物に含まれる有機酸塩の濃度(場合によっては、その他の緩衝剤の濃度)は、錠剤化組成物を水に溶解して最終的に調整された溶血用溶液が、血液試料に含まれる赤血球を溶血させ得る濃度、すなわち生理的浸透圧よりも低い浸透圧となる濃度で含まれていればよい。ここで生理的浸透圧とは、溶血前の血液試料が有する浸透圧のことをいい、一般的には275mOsm/kg・HO~315mOsm/kg・HOまでの範囲である。すなわち生理的浸透圧よりも低い浸透圧(低張)とは、一般的には315mOsm/kg・HO未満の条件である。なお、本発明により調整される溶血用溶液は、生理的浸透圧よりも低い浸透圧(低張)条件であれば下限はなく、例えば、0mOsm/kg・HO以上150mOsm/kg・HO以下であてもよい。また、例えば、前記の生理的浸透圧よりも低い浸透圧とは、生理食塩水(0.9w/v%)の浸透圧よりも低いものであってもよく、例えば0.8w/v%以下、0.7w/v%以下、0.6w/v%以下、0.5w/v%以下、0.4w/v%以下、0.3w/v%以下、0.2w/v%以下、又は0.1w/v%以下の食塩水の浸透圧と同等もしくはそれ以下の浸透圧であってもよい。
【0029】
本発明において提供される錠剤化組成物は、溶血作用を高めるためにさらに界面活性剤を含むものであってもよい。本発明に用いられる界面活性剤は、溶血作用を有する溶界面活性剤であればよく、例えば、特開2022-80390号に記載の界面活性剤、例えば、少なくとも1種以上の親水性基に糖アルコール又は糖分子(例えば、スクロース、ソルビトールなど)が含まれ、かつ親水性基と疎水性基(例えば、炭素数7~22)とがエステル結合を介して結合している界面活性剤が含まれるものであってもよい。そのような界面活性剤としては、例えば、スクロースラウリン酸エステル、スクロースミリスチン酸エステル、スクロースパルミチン酸エステル、スクロースオレイン酸エステル、スクロースステアリン酸エステル、ソルビトールカプリル酸エステルなどが挙げられる。本発明において提供される錠剤化組成物に含まれ得る界面活性剤の濃度は、錠剤化組成物を水に溶解して最終的に調整された溶血用溶液が血液試料に含まれる赤血球を溶血させ得る濃度であり、各種測定において用いられる際に測定を阻害しない濃度であればよく、例えば、調整された溶血用溶液において0.01~1.00wt%、好ましくは0.01~0.10wt%の濃度となるように含まれるものであってもよい。
【0030】
液体状の試薬には、保存時の腐食防止として、アジ化ナトリウムなどの防腐剤が添加されることが多い。アジ化ナトリウムは、毒物及び劇物取締法による「毒物」に指定されており、また、消防法による「第5類危険物(自己反応性物質)」に指定されていることから、近年では使用を制限する動きもある。本発明により提供される錠剤化組成物は、必要な時に水に溶解することにより溶血用溶液を調製可能とするものであり、保存時には非水系であって腐食のリスクが非常に低いことから、防腐剤、例えば、アジ化ナトリウム又はアジ化リチウムなどを含まないものであってもよい。この場合、防腐剤を含まないことから安全性が高くなるといった効果が期待できる。また他の態様において、本発明により提供される錠剤化組成物は、溶解後の長期保存時の腐食を防止するために防腐剤、例えば、アジ化ナトリウム又はアジ化リチウムなどを含むものであってもよい。
【0031】
本発明において用いられる第三の成分(増量剤/増結剤)は、以下の特性:
(1)融点が30℃から80℃の範囲;
(2)平均分子量が1000~6000の範囲;
(3)pHが4から8(50g/L,25℃);
(4)水への溶解度が0.5g/L以上;及び
(5)非イオン性
を満たすものである。そのような成分としては、ポリエチレングリコールや又はポリオキシエチレンラウリルエーテル(例えば、Brij(登録商標)35など)などが挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールである。
【0032】
ここでは本願発明の溶血用溶液を調製するための錠剤化組成物を製造する方法について、さらに詳しく説明する。
【0033】
まずは、第一の様態(図1参照)について説明する。第一の工程として、試薬A、試薬B、及び増量剤/増結剤を既定の一定量を秤量する。次に、混合容器(1)に前記試薬類と鋼球(2)を投入し、ボールミルにより微粉末化させる。次に、型容器(5)に前記の微粉末化された混合試料を規定量ずつ小分けする。
【0034】
次に、前記の小分けされた混合試料を、第三の成分、すなわち「増量剤/増結剤」の融点以上に加熱し融解させる。例えば、増量剤/増結剤としてポリエチレングリコール4000を用いた場合は、その融点が55℃であるため、55℃以上(例えば、60℃~100℃、60℃~90℃、60℃~85℃、又は60℃~80℃など)で加熱することで融解させることができる。これにより、混合試料中の「増量剤/増結剤」のみが融解し、試薬A、試薬Bはその中で浮遊する状態となる。一定時間加熱後、増量剤/増結剤の融点以下の温度、好ましくは5℃以下に冷却する。これにより、試薬A、試薬Bが包含された「増量剤/増結剤」が固化する。型容器から取り外すことで、試薬A、試薬Bを規定量含有した錠剤化組成物が得られることになる。つまり、前記「増量剤/増結剤」は、「増結剤」の役割も果たしている。
【0035】
試薬はその物性により、形状(形態)が異なる。微粉末状のもの、微粒子状のもの、蝋状のもの、フレーク状のもの等、様々な状態で存在する。このように形態の異なる試薬を混合しても、均一に混ぜることは難しい。更に、混合した試料から一定量を取り出した場合は、各試薬の混合比率にばらつきが生じる原因にもなる(図4a参照)。本発明では、前記のように、試薬A、試薬B、増量剤/増結剤を混合してから、粉砕処理を行うことで、全ての成分が微粉末化することで、均等に混ざるようになる。それにより、混合した試料から一定量を取り出した場合でも、各試薬の混合比率にばらつきが生じ難くなる(図4b参照)。本明細書において、「微粉末化」とは、任意の固形の試薬を平均粒子径が約500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下となるように微粉末化することをいい、例えば、平均粒子径が約1μm~約500μm、約5μm~約200μm、約5μm~約100μm、約5μm~約50μm、約5μm~約20μm、約10μm~約100μm又は約10μm~約50μmとなるように微粉末化されることをいう。
【0036】
ここまで、試薬A、試薬B、増量剤/増結剤を混合してから微粉末化させる方法を記述してきたが(図5a参照)、事前に、試薬A、試薬B、増量剤/増結剤を各々、微粉末しておき、混合する方法でも同じ効果が得られ、本発明に含まれる(図5b参照)。この場合、試薬A、試薬B、及び増量剤/増結剤は、それぞれが平均粒子径が約500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下となるように微粉末化されたものを用いることが良く、例えば、平均粒子径が約1μm~約500μm、約5μm~約200μm、約5μm~約100μm、約5μm~約50μm、約5μm~約20μm、約10μm~約100μm又は約10μm~約50μmとなるように微粉末化されたものを用いることができる。
【0037】
次に、前記で得られた錠剤化組成物を一定量の水(例えば、蒸留水、純水、超純水、イオン交換水、RO水など)に投入することで、水への溶解度の高い増量剤/増結剤は容易に溶解する。つまり、試薬A、試薬B、増量剤/増結剤を一定量含んだ溶液が得られることになる。
【0038】
例えば、最終的に、2Lの溶液で、試薬A:0.01wt%、試薬B:0.02wt%、増量剤/増結剤:0.05wt%となる錠剤を100個得ようとした場合、各試薬の量は以下の表1に示される量となる。
【表1】
【0039】
ここまで、第三の成分(増量剤/増結剤)の融点の差による「錠剤化」の方法を説明してきたが、加圧による「錠剤化」も、本発明に含まれる(上記の「第二の様態」に相当)。また、加熱および加圧による「錠剤化」の方法も本発明に含まれる(上記の「第三の様態」に相当)。但し、第三の様態の加熱および加圧による「錠剤化」の場合は、加熱温度は第三成分の融点より低い温度で行う必要がある。加圧は、常法に従って、錠剤化を可能とするのに十分な圧力で実施されればよく、特に限定されない。
【0040】
このようにして得られる「錠剤化組成物」は、液体クロマトグラフィに適用することができる。液体クロマトグラフィでは、液体を溶離液として、混合成分からなる試料を分離し定性/定量する手法である。試料は、試料注入機構により分析カラムに導入される。試料注入機構は、試料を注入するだけでなく、試料の前処理を実施することもある。また、この試料注入機構は、コンタミを防止するため、専用の洗浄液で各部の洗浄を行う必要がある。液体クロマトグラフィで使用される溶液は、分離用の「溶離液」と試料注入機構で使用される「洗浄液」に大別される。
【0041】
分離用の「溶離液」は、分離特性に大きな影響を与えることから、組成の精度が要求される。一方、「洗浄液」は分離に直接寄与するものではないことから、組成の精度の要求ははるかに低い。本発明で得られる「錠剤化組成物」は、液体クロマトグラフィの試料注入機構に適している。特に、液体クロマトグラフィを原理とした「グリコヘモグロビン分析計」に好適である。本法では、糖尿病の指標とされるHbA1cを測定するものであり、試料は患者血液検体(全血)である。患者血液検体に含まれるHbA1cを測定するためには、通常、赤血球を溶血し、希釈する必要がある。患者血液検体は、溶血と希釈を行った後、イオン交換カラムに導入し、電荷の差によりヘモグロビンの各成分を分離定量し、HbA1cを算出する方法である。
【0042】
「溶血および希釈」の工程は、従来は1種類の試薬溶液で、溶血と希釈が同時に行われる(以降、「溶血/希釈液」と呼ぶ)。この溶血/希釈液は、前記の液体クロマトグラフィの「洗浄液」に相当する。
【0043】
一般的には、溶血/希釈液は数L程度のプラスチック容器に封入した状態で提供されるが、使用量も多く、容器の廃プラスチック問題も抱えている。また、溶液状態で提供されることから、その腐食を防止するために溶血/希釈液には「アジ化ナトリウム」を含有することが多い。この物質は、「毒物」「第5類危険物(自己反応性物質)」であることから、使用が懸念されている。本発明の「錠剤化した試薬」を溶血/希釈液に適用した場合、容器の廃プラスチック問題は大幅の改善できるだけでなく、アジ化ナトリウムを添加する必要がないなど、大きな利点を有する。
【実施例0044】
本発明の効果を実証するため、糖尿病の診断に使用される液体クロマトグラフィを原理とした「グリコヘモグロビン分析計」にて検証を実施した。「グリコヘモグロビン分析計」には、東ソー(株)(東京、日本)製のグリコヘモグロビン分析計G11を用いた。溶離液3種、溶血/希釈液、分析カラム、キャリブレータ等は、全て同機種の専用品を用いた。なお、溶離液は、800mLの液状、溶血/希釈液は、2Lまたは4Lの液状で提供されている。
【0045】
図10は、本分析計のサンプリング機構付近の構成の一部、図11は、本分析計の測定の流れを示したフローチャートである。測定開始により、自動で検体種別の判定を実施する。検体種別が「サンプルカップ」と判定された場合、「手希釈」により、既に希釈された検体として扱われ、検体をサンプリングニードル(12)により吸引し、そのまま、試料注入機構(11)により、分析カラムに導入され、HbA1cが測定される。また、検体種別が「採血管」と判定された場合、検体をサンプリングニードル(12)により吸引し、溶血/希釈ポート(13)にて自動で溶血/希釈を実施した後に、試料注入機構(11)により、分析カラムに導入され、HbA1cが測定される。ここで言う「溶血/希釈」とは、規定容量の溶血/希釈ポート(13)に、事前に溶血/希釈液を入れておき、全血を一定量添加し、吸引/吐出動作により、溶血と希釈を行うことである。溶血/希釈された検体の内、一定量液を分析に供する。図12に代表的なクロマトグラムを示す。約0.24分に溶出するのがSa1cピークであり、総面積に対する面積比からHbA1cを算出する。
【0046】
一実施態様における本発明の「溶血/希釈液の錠剤化」の手順は以下の通りである。
【0047】
「増量剤/増結剤」としては、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)を使用した。ポリエチレングリコール(以降、「PEG」と称する)は、エチレンオキシドと水の縮合重合によって得られるポリマーで、重合度(分子量)の違い等で、多種が存在し、安価で容易に入手できる。表2はPEGの分子量の違いによる物性の一覧である。
【0048】
【表2】
【0049】
重合度(分子量)が高くなるにつれて、融点が高くなり、試薬の形状も変化していく。重合度(分子量)が低いPEGは液体状態であり「錠剤化」には適さない。また、重合度(分子量)が高いPEGは固体状態であるが、融点が高くなり、水への溶解度が低下することから「錠剤化」には適さない。今回は融点が比較的低く、固体状態である平均分子量3000程度の呼称「PEG4000」を「増量剤/増結剤」として選択した。
【0050】
最終的に2Lを調液することを想定した「錠剤化」を実施した。錠剤化の流れを図6に示す。溶血/希釈液の基本組成として、Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid, tetrasodium salt, tetrahydrate(以下、「EDTA・4Na」と称する)及び、Ethylenediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid, dipotassium salt, dihydrate (以下、「EDTA・2K」と称する)を主成分とした。
【0051】
EDTA・4Na、EDTA・2K、PEG4000とも、最終濃度で0.05wt%とした。2L調製時では、各試薬はそれぞれ1g含まれることとなる。試薬の秤量誤差を抑えること、調製の手間を省くことから、大容量で調製を行った。
【0052】
各試薬を20gずつ計量、混合し、混合した試薬を3g秤量すれば、目的の濃度に調製できることとなる(2L用)。しかしながら、試薬の形状は、EDTA・4Naは微粒形状、EDTA・2Kは微粉末、PEG4000はフレーク状であり、形状が異なる。このまま、試薬を混合しても、形状が異なるため均等には混合できない。今回は、前記3種の試薬を計量、混合した後、約12時間、ボールミルにて粉砕を実施した。この操作により、混合試薬は微粉末化し均等に分散した状態となる。
【0053】
次に、樹脂製の型容器(内径15mmφ、深さ27mm)に前記処理後の粉末試薬を3gずつ計量し、80℃に加熱した恒温槽に入れた(約2時間)。これにより、粉末試薬に含まれるPEG4000のみが溶解し、EDTA・4Na、EDTA・2Kはその中で浮遊する状態となる。次に、型容器を恒温槽から取り出し、冷蔵庫(約5℃)で冷却した。これにより、PEG4000はEDTA・4Na、EDTA・2Kを包含した状態で凝固する。完全に凝固した後、型容器から取り出し、「溶血/希釈錠剤」となる。図7は、最終的に得られた「溶血/希釈 錠剤」の写真である。PEG4000の融点が55℃程度であるため、完成した「溶血/希釈 錠剤」は、室温下(25℃)でも堅固な状態を保つことができる。
【0054】
次に、この「溶血/希釈 錠剤」を用いて、溶血/希釈液の調製を行った。容器に純水2Lを計量し、前記「溶血/希釈 錠剤」を1錠投入し、10分程度放置する。PEG4000は水への溶解度が高いことから、10分程度で錠剤は完全に崩壊する。容器を振とう攪拌することで溶血/希釈液が出来上がる(図8、9参照)。
【0055】
次に、このように調製した溶血/希釈液の性能の確認を実施した。評価に使用した分析計は、前記の東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計G11を用いた。評価試料は真空採血管で採取した2種の全血検体を用いた。また、比較のため、EDTA・4Na、EDTA・2K及びアジ化ナトリウムを含む前記分析計専用の溶血/希釈液(東ソー社(東京、日本)、HSi溶血・洗浄液(#0018431))でも測定を実施した。
【0056】
本検証では、用手法で事前に希釈した検体、および、採血管(全血)の状態、の2つの条件で測定を行った。
【0057】
まず、用手法で事前に希釈した検体を測定した結果を示す。「用手法で希釈」とは、全血に溶血/希釈液を201倍になるように添加し、溶血/希釈液させ、サンプルカップに分注し測定を供することである。
【0058】
表3に検体A、表4に検体Bの測定結果を示す。図13は得られたクロマトグラムを示している。なお、図/表中の「通常HW」は、メーカーから供給される標準の溶血/希釈液(HW:Hemolysis&Washer)を使用したことを示しており、「錠剤化HW」は、前記手法で作成した「溶血/希釈 錠剤」から調製した溶血/希釈液、を使用したことを示している。検体Aは、通常HWでHbA1c:5.6%、錠剤化HWで、HbA1c:5.6%、と同じ値が得られた。検体Bは、通常HWでHbA1c:6.1%、錠剤化HWで、HbA1c:6.1%、と同じ値が得られた。2つの検体で、通常HWと錠剤化HWで、HbA1cに差異は見られない。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表5に検体A、表6に検体Bの測定再現性を示す(n=10)。検体Aは、通常HWでHbA1cの変動は0.0%、錠剤化HWで、0.0%。検体Bは、通常HWでHbA1cの変動は0.0%、錠剤化HWで、0.0%。通常HWと錠剤化HWで、HbA1cの再現性に差異はなく、良好な値が得られている。
【0062】
次に、自動で溶血/希釈し検体を測定した結果を示す。「自動で溶血/希釈」とは、分析計の機能により自動で採血管から全血を吸引し、自動で溶血/希釈液を添加し、溶血/希釈液させて測定することである。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
次に、採血管の検体をそのまま搭載し、自動希釈した検体を測定した結果を示す。
表7に検体A、表8に検体Bの測定結果を示す。図14は得られたクロマトグラムを示している。なお図/表中で「通常HW」は、メーカーから供給される標準の溶血/希釈液、表/図中で「錠剤化HW」は、前記手法で作成した「溶血/希釈 錠剤」から調製した溶血/希釈液、を使用したことを示している。
【0066】
検体Aは、通常HWでHbA1c:5.6%、錠剤化HWで、HbA1c:5.5%、とほぼ同じ値が得られた。検体Bは、通常HWでHbA1c:6.2%、錠剤化HWで、HbA1c:6.2%、と同じ値が得られた。2つの検体で、通常HWと錠剤化HWで、HbA1cに差異は見られない。
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
表9に検体A、表10に検体Bの測定再現性を示す(n=10)。検体Aは、通常HWでHbA1cの変動は0.0%、錠剤化HWで、0.9%。検体Bは、通常HWでHbA1cの変動は0.0%、錠剤化HWで、0.0%。錠剤化HWで、HbA1cの再現性が0.9%になっている部分もあるが、1.0%以下であり、特に問題ない値が得られている。
【0070】
【表9】
【0071】
【表10】
【0072】
表11に実施例で用いた両溶血/希釈液(通常HW、錠剤化HW)、検体A、Bの測定結果(HbA1c)を一覧で示す。ここから分かるように。用手法による測定、自動希釈による測定においても、差異なくHbA1cが得られていることが分かる。また、クロマトグラムに関しても、本発明の錠剤化により調製した溶血/希釈液であっても、メーカーから供給される標準の溶血/希釈液と同様なクロマトグラムパターンが得られていることが見てとれる(図13参照)。
【0073】
このことから、本発明の「溶血/希釈 錠剤」によって調製された溶血/希釈液を使用しても、測定結果に影響がないことが分かる。また、必要に応じて、錠剤化の原料として、非イオン性界面活性剤を添加しても良い。
【0074】
【表11】
【0075】
以上説明したように、従来の液状で提供される溶血/希釈液と、本発明の錠剤化で調整した溶血/希釈液で、性能に差異は無い。また。錠剤化することで、試薬形態が大幅に縮小することが可能となった。図15は実施例で得られた「錠剤化組成物」と従来の溶血液/洗浄液のプラスチック容器を比較した写真である。左図が2Lボトル、右図が4Lボトルで、中央が本発明の錠剤化組成物である。見て明らかなように、容積は大幅に減少する。2Lボトルと比較した場合、1/600の容積となる。近年の脱炭素の流れに通じるが、輸送コスト/保管コストを大幅に削減でき、社会的貢献にもつながる。
【符号の説明】
【0076】
1.混合容器
2.鋼球
3.混合試料
4.ボールミル
5.型容器
6.錠剤化試薬
7.溶血/洗浄液用容器
8.キャップ
9.精製水
10.溶血/洗浄液
11.検体注入機構
12.サンプリングニードル
13.溶血/希釈ポート
14.洗浄ポート
15.サンプリングアーム
16.検体搬送機構
17.採血管
18.ドレイン
19.プレス型容器
20.プレス機
21.ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15