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特開2024-71406ベロ細胞培養用低血清培地組成物およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071406
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ベロ細胞培養用低血清培地組成物およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240517BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240517BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20240517BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20240517BHJP
   C12N 11/02 20060101ALI20240517BHJP
   C12N 11/12 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N5/071
C12N7/02
C12N11/08
C12N11/02
C12N11/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024033942
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2022539023の分割
【原出願日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0174356
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヘ・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ヒュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スジン・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・スク・キム
(57)【要約】
【課題】血清の量を減らす代わりに、細胞付着を助け、細胞成長を促進させることができる補充剤が含まれている組成の培地の開発が要求されている。
【解決手段】本発明は、ベロ細胞培養用低血清培地組成物およびこれを利用したベロ細胞の培養方法およびウイルス生産方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v)、
加水分解物(hydrolysate)1~6g/L、および
インスリン1~6mg/L
を含む、ベロ細胞の培養用培地組成物。
【請求項2】
ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記加水分解物が、動物性成分および蛋白質を含まない(animal component-free、protein-free)加水分解物である、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
前記ベロ細胞がマイクロキャリア(microcarrier)に付着して培養されるものを含む、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項5】
前記培地がMEM培地を含む、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の培地組成物でベロ細胞を培養する段階を含む、ベロ細胞の培養方法。
【請求項7】
前記培養が10mL~1000Lのスケールで行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の培地組成物で培養されたベロ細胞にウイルスを感染する段階;および
ウイルスが感染されたベロ細胞を培養する段階を含む、ウイルス生産方法。
【請求項9】
ウイルスが感染されたベロ細胞の培養が10mL~2000Lのスケールで行われる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2019年12月24日付大韓民国特許出願第10-2019-0174356号に基づいた優先権の利益を主張し、前記出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の参照として含まれる。
【0002】
本発明は、ベロ細胞(Vero cell)培養用低血清培地組成物およびこれを利用したベロ細胞の培養方法およびウイルス生産方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ベロ細胞(Vero cell)は、ウイルスワクチンの製造に広く承認され、使用される連続継代性細胞株(Continuous cell line)である。ベロ細胞は、アフリカミドリザルの腎臓細胞から最初に分離され、小児麻痺ウイルスワクチン(inactivated poliovirus vaccine、IPV)、経口用小児麻痺生ワクチン、狂犬病ワクチンなどの生産に利用されている。ベロ細胞は、各種ウイルスに対して幅広い感受性を有し、発癌から安全であると報告されており、世界保健機構によりヒトの健康に威嚇を提示しないと示され、ベロ細胞由来ワクチンが現在全世界に供給されている。
【0004】
従来の動物細胞を利用したワクチンの生産は、細胞を増殖させたり細胞にウイルスを感染させてウイルスを増殖させる段階に動物由来物質(例:血清、トリプシン、アルブミンなど)が添加された培地を使用することが一般的であった。特に、血清は、栄養分、ホルモン、成長因子、サイトカインなど細胞の生存と増殖を促進する物質を含み、細胞成長に必須な機能を果たし、物理的損傷やせん断力から細胞を保護し、付着性細胞が容器に付着して拡散することを容易にするため、培養培地が体内環境と類似するように模倣することができるという利点がある。しかし、血清の化学的組成の複合性により、単一な製品生産が難しいため、成長に多様な変数を提供し、単価が高く、血清を使用して生産したワクチンの場合、外因性の病原性因子の感染危険があり、複雑な下流工程(downstream process)を必要とするなどの短所がある。
【0005】
ベロ細胞は、付着性細胞であって、10%のウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS)が含まれている一般培地でマイクロキャリア(microcarrier)に付着して培養されることが一般的である。FBSに含まれている主要成分はアルブミンであって、細胞付着に重要な役割を果たす蛋白質と知られている。しかし、前述したような血清培地の短所のため、低血清(serum-reduced)または無血清(serum-free)培地の必要性が台頭している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、血清の量を減らす代わりに、細胞付着を助け、細胞成長を促進させることができる補充剤が含まれている組成の培地の開発が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の一例は、新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v);加水分解物(hydrolysate)1~6g/L;およびインスリン1~6mg/Lを含む、ベロ細胞の培養用培地組成物を提供する。
【0008】
本願の他の例は、新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v);加水分解物(hydrolysate)1~6g/L;およびインスリン1~6mg/Lを含む培地組成物でベロ細胞を培養する段階を含む、ベロ細胞の培養方法を提供する。
【0009】
本願の他の例は、新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v);加水分解物(hydrolysate)1~6g/L;およびインスリン1~6mg/Lを含む培地組成物でベロ細胞を培養する段階を含む、ウイルス生産方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願の一実施例(実験No.1)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図2】本願の一実施例(実験No.2)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図3】本願の一実施例(実験No.3)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図4】本願の一実施例(実験No.4)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図5】本願の一実施例(実験No.5)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図6】本願の一実施例(実験No.6)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図7】本願の一実施例(実験No.7)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図8a】本願の一実施例(実験No.7)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
図8b】本願の一実施例(実験No.7)による培地条件でのベロ細胞培養結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面により新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v);加水分解物(hydrolysate)1~6g/L;およびインスリン1~6mg/Lを含む、ベロ細胞の培養用培地組成物が提供される。
【0012】
一具現例として、前記培地組成物は、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を含まなくてもよい。
【0013】
一具現例として、前記加水分解物が、動物性成分および蛋白質を含まない(animal component-free、protein-free)加水分解物であり得る。
【0014】
一具現例として、前記ベロ細胞がマイクロキャリア(microcarrier)に付着して培養され得る。
【0015】
一具現例として、前記ベロ細胞がマイクロキャリア(microcarrier)に付着して培養されるものを含むことができる。
【0016】
一具現例として、前記培地がMEM培地を含むことができる。
【0017】
本発明の他の側面により、前記培地組成物でベロ細胞を培養する段階を含む、ベロ細胞の培養方法が提供される。
【0018】
一具現例として、前記培養が10mL~1000Lのスケールで行われるものであり得る。
【0019】
本発明の他の側面により、前記培地組成物で培養されたベロ細胞にウイルスを感染する段階;およびウイルスが感染されたベロ細胞を培養する段階を含む、ウイルス生産方法が提供される。
【0020】
一具現例として、前記ウイルスが感染されたベロ細胞の培養が10mL~2000Lのスケールで行われるものであり得る。
【0021】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0022】
用語「ベロ細胞」とは、任意のベロ細胞株またはこれから培養または継代培養された細胞株をいい、遺伝的に変形されたベロ細胞を含むが、これに制限されない。公知のベロ細胞の非制限的な例としては、VERO(ATCC Number CCL-81)、VERO C1008(ATCC Number CRL-1586)、VERO76(ATCC Number CRL-1587)およびVero-SF-ACF(ATCC Number CCL-81.5)などを例示することができる。
【0023】
用語「ベロ細胞培養」とは、ベロ細胞が生存可能な状態で成長したり維持される任意の過程を含む。例えば、ベロ細胞の培養は、細胞が生長または増殖する過程だけでなく、細胞の数が実質的に増加しないが、生存可能な状態が維持される過程も含む。
【0024】
好ましい例として、本願でベロ細胞は、ウイルスワクチン、またはウイルスやウイルスベクター基盤の治療療法などの基質として使用され得る。一例として、ベロ細胞は、ウイルスに感染されてウイルスを生産することができる。ベロ細胞から生産され得るウイルスは、弱毒化ウイルス、組換えウイルス、または腫瘍溶解性ウイルスであり得る。また、ベロ細胞から生産され得るウイルスは、小児麻痺ウイルス、エンテロウイルス、IBDV(伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス)、ロタウイルス、麻疹ウイルス、天然痘ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、狂犬病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、センダイウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、チクングニアウイルスおよびがデングウイルスなどを例示することができるが、これに制限されるのではない。
【0025】
用語「培養用培地」とは、ベロ細胞の培養に使用され、生長に必要な成分を含んでいる組成物をいう。本願におけるベロ細胞の培地は、MEM、DMEM、DMEM/F12、MDSS2、CCM5、Medium199、またはRPMIのような当業界に一般的に知られた任意の培地を基本培地とすることができる。このような培養培地は、ベロ細胞の培養を支持するアミノ酸、ビタミン、有機および無機塩および炭水化物供給源を含む多数の成分を含むことができる。
【0026】
本明細書に記載された、「(所定の成分を)含む」とは、記載された成分以外の成分を含むことができる(comprising)または記載された成分を必須的に含む(consisting essentially of)ことを意味し得る。
【0027】
好ましい例として、本願でベロ細胞培養用培地は、基本培地に新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v)、加水分解物(hydrolysate)1~6g/L、およびインスリン1~6mg/Lが補充された培地である。
【0028】
他の例として、本願におけるベロ細胞培養用培地は、基本培地に新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v)、例えば1~7%(v/v)、1~6%(v/v)、1~5%(v/v)、1~4%(v/v)、1~3%(v/v)、1%(v/v)、2%(v/v)、3%(v/v)、4%(v/v)、5%(v/v)、6%(v/v)または7%(v/v);加水分解物(hydrolysate)1~6g/L、例えば1~6g/L、1~5g/L、1~4g/L、1~3g/L、1~2g/L、2~4g/L、2~3g/Lまたは2g/L;およびインスリン1~6mg/L、例えば1~6mg/L、1~5mg/L、1~4mg/L、1~3mg/L、2~6mg/L、2~5mg/L、2~4mg/L、2~3mg/Lまたは3mg/Lが補充された培地である。
【0029】
新生子ウシ血清(NCS)は、新生子ウシの血清、典型的には生後約20日以下、例えば約14日以下、または約10日以下、または約3日~10日の子ウシから採取した血清であり、ウシ胎児血清(FBS)に比べて1/10の価格で販売されている。開発したワクチンを入札市場に進出させるために価格競争力を有することが必須であるが、ウシ胎児血清(FBS)の代わりに新生子ウシ血清(NCS)を使用することは顕著な原価節減効果がある。また新生子ウシ血清(NCS)は、ウシ胎児血清(FBS)より供給の面で安定的であり、ロットバリエーション(Lot variation)が少なくて一貫性のある実験結果を得ることができ、動物倫理の観点でも有利である。
【0030】
本願の培地組成物において、新生子ウシ血清(NCS)が1~7%(v/v)含有され、ベロ細胞培養に一般的に使用される条件である10%FBSより低い濃度で使用可能である。本願実施例によれば、1~7%(v/v)NCS条件で細胞成長が促進され、前記範囲内でウイルス生産性が類似の結果を示すため、例えば1~7%(v/v)、1~6%(v/v)、1~5%(v/v)、1~4%(v/v)または1~3%(v/v)、より具体的には1~3%(v/v)または2%(v/v)などが好ましい濃度で提示され得る。しかし、前記濃度範囲は、ウイルス生産性に影響を与える他の培養条件が変更される場合、当業者の通常の技術水準の範囲内で適切に増減され得る。
【0031】
本願で「加水分解物(hydrolysate)」とは、蛋白質のペプチド結合(peptide bond)を分解させて獲得された物質であり、これは、牛乳由来であるか(例えば、カゼイン(casein)、乳清(whey protein))、動物由来蛋白質(肉(meat)、コラーゲン(collagen))、または植物由来であり得る。例えば、植物性加水分解物は、大豆加水分解物、小麦加水分解物、ジャガイモ加水分解物、綿実加水分解物、米加水分解物、エンドウ加水分解物またはとうもろこし加水分解物などであり得るが、これに制限されない。
【0032】
好ましい一例として、加水分解物のロットバリエーション(Lot Variation)を減らし、精製工程(downstream process)を効率的に行うことができるようにするためにDigestion、Processingなどの異なる方法で生産された、動物性成分および蛋白質を含まない(animal component-free、protein-free)加水分解物を使用することができる。商業的に利用可能な動物性要素および蛋白質がない加水分解物として、具体的にはHypep(商標名)1510、Hypep(商標名)1511、Hypep(商標名)5603、Sheff-CHO PF ACF、Sheff-CHO Plus PF ACF、Sheff-VAX PF ACF SheffVax Plus PF ACF、SheffVax Plus PF ACF VPなどを例示することができるが、本願の範囲がこれに制限されるわけではない。
【0033】
本願の培地組成物において加水分解物は、1~10g/L含まれ得るが、高濃度条件では細胞生長に否定的な影響があり得るため、本願実施例では6g/Lまでに制限して実験を行った。したがって、好ましい一例として、細胞成長に肯定的な影響を与える濃度を考慮して、加水分解物は、1~6g/L、例えば1~6g/L、1~5g/L、1~4g/L、1~3g/L、1~2g/L、2~4g/L、2~3g/Lまたは2g/Lが好ましい濃度として提示され得る。しかし、前記濃度範囲は、ウイルス生産性に影響を与える他の培養条件が変更される場合、当業者の通常の技術水準の範囲内で適切に増減され得る。
【0034】
本願の培地組成物はまた、インスリンを含む。例えば、インスリンは、天然インスリンまたは組換えインスリンであり得、より具体的にはヒト組換えインスリンであり得るが、これに制限されるのではない。
【0035】
本願の培地組成物においてインスリンは、1~6mg/L、1~5mg/L、1~4mg/L、1~3mg/L、2~6mg/L、2~5mg/L、2~4mg/L、2~3mg/Lまたは3mg/L含まれ得る。しかし、前記濃度範囲は、ウイルス生産性に影響を与える他の培養条件が変更される場合、当業者の通常の技術水準の範囲内で適切に増減され得る。
【0036】
好ましい一例として、ベロ細胞は、マイクロキャリア(microcarrier)などのキャリアに付着して培養され得る。マイクロキャリアは、マイクロ水準の直径を有し、ベロ細胞が付着され得る任意の固体支持体マトリックスをいい、例えばその表面に細胞を付着させて液体培地中で懸濁状態で細胞培養が可能である。マイクロキャリアの材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタールおよびポリウレタンのようなプラスチックおよびこれらの共重合体;ガラス;セラミック;金属;アクリルアミド;シリカ;シリコンゴム;ポリリジン;セルロース;デキストリン;コラーゲン(ゼラチン);およびグリコサミノグリカンなどが使用され得るが、これに制限されない。マイクロキャリアは、約100μm以上、約200μm以上、約300μm以上、約400μm以上、約500μm以上、約600μm以上、約700μm以上、約800μm以上、約900μm以上、または約1mm以上の直径を有することができ、ビーズ(球形)、円盤、ストリップ、シート、繊維、フィラメント、棒、ディスク、キューブ、管などの形態であり得るが、これに制限されない。一例として、マイクロキャリアは多孔性であり得る。
【0037】
好ましい一例として、ベロ細胞の培養は、培養が10mL~1000Lまたはそれ以上、例えば10mL~2000Lまたはそれ以上のスケールで行われ得、バイオリアクターで10mL以上の規模に生産が可能である。「バイオリアクター(bioreactor)」は、ベロ細胞の培養に使用され得る任意の容器をいい、マイクロキャリアを含む固定層(fixed bed)を有する固定層バイオリアクターを含む。本願におけるベロ細胞は、バイオリアクター内のマイクロキャリア上で培養することができ、他の例として、バッチ工程または流加培養バッチ工程でバイオリアクターで懸濁培養され得る。
【0038】
ベロ細胞の培養過程において、培地は培養器間中に必要に応じて交換され得る。培地のpHは、約6~8であることが好ましく、約6.5~7.5、または約7であり得る。培養は通常約35℃~40℃で約5~9日間実施することができ、必要に応じて通気や攪拌を追加することができるが、これに制限されない。細胞培養時の溶存酸素濃度(DO)は、約60~90%、約70~80%などであり得るが、これに制限されない。
【0039】
本発明により培養されたベロ細胞は、ウイルスワクチン、またはウイルスやウイルスベクター基盤の治療療法などの基質として、ウイルスの生産に使用され得る。そこで、本発明はまた、前述したような培地組成物で培養されたベロ細胞にウイルスを感染する段階;およびウイルスが感染されたベロ細胞を培養する段階を含む、ウイルス生産方法を提供する。
【0040】
ウイルスが感染されたベロ細胞は、ウイルスを増殖するために最適化した条件でベロ細胞を培養することができる。例えば、ベロ細胞はウイルスに感染する前に第1温度で培養され、ウイルスに感染した後には第2温度で培養され、ここで第2温度は第1温度より低くてもよい。例えば、ベロ細胞は、ウイルスに感染する前、つまり、感染前に約37℃で培養され、ウイルスに感染した後、つまり、感染後には約29℃~約37℃で培養され得る。他の例として、ベロ細胞は、ウイルスに感染した後に約33℃で培養され得る。他の例として、ベロ細胞は、ウイルスに感染した後に約30℃で培養され得る。感染時点は、細胞接種後1日後、2日後、または3または4日後であり得る。
【0041】
ウイルス培養終了後、マイクロキャリアを除去し、ウイルスを含有するウイルス液を回収することができる。回収されたウイルス液は、ろ過膜などでろ過して細胞残骸を除去したり、不活化の前または後に濃縮および/または精製したりすることができる。濃縮方法としては、限外ろ過法、超遠心法、透析法などを例示することができ、精製方法としては、例えば、精製対象物の大きさ、密度、沈降係数などの物理的性質を利用する方法、化学または物理化学的反応(吸脱着など)を利用する方法などを例示することができるが、これに制限されない。
【0042】
[実施例]
以下、本発明を次の実施例に基づいてより具体的に説明する。しかし、これらは本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例により制限されない。
【0043】
ベロ細胞の最適の培地組成の確認
ベロ細胞の最適の培地組成を探索するために次のような実験を設計した。ベロ細胞をマイクロキャリアに付着させてシェイクフラスコまたはバイオリアクターで培養した。
【0044】
【表1】
【0045】
実験材料
Hydrolysate(Kerry、Ireland)
インスリン:組換えヒトインスリン(Gibco、USA)
FBS:ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)(Hyclone、USA)
NCS:新生子ウシ血清(newborn calf serum)(Hyclone、USA)
BRX:バイオリアクター(bioreactor)(Model:Biostat B、Sartorius、Germany)
【0046】
実験No.1.
FBSの濃度を減らし、加水分解物(hydrolysate)を添加した場合における、ベロ細胞の成長効果を確認した。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。対照群として、5%FBSが補充されたアミノ酸、ビタミン、無機質、葡萄糖などが含まれているMEM培地を使用し、実験群として、2%FBS+2.5g/L Hydrolysate、または1%FBS+2.5g/L Hydrolysateがそれぞれ補充されたMEM培地を使用した。前記準備されたベロ細胞を前記準備された培地40mLで5日間培養した結果(37℃、5%CO、80±5% Humidityで培養)、2%FBS+2.5g/L Hydrolysateが補充された培地で対照群と類似の細胞成長プロファイルを確認することができた一方、1%FBS+2.5g/L Hydrolysateが補充された培地では対照群より細胞成長が減少することを確認することができた(図1)。
【0047】
実験No.2.
FBSの濃度を減らし、加水分解物(hydrolysate)およびインスリンを添加した場合における、ベロ細胞の成長効果を確認した。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。対照群として、5%FBSが補充されたアミノ酸、ビタミン、無機質、葡萄糖などが含まれているMEM培地を使用し、実験群として、2%FBS、1%FBS、0%FBS、2%FBS+2.5g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン、1%FBS+2.5g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン、または0%FBS+2.5g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンがそれぞれ補充されたMEM培地を使用した。前記準備されたベロ細胞を前記準備された培地30mLで14日間3回継代培養した結果(37℃、5%CO、80±5% Humidityで培養)、2%FBS+2.5g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充された培地で対照群より高い細胞成長プロファイルを確認することができた一方、1%FBS+2.5g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充された培地では対照群より細胞成長が減少するが、2%FBS群よりは高い成長プロファイルを示し、Hydrolysateとインスリンによる明確な成長促進効果があることを確認することができた。FBSが含まれていない培地条件ではHydrolysateとインスリンを追加しても細胞成長が起こらず、1st passageで培養を終了した(図2)。
【0048】
実験No.3.
加水分解物(hydrolysate)およびインスリンの最適濃度を確認した。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。下表に示されているように、対照群として、5%FBSが補充されたMEM培地を使用し、実験群として、0~6g/L Hydrolysate+0~6mg/Lインスリンがそれぞれ補充されたMEM培地を使用した。
【0049】
【表2】
【0050】
前記準備されたベロ細胞を前記準備された培地30mLで6日間培養した結果(37℃、5%CO、80±5% Humidityで培養)、6g/L Hydrolysate条件(S10)の場合、最終細胞数は最も高かったが、3mg/Lインスリンが補充された2g/L Hydrolysateの条件(S13)をバイオリアクターで培養を進行する条件で選択した。培養初期の細胞成長速度が速い結果を示してバイオリアクターで流加式培養を進行する時、細胞成長においてより有利な条件であると判断した(図3)。
【0051】
実験No.4.
FBSをNCSに代替可能かどうか濃度別に確認した。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。対照群として、5%FBSが補充されたMEM培地を使用し、実験群として、1%または2%FBS、または1%、2%または5%NCSがそれぞれ補充されたMEM培地を使用した。前記準備されたベロ細胞を前記準備された培地30mLで5日間培養した結果(37℃、5%CO、80±5% Humidityで培養)、FBSとNCSがそれぞれ同じ濃度である時、類似の細胞成長プロファイルを示すことを確認することができ(図4)、これはFBSをNCSに代替可能であることを示唆する。
【0052】
実験No.5.
実験No.3で選択した条件(2%FBS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン条件)を2L培養器の規模に拡大して実験を進行し、FBSをNCSに代替可能かどうか2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン条件を追加して確認した。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。対照群として、5%FBSが補充されたMEM培地を使用して種培養および本培養を進行し(#R02)、実験群として、2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン(#R03)、または2%FBS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充されたMEM培地で種培養および本培養を進行した(#R04)(温度37℃、pH7.2±0.05、DO50%、培養方法:流加式培養(Fed-batch)、培養日数:種培養および本培養18日培養進行)。
【0053】
その結果、5%FBSが補充されたMEM培地を使用した条件と2%FBS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充された培地条件と2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン条件において類似の細胞成長プロファイルを示すことを確認することができ、これは5%FBS組成の代わりに2%FBSまたはNCSにHydrolysateとインスリンが補充された組成に代替可能であり、また、FBSをNCSに代替可能であることを示唆する(図5)。
【0054】
実験No.6.
実験No.6で、Hydrolysateとインスリンが含まれている組成でNCS濃度により細胞成長およびウイルス生産性に与える影響を確認することを試みた。ベロ細胞はATCC Number CCL-81由来細胞を使用した。対照群として、2%FBS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充されたMEM培地を使用し(#R02)、実験群として、2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充されたMEM培地(#R04)、または7%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充されたMEM培地(#R03)を使用した。前記準備されたベロ細胞を前記準備された培地を使用して2Lバイオリアクターで19日間培養した結果(温度37℃、pH7.2±0.05、DO50%、培養方法:流加式培養(Fed-batch)、培養日数:種培養および本培養19日培養進行)、2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリンが補充されたMEM培地で対照群と類似の細胞成長プロファイルが示されてFBSをNCSに代替可能であることを確認し、7%NCS濃度条件で2%NCS条件より細胞成長が増加することを確認した(図6)。それぞれの条件で培養した細胞にウイルスを感染させて4日培養後(温度32.5℃、pH7.4±0.1、DO25%、培養日数:4日培養進行)に回収してウイルス濃度を定量して生産性を比較した。7%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン(#R03)条件で最終細胞数が最も高かったが、ウイルス生産性は2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン(#R04)条件と比較する時、類似の水準であることを確認した。したがって、ベロ細胞培養成長およびウイルス培養を通じた生産性に基づいてFBSはNCSに代替して使用され得ることを確認し、2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン組成を選択して培養規模拡大実験を進行した(図6)。
【0055】
実験No.7.
以上の実験を通じてFBSを代替可能であるNCS、Hydrolysate、インスリンが含まれている培地組成で選択された培地(2%NCS+2g/L Hydrolysate+3mg/Lインスリン)で培養規模を2L、40Lおよび1000Lにそれぞれ拡大しながら細胞成長が維持されるかを確認した(温度37℃、pH7.2±0.05、DO50%、培養方法:流加式培養(Fed-batch)、培養日数:種培養および本培養18日培養進行)。それぞれの条件で培養したベロ細胞にウイルスを感染させて3~4日培養した後に回収してウイルス生産性を比較した。
【0056】
2Lと40Lの培養規模での細胞成長を比較した結果を下表と図7に示し、40L規模でも同等以上の細胞成長結果を確認することができた。
【0057】
【表3】
【0058】
また、1000L規模でFBSが含まれている培地条件とNCS、Hydrolysate、インスリンが含まれている培地条件での細胞成長を比較した結果を図8に示し、1000L規模でも同等以上の細胞成長を示すことを確認することができた。NCS、Hydrolysate、インスリン組成の培地で変更前と後のウイルス生産性を培養規模別に比較して図8に示した。培地変更後にウイルス生産性がより増加し、2000L培養規模まで拡大した時も同等以上のウイルス生産性を確認することができた。
【0059】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明をその技術的な思想や必須的特徴を変更することなく、他の具体的な形態に実施可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものでないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその等価概念から導き出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生子ウシ血清(newborn calf serum、NCS)1~7%(v/v)、
加水分解物(hydrolysate)1~6g/L、および
インスリン1~6mg/L
を含む、ベロ細胞の培養用培地組成物。
【外国語明細書】